この小説はこの私、闇魔竜の独自の世界で物語が作られています。 尚、この小説には&color(violet){[官能的表現]}; 、&color(red){[流血表現]};が含まれます。 以上の事に注意してください。 「……ん?」 パソコンで依頼状況を確認していたとき、妙な依頼を見つけた。 「……くぁ……ぁふ」 ジルが欠伸をしながら部屋から出てきた。夜が明けるか明けないかの時間だ。 「……依頼?仕事?」 「お前が来たからな……それなりに稼がなくちゃならん……」 「ふぅ……ん」 依頼主は政府からだ。対象はランクA以上のハンターのみとされている。俺はSSランクだから問題ないが、その内容は明らかに不自然だった。 「えーと?中央警察署から砂漠の地下監獄へ向かう輸送トラックの……『監視』?」 「……匂うな……」 「何が?」 「……また政府の豚どもの汚れ仕事だろう。見ろ、注意事項に『誰にも悟られてはいけない』とある」 「……匂うね」 「あぁ」 「で?これ、受けるの?」 「無論だ。報酬がいい」 「……うそつき。本当はトラックの中身が気になるくせに」 「…………」 ページ下の受諾アイコンをクリックし、ハンターIDとパスワードを入力する。これで受諾メッセージの送信は終わった。 「ジル、お前は家にいろ」 「いや」 「……」 ジルは強い目で俺にそう言った。 「これは何が起こるか分からない。最悪、死ぬぞ」 「いや。ユウキを1人で行かせたくない」 「……まぁいい。俺の邪魔はするなよ」 「わかってる」 パソコンの電源を落とすと、俺はいつものようにロッカーからコートと手袋、マテバ(マグナム)を取り出す。ジルはその銃を見て、怯えたように表情を強張らせた。 「……」 「……」 やはり、俺のあのときの行動が恐ろしかったのだろう……。俺はジルの目の前からそれを隠すように、素早く懐に仕舞った。 「……怖いか……死が……」 「怖くない奴なんていないと思うわ」 「……甘いな……」 「え?」 俺は……昔リズに言った言葉を、再び口にした。 ――――――――――――――――――――――――――― 『リズ、お前は死が怖いか?』 『怖い。けど、私はユウキについていくよ』 リズはグッと拳を作ると、決心をしたように目つきが鋭くなった。 『俺の住む世界は、死そのものだ。当たり前に死体が転がり、血が飛び散る。ポケモンも例外じゃない』 『っ……』 急にリズの表情が強張った。しかしすぐに表情を戻すと、大声で叫んだ。 『だったら尚更付いていくわ!そんなんじゃ、いつユウキが死ぬか、分からないわ!』 『お前も死ぬかもしれないぞ』 『知らないわそんなもの!私だけ生き残ろうとは思わないわ!』 ――――――――――――――――――――――――――― 「いいか?俺が住む世界は……死そのものだ。当たり前に死体が転がり、血が飛び散る。ポケモンも例外じゃない」 「…………」 ジルは怯えた表情で一歩下がった。だが、俺はやめなかった。 「お前と出会う前日も、俺は六つのの命を消した。たった百億分の六だ。命なんて小さい。俺もいつ死ぬか分からない」 「っ…………」 ジルは……そのまま動かなかった。何も言わずに……。フルフルと小刻みに震えている。金色の瞳も、涙で潤んで光っている。 「…………それが正しい答えだ、ジル」 俺はジルの肩を軽く叩いて、玄関のドアを開けた。振り返ると、ジルはそのまま立ち尽くしていた。 「スペアのカードキーと幾らか金を置いていく。好きに使うといい。もし夜までに帰ってこなかったら……」 「……」 そこで一旦言葉を切る。するとジルは俺を見た。今にも泣き出しそうだ。 「ここから出て、逃げろ。俺の遺産を狙って他のハンターが襲ってくる」 「…………」 「ジル」 「何……?」 「………………今度時間が空いたら、一緒に買い物だ。お前の服を買う。いいな?」 そしてジルの言葉を聞く前に、俺はドアを閉めた。俺はこの方がいいと思った。リズのような犠牲を出したくない。これ以上。 もしかしたら、俺は死神なのかもしれない。よく考えてみると、俺に関わった奴は殆どが死んでいる。 よく通っていたハンバーガーショップの看板娘。彼女は、よく高確率で俺の注文を取る。彼女は冷酷な俺に優しく接してくれた。仲が良くなり始め、彼女は俺に敬語や丁寧語を使わなくなった。その頃にあの襲撃に遭った。俺の命を狙ってギャングの集団が店に押し寄せてきた。その戦闘で、ギャングのポケモンが放った火炎放射が彼女を焼いた。それ以来、俺はその店に行っていない。 それからというものの、俺の周りの人が死に始めた。新聞配達の少年。ガス会社、水道会社、電気会社の代金を受け取りに俺の家に来る職員達。毎朝無邪気に挨拶をしてくる小学生達。一時期、俺が殺しているのではないかと騒がれた時期もあった。 「ジル、お前は……死なない……よな?」 そう呟くと、俺はマンションの地下駐車場に向かった。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ ユウキは……行ってしまった。こんな朝早くから……。 「……帰って……くるよね……」 私は……昔、ユウキと同じようなバウンティーハンターのパートナーとして幸せな生活を送ってた。彼はさほどランクも高くなくて、簡単な仕事ばかりやっていた。報酬もよくなかったし、生活もちょっと厳しかった。けど、すごく楽しかった。 ある日、突然彼は慌てたようにギルドに直接出向いて行った。何事かと思って待っていたけど、一時間もしないうちに帰ってきた。彼は『ランクが上がった』と、すごく喜んだ。 私も一緒に喜んだ。彼が嬉しそうにすると、私も嬉しかった。でも、彼と笑ったのはそれが最後だった。 ランクが上がって初めての仕事。いつものように私もついてこうとしたけど、彼は『今回は危ないから待ってろ』といって、私に留守番を言いつけた。私も、彼の足を引っ張っちゃいけないと思って、言われたとおりにした。 私は大人しく家のテレビを見ていた。昼間、面白い番組は無い。チャンネルを意味も無くグルグルと回した。 ふと、ニュース番組を見ようと思ってボタンを押すのをやめた。丁度、ニュースキャスターが臨時ニュースを報告してた。 『り、臨時ニュースです!イーストエリア中心部で、テロが発生しました!バウンティーハンターが護衛している現金輸送車を狙って、テロリストが襲撃した様です!』 バウンティーハンターという言葉を聞いて、私は背筋が凍った。窓を開けると、そこから飛び降りた。三階だったけど、難なく綺麗に着地して現場に向かった。現金輸送車を守ってるのは彼だという嫌な予感がしてならなかった。 現場に着くと、そこには既に現金輸送車は居なかった。近くにいた野次馬ポケモンに話を聞くと、町の外に逃げていったらしい。 私はその方角に向かって走った。二十キロ程離れたところに、現金輸送車が転倒していた。その少し離れたところに数台の車があって、そこから武装した人間とポケモンが現金輸送車に向かって攻撃していた。 現金輸送車に向かって走る。すると、テロリストは私にも攻撃を浴びせてきた。運のいいことに、何一つ当たらなかった。 『ちくしょう!ハンターは役にたたねぇ!応援はまだか!』 運転手とその助手が二人で奮闘していた。もう弾も切れかけてたと思う。そして、ハンターは……彼は……血の池の中で倒れていた。腹に大きな穴が……。内臓はあちこちに飛び散ってる。物凄く威力のある光線みたいなのを喰らっちゃったみたいだった。 『……はは……は……やられちゃったぜ……ゴホッ、ゴホッ!』 彼は真っ白の顔でそう呟いた。もう喋らないで。でも、彼はまた何かを言おうとして咳き込んだ。 『……そういや……お前に名前……つけてなかったな……ゴメン』 そして目を開いたまま動かなくなった。そこで私は理性が飛んだ。テロリスト達に突っ込み、暴れた。もう、自分についている血が自分の血なのかテロリスト達の血なのか、分からなかった。 気が付くと、私以外全員死んでた。左目も切られて見えないし、右足も撃たれたのか脱臼したのか凄く痛くて動かない。 私は痛む体にムチを打って彼を埋葬した。多分、今も残ってると思う。警察隊よりも先にテロリストが来たらマズイ。そう思って、私は道から離れてあても無く彷徨った。 二日費やして違う町にたどり着いた。私はなんとなく怖くて、町に入れなかった。隔壁を叩けば、音を出せば……誰か助けてくれると思って、その壁に爪を立てた。 そう、そしてユウキに出会った。 「…………………………大丈夫……だよね」 私はユウキが玄関に置いて行った物を取りに行った。玄関マットの上に、ユウキの黒いジャケットとウエストポーチ、お金、小さな置手紙があった。 『出かけるならジャケットを着ていけ。飯は冷蔵庫の中だ。しっかり温めて食え』 「……言えばいいのに……」 やっぱりユウキは優しい。ジャケットを着る。急に、胸が切なくなった。こんな優しいユウキが……死ぬはずないよね。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 「……ふん、何が入ってるかは分からんが……ヤバイ物には間違いなさそうだな……」 護衛するトラックは極普通の民間の運送用トラックだった。しかし、なぜ『民間の』運送トラックなのかを考えれば、どれだけヤバイものが入っているかなんてすぐにわかる。 トラックが警察署の地下駐車場から出る。傍から見れば、警察署に配達し終わって出てくる民間トラックにしかみえないだろう。俺はバイクで離れすぎず近すぎない位置でトラックを追った。 町を出る。トラックは同じ速度で砂漠へ向かう。その砂漠にはオアシスなど一切存在しない、完全な死の地である。装備無しでは一日とて生きられない。ポケモンも過酷な砂漠に適応した種族しかいない。 町が見えなくなってくる。俺は定期的にトラックの運転手と交信することになっている。先ほど、通信を終えたところだ。他に車は居ない。そのはずだ、砂漠に行こうとするのは学者か土地開発グループ、それかよほどの馬鹿ぐらいだ。 突然、胸の通信機がコール音を発した。トラックからの通信だ。 「こちらハンター。どうした?」 『どうも荷台の方が変でよ。計器類には何も異常は見当たらないんだが……ちょくちょくトラックの重心が変わるんだ。外から調べてみてくれないか?』 「了解」 トラックが道の中央を走り始めた。バイクの俺が左右に並走して調べやすくするためだ。俺はトラックを時計回りに調べていく事にした。まず左側面。特に異常は無い。 「左側面後方、異常無し。前方確認に移る」 『あいよ』 「……左前方異常無し……っ!?」 『あー?どうした?』 「い、今すぐ車を停止させろ!異常発生した!荷台から……手が……!」 『て……手ぇ!?』 トラックが慌てて急ブレーキをかける。トラックが甲高い音を立てて止まる。荷台の装甲を突き破って出た何かの手は運転席を攻撃し始めた。あれは……データで見たことがある……!『New-Ⅱ』に似ている!? 『うわぁ!た、助けてくれぇ!』 ドアが破壊される。運転手は出ようとするが、ドアが歪んでしまって出れない! 「緊急事態発生!緊急事態発生!トラックの積荷と思われる何かが中で暴れている!!運転手が脱出不能!応援を頼む!」 そう通信機に叫んだ。その通信機のチャンネルは警察署に繋がっている。通信機から、緊迫した声が帰ってくる。 『了解!しかし、積荷が暴れているだと!?』 「ポケモンじゃないのか?」 『積荷に関してはなにも警察は知らない!依頼人からトラックごと渡されただけだ!』 「何っ!?」 荷台から出ていた手は引っ込み、また別の方向から出ようと暴れているのかトラックが大きく揺れている! 「攻撃の許可を!運転手が危険だ!」 『許可する!人命救助を最優先しろ!』 「了解!!」 マテバを引き抜くと、中の弾丸を全て炸裂弾に入れ替えた。着弾すると爆発する強力な弾だ。SSランクの俺でも所持できる弾数が規制されている。 「下がって!」 運転手に通信機でそう伝えると、ドアに向かって炸裂弾を撃った。するとドアは吹き飛び、運転手の出口ができた。 「早く!脱出しろ!」 荷台がもう原型を留めていない。もういつ壊れてもおかしくない。中にいる何かが出てきて暴れ出したら……。 運転手がドアから身を乗り出した時、荷台の装甲が爆音を立てて全部吹き飛んだ。その分厚い何枚もの装甲板は俺に襲い掛かってきた。慌てずに一つ一つ撃ち落としていく。 「残り一発……予備に十三発……か……」 装甲板は全て地面に落ちた。そして、荷台のところには…… 「『New-Ⅱ』?いや……何か違う……!」 大げさな程大きな拘束具がひしゃげている。その中に、『New-Ⅱ』(ミュウツー)に似た何かが立っていた。体中にパワードスーツのようなものをつけている。 「な……なんなんだよぉありゃぁ!!」 辛うじて無傷で脱出できた運転手が俺に駆け寄ってきた。彼は手持ちのポケモンを三匹ボールから出した。 「下手に手を出すな!何が来るかわからないぞ!」 「ひぃいぃぃぃ……」 ポケモンたちも怯えてしまっている。ポチエナは尻尾を巻き、キノガッサは後ずさり、タブンネは失禁してしまっている。 「フシューッ!フシューッ!」 顔全体を覆うヘルメットの所為か、息苦しそうに息をしている。『New-Ⅱ』と違う部分はまず色。『New-Ⅱ』は紫がベースなのに対し、奴は黒がベースになっている。体も何かを取り込んだかのようにあちこちから赤や青のコードが出ている。 「……サイ……ボーグ?」 「グアァァァァッ!!!!」 ソイツは大きく咆哮すると、真っ黒の弾を両手に造り始めた。それは次第に大きくなっていき、一メートルほどの大きさになる。 「マズイ!避けろ!」 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 私はユウキから貰ったお金で買い物を楽しんでいた。 「満足満足……♪」 両手に紙袋を抱えて町を歩いてく。町の中心にある大きな交差点に面するビルには、これまた大きなモニターが備え付けられてる。商品のCMや、新作映画の宣伝が流れる。ふと気になって見ていると、急に画面が切り替わった。 「っ……!?」 嫌な予感がした。……神様……!ユウキを……私から奪わないで! 『ランダシティーの市民全員に告ぐ。直ちに近くのシェルターに避難しろ。危険度Cだ。避難を最優先し、今行っている作業を全て中止しろ。これは訓練ではない!繰り返す―――』 画面に地球連合政府のロゴが表示されたかと思うと、無機質な声が大音量で発せられた。 「何?何があったの?」 「訳わからねぇけど、やべぇよコレ!」 「シェルターは!?シェルターは何処!?」 町の平和な喧騒は人々の悲鳴と動揺の声に変わった。シェルターを求めて、人の濁流が発生する。 「ユウキ……!?ユウキなの!?」 これは絶対ユウキが絡んでる!危険に晒されてる!助けたい!もう失いたくない!死なせたくない!繰り返したくない!! その時、私の中で新しい力が生まれるのを感じた。その瞬間、私は荷物を捨てて空を飛んでいた。 「え……あれ?私……まさか……飛べるように……………………………………・・よし!」 私は更に上昇してビルの合間から出た。すると、地平線のあたりに小さな爆発が見えた。それにしては爆風の中に炎が見えない。ポケモンのワザ!?この距離で見えるほどの爆発……ユウキが危ない! 「ユウキーッ!!」 私はありったけのエネルギーを飛ぶ事に集中させた。みるみるうちに速度が上がり、風を切る音で何も聞こえなくなった。 「もっと……もっと早く!」 ついに音速に達して、急に鼻先に抵抗を感じた。これがあの有名な音速の壁ね。こんなものブチ抜いてやる! さらにエネルギーをこめると、ズバッという音がして抵抗が無くなった。これで、私は音速を超えた。三秒で一キロを容易く飛んでいく。 「ユウキ……生きててね……」 現場は酷いものだった。監視目標だったトラックは木っ端微塵。それを中心にクレーターのように地面がえぐれている。 そして、二十メートル離れたところに、五つの影があった。ポケモンが三匹と人間が二人。そしてひしゃげたバイク。あのバイク……見たことがある……! 「ユウキ!」 ポチエナ、キノガッサ、タブンネの三匹は弱弱しく座り込んでいるオーバーオールを着た男に寄り添っている。だが、ユウキの姿が見当たらない…… 「貴方達!大丈夫!?」 男は血がでているこめかみを押さえながら言った。 「あ、あぁ、なんとか助かったよ……」 「あのっ、一緒に黒ずくめの格好をしたハンターが居なかった!?」 「そ……そういえば……爆発があってからアイツの姿を見て無いぞ!?」 「そんな……ユウキー!!」 私は必死にユウキの姿を探した。飛び散っているトラックの残骸をひっくり返し、クレーターのわだちを穿り返し、必死に探した。 「そんな……そんな!まさか……粉々に吹き飛んだんじゃ……!」 色んな破片で腕や脚を切ってしまって痛い。でも、ユウキを見つけなきゃ……。涙で視界が歪む。 「いや……いや……死んじゃいやぁ!ユウキ!返事してよぉ!どこにいるのぉっ!」 どんなに探しても見つからない。あの優しいユウキが……なんで死ななきゃならないの? 「……ガブリアス……もう止めれ……おめぇ、手が……」 「ユウキは死んでないわ!死ぬはずがないわ!!約束したもの!一緒に買い物しようって!私に服買ってくれるって!!!!」 「……」 血が爪から滴り始めた。あぁ、もうあの優しさを貰うことができないなんて……。 「……う……うぁ……うぁああああああああああああ!!!」 「……」 死んじゃった。また。私は……一人で生きるべきなの?ねぇ、神様。なんで私から愛を奪うの?私は……どうしたらいいの……? 「うぁああぁあああああぁぁ…………っ! ユウキの馬鹿ぁぁぁ!なんで死んじゃったのよぉぉっ!!!!」 「……………………」 キノガッサ達がもらい泣きしている。涙でグシャグシャの顔のポチエナが、私に近寄ってきた。 「姉さん……あのあんちゃん、爆発の瞬間に一番近くにいたあたし抱いて助けてくれよったんよ。爆発して気絶して、気がついたら……あんちゃんいなくなってん……」 「うっ……うぅ……」 「一緒に……お墓立てようや……な?……立派なお墓……をな……」 「グスッ……そうね……うん……そうしよう……」 そしてポチエナと抱き合って、また泣いた。私……どれだけ涙を流せばいいんだろう?どうしたら、この涙を止められるんだろう?誰か……この涙を止めてくれる人は……いないの……? 「勝手……に……殺……すな」 「………………ぇ?」 今、声が聞こえた。聞き覚えのある声。冷たいけど優しいあの声……! 「ユウキ?ユウキなの!?何処にいるの!?」 ポチエナを下ろしてあたりを探す。でも、トラックの残骸しかない。他のポケモン達も、ユウキを探してくれてる。彼等のトレーナーも必死に探してくれている。 その時だった。爆心地のトラックの残骸から物音がした。振り返ると、トラックの残骸を押しのけてゆっくりとはいずり出てくるユウキの姿が……! 「……ユウ……キ?」 「死体も見て無いのに……勝手に……殺すな……っ痛……」 頭から血を流していたりしていて余りにも痛々しい姿だけど、ユウキが生きていた!目の前に、確かに生きている! 「ユウキーーーっ!」 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 「……いつまでいる気だ?」 「ユウキが退院するまで」 「…………勝手にしろ!……ったく」 あの『New-Ⅱ』モドキが黒い弾を発射する直前、俺は近くに居たポチエナを抱きかかえた。爆風でポチエナを手放してしまい、吹き飛ばされたが、運良くトラックの残骸の下に入り込んだようで助かった。あの三匹のポケモン達と運転手も俺と同じこの病院に入院している。怪我もあまり酷くないらしく、無事に明日には皆退院できるそうだ。 「しかし……アイツ……何者だったんだ?」 「アイツ……って?」 「トラックの荷台に封印されるように乗っていた『New-Ⅱ』モドキだ」 「あの伝説の?遺伝子操作で作られた化け物?」 「……まぁ、あまり首は突っ込まないほうがよさそうだな」 町も警戒態勢が解かれて元の姿を取り戻している。ニュースでは、核兵器の不発弾が大量に発見されたが、今は完全に解除されて安全だ。と発表されている。つまり、公にしてはいけない……ということだろう。 「ジル、今の話は絶対に口にするな。忘れろとは言わないが……」 「わかった」 なんだかジルが凄く素直なような気がする。それにベタベタと甘えてくる。今も俺に添い寝している。よほど寂しかったんだろう。 「……ったく……餓鬼みたいに泣きやがって…………」 「……それはもう言わないでよ……」 そっとジルの頭を撫でてやる。そうだな……こうしてポケモンを撫でてやるのは何年ぶりだろうか……。 しばらくすると、ジルはそのまま寝てしまった。綺麗な夕日が窓から差し込み、その夕日はジルを優しく照らしている。枕の位置をずらしてやや上半身を起こすと、ジルの頭を撫で続けてやった。 「ユウキさん、今夜の食事メニューは何に―――」 看護婦が部屋に入ってきた。俺は慌てて口の前で指を立てる。看護婦は察したようだ。静かに部屋を出ていった。 「……ありがとう、ジル」 ずっとこのまま時間が止まればいい。そう思った。 そして戦士は竜を抱く Ⅱ END ---- #pcomment IP:133.242.146.153 TIME:"2013-01-30 (水) 14:01:25" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E3%81%9D%E3%81%97%E3%81%A6%E6%88%A6%E5%A3%AB%E3%81%AF%E7%AB%9C%E3%82%92%E6%8A%B1%E3%81%8F%20%E2%85%A1" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 9.0; Windows NT 6.1; WOW64; Trident/5.0; YTB730)"