ポケモン小説wiki
みえない の変更点


『みえない』

作者 [[亀の万年堂]]

登場人物
ドラゴン♀
人間♂
男

R-18 

#contents

更新履歴
2016/11/04 投稿
2016/11/06 作者名入れるのを忘れていたのを修正 一部誤字修正
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**ドラゴン [#40WJGV8]
 そして残酷にも男は言うのだ。いつものように。変わらずに。きっとそれは、どんな時、どんな私でもそうだろう。だから私はその言葉の通りにする。変わりモノのドラゴンはまともになんかにならずに、また誰かを乗せるのだ。



 男と落ち合うのはいつも丘の上の木の根元だった。周りが森に覆われている中、この丘は妙に目立つ。森を切り倒して、土を盛って丘にしただけではなく、その中心にそれはそれは立派に育つ木を植え、ご丁寧に木の周りが寂しくないようにと草地まで整えているであろう場所だ。長年見てきた経験からして、この細かさというか感覚は同族のそれではないことは明白だった。こうしたことができるのは今も昔も人間だけなのだ。
 男のそれとは別に、私はこの丘が好きだった。私と同種のモノは基本的にこのような丘はもちろんのこと、森には住まない。が、私は同種のモノが好むような岩場、それもかなりの高地にあるような所を好まず、極力平坦で、飛ぶ必要がないような場所の方が好きだったのだ。丘は平坦とは言えないが、見通しが良いし、何より岩場では感じられない木と柔らかな草の温もりとにおいが心地よく、私は巨大な木の下にいるとついつい寝てしまうくらいだった。

 男は私より後にやって来る。この森の近くには人間の町があり、男はそこに住んでいるのだ。丘から見ても、空から見ても、森は恐らくは男からしてもさほど深くはなく、厄介な同族もおらず、町から私のやって来る木の根元までは安全といって間違いない。実際男を町へと送り届ける際にも、森は岩場とは全く違って穏やかで、心地よい空間だった。だから私は木の根元にいて寝ていれば男が必ずやって来ると思っていたし、その通りに男は必ずやって来て私を目覚めさせた。
 男がやってくれば私達はすぐに行為に及ぶ。元よりの目的がそれであるし、出会った時からそれは変わらない。同族のモノからすれば、一部を除いてこうした人間との行為は憧れはするものの忌避されるようなことらしいが、私はそんなことはどうでもよかった。少なくとも、私が生きてきた数百年の中で、人間以外に私が惹きつけられる♂はいなかった。同種のモノに言い寄られたことはあったが、どの♂もみな軟弱で、私の尾の一撃で軽く消し飛ぶようなモノでしかなかった。
 しかし、人間はいい。体は貧弱だし、炎や雷が出せるわけでもない。空を自力では飛べないし、念力でモノを砕くこともできない。だが、人間は同種同族のモノには決してできないようなことができる。それは建物を作れるから、心地よい丘と木と草とを創造できるから、美味な食べ物を作れるから、目が眩む宝石を差し出せるから、いいや違う。人間は、人間のもつそれは、人間とのそれは、それだけが私を屈服させられるからだ。
 同種は、一部の同族は、他者に屈服させられることを死んでも認めない。何故なら私達はすべての同族より秀でたモノ達であり、頂点としての生を受けているからだ。そしてそうであるからして、私達は簡単に相手を認め、受け入れ、番になったりはしない。相手が自分よりも優っていない限り血を交わそうとはしないのだ。仮に相手が自分より劣っているにも関わらず、積み重なった欲に負けて交わろうものなら、それは互いにとって不幸な結果しかもたらさないだろう。どれだけ行為に及ぼうと、愛を交わそうと、絶対に血を満たすことはできないからだ。
 私は幸か不幸か、強かった。それは生まれた時からそうで、空を夢見ている時から私に惹かれている♂は多かったが、そのどれもが私を満足させるような強さを見せることはなく、私は親よりも早く翼を得て飛び立った。あの寒く、寂しく、忌まわしい岩場を捨てて、より温かな場所へ、進化の証たる炎で空を焦がしながら飛んで行った。

 そんな私が人間との行為に及んだのは偶然だったのか、必然だったのか。最初の♂は潮風がよく吹く町でのことだった。私は生まれてから初めて海を見て、その海で暮らす小さな生き物に惹かれて、町に降り立った。今だからこそ珍しいとわかるが、町の住人、人間とその人間に寄り添う同族達は突然降り立った私を恐れることも畏れることもなく、ただ平然と受け入れていた。私は当時は人間の知識に乏しく、最初に私に声をかけ、やたらと目を煌めかせていた♂にあれこれと話を聞いた。私からするとその♂のねぐらは、家は小さかったが、私はその♂に従ってしばらくその家に滞在し、毎日♂の話を聞いた。そして口説かれるまま、♂との行為に及んだ。
 私は抵抗をしなかった。これまで散々と同種の求めを拒否していたのに、明らかにその同種よりも力に劣る人間の♂を何の疑問も抱かずに受け入れた。そして♂がしきりに私の背を、翼を床にしての行為を望むのに応える際、なんと邪魔な翼か、苦しい体勢かと思いつつも、全身を満たすような快楽に、支配されているという感覚に酔いしれた。そこで初めて私は自身よりも優っている存在を知った。私の穴という穴を、小さくはあるが、細くはあるが、しかしこれ以上ないと思わせるほどのモノで打ち付け、注ぎ込まれることに、私は自身の血が満たされるとはこういうことなのだと思った。♂は町に降り立った私を見た時に一目で惚れたと言っていたが、私はそんなことはどうでもよかった。私は♂のモノさえあればそれでよく、そのついでに話を聞いたり、海の幸という美味な食べ物を喰えればそれでよかった。
 最初の♂は実によく私を満たしてくれたが、私は飽きてしまった。子も孕まなかった。その♂の元を去るまでどれだけ時間が経ったのかは忘れたが、去る際に♂が泣きながら私を求めていたことは覚えている。私は飽きていたが♂のことを嫌いになったわけではなかったので、気が向いた時に♂のところへ戻っては海の幸を堪能し、話を聞き、ついでに行為に及んだ。♂は老いさらばえてもなお私のことを綺麗だと言い続け、私の腹の上で死んだ。私はその♂が生まれてからずっと見続けていたという海に死体を捨てた。そうすれば、きっと♂はまた同じ海から生まれてくると思った。そして同じ町に生まれたら、また交わってもいいと思った。

 最初の♂の元を去ってから、私は一人ではなく、何人かと交わるようになった。最初の♂に飽きた時点で、私はどうやら一人では満足できないのではないかと思ったからであり、それならば色んな人間と交わって満たすしかないと思ったのだ。人間は同族とは異なり、純粋な力に惹かれることは少ないらしいが、それでも私が町に降り立つと、大抵誰かが言い寄ってきた。時には降り立った際に私を捕らえようとするモノもいたのだが、興味本位に捕らえられた先で、やはり私に惹かれる人間の♂と出会ったりもした。私と同じように捕らえられてきたであろう同族が見ている中の行為は、なかなか興奮させられた。惜しむらくは、その人間の♂が、別の人間に殺されてしまったことだ。どうやら人間は私達を捕らえることはよくても、私達を犯すことはよくないらしい。私は好んで自ら捕らえられたのだが。
 最初の♂が死んで、私が海から離れ、どの♂のところへ行こうか、あるいは別の♂を探そうか、と思っていた時、私は唐突に眠くなった。強靭な私でも流石に海の上では眠れないので、とりあえず陸地を探そうと思って勢いよく飛んだのだが、勢い余って飛びすぎてしまい、海から大分離れたところまで行ってしまった。その時に見つけたのが、私がそれまでの中で最も心地よいと感じた整備された丘である。
 丘は、木は、これまでにない程、私を心地よい眠りへと導いてくれた。思えば、私は眠りにそこまでこだわったことはなかったが、そこでの眠りは人間との行為と同じくらい心地よい、気持ちの良いものだと感じていた。幸い、その丘には同族のにおいもなかったので、♂に飽きたらここで眠って過ごそうと私は決め込んだ。その時点で私はすでに二百を越える時を過ごしており、共に生まれた同種や親も死んでいたに違いなく、血に従うならば子を残すべきだっただろうが、いずれも私にとってはどうでもよかった。気持ちさえよければ他はどうでもいいのである。

 何人かの♂を看取り、死体を捨て、飽きて、私は丘で眠っていた。最初に丘を見つけてからさらに何十年か経っていたと思うが、丘は変わらずそこにあった。丘を見ている人間は飽きたりしないのだろうか。すぐに人間に飽きる私と違い、ひたすらに丁寧に丘を整備しているであろう人間に、私はそこで初めて興味がわいた。加えてその人間が♂であり、加えてその人間が素晴らしいモノを持っており、加えてその人間が凄まじい精力の持ち主で私を殺すくらい蹂躙して嬲って舐って犯しつくしてくれたらいいと思っていた。
 しかし、そこで初めて気づいたのだが、丘からは人間のにおいがしなかった。私は決して鼻のいい生き物ではないが、それにしても丁寧に整備されているであろう丘である。毎日、ではないが、それなりに定期的に人間が来ているに違いない。にもかかわらず、どうして人間のにおいがしないのか。においがしなければ人間を追うことはできないので、私は途方に暮れた。
 途方に暮れて数分後、私は眠って待っていればいいと気づいた。私を待つ♂が何人か死ぬかもしれないが、私はそれよりも丘の人間の方が重要だと思った。だから、いずれやってくるであろう人間を待てばいいと思ったのだ。
 私は眠った。どれだけ時が経ったのかはわからないが、どれだけ時が経っても、丘での眠りは、木の下での眠りは心地よいものだった。ここまで飽きなかったものは今までになかった。

 そして男がやってきたのだ。

 私を起こしたのは久しぶりの人間の手と声だった。目を開け、体を起こし、大きく口を開けてあくびをしたところで、ようやく私は私が待っていた者がやってきたのだとわかった。
 私の言い方が間違っていなければ、男は青年だった。年は6歳から36歳のどれかくらいだろう。たぶん60歳とかではない。よくわからないが。背丈は小さくもなく大きくもない。太ってもいない。髪の色は緑のような黒のような青のような赤のような、とりあえず色がついていた。服装は、だんだんと面倒になってきた。とりあえずモノがついているのは間違いなかった。においがしたから。
 男は♂と違って目覚めの一声の後、目を煌めかせもしなかったし、興奮して押し倒そうとしてきたりもしなかったし、発狂したりもしなかった。そうしたことは今までになく、私はどうしたものかと思い、とりあえず丘の主はお前なのかと問うことにした。答えは違った。それはそうだろう。
 私が丘にやってきたのは、私がどれだけ眠っていたのかわからないが、少なくとも男が生まれるよりも前のはずだ。だから男が丘を作ったり整備したりすることができるはずがないのだ。ならば、私は男を無視して再び眠るべきだったのだが、今までの♂と違った趣を見せる男に、私は興味が湧いた。

 私は男に様々なことを聞いた。主に私に発情しないかを聞いた。男は私に発情しないらしい。残念なようなそうでないような複雑な気持ちになったが、その時点ではそれはどうでもいいことだった。
 男は丘に私がいることを結構前から知っていたらしい。それどころか、私のことは男が住んでいる町では有名になっていて、勝手に私のことを守り神だ守り竜だなんだと祭り上げているのだとか。実際、私がいるおかげで森の同族はおとなしくなって、町からすると助かっているのだという。そして勝手に勘違いした町の住人が、定期的に丘を整備しているということだ。
 はて、どうにもおかしな話だ。私が来る前から丘は綺麗であったし、木も生えていた。男の話では私が来てから丘を整備したことになっているが、それではどうにも話が噛み合わない。ひょっとして私が勘違いしただけで、丘は天然のモノだったのだろうか。そしてたまたま私が気に入って、たまたま人間が私を見つけて、たまたま私を祭り上げて、たまたまたまたまたま面倒くさくなってきた。
 まあいいと私は思った。今はそれよりも目の前の男のことだと思った。私は私に声をかけておきながら言い寄ってこない男に興味が湧いていたのだ。私は最初はよかったが、毎日のようにやってくるのに一向に発情しない男にだんだんイライラムラムラしてきて、ついには私の方から口説くことになった。しかし、男は私の口説きに応えようとはしなかった。私は生まれて初めて、フラれたのだ。

 フラれた後、私は恐らくはとても久しぶりに丘から離れた。♂を漁ろうと思ったのだ。丘に来る前にいた♂を巡ったが、みんな死んでいた。死体も残っていなかった。残念だ。モノが欲しい時に得られない。
 とりあえずいくつかの町を回って何人かの♂と行為に及んだ。そこそこスッキリして、私は丘に戻った。男はいなかったが、どうせ眠っていれば来るだろうと思って私は眠った。男はすぐにやってきた。男を見るとスッキリしたはずなのにムラムラしたが、話をすることでごまかした。男は絵が得意らしく、話をしながらよく私の絵を描いた。私は絵のことはよくわからないが、どうにも静かな海にうつる私よりも綺麗な私が絵の中にいるような気がした。男の目には私がそう見えているらしい。私は男の絵の私だったら男が発情するのかと思い、初めて嫉妬というものを知った。でも絵を破ったりはしなかった。私は人間の♂を殺す人間の♀とは違うのだ。ふふん。

 男との行為に及ぶようになったのは、確か、忘れた。ちょっと経ってからだ。男はある日突然私の求めに応えてくれた。私は行為を始める前から絶頂してしまった。ようやくこの男が私のモノになるのだと思っただけで達してしまったのだ。男は他の♂と比べると穏やかだったが、行為の時は穏やかさはそのままに、今までの♂の中で最も残酷だった。行為の激しさというよりも、聞いているだけでまどろむような心地よい声をもって、私の鼓動を何度も引き裂いた。
 男と出会ってから私は初めて嫉妬するようになった。初めて期待するようになった。初めて穏やかになった。それらを男は行為の中で利用し、踏みにじった。男と会ったことで生まれた感情を、感情というものを、男は巧みに操って、ひたすらに私を傷つけた。
 私は今までの快楽など、気持ちのよさなど、血が満たされる感覚など、すべてまやかしだったのだと知った。男が与えてくれるそれは、男によるそれは、私を屈服させた。屈服するとはどういうことなのかというのを教えてくれた。私は男との行為なしでは生きていけなくなった。男と会うと、求めて、求めて、ひたすらに求めた。そうして求めているうちに、さらにいくつもの感情を得た。さらなる傷を得た。

 男は毎日は来なかった。私は毎日男が欲しかった。男が来ない時、私は♂を漁った。♂が死ぬときに傍にいなくなった。♂の死体を捨てなくなった。♂のにおいをまとって男と会うと、男はそのことを指摘して、私を淫乱な♀ドラゴンだといつも指摘した。頭の中どころか血のすべてがそれしかなくて、どんな変態的な行為でも欲しがる♀だと優しく言った。私は押さえつけられるわけでもなく、命令されるわけでもなく、自ら、♂との行為で知った様々なことして見せた。求めた。男は私に一切体の傷をつけようとはせず、行為自体は緩やかに穏やかに、しかし一方で私を殺しかねないほど責めたてた。
 私は嬉しかった。今まで生きてきてこれほど嬉しいことはなかった。男がどれだけひどいことを言おうと、私だけを求めてくれていることがわかっていたからだ。男からは他の♀のにおいなどしなかったからだ。男にこれだけ発情している私が、同族のすべてに勝るであろう私が、男にまとわりつく他の♀を許すはずがない。気づかないはずがない。

 残念なのは私が男の子を孕めないことだった。男は他の♂とは異なり、私のなかを溢れさせるほどの精を一度の行為で注ぐことはなかったが、それでも回数からいえば相当の数をこなしている。他の♂との行為では孕むことはあったのだが、私達は間違えたりはしない。だから、もしも男との子ができれば、私は至上のよろこびが得られると思ったのだが。所詮は私は私をも偽っていたのかもしれない。
 男は子などいらないと、私さえいればいいと、などとは言わなかった。男は私が何を真に求めているのかなど簡単に看破していた。男の前で必死に自慰によって達し続ける私を見ながら描く絵には、そのような痴態ではなく、さらなる痴態があった。私は目の前の男だけを望んでいるはずなのに、絵には複数の♂に犯される私があり、泣いて、しかしさらに欲情して迫る私に男は絵の説明を淡々としてくる。それによってさらに私が狂うと知っているから。

 始まりは穏やかに、終わりも穏やかに、私と男の逢瀬は続いた。世界が時を経ても、常に穏やかな丘の上で、私は男を求め続けた。が、私と違って男は人間だった。人間は長くは生きられない生き物だった。男はまだ長く生きた人間ではなかった。しかし、男は長く生きる前に死んだ。
 気づいたのは愚かにも眠ってからだった。私は期待して眠った。恐怖しつつ眠った。男にどれだけ責められるだろう。どれだけ狂わされるだろう。恐ろしくも期待は、欲求は全てを飲み込んだ。

 私は目を覚ました。男はいなかった。私は新しい責め方なのかと思った。しかし、すぐに違うと思った。男は私を悦び以外では決して泣かせなかった。男は私のすべてを知っている。私のすべてがみえている。だから私が目を覚ました時、そこに男がいなければ私がどうなるか知っている。今や無敵の強さを得ている私が、本当はどれだけ弱いのか知っている。私は、そう私は、私は、泣いていた。初めて私は泣いていた。なぜ。知っているからだ。わかったからだ。なぜ。私は、私が誰もいない丘で目を覚ましたのか。



 私は男を何度も町へと送っていた。だから男が住んでいる場所は知っていた。私は男と同じ場所で住みたいと思ったし、そう求めたこともあった。が、男はそれを望まなかった。私は男のモノ。だから私は男に従って丘で男を待つようにした。けれど、もう男は、だから私は初めて男の町の中へ入った。町の住人はみな私を見て平伏していた。私を神だと思っているからだ。どうでもよかった。私は男のにおいのする何人かの♂を呼び集め、男のことを訊ねた。♂は今の私ならはっきりとわかるように狼狽した。♂は疑問を浮かべたが、私は疑問を許さなかった。
 ♂に案内された先は心地よさとは無縁の場所だった。どの♂の家よりもはっきりとそれは家ではなかった。洞窟よりも狭く暗い。私の体など到底入りそうもない。が、それ以上にその家に入れたくなかったのか、ふさわしくないとおもったのか、いや、男はきっと私が、やはり男は私が、そう男は私のことがみえていたのだ。
 私はやがてわかった。しかし、敢えて♂に問いただした。私は今を生きる同種だけではなく、すでに同族、いや禁種に並ぶ力を持っていた。だから結果、どうなるかを理解した上で♂に訊ねた。♂は生き物が等しく持つ感情を見事に表してくれた。どうして♂達から男のにおいがするのかを静かな海と同じくらい鮮明にうつしてくれた。なぜ男から人間の女のにおいがしないのかを私に思い知らせてくれた。
 私は後悔した。男はわずかながらに町に愛着をもっていたかもしれない。私は思い込みで神たる行いをしてしまった。やがて私の元に制裁の神が、審判の神がやってくるだろう。だが、どうしてそれを我慢できようか。私は可能ならこの愚かな私を切り裂きたかった。しかし、それができるのは、それを許されるのは、私が許すのは、私が求めるのは。

 男は

 私は

 結局、私は丘に戻った。そこだけが変わらずにあった。全ては私の偽り。私の欲求が答え。私が得た知識がこの世界のすべてではなかったのだ。もしも私が得た知識が世界のすべてだったとしたら、私はきっと男の横に歩くのではなく、男を背に乗せただろう。ああそう、だから私はきっと神が顕現するその時まで、♂を背に乗せるのだ。腹の上に乗せるのだ。他の誰にもわたしはしない。わたしはしない。私の横にいる男はたったひとりなのだ。私にはみえなかった、もうみえない、男だけなのだ。
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**男 [#Me3mouB]
 憎い。僕はあのドラゴンが憎くてたまらない。あんなにも綺麗な赤の翼をしているのに。綺麗な目をしているのに。綺麗な蒼の体を持っているのに。力強いのに。あのドラゴンは僕よりも弱くて脆くて美しい。



 神様が住んでいるという丘には本当に神様がいた。神様を見たことがない僕だっけど、雄大な巨木の根っこで眠っているドラゴン、ボーマンダこそが神様なのだと思った。町の人間は神様に触れてはいけない、眠りを妨げてはいけない、声をかけてはいけないと言っていたけど、僕は人間なんかじゃないからいいんだと思った。
 初めて声をかけるまで1年もかかった。僕はそろそろ死ぬかもしれない、殺されるかもしれないと思うところまできて、ようやく声をかけることができた。使い道のないお金を使って、できる限り体を綺麗にして、それでも染み込んだ臭いだけは消えなかったけれど、神様に怒られないようにと頑張って声をかけた。起きなかった。神様はそれはそれは気持ちよさそうに眠っていて、僕まで眠くなるくらいだった。僕はそっと手を触れて、その温かさに驚きながらもまた声をかけた。起きた。
 その瞬間、神様の目を見た瞬間、僕は全身がしびれてうごけなくなった。美しかった。森も丘も湖も美しいけれど、神様の、あくびを終えて悠然と立って、僕を見つめてくるまでのわずかな間、一瞬空を仰いでいた神様の姿は、あまりにも美しかった。

 神様は、僕に真っ先に丘のことを聞いた。お前がこの丘を作ったのかと。こんなに立派な丘が人間に作れるはずがない。いや、作れたとしても、どの季節でも変わらないようになんてできない。だからこの丘は神様が作ったとされているのに、おかしなことを聞くものだと思った。けど、そうとも言えず、町の人間がみんなで整備をしているのだと言った。言った後で、嘘をついたと知れて怒りをかったらどうしようかと思ったけど、神様は怒りもせず、落胆もしなかった。それどころか、一度立った体を再び横たえて、そのまま僕と話してくれた。
 話の中でわかったけれど、人間ではない僕のことを、神様は人間の男と認識しているらしかった。いきなりえっちなことをしようと言われて驚いた。知らなかったけど、神様も町の人間と同じようにえっちなことをしたくなるらしい。僕は神様に求められると、嬉しさよりも怖さが勝って、申し訳なさでいっぱいになりながらも、断ることしかできなかった。それに、こんなに美しい神様が、えっちなことをすることで、町の人間と同じような汚さになるなんて嫌だった。

 神様は毎日丘の上にいた。僕を待ってくれていた。僕は死にかけていたけれど、殺されかけていたけれど、神様と会いたいから死なないようにすることにした。殺されないようにすることにした。でも生きるためにはしないといけなかった。だけど神様は綺麗な僕でなければ話をしてくれないと思ったから、僕はたくさんお金を使った。お金はまだまだあった。

 神様の絵を描くと、神様は怒ったみたいだった。僕は目に映るままを描いたのだけど、神様はそれが不満なようだった。僕は悲しくなった。僕は歌うこともできないし、踊ることもできない。お金はあるけれど、神様が好きそうな宝石を選ぶこともできない。決まった食べ物しか食べたことのない僕は神様のお腹を満たすこともできない。神様がそれでもと求めてくれる度に僕は神様の絵を描いたけれど、いつも神様は怒ってばかりいた。それでも一緒にいてくれる神様のことが大好きで、でも、どうしたら喜んでくれるか僕はいつも考えていた。僕にできること。僕にできること。

 神様は僕に色んな話をするように言う一方で、僕が知らないことを色々と話してくれた。みんな僕以外の男の人とえっちなことをして聞いた話らしい。僕はその話を面白いと思いながら、とても苦しくなった。神様は最初は毎日いてくれたけど、時々いなくなってしまって、その時は他の男の人とえっちなことをしているんだ。僕はそれがとても嫌だった。

 神様は僕のことを背中に乗せて飛んでくれようともした。きっと僕が望めば神様は僕のことを町から連れ出してくれたと思う。でも僕はそう望まずに、帰る時に一緒に歩いてほしいとだけお願いした。神様は僕のお願いをいつも叶えてくれた。僕さえよければ僕の家に一緒に住むと言ってくれたけど、あんなに気持ちよさそうに眠れる場所から離すことなんて僕にはできなかった。僕は神様と話している時も好きだったけど、あの丘の上で、大樹の根っこで眠っている神様を見ているのがとても好きだった。僕はわがままだ。

 神様は、いつも、僕じゃない男の人の臭いをさせていた。僕がいつも知っている臭いだ。だからきっと神様は僕の臭いを嗅いでもなんとも思わないんだと思う。神様はもしも僕が女の人の臭いをさせていたら、その女の人を殺してしまうかもしれないと言っていたけれど、その時、ううん、もっと前から僕は知っていたのだけれど、改めて神様は神様だけど神様じゃないんだとわかった。


 僕は、僕は、とうとう言ってしまった。神様が欲しいと言ってしまった。神様は信じられないくらい喜んだ。おもらしをしちゃうくらい喜んでいた。僕は、神様のことが好きなはずなのに、大好きなはずなのに、そんなに喜ぶ神様を見て喜べなかった。これで他の男に渡さなくて済むようになる。僕だけの神様になる。そう思って、僕は、僕がよく知っているように、神様を犯した。神様はとても喜んでくれた。
 えっちなことをしている時も、神様はとても綺麗だった。鋭くても綺麗な目はとろんとまどろんで、立派な尾はよがるたびにくねって、固いはずの体はどこまでもやわらかく、中の肉は僕のすべてをとらえて離さない。だけど、えっちなことをすればするほど、僕は神様のことが憎くなって、こんなによろこんでいる姿を僕以外に見せたことに、見せてきたことに、綺麗でいなければならないのにこんなに淫れていることに、それなのに、それなのに、僕と違ってこんなに綺麗だなんて、僕には許せなかった。だから、僕はそれを口に出してしまった。いっそのこと僕のことを殺してくれれば。でも、神様はよろこんでしまった。僕が一番見たくないモノになってしまった。僕が一番嫌いなモノにうつってしまった。

 僕はただえっちなことをするだけでなく、神様の淫らな姿をひたすら描いた。僕をそこに入れずに、僕以外の男の人を入れて描きまくった。それでも神様は狂うほどよろこんだ。淫乱なドラゴンだ。神様のくせに。ドラゴンはみんなこんな淫乱なのか。えっちなことしか頭にないのか。なにをされてもよがり狂う。言えば言うほど神様は狂っていく。僕と同じように。
 だけど、神様は僕だけのモノにはならなかった。こんなに愛しているのに、神様は僕以外の男の臭いをさせてくる。僕がお金を得るために体を壊して動けなくなり、そのお金を使って動けるようになって丘の上に行くと、そこには臭い臭い神様がいるのだ。それなのに僕のことを求めてくる。それなのに僕には一度だって愛しているなんて言ってくれない。ああそうだ。僕は知っている。僕には見えている。神様は僕のことなんか見ていない。神様は僕のことを愛してなんかいない。神様は、神様は、町の人間と一緒なんだ。だから僕は神様と一緒になんかなれないんだ。だって僕は人間じゃないんだから。人間じゃないんだから人間と一緒になんかなれないんだ。



 動けなくなった。お金も無くなった。僕は。僕は、神様に会いたかった。憎いのに。神様に会って、話して、求められて、一緒に過ごしたかった。嘘でもなんでも愛しているよって言いたかった。結局一度も言えなかった。だって、言えない。僕は人間じゃないんだから。神様は人間なんだから。言ってどうするの。そんなことしたら、きっと神様は泣いてしまう。僕はどれだけ神様のことを憎くても、泣かせたくなかった。神様は神様だけど神様じゃない。神様はとても強いけど神様じゃない。だから、本当は、とっても寂しがり屋で、とっても辛くて、だから、だから、だから。
 ごめんなさい。神様。ごめんなさい。僕は、神様が泣いてくれたらって思っちゃうんだ。僕のために泣いてくれたらって。なんてひどいんだろう。こんなひどいことを求めてしまうなんて、やっぱり僕は、僕は。ああ、いっそ、ドラゴンになれたら、僕がドラゴンになれたら、神様と一緒にどこまでもいけるのに。
 神様、どうかお願いします。あなたをひとりにしないように、僕を忘れないで。僕はずっとあなたの横にいるから。どうか。どうか。どうか。


 ああ、空が蒼い。初めて見た時からそう思ってた。神様の体の色は、まるで晴れ渡った空の青さのようで、何よりも綺麗で、そして

おしまい
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***あとがきという名の書きなぐり [#0xXZE7l]

 間違っていると言う。言われる。そんな愛の形があるのかと言う。きっとすべてのみんなが言う。私もそう思う。今はそう思う。人間なら、どうして、と思う。でもそれは、その形は確かに存在する。私もそれを知っている。
 どうしようもなく人間の形を否定するのは、そんなのが人間だと思いたくないからなのかもしれない。だから私は希望も書くし、絶望も書くのだと思う。両方ほしいというのは本当に欲深なことだ。けれど、この世界はそんなうまいことできていなくて、両極端なんていうわかりやすさはなくて、どっちも混ざってドロドロしているのだ。けれど、話なんていうのは両極端がわかりやすくていいと思ったりもする。

 厳密には、と言わずとも、ふさわしくない。この話にはらしさが全くないからだ。どのらしさか。それはもちろんポケモンらしさである。ポケモンの話である必要が全くない。もっと言えば、ケモノたる要素がほとんどない。全て人間で置き換えてしまえる。それくらいドラゴンは人間にしか見えない。では人間がケモノなのかというと、どれだけ否定してもやっぱり人間は人間なのである。だって書いている私が人間なのだから、それっぽいは頑張ればどうにかなるのかもしれないが、それにはどうしてもならないのだ。でも、いつか書いてみたいとも思う。ポケモンでなければならない話を。書いてみたいからこそ、無駄と称されても書き続けると思う。

 洞窟に逃げ込んだロクに感情を持たないドラゴンが段々と感情や欲求を経て人間へと近づくという話は以前にも投稿させていただいたことがある。作中では人間に近づくなどとは書いていないけど。それは人間がほぼ登場しない話で、きっかけもあいてもポケモンだったのだけれど、起源はそもそも人間であった。思いがけず高評価を戴いた作品だったが、実のところ今回の話も私からすると結果が違うが同じような話である。相手が人間になるだけで結果が変わってしまうあたり、私もまだまだ期待を持てずにいるのかもしれない。話に現実を持ち込むなとぶっ飛ばされそうだが、色々と違えば上手くなんていかないのだ。上手くいっているとすれば、それはまだ途中だから。この子達だって途中があったのだ。

 私は人間の心境を描写することができない。ポケモンだから、ケモノだから、竜だから、軟体生物だから、と言い訳、理由づけをしないと書けない。書いているそれはどう見ても人間のそれとしか思えなくても、そうしないと書けないのだ。何とも面倒くさくて軟弱な精神の持ち主だと自分でも思う。三十年生きてきても、私はまだ物心ついたころに記憶している体験からをショウカできずにいる。

 死んだ人間は私からするとモノでしかないらしい。だから死んだ人間の描写はいいらしい。なんなんだそれはとやっぱり自分でも思うのだけれど、そういうことなのです。どういうことなのだ。

 人間に恋するドラゴン、いやカエルとかナメクジとかカマキリとかそういうのでもいいのだけど、異種間恋愛は大好きで、それを一枚の絵で表現できる人に私は強く憧れる。私の拙い文字を打つ手では、筆では、それらの絵を表すのに、万ではきかない言葉が必要になってしまう。それだけ打っても書いても満足できない自分がひどく厭らしく思える。

 前にもどこかで書いたのかもしれないけど、書ける人というのは全てが書くのに向いているのだと思う。ご飯を食べたり、ぶらぶら歩いたり、仕事でしんどい思いをしたり、映画を見てボロ泣きしたり、そうした関係ない事のすべてが、最終的に、時間をかけるかけないを別として、書くことに繋がるのである。他のことでそれらを発散せずに、本来なら発散するようなことをしても、書くことに繋がっちゃう人が書ける人なのだと思う。なんとも不幸な人間ですな。どれだけ辛くとも、嬉しくとも、喜ばしくとも、書かないとショウカできないのだから。私は自分がそうだと勝手に思っているけれど、私は自分が書けてよかったと思う。そしてそれを読んでくれる人と出会えてよかったと思う。

 だんだん長くなってきた。内容のない話、いや、文字というのは本当に際限がない。才能のある文章は読んでいて楽しいのだけれど、そうでない文章は読むのがつらくなってくる。

 『人間に惚れるなんてどうかしてる』という題目の異種間(人間とポケモン)シリーズを結構書いていて、今回もその一つだったんですが、目立ってハッピーな結末にはなかなかならないものです。前回も次は、と言っておきながら結局こんな話になってしまった。でも次のドラゴンと女の子の話は明るく終わらせたい。絵もお願いしていますし。やっぱり会話文がないと私はわかりにくくて暗い話になってしまうのかもしれない。またよろしくお願いします。
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***コメ欄 [#rsjxNRB]
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