ポケモン小説wiki
めいどのみやげ の変更点


#include(第三回仮面小説大会情報窓・非エロ部門,notitle)
作者[[クロス]]
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「レン、ごめんね。僕が風邪をひいたばかりに……」

「ご主人は毎日頑張り過ぎなんですよ。ゆっくり休んで早く元気になってくださいね」

 端麗な顔を熱で火照らせ、力無く呟くご主人ハルト。時折苦しそうに顔をしかめながら、ふかふかのベッドで横になっている彼に、私は日常の苦労を労う声をかけてあげます。当たり前の看病しかできませんけど、早く元気な笑顔を見せてほしいので、私にできることはなんだってします。
 あ、自己紹介がまだでしたね。私はいろんな仕事をこなすなんでも屋を営むご主人ハルトのポケモンでレンと言います。種族はサーナイトです。
今日は風邪で熱を出してしまったご主人を休ませ、私だけでお仕事をこなさなければなりません。一人でお仕事にかかるのは初めてですが、お仕事を頑張らなければ食べ物もお薬も買えませんからね。休むわけにはいきません。
 熱で唸るご主人に降り注ぐ朝の陽光を遮るべく、私は若緑色のカーテンを閉めてあげました。これからご主人を一人にするかと思うと不安ですが、そうも言ってられないですよね。私は一度深呼吸をして不安を押し殺すと、床で大の字になって寝ていた黒いぬいぐるみをそっとご主人の枕元に置きます。このぬいぐるみ、かっこいいポケモンの形をしているわけでもなければ、可愛いポケモンの形をしているわけでもないだいぶ変わった人型のぬいぐるみです。正直私にはお世辞にも可愛らしくは見えないのですが、私とご主人が初めて出会ったときから彼がとても大切にしているものなんです。何故大事にしているのか、それは一度も聞いたことはありません。
 と言うのも、これを近所のお友達に話したところ、自分で働くほどの年齢である男性がぬいぐるみを大切にしているというのはやや恥ずかしいことだそうで、それを他者に話すことはためらわれるのだそうです。それを聞いてからというもの、私はこのぬいぐるみに関してご主人のことを詮索することはなくなりました。仕事で失敗したり、何か不安なことがあるとあの黒いぬいぐるみを抱きしめて不安を和らげるご主人ですが、私のこともとても大切にしてくれる優しい人です。時には抱きしめてくれることも……
 さて、そろそろお仕事の時間ですね。私は部屋のドアノブを、音を立てないようゆっくりと回すと、忍び足で寝室を後にします。四角の窓から朝陽が差し込み、純白のタイルがそれを跳ね返す狭い階段を下りて仕事場となっている一階へとやってきました。
 ここ一階では、なんでも屋である私たちに対する依頼書を張り出す掲示板があります。以前ご主人が自分で作ったお手製の木の掲示板なのですが、今ではすっかりボロボロです。そこらじゅうが欠け、その下には木くずが散らばる掲示板に張り出されていたのは三つの依頼書。私はそれらに軽く目を通すと、一つ気になったものを板から剥がして手に取りました。





&size(20){''めいどのみやげ''};


『急募! “陰りの洞窟”で待ってるよ!』
今すぐ陰りの洞窟までくるんだね。報酬なんてやらないよ。仕事内容はあとで話す。ただし、♀のポケモン一匹だけでくること!
なんでも屋をやってるくせに、まさか怖くて来れないなんて言うんじゃないだろうね? そんな奴は人についたって役に立たないんだよ。とっとと山に帰りな!



 大まかな仕事内容さえ書かず、しかも報酬無しの依頼とは……いたずらでしょうか。仮にもこれで生計を立てている私たちは、報酬無しの依頼など引き受けてはいられません。落し物を届ける依頼もあれば、暴れるポケモンを止めてほしいとの依頼もあり、いずれも一生懸命取り掛かりますがそれは報酬あってこそ。もちろん私たちも報酬目当てばかりではなく、報酬が安くても急を要すると思われる依頼は率先してこなします。しかしながら私とご主人だけで引き受けられる依頼の数は知れていて、必ずしも掲示板に張られたものすべてをこなせるわけではありません。それは依頼主すべてが了承した上で依頼しているのですが、やはり頼まれた依頼を破棄してしまうことは私たちとしても申し訳ない気持ちでいっぱいです。それだけに、このようないたずらと思われる依頼にかまっているわけにはいかないのです。
 そう考えた私は謎の依頼書を黄緑色の手の中で丸め、サイコキネシスを使ってゴミ箱に投げ入れました。そして残る二つの依頼に目を通します。ところがどうしたことでしょう。何故か先程の依頼書をゴミ箱に捨てたことで、不思議と後ろめたさを感じてしまうのです。
 すぐさま残る二つの依頼に一通り目を通し、それらが急を要するものではないと分かるや否や、私は何かに急かされるようにゴミ箱に歩み寄り、くしゃくしゃになった依頼書を手に取って広げました。
 内容が分からず、報酬の無い依頼。そのいたずらのような謎の依頼書に再び目を通していると、私はあることを思い出しました。それは、実はこの依頼書、私たちの掲示板に張られていたのは今日が初めてではないということ。ご主人は意味不明な内容と、要求として“♀ポケモン一匹だけでくること”と書いてあることを不安がり、張られていては度々破棄していたのです。
 この依頼書に隅々まで目を通した私は、普段私を想ってくれるご主人の優しさに感謝しつつも、この依頼を引き受けることを決めました。仮にもなんでも屋を務めるご主人と共に仕事をしてきた私は決してバトルが苦手なことはありません。ご主人との日々で培われた経験を生かし、困っている依頼主の力になる。それこそが私たちなんでも屋のお仕事であり、ご主人のためにもなりますからね。
 一人で依頼を成功させた暁には、ご主人が優しく抱きしめてくれるはずです。確かな成功のイメージを掴むことができた私は、さっそく現場に向かうことにしました。





 依頼主が待っているという“陰りの洞窟”は、私たちの家から1kmほど離れた山にある洞窟です。実はこの洞窟、ある理由のために一般の方々が入ることは禁じられています。私は仕事上許可を取っているので問題ないのですが、普段誰も立ち入ることのないこの場所に依頼主はいったい何の用事があるのでしょう……
 山の緑をかきわけ、現場へとやってきた私の目についたのは一匹のジュペッタというゴーストタイプのポケモンでした。私を見つけるや否や、種族上口が開けないために不気味に見えてしまう笑いを見せるジュペッタ。どうやらこのポケモンが依頼主のようです。

「ようやくきたかい。待ってたよ。ケケケ……。あたいはアージュってんだ。あんたがレンだろう?」

「あ、はい。貴女が依頼主ですね。依頼書の内容がよく分からないものでしたが……」

「それを今から話すんだろうがこのポンコツ! それが依頼主様に対する態度かい。優秀なご主人に育てられてるくせに、ちっとも態度がなってないじゃないか。仕事ができないなら山に帰りな!」

 今日はどんな依頼ですか? とつけようとしたその時、今回の依頼主ジュペッタのアージュさんが突然、夜夢に出てきそうなほどに恐ろしい形相へと変貌し、鼓膜が切れそうな大声で私を叱りつけてきました。ううっ、いやなおととナイトヘッドの技のようです。不快この上ない音と幻覚のせいで吐き気が……
 思わずよろけてしまいましたが、ここで倒れるわけにはいきません。ご主人のパートナーとして依頼を受けにきたというのに、依頼主に弱いところを見せてしまっては不安がられてしまいます。初対面の相手にこのようなことをする彼女の横暴ぶりに内心怒りの炎を燃やしつつも、私は気を取り直して依頼内容を聞くことにしました。

「へぇ、なかなかやるじゃないか。んじゃ、依頼のほうも任せて大丈夫そうだねぇ。ちゃんと説明してやるから耳の穴かっぽじってよーく聞きな。二度は言わないよ!」

 ケラケラと不気味な笑い声で心にもなさそうな褒め言葉を言うと、アージュさんは今回の依頼について説明してくれました。
 今回の依頼内容はシンプルに言えば、目の前で口を開いているこの“陰りの洞窟”の最奥部にあるという宝を取ってくるというもの。一見簡単に思える内容ですが、アージュさんが言うには最近この洞窟は怪しいポケモンたちの棲みかになっているのだとか。そんな情報は聞いたことがないのですが……。もともとこの洞窟は何故かポケモンが棲みつかず、それ故にいつの間にか入れば呪われるなどという変な噂が流れ誰も近寄らないのです。その噂を恐れない何者かが中にいるということでしょうか。

「まさか話を聞いて臆したんじゃないだろうね? そんなビビリなポケモンがパートナーじゃ、ご主人様も苦労しちゃうだろうねまったく」

「さっきから黙って聞いていましたが……ちゃんと引き受けるって言ってんだろうが!!」

 諭すような私の優しい言葉に、一瞬ぴくりと背中が動き、ごくりと生唾を飲み込むアージュさん。どうやら私の気持ちも理解してくれたようですね。言葉がきつい彼女も、ちゃんと話せば分かってくれる良いポケモンのようです。

「な、何さ。そんなにムキになるんじゃないよ。ケケ、いいからさっさと行ってきな」

 アージュさんに早く洞窟に入るよう促された私は軽く会釈をすると、彼女に背を向け、漆黒の闇が口開く洞窟をじっと見つめます。この先いったい何が待ち受けているのか。不安がないと言えばもちろん嘘になりますが、目を閉じ、胸がめいっぱい膨らむまで空気を吸い込み、そして少しずつ優しく吐き出すと、心の中にご主人の優しい笑顔が映ります。依頼主であるアージュさんのためであることはもちろん、私はこの笑顔のために頑張ることができるのです。
 黄緑の手を組み、それを胸の赤い突起に宛がって天に依頼の成功を祈ると、私はゆっくりと洞窟に向けて歩みを進めました。と、その時です。アージュさんが慌てて私を引きとめました。

「おっとっと、あんたが豹変するもんだからうっかり忘れちまったじゃないのさ。これを着ていきな」

 そう言って彼女が私に渡したのは、なんと俗に言うメイド服。彼女はバッグのようなものを持っているわけでもないのに、いったいどこから出したのでしょう。首を傾げて思考を巡らしていると、再びアージュさんの怒号が飛んできます。

「何迷ってんだい。さっさと着るんだよ! それを着ていかなかったら今回の依頼を引き受けたことにはならないよ。まともに仕事ができないんならさっさと山に帰りな!」

 彼女のわがままぶりは正直私にとっては不快なものでした。ただ、この程度のことで依頼失敗になってしまってはご主人に合わせる顔がありません。私は恥ずかしさに白い肌を僅かに朱に染めつつも、人間用と思われるそのメイド服をせっせと身に着けていきます。人間用ですが、私の体の作りは人間のそれに非常に類似しているため、難なく身に着けることができました。

「チッ、ムカつくくらいよく似合うじゃないのさ。ちょっとくらいスタイルが良いからって散々男を誘惑してるんだろうねぇ。あーあ、嫌な女」

 私は男性を誘惑したことなど一度もありませんし、こんなものが似合っていると言われてあまり嬉しい気はしません。容姿については異性より同性に褒められたほうが正しい判断が期待できるものですが、彼女の口から出た称賛の声は棘が混じっており、どうも間に受けてはならないようです。それにしてもこんなところで他の誰に見られるわけでもないのに、いったい何故動きづらいはずの洞窟へメイド服を着ていかなければならないのでしょう。
 湧き上がる疑問の数々に頭の上で疑問符を浮かべつつも、また彼女の怒号が飛んできては敵わないと思い、私は足早に洞窟へと歩みを進めるのでした。





&aname(E);
 漆黒の闇に包まれる洞窟を進むレン。洞内は侵入者の行く手を阻むように、天井から岩が突き出しており、左右の岩壁はヒビがところ狭しと縦横無尽に走っている。湿気が多く、彼女の足音のみ響くその空間は、まさに入れば呪われると噂されるだけの不気味さが漂うもの。ポケモンには洞窟の中を棲みかとする種族も存在するが、山の中でこの洞窟のみポケモンが棲みつかないのもどこか納得がいく。そんな場所にフラッシュの技で両手のひらから光を放ち、その明かりを頼りに歩みを進めていくレンは、しばらく進むと行き止まりにぶつかってしまう。
 “ここまで一本道のはずだったのに”と首を捻りながら呟くレン。これはいったいどうしたものかと悩みつつも、彼女は何か見落としているものはないかと明かりを向けながら周囲に目を凝らす。すると、不思議な黄色の模様がついた真っ赤な扉という、不気味な洞窟には明らかに不釣り合いなものが目に入る。
 他に変わったものが見当たらなかったためこれを調べるしかないと考えた彼女は、恐る恐る扉についた取っ手を下へ引き、ゆっくりと手前に引き寄せる。すると視界に広がったのは、空間の中央に大きく口を開いた奈落の底を思わせる大穴と、壁に複数設置された松明の炎の明かりを反射するダイヤ上の何かが大穴の斜面の途中から伸びているという空間だった。松明と言えば、いつかは燃えてなくなるもの。それがいくつも壁についていて空間を照らしているのはどう考えても不自然であり、この場所に何らかの仕掛けがあることを示唆しているように思われる。

「この洞窟にこんな場所があったなんて……」

「フッ、そこの萌え萌えメイドのお嬢さん。この部屋はトラップが仕掛けてあるのさ。気をつけたほうがいい」

 そこに現れたのは、レンの種族サーナイトとは対になるエルレイドというポケモン。サーナイトとは異なり、刃を思わせる半月の形をした突起を頭に持ち、切れ味の鋭い刃の如き長い肘を持っているのが特徴だ。まったく気配を感じさせることがなく忽然と姿を現した彼に驚いたレンは、一度背筋をピンと伸ばすと、訝しげな表情で彼の姿を凝視する。
 そんな彼女の様子を見たエルレイドはふっと口元を緩ませて笑みを浮かべると“美女に見つめられて悪い気のする男はいない”と呟く。どうやら彼は相当な女好きのようだ。怪しい場所には怪しい奴がいるものだと内心溜め息をついたレンは、無視して先を急ごうとするとエルレイドに後ろから抱きとめられてしまう。

「何すんだこの変態!」

「ドエロ! はは、萌えパワーごちそうさま……」

 すかさず腕を振りほどき、エルレイドのみぞおちにパンチを入れるレン。エルレイドは痛みに意味不明なうめき声を上げるも、彼女を誘惑するような態度は変わらず。しかしここで彼は、レンに重要な情報を提供してくれる。

「お嬢さん、この部屋はあのダイヤ上のスイッチを押さなければ進めないんだ。さもないと穴に落ちてしまう。ここは僕がサイコカッターであのスイッチを押してあげるよ」

 彼の話が真実か否か、それを判断するのはレン次第。この後彼女が取るべき行動とは?



1、[[親切なエルレイドにスイッチを押してもらう>#erureido1]]
2、[[エルレイドの女好きが腹立つので穴に落とす>#erureido2]]
3、[[サイコキネシスで浮遊して華麗に向こう岸へ渡る>#erureido3]]































&aname(erureido1);





「あのスイッチは物理的に触れなければ作動しない。僕は種族上物理技が得意だからね。かっこよく決めるから、まあそこで見ていてくれよ」

 自信に満ちた声でそう語るエルレイドに任せることにしたレン。エルレイドが種族上物理技を得意とするのに対し、レンの種族サーナイトは特殊技を得意とする。そのため、彼女自身一切の物理技を覚えていない。ともなれば、彼に頼るのが上策と言えるだろう。
 エルレイドは紅蓮の瞳を閉じながら両腕を交差させて力を溜めると、刀のような肘の先端が緑色から、サイコパワーをまとった薄紫色へと変化させる。そして肘を振るってサイコカッターの斬撃を放つべく右腕を引いたその刹那、彼の肘に違和感のある手応えが返ってくる。いったい何事かと首を回して肘の様子を伺うと、なんと肘は見事にレンの額に突き刺さっているではないか。

「あ、やっちゃった……。僕は……僕は……いったい何をしているんだぁー!!」

 額を肘で突き刺された本人は、何が起きたかも理解できないまま意識を失ってしまう。残念! 彼女の初体験はここで終わってしまった。

「ケケ、もう終わりかい? 仕事もできないんじゃ主人の荷物さ。そんな奴はとっと山に帰りな!」

・[[安心しろ。いつものことだ>#E]]
・[[諦めて山に帰ります>トップページ]]






























&aname(erureido2);





「私はいつだってご主人一筋。テメエみてえな変態は嫌いなんだよ!」

 初対面にも関わらずボディタッチをしてきたエルレイドに腹を立てていたレンは、彼の厚意を無視するのに加え、サイコキネシスを用いて投げ飛ばすことで奈落の底を思わせる大穴へと落下させる。思いがけない彼女の行動にエルレイドは目玉が飛び出さんばかりの驚愕の表情を浮かべながら宙を舞って落ちていく。
 手足をばたつかせ、どこか掴まれる場所はないかと探る彼だが、当然あるはずもなく地面に激突。そのまま砂煙を上げながら頭から穴へ滑り落ちた彼は、途中突き出ていたダイヤ上のスイッチに半月状の突起が特徴の頭をぶつけてしまう。すると物理的な接触をスイッチが感知。その瞬間エルレイドの体はポンという何かが軽く爆発するような音と共に煙となって消滅する。そしてどこからともなく“チャララチャラララン”という音が鳴ると同時に空間内に存在するトラップが解除され、向こう岸まで光のつり橋が繋がる。その不可思議な現象に彼女ははっと息を飲んで驚きを露わにしつつも、依頼の遂行のためさらなる奥地を目指して歩みを進めるのだった。

・[[奥へ進む>#Z]]






























&aname(erureido3);





「大穴くらい、私はサイコキネシスで飛び越えられるのでご心配なく」

 エルレイドの忠告はエスパー技による浮遊が可能な自分には不要であると判断したレンは、彼の厚意を無視してサイコキネシスを発動。自らに念力をかけることで空中を浮遊し、優雅に宙を舞うように楽々と大穴の中心を通り過ぎていく。
 ところが向こう岸に辿り着こうかというその時だ。彼女は見えない壁にぶつかり、その衝撃で技を途切れさせてしまう。するとどうなるか、今更言うまでもないだろう。優雅に宙を舞っていた彼女の体は重力に従って落下し、その美しい姿は漆黒の闇へと飲み込まれていく。

「お嬢さーん! くそ、もっと僕が説得力のある忠告をしていれば!」

 後悔の念に打ちひしがれるエルレイドだったが、レンが大穴から戻ってくることはなかった。残念! 彼女の初体験はここで終わってしまった。

「ケケ、もう終わりかい? 仕事もできないんじゃ主人の荷物さ。そんな奴はとっと山に帰りな!」

・[[安心しろ。いつものことだ>#E]]
・[[諦めて山に帰ります>トップページ]]






























&aname(Z);
 さらなる奥地を目指し歩みを進めたレンは、突然誰かがすすり泣くような声を耳にする。もしやこの陰りの洞窟が入れば呪われると噂されるのは、このかすかに聞こえるすすり泣きの声によるものなのだろうか。一度それを考え出すと寒気を覚えて怯えてしまうのが普通だが、ハルトと共に依頼をこなすことで正義感の強い性格が身についていたレンは、恐怖に震えながらも誰かが助けを求めていると考えて恐る恐る歩みを進めていく。
 徐々に大きな音となって聞こえてきたすすり泣きの声は、レンが声の主に接近していることを物語っている。すると突然、いったいどこにいるのかと注意深く辺りを探る彼女の耳に覇気を失った女性の弱々しい声が入ってきた。

「誰かいるのですか? もし、誰かいるのですか? お願いです。私を助けてください」

 声が聞こえてくるのは天井からのよう。フラッシュの明かりを天井へと向けたレンが見たもの、それは純白のドレスに銀のティアラを身に着けた人間の少女だった。小さめの整った顔と長い金髪は黒いすすが付着して汚れているが、その神秘的な印象を持たせる澄んだ水色の瞳は美しいだけでなく、どこか力強さを感じさせる威厳に満ちている。多少すすが付こうとも決して衰えることのないその美しさは、さながら月も光を消し、花も恥じらうと言ったところ。身に着けた装飾品から、彼女はどこかの国のお姫様なのかもしれない。
 そんな少女が今、天井から体を紐で縛られて吊るされ、力無きか弱い声で助けを求めている。いったい何者がこのようなことをするのだろうか。彼女の美しさを目当てにどこかの悪者が誘拐してきたのだろうと考えたレンは、一度フラッシュの明かりを彼女から離し、周囲に敵がいないかと様子を伺う。
 サイコパワーを使用することで瞑想時と同じ集中力を発揮した彼女が耳を澄ませ、目を凝らしても一切敵の反応はない。ほっと胸を撫で下ろしたレンは、一度サイコパワーの使用を中断しゆっくりと息を吐き出す。さて、彼女が次に取る行動とはいかに。



1、[[哀れな少女を助けてヒーローになる>#zoroa-ku1]]
2、[[女には興味がないので無視して先に進む>#zoroa-ku2]]
3、[[自分と同等かそれ以上の美しさが気に入らないので10まんボルトで少女を黒焦げにする>#zoroa-ku3]]






























&aname(zoroa-ku1);





「待っててください。今助けますね」

 正義感の強いレンは囚われの身となっている少女が放っておけず、敵が周囲に隠れていないことを確認済みのため、すかさず高圧電流を放つ技10まんボルトで少女を縛る紐の天井に近い部分を焦がす。すると間もなく紐は少女の重さを支えられなくなり、ついには焦げた部分が千切れていく。それにより、当然の如く重力に従って地面へと落下する少女。それをレンはサイコキネシスで優しく受け止めると、未だ少女にまとわりつく紐をほどいてやる。

「あの、ありがとうございました。お前のおかげで助かったよ。ハッハッハッハッハ!」

 レンに救助され自由の身となった瞬間、少女は口調と同時にみるみるうちにその姿を変化させていく。そして現れたのは長く美しい紅蓮の鬣と、黒っぽい灰色でスマートな印象を与える細めの手足が特徴的なゾロアークというポケモン。そう、囚われの身となっていた少女はゾロアークが化けた姿だったのだ。
 先程少女の姿をしていた時と変わらない澄んだ水色の瞳を一瞬血のように真っ赤な赤へと染めると、ゾロアークは両手を組んで上げ、空気を切り裂きながら素早く地面へと叩きつける。その瞬間彼女の体内から悪タイプのエネルギーが溢れだし、赤黒い衝撃波が周囲を破壊していく。はっとレンが気付いた頃には時既に遅し。彼女は悪タイプを苦手とするエスパータイプのポケモンだからだ。ゾロアークの強力なナイトバーストの技に成す術を失ったレンは、薄れゆく意識の中家で帰りを待つハルトとの思い出が走馬灯のように蘇り、やがてその灯火は光を失ってしまう。残念! 彼女の初体験はここで終わってしまった。

「ケケ、もう終わりかい? 仕事もできないんじゃ主人の荷物さ。そんな奴はとっと山に帰りな!」

・[[ご主人のためなら例え火の中水の中>#Z]]
・[[諦めて山に帰ります>トップページ]]






























&aname(zoroa-ku2);





「すみません。私先を急いでいるので少しだけ待っていてください」

 今少女を助ければ、入口まで戻って送り届けてやらなければならないだろう。それでは依頼の遂行に支障が出るということで、依頼達成後の帰り道に少女を助けたほうが良いと判断したレン。空間が真っ暗なせいで明確な証拠はないのだが、だいぶ奥へと進んできたがためにもう少しで最奥部に到達するという気がするのだ。いわゆる女の勘というやつである。
 レンは少女に対し、後で助けにくるのでもう少し耐えるよう言葉をかけると、急ぎ依頼を達成すべく足早に少女の下を後にする。
 そして少し先へと進んだその時だった。後方から怒りに満ちた唸り声が響き渡り、レンの耳に痛みが襲いかかる。しかし、彼女に振りかかる災いはこれだけではなかった。突如洞内が大きく揺れ出し、天井が崩れて落ちてきたのだ。
 もしや、優先度を考えず人助けを怠った自分に天は怒ったのでは……。そう考えた時には既に遅く、彼女の頭上が崩れ大岩が襲いかかる。きっとご主人ならこんなミスはしなかったことだろう。後悔の念と岩とに押し潰され、彼女は意識を失ってしまう。残念! 彼女の初体験はここで終わってしまった。

「ケケ、もう終わりかい? 仕事もできないんじゃ主人の荷物さ。そんな奴はとっと山に帰りな!」

・[[ご主人のためなら例え火の中水の中>#Z]]
・[[諦めて山に帰ります>トップページ]]






























&aname(zoroa-ku3);





「(悪い人もいないのにこんな場所にお姫様のような人がいるなんて怪しすぎます)テメエの罠になんか引っ掛かるかよ!」

 麗しい美少女が漆黒の闇に包まれた洞内で誰の見張りもなく囚われていることに疑いを持ったレンは、これも先程のような何かの罠だろうと判断し、少女に向けて高圧電流を撃ち放つ。闇を貫く稲妻の閃光は瞬く間に少女へと襲いかかり、その身を痺れさせていく。
 少女は全身に走る痛みに悲鳴を上げ、涙ながらに助けを求める。しかし、これこそ罠だとますます疑いを強めたレンは、さらに電撃の威力を高めて彼女を苦しめていく。するとその時だ。一瞬少女の声が変わり、苦しみに満ちたうめき声を上げたかと思うとその姿は長く赤い鬣が特徴的な化け狐ポケモンのゾロアークに変化していくではないか。そう、囚われの身となっていた少女はゾロアークが化けた姿だったのだ。

「私の幻影を見破るとは……無念……」

 先程のエルレイドと同じくポンと何かが小さな爆発を起こしたかのような音と共に、煙となって消滅するゾロアーク。幻影を用いる彼女自身もまた、何かに作られた幻影だったのだろうか。その答えを知るのはゾロアークだけなのかもしれない。
 また一つ待ち受ける罠を攻略したレンは、もう少しで最奥部に着くだろうと見込み、意気揚々と歩みを進めていく。

・[[もっと奥へ進む>#K]]






























&aname(K);
 二つの試練を乗り越えさらに奥へとやってきたレン。そしてついに彼女は最奥部へと到達する。左右にかがり火が焚かれたそこにあったのは、黄金色に輝く宝箱。これこそがアージュの求めていた宝物に違いない。
 そう判断したレンがさっそく中身を取り出そうと宝箱に手を伸ばしたその時、背後から大声で彼女を止める者がいた。

「そこの姉ちゃん、ちょっと待ったー! その宝箱は俺が開けてやるぜ!」

 現れたのは、殴れば鋼鉄をも破ってしまいそうな凄まじい筋肉を持つ怪力ポケモンのカイリキーだった。四つの腕と立派なチャンピオンベルトのついたパンツを揺らしながら、レンのすぐ傍までやってきた。
 やっと目的のものを見つけたところに現れたこのポケモン。さては宝を横取りする気ではと警戒を強めるレンだったが、カイリキーはそんなレンの様子など気にかけることもなくハアハアと息を荒げながらレンに話しかける。

「まったく、この洞窟はムラムラして気持ち悪いったらありゃしねえな」

「お言葉ですが、それを言うならムレムレでは?」

 レンに言い間違いを指摘された彼は、それもそうだったと豪快に笑い飛ばす。そして額から垂れる汗を拭うと、本題に入ろうとばかりに宝箱の話を再度切り出してきた。

「姉ちゃん、この宝箱は俺が開ける。姉ちゃんに触れさせるわけにはいかねえな」

 取り留めのない会話では気の良さそうな彼だが、どうしても宝箱は自分が開けるという。どうやら悪いポケモンではなさそうだが、ここまでやってきて宝を渡しては今までの苦労はすべて水の泡。依頼は失敗となり、アージュになんと言われるか分かったものではない。
 そうなるわけにはいかないと思いつつも、これだけ接近されていては無視することはできないだろう。彼は格闘タイプのポケモンだけに接近戦を得意とし、その身体能力は彼女を遥かに凌いでいると見て間違いない。さて、ここでレンはどういった行動に出るのか。



1、[[サイコキネシスでフルボッコにする>#kairiki1]]
2、[[急いで宝箱を開き、宝を持ち逃げする>#kairiki2]]
3、[[ここまで頑張ってきた努力を認め、カイリキーに宝箱を開けさせる>#kairiki3]]






























&aname(kairiki1);





「テメエなんかに宝を譲れるかよ! くらえ、サイコキネシス!」

 宝を横取りされてはたまらないと判断したレンは、まずはカイリキーを倒すことで安全に宝を持ち帰ろうと試みる。幸い敵である彼は格闘タイプで、こちらはエスパータイプ。相性では圧倒的にこちらが優位に立っており、よほど実力差がなければ負けることはない。
 ここは得意のサイコキネシスでごり押しするのが最良の方法であると考え、彼に向けて青白い光線を撃ち放つ。これに当たれば相手を意のままに操ることができ、投げ飛ばすのも容易い。
 ところがどうしたことか、光線はすべてカイリキーが身に着けている真っ黒のパンツに吸い込まれ、彼の表情はまったく変わる様子がないではないか。

「姉ちゃん見かけによって変態だな。だが、オレのパンツは悪タイプのエネルギーに漬け込んだ特別な仕様なのさ。まあそんなに見たいなら見せてやってもいいが……」

「いーやーだー! ご主人のならまだしも、テメエのなんか見たくなんかねえー!!」

 レンの思いがけない攻撃に戸惑いを見せるカイリキーに対し、彼がパンツを脱いでしまったらどうなるのかと勝手に脳が想像を膨らませてしまっているレンはみるみるうちに美白の頬が真っ青になり、ついには魂が抜けたかのように倒れこんでしまう。残念! 彼女の初体験はここで終わってしまった。

「ケケ、もう終わりかい? 仕事もできないんじゃ主人の荷物さ。そんな奴はとっと山に帰りな!」

・[[ご主人、私頑張ります>#K]]
・[[諦めて山に帰ります>トップページ]]






























&aname(kairiki2);





「(むやみに誰かを傷つけたくはないですが、万が一宝を取られては……。ここは……)帰る!」

 一言叫ぶや否や、レンは早急に宝を取り出して帰ろうと動き出す。しかし、彼女が宝箱を開けようと触れたその時、カチッという何かが起動するスイッチが動いたような音が鳴り、それと同時に彼女を高圧電流が襲う。
 痛みにうめく彼女の耳鳴りのような悲鳴が洞内に木霊し、傍にいたカイリキーも思わず顔をしかめながら耳を押さえて必死に堪えている。
 その悲鳴が治まった頃にはレンの頭からは煙が立ち込めており、メイド服はもちろん、彼女のその美白の素肌もろとも真っ黒に染め上げられていた。残念! 彼女の初体験はここで終わってしまった。

「ケケ、もう終わりかい? 仕事もできないんじゃ主人の荷物さ。そんな奴はとっと山に帰りな!」

・[[ご主人、私頑張ります>#K]]
・[[諦めて山に帰ります>トップページ]]






























&aname(kairiki3);





「貴方も宝を求めてここまで頑張ってきたのですね。私は宝を取ってくるよう依頼を受けていたのですが……仕方ありません。ここは貴方にお譲りします」

 紅蓮の瞳から大粒の涙をこぼすレン。それは依頼を達成できなかった無念からくるものか、それともカイリキーの苦労を思ってきたものか。そんな彼女の様子を見たカイリキーは泣かないでくれと彼女を慰めると、軽く一礼して後宝箱を開き始める。
 ところが彼が宝箱に触れた瞬間、カチッという何かが起動するスイッチが動いたような音が鳴り、それと同時に高圧電流が彼に襲いかかる。それを見たレンははっとして彼の表情を潤んだ目のまま心配な様子で見つめる。すると、電撃が走り黄色の光がほとばしる中、カイリキーはゆっくりと振り返りレンを見つめる。

「へへ、これで罠は解除したぜ。よかったな姉ちゃん。依頼達成おめでとう」

「良い人すぎんだろ!」

 痛みに顔を歪ませるどころか、爽やかな笑みを浮かべてレンのこれまでの苦労を讃えるカイリキー。その心理に一点の曇りもなく、彼は始めからこうなることが分かっていてレンの手助けがしたかっただけのようだった。
 やがてポンという小さな爆発音と共に煙となって消滅するカイリキー。いったい何だったのだろうと首を傾げるレンだったが、彼が罠は解除されたと言っていたことを思い出し、宝箱に手をかける。そしてゆっくりとそれを開くと、彼女の目に飛び込んできたのは漆黒の丸い塊だった。

「チッ、あいつが欲しがってたのってこんなガラクタかよ」

 もっと美しい特別な何かを想像していたレンは、思わず不満を漏らす。そこではっとし、誰も今の呟きを聞いていなかったか周囲に目を向けて確認した彼女は、誰もその場にいないことを知ってほっと胸を撫で下ろす。
 かくして陰りの洞窟での依頼は成功まであと一歩のところまでやってきた。あとは戻ってアージュにこれを渡すだけだ。行きは苦しかったが、帰りはすべての罠を解除しているために余裕綽々な様子で戻るのだった。

・[[次の展開へ進む>#ending]]

























&aname(ending);
 無事宝を取ってくることに成功した私は、数時間ぶりに外の世界へと戻ってきました。中の湿気のこもった空気を吐き出し、マイナスイオンたっぷりの山の空気を胸一杯に吸い込みます。いろんな罠には悩まされましたが、特に怪我もなく戻って来れてよかったです。服はお返ししなくてはなりませんから、付着した黒いすすはきちんと払っておかなければなりませんね。
 私は黄緑の手でさっと優しくすすを払うと、入口付近で待っているはずのアージュさんの姿を探します。ところがどうしたことでしょう。せっかくお目当ての宝を取ってきたというのに、彼女の姿が見当たりません。これでは依頼を達成したことにならないことを知っている私は、両手で円を作って口の周りに宛がい、声を張り上げて彼女の名を呼びました。
 しかし、私の声が響くばかりで彼女の返事はありません。これには私も頭を悩ませ、思わず両手で頭を抱えて座り込んでしまいました。すると、突然私の頭上に何かがひらりと落ちてきました。それはなんと一通の手紙。ふと見上げると私の頭上には青い空が広がるばかりで、木に引っ掛かっていたものが落ちてきたわけではなさそうです。
 この不思議な出来事に私は首を傾げつつも、とりあえず手紙の内容を読んでみることにしました。



 レンご苦労さん。あんたもやればできるじゃないさ。最初はだらしない奴だと思ってたけど、ハルトがあんたをパートナーにするのもなんとなく分かったよ。
 取ってきた宝はあんたに譲ってやるよ。ご主人への土産にでもしてやんな。ケケ、またな。



 どうやら送り主はアージュさん、そしてこの手紙は私宛に彼女が書いたものだったようです。我がままで口の悪いアージュさん。そんな彼女が手紙をよこすとは夢にも思っていなかった私は、初めて彼女が本当に認めてくれたような気がして、愛しい人にするように思わず手紙を抱きしめてしまいました。
 私も彼女には失礼なことをしてしまったようにも思いますし、これからもっともっと精進しなければなりませんね。次にアージュさんに会ったときには、みんなに頼りにされるような立派ななんでも屋のポケモンになっているために。





 その晩、私はご主人に今日あったことを事細かにお話しました。アージュさんのこと、エルレイドのこと、ゾロアークのこと、カイリキーのこと。まだ風邪が完治していないにも関わらず、微塵も嫌がる素振りを見せないご主人。ふと話し終えてそれに気付いた私は、一言謝るともう寝ましょうと寝室の明かりを消そうとします。
 と、そこで一つ忘れていたことがありました。話はしたものの、アージュさんがご主人への土産にしなさいと言って譲ってくれた宝を見せていなかったのです。私はすぐにそれを手のひらに乗せて彼に差し出しました。

「はい、ご主人。これは私からの……いえ、アージュさんからのお土産ですよ」

「はは、ちょっと待って。レン、いつまでその格好でいるんだい? 寝る時ぐらいその服は脱ぎなよ」

 満面の笑みでご主人にお土産を渡そうとした私でしたが、ふとご主人の指摘を受け、頬を真っ赤に染めてしまうことになりました。と言うのも、アージュさんに着させられたメイド服を未だ脱いでいなかったのです。そう言えばこれも彼女に返さず仕舞いになってしまいましたね。
 最初は嫌々着させられた私ですが、今日一日中これを身に着けていて、どこかアージュさんの温もりを感じるようになっていたのかもしれません。宝はご主人へのお土産、そしてこの服は彼女から私へのプレゼントなのだろうと無意識に考えてしまいました。しかしながらいつまでも着ているのはおかしいというのは事実で、私はそれを脱ごうとしました。すると突然ご主人は何を思ったのか、ケラケラと笑い声を漏らし始めました。

「めいどのみやげ……か。あいつらしいよ」

「え?」

 笑いを止めると、ご主人はいつになく真面目な顔つきになり“話を聞いてほしいんだ”と言うので、私は微笑みながら彼の話に耳を傾けることにしました。

「実はアージュは、僕が君をパートナーにする前に一緒に暮らしていたパートナーなんだ。それがある日、仕事で火山へ行ったときのことだ……」

 まだなんでも屋を始めたばかりのご主人とアージュさんは、この仕事で生計を立てるべく、より多くの依頼が集まるよう名を上げることから始めたそうです。腕利きのなんでも屋になれば、多くの仕事が集まるようになり、そうすれば報酬もたくさん貰えます。始めに難易度の高い仕事を引き受けたときは、怪我をしながらも二人で無事依頼を成功させたそうです。
 しかし、次に受けた高難易度の依頼。それが火山へ行くものでした。この依頼を受ければ誰しもが一人前と認めてくれることに間違いないと確信していたご主人は、アージュさんの度重なる忠告も聞かず、その依頼を引き受けてしまいます。一人でも行くと言い張るご主人に根負けしたアージュさんは、渋々彼について行くことにしました。ところが、この時事故は起きてしまったのです。
 依頼を達成し、これから帰還しようとした矢先、突然火山が大きく揺れ出しました。それは噴火の予兆。危険を察知したアージュさんは、ご主人を促してすぐさまその場を離れようとしたそうです。ところが安全地帯へ逃げるより先に、火山は蓄えたその煮えたぎる牙を剥き出し、二人に襲いかかったのです。
 その時アージュさんはご主人に一人で逃げるよう言い残し、迫りくる火の海に向かって飛び出していきました。いったい何をするのかと慌てて彼女を追おうとするご主人でしたが、近くで同じく迫りくる魔の手から逃げのびようとしていた大人の男性に抱えられ、アージュさんを追うことは叶いませんでした。
 その後ご主人は命からがら逃げのびましたが、アージュさんが彼の下へ戻ってくることはなかったのだそうです。

「僕のせいであんなことになってしまったのに、アージュはまだ僕のことを……。アージュ、ありがとう……」

 時々嗚咽を交えながら涙ながらにアージュさんへの感謝の想いを呟くご主人を見て、私は彼の背中をさすることしかできません。私が彼女から譲り受けてきた宝を彼女の形見のように抱きしめるご主人は、まだ回復しきっていないことも相まってそのまま疲れて眠ってしまいました。
 今日私が見たアージュさん。あれはまだこの世に未練を残していた彼女の魂だったのかもしれません。しかし、その彼女の想いは私が依頼を達成することで果たされたのでしょう。私が改めてなんでも屋というこのお仕事に誇りを持てた瞬間でした。
 例え命を失い、身は滅びても、生きている間に培われた絆は決して壊れることはない。ご主人、これからもずっと愛してます。部屋の明かりを消し、窓の先で広がる夜空には、アージュさんの笑顔が映っていました。私はこれから先何があろうとご主人の傍を離れませんし、アージュさんが彼を想う心もこの先永遠に途絶えることはないでしょう。それが本当の愛というものなのですから。










 あ、もうこんな時間。ちょうど美味しい朝ご飯もできた頃ですし、そろそろご主人を起こさなければなりませんね。私はドアノブを回すと、ゆっくりと寝室へと足を踏み入れます。フフ、今日はどんな起こし方をしましょうか。しかし、少しいじわるな起こし方をしてみようかと考え事を巡らしながら布団をめくった私の目に入ってきたのは、衝撃の光景でした。
 昨晩ご主人が抱きながら寝たはずの宝がなくなり、代わりにいつも大事にしている黒いぬいぐるみが微妙に姿を変えてご主人の腕の中にいたのです。

「ケケ、これから世話になるよ」

「とっとと山に帰れ!」


 ~END~



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''あとがき''
まず初めに、大会に出展したこの作品に貴重な一票をくださった方誠にありがとうございました!残念ながら結果は一票のみで上位には遠く及びませんでしたが、それでも一票いただけたことはとても嬉しく思っています。
このお話は大会出展作品でしたので、いつもと違ったインパクト重視の作品にしようと企画を練るところから始まり、プラグインができるwikiならではの特徴をいかし、クソゲー風味のお話にしようと決めました(笑)
大会作品はまず掴みが大事ということでこのようなアプローチを取ったので、読者の方で「何このクソ小説w」「ふざけんなw」と思ったり、思わず呟いた方がいらっしゃいましたら作者冥利に尽きます。
全体的に描写が薄いなど反省点の多く残るものとなってしまいましたが、今までと全く異なる作風に挑戦できたことは貴重な経験だと思っているので、今後この作品で経験したことを飛躍に繋げ、より一層皆さんにお楽しみいただける作品が書けるよう精進したいと思います。

よろしければ誤字脱字の報告や感想、アドバイスを頂きたいです。
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大会中に頂いたコメントです。

・選択肢型の小説が斬新でとても面白かったです♪ (2011/08/31(水) 11:41)

>分岐するお話はwiki内にはいくつかあるかと思いますが、ゲーム風に、しかもここまでおかしな小説はなかったと思うので不安もありました。ですが、斬新で面白いと仰っていただけて嬉しい限りです。
 貴重な一票をくださり誠にありがとうございました!これからも頑張りますので、もしよろしければ応援してくださいませ。
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