この小説はこの私、闇魔竜の独自の世界で物語が作られています。 尚、この小説には&color(violet){[官能的表現]}; 、&color(red){[流血表現]};が含まれます。 以上の事に注意してください。 依頼されたのはとあるポケモンの駆除。住居区の隔壁を攻撃して住民を怖がらせているらしい。パソコンの電源を落とす。俺が椅子の背もたれに体重を乗せるとギシギシと音を立てた。胸ポケットからタバコの箱を出して……中身が無い事に気が付いた。 「……買い物ついでに……退治するか……」 椅子から立ち上がると、部屋の隅にある小さな一人用ロッカーから黒のコートと、ホルスターを取り出し身に付けていく。ホルスターには愛用の2006M、マテバと呼ばれる変わった形のマグナムリボルバーが収められている。一般的にマグナムリボルバーと言われると、六つの穴が開いたシリンダーに弾丸が込められていてその一番上の弾丸が発射される銃を連想するだろう。だが、マテバはあえて一番下の弾丸を発射することで発射の際に起こる反動を小さくしようとした異端児だ。見た目も特徴的で、とあるアニメにも少しアレンジが加えられて登場している。 最後に手袋をはめる。手の甲に鉄板、指の付け根に鉄骨が。そして親指、人差し指、中指は指出し状態で細かい作業ができる。 1人暮らしには少々贅沢な2DKの部屋を出る。そこはマンションの最上階。非常階段に近くて、エレベータから離れている。部屋の窓も少ない上に小さい。襲われた時や火災の時に逃げやすいと、とある人気漫画から学んだのだ。 何故逃げる必要があるのかだと?それは愚問だな。俺はバウンティーハンター。そう、賞金稼ぎ。それも裏では名の知れたエリート。政府や警察には頼りにされるが犯罪者どもには酷く嫌われた存在。あぁそうだ、一部の民間人にも嫌われているな。 理由……?そうだな……『平気で人間と「ポケモン」を殺せるから』……だろうな…… ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ バイクでその現場に向かう。丁度、町を出るか出ないかのところだ。その町と外を仕分ける高さ五メートルの壁。破壊光線を至近距離で受けない限り破壊されない。その隔壁のあちこちに爪のようなもので引っかかれた傷があった。 しかし、それにしては妙だった。どの傷も一本だけなのだ。平行に三本の傷が並んでいるならポケモンの可能性は大きいが……なにか……爪が一本だけのポケモンがいたような…… 先ほど買ったばかりのタバコを咥え、ライターで火をつける。タバコの煙はスーとオレンジ色の空に伸びていった。 これが、俺の仕事を開始するときの癖だった。たとえ弾丸が飛び交っていようと、ポケモンのワザが飛んできていても、必ずタバコに火をつけるのだ。そして、そのタバコ一本吸いきるまでに仕事を終わらせる。 「さて……」 バイクから降りると、マテバを抜いた。実弾が四発とペイント弾が二発装填されている。シリンダーを手で直接回転させて弾を変える事で、時間の短縮をしている。 傷跡を辿って隔壁の傍を歩いていくと、何かが倒れているのを発見した。ポケモンのようだ。いや、倒れているのではなく寝ているのかもしれない……。 俺はポケモンを持っていない。数年前、パートナーだったルカリオを殺してしまって以来、ポケモンは連れていない。あのルカリオ……リズはヘマをした俺を庇って死んだ。俺が殺したも同然だった。 俺は現在唯一のパートナーであるマテバを構え、そのポケモンにゆっくりと接近した。その特徴的なツルリとした身体、頭にはラグビーボールのような飾りが二つ。そして、鎌のような腕に大きな一本の爪。ガブリアスだった。蹲った背中が上下に動いている。どうやら寝ているだけのようだ。 「おい」 声をかけるとガブリアスはゆっくりと起き上がり、俺を確認するとヨタヨタと頼りなく歩いてきた。 「とまれ!」 マテバを向けて威嚇するが、ガブリアスは止まらない。 「とまれと言っている!それ以上くると……っ?」 よくみると、ガブリアスは酷い怪我をしていた。左目は額から顎に流れる大きな傷で潰れ、右足は殆ど動いていないようだ。血は随分前に止まっているようで、黒く固まっていた。 「た……助けて……」 「……」 「撃たないで……」 俺はゆっくりとマテバを下ろした。だが警戒は怠らない。 「この隔壁の傷はお前か?」 「そう……時々……誰か来ても怖……がって……ゴホッ……」 「……」 なんだか拍子抜けしたな……。こんな瀕死状態のガブリアス一匹に怖がっていたというのか?だが仕事は仕事だ。最後までやらないといけない。 「悪いが……俺はお前を駆除しなきゃならない」 「え……?」 「お前のその行動が民間人を怖がらせている。その原因を駆除しろとの依頼でね」 「……そん……な……」 マテバを構えなおし、ゆっくりと引き金を引く。キリキリと音がする。ガブリアスの右目から涙が一筋、音も無く頬を伝う。顎で止まると、また音も無く地面に落ちる。 ガァァァァァンンンンン…………………… それは……丁度タバコが燃え尽きた時だった………… ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 目が覚めると、そこは見慣れない場所だった。白い天井。白いベッド、何もかもが白い。 あぁ、私は殺されたんだ。真っ黒の格好をした人間に撃たれて……。 「あら、起きてたの」 部屋に、また白い服を着た人間の女が入ってきた。かぶっている帽子には赤い十字が…… 「ここは天国?」 「なーに言ってるの。ここはポケモンセンターよ。まさか、あの人が貴女を助けるなんてねぇ……」 「あの……人?」 すると、視界の端に黒い影が見えた。それはまるで最初からそこにいたかのように、腕を組んで壁にもたれかかっていた。 「……ぁ……!」 「……」 「……ありがとう」 「フンッ」 私が礼を言うと、彼は照れくさそうに顔をしかめた。見た目と違ってかなり優しいようね。 「ユウキさん、ガブリアスの容態ですが……」 「……」 「脚の方はもう完全に治りましたが、目はあまりに酷くてどうしようも無かったので損傷した眼球は除去しました。もう今日の午後にでも退院できますよ」 「……そうか」 「では」 そう言って、女は出て行った。すると彼、ユウキと二人になってしまい、長い沈黙が流れる。ユウキは窓の外を見ていて微動だにしない。 「……ねぇ……」 「……」 「なんで……助けたの?」 「……助けたいから助けた。生かそうが殺そうが、俺の勝手だろう」 「……」 「退院したら、すぐに自分の住処に帰れ」 ユウキは部屋を出て行こうと壁から背を離した。 「あっ」 その字の如く、彼はあっという間に部屋から姿を消してしまった。まだ……言いたい事あったのに……。数時間もすると、最終検査をするといって部屋から出された。検査はすぐに終わった。ユウキは……もう帰っただろうな……。 また、私は一人になる。町にいても、食べ物は無い。恐らく、私をパートナーとして受け入れてくれる人はいないだろうな。出入り口と面している待合室に出る。僅かな期待を胸に、待合室を見渡す。すると出入り口のすぐ近くの柱に、その影はあった。 「……俺は……」 ユウキは何かを考え込んでいるようで、近寄って来る私に気が付かない。 「あの……ユウキ」 「……ん、あぁ、お前か……」 「……」 私はそれだけ言うと固まってしまった。彼の前に来ると、急に気持ちが落ち着かなくなる。喉まで出てきていた言葉が引っ込む。怖い。でも、何が怖いのかわからない。 「……俺の家に来い。モンスターボールはないから後ろに乗ってもらうことになるが、いいな?」 「ぇ、あ、分かった」 ユウキの言葉をろくに聞かずに返事をしてしまった。家に来い?それって……。私は頭が真っ白になった。また……私は…… 「早く来い」 声をかけられて我に帰ると、彼は既にポケモンセンターの外にいた。バイクのエンジンをかけている。後ろに乗るというのは、つまり、彼の後ろに乗るということみたい。 慌ててユウキに駆け寄る。どうやら、脚は本当に大丈夫みたい。バイクのシートに跨る。ユウキの大きな背中が目の前にある。まただ……胸が苦しい。 「……俺につかまってろ。落ちるぞ」 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ ガブリアスが俺につかまって……いや、抱き付いてきた。ガブリアスは意外と大きい。彼女の吐く息が首に当たって背筋がゾクッとした。 「……抱きつけとは言ってない……」 「あ、ごめん」 ガブリアスは身体を離すと、腰に腕を回すような姿勢で落ち着いた。それを確認すると、アクセルを吹かした。既に町は夜に包まれ、3Dホログラムの看板やネオンがあちこちで光っている。今時ガソリンエンジンを積んだ乗り物に乗っているのはこの町じゃ俺ぐらいのもんだ。人々の視線を受けながら、夜の町を走り抜けていく。 「……」 「ねぇ、ユウキ」 「…………なんだ」 冬の冷たい空気がむき出しの顔や指に襲い掛かる。コートも着ているが、やや肌寒い。ガブリアスが触れている部分はほんのりと暖かい。 「私、名前が無いの」 「それで?」 「付けて。名前」 「…………ジル……」 「ジル?」 「そうだ。文句あるか?」 「……ううん、無い」 すると、ジルは俺にまた抱き付いてきた。寒かった背中が一気に温かくなる。 「この部屋を使え」 「わ…………」 俺は以前のパートナーが使っていた部屋にジルを案内した。ベッドと机しかないシンプルな部屋だが、この狭い部屋には丁度いい。 「これって……」 「これからお前は俺のポケモンだ。マスターの俺の命令は聞け。いいな?」 そうだ……俺は寂しかったんだ。アイツが居なくなって、今までずっと心に穴が開いていたんだ。それを今、俺はジルで埋めようとしている。俺は……何かが変わってしまったようだ。 家から少し離れたスーパーで買い物しながら、俺は自問自答していた。 なんで俺はあのガブリアスを助けた? 俺はもう冷酷にはなれない。 いつから冷酷になれなくなった? リズが死んで……アイツに出会ってからだ。 それは何故? ………………。 ふと気が付くと、俺は殆どカートに品物を入れないままレジ近くまで来てしまっていた。さりげなく入り口のあたりまで戻って、品物を物色する。 「……アイツは……何を食うだろう……?」 俺はいつも質素な食事をしてきた為に、冷蔵庫の中はビール以外に何も無かった。こうして食材を買いに来ているが、何を作ったらいいか分からない。 「……なんでもいいか……」 これから先、アイツと長いこと生活する事になる。いつか、アイツに俺よりもいいトレーナーが現れるまでは……。 「っ……」 なんだ?……胸が一瞬痛かったぞ?俺はそれが何を表しているのか、俺にどんな変化が現れているのか、全くわからなかった。 一通り品物を手に入れると、レジで代金を払った。今までにこんな量の食料を持ったことは無かった。慣れない微妙な重さに、少しよろけてしまった。 バイク……上手く運転できるだろうか……? いつもより信号によく引っかかる。それはスピードを緩めているために黄色信号の交差点を突破できないからだ。 車体を傾けると荷物が後ろで重心を変えてしまい、いつもと勝手が違うので下手にスピードを出せない。 腕のデジタル時計のバックライトを点灯させる。表示時刻は既に六時半。かれこれ二時間はジルに留守番させていることになる。 「……」 やや事故が心配だったが、スピードを上げた。もうマンションは見えている。 数分もすると地下の駐車場に着く。エンジンを切り、エレベーターに乗り込む。最上階までは時間がある。荷物を床に置いて、時計を見る。七時ちょっと前。今から作っていたら少々遅くなるが、我慢してもらおう。 最上階に着くとアナウンスがお決まりの台詞を言い、ドアが開いた。またしばらく歩かないといけないな……。ヨタヨタしながらやっと家の前に着く。カードキーをリーダーに当てて読み込ませ、ロックを解除する。 そういえば……このロックは内側からならカードキー無しで開けることが出来るが、ジルは中にいるだろうか……? 「……ジル……ジル?」 名前を呼ぶが返事は無い。彼女の部屋を見るが居ない。ベッドも冷たい。大して弄った形跡も無い。 「……出て行った……のか……ぅっ?」 まただ……また胸が痛んだ。肺ガンかもしれないな……。タバコ止めるべきか……。 タバコの箱を出すと、ゴミ箱に放り捨てた。まだ半分ほど残っていたが健康の為だ。ここは我慢して禁煙すべきだろう。今度病院にでも行って検査だ。 「折角買ってきた食材だが……1人で食べるには贅沢だな……」 苦笑いをしながら冷蔵庫に入れていく。小さな冷蔵庫はそれだけで一杯になった。 ビールを一本取り出して冷蔵庫を閉じる。パソコンデスクの前の椅子に座ると、ビールを大きく一口飲んだ。 「……そうだな……俺みたいな奴とは……一緒に居るのは怖いだろうな……」 銃を向けたあの時のジルの表情が、脳裏に蘇る。絶望と悲しみ、それしかなかった。でも、それでも希望の光は失せていなかった。目が……その強い目が必死に助けを求めていた。それは、俺の奥深くに仕舞いこまれていた優しさを蘇らせたのだろう。だから、俺は助けた。だから、俺はジルを……彼女をポケモンセンターに連れて行って治療した。 だが、その俺ですら気が付かない小さな優しさをジルは当然ながらジルは知るはずも無く……この俺の元を去った。 「………………………………っ……」 今度は痛みがジワリジワリと襲ってきた。ガン……もしかしたら末期かもしれない……これが天罰なのだろう……。 「ハ……ハハハ……ハハハハハハッ、ハーッハッハッハッ……・」 なんだか分からない……いつの間にか、俺は大声で泣きながら笑っていた。 「そうか……天罰か……そりゃぁいい!俺は幾つもの命を消してきた!仕事、任務、依頼、色んな理由を並べて殺してきた結果がこれだ!」 ビールを一気に飲み干す。空になった缶を壁に投げつける。視界が歪む。涙だ。俺は何で泣いているんだ? 俺は……いつからこんなに弱くなった?いざ死ぬとなると、俺はこんなに弱くなるのか?どんな依頼でも完遂してきたこの俺が……! 殺せと言われれば平気で人を、ポケモンを殺した俺が! 邪魔なものは全て破壊してきた俺が! なぜ……なぜ俺は……生きている……? 外は雨が降っていた。酷い雨だ。雨に打たれていると、何もかもが洗い流されるようだ……。誰も居ない荒野で、俺は立ち尽くしていた。コートも着ずに、雨でグシャグシャに濡れている。町からも離れていて、明かりも殆ど届かない。周りにあるのは、町から出た廃車やゴミの山。そう、ゴミ捨て場だ。 ここなら……誰かが死んでも気にならない。死体はゴミに埋もれ、腐り、土に還る。 「……俺は……何処で道を間違ったんだろうな……リズ……」 リズは俺が十五歳の誕生日に貰った雌ルカリオだ。俺にはすごく素直で、怪我をした時はすぐに救急箱を持ってきてくれた。苛められたときも助けてくれた。 俺はそんなリズに頼りっぱなしが嫌で、強くなろうとした。逆に、リズを守ってやりたかった。俺は必死に武器の使い方を覚え、たった十七歳で史上最年少バウンティーハンターになった。 俺はリズと一緒に様々な仕事をやってきた。強盗犯の逮捕、現金輸送車の護衛、そうして仕事をこなすうち、ついに殺しの仕事が入った。麻薬密売ギャングのボスを殺すというものだった。 警察が逮捕に向かうと、その集団は武器で反撃。そこで犯人に賞金を賭けてバウンティーハンターに依頼が掛かった。俺は丁度ランクが上がってきて、上司にも先輩にも評判が良くなってきていた。 お前ならもうこの仕事やれるはずだ。そう言われて俺はリズと共に戦った。 「……あの時……ハンドガンじゃなかったらな……」 そう、俺はそのときからマグナムを使うようになった。戦闘中、ハンドガンが故障した。まだ銃に関して未熟で、手入れが良くなかったのが原因だろう。無防備な状態になってしまった俺に、誰かが放った「破壊光線」が向かってきた。 死んだ……そう思った。だけど、物凄い音がするだけで、死は来なかった。激しい光の中目を細めて見ると、そこにはリズがいた。ありったけの波動エネルギーで壁を造り、「破壊光線」を受け止めていた。 だが、その波動もみるみるうちに弱くなっていく。リズ、もういい。やめろ。そう叫んだ。彼女に聞こえているかどうかはわからない。だが、リズは波動の壁が完全に消える直前に、俺に満面の笑みを見せた。今までありがとう。その口はたしかにそう言っているように見えた。 そして爆音と共に俺の意識は飛んだ。意識が飛んだのは一瞬だったようで、目を覚ました時はまだ瓦礫の中だった。残った力を振り絞って瓦礫から這い出る。すぐ傍に、リズが仰向けに倒れていた。俺よりも少々高い位置にいた為、脚が見えた程度だが。 リズ、大丈夫か。かすれる声で叫び、痛みを堪えて駆け寄る。だが、そのリズは見るも無残な姿となっていた。内臓は飛び出て、腕はもげ、顔は……あの優しい目は……あの俺を見守ってくれていた目は……嬉しそうに、眠るように、穏やかな表情をしていた。 動かなくなったリズを抱きしめる。次第に冷たくなっていくのが分かる。バカ野郎、何が今までありがとうだよ。そこまで言って、俺はまた気を失った。 「…………………………」 胸元を見る。そこには金色の鎖のネックレスが二つ。1つは自分に合わせてあり、丁度いいサイズだ。もう1つは小さく、細い。リズのだ。 「…………………………」 俺はたぶん、そこで道を間違ったんだろう。怒りと悲しみに身を任せ、仕事、依頼、任務という名の殺戮を繰り返した。それが、今の俺だ。 「…………………………く……ぅ……くうぅぅ……・っ」 そこで、俺は初めて後悔の涙を流した。なんで俺は……こんな…… そのまま、俺は雨に打たれていた……。雨なのか涙なのか、大量の水が頬を流れた。 ……………………………………。 …………………………。 ………………。 ……。 なんだ、俺、まだ生きてる……。 上半身を起き上がらせて、腕を動かしてみる。ちゃんと動く。 「……」 雨は止んでいない。ずっと雨に打たれ続けた俺の体は冷え切っていた。ガタガタと体が震える。吐く息も真っ白だ。それもそのはず。こんな真冬にこんな状態でいれば当然だ。 やっぱり……死ぬのは怖い……。リズは……死ぬ時怖くなかったのだろうか……。 「……ん?」 ふと、地面に置いた右手に懐かしい感覚が……。手元を見ると、そこには壊れたハンドガンが。かなり錆びている上、欠損しているパーツはあるが……それは間違いなく俺の使っていたハンドガンだった。 「こんなところに捨てられていたのか……」 そう、リズが死んだ原因だ。それを拾い上げ、構えてみる。すると……その銃から蒼い光が溢れだした。 「……!!!」 光が消えた。すると、そこには他界したはずのリズが立っていた。無傷状態の姿で。 「リ……ズ……?」 『ユウキ……やっと会えたね……』 俺はどういう反応をしたらいいか、分からなかった。思わず伸ばした手。リズはその俺の手に触れようとするが、すり抜けてしまう。 『今ここに居る私は精神が作り出した幻影に過ぎないわ……残念だけど、触れる事はできないの』 「なんで…………」 『どうしても……言いたい事があったの。だから、こうしてこの銃に自分の魂を封じて待っていたの』 「……すまない」 『謝らないで!貴方は悪くない!』 「だが……俺のヘマで……お前は……」 『……。自分を責めないで。貴方は十分よくやったわ。今はもう……苦しまなくていいの。私は……貴方の所為だとは思ってない。貴方だって、逆の立場だったら同じ事、してるでしょ』 「……リズ……」 『ゴメンね、ユウキ。先に死んじゃって……』 リズの体が、脚から少しずつ小さな光の粒になって散り始めた。 「おい……!」 『あぁ、もう力が無いみたい』 「リズ!」 『ユウキは色んな人を殺し……てきちゃったけど、やっぱ……り優しいところあるから……あのガブリアス助けた……んでしょ。まぁ……ちょっ……と抜けたところ……あるけど……』 「……あ、あぁ」 『あの娘を……私だ……と思って、大……切にしてあ……げてね……』 「おい待てよ……俺だってまだ言いたい事が……!」 『……大好……きだ……よ…………ユ……ウ…………キ……』 そしてその光の粒は雲へと昇り、消えた。そこから雲が晴れていき、綺麗な青い月が顔を出した。 「………………う……うわあぁぁぁぁぁああぁあぁぁぁっ!!!!!!!」 泣いた。また、泣いた。最後に、また会うことが出来た。嬉しかった。でも、もう本当に合えなくなってしまった。悲しかった。 「う……うぅっ……リズ……」 ひとしきり泣くと、俺は立ち上がった。 「そうか……俺はまだ死んじゃいけないんだ……リズの分まで生きないければ……。神がなんだ、天罰がなんだ、運命がなんだ、俺が……全部ぶっ壊してやるっ!!」 そのとき、背後で物音がした。俺は生きてやる。どんな奴が来ようと、全部ぶっ飛ばして……! ずぶ濡れのマテバを抜いて物音のした方向に向ける。そこに、影があった。 「ユウキ!」 「……ジル……お前!出て行ったんじゃないのか!?」 その影は彼女だった。辛そうに息切れさせながら、此方に歩いてくる。 「ちょっと散歩しようと思って出たら入れなくなって……全然帰ってこないから心配したんだよ!」 「……ごめん」 「……馬鹿……私を助けるのは勝手だけど、勝手に死なれたら私が困るからやめて!」 「……ごめん」 「なによ、謝ってばかりじゃない!最初に会ったときのあの気迫は何処いったの!」 「いや……ちょっとな……」 なんだか、俺の中の何かが消えた気がした。まだ胸が痛むが、これはガンじゃない。もっと別の原因だ。よく考えてみれば、タバコを吸い始めてまだ三年。一日に2本吸うか吸わないかだ。そんなくらいで末期ガンになるはずがない。 なんだか……馬鹿みたいだな……本当に……。 「早く帰るぞ。寒い上に腹が減った」 「当たり前じゃない。今何時だと思ってるの?」 「……あぁ、もう夜中の二時か……温かいものでも作ろうか……」 「料理できるの?」 「それなりに……な」 「そう。じゃぁ行こう」 ジルは先に歩いていった。その後を付いていく。こんな俺でも、彼女は心配してここまで来てくれた。雨の中、ずぶ濡れになりながら……。そうか……この胸の痛みに似た感じは…… 「ジル……」 「何?」 広大なゴミ捨て場から出たあたりで、俺は声をかけた。ジルは立ち止まって振り向いた。月明かりを浴びて、浮かび上がるそのシルエット。雄のような逞しさは無く、スラリとした雌の体をしており、綺麗な腰のくびれや細い首筋が女々しさを感じさせる。 「……ありがとう……ジル」 「……」 ジルは綺麗な金色(こんじき)の瞳を月明かりに輝かせながら、微笑んだ。 そして戦士は竜を抱く Ⅰ END ---- #pcomment IP:133.242.146.153 TIME:"2013-01-30 (水) 14:02:31" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E3%81%9D%E3%81%97%E3%81%A6%E6%88%A6%E5%A3%AB%E3%81%AF%E7%AB%9C%E3%82%92%E6%8A%B1%E3%81%8F%20%E2%85%A0" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 9.0; Windows NT 6.1; WOW64; Trident/5.0; YTB730)"