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たった一つの行路 №292 の変更点


 ☆前回のあらすじ
 楽園<パラダイス>へと誘われたサクノたち。
 ネグリジュという女が楽園を崩壊させる原因だとシロヒメに言われたサクノとカナタは、神殿へと赴いてネグリジュを撃破した。
 しかし、シロヒメがサクノ達を攻撃し始める。
 そこへ駆けつけたビリーがシロヒメと交戦を始めた。
 二人は幼馴染だというが……?



“私は……あの方のマスターだった。
 あの方の側にいて、いつも歌と踊りを嗜んでいた。
 それを見ていつも無表情で私のことを撫でてくれたのだ。
 無愛想に見えるけど、私にはあの方の温かい心が伝わってくる。
 あの方が次の神になるになるのは間違いと私は思っていた。
 そして、ある時、長である神が亡くなった。
 天使族は長寿であるが、不死身ではない。
 神と言う長に就いてもそれは同じことである。
 だが、病気であることは確かだったが、それでも神の死は明らかに不審すぎた。
 原因を突き止めるために奔走し、あの方は同じ神官が神を呪って死期を早めた事を知り、制裁を加えた。
 許されることではなかったが、平和のためには仕方がないとあの方は考えていた。
 その事件が原因で、あの方は命を狙われた。
 楽園<パラダイス>はあの方を制裁するためにいくつかの刺客を送った。
 でも、あの方はものともせずに退けていった。
 理由を説明すればいいはずだと私は言った。
 「無駄なことだ」とあの方は呟く。
 あの方はいつもそうだ。
 行動だけを示し、まったく言い訳をしない。
 だから、いつも誤解されてしまうのだ。
 そんな折、あの方は楽園の刺客と地上から来た二人のカップルに敗れて、楽園の奥深くに幽閉された。
 その間、神はあの方に刺客を送っていたトランクになり、平和な日々を送っていた。
 しかし、ほんの少し前に、あの方は封印を解かれた。
 まずあの方がしたことは、トランクの制裁だった。
 トランクは神の座を就いたのをいいことに、地上や楽園で闇の取引をしていた。
 ほとんど不意打ちで倒したのはよかったが、真の敵はトランクではなかった。
 あの小さい子供の女。
 その女こそが、私をぼろぼろにし、楽園を騙し、神たちを弄び、あの方を貶めた張本人……
 名前は……シロヒメっ!!”



 たった一つの行路 №292



 ドゴォッ!

 互いの攻撃が炸裂し、2匹は壁へと叩き付けられる。
 片やハイドロポンプ。
 片やサイコキネシス。
 その一撃でルンバッパとメタグロスはダウンをした。
 それから、すぐに2人は次のポケモンを繰り出す。

「『ウォーターフォール』!」

 シロヒメが繰り出したポケモンはイーブイの進化系であるシャワーズ。
 サクノとネグリジュとの戦いで空いた天井の穴から天空から降り注ぐ水鉄砲が注がれる。

「『サイコキネシス』!」

 一方のビリーは、細胞ポケモンであるランクルスを繰り出して、シャワーズの水攻撃をそらす。
 ボンッ! と誰もいないところに穴を開けた。
 シャワーズは連続で攻撃を繰り出すが、ランクルスも同じように何度も逸らしてみせる。
 5発目を逸らした時、ランクルスは衝撃を受けた。
 シャワーズの電光石火だ。

「くっ、『サイコショック』!」
「『冷凍ビーム』」

 見えない超能力の塊を凍らせて、ランクルスの攻撃を防御。

「シャワーズ」

 さらに襲い掛かるウォーターフォール。
 2発連続で撃ってきた。
 一発は直接ランクルスを狙ってきたために、サイコキネシスでかわした。

「(なっ!?凍らせた塊を!?)」

 しかし、2発目は氷の塊をランクルスのほうへ打ち返すように撃ってきた。
 対応に遅れたランクルスは氷の塊をぶつけられて怯む。
 そして、本命のウォーターフォールがランクルスに直撃した。

「デンチュラ!」

 たまらず、ビリーは2匹目のポケモンを繰り出す。

「『10万ボルト』!!」

 デンチュラの電撃をシャワーズは回避してみせる。
 そこから再び、『ウォーターフォール』を撃って、デンチュラを狙い撃ちする。
 回避し、一気にシャワーズの後ろを取った。

「『エレキネット』!!」

 電気の網を口から吐き出し、シャワーズを押さえ込んだ。
 糸に流れる電気がシャワーズにダメージを与え続ける。

「そんなもの!」

 ズバッと水を纏った尻尾で電気の網を切り裂いた。
 『アクアテール』だ。

「『10万ボルト』!!」

 当然、ビリーは猛攻を指示する。
 電撃を撃って、シャワーズにダメージを与える。
 さらに『エレキマグネードウェブ』でシャワーズに糸を絡ませて、動きと力を奪い、最後は『かみなり』で一気に撃破した。

「……互角……」

 2人の戦いを見てカナタは息を呑む。

「(それにしても……シロヒメは……私たちを騙したというのか……?)」
「いいわ。そろそろ、全力で行きましょう」

 グレイシアとミロカロスを繰り出し、シロヒメは頭に手を当てる。
 すると、神殿の中にもかかわらず、風が吹き荒れ始める。
 ビリーとカナタは吹き飛ばされないように屈んで風がおさまるのを待った。

「来るか……シロヒメの全力の……『エンゼルフェザー』が……!」

 風が止むと、グレイシアとミロカロスの身体の一部に変化が生じていた。
 その変化は至極単純なもの。
 二匹に天使のような翼が生えたのである。

「ランクルス!デンチュラ!」

 待機していたデンチュラと、ずっとダウンしていた振りをしていたランクルスで2匹に挑む。
 『サイコショック』と『シグナルビーム』で攻撃を仕掛けるが、相手の二匹は翼を羽ばたかせて、攻撃をかわす。

「グレイシアとミロカロスが飛んだ!?」

 さらに無数の氷の礫と水の波状攻撃を連続で打ち出してきた。
 デンチュラが光の壁を張り、ランクルスがサイコキネシスで攻撃を逸らそうとするが、相手の手数が多すぎた。

「ぐぁっ!!」

 ビリーたちは吹っ飛んだ。

「なんだって言うんだ……!?技の威力まで上がっている!?」
「……それが、シロヒメの力だ……」
「ビリー!?」

 立ち上がるビリーだが、頭からは血が出ていた。
 デンチュラは辛うじて軽傷で済んだが、ランクルスはビリーとデンチュラを庇って、ダウンしてしまった。

「『エンゼルフェザー』。あいつの覚醒した天使の力でその力の実態は、飛行能力の付加と能力の上昇だ」

 唇を噛み締めるビリー。

「シロヒメは天才だ。昔から天使の覚醒が使えたし、頭も良かった。俺なんか足元にも及ばなかった。幼馴染だというのが不思議なくらいにな」
「天使?……ビリー……まさか、お前も……?」
「…………」
「それなら、お前もその天使覚醒とやらが使えるんじゃないのか!?」

 カナタの質問にビリーは黙り込む。

「ビリーにはできません」

 バッサリとそう言ったのはシロヒメだ。

「一度、天使覚醒を使おうとして、暴走し、どうにもなりませんでした。それに、もし使えたとしても、ビリーは私に勝てません」
「シロヒメ……なんでなんだ?どうして、こんなことになっているんだ……?」
「それは、私から話すわ」

 部屋の入り口の方から女の子の声がした。
 白髪のワンピースの女の子……マキナの姿があった。

「まず結論を言うと、このすべての元凶はあなた、シロヒメなの」
「すべての元凶?」
「ええ。シロヒメは現在の神のトランクの部下だった。前の神が死んだ時にトランクは自分が神になるように他の神官を蹴落とそうとした。とりあえず、一人の神官は勝手に堕ちてくれた。元々その神官が原因で神は亡くなったのだから。そして、その神官を勝手に制裁したネグリジュは、トランクが手柄を手にする種だった。トランクは刺客を送ってネグリジュを幽閉に追い込むことに成功した。それから数百年の間、トランクは神の座に君臨し続けた。そのシロヒメが、動くまでは……」
「…………」

 誰もがそのマキナの説明を聞く。
 言葉を挟むものはいなかった。

「ある時シロヒメはトランクを見限り、失脚させようと考えた。そのために、シロヒメは再びネグリジュの封印を解いた。当然ネグリジュはトランクを討ちに出た。その間、シロヒメはネグリジュをどう止めるか策を練るために地上へと降りたのよ」
「シロヒメ……そうなのか?」

 恐る恐る幼馴染に尋ねるビリー。

「その通りですよ」

 口元をほころばせてシロヒメは答える。

「すべては私が神になるための計画です。トランクを排し、ネグリジュをサクノが倒してくれた今、後はここにいる邪魔者を制圧すれば終わります」
「そんな……楽園での騒動は……シロヒメが原因だったのか……!?」

 がっくりとビリーは膝をつく。

「シロヒメの様子がおかしいとは思ったんだ。たまにいなくなっていたし。そして、最近また見なくなったと思ったら、楽園が荒れ始めた。ネグリジュの影響でだ。最初はそんなに深刻に考えていなかったけど、その影響は俺の周りにも及んできた。戦ったけど、ネグリジュには敵わなかった。そして、俺は地上へと落とされた……」

 サクノがビリーと出会ったのはそのときだった。

「楽園に影響を及ぼして、地上のポケモンにも影響が出始めた。それがこの前のランドロスたちなんだ。シロヒメ……こんなことはやめろ」
「やめるわけがありません」

 デンチュラが10万ボルトを飛ばすが、あっさりとシロヒメたちは回避する。
 その一撃と共に、戦いは再び始まった。

「だけど、マキナ……なんでそんなこと知っているんだ?まさか、あなたも……?」

 カナタが不思議そうにマキナを見る。

「いいえ、私は天使じゃないわ。この子の話を聞いただけ」

 そういって、マキナはモンスターボールから一匹のポケモンを繰り出した。

「メロエッタ!!」

 マキナがそのポケモンの名前を呼ぶと、メロエッタは戦場へと突っ込んだ。
 長い緑髪にワンピースを着た女性のようなポケモンは、手を翳して『サイコキネシス』でグレイシアを吹っ飛ばす。

「そのポケモンは……旋律ポケモンのメロエッタ!?何でマキナが!?」
「森で大ケガを負っていたのを助けたの。回復するために私がマスターになったのよ」
「始末したと思ったのに……まだ息があったとは思いませんでした」

 シロヒメが唇を噛み締めてメロエッタを睨む。

“シロヒメ……あなたの思うようにはさせない”

 テレパシーでメロエッタが相手に気持ちを伝える。
 エスパーポケモンであるメロエッタには造作もないことだ。

「ビリーにメロエッタ……どっちにしても、私の敵ではありません。ミロカロス、グレイシア」

 翼を生やしたグレイシアとミロカロスがそれぞれ属性の攻撃で仕掛けてくる。
 ビリーのデンチュラとマキナのメロエッタは攻撃を回避して前進する。

「メロエッタ、『サイコキネシス』!」

 まず、グレイシアを押さえつけた。
 しっかりと押さえつけたのを確認して、マキナはビリーにアイコンタクトを送る。
 それを理解し、ビリーは指示を出す。

「デンチュラ、ローガン流『シグナルレーザー』!!』 

 シグナルビームを強化した極大のエネルギー波。
 デンチュラの口から放たれる強力な一撃だ。
 それがグレイシアにクリーンヒットした。
 ダメージを負って、グレイシアはよろめく。

「倍にして返します」
「……っ!!」

 グレイシアの身体から先ほどのシグナルレーザーの二倍のエネルギーが跳ね返ってきた。
 大技を放ったことにより、咄嗟の回避が出来なかったデンチュラは、直撃してダウンした。

「……『ミラーコート』ね。メロエッタ、『ハイパーボイス』!!」

 全体に大きな声を張り上げて、牽制する。
 飛んでいようがいまいが関係なく、その声はグレイシアとミロカロスを釘付けにした。
 例え『ミラーコート』で跳ね返されようとも、この位の軽い攻撃なら回避できると踏んでいるのである。

「ピクシー!!」

 ビリーが繰り出すのは妖精ポケモンである。

「まだほとんど翼も無いピクシーですね」
「…………」
「そんなピクシーじゃいつまで経っても私には勝てないわよ」
「やって見なくちゃわからないだろ!『トライアタック』!!」

 炎、冷気、電気の三種のエネルギーを集めて放ち、グレイシアに当てた。
 だが……

「ウソだろ!?ビリーのピクシーの『トライアタック』は私のどのポケモンでやっても受け止められないのに、あれがまるで効いてないだと!?」

 カナタが驚きの声を上げる。
 ちなみに、進化したカナタのラグラージならピクシーの『トライアタック』ぐらい受け止めることができる。
 ただ、今の一撃にもかかわらずグレイシアは無傷に近かった。

「『いにしえのうた』!!」

 独特な発声方法から、不思議な歌声を発するメロエッタ。
 グレイシアの近くであやすようにその歌声を聞かせた。
 『ミラーコート』を展開する前に、音による声で相手を眠らせた。
 同時にメロエッタの身体が光り始めた。
 緑色の髪がぐるりとターバンのように巻かれて、全身が少々茶色っぽく変化したのだ。

「姿が変わった……まさか、フォルムチェンジなのか!?」
「あれが、ステップフォルム……」

 メロエッタは特定の条件を満たすと、緑色の女性の姿のボイスフォルムからコサックの女性の姿のステップフォルムにチェンジする。
 そして、変わるのは姿だけではない。

「『ローキック』!!」

 ドガガガガガッ!!

「!!」

 翼を持ったミロカロスに匹敵するスピードで、連続で足技を叩き込むメロエッタ。
 そして、そのまま地面に叩き落した。

「追撃で『インファイト』!!」

 眠っているグレイシアに連続打撃を叩き込んだ。
 無防備状態のグレイシアがこの攻撃を耐えることはなかった。

「これで後はミロカロスだけ―――」

 ドゴォッ!!

“きゃあっ!?”

 メロエッタが吹き飛ばされて悲鳴をあげる。

「だ、大丈夫!?」
「確かにステップフォルムになって格闘タイプになりパワーもスピードも上がりました。けれど、低下した耐久力で『エンゼルフェザー』中の私のミロカロスに勝てると思っているのですか?」

 ミロカロスを見ると、ほとんどダメージがなかった。

「(ダメージがない……?いえ、これは……) 『自己再生』で回復したのね」
「正解です。ご褒美にもう一発差し上げます」
「避けて!」

 ミロカロスの口から放たれるのはジャイロ回転のハイドロポンプ。
 集束された威力の高い水攻撃はコントロールも威力も桁違いである。
 メロエッタの肩を掠める。

“ぐっ……”
「ピクシー!!『ムーンインパクト』!!」

 ビリーのピクシーの最大の技『ムーンインパクト』。
 月光の光を纏っての光線攻撃である。
 破壊光線に似ているが、威力はまったく違う。
 破壊光線の属性はノーマルであるが、この攻撃の属性は17属性のどれにも分類されない光という分類である。

「その程度じゃ、ミロカロスを倒すことは―――」

 バキッ!!

 ピクシーは尻尾でビンタを受けて吹っ飛ばされた。

「―――不可能です」
「……くっ……」
「あの女のメロエッタは虫の息、サクノもネグリジュも倒れ、カナタは戦えません。そして、ビリーは敵じゃありません。……終わりです」
「イヤ、まだだ……俺が、力を解放すれば……お前に勝てる!」

 ビリーが意を決して、立ち上がる。

「言ったはずです。一度暴走をしたお前には天使覚醒は出来ません。そして、扱えたとしても私には勝てはしないと」
「やって見なくちゃわからないだろ」

 両手を合わせるビリー。
 そして、何やらぶつぶつと唱え始めた。

「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 はっきりと見えるその不思議なオーラ。
 叫び声が止むと、ビリーはがっくりと膝を落とした。

「暴走どころか、力の器となる体が耐え切れずに自滅ですか?」
「いや、違う」

 バサッ

 ビリーの両肩から生えてきたのは、白い翼だった。

「『エンゼルハート』。これが俺の力だ!ピクシー!!」

 同時にビリーのピクシーの翼が成長した。

「行くぞ!『トライアタック』!!」

 ドゴッ!!

 ミロカロスに一撃が入った。

「威力は確かに上がったけど、その程度じゃダウンするのに30発は必要ですよ」
「『トライアタック』50連発!!」
「―――!?」

 ピクシーは先ほどの単発のトライアタックを間髪なく撃ち続けた。
 その数はきっかりと50である。

 ドガッ!!

「ぐっ!?」

 攻撃の結果。
 2匹は同じダメージ量を負っていた。
 攻撃の当たった数は、数十発ほどだった。
 その他の攻撃は、ミロカロスが捌いたり、避けたりしたのである。
 さらに、ミロカロスは隙あればミラーコートでダメージを受けながら反撃をしてきていた。
 それは的確にピクシーに当たっていたのだ。

「ミロカロス、『スクリューポンプ』!!」
「ピクシー、『ムーンインパクト』!!」

 水と光。
 互いの最強の技が激突する。

「くっ!!」
「なかなかやりますねっ!でも、これで終わりですよッ!!楽園を、地上を、すべてを私が見守り、支配しますっ!!」

 光は徐々に押されていった。
 ビリーが劣勢だった。
 しかし、このままシロヒメのミロカロスの攻撃がピクシーに決まることはなかった。

 ドゴッ!!

「なっ……?」

 ミロカロスがぐらりと体勢を崩した。
 それは一匹のポケモンの蹴りだった。

「(メロエッタの『ローキック』!?)」
「まだ、メロエッタはやられてなかったのよ。油断したわね」
「今だ、ピクシー!!」

 ここだといわんばかりに、最大の力を込めて、月光の光を撃った。
 ミロカロスを飲み込んで、多大なダメージを与えた。

「とどめだ!ピクシー!!」

 『エンゼルハート』状態のピクシーは、妖精の翼を生やしていた。
 自由に飛び回り、あるはずのない体の一部分を作り始めた。

「止めだっ!!『フェアリーテール』!!」

 妖精の尻尾。
 強大な一撃だった。
 当てた際に生じた光が天井を突き抜けて、空へと伸びていった。
 その一撃でミロカロスはダウンし、衝撃の余波を受けたシロヒメも吹っ飛んだ。

「うぐっ!!」

 そして、5歳児の身体のシロヒメは意識を失っていった。



 ……もう少しだったのに……
 ……この世界の全てを私が守りたかった……
 ……見守りたかった……
 ……でも、ビリーに阻止された……
 ……これって幸せなことなのかな……
 …………。
 ……わからない。
 ……一つだけわかるのは、私がビリーに負けたことだけ。
 ……強くなったのね、ビリー……
 ……強くなったのはきっと……地上で出会った仲間のおかげということね……
 ……私も、本当の仲間がいれば、強くなれたのかな……



 ―――セッカシティ。
 あれから、約1週間の時が流れた。

「いい体験をしたわね」
「料理はおいしくて、見るものすべても新鮮で、何より料理はおいしかったものね!」
「お姉様……料理の事、二回も言ってますよ?」

 マキナ、サクノ、カナタ。
 3人は街の喫茶店でお喋りをしていた。

「それにしても楽園のポケモンたちは強かったなぁ」

 カナタは激闘を思い出す。
 ネグリジュとの戦いを筆頭に、彼女は楽園のポケモンを相手に修行をしたのだ。
 楽園のポケモンの中には地上にいるポケモンとは違う色のポケモンもいれば、属性まで違うδ<デルタ>種というポケモンまで様々な種類のポケモンがいた。
 その中での修行でカナタは今まで以上に強くなっただろう。

「楽園の娯楽は、興味深かったわね」

 マキナは主に美術系のことに関して見てまわった。
 特に彼女は音楽系統については強かった。
 その影響か、彼女のポケモンは、音や音楽に関する技を習得している。

「この子とも仲良くなったしね」
「あ、結局、一緒にいることになったのね?」

 サクノはマキナがモンスターボールを手に取っているのを見て、ふと気がつく。
 その中にいるポケモンは、楽園でマキナが助けたメロエッタだった。

「私はこの子と一緒にもっと音楽を極めるわ」
「じゃあ、マキナって旅の芸者という職業<ジョブ>が似合いそうね!」
「それって、職業ですか?」
「うーん、遊び人って所?」
「それはもっと違いますって!」

 見当違いの発現に、カナタがたまらずツッコミを入れるのだった。

「それにしても、ビリーがまさか天使だったなんてね……」

 コーンスープをスプーンですくって口に運びながら、サクノがしみじみと呟く。

「ビリーさんは今では楽園の英雄。今頃、神として席に座っているんじゃないかしらね」
「…………」

 今、この場にビリーの姿はない。
 楽園でのあの事件の後、シロヒメは拘束され、ネグリジュとサクノは楽園の病院へ搬送された。
 2人は病院に搬送されたものの、軽傷ですぐに回復した。
 その後、サクノ、カナタ、マキナの3人は自由時間があったが、ビリーに至っては、楽園の役人や住人に手を引っ張られて忙しそうだった。
 一通り3人は楽園を満喫した後、ビリーに手紙を送って、セッカシティに戻ってきたのだ。

「…………」
「どうしたの?カナタ、元気ないじゃない」
「……え?そんなことないですよ?」
「ふふっ」
「うん?マキナさん、どうしたの?」

 意味有りげに微笑むマキナを首を傾げてサクノが聞く。

「カナタはビリーのことが好きだものね」
「ちょっ!?」

 バンッと立ち上がるカナタ。
 その顔はやや赤い。

「そんっなわけ……ないだろっ!!」

 あたふたとムキになってマキナに食いかかるが、彼女は澄まして紅茶を嗜んでいる。

「そうだったんだ。やっぱり、ビリーがいないと寂しいわよね」

 本当に寂しそうな表情をするサクノ。

「え?」
「(お姉様も……?)」
「今まで4人で旅をして来たのに……」
「「(普通に寂しいだけ……!?)」」

 アテが外れてこけるマキナとほっとするカナタ。

「(って、私は何をほっとしているんだ!?)」
「あら?カナタちゃん、安心した?」
「なっ!だから、あいつのことはなんとも思ってないから!!」

 クスクスとマキナはカナタをからかい続けるのだった。

「おー、俺を呼んだか!?」
「お呼びじゃねーよっ!! ……って、えぇ!?」

 振り返るとそこには、長髪の男がいた。
 件のビリーだった。

「なななななんでここにいるんだ!?」」

 カナタの動揺は凄まじかった。
 まず、席を立ち上がり、足を机の脚にぶつける。
 衝撃で机の上にあった食べ物や飲み物が揺れてこぼれそうになる。
 痛みと動揺でオニオンスープを手に取ろうとするが払うようにしてしまい、自分の体にオニオンスープをぶっかけることになってしまった。
 そして、また熱さでのた打ち回る羽目になる。

「カナタっ!落ち着いて!」

 カナタの一連の行動を鎮めようとマキナが言葉を挟む。
 というのも、机が揺れたせいで、マキナの飲んでいた紅茶が揺れてこぼれて、近くに置いていた手にかかったのだ。
 量と温度はそれほどではなかったが、ナプキンを取ってマキナは手を拭いている。

「ビリー!楽園はもう大丈夫なの?」

 カナタの動揺の際にすぐに目の前のコーンスープと牛乳を持ち上げて、食べ物の被害を死守したサクノは、カナタを気遣いながらビリーに質問を投げかける。

「楽園で神の座に就いたんじゃなかったの?」
「いやはやサクノはん。俺には神の座につく器なんてないんやで。頭脳も野心もこれっぽっちもないんやで?」
「そうなの?それなら、神の座はどうしたの?このままではまずいんじゃない?」
「神の座なら、俺よりも頭がよく、野心もあり、何よりも楽園のことを1番に考えてくれるネグリジュに任せてきたんや」

 と、ビリーが主にサクノに説明する。

「ふーん、そうなのね。よかったわね、カナタ」
「だから、私は別に嬉しくもないって!!」

 カナタがバタバタとしながら、マキナに反論をする。
 その様子をサクノが微笑ましそうに見ていた。

「なんで、帰ってきたんだよ!?お前、楽園に戻ればよかっただろ!?」

 素直になれないカナタは、つっけんどんにビリーにそんなことを言う。

「まぁ、帰ってきた理由は、いくつかあるんや」



―――「ヒメ……」―――
―――「同情なんて、しないでください」―――

 シロヒメが楽園の奥深くへ幽閉される直前、幼馴染だったビリーは彼女と話をしていた。

―――「私は、私が神になることで、世界を救いたかったのです。地上で水郡に所属していたのも、その一環。そして、私は感じました―――」―――

 何を? とビリーは問いかける。

―――「イッシュ地方のどこかで、ポケモンと融合することによって力を生み出し、世界を征服しようとする者がおります」―――
―――「ポケモンと融合?」―――
―――「そう。その力は天使覚醒した私やビリー、そしてあんたが気にかけているサクノの力をも上回ります。神になったら、真っ先にそいつを殲滅しようと思ったのですが……」―――
―――「そうか……。じゃあ、それを俺たちが倒せばいいんだな?」―――

 シロヒメは目を瞑り、ビリーに背を向ける。
 それを話がもう終わりと判断した見張りたちは、シロヒメを奥深くへ連れて行こうとする。

―――「……ヒメ……」―――
―――「さようなら、ビリー。好きでした」―――



「ビリー?どうしたんだ?」

 数秒の間、ボーっとしていたビリーを見て、カナタは不審そうに問いかける。

「なんでもあらへん!そう、俺が戻ってきたのは、サクノはんに会うためやっ!」

 大きな声でビリーは告白をする。
 その大きな声で、周りのお客もみんなこちらを見る。
 ムッと若干不機嫌そうな顔をするカナタ。
 あらあらとちょっと面白そうな気分になるマキナ。
 そして、サクノはと言うと……

「私も会いたかったよ!」

 笑顔でそう言った。

「ビリーがいない間、寂しかったの」
「サクノはん……」

 そこまで俺のことを思っていてくれたんかー!?とビリーは心の中でガッツポーズを取る。
 サクノと離れた期間は無駄ではなかったと確信をする。

「これで4人仲良く旅ができるわね!」

 ズゴッっとビリーはずっこける。
 カナタは唖然とする。
 マキナはやっぱりねと、予想していたようで苦笑いする。
 そんな中、サクノは机の上のボタンを押し、店員を呼ぶ。

「舞茸盛り合わせしめじオムレツキノコ風味をください!」

 そして、サクノはビリーに微笑みながら言った。

「ビリーも食べるでしょ?何か頼みなよ!」

 メニューを手渡しした。
 そう、サクノはやっぱり、サクノであった。



 ……とある昔の話……



 とある王国で内乱が起きていた。
 大臣がクーデターを起こし、皇帝を殺害したのだ。

「くっ……ふざけやがって……てめぇにこの皇帝の座は座らせない!」
「没落した皇帝の息子などもはや不要なのデスよ、コール」

 白き髪のメガネの男コール。
 彼はとある王国の息子だった。
 そして、今、大臣と戦い、追い詰められていた。

「ドダイトスっ!」

 しかし、コールは一人ではなかった。

「なんだ、貴様っ!?コールの味方か!?」
「別に味方でもなんでもないわよ!ただ、あんたが気に食わないだけよっ!」

 首に地面スレスレにすれるほど長いマフラーを巻いた少女はアンリ。
 アンリとコール。
 この二人が協力することにより、この王国の大臣は排除された。
 そして……

「くっ!?アンリの奴はどこへ行ったんだ!?」
「あの元気いっぱいの少女ですか?それなら、もう出て行かれましたよ」

 王国のクーデター事件から3日後のこと。
 前日に共に王国のクーデターを鎮めてくれた者として、アンリは手厚くもてなされていた。
 だが、この日になって、アンリはコールの前から忽然と姿を消したのだ。

「あいつめ……!!」
「待って!コールさん!」
「放せ、プラナ!」

 自分の手を掴むプラナという侍女の手を振り払おうとする。

「コールさん……?まさか、あのアンリさんのことを……」
「んなわけねーだろ!」

 コールはキレた。

「あいつは俺がポケモントレーナーとして勝手に王国を飛び出し、負け無しでいたところに現れ、俺を負かした。俺はあいつに一度も勝っていない。あいつに負けっぱなしの人生なんて嫌なんだよ!」
「……コールさん……。アンリさんは言ってました。『あんたはこの王国を守るべき』だって。『私にとらわれ過ぎ』だって」
「にゃろう……そんなの……納得できるかっ!!」

 バッとバルコニーに飛び出して、コールは叫ぶ。

「アンリっ!!逃げるんじゃねぇよっ!!バカヤローッ!!」



 コールはこの後、一度だけ旅をすることを許された。
 だが、彼がアンリに会うことはなかった。
 その後、旅から戻ってきたコールは、侍女のプラナと結婚をし、2人の子供に恵まれたのだった。
 ちなみに、コールとプラナの子供の子供が、この王国を崩壊させたのはまた別の話である。



 第四幕 Episode D&J
 天の楽園<パラダイス>③ P50 立冬 終わり




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