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そして戦士は竜を抱く Ⅳ の変更点


この小説はこの私、闇魔竜の独自の世界で物語が作られています。
尚、この小説には&color(violet){[官能的表現]}; 、&color(red){[流血表現]};が含まれます。

以上の事に注意してください。







 今、目の前には小さな建物が見える。入り口は一つだけ。エネルギードームで守られたその建物の下には、世界中から集められた犯罪者が収容されている。どれも重大な犯罪を犯した人物だらけだ。殺人鬼、強姦魔、爆弾魔、いくらでもいる。だが、彼等の狂ったような声は聞こえてこない。
「ジル、心の準備はできているか?」
「……もちろん」
 ジルは俺が与えたプロテクトアーマーを着ている。これは至近距離からライフル弾を止めることができるほどの能力を持つ防弾着だ。その他衝撃吸収性も備えている。俺のようなランクの高いハンターにしか与えられない装備だ。
 俺はその装備を、ジルに渡したのだ。ポケモンには支給されないのだ。
「ユウキ……防弾チョッキぐらいは……」
「今更遅い。取りに行く時間は無い」
 辺りは一面砂漠。もうそろそろ砂嵐が襲ってくる。地平線に砂嵐が見える。ドームに入れば砂嵐は凌げるが、『New-Ⅲ プロトタイプ』が待ち受けている。
「俺についてくると言ったからには……俺をサポートしろ」
「わかってる」
 ドームに手を触れる。すると、俺の手は何の抵抗も無く緑の半透明な壁を通り抜けた。そのまま通り抜けると、砂漠の音が聞こえなくなった。静か過ぎて、自分の心臓の鼓動が聞こえるぐらいだ。後からジルが入ってくる。それに続いてほかのハンター達も中に入ってくる。
「皆、揃ったな?」
 突入するのは俺達を含む五グループ。今日はこれだけが突入する。目標は『New-Ⅲ プロトタイプ』の破壊。もしくは捕獲。どんなワザを使うかも分からないダークマターだ。
 マテバを抜くと、施設に入る。扉を抜けると、すぐに階段が。下へと続くそれはまるで地獄に繋がっているかのようだ。
「各個伝達だ。耳を澄ませておけ。奴はヘルメットの所為で呼吸音が激しい。その音が聞こえたら合図しろ」
「了解」
 俺はこの部隊の隊長だ。これはほかのハンター全員一致で決められた事だ。確かに、彼等よりはいくらか出来るつもりだ。ゆっくりと階段を下りていく。なるべく足音を立てないように、ゆっくりと……。
 その冷たいコンクリートで出来た無機質な階段。人が五人並んで降りれるような幅があるが、明かりが殆ど無い所為でかなり不気味だ。
「ミズゴロウ、反応はあるかしら?」
 ハンターの一人がパートナーのミズゴロウに確認した。ミズゴロウは頭の鰭を動かして辺りを探り始めた。
「この先に居るのは間違いないみたいだけど……でも……人間の気配がしないよ」
 その後に他のハンターのポケモン、ヘルガーが続けた。
「酷い血の臭いがする。マスター、貴方も感じませんか?むせ返りそうだ……」
「……確かに。収容されてる人間達は諦めたほうがいいな。恐らく職員も殺されてる筈だ」
 階段が終わった。そこはホールのようだ。広さは体育館ほどで、天井は低い。太い柱が四本立っている。そして、血だらけの壁と床、そこらじゅうに転がる死体。原型を留めていないのが殆どだ。
「うっ……ぐぇぇぇえっ……」
 近くに居たニドキングが吐いた。吐かないほうがおかしい。もう、どれがどの身体に付いていたのか、何処がどの部位に中るのか、わからないものばかりだ。
 ふと足元を見る。そこには血まみれの脳の破片と目玉が転がっている。これでは人間ものなのかポケモンのものなのかもわからない。
 人間に混じってポケモンの死体もあった。いくらかポケモンの方が損傷が軽かった。首が飛んでいるだけだったり、腹に穴が開いているだけだったり……。中には、外傷の無い死体もある。念殺されたのだろうか……。
 奴も……これでもポケモンなのか…………。
「警戒を怠るな。奴の強さはコレを見て分かったはずだ。今吐いているニドキングのトレーナー、ホールを見張っていろ。そこのグループも彼と一緒に見張れ。後は付いて来い」
「了解」
 俺は二つグループをホールに残して先へ進んだ。また扉は一つだけだ。カードキーでロックされていたようだが、戦車の砲撃を喰らったかのように吹き飛んでいた。
 誰かが生唾を飲む音がした。俺は炸裂弾を装填しなおすと、前に向けながら侵入していった。そこは短い廊下だった。左右はガラス張りで、その向こうにはオフィスが見える。だが、そこも血にまみれていた。もう説明するまでもないだろう。
 この廊下の突き当たりに、また扉があった。これは壊されていない。
「おい、ミズゴロウ。この向こうに反応は?」
 俺はミズゴロウに確認した。すると彼はまた鰭で周りを探った。
「まだ奥みたい。けど、室内にしてはありえない速さで移動してる。だぶん壁を壊していて、そこらじゅう穴だらけなんじゃ……」
「ありがとう、それで十分だ」
 ドアにはこう書かれている。
『これより先に行く場合、オフィスの武器管理室で武器を全て預けて入る事。尚、特殊警棒の携帯は許可する。 所長』
「ホールに待機させてある部隊を呼べ。武器管理室を拠点にさせろ。そこで弾薬の補給と治療を行う」
「ユウキ隊長、提案がある」
「なんだ?」
 俺に話しかけてきたのは大柄な男だった。武装は重火器。M60機関銃だ。弾薬はベルト式で、背中に背負ったバッグから伸びている。
「ミズゴロウの情報が正しければ、俺達全員固まって移動した方がいい。散らばって各個撃破されるのを避けようと思うんだが」
「よし、そうしよう」
 全員の準備ができると、ドアを開いた。そこは大きなドーム状の空間が広がっていた。そこに小さなコンクリートの牢獄が規則正しくならんでいた。
「……ひぅ……」
「どうした?」
 レーダー役のミズゴロウが、急に怯えた様子を見せた。元から青い顔が更に青くなっている。
「い……いる……もうこの部屋にいるよ!どうりで早く移動できる訳だよ……ここなら飛べるもん……!」
「……全員、戦闘態勢……」
 気配がして上を見ると、ドーム状の天井の中央に、『奴』はいた。天井に手を食い込ませ、張り付いている。そのアーマーにはベッタリと血糊がへばりついている。
「うわぁ……あ……アイツ……が?」
 『New-Ⅲ プロトタイプ』は、そのまま手を離して落下してきた。そして、真下にあった牢獄の屋根に着地すると、俺達に話しかけて来た。
「フシューッ……お前……等……何しに来た……フシューッ……殺すぞ……」
「殺される訳にはいかない。お前を倒すか、捕まえなくてはならないんでな」
「……嫌だ……実験……嫌だ……」
「何?」
「……痛い……実験……痛い……」
「……」
「……酷い……我……何もしてない……ッ!何故ッ!?我を痛めつける理由は何だッ!?何故だッ!?貴様等……我ヲどうするツモリだ!?」
 急に奴の様子が変わった。アーマーの一部が光りだしたかと思うと、段々機械的な感じになっていく。
「我ハ何ノ為ニ生マレタ?何故生マレタ?何故戦ウ!?」
 奴はまたあの黒い弾を作り出した。だが、然程大きくせずにこちらに放ってきた。
「全員回避!!」
 皆バラバラの方向に逃げる。目の前を黒い弾が掠める。さっきまで俺達がいた場所は大きく地面がえぐられ、強力な酸で溶かされたように煙を上げている。
「チィッ……」
 ジルとはぐれた。代わりにミズゴロウが俺のコートにしがみ付いていた。『New-Ⅲ プロトタイプ』は姿を消している。マズイな……。此方は所狭しと並んでいる牢獄の所為で思うように動けないのに対し、奴は上を自由に移動する。もし行き止まりなんかに逃げ込んだら最後だ。
「ジルーッ!何処だーッ!?」
「ここよーッ!」
 どこか遠くからジルの声がする。よかった無事みたいだ。他は?無事か?
「点呼!」
「ハンター2!ヘルガーとはぐれた!」
「ハンター3!ミズゴロウとはぐれたけど、代わりに隊長のガブリアスがいるよ!」
 ハンター2(あのターミ○ーターもどきか……)とヘルガーが単独になってしまった。このままではやられてしまう。奴はまだどこかに潜んでいるようだ。
「ミズゴロウは俺と一緒だ!ハンター2は誰かと合流しろ!一人では危険だ!ヘルガーを発見したら保護しろ!」
「了解!」
 そのときだった。俺のすぐ横を黒いビームが壁を突き破って通り抜けた。爆発は無い。壁はヒビも入ることなく綺麗に穴が開いている。それだけ高濃度、高出力のビームだということだ。ビームはそのエネルギーが減少するまで穴をあけていくだろう。
「声で場所を特定してるのか!?」
 通信機がハンター2がヘルガーを発見したということを告げた。しかし、既に奴の餌食となっていたらしい。その口には奴のアーマーの一部が咥えられていたとのこと。
『隊長!今奴を追い詰めた!このまま殺る!』
「まて!今は引け!」
 だが遅かった。丁度俺と正反対のところで銃声が響く。すると、奴は高く飛び上がり天井に張りつき、ハンター2がいると思われる場所にあのビームを手から放った。奴の左胸のアーマーが無い。すると、一度銃声が止んだ。しばらくすると叫び声と共に再び銃声がする。
 奴に幾らか弾が当たる。火花が散っている。と、アーマーが無い無防備な場所に弾が当たったのだろう。奴は力なく落ちていった。
「ハンター2!無事か!?」
『ちっと痛手を喰らった!一度撤退する!』
「わかった!ハンター3!一度入り口付近で合流しよう!ポケモンを元に入れ替えるぞ!」
『了解!』
 俺は入り口のあたりに向かって走った。ミズゴロウはまだしっかりとコートにしがみ付いている。と、黒い線が目の前を横切った。
「うおっ!?」
 そのビームは更にもう一本増えるとそのままこちらに移動してきた。このままでは真っ二つにされる!背中のミズゴロウを抱きかかえると、ビームに向かって走り、脚の力だけで前転する。
 ビームの間を飛ぶ。コートが切断される。前髪も少し切られた。地面をそのまま転がり、走り続ける。ビームは他を標的にし始めた。奴は見えないところからビームを滅茶苦茶に振り回しているらしい。迷惑だな。
「ひぃぃ……」
「喋るな!舌を噛むぞ!」
 既に辺りは廃墟のようだ。まるで小さなジオラマの中を逃げ回っているようだ。コンクリートはゼリーのように切断され、ビームが通った跡は深くえぐられ、黒いビームが襲い掛かる。
 悪夢だ……。
「ユウキ!」
 入り口には既にハンター3とジルが待機していた。ミズゴロウを離してやると、一目散に彼の胸に飛び込んだ。
「ハンター2は!?」
「まだ逃げ回ってるみたい!銃声が時々するから、まだ生きてるみたい!」
 俺は通信機を掴むと、ハンター2に向けて発信した。
「こちらハンター1!入り口に到着!お前は今何処だ!?」
 すると、銃声が辺りに鳴り響いた。通信機からも銃の作動音と薬莢が地面に落ちる音が聞こえる。
『やべぇ!奴に発見された!弾ももうそろそろ切れる!隊長!俺がひきつけておくから、その間に代わりの武器を持ってきてくれ!!』
「了解……死ぬなよ」
 俺は入り口にハンター3を待機させて、俺はあのオフィスに駆け込んだ。そこには待機させておいたハンター4とハンター5がいた。ニドキングも落ち着いたようで、椅子に座っている。
「隊長!一体何が……!?」
「奴が居た!今ハンター2が応戦してる!ヘルガーがもうやられた!武器を持って援護に向かう!武器管理室は?」
 ニドキングは立ち上がると、すぐ横の武器管理室のドアに突進をした。その強固な合金の扉は僅かに歪むだけでなかなか開かない。
「えぇぃ!どけっ!!」
 マテバをドアの蝶番に向けて撃つ。蝶番は炸裂弾によって破壊される。あとははがすだけだ。
「ジル!ニドキングと強力して扉をこじ開けろ!」
「わかった!」
 ジルはまだ僅かに繋がっている蝶番にメタルクローを、ニドキングは扉と壁の間に指を突っ込んでそのまま怪力で扉を剥がそうとする。
 そのとき、ついにあのビームがオフィスにまで到達してきた。まさか……ハンター2とハンター3が……!?
「急げ!」
 扉が、やっと一人ギリギリ通れるぐらいの隙間だけ開いた。ハンター4とハンター5はポケモンを連れて中に入る。俺もジルを連れて中に入る。
「……すごい……ここ、まるで武器庫じゃないか……」
「管理、なんてレベルじゃない……!」
 中には数え切れない武器が保管されていた。ポケモン用の武器も存在する。と、さっき入ってきた扉の向こうで爆発音がした。
「くっ……もうここまで来たか!!使える武器を集めて応戦しろ!!」
 ジルは俺から離れると、扉の向こうに行こうとした。
「ジル!?何をする気だ!?」
「わたしが時間稼ぎする」
「馬鹿!ここにいろ!ここならあの扉が壁になってくれる!運のいいことにこの部屋は全部超合金で覆われてるようだから、此処の方がしばらく安全なんだ!」
「でも、そのうちにここにも侵入してくるわ」
「ま、待て!」
 ジルは俺の制止も聞かずに扉の向こうに姿を消した。
「ボクも行くっ!」
 ジルに続いて、あのミズゴロウが扉の向こうに消えた。それを見たほかのポケモンたちも次々と……。
「……隊長、やつらもそれなりの覚悟があるんでしょう……任せましょう。そして早く装備を固めてすぐに合流を!」
「……ジル、死ぬなよ?」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 なかなか厄介な敵だった。今までに戦ってきたポケモンとは訳が違う。いくらワザをぶつけても怯まない。それどころか、更に攻撃が激しくなるばかり。何度奴の拳を受けたか、もう分からない。
「おのれぇ!」
 ニドキングが奴と力比べを挑んだ。お互いに両手を組み合わせると、相撲のように押し合いが始まった。奴の顔は見えないけど、その体勢は明らかに余裕だった。
「このっ……」
 ニドキングの額に汗が垂れる。奴はそのままニドキングを張り倒すと、右腕に黒い三本の爪を出現させた。色は違うけどあれは恐らくシャドークロー。ただでさえ禍々しいあの爪は、奴の場合殺人だけを考えたような凶悪な形をしている。
 そのままその爪はニドキングの胸に突き刺さった。あれは心臓の位置。もう助からない。
「ぬぅおおおおおおおっ!」
 驚く事に、ニドキングは驚異的な精神力で奴の腕を掴むと、一つ一つアーマーを引き剥がしていった。
「グガガガッ……!?」
「今だぁっ!コイツの柔らかい腹に一撃お見舞いしてやれぇっ!!」
 私は怖かった。目の前で、いつものバトルとは違う『殺し合い』が行われてた。血が当たり前のように流れ、人が当たり前のように死んでいく。
「う……うわぁぁぁっ!!」
 ミズゴロウがハイドロカノンを打ち出した。その高水圧のレーザーは奴の腹に命中し、吹き飛ばした。そのまま机や死体を巻き込んで隣のオフィスに姿を消す。
「ユウキは……ユウキはまだなの!?」
 唯一のパワータイプだったニドキングは死んでしまった。胸に大きな穴を三つ開けた状態で。トレーナーに別れの言葉を言う事もできずに。既に他のポケモンたちは殺されてしまった。残ったのは私とミズゴロウ。早く……早く来て……ユウキ!
「フシューッ!フシューッ!」
 奴が立ち上がった。先ほどはがされたアーマーの下は恐ろしいものだった。皮膚が無く、筋肉がさらけ出され、そこに何本ものちぎれたコードが出ている。アーマーと一体化していたみたいだった。
「ミズゴロウ、アイツの動き、予想できる?」
「で……できるけど……そんな事しても避けるのが精一杯だよ?」
「上等!私の背中にくっ付いてて。行くわよ……」
 ミズゴロウを背中に乗せると、私は奴に向かって走り出した。
「ビーム来るよ!」
「!」
 ミズゴロウが教えてくれたおかげで、回避行動が間に合った。でも、着ていたプロテクトアーマーの腰の部分が吹き飛ばされた。こんなの着てても奴には意味がないみたい。
「このっ……!」
 前の私のトレーナーが教えてくれた戦法が、こんなところで生きるなんて……。
 飛び込むように避ける時はそのまま倒れるより転がったほうが体制の立て直しが早い。それを実践しなかったら、私は今奴が放とうとしている黒い弾で死ぬかもしれない。
 ミズゴロウを下敷きにしないように前転して体勢を立て直し、また回避する。それを繰り返していると、奴が辛そうに動きを止めた。どうやら短時間にエネルギーを使いすぎたみたい。
「今ね……!」
 奴の懐に飛び込む。すると、奴は拳を大きく振りかぶった。
「! メガトンパンチだ!」
 その瞬間、私は反射的にその拳を腕の鎌ではたいていた。
『いいか。相手がパンチ系のワザを出してきたら、拳にスピードが乗る前にその方向を変えてやれ。それで大概のパンチは回避できるはずだ』
 ユウキが教えてくれた体術だった。奴のパンチはまるで違う方向に流れていく。すると、奴の前面が無防備になった。
「ここっ!!」
 すかさず竜の息吹をアーマーが剥がれた胸に吹き付ける。『New-Ⅲ プロトタイプ』は悲鳴のような声をあげてひっくり返った。すぐに立ち上がると、また元の牢獄部屋に逃げ込んだ。
「ジル!!」
 その直後、雄貴が武器を持って出てきた。他の皆もその後からゾロゾロとでてくる。
「奴なら逃げていったわ。アーマーの下の無防備な胸に竜の息吹を吹き付けたら……でも、あの逃げ方……まだ何か奥の手を残してあるわ」
「そうか……」
 ユウキはマテバじゃなくて変わった武器を持ってた。ライフルに見えるけど、銃口がやけに大きい。使われてる素材もプラスチックみたいな感じ。
「これは……?」
「マインスロアーだ。グレネードの時限炸裂版みたいなものだ。コレならいけるはず」
 ほかにも、見慣れない武器を色々と持ってきてる。スプレー缶みたいなのが付いてるのは火炎放射器で……そしてレールが二本出てる機械は……
「プラズマランチャーだ。これなら奴にくっ付いてる機械をショートさせられるはずだ」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 ダメージを負っていたジルとミズゴロウにラッキーが癒しの鈴で治療を施す。ポケモンは殆どやられてしまった。残っているのはこの三匹だけだ。
「隊長」
「なんだ」
「俺、もう嫌っス……」
「……そうか。無理強いはしない。無理だと思ったら撤退していい。俺はこのまま行く」
 ラッキーを連れていたハンターはもう戦う気力が無くなったようだ。仲間のポケモンが死んでいるのを見て、自分のポケモンも殺されるのではないかと怖くなったのだろう。ラッキーも無理に笑顔をつくっているが、その奥の恐怖を隠しきれていない。
「命が惜しい奴はもうここまででいい。今のうちに撤退しろ。残った人員で総攻撃をかける」
 すると、ランボーもどきのハンターと俺、ジル以外は施設を出て行った。俺はそのハンターの肩に手を置いて感謝の言葉をかけた。
「こんな状態になってもよく残ってくれたな。ありがとう」
「いや、俺はヘルガーの仇を討ちたいだけだ」
 彼は奇跡的に『New-Ⅲ プロトタイプ』の目を逃れることができ、こうして俺と合流している。だが負った怪我は酷かった。左腕の肘から先が無い。綺麗に焼き切られている為に痛みは無く、止血にもなっているようだ。今は包帯でその傷口を保護している。
「ユウキ、ハンター2、奴は牢獄部屋の更に奥の部屋に逃げ込んだみたいよ。通路に血が垂れてたわ。結構弱ってるみたい」
「よし、いくぞ。ハンター2、トドメはお前が刺せ」
「ありがとよ。たっぷり仕返ししてやる……!」
 新しい武器を構えて部屋に入る。あの呼吸音は無い。先ほどの戦闘で荒れ果てた牢獄。通路も所々瓦礫で遮断されている。
 ジルにその『New-Ⅲ プロトタイプ』が逃げ込んだという扉の前まで飛んで運んでもらう。しばらく無防備になるが、奴は襲ってこなかった。
「……警戒しろ……」
 床に垂れている血はその扉へと伸びている。扉は破壊されていない。正式にロックを開けて入ったようだ。今も解除されたままだ。
 扉のパネルを叩く。するとドアはエアーの音がして横にスライドする。血はずっとその通路を伸びている。先は真っ暗だ。ホラー映画にでも出てきそうだ。
 胸のポケットライトの電源を入れ、マインスロアーとマテバを一緒に構えて進んでいく。これはどんな状態で奴が現れてもいいようにしているのだ。ハンター2もプラズマランチャーを片手で構えている。
「そういえば……お前の名前を聞いて無いな」
「マッドだ。お前は?」
「ユウキ。こっちのパートナーはジル」
「ユウキ、ジルとお前はどうやって出会った?」
「……」
 通路にドアは無い。斜め下へと、地獄に続くかのようだ。俺はマッドの問いに、簡単に答えた。
「とある依頼で、排除対象になってたジルを……いや、そのときはまだ名前が付いてなかったか……傷だらけだったジルを、俺は殺さずに書類上で処理して助けた。それが出会いだ」
「へぇ、そりゃなんで?」
 ジルもそれは気になるようで、ジッと俺をみつめてくる。
「……それまで俺は殺す気でいたが……ジルの目を見て気が変わった……それだけだ」
「ずいぶんと優しいことで」
「……俺はこれでも心を持つ人間だからな……」
 随分奥まで来た。持ってきていたPDAも衛星との電波が途切れている。どれだけ潜ってきたんだ?
「マッド」
 マッドの名を呼んだ時、いつのまにか声が反響しなくなっている事に気が付いた。普通、狭くて長い通路は声が反響するはず。誰でもトンネルなどで経験している。それが今無くなった。つまり広い空間に出たという事だ。
「……!?」
 ライトの光が弱くてその空間の広さが把握できない。マッドも困惑している。
「ユウキ、プラズマを撃ってその閃光で確認しよう」
「待て、奴が休んでたりしたら起こしてしまう。もしそうだったら、そっと近寄って一撃で……」
 その瞬間、突然の明かりで目が眩んだ。照明か?暗さに目が慣れてしまっていた俺達は思わずよろけてしまった。
「いやいやいや、まさか『New-Ⅲ プロトタイプ』をここまで追い詰めるなんてなぁ」
 次第に目が明るさに慣れてきた。そこは野球ドームほどもある大きな空間だった。その中央に、何かのカプセルがある。その横には息絶えた『New-Ⅲ プロトタイプ』が血の池の中に倒れていた。
「……死んでる……?」
 そして、何者かの気配がして上を見る。そこから、一人乗りの小さなリフトで降りてくるケンヤが。
「ケンヤ……やはり貴様が!!」
「そう。ロケット団を統率していた我が父、サカキの意思を引き継いで、『New-Ⅲ』の開発をしていたのさ」
「そんな事、今頃何の為になる!ロケット団はとっくの昔につぶれている!」
「ロケット団?フンッ。そんなもの、ただの隠れ蓑に過ぎない。『New-Ⅲ』が完成すればそれでいい。コイツで、その力で、この地球の政治をすべて乗っ取る。そして俺の理想の世界を造る!」
「馬鹿言ってんじゃねぇ!!そんな事、誰かが許すとでも思ってるのか!?」
「寝言は寝て言ってくれないかな?ハッハッハッハッ!完成したばかりの『New-Ⅲ』……。丁度いい。『New-Ⅲ』の最初の犠牲になってもらおう!」
「チィッ!!」
 俺はその『New-Ⅲ』が入っていると思われるカプセルに、マインスロアーを三発撃ち込んだ。直径五センチの弾丸はカプセルに張りつき、緑のランプを点滅させた。
「へっ!起動できるならやってみな!お前が起動スイッチを押した直後、マインスロアー本体にある起爆スイッチを押すぞ!そうなれば、中の『New-Ⅲ』は抵抗も出来ないまま粉々になるぜ!」
 マッドもそれに呼応して、プラズマランチャーをカプセルに向けた。
「コイツのプラズマの速さは知ってんだろ!?光とほぼ同じ。避けることは出来ないゼ!」
 だが、ケンヤはその笑みを消さなかった。
「おやおや、本当にいいのかい?その『New-Ⅲ』が何者なのか知らずに……」
「何?」
「隠蔽スモーク、解除しろ!」
 ケンヤがそう叫ぶと、カプセルの壁が透明になっていく……そこには……
「なんだ……ただのルカリオじゃねーか……」
 マッドはケラケラと笑っている。だが、俺はその光景を信じられなかった。
「り……リズ……」
「あ?なんだって?」
「あれは……死んだ筈の俺の昔のパートナーだっ!?」
「ななな、なんだって!?」
 ケンヤは勝ち誇った顔で起動スイッチを押した。
「さぁて……彼女相手に攻撃できるのかなぁ……?俺は安全なところから観戦といきましょうか……」
 ケンヤを乗せたリフトが上昇していき、天井ギリギリでとまった。かと思うと、緑色のエネルギーシールドで覆われた。
「くそうっ!」
 マッドがプラズマランチャーを撃つ。が、そのプラズマは吸収されてしまった。
「無駄だ。このシールドを並大抵の武器じゃ破壊できん。それよりも……いいのかい?彼女が起きるよ?」
 ハッとしてカプセルを見る。ハッチが開き、拘束具が解除される。リズのあの腕や腹は完全に治っている。もとからそんな傷は無かったかのように。
「ユウキ!起爆スイッチを……!」
「だ……だ、ダメだ……俺には押せない!!!」
「貸せぇっ!」
「や……やめろっ!!!!!」
 マッドがマインスロアーを俺から奪い、スイッチを押してしまった。カプセルが爆炎に包まれる。カプセルの破片が、あちこちに飛び散る。
「リズーーーーっ!!!」
 跡形もなく吹き飛んだカプセルを見て、俺の頭の中は真っ白になった。
「ユウキ!しっかりして!あれは貴方の知ってるリズじゃないわ!あれは『New-Ⅲ』よ!」
「嘘だ!あれは確かにリズだっ!あの目の下に……ホクロが……あれはリズにしか無いんだっ!!」
「ユウキ!」
「う……うぁあああああああっ!!!!!!!!」



         そして戦士は竜を抱く Ⅳ   END

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IP:133.242.146.153 TIME:"2013-01-30 (水) 14:00:42" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E3%81%9D%E3%81%97%E3%81%A6%E6%88%A6%E5%A3%AB%E3%81%AF%E7%AB%9C%E3%82%92%E6%8A%B1%E3%81%8F%20%E2%85%A3" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 9.0; Windows NT 6.1; WOW64; Trident/5.0; YTB730)"

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