Writer:[[&fervor>&fervor]] ---- 今日は何もない一日だった。ただ普通に学校行って、&ruby(だべ){駄弁};って、勉強して。 …そう、本当に普通の日だった。 小っちゃい頃は、この日が楽しみで仕方なかったっけ。 親が祝ってくれて、友達も誘って騒いで。 もう高校生だもんな。…今更、こんな事で喜んでても仕方ない。 大人に近づくにつれて、大人への憧れが消えて、ただただ不安と後悔がつもっていって。 いつの間にか、楽しみじゃなくなってて。そりゃ、仕方ないけど…。でも、やっぱり寂しい。 一応、あいつらにも教えたことはあるんだけど。やっぱり忘れてたみたいだな。 修行だの何だので、朝からずっとどこかに出かけていった。 今は家で一人。…飯も食ったし、勉強もする気になれないし、……。 「まだ八時だけど…もう寝よう。…どうせ起きてても何もないんだし、な」 もぞもぞと布団へ動いて行って、そのままゆっくりと目を閉じる。 そうだよな。…こんな日、別にどうだっていいもんな。…………。 「ブライス~~~~~~~!!!!」 電気がつくとすぐに見えた物。宙を舞う大きな毛玉が。 「フォ…フォッツ…!!!」 気づいたときにはもう遅かった。その身体の全体重が、俺にのしかかってくる。 本来の毛並みとは違う、ごわごわした手触り。おまけに、修行の跡だろうか。泥だらけ、汗だらけだ。 「重いし汚いだろ!!!!…まったく…とりあえず身体、洗ってやるから。…ったく…」 と、ここまで言って、フォッツをどけた瞬間。あいつらの姿が見えたと同時に。 「誕生日、おめでとう!!!!!」 …忘れてなかった、か。 「あ~、ひょっとして、私たちが忘れてる、とか思ってた?…忘れるわけ無いよ。だって、私たちはあなたのポケモンなんだから」 「…って、フュルフィ、あなたは忘れてたでしょ?あと、あなたのそのご自慢の綿の翼、かなり汚れてるわよ」 「そ、それは言わないお約束でしょ~、ピーシュ!…あなたのそのもこもこの毛だってそうじゃない!静電気で色々くっついてるし!」 「お前らなぁ、それよりもっと言うことあるだろ…?…とりあえず、全員で風呂入ろうぜ、ブライス」 「そうだね、アーフの言うとおりだよ。僕たちも大分汚れちゃってるし」 …まったく、こいつら、どっか間が抜けてるんだからなぁ。 …ん? 「あれ、フォッツ、お前…」 「そうそう、僕ね、やっと進化できたんだ!…ほら、どこからどう見てもバクフーンでしょ?!」 「すごいじゃないか!…お前もやれば出来るんだなぁ」 俺はずっと、こいつを頑張って育ててきたのに、なかなか進化しなかったもんな…。 でも、ようやく進化できた、か。後はピーシュがデンリュウに進化すれば…。 まあ、そんなことはどうでもいい。今はこいつらの精一杯の好意に感謝するときだ。 「さて、今日はみんなで風呂入るか!」 ひたすら流し合いっこ。…って言っても、風呂は狭いから、俺ともう一匹で一杯一杯なんだけど。 アーフとフォッツはこれが嫌いみたいだ。…まあ、ウインディとバクフーン、炎タイプだから当たり前といえば当たり前か。 やっとの思いで身体を洗い終え、櫛で梳かして毛並みを整える。 昔はこういう馬鹿騒ぎもしてたのにな…。いつだったっけ、こんな事をしなくなったの。 「……………………………………」 今までの寂しさから?あるいはこいつらの気持ちに対する嬉しさから? …とにかく、涙が止まらない。 「あれ、ブライス…」 「泣いてるの?…私たち、やっぱり迷惑だったかな…?」 …違うよ。…そんなわけ無いだろ? いくら声を出そうとしても、漏れるのは微かな空気の音だけ。 ただ、首を横に振って否定するだけで精一杯で。俺は少しの間、みんなに抱きついて泣きじゃくっていた。 「はい、これ。…誕生日って言ったら、やっぱりケーキでしょ?…あいにく、小っちゃいのしか買えなかったけど…」 まださっきの嗚咽が止まらなくて、声がほとんどでなかった。その中で、たった一つ、言えた言葉。 「十分……だよ…。…あり………が…とう………ひっぐ…」 後はもう、泣きながら笑って、がむしゃらにケーキを食べて。 …どれだけ小っちゃくても、俺には最高のプレゼント。これ以上ない、至福の味だった。 ようやく落ち着きを取り戻したときには、時計はもう11時を過ぎていた。 「なあ、…俺のわがまま、一個だけ…聞いてくれるか?」 四匹ともが俺ににっこりと笑いかけてくる。俺も涙の跡を笑顔で隠す。 「一緒に…寝てくれないか?」 その夜は、これ以上ない、この秋一番の冷え込みだったけど。 俺は、これ以上ない、この秋一番の暖かい布団で、暖かい夜を過ごしたんだ。 …もふっ、ふわっ、もこっ、さらっ。 ――フォッツのもふもふした毛に片手で抱きつきながら。 ――フュルフィのふわふわの綿羽に身体が包まれながら。 ――ピーシュのもこもこな毛に顔を&ruby(うず){埋};めながら。 ――アーフのさらさらとした毛を片手で撫でながら。 もふもふ、ふわふわ、もこもこ、さらさら。 もふもふ、ふわふわ、もこもこ、さらさら。 ただ延々と、いろんな感覚にもみくちゃにされつつ、俺は心も体も温かくして。 こんな言葉をつぶやきながら、深い、心地よい闇へと誘われていった。 ――お前らと一緒にいられることが、俺にとっての最高のプレゼントだよ―― ――だから…出来たら、また来年も…同じプレゼントが、欲しいな―― ---- ――おまけ―― 「ブライスぅ…くすぐったいよぉ…」 と言いながらぎゅっと抱き返してくるフォッツ。 「どう?ブライス。…私の翼、気持ちいいでしょ?」 ちょっと得意げに話すフュルフィ。 「やれやれ。あたしの方が年下なのに。甘えん坊ね、ブライス…」 やや呆れ気味につぶやくのはピーシュ。 「お、俺は子どもじゃないんだぞ!撫でるのはよせって!…ま、まあ、…お前がそうしたいなら、…いいけどさっ…!」 照れながらも結局嬉しそうに喋るアーフ。 ――四匹は四匹で、それぞれ温かな夜を過ごしたようで。 ---- ――番外編―― 「やっぱ俺が悪かったよな。…ごめん、スフュール…」 ずっとうつむいて、落胆した様子でぽつりとつぶやくルーフ。 「俺だって、マグマラシだと思ってなめてたからさ。…ルーフだけのせいじゃないって。元気出せよ」 そう。今日はトレーナー不在のマグマラシと勝負して、見事に負けて帰ってきた。 そりゃ、タイプ相性悪いのに勝負しかけたのはルーフだけど…俺にだって責任はある。 そんなに落ち込まなくってもいいのに。…今日のルーフは、いつもに増して元気を失っていた。 「気にしてないって。…また今度、勝てばいいんだからさ!」 「…ああ、そうだな…。…そうだよな!」 少し元気を取り戻したルーフ。…やっぱり、こっちの方がルーフらしい。 「あ、そうだ。スフュール、お前、忘れてないか?」 「え?…何を?」 何か約束してたっけ?…なんか頼まれてたか…?…思い出せない。 「ほら、…さすがに、ケーキは高くて買えなかったから…こんなのだけど…」 ルーフが持ってきたのは、クリームでちょっと豪華に飾り付けられているポフィンだった。 「…お前の誕生日だよ。…おめでとう、スフュール。…勝てなくって、ほんとごめんな…」 そうか。…俺、今日が誕生日だったっけ。 正直、誕生日を祝うのは人間くらいで、ポケモンにとってはちょっと不思議な感じだ。 …俺が卵から孵った日。…ルーフ、覚えてるんだもんなぁ。 豪華じゃなくてもいい。ルーフの気持ちが、俺にとってはものすごく嬉しかった。 「気にしてないよ…ありがとう、ルーフ!」 今日は本当にルーフが優しかった。この寒い中、水で身体も丁寧に洗ってくれたし。 本当は…もう一つ頼みたいことがあるんだけど、さすがにルーフに迷惑だから、これは言わないでおこうと思ってた。 けど…。 「――――――!!!!」 気づいたときには、俺の身体はルーフに持ち上げられていた。 「お前の顔見りゃわかるさ。…抱きしめて欲しかったんだろ?」 そういいながら、俺の身体をぎゅっと抱いてくるルーフ。 …夏だったら暑いからお断りだったけど…この時期になればもう大丈夫だ。 …ただ、今度はルーフが嫌がるだろうし。何より、風邪でも引いたら大変だ。 そう思って、ずっと口には出してなかった。 一度でいいから、抱きしめて欲しい。そんな思いがここ最近、ずっと積もっていた。 「そりゃ…冷たいし、寒いけど。…お前なら気にならないよ。…スフュール」 俺へのプレゼントは、ルーフの軽い、かつ柔らかで、ほんのり甘酸っぱい、優しい口づけだった。 深い、それこそ性としての「愛」を示すキスじゃなくて。…お互いの気持ちを伝え合うための、軽い「愛」の口づけ。 その余韻をゆっくりと噛みしめながら、俺はもう一回ルーフに身体を寄せる。 「…一緒に…寝てくれないか?」 次の日、当然のごとく風邪を引いたルーフ。でも、むしろルーフは嬉しそうだった。 なんと言っても、学校を休める。そんなことを言いながら、ルーフは幸せそうに布団にくるまっていた。 もちろん俺も、喜び、嬉しさを味わいながら。俺はルーフと一緒に再び眠りにつく。 ――ルーフと一緒にいられること。…それが―― ――…それが、俺にとっての最高のプレゼントだよ―― ---- -あとがき 妄想を全開にして、それを形に仕上げた物です。もふもふいいですよ、もふもふ。もふもふもふもふもふ(ry 実はこの小説、自分の誕生日記念だったりします(汗 ちなみに結構フライングです。あと一週間あります。本当はきちんと11/17に載せようかと思ったんですが、予想外に早く書けたので。 …余りいい出来とは言えませんがorz&br; ところで、誕生日って、年取るにつれて嫌になってきませんか?…子供の頃は、早く大人になりたかったのに。 最近は大人になるのも嫌になってきたり。この歳だからって言うのもあるんでしょうけど。 …ポケットにファンタジー、いい曲だと思います。&br; おまけ二つを更新しました。まあ自分の誕生日に間に合ったのでセーフ、ということで。 それにしても、こんなところまでルーフとスフュール。どれだけ愛されてるんですか。 個人的にはアーフ君お気に入りです。…って、どうでもいいですね(汗 ---- なんでもどうぞ。 #pcomment(また一年が過ぎ去って/コメントログ) #enull{{ &tag(短編,誰かと誰かとのいつかの日常); }}