※この物語では&color(Red){流血};、&color(Red){官能};等読み手を選ぶような表現は一切含まれておりません。安心してお読みください。 ※この物語では&color(Red){流血};、&color(Red){官能};等読み手を選ぶような表現は一切含まれておりません。 written by [[beita]] 毎日、大体決まった時刻に同じ道を歩く一匹のポケモン。 すらりとくびれた体に腕はどこまでが本体なのか分からない程伸ばされた薄紫色の美しい毛並み。 長い睫毛に痺れそうなほど魅力的な瞳。そう、彼女はコジョンドである。 その容姿のあまり、一目惚れするポケモンも少なくない。 今、コジョンドの歩いている道の端から茂みに隠れて彼女を眺める一匹のポケモンもその内の一匹である。 着ぐるみの様なたるんだ下半身の皮膚。 立派な鶏冠と尻尾を備えた黄基調の体をもつそのポケモンはズルズキンである。 手の届かない程の高みの存在と認識するあまり、話し掛けるなどといった考えは元から無く、ただ見られればそれでいい。 毎日こうして一目見られるだけで幸せなんだ。と、ズルズキンはこの現状に十分満足していた。 うっとりと遠めから彼女を眺める時間はあまりに短く、あっと言う間に通り過ぎてしまった。 あぁ、今日も美しかったなぁ。と、彼女が居なくなってからもしばらく余韻に浸るのも彼の日課の様なものになっていた。 「おっす! おかえり」 彼女を十二分に満喫し、帰路についたズルズキンに一匹のポケモンが話しかける。 全身黒色の体毛に長い長いたてがみ。 牙や爪、更には視線を尖らせ、二足歩行で話すそいつはゾロアークだ。 「今日も会ってきたぜー!」 「会うじゃねぇ、見てきただけだろ」 ズルズキンはテンション高く報告するも、ゾロアークは冷淡に返した。 彼はズルズキンの一番の友達で、大抵いつでも一緒にいる。 だからお互いのことはよく理解しており、何でも打ち明けられる仲なのである。 ズルズキンがコジョンドに一目惚れしたという事実も真っ先に聞き、話だけはいつも聞いてやっていた。 何回かズルズキンに連れられ、コジョンドを目の当たりにしてきたが、ゾロアークには通用しなかったらしく。 彼女がとても美しいポケモンなことも重々理解はしているが、あまりにも熱狂的なズルズキンの態度に、最近は少々呆れながらも相手をしていた。 「何度も言うケドさ、おまえから話し掛ける気はねぇの?」 「むーりーだって! 絶対オレなんて相手にされないよ」 もう何回目か覚えてられない程交わしたやりとり。 彼女には首ったけなハズなのに、消極的過ぎるズルズキンの態度に毎度のことながらゾロアークは嘆息する。 「何ビビってんだか。……じゃあ、彼女から話し掛けてきたら、おまえどうするんだよ?」 ふと、思いついた質問をぶつけてみる。 何だかんだ言ってゾロアークは彼を手伝ってあげたいと考えていた。 「え……そ、そんなことありえないだろ!?」 「動揺してんじゃねぇよ。いいから答えろ」 ゾロアークは取り乱すズルズキンを相手にせず、まず回答を迫った。 もしものこととして質問しただけで目が泳ぎ、声は震え……。 これで実際に会うなんて確かに無謀な話だな、とか思いながらズルズキンの返答を待った。 「そ、そりゃあ……嬉しいよ」 「嬉しいだけか!? こんなこと聞きたいとかは!?」 「……っ! え、えーと……」 あくまで仮想上の話だというのに完全にあがり切ってしまう。 ゾロアークはやれやれと頭をかきながら、さっきよりも深く重くため息をついた。 確かに自分からどんどん行動を起こす程積極的な奴じゃ無いケド、ここまで自分に自信を持たない臆病な奴でも無いハズだったのに。 ……恋の力って恐ろしいな、とか考えながらゾロアークはくるりとズルズキンに背を向ける。 「あ、おい! ゾロアーク」 間抜けな声で、ズルズキンが焦りながら引き止めようとする。 「ん? 悪いな。あまりにも呆れちまったんで」 背を向け、歩き続けながらそう言うと、そのまま場を去っていった。 「ち……薄情な奴だな。……まぁ、オレが悪いか」 ズルズキンはがくっとその場にうなだれ、地面ばかり見ていた。 ゾロアークは様々な思考を張り巡らせながら、道を歩き続けていた。 親友をあのまま放っておく訳にもいかねぇし、せめて一回くらい会話させねぇとな。 と、その方法を模索していた。 すると、傍らにいたチョロネコ達の会話が不意に耳に入ってきた。 「明日ってさー。エイプリルフールだよね?」 「あっ! そう言えば! すっかり忘れてたよぉ」 「じゃあもしかしてまだどんな嘘つこうとか全然考えてにゃいの?」 「そりゃあ……今まで忘れてたもんっ。す、すぐ考えないと」 「わたしはもう考えてあるんだ。どうせなら、良い嘘ついてあげようと思って……」 「へぇー。ねぇっ、どんなのどんなの!?」 歩く速度は一定に、ゾロアークは耳を傾けながらチョロネコ達の横を通過した。 明日はエイプリルフール。どうせなら良い嘘をついてあげる。 と、やけに耳に残った単語を反芻してみる。 すると、何か閃いたのかゾロアークは感嘆の声を洩らした。 うっすらと笑みを浮かべながら、ゾロアークは歩みを早めた。 「……まず、会ってみねぇとな」 翌日。世間はエイプリルフール。 今日だけは嘘も許される特別な日。 ズルズキンはそんな特別を全く意識することなく一日を始めるのだった。 日課の様に、いつもコジョンドを眺めているポイントへと足を進める。 今日も会えるかなあ、とか気付いて話し掛けてくれないかなぁ、とかくだらないことばかり考えながら。 このひとときが二十四時間を通して一番充実した時間では無いかとすら思う。 会う前のわくわくに勝る可能性があるのは、会った後の余韻に浸る時間。 いずれにせよ、彼女を望むその付近の時間帯である。 ズルズキンは普段どおり茂みに隠れコジョンドの登場を待った。 この時間は彼にとって少しも苦にならない。 むしろ彼女に抱く感情を加味すれば、少々焦らす方が価値的にも釣り合うくらいだろう。 それから暫らく時は経ち、ズルズキンがまだかまだかと、コジョンドが通りかかる瞬間を心待ちにしていたその時。 「!」 ズルズキンの心臓が一際大きく跳ねる。 今日も現れた一匹の美しい容姿のポケモン。 彼女はコジョンドに違いない。毎度のことながら声が出そうなくらい興奮したが、ぐっとこらえながらまばたきや呼吸すら忘れるくらい彼女を凝視した。 こうして幸せな一時を過ごすのだった。 ゾロアークは朝早くから行動を開始していた。 まだ日が昇り始めた程度の時刻。向かう場所は毎日ズルズキンが彼女を眺めるあの場所。 そこに着くなり辺りをキョロキョロと見回す。 何かを探している様にも見えるが、真意は分からない。 「んー。……多分何とかなるだろ」 ぽつりとそう呟くと、また場所を移り始めた。 時間は限られている。なるべく急がねぇと、とゾロアークは足の動きを早め、ついには走り出した。 しかし、足音は立てないよう静かな移動に撤する。 こうしている内に陽は昇り切り、辺りは随分明るくなった。 表情に少しずつ焦りの色が見え始める。 だが、相変わらずの抜き足差し足で、隠密さを忘れない。 今まで以上に周りに気を配り、ゾロアークは何かの捜索を続けるのだった。 「はあぁ……今日も幸せだなぁ」 コジョンドが過ぎ去り、茂みの中に残ったズルズキンがしみじみと言った。 いつも暫らくこの余韻に浸り、思い出した頃に動きだすのだ。 そして今日も何も変わらずゾロアークに会いにいこうと、茂みから姿を現した。 その直後。 「ねぇ?」 突然後方から話しかけられ、思わずビクッと跳ね上がってしまう。 それも聞こえる限り雌の声であったので、その効果は倍増だ。 何だ、とズルズキンが後ろを振り返ったその時。 心臓が止まるかと思っただろう。 今、彼の視界に映っているのは紛れも無い、コジョンドであった。 「ぇ……あ」 頭がこの現状についてこれていない。 予想だにしなかった状況に陥り、思考回路は完全に滞ってしまっている。 どうしよう、何か話さなくちゃとは思うものの、パニック状態のズルズキンには無理な話だった。 「ごめんね。突然話しかけちゃって……迷惑だった?」 オドオドするズルズキンにコジョンドは困った表情を見せる。 流石にコレはマズい。とズルズキンは勇気と思考力、加えて声を振り絞った。 「そ、そんな全然ダイジョウブだよっ」 「くすっ……そんなに緊張しなくても」 途端に彼女はにこりと笑い、ズルズキンに言葉を返した。 そして、更に話を続ける。 「あなた、毎日私が道を通りかかるのをずっと眺めてるんでしょ?」 まさか気付かれていた……と、彼の頭の中はますます荒れ狂い始める。 「……そんなにも私に興味を持ってくれる方、私としても意識せずにはいられないの。だから……一度お話ししたくて」 辛うじて彼女の発言は耳に入ってきたが、それは記号のように鼓膜に振動を刻むだけに等しかった。 まっすぐ立ち続けることすら困難なこの状況で的確な発言など不可能で、しばしの無言の時間が訪れる。 この上なく気まずい空気が流れたが、コジョンドは特に表情を動かすこと無く、じっとズルズキンを見つめながら彼の発言を待っていた。 だが、いつまで経ってもズルズキンの鼓動は落ち着いてくれず、言葉を紡げるには程遠かった。 「ねぇ……大丈夫かしら? ゆっくりでいいから……話して、欲しいな?」 わざわざ話し掛けてくれたのに心配させてしまうなんて……、と猛烈な情けなさを感じ、ズルズキンはついに口を開いた。 「あ、うん……ご、ごめん。こうして、声が聞けてす、すごい嬉しいよ」 「あら、そんなこと言われるなんて……私も今すごい幸せよ」 追撃と言わんばかりににこりと微笑む。 生きてて良かった、とズルズキンは心の底から思っただろう。 ぼうっと眺めるのとは桁違いな心の奥底まで満たされていく感覚、それを覚えずにはいられなかった。 再び訪れた静寂に彼女から切り出した。 「ごめんなさい、この後予定があるの。私もう行かなくちゃ」 「ぇ……ぁ。……うん。ぜ、全然……しゃべれなくて、ごめん」 「いえ、私の方こそ突然ごめんなさい。でも、こうして少しだけでもあなたと話せてホントに良かった」 「……そ、そこまで?」 「ええ、もちろん。嘘じゃないわ。……じゃあ、またね?」 自身の魅力を存分に見せ付けながらそう言うと、コジョンドはその場を立ち去っていく。 残されたズルズキンは別れを惜しむ気が起こらないほどに満足していた。 それから何度も何度も、彼女と交わした会話と呼べないような会話を思い返していた。 ようやく帰路についた時、ズルズキンの表情はどれほどニヤついていたことだろう。 ズルズキンがコジョンドと会って話した場所から少し離れた地点。 ゾロアークが地面に座り込んでホッと一息ついていた。 「ふぅ、異性に化けるのは思ったより神経使うなぁ。……まぁ、騙しちまったけど、決して悪いもんじゃねぇだろ。エイプリルフールだしな」 満足気にそう言うと、スッと立ち上がり、いつもズルズキンと会っている場所へと足を運ぶのだった。 後で本人に打ち明けるのかどうか。ゾロアークの心の中ではもう決まっているのだろう。 エイプリルイリュージョン 完 ---- ・あとがき 一応、4月なので時期にのっとり、エイプリールフールな作品を書いてみました。 話の内容は僕の友人がベースになってます。一目惚れしたものの、話そうにも話しかけられない。 そんなもどかしい状況をゾロアークの能力で一挙解決!(?) といったお話です。 長さ自体も相当ショートに努めましたので、5000字にすら満たないものになりました。 まぁ、僕にしては珍しく官能も流血も一切無い、和やかなお話が書けたかなぁと思います。 では、ここまで読んでいただいたみなさん。ありがとうございました。 ---- ご意見、ご感想、誤字脱字の報告などご自由にどうぞ。 #pcomment IP:218.220.151.246 TIME:"2011-12-04 (日) 14:15:44" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E3%82%A8%E3%82%A4%E3%83%97%E3%83%AA%E3%83%AB%E3%82%A4%E3%83%AA%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Windows NT 5.1; rv:8.0) Gecko/20100101 Firefox/8.0"