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グルメッカ-きちんと残さず食べま章- の変更点


わけがわからないよ、ですので、注意してください。
多分グロ描写があります。注意してね。
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1

夜の森は寝静まったかのように静かで、殆どポケモン達の声が聞こえない。森の中は比較的安全だということを確かめて、数匹ポケモン達が塊のようになって眠っている。
その中から、一つの影が蠢いた。ゆっくりと身を起こして、ハッカク・ノレンは寝ぼけた目を擦ると、ゆらゆらとおぼつかない足取りで東の方向へ進んでいった。
(喉が渇いた)
水の音を頼りに、どこに流れているのかを聞きながら、殆ど寝ているような状態でゆらゆらと動く。殆ど深夜に徘徊する幽霊のような動きで、遅々として歩を進める。
水場についたら、先客がいた。首周りに鰭のような物がついて、魚を思わせるような可愛らしいポケモンだった。ハッカクは殆ど寝ぼけた思考で、気配も無く水場に歩み寄った。
「こんばんは」
「どうも」
向こうが話しかけてきたので、何とか返事を返したが、いかにも億劫そうな声が返ってきたので、向こう側はくすりと微笑を浮かべた。眠いということがわかっているのか、何だか楽しそうな雰囲気でもあった。
「眠そうな瞳をしてますね」
「顔を洗いに来ただけだよ……」
欠伸を噛み殺して、ハッカクは冷たい水をすくい上げると、顔につけて、洗った。刺す様な冷たさが、少しだけ眠気を吹き飛ばしてくれたような気もした。
「そういえば、ここのあたりで、グルメッカを目指そうとするポケモンのことを知りませんか?」
「は?」
顔を洗っていたら、急に隣で水を体にかけていたポケモンがそういった。何のことだかさっぱりわからなかったので、ハッカクは首を横に振ると、そのポケモンはにこやかに微笑んだ。
「そうですか、それは失礼しました」
「ん……」
軽く会釈をして、大きく伸びをする。そのままハッカクはゆっくりと来た道を戻って、皆のところに帰ろうとした。最後に、水を浴びていたポケモンが大きな声でハッカクに告げた。
「貴方も、グルメッカに憑りつかれるポケモンではないことを祈ります」
「あのね、グルメッカだか何だか知らないけど、何――」
ハッカクが訝しげな顔をしながら後ろを振り向くと、誰もいない。先ほどのポケモンの残滓も、すっかりと消えてしまったかのように、暗い森の深い静寂の中で、やけに蟲ポケモン達のさざめきが聞こえる。
不審げに辺りを見回したが、先ほどのポケモンの影はどこにも見当たることがない。首を捻って、頬を抓ってみたが、特に景色は変わらない。どうやら自分の思考はまだまだ浮世にいる、とハッカクは思った。
(夢か、幻か)
妙に現実的な夢だな、などと笑いながら、ハッカクは来た道を戻り始める。戻りながら自分の体を見た。体躯は普通かもしれないが、少しだけ体がやせているような感じもした。
「夏痩せかな……食事があまり喉を通らないのかも」
ハッカクは一人ごちると、悄然と息を吐く。自分の気力や精力が、全て吐き出されてしまったかのように、急に体が重くなる。寝ぼけているせいもあるのだろう、寝起きというのは総じてこんな感じだと、ハッカクは思っている。それにしても――
(何なんだ……さっきのポケモンは)
不思議な印象を受けるのと同時に、何だか気持ち悪い印象も頭の中にこびり付く。先に水場にいたポケモンだから分かったものの、今今もう一度考えてみると、あのポケモンには生気というものが感じられなかった。妙に人形っぽい、というよりも、作り物の印象が、ハッカクは拭えなかった。
(でもまぁ、気にすることでもないか)
旅を続けているといろんなポケモンに出会うものだ、多くのポケモンに出会い、別れ、そうしてまた出会っていく。旅というものはそういうものだと、理解している。
あのポケモンには多分もう会わない。こんな考え方を持つことはあまり意味を持たない。ハッカクは段々停止していく頭の中で、ようやく寝床に戻ると、静かに寝息を立てているトリガラ・リングフープの隣にもぐりこんで、ゆっくりと瞳を閉じた。
まどろむ意識の中で、いろいろな思いが頭をよぎる。昔の思い出だったり、今のことだったり、この先のわからないもやもやしたことだったり。それでも、眠る前に最後に思っていたことは、同じだった。
――貴方も、グルメッカに憑りつかれるポケモンではないことを祈ります。
憑りつかれるとは何なのか、そもそもグルメッカとは何なのか、まるでわからないことだらけで、記憶の片隅にも残らないような言葉、しかし、ハッカクの心にはそれらが根を張って、生きていた。
普段はそこまで気にしないと自分自身で思っていたからこそ、そんな些細な言葉が棘のように引っかかって、言いようのない不快感が襲い掛かる。完全に意識がまどろむまで、ハッカクは妙にイラついていた。


2


いずれにしても、欲望というものは生き物の中に根付いた混沌であり、それを振り払ったとき、生き物はまた新たな欲望を求め、さまよう。本能が、自分自身を押さえつけることなく解放しているからこそ、そういったことになるのである。
うねるような欲望は、荒れた大地に似ている、草木をほふり、腐った大地は、また新しい世界を求めて、貪欲に降り立つものを吸収するだろう。それが生き物でなくても、吸収するのだ。そこが、よく似ている。欲望は、垂れ流されるとき、心の中で押さえ込まれていたとき。ふとした瞬間に、大きく爆発するものだ。
心の深淵に潜み続ける濃厚な欲望は、少しでも心が揺り動けば、壺の中からあふれ出し、心を黒く染め上げるだろう。まるで空だった所から、急激に水が溢れるように。それが唐突に起こりえる事態だからこそ、自分が気を緩めてはいけないということにつながるだろう。果たして、本当にそうだろうかと、思えたとしても。
確実に侵食するような欲望は抑えつけられても、必ずどこかで漏れるものだ。何かを求めるとき、それはもう漏れ出しているという証拠だろう……
そして、それを自覚ができないまま時間が遅々として進む時――
……………
…………
………
……


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「うぅ、全然浮かばないや……」
アスパラ・ザイロフォーンはゆっくりと鉛筆を放り出して、切りかぶにもたれかけ、ため息をひとつついた。見上げると、うっそうとした森が暗澹と続いて、空を遮り、見る者を憂鬱な気分にさせる。もっとも、ここのところ曇り空が続いて、ほとんど明るい太陽など数えるほどしか見ていない。
そんな状況で、何か浮かぶかと思い筆をとってはみたが、案の定黒い文字が続いただけで、何も浮かぶことがなく、それ以上書いても意味がないと知り、アスパラはゆっくりと息を吐いた。時々自分は何をやっているんだろうという自虐の念に駆られたが、意味がないと思い、自分の頭をこつこつとたたく。無機質な金属音、自分は生き物かどうかすら妖しいと再確認させるような、機械的で単調な音だった。
「物書きも大変だね」
「あ、どうも」
隣に現れたニップ・シャドーホップの姿を確認して、アスパラは静かに会釈をした。ニップは片手に小さな紙を持ち、周りを見回していた。
「日付の確認ですか?」
「そうだね」
カレンダーを確認する限り、今はまだ八月の半ばくらい、それにしても雲が多い、残暑が衰えるかといえば、決してそんなことはない。むしろ、日陰と気温の妙な調和が、蒸し暑いという言葉を再確認させる。ニップは息を吐きながら、額にたまった汗をぬぐう。切りかぶに体を預けて、アスパラと隣り合わせのような形になる。
陰りをおびた森の中に、一瞬だけ太陽が顔を出し、焼けるような日差しが数秒間降り続くと、少しだけ眉を顰める、またすぐに森は薄暗さを取り戻して、陰鬱な雰囲気が戻ってくる。やれやれ、とニップは大きく息を吐く。
「暗いけど、暑いって感じがしますね」
「わかるものなのかな?」
「他人を見れば、少しくらいは」
自嘲気味に微笑むアスパラを見て、ニップはアスパラの体に映った自分の姿を見て、なるほど、違いないと頷いた。体中に汗をかいて、体毛がしっとりとしている、決して気持ちのいいものではないので、なんだか複雑な気分にはなった。
しばらくの沈黙が流れる中ニップは暇そうに自分の鬚を弄りながら、小さく欠伸をした。アスパラも、それにつられているのかどうかは知らないが、周りをきょろきょろと見渡して、原稿用紙を整えて、鉛筆を握っている。ぬめりをおびたような暑さの中、二匹は未だに目覚めることなく眠っている周りのポケモンたちを見ながら、苦笑した。
よほどのことがない限り、起きることはないだろう、冒険が始まったばかりで、休憩中だった。時間帯で言うなら、昼に近付く少し前くらいということになるのだろうが、歩き続けて疲れていたのもある、休息を取ろうというおしょうの一言で、全員は切りかぶが環になったような場所の中で、ゆっくりと体を休めていた。まるで不思議な力を得られる場所のように、野生の本能をもったポケモン達は就寝中のおしょうたちを襲うことはしなかった。
しかし、その場所は不思議というよりかは、まるで作為的に作られた場所のような印象を、ニップは持っていた。自然にこんな形ができるとは思いがたい、もしかしたら、何か別の力が働いてできた場所かもしれないということを頭に入れながら警戒をしていたが、特に不審な感じはしないようだったので、一応は警戒を少しだけ緩めて、それでも癖のように時折あたりを見回していた。
ふと、隣を見るとアスパラが不思議そうな顔をしていたので、ニップは自分の行動がそこまで変に見えてしまったのだろうかということを少しだけ考えた。それ以上考えることは自分自身が変だと思うことを肯定するような気がしたので、それ以上は考えることなく、力を抜いて息を吐く。
「ニップさん、具合が悪いんですか?」
「え?」
「とてもつらそうにしていたから」
と、アスパラは本当に心配そうな顔をニップに向けていた。そんなアスパラを見て、ニップは苦笑交じりに言葉を吐いた。
「いや、大丈夫だよ」
だが、アスパラの言う通りなのは事実だった。体中に疲労が蓄積しているのは事実だ。これ以上貯めこむと動くのがつらくなるので、あまり下手なことはできないというのが実際のところだが、心配をかけたくないからなのか、口から全く違う言葉が出てきた。
それが余計に心配をかけてしまったのか、いまいち釈然としないといった風情で、しげしげとアスパラはニップの体をなめるように見つめる。そんな視線を浴びて、ニップはなんだか気恥しいようなむずかゆいような思いがした。
「そんなに見つめられるとちょっと暑いかな」
冗談めかして言うと、アスパラは少しだけ微笑んだ。
「ふふ、ニップさん、ダイエットにはちょうどいいんじゃないですか、汗をかくと、痩せるって言うじゃないですか」
「くっく、僕はそこまで体重は気にならないかな。まぁ、痩せればめっけもんって感じでやったほうが効果的だよ。ま、僕がダイエットしてスマートになってる頃には、おしょうさんとかなんて、線だけになってると思うよ」
アスパラは微笑む。
「じゃあ、みんなが痩せてる頃には、きっと僕は影だけになってますね」
「違いない」
お互いに笑いあう。声の大きさが気になったのか、ゆっくりとハッカクが身を起こした。
「あれ?おはよう」
「おはようございます」
「二人とも声が大きいね、特にニップなんて、昨日とはずいぶん違うじゃないか」
「あれ、そうだったっけ?ごめん、昔のことはよく覚えてないんだ」
ハッカクは頭を押さえて苦笑した。
「認知症の気がありますね、専用の施設に入ったほうがいいと思うよ」
「はは、あと五十年後になったら考えるよ」
「まったくだね、その頃に、僕やニップが生きているかどうかは怪しいけど」
ハッカクの笑えない冗談に、ニップは苦笑いをすることしかできなかった。
「怖いね、そんなこと言わないでよ」
「わからないさ、命なんていつ消えるか分からないっていうのがさ、死なないならそれに越したことはないけどね、案外明日あたりポックリ逝くかもしれないじゃないか」
ニップはむくれるような顔をした。
「楽しく生きていようっていう考えがないみたいだね」
「大丈夫だよ、今が結構楽しいから、生き残りたいっていう気持ちはあるもん。いや、言い方がまずかったかな?……そうだね、今が楽しいから、明日もこんな風に生きていきたいって感じかな?」
「なるほど、僕にもその気持ちはわかります」
「いまいち釈然としない回答だけど、そういうことなら僕から言うことは何もないかな」
ニップも相変わらず眉をひそめただけだったが、これ以上言ってもしょうがないと思ったのか、それ以上詮索することはなかった。
まるでその時のニップの顔は、君がそういうならそれでいいや、と、半ば言葉を聞き流すような印象も受けたが、ハッカクはそんなニップの行動に対して、不敵に笑うのみであった。
「だったら、もうこれ以上何かを言っても意味がないみたいだし、僕は顔を洗いに行ってもいいかな?」
ハッカクはゆっくりと立ち上がると、しっかりとした足取りで寝ているほかのポケモン達を起こさないように歩きだす。
「あ、ぼくも行く」
「うん?」
答えながら、ハッカクはなにか"きた"というような感覚が体に電撃のように伝わるのを感じた。何かが来たわけではなく、まるで警笛のように鳴らされる本能の拒絶反応が、ニップをとらえていた。
「別にいいけどね」
声が少し震えているのを、彼は自分自身で何となく察していた。何にそこまで緊張しているのか分からないが、頭のどこかで、ニップとはあまり二匹でいないほうがいいという気持ちがあったのかもしれない、今までさんざん二匹でいることが多かったというのに、いったいどうしてだろうと、ハッカクはうっすらと笑った。それがどんなふうに見えたのか、自分ではわからなかったので、ニップを見た。
不安とも、恐怖ともつかないような妙な表情をしているニップを見て、彼の瞳に映りこんだ自分を見て、少しだけ眉を動かした。自分自身で、驚いていた。
これはすごい、とも、なんでこんな顔をしているんだろうとも、どうしてこんな顔になったんだろうともいえる。不安と恐怖と猜疑心、そんな言葉で表せるようなニップの動向に対するハッカクの思いが、顔になって表れていた。
「いやならいいんだけど……」
「構わないさ」
ハッカクはニップの言葉に対して、無理やり作った笑顔をもって、そのまま角材を拾い上げる。ゆっくりと首を鳴らして、森の中へと進む姿に、ニップは少しだけ、ほんの少しだけ、彼の死を見た……
(ハッカク)
呼んでみようとしたけれど、それをしても意味がなかった。いろいろな考えを張り巡らせてみても、どれも間違っているような気もするし、どれも正しいような気もする。
森の中に、不思議な感覚が流れ込んでいるような気がして、ニップはめまいがする頭を押さえて、ゆっくりとハッカクの後についていった。
(あれだ……)
何度も味わったこの感覚、ほかのだれにもわからない、彼のみに伝わるような信号のようなもの。その信号が赤なのか青なのかは、彼自身にもわからない。
何か分かっていることと言えば、この先に起こる未来で、不確定要素で何かが起こるということくらいで、ニップは体中の毛が逆立つような感覚に見舞われて、少しだけ唇を噛んだ。
(落ち着け……)
誰にいうわけでもなくひとりごち、ニップは早足でハッカクの後を追った。


3


森を進んでいたら、いつの間にか霧が立ち込めて、右に進んでいるのか、それとも左に進んでいるのかまるで分らない状態になった。これは進んでいるのか、それとも迷っているのか、非常にわかりにくくて、ハッカクは頭をひねった。
昨日の夜なのか、それとも深夜なのか朝なのか、わかりにくかったが、そんな時間帯に顔を洗いに行った記憶がおぼろげに蘇っているハッカクは、こんな道は見てきたのかと思いながら、ゆっくりと足を進める。道を探そうと思えば思うほど、深い混迷に吸い込まれて、啜り取られるような感覚がする。何を考えているのか、と自分の頭を叩いて、しっかりしろと激励する。
(そういえば、ニップがいない)
一緒に顔を洗いに行くと言ったまま、後ろにずっとついていると勘違いしていたが、ハッカク一匹だった。たったそれだけのことなのに、妙に身震いをした。
別段恐怖の対象が確定したわけでもないのにどうして自分は震えているんだろうと思い、体を押さえて震えを止めようとする、それでも、無意味に体は震えた。ハッカクはため息をついて、周りを見渡す。深い混迷の中、視界に映るものは森の木々ばかりで、それが何を意味するのかもハッカクにはわからない。このまま進み続けると何が起こるのかすらわからないまま、彼は無意味に歩を進めることを選んだ。
(やれやれ、恐怖の対象がわからないと、寒くて震えているみたいじゃないか)
皮肉のように言ってみても何も起こらない。昨日の日中が非常に鬱陶しく、ぬめぬめとした暑さが纏わりついていた分、同じような時間帯とはいえ、この状況はどう考えても納得できず、ハッカクはしきりに警戒をしていた。どうしてここまで寒いのか、どうしてここまで恐怖のようなものを感じるのか、まるで意味が分からずに、ただただきょろきょろとあたりを見回すだけ。
恐いという感情があっても、その先に見えるものが肉眼で確認できなければ、言いようのないものとしか捉えられずに、恐怖心をさらに掻き立てる。そんな状況下で、ハッカクは無性に喉が渇いていた。
歩くことがこれほどまでつらく重いと感じたのは初めてだった。誰もいないという状況が、まるで仲間たちを隠匿された恐怖のように感じて、必要以上に警戒心を強めてしまう。後ろから声をかけられたら、もしかしたら見境なく殴り殺してしまうかもしれないほど、彼の精神は擦り減り始めていた。
どういう状況で、なぜこのようなことが起こったのか、だれにもわかるはずがなく、必要以上に恐怖心を感じること、そして、言いようのない孤独が、まるで隠遁者の孤独のような感じとよく似ていると彼は思った。
(孤独……)
よくよく考えてみたら、ハッカクが見たこのチームは、基本的に孤独のポケモンが多かったと、ハッカクは思った。
おしょう・とうろうは、昔の悲惨な経験の所為かそこまで他人に対して関心を持つことがなくなった、厳密にいえば、他人と関わることを恐れて、自ら孤独になりたがっているような感じがしていた。
ニップ・シャドーホップは、自分から誰かにくっつきたがるような気がした。別段悪いことではないと思っているが、それは言い換えれば、孤独ということになるのではと思う。他人に寄り添いたがるものは、本当は独り身であるということに、一種の自己嫌悪を感じているのではないのだろうかという言葉だった。
トリガラ・リングフープはこれ以上ないというくらい、孤独になろうとしているような気がした、こちらから話しかけても、ああ、とか、うん、などというなま返事を返すくらいで、ほとんどこちらに反応を示さない。トリガラの周りをちょろちょろしているガーリック・ファーバーに対して、鬱陶しそう絡むだけだ。会話がまるで成り立たないためにハッカクはほとんどあきらめていた。
あのなかで最も喋るポケモンは、ガーリックと、アスパラ・ザイロフォーンくらいのものだった。あの二匹は、こちらが何も言わなくても、勝手に話題を作り出し、そしてぺらぺらと開口する。いいことではないが、悪いことでもない。ハッカクも、話に付き合っていて鬱陶しいと感じたことは少ない。たぶんそれは、まだまだはじまったばかりで、これから時間がたつにつれて、鬱陶しいと感じるのだろうと思う。
まだまだ出会って一週間もたっていない以上、他人の性格や行動など表面上でしか読み取ることができない。それは当たり前であり、そこから仲間と呼べるポケモン達といろいろなことを教え、教わるものだ、そう信じていた。しかし、そういう兆しはまだ見えることがない、もちろん、そんな兆しがいきなり現れたらすごいものを感じるかもしれないが、あくまでそんなことは起こらないだろう。
考えれば考えるほど、このチームは孤独に満ちていた。他人と関わらない孤独、一人でいようとする孤独、噛みついて遠ざけようとする孤独、アスパラやガーリックはそれが面白くないのか、なんだかつまらなさそうな顔をする。
旅を続ければ、それが改善されるのだろうかと思ったが、そういうことになる確率はあまりに低かった。これからどんなふうに転ぶか分からないハッカクでも、なぜかそれだけはそう思ってしまった。
(おそらく、早いうちにほころびができるんだろうな)
おおよそ統一性を欠いた急増で作り上げたチームなど、そんなものだろう。一つ一つがバラバラで、統率がとれないチームなど、すぐに破綻するだろう。チームワークを垣間見せるには、あまりにももろすぎる。
ハッカクはゆっくりと歩きながら、水場につかないことに若干苛立ちを感じていた。ますます深い混迷の中に足を踏み入れているような気がして、異常に頭が痛くなる。どうしてここにきてしまったんだろうと、そう思うくらいに……
だんだん気持ちが上滑りをして、どこかに行ってしまいそうだった。心と体のバランスが取れずに、ふらふらとさまよう。
心が浮ついているせいで、周りの状況を確認できることがなかったのかもしれないが、ハッカクは寒いものを感じて周りを見渡した。
「!?……なんだ……このかんじ……」
霧の中をさまよっていたと思っていたが、場の空気が変わって、ハッカクは不審げにあたりを警戒した。
(ここは何なんだろう……)
霧の中で目を凝らして、ゆっくりと瞬きをして、静かに息を吐いた。
深い深い混迷の霧が、かすかに動いた。ハッカクは、晴れていく霧の中で、信じられないものを見た。そして、そこまで異質だと思っていた場所を、肉眼で確認し、改めて思うのだった。
ここは、異質だ――と……
まるで意味が分からない場所だった。
水飴の匂いが立ち込める湖、チョコレートでできた樹木。地面はココアの粉でコーティングがされている。ところどころから甘ったるいにおいが歯ぐきを刺激して、ハッカクは吐きそうになる。
意味が分からない場所にきてしまったようだった。まるでお菓子の世界だ。この場所はまるで、別の世界を切り離して持ってきたような気がして、めまいと一緒にグラグラと世界がゆがむ。
頭ががんがんと痛みだして、水をかぶったように目がさえる。
「……顔、洗えるのかな」
ゆっくりと歩み寄り、湖に手をつけてみた、冷たい、がさらさらなどしていない、ぬちょり、という音が耳にこびりついて、頭がおかしくなりそうだった。水ではない、水飴なのだ……
誰もが夢を見たお菓子の世界という感じだったが、喜ぶどころか、恐怖すら湧き上がる。
ハッカクは、ねっとりとこびりついた水飴を拭こうと思ったが、樹木はチョコレートでできていて、余計に悪化することだと思った……
仕方なく、舐めた。すさまじい甘さが口の中に広がって、顔を顰めさせる。
「まずい」
こんなところにいたくないと思い、そのまま帰り道を探そうと思った瞬間に、足がもつれて、そのまま水あめの湖に背中から飛び込んでしまった。
底が浅かったので何とか這い出すことはできそうだったが、とにかく気持ちが悪く、必死にもがいて這い出る。全身ぬめりをおびた光沢を放ち、ため息が漏れた。
先ほど自分がいた場所を見たが、何かをふんでもつれたのだろう、よく見れば、小石のようなマシュマロがつぶれていた。
(勘弁してくれ……)
すべて夢であってほしいという感じがした。全身に甘ったるいにおいが立ち込める中、ハッカクはその中で、ひとつだけ不思議なものを見た。
それだけはまるで現実味を帯びている、じりじりと断崖に向かっていく精神の中で、それだけが唯一現実とつながる希望のようなものに見えて、ハッカクは無意識のうちにそこまで歩み寄っていた。
遠くにあって、わかりにくかったが、それは立派な木だった。がっしりとした形に、若々しさを感じさせるような木の匂いが立ち込めて、ハッカクは安堵した。現実味を帯びたものがあったからなのか、無性にその木に興味があった。
「硬いなぁ……丈夫そうな木だし、新しい角材にしようかな」
ハッカクはそう思うと、木を触って弱いところを確かめると、ゆっくりとそこに右腕をおいて、そのまま木を貫いた。
「それっ」
掛け声と一緒に、木をむしり取る。ねじり切れたような繊維が走って、木はハッカクに倒れこんだ。それを両腕でしっかりと押さえこんで、ゆっくりと横倒しにする。
見れば見るほど丈夫な木だった。がっしりとしていて、薪にも使えそうだった。
「薪としても少しだけ持って行こうかな」
ゆっくりとその場に座り込んで、ハッカクは手刀で角材を作り出す。体には自信があるので、その分には困らない。
木々の表面を削って、自分が持てる長さに調節して、いらない部分をそぎ取りながら、きれいに整えていく……
(不思議な感じのする場所だ)
木を削りながら、ハッカクは周りを見渡した。気持ち悪い世界だと思い、同時に不思議な場所だとも思う。こんな場所が世界にあるということ、そして、ここがどうしてこんな場所になっているのか。
世界にはいろいろな不思議や謎が満ち溢れている、いつだったか、そんなことを唱えたポケモンがいる本をハッカクは読んだことがあった。内容は呪いや魔術のたぐいのものかと思っていたが、案外普通の論説が書かれていてびっくりした。
人は見るところに、全く違う世界を見ることがあるという。夜の原っぱに寝転がり、星空を見上げると、自分が空を見上げているのか、それとも星にへばりついて空を見下ろしているのか分からなくなるらしい。本の内容に書いてあったことに同意したのは、おそらくそれが最初かもしれない。
なかなか興味深かった。星空を見る。見上げるのか、見下ろすのか、それによって個人的にみる価値観というのは大きく様変わりするという。それは今生きている世界の中でも言えることだろう。ふとした瞬間に、いつの間にか違う場所にきてしまう時がある、本を読んでいるとき、考え事をしている時。自分の意識が体から離れたとき……
(確かに……さっきまでの僕は体から意識が離れていた……)
本の中で書いてある通りの出来事が起きて、ハッカクは少々不気味に思った。記憶を探りながらあの本の続きには何が書いてあったのだろうと思いだす。
本の内容を思い出しながらも、作業を進める手は止まらない。こういうときが、無意識の間という感じがして、ハッカクは無意識に笑う。
つまりは、無意識に歩くこと、それ以上に、何かに気を取られていると、別の世界にいったような感覚に陥ることがあるという。それは、自分から別次元の世界に飛んで行ったのか、はたまた、別世界が自分を取り込んだのか……
どちらも同じように聞こえるが、どちらも全然違う。
前者は、自分からその場所に足を踏み入れること、間違えたとわかった時に、引き返せば自分の意思で出ていくことができるのだから。
(後者は何だったかな……)
間もなく完成に近付いて角材を叩きながら、ハッカクは本の続きをさらに思い出そうと頭を捻った。
その瞬間――なければならない場所にあるものが消えた。
右腕がごっそりと抜けるような感触がして、頬に紅いぬめりがこびりつく。生乾きの水飴と混ざり合い、ピンク色になる。頭に神経が伝わる前に、グロテスクな肉の破片が地面にぼたりとそげ落ちる。
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「――え?」
考える暇もなく、左の腕が消えた。ピンクの肉と脂肪が視界に入りこんで、自分の骨格がむき出しになり、紅々としたぬめりが、地面にさらに広がった。
(あぁ、そういえば……)
最後に、頭に影ができた。ゆっくりと蠢く視界の中に、ハッカクは本に書いてある出来事を思い出した。
後者は――向こうからこちらにやってくること。それは、危険を意味する。
異空間にとらえられたのなら、それはそのまま未知の危険がせまってくることだ。頭では分かっていても、それはよけることができない。
見ることのできない危険が、自分自身に降りかかり、別の世界で、精神は食いつくされてしまうだろう。
最後に、腰から上がなくなって、ハッカクは意識が一気に別の世界に飛んで行った。
ねっとりとした甘ったるいにおいに、ぐちゃ、ぐちゃ、という、肉片と紅が広がる。
がりがり、がりがり。
ぼきり、ぐちゃり。
めき、ぐちゅ、ごり、ばき、ごきり、ぶち。
意識のなくなったハッカクの体に、いろいろな音が飛び込んだ……


4


悪い予感はしていたが、目の前の惨状を見て、ニップ・シャドーホップは目をこすった。
ハッカクの後ろをついていたら、いきなりハッカクが消えた。呼ばれた、という表現のほうがあっているだろう。そして、まずいと思った。彼はハッカクの気配を頼りに、"場所"を探した。
世の中には不思議な場所が存在する。墓の中にある異空間だったり、空から現れた不思議なお城だったりと様々だ。それらは決して肉眼で確認することはできない。その場所自体が、ポケモンの心が浮足立った時に生まれるものだからだ。
そういう類稀なる未知の場所に関して、ニップは異常に敏感だった。別段探したくてその場所にたどり着くわけではないが、知らないうちにその場所に入り込んでしまった誰かの気配を、敏感に察知することができる。
そうして、謎の場所を見つける。ずっと昔にもやってきたことだったが、以前はその場所で用事を済ませていたわけだが、今はそうじゃないと、彼は静かに息を吐いた。
目の前に広がった肉の欠片と、鮮血。そして肉眼でとらえる先には、無残な姿になったハッカク。もはや原形をとどめることなく、血と肉のミートボールと化していた。
(遅かったか……)
軽く舌打ち、今はそれ以外にすることがなく、入念にあたりを警戒する。不思議な場所にきてしまったとき、ポケモンはおそらく出口を探すか好奇心でいろいろ調べるかだろう、ハッカクはおそらく後者だ。そして、その好奇心が災いをもたらした。
ニップが周りを見渡していると、砂糖でできた茂みが揺れる。葉っぱがぼろぼろと崩れ落ちて、じゃりじゃりと音を立てる。妙な不快感を感じながら、ニップは髯を動かして、あたりを再度見渡した。気配をおうことができずに、警戒を続けることしかできない。
後ろに生えていたチョコレートの木が一本折れた。ガラスの破片が割れるような音がして、乾燥したチョコレートは小気味のいい音とともにカカオの地面に沈む。空洞の木から、樹液のように蜂蜜が漏れ出す。甘い匂いがさらにきつくなり、生臭さと相まって、嘔吐感を促進させる。
(どこにいる?……)
透明な敵を探すような気分になり、苛立ちが鬱積する。
ニップの足元に広がった鮮血が侵食して、ニップははっとして、下を見た。
視界に広がったハッカクだった残骸を見て、憂鬱な気分になった。間に合わなかったというのもあったが、もう少し警戒をして、もっと注意を払っていれば。自責の念に駆られる。
完全な油断、失念をしていた自分が、ひどく生物としての気持ちを欠いて、とてつもなく薄情で非道な生物だと思ってしまい、この空間での居場所のなさを感じた。
その一瞬の思考の絡まりが、少しだけ警戒を解いてしまった。
その瞬間を逃すことなく、何かが動いた。ニップは目を見開いて、大きく左の前肢を翻す。そこにいた足が無くなり、影は空を切る。ニップはゆっくりと体制を整えて、勢いよく右前肢を突き出す。何かをかするような音がして、そのまま体ごと前かがみになる。
「かすったか」
右の前肢を見ると、赤黒いぬめりがこびりついていた。顔を顰めて、再度あたりを確認する。自責の念に駆られる前に、この状況を何とかしようと、思考を切り替える。体中の毛を逆立たせて、眼光が鋭くなる。静かに息を吐いて、ぴく、と髯を動かす。
妙に重々しい雰囲気が流れて、苦いもの口にしたような顔になるのは、どうしてだろうとニップは自分で考えた。目の前に広がる肉の塊を見て、驚愕する前に、ひどく深い悲哀がしみこんだ。
どうしてこんな姿になってしまったんだろうか、何も知らないままこんな姿になってしまった、かわいそうなハッカク。そんな風に思っていたのかもしれない。しかし、ハッカクからすれば、その考え方はいい迷惑につながるかもしれない。
もしかしたら、自分の惨状を見て、悲哀に暮れる前に、ここから逃げるべきと考えるのかもしれない。他人に対しては妙に律義なハッカクは、自分の身よりも他人の危険を警告するはずだ。もしかしたら、という考え方だ。
ハッカク・ノレンは帰らぬ人になった。死者の考え方はどんな風なのか、それは死者にしかわからない。もう死んでしまったポケモンのことを引きずることはできない。
(ま、すぐにわかるさ……)
小さく息を吐いて、上唇を軽く舐める、ちょうどいい湿り具合が、緊張感を高める、グロテスクな肉塊に、メルメンチックな世界。こんなところには、一秒でもいたくなかった。
足に力を込めて、大きく跳んだ。ゆっくりと地上を離れる感触を感じながら、風も何もない世界を下から見下ろす。奇妙で、気持ちが悪かった。
ニップがいた場所に、大きな影ができる、赤黒いぬめりをまといながら、這いずりながらこちらを見上げる。とても既存のサイズとは思えない、巨大なアーボックがこちらを見上げている。
アーボックが吠えた。口の周りに、ハッカクの残骸がこびりついていた。それが否がおうにも視界に入り込んで、心の底で、怒りが燃え上がるような感覚が脳神経に伝わった。ぎり、と歯を喰いしばり、睨みつけた。
「絶対に、許さない」
この世界に住むのは、お前のような抜け殻の存在じゃない。魂が宿った、生き物の存在だ。
口から出た言葉は、濁った声か、身の毛も弥立つ様な奇声か、ニップは自分が喉から出した声が、金切り声のように聞こえた。
アーボックがひるんだ。奇妙な音波を聞いて、体をゆすっている。嫌がっているのか、それとも畏怖しているのか、無表情の毒蛇の顔はどんなことを考えているのか読み取ることはできなかった。ニップは、もともと魂なんて入っていないとアーボックを見て思う。
(これはただの抜け殻だ……いきものじゃない)
生き物というのは、泣いたり怒ったり笑ったり、感情があり、個々の意思で行動する有機物のことをいうものだ。視界の中に入るアーボックの顔はとても無表情で、命令どおりに動く肉の塊という印象しか受けない。
実際にそうなんだから、と思いながら、ニップは落ちる速さと一緒に、しなやかな尻尾を動かしアーボックの胴体に横薙ぎ一閃の傷をつける。傷口が広がり、鮮血が舞う。顔に少しかかり、口の中に鉄の味が広がって、不快感が増した。
「ぺっ」
口の中にたまった唾液と混ざり合った、人形の液体を吐き気と一緒に地面に捨てる。どうも飲み下すと吐瀉しそうで、口の中にため込みたくないという思いがあった。
吐き気を催す気持ち悪さというものが、今目の前にいる肉の塊だろう。ニップはますます険な顔をして、鮮血でてかるアーボックを見据える。アーボックは、少しだけ動きが緩慢になっていた。切られた傷口から、どろりと零れ出す濃厚な紅。全くよくできていると、ニップは口元をゆがませる。
「それだけ精巧にできてるなら、楽しい悲鳴が聞けそうだ」
顔に邪悪が宿る。アーボックはさらに怯んだ。威嚇の様な奇声を喉から絞り出して、ニップを近づけまいと奮起するが、ニップは涼しげに受け流した。
耳障りな音が鼓膜に反響して瞳の色がすっと消えるような感じがした。ニップは、感情がなくなると冷めたようになるというが、まさしくそれが今の状態なのだろうと、自分で自覚した。体に流れる血液が沸騰して、それでも体温が下がるような感覚に見舞われる。不思議と、心地が良かった。
不快な雑音が喧しい中、ニップは音もなくゆっくりと近づいていく。蛇のような肉塊が吠えた。奇妙な雑音が大きくなり、ますます顔を険しくする。
「うるさい」
言葉を吐くと同時に、一瞬の隙をついて、首から上を切り払う。浅かったのか、薄皮一枚で繋がっていた。ぱ、と紅が降り注いで、ニップの体毛にしみ込んで、ぬるりと体を滑らせる。
舌なめずりをしながら、目の前のグロテスクな肉塊の一部を切り裂く。青黒く変色した肉片が飛び散り、地面に落ちた途端に腐敗する。それを見て、ニップはふん、と鼻を鳴らした。
まるで、それ見たことか、と咎めるような顔をしている。どうしてそんな顔をしているの。などと、誰かがいたら言われそうな顔をしている。ニップもどうしてそんな風に言われると思ったのか、わからなかった。
ぐちゃ、ぐちゃ、と、ぶよぶよの肉の塊が動いた。もうそれにしか見えなくなり、ただの肉人形が震える。おぞましい口をあけ、グロテスクな舌をへらへらさせて、低く粘ついた声で奇声を放つ。
―――オマエノタfガxl醜ィヤ――ゴ鬼Sノハ、御前の様なpッルャイダ死……そホサィネ祭ィ?何故ワlruニイギァゲる――
――貴様ガワザワェWQ(体ゾジガマデ来たゾジャァガzL&い@ニジン℃が――――
―コンナ)9ゾァx$kワダギイェア:*?ザロAAAすけーUワユアど}偽ノヴィギ―――
「なにいってるかさっぱりわかんねぇよ」
ぐちゃぐちゃと、腐った口から聞こえた言葉は、すべて読解不能な文字ばかり、最後の断末魔か、助けてほしいという懇願か、このままで終わらないという執念の声か、それすらも分からなくて、耳が壊れたのかと錯覚した。口を開くたびに、腐った臭いが充満して、鼻がいかれそうになる。
ニップは、頭を押さえながら、ぐちゅぐちゅの腐肉を尻尾で横薙ぎに切り潰した。ずるりと、皮がむけ、骨が砕け散る音がする。尻尾の先に骨の欠片がついて、うえ、と顔を顰めさせた。胴から上が離れたアーボックだった肉塊は、ぐずぐずに崩れ、腐肉の塊になった。
(まぁ、こんなものか……)
ニップは身を翻し、ハッカクの残骸に顔を近づけた。息もしていなければ、本当にハッカクなのかと疑わしくなる、肉塊だった……
「ハッカク」
血と肉の塊になってしまった、かつての友人を呼ぶ。その横には、作りかけの角材となるべき、木が転がっていた。立派な木目にも、血肉がこびり付いて、見るも無残な光景ということを改めて認識させる、陰鬱な気持ちが腹の底から湧きあがり、悲しそうに瞳を燻らせる。
「君は、ここで死にたいかい?それとも、先を見たいかい??」
答えはない、だが、ハッカクならこういうはずだ、とニップはほほ笑んだ。
「ぼくのいのち……いっこあげるね」
崩れる世界の中で、ニップはゆっくりと、肉塊に口づけをした。


5


まぶしい夕焼けが視界にさすように入ってきたのを感じて、ハッカク・ノレンは目を覚ました。長い夢を見ていたかのように体中に倦怠感が襲いかかって、眠っていたというのに疲れがまるで取れていなかった。重い体をゆっくりと起こすと、視界には眠っていた時と同じような森が広がって、周りには見慣れたポケモン達がこちらを見つめていた。
右と左の腕が無い感覚がした。それだけが異常に気になって、首を動かして腕の有無を確認する。腕が付いているような感覚で腕を動かしたら、なくなっていたというのはよくある話だった。脳神経を動かして、ゆっくりと動かしてみる。ついていた。両方とも大丈夫だった。
「……あれ?なんで、僕……」
自分は何もわからないまま、意識が消えたはず。考えすぎかもしれないが、確かにあのとき、自分は死んでいた。そういう意識はなかったが。なぜか心のどこかで、そう思っていた節があった。後ろから聞こえた声に、一瞬だけ躊躇する。また肉をそぎ落とされるのではないかと、なぜそう思うのかは分からなかったが、そう思えて仕方がなかった。
「ハッカク、おきたんだね」
「ニップ?」
視界に飛び込んだ紫の黄色の斑模様、ニップ・シャドーホップはゆっくりと身を翻して、微笑んだ。
「やれやれ、顔を洗いに行ったまま寝ちゃうなんて、ハッカクらしくないね、そんなに眠かったのなら、もう少し位眠ればよかったのに」
「寝た?」
違う、と喉の奥から言葉が出そうになったのを、ハッカクはどうにかしてこらえる。ニップは口が笑っていても、目が笑っていなかった。まるで悲壮を煽るような瞳、体中から汗がにじみ出して、自分の身に何が起こったのかを想像させた。やはり――
「死――」
「君は死んでない……寝ただけだよ」
「……」
ハッカクは何も言えなかった。ニップの言葉を妄言と思えない自分が嫌になり、そして自分の身に起こったことが一切分からないことにも憤りに近いものを感じた。どうして何も覚えていないのか、なぜ自分の身に起こったことが分からないのか、疑問は考えるほど尽きることなく、頭の根からぬるい悪寒が湧きだし、ゆっくりと体に侵食していく……
「実に荒唐無稽な妄言だね、ハッカク」
ニップはそう言って、うすら笑いを浮かべる。まるで心の中が空洞のようで、人形と会話をしている気分になり、瞬間的な吐き気を催した。空っぽの友人は、そのまま会話を続ける。
「君が死んだっていうのなら、なぜ君はここにいるんだい?死者は土に還る、君が死体だったとしたら、腐臭がするじゃないか。それに、僕だったら異臭がする友人なんてつれて帰らないよ。間違いなく、君は生きている」
「……ろ、六道輪廻」
「え?」
「僕の魂は、転生したと考えるべきじゃないのかな?」
「なんだって……」
苦し紛れの一言が、ニップの顔色を変えた。言葉の真意を探ろうとするような仕草を見せて、鬚をしきりに動かしている。ハッカクは、少しだけ笑った。
「僕が六道輪廻の転生の道に入ったというのなら、辻褄は合うよ。餓鬼道、畜生道、地獄道、修羅道、人道、天道……僕の場合は人道かな……四十九日もしないうちに転生するなんてラッキーかもしれないけどね」
「ハッカク……」
ニップはどこか悲しそうな瞳で、ハッカクを見て息を吐いた。
「そうでもしなければ、君が魂をくれたとかね、猫は複数の魂を持つ生き物っていうだろう?……ニップ?」
「君は生きている、生きているんだ……」
それ以上何も喋りたくないといった顔をして、ニップは荒々しく吐き捨てると、尻尾を使って、森の東側をさす。ハッカクが視線を動かすと、おしょうたちが先に支度を済ませて、待っていてくれた。ハッカクはあわててとび起きると、自分の荷物をまとめる。ニップは、何かを言いかけたが、そのまま無言でおしょうたちの所まで走って行った。
「……あれ?」
ハッカクは、自分の持っている荷物に違和感を感じた。薪が入っている。非常に硬質で、いい香りもする上質の薪で、こんなものを買った覚えがなかったが、ハッカクはなぜだか知らないけれど、その薪に見覚えがあった。
「なんでこんなものを持ってるんだろう……まぁ、たぶんどこかで拾ったんだ」
すっぱりと割り切ると、さっと身を翻し、荷物を背負う。片手で角材を拾い上げ、何やら角材が甘ったるい臭いがするのを感じた。
「なんだ?」
よく見ると、水飴のようなものが付着している。何なのか分からないまま臭いをかぐ。脳神経を這いずるような甘さが頭の中に流れ込んで、歯茎が痛くなった。
「……あとで、洗っておこう」
――自分は、死んだ。
頭の中で、押しのけなければいけないその妄言だけが、妙にしつこくこびりついて、首筋がかゆい感じがした。どうしてそう思うのか、なぜそんな風に考えるのか、まるで意味が分からないまま、世界が進んでいくような印象すら受け、ハッカクは首を捻った。
妙にのどが渇いた。なぜ渇いているのか分からないまま、ハッカクはゆっくりと歩む。
死んだ。という恐怖と、生きている。という躊躇。二つの意識の境目の中で、ハッカクの思考はせめぎ合う。何が正しく、何が間違いなのか、ハッカクはわからなかった。
軽い酩酊感に襲われながら、ハッカクは引きずるように歩きだす。
「死んだ……いや、死んでない……」
朦朧とする意識の中で、無意識に左手がおでこに手をあてていた。焼けるような熱さが伝わって、それが熱だと感じる前に、ハッカクはゆっくりと前のめりにくずおれた。


6


「風邪ひいたなら、軽めで栄養のあるものを食べるのが一番だね」
おしょう・とうろうはリズミカルに木べらを動かして、おからをつぶしていく。その横では、油をしいて熱したフライパンに、トリガラが卵を落としてくしゃくしゃにかき回していた。
「ごめんなさい、トリガラさん、手伝ってもらって……」
「大丈夫だよ。このくらいならいつもやってるから」
そう言って、トリガラはちらりとガーリックを一瞥した。ガーリックはそれに気がついたのか、にこやかに笑って手を振った。トリガラは細い眼でそれを見つめると、ため息を吐いてフライパンを動かす手を早めた。
「寒い視線を感じたねー……」
「トリガラさんに嫌われているんですか?」
ガーリックは首を捻りながらさあ?とだけ言うと、あくびをかみ殺してコロンと横になる。
アスパラは気まずそうに自分の頭をなでた。金属同士がぶつかり合う不可解な音がして、眠っていたハッカクが不快そうに顔を歪ませた。その顔はほとんど衰弱していて、まるで死んでいるポケモンのそれだった。ほとんど死んでいるようなアスパラは妙に心の中に寒い思いが通り抜けるのを感じていた。ぽっかりと空洞があいたような気分になっていると、おしょうとトリガラが両手に大きなお皿を持って現れた。
「みんな、ごはんだよ」
「残すなよー。材料がもったいないから」
おしょうが苦笑しながら、切り株の上に料理を置いていく。どんな料理なのかとアスパラは顔をのぞかせる。おからでできたハンバーグに、スクランブルエッグ。ソーセージとレタスが添えられて、軽く炒めたご飯が小皿に盛ってあった。
「わあ、なんだか豪華ですね」
「これを豪華と思えるほど、アスパラ君の食事事情はひどかったの?」
「え?」
アスパラは顔を赤くして俯いた。トリガラは笑いながら人数分の箸を置いていく。
「図星?」
「いえその、ご飯なんておなかに入ればいいかなってくらいですから……いや、僕の場合燃料ですけど……そこまで豪華な料理食べないっていうか……」
気恥しそうに小さな声でそういうアスパラを見て、トリガラは自分のことを考える。なぜそんなことを考えていたのか、思考が絡まってよく分からない。
彼女は思案に暮れる。昔の自分は食事をしっかり取っていただろうか、もしかしたら食べない時もあったかもしれない。それ以上に、昔の自分はどういう行動をっていただろうか。いろいろ考えすぎて、料理を盛った皿を取り落としそうになった。
「うわわっ!?」
「危ないなぁ……」
慌てて姿勢をただし料理を切りかぶの上に置く。ガーリックは湿ったような声を出して、くぐもった笑い声を洩らす。
「しっかりしなよ、トリガラ、料理がもったいないからねー」
「君にそんなこと言われたくない、黙ってろ」
ぴしゃりと言い放ち、トリガラは乱暴に最後の皿を叩きつけるようにおく。鳥肌が立つような音が響いて、ガーリックも一瞬だけ目を丸くする。
「あ、あの、トリガラさん……」
「なんだよ!?」
知らないうちに声を荒げた返答をして、トリガラははっとした。おしょうは目に涙を浮かべて、小刻みに震えていた。
「あ、あの、その、えっと、りょ、りょうり……」
「ご、ごめん」
トリガラは深い意識の片隅で、答えようのない罪悪感に見舞われた。おしょうの瞳に自分の姿が映り、どこからどう見ても、醜悪な化け物のそれにしか見えない自分の顔を見て、トリガラは瞳に涙がたまるような思いだった。
やはり三つ首の竜など、好かれもしない。ありもしない理想を追い求めて、叶いもしない夢を探して、自分は何がしたかったのだろうか、どんな風に見られていても、結局は自分は化け物の類にしか見ることができない。自他共に認めるその容姿を引き千切りたいと、何度思ったことか、トリガラは訳が分からないまま涙を流した。
「ご、ごめん、おしょうさん……ほんとに、ほんとにごめん……」
「うっ……と、トリガラさん、その、あの、私、わたし……」
おしょうもトリガラも、わけが分からないまま涙を流す。ガーリックは胸の中にたまる罪悪感を吐きだそうとして、少し嗚咽を漏らした。飲み込むことも吐き出すこともできないまま、自分の言葉のせいで悪くなった空気というものを、この先ずっと感じていくのだろうか、ガーリックは死にたくなった。
料理は温かく、だれもが笑顔になるという言葉があったが、寄せて集めただけの腐りやすい仲間の糸はすぐに腐敗して、笑顔も運んでくることはないだろうと、木にもたれかかったニップはそう思った。


7


八月の下旬に差し掛かった朝、トリガラ・リングフープは炎の爆ぜる音でたたき起こされた。一週間前にフライパンから聞いた音を聞きながら、ぼやけた視界で音の世界を探る。
おしょう・とうろうが白米を炒めながら、鼻歌交じりに料理を続ける。作業音に混ざる不思議な歌は、耳の中にしみ込んで、忘れられないフレーズを体に刻みこむような感覚だった。
「おしょうさん、おはよう」
「あ、トリガラさんおはようございます」
おしょうは柔和な笑みを浮かべて微笑んだ。柔らかい臭いが立ち込めて、トリガラはしきりに鼻をひくつかせる。
「お風呂入ってきた?」
「行水できる場所ならありますよ。ここから先のほうに、泉があったので、そこでちょっと体を洗ってました」
「森の入口と出口の付近に泉ね、地図に書き加えておこうっと」
おしょうの言葉を頼りにトリガラはおおざっぱに地図に丸を描くと、自分の荷物からスポンジと石鹸を取り出した。おしょうは火からフライパンをどけながら、あいた片腕で指をさす。
「ここから、ちょっと東に行ったところです、ご飯の前にさっぱりしてはいかがですか?」
おしょうの言葉に、トリガラはそうさせてもらうよと頷き、なんだかよそよそしく飛んで行った。それを見送った後に、おしょうは炒め終わった米を小分けしながら、深く息を吐いた。一週間前の出来事のことをまだ引きずっているのだろうか、と、心の中ではそんな言葉が渦巻く。さみしいというわけでもないが、やはり溝がまだ埋まっていないような気もする。飛び去っていくトリガラの姿を目で追いながら、おしょうはトリガラの背中に、煤けた影のようなものが重なって見えた。罪悪感がたまって、黒い影を落としているような印象を受けて、おしょうはため息をついて、次の料理を作ろうと手を伸ばした。
「おしょうさん、トリガラどこに行ったの?」
後ろからガーリックが話しかけてきたので、おしょうは庖丁を研ごうと思った手を一瞬だけ止めると、控え目に指をさした。
「あっちに行きましたよガーリックさん。行水です」
「ありがとう。僕もちょっと水浴びしてくる」
「え?ちょっとそれは覗きじゃ」
おしょうは顔を真っ赤に紅潮させて大きな声を出したが、ガーリックは首を横に振った。
「覗きじゃなくて、この間のこと、ちょっと謝ろうって」
「え?」
「僕のせいだから」
ガーリックはそれだけ言うと背を向ける。寂しげな背中を見ながら、おしょうは何かを言いたげに声をかけようとして、結局何も言えずに、歩いて行ってしまったガーリックを遠めに見つめていた。ここ最近はそんなことばかりが続いて、何か話題を振らないと明るくやっていけないような気がして、おしょうは胸が痛むような気持ちになった。このまま仲間たちの絆が切れて、ただの塊になり、そのまま隠遁していくのだろうか、そう思えば思うほど、何とかしなければという思いに駆られる。しかし、何をすれば仲間の糸を紡ぐことができるのか、それが分からないまま悶着を繰り返し、そして行動が上滑りを繰り返す。このまま月日が過ぎていくのだろうかと思えば思うほど、やるせない気持ちが増していく。
何とかしなければいけない。自分が何とかしなければ。そう思えば思うほど、空回りが続き、やる気もどこかに飛んで行ってしまう。最近時間に羽が生えたような感覚で、どんどん過ぎていくような気がしてならなかった。頭の中では分かっていても、それを片づけてしまえと思ってしまう自分がいた。
片づけて、なかったことにすればいい、他人事だから、仲間という名目上一緒に旅をしてはいるが、所詮急造で出来上がったチームだから、と頭のどこかでそう思っている。だから一時の気まずさも、すぐになくなってしまう。だから片づけてしまえ。そう思ってしまう。だが、おしょうはそんな風にすぐに割り切れて、片づけられなかった。寂しさと心の中の黒いものを残したまま、首を横に振った。眠っている三匹の仲間を見つめながら、頭の中で思う。
(もしかしたら、ハッカク達があんなことになっても、また片づけてしまって終わりになってしまうのかな……)
本当に起こり得そうで、おしょうは寒気がした。自分がどれだけ恐ろしいことを考えているのかを自覚し、身震いをする。
考えないようにしよう。そう思っても、やはり心のどこかで思ってしまう。このチームは所謂急造のチーム。だから何が起こっても、世間からどんな目で見られたとしても、片づけてしまえばいいのだと。世間の目から、仲間の不信から、そうして、何も考えずに旅を続ければいいのだと。
(大丈夫)
誰にいうわけでもなく、おしょうはひとりごちる。
(私は、片づけたりなんてしないはずだから)
心に空洞を抱えたまま、何の根拠もなくおしょうはそう思った。蟲ポケモンが一匹、もの寂しげに鳴いて、朝の到来を伝える前に、森がざわめいた。
今日も暑い日が続きそうだと感じながら、おしょうは鍋に水を入れ始めた。


水を体にかけて、どのくらいの冷たさか確かめてから、トリガラは申し訳ない程度に折りたたんだ布を広げていく。ちょうど大きなポケモンが一匹くらいはいれる大きさになり、そこに浅い溝を作る。簡易的な浴場を作り、そこに水を入れていく。
トリガラは水を入れながら、ため息を吐いた。あんな逃げるような去り方をしなくてもよかったんじゃないかと、頭の中では思っていたが、蟠りが抜けないまま、結局逃げるように飛び去って行ってしまった。溝が埋まらないまま、この調子でいるのだろうか、このまま、ずっと時間が経っていくのだろうか。
考えれば考えるほど怖くなり、水が溜まったのを確認して、靄を振り払うように勢いよく飛びこんだ、水が盛大に跳ねて、空中に舞う。
「……私はやっぱり。変わることなんてできないんだ」
「寂しいこと言ってるね」
聞きなれた声に驚き、後ろを振り向くと、汗だくのガーリックが、トリガラを見ていた。
「覗き?」
「まさか、うすぺったいのに興味はないよ」
最低だ、と心の中で思いながら、トリガラはガーリックと数秒間見つめあう。
「何しにきたの?」
「水浴び」簡易的にこたえると。ガーリックはふらふらと泉に歩み寄り、水をばしゃばしゃとかける。大量の水しぶきが待って、トリガラのほうにも付着する。別段、気持ち悪さは感じなかったのが、妙にむっときた。
「トリガラ……」
「何?」
溝が埋まらない原因の一つに、ガーリックの言葉が思い浮かんだ、どうしてこのポケモンは他人を怒り出させるような言葉ばかりを吐くのだろうか。疑問は尽きないまま苛立ちが募る。一週間前のことを咎めようと口を尖らせた矢先に、言葉が飛んできた。
「ごめん」
「え?」
「僕のせいだから。ごめん」
簡素な言葉を吐いて、ガーリックは入水しようとした。まるで自殺のように見えて、慌ててトリガラは声を出した。
「ガーリック」
「?」
「こっちに来て、体、洗ってあげる」
「え?でも――」
「いいから」
有無を言わさない口調で、トリガラは手を伸ばした。ガーリックの綿毛をつまんで、簡易浴場の中に引きずり込む。また水しぶきが上がって、顔にかかった。
トリガラはスポンジに数回石鹸をこすりつけて、両手で揉みしだく。すっかりと泡まみれになったスポンジを強く握って、ガーリックの体に触れる。
(やわっこい)
そこまで触れたことのなかったガーリックの体に触れてみて、トリガラは妙に心臓の鼓動が速くなった。自分のほうが良からぬ振る舞いをしているような気分になりながら、トリガラはゆっくりとスポンジをガーリックの体に当てて、擦り始めた。
「んっ……」
妙に艶めかしい声を出して、ガーリックがぴくり、と体を震わせる。彼女は顔を紅潮させながらスポンジをゆっくりとずらしていく。ぬるりとした感触が手から脳に伝わり、ガーリックの肌の柔らかさと相まって、妙な気分にさせる。脇の下にスポンジを差し込んで、ゆっくりと前後にこすると、ガーリックがまた声を出す。
「あっ……」
「変な声出さないでよ……」
ガーリックは顔を真っ赤にして首を横に振った。むちゃを言うなといった風情で、トリガラは息を吐く。無性に生ぬるい感じがして、トリガラは悶々とした気持ちが積もっていった。スポンジを両手で持ち、綿毛の中に突っ込んで、きれいにこする。ガク片を優しく持ちながら、丁寧に擦っていると、ガーリックが声をかけてきた。
「トリガラ……」
「んー?」
「トリガラはさ、両親の顔って、覚えてる?」
両親と言われて、トリガラは洗う手つきを一瞬鈍らせる。体中から血の気が引くような感じがして、知らないうちに険しい顔つきで、目の前のポケモンが何を話すかを注意深くうかがっていた。また何を言い出すのか、また空洞の口から、心のない言葉を吐き出すのか。トリガラは思い、言葉にこたえる。
「覚えてないよ……私の両親は、私を生んですぐに亡くなった」
「僕もそう……お母さんが死んじゃったんだ。だから、お父さんの思い出しか残ってない」
ガーリックはそう言ってくすぐったそうに体をゆすらせる。知らないうちに水がぬめりを帯びて、トリガラはなぜか羞恥心が高まる。ガーリックは微弱に水をかけながら話を続けた。
「僕さ、お母さんが死んじゃった時にさ、死を受け入れて乗り越えられるような明るさを持てって……なんだかファンタジーみたいな話だよね。だけどさ、ほんとにそんなことできたらいいなって思ってたんだ、僕、ムードメーカになりたいっていう風に思ってた時があったんだ。険悪な時さ、そんなポケモンがいたら、和やかな雰囲気になるじゃんって――」
トリガラはスポンジを綿毛の中から取り出して、ガーリックのおなかに押し当てる、泡がゆっくりと体をつたって、ガーリックは体中がぬめっていた。
「――だけどさ、現実はそうはいかないってわかったよ。僕の言葉、みんなの心にささくれを作るばかりでさ、トリガラが僕と話すのは嫌だって思ったとき、心は本当は違うこと考えてたって思ってたんだ、もしかしたら全然違う、僕と話したくてたまらないんじゃないかなって。前向きに考えることが悪いことじゃないって、お父さんが教えてくれたんだ。だけどさ、そうじゃなかったんだ、この間、おしょうさんとトリガラを見て、さ。――結局、僕は何がしたかったんだろう?みんなの心にささくればっかり作って、僕って、何してるんだろうって、改めて考えてみたんだ。溝が埋まっていくばっかりで。何やってるんだろうって……それで、それで――」
スポンジに含まれた水に、生温かい水が落ちる。溶けて混ざり合って、ぬるい液体に変わる。ガーリックは目に涙をためて、嗚咽を漏らした。体中が震えて、泡が飛び散る。
「――僕、人にこんな気持ちをさせるくらいなら、生まれてこないほうがよかったのかなぁって……僕は何がしたかったんだろうって……僕の生きている意味って、何だろうって――」
無意識に、トリガラはガーリックを抱きしめる、ぬちゃりと粘着な水音がして、ガーリックは力なくトリガラに背中を預けることしかできなかった。
「自分が間違っているってわかったのなら、その間違いを正せるくらい、正しいことをすればいいんじゃないかな?言葉よりも行動で、ガーリックはちゃんとできるでしょ?」
「トリガラ……」
「私が見ててあげる、どれだけへこたれても、私がちゃんと見ててあげるから、もうそんな悲しいこと言わないで」
トリガラはガーリックの両脇を優しく持つと、向かい合うような形にする。
「これは、その約束の証――」
「――っ……んっ……」
ゆっくりと、トリガラはガーリックと唇を重ねる。ガーリックは一瞬だけ目を見開いたが、ゆっくりと受け入れるように目を閉じる。彼女は、どうしてこんなことをしているのだろうと、頭の中を整理しようとしたが、心臓の鼓動に、ガーリックの体温が伝わって、何も考えられなくなった。
水滴が落ちる音が聞こえなくなるまで、しばらく二人は無言で抱き合っていた。


8


すっかりきれいになった体を触りながら、ガーリック・ファーバーは隣で恥ずかしそうにしているトリガラのほうを向いて、はにかんだ。心の中の靄がすっかりと消えて、清々しいほどの笑顔を見せつけるガーリックを直視できずに、トリガラはどうしたらいいのか分からずうろたえるばかりだった。
(まぶしい笑顔か、私にはできないことかも)
笑うことを忘れるくらいの毎日。考えることをやめて、トリガラはボロボロの地図を取り出した。おしょうが持っていたようなきれいで細かいことまで描かれている地図ではなく、風化しかけていて、何が描いてあるのかもよく分からない地図だった。地図を叩くと、ほこりが舞い、トリガラは舞った埃を吸って、少しだけせき込む。ガーリックは自分の腕を動かして、埃を飛ばしていた。
「大丈夫?どうしてそんなボロボロの地図を持ってるの?」
「ちょっと確かめたいことがあってね……いいよ、ガーリックはみんなのところに戻っててほしいんだ」
ガーリックは何かを言いかけようとして、そのまま言葉を飲み下した。体を来た方向へ戻すと、去り際に一言だけ呟いた。
「トリガラ、ありがとう」
「どういたしまして」
つぶやきに、ちぎれて消えそうなささやきを返す。言葉が伝わったかどうかは分からないが、トリガラには伝わったと思った。走り出したガーリックの綿毛が、言葉にこたえるように軽快に揺れる。トリガラは含みのある笑みをこぼして、地図を持ち、ゆっくりと地上を離れていく。体に風が吹き付ける中、ボロボロの地図に目を落とす。
かすれてつぶれた大陸の中心地に、やけに小汚い文字でグルメッカと書かれた場所を見て、そこに視線を集中させる。
(昔の地図と、今の地図、ほとんど変ったことはない)
変わっていることがないということは、地図を新調する意味がない。トリガラは頭の中にかかる霧をゆっくりと払いながら、一つの答えを探しだす。
(それが、何を意味するのか……)
トリガラは静かに息を吐いて、景色に視線を動かした。何もわからない、これからわかっていけばいい。二つの考え方を持つことができるのがまだ考え始めたばかりだから、それでいいと自分を慰めていたが、近頃は疑問が浮かぶたびにそんなことを考えられなくなった。疑問という束縛に捉われて、物事の本質を見失いそうになり、寂寞とした思いに駆られて、背中にぴったりとくっついた何かを振り払うかのように、クモの糸のような何かを祓うような思いに急き立てられる。真実を知るということは、それなりの代価を支払わなければならない。考えることは、その代価だと考える。
(私は、まだ代価を払ってない)
真実を追求するには、まだ代価が払えない。突然の出発、何もわからない冒険。トリガラの頭は暗中模索の檻の中に囚われて、曖昧模糊の混沌の中、真実という残滓を追い続ける。体に走る寒気は、掴めないものをもがいて取ろうとするそれに似ていた。
「わからない」
無意識に地図を食い荒らしていたトリガラは、口の中に入った紙きれを埃と一緒に飲み下した。暴食と呼ばれそうな行動だったが、生憎空にはポケモンがいなかった。トリガラはずたぼろになった地図をしまい込むと、ゆっくりと地上に降りていく。ぬるい風が一瞬だけ通り抜けて、行水をし終わった毛並みがなでられて、寒気がした。
吐きたい思いを堪えて、ゆっくりとおぼつかない足取りを支える。体中に鳥肌が立ちそうになり、嗚咽を漏らした。
「うぇっ」
体を支えるように強く握り込んで、はぁはぁと息を吐いた。息ができないほどの圧迫感が襲いかかって、思考が絡まり、ドロドロと流れていく。考えているだけで、ここまで吐き気を覚えたのは久しぶりだと、トリガラは胸を押さえた。
(意味が分からないから、怖いんだ)
すごいものを見た感じとは少し違うものを感じて、彼女は呼吸を整えて、ガーリックの後を追う。飲み下した紙きれの感触すら思い出して、顔にしわが寄る。
頭を手で押さえながら、ボロボロの地図に少しだけ触れる。胃の腑からぞわりとしたような感覚が湧きあがり、背筋を伸ばした。何だろう、この得体のしれない感覚は。気持ちが悪くなる、倦怠感に見舞われるような気がして、トリガラはかぶりを振った。考えれば考えるほど、体中に寒さが伝わる。
(グル……メッカ)
寒々とした言葉を思い浮かべる。何なのだろう、グルメッカ、聞いたことがあるような、ない様な――


ハッカクが食事を捨てている場面を、ニップは何度も見つけて、悲しそうな瞳を燻らせていた。何度も見た、汁物を流す不快な音、ひき肉をつぶす耳障りな音。しょうがないと思っていても、やはり許容はできなかった。
(いくらなんでも、ひどすぎる)
ハッカクには自覚がないのだ、やってはいけないということという認識が付いていない。食事を見るたびに、いやな顔をして、少し食べただけで、どこかに捨てに出かけてしまう。誰もが不審に思っているその行為、だれも言わないだけで、きっとみんな知っているその行為。ニップはやはり、と考える。
(あの時のことを……体が覚えているのかな)
自分の身に起きたことは、自分の記憶から抹消されても、体が自然にしみついている。まるで分らないその行動も、無意識に体が覚えているからこそ捨てているのだ。自分の体が一瞬のうちに血と肉の塊になってしまえば、それを連想させるような食事をとるのは、難しいことなのかもしれない。もしかしたら、それだけではないのかもしれない。
ニップは考えた。ハッカクはおしょうの世話をしていたのだ、一カ月だったとしても、拒食症のポケモンに食事をとらせることは困難極まりないに違いない。食事を自分が見ている前でもどされることは、顔を顰める以外の何物でもないだろう。それが病気だとわかっていたとしても、どうしてもやりきれない感覚がこみ上げるものだ。それを間近で見ているから、もしかしたら――
考えてもしょうがないと思って、ニップはそそくさとおしょうたちのいるところに足を進める。
「ニップ、いるんだろ」
「……」
「出てきなよ、別に僕は逃げも隠れもしないよ」
「だったら、なんでそんな風に逃げたり隠れたりするんだい?堂々としてればいいじゃないか?」
見つかったということの驚きよりも、見つけられたことの驚きのほうが勝った。
ニップは完全に気配をけしていたのに、ハッカクはどこにいるかまでわかっていたかのような口ぶりで、ニップをあぶり出した。
「こそこそして、何か後ろめたいことでもあったのかな?」
「何でもないよ」ハッカクはそう言って、体をニップに合わせた。背筋が凍るような視線を浴びても、ニップは平然としていた。
ニップは心の中で考えていることをハッカクに打ち明けることができるのならしたかった。何を考えてそんなことをするのか、もしかしたら自分の身に何があったのかを覚えているのか、分からないことばかりで、不気味に思うが、少なくとも目の前のハッカクにそんなことを言えるほど、まだ心の準備ができていない。
「一週間くらい前だったかな、言われたことがそんなに気になった?おしょうさんの口から、あんなことが出てきたのがそんなに気になった?」
「びっくりした。おしょうさんはそんなことできないとも思ったよ。だってそうだろ?食べ物がらみの事件があったんだ、ニップは知らないけどね」
「話してくれないからね」ニップは笑ったが、ハッカクは顔を顰めた。
「話してくれないからわかるわけがない。君は少しピリピリしすぎだ。もう少し柔らかい考え方をしてみたらどうかな?豪華なものでも食べたら、気分が緩やかになるんじゃない?」
「いやだね」ハッカクはばっさりと切り捨てた。「僕はご馳走が嫌いなんだ、豪華なものを食べると、吐き気がする」いやなものを見るような眼で、ハッカクはニップを睨みつけた。
「ハッカク、ちょっとそれは言いすぎじゃないかな」
「言いすぎなものか、おしょうさんは一カ月もかかったんだ、早い方だってみんな言ってくれたけど、そんなおしょうさんがまた料理を始めるなんて、僕は見てられないんだ。食堂で働いてるだけでも胸が締め付けられるよ」
「君は」言いかけた言葉を、ニップはしまい込んだ。目の前のポケモンは、過酷な現実を目の当たりにしすぎて、他人の言葉が伝わらないんだと、ニップは瞳が濁っていった。ハッカクは驚くほど衰弱しているのが目に見えて分かる、一週間鳥の餌ほどしか食べていないハッカクは、筋肉も、頬も、がっしりとした体躯も。すべて彼の残滓を追わなければ、一週間前の彼の姿をとらえることなどできはしなかった。
(こんなのぜったい、おかしいよ……)
ニップは内心で呟いて、ハッカクに触れようと手を伸ばす。ハッカクは驚いたように後ずさる、ぱらり、と石ころが落ちる音がしたが、二匹はそんなことを気にもしなかった。
「やめろ、ぼくをそんな目で見るな」
「ハッカク、君はきっと疲れているんだ」
「違う」ハッカクはさらに後ずさる、ニップはじりじりと距離を縮める。
「やめてくれ、ニップ、僕のことはほっておいて――」
言い終わる前に、ハッカクの姿が消えた。同時に、ニップも空中に放り出される。森の中を移動していたと思っていたら、一瞬で崖にたどり着いていた。周りのものが見えなくなるくらいまで、自分たちは話し合っていたのか。落ちる感覚を感じながら、少しだけポケモンとしての距離が縮まったことに、ニップは微笑んだ――


9


「起きるんだ、ニップ」
強い声が壁に反響して、ニップ・シャドーホップは目を覚ます。上半身を起して、周りを見渡してみると、薄暗く、夜を連想させる。洞窟か、洞穴か、考えながら目を擦り、闇の中で瞳を慣れさせる。ゆっくりとなじんでいく視界に、黒とは違う色をとらえた。ハッカク・ノレンは、あちこち擦り傷だらけの体を壁に預けて、深く息をついた。
「落ちた先に、ドリュウズ達がほっていた穴があった」ばつの悪そうな顔で、ハッカクは片手に持った角材をぶんぶんと振り回した。「この角材、壊れなくてよかったよ」そう言って、力なく片腕を落とす。角材が地面に軽く打ちつけられて、乾いた木製の音が反響する。
「ここ、どこ?」
ニップは相も変わらず周りを確認するようにきょろきょろとしている。ハッカクは呼吸を整えながら、擦り傷だらけの体についた埃を払い、言葉を組み合わせて口に出す。
「どうやら、自然の落とし穴に落ちたみたいだね」
話を聞いていないことに少しだけハッカクは眉を顰めたが、それ以上話すことがなかったために、口を閉ざした。
深い帳が下りる前に、この穴から抜け出さなければ、そう思ってはいるが、どうやって?
問題の解けないなぞなぞをやっているような気分になり、不快感が鬱積する。登れば出られるという単純な問題ではない深さで、ニップは四足歩行のポケモン、登るにしては不便だった。そして、自分の身体を見やる、ひどい有様だった。しっかりとした食事もとらずに、体中が痩せこけて、老人のような有様だった。おしょうやアスパラと腕相撲をしたら、本気で負けそうなくらいだった。食事をとることもなく、ただただ薄ぼんやりとした時間を無意味に過ごしてきた自分が、妙に恥ずかしくなった。
「上ろうとしても、ここからじゃあ登れない。ニップはちょっと登りにくそうだろうしね」口を開くとそんなことばかり言う、彼の様子を見ながら、ニップは目を細めた。
(ここは、スポットじゃない)
ニップは自分の想像していた場所とは違う感覚に、安堵の息を漏らした。また同じような出来事が襲いかかり、今のハッカクの形がまた変わるのならば、自身の力で蘇生をさせることなど不可能だと思っていた。命を物のように扱う自分自身に対して、蓄積する困惑を隠せないまま、口元を不快の色に歪ませる。それを湾曲して見解したのか、ハッカクはため息をつく。
「上れない自分が嫌なのかい?やれやれ、自分のことしか頭にないのか」ハッカクの言葉を聞いて、ニップは知らないうちに怒気を含んだ声を出していたことに、気がつかなかった。
「おしゃべりな口も、閉口だ」
這いずるような低い声が聞こえて、ハッカクは一瞬だけ体を揺らし、目を見開いた。「……おしゃべりなのは、どの口だい。そっちの方こそ、閉口だよ」負けじと言葉に刺を含むハッカクの姿を見て、ニップはぎりぎりと歯を軋ませる。どうして彼を蘇生させてしまったのだろうか、そのまま死なせた方が、彼にとって幸せだったのではないのか、ニップの心には、少しの怒りと、大きな悲しみが降り積もっていた。
「君は、どうして君はいつも……他人に対して壁を作るんだ、どうしてみんなと協調する心を持たないんだ」
「そんなもの、何の意味もないからさ」ハッカクは鼻を鳴らした。「君が言ったことじゃないか、忘れたとは言わせないよ。僕たちのチームは『よせ鍋』と同じなんでしょ?」ニップは目を見開いた、自分の言葉が返ってきたようで、両前肢を強く握り込んだ。「何も返せないでしょ?当たり前だよね、自分の言葉だもんね」
ハッカクはそれを言ったきり、また黙り込む。
「……君は、それなら君は、どうして強調しようと思わないんだい」
かすかに絞り出した言葉も、さっきの言葉の反芻になってしまう。ニップは、知らないうちに涙が流れていた。ほほをつたうぬるい感触、顔を紅潮させて、嗚咽を漏らす。
「僕は……おしょうさんが無事なら、それでよかった」ハッカクは、静かにうつむいて、開口する。
「おしょうさんは、自分よりも、他人に気をかける性格だったから。もともとそんな性格だったけど。事件が起こってから、もしかしたらそれ以上にその性格が強くなったのかもしれない。昔と比べて引っ込み思案になったのも、自分が首を突っ込んだら、もしかしたらまた嫌なことが起こるんじゃないのかって。僕は、事件の全部を知っているわけじゃないけど、おしょうさんの世話をして、わかったんだ。恐いことや、やりたくないことを、自分から進んでやろうとするおしょうさんを見て、自分をいじめてるだけなんじゃないかって、でも、そうじゃなかった」
ハッカクは一呼吸おいて、ニップを見た。
「おしょうさんは、本当に他人のために自分ができることしているだけなんだって、どれだけ嫌でも、どれだけ抵抗があっても、他人のために頑張りたいって、そういう気持ちが強ければ強いほど、頑張れるんだって。僕は、そのせいでおしょうさんが無茶をするのが嫌だった。おしょうさんはせっかく治ったのに、また同じような目にあうんじゃないかって、思ってた。だから、僕はおしょうさんを守りたかった。このチームも、ニップの言う『よせ鍋』みたいなチームだったら、おしょうさん以外信じられるポケモンなんて、いないじゃないか。そうじゃないとしたら、僕は君たちを信じるには、時間が足りなさすぎるんだと思う。いろんな思いを抱えながら、君たちのリーダーとして動くおしょうさんをサポートするくらいしか、僕にはできなかった。それがいいことなのか悪いことなのか、僕には分からないけどね」
ハッカクはそれを言ったきり、また口を閉ざしてしまう。涙を拭いたニップは、ゆっくりと顔をあげて、ハッカクを見つめる。
「おしょうさん、泣いてたんだ。……君が食事の最中にいなくなったり、食事をしないことに対して、泣いてたんだよ。みんな気が付いているけど、言わなかったんだよ。君が食事を捨てたりしなければ、おしょうさんはあんな顔しなかったと思った。君の体がどんどん後退していくのを見て、おしょうさんは何も言えなかったんじゃないかな。君にどんなつらいことがあっても、絶対に迷惑がかかるからって、僕にそう言ってくれたんだ。その思いにこたえて上げずに、君はおしょうさんを、守ると言い切れるのかい」
ハッカクは、驚いていた。まるで自分の行動がすべて見られているような物言い、何もかもが当たっているような感覚に、喉の奥から苦いものがこみ上げてくる。
「君は間違ってないと思うけど、僕は、君の行動は間違っていると思う。自分の体を気にせずに、君は、他人を気にするほど余裕がないはずだからね。そうじゃないとしたら、他人のことしか見えない、馬鹿なポケモンだと思うけどね。そうじゃないなら、ちゃんと食事を取ってあげて、これ以上。おしょうさんを泣かせないで」
「それは――できない」ハッカクは、苦いものを吐き出すような声を、絞り出した。「食べられないんだ、食べようとすると、気持ち悪くなって、どうしてなのか、分からないんだ」
ニップはそれを聞いて、体を硬直させた。体が覚えているとでも言われているような感覚がして、知らないうちに汗が噴き出す。けして穴の中にいることで自分の体温が上がったわけでもなく、これは完全に冷や汗だった。体中が背筋から寒くなり、知らないうちに流れ出していた汗の粘着質な質感すらも感じられるほどの、脳の硬直。
(体が、覚えているんだ……)
ニップは、心臓を鷲掴みにされるような感触を覚えて、軽くえずいた。ゆっくりと首を横にふり、背中にくくりつけた包みに巻き付いた紐をほどいて、包みを開ける。
「……結び?」ハッカクは何か不思議なものを見たような顔をして、ニップが持っている御結びをしげしげと見つめている。「僕が握ったの、変な毛とかは入ってないから、大丈夫だよ」
ニップの言葉を聞いて、ハッカクは何となく理解はしたが、その食事に口をつけることを体が拒否していたために、首をゆっくりと横に振った。「僕はさっき言ったとおりさ、ニップが全部食べていいよ」ニップは、それを聞いて、首を横に振った。「君は、他人のことを考えすぎたあまり、君自身の考えで何かをすること自体が少なくなりすぎていたんだ」
ハッカクの瞳には、もう自分の意志という光が宿っていない。だからこそ、それを取り戻さなければいけないのだと、ニップは強く声を出した。
「君は優しすぎるんだ。そして、感受性が最も高いんだろう。だからこそ、他人の思考に自分の思考が塗り潰されて、あたかも自分の思考のようになってしまう。他人意識の強い、一種の病気のようなものにかかっているんだ。だから、他人が食べずに嘔吐していたりすると、自分の食欲も減退するような意識にかかる。おそらく君には、それと同じような状態になっているんだ」
ニップの声が強くなり、ハッカクの薄ぼんやりと濁った瞳に、光が入る。
「君は食べることがあまり好きじゃないんだろう。それゆえに、他人の食事風景になじめずに、食事をおいしいと感じることができないんだ。だから小鳥の餌ほどしか食べなくなってしまっている。だけど、旅に出る前の君は違った。ちゃんと三食をとり、毎日の生きる糧にしていたじゃないか。その時とっていた食事も、おいしいと感じることなく、ただの栄養と思っていたのかい?」
「それは」
ハッカクは言葉を濁らせる。食事はおいしいと感じたことがあったのかどうかすら、頭の片隅に残っているのかどうか、分からなくて。口をつぐんでしまう。
「そうじゃないから、君は食事をとっていたんだろう。栄養がとりたければ、そういう薬でも飲んでおけばいいだけだから、でも、君は食事をとることに、喜びを感じていたはずなんだ。恐れないで、御結びだけでもいい、食べて、食べることの大切さや、楽しさを思い出して、ハッカク・ノレン――」
ハッカクはしばらく沈黙していた。ニップを見つめて、何度も何度も瞬いた。体中が痛いはずなのに、力が宿るような感じがして、目の前に差し出された御結びを見つめて、口の中に唾液が溜まるのを感じた。
(――こんな感覚、久しぶりだ)
ハッカクはこみ上げるものを押さえながら、恐る恐る御結びを手に取る。体中が喜びの声を上げている。胃の腑からこみあげる何かを抑えきれずに。恐る恐る――申し訳ない程度にゆっくりと、御結びに齧りつく。
「――どう?」
ニップの声も、嫌悪感も、何もかもを感じない。体中が感じた、すべての答えが、口から出てきた。
「――美味しいや」
涙があふれて止まらなかった。どうしてこんな気持ちになったんだろう。なぜ食事を捨ててしまったんだろう、愚かな行為をする自分を恥じて、そんな自分を恥じる自分をもっと恥じた。そして、目の前の仲間を無碍に扱ったことを呪った。
「ごめん、ニップ――僕は、僕は――」
「いわなくてもわかってるよ。大丈夫。それを食べたら、ゆっくり休んで。目が覚める頃には。ここから抜け出せるから――」
ハッカクはただただ、食べることの喜びを思い出しながら、食事を夢中でとっている。体中に気力が湧いてきて、満腹感と眠気が一緒にやってくる。食事を終えて、しばらく経つと、ハッカクは瞳を閉じて、ゆっくりと穏やかな呼吸を始める。
「おやすみ、ハッカク。僕のこの姿は、見ちゃだめだからね――」
ニップはどこか含みのある笑いを漏らした。

10


真っ黒な場所で、七つの影がゆらゆら動いた。夜の暗さとはまるで違う。不吉のような色を醸し出す。ぬらりぬらりと動く七つの影から、音調の外れた奇妙な歌が聞こえる。
――♪すてきなスープ たっぷりみどり
    熱いお鍋で まってるよ♪
――♪だれが 飲まずに いられるかい♪
ざわざわと流れる不協和音の中、青白い炎が、深い闇の中の鍋を、グラグラと煮え立たせる。泡を吹いて零れることもなく、滑った光沢の液体の中に入った眼球が、浮き沈みを繰り返す。鼻をつくような異臭の中で、陽気な歌はどこまでも続く。
――♪夕げのスープ すてきなスープ
    夕げのスープ すてきなスープ♪
――♪す・すてきなス・スープ す・すてきなス・スープ
    ゆ・夕げのス・スープ♪
――♪すてきなすてきなスープだよ♪
音程の外れた音が喧しいのか、一つの影は億劫そうにもぞもぞと動く。もう一つのは影は、ゆっくりと動きながら、何やらため息をついている。陽気な調子の外れた歌を聴くたびに、憂鬱な気分になっているのかもしれない。
――♪すてきなスープ おかずはいらない
    肉も魚も いるものか
これ一ぱいで ことたりる♪
――♪すてきなスープが二円ぽっち
    すてきなスープが一円ぽっち♪
――♪す・すてきなス・スープ
    す・すてきなス・スープ
     ゆ・ゆうげのス・スープ♪
――♪すてきなすてきなスープ!
狂った不協和音の中で、スプーンがゆっくりと、眼球をすくい上げる。ぬるりとした液体を少しだけ口に入れながら、一つの影がゆっくりと頷いた。
「すごいすごい。薪のスポットが、知らないうちにボロボロになってるよ。誰だろうね、やったのは――」
「僕たちの預かり知らない場所で、何かが起こっているって感じがするんじゃないの?」
「直観的なものなら、彼女の方が力は上ですものね。でもどうでしょう?スポットはあと六つ。これ以上攻略されたら、大変なことになりません?」
「そのために、『眼』が移す。僕たちの敵を、映し出す」
「ここ数百年、準備のために忙しかったからかな、どうもそのあたりに気が回らないというかなんというか」
「運命というやつですね。なぜだかわからないけれども、不思議な巡り合わせの運命がします」
「まぁいいや、すてきなスープ。僕たちの敵を、映し出せ」
陽気な声が弾んで、もう一度眼球がぬめりの中に沈む。ぼんやりとした暗闇に、映写機のように六つの影が映し出される。
「六つ、でかい、小さい。ごつごつだったり、ふわふわだったり」
「これが、グルメッカを目指す者たち」
「まぁ、気配をたどればわかるさ――」
どうせ、全員殺しちゃうし。と、声に出し、影が蠢いて、また調子外れの陽気な歌を、歌い出す――
――♪す・すてきなス・スープ
    す・すてきなス・スープ
     ゆ・ゆうげのス・スープ♪
――すてきなすてきなスープ!
&ref(小説版挿絵3.jpg);
----
[[グルメッカ-旅の町の思い出で章-]]に続く
----
- ラストは何~~~~~!?!?
ウロ氏特有の表現方法や技法ですか?
詳しい説明をplease!!
ハッカクの身にこれが本当に起きているとすると大惨事+グロですよ。
グロちゅうい
――[[名無し]] &new{2011-03-10 (木) 00:54:04};
- >名無しさん
すみません、これはグロには入らないなーと勝手に判断して、ぐろくないと思って注意書きを載せませんでした;;
私の失態です。申し訳ありませんでしたorz
コメントありがとうございまいたorz
――[[ウロ]] &new{2011-03-10 (木) 01:29:15};
- "ぼくのいのち......いっこあげるね"ってニップはかなりなぞのキャラですね。
でも猫は魂を複数もつと言いますし、それですか?
ニップ強す!挿絵では汗かいてハッカクにネエネエしてたのに...
――[[名無し]] &new{2011-03-11 (金) 01:12:39};
- >名無しさん
猫は魂を複数持つという話は聞いたことがありませんね。なるほど、そんな解釈もあるんですね。そういう考え方は思いつきませんでしたw
ニップは謎のキャラだという位置づけですか、確かに謎に溢れすぎて複線回収できるかどうかすら私は怪しいですね;;頑張りたいと思います。
ニップの正体はいろいろありますが、いろいろ考えてみると面白いですよw
謎に満ち溢れた影のあるキャラクターというのは楽しいです。描き切れるかどうかは微妙です。がんばります。
コメントありがとうございました。
――[[ウロ]] &new{2011-03-21 (月) 10:56:15};
- "くずおれた"?「崩れた」ではなく?
「崩れた」+「折れた」ですかね。
どうやらハッカクは記憶が曖昧になっているようですね。
他のみんなの活躍を期待します。
――[[名無し]] &new{2011-03-21 (月) 15:58:41};
- こんばんは。

仲間同士の今にも切れそうな絆の糸、漂う謎……
最初に想像していたような明るめの雰囲気は僕の中で消えてしまいましたが、この緊張状態が僕を続きを気にさせて離してくれませんw

ニップのキャラがすごくいい味をだしています。
余談になりますが、「猫は9つの魂を持つ」というのは意外と知られていないものなのでしょうか;
そこからとったものかと思いましたが……

それから、僕が言うことではないかもしれませんが、↑の名無しさん、
‘くずおれる’とは漢字で‘頽れる’とも書いて、気が抜けてその場に座り込んだりするときなどに使われる表現です。
僕もたびたび使いますし。

長文になってしまいましたが、これからも執筆がんばって下さい。
応援しています。では。
――[[コミカル]] &new{2011-03-24 (木) 22:00:19};
- そういう意味だったんですね。
トリガラとガーリック、サザンドラとエルフーン.....種族を越えた愛?
ひとつの縺れは解れましたね。残りも解かして紡いでいきましょう!
おしょうはもっと自信を持つべき。頑張れ!
――[[名無し]] &new{2011-03-27 (日) 01:33:36};
- >名無しさん
くずおれたというのは正しい表現ですが、ちょっとわかりにくかった感もありましたね。申し訳ありませんでした。もっと皆さんが楽しくわかりやすく見れるようなお話を目指して精進いたします。
コメントありがとうございましたorz

>コミカルさん
初めて会った人に対しては、やはりどうもよそよそしくなるだろうと思いまして、そのぎこちない感じを出してみました。その漢字を読んで感じていただけたら嬉しいです。なるほど、猫は九つの魂を持つのですか、こわいですね;;豆知識ありがとうございます。
コメントありがとうございましたorz

>名無しさん
種族を超えた愛情とはいろいろな考え方がありますね、もしかしたらトリガラ地震波本当に見ているという約束の証なのか、それとも――
いろいろ考えてい見ると楽しいかもしれません。
コメントありがとうございましたorz
――[[ウロ]] &new{2011-03-29 (火) 23:38:24};
- 元名無しです。
また一つ綻びが解けましたね。これで糸は二本でおしょうとハッカクで三本目。
見られたくない姿とは?  ポケモンカードのチョロネコみたいな感じ?
――[[ナナシ]] &new{2011-04-12 (火) 10:28:24};
- わかってきた。なにかが繋がった感じだ。が、それがなにだかはわからない。つまり、よくわからない。というか泣いた。おしょうさん愛してる。おしょうさんかわいい。泣いた。濡れた。脳味噌が吹き飛んだ
――[[漫画家]] &new{2011-04-12 (火) 23:21:31};
- >ナナシさん
綻びは解けても、また綻ぶかもしれませんね。もしかしたら、そういう暗示をかけているのかもしれません。どのような転び方をしても、おしょうさんたちには後悔のないように頑張ってもらうしかありませんね。
コメントありがとうございましたorz

>漫画家さん
何がつながったかは個人個人の見解がございます、私はまだまだつながりも断ち切りも見えない場所に、彼らはいると思いました。おしょうさん愛されすぎてちょっとびっくりです。なんかありがとうございます。でも脳味噌吹き飛んじゃだめですw
コメントありがとうございましたorz
――[[ウロ]] &new{2011-04-27 (水) 23:05:59};
- ワオ! 敵の登場? 王道?
わからないことが多いですがこれも伏線な訳ですよね? 
歌を歌いながら何を煮込んでるんだ?! 目玉って! 六つも...
挿し絵が新たに追加され、頭の中で想像しやすくなりました。でも今後の展開が全く読めません。凄い!(色々な意味で)
――[[ナナシ]] &new{2011-04-28 (木) 00:21:35};
- これは敵ですか?
今後の展開も読めずワクワクします。
続き期待してます。
――[[R]] &new{2011-04-28 (木) 23:51:08};
- どうも初めてコメントをさせていただきますたくあんと申します。
独特な雰囲気でとても引き込まれます!これからも是非執筆頑張って下さい!
それと最後の歌は谷山さんのあの歌ですね?w僕も谷山さんの歌は好きなんで少しびっくりしましたw
――[[たくあん]] &new{2011-05-11 (水) 02:58:36};
- >ナナシさん
ワーオ!そう思っていただければ作者としては大成功かもしれません、親玉なのか下っ端なのか、影からもういろんな意味でのネタ集が漂っていますが、もう突っ込みを入れるのも疲れるよ、だめだこの作者、早く何とかしないと(ryみたいに思っていただいてもかまいません、あまりにもメジャーなポケモンたちなのでこの先の進行具合によってはブーイングくらいそうですけど(汗)私はそういうイレギュラーな方向に突っ走る傾向がございます、もう諦めてください(何を(ry)
>歌を歌いながら
そりゃもうナニを煮込んでございます。まぁこの辺の行動は不可解で意味不明で理解不能なシーンなので深くは突っ込まずにさらりと横流しスルーしていただいたらいいと思います。そうしていただいても続きに何か読みづらいとかそういうことはございませんのでスルー推奨かもしれませんね、最後の謎のシーン。そもそも私の小説そこまで深くもないし面白くもない(ryおおっと誰か来たようだ。
挿絵の追加で頭の中が活性化したのなら作者としては大成功です。なんか手抜き臭が漂ってるかもしれませんけど挿絵なんてただの添え物でしかございませんので、本質は小説、文字を見てね、みたいな勢いです、挿絵が綺麗でも中身がすかすかだったら意味がありませんしね、私のは挿絵も中身もすっかすかですが(苦笑)それでも楽しめるような努力は惜しみません、コメントしていただいている方々や、楽しいといっていただいている以上、書き続けることに意義があると感じます。それがほんとかどうかは私にもわかりませんが(ry
今後の展開が読まれたら私が小説を書く意味がなくなっちゃいますので、未来予知はしないでいただければ;;そしてたとえわかっても決して口に出さないでくださいませ。私は未来予知されたら恥ずかしくて死んじゃいます。心の中で想像したり先読みしていただいたりして楽しんでください;;
コメントありがとうございましたorz

>Rさん
>これは敵ですか?
いいえ、下っ端です(ryその辺の想像はもう読者のさんが個別個別に想像していただければと思います。もしかしたら味方かもしれません、うーん、私はこんなおっかない味方入りませんが(ry
今後の展開は名無しさんのコメントで返した通り、心の中で想像してお楽しみいただければ幸いです。私もそこまで今後の展開とか考えているわけではございませんので、いつも行き当たりばったりな世界をのらりくらりと右往左往しております。こういうふ幽霊みたいな思考の海の中でいろんな思いが錯綜してこの小説は進んでいます、いきなり変な方向に走ってもまぁそれは私の思考ですので、突っ込まないで頂ければ(ry
続きを期待という言葉にこたえられるように、精進いたします、期待通りにいくかどうかは正直わかりませんが、がんばって自分なりの世界を展開していきたいと思います。それがキャラクターを提供していただいた作者の皆様に対しての礼儀でもありますし、そしてそれで楽しんでいただいた読者のみなさんに対してのお返しでもあると思います。何が言いたいかというと頑張ります(笑)
コメントありがとうございましたorz

>たくあんさん
初めてコメントさせていただいたのが私なんてもったいない気はしますが、ありがとうございます。独特な雰囲気を展開しているのかどうかは私自身よくわかりません、結構参考にし小説や、表現方法なんかはいろいろ潜伏してらっしゃいますので、それから伸ばしたり広げたりしているために、それが独特の雰囲気を醸し出しているのか私自身もちょっと不安になりますが、そういっていただければ嬉しい限りでございます。こんな描き方で片っ苦しかったり変だったり文法表現が間違っていたりやたら誤字脱字が多かったりしますが、添削はしています;;でも見つけたら指摘していただいたらいいかなーなんて思ってたりします。これからも執筆頑張りたいです、モチベーションの続く限り。
>最後の歌
知っている人しか知らない歌ですが、まぁ多分好きな人にわかるフレーズだとは思います、私は好きです、谷山さん。綺麗な声してますし、リズムもテンポも美しいし(ry
まぁ唄の話はさておいて、確かにその通りでございます。何となく合いそうだったのでちょっと拝借させていただきましたが、うーん、しょっぱい気分になりそうですが、まぁその辺は二次創作なので寛容な瞳で見ていただければいいかなーとは思っています。二次創作だからなんて言ってしまえば悲しいですが;;
びっくりはこっちもしましたね、まぁ有名な方なので絶対誰か知っているとは思っていましたが、やっぱりそういう小ネタを見つけていただいたらちょっとほくそ笑んでいただければ嬉しいですね(笑)まぁ私の趣味がばれそうな気はしますが(ryキニシナーイ
コメントありがとうございましたorz
――[[ウロ]] &new{2011-05-11 (水) 13:44:46};
- こんばんは。前回読んだときからだいぶ空いてしまいましたが、移動中にケータイで読ませていただいたのでコメントさせていただきます。
前回の部分からこの章の1までという、なんとも中途半端なところまで読んだのですが、いよいよ主要キャラが集合しましたね。
体格も考え方もそれぞれ大きく異なる個性あふれた面子が揃って、これからどんな冒険が繰り広げられるのかとワクワクさせられました。
キャラが全体的に明るいかというとそうではないと思うのですが、ウロさん独特の童話っぽい(?)雰囲気といいますか、内容自体明るいものでなくとも、どこか明るく感じさせる雰囲気があったので読みやすかったです。
確かウロさんは童話とかもお好きだったと思うので、それが影響してるのかもしれませんね。緊迫感や重い空気も時には必要ですが、鬱なものよりはこのような雰囲気のほうが触りやすく、ウロさん(というかグルメッカ?)独特の読みやすい雰囲気という名の味はコクがありながらもまろやかなものでした(意味不明)さすがはウロさんです!

私が読んだところまでで気になったのは、ニップの過去と、このお話のタイトルともなっている“グルメッカ”という単語が出たことろでしょうか。
ニップの性格はちらっとお話した過去で十分説明がついてると思いますし、決して深く切りこんだものではなくとも、程よい切りこみ具合で周囲のキャラと共にニップというキャラの心情と性格(特徴)を読者に教えていて、ここもまた内容を理解しやすい読みやすいものになっていると思いました。
一方のグルメッカについては私が読んだところまでではまだほとんど何も明かされていませんでしたが、やはりタイトルになるだけあって今後非常に重要な要素としてハッカクたちに関わってくるのだと思います。
適度な情報公開や、鬱に感じさせない明るめの雰囲気、重要な要素は謎のキャラと共に出すことで読者の注意をより強く引く。
読者のことをとてもよく考えておられるのが伝わりましたし、まるで読者を導くようになっていて、私もウロさんのように自分の感じさせたいことを読者の方にきちんと感じさせることができるお話が書きたいなと思いました。このようになんと言いますか、全体的にまとまった感じのお話が書けるウロさんは素晴らしいですね!

読むところからコメントまで、ずいぶんと中途半端な感じではありますが今回はこれで。また移動中などに時間を取って読み、なんとか最新話まで追いつけたらと思います。
これからも応援しています。執筆頑張ってください!
――[[クロス]] &new{2011-06-14 (火) 22:00:04};
- >クロスさん
前回に引き続いて、読んでいただき誠にありがとうございます。主要キャラクターが集合するということは物語が動き始めた。と解釈していただいても構いません。というよりも動かなければ面白みがない物語で終わってしまいますねw
体格も考え方もそれぞれ違うポケモン達、いろいろ考えていたりするのももしかしたら、とは思いますが、実はあまり嗜好がバラバラじゃなかったりします。結構指摘されたことなんですけどねwでもクロスさんほどの作者さんに違う、って言われたらちょっとうれしいです、舞い上がりそうです。独特の童話っぽい雰囲気ですか、童話なのかどうかは知りませんが、三人称の練習も兼ねて、なるべく鬱陶しそうな部分は省きながらすっぱりと書いているので、どうなのでしょうか、童話っぽく見えるのは省けてないからかなぁwうーん、童話は好きなので影響のようなものを受けているのかもしれません。あとは私が個人的に、鬱話がそこまで好きじゃない、というのがあります、シリアスに無理やりギャグを突っ込みたくなるような性分ですのでそれの成果も、もし空気が微妙になってしまいましたら申し訳ないorzそのあたりは作者の力量不足ということです。しょうがないね、初心者だもの。
グルメッカ、この物語のタイトルにもなっていますが、どっちかというと言葉自体はそこまで重要じゃないかもしれません。なんて言いますが、正直私もどこまでが重要な部分を書いているのかわからないのでするorzあとはニップの性格ですねwこれは作者自身が決めてないのかもしれません。というよりも、作者が決めてもどうせ執筆したら知らないうちにかわるんじゃないかなーって思ってます。こういうの適当ですみませんorz
適度な情報公開とか明るめの雰囲気とかクロスさんに褒められて明日病気になるんじゃないかと疑っちゃうくらいうれしいです。
わざわざお忙しい中時間を割いていただいて私の小説を読んでいただき、誠にありがとうございますorzマイペースに執筆を頑張らせていただきますorz
コメントありがとうございました。クロスさんも執筆頑張ってくださいorz
――[[ウロ]] &new{2011-06-16 (木) 12:50:36};
- こんにちは。前回読んだ部分から5番まで読んだのでコメントさせていただきます。ちょこちょこケータイで読んだものをコメントするが故に、煩雑なものになってしまうことをお許しください。
前回読んだところから今回のところまでで特に印象に残ったのは、なんと言ってもミステリアスな場においてハッカクが一度死んだ(死にかけた?)ところですね。あの場所のどんよりとした空気の重さと、甘ったるい臭いが文字から実際に感覚に働きかけられているかのようで、ハッカクやニップ同様の感覚が感じられるほどでした。
この展開は今まで読んだ部分とは一転して非常にシリアスと言いますか、恐怖感溢れるシーンとなっていて、移動中ケータイで読みながら思わず冷や汗をかいてしまったほどです(笑)
ハッカクが何者かによってバラバラになるシーンもインパクトが強く、個人的にグロテスクな描写は苦手なのですが、ニップが感じたように私も吐き気がするほどに臭いや目の前の惨劇が映像として映るようで、この辺りのリアリティ溢れるものはウロさんの丁寧な描写こそのテイストだと思います。素晴らしい限りです。

そしてニップがハッカクを助けるシーンについては、六道輪廻や「猫は魂が複数ある」という難しい表現が使われていましたが、これはおそらくすべて実際にあるものや言われていることを表現しているのですよね?
この辺の知識は調べなければ容易にわかることではないでしょうし、ウロさんが小説を書く上で一見使えそうになくともあらゆる知識を学び(調べ)、生かした結果による描写だと思います。
小説を書く上で多くの知識が必要なことは存じておりますが、つい調査を怠ってしまう私にしてみればこと細かく調べたり、もしくは事前に知識として持っていたというのはすごいと言うよりありません。
余談ですが、ニップがハッカクを助ける際に口づけする様子は深い愛を感じました。ニップという存在がますます魅力的に感じられ好きになりましたし、これからどんな活躍を見せてくれるのだろうと今から楽しみです。

では、まとまらない意味不明なコメントになってしまいましたが、これからも執筆頑張ってください!応援しています。
――[[クロス]] &new{2011-09-05 (月) 17:59:19};
- >クロスさん
 コメントありがとうございます。読んでいただけてうれしいです。
 グロチックなものが苦手な人も少なからず存在します。それでもその場面が印象に残ったのは何とも嬉しい限りでございます。個人的にはそんなにエグイ描写をしたつもりはなかったんですが、大惨事でしたね、ごめんなさいorz
 惨劇が映像に残るほどの印象をもたれるのは作者としてはうれしい限りです。細やかな描写はあまりしません、そんなことしたら気持ち悪いですしねwwですが、あまり省くということもいたしません、故に非常に微妙なテイストになっているのは許してくださいませw
 ニップがハッカクを助けたときになぜ変な行動をとったのか、それはまた後日のお話で明らかになるでしょう。ニップは変に謎が深いですが。そこもまた愛していただければと思います。ありがとうございました。クロスさんも執筆頑張ってくださいませー
――[[ウロ]] &new{2011-09-07 (水) 12:20:59};
- こんばんは。グルメッカ8番まで読ませていただきました。
各キャラクターの悩み苦しむ様子は、過去の影響もあることから物語の濃さが感じられました。私が読んだ部分まででは明かされてないものも多いのですが、それぞれの過去があることを匂わせる部分がいくつもありましたし、逆にそれが今後どのような影響を及ぼすのか。楽しみになってくる部分がいっぱいでした。
特に気になったのは、トリガラとガーリックのやり取りでしょうか。暗い雰囲気が漂っていましたが、最後にはキスして2人が共に明るくあろうとするシーンは思わずほっとしてしまうほどでした。
ニップとハッカクについてはまだ何とも険悪なムードが続いているので、今後どうなっていくのか期待したいと思います。
では、これからも執筆頑張ってください。応援しています!
――[[クロス]] &new{2011-11-12 (土) 18:48:30};
- >クロスさん
 読んでいただきありがとうございます。心よりの感謝を申し上げますね。なんかトリガラがキス魔みたいなイメージがありそうですが。子供の心を刺激するのはいつだって、お茶目な子供の心っていうわけで逆悪戯心的なものを目指してみたんですが微妙でした。
 私の群像劇は悩んで苦しんでなんぼですからね、もがいて足掻いてださいくらいに喚いてそれでつかんだものを離さない。泥臭く戦って卑怯な手にあっさり負けちゃう。そういうのが入るかも知れません。それはどういう状況でどのように行われるのか、その辺も考慮しながら描いていきたいと思います。
 ニップとハッカクは元から馬が合わないのかもしれませんね。心のどこかではきっとどちらも自分の悪さを知って、それでいて自分よりも相手のほうが悪いんだと思っているのかもしれません。言葉よりも何よりも、行動で険悪なムードをかもしているのかもしれませんねぇ……
 コメントありがとうございました。これからも執筆頑張ります。頑張れる程度に。
――[[ウロ]] &new{2011-11-25 (金) 03:15:58};

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IP:180.11.127.121 TIME:"2012-11-23 (金) 16:45:02" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%83%A1%E3%83%83%E3%82%AB-%E3%81%8D%E3%81%A1%E3%82%93%E3%81%A8%E6%AE%8B%E3%81%95%E3%81%9A%E9%A3%9F%E3%81%B9%E3%81%BE%E7%AB%A0-" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 9.0; Windows NT 6.1; WOW64; Trident/5.0)"

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