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そして戦士は災いを呼ぶ Ⅳ の変更点


この小説はこの私、闇魔竜の独自の世界で物語が作られています。
尚、この小説には&color(violet){[官能的表現]}; 、&color(red){[流血表現]};が含まれます。

以上の事に注意してください。





 結局、俺はいつまでもこのアブソルを保護したままだ。さっさとギルドのポケモン隔離棟に放り込んでしまえばいいのだが……
「…………」
 モンスターボールを初期化してアブソルを開放しても、俺の側を離れようとしなかった。無言で、無表情で、何かを訴えかけてくるのだ。でも、俺に何を伝えたいのかさっぱりわからない。
「まいったな……」
 やれやれと首を振り、ベンチから立ち上がった。もやもやとした気分とは無関係に、空は綺麗に晴れていて幾つもの星が輝いていた。時計を見ると、既に帰宅予定の時間が迫っていた。遊具も無いただ広いだけの公園には、俺とアブソルだけしかいない。
「帰るぞ、アブソル」
「…………」
 そのときだった。アブソルが、頭の鎌を光らせ始めた。この鎌は威嚇や攻撃にしか使わないものだ。その矛先は俺。
「な、何のつもりだ?」
 アブソルは何の予告も無しに問答無用で『かまいたち』を放ってきた。咄嗟に避けていなければ、首と胴体がさよならを言わなければならないところだった。目に見えない『かまいたち』は、また俺の髪の毛を数本切断して夜空へと飛んでいった。
「くそっ、やっぱりか……」
 モンスターボールから開放されたポケモンは、それによってトレーナーと繋がっていたものが消え去る。捕まえたばかりの野生ポケモンをすぐに開放すると、またすぐに完全な野生に戻って再び襲ってくる可能性もある。つまり、今、アブソルはあの桜の丘にいたときの状態に戻っているということだ。
 このままではまずい。コートの翻し、左腋のホルスターに手を伸ばす……が……
「しまった……」
 この程度の事態は予測出来たはずだ。なのに、俺はマテバを家に置いて来てしまった!アブソルは鎌を光らせたままだが、それ以上攻撃を仕掛けてこない。
「おい、事情は知らんがこれ以上攻撃をしかけるなら……」
 俺の忠告を無視してアブソルはまた『かまいたち』を放った!
「この……ッ!」
 近くにあった公園の案内板の裏に逃げ込み、『かまいたち』を凌いだ。こうなったらもう一つしか手段は無い……!ズボンのポケットからPDAを取り出して、ギルドの作戦本部に直通でエマージェンシーコールをかけた。
「レオン!応答しろ!」
『ユウキギルド長!何事ですか!?』
「保護していたアブソルが急に暴れだした!市内中央の公園にいる!至急、麻酔銃と特殊作戦部隊を派遣してくれ!」
『わかりました!5分以内にそちらへ向かわせます!』
「急げ!俺が引き付けておく!」
 案内板から顔を出してアブソルの姿を探す。が、その姿は無かった。
「何処に行った……?」
 公園は何事も無かったかのように静まり返っている。案内板に刻まれた『かまいたち』の傷跡は、思いのほか浅かった。本気を出せば、もっと深くまで傷が入るはず。
「…………きゃ……ぁ……!!」
 どこか遠くで悲鳴がした。住居区の方角からだ!まさか、あの野郎……無差別に攻撃をしかけているのか!?
『ユウキギルド長!今報告が入りました!青と紫のオッドアイのアブソルが住居区で暴れているとのことです!一体どうしたのですか!?応答お願いします!』
 手の中のPDAから作戦本部通信士のレオンの声が響いた。
「ちょっと目を離したスキに消えたと思ったら……被害は?」
『今は誰も被害は出ていません!あれだけ派手に暴れているのに、不思議なくらいです……』
「分かった!俺も今からギルドで装備を整えたら応援に向かう!住民の避難を優先させろ!」
『了解しました!一刻を争う事態ですので、そちらにユンゲラーを向かわせ、テレポートで搬送します!』

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 急に外が騒がしくなってきた。悲鳴も聞こえる気がする。
「何事でしょうか……?」
 こればかりはアーリアも動揺と不安を隠せないようで、私の横で窓を開けて外を見ている。
「この町はそこまで治安は悪くない筈だけど…………何かが暴れてるみたいね」
「ということは、ギルド長も今……」
「そういうことになるわね」
「…………」
 数時間前に私が言い放った言葉が引っかかってるみたいで、胸の前でグッと拳を握ってうつむいてる。
「ジル……さん」
「何?」
「私、行きます!」
「えッ?ちょっと!何をする気!?」
 アーリアはユウキのロッカーに走ると、勝手にロッカーをあけた。そして、ユウキが置いていった愛用のリボルバーを手に取った。
「私が、ギルド長にこの銃を届けに行ってきますわ!」
「待って!何の戦闘訓練も受けてないのに危険よ!」
 それでも、彼女は言うことを聞かずに家を飛び出してしまった……
「…………それが……貴女の覚悟なのね…………」

 初めてユウキと出会った頃、ユウキの仕事についていこうとしたけど……恐怖に負けて留まってしまった。けど、彼女は私と違って本当の覚悟と決心がある。彼女は………………私とは違う。だから貴方はアーリアを選んだの?ユウキ…………。

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 ギルド長の家を出ると、そこはもう私が見た町じゃなかった。アタシが今までに見たことも無い恐ろしい形相で町の中心部から逃げてくる何人もの老若男女。爆発や銃声はしない。
「お前、ハンターか!?早くあのアブソルを追い払ってくれよ!」
 一人の男性が私の腕を掴んで叫んだ。そうだ、今私はハンタースーツを着こんで、しかも銃を持ってるんだからハンターを勘違いされても仕方が無いわね……でも、私はただこの銃をユウキギルド長に届けたいだけ。
「わ、悪いのだけど、私はこの銃を届けに……」
「冗談言ってる場合か!市民が襲われてるんだぞ!さっさと追い返すなり撃ち殺すなりしてくれッ!」
 ……今、殺す……と言ったわこの男性……。ハンターや傭兵の影響はとんでもなく大きいみたいだわ……
「何ボケッと突っ立ってんだ!早く行け!」
 その男性は私の背中を乱暴に押した。思わず前のめりに倒れてしまい、顔面をコンクリートに叩きつけてしまった。
「ぐぅぅっ……」
 痛い、痛すぎる……こんな痛みは初めて……。でも、ギルド長や他のハンターはもっと……。でも、痛くて、痛くて涙が止まらない。それでも私の周りは逃げる人たちばかりで助けてくれない。私の執事も、出て来てくれない。私が、自ら彼に『命の危険が迫っても助けに来るな』と言ってある。既にユウキギルド長が話をしていたみたいだったけど、私のこの命令はそのさらに上をいっていたらしい。彼は、下唇を血が出るくらいに強く噛んで涙ながらに承諾した。もはや、バウンティーハンターの世界に足を踏み入れた私に執事や屋敷など邪魔なだけ。あんなもの、ホームレスにでもあげてしまえばいい。
「ユウキ……ギルド長の所に……」
 嫌がる体にムチを打って立ち上がり、逃げてくる人たちとは逆の方向に走り出した。彼はこの今私が使ってる銃しか所有していない。恐らく、他の武器は使い慣れてないんじゃないかと思う。だから、もしかしたら凄く苦戦してるかもしれない…………

 パンッ……パンッ……

 銃声が響き始めた。でも、この音は聞いたことが無い。私があの試験会場で使った武器は、もっと低い音だった。試験官が色々な武器を使って見せてくれていたけれど、それらの音とも異なる。私があそこで聞いた事の無い銃の音……それは……
「まさか……ポケモンが暴れているの……?」
 胸が苦しくなってきた。走りっぱなしの足も痛くなってきた。目がかすんできた。それでも、私は彼の役に立ちたい。あのガブリアスから下された仕事は殆どできなかったけど、銃を届けるだけなら……!
 目の前に、大きな交差点が見えてきた。車が何台も放置されいる。燃えたりはしてないけれど、そのどれもが刃物で切られたかのような傷跡があった。よくみると、その車体に針のようなものが刺さっていた。立ち止ってそれを引き抜いてみた。それは、予想通り……小さな注射器のようなものだった……。でも、その針は他には殆ど見つけられなかった。改めてその注射器を観察する。径は9mm。ハンドガンで撃ったのかしら。昔父上が猟で使っていた麻酔銃はライフルで、径はかなり細くて後ろに毛束のようなものがついていた。この注射器は後ろが鉄でコーティングしてあって、火薬で焦げている。
「…………」
 やっぱりハンドガンかもしれない。ほかに注射器が見当たらない事から、かなり命中させてる様ね。だけど……まだ銃声がする。
 私は注射器を捨てると、その交差点へと走った。

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 もう何発打ち込んだんだろう。マガジンをすでに2本使い切った。弾数にすると14発。数発外したにしても、麻酔薬が致死量をとっくに超えているのに、アイツはまだピンピンしてやがる。それ以外にも他のスナイパーが何発も撃ちこんだのに……一体どんな身体をしているんだ……
「アブソル!もうやめろ!」
 このままではアブソルを殺してしまうかもしれない……アブソルは俺が弾切れを起しているのを知っているのか、交差点にいる俺との間合いをゆっくりと詰めてくる。殺すことを全く視野に入れてなかった所為で実弾を持っていない。マテバも家に置いて来てしまっている。
 何か……何かアイツを止める方法は……
『ギルド長!もう射殺しよう!このままでは貴方が危険だ!』
「だめだ!許可は絶対に出さない!使っていいのは麻酔弾とゴムスタン弾だけだ!」
『そんなことを言っている場合じゃない!許可を!もう数人のスナイパーがいつでも撃てる状態なんです!』
「二度は言わない。絶対に実弾を撃つな。撃たせるな」
 そう、俺は背中に嫌な寒さを感じていた。本当の脅威はアブソルなんかじゃない。もっと他の……もう近くにいる……。そう思えて仕方が無かった。
 アブソルはこれだけ暴れておきながら、攻撃を仕掛けてきておきながら、誰一人として傷つけていない。それに、あのどす黒いオーラも見えない。あいつは、何かを焦っているように見える。お願いだ。ちゃんと言葉で俺に教えてくれ!攻撃だけじゃ俺にはわからない!
「ユウキギルド長ーッ!」
「なッ……!?」
 この緊迫した空気に似つかわしくない高い女の声がした。その方向を見ると、アーリアが俺のマテバを持って立っていた。
「アーリア!来るな!逃げろ!」
 アブソルの姿が車で見えないのか、彼女は気がつかずにこちらに走ってきてしまう。アブソルはアーリアの声を聞くと、近くのトラックのコンテナの上に飛び乗って……『かまいたち』をアーリアに放とうとする。
『もう我慢の限界だ!』
「よせっ!やめろぉッ!!」
 アブソルは突然の出現者に動揺しているのか、『かまいたち』を直撃させてしまう方向に放とうとしている。ふと目の前のビルの窓を見ると、数人のハンターが自前のスナイパーライフルをアブソルに向けていた。アーリアかアブソルどちらかが……最悪2人とも……!
「えっ……きゃぁぁッ!」
 アーリアはアブソルに狙われてパニックになり、俺のマテバを暴発させた。それが全ての『引き金』になった。

 ダァァン!ダダァァン!!ダァァン!!

 アブソルの放った『かまいたち』は運良くアーリアには当たらず、後ろの車のヘッドライトを破壊した。だが、ライフルから放たれた直径6mmの細長い弾丸は回転しながらアブソルの白い毛並みに吸い込まれていった。
「キュァァァァァッ!」
 動きを止めるだけなら、たった1発でいい。多くても3発だ。だが、ハンター達は執拗に何発も何発も撃ちこんだ。見る見るうちにアブソルの身体が赤く染まっていく。血が飛び散り、俺の顔に降りかかった。

 銃声のエコーが消えた頃、アブソルは力なく倒れた。俺は震える手で通信機を手に取ると、口元に持っていってボタンを長押しした。
「…………」
『ギルド長、大丈夫ですか?』
「……だ……………?……」
『ん?』
「誰が……撃てと言った……?」
『そ、それは…………………………』
 通信機からの応答が無い。アーリアは俺のマテバを抱きしめて震えている。
「俺は撃つなと言ったはずだ……」
 通信機の電源そのものを切ると、俺はトラックのコンテナによじ登った。そこには、ぐったりと横たわるアブソルがいた。まだ意識があるようで、俺の姿を見つけると血まみれの右前足を伸ばしてきた。
「……ゆう……き……?」
 初めて、アブソルが喋った。俺の名前を。其の瞬間俺の視界が一気に歪み、頬を冷たい水がボロボロと流れ落ちた。その前足をそっと握ってやり……
「すまない……」
「痛い……けど…………平……気……」
 俺はアブソルを抱き上げると、トラックから降りた。歪んだ視界がやっと鮮明になってくる。俺の腕の中で弱弱しく丸まっているアブソル……ライフル弾に貫かれたってのに物凄く嬉しそうな顔をしていやがる。
「鎮痛薬を使う……副作用で直ぐに眠くなるが安心して眠れ……」
 腰のポーチから注射器を取り出すとアブソルの腕に突き刺し、鎮痛薬を注入した。
「…………………」
 体力を消耗している為、直ぐにアブソルは穏やかな寝息を立て始めた。アブソルをそのまま抱いて、使えそうな車に乗り込んだ。配線を弄ってエンジンのスターターを始動させると、アーリアが助手席に乗り込んできた。
「…………」
「アブソル、私が診てるわ……」
「…………頼む」
 俺はアブソルをアーリアに渡すと、俺は車をポケモンセンターへと走らせた。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 何発もの銃声が響いて……それから何も音がしない。ついに私は我慢ができなくなって窓から外に飛び出した。音が響いてきた方角へ飛んでいこうとすると、急に空の星が消えていった。
「……え?」
 その場で滞空して真上を見上げる。夜空が切り取られてしまったかのように、ある一定範囲の星が見えない。
「な、なんなの……!?」
 その真っ黒の場所からドラム缶程の大きさの何かが幾つも落ちてきて、コンクリートの路面にめり込んだ。私はそのうちの一つに近寄り、正体を確認しようとした。

 それは、新たな悪夢の始まりだった。




        そして戦士は災いを呼ぶ Ⅳ   END

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