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れしらむの”ちいさくなる” の変更点


*レシラムの”ちいさくなる” [#s5b94180]

タイトルがネタばれです。不純な動機から小さくしてみました。

[[青浪]]

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暗闇が全てを包む夜。月光だけがかすかに照らす。


ごぉぉ・・・と空気が焼ける音がしている。
そう。周りは火の海だ。といっても逃げ場がないわけじゃない。ただ僕の目の前が火の海なだけだ。後ろは夜の闇に覆われ、なんというか、このギャップは気持ちがいい。

そうそう。で、なんで僕がそんなところにいるかというと、その火の海を作り出した張本人に用事があるからだ。

レシラムにだ。用事、っていっても、まぁそれはストーリーの展開・・・ゲフンゲフン、なんでもない。
僕はイッシュ地方のポケモン図鑑を完成させるとか意気込んでたような、ポケモンマスターになりたいとか言ってたような、今では訝しい。


「ご主人、暑いっす。」
「我慢してくれ。」
僕は目の前の青く、硬いポケモン、ダイケンキのミズに、そいつと対峙させていた。真っ白な身体に、青い瞳。そして吹きだす炎。睨んでる、というよりはあきれ顔で僕たちを見ている。
なぜなら僕が汗をかきすぎてシャツを脱いでるから。人間の僕が汗まみれなのに、重苦しい格好のミズにとっては耐えられないほどに暑いだろう。

「暑過ぎて近づけないっす。」
汗をよろいで拭いながら、ミズは必死に訴える。
「んー・・・ハイドロポンプ。」
「ういーっす。」
無気力な僕の指示に、ミズも無気力にハイドロポンプを繰り出す。ジャバジャバと壊れた洗濯機のように流れ出る水は、レシラムに届く前に蒸発していく。

「効果はいま一つっすね。」
「うーん。冷凍ビーム。」
暑くて集中力も切れた僕は、またミズに指示を出す。レシラムは攻撃すらしてこない。
「ういっす。」
ミズは口から白く輝くビームを放った。いとも簡単にひょいっと避けるレシラム。建物の柱に当たって、柱は崩れた。

「ご主人、当たらないです。」
「うーむ。集中できなくて・・・」
手持ちはもう居ない。調子に乗っているうちにポケモンセンターへ行くのを忘れ、みんなひんしになってしまった。
今は手持ちのポケモンを全てミズが首から提げるカバンの中に入れてる。僕が持ってると、ひんしなのを忘れて使ってしまいそうだからだ。

普段ならこの辺で、”任務は失敗だ。今すぐにゲーム機の電源を切れ、”っていう神の声が聞こえてくるけれど、どうやら今日は神様の機嫌が非常に悪いらしい。

それか、ただのドSか。

「ご主人!」
ミズの声で我に返った。ゴゴゴ・・・という轟音とともに建物が徐々に崩れ始めた。さっきの冷凍ビームの効果は抜群だったようだ・・・建物に。

木の床は割れ、石の壁は崩れ、あちこちから石の飛沫が飛び交う。燃える媒体を失った火の海はあっという間に消え、瓦礫の海が広がり始めた。

目の前のレシラムも予想外の出来事にうろたえ、身体を丸め、翼で飛び交う石から身を守っている。
このままだと建物の崩壊で建物ごと潰れそうだ。ならば助けるべきなのだろう。

・・・どうやら神様は居ないみたいだ。レシラムを助けに行けば僕は死ぬ。けどミズを死なせるわけにはいかない。

「ミズ!早く脱出しろ!」
「ご主人は?」
「後から行く!」

僕は嘘をついた。後から行けるはずなんて・・・無い。でも忠実なミズは僕の指示に従って壁に空いた大穴からゆっくりと滑り下りていく。

バキバキと床が崩れ、僕はすぐさまレシラムの方向へ走りだした。地面のひび割れは大きくなり、ミズと僕がさっきまでいたところは既に何もなく、大穴がぽっかり空いているだけだ。

「レシラムっ!!」
上手く瓦礫を避けて走って、割れ目もひょいっと跳び越え自分の2倍近くデカいレシラムの元へ辿りついた。
「逃げるぞ!」
翼を引っ張ってみたけれど、嫌なのか、強い力で僕は弾かれた。
「逃げないと死んじゃうだろ!!」
”助けに来ても・・・君が危ないだけじゃない!”
え?僕は驚いた。目の前のレシラムは僕に向かって喋ってきたからだ。その声は、今の状況に不似合いなほど優しいものだった。
「喋れるの?」
”うん・・・でも、もう必要ないけどね”
ガラガラと瓦礫が崩れ、細かな破片が僕の頭に降り注ぐ。帽子をかぶっていなければ、即死だっただろう。けれど、シャツを脱いでいた僕に、浴びせられる破片は痛く、所々、血が滲む。
「いてっ・・・」
”もう手遅れみたいだね・・・”
そのレシラムのセリフが聞こえた瞬間、ガン、と僕の後頭部を激痛が襲った。頭の中で半鐘がずっと鳴り続けてる、そんな痛みだ。
「うぐぁ・・・」
たまらず僕はその場に倒れこみ、すがるようにレシラムの白い毛並みを掴む。
”ほら・・・危ないだけじゃない”
諦めを諭すレシラム。
「ただ死ぬのを待ってても・・・だめだろぉ・・・」
弱りゆく僕。諦めない、という意志も・・・もう届かないかもしれない。
”ねぇ?”
「うぁ?」
呼びかけに、かろうじて応える。もう返事もろくに出来やしない。
”なんで助けてくれるの?”
「困ってる・・・人を見ると・・・放ってはおけないタチなんで・・・」
レシラムの問いに、息も絶え絶えに答える。不意にレシラムの青い瞳が僕を捉えた。
”そっか・・・私のこと・・・助けてくれる?”
「うん・・・」
無理だと思った。けど、出来るか出来ないかじゃない、やるかやらないかだ、という意気で、僕は答えた。
”まだ・・・生きる価値はあるかな・・・私も・・・君も”
ふと僕の血の滲む身体に、優しいレシラムの毛並みが覆い被さってきた。
”ちょっと熱いけど・・・我慢してね”
「え?」
レシラムは狭い空間に、立ち上がると、尻尾から青い焔を吹きだした。僕は痛みで、熱さを感じる余裕がなく、ただレシラムに抱かれて、じっとレシラムがコトを終えるのを待つだけだった。
柔らかいレシラムの毛並みに、ただじっと身体をゆだねる。とても気持ちが良くて・・・天国みたいだ。

僕が最後に見た光景は・・・信じられないかもしれないけれど、レシラムが僕と同じか、それより小さくなって、それでも全てを燃やしつくすために火を放ち続けるというまるで現実とは思えないものだった。



”ゲームオーバーってところだね?”

ん・・・誰?目の前が真っ暗で何も見えない。

”神様だよ。”

神様?

”このストーリーを紡いでる神様だよ。”

何の用なんだ・・・死んだ・・・はずなのに。

”君は死んではいない。けど、2つ、道を用意してあげた。これからの道を。君が自由に選ぶべき道だ。2つしかないけどな。”

選ぶ?道を?

”1つは記憶も全て消えて1からリセットする、またゲームに戻る道。もう1つは筋書きのない道を歩む・・・君が経験してきた現実の続き。”

選べ、というのか?

”そうだ。1から始めれば、また新しく仲間を作ることが出来るし、今までストーリー任せだったことも、自分の感覚でまた感じることが出来る。”

・・・僕は今まで・・・自分の意思で何かを感じてきたことはなかったのかもしれない・・・また1から始めれば・・・

”2つ目の道は、火事で燃え尽きた瓦礫の中からスタートだ。助かるかも?死ぬかもしれないけどな。”

死ぬ・・・

”最初の道を選べば、全て筋書き通りに上手くことが運ぶ。後の道を選べば・・・どんな困難が待ち受けているかはわからない。”

僕は・・・僕はどうすれば・・・悩むけど・・・悩む前に今までしてきたことのケリを付けるべきかもしれない。

”さ、覚悟はできたかな?”

続きの道を・・・

”ん?度胸があるな?ようし、いいだろう・・・現実の続きの始まり始まり・・・”

うぁぁ・・・まぶしい光が・・・僕を包んだ。


ん・・・僕は目を覚ました。朝にはなっているけれど確かにさっきの続きの世界だ。灰色に染まった世界。頭はまだ少し痛む。光は十分差し込み、脱出できないわけではなさそうだ。
腰に毛布のようなものが被さっていて、仰向けに倒れている僕を風邪から守ってくれていたみたいだ。
「いてて・・・」
傷に汗がにじんで、とても痛む。頭は運よくこぶが出来ただけで、血とか記憶障害とか、危なそうな怪我はしていない。
”けほけほっ・・・”
可愛らしい咳の音が聞こえてきた。僕の身体に覆いかぶさっていたのは布団ではなく、土砂の粉末を浴びて灰色になった・・・
「レシラム?」
僕はわが目を疑った。ついぞさっきまで僕の体長の2倍近くあったレシラムは、今では僕の体長の3分の1くらいしかない。
違うポケモンになったのか?ちいさくなる、なんて技を覚えてるわけないし。
”んっ・・・”
ぱちっと目を覚ましたレシラムは、澄んだ水色の瞳で、僕をじーっと見てる。
「おはよう。」
”おはよぉ・・・ふぁぁ・・・”
身体が小さくなったことにレシラム自身もあまり驚きがないのか、あくびをして、いたって普通に僕と喋る。
”んーっ・・・”
ぶるぶるとレシラムが身体を振れば、付いていた土砂や瓦礫はふるい落とされ、乱れた白い毛並みが見えるようにはなった。
「大丈夫?痛くない?」
”だいじょうぶ・・・ありがと。”
僕がレシラムの頭を少し撫でれば、瞳を細めて、どこか嬉しそうにしている。
「ここから早く出ないとな・・・」
”そだね・・・この身体じゃ、私は脱出できても、君を連れていくのは難しいし。”
小さくなった原因が自分でもわかってるのか、レシラムはいたって楽しそうに振舞う。
「ちっちゃくなったのに・・・驚きはないの?」
”君の・・・君のせいなんだからね・・・”
僕のせいか・・・こんな展開になれば、そう言われるのも覚悟の上だ。
”あの時出した炎は・・・私を形作る魂で・・・あれだけ大量に出せば、身体もこーんなにちっちゃくなっちゃうんだから。”
すっくと立ち上がって、嬉しそうに翼を広げてくるくる回るレシラム。
「ごめん・・・」
”ううん。責任とってもらう。”
責任?うぅ・・・命取られるとかかな?せっかく生きてたのに。
「ちょっと待って・・・」
僕は逃げようと思ったけど、ちっちゃいレシラムはまた僕に覆いかぶさって逃げれないように身体を抑えつけた。けれど、レシラムは体重も軽くなっているみたいで、普段の僕なら軽々動くことができそうだった。
”これからずーっといっしょにいてもらいます。”
「へ?」
命取られる、とばっかり思っていた僕に、レシラムのその言葉はとっても意外だった。
”嫌?”
「いいえ。とっても光栄です。」
嫌?とか聞かれたらこう答えるしかないじゃん。レシラムは結構おてんばな女の子みたいだ。汚れた白い毛並みでも、そんなことお構いなしに、楽しそうだ。
ふと、僕の脳裏にミズが思い浮かんだ。
「ミズは無事なのかなぁ・・・」
ミズは生きているんだろうか・・・無事地上に降りれたのかな・・・
”ミズって?”
「ダイケンキのこと。旅の最初からずっと一緒に居るの。」
”ふぅん・・・大丈夫だよきっと。”
レシラムは僕を元気づけてくれた。自分の置かれてる状況、瓦礫の山に上半身裸の男と取り残されてるっていう状況など、あんまり気にしていないのかも。
「どうやって脱出するの?」
”誰かが来てくれるの、待てばいいと思うよぉ?”
お気楽だなぁ・・・
「そうそう、ひとつ聞きたいんだけど。」
”なぁに?”
無邪気な笑みを僕に向けるレシラム。
「君って女の子?男の子?性別なし?」
僕の問いに、レシラムは翼で口元を抑えてクスッと笑った。そして僕を覗きこむ。いつしか僕は、レシラムの水色の澄んだ、つぶらな瞳に吸い込まれそうになってる。
”女の子だよ。一応分類上はね。”
女の子かぁ・・・見たまんまのイメージだな。可愛いし・・・そうであって凛々しいし。
”おどろいた?”
おどけて見せるレシラム。僕はこんな状況にありながらも、レシラムの元気さに勇気づけられていた。
「ううん、見たまんまだなって。」
僕がそう言うと、嬉しいのかレシラムもクスクス笑う。
「仲が良くなったところで・・・そろそろ出たいな・・・」
”そだね・・・さすがに退屈だよね。”
レシラムはすっかりニコニコして、僕のお腹の上でべたーっと寝そべっている。もふもふした毛先が、肌に当たってくすぐったい・・・
「あの・・・」
”ん?”
ひょこっと顔をあげて、僕を上目遣いで見るレシラム。無防備すぎて、僕はドキッとしてしまう。
「くすぐったい。」
”あぁ・・・ごめんなさい。”
レシラムは申し訳なさそうに僕のお腹の上から退いた。でも、退いたら退いたで、お腹が寒い・・・
「へっくし!」
”・・・”
何か言いたげなレシラムの視線を感じつつ、僕は3回ほどくしゃみをした。
「へっくし!」
”えへへっ・・・寒いんじゃん。”
「さむい。」
ぎゅぅ・・・
”わぁっ!”
あまりの寒さに鳥肌を立てた僕は、レシラムが無邪気に笑うのを見て、思い切り抱きついてしまった。けど、僕もレシラムもくっついたらくっついたで、磁石のようにぴったり付いたまま、離れない。

「柔らかいなぁ・・・暖かいし。」
レシラムはさっきから僕の首筋を何度か舐めてくれる。そしてそのたびにしょっぱい顔をした。汗のせいだろう。
”君も・・・暖かいよ。”
「そう?」
”うん。”
変なムードだけど、僕もレシラムも、すっかり安心しきって、お互いの身体を重ね合わせた。
レシラムの白く暖かい毛並みが、僕の孤立した心境を、安堵へ導いてくれる。・・・時間など、消えてしまいそうになるほど。

「ごしゅじんー!!」

ふと聞き慣れた声が耳に飛び込んできた。
「ミズだ・・・」
”助けに来てくれたんじゃん。”
僕たちは自然とくっついた身体を離して、立ちあがる。
「おーい!!」
必死に声を出すと、すぐに大穴の端っこからミズが不安げな顔を浮かべて覗いてくれた。
「ごしゅじん・・・ごじゅじんーっ!!」
ミズはすぐに僕を見つけてくれ、僕はすぐに奈落のような穴から引き揚げられた。久しぶりの太陽はとても眩しかった。
「た・・・たすかった。」
ばたっ・・・
「ご主人!」
けど僕は引き揚げられたとともに、疲労困憊ですぐに意識を失った。僕を支えてくれたパートナーのことを気にする余裕が出来る前に・・・


「・・・ごしゅじん?」
ん・・・うぁ・・・まぶしい。白い光とともに、天井が目に飛び込んで・・・蒼い顔に・・・赤い瞳。
「み・・・みず?」
「水ですか?すぐ持ってきます!」
ミズはそう言って僕の前から居なくなった。身体を起こすと、いつの間にか着させられているシャツの下に、絆創膏がベタベタ張ってあることに気付いた。
「いてて・・・」
頭のこぶはすっかり引けていたけれど、やはり生傷は痛む。
「ん?」
ふと僕は、ベッドの傍の机に、白い羽根があるのに気付いた。たぶん、汗で僕のお腹に張り付いてたんだろう。
「・・・」
そして、自分がしなければならないことを思い出した。

ガラガラ・・・
「ご主人!水っす!」
「ミズ・・・ごめんちょっと出かける!」
「え!ちょ・・・待ってくださいっす!」
僕は病室を飛び出した。ミズは僕のあとを必死に走って付いてきてくれた。

僕はただがむしゃらに走る。・・・自分の全てを満たしてくれたレシラムのために。空白も、暗闇も・・・

傷が時折痛むけれど、そんなの気にならない。というより、気にしている自分が嫌いだ。

約束したんだ。ずっと一緒に居るって。約束は守る方じゃないけど・・・この約束だけは絶対に守りたい。


すさまじい勢いで走っていると、病院は僕たちがいた瓦礫の山からあんまり遠くない、という事実に気付いた。
後ろからはドスドスと、ミズが重たい身体を引きずって僕を追いかけてくれる。ミズも脚は遅くないほうだから、うかうかしていたら、多分追いつかれる。

「ごしゅじんーっ!」


ミズが必死に僕を呼んでいる。

けれど僕は止まるわけにはいかない。

痛みをこらえて走る僕の視界に、瓦礫の山が目に入った。僕はすかさず自分が居たという証を探す。

一番・・・大きな穴だ。

”来てくれたんだ・・・”
ふと僕の耳に、聞き覚えのある声が響いた。すぐさま声のした方を向いた。

「れしらむ・・・」
僕はぽろぽろと涙を流して、薄汚れたぬいぐるみ、と形容するのがふさわしいレシラムにぎゅっと抱きついた。
”やくそく・・・”
「ああ。ずっと一緒に居るから。」

再会を喜ぶ僕たち。ミズは追いかけてきているはずなのに、僕の近くにはやってこない。

けど・・・そんなことどうでもよかった。

レシラムは小さいままだけれど、僕に精いっぱいの力で抱きついてくれた。僕も嬉しくて柔らかい毛並みをぎゅっと抱きしめる。
涙で視界はぼやぼやしてる。現実かと疑うけれど、そのレシラムもぷるぷる震えてる。・・・泣いてるのかな?


僕はその後ミズにレシラムと一緒に病院に連れ戻され、退院するまでの間、ミズとレシラムと僕とで過ごすことになった。


東からの日差しに、カーテンを閉めていないとまぶしい僕の病室。
「うーん・・・」
病室のベッドに転がっている僕。荷物をまとめて、いつでも退院できるような準備を整えている。
そして僕のベッドの傍にはまだ薄汚れたままのレシラムが、お見舞い客用の椅子に乗っかって、すぅすぅ眠っている。
傍から見ていると、結構器用に眠っている。一応身長も60センチくらいはあるし、尻尾まで含めると80センチはあると思う。それが椅子の上で小さく丸まって眠っている。

病院に来てからというもの、レシラムは僕以外の人間を威嚇して、なかなか近づけないようにしている。だから看護師さんがレシラムを洗おうとしても、触ることもできない。
威嚇しているときのしぐさも結構可愛いもんで、睨む、噛みつく、泣き脅し、などいろいろやってる。
”ふぁぁ・・・”
眠りながら大あくびをしたレシラム。
ミズも威嚇されたくない、って言ってどこかへ遊びに行ってしまった。たぶん近くの公園だろうけど。

がらがら・・・病室のドアが開いて、お医者さんと、看護師さんがやってきた。
「もう今日にでも退院していいですから。」
「あ、ありがとうございます。」
よかった。ようやく退院できるみたいだ。健康なのにベッドに束縛されるのは、退屈なことこの上ない。そんな僕の心を安堵が包む。
「ところで・・・」
お医者さんは、不意にレシラムに目を向けた。
「一人でたまにぶつぶつ喋ってる時があるれど、この仔と喋ってるの?」
「はい。」
ふぅん、と首をかしげるお医者さん。もしかして・・・レシラムの声聞こえてないのかな。
「いやね、君が喋ってても、この仔はミュイミュイ言ってるだけなような気がして・・・」
もしかして、僕がずっと独り言喋ってたってことなのかな。レシラムと話してるような感覚になってただけで・・・レシラムと二人っきりだった状況が、僕の心をそうさせたのかな。
お医者さんと看護師さんは、僕が悩んでいる間に、病室から出て行ってしまった。
「はぁ・・・」
そう考えると・・・落ち込むなぁ。僕は服を着替えようと、シャツを脱ぎ捨てた。
”ふぁぁぁ・・・”
また、大あくびをしたレシラムは、今度はぱちっと目を開いた。
「おはよう。」
”おはよっ・・・”
レシラムの声は、いつもと同じ、元気で可愛いものだ。少しあくびをすると、すっと顔をあげた。
「あのさ・・・」
”ん?”
僕が呼びかけると、レシラムは興味津津、僕の瞳をじっと見つめる。
「君の声って・・・君が出しているの?」
”そうにきまってるじゃん。”
くすくす笑うレシラム。僕の問いが可笑しかったんだろうか・・・ひょっとしたら僕自身の妄想の産物だった、という落胆は、完全に吹き飛んだ。
”ただ・・・君にしか聞こえないと思うけどさ。”
「へ?」
僕にしか聞こえない?どういうことなんだろうか。
”私は君と、君は私と、意志の疎通がしたい、と思ったから話せるんだよ?”
嬉しそうなレシラムは、すっくと立ち上がって、そのまま椅子に腰かけた。僕はレシラムが言った言葉の意味を考える・・・いや、考えなくても、とてつもなく嬉しいことだ、というのは直感で理解できた。
「それって・・・」
”これからずっと、よろしくね?”
その言葉に応えるように、僕はまだ上半身裸のまま、レシラムにぎゅっと抱きついた。びくっと身体を震わすレシラム。
”わぁっ!”
「よ、ろ、し、く~・・・」
薄汚れたままだったけど、温かい感じも、柔らかい毛並みも、初めて抱かれた時と変わらない。
「ひゃっ!」
首筋に冷たい感触がした。ふと横目でレシラムを見ると、瞳を細めてニコニコしてる。
「ひゃ・・・」
また首筋を舐められた。でも、なんだかとても落ち着くなぁ。

ガラガラ・・・
「ごしゅじん!」
ミズの声がしたので振り返ると、少し唖然としてた。けれど、僕は気にせずにくっついてるレシラムを軽々持ち上げると、ミズに紹介する。
「ああ、ミズ。紹介するよ・・・この仔は・・・」
”仔っていうけど、君よりもよっぽど長生きしてるよ?”
だよねぇ。今までの会話を考えなくても、レシラムの方がよっぽど長生きしてると思う。一応伝説のポケモンだし。
「ごめんな。」
不満そうに言うレシラムの頭を僕が撫でると、レシラムは嬉しそうに頭を首元に擦りつけてくれる。小さくなったレシラムの顔は、僕よりも小さくなって、そしてというか相変わらず凛々しくて可愛い。
「ミズ・・・というわけで新しい仲間だ。」
「名前は?」
ああ、そういえば、レシラムに名前を付けてあげようかな。
「名前いる?」
”うん。一緒に生活するんだもん。”
「そっか。」
とっても嬉しそうなレシラム。僕はレシラムを抱きながら、名前をしばらく考えることにした。
「名前・・・」
ずっと抱いてて思うけど・・・白い毛並みは豊かだし・・・温かいし・・・羊みたいだな。ひつじ・・・めりーさん。メリーってのもなぁ・・・うーん・・・
Merry?Meli・・・メイ・・・メイにしよう。
「きまったぞ。」
”ほんと?”
嬉しそうに顔をあげて、僕をじっと見つめるレシラム。宝石のように澄んで輝く水色の瞳は・・・本当に吸い込まれそうだ。
「ああ。君の名前は・・・」
僕は少しじらすように言ってみる。けれどレシラムも、ミズも僕をじーっと見てる。
「メイって名前はどう?」
「メイ?」
首をかしげるミズ。
”ありがとう・・・すっごくいい名前じゃんか・・・”
むにゅ・・・僕は驚いた。僕の頬にした温かい感覚・・・それはレシラム、いやメイの吻が当たって・・・キスしてるみたいな感じになってる。
「メイってことは・・・♀か?」
ミズは小さな声で僕に聞いてきた。実はメイの性別が気になってたのかな?僕はメイを抱いたまま、ミズの問いに答えた。
「そうそう。」
「ふ、ふーん・・・」
珍しくびっくりした顔してるミズ。
「ささ、早く着替えて帰りたいから・・・」
メイは仕方ないなぁ、と呟くと、僕は椅子にメイを降ろした。するとまたメイは椅子の上で丸まってゴロゴロしてる。
”そうそう・・・”
「ん?」
着替えのシャツを着ようとする僕を、メイは呼ぶ。
”君の・・・名前・・・”
「僕の名前?」
そう言えば、僕は自己紹介をメイにしたことなかったな。これは失礼した。
「僕の名前はユウって言うの。メイ、よろしくね。」
にこっとメイに微笑みかけると、メイも身体を起こしてまぶしい笑顔を浮かべた。
”よろしく・・・ユウ。”
「よろしく。」
僕はメイの頭を撫でる。メイは翼で僕の手を掴むと、ぺろっとひと舐めして、また離した。
”えへへ・・・”
恥ずかしそうで・・・でもとっても嬉しそう。僕まで幸せな気分になってくる。

僕は再び着替えを始めた。時計を見ると・・・まだ11時。

僕はお医者さんにお礼のあいさつを言うと、病院を後にした。

土の道を踏みしめて歩く僕とミズ。メイは僕が肩車してる。その変な光景のせいか、さっきからチラチラ、道行く人が僕たちをじーっと見つめている。
”ねえねえ。これからどこ行くの?”
「これから・・・」
僕はふと思った。これからどこに行けばいいのだろう・・・と。神様は自由な道をくれたし、ゲームに拘束されることももうない。
と、なると、帰るべき場所はただ一つ。
「僕の家に帰るの。メイも身体を綺麗にしないといけないしね。」
”おうち?”
「うん。」
僕の頭の上で、メイはふーん・・・とどこか不安げな表情を浮かべた。きっと見知らぬ場所で暮らすのが不安なのだろう。
「大丈夫だって。」
そっとメイの尻尾をさする。するとメイもうん、と小さく頷いてほほ笑んでくれた。
「でも、ご主人のお母さんって・・・ポケモン嫌いなんじゃ。」
ミズの一言に、メイはまた不安そうな表情を浮かべた。そう、ミズの言うとおり僕の母さんはポケモンが苦手だ。
ウチにはよく野生のヨーテリーが現れては庭の作物を荒していくから・・・母さんはポケモンが嫌いになった。そんな中、ミズは唯一、嫌われていない貴重なポケモンである。
”はぁ・・・”
「大丈夫だって。」
ため息をつくメイを何度か励ますけれど、メイは虚ろな瞳で遠くを見た。


僕たちはその後電車を乗り継いで、自分の家であるカノコタウンに戻った。ミズとメイももちろんそのまま一緒に電車に乗る。


太陽もすっかり西に傾き、僕とミズはくたくたになった。脚が棒になったみたい。
”くぅくぅ・・・”
いいなぁ・・・メイは。僕の頭にしがみついて、嬉しそうに眠ってる。僕の子供みたい。僕の頭はとても重い。首が疲れる。
・・・さすがにもう周囲の奇異な視線には慣れた。電車の中でも子供はぬいぐるみ抱いてる変な人がいる、って言うし、大人は大人でメイに触りまくって威嚇されてるし。
メイも疲れるよな・・・そりゃ。

「ご主人・・・もうおうちですね。」
「ああ・・・久しぶりに・・・帰ってきたんだな。」
僕は何カ月かぶりに、家に帰ってきた。少なくとも半年は経ってる。僕は家の鍵を開けて、ゆっくりと家に入った。
「ただいま~・・・」
すぐさまどたどたという音が聞こえて、母さんが出てきた。相変わらず、とても元気そうだ。
「あら!お帰りなさい!って・・・その頭にくっついてるぬいぐるみは何なの?」
母さんはすぐにメイに気付いた。
「この仔はメイって言うの。」
僕は顔をあげて、視線をメイの顔に合わせる。
「ぬいぐるみじゃないんだ~・・・あ~。」
母さんはそう言うと、黙ってミズの頭を撫でた。
「お帰り。大きくなって・・・すっかりキモくなくなったわね。」
感心したように言う母さんだけど、ミズのショックは計り知れない。
「き、キモくなんてなかったですよぉ!」
効果は抜群だ。ミズは泣いてしまった。僕はミズの背中をさすると、しょんぼりとしたミズは、とぼとぼ歩いていった。
「母さん!」
「あぁ、ごめんごめんついつい・・・」
毒舌を自分でも理解できてるらしく、母さんはテヘッと笑う。
”うぅん・・・”
環境が変わったことに気付いたのか、眠ったままのメイは少し唸る。
「降ろしなさいよ。いつまでもそのままじゃ可哀想でしょ。」
「そうだね。」
久しぶりの再会の感動もそこそこに、僕はメイをリビングのソファーに降ろし、その傍に僕は腰掛けた。
「可愛いじゃない。」
「うん。」
母さんが珍しくポケモンを褒めるもんだから、僕も嬉しくなって、眠るメイの寝顔をじっと眺める。メイはすぅすぅ可愛い寝息をたてて、呼吸でゆっくりと震えている。
「ふぁぁ・・・」
ついついあくびをしてしまった僕。幸せそうに眠るメイを見ていると、心が落ち着くなぁ。
「疲れたのね・・・ユウも早く寝なさい。」
「うん・・・」
僕も母さんの言葉そのままに、メイの傍で眠ることにした。


”うぁぁぁんっ!”
ん?め、メイ?メイの悲鳴がする・・・夢?
”ゆぅ・・・たすけてぇ!”
メイが僕を呼んでる・・・夢なんかじゃない・・・現実だ。
「んっ・・・」
僕が目を覚ますと、隣で眠っていたはずのメイが居ない。
「メイ!」
”ゆぅぅ!”
僕の呼び掛けに、必死の声で応えるメイ。夢ではなく現実にメイは僕の助けを欲している。
「待ってろ・・・」
すぐ近くだ、と思った僕が台所に行くと・・・僕は目の前の光景に絶句した。
”たすけてぇ・・・”
「メイ、ちょっと待ってろ。」
メイは尻尾を縄で縛られ、冷蔵庫の前で宙づりにされている。つのもだらーんと垂らして・・・
「母さんだな・・・」
母さんは外出する時、必ず食糧のある場所の近くに罠を仕掛ける。これも以前、ヨーテリーがガラスを割って家に侵入し、冷蔵庫を荒していったという教訓からだ。
”ゆぅ・・・はずしてぇ・・・”
今までの強そうな感じだったメイはすっかり消え失せ、弱気にバタバタ翼と脚を振りまわしているだけだ。白の身体をぶんぶん振りまわすメイは、涙をぽとぽととこぼす。
縄は尻尾に固く絡みついて、無理に引き抜くととても痛そうだ。効果がないのを理解していながらも、メイは頭もつのも必死にほどこうとしてぶんぶん振っている。
僕は縄の引っかかった尻尾をゆっくりと解いていく。もちろん、メイが床に顔を打ち付けないよう配慮しないと。僕はメイがいつ落ちてきても問題ないようにお腹をメイの真下に構える。

縄が一本外れた。まだメイは落ちる気配すら感じない。安心して、僕はまた指を進めていく。

ぎゅっ・・・
”ふにゃぁっ!”
二本目の縄が外れると、ぶらんぶらんと大きくメイは身体を揺らして、宙づりの身体を震わせる。
”こわいよぉ・・・”
「あのさ・・・」
涙声で声を震わせるメイに、申し訳ないと思ったけれど、僕は1つ、どうしても聞きたいことが出てきた。
”なぁに?”
「縄を燃やせば・・・」
”そんなことしたら、ユウの家まで燃えちゃうじゃんか・・・”
すっかり意気消沈したメイの声。一方の僕はそんな簡単なことにも気づいてなかった。
「ごめんな・・・あとでなんでも言うこと聞いてあげるから。」
”うん・・・”
僕は三本目の縄をほどいた。
どしゃぁん・・・
”きゃぁっ!”
「ぐほっ!」
メイは僕のお腹にストレートにヒットした。けど僕はすぐにメイの顔を見つめた。
「大丈夫か?」
”うん・・・ユウこそ・・・”
メイは少しおびえている、けど、僕の顔を見るなり、また安堵の表情を浮かべてくれた。
「僕は大丈夫だよ。」
正直、少し痛かった、しかしメイの笑顔を見ている方が、僕は幸せだ。だから我慢することにした。メイの水色の瞳はうるうると潤んで・・・また今にも泣きだしそうだ。
”ありがとぉ。”
ぎゅっと僕に抱きついてくれたメイ。恐怖から解放されたばかりだからか、小刻みに震えている。
「どういたしまして。」
僕は微笑んで、お礼を言った。メイは2,3度首を横に振った。僕はメイの身体をそっと抱いて、メイが離して、と言ってくるのを待つことにした。
何度もメイの身体を撫でる。僕の心は、すっかりメイの虜になっている。

メイは温かいなぁ・・・本当に。僕はそっとメイのつのに頬ずりをする。つの、といっても固いものではなく、柔らかくて白い毛におおわれてて、マフラーみたい。
何度も頬ずりするうちにメイも瞳を細めて僕の胸元に頭をすりすりと擦りつけてくれた。
そう言えば、と僕は思い出した。まだメイは薄汚れたままだ。早いとこお風呂に入れてあげないとな。
「メイ・・・お風呂入る?」
”えっと・・・もうちょっとこうしていようよぉ。”
僕のシャツに顔を埋めて言うメイに、僕は仕方ないな、という感じに返事をしたけれど、本当はとても嬉しい。ぎゅっとくっついたまま、一緒に居るというのは。

「幸せ?」
”しあわせ~。”
不意な僕の問いに、なごんだ表情で答えるメイ。そんなメイを僕は時折強く抱きしめたり、手で優しくさすったり・・・メイもぐいぐいと白い毛並みを僕の身体に押し付けてくれる。

とことこ・・・抱き合ったままどれだけ時間が経ったかわからなくなった頃、僕の耳に足音が聞こえてきた。
「ご主人?」
どうやらミズがやってきたようだ。僕はよいしょっと、という声を出して、メイをお腹の上に乗せたまま上半身だけ起こした。
メイは僕が上半身を起こすと、服の上をズルズルすべって、翼で僕の服を掴んで流されまい、と更に密着している。
「こらこら・・・」
僕はメイの脇を掴むと、そのまま抱きあげて、メイが望むようにまたくっついた。ミズは苦笑いして僕たちを見つめている。
「ご主人・・・お風呂入るんじゃないんですか?」
ああ、そうだった。ミズもメイも僕も旅から帰って汚れたままだ。
「母さんどこ行ったか知ってる?」
「買い物・・・って言ってましたけど。」
「そうなんだ。」
買い物か。通りで雰囲気すら感じないわけだ。
「メイが起きた時、母さんいた?」
”母さんって?”
首をかしげて不思議そうな表情のメイ。けど僕は思い出した。家に帰ってきたとき、メイは眠ってたんだな。
「えっと・・・ここは僕の家で、母さんと一緒に暮らしてる。」
”ふぅん・・・”
なるほど、という具合に頷いたメイ。
”私が起きて・・・どこだろうと思ってうろうろしてたら・・・尻尾から宙づりになっちゃった。”
俯いたメイは恥ずかしそうにほほ笑む。ミズもケラケラ笑う。ごめんな、と思い僕はそっとメイの頭を撫でる。
「ご主人の家は、留守の時は必ずトラップ仕掛けられてるから、ご主人と外出するのがベストっすね。」
メイはこくっと頷いて、僕の背中に翼を回すと、ぎゅっと抱きついた。僕がたちあがりやすいようにしてくれたみたいだ。
「ようし、じゃ、お風呂入ろうか。」
僕はしがみつくメイを手で支えながら、すっと立ち上がる。
「行きましょう、ご主人。」
僕は脱衣場に着替えを用意し、メイとミズを浴室に先に入れた。

浴室で僕の裸体をじーっと見つめるメイとミズ。かなり恥ずかしい。
「なに見てんだよ・・・」
「逞しい男の体つき・・・とは程遠いっすね。」
ミズの冷やかしに、やせ形の僕は、少し不機嫌になる。けれど、ミズも承知の上だ。
「るさい。」
クスクス笑うミズ。けれどメイは僕をじっと見つめたままだ。
「メイ?どした?」
”んー・・・かわいいなって。”
「はぁ?」
メイはこういう趣味があるのか?まさか・・・と悩む僕に、メイは顔を赤らめて俯いてる。
「ささ、身体洗うよ。」
僕は桶に浴槽のお湯を入れると、バシャっとミズとメイにお見舞いした。突然、お湯を浴びせられて、ミズもメイも驚いて呆然としてる。
”ふにゃぁっ!”
「うほぁ!」
メイにいたっては身体をぶるぶるふるわせて犬みたいに水をはじいてる。
”う~っ・・・”
不満そうなメイ。
「じゃ、ミズから身体洗う?」
「自分で洗うっす。」
ミズの身体を洗うことは・・・結構久しい。自分で洗えるようになっていたし、旅の最中にお風呂に入ることも、まぁ少ないから。
自分で洗う、と言ったミズはシャンプーをタオルに浸けてゴシゴシと泡立てると、首周りから自分の身体を真っ白な泡に染め始めた。
僕は、メイに尋ねる。
「身体洗うけど・・・シャンプーどれ使う?」
”ふぇ?”
可愛く首をかしげるメイ。僕はすかさず3つ、シャンプーを取りだした。
1つは毛並みが豊かなポケモン向けのシャンプー。ただ香りが悪く、安価。2つ目は毛並みをあまり気にしないポケモン向け。ミズはこれを使ってる。安価で、香りもいい。
3つ目は高いシャンプー。用途はさまざま。低刺激で、泡立ちもよく、香りもいい。

それをメイに説明していると、メイはうーん・・・と悩んでいるみたい。
「高いやつ使っちゃえよ。」
”いいの?”
「当たり前じゃん。」
”ありがとぉ。”
僕の言葉に、ぱぁっとまぶしい笑顔を咲かすメイ。可愛い・・・
「じゃ、先に身体をよく濡らすから。」
”うん。”
シャワーはミズが使っていたため、僕はさっきの桶に、またお湯を汲んで、ゆっくりメイにかけて、濡らしていく。
”うにゅ・・・にゅ・・・”
可愛い声を出すメイは、ちょっと恥ずかしそうだ。
「もしかして初めて?」
”・・・うん。”
頬を赤らめて言うメイに、僕は嬉しくなって喉元を撫でた。メイがうつむきながらも口元を綻ばせたのが、僕にも見えた。
ばしゃばしゃ・・・
十分濡らしたかな?と思った僕はシャンプーのヘッドを2,3回押して、それを泡だてる。
”ふにゃ!”
石鹸を付けた手で、身体に触れただけでも、メイは可愛い悲鳴を上げた。
「ごめんな。」
”ユウが謝ることじゃないから・・・”
メイにありがとな、とだけ言うと、僕はメイの薄汚れた身体を泡まみれにしていく。
”うにゅぅ・・・くすぐったぃ・・・”
シャンプーを付けた手を毛並みに潜らせ、地肌を洗おうとすると、そのたびに身体を震わせるメイ。僕のやり方が悪いんだろうか・・・でもミズは今まで不満を言ったことないしなぁ。
「我慢して。」
僕はそうとしか言えない。翼・・・身体・・・ぐしゅぐしゅと毛並みを揉んで、洗っていくうちに、灰色の汚れが流れ落ちていく。
”ふにゅっ・・・うにゃぁ・・・”
プルプル震えて、少し涙声のメイ。よっぽどくすぐったいんだな。僕はメイの脚を洗うと、続けて股間にまさぐりを入れようとした。
”やだっ!”
ベシッ!
「ふぐぅ!」
メイの脚が僕のお腹に見事にヒットした。僕は痛みで一瞬何が起きたか理解できず、掴んでいたメイの身体をどさっとふと場の床に落としてしまった。
”きゃんっ!・・・痛ぃ。”
「いたた・・・」
蹴られて痛がる僕と落とされて尻もちをつき、痛がるメイ。ひとまず僕はメイが怒ったのかな?と思って謝ることにした。
「ごめんな。」
泡だらけの身体を起こして、メイは僕をじっと見つめる。
”いいの・・・ただ、その・・・そのね・・・”
メイは僕を許してくれたけど、俯いて、その後の言葉に詰まった。僕はメイの言葉の続きをじっと待つ。
”私も・・・”
「女の子?」
”うん。”
なんとなくメイの言いたいことは理解できた。恥ずかしいみたいだ。でも・・・これからずっと一緒に居るって・・・言ったんだけどな。
「恥ずかしいの?」
”うん。”
「これからずっと一緒だよ?」
”うん。”
「じゃあさ、自分でする?」
”・・・でっ・・・出来ないもん。”
あらあら・・・泣きそうだ。これ以上追い詰めるとまずいなぁ。僕を見つめるメイの瞳はうるうると潤んで、入ってくる光がきらきら輝いている。
仕方ないなぁ・・・僕は賭けに出てみることに。
「僕のこと・・・嫌いか?」
”ううん。好きにきまってるじゃん!”
僕にとって待望のセリフを言うと、メイはぽろぽろ涙を流し始めた。僕はメイの背中に腕をまわして軽く抱いた。
「ごめんなぁ。」
首を横にプイプイ振りながら、ぷるぷると震えるメイ。身体を洗い終えたミズは僕たちをじっと見ている。
「ご主人・・・先に出てるね。」
「ああ。」
やりとりにうんざりしたみたい、ミズは風呂場から出て行ってしまった。

「どうしよっか。」
風呂場に二人っきりのメイと僕。メイは泣きやむと、僕をじーっと見てる。
”洗ってもいいよ。”
「へ?」
突然の快諾に、僕は少し戸惑う。
”二人っきりのときなら・・・”
「あ、そう。」
そんなに僕以外にそういうことをされる、見られるのが嫌だったのか、と僕は少し笑む。
「そいじゃ、続けようかな。」
僕は再びシャンプーを手に出して、泡だてると、まず尻尾から、攻めることにした。僕は手をメイの尻尾の毛並みをまさぐり、リングごとぐにぐにと揉みしだいた。
”ふんにゃぁ!ふやぁぁ!”
すっかり悲鳴みたいに、可愛い声出してるメイ。恥ずかしい意識も皆無のようで、惜しげもなく嬌声を風呂場に響かせる。
ぐにぐに・・・僕はそのまま背中、そして下腹部、と泡の範囲を広げる。
”ふぁ・・・”
ぐいっ・・・僕がメイの突起状の毛並みに手を伸ばした時だった。メイはふいに翼で僕の腕を掴んだ。
「メイ?」
”何でもないからぁ・・・”
どこか瞳が虚ろだ。僕がそっとその突起状の毛並みを揉みしだくと、メイは身体をぶるぶるふるわせて、耐えきれなくなったように僕に身体を預けてきた。
「こーら・・・もう少しだから。」
”うにゃぁ・・・”
僕は風呂場のマットの上に、泡だらけのメイを仰向けに寝かせた。すっかり借りてきた猫のように弱ったメイ。初めて会った時の、強さの片りんなんて・・・全く感じない。
濡れてほっそりした脚。こうしてみると、結構女の子らしい華奢なところがある。
”もぉ・・・はやくしてよぉ。”
顔を紅くして、恥ずかしそうに僕に訴えるメイ。けど、上目遣いで見られる僕も、かなり照れる。
「ああ。ごめんごめん。」
僕はぐしゃぐしゃとメイの下腹部を泡だらけにしていく。メイはぱたぱたマットの上を暴れている。
湿って泡だらけになった突起状の毛並みをまさぐり、様子をよくよく見ると・・・毛並みの中ほどから後ろの端を少し過ぎたところまで、ごく薄いピンクの一筋が見えていた。
・・・なるほど。突起状の毛並みは、メイの女の子の証を守る、大事なものなんだな。
僕は最後に顔を泡まみれにし、メイを泡の塊にした。
「はい。終わったから。流すね。」
”うんっ。”
僕はシャワーの温度を確認すると、嬉しそうに頷いたメイにシャワーを浴びせる。マットの上をまたバタバタ暴れてるけど、僕はメイを抑えて、くすぐったいところにもシャワーを浴びせる。
”うにゃ・・・”
メイの汚れはみるみる落ちて、徐々に純白の毛並みが露わになっていく。白く、けれど艶があり、温かみのある・・・そんな色だ。驚くほど・・・綺麗だ。
「おお・・・すっごく綺麗。」
”ありがとー。”
とっても嬉しそうにほほ笑むメイ。
「湯船に浸かる?」
”うん。”
僕はメイを抱えて、湯船につかった。
”ふぅっ・・・ん~・・・”
おっさんくさく、ぷるぷる震えて唸る声を出したメイ。
「暑い?」
”ん?私とユウだったら、ユウの方が暑いの苦手でしょ?”
「まあね。」
僕も変なこと聞いたもんだ。メイはレシラム。僕はメイが炎をごぉごぉ吹いていたのをすっかり忘れてる。
「さ、出るか。」
”うん。”
ちょっぴり顔の赤いメイ。僕は再びメイを抱えて、湯船からメイを引き上げた。

風呂場を出ると、ミズが退屈そうにタオルを咥えて僕を待っていた。
「ごめんな。ミズ。」
「いいっす。」
僕はミズとメイを固めると、一緒にタオルで拭き始めた。ミズは短毛種で、比較的早く毛並みを乾かすことが出来る。けれどメイは・・・
「こらぁ。まだきちんと拭けてないだろう。」
”むぅっ・・・”
ミズがさっさと身体を乾かして脱衣場を出ていったことに対して、時間がかかるのがイライラするのかぷくっと頬を膨らませたメイ。
「風邪ひくぞ?」
”むぅ~・・・”
僕は新しいタオルを出して、メイを優しく、地肌からマッサージするように拭いていく。ちょっぴり不機嫌なメイ。
機嫌が直るかな?と僕は大胆な行動に出てみることにした。
「メイ?」
”どしたのユウ?”
僕はそっと・・・そっとメイの口元に・・・自分の口を近づける。
”んっ・・・”
くっついた。けど、メイも嬉しそうに自分から口を僕にくっつけてくれる。
風呂上がりのメイは石鹸のいい匂いがする。水色の澄んだ瞳・・・この地球上のどんな宝石よりも綺麗だ。

ここまで近づいたことはなかったけど・・・メイも僕もわかりきっているかのように・・・お互いを離さない。

”ずーっといっしょにいるもん。”
メイのそんな言葉を思い出しながら、僕たちのキスは終わった。

「メイ。大好き。愛してる。」
”ユウ・・・私もユウのこと大好き。”
僕はまだ、このセリフの重みに気付いてなかった。メイが僕のことを受け入れてくれた喜びしかなかった。

乾いたメイを大切に抱えると、僕は再びリビングに向かい、ミズといっしょにしばらくテレビを眺めることにした。

電車の線路の上を、少年が歩いている、そんな映画をずっとしていた。

”ふぁぁ・・・”
2時間ほど経って、メイがあくびすると、タイミング良く玄関のドアが開き、母さんが帰ってきた。
「ただいま~。」
「おかえりなさい。」
買い物袋を提げた母さんは、ミズとメイの頭を撫でると、そのまま台所へ向かった。
僕はメイを抱いて、ミズとずっとくっついているせいか、温かくなり、すっかり眠くなっている。
「あったかーい・・・ふぁぁ・・・」
「ごしゅじん・・・僕も眠いです・・・」
”私も・・・眠いぃ・・・”
みんな眠たいみたいだ。
「ふぁぁ。」
「ふぁぁ・・・」
”ふぁぁ・・・”
全く同じタイミングで全員があくびをしたので、一同顔を見つめあって、そして笑う。
「ぷっ・・・」
「ふふふっ・・・」
”ふふっ・・・”
僕はふと明日、どうしようか、なんて考えた。今、僕の手持ちのポケモンはミズとメイだけだ。メイのこともあるし、博士のとこにでも行こうかな?
「ミズ、メイ。明日アララギ博士のとこに行くから。」
「え゛っ?」
ミズは明らかに嫌そうな顔をした。育ったところなのにね。
”誰それ?”
一方のメイは、アララギ博士が人であることは理解してるみたいだ。
「ポケモン研究の権威・・・的ポジションの人。」
うん。なんとも適当な説明だな。メイも首をかしげてるし。うん。僕も理解できてない。最初に出会ったポケモン博士ってところで、それ以上はわからない。
ひょっとしたら黒いこともやっているんじゃないか、とかそんなことも旅の途中に考えたりしたくらいだし。
「ご主人・・・やめましょうよぉ・・・」
あらま。今度はミズが弱気になってる。ここまで言うってことは、何かあったんだろうな。
「どした?」
「あの博士セクハラしてくるっす。」
ミズにセクハラ・・・いいじゃん最高じゃん。
「じゃ、明日は博士のところに行くってことで。」
「・・・」
ミズは話を無視されたことに、すっかり落ち込んでしまった。

台所から、いい匂いがしてきた。母さんだ。

晩御飯を食べて、僕だけもう一度お風呂に入ると、ミズとメイと、久しぶりの自分の寝室へ向かった。
「うあー。」
僕はそういいながらふかふかのベッドに身体を沈めた。どうやら母さんが、洗濯したり、日干ししてくれたみたいで、とても気持ちがいい。
ミズはタオルケットを身体に巻いて、すっかり眠る準備を整えている。メイは・・・メイは・・・
「こっちおいで。」
”うん。”
僕の誘いに快く返事をして、うんしょ、とメイはベッドに上ってきた。
メイが僕の傍で伏せて寝転がると、僕はメイにも布団をかぶせて、おやすみ、と挨拶を交わした。気持ちよさそうにメイが眠るところで・・・僕も眠ってしまった。


ん~・・・柔らかくて気持ちいいモノが目の前に・・・さわっちゃぉ・・・
ふに・・・
バチン!
「いてっ!!」
頬に痛みが走って、目を開けたら、その目の前に、メイが・・・5センチもないくらいに接近してる。口とか近い近い。キス出来そうな距離だ。
痛みの原因は・・・メイの翼みたいだ。そのメイは僕を見つめる水色の瞳をうるうる瞳を潤ませて、どことなく顔が赤い。怒ってるのかな・・・
”どこ触ってんのよぉ・・・”
メイは怒ってる、というよりはちょっと恥ずかしそうに僕を上目遣いで見る。
「ごめんな。」
僕はメイの頭を撫でる。するとメイは少し口元を綻ばせた。
”ううん・・・寝てる時にお腹ぷにぷに触られたから・・・ついつい。”
てへ、と照れ笑いするメイ。
「ごめんなぁ・・・」
ぎゅっ。僕はまた謝るついでに今度はメイに抱きついて、額にキスをした。
”私こそ・・・ユウが気持ちよさそうに寝てたのに・・・叩いてごめんなさい。”
謝るメイに、いいの、と言うと、布団の中で僕たちはしばらく抱き合う。
「う~気持ちいい。」
すりすりと僕はメイの頭に頬ずりをしたり、身体のあちこちを撫でる。メイも僕と身体をぴたり、とくっつけたまま、動かない。・・・あまりの気持ちよさに、また寝てしまいそうだ。
”くぅくぅ・・・”
あれ、メイが寝てるし。すぅすぅと静かに立てる寝息に合わせて、ゆっくり身体も動いてる。
「メイって鼻・・・どこなんだろう?」
僕はふと湧き出た疑問を探るべく、そっと吻に手を近づける。
”くぅくぅ・・・”
「おお。」
犬と同じように吻のさきっちょから、息が出ている。詳しく言うならば、吻のさきっちょの白と白の毛並みの境目の模様の辺りから。まさしく鼻、というところから出てる。可愛い。
呼吸を確かめた僕はそのまま吻の先っちょに指をくっつけるように・・・
かぷ。
「ひゃ。」
接近に気付かれたのか食べられてしまった。真っ白なメイの、わずかに開いた口に、僕の肌色の指が突っ込んで、メイの口腔のピンクが微かに見える。
涎が付いて、メイの舌が当たってる。
”くぅくぅ・・・ぉぃひぃ・・・”
何を寝言を言ったかと思えば、もごもご口を動かして、本当に食べようとしてるし。けど・・・というか、痛くない。舌が指に温かくまとわりついてるだけ。
僕の指を舌で優しくねぶるメイ・・・ポケモンとか伝説とか・・・そんなん関係なくて、ただ、キャラクターが愛らしいだけだ。体躯が大きくても小さくても。
メイをじーっと見てると・・・涎垂れそうになってるな・・・起こすか。
「起きろー。」
ゆさゆさと、咥えられてないほうの手をメイの背中に置いて、身体を揺さぶる。
”ん~ん~・・・”
「起きなさい。」
”ん~・・・”
ぱちっと、目を覚ましたメイ。けど、僕の指を舐めてることは、気にも留めてない。
”おひゃよぉ・・・”
「指・・・離して。」
”あ・・・”
僕の言葉に気付くと、メイはより深く指を咥えた。
「こらこら。」
”や~だ~。”
どうにか指をメイの口腔から引き抜くと、メイは意地悪そうな笑みを浮かべる。僕は不潔だと思いながらも布団で、指先に着いたメイの唾液を拭きとった。
”おはよっ。”
「おはよう、メイ。」
えへっ、と笑うメイと朝の挨拶を交わすと僕はベットから起き上がり、立っている時には身長が僕の膝上くらいまでしかない小さなメイを、また抱っこする。
白く柔らかい毛並みが、僕の首元から顔まで、気持ちよく触れる。僕もメイも、とっても上機嫌。
「ミズ~。起きろ。」
「ふぁい。」
ミズは寝てるふりをしてたのかと思うくらいに、すぐに起きた。そして台所へ向かう。
”いい匂い~。”
母さんが既に朝ごはんを作っていたらしく、メイの言葉の通り、卵が焼けるとてもいい匂いが台所からしていた。
「おはよう母さん。」
僕が声をかけると、母さんも嬉しそうに振り向いた。
「おはようユウ。ミズ。メイちゃ~ん。」
母さんはそう言うと、僕に抱っこされているメイの頭を撫でた。
「メイは母さんのお気に入りなの?」
「まぁね。可愛いし、優しいじゃん。」
まんざらでもない感じに答える母さん。野生のチラーミィを見ただけでもバットを持ち出すくらいポケモン嫌いだったのに・・・メイもどこか嬉しそう。
「さ、さ、朝ごはんだよ。ミズはいつもの作ったから。」
「あざーす。」
適当に返事をしたミズは、嬉しそうにお皿に乗った野菜炒めとスクランブルエッグをがつがつと勢いよく食べ始めた。
「メイは?」
「メイちゃんは・・・何食べる?」
メイは翼で、テーブルの上に乗ってる僕たちのご飯を指した。
「そっか、じゃ、ユウが食べさせてあげなさい。」
母さんはそう、感心したように言うと、椅子に座った。僕は自分の椅子にメイを座らせ、もうひとつ、椅子をメイの隣に並べて、そこに僕も座る。

「いただきます。」
”いただきまーす。”
僕が挨拶をしたのをまねしてか、メイも食事の挨拶をした。
「お、偉いぞぉ。」
母さんはそう言う。あれ?メイの言葉って・・・母さんにも聞こえてるのか?
「メイ?」
”なに?”
「メイの言葉って、母さんにも聞こえてるの?」
”うん。私が意志疎通したいと思ったから。”
「へ、へぇ。」
伝説のポケモンに意思疎通させたいと思わせる母さんって・・・実は偉大なんじゃないか、と僕は思いつ、メイと一緒にご飯を食べる。
「メイ、あーん。」
”あーん。”
僕の言葉に合わせてぱかっと口を開いたメイ。僕はスプーンに載ったスクランブルエッグを、メイの口にゆっくり近づける。
ぱく。もぐもぐ・・・メイの頬が動く。
”おいしい。”
「ありがとうー。」
素直なメイの褒め言葉に照れる母さん。うーむ・・・僕以上にメイとは気が合いそうだな・・・

そんなこんなで、朝ごはんは終わり、ポケモン研究所が開くまで、少しのんびりすることにした僕。

テレビの前にゴロゴロ寝転がり、背中にはメイが鎮座して、ミズは僕の隣で身体をぐてーっと伸ばしている。
「あんたち、何ゴロゴロしてんの?リンゴ、皮剥いてあげたから、食べなさい。」
母さんに怒られちゃった。メイの様子がちょっと変。
”りんご!”
リンゴ、と言う言葉に、メイは激しく反応し、すぐに僕から退いた。
「ちょ・・・メイ。」
”はやく~。”
ぱたぱた走って、リンゴのお皿があるテーブルの手前で待ちきれないように僕を急かすメイ。
僕はリンゴのお皿を取ると、ミズの分をどけた。そして小さな身体を精いっぱいに背伸びをして僕がリンゴをくれるのを待つメイの傍に座り込む。
「メイってリンゴ好きなの?」
”うん。ご飯より好き。”
僕は一欠けずつ、リンゴをメイに渡す。翼にリンゴを受け取ると、メイは嬉しそうに齧りつき始めた。
むしゃむしゃ・・・しゃりしゃりと小気味のいい音を響かせて、食べるメイ。瞳を細めて・・・無邪気な子供みたい。
”おいひい・・・”
大満足のメイ。僕も一つ食べた。うん・・・確かにおいしい。ミズも気づくとあっという間にリンゴを食べてしまっている。
ひとつ・・・またひとつ・・・と競うようにリンゴをメイと分け合った。そして・・・
「あ、あと一つだ。」
”ほんとだ。”
最後のひと欠けになってしまった。メイも僕も、どうやら食べた数は同じようだ。
「メイ食べる?」
”ユウが食べてよ。私はいいから。”
おお、譲歩してくれた。でも僕はメイに一応確認を取ってみる。
「食べたいでしょ?」
”食べたいけど・・・ユウとリンゴなら、ユウを取るなぁ。”
おお、鼻血モノだね・・・このセリフ。
「なら、こうしようか。」
僕はリンゴを二分割して、メイの吻に差し出した。
”いいの?”
「うん。こうすればいいじゃん。」
”ありがとぉ。”
メイは僕が差し出したリンゴを咥えて、翼で落とさないように持つと、またしゃりしゃりと食べ始めた。僕も残ったリンゴをぱくっと食べて、お腹をぽんぽんと叩いた。
「ふぅ~・・・満足満足。」
”私も。”
またメイを抱っこして・・・リビングで僕はゴロゴロすることにしたのだった。

しばらくのんびりしていた僕は、起き上がって、メッセンジャーバッグに荷物を詰めている。博士のところへ行く準備をしているところだ。
「そろそろ行こうか。」
メイは僕のすぐ傍で僕が準備を終えるのを待っている。僕は膝上くらいまでしかない身長のメイを蹴ったり踏んだりしないように気をつけながら、作業をしている。
ミズは眠そうにはしているが、僕を待ってくれている。
「さ、行くぞ。うんしょっと。」
”わぁ。”
笑顔のままのメイを僕は抱っこする。ミズも僕の言葉を聞いて、玄関に歩きだした。
「じゃ、行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
ニコニコ上機嫌な母さんと挨拶を交わす。僕は玄関で一度メイを降ろして、靴を履く。
「さ、行こうか。」
僕がメイを抱き上げようとしたら、メイはひょいっと僕の手を避けた。
「歩く?」
”うん。”
メイはぺこっと首を縦に振った。僕はドアを開けミズとメイを出すと、家のドアに錠をした。

博士の研究所といっても、家のすぐ近くで、疲労を感じるような距離じゃない。メイはにこにこミズとおしゃべりしてる。
「メイはご主人のこと好き?」
”うんっ。だーいすき。”
ぺこっと首を縦に振るメイ。・・・照れるなぁ。というより、ミズもなんでこんなこと聞いたんだか。
「あ、着いたよ。」
僕の視界に、博士の研究所が飛び込んできた。研究所のドアを開くと、ミズとメイを中に入れて、一番最後に僕が入った。
「こんにちは~・・・」
「あーら・・・ユウくんいらっしゃい。」
僕が声をかけると、なぜかテーブルから博士の顔が出てきた。そして博士はゆっくりと立ち上がった。
「ごめんごめん、さっき床にポケフードこぼしちゃって拾ってたの。」
不思議そうにしてた僕の視線に気づいた博士はニコニコわらって僕にそう言う。僕もお茶目な博士をあまり見ないので、ついついつられて笑む。
「あれ?その仔・・・」
紹介する前に、博士はメイに気付いたみたいだ。
「かわいいーね。」
”やっ。”
博士に可愛いと言われると、メイは恥ずかしそうに僕の後ろに隠れてしまった。僕のズボンを掴んで時折博士の視線を避け、僕の表情を窺うように顔をのぞかせるメイ。
「種族はレシラムってことで・・・いいんだよね?」
「はい。」
確かに、レシラム、という存在を知っている人にとっては、レシラムのメイがこんなにちっちゃくて可愛い生き物だという事実は少々受け入れ難いだろう。
「診させてくれる?」
「えっと・・・」
僕は屈むと、メイに喋りかける。
「メイ。博士がメイのこと診たいんだってさ。」
”えぇっ・・・”
困ってるメイ。少し俯いて、しばらく考えると、困惑に満ちた瞳で僕を見た。
”なにかあったら・・・”
「すぐ助けるから。」
笑顔で僕が言うと、メイも口元を綻ばせて、笑んでくれた。
”じゃあ、診てもらうね?”
「ああ。」
納得してくれたみたいだ。
「んじゃレッツゴー。」
博士は嬉しそうにメイを抱き上げると、奥まったところにある回復施設そばのベッドにメイをゆっくりとおろした。僕も少し不安なので傍まで行って、様子をじっと見ている。

ベッドに座って、脚を前に投げ出してるメイ。戸惑いつつも時折僕の方に向いては、笑顔になる。
「メイちゃん、ちょっと心臓の音聞かせてね?」
博士はお医者さんのように手際よく、てきぱきメイに聴診器をあてたり、口の中を覗いたりしている。戸惑っていたメイも博士の手際の良さにあまり不快さはないようだ。
人間にも使う身長をはかる台と、体重計でそれぞれメイを測ると、博士は満足そうにレポートを書いてた。
「はい、もういいよ~っ。」
メイはベッドからひょいっと跳び下りた。そして僕のところにバタバタと駆けだして、ぎゅっと僕の脚に抱きついてきた。
「えっとー、勝手に見させてもらったんだけど、メイちゃんの身長は60センチ、体重は11キロくらいね。」
博士はメイのデータを僕に説明する。メイって軽いなぁ、と思いながら僕はメイを抱っこした。白い翼を僕の腕に絡ませて、上目づかいをしているメイ。
「どうしたの?」
その可愛い視線が何か気になるので、僕は聞いてみる。
”・・・なんでもないの。”
含みのある答えをすると、メイはそっぽを向いてしまった。博士も僕をじっと見てる。
「な・・・なんですか?」
「ん?いやいや何もないよ。」
博士はそう言うとレポートをファイルに挟んでまた何か作業を始めた。

「じゃ、次はミズを診たいなーっと。」
博士がそう言うも、ミズは少し嫌そうだ。
「だいじょう・・・」
ぎぃぃ・・・急にドアが開いたので、僕は振り返る。そこには最も見たくない奴がいた。
「こんにち・・・あれ?」
ライバル!と、かってにそいつが僕のことをそう思い込んでいる奴だ。名前・・・名前・・・
「久しぶりだな。俺の名前を覚えてるか?」
ああ、覚えてない。だが僕は敢て答えるまでもないと言う感じに振舞う。するとそわそわし始めた。耐性ないのかこいつ?
「俺の名前・・・」
「誰・・・だったっけ?」
素直に白状すると、がっくり肩を落として言う。
「俺はショウだっ!」
「ああ。」
覚えてない。少なくとも脳みその記憶装置にそんな奴の名前はなかった。
「くっそ・・・ん?」
とっても悔しそう。けど、目の前のショウの視線は・・・メイに。
「これ・・・レシラムだよな?」
「そうだけど。」
ショウの目つきが変わった。
「俺、ゼクロムもってるぜ。」
ちょっと嬉しそうだ。
「ああ。で?」
無愛想に応えると、近づいてきて僕に迫った。
「バトルしようぜ。」
「いや。断る。」
「いいだろぉ?断ると・・・痛い目見るぜ。」
ショウはボールから黒いポケモン、ゼクロムを出した。まばゆい光の中からガシャン、と大きな音がすると、研究施設の天井にゼクロムが頭を突っ込んでいた。
「あー、ごめんゼクロム。」
「いいよ。」
頭を痛そうにしたまま、ゼクロムは屈んだ。
「バトルしようぜ。しないと・・・」
ショウはゼクロムを見たあと、ミズを睨んだ。
「やれ。」
「うわっ!」
「うぎゃあああああああああああああああ!!!」
まばゆい光がゼクロムからさく裂し、そして同時にミズの天を引き裂きそうな悲鳴が聞こえた。そして黒焦げのミズが力なく横たわっている。
「ミズ!」
「だ・・・だめっす。」
一応答えがあったことに安堵してショウの方を見た。
「こういうことになるんだぞ。」
最低だなこいつとか思いつつも、まぁ何とかなるかと思って、メイを見た。
「行けるか?」
”いくっ。やるもん。”
メイもちょっと怒ってるようだ。
「じゃ、やるか・・・表に出ろ。」
ショウはゼクロムをボールに戻すと、メイを連れた僕とともに研究所の外へ出た。博士も心配なようで、開いたドアの隙間から、僕たちを見ている。

僕よりも小さなメイと、僕の倍くらい大きなゼクロム。じっと睨みあって動かない。
ゼクロムが完全にメイを見下しているし、メイは負けじと睨み返している。白と黒のサイズは違えど、漂う風格のようなものは少しも変わらない。
「来いよ。」
”むむむっ・・・”
挑発に乗りそうなメイをドキドキ不安なまま見つめるけれど、僕はどうにもすることが出来ない。
「埒があかないな。ゼクロム、クロスサンダー!」
ショウの指示通り、ゼクロムは稲妻をメイめがけて繰り出す。稲妻をメイは地面に転んで避けると、ぱたぱた走ってゼクロムの身体に取りついた。見てるだけで怖い僕はただ見守るしかない。
「うぬっ?」
メイは口を開くと紅蓮の閃光を吐きだした。
「あちちちっ!てめぇっ・・・」
ゼクロムはバタバタ身体を振り、メイをどうにか振り払おうとしている。
「メイっ・・・」
ぎゅっと握ったこぶしに自然と力が入る。心配だけど・・・どうにか勝ってほしい。けれどゼクロムは簡単にメイを振りほどくと、両手でメイを掴みあげた。
”やっ!やぁっ!”
メイもバタバタ脚を振るけれど、ほとんど意味をなしてない。
「よくも手間取らせやがって。」
ゼクロムはそう言うとバチバチ電気を起こしてメイに電気を浴びせた。びくびく身体を震わせて、痛みにもがくメイ。
”いやぁぁぁぁっ!いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!あぁぁぁぁっ!”
「やめろっ!」
「んー勝負を放棄するのか?」
”やぁぁぁっ!!ゆぅっ・・・しんぱいしないでっ・・・いやぁぁぁぁっ!”
僕が止めるけれど、メイは僕に止めるな、と言う。ゼクロムはその間にもバチバチと電気をメイに浴びせる。メイは悲鳴と悲痛の叫びをあげる。痛そうで見ていられない。
毛並みもぐしゃぐしゃに乱れ、純白の身体はもうぼろぼろで傷だらけだ。電気を流されるたびに、メイの小さな身体に小さな稲妻が走る。
「やめろっ・・・やめてくれっ・・・」
”ゆ・・・ゅぅ・・・”
メイの力の抜けた声。ゼクロムに掴まれている身体は力が入れられないのか、成すがままにされ翼も脚も尻尾もだらりと垂らして力なくうつむいている。僕の不安はピークに達した。
「ようし・・ゼクロム一度やめてやれ。」
「わかった。」
ゼクロムは両手を天に勢いよくあげて、ぼろぼろになったメイを僕の方に投げ飛ばした。
「メイっ!メイっ・・・」
傷だらけのメイがこれ以上地面に打ちつけられ、怪我を増やさないように、僕は必死でメイを追いかける。
白い毛玉はまるで人形みたいに揺られて僕の手元に・・・やってきた。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
メイを掴んだ瞬間、僕に身体を貫く痛みが襲った。けど、痛みの原因はメイに帯電した電気だ、とすぐに理解できた。
「う・・・あ・・・」
けれど、あまりに痛すぎて、僕の意識はふらふらと・・・失われていった。ただ・・・メイの青く澄んだ瞳が必死に僕を見つめているのだけを感じて。

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続く。

というよりエロを入れるか考え中。

エロ入れたら獣 姦になってしまいます。どうしよう・・・



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IP:125.13.222.135 TIME:"2012-07-19 (木) 18:28:33" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E3%82%8C%E3%81%97%E3%82%89%E3%82%80%E3%81%AE%E2%80%9D%E3%81%A1%E3%81%84%E3%81%95%E3%81%8F%E3%81%AA%E3%82%8B%E2%80%9D" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 9.0; Windows NT 6.1; WOW64; Trident/5.0)"

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