#author("2024-07-04T01:53:11+00:00","","") #author("2024-07-10T23:14:16+00:00;2024-07-04T01:53:11+00:00","","") ''注意事項'' -♂同士の露骨な性描写があります -巨大化、丸呑み、体格差プレイ、失禁、大量射精、尊厳破壊要素があります ※この作品は[[Skebの依頼:https://skeb.jp/@bata2/works/1]]を受けて執筆しました。 *でえだら山の怪 [#g9079a47] 一歩を踏み出した瞬間、待ち受けるのは様々な困難。だがそれを乗り越えた先に待っているのは、無限大のロマン――いざ、探検へ! 掲示板に貼り出された広告に綴られる、伝説級と称えられる探検家の謳い文句に心打たれ、多くの者がロマンを求めて探検家を志した。その最初の一歩として、探検協会公認の養成所や要資格者による個人運営のギルドに所属して探検のあれこれを叩き込まれるが、無事に卒業して探検家になれるのは全体の一割にも届くかどうか。 とある町を拠点に、探検家として活動するリザードン。彼もまたその&ruby(ひとり){一匹};であった。 「はぁー……」 棲み処に戻り、道具の詰まった鞄を置いてから敷き詰めた藁に座り込んで溜息。迷子の捜索と棲み処の修理の二件を請け負い、報酬として受け取ったお金はそこそこ。使い古した道具の買い替えにはどうにか充てられそうだった。 探検家と名乗ってはいるが、これまで探検に出向いても世を賑わす成果を得られた事など唯の一度もなく、実質的には救助やお尋ね者退治、時にはお困り事の解決といった何でも屋的な存在で、仕事を探してはこなして銭を得る暮らしを送っていた。 一山当ててやると意気込んで心血注ぎ、首席こそ届かぬものの上位の成績で養成所を卒業して念願の探検家になれた筈だった。だが実際は思い描いたように行かず、功績を上げる探検家はベテランや非凡の、名の知れた一握りが大半を占めるに止まる。そのロマンにすらあり付けない凡庸な探検家……と言うのも怪しいような者達は、日々掲示板に貼られる依頼の数々に目を通しては請け負って、その報酬で道具や設備を充実させ、端から実りを期待していない探検に備えるような生活を送っていた。これが探検家の生々しい現実。 リザードンとて例外でないどころか、寧ろその中でも収入は低い部類だ。片田舎の町という環境的要因であり、もっと都会の方へ行けば解決こそ出来たのだが、うだつが上がらないながら町にとって欠かせない存在になってしまい、最早八方塞がり。一部の町民には探検家とすら思われていなかった。 因みに二匹以上で活動すれば「探検隊」を結成出来て活動の幅も広がる。探検家でなくとも探検隊に加われるが、加入には身体面等で厳しい条件があり、リザードンも以前その条件に見合う者を誘ってみたのだが、断られてしまった。無論現在は誘えるような伝もない。 「何のためにあのとき俺はがんばったんだか……」 一枚の硬貨を掌に転がしながら、長い溜息。まだ若い時分とはいえ、身の振り方を考えなければいけないかと真剣に考える事が多くなった。硬貨を銭入れに仕舞ってから、探検家の証のバッジを手に取る。ランクを表す銀色が中心に輝く。日々こなした依頼のお陰でもうすぐゴールドランクへ昇進するのだが、昇進したとて生活が様変わりする訳でもないのは分かり切っていた。とは言えここまで来てバッジを返す踏ん切りも付かず、明日も明後日もこの生活を続ける事になるのだろう。段々眠気が襲い、汚れた体をきれいにしてから、体を使うであろう明日に備えてリザードンは眠った。 朝日が町を照らし、棲み処にも射し込んでリザードンは目を覚ます。寝床から起き上がり、眠い目を擦りつつ出入り口脇のポストに足を運んだ。時折依頼の手紙や協会からの郵便物が届いたりするが、今日は空っぽ。 「おはよう! 今日は君宛てのものはないよ」 配達中の郵便局員、カイリューが挨拶してきた。リザードンと歳が近いのもあって仲よくしているが、安定した職に就く彼を羨む事も多々あった。リザードン自身郵便局員への転職も考えたが、紙を燃やすリスクのある炎タイプであるが故に門前払いが相当だとカイリューに言われ、断念している。 「やっぱり君、こんな田舎町じゃなくて都会に出た方がいいよ?」 「そうはしたいけどな、都会はなおさら金がかかるし、まずここの連中が許すはずがないだろ」 「僕は探検家になれなかった側だからさ、探検家の君がこんなところでくすぶってるのは見てられないんだ」 カイリューは探検家になり損ねたからこそ郵便局に勤められている。何とも皮肉な物だ。リザードンは顔を顰めた。 「ま、今は安いけど町の誰かから毎日金をもらう仕事を頼まれるから、依頼がなくても食いつなげられるしな」 リザードンは無理やり笑顔を作った。それを見つめるカイリューは、浮かない顔をする。 「……君ってほんと、冒険心ないね」 そう言い残してカイリューは飛び去って行く。リザードンも飛び立って追いかけようとしたが、飛翔速度はカイリューが上回り、小さくなる後姿を見届けるに止まってしまった。耳に貼り付き、心に突き刺さる、探検家として屈辱的な言葉。 「ちくしょう!!」 大空に向けて声を荒げ、そのまま地面へと降り立った。空きっ腹が大きく鳴る。起きてから何も食べていなかった事に気付き、棲み処に戻って半ば自棄食いで腹ごしらえした。腹が膨れても、カイリューの言葉は突き刺さったままだった。 その日も結局いつも通り何でも屋に徹してなけなしのお金を得るに留まった。 次の朝―― 一晩寝て起きても、リザードンの心は晴れるどころか一層どんよりしていた。ポストを確認すべく棲み処を出ると、カイリューと鉢合わせた。昨日のあの言葉が再び鮮明に頭に響く。彼は憮然として一言も発さずに首を横に振った。そのまま配達業務に戻っていく。念のため確認したがポストの中身は空っぽ。大きく溜息を吐いて中へと戻った。 リザードンは愛用の鞄と道具入れを肩に掛け、リンゴを片手に齧りつつ町の広場へ足を運んでいた。町民のみならず様々な物や情報が行き交う最も賑やかな場所。その一角に設けられた掲示板に迷わず一直線に行き着いた。 「うわ、マジか……」 この掲示板には所謂不思議のダンジョンで起こっている事故、事件に関する様々な依頼書が貼り付けられ、田舎ながら毎日数枚はある筈なのに、今日に限って全くなかった。たまたま近くにいる住民に訊ねてみる。 「なあ、依頼って貼られてた?」 「うん、でも通りすがりの探検隊が同じ場所のやつ全部持ってって、残りも別の探検家がさっき持ってった。一歩遅かったね」 リザードンは舌打ちを禁じ得なかった。貼られた依頼書は探検家なら誰でも自由に剥がして持って行けるようになっている。田舎とは言えど、この町は一帯では最も栄えているために探検家の往来も珍しくなく、彼らのための宿もある。そのため一歩遅いとこのような事態もままあった。 「結局今日も何でも屋か……」 あの後住民のお使いを頼まれ、重い翼を無理やり羽ばたかせて空を飛んでいた。日差しも風も穏やかな晴れの日だったが、突如強風が吹いて煽られそうになった。体勢を立て直した直後、飛んで来た何かが顔に貼り付く。手に取ると、それは紛れもなく依頼書だった。 「ん? 『でえだら山』の暴れん坊を懲らしめてください……?」 要はお尋ね者退治の依頼。Aランクで、リザードンにとってはこなせなくもない難易度である。聞いた事のない場所に俄然興味が湧くが、一旦鞄に仕舞ってお使いを早々に遂げるべく、先程までの重さが嘘のように翼を強く羽ばたかせた。 「いつもありがとねえ」 「いえ、これくらいお安い御用で」 お使いを終えてお礼の道具を受け取った。誰もいない小道に出てから、再び依頼書に目を通す。お尋ね者はタイプ相性的にはよくないものの、手応え十分な感じがする。そして何より「でえだら山」という、訪れるどころか見た事も聞いた事もない場所に、リザードンは忘れ掛けていた胸の高鳴りを覚えていた。地図を開いてみると、今いる町からは相当離れた場所に高く聳える大きな山がそれだと分かった。依頼は実行手続きをする事で有効になるが、その前にリザードンはでえだら山について知ろうと棲み処から飛び立った。 真っ先に向かった場所で、リザードンは声を掛ける。棲み処の中から顔を出したのはカイリュー。既に今日の業務を終えて帰っていたが、少々疲れが顔に現れている。 「なあ、これ見てくれよ」 と先の依頼書を見せると、カイリューの目が丸くなる。 「でえだら山って……!」 「ん? やっぱりお前知ってるのかここ」 「知ってるも何も、僕のふるさとのすぐそばだから」 「そうだったのかよ!? やっぱお前に聞いてみて正解だったな」 リザードンはニカッと笑う。郵便局員として様々な宛先に目を通す機会の多いカイリューならばと足を運んだが、まさかの生まれ故郷の付近と聞き、山は当たった。 「んで、そのお尋ね者ってのが……」 依頼書のお尋ね者の欄を見てカイリューの表情が一瞬硬くなったが、リザードンはそれに気付かない。 「詳しいことはわからないけど噂には聞いてる。そのせいで、村の日課になってる山でのお祈りがずっとできないってさ」 「そりゃ大変だな……」 リザードンも遥か遠く故郷を離れた身として、カイリューの故郷を想う心情が痛い程理解出来た。尚更自分がやらなければと鼓舞する。 「冗談抜きに、結構強いから油断しないでよ」 「おうよ、ちゃんと準備はしてくぞ」 「それと……」 カイリューの表情が曇ったのに気付き、リザードンは固唾を呑んだ。 「でえだら山自体大きな山だから、道を外れたらあっという間に遭難するんだ。それに眉唾だけど不思議な力が宿ってるって噂もある。ただでさえ危ない場所だから心して行くんだよ」 「心配してくれて、ありがとな」 「探検家らしい君を見たのは久しぶりだったから……」 「まあな、探検じゃなくても初めての場所は心躍っちゃうしよ」 自分で言っておいて、腐っても探検家なんだなと、リザードンは自覚した。それを抜きにしても一度行った場所はアクセスが容易になるため、その点でも探検活動、依頼達成に有利に働く。引き続き、カイリューからでえだら山に関する情報を聞き出す。分かる限りの情報を引き出す最中にカイリューはふと手を叩く。 「そうだ、せっかくなら僕のふるさとの村に寄ってってよ。ちょうどお祭りの時期だし」 「お、お祭りか。楽しそうだな!」 リザードンの目は&ruby(らんらん){爛々};と輝く。訊くと、その村はドラゴンタイプの住民が多くを占め、お祭りを始め事ある毎にりゅうのまいを踊って日々暮らせる事に感謝を表しているそうな。 「ところで、りゅうのまいにも流派があるの、知ってる?」 流派? リザードンは首を傾げた。自身も覚えている技だが、そんな所まで意識して見た事もなかった。 「あの村の流派はね……」 カイリューは深呼吸してから、その踊りを披露した。 「右に二回り、四回叩き、そして左に一回り、ってね」 はにかみを見せたその身は、攻撃と素早さが上昇していた。流れでいつの間にかリザードンもカイリューの指導の下でそれを踊らされていた。 「いいじゃん! これで君もお祭りに飛び入り参加できるね! お祭りで仲よくなったら情報も聞きやすくなるだろうしさ」 「だろうな、マジサンキュー」 再びニカッと笑うリザードンも、攻撃と素早さが上昇していた。 夕方になり、リザードンは先のりゅうのまいの勢いで意気揚々と帰路に就く。見送っていたカイリューは、リザードンの姿が見えなくなるなり小さく息を零した。 ---- 次の朝―― でえだら山に向かう準備を整え、鞄を肩に掛けた。着けている探検家の証のバッジが、普段より輝いているように見える。町の住民に見送られながら、リザードンは晴れた空へと飛び立った。 「行けない僕の代わりに懲らしめちゃってよ、リザードン!」 配達中のカイリューが横に並び、リザードンに檄を飛ばした。 「おう、任せとけ!」 サムズアップを返してから翻り、そのままでえだら山の方面へと飛んで行った―― 徐々に視界に大きく映る山々。無論これがでえだら山ではないが、現在のリザードンの行動範囲の丁度端に当たる。即ちここを越えた先は、彼にとって未知の領域。勿論不安もあるが、それを上回るわくわくが、リザードンを突き動かした。最高峰でもリザードンの飛翔限界高度1400メートルを下回るため、そのまま飛んで山を越えた。 「とうとう来ちまった……!」 途端に眼下に広がる見た事のない景色。その美しさに涙が出そうな程、心が揺さぶられる。&ruby(おろし){颪};に乗って、更に加速する。遠い地平の際でも目に付く雄大な山体、あれこそが目指すでえだら山。想像以上の大きさに、リザードンは圧倒された。あそこに棲まうお尋ね者は相当の強者だろうと想像を巡らせる。だが激しく首を振ってそれを断ち切った。 「天が俺にくれた……探検家としての試練なんだ!」 大きな鼻から黒煙を噴き、自身を鼓舞した。 ……ぐう~ 「腹減った……」 その鼓舞も、流石に空腹には勝てなかったか。鞄からリンゴを取り出して齧りつつ飛び続ける。全て丸い腹の中に収まった頃合い、山の麓に広がる草原に目が行った。その先に林が見える。徐々に高度を下げ、その地に降り立った。 「せっかくだし探索するか」 リザードンは大地を踏み締め、一歩ずつ先へと進み始めた。飛んだ方が早いのは間違いないが、道中に不思議のダンジョンが存在すれば木の実や道具等の調達も出来る上に、そのダンジョンからの依頼書が直接ポストに届きやすくなる。あの町の掲示板の依頼は、先程越えた山地の町側しか取り扱っていないため、自ずと依頼に対する競争率も低下する。何でも屋暮らしの長いリザードン、その点は抜かりなかった。 睨んだ通り道中にいくつかのダンジョンが存在し、それを踏破しつつ先へ進み、途中にあった小さな村で一晩過ごし、次第に大きさを増す山体へ向かって歩き続けた。 そして日が高く昇りつつある時分、大いなる秀峰、でえだら山を視界一杯に望む麓の村に辿り着いた。小さな村と聞いていたが、それにしては賑やか。正にお祭りの最中で、この村こそが、カイリューの故郷であった。 「お、いらっしゃい! 見ない顔だね。ああ探検家か!」 「ちょっとこの村にお世話になります」 出迎えてくれた村民のガバイトに、笑顔で挨拶した。 「いいときに来たな! 今ちょうど村祭りの真っ最中でさ、ふだんは静かなこの村も、このときばかりはにぎやかなのさ!」 リザードンの前で躊躇なく踊り出すガバイト。それは正にカイリューに教わった通りの流派で、ちょっと感動すら覚える。しかしながら踊りに夢中なこの御仁、ガバイトではあるが、意外にお年を召しているように映った。屋台で買ったパイルアメを味わいつつリザードンは村民を観察するが、目に付く住民の大半は初老以上の年頃と窺えた。若者や子供の姿もまばらに見られるが、彼らが村外から来た可能性も考えると、相当高齢化が進んでいる。 「ようそこのお兄さん! 一緒に踊っていきない!」 「お、俺!?」 壮年のクリムガンに目を付けられ、半ば強引に踊りの輪へと連れ込まれた。 「この村のりゅうのまいはよ、右に二回り四回叩き、そして左に一回り! な、案外簡単だろ?」 真っ赤な頭の満面の笑みは、燦々と照らす日差しで眩しく見えた。こうなった以上仕方ない、リザードンは先日教わった内容を思い出しつつ、踊りの輪に加わってみる。すると即座に反応するクリムガン。 「なんでえ! お兄さんわかってんじゃねえかよぅ!」 豪快な笑顔で太鼓判を押され、少し照れ臭くなった。 「えっと、俺の棲んでる町で友達になったカイリューがここの出身で、彼に教えてもらいました……」 「ありゃ、あの子のお友達だったのかい」 周りにいた村民が次々に声を掛けてきた。カイリューと言っただけですぐ把握する辺り、村民同士の繋がりが緊密だと分かる。 「あの子も気の毒でねぇ、探検家目指して養成所に通って、探検家になれそうだったのに急に成績が落ちて、結局卒業できずに村に帰ってきて、それはもう見てらんないくらいに落ち込んでたよ。ねえ?」 そうそう、と周りも次々相槌を打った。それでも少しでも探検業に携わりたいと郵便局に就いたのは、以前カイリュー自身から耳にした通りだった。 「お友達なら、あの子のこと頼むよ。ひと一倍探検に憧れを持ってたから、探検の話とかたくさんしてあげな?」 「はい、わかりました」 と返事をするも、頭の中で何か引っ掛かる物を感じていた。そこまで探検が好きなら―― 「ところであなた、どうしてこんな寂れた村に来たの?」 丁度いい具合に核心を突く質問が飛んで来た。リザードンは目前に聳え立つでえだら山を指差した。 「この山の暴れん坊を退治してほしいって、依頼が来たんです」 踊っていた村民の動きが一斉に固まった。お囃子もぴたりと止んで急に空気が静かになる。その異様な光景に、何かまずい事でも言ったかと不安に駆られた。すると急に駆け寄ってリザードンを取り囲む。 「誰が依頼したか知らねえが、それは村のみんなの切実な願いなんだ!」 「山でお祈りができなくなって、そのせいなのかこのところ道が崩れたり木の実が穫れなくなったり、悪いことが起き始めてるんです!」 「お願いします! 知ってる限りの情報は全部教えますから!」 一匹一匹、順に顔を見つめるが、そのいずれもが事の深刻さを滲ませていた。 「村長!」 突如群衆が左右に分かれる。そこをゆっくりした足取りで歩くのは老齢のガブリアス。彼こそがこの村を治める存在だった。 「皆から聞いたでしょう、我々を見守り続ける祈りの山が狼藉者のせいで入れず、祈りを捧げられないどころか道も崩れ、山の恵みすら賜れない状況。探検家の若者よ、この村長からも何卒、お願い申し上げます」 村長の深々とした一礼に合わせて村民も一斉に深く頭を下げ、中には土下座する者も。固唾を呑みながらも、リザードンは大きく頷いた。 「……わかりました。でしたら是非、俺に力を貸してください」 「ありがとうございます!!!」 涙ながらに縋り付く村民を一瞥してから再び山を望む。鞄の肩紐を強く握り、でえだら山が映り込む眼を鋭くした。 踊りの輪に加わった事やカイリューの友達と分かった事が幸いして、初顔のリザードンに対して驚く程協力的だった。でえだら山へのルートや危険な箇所、地形、ガルーラ像の位置等、祈りを捧げに通う地元ならではの詳細な情報はありがたく、メモ紙に綴る羽ペンの動きが止まらない。 「……けど、あいつが山に入ってから、色々変わってるかもしれないねえ」 と村民の一匹が溜息。あいつ、即ち今回のお尋ね者だ。 「ちなみにこの辺の出身ですか?」 「いんや。だからあたいらも詳しいことは全然わからないのさ」 「でも聞いた話じゃ、探検家志望だったけど問題起こして養成所を破門されて、そっからグレてあの山に閉じこもったらしいって。迷惑千万だぜ!」 「そうでしたか……」 探検家を目指す者達の悲喜こもごもは、嫌という程耳にしていた。夢破れて悪事に走る者も珍しくなく、リザードン自身もお尋ね者退治の依頼で何度も目にしてきた。 「あとこれもちらっと聞いた話だけど、養成所で出会った好きなやつがいて、そいつと探検隊を組むって約束してたらしいな。もう叶わないだろうけどよ」 リザードンは無言でお尋ね者の特徴の欄にそれを書き記した。 日が暮れて、この村で一泊してからでえだら山へ向かう事にしたリザードンは、数多く残る空き家の一つを借りてそこで準備を進めていた。 遠くから聞こえる夜祭のお囃子と掛け声。祭りの喧騒から少し外れただけで途端に静かになり、棲む者のいない棲み処が点在して酷く荒れている所もある。周囲は山や森林ばかりで、碌な仕事もないこの村から都会へと若者が出て行くのも致し方ない。限界集落の現実を意図せずまざまざと見せ付けられていた。 今リザードンがいるこの空き家、かつてカイリューがここで生まれ育ったとの事。だが勿論彼のにおいなど全く残ってはいない。両親も生きてこそいるが、仕事の都合で別の町へ移り棲んで久しいと村民から聞いた。こんな村であっても、遠い地から思い続ける者が実際にいるのだ。その気持ちを、リザードンは無碍に出来なかった。 「……よし、これで大丈夫だろ」 並べられた道具を確認して、それを愛用の鞄に詰め込んだ。次第に眠気が強まり、寝床で丸くなる。程よい距離を経て角が取れた祭囃子を子守歌代わりに、リザードンは熟睡した。 ---- 次の朝―― 朝食を食べ、身支度を整えていよいよでえだら山へと出発する。見上げた山は、夏の時期でも斑状の残雪が山頂付近を彩って雄大に聳え立っていた。 「気い付けて行ってきない!」 「あんたはこの村の希望、しっかりやりなよ!」 「依頼の成功を、この村からお祈りします」 村長を始め多くの村民がリザードンを見送ってくれた。リザードンは村のりゅうのまいでそれに応え、村民もそれで返した。声援を背負いつつ気を引き締め、村から続く山道を一歩一歩踏み締めて歩き出した。 しばらく歩くと、石造りの門柱のような物が目に入る。シンプルながら厳かな雰囲気を醸し出し、この山が村にとってお祈りを捧げる信仰の山である事がひしひし伝わってきた。 「お邪魔します」 リザードンは一礼して門柱の間を通り抜けた。そうしないといけないような気がしたのだ。彼にとっては初めてかもしれない、わくわくと緊張と不安が入り混じる本格的な冒険が、幕を開けた。 山体が大きいだけあって、裾の辺りは比較的なだらかで登りやすい。それでも不測の事態に備えて常に周囲を警戒しつつ進む。 「おい侵入者! 誰の許しを得てここに入った!?」 程なくして現れたゴロツキ。とは言え彼らは特徴的な髭を持つ黒いコラッタ。恐らくはお尋ね者の配下にある子分だろう。 「誰の許しとか別にいいだろ」 そう答えると、コラッタ達は突然襲い掛かる。りゅうのまいで素早さを上げて巧みに&ruby(かわ){躱};すと、隙を突いてかわらわりを繰り出した。 「ぐわあっ!」 底上げされた攻撃と二重の弱点属性でダメージは大きく、次々と倒れた。その後の道中でも度々現れ、倒しては進んで行く。下っ端だからかさほど強くはないが、この数で襲い掛かられたら高齢化の進む村民にはたまった物じゃなかろう。並行して木々の多い山裾にいる内に食糧のリンゴや木の実、タネを可能な限り集めた。 登って行くにつれ木々が減少し、岩が目立ってきた。カイリューは道を外すと遭難が多いと言っていたが、落石があれば遭難どころか一たまりもないような場所が散見される。 「お前のことか侵入者ってのは!」 目の前に現れたゴローン。既に情報が回りつつあるようだ。環境的にいてもおかしくない種族だが、タイプ相性的にあまりよくない。 「ここでくたばれ!」 早速いわおとしを繰り出す。リザードンにとっては二重弱点で食らえば大ダメージ必至。だがリザードンとて凡庸とは言え日々の活動でバトル経験は豊富。飛び立って回避しつつりゅうのまいで機動力を上げる。 「ちょっとはおとなしくしろ!」 大きな翼の一振りで空気が刃と化してゴローンを切る。 「ふん、こんな攻撃今一つ……はぁ!?」 その刃が何発か当たり、ゴローンは突然動きを封じられる。一定の確率で当たった相手を怯ませるリザードンの十八番、エアスラッシュだ。 「悪いが、先に進ませてもらう」 「がああっ!!」 止めのかわらわりを食らってゴローンは崖から転落し、そのまま麓へ転がって行った。 「ちょっとは骨がある奴が出てきたな……」 岩が当たったかすり傷の痛みを覚えつつ、リザードンはオレンの実を齧って山道を進む。村民が言った通り、道は一部崩れ、中には意図的に誰かの手によって崩されたと思しき痕跡まであった。飛べるため転落や滑落のリスクはさほど高くない。だが油断していると……。 カチッ 足元で嫌な音がした。不思議のダンジョンの定番、罠だ。途端に心地よい香りが踏んだ罠の噴射口から放たれる。それに釣られてやって来たポケモン達に囲まれる。 「よびよせスイッチか……!」 一斉に攻撃され、躱そうとするも全て避け切れずに攻撃を食らってしまう。 「こうなったら……!」 リザードンは鞄から不思議な輝きの玉を取り出して掲げた。 「へっ!? ふにゃ~ん」 周囲のポケモンが一斉に朦朧とし出して足取りが覚束ない。ふしぎだまの一つ、ふらふらだまで混乱状態になっていた。この状態だと技を出してもあらぬ方向へ飛び、食らうリスクが大幅に低減される他、味方に技が当たったりする事も。案の定彼らもその状態に陥っていた。 「油売ってる暇はないからな」 混乱は時間経過で治るため、効果が切れない内に手早く技を繰り出して一匹ずつ倒していった。 落石のみならず足元の罠にも注意を払い、襲い掛かるポケモン達を倒しながら、着実にでえだら山を登って行く。村民からの情報とも照らし合わせ、一息吐けそうなスペースを発見する。そこにはガルーラ像が置かれていた。 「聞いた通りだ、ありがたい」 バッジをかざしてリザードン専用の倉庫にアクセスし、道具の整理を行ってから座り込んで一休み。麓の方へ目をやると、森林が遠くまで広がるのが見える。今朝までいた村はここからだと小さく見えた。無論、拠点としている町は遠すぎてここから見えない。 山頂方面を見上げると、巨大な山体が立ちはだかる。ここも結構高いが、山全体だと五合目すら届いていないらしい。 このスペースから道は二手に分かれ、一方は入り口と同様の門柱が設けられた、祈りを捧げる祭壇へと続く道だと教えてもらったが、実際に訪れると崩落してそれ以上は進めない事が分かった。もう一方は洞窟へと続き、そこから更に上を目指せるとの事。依頼書に具体的な階層こそ書かれていないが、割と上層の方である事は分かっているため、ここを進むしかない。 「っしゃあ、行くか!」 自分の頬を何回か叩き、気を引き締めて洞窟へと足を運んだ。 洞窟の中は薄暗く、こんな時に尻尾の炎が役に立つ。ヒトカゲとしてこの世に生を受けた最大の恩恵だと、リザードンは常々感じていた。洞窟内でも相変わらずポケモンが襲い掛かり、倒しながら進むも、狭い空間かつ、いつの間にか飛翔限界高度を上回った標高で飛ぶ事が出来ず、自ずと苦戦を強いられた。 その道中、落ちている物に目が行く。罠に注意しつつ拾いに行く。 「お、こりゃ助かる」 嬉しそうにそのタネを拾い上げるリザードン。だがその表情は途端に輝きを失う。 「なーんだ、ぷっかつのタネか」 嘆息を漏らして肩を落とし、そのタネを投げ捨てた。どういう因果か知らないが、たまにこのような紛らわしい道具類も発見される。その時の落胆は思いの外大きい。 「さーて、気を取り直して進むか」 大きく深呼吸して吐息に陽炎を揺らし、リザードンは上層目指して歩き出した。 洞窟内は分かれ道や行き止まりが多く、中々先へと進みづらくなってきた。スタミナリボンを装備しているとはいえ、歩く距離が長く、尚かつ襲い来るポケモンを倒しながらなため、空腹は避けられない。多めに用意したリンゴも、想像以上に早いペースで減っていく。流石に焦りを覚え始める。こんな所で遭難など、洒落にならない。 少し広めの空間が見えてくる。ちょっとした木の実やタネでも落ちていれば少しは腹を満たせる。そう期待してそこに足を踏み入れた。 「侵入者だー!」 部屋中にぞろぞろと現れるポケモン達。途端に緊張が走る。 「うげ、モンハウかよ!」 不思議のダンジョンのフロアの中には、数多くのポケモンの棲み処が集中する所があり、探検界隈ではモンスターハウスと呼ばれている。 「畜生めんどくさいな……!」 リザードンは体に力を込め、焼けんばかりの熱を発する。それを大きな翼で部屋全体に送り込んだ。 「ぐわあぁぁぁっ!!」 多くのポケモン達が、その熱に身を焦がされる。こんな時のためにわざわざPPまで増やして覚えた全体攻撃、ねっぷうだ。一気に多くの敵を倒せるため、得られる経験値も多く、リザードンはレベルアップした。 だがそれでも炎技が通りづらい岩タイプは倒し切れず、襲い掛かって来る。 「チッ、ここは&ruby(ひ){退};くか」 リザードンは一旦部屋から出て狭い通路で敵と対峙する。岩タイプの技は射程が狭い技が多いため、りゅうのまいで機動力を高めてから間合いを取ってエアスラッシュで牽制し、隙を突いてかわらわりで止めを刺して着実に一体ずつ倒していった。最後に残ったゴローニャ、流石最終進化だけあってかわらわりでも一発で倒せず、逆にロックブラストを食らってしまう。 「ぐあ、しまった!」 岩が二重弱点である以上、一発でも馬鹿に出来ない。命中こそ低めだが、それが二~五連発来るのは流石に致命的だった。一発目で大ダメージを食らったものの、他は回避してどうにか命拾い。 「これで決めるか……!」 リザードンは狭い通路ではあるが、ねっぷうを繰り出す。その狭さが奏功して、より多い熱量が直接ゴローニャを覆う岩を焼く。 「ぐおぉぉぉぉっ!」 今一つではありながら特防が低く、ダメージはそれなりに稼げる。そして何よりやけど状態になった事が、事態をより好転させた。 「食らえぇっ!」 「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!!」 渾身のかわらわりを、熱い岩に叩き付けた。焼きが回った岩にひびが入り、ゴローニャは断末魔を上げて倒れた。これで終わった……と安堵した刹那、丸い体が光り出す。そして再び立ち上がった! 「うげ、ふっかつのタネ持ちかよ!」 血の気が引き、後ずさりした。ダンジョンには賢さの高いポケモンも中には存在し、道具を使ったりする事もままあるのだ。リザードンは倒されるのを覚悟するしかなかった。 「……?」 何か様子がおかしい。ゴローニャは復活した、と思ったが……。手に取ったタネを見て、ゴローニャの目が点になった。よく見たらこれは……「ふっかつのタネ」じゃなくて、「ぷっかつのタネ」だった! 「ぷっ」 思わず噴き出すゴローニャ。そして高らかに自嘲した。 「『ふ』じゃなくて、『ぷ』じゃーーーーーん!!!」 残念なジングルがどこからか聞こえてくるのと同時に、ゴローニャは白目を剥いてその場に倒れた。力なく垂れ下がった手から、ただのタネが地面に落ちた。恐らくさっき見つけて投げ捨てた物だろうと、リザードンは直感した。 「あー命拾いした……」 リザードンはほっと胸を撫で下ろし、オレンの実で回復、ただのタネを食べて少しながら腹を満たした。 モンスターハウスだった部屋に再び足を踏み込む。こういう場所は落ちている道具こそ多いが、仕掛けられている罠もまた多い。足元を確認して一つずつ罠を洗い出し、通れる場所を確保していく。一通り確認してから道具を拾い集めるものの、重大な事実に気付く。 「リンゴ取れない……」 そう、今一番欲しい物の一つであるリンゴが、罠や部屋の地形のせいでどうしても罠を踏み抜かないと行けない場所にあった。しかも罠はよりにもよってじばくスイッチ、ばくはスイッチ、ベトベタスイッチ、ポケモンスイッチと、いずれも踏んだら致命的な物ばかり。罠を外すスキルを持っていないリザードンはリンゴを諦め、落胆しながら部屋を出て先へ進む事にした。 しばらく進むと、再びモンスターハウスに突入した。リザードンは苦々しく溜息を吐く。 「めんどくさいな……」 鞄に手を入れてふしぎだまを掴み、掲げると途端にポケモン達の身動きが取れなくなる。これがしばりだまの効果で、無難に通り抜けるには最適だった。 「さーてこんなとこさっさと」 カチッ 足元から聞こえた音に、リザードンの背筋が凍る。嗅ぎ覚えのある香り。よびよせスイッチだ! 「しまったぁ!」 案の定ポケモンが集まって来た。 「なんだ固められてんのかよ情けない」 その内の一匹がしんぴのまもりを発動する。リザードンは更に血の気が引いて冷や汗が止まらない。部屋内のしばりだまの効果が消え失せ、身の自由を取り戻してしまった! 「さーて、こいつをとっちめてやるか……」 ほくそ笑みながらリザードンを隅へ追いやろうと迫り来る。流石にこれは後ずさりするしかなかった。真後ろの床を踏み締めた瞬間、崩れて穴が開いた。 「うわっ!?」 リザードンはバランスを崩し、そのまま穴へと落ちて行った。 ---- ドスンと音を立てて下層部へと落下した。もう少し標高が低ければどうにか飛んで着地出来たかもしれないが、こればかりはどうしようもなかった。 「いててて……」 立ち上がって見回すと、これまで見た事のない程の巨大な空間が広がっていた。聞き取ったメモと照らし合わせてみるが、こんな巨大な洞窟の存在は書かれていない。もしや村民も知らない場所かもしれない。リザードンの冒険心が擽られた。早速進んでみようと奥に向かって歩き出す。 カチッ 足元から発した音に再三背筋が凍った。踏んだ足を動かさないように、周囲の土埃を払った。罠と思しき物があったが、不思議な模様が描かれている。これまでの何でも屋的な生活で罠は一通り見てきたと自負するリザードンですら、この模様の罠は初めてだった。恐る恐る踏んだ足を上げてみる。大抵の罠は一度踏むと壊れるが、これは足を離しても壊れたようには見えない。即座に何か発動するような兆しも感じられない。 「うーん……なんだこりゃ?」 腕を組み、目を瞑って考え込む。勿論それでも分からない。再び目を開けると、見える景色が若干変わった気がした。 ――いや、現在進行形で目線が高くなっている! 何事かと自分の体を見ると、急激に巨大化しているではないか! 「おいおいなんだこれはよぉ!?」 すっかり慌てふためくリザードン。肩に掛けている鞄が窮屈になってきて、肩紐が切れないよう咄嗟に鞄を手首に掛けた。遥か高く見えていた天井が徐々に近づく。このまま巨大化し続けたらさっきまでいたフロアまでも突き抜けてしまうかもしれない。そんな恐怖を抱えつつも、現状なす術はなかった。 突如ピタッと変化が止まった。かなり巨大化してしまったが、この程度なら奥へ続く空間を難なく歩けるような感じでとりあえずほっとする。手首に掛けた鞄はぴったりフィットして、体に対して小さく見えてしまう。これはこれで嵩張らないしいいや、とリザードンは割り切った。だが新たな問題が。 ぐごおぉぉぉぉぉぉぉぉ…… 突如地響きのような音が響く。その音源は、リザードンの丸い腹だった。体が大きくなった分、エネルギーの消費も増えてしまったのだろう。スタミナリボンも、これでは効果がないも同然。大きくなった指先を慎重に動かして鞄を開け、リンゴを取り出すも、それは余りにも小さい。どうにか有りっ丈取り出して巨大な口に放り込むも、それは噛むに至らず喉を滑り落ちてしまった。 「くそっ、リンゴがなくなったのに腹いっぱいにならない……!」 リザードンは途方に暮れた。このままでは空腹で倒れてしまう……! ドスン! 横の方で落下音がした。見ると、先程モンスターハウスにいたと思しきポケモンが落とし穴から落ちたようだ。リザードンの存在には気付いていない。何せ巨大化しているのだから。その様子を見て、リザードンの口元から涎が零れた。ピクッとそのポケモンの動きが止まる。恐る恐る見上げるや否や、言葉を失って恐れ&ruby(おのの){戦};いた。その体を、大きな手で容赦なく掴んだ。 「ひ、ひえ……!」 &ruby(、、){獲物};は涙目で怯え、掴んだ手に湿り気を覚える。リザードンは目を細め、豪快に舌なめずり。 「生き延びるためだ、悪く思うな」 そう囁くと、その獲物を口へと放り込み、そのまま丸呑みしてしまった。先のリンゴよりかは余程腹は膨れるが、それでもまだ足りる気配はない。あのフロアにはまだ沢山いる筈だろう。 「……いいこと思い付いた♪」 リザードンはほくそ笑む。そしてそれをすぐさま実行した。 「いたた、ケガして動けない……くそっ……!」 わざと上層に聞こえるように演技する。 「やつめ、落ちてケガしてるぜ! とっちめるチャンスだ! かかれー!」 上層での号令を合図に、リザードンは穴の真下で大口を開けた。下層の状況を知らず、次々と穴へ飛び込んで行くポケモン達。無論それを待ち受けているのは巨大な口。 「へ、なんだ? うわ――」 状況を理解出来ないまま次々喉奥へと吸い込まれて行く。抵抗する者もいるが、その程度では強靭な食道はびくともしない。そのまま強酸性の泉質を誇る熱々の胃袋温泉への片道ツアーに、団体様ご案内。 面白い程に飛び込んでは呑み込まれ、リザードンの腹は徐々に膨れていく。そして最後に飛び込んだリーダー格。彼もまた呆気なく呑まれてしまう。丸呑みし甲斐のある大きさだった。いい感じに腹が膨れ、より丸みを帯びる。満足気に撫で回し、酸っぱい煙混じりのゲップを、轟音を伴って発した。この大きさなら、例のお尋ね者も筋肉質な手で一捻りだろう。リザードンは先へと進み始めた。 歩いて行く内に、腹の中の蠢きは徐々に弱まり、やがてぴたりと止んだ。都会を中心に幾分文化的な暮らしをしているポケモン達ではあるが、弱肉強食こそ自然の摂理。リザードンは巨大化した体でそれを思い知った。 しばらく歩いていると、体が熱くなり出す。それが何か、リザードンは即座に理解した。 「なんでこのタイミングでサカんだよ……」 溜息を吐くがその火照りは治まらず、股間の割れ目からいよいよ顔を出す熱い猛り。ぐんぐん伸びては太く硬くなり、その筋張った全貌を曝け出す。巨大化した体に見合う、巨塔と呼ぶに相応しい出で立ちに、リザードンは湯気混じりの鼻息を吹いた。 「これなら奴も俺に満足してくれるだろうな……きっと」 リザードンの頭に浮かぶ、熱い情事の一時。雄の滾りを穴に挿入して、力強く腰を打ち付けながら、潤った肉洞の凹凸と擦れ合う快い刺激に低く唸って&ruby(よ){善};がる。 「ぐるぅ、いい塩梅にっ、締め付けて、くるなぁ!」 「あぁっ、もっと、もっとぉ!」 火柱に犯されて甘く鳴いているのは、ドラゴンポケモンのカイリュー。そう、あの郵便局員の彼である。 そもそも求めてきたのは、カイリューの方だった。同性である彼からの突然の誘惑にリザードンは当初困惑したものの、程よい肉付きの体をくねらせ、円らな目を潤ませて誘う艶姿にすっかり&ruby(そそ){唆};られ、勢いのままに一線を越えて、リザードンは初めて「雄」となったのだった。 「――くぅ、&ruby(だ){射精};すぞぉ!!」 「きて、きてぇっ!!」 犯す炎の膨張と犯されるドラゴンの収縮、双方こみ上げる快楽を覚えて戦慄く。噛み合う凹凸が最も強固になる瞬間を迎える。 「ぐおぉぉぉぉぉぉっ!!!」 「ばうぅぅぅぅぅぅん!!!」 リザードンはカイリューの最奥に劣情の白い溶岩を噴出し、その熱に浮かされてカイリューは内を締め付けながら、硬く張り詰めた竜柱から濃厚な白濁を撒き散らす。子を成さない同性同士の交尾だからこその遠慮のない種付けを、双方堪能していた。 だがそれを終えて&ruby(ほとぼり){熱};が冷めるや否や、カイリューは茫然として心ここに在らずな状態になっていた。何度か体を重ねる関係となっていたが、その度に彼はこうなってしまうのだった。 「なんだ? 俺のテクが悪いなら遠慮なく言っていいんだぞ?」 とリザードンが声を掛けるも、カイリューはゆっくり首を横に振る。 「そうじゃなくて、思い出したくないことを思い出しちゃって、考えないようにしてるだけ……」 「俺でよかったら、話聞くぞ?」 「ごめん、本当に思い出したくない……」 ――はっと我に返る。その間に興奮はすっかり冷めて、熱塔は割れ目の中に収まっていた。今はそんな雑念に駆られている場合ではない。お尋ね者のいると思われる所まで突き進むのみ。再び前進する。狭くて通れない所があってもこの体なら力ずくで広げられるだろう。そう思いながら進んだが、結構長く続いているようで、そうする必要はなかった。 ---- だが一箇所だけ、広げる必要のある所が出て来た。広げると言うよりかは岩壁に覗き穴程度の大きさの隙間しか開いておらず、思いっきりぶち抜くような感じにしないと通れない。するとその向こうから誰かの声が聞こえる。どうなっているのか、小さな隙間から覗き込んでみた。 「はぁ? 侵入者を見失っただぁ? バカヤロー! 何やってんだ!」 手下と思しき者を叱責する柄の悪い怪獣。間違いない、彼こそが依頼書に書かれていたお尋ね者だ。見るに、かつて探検家を目指していただけあってかがっしりした体格で、体自体も結構大きいようだ。とは言えリザードンがこの大きさである。単純にここをぶち破ってしょっ引くのも悪くはないが、せっかくならばこの巨体を活かしたくもあった。少し考えて、リザードンはにんまり。息を殺して、機を窺った。 「ったく、使えねぇ下っ端ばっかじゃねーか……」 侵入者、即ちリザードンを全力で捜索するよう圧を掛け、手下がいなくなった途端に苦々しく溜息。 「あんなことになってなきゃよ、今頃アイツと……あークソッ! もう叶わねぇ夢だってのに!」 険しい顔で地団駄を踏み、再び溜息。 「とにかくこのヤマはオレのモノだ。誰にも手出しさせねぇ!」 ――なーにが「オレのモノ」だ 「誰だ! どこにいやがる!?」 血相を変えて辺りを見回す。彼はまだ気付いていないよう。 ――この山はお前のものではない 「コソコソすんな! 出てきやがれオルアァ!!」 奴は巻き舌を交えて威圧的に吼えた。 ――この山は、麓の村の民が日々祈りを捧げる…… ドカーンと音を立てて岩壁が大きく崩れ、土煙が立つ。突然の出来事に刮目を禁じ得なかった。 「――俺のものだ」 「うぎゃーーー『でえだらぼっち』だあぁぁぁぁ!!!」 奴が絶叫したその名は、この山に眠ると言われる巨大な魔物。「でえだら山」も、昔この地を災厄から護った魔物が眠って出来た山という昔話に因んで名付けられたと、村民から聞いていたのである。村民は遠い昔から、代わる代わる山の祭壇で日々でえだらぼっちを神と崇めて祈りを捧げ、見守っている事に感謝を伝え続けていたのだ。 「観念してこの山から出て行け、バンギラス!」 でえだらぼっちは好き放題暴れ回っていたお尋ね者に、睨みを利かせた。 「……ってなーんだ、図体でっけぇけどよく見たらリザードンじゃねぇか」 リザードンと分かるや否や、バンギラスの態度に余裕が見えてきた。 「なんでこんなでっけぇのか知らねぇが、所詮はリザードン、オレの自慢の岩さばきでイチコロだぜ!」 地面を力強く踏み付けると、そこから撒き上がった土煙が忽ち部屋中に吹き荒れる。これが特性すなおこし。大きな体ではあるが、打ち付ける砂の痛みは伝わる。 「とっととここでッ!」 「ぐっ……!」 バンギラスはいわなだれを繰り出し、巨体に命中する。追加効果で怯む間に、立て続けに力を込める。 「くたばれェェ!!!」 踏み締めた地面から鋭い岩が飛び出し、それはリザードンに突き刺さる! 「ぐわああぁ!」 リザードンは苦悶に顔を歪めて体勢を崩した。どうだ見たかと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべたバンギラス。だが次の瞬間、彼の姿はそこにはない。 「何しやがる! 離せ!!」 喚き散らす暴れん坊は、巨いなるリザードンの手中にあった。 「さっきのいわなだれとストーンエッジ、結構効いたぞ。さすがは自分で言うだけあるな。だがちょっと自信過剰だったな?」 確かにリザードンにとって岩タイプの技は二重弱点で大ダメージ必至。だがこの巨体ではそれなりにダメージこそ受けるも、致命傷には程遠かった。 「お前の身勝手で、麓の村が大層困ってるんだ。見かねたでえだらぼっちが、俺に力を貸したんだろうよ。この山を我が物顔で荒らしたこと、後悔させてやる」 「うるせぇ! ここじゃなきゃダメなんだよ!」 「減らず口をたたく……」 &ruby(おもむろ){徐};に体勢を立て直し、持ち上げた両手に力を込める。途端にバンギラスの強面に苦悶が滲んだ。 「いててててて!」 よろいポケモンと称する程の頑丈な肉体とて、巨大化したリザードンの力には敵わない。 何も知らない下っ端達が部屋に入って来た。この光景を見るなり一斉に腰を抜かし、リザードンが&ruby(まなじり){眦};を吊り上げて睨みを利かせると、恐怖の余り失禁して一目散に逃げ出した。 「安心しろ、命は助けてやる。その代わり……」 バンギラスを捉える目がギラリと輝き、舌なめずり。 「ちょっくら楽しませてくれよな」 「おい! いってぇ何を……ひいっ!」 バンギラスは視線を下に向けるなり、血の気が引いて身震いを始める。縦に走る股間の割れ目を押し開き、紅色の肉塊がぐんぐん露出していく。 「バカ言うな! でかすぎんだろ!」 「最高のほめ言葉だな」 リザードンはほくそ笑み、更に雄突を膨らませる。そして根元まで伸び切り、心拍に合わせて脈打つ。その大きさ故にはっきり上下に揺れ、溜まった熱で表面から陽炎が立ち、その揺らぎに雄の汚臭が乗って真上のバンギラスにも届き、青ざめた強面が更に歪んだ。 「まずは俺のにおいを覚えてもらおうか」 バンギラスの体を熱い巨塔に押し付け、そのまま擦り付ける。 「うう……っ」 山登りやバトル等で滲んだ汗や汚れ、催して放尿した際の残渣が蒸されて放つ悪臭は、バンギラスの呼吸に伴い鼻腔を蹂躙し、悪心を掻き立てる。その反応にリザードンはどんどん昂り、雄の張りが強まるのを感じる。摩擦による快感は徐々に剛突に溜まり、耐えられなくなって刹那に膨れ、躍動して発散される。湿り気を纏うだけだった剛突に、甘く押し出される感覚が強まっていく。 「うぅ、汚れ、るぅ!」 開口した先端をバンギラスの顔に押し付け、衝動に任せて気持ちよく雄を膨らませる。出口から覗く透明な粘液がドボッと噴出して厳つい顔立ちをねっとり汚した。 「うえっ! くせ、しょっぺぇ……!」 逃げる事も許されない状況で、バンギラスは声を震わせて泣きそうな表情を浮かべる。 「そうかそうか、ならそのご自慢の体に塗ったくってやるからな」 再びバンギラスの体に擦り付けて性感を得る。リザードンは心地よく呻いて巨塔を膨らませ、再度大量に先走る。見る間にバンギラスの体はベトベトになり、手指で満遍なく全身に塗られた。 「そしたらここの準備運動か?」 「ぐぅ……いってえ何するつもり……!?」 バンギラスを片手で掴んで仰向けにし、空いた手の爪先に先走りをねっとり絡ませる。それを慎重に…… ズブッ 「ひぎっ!」 強面に苦悶が滲む。爪先はバンギラスの菊門をやおら抉じ開けていた。 「やめっ、やめろぉ!」 必死に藻掻こうとするバンギラスを片手の力で制する。背中を掴まれて仰向けにされては、最早ひっくり返ったゼニガメも同然。 「暴れるな。ケツが傷付いてもいいのか? それにもっと入ってくぞ」 「ふぐぅ……」 鋭い目に涙を滲ませ、ぴたりと動きを止めた。その間に慎重に内を解していく。体が大きいだけあって、体内も結構な太さ。恐らく普段から立派な&ruby(、){ミ};をもりもり出しているのだろう。程なくして、いい感じに出来上がってくる。 「よーし、お待ちかねだったろ。お前にくれてやるぞ」 「いっ、やだっ! 待ってねぇっ!!」 暴れ出すバンギラスを両手で押さえ付けつつ持ち上げ、その真下で熱く張り詰めて雄の涎を垂らす爆根がスタンバイ。 「この山を乗っ取らなきゃ、こんな目には遭わなかったのにな」 リザードンはにんまりしつつ、徐々に手を下げる。解されたばかりの菊花に、炎竜の先端が触れる。期待に心地よく脈動して噴き出した熱い粘液が、その勢いでバンギラスの中にも流れ込む。彼の自重を利用して爆根に押し付け、花は開いて侵入を許してしまう。 「ぐう、あちい!」 犯される辛苦に苛まれる。普通のオスならば、犯される経験などほぼないだろう。 「結構いい具合だな……!」 バンギラスの体内の圧迫と感触を堪能し始める。厳つい外見とは裏腹に、ねっとり包み込んで炎塔を責め立てる。 「いっ、いでっ! バカ! やめろっ!!」 徐々に押し込むと、バンギラスが突如喚き散らす。どうやら受け止める限界の様子。それでもリザードンの巨塔は半分以上露出したまま。その表面にバキバキに浮き立つ血管や筋の太さが、リザードンの雄々しさとバンギラスの屈辱を双方引き立てた。 「あーいい眺めだ……うっ!」 「ぐおっ!?」 情欲を掻き立てられた巨塔が刹那に膨らみ、快楽に耐えて楽しむ濃厚な証をバンギラスの中にどっぷり漏らす様子が自ずと曝け出され、リザードンは巨雄の卑猥な営みを嗜む。 「ちょっと動かしてみるか……」 「やめ、何をっ!? いで、いでで!」 オナホールの如くバンギラスを上下に動かしてみる。バンギラスの雄洞との摩擦は程よい性感となって巨突を伝わり、リザードンの全身に広がる一方、バンギラスには未だ苦痛の波として体を震わせる。 「シャレにっ、ならねぇよぉ!」 抵抗虚しく後ろを無様に掘られ、熱い物を注ぎ込まれて、バンギラスは無様な泣き顔を晒した。 「いい顔、するじゃ、ないかぁ! くうっ!」 リザードンは尚更唆られ、巨突を再三再四ドクンと膨らませてバンギラスを内から汚す。この一回の躍動でも、大型の雄ポケモンが一度の種付けで放つ量に匹敵するであろう程の粘液を噴き出す。それはバンギラスの内を徐々に満たし、抉じ開けられた菊花からもドバドバ漏れ出しては、血管と筋の隆起が目を引く表面を流れ下って、行為に興ずる雄を卑猥に飾り立てていく。 「カ、カンベンして、くれぇぇ!」 涙と鼻水、涎でぐちゃくちゃになった情けない面を巨舌が這い、水気を舐め取る。先に汚した粘り気に混じり、自身とはまた違う怪獣の味わいをリザードンは堪能した。一方的に蹂躙する性感と興奮に火照った巨体に汗が滲み、蒸発して湿気と臭気を周りの空気に含ませ、焼けんばかりの熱波が巨大な手や空気越しにバンギラスの肉体をも温める。だがそれはバンギラスには更なる苦しみをもたらしていた。 「……ダメだ、これじゃイけないや」 「……はぁ? もうやめてくれぇ頼む……!」 涙ながらに解放を懇願するバンギラスに、リザードンは目を細めてニヤリと牙を見せた。 「何言ってるんだ、これからが本番だろ」 「ひ、ひゃあぁっ!」 舌なめずりして巨大な顔が迫る恐怖に、バンギラスは股間の縦筋から、臭い立つ黄色を迸らせた。手下が手下ならボスもボスだなと、リザードンは嘲笑した。湧き出した熱水は下から捕らえる巨塔を濡らし、纏う卑猥な彩りが豊かになる。 「たまんないなぁ……チンコがアガってきたぞ……!」 それに呼応するが如く巨塔は躍動し、更に熱量が集まるのを感じる。 すっかり怯んだバンギラスを片手で鷲掴み、再び入る所まで突っ込む。空いた手は熱を帯びた剛突に伸ばされた。それを握るなり上下に動かして扱きを与える。濡れた音が途端に響き出す。 「は、はぁ!? オマエマジでっ……!」 「当たり前、だろっ! ヤるとこまでヤらないとなぁ……っくう!」 手の届く範囲で雄塔に刺激を与えてスパートを掛ける。扱く摩擦は心拍と共に直接バンギラスの菊穴を揺り動かす。その振動を殊更強調させるのは、表面で隆起して手指に当たる太い血管と裏筋の存在。リザードンは甘く唸りつつ、無様な暴れん坊との既成事実を作ろうと熱を孕んで突出する雄の快感を愉しんでいる。 「お、おいっ! 冗談も大概にしやがれ!」 体内で確実に迫り来るその瞬間を嫌でも感じ取り、なのに何も出来ずに喚くしかない。でえだら山を牛耳っていたのが嘘のような無力さが、バンギラスのプライドをズタズタに切り刻む。 「お前にぶち込んで、チンコが喜んでる……!」 濡れて粘つく音を立てながら扱く巨塔は更に熱を持ち、じわりと太く長く変化していく。それはバンギラスの体が持ち上がる事で顕在化された。同時に巨塔を体内に収めていた割れ目が膨張によって埋められ、周囲の皮膚ごと引っ張られて盛り上がり、真に突出した雄となって、扱く手や犯す穴からもたらされる性感が一層強まる。 「へへ、俺のチンコ見ろよぉ……!」 「いっ、ヤダっ! でっかく、なんじゃねぇっ!」 既に尻の中で膨張を感じ取って恐怖に駆られるバンギラスには効果抜群な「おいうち」。醜く泣き叫び、確実に汚される姿は、リザードンを大迫力のクライマックスへ導くに十分効果的だった。 「うおぉ! 溜まってきたぁ!」 「バカ! 抜きやがれ!」 「誰が、抜くかよぉ!」 下腹部を甘く擽る生命の移動を感じ始め、それは同時に尿道の拡張とそれに伴う太筋の更なる張り出しをもたらし、上向きの湾曲を強めながら膨張のペースを速める。巨塔から巨砲への変化は、扱き続ける手の感触で丸分かり。根元で強まる内圧に、リザードンは歯を食いしばる。 「やだ! イくな! イくなあぁぁっ!!」 バンギラスは駄々をこねる悪ガキの如く泣き喚いた。彼の体内に注ぎ込まれる物は次第に粘度と量を増す。 「そんな、顔っ、するなぁ……! 耐えられっ……!」 更に雄の根元に集中する熱い流れが、一秒でも長く楽しみたいリザードンを苛める。その我慢も虚しく、熱い生命が決壊を起こした。 「も、むり……っ!!」 巨体を戦慄かせ、太く張り出した筋を歪に膨らませて遺伝子が巨砲に流れ込むのを、握った手に伝わる内部の凹凸や、尿道から発する強い性感から知覚する。巨砲自身も最高の瞬間に向けて限界まで膨らんだ。 「ッグオオオォォォォォォォォン!!!」 発した咆哮は、重低音として彼らのいる空間を震わせる。バンギラスを犯す先端の出口を白が押し開いた瞬間、耐え難い恍惚に襲われて巨砲がパワフルで神秘的な衝撃を発した。 「ぐわあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」 生命の爆発の衝撃でバンギラスは菊門から白を噴き出しながら勢いよく飛ばされる。岩壁の上部に激突して意識を失い、周りの岩が崩落を始める。解放された巨雄から律動に合わせて大量の熱を持った白濁が迸り続け、地面に倒れたバンギラスはおろか岩や地面をも瞬く間に白く染めてつんと強く臭わせていく。 (図体でかいとイく気持ちよさも半端ない……!) リザードンは微動だにせず、握った突出から全身を駆け巡る性感を堪能していた。次第に弱まる躍動と噴出の勢いに、名残惜しさを覚えていた。 ふう、と一息吐くリザードン。すっかり萎えた一物は手から離れるなり力なく地面に横たわり、前方は見事に雪化粧をしたかの如き様相となっていた。雄として誇らしさを感じながらも、程なくして正気に戻る。 「待て、これじゃ警察呼べないじゃん……」 苦々しく頭を掻いた。仕方ないな、と白く汚れた部分に巨舌を這わせ、舐り取っていく。強い渋味と塩気の中に甘ったるさが混ざり、時間の経過でやや粘度を失いながらも喉奥に絡み付いてイガイガして、決して美味とは言えない雄の生命のエキス。それでもこの量を自らの体内で作り出し、立派な性器から噴き上げた事実に愉悦を覚えるリザードン。 粗方舐め終わり、バンギラスに舌を伸ばす。新たに交ざる彼の尿の味わいや体臭を堪能して、全身涎塗れに。 未だに気を失ったままのバンギラス。その曝け出された逞しい肉体を観察して、リザードンは目を細める。徐に舌を伸ばし、それは先程犯されて閉じ切らない菊花の真上に位置する縦筋に触れた。 「ぅ……!? ひゃあぁぁぁぁっ!!」 バンギラスは息を吹き返すなり絶叫した。眼前に巨大な頭が迫れば、暴れん坊とて流石に恐れ戦く。 「なんだよ、せめてお前にもいい思いさせてやろうってんのに」 と舌先で縦筋を舐り続ける。 「別にオレはっ! ひっ! あぁっ!」 唾液に塗れた筋肉の塊の責めに反応して、膨れて開いた縦筋から現れるバンギラスの秘めたる急所。舌先を絡めると、更に成長して立派な姿を晒した。 「体に見合う立派なモノじゃんかよ……」 リザードンは舌なめずりして愉悦を滲ませる。太い血管や筋がはっきり浮き立つのはリザードンと同様だが、元の体躯の大きさを考慮すると、バンギラスの方がより立派で力強い出で立ちである。 「俺の気持ちいい『お情け』に感謝しろよ」 「あぁ、やめ! そこっんおぉ!」 立派に飛び出したストーンエッジを舌先で責める度、鋭い牙の並ぶ大口から野太くも卑猥な嬌声を零す。相手の急所を捉える部分が、今は自身の急所として屈辱極まる益荒雄を虐めていた。ドクンドクンと絡み付く刺激に反応して不意に脈打ち、やがて先端から独特の味わいの我慢汁が漏れ出してくる。 「おあっ、おっ、おぉっ!」 熱く生臭い吐息を浴び、快楽にやられて腰砕けのまま、バンギラスは否応なしに善がらされ、岩柱は徐々に膨らむ。そんな彼の反応を嗜みつつ、リザードンは執拗に舌を絡めて攻め続ける。より雄々しく膨らんで筋張る変貌を舌越しに感じ取っていた。 「ちくしょぉ、きもちいい……ぐぅ!」 バンギラスの目に涙が浮かぶ。彼からすれば先程の凌辱に次いで屈辱的で、断じて認めたくない快楽。そんな事など露知らず、否、分かっていたとしても尚リザードンは舌攻めを堪能し続ける。 「最後まで見てるからよ、遠慮なくド派手にイっちゃいな」 粘りと塩気を感じながら、リザードンの舌は先端から根元と満遍なく威力の増すストーンエッジを刺激し続ける。先程のリザードンと同様に膨張によって根元の窪みが埋まり、体の輪郭から完全に突出する存在となって強い性感をバンギラスにもたらす。 「うぐ、くそぉ……んっ!」 立ち上がれず、もぞもぞして快楽に耐えるバンギラス。噴き出す汗に強まる雄の臭いが、迫り来るその時に向け、彼の意に反して彩りを添える。 「ここよさそうだな」 リザードンの舌先が、ストーンエッジの付け根の隆起する太い筋を&ruby(もてあそ){玩};ぶ。 「ぐおっ! そこはっ!」 がっしりした肉体が戦慄き、巨岩が刹那に硬く膨れてビュルッと先走る。 「やだっ、もう、やめてくれぇ……!」 がくがく震え出し、バンギラスの体積が見る間に増えていく。認めたくない流れが、股間へと集中して気持ちよく主張し始めた。 「俺に立派な&ruby(おとこ){雄};を見せてくれよ」 涎を垂らしながら、リザードンは止めとばかりに強く責め立てる。表面の血管や筋はくっきり張り出して、バンギラスは更に硬さを得ながら突出する。 「ぐおぉ! やだぁ! イッ……!!」 付け根の太筋がボコッと丸く膨れる。命の流れが堰き止め切れずに流れ込み、その膨らみを先端へと迫り上げ、先端から濃さと渋味を増す我慢の証を押し出しながら、リザードンの眼前で急所を捉えてやると主張するが如く、雄々しい巨岩の威力が最大になる瞬間を迎える。 「グアアァァァァァァァ!!!」 涙ながらに屈辱的な咆哮を発し、ストーンエッジから白いロックブラストを勢いよく発射した。それは彼らへと降りかかって、土っぽい青臭さを放ち始める。突如バンギラスは力が抜ける。あまりの快楽に失神したようだ。それでも白いロックブラストは五回に止まらず何度も何度も律動に合わせて打ち上がり、バンギラスの力強い雄の営みをリザードンに知らしめる。 「へっへ、いいもの見せてもらった……!」 白い汚れを舐め取りながら、リザードンも愉悦に浸った。 きれいにしたばかりなのに、また汚れてしまった。再び巨舌で拭き取り、とりあえずこれで白いのは目立たない、が……。 「なんかよだれ臭いな」 舐め取った所から発する強い生臭さは、流石に到着した保安官に変な疑いを掛けられそうな気がして、リザードンは体躯に対して小さい鞄に指先を伸ばして開け、中から砂粒みたいな大きさのふしぎだまを取り出す。それを掌に乗せて掲げると、途端に部屋全体に発生する心地よい奔流。汚れたりして使えない道具を洗浄する目的で使われるせんたくだまは、こんな時にも役立った。お陰で先の痕跡はきれいさっぱり消失した。 「よし、そしたら……」 リザードンはようやく警察に通報しようとバッジを手に取ろうとするが、重大な問題が。バッジが小さ過ぎて上手く扱えない。警察への通報も探検家の証たるバッジを使って行われるため、これではいつまで経っても依頼が達成出来ない。 「まいったな……」 大きな図体を見下ろし、手を&ruby(こまね){拱};くばかり。そのまましばらくして、リザードンの体に変化が起きた。 「お? やっとかよ……」 あんなに大きかった体が急激に縮み出した。巨大化効果には時間制限があるようだ。兎に角これで通報出来ると、リザードンは胸を撫で下ろした。 ようやく手にした馴染みのサイズ感。早速バッジを手に取って警察に通報を済ませる。山の中であるため、到着にはしばし時間を要する模様。その間に、リザードンは改めて気絶しているバンギラスに目をやった。 この体躯になって初めて実感する彼の大きな体。実際あの時受けた岩技は、これまでダンジョンで受けた物の比ではなかった。巨大化せずにまともに対峙した時を想像すると、体中の鱗が立つ程の震撼を禁じ得なかった。つくづく、でえだらぼっちは実在して、その恩恵を受けたから今があるんだと、リザードンは確信するしかなかった。 遠くから耳に入るけたたましいサイレン。ようやく警察の御到着。通報を受けて駆け付けたのは、保安官のジバコイルとその部下のコイル二匹。気絶しているバンギラスを目にするや、無機的な目が揃って点になった。即座に我に返って、リザードンに敬礼。 「オ尋ネ者ノ身柄確保ニゴ協力イタダキ、誠ニ感謝申シ上ゲマス!」 「オ恥ズカシナガラ、我々モ奴ニハ手ヲ焼イテ逮捕デキナイママダッタノデ、本当ニ助カリマシタ!」 「いえいえ、俺もまぐれで倒せたようなものです……」 リザードンは苦笑交じりに答えた。保安官達は気絶したバンギラスに近づき、力なく垂れ下がる手に手錠をはめた。 「コレデ麓ノ村モ一安心デスネ。我々モ胃ヲ傷メズニスミマス」 彼らの胃はどこなんだという疑問はさておき、安堵する姿から相当長い間警察も奴に苦しめられた事が伝わってきた。 さて、そろそろバンギラスには起きてもらう頃合い。リザードンは顔を近づけつつ大きな図体を揺らした。 「んん……」 意識を取り戻し、徐に目が開く。それは途端に丸くなった。 「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 突然の絶叫にリザードンは耳を押さえて苦悶の表情。 「…………あれ?」 と思いきやきょとんとする。 「オマエいつの間にちっちゃく……!?」 「は? 俺は元々この大きさだが?」 「とぼけんな! でっかくなったオマエのせいでオレは……!」 首を傾げる保安官を横目に、リザードンは口角を吊り上げる。 「何言ってるんだ? 俺に負けたから悪い夢でも見てたんだろ」 「夢じゃ……! あんなんじゃオレだって勝てっこねーし!」 「あんなん、って?」 「そりゃ……ぐぅ……!」 あの屈辱を思い出し、赤面して言葉に詰まる。腕を組んでニヤつくリザードン。しまったと気付いた頃にはもう遅い。勿論言葉に出来る筈もなく、一杯食わされたとばかりに牙を鳴らすに止まった。 「俺に負けたのが相当ショックだったみたいですね」 「ヤローッ!!」 保安官に笑顔を見せるリザードンに飛び掛からんばかりのバンギラス。だがそれを遮る金属音。何事と手元を見て、目が点になった。 「……なんじゃこりゃあぁぁぁぁーーーーーーーー!!!」 「何って、お前逮捕されてんだよ?」 「ソノ通リ! 不法侵入ノ現行犯ト傷害、公務執行妨害、器物損壊等ノ疑イデオ前ヲ逮捕スル!」 「マジか……ほんとオレの半生ロクなもんじゃねぇな……」 溜息と同時に肩の力が抜け、がっくり項垂れる。 「……お前、探検家目指してたんだってな?」 「オマエどこでそれを……!?」 バンギラスは驚きに満ちた表情でリザードンに目を向けた。 「いやお前手下に吹聴してたんじゃ? だから村の住民とかにも伝わってたし、色々話を聞かせてもらった」 「アイツら余計なこと……」 「それに、一緒に探検隊を組むと約束した奴もいるんだろ?」 バンギラスは途端に刮目する。そして俯き、牙を鳴らした。 「ああ、そうだ。同じ養成所で探検家になったら一緒にやろうって約束したヤツがいた。けどよ……」 握った拳が、小さく震え出す。 「オレを蹴落とそうとしたヤツにハメられて破門食らっちまって……結局……!」 無念の涙が流れ落ちる。リザードンにも首席を落とした一因として身に覚えのある、競争率の高さ故のよくある事案。この暴れん坊もまた、理不尽に将来を狂わされた、ある意味では被害者だった。 「で? それでずっと諦めたままなのか? ただでさえ強くて、この広い山を牛耳れる頭を持ってて、こんな俺よりも実力があるのに?」 「は?」 バンギラスは濡れた目をぱちくりした。 「……もしかすると、いまだに約束を信じて待ってくれてるかもしれないのに?」 「……それホントかよ!?」 リザードンに迫ろうとして保安官達に止められる。リザードンは徐に首を横に振る。 「いや、本当かまでは俺にもわからない。ただ、もし俺がそいつの立場だったら、夢から遠い生活をしてても、心のどこかでその約束を信じてるだろうな。本当に強く願ってたなら、なおのことな」 言葉を失うバンギラス。何か思う所があるのだろう。しばらく沈黙し、突如涙を振り払った。 「……なあ、ブタ箱を出てから夢を追いかけたって、遅かねぇよな?」 バンギラスは真剣な面持ちで、リザードンに問うた。ゆっくりと、大きく頷く。 「その実力なら、ちゃんとがんばれば間違いなく探検家になれるさ。俺だって探検家になれたんだ、俺が保証する!」 爽やかな笑顔でサムズアップ。バンギラスの表情が、少し緩んだ。リザードンはバンギラスの肩を叩き、真剣な顔になった。 「やるなら本気でやれよ。変なやからがいてもくじけるなよ。そして探検家になれたら、約束を信じて待ってるかもしれないそいつに真っ先に会いに行って、ちゃんと頭下げな!」 バンギラスは素直に首を縦には…………振らなかった。 「じゃあもし、アイツがオレのこと待ってなかったら……」 リザードンは自身を指差し、高らかに宣言した。 「そのときは俺をぶっ飛ばしに来い。責任持って、受けて立つ!」 ふっ、とバンギラスは笑みを零した。 「面白ぇ、どのみちオマエには借りがあっからよ、もっかい探検家目指して、なった暁にゃぁ約束とか関係なしに、堂々とオマエにリベンジしに行くから、首長くして待ってやがれよ!」 「ああ、待ってる。それと、お前が約束を果たして『探検隊』としてやって来るって、俺は信じてるからな!」 二匹は拳を突き合わせ、固い約束を交わした。保安官達がバンギラスを刑務所へと連行していく。それを見届けていたリザードンが、思い出したようにはっとする。 「悪い、最後に一つ訊いていいか?」 「……なんだ?」 バンギラスは振り向き、首を傾げた。 ---- 彼らの姿が消え、独り佇む。そうだ、とリザードンは依頼書を取り出し、それにバッジをかざした。忽ち大きく目立つ完了印が押され、依頼は無事達成された。かざしたバッジが、黄金色の輝きを放つ。その内探検協会からお祝いの手紙と粗品が届くだろう、と大した物ではないと想像しつつも心はちょっぴり躍った。 さて、と帰る準備をしつつ、ぐるりと辺りを見回す。するとある一箇所に目が留まった。よく目を凝らすと、崩れた岩の向こうに何か空間があるように見える。近づいて岩の隙間を覗き込む。リザードンは息を呑んだ。明らかに奥へと続く空間が存在していたのだ。 「こんなところ誰も言ってなかったよな……?」 と先日のメモと照らし合わせても該当する物はない。恐らく誰にも気付かれないままだったが、先の行為でバンギラスが岩壁に衝突した弾みで現れたのだろうと推測した。幸い先の行為で舐め取った白濁のお陰で腹は膨れ、それなりに動ける体力はある。兎にも角にも先へ進むには、この崩れた岩をどうにか処理しなければならない。ここでリザードンは頭を抱えた。 「あーちくしょーお尋ね者モードだったから技マシン預けちまった!」 技マシンとはズバリ、いわくだきだ。敵への攻撃には使えないが、岩壁に穴を開けて道を切り開くには最適の技。その技さえあれば、こんな岩も木っ端微塵なのだが。 「しかたない、やってみるか……」 とりあえず今覚えているかわらわりで岩を壊そうと試みる。確かに壊せないわけではないが、これでは通れるようになるまでピーピーマックスを何本飲む事になるのやら。無論手も痛くなってくるのは目に見える。 「くっそー、ここまで来てまた戻るのもめんどくさいな……何かいい方法は……」 リザードンは必死になって考え込む。鞄の中を漁って使えそうな物を探したり、周囲に利用出来る物がないか観察したり、あれこれやってみるも、いい案は浮かばず。一旦来た道を戻ってみようかと踵を返した刹那。天啓が舞い降りたかの如く閃いた。 「あれをやれば、もしや……!」 再び崩れた岩の前に立つ。力を込めて体は熱を発し、それを翼で岩に吹き付けた。途端に赤熱していく。そしてその岩目掛けてかわらわり! ドゴオッ! 大きな岩は刹那に砕け散る。思った通りだ、とリザードンは笑みを零した。頭に浮かんだのは、モンスターハウスでのゴローニャとのバトル。ねっぷうで焼きが回り、脆くなった岩がかわらわりによって容易く破壊出来るようになったのだった。こうして少ない労力で邪魔な岩を壊し、どうにか出入り可能なスペースを作った。リザードンは固唾を呑んで一歩踏み出す。長年使われていないのか、地面や岩壁は土埃を被っている。罠の可能性も考慮して足元や天井、側面にも目を配った。 ある程度進んだところで立ち止まり、尻尾を手に持ってかざし、上下した。尻尾の炎は視界確保に有効だが、それ以外にも探検に大いに役立っていた。 「……呼吸できるし、大丈夫そうだな」 リザードンは安全を確認して慎重に歩を進めた。尻尾のもう一つの役割は、炎を利用した酸素及び可燃性ガスの有無のチェック。過去の数少ない探検で、尻尾の炎のお陰で実際に難を逃れた事があった。 更に奥へ奥へと進むと、大きな空間らしき物が目に入った。はやる気持ちを抑えてゆっくり進む。入口に立ち、尻尾で辺りを照らすと、それなりに大きな空間である事が分かった。ゆっくり足を踏み入れる。特に入り口に罠がある訳ではなさそう。少しずつ慎重に。喉から心臓が飛び出そうな程にドキドキする。ある程度進んで一帯をぐるりと見回した。土埃で汚れ、下手に撒き上げたら咳き込みそう。岩壁の一部はぼんやり輝きを放つ。山や洞窟では時々見かける何かの鉱脈っぽいが、これだけでは分からない。 リザードンが注目したのは、部屋の中心にある何か。大きな箱のようだ。 「これまさか……宝箱だったりしないよな?」 緊張と期待に心臓をバクバク鳴らしながら、ゆっくりと距離を詰めて行く。幸いここまで罠らしき物の存在は確認されていないが、気は抜けない。ようやく傍まで来て、尻尾をかざす。周囲と同様土埃を被っていた。そっと上面を覆うそれを払ってみると錆っぽい金属的な感触が伝わる。模様らしき物も確認出来た。 「ん? どこかで見たような……」 心に引っ掛かる物を覚えたリザードンは記憶を辿り始める。程なくして、その正体に気付いた。 「こいつ、俺が踏んで巨大化した罠の模様と同じだ……!」 となれば、それに関係する何かであろう事は容易に想像こそ付くも、この時点では具体的に何かまでは結び付かない。もっとこの箱を調べてみようと、土埃を落とし続ける。横面に真一文字に走る溝。恐らくは箱本体と蓋との境目だろうか。慎重に回り込みつつ調べると、その溝と同じ高さに丸みを帯びた出っ張りを見つける。 「やっぱこれフタっぽいな……」 出っ張りは恐らく&ruby(ちょうつがい){蝶番};だろうとリザードンは推測した。ならばと今度はその反対側へと向かう。そこにはまた違う出っ張り。手できれいにすると、円状の物が姿を現した。一際出っ張った中心と、その周りの円盤状の物で構成されている。その円盤には模様があり、今は大きくずれているが、よく見るとその外側にある模様とぴったり合う構造になっている事に気付いた。 「ってことはこれ回るんじゃ……」 円盤に手を掛け、ぐっと力を込める。初めはびくともしなかったが、徐々に力を加えると、引っ掛かりながらもそれは回った。左右に回し続け、若干の抵抗を覚えながらも完全に回転するようになった。外側と模様が合うように円盤を回す。この状態が所謂原点だろうと推測した。 次に注目したのは中心にある出っ張り。構造的に何となく押せそうな気がした。指を押し当て、ぐっと押し付ける。するとベコッと引っ込んだ。離すと少し戻りが悪かったものの、何度か押したり引っ張ったりしてちゃんと動くようになった。 「やっぱこれが鍵だよな……さてどうやれば開くのか」 とりあえずリザードンは円盤を回したりボタンを押したりしてみる。勿論間違った操作で罠が発動する可能性も考えられ、細心の注意を払った。箱はうんともすんとも言わない。罠が発動した気配がないだけまだマシか。気の抜けない時間が続く。 「うーんわからない……どこかにヒントでもないのか?」 箱の隅々を調べてみるも、それらしき物は見当たらない。箱に直接鍵の開け方を残すなんて馬鹿な真似はしないよなと、リザードンは自嘲した。ならばとその周辺を隈なく探してみても、当然目ぼしい物はなし。箱の模様繋がりで試しに巨大化したフロアまで戻って探してみても、あの罠以外に変わった物や痕跡は見られず、また謎の箱がある部屋へ来た。リザードンはその場で考え込んでしまう。 「山に祈りを捧げてるくらいだし、村に行ったら鍵につながる何かがあるのか? でもここまで来て今さら戻るのもな……」 あれこれ考えながら、円盤を回したり真ん中のボタンを押したりしてみる。当然何の変化もない訳だが。それでもリザードンは戻るのを躊躇った。偶然とは言え、自ら工夫して道を切り開いてここまでたどり着いたのに、見す見す村に戻ってあれこれしている間に他の誰かに手柄を取られるなど、痛恨の極みになるに違いないと分かっているからだ。だからこそ、時間とお腹の許す限り、メモや村で見聞きした記憶を照らし合わせて何度も何度も試行を繰り返す。それでも鍵は開く気配すらない。 「うーん……絶対何か見落としてるはずだ……」 ぼんやり鍵を見つめながら、諦め切れずに記憶を辿り続ける。ぐるぐる円盤を回し、ボタンを押し……! 「待てよ!?」 リザードンの脳に電流が走るような衝撃。天啓は、再び舞い降りた。途端に手がわなわな震え出す。 「そうか、そういうことだったのか……なんで気付かなかったんだ……!」 滲んだ汗が垂れ、ごくりと唾を飲んだ。 「もし俺のひらめきが正しければ……」 まずは何度か深呼吸。吐息の陽炎が、眼前の光景を揺らした。 「ただそれとわかってないってだけで……」 適当に回していた円盤の模様を合わせ、手を離す。途端に強く、速まる心拍。 「村のみんな……いや、カイリューも……」 再び円盤に、そっと触れる。 「鍵の開け方を…………知ってる!」 碧色の目が、くわっと開いた。触れた手に、力を込めた。 「右に二回り……」 この段階では特段変化は見られない。 「四回叩き……」 ――カチッ ボタンを四回押すと、これまで聞こえなかった音がした。途端に高まる緊張。 「そして左に……一回り!」 ――ガチャン 円盤を左に一回転した瞬間、大きな金属音が部屋に響いた。ピリッと神経を尖らせる。この音が開錠のそれとは限らないからだ。入念に周囲を観察する。特に大きな変化は見られない。試しに少し動いたりしても、状況は変わらず。 「大丈夫そうだな……」 冷や汗を拭い、再び箱を見つめる。もしさっきの音が開錠の音なら、この箱は開く筈。蓋に手を掛け、上向きに力を掛けた。 バコッ 長年の癒着が剥がれたような音が立ち、蓋が浮き上がる。徐に開けてみると、中から覗く種々の輝き。入っていたのは、宝石で彩られた金や銀の装飾品だった。 「マ、マジかよ……!」 体がわなわな震え出す。お宝を前にして、夢でも見ているかのような気がして、どういう感情で臨めばいいのかリザードン自身も判らずにいた。スカーフで手の汚れを拭ってから、震える手で一つ取り出してみる。状態が非常によく、尻尾の炎の光で眩い煌めきを放っていた。 「俺……お宝……見つけちまった……のか?」 未だ半信半疑な心境で、中に収められた物の数々を観察する。一際目に留まった物を取り出してみた。どうやらそれは、王冠のよう。黄金で出来た土台に様々な色の宝石が所狭しと彩ってリザードンを圧倒するが、その中でも群を抜いて美しい輝きを放つ大きな宝石。中心に据えられたそれは七色の光を放ち、まるで何者かの目のように見る者を捉えて離さない魅力があった。だがこの輝き、どこかで見た事があるような……。 「まさか!?」 リザードンは岩壁に注目した。あまり気に留めていなかったが、ぼんやり光を反射する部分に近づき、土埃を落としてみる。岩の一部があの宝石と全く同じ輝きを発していた。それは一箇所だけではない。この部屋の中だけでも数箇所は見られたのだ。 「う、嘘だろ……!?」 とんでもない物を見つけてしまったと直感し、声は震え、大粒の涙が溢れ出す。遅れてやって来た感情が、一気にこみ上げてきた。 「やったああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 極まる歓喜を雄叫びに乗せ、リザードンは泣き崩れた。決して順風満帆とは言えなかった半生ではあったものの、探検家を続けてよかったと、初めて心の底から思った瞬間だった―― 大発見の&ruby(しら){報};せは即座に探検協会に届き、驚愕に包まれた。息を切らして現場に到着したのは、ジバコイル保安官ら警察の面々と探検協会会長のルカリオ、そして考古学者のネンドール。リザードンから発見時の状況等を&ruby(つぶさ){具};に聞き取りつつ、会長らが直々に調査する。装飾品を調べていたネンドールは驚きを隠せずにいた。 「詳しい調査が必要ですが、見た限りこれは数百年前の物に間違いなさそうです! 歴史的にも貴重な物かもしれませんねえ!」 「いやはや、とんでもないお宝を見つけちゃったね、リザードン君! お手柄だ!」 「お、恐れ入ります……本当に偶然だったんです……!」 恐縮するリザードンに、会長は笑顔を見せた。 「いや、その偶然からチャンスをものにできるか否かも、宝探しには重要なんだよ。それをちゃんとものにできた君は、もう立派な探検家だ!」 「あ、ありがとうございます……!」 身に余るお褒めの言葉に涙を禁じ得ない。会長はそっと抱き締める。体格こそリザードンよりは小さいながら、全身を包まれるような温かさに満ち溢れていた。リザードンは身を任せ、声を上げて泣いていた。 「さあ、涙を拭いて。探検家として、堂々と胸を張りなさい」 「……はい、会長!」 涙を拭い、そして笑顔で答えたリザードン。その心は雨上がりの空の如く晴れやかだった。そのまま会長達と共に山を下りようとするが……。 「あ、そういえば会長、見ていただきたいものがあるのですが……」 「ん、何だい?」 リザードンはある場所へと、彼らを案内した。 ---- 一方でここは麓の村。リザードンの活躍は既に村中に広まり、でえだら山のお尋ね者退治ですら一大ニュースではあったが、お宝発見という更なるビッグニュースも飛び込んでてんやわんやの大騒ぎ。そこに今回の立役者が来たものだから、テンションは最高潮。 「あのバンギラスを懲らしめるなんて、それだけでもすごいのに、そこからお宝まで見つけちゃうなんてねえ!」 「これで道さえ直せば、お山のお祈りも再開できる! ありがてえのう!」 「まさかこの踊りが宝箱を開けるカギだったなんて、鼻高々だよ! この&ruby(ひな){鄙};びた村の誇りを見つけてくれて、ありがとう!」 祝福と感謝の言葉が飛び交い、リザードンは驚きを隠せずにいたが、次第に照れ臭くなりつつも村のために一仕事出来た喜びを噛み締めていた。 突如どこからか押し寄せてくる者達。リザードンの喜びは刹那にして吹き飛ぶ事となる。 「リザードンさん! どういう経緯でお宝を見つけたか聞かせてください!」 「初めてお宝を発見したとき、どんな心境でしたか!?」 「これから行ってみたい所とか、あったりするんですか!?」 彼らは皆、周辺地域から&ruby(こぞ){挙};った新聞記者だった。矢継ぎ早の質問攻めに、リザードンはしどろもどろ。 「おいてめえらいい加減にしろい!! 困ってんじゃねえか! 順番に質問しやがれってんだ!」 見兼ねたクリムガンが助け舟を出してくれた。感謝するリザードンに、真っ赤な笑顔を見せる。クリムガンのお陰でこの場は丸く収まったものの、これで終わりではなかった。 突如郵便局員がやって来て、リザードン宛に速達を届けた。待ってましたとばかりに記者が取り囲む中、封を切って中身を読んだ。手紙を書いたのはネンドール。 「どれどれ、『今回発見した装飾品を分析した結果、少なくとも数百年以上前の物で間違いないことが判明しました』」 「なんですとーーー!!?」 村民も記者も一斉に仰天。すると村民の一匹が、思い出したように語り出す。 「あたしのおばあちゃんから聞いた話があるんだけどね、ずっと昔、この辺りを治めていた王国があって、王様はでえだら山に棲んでいたんだって。で、あたしたちはその末裔なんだって。そんな名残なんてないから嘘だろうと思ってたけど、まさか本当だったかもしれないなんて……!」 「あの……お宝の中に、王冠、ありました」 「うそぉぉぉっ!!?」 既に語られなくなったという同様の話を耳にした事のある年配世代を中心に、再び仰天する。手にしたあの印象的な王冠から、その話の信憑性は高いだろうと、リザードンは考えていた。 「もしかしたらこれで幻の王国の謎が解き明かされて、この村が有名になるかもしれねえな!」 「そしたら出てった若いモンも戻って来るかねえ?」 村民はすっかり王国の話で持ち切りに。だが速達の文面にはまだ続きが。周囲が静まってから、リザードンは読むのを再開した。 「えーと、『王冠に使われていた大きな宝石については、見たことのない物であったため、鑑定士の鑑定及び成分分析を行った結果、それはドラゴンアイであることが判明し』――」 「ドラゴンアイィィィーーーーーーッ!!?」 突如甲高い声を上げて跳び上がったのは、偶然村祭りに足を運んでいたヤミラミ。この辺りでは宝石商として名が知られているようだ。 「羨ましい……ワタシの夢は、それを一目見ることなので……!」 「なんだよその『ドラゴンアイ』って?」 村民に訊ねられ、声を震わせながらヤミラミは答えた。 「ドラゴンアイは……数が少ない上に、これまで数百年間見つかっていなかった……希少価値が高すぎて値を付けられない程の、幻の宝石です……!!」 リザードンは唖然として手紙を落としてしまう。皆もそうなのか、沈黙が走った。途端にわなわな震え出して止まらない。 「お、俺……その鉱脈……見つけちまった…………!」 一斉に集まる注目。手紙の文面にも同様の事が書かれていた。 「……うわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」 寒村は驚喜に爆発した! 一際派手な祭囃子が鳴り響き、踊り狂う村民もあれば、若い世代を中心にリザードンを胴上げし、涙ながらにでえだら山に感謝の祈りを捧げる者も。 「祭りだ祭りだぁ!! お山の恵みに感謝感激雨霰だぃ!!!」 「喜びすぎて頭の血管切れなさんな!!!」 「私初めて、この村の出身でよかったって思えた!!!」 「でえだらぼっち様に気に入られたみたいだな! よかったじゃないか!!!」 「暴れん坊がいなくなって、すごいお宝まで見つかって、これがホントの『めでたしめでたし』ってやつだなぁ!!!」 あちこち飛び交う欣喜の声に、リザードンは胴上げされながら自身の成し遂げた事の大きさをようやく実感してきた。地面に下ろされた瞬間、再び新聞記者が群がって取り囲んだ。先程より明らかに数が増え、クリムガンや加勢したガバイトですら手に負えない。 「ピピーーーーッ! アナタタチ、リザードンサンカラ離レナサイ!」 恐らく協会の要請を受けて警察から派遣されたと思われるSPが盾になり、群がる記者を遠ざけてくれた。有名な探検家が護衛を伴って移動しているのは以前見た事があったが、自分がその立場になっている事実が、未だ夢のように思えてならなかった。 村長がゆっくりした足取りでやって来る。その表情にはこの上ない喜びが溢れ出していた。 「探検家の若者よ、あなたのお陰でこの村の日常が戻っただけでなく、代々語り継がれた我々の誇りまで発見できました。自然と淘汰されるべき運命だったこの村の長として、あなたには……感謝しても、し切れません……!」 手を取って大粒の涙を零す姿に、リザードンも思わず貰い泣き。抱き合う彼らに周囲も涙し、そして万歳三唱。リザードンは名実共に、村の英雄として認められたのだった。 何もなければこのまま帰路に就く予定だったが、お宝発見の件もあって調査諸々に協力するために、再びこの村で一泊する事となった。昨日と同様、元カイリューの棲み処で疲れた身を大の字に投げ出した。日が暮れてもお尋ね者退治とお宝発見の興奮冷めやらぬ様相が、遠く村の広場から耳に届いて来る。 だが、興奮冷めやらぬ様相は、棲み処の周辺からも否応なく感じ取ってしまう。既に気配で気付いている。数多くの新聞記者が出待ち目的で夜を徹して張り込んでいる事に。覗き対策で窓を塞いで真っ暗な空間を、尻尾の炎が照らす。完了印の押された依頼書を、無言で凝視し続けていた。 依頼書を鞄に仕舞い、バッジを手にした。それは黄金色とは比にならない荘厳な輝きを放っている。先の大発見を評価され、ゴールドランクから一気にマスターランクへ昇格した証だった。そのランク自体は到達する探検家こそそれなりにいるものの、更に上のランクもあり、それこそ数少ない高名な探検家や探検隊が名を連ねる。探検家としては、寧ろこれからが本番。リザードンはバッジを眺め、気を引き締めた。 バッジを鞄に着けてから、小さく息を吐いて寝床で横になる。不届きのないようSPが目を光らせているのは分かっていつつも、どうにも落ち着かず中々眠気が来ない。夜が更けるとぴたりと止む祭囃子も、流石に今夜は夜通し行われるようで、いつまで経っても遠くで賑々しい。結局まともに寝付けないまま、塞いだ窓の僅かな隙間から零れる光で朝の訪れを知った。 という訳で次の朝―― 大欠伸をして朝食のリンゴを齧り、身支度を終えて外へ出るなり、新聞記者が群がってそれをSPが制止する。数は更に増え、どうやら遠い都会からも特ダネ目当てにこの寒村に遥々足を運んだようだ。流石にその光景には辟易した。取材を受ける気などなく、リザードンは付いて来る記者を視界に入れないようにしながら村を出て山へと向かった。 調査の協力も滞りなく終わり、一夜明けてもお祭り騒ぎの村へ戻ったのはお昼前。取材を敢行しようとする新聞記者達をSPと共に&ruby(い){往};なし、ヤドキングの屋台でヤドンの尻尾の串焼きを買って腹ごしらえ。そして村役場へ足を運んで村長に帰宅の挨拶をする。そこで村長が直々に名誉村民の称号を授け、リザードンははにかみながらもそれを賜った。 英雄の町への帰還を、村民は笑顔で見送る。 「道中気い付けない! 達者でなぁ!」 「恋しくなったらいつでも来ていいんだよ! なんなら明日でもさ!」 「あの子によろしく言っといておくれ!」 今後もお世話になります、と笑顔で返し、でえだら山に深々と一礼してから、リザードンは晴れやかな大空へ飛び立つ。空から見ても雄大なでえだら山。その姿を眺めていると、突如山頂付近に虹が架かる。ありがとう、と山から言われた気がした。 だがそんな感慨も、目に入った物でぶち壊し。鳥ポケモンに乗った、あるいは自力で空を飛ぶ新聞記者が、リザードンの後ろをしつこく付いて来たのだ。そのためにSPを付けているとは言いながら、やはり落ち着かない。有名になるってこういう事なんだなと、リザードンは苦々しく噛み締めた。 ---- 全速力で飛び続け、眼下に馴染みの街並みが見えてきたのは夕刻一歩手前。リザードンの姿に気付いた町民が喜び露に出迎えてくれる。無論この町にも彼の偉業は一大ニュースとして伝わり、それを嗅ぎ付けた新聞記者と思しき姿も散見される。 三日ぶりの棲み処の前に降り立つや否や、後ろを飛んでいた記者達もぞろぞろ降り立って色々書き留めたり取材を始めたりする。これでは満足に帰れそうにないなと溜息を吐いていると、遠くに馴染みの姿。カイリューだ。彼はこちらに気付くなり、歓喜よりも先に仰天する。急いで駆け寄って来た。 「はいはい皆さーん! 偉大なる探検家は大層お疲れでございますから、今はどうかお引き取りくださーい!」 と愛嬌のある笑みと種族柄自慢の力で記者達を半ば強引に遠ざけてくれた。流石のSPもこれには唖然。カイリューは振り向いてウィンク。リザードンもサムズアップで応え、棲み処の中へと入った。そしてカイリューもSPに何か耳打ちしてから中へと入る。応急的に窓や隙間を塞いで、二匹だけの空間となった。 「……おかえり、そしてお疲れ様!」 「……ただいま、カイリュー」 カイリューは満面の笑みで労う。リザードンにはそれがとても温かく感じられた。耳を澄ますと、外はまだ騒がしい。 「ここじゃ落ち着かないだろうし、裏口から出て僕についてきて」 「おう、わかった」 頃合いを見計らい、カイリューは入り口を見張るSPに合図を送る。そしてこっそり裏口を出て、言われるがままに後ろを付いて行く。この町に棲んでそれなりに経つが、存在すら知らなかった道。只管突き進むと、洞窟が見えてきた。二匹してその中へと入る。ここなら周囲に誰かいる気配もなく、落ち着いて羽を伸ばせそう。カイリューから差し出されたオボンの実を受け取り、豪快に齧る。絶妙に混ざり合う種々の味わいが、疲れた肉体に染み渡って途端に体力が戻った。寛いでいるリザードンを前に、カイリューが改まる。 「暴れん坊のバンギラスを懲らしめてくれて、本当にありがとう! こてんぱんにされるんじゃないかって、ずっと心配してたんだよ」 「本当に冗談抜きで強かった。まぐれで勝てたようなもんだ。無事に戻れてほっとしてるぞ」 「これで村の日常が戻るんだ、僕もやっと安心できる。それと、もううんざりかもしれないけど……おめでとう! まさか君がお宝を見つけるなんて思いもしなかったよ。続けてよかったじゃん、探検家!」 カイリューの明るい言葉に、リザードンの胸はじんと熱くなった。 「……ああ。辞めないでよかったって、本気で思ってる。それと、あのお宝を見つけられたのは、お前のおかげでもあるんだ」 「え、僕の?」 きょとんと首を傾げるカイリューに、あのりゅうのまいを披露した。すっかり身に馴染んだそれに、一層目を丸くする。 「え、それって……」 「ああ。この踊りこそが、あのお宝が入ってた箱を開ける鍵だったんだ! お前がちゃんと踊り継いで俺に教えたおかげで、悩みに悩んでひらめけたんだ。マジでありがとう!」 目を輝かせる探検家の姿が、円らな瞳に映る。 「ふふ、そうか。僕の手柄でもあるんだ……」 リザードンは笑顔で頷く。手に持っていたオボンの実を一口で飲み込み、突如リザードンの手を取った。 「君を見てたら、もう一度探検家を目指してみようかなって思えてきたよ。養成所でも感じたあのわくわく、もっと追いかけていきたい!」 円らな瞳は、ここ最近見た事のない輝き方をしていた。一探検家として、カイリューのその決意を心の底から喜んだ。 「お前ならできる! きっと俺以上に立派な探検家になれるさ」 「またまたーあんな大発見したくせに!」 満面の笑みでリザードンの肩を叩く。思いの外強く叩かれてちょっとびっくりしちゃう。ごめんごめんと、今度は優しく撫でるカイリュー。ふと脳裏に、あの場面が浮かんだ。 「……あのバンギラスもよ、昔探検家を目指してたって聞いた。罪を償ったら、また探検家を目指すんだと。俺は奴も応援してるんだ。こうやってお前含めてひとりでもライバルが増えると、俺だってがんばりがいがあるしな」 胸を張り、誇らしく鼻から煙を噴いた。 「ふふ、すっかり探検家の顔になっちゃって」 「バカ言うな! 俺はもっと前から探検家だ!」 「はいはい」 茶化されてムキになるリザードンをさらりとあしらうカイリュー。その笑顔に引っ張られてリザードンもすぐに気が鎮まった。 「でよ、あいつ面白くてな。探検家になったら俺にリベンジしに行くってさ。負けたのが相当悔しかったんだろうな」 「はは、らしいね」 カイリューは触角を動かしながら笑った。ふと遠くから聞こえるホーホーの鳴き声。洞窟の出口に目をやると射し込む光はなく、すっかり日が暮れてしまった。 そっとカイリューが身を寄せてくる。少しひんやりとして、腕の皮下脂肪と筋肉の程よい感触と、蛇腹の柔らかな凹凸の感触が、炎タイプの肉体に伝わる。熱を奪われていくにも関わらず、発せられる熱はそれを上回る。 「……がんばった君に、僕から気持ちいいごほうび、あげちゃってもいいかな?」 「何言ってるんだ、ダメなわけないだろ」 二匹の口はそっと触れ、やがて熱く絡み出す―― 青臭く蒸される空気の中、二匹は無言で事の余韻に浸っていた。すっかり夜が更けてしまい、ヨルノズクやドンカラスの声も時折聞こえてくる。カイリューに目をやると、普段の事後と変わらず茫然としている。隣に座ると、彼は徐に笑顔を向ける。 「今日の君のテク、すっごくよかった。夢中になっちゃった……」 「だろ? 探検家たる者、そういう意味でも魅力的でなくちゃな」 「そんなこと言って、僕以外とシたことないくせに」 しれっと釘を刺すカイリューにドキリ。無論理由はそれだけではない。 「は、ははっ、そうだな」 リザードンは苦々しい笑みを浮かべた。そんな彼の反応にカイリューもくすっと笑う。そして再び茫然とする。いつもだとどことなく物憂げな雰囲気がしていたが、今日はそんな気など感じられなかった。 「なあ、ちょっといいか?」 何、と振り向くカイリュー。その眼前に、鞄から取り出した物を見せる。 何、と振り向くカイリュー。その眼前に、鞄から取り出した物を突き付ける。 「――これ書いたの、お前だろ」 静寂の中、&ruby(、){彼};は微笑を零す。揺らめく尻尾の炎が、二匹を淡く映し出していた。 ---- ――あの日以来、でえだら山で調査隊と考古学チームが本格的な調査に乗り出し、その結果、王国時代の遺跡と遺構が発見されて、それを機に村は歴史と観光への注力に舵を切った。同時にドラゴンアイの発見によって一獲千金を夢見る者が移り棲み始めた。 村を出た若者も次々に戻り、彼らを中心に新たな会社を立ち上げた。ドラゴンアイ採掘事業とでえだら山の保全事業を主軸として、鄙びた村に活気を取り戻す一原動力として機能を始める。リザードンはその社外取締役に任命され、多忙な探検家生活の傍らで村の健全な隆盛に尽力した。 元来の棲みやすい気候も相まって村に棲む者、観光客共に劇的に増え、施設も充実して、村としての創立以降初めて町へと昇格した。見違える程の活気に溢れ、日々祈りを捧げるでえだら山に見守られながら、町は日々発展を続けていく。 その一方で、町にはよからぬ考えを持つ者も次第に増えてくる訳で……。 「へっへ、見つけたぜ、ドラゴンアイの鉱脈!」 「これでオレたちも大金持ちだ!」 でえだら山中某所、盗掘を目的とした輩が鉱脈を見つけ出していた。いざ掘らんとハンマーとピッケルを手にした刹那、突如何者かの気配を感じる。 ――何やってんだあ? 響き渡る声に振り向くや否や、奴らは一斉に血の気が引いた。 「ギャーーーーーーーーーーッ!!!」 でえだら山で悪事をすれば でえだらぼっちが一呑みだ そんな怖い話が出回り出したのも、丁度この頃。 ---- 【原稿用紙(20x20行)】 119.5枚 【文字数】 38278文字 【行数】 860行 【台詞:地の文 台詞率】 375:378行 50% / 9349:29393文字 24% 【かな: カナ: 漢字: 他: ASCII】 20451: 3264: 10723: 4252: 52文字 【文字種%】 ひら53: カタ8: 漢字28: 他11: A0% ---- -[[戻る>P-tan]] #pcomment()