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カラタチトリックルーム豊穣編短編 の変更点


[[狸吉]]作[[からたち島の恋のうた・豊穣編短編>狸吉#a7609cae]]用の自己パロコーナーです。
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#contents
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*『[[寸劇の奈落]]』トリックルーム [#ofc64544]
**『誰が彼を殺したか』 [#b28ee08c]

「……ごめん、レイリー」

 その小さく掠れて消えそうな囁きは、醤が焼けるけたたましい響きの中でもはっきりと聞こえた。
 何故なら、その声は私の頭のすぐ後ろから囁かれたものだったから。

「本当にごめん。絶対にもう、あんな酷いことはしないって約束するよ…………ごめんなさい」

 言葉の度に、吐息が耳にかかる。
 それぐらいすぐ後ろに、夫は立っていた。
 即ち、私が背中のトゲを逆立てれば、柔らかなお腹を串刺しにしてしまえる、そんな位置に。
 そこに立つ事が、夫の謝意の証なのだろう。
 
 いいわ。だったら串刺しにしてあげる。
 ただし、背中のトゲなんか刺してあげない。刺すのは……

 火を止め、出来上がった山菜炒めを菜箸で一つまみ。
 フ~フ~と吐息をかけて冷ますと、私は振り向きもせず肩越しに夫に差し出した。

 グサッ…………



「……つまり、暴行を受けた仕返しに、旦那さんの鼻の穴に菜箸を突き刺して殺した、と」
「違います! 事故だったんですぅぅぅ~~~~!!」

 薄暗い取調室に、悲痛な叫びがこだました。

**『誰が彼女を殺したか』 [#v0f342fd]

 いいわ。だったら串刺しにしてあげる。
 ただし、背中のトゲなんか刺してあげない。刺すのは……

 火を止め、出来上がった山菜炒めを菜箸で一つまみ。
 フ~フ~と吐息をかけて冷ますと、私は振り向きもせず肩越しに夫に差し出した。
 菜箸が軽く揺れた後、咀嚼する音が続き、そして。

「うん。とっても美味しいよ。レイ――――」

 夫の口が閉じるよりも早く、私はすかさず身を翻して振り返り顔を寄せて。
 その唇を舌で貫き、

 ガブッ…………



「……それで、浮気をされた腹癒せに、奥さんの舌を噛み切って殺した、と」
「違うっ! 事故だったんだよぉぉぉ~~~~!!」

 薄暗い取調室に、悲痛な叫びがこだました。

**『ニド腐妻』 [#w9bbbcc0]

 暗い部屋の奥で絡みあう二つの影。
 交わされあう囁きが、覗いている私の耳を打つ。
 だがその囁きの内容など、私にはどうでもいいことだった。
 そこでそうしているのが、私の最愛の夫と、かつて愛を結んだ初恋の雄だということ。
 私にとって重要なことは、それだけで十分なのだ。

 やがて切ない雄叫びとともに、グラフさんが夫の洞に愛の絵を描き終える。
 しっかりと抱き合って蜜月のひと時を分かち合うふたり。
 その姿を目に焼き付けて、私はふたりに気付かれないようにそっとその場を後にした。



 数日後。

「何書いてるの? レイリー」
「きゃっ」

 背後から首を伸ばした夫の視線から、私は大慌てで書いていた〝それ〟を覆い隠した。

「だ、駄目だめ、見ちゃ駄目」
「え~、何々、見せてよぅ」
「駄目だってば、あの、これはね、先生への手紙なの。見られたくないこととか書いてあるから……」
「あ、ひょっとして仔供宛てに? だったら尚更見たいよ。君の仔供だったら僕の仔も同じだろ」
「…………」

 フフフ、本当は『グラフさんの仔供だったら……』なんでしょ。知ってるわよ。
 けれど私はそうは言わず、しっかりと〝それ〟を隠したまま夫に答えた。

「ごめんなさい。どうしても見せたくないの。あなたがあの仔の本当の父親でも駄目」
「……そっか。グラフでも駄目なことなら、僕が見るわけには行かないな」

 諦めた夫が書斎を出て行ったので、私は安堵の息を吐いて身を起こした。
 
 本当にごめんなさいね、あなた。
 これだけは、あなたにもグラフさんにも、見せるわけには行かないもの。

 懐に隠していた、その紙に私が書いていたもの。
 優雅に咲き誇る花々を背景に、美しきドーブルの愛の筆に染められていく逞しきニドキング。
 私が愛する雄たちの、それは絵姿だった。

 こんな美味しいシチュエーション、&ruby(ふじょし){腐雌仔};としてネタにしないでいられようか?
 薔薇コミ変態選手権の締め切りまで後わずか。何としても間に合わせるのだ。 
 ふたりへの愛を筆に込めたこの作品なら、優勝だって夢ではない!! フフフフフフ…………

**『奈落のFossil』 [#q61b6809]
((『Roots of Fossil』とのダブルパロディネタ。))
 私はこの研究所で生まれたニドランの雌だ。
 何でも、太古の地層((一体ここは何年後の超未来なのかは作者にすら不明。飛翔編どころの騒ぎではない。))で発掘されたポケモンのトゲの化石((そんなものはないw))に残されていた遺伝子を復元とかして生まれたのが私、ということらしい。
 そのせい、なのだろうか? 時々知る筈のないどこかの島の夢を見る。
 その夢の中で私は情熱的な恋に心を燃やして、その恋心を激しくぶつけ合ってそして、死んでいった。
 恋ポケである雄のニドランも私同様化石から復元したポケモンで、やはり彼も同じような夢を見るという。
 しかもその夢の中で、私と彼とは夫婦同士だったらしい。
 仲のいい夫婦だったのに、浮気心とすれ違いが重なって、私が彼と無理心中するような事態にまで陥ってしまった。
 あれが私たちの前世だと言うのなら、もう2度と同じ過ちを犯さぬよう、ふたりの愛を育んで行きたいと思う。
 
「メイクこれでいいかしら?」
「フフ、お化粧しなくたって十分可愛いのに」
「ありがと。でも新入りさんと会うんだもの。印象を良くしておかなくっちゃ」

 そう。今日は博士が新入りのポケモンを連れてくることになっていたのだ。
 しっかりと身支度を整え、私たちは博士の待つ部屋へと向かった。



 ――勿論、その新入りさんは私たちと同じ場所で見つかった筆の化石((そんなものはないってばw))を復元したドーブルで。
 そして数日後。

 悲劇は、繰り返されたのだった。

*『[[溶けるビター・チョコレート]]』トリックルーム [#l7c215d3]
**『首を長くして』 [#ta0f3ea4]

「お子さんたちは、トレーナーさんとの修行期間を終えたら島に戻る約束だそうだから、多分じきに合えるよ。楽しみだなぁ」
「じきって何時頃でやすかね」
「えっと……『[[永久の想いのバトンタッチ>永久の想いのバトンタッチ~第01話・卒業バトル~]]』が冬の初めの話で、今がバレンタインって言うことは……少なくとも次の冬以降、かぁ……」
「リアルにそうなりそうで怖いな……」

*『[[秘めし感情]]』トリックルーム [#ze207999]
**『そういうものなの?』 [#k77448f7]

「ようこそお越しくださりました時雨様。ごゆっくりおくつろぎください」
 礼儀正しくぺこり、とお辞儀をしたその姿に、俺は思わず硬直せざるを得なかった。
 黒いシックなワンピースにヒラヒラフリルの白いエプロン、そしてエプロンとお揃いのフリル付きカチューシャ。
 見事にテンプレートに沿ったメイドスタイルの、それはキルリアだった。
「どうだ僕のナスカは! めちゃくちゃ可愛いだろーー!!」
 喜々満面に自慢するキルリアのトレーナー、晴彦の様子に思わず、
『お前はキルリアにこういう格好をさせて奉仕させるのが趣味なのかーーっ!?』
 と突っ込みたくなったが、どうやら本気で彼女の姿に萌えているようなので、触らぬ神に祟りなし、と黙っておいた。
 そして晴彦に呆れるあまり、俺の隣で陶然とナスカに見とれていた我がゲンガーのモリオンの様子にも、俺は気が付けなかった。

 ■

「あの時にさぁ……」
 月日は流れ……
 色々とあって、モリオンとナスカの娘、サージェナイトの育て屋行きを決めた日の夜、俺はカクレオンのアレキサンドライト相手に管を巻いていた。
「晴彦に一言言っておけば……モリオンの想いにも気付いてやっていれば……あんな事にはならなかったのかなぁ……」
「もういいじゃないですか。後悔をどれだけ重ねたってどうなるものでもありませんよ……って言うか」
 優しく俺を慰めていたアレキサンドライトが、不意に語気を荒め出した。
「そう言う先生だって同じようにジェナ姉さんにメイド服着せて喜んでいたじゃないですか! 他人のこと言えるんですかアンタ!? いや実際あれは可愛かったけど!!」
「何を言うか!? 俺はサージェナイトがサーナイトに進化してからしかそう言うことは一切させていないぞ! サーナイトはいいんだよ大人なんだから! 俺は正常だ!!」

*『[[僕のスペシャルタネ]]』トリックルーム [#q7a4b3fb]
**メイキング [#lbe60b11]

「ぷら~ん」
「……狸吉さん、何をやっているんですかあんた!?」
 第六回短編小説大会の開催が発表された、その翌日。
 ブイゼルの泳流が見たものは、天井から伸びたロープに尻尾を括り付けて逆さにぶら下がっているジグザグマの姿だった。
「いや、ほら、今度の大会のお題は『まつり』だそうですので、下で宴会でもしている光景を逆さ吊りになった僕が延々と眺めている小説で参加しようかな、と」
「は……? あの、話が見えないんですが。『まつり』がお題だからって、どうして狸吉さんが逆さ吊りにならなきゃいけないんですか?」
「ん~、だから『ジグザグ''マ吊り''』ってことで」
「…………正気ですか!?」
「至って正気((割とマジで検討していたw))」
「へぇ、なるほど……それならもっといいアイデアがありますよ。尻尾じゃなくって、首に縄をかけてぶら下がるんです」
「……僕を殺す気ですか君は!?」
「狸吉さんこそ読者をシラけ殺す気ですか!? そんな駄洒落オチ、評価されるわけがないでしょう!?((そんなわけで、大会では駄洒落オチを綺麗に決めたトランス氏の『夏、マツリ真っ盛り』に投票しました。))」
「だって~、他に全然ネタが思い付かないもん。適当なお祭りをでっち上げるのは『[[白珠の奉納祭]]』でやっちゃってるし」
「だったらいっそ、『ルンパ・カーニバル』のネタで勝負したらどうですか? 僕らの縁でもありますし」
「今更5年も前のネタで勝負っていうのもねぇ。それに、『フレ! フレ! ポケライン』に話を振ろうものなら仮面が完全に吹っ飛んじゃうでしょ」
「なら、今年の『ルンパ・カーニバル』を話題にすればいいんですよ」
「…………こ、今年!?」
「はい、今年です。[[あのお祭り、5年周期の開催ですよ。>僕のスペシャルタネ#h7b194df]]忘れていたでしょう」
「うわ、マジだ! 何というタイムリー!!」
「ネタが見付かって良かったですね。それじゃ、執筆頑張って下さいね」
「うん! 一緒に頑張ろう!!」
「は……?〝一緒〟!?」
「もちろん、僕自ら作品に出ますので、君も一緒に来て下さいよ」
「…………正気ですか!?」
「至って正気! むしろ僕らが出ないで始まりますか!!」
「ちょ、仮面の話はどうなったんですか!? 吹っ飛ぶどころじゃすみませんよ!?」
「バレ上等! どうせ毎回バレバレなんですから同じことでしょう!!」
「ダメ過ぎるでしょそんな開き直りはっ!?」
「いやいや、もちろん最低限の仮面は被りますよ。名前で呼び合わないのは当然のこと、おじさん扱いもしないように。僕も君のことを雌扱いはしませんから」
「……何か今、不公平さを感じたのは気のせいですか?」
「うおお、盛り上がって来たぁぁっ! よっしゃ、こうなったら短編小説大会連覇も狙ったるぜぇぇぇぇっ!!」
 仮面を考慮するまでもなく、年齢不相応にはしゃぎ始めた狸吉を呆れ顔で眺めながら、泳流は思った。
 先刻の『ジグザグマ吊り』。
 せっかくなんだし、オチで採用させてあげてもいいかな、と…………。

*『[[命の宝]]』トリックルーム [#x8f66e06]
**涙腺崩壊 [#jeb88ac2]

 最後まで、描き終える前に。
 視界が滲んで、流れ落ちていた。

 ◎

「ぶぇっくしょい!!」
 盛大な音を立ててくしゃみを炸裂させる。
 鼻孔内と瞼の内側に、さながら大量のくっつき針を放り込まれたかのような凄まじい痒みを感じて、僕は泣いた。
 傍らから孔雀色のジャローダが首を伸ばし、心配そうな顔、とのたくった字で書かれた紙切れを、嫌らしいニヤけ顔の上に貼り付けて覗き込んでくる。
「ベラドンナ総アルカロイドはたっぷり飲んでる?」
「成分名で言うな! まるで僕が何かヤバいクスリでもヤってるみたいじゃないですか! 鼻炎薬だったらちゃんと適量を毎日飲んでいますよ!!」
「あらまぁ、ビ薬を毎日飲んでるだなんてお盛んね」
「媚薬ちがぁうっ!! 全国の花粉症に苦しむ人たちを変態扱いする気ですかあんたは!?」
「雄しべから迸った子種を顔面に浴びてハァハァ悶えているような輩が変態以外の何だって言うのよ?」
「うわ、ガチで変態扱いしやがったよこいつ!?」
「というわけで、私にこんな台詞を言わせたことについて、全国の花粉症の人たちに今すぐ土下座して謝りなさい」
「はいはい僕が悪かった。分かったから草ポケはしばらく僕に近付かんで下さい花粉症が悪化する」
「何よ。せっかく心配そうなふりをしてあげているのに」
「今『ふり』って言ったよね!? しかもその薄っぺらな紙切れ一枚でふりをしているつもりとか!?」
「べ、別に狸吉さんのことなんか心配しているわけじゃないんだからねっ」
「ツンデレのテンプレ台詞風に本音を語るな本音を! ってか、僕にツッコミさせて呼吸を多くさせることでますます花粉を吸い込ませようとしてるでしょ!? くそぉ、もう返事するもんか!!」
「脱ぐほどに!! はだけるほどに!! ひけらかすほどに!!」
「やめろ空気掻き乱すながほげぼごほほほぉぉぉっ!?」
 いやはや、もうすぐ春ですねぇ。

*[[むげんのMappet]]トリックルーム [#jJjwPtN]
*『[[むげんのMappet]]』トリックルーム [#jJjwPtN]
**塗り替えられた運命 [#kJTByS2]

 ※本文で、おにいちゃんがラティアスたんの上に吐いて、『わたしはなんにも見えなくなった』場面の続きから。

 ☆

 冷たい水流が、わたしの虚ろな瞳を伝って流れ落ちる。
 あの後すぐ我に返ったおにいちゃんは、すぐに汚物の海からわたしを救い出し、シャワーで外も中も洗ってくれたのだ。
 頬の殴り傷も、まだ止まらない鼻血の処置も、全部後回しにして。やっぱりおにいちゃんは、わたしのおにいちゃんだった。
 だけど。
「あ~あ、ダメだこりゃ。繊維までネトネトだよ。こんなのもう、洗っても無駄だろうなぁ……」
 そうなったのは全部おにいちゃんのせいなのだが、しかし感想自体はやむを得まい。お酒と精液と吐瀉物に漬け込まれ無惨にも色褪せてグチャグチャになっていてもなおこれまで通りに愛してくれるなど、生身の恋ポケとならいざ知らず、人形相手にそこまでするのはさすがに変態の域を遥かに超えている。いくらおにいちゃんでもそこまで非常識ではなかった、ということだ。
「はぁ、バカなことやっちまったなぁ……お気に入りだったのに。仕方ない、また今度新しいのを買ってこよっと」
 無感情に言い放つと、おにいちゃんはわたしを指でつまみ上げてゴミ箱へと運ぶ。小さな屑籠の中には、先にわたしから外され捨てられていた緑色だったリボンシュシュ。桃色や緋色の詰め物用シュシュたちは卓袱台の下敷きになったことでそれ以上の難を逃れたけど、初日から一番わたしと一緒にいてくれたこの子とは最期まで道連れか。
「これまでありがとう。ごめんね。さよなら」
 指を放す間際にかけてくれた囁きが、おにいちゃんから送られた最後の優しさとなった。
 かくしてゴミ箱に落とされた瞬間、わたしはマペットでもダッチワイフでもないただのゴミへと堕ち果てて、人形としての生に幕を下ろしたのである。

 ★

 丑三つ時を越えてもまだ嵐は静まりを見せず、暴れ狂った雷光が暗闇を蹴散らして駆け抜ける。
 そのけたたましい閃光に照らされて、わたしはゴミ箱の中から浮かび上がった。
 ゴミ箱の隣には、丸めてビニール袋に詰められた煎餅布団。わたし同様吐瀉物まみれになったので、次の分別ゴミ回収日に廃棄するつもりなのだろう。
 倒され打ち壊されたまま、まだまともに片付けられてない家具の山を越えて、部屋の奥から聞こえる寝息を目指す。
 布団を剥がした畳の上で、おにいちゃんは着替える体力も残っていなかったのか裸のままで使い古したゴワゴワのタオルケットにくるまり、鼻血止めの詰め物をして頬にガーゼを張り付けた顔で大口を開けながら眠っていた。
 おにいちゃん……起きて、おにいちゃん…………
「んあ? 誰ぇ…………え? えええ……っ!?」
 当然と瞬いていた寝ぼけまなこが、驚愕に見開かれる。
 無理もない。ゴミ箱に捨てられたはずのわたしが、実物大サイズに巨大化して浮き上がり、ひとりでに動いておにいちゃんを揺り起こしたのだから。
「お、お前……僕のラティアスたん、なのか……!?」
 そうだよおにいちゃん。いつも愛してくれてありがとう。おかげでこんなに大きくなって、おはなしもできるようになれたんだよ。すごいでしょ。
 身体を見せびらかすべく、空中でくるりと一回転。おにいちゃんは眼と口を一杯に開けたまま、ガーゼの脇からはみ出た頬肉を抓っている。夢か幻だとでも思っているのだろう。
 夢でも幻でもないよおにいちゃん。これまでたくさん可愛がってくれた分、これからはわたしの方がおにいちゃんにご奉仕するの。手始めにまず、おにいちゃんのオチンチンをおしゃぶりしてあげるね。
「お、おしゃぶりってお前……だって、お前の張り付けただけの口じゃフェラチオなんてできないんじゃ……!?」
 不穏な気配を感じたのか、弛んだ身体がズルズルと後ずさりする。素っ裸で這い動いている姿が、まるで本物のベトベトンみたいで可愛い。タオルケットがズリ落ちて、すっかり縮こまったオチンチンが顔を覗かせた。
 ううん、できるよ。ほら。
 と、わたしは口元から下がっている小さな金属片を前足で摘まみ、真横一文字に引いた。
 ジィ……ッ!
 金属と金属が擦れ合う音が甲高く響き、開かれた口から呪われたエネルギーが溢れ出す。
 これまでおにいちゃんからたっぷり注がれてきた、暗く哀しい波動のエネルギーが。
「ね? これならおしゃぶりできるでしょ。えへへ、それじゃあ……」
 壁際まで追い詰められて逃げ場を失ったおにいちゃんの股間に前足を伸ばし、萎えて震えるモノを揉みしだいて強引に勃たせると、わたしはそれに口を寄せて、
「……いただきます」
 パクリ、と――――
「はぎゃあああああああああああああああああああ~~っ!?」
 また一つ、雷鳴が窓を震わせて轟いた。

 ★

 と、まぁ、つまるところ。
 もちろんわたしは本物のラティアスのぬいぐるみではなく、それに取り憑いていたカゲボウズ――だったものだ。
 わたしたちの種族は、ある程度育つと人間の子供が持つぬいぐるみに憑依するようになる。
 所有者が成長する度に抱えていく心の傷を、拭い取って糧にするために。
 そうして負の波動が極限まで集まった頃に所有者から〝捨てられる〟ことで、さながら赤ちゃんがヘソの緒を切って産まれ落ちるように、新たな姿を得て進化するのだ。
 けれど憑依するぬいぐるみと出会えなかった場合、進化できないまま夜の町を彷徨ったり、怨念を持つ人が住む家の軒下に集まったりしなきゃならなくなる。
 そんな負け組に加わりたくなかったわたしは、玩具店で売れ筋であろうぬいぐるみをお見通しして、あらかじめ憑依しておくことで確実に子供の手に渡ろうと企んだのだった。
 結果的に見れば、当初の目論見を遙かに超えた大成功! と言うべきだろう。
 想定外にもダッチワイフにされたのが幸いして、毎夜毎夜濃厚この上ない恨み辛み怨念の波動をズンドコズンドコ注ぎ込まれ、終いには直接溺れるほどに浴びせかけてもらえたのだから。
 まったく、本当におにいちゃんには感謝だわよ。おかげでこんなにも立派なジュペッタに進化できちゃった。
 どうしてぼっちしてたのかは知らないけど、真面目にトレーナー活動に取り組んでたらいい線いけてたのかも知れないわねぇ。
 でも、ね。
「男としてはさぁ、最っ低なのよこの酔っ払いっ!!」
 荒れ狂う真っ黒な感情を吐き捨てて、ようやく憂さの晴れたわたしは、頬を汚す残滓を袖で拭い、口のチャックを再び閉め直した。
 いいよ。許してあげる。
 だってわたしは、おにいちゃんのことが大好きなんだもん。
 ほら、ねぇ起きてよおにいちゃん。
 仰向けにひっくり返っていた大きな身体を抱き起こし、背中に漆黒の袖を突き挿れる。
 首を通して頭の中まで腕を差し込むと、手首を捻って顔をこちらへと向けさせた。
 もうおイタしちゃダメよ。分かった?
 囁きに合わせて手首を傾けると、色を失った顔が頷く。
 その仕草が余りにも可愛かったので、わたしはおにいちゃんの凍てついた頬にチャックで閉ざした唇を擦り付けた。
 ずっとずっと、一緒にお遊びしましょうね。大好きな、わたしのおにいちゃん。

 ☆

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「はいリテイク」
「どわあぁぁぁぁっ!?」
 2015年11月3日――丁度、この物語を描くきっかけになった出来事から一年経った日。
 ようやく完成に漕ぎ着けた、と思った瞬間、脇の下から孔雀色のジャローダがニュッと鎌首を表して、僕は盛大に仰け反る羽目に陥った。
「な……突然何なんですか青大将!? リテイクって……やり直しってこと!? ちょっと勘弁してくださいよ。超ポケダン、先月から全然進められてないんですよ!? ((結局これに加え、仕事の忙しさとWifi大会への参加もあり、ポケダン再開はなんと年明けまでずれ込む羽目になった。))会社が本格的な繁忙期に入っちゃう前にどうにか終われたと思ったのに、一体全体何が気に入らないっていうんですか!?」
「何が、じゃないわよ。こんな普通のオチ、変態選手権に出せるとでも思っているのかしら?」
「え”ぇぇっ、ふ、普通!? この猟奇なオチが普通ってどういう事!?」
「お黙り! 青大将様とお呼びっ!!」
 斜め上方121°の角度から、青大将の瞳が高飛車に見下ろす。
「ふっふっふ、この私の目を誤魔化せるとでも思って?」
「だ、だからさっきから何をいって…………?」
「こ・れ・よ」
 碧く輝く尾の先端が、描かれた文章の一角を指し示した。

 ――お酒と精液と吐瀉物に漬け込まれ無惨にも色褪せてグチャグチャになっていてもなおこれまで通りに愛してくれるなど、生身の恋ポケとならいざ知らず、人形相手にそこまでするのはさすがに変態の域を遥かに超えている。いくらおにいちゃんでもそこまで非常識ではなかった、ということだ……

「ほらほら、ラティアスたん自身がこれじゃ普通だってモノローグで語っちゃってるじゃないの」
「ちょっ……まさかっ!? つまり貴方は、ゲロ塗れになった人形でも恋ポケとして愛せ、と……!? あのおにいちゃんに変態の域を飛び越えろっていうんですか!?」
「そうするしかないでしょう変態選手権なんだから!」
「メチャクチャだあぁぁぁぁぁぁっ!?」
 異次元からの発案に、僕は頭を抱えて絶叫する。
「無茶いわんでください! それもう僕の想像可能な領域すら超えちゃってますから! っていうか、今回の話のキモは捨てられた人形がジュペッタに進化するところなんですよ!? 捨てられなかったらネタとして成立しないじゃないですか!?」
「図鑑に載ってるとはいえ、通信交換進化ってわけじゃないんだし、トレーナーのカゲボウズはみんなレベルで進化しているんだから、その辺は適当な言葉でこじつけてでっち上げられるでしょ。その手の辻褄合わせは、むしろ狸吉さんの得意どころじゃなくって?」
「う……そりゃまぁ、いつもの手ではありますけどねぇ。しかしいつもの手を使うとなると、せっかくの変化球が仮面にならなくなっちゃうし」
「注意書きにフィクション云々って書いてあるから大丈夫よ。そんなこといちいち書くの狸吉さんだけだって、ちゃんとみんな分かってるから」
「そこ大丈夫じゃないところでしょーがっ!?」
「そんじゃ決まりってことで。精々頑張って修正なさいな。オ~ッホッホッホ」
「ちょ、待っ…………」
 制止も虚しく、孔雀色の巨体は高笑いを残して何処へともなく消え去った。散々無茶振りしていいたい放題の挙げ句無責任にトンズラとは、相も変わらぬ天のジャローダである。
 ったく、何の伏線もなしに結末を180°転換だなんて、グダグダにしかなりそうもないぞ……。
 内心でボヤきつつも、僕は大急ぎで物語を塗り替えにかかった。

 ☆

「……って、ラティアスたん!? 何いきなり当たり前のようにメガシンカしちゃってるんですかっ!?」
「ん……いや、わたしジュペッタだし、エッチするために身体を開いたら必然的にこうなっちゃった」
 人形を捨てないまま、怨念の代わりに愛情を詰め込んで進化させ、口付けでチャックを描写してジュペッタであることを明示。盛り上がったんだからと官能になだれ込ませたところ、ジュペッタのラティアスたんがとんでもない姿になってしまっていた。
「ひ、必然ってあんた、ジュペッタナイトとキーストーンはどこから調達しろと!? 何の準備もしてないのに、そんな勝手にメガシンカとかされても…………!?」
「あ~、そういえば僕、汚しちゃったラティアスたんとの仲直りの証に、アクセサリーを丁度ふたつプレゼントしたなぁ」
「……へ!?」
「あら、そういえば。じゃあ、胴巻きのシュシュにおにいちゃんの愛情でジュペッタナイトが生まれて、パッチン留めの蝶飾りがキーストーンに変わったのね。なんだ、狸吉さんちゃんと準備してくれていたんじゃないの」
 違う。断じて準備などしちゃいない。
 オナホの締め付けゴムとして使ってたシュシュはともかく、パッチン留めの方は踏まれて壊されることで愛の喪失を象徴する意味しかなかったアイテムだったのに、それがまるで誂えていたかのように伏線として機能するなんて。
「そういえば、キーストーンは蝶の飾りだけど、わたしおにいちゃんのお腹のことキャタピーに例えているのよね。おにいちゃんもわたしと一緒に進化したってことなのかな」
「進化っていうか、変態だね。変態選手権だけにって洒落のつもりだったんだよきっと」
 だからそんな想定もしていたつもりは全然ない。単に最初のが花だったから、次は蝶にして変化を付けただけだったのにどうして話が繋がってるんだ!?
 これまでも、描いていたらいつの間にか想定していないネタができていた、ってことは何度かあった。だけど、最初の想定から180°変更したのに、まるで初めからこっちが正解の如くネタがコロコロと掘り出されてくるとかなんだこりゃ。出来すぎにも限度ってものがある。これがどれだけとんでもない話なのかなんて、変える前の話を知っている僕以外の誰にも理解できっこあるまいが。……あ、今の言い回しもラティアスたんのモノローグに加えておこう。あっはっは。
「ぁあったくっ! もう君たちが作者ってことでいいよ! 僕は君たちに操られるジグザグマペットっていうことで!!」
 ヤケクソ気味に、僕は吐き捨てた。
 その言葉がもたらす事態を、想定すらせず。
「…………ジグザグマペットにも、穴はあるんだよな? ジュルリ」
「浮気許可。思う存分犯っちゃって」
「なっ!? ちょ、待てお前ら早まるなどうしてこうなるのいやぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~っ!?」
 最低最悪のオチであった。

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**無限なる夢幻 [#Q9PKbhO]

 玩具店でわたしことラティアスのマペットを買い取ったのは、映画俳優でもやっていそうなハンサムでスラリとした青年だった。
 シックなスーツをまとった胸に抱かれて運ばれながら、こんな人でも女児向けのぬいぐるみとか欲しがるものなのかしら、と軽い疑念に捕らわれる。
 やがて辿り着いたのは、市街から川沿いに下った寂れた田舎道の岩壁に、密やかに口を開けた洞窟の中。
 入ってみると、入り組んだ奥の部屋にはランプやベッド、パソコンなどが拵えられていた。パソコンの側にはプラチナ色に輝く旗。なるほど、これが噂のスーパー秘密基地って奴なのね。
 室内の様子を見回しているうちに、わたしはベッドの上に仰向けに転がされていた。
 外から流れていたせせらぎの音色がシャッとカーテンに遮られて、ランプの灯りを背にした青年のシルエットがわたしへと覆い被さる。
 紅い鰭脚が押し開かれて、股間の入れ口に指が進入する。はめるには明らかに大き過ぎる手が、内布の感触を味わうように撫で回す。指先が蠢く度に荒くなっていく男の吐息が、露骨な欲求を表してわたしを総毛立たせた。
 と、唐突に男の姿が揺らめく。
 何事っ!? と目を見開くわたしの前で、陽炎のように波打つ男の色彩が、白と青とに塗り分けられていった。
 やがて像が明確な形を結んだとき、そこにいたのは既に人間の男などではなかった。
 卵型の胴から、スラリと伸びた長く白い首。
 背中には、鋭くVの字に広がった群青色に澄み渡る一対の翼。
 紛れもなく、夢幻ポケモン・ラティオス――なんということか、わたしを買った男は、ラティオスが変身した姿だったのだ!
「ぐへへ……俺の可愛いラティアスたん、おにいちゃんの言うことを聞きましょうね。すぐにいい思いをさせてあげますからねぇ…………」
 涎を滲ませた唇を淫らに吊り上げて、伝説ポケモンが持つべき風格や威厳の欠片もない下劣な笑みを浮かべながら、ラティオスは青い鰭脚の間からショッキングピンクに腫れ上がる巨大な逸物を屹立させた。
 犯そうというのだ。
 ぬいぐるみであるわたしを、本物のラティアスに……それも、妹に見立てたダッチワイフとして!
 まったく、呆れてものもいえやしない。
 なんという変態で、恥知らずで、そして、
 なんという……愚かなラティオスだろう。
 飛んで火にいる夏の虫ならぬ、冬の伝ポケめが!!
「さぁ、おにいちゃんとひとつになろう! 愛してるよラティアスた~ん!!」
 今にも入れ口に潜り込もうとする、淫欲に張り詰めた雄の急所めがけて、
「誰がなるか! くたばれ変態ドラゴン!!」
 漆黒の思念で練り上げたシャドーボールを、わたしは叩きつけた。
「もげぇっ!?」
 瞬間、無様なラティオスの悲鳴が、爆散した闇の中へと飲み込まれた。

 ☆

 と、まぁ、つまるところ。
 もちろんわたしは本物のラティアスのぬいぐるみではなく、それに取り憑いていた人形ポケモン、カゲボウズである。
 わたしたちの種族は、ある程度育つと人間の子供が持つぬいぐるみに憑依するようになる。
 所有者が成長する度に抱えていく心の傷を、拭い取って糧にするために。
 そうして負の波動が極限まで集まった頃に所有者から〝捨てられる〟ことで、さながら熟れきった果実が種を宿して落ちるように、新たな姿を得て進化するのだ。
 けれど憑依するぬいぐるみと出会えなかった場合、進化できないままはぐれて夜の町を彷徨ったり、怨念を持つ人が住む家の軒下に並んでぶら下がったりする羽目になる。
 そんな負け組に加わらなくても済むよう、玩具店で売れ筋となるであろうぬいぐるみを見通して、あらかじめ憑依しておくことで確実に子供の手に渡ろうというのが、わたしの本来の計画だった。
 が、〝遊ばれて捨てられる〟というのは単なる種族の風習であって、肉体的な進化の為の必要条件というわけではない。純粋に肉体を鍛えるだけでも、カゲボウズは進化できるのだ。
 途轍もなく嬉しい誤算。まさか超レアな伝説ポケモンが……それも、エスパータイプであるラティオスが釣れるとは。効果抜群となるゴースト技を剥き出しの急所にゼロ距離で食らっては、さしものラティオスといえどひとたまりもあるまい。後は倒れたこいつの精気を根こそぎ吸い尽くせば、確実にわたしはジュペッタへと進化できることだろう。これでわたしも勝ち組の仲間入りだ! あっはっは!!
 黒く広がった爆煙に向けて、喉笛で勝利の哄笑を高らかに奏でようとした刹那、

 闇を突き抜けて伸びた腕が、わたしの身体を押さえつけた。

「……あ、れ?」
 何、この腕。
 細く、長く、真っ黒な毛皮に覆われた腕。
 その腕先から生えた、地で染め上げたように赤黒い三本の爪が、わたしの身体をベッドの上に縫いつけている。
 どう見てもラティオスなんかの腕じゃない、この禍々しい腕は。
 まさか、まさか、まさか、まさか……!?
「あ~ビックリした。やいこら、何いきなり気持ちいいことしてくれるんだよてめぇ?」
 晴れてきた黒煙の陰から現れたのは、フサフサと垂れる赤黒いタテガミ。
 ツンと尖った黒い鼻先をこちらに向けて、深紅の隈取りに覆われたつり上がった双眸で、そいつはわたしをニヤニヤと見下ろしていた。
「ぞっ……!? ぞっぞっぞ、ゾロアークぅぅぅぅっ!?」
 なんとなんと、わたしを買った男の正体は、〝人間に変身したラティオス〟に化けていた、幻影の覇者、ゾロアークだったのだ!! って、一体何段オチなのよこの話っ!?
「はぁん……察するにてめぇ、カゲボウズだな? そんな可愛い人形に取り憑いて、遊ぼうとした奴を騙し討ちにしようなんざとんでもねぇ悪党だなぁ。ケケッ」
 わたしを押さえつけつつ、もう片方の手でシャドーボールの炸裂した股間を撫でさすって、ゾロアークはふてぶてしく嘲笑った。悪タイプのゾロアークが相手では、シャドーボールの急所直撃など性的サービス程度の刺激にしかなってはいまい。
「あっ……アンタにだけはいわれたくないわぁぁぁぁっ! ラティオスなんかに化けて、わたしを騙してヌカ喜びさせてっ! わたしがゲットするはずだった経験値返してよぉっ!!」
「おいおい、俺がラティオスに化けてたのは、単にラティアスのぬいぐるみとヤるためのイメプレしてただけだぜ? せっかく俺がトレーナーからくすねたマジ金はたいて買ったもんに勝手にくっ憑いてきてお楽しみを邪魔しやがったくせに何を被害者面してんだよ!?」
 く……こっちの非を認めざるを得ないのは悔しいけれど、しかし今の言い分も偉そうに言い張れる内容ではなかったのでは。まぁ、躾のなっていないトレーナー氏の自業自得だが。
「ま、いいさ。経験値を返せってんなら返してやんよ。確かカゲボウズってのは、〝&ruby(あそ){弄};ばれて棄てられる〟ことで進化するんだったよな?」
 隈取り模様が凶悪に歪んで、わたしは猛烈な悪寒に身を震わせた。
 今なんか、違う漢字を使われなかったか?〝弄〟ばれるとかなんとか!?
「協力してやるよ。タップリとくれてやるぜ。日頃溜まりに溜まった〝負の波動〟って奴をなぁ! グヘヘヘヘ……」
 下卑た笑みが頭上を通り過ぎて、ギンッ! と張りと色を増した毒々しい逸物がみるみると近付き、そして、
「い……いやあぁぁぁぁぁぁっ!? やめて! 許して! 誰か、だれかたすけてよおぉぉぉぉぉぉっ!! ぎゃあぁぁぁぁぁぁあぁ~~っ!?」
 わたしの喉笛を裂いた悲鳴は、しかしただ虚しく基地の壁にこだまするばかりであった。

 ☆

「……ふ~っ! スッキリしたぜ」
 洞窟の外、爽やかな陽光とそよ風を浴びながら、清々しげにゾロアークは身体を伸ばした。
 その手に、最早元の色も形も判別できないまでに引き裂かれて汚され尽くした、廃液の滴るボロ布の塊を摘まんだまま。
「てめぇもこんだけ経験を積んだんだから、もう進化するにゃ充分だろう。感謝しろよな。そんじゃ、アバよ! ギャハハハハッ!!」
 哄笑と共に、ボロ布が中空へと投げ出される。
 ボチャリ。
 鈍く弾けた飛沫の音と共に流水に身を洗われて、わたしは自分が基地の近くを流れていたドブ川に放り込まれたことと、その瞬間ジュペッタへと進化したことを知った。
 けれど、進化の喜びなどあろうはずもない。
 全身に重苦しく染み込まされた屈辱と敗北感で、わたしはズブズブと水底のヘドロに沈んでいくしかなかった。

 ☆

「……まぁ、ヘドロに沈んだおかげで、そこに住んでいたアンタの父さんと巡り会えて今は幸せだから結果オーライなんだけどね」
 胸に抱いて暖めている愛しいタマゴに、わたしは囁く。
「いいこと? アンタが雄の仔か雌の仔かは判らないけれど、どっちに生まれたとしても、決して見てくれだけの相手には騙されちゃいけないよ。ベトベトン父さんみたいに、包容力のある優しい相手と一緒になるのが一番なんだからねっ!」

 ☆[[本編に続く>むげんのMappet]]☆

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