サクノが繰り出したポケモンは、骨の剣を構えた波動ポケモンのルカリオだった。 「貴様モ、、我の戦力の一つとしてやる!」 背中のキャノン砲から炎を発射するキョスウカイ。 一方のルカリオは、波動弾で攻撃を相殺してみせる。 「もう一回『波動弾』!!」 連続での攻撃を打ち出し、キョスウカイに命中する。 「クッ、、なかなかの威力だな。ダガっ!」 傷ついたキョスウカイはキャノン砲から連続で攻撃を打ち出す。 トライアタックの嵐だ。 その攻撃をルカリオとサクノは巧みに動いてかわす。 隙を伺って前へ出ようとするが、そこまでキョスウカイの連続攻撃は甘くなく、接近できない。 「それなら、エンプ!『気合玉』!!」 波動弾よりも大きな闘気の弾を打ち出すルカリオ。 トライアタックを次々と破壊し、キョスウカイにぶつかった。 「ムグッ!!ダガァ、、トライアタックで威力が下がっていてたいしたことないぞ!」 「本命はこっちよ!」 「っ!!」 気合玉を凌いだ先にキョスウカイが見たものは、貴重な骨の剣を構えたルカリオの姿だった。 連続で剣を振るい、ゲノセクトを打っ飛ばした。 「ぐふっ!!」 ボーンラッシュの剣戟は、キョスウカイにダメージを与える。 コンスタントにダメージを与えて、少しずつキョスウカイを追い詰めた。 だが、 「(なんだろう。このゲノセクトというポケモン……本当にこの強さなの?まだ、何かを隠しているんじゃ……?)」 「力ヲ隠シテイルト、、思ったか?」 「……っ!?そうよ、さっきから、亡くなった者を召喚して来ないじゃない!それとも、もうできないのかしら?」 「フッ、、できないというのは正しい」 キョスウカイが召喚できないと言ったのは、事実である。 実はこのキョスウカイの能力には使用制限があり、一定範囲内で1人しか召喚することができないのである。 既にこの場にはエナメルがいるために、他の者を召喚することができないのだ。 「クラエッ!」 トライアタックよりもランクが高いエネルギー弾を3発打ち出した。 ラスターカノン、シグナルビーム、冷凍ビームの圧縮弾だ。 「二振りの『聖なる剣』!!」 一つは貴重は骨の剣、もう一つは闘気で作り出した刀。 二つを用いて、キョスウカイの攻撃を捌いて接近する。 「エンプ、決めてっ!」 骨の『聖なる剣』がキョスウカイを切り裂き、闘気の刀は闘気の弾丸に変換し撃ち出して、キョスウカイを吹っ飛ばした。 「まだ倒れないの!?タフね……それなら、エンプ、力を溜めて!一気に倒すわ!」 エネルギーを集中させるルカリオ。 「ふふふ……貴様の負けだ。『アップデート』&『ダウンロード』完了」 一方のキョスウカイは、倒れそうにフラフラしながらも、立ち上がってサクノをニヤリと見つめる。 「エンプ、『Soul Storm』!!」 通称『波動の嵐』。 攻撃はキョスウカイを飲み込んだ。 「(決まった……!?)」 しっかりと、相手が倒れるのを確認しようとするサクノ。 間違いなく、ルカリオの使える中でも最強の技である。 「フゥ、、効いたぞ」 「っ!?(効いてない!?どういうこと?)」 波動弾やボーンラッシュなど、基本的な攻撃でダメージを与えることができて、最大の技『Soul Storm』でダメージを与えられないはずがないとサクノは思った。 しかし、事実、ルカリオの攻撃は効いていない。 「ルカリオの能力をすべて解析した。これで、ルカリオの攻撃はすべて通用しない!」 「『波動弾』!!」 「無駄なことだ」 ノシノシっと歩いてルカリオに接近する。 波動弾をまともに受けるが、まったく意に介していない。 「それなら、『気合玉』!!」 大きな闘気の塊を投げつける。 「だから、無駄なことだと……」 右手を翳して攻撃を受け止めようとしたキョスウカイだったが、僅かに下にずれて砂煙を上げる。 「エンプ、全開!!」 キョスウカイの背後に回りこんだルカリオ。 貴重な骨の剣に最大級の闘気を纏って、振りぬいた。 「『Soul Blade』!!」 ルカリオの一撃の衝撃で気合玉で巻き上げた煙が一気に吹き飛んだ。 「……そんなっ!!」 少しだけキョスウカイが勢いで前に動いたが、ダメージが見られなかった。 「貴様の負けだ」 背中のキャノン砲から火炎球を打ち出して、ルカリオに命中させる。 吹っ飛ぶルカリオをサクノは受け止めようとするが、次々とキョスウカイは強襲を続ける。 「うわぁぁぁぁぁっ!!!!」 サクノはルカリオに向けたその攻撃に巻き込まれて行った。 「サクノっ!!」 キョスウカイと娘の戦いを案じて、援護しようとしたヒロトだったが、 「よそ見したら駄目ですよ」 「ぐっ!?フライト!?」 エアームドの猛襲でフライゴンが叩き落される。 その一撃でフライゴンはダウンした。 「っ!!シオン!!」 「ライチュウですか?それなら、ボクもライチュウにチェンジです」 電気ネズミ同士の戦いが白熱する中、キョスウカイの猛攻も続いていったのだった。 ―――5分後。 「はぁはぁ……」 暗闇の中でサクノは荒い息を吐く。 エンジュ色のパーカーがボロボロに引き裂かれたように千切られ、インナーのカットソーもボロボロに穴を開けられ、健康的に引き締まった体を露出させていた。 「ぐっ!あうぅっ!」 ラスターカノンが襲い掛かり、かわそうとするが足を挫いてしまい、サクノの髪を掠めた。 掠めた勢いで赤いリボンが焼かれて、サクノのアップサイドテールが解かれて、ファサと髪が広がった。 「止メダ」 連続でラスターカノンがサクノに襲い掛かる。 「(もうダメなの……?私は……勝てないの……?)」 弱気になるサクノ。 彼女がこんなに追い込まれるのも初めてだった。 今まで立ちはだかる困難も強敵も、自信を持って打ち倒してきた。 それだけに、今のこの状況が怖かった。 しかし、ルカリオがフォローに入り、ラスターカノンを押しとどめようとするその行動でサクノは目が覚めた。 「(弱気になってはダメ。私は一人じゃない。私にはエンプがいる。それに……)」 サクノはもう一つの戦いを見る。 そこで繰り広げられているのは、ライチュウとライチュウの激突だった。 ちょうど、ヒロトのライチュウが尻尾攻撃で追い詰めて、最大の電撃攻撃を放ったところだった。 ルカリオの肩を借りてサクノは立ち上がった。 「ぼろぼろノ、、その体で何ができる?モハヤ、、貴様に勝機はないのに何故立ち上がる?」 「勝負は決まったと、本気で思っているのかしら?」 「当然ダ。この力の差は明白だろう」 「いいえ。私にはその差が見えない」 「何ヲ、、現に貴様のルカリオの力はすべて見切った。るかりおシカ戦エヌ今、、貴様の勝機はゼロだ」 「そうね。戦えるのがエンプだけならそのとおりよ。でも、エンプは一人で戦っているんじゃない。私がいる!ポケモンとポケモントレーナーは一心同体!それが分からないあなたと私たちに力の差はないのよ! エンプ!!」 足を踏ん張って、ルカリオは神速を発動する。 そして、鋼鉄の拳でキョスウカイを殴りつけようとした。 「フッ。そんなもの、先ほど効かないと証明を―――」 ドゴンッ!! キョスウカイが大きく吹っ飛んだ。 一転二転と転がり、冷静に受身を取る。 「(何!バカな!?攻撃の威力が変わっただと!?)」 驚くキョスウカイの前に大きな闘気の塊が飛んでくる。 気合玉を無防備に受けたキョスウカイは大きく吹っ飛ぶ。 「(グッ!一体何が起きているって言うんだっ!?)」 見るからに敵であるサクノとルカリオはボロボロである。 後一発でも光線攻撃を当てれば、倒せるほどに相手は弱っているように見える。 しかし、そんなダメージを感じさせない気合で猛攻を仕掛けてくるルカリオ。 「『ボーンラッシュ』!!」 「ぐぉぉぉっ!!(最初の時よりも威力が上がっている!?)」 連続の殴打を繰り出し、最後の一発で吹っ飛ばす。 「我ガ……負けるものかぁっ!!」 背中の砲弾から、力を溜め始める。 「止メダッ!『メタルキャノン』!!」 鋼系の自身最強の砲弾を打ち出すキョスウカイ。 この一撃でサクノ諸共ルカリオを鎮めるつもりだった。 だが、この一撃をルカリオが闘気を纏った貴重な骨の剣で受け止める。 「行っけえェェェェェェェっ!!エンプっ!!」 全闘気を解放する。 闘気を解放すればするほど、ルカリオの剣の刃の鋭さは増す。 一刀両断だった。 鋼のエネルギー砲を切り裂くだけに止まらず、キョスウカイの背中に搭載されているキャノン砲も、キョスウカイから切り離すかのごとく2つに切ったのだった。 「(テクノバスターが……霊界の……カセットがぁっ……!!)」 「『Soul Blade』!!」 止めの一撃がキョスウカイに炸裂した。 「(やられ……たのか……!? 人間を隷属し、世界を支配する我の計画が無に還るというのか……)」 薄れ行く意識の中、キョスウカイは考えた。 「(ルカリオの力が強くなったのは……あの女がルカリオに触れてから……あの女の“気持ち”というものがルカリオに伝わったというのか……?ありえない……ありえないが、まさか……!)」 今まで会った人間の中でも、サクノはとびっきりの異質な存在だとキョスウカイは感じた。 最初は、カズミとヒロト……この2人の力だけが異質で世界をどうにかする力を持っていると感じていた。 「(この女の力は……さらにそれを行く……!! ……サクノことアキャナインレディは…………世界を……。……だとしたら―――)」 サクノは力が抜けてペタンと地面に足をつけていた。 よほどの体力を使っていたのだろう。 それはルカリオも同じで、地面に剣を衝いて、今にも倒れそうだった。 そして、サクノたちはキョスウカイがゆらりと立ち上がったことに気付いていなかった。 ―――野放シニハデキナイ!!ここで、確実に仕留める!!命に代えても!! ―――ソレガ、我の……―――!! 「シオンッ!!」 ド太い最大の光線が、シオンを貫いた。 放ったのは、エナメルのギャラドスだった。 「『ファイナルビーム・改』です。……やはり、オトさんのお父さんは強いです」 「(くっ……俺にはもうポケモンが残されていない……!!)」 ライチュウが倒れたことにより、ヒロトの負けが確定した。 しかし、エナメルはそのことにはまだ気付かず、反動で動けないギャラドスを戻して、エアームドを繰り出す。 「次、行きます!!……あれ?」 消え行く右手を見て、エナメルは目を丸くする。 「ボク……消えていってます?何でですか……?」 もちろん原因は、キョスウカイのテクノバスターに入っていた霊界のカセットが壊れたことにより、召喚が解除されてしまったためである。 エアームドが光の粒子になって消え、エナメルも徐々に消えていく。 「(サクノ……やったのか……) エナメルと言ったな。強かったぜ。お前の勝ちだ」 「ボクの勝ちですか?」 「ああ。お前が生きていたら、オトのことを頼んだだろうな」 そう言われて、エナメルは溢れ出てきた涙を拭って頷いた。 「お義父さんに認められた……それだけで、ボクは嬉しいです」 満足そうな表情で、エナメルは消え去ったのだった。 「(サクノはどうなった!?)」 エナメルが消えるのと同時に、周りの背景は、最奥だった洞窟に戻った。 そこでヒロトが見たのは、力が抜けて座り込んでいるサクノと限界を迎えて荒く息を吐いているルカリオの姿だった。 「(よかった……無事か…… ……!!)」 しかし、一つの姿を見てヒロトは頭に警笛を鳴らす。 「(キョスウカイ……あの傷でまだ倒れないのか!?……だが、もう意識はない……ということは、本能で動いているということか……一体何を……? サクノ?)」 サクノはキョスウカイが接近していることに気付かなかった。 「サクノぉっ!!」 「……え?」 父の声に顔を上げて、ようやくサクノは気がついた。 キョスウカイが鬼の形相でサクノに接近してきたのである。 その体にフルパワーのエネルギーを宿して。 「一緒ニ……朽ち果てろ……」 サクノの反応は完全に遅れた。 パートナーのルカリオも間に合わなかった。 そして、サクノとの距離が30センチになったとき、そのエネルギーは完全解放された。 ―――『大爆発』。 それがキョスウカイ……ゲノセクトの最後に繰り出した技だった。 この一撃は、ジャイアントホールの奥のフロアの天井の岩盤を突き抜けて、洞窟を崩すほどの威力だった。 「……ん?どうやら、消える時が来たようだな」 自分の手を見て、ラグナがそう呟いた。 「くっ……どうやら、まだあたしはダーリンの域に達していないというわけね……」 「バカ言え」 カズミが繰り出しているのは、最後のポケモンのゴウカザル。 そして、今ラグナが繰り出していたのは『アンリミテッドブレイク』状態のピクシーだった。 「今までこの状態まで俺がてめぇに本気を出したことはなかっただろうが。充分強くなってるってんだよ」 「ダーリン……」 「死ぬ前に言い残せなかったことを言わせて貰うぜ。カナタを……後のことを、頼んだぜ」 カズミにそういい残して、ラグナは消滅したのだった。 「親父……」 ポツリとつぶやいて母を見るカナタと、少しの間、俯くカズミ。 恐らく泣いていたのだろう。 「さぁ、行くわよ、カナタ」 「……お母さん?」 「あたしがここに来た目的は、サクノの父であるヒロトに会うためなんだから!」 「……う、うん」 ちょうどそのとき、洞窟全体を凄まじい衝撃が響いた。 「なっ!?」 「凄い揺れと衝撃……岩が落ちてくる!!急いで脱出するわよっ!!」 カズミはカナタの手を引いて、ゴウカザルを先頭に一気に出口へと突っ走っていく。 「マキナはんの相手は伝説のポケモンのメロエッタを持ってしても勝つ事ができなかった相手やったわけやな」 「そういう天使の力を持つビリーも、そうして傷だらけなのを見ると、よほど強い相手と戦ったようね」 ビリーとマキナは合流を果たしていた。 というと、マキナが倒れているのを見て、ビリーが起こして、彼女に肩を貸して歩いているという状況である。 この状況で2人が考えることは、一緒だった。 「「(サクノは無事かなぁ)」」 二人とも、カナタの事を忘れていた。 そのとき、二人に揺れと衝撃が襲う。 「ぐっ!」 「急がないとアカンな!」 ビリーとマキナも急いで出口へと向かっていった。 右手にはべっとりと赤いものがこびりついていた。 「(血……?)」 だけど、自分がケガをしているようには見えない。 「(え……?)」 彼女は悟った。 その血の正体を。 「……お父さん……?」 自分を庇うように押し倒して、彼が大爆発から彼女を身を挺して守ったのである。 「……お……父さん……?」 「サ……クノ……無……事……か……?」 消え入りそうな声。 よほど致命傷だったのか、ヒロトは息をするのも辛そうだ。 「よか……った……ケガは……ない……な」 「ケガって……お父さんは……お父さんが……酷い……ケガをしているじゃない!!」 「いい…って……お前が…無…事なら…俺は…」 「よくないわよっ!!」 ヒロトの大爆発でのダメージは、致命的だった。 説明するのも躊躇われるほどに、その姿は痛々しく絶望的だった。 「私が物心をついたときにはもういなくて、それまでずっと、私はお父さんを知らなかった。……一体……一体、今まで何をやっていたのよ!!??」 「…………」 「私も寂しかったけど……お母さん……なんか……もっと寂しい思いをしていたのよ……?」 「(……オトハ……)」 自分を愛してくれる妻のことを思い出すヒロト。 「これから、帰るの!何が何でも、私はあんたをウチまで……タマムシシティまで連れて帰るわよ!!」 そういって、ヒロトの腕を持って立ち上がろうとするサクノだったが、瓦礫が降り注ぐ中、満身創痍の二人がここから脱出するのは至難の技だった。 「サクノ……」 「絶対連れて帰るんだから!お母さんに謝りなさいよ!」 「サク…ノ……」 「何、お父さん……きゃっ!?」 ヒロトはサクノに覆いかぶさるように押し倒した。 「この…ままでは……恐ら…く、瓦礫…から逃げる…ことは…でき…ない……だろ……う……」 「一体何を……っ!!まさかっ!?」 ハッと気付いたサクノ。 その表情に笑顔で答えるヒロト。 「母…さん…やサク…ノには……寂しい思…いをさ…せて…しまっ…たな……。でき…ること…なら、会って…母さん…に…謝…り…たいところ…だけ…ど……でき…そうにも…ない」 「何縁起でもないことを言っているのよ!しっかりしてよっ!!」 必死に呼びかけるサクノ。 しかし、ヒロトは止めないで彼女に伝えようとした。 「帰…った…ら、母…さん…に……こう…伝えて…くれ―――」 サクノの頭を撫でながら、ヒロトは呟いた。 「―――帰る…という約…束を…守れ…なく…て、済ま…ない……と」 「約束を守れないってなんだよ!?守れよ!一度した約束は絶対に守れよっ!!」 彼女の目には涙が滲んできていた。 あやすようにヒロトはこう諭す。 「“自分の命”や“変えたかった運命”よりも、そして、“母さんとの約束”よりも大切なもの……それは娘<サクノ>の命だ」 そんな中、一気に瓦礫は彼らを下敷きにするように降り注いだのだった。 ―――「オトが行方不明?」――― ―――「1ヶ月前にユミちゃんとキトキくんの前で消されたらしいの。詳しい状況はよくわかりませんけど」――― P41年。 タマムシシティのヒロトの家で彼は、妻の情報を聞いていた。 この情報はSHOP-GEARのカズミから伝わってきたのである。 ―――「なんでも、絶峰と呼ばれる組織のクィエルという人が、オトを消したのだと言っています」――― ―――「……そうなのか」――― ―――「そして、同時期にユウナさんも行方不明なんです」――― ―――「え?……ユウナ?あいつまで??」――― ―――「そうなんですよ。心配です……」――― ユウナと妻であるオトハは、親友同士と言ってもいい関係だった。 だが、ユウナはそのオトハにも行き先を告げずに行方をくらましたのである。 ―――「(行方不明……何があったかはわからないけど、まさか―――)」――― ヒロトに一つの単語が思い浮かぶ。 ―――「(……マイデュ・コンセルデラルミーラ……)」――― 20年程前に、彼は50年も先の未来へと飛んだ。 そこで待っていたのは、崩壊へ向かって荒廃していった世界とマイコンと呼ばれる組織だった。 彼らは、シンクロパスと呼ばれるアイテムを使い、ポケモンとシンクロすることで壮絶を超えた力を行使し、有名有能なトレーナーを葬っていった。 その犠牲者として、彼はハレやユミなど、いくつかの知り合いもいた。 ―――「(ここで何があったかは知らないけど、きっとこのときに何かがあったんだ。それこそ、彼女の世界を、意識を変えるような何かが……)」――― マイコンの大幹部として君臨していたユウナ。 呼び名をアソウと変えて若かったヒロトの前に姿を現わしたが、ヒロトはすぐに彼女だと見破ることができた。 ―――「(もし……もしも俺が、ユウナを探し出し、言葉を掛けることができれば、あの未来を変えられるだろうか……??)」――― 掌に汗が滲む。 そのとき、彼の脳裏にとある言葉が浮かんできた。 ―――「『“過去”から“未来”は一本の道であり、曲げることのできない唯一無二の話である』。ヒロト様が未来で事実を知っても、過去の世界では何の影響ももたらされないのです」――― 例え未来を知っていても、変えることはできない。 それはココロと言う少女の言葉だった。 ―――「(いや、例え無理だったとしても……俺は……)」――― 彼が決心を決めるのに、時間はかからなかった。 ―――「オトハ、悪いけど、ちょっと旅に出てくる」――― そんなヒロトの顔をじっとオトハは見つめていた。 ―――「……ユウナさんを探すのね?」――― ―――「……ああ」――― ここでヒロトは「(息子の)オトを探しに行くんだ」と否定してもよかった。 だが、彼は嘘をつかずに、正直にそう告げたのだった。 ―――「オトのことよりユウナさんのほうが心配ですか?」――― ―――「『比べることはできないだろ』……と言っても、見透かされるだろうな。ああ、ユウナのほうが心配だ。あいつの心には深い闇の傷がある。それが暴走してしまわないか心配なんだ」――― そういいつつ、ヒロトは旅の支度を始めていた。 ―――「どうしても行くのね」――― ―――「悪い、オトハ」――― それほど多くの荷物は持たず、ジャンバーを羽織ったところで、彼の腕を彼女が掴んだ。 ―――「一つ、約束をして」――― ヒロトを見上げる視線で、彼女は訴えた。 ―――「ユウナさんとどうなってもいいです」――― ―――「どうなっても……って……」――― ―――「あの、その……言わせないでください……!」――― ―――「いや、唐突過ぎて……」――― 少し恥ずかしそうなオトハと彼女の言動についていけなかったヒロト。 ―――「だけど、どうなってもって……」――― ―――「ユウナさんが闇の中から戻ってくるなら安いものじゃないですか。……でも、もしそうなった場合は、多分、1週間くらい口ききません」――― ―――「…………」――― 突っ込む言葉が見つからないヒロトである。 膨れっ面の彼女の顔をしばらく眺めていると、寂しそうにオトハは呟いた。 ―――「……ユウナさんを見つけてきたら、必ず私の元へ帰ってきてください」――― 彼女の言葉の答えにヒロトは、スッと彼女の唇を奪った。 そして、彼は微笑んでその場を去ってこう言葉を残した。 ―――「もちろんだ」――― オトハ……すまない。 約束を守ることができなかった。 ……でも、いいだろ? 約束を守れずとも、娘の命を守るためなんだ。 赦してくれよ? 最奥のフロアへの入り口前。 そこへカズミとカナタが走ってきた。 次いで、マキナを支えながらビリーもやってきた。 そして、声を掛け合うと、サクノはもうここに来ていると頷きあった。 だが、そこに見えるのは瓦礫の山で、もし人が埋まっているとしたら、生きてはいないだろうと思っていた。 その光景に息を呑む4人だが、ズズズッと瓦礫の山が崩れ始める。 そうして、波動のエネルギー弾が空へと放たれた。 瓦礫が小気味よく吹き飛び、その中からルカリオが姿を見せた。 しかし、息は絶え絶えで、力を使い果たして倒れた。 そこで4人は2人の姿を目撃する。 男は下にいる少女を屋根のように瓦礫から守っていた。 しかし、もう意識もなく、息絶えていた。 少女は仰向けに倒れこんで、涙を流していたのだった。 第四幕 Episode D&J Ι<イオタ>④ P51 立春 終わり