むかしむかし。ある年のクリスマスの事。 プレゼントを配り終えたサンタのおじいさんは、雪の上に倒れているリオルを見つけました。 手足は冷え切って、体は縮こまり、息も絶え絶えに震えているのを可哀想に思って、おじいさんはソリに乗せて小屋へ連れ帰ることにしました。 暖かい食事と寝床、おじいさんの優しさの中でリオルの具合は段々良くなりましたが、もう帰る場所はありません。 なんでもするから置いてくれと頼みこみ、炊事から洗濯掃除、身の回りのことを全部こなすようになりました。 それから幾度か過ぎた冬の季節、クリスマス前日の夕暮れ時。ソリの手入れをしている最中におじいさんは足を滑らせて腰を打ってしまいました。 これではソリを繰ることが出来ません。今年は配りにはいけない、待っている人の期待に応えられないと落ち込むおじいさんを元気づけてあげたい、拾ってくれた恩返しがしたいと思ったリオルは、それなら自分がクリスマスプレゼントを配りに行くと言い出しました。 夜道は暗いし風は冷たい、それに一匹では不安だとおじいさんは心配になりましたが、どうしてもと強くせがむので、行かせてやることにしました。 何度も何度も大丈夫かと確認されてはその度に大丈夫だよと笑い、サンタのトレードマークの赤い帽子をぎゅっと被り、プレゼントで膨れた大きな袋をひょいと背負って、リオルは元気よく飛び出していきました。 外は雪が積もって天気もぐずついていましたが、全然へっちゃらです。野を越え山を越え、軽やかに駆け抜けてプレゼントを配っていきます。町に住む女の子にはミミロルのぬいぐるみを、山に住む男の子には虫取り網を、氷のように冷え切った夫婦には初めて出会った場所に咲いていた花を。 届けた先の人々に感謝されると、まあるくあたたかいはどうを感じます。リオルはそれが嬉しくて、なんだか元気が湧いてくるのでした。 ある一軒の家に届けたとき、プレゼント開けて笑いあっている家庭の様子を見て、そういえば最近のおじいさんが笑っているところをみていないと、リオルは足を止めました。体の節々が痛むからとサンタの集会にも足を運ばなくなり、この時期以外は変わり映えのない日々を過ごしています。 ふと、リオルの頭をプレゼントをあげたらおじいさんも喜んでくれるかもしれないという考えがよぎりました。袋に残る箱にそっと手をかけ、絶対に中を開けてはならないと厳しく言いつけられていた言葉を思い出し、ハッと我に返りました。ダメだダメだ、これは待っている人の元へ届けなくちゃいけないものだと頭を振って、しっかりと袋を背負って雪のちらつきだした道を走っていくのでした。 最後の一軒にたどり着くと、明かりが点っていませんでした。 留守にしているのかなと思いつつドアをトントンと叩くと、中からみすぼらしい老婆が出てきました。プレゼントの小包を渡すと、老婆はしわくちゃの顔にもっとしわを寄せ泣くのでした。 「そうですか、主人はとうとう戻りませんでしたか。その知らせだけでもありがたいことです。私はもう、待たなくていいのだとわかりましたから……」 そう言って、老婆は袋の中身を取り出しました。それは焦げてチリチリになった赤いマフラーと、若い恋人達がにこやかに微笑んでいる写真でした。リオルは老婆から隠そうとしても漏れ出すかなしみのはどうを感じ取ってしまい、ポロポロ涙がこぼれてしまうのでした。 「私を想って泣いてくれるのね、ありがとう優しいサンタさん。よかったら持っておいきなさい。主人が好きだったものだけれど、あなたにあげるわ」 老婆にシュトレン((クリスマスの時期に食べる、ドライフルーツのたくさん入ったパンのこと。))を貰って、なんとも言えない気持ちで、リオルは家を後にするのでした。 橋のあたりまできてからシュトレンを半分にして、もう半分はおじいさんの為にと袋へ戻し、一口齧ってみました。熟成したフルーツのおいしさが染み込んで、口いっぱいに広がります。美味しくてついついがっついてしまい、あっという間に食べてしまいました。 さて帰ろうと橋を渡っていると、欄干にくったりと座り込んでいるプラスルとマイナンがいました。とげとげしくてくろいはどうを感じます。お腹を空かせているのでしょう、手元に積もった雪を齧ったらしい跡が残っています。 リオルは二匹に昔の自分の姿を重ねたのか、おじいさんのために取っておいたシュトレンを何も言わす二匹に渡すと、足早に走っていくのでした。奇跡をありがとうサンタさん、と叫ぶ二匹の感謝を受け取ることもなく。 結局、何もおじいさんにはあげられないや。プレゼントが無くなってくったりした袋と同じくらいしょぼくれているリオルは走る元気もなく、とぼとぼよろよろと、小屋までの道を歩いていました。ようやく見えてきた小屋のなじみ深い灯りに安堵しつつ扉を開けると、おじいさんが待っていてくれました。ぎゅうっとリオルを抱きしめて、よくやったと頭を撫でて褒めるのでした。 リオルは嬉しくって、しっぽをパタパタと振り、おじいさんの用意してくれたごちそうを食べながら、あのねあのねと起きたことを話して聞かせるのでした。 きょうのおはなしは、これでおしまい