仮面小説大会滑り込み作品 *しゃぼんの香りと澄みゆく空と [#w365cad4] 大会終了につき[[作者>Å]]晒し中 &color(red){注意};この小説には以下の少々特殊な要素が含まれています。ネタバレが苦手な方、何でも来いという方、及び大丈夫な方はお進み下さい。 ・&color(white){洗剤、もといボディソープによる行為。}; ・&color(white){表現上はたいした事は無いけれども、異種間による行為。ニョロボンの雄とマグマラシの雌。}; それではどうぞ。 ---- あぁ、またこの香りだ。いつもここを通ると、甘い様な、苦い様な。それでいて何処か暖かく、しかも爽やかで。そして、何処か羨ましい。そんななんとも形容しがたい、素晴らしい香りが北風に乗って漂ってくる。 ちょうど今頃のような季節になると、後ろ足だけで歩くことの出来る種族は真に贅沢なことだが、その自身の毛皮の上からもう一枚、毛織物の布をひっ被るようになる。いくらでも生え変わる種族がいたり、高級糸を吐き出す仕事があったりで材料の供給には困りはしないが、素人の了見で洗濯して取り返しのつかないことになってしまった布というものは、えてして置き場に困るものだし、第一こんな糞寒い季節に冷水に手を突っ込むなんてとんだ物好きのやることだ。まあ、それが嫌なら被らなければ良いのだが。どうも崇高なる考えの持ち主である二足達は布を被りたがり、そしてやはり自ら洗うということはほとんど無い。 そこで、ある種の店ではそんな希望にこたえるべく、従業員――この寒い中、水に自ら手を突っ込む物好きな方々――が、ここできちんと、縮まず、かつ解れぬように丹精込めて洗っているわけで。 そして、この道沿いにもそんな家一軒程度の大きさの店がある。 そんなわけで、先程述べたような、素敵なしゃぼんの香りが漂ってくるのだ。 僕は生まれながらにして、季節ごとに合わせ移ろい変わってくれる素敵な毛皮を持っているため、本来はこんなところには来ない。来る必要すらない。当たり前である。なんせ行く必要などありゃしないのだから。 しかしどうして、生きている内にはそんな意味の無いことをしなければいけないこともあるようで。 事の発端となった電話は先日、友からかかってきた。 ---- 僕の携帯電話に誰か掛けてきたらしく、鳴る音が僕にそのことを伝える。掛けてきた相手の名前は"タード"とある。 「頼む…いますぐに来てくれ……」 普通ならここで飛んでいくところだろう。危なそうな雰囲気が漂っているから。しかし、ここはあいつの事だ。どうせやばいことなど微塵も無い。と、思う。 だとしたら一体、彼に何があったのだろう。いろいろなことが可能性としてはあるわけで。事故?病気?それとも何だろう。 もしや、突然中二病に目覚めでもしたのだろうか。 だとしたら、やばいまで行かずとも日常的に恥ずかしい危なげな奴と関わる破目になる。面倒だから関わらない方が身のためか。 しかしもし仮にそうだとして、今彼の元へ行かないと後に講義室で顔を合わせることになった時、とても面倒だから行ってやるとした。喧嘩なぞしようものなら、相性の悪い僕は大変を通りこして危険だ。彼も私もそこまで馬鹿だったり、低レベルではないのだが、何事にも注意を払わねばならない世の中だもの。まあ、いざという時は口喧嘩にもっていったりすればいい。奴に負ける気はしないから。 第一に、そんなことがあるようだったら友達づきあいなんてしないけども。 色々考えるが、行きたくない訳では決して無かった。ただ一言いうなれば、行くのが恥ずかしかったのだ。 散々馬鹿なことを考えておきながらも、恥ずかしかったといえども。彼の家に向かうと腹に決めて。いちいちこの糞寒い中、友人の夢見事に付き合うのは大変だよね、と自分を励ましながら一人友人宅へと向った。 玄関前で白い息を吐き出す。続いて深呼吸。鍵は閉まっていなかった。なんと無用心な。ちょっとは君、優しい親友であるこの僕を見習いなさい。 ……思えば調子に乗っていた。こんな恥ずかしい考えを平気で頭に浮かばせる事等わけないほどに。そして、この寒い中、玄関前に私と共に召集された苛立ちが僕の思考をスリップさせていたのだ。いや、あるいは寒かったからか。 とにかく僕はここで選択を間違えた。 友人宅玄関という地獄の扉を開いてしまうなどという愚かな選択を。 地獄の扉を軋ませながら開ける。と同時にあふれ出す、すさまじい不快臭。水槽でおたまじゃくしがご逝去された時のような、あの独特の臭い。もしかしたら、あの電話は幽霊になったあいつからかかってきたのかもしれない。そうしたら、自分は毎晩布団の上で、彼の逞しい腹筋にかかる渦巻きを見て目を回さねばならない。そんなのは例え死んでもお断りしたいところだ。もし断れなかったら、炎であの世へ送ってやる。 まだこんな事を考えている余裕はあった。この時までは。 鼻を両手で押さえながら中へと踏み込んだ僕へ追い討ちをかけるが如く、地獄の二丁目が突如として現れる。眼前に広がるごみ山、そして暗闇。 ……ここは何処だろうか。あまりの異常さに、自分は冥府にでも来てしまったのだろうかと思ってしまったほどの光景。兎に角、このままでは例え警察だろうがゴールドランクの救助隊だろうが、捜索すら出来やしない有様だ。 闇を消し去るべく、玄関の照明を点けようとしてスイッチを押した。……が、虚しく音が空虚へ飲み込まれるばかりで、何度押しても一向に暗闇はそこにあり続ける。電気が止められているらしい。そのくせ窓から差し込むべき光がごみ山の峰に遮られていて、一向に差し込んでくる気配がしない。昼だというのに、こんな久遠の夜に包まれた世界を見ることになろうとは。まるで地球の反対側である。 ……とうとう、友人死亡説が濃厚になってきた。 今すぐに逃げ出したい気持ちを耐えてこらえて抑えて我慢して、奈落へと足を踏み出す。一歩、また一歩。慎重に、ごみ山脈を伝って友人を探した。 名前を呼ぶ。返事が無い。もしかしたらもう既に、返事もしないただの屍になっているのかもしれない。 一部屋ずつ、順々に部屋を回っていく。 ある黒い生物との壮絶な戦いも自分の焔で撃退した。燃え移った炎は、ごみ山を崩して無理やり消火したのは言うまでも無い。 ある部屋では何と茸が生えていたらしく、足で踏んで四足全てで軋むような音を立てつつ進んだりした。悲鳴を上げてしまったのも とにかく、ここは一体何処なんだという気持ちが寂寞とした心に虚しく押し寄せてきたのは誰もが想像するのに難くないだろう。 最後の部屋となった時も、まだあの筋肉馬鹿は見つからないでいた。 さて、どうしてくれようと最後の部屋に足を踏み出したその時だ。地獄の三丁目、最深部を素足で踏んでしまったのは。 ……忘れもしない。あの足裏、肉球への鋭敏な刺激。ぬめりとした多肉質のものを踏む、そのグロテスクな感覚。思い出すだけでも落ち込んでくる。 僕がその時踏んだものを、背の炎をともして確認する。浮き上がってきたのは蒼い色、腹には大きな渦巻き、筋肉質な丸い体躯。間違いなく、友人のニョロボンのタード、その人だった。 柄にも無く黄色い声で叫び声をあげてしまう。が、仕方が無い。こんなもの踏んだら誰でも叫び声をあげるに決まっている。そしてそのまま、足を四つともばらばらに滑らせて盛大にすっ転んだ。立ち上がり、苛立ち紛れにまだ目の前でのびている馬鹿に呼びかける。 「おいっ、何時までのびてるんだよこのばか!せっかく僕が来てやったのに、呼んどいてそれは無いんじゃないの!?」 ついでに気付け代わりに軽く小突く。そこでようやく、彼は顔を器用に持ち上げた。僕を一瞥するなり、マグマラシ、ああ、クィルかと呟くとまた伏せた。それにまた僕は文句を垂れる。 「……うるっせ。そんな黄色い声でぎゃあぎゃあ騒がれたら本当にしんじまうわ」 「女子が来てやったのになんだよそのテンションはっ!……なんかあったの?おいっ、おーい」 ああ、またぐったりしてるよこいつ。嗚呼、僕がもう一度だけ進化すれば、こいつを雷パンチで叩き起こせるのに。そうなってくると、痛いのは嫌だからといって実習をずっとずる休みしてきたのが今更悔やまれる。ただ、進化していたとしても教わることの出来るようなポケモンは思い浮かんではこないが。 「起きろ~っ、おいっ、この寒い中呼び出しといて何の話だって」 「凍っちまう。……死にそう。冗談じゃなく」 言わんとしている事が良くわからん。確かに今は冬であって、ここは滅茶苦茶に寒いことは事実だ。しかし、表面に粘液という名の不凍液を纏っているこいつが凍ってしまうとはとても考えられなかった。いくら水タイプだといってもだ。 「はは~ん。どれどれ」 目を少しばかり細めて、彼の目の間、ちょうど鼻代わりの穴の開いている部分に手を当てる。途端、ふごふごと音を立てて彼がじたばたしだした。その様子をニヤニヤと眺めながらも、手のひらを通して伝わる温度をとらえることを忘れはしない。 そろそろ危ないと判断したので、手を離してやる。 「うぐはっ…なにすんだ」 「うん?熱測ってた」 変に目を瞬かせている。ちょっと離すのが遅かったのかもしれないな、と考えつつも勿論そんなもの顔には億尾にも出さずに答える。 「人が、死にそうだって、言ってんのに……どうだった」 「まあ、僕と比べたらたいしたこと無いね。平熱、平熱」 「あんたは炎タイプだからだろ。そうじゃなくて、体が冷たいことについてだよ」 「そうか、そちらとは気づかなんだ。今動いてるし大丈夫じゃないの?」 未だに部屋は寒いままだった。暖房器具を探しても、あたりは常闇に浸されたままで、おそらくごみ山の一部となっているであろうそれは到底、見つかりそうにもなかった。 「仕方ないなぁ…こんなところにいるから遭難するんだよ。もう少し片付けたらどう?」 「無茶言うな………」 そう一言、言い残すと彼はまた気を失ってしまう。ここにいては自分も危ない、というのは過剰ではある。が、こんな寒いところなどすぐにおさらばしたいところだった。しょうがないな、とため息をついてから彼を背負う。本来、移動時には四足で移動するのでこの二足の状態だと非常に歩き辛い。僕がこいつを見殺しに出来るほど、情が無かったらこんなことせずに帰れるのに。 はあっ、と幸せが逃げんばかりに大きなため息一つ、佇むは自宅の扉前。背には馬鹿でかいおたまじゃくし、重さに自身の膝が笑っていた。一旦そいつを地面に降ろしてから、自宅の鍵、次いで扉を開ける。そうしてからまたニョロボンの野郎を背負って中へ入る。ただいま、と言った自分の声も虚しく、返事を返してくれる者は一人も居ない。いい加減つらくなってきて、彼を壁へもたれさせた。ここでまたため息をついてからリモコンを探して、暖房の電源を入れる。これでいくら玄関先とは言えども外よりはましになった筈である。 台所でコップを取って、蛇口を捻った。途端に澄んだ透明な液体が注がれてゆく。疲れたりしている時は水が一番とは僕の持論。…水を見ていると、心まで洗われていくような気がする。このまま、腰と背中の痛みも洗われればいいのに。 「ふぅー……おーいっ、いい加減帰ってきてってば」 「あ痛っ!?」 ぺちりと頬の代わりに目の横を叩く。叩かれた方の目を押さえながら悶えている彼を尻目に、水を一口飲んだ。さっきまで死んでいたも同然だったのに、もうここまで動けるとは。変温動物恐るべし、という奴である。ちなみに彼はポケモンであって蛙にあらず。たぶん変温動物ではないはず、なのだが。 「で、帰ってきたの?向こう側から」 「ああ、…何とか、ね。ここは?」 「僕の家。アパートだけど。……やったじゃん、一匹暮らしの雌の家上がりこむなんざ快挙じゃないの?君にとっちゃ」 精一杯の皮肉を込めて言い放ち、彼にもコップを差し出した。それを受け取ると、彼はそれを一口飲む。口からではないので本当に"飲んだ"のかは定かではないのだが、まあ飲んだということにしておこう。 「うるさいな。目を叩いてくるような雌は雌とは呼ばん、帝王と呼ぶんだ」 ちょっと癪に障る物言いだ。どうしてくれようか、こいつ。 「あぁ、そう。目に指を入れて殴りぬけるよりかはまだましかと思うけど?」 「うわっ、それは洒落にならな…」 「自分の家で遭難して、もう少しで凍死しそうになってたおばかさんは誰かな?それともあのままのほうが良かった?誰が腰を痛めてまでここまで送ってきたの?」 笑顔を作りながら、手にしたコップを振り下ろすが如く構える。彼の笑顔は引きつっているようにも伺えた。 「……済みませんでした。あの、お願いですから、そのコップをこっちにぶつけるのは止めてください。滑るだけっすよ」 「まったく、もう……」 「あ、でもそしたら中の水通して間接うげあっ」 妙な言葉が聞こえた気がしたので目と目の間にコップを振りかぶり、下ろす。無論普通にやると粘液ですべるので、それでも構わないよう中身をそれなりに熱くしておいた。そうすれば話すまでも無く中のお湯は彼に。僕の手にも多少かかったけれど、熱いのは平気だ。気の毒に、頭に当たる部分、なのだろうか、とりあえずそのようなところを押さえてうずくまる。犯人は僕だけれども。 「どう?暖まったでしょ」 「暖まりすぎだよ!見てここ!火傷してない!?」 「そうだね。綺麗な菫色だね」 はいはいと適当にあしらいながら、冷蔵庫を開ける。確かここだったかなと弄って中からタッパーを取り出し、ふたを開けると中には蒼い円錐に近い形の木の実と橙色の大きな木の実が数個ずつ入っていた。火傷によく効くチーゴの実、滋養強壮のオボンの実といわれているものだ。 再びタッパーのふたを閉めると、それを抱えて彼のところへ戻る。部屋の暖房も効いてきたし、もう切ろうかと思案しながら。 「はいオボンの実。食べなよ、さっきまでぶっ倒れてたんだからさ」 タッパーからオボンを取り出して手渡しする。その後でチーゴを取り出して、手のひらでつぶした。 「ちょっと、それも食わせてくれるんじゃないのか?」 まさかそれも熱々のジャムに、といった恐怖の入り混じった感じでこちらの作業を眺めている。少しばかり可愛いかもしれない。大丈夫、僕はそんな非道なことしない主義だ。 「んー?こうやってすり潰してさ、直接塗ったほうが良さ気じゃない?表面から吸収できそうだし」 「そりゃそうかも知んないけどさ、はっきり言って表皮はそんなに吸収しないよ。もしそうだったらバブル光線とかやば、あ、ちょ」 「つべこべ言わずに…黙って塗られてろーっ!そぉいっ」 無理やりチーゴの潰されたものを塗りたくる。いい年してじゃれ合うというのも、なんだか恥ずかしい気もするが、どうせ誰も見ていないのだし。それに、楽しいのだから。 「…で、結局なんだっけ?」 「突然何が?」 鼻の上に疑問符を浮かべている彼を見て流石に呆れてしまった。一体、あの頃の苦労は何だったのかを遠い目をして考え込む。 「……あのさ、」 呆れと多種多様な感情を込めて、聞く。 「何で、僕のこと呼んだんだっけ?」 しばしの沈黙が流れる。毛繕いしても未だに取れていないごみを業と焦がして煙を立てつつ笑顔を向けると、彼はあわてて答えた。 「そんなに怒るなよ、あれだ、その、あの」 しどろもどろになりながら説明しようとしている。こうなるのも当たり前だ。下手を踏めばまた菫色に逆戻りなのだから。 「あれだ、倒れて死にそうになって、それで……」 「それだけじゃないでしょ、この布を洗う為の洗剤が欲しかった。だから買ってきてもらうために呼んだって所?ほんとに人使いの荒い…」 そう告げると、かねてから用意していた彼の外出用であろう布を遊ばせる。その布はもうあらゆる所が縒れてしまって、とても着用できそうにない。 「で、何か言葉はないの?」 「わざわざこんなことで呼んで済みませんでした」 平謝りする彼にくすりと笑ってから、わかればよろしい、と一言告げる。結構可愛いもんだ。 でも、僕のやりたいことはそれではなかった。本題に入るべく、言葉を紡ぐ。 「そこで、なんだけどさ」 へっ、と素っ頓狂な声を出してひれ伏していた彼が顔を持ち上げる。ここで言わなくちゃもう機会は無い。頑張れ自分、と奮い立たせて話す。 「あー、あの、僕が買ってきてあげる。……そのかわりさ、一緒についてきてくれない?」 「つかぬことをお聞きしますが」 「何?まさか、僕とじゃ…」 一寸だけ、泣きそうになる。まさか、自分じゃ嫌なのか。 「いやそうじゃなくて。…何で?」 鈍い。想像以上に彼は鈍かった。その半面で、自分が嫌われていないことからの安堵。しかしまあ、彼が鈍いおかげで僕は普段、しどろもどろして彼と居ることになるのだが。 「そりゃー…君だけ家に居るのもずるいしさ、僕は毛皮用の洗剤だけで事足りるし、普段行かないもん。それに、その洗剤も切らしてるし…」 「顔、赤くなってるぞ」 声に気づけば目の前で足を組んで微笑を浮かべているおたまじゃくし一匹。言われてむすっとしながらも一旦言葉を切る。しかしながら、このまま彼に負けたままでは何処か悔しい。可愛さ余って憎さ百倍、というやつか、はたまた僕が意地っ張りなだけなのか。 「だって、汚れたのは…」 「だってじゃなくて。…わかった行くから。ほら、涙拭いて」 いつの間にか潤んでいた目を拭いながら、小さいうなり声を出す。彼を少し見つめてから、すっくと立ち上がり気を取り直し時間を確認した。まだお昼前だ。この時間帯なら、人通りは少なめなはず。今日みたいな休日は人通りが多くなってくるので、薄汚れた格好なら早めに出たほうが得策だ。 「じゃあ、一緒に出かけるよ?僕一人なんて、許さないんだから」 「わかったわかった…」 暖房はとっくに切れている、お気に入りのバッグも持った。さっさと準備を終えてから、彼を急かして外へ向う。外はまだまだ寒いままだった。 ---- そして、現在タードと共にしゃぼんの香り漂う道を歩いている。道沿いの店目指し、二人揃って。というより、僕がくっついていないと寒さに負けて冬眠でもしてしまいそうな雰囲気だ。無理に連れて来た感じがあるから、あまり無理はさせられない。 「大丈夫?……無理言って、ごめんね」 「あー、仕方ねぇよ。元から他人任せなのも可笑しいんだし」 暖めるようにくっつきながら、しゃぼんの香りを嗅いだ。もうすぐ店だよと励ましながら、店へと向う。一歩、また一歩と近づくにつれて体が温まってきたらしく、彼も足取りがしっかりとしてきた。店についたら、手を離さないとならないのだろうか。ほんの少し、不安な気持ちになる。それは、彼に対して不安なのでなく、彼と離れることへの不安だった。あたりはもうしゃぼんの香りで一杯になっている。いい香りだ。 「…一寸まってて、布預けてくるから」 "ランドリー マリンシャワー"と書かれた店へ入ってからすぐに彼を入ってすぐの長椅子に連れて行ってからそう話した。中は外より更にしゃぼんの香りが強く立ち込めているおかげで、幻想的なような感じすらしてくるから不思議だ。受付係のマリルに案内されて、奥の方の部屋へと移動する。眼前に広がるかごが入った数々のロッカー、そのうちの一つの鍵を渡され、いつ頃洗い終わるのか告げされてから中に布をしまいこむ。ここで案内は終わりらしく、受付係はさっさと戻っていってしまった。こんな対応だから、何時までたっても大きくならないのだ。この店は。 後は奥の購買所で毛皮用の洗剤を購入し、彼のところへと向かう途中、自販機でミックスオレを二つ買っていく。 や、と手を振って帰りを告げると彼もそれに応じた。傍まで歩いていって、ミックスオレを片方渡すと自分も長椅子に腰掛ける。口火を切ったのは彼。 「……思ってたよりも長いのな、ここまでの道のりって」 「でもさ、暖房もついてるし。結構快適じゃない?」 「俺はまた外に出るのが怖いよ…」 そうして会話が始まる。やり取りはほんの二言三言だけれど、彼が思ったよりも元気そうなことが読み取れた。それだけで、先程までの不安感は消え去ってゆく。彼が元気になったのは、もしかして、僕がずっとここに来るまでくっついて暖めていたからだろうか。…そんなこと、無いか。 もしそうなら、帰りもくっついていられるだろうか。飲み干してしまったミックスオレのパックを眺めて考えていた。 「なぁ、クィル」 「ん?どしたの」 名前を呼ばれて振り返る。まさか、彼のほうから? 「何で普通のスーパーとかでシャンプーを買わないでここなんだ?」 ああ、期待させておいて。 「…僕の毛皮、何故かここのしか合わないから」 嘘だ。僕は何処のボトルだって、よっぽど毛に合わなかったり匂いが酷くなければいい。 「何を怒ってるんだよ?」 「……別に。いいもん、ここの奴気に入ってるんだもの」 何か悪いことでも聞いちまったか、と思案している。違う、余計なこと聞いたんじゃなくて。 ここで先程の愛想が何処か足りてないような案内嬢のマリルがやってきて、作業の終了を告げる。タイミングが良いのか悪いのかまるで分からない。またその背中に従い、ロッカーの鍵を開けて布を取り出す。ご丁寧に乾燥までしてあって暖かくなっている。しかしマスターキーとは実に便利な代物らしい。向こうでも従業員がほかのロッカーを開けて中に仕上がった布を入れている。 このまま渡すのは大丈夫なのだろうか、タードの表皮から考えると複雑だったが考えていても仕方ない。さっさと持っていこう。 「仕上がったよ。ほい」 「おー、ありがとさん」 本来その台詞は従業員の方々に言うべきもののような気がする。 店を出るとき、黙って彼に寄り添う。店から出たら背後から受付嬢の声が聞こえてきた時、また来よう、と思えた。 街道沿いを寄り添い歩く。時折、吐いた息が白く立ち込めてゆくのを見ると外の寒さを実感する。彼には既に布を着用させている上に寄り添っているのだが、やはり寒そうだ。人通りも多くなってきた。もうそろそろお昼時か。 ふと向こうからやってきた眼鏡をかけたピクシーと視線が合った。不味い、と思ったときにはもう遅く、早速声を掛けられてしまってどうしてよいか分からなくなる。口調からするに街角アンケートらしい。適当に受け答えするも、相手も引き下がらない。 「えっと、ずいぶんと仲良さそうですが、お二人さんはどういったご関係で?」 嗚呼、どうしようと思っていると彼も早く帰りたいのか質問に答えはじめた。 「どういったって、その、ただの友達ですが」 ……何故か胸の奥が締め付けられるような感じがして。それから聞かれた質問にも上手く答えることは無く、二匹してごちゃごちゃになりながらもどうにか終わらせられた。のだが、どうにも何かがつっかえたような感じが抜けない。脳内で反芻されるのはあの一言。『どういったって、その、ただの友達ですが』。 友達ですが。その一言が、いつまでも。 「…ただいま」 「お邪魔しますっと」 家にようやく帰ってきた。あれからというもの、足取りも重くて。一体何が気に食わないのか。 「ねぇ、タード」 声をかける。お、といって振り返るタード。何か、とでも言いたげな表情だ。 「さっきのアンケート、友達だって」 少し間が空いて、ああ、あれかと思い出したように彼は言った。対して僕はぶっきらぼうに言い放つ。 「タードはそう思ってるんだ?」 何かを問うように、違う答えを求めるように、間違いであって欲しいと思っているかの如く。 「本当は……」 ここまで言いかけて、彼は口を噤んでしまった。仕方が無いと何度自分に言い聞かせても、何処かで納得できない自分がいるのだ。きっと、あの時も納得できなかったのだと思う。 仕方ないか、と呟いた。納得は出来ないが、ここで追求するよりも後でじっくり話を聞きたい。 「それよりも」 今度こそ、あの続きを聞こう。 「体汚れたしさ、あの」 続ける。顔が無駄に熱い。 「……一緒にお風呂、入らない?」 聞いた途端に彼の表情に驚きの色がよぎる。それはそうだ。いきなり一緒にお風呂入ろと誘われてそうしようと返すのは、普通はちびか親類くらい。後、可能性として残るのは、よっぽど仲の良い友達。 そして恋人同士、なのだから。 「いや、それは、ちょっと不味く…」 「僕とは、嫌?」 訴える様に、見上げるように。呟く言葉。 「嫌じゃないって…むしろ、嬉しいさ」 返ってきた言葉。更にそれは続く。 「そんな風に、考えられてたなんて思わなくて」 そうでなければ、あんな所にも踏み込まなかったし一緒に行こうと誘うことも無かったよ。例え友達でも。 「…鈍いよ、ばか」 ぼそりと呟いて、手をつないでお風呂場へ引き寄せる。そのままの勢いで、体いっぱいに彼を抱きこむ。お返しとばかりに僕の身体も彼の大きな腕に駆け込まれて。その時の粘液の感触が、不思議とひんやりして涼しげで、とても気持ちよかった。 「お湯、流すよ」 そういってから、体の向きを変えさせてもらって蛇口を回す。とっくに温まり外界に出る機会をうかがっていたお湯たちが降り注いでくる。祝福してくれるように立ち込めた湯気の中、元から置いてあったボトルのふたを開けて中身の液状の洗剤を取り出し、彼の腹に塗り始める。 驚いて、俺はいいよという彼に汚れてるんだから、といって安全な事を伝えて泡立て始める。背中に当たるシャワーがくすぐったい。 これが。今自分の洗っている、この体が彼の、彼自身の体。そう考えると心臓が早鐘を打ち始める。背中に回って後ろも洗ってから、先程まで自分の背中に当たっていたお湯で洗い流す。 流し終えると、顔の横で彼に呟いた。 「……次は、僕の身体も、洗って欲しいな」 もう自分を押しとどめられる自信が無かった。彼にそう懇願し、買ってきたばかりの毛皮用の洗剤のボトルを両手で取ると、スポンジと共に彼に渡す。 「…わかった」 ちょっと顔を赤らめて、そう答えてくれた。彼がもっと愛しくなる。 彼の大きな手が、僕の背中にそっと触れてやさしく洗い始めた。撫でるように、泡立てながら。何処かくすぐったくて、暖かくて。自分で洗うより、春かに気持ちが良い。背中の斑点、小さな尻尾。その次に両前足を座ったまま前へ。腕が、脇へと入ってくる。どうも背中よりくすぐったく、声がつい出そうになるのを堪えているとだんだん先のほうへとスポンジは移動する。 「こっち、向いて」 声に従って振り向く。頭、首、顎。スポンジは下降してゆく。丁度腹の辺りを洗い始めたときだった。体の表面をなぞるようにぴりぴりと何かが走ったのは。 「……っ」 思わず呼吸が詰まってしまう。彼にはきっと背中にかかるシャワーの音で聞こえていないのだろう、ただ黙々と赤らみながら僕の身体を洗うだけだ。そうしている間にも、その感覚はスポンジが腹の上で回るたび襲い掛かってくる。 普段なら、こんなこと無かったのに。 「ん……もう、お腹はいいよ…先へ進んで?」 彼に声をかける。それに短い返答が帰ってくると、ようやくスポンジはお腹の上を離れる。少しの間だけ、息をするのが楽になった。後ろ足に移動してきたので、左から持ち上げる。先程までではないが、やはり何処かくすぐったい。次に右。こちらもやはり同じだ。 もう洗い終わろうとしてシャワーに手を伸ばす彼の背中を引き止める。まだ、終わってはいない。 「まだ終わってない…」 だってそこはと渋ってなかなか洗おうとしない彼にささやく。 「僕は君の全身を洗ったよ、これじゃ不公平だよ…」 ついに彼は負けた。スポンジを取り直し、避けるようにしていた下腹部へと動かしていく。まるで割れ物でも扱うかのごとく慎重に、ゆっくりと動かされて、それはついにそこへと到達した。体が反射的にぴくりと動き、自由に息をすることが出来ないほどの快感の波がうねるように、じわじわと迫ってきた。 「ぅあ……っ…」 声に出すまいと目をつぶって耐えていたのに、ついには声が出てしまった。それでも、洗い終わるまでは声を出すまいと必死に堪える。身体にあまり力が入らない。にただただ、迫り来る快楽に身を打ち震わせるほかは何も出来ずにいた。 少しの後、洗い終わるころにようやく身体の感覚が戻ってきた。が、このままではあまりにも切ない。まるで生殺しだ。ついには堪えきれなくなる。 無言で流れ続けていたシャワーを止める。どうしたんだと尋ねる彼。どうしたもこうしたも無い。 頭を打ちつけてしまわないようにゴムマットの上に静かに押し倒す。マットが軋む音が耳音で聞こえた。突然のことでびっくりした様子の彼はあわてた様子で口走る。 「おい、いきなり何をっ…」 「どうして」 彼の上に重なるようにして横たわった状態のまま、唇を開く。 「僕達は、卵を産めない者同士は付き合っちゃいけないの?どうして、好きでいたらいけないの?」 涙で視界が濁るのも構わずに、尚も続けた。 「どうして、君と僕は一緒になれないの?」 言い終えた刹那、ぐっと抱き込まれる。しばらくそのままでいた後に、彼は私の涙を拭いてこう言った。 「悪い事なんか無いだろ?なら」 私の体が持ち上げられて宙に浮く。 「いつか一緒になれる。約束する」 彼は僕の涙をふき取ると、そっと身体を降ろしてくれた。 思いが伝わったことが嬉しくて、僕も泣いた後の顔で笑う。やっと、つっかえていたものが取れた気がした。 しばし静寂が流れる。今までにこれほど居心地の良い静寂があっただろうか。 身体を自分の四足で持ち上げ、彼と視線を合わせて。 「タード、僕ね、君と」 顔が真っ赤になっているのが自分でも分かるほど熱い。心臓は彼に伝わるのではないかというほど大きく鳴っている。 「………一つに、なりたい」 唇の代わりに彼の鼻の下の部分に口付けをする。彼が受け入れてくれるように両手で僕を抱きしめた。互いの存在をそこに在ると確かめるような抱擁が終わり、やがて彼が口を開いた。 「それじゃ、後ろを向いてくれないか?」 「…うん」 ゆっくりと身体の向きを変え、しっぽの先を彼に向けるような格好となる。こちらはかなり恥ずかしい格好なのだが、彼にとっては良いのかもしれない。 足を掴んで、ゆっくりと開こうとする。ついつい足に力を入れてしまうと、力を抜くように言われてなす術も無く大きく開かれた状態となった。足が開かれているということは無論、あの場所も見えている状態にあるということだ。 「綺麗だな、お前の」 「ちょっと何処見て…っ…汚いでしょ」 思ったよりずいぶん恥ずかしい。反駁するも、気にはかけない様子で一言そんな事無いよと言われ、見られるがままになってしまう。 「さて、そろそろ…」 「な、何するの……ひぁ!」 何がどうなっているかも確認できぬまま、不意に指がそこへと触れて左右に開いた。開いたと分かるほど淫猥な音が身体の内部を通して聞え、同時に身体全体を駆け巡るように快感が流れる。そのまま指は入り口付近を押し広げるように撫でさすり始め、蠢く度に快感はより強く、より大きくなっていく。とって食われでもしてしまいそうな程のそれに耐える為なのだろうか、何かに動かされるように瞼はぎゅっと意思に反して瞑られる。 「うぁ…っ……ひゃんっ!」 「凄いな…もうこんなになってる」 息を上がらせながらもまるで痙攣するように僕の体が跳ねると、彼との間に泡は生まれては割れることを繰り返して何度も音を立てる。その音はもう僕の限界が近いことを彼に知らせているようにもとれた。既に呼吸は乱れ、手は意識を離すまいとして固く握りしめている。もう自分自身のことをかろうじて感知できるのは聴覚が僅かのみで、ほとんどの感覚は情欲に落ちてしまっていた。 「ひぁ、ぅ…やっ!そんなに、したら、僕…っ」 声はその快楽に合わせて大きくなってゆく。やがて彼の指は割れ目に存在する小さな豆を一段と強く押し付け、意識など弾け飛んでしまうような衝撃に包まれた。 「ああ゛っ!そこ、はぁ…っ!僕、僕っ、イっちゃ……ぃ、ひぁあああぁああ゛あ゛あっ!!」 凄まじいまでの快感に激しく体躯は震え上がり、耐え切れなくなった秘所からは大量の潮が噴出されていく。荒い息を整えようとしている間も、なおも余韻が頭にこびりついて呼吸を乱そうとする。だんだんと感覚を取り戻していく。交代の時は迫っていた。 ようやっと息を整え終わると、目の前には彼の劣情の象徴がそびえ立っているのが確認できた。 「なんだ……そっちだってこんなになってるじゃんか?」 「あんまり見るな、恥ずか…」 「恥ずかしいなんていわせないよ?僕のだって見て、弄繰り回しまでしたくせに」 先程までの仕返しの意味も込め、十分に観察した後に恐る恐る触れてみる。手の先が触れると、まるで別の生き物のように反応を返してきた。 今度はしっかりと掴む。びくりと大きな動きを見せたそれは炎タイプであるはずの自分でも熱いと思えて驚いた。しかし掴んだはいいがどうすればよいか分からず、仕方なく周りの洗剤の泡を使って擦るように洗いはじめる。 「うわっ……っぐ、やば…」 「気持ち良いかな?そんな声あげて…」 彼が呻くような声を返してきたことが嬉しく思えて、より丹念に、勢いを増しながら手を動かし続けた。掌中の肉棒を、ときには平の肉球を使い、又あるときには爪を使って。根元から先まで、外側から尿道の外へ通じるところまで。 「う、っく……ぐぁ…う!」 細かく打ち震えるそれにまとわりつく泡は徐々に無くなっていき、洗うためにも一旦手を離す。つかの間の休息も、ボトルを押して洗剤を取り出して雄にかけるまでの間で終わりを告げた。 「ひっ…つめっ、た」 「こうしないと洗えないでしょ?」 とろりと粘度のある液体が垂れる前に、下側から掬いあげるようにして"手洗い"を再開する。一度はしぼみかけた一物が、手が上下するに従いその固さと熱を取り戻していくのが分かった。 そろそろ、かな。 追い上げをかけるかのごとく、いっそう手の動きを激しく、大きく。すぐに限界が来ることぐらい、簡単に予測できた。 「ぐぅ……うああっ!!」 白濁したぬめる迸りが開放されて、僕の手や腕、顔にまでかかってくる。とっさに目を瞑った為、目には入らなかったが。さっきまでの自分のように息を荒げている彼に間髪入れずに呟く。勿論、しっかりと聞えるように。 「こんなに出るもんなんだねぇ、タード」 顔をにやつかせながら、彼のほうに向きなおす。 「この白いの、全部タードのだよ?」 そういって手についたものを見せ付けた。指ともいえないような手の隙間を精一杯開くと、白い架け橋が架かるのが分かる。 ふふっ、と笑ってからも尚彼に言う。 「まだまだいけるよね?これからが本番なんだから」 再び座った姿勢になった。向き合うようにして、互いに相手の目を見つめる。 「う……」 「どうした、怖いか?」 彼が投げかけてきた言葉には気遣いが聞き取れた。まさか今更、と返すもののこれから行われる行為は如何せん初めてなものだから、緊張からの胸の高鳴り、そして少しの道のものに対しての恐怖があったことは確かである。 「大丈夫、だな?」 「早くしてよ……不安になるから」 ほんの少し虚勢を張って、じっと目を見据えた。視線の先の目の持ち主は、心構えが出来たものだと判断したらしく。僕の身体を持ち上げて、秘所に彼自身を宛がった。既に熱が伝わってくる。身体の泡はほとんど消えながらも、湯気のおかげで乾いてしまうことなく、少しだけ残っていた。 ゆっくり、ゆっくりと自分の中に入ってくるのが分かる。熱い。融かされてしまいそうだった。くぷりと音を立てて入ってくるそれはやがてあるところで止まる。 純潔の証。はしった痛みに顔をしかめる。 「そのまま…続けて」 痛みを我慢して、タードに笑いかけて話す。これで彼と、一つに。激しい動悸とどうしようもない気分の高揚が一気にやってきた。 やがて、鋭い痛みが走って彼の全てが中へと入っていく。痛くもあった。が、どうして繋がったという事実が嬉しくて。 「痛いか?」 「…少し。まだ、動かないで……」 ふぅと息をつこうと思っても腹を満たすその感覚が、それを許さない。痛みが引いてゆくのを待ち、快楽が訪れるまで、一体何分、何時間たったのだろうと疑問に思うほど長い時間が過ぎた気がした。 「そろ、そろ…動いても、いいよ」 声をかけながら自分でも少しずつ、ゆったりとした動きで動き始める。最初は慣らすような、とても緩やかな動きだった。だが、徐々にその原因となる痛みは無くなってゆき、代わりに少しずつ快感が現れてくる。 「うぁっ、ぁあぅ…ひぅう!」 「ふうっ…っく…」 しびれるような快感が襲い掛かってくる。体躯は性感に駆り立てられるがままに彼を求め、溢れ出す愛液はその行為を促進させる。淫らな音が風呂場全体に響き渡った。外に聞えないという保障など無かったが、そんな事頭で考える余裕など残されてはいない。既に頭は快感に、愛欲に蕩けてしまっていたのだから。 「もっと…ひゃあっ、きてっ……っあ!」 「くぅ…はぁ、はっ……そろそろ…!」 音も、動きも、声も。どんどん大きく、激しくなっていくそれは留まるところを知らずに、快感を、相手を求めて。背中の炎の代わりに情欲の焔をたぎらせて、快感をむさぼって。理性などかけらも残っていない。結合部から音を立て生まれる泡は、もはや洗剤のものか、はたまた別のものか、区別がまるでつかない。 「も、もう、だぁ…め……っ、っあ゛」 そして、とうとう決壊した。 「っひああああぁぁああぁああ゛あ゛あっ!!!」 「うっ、ぐぁああっ!!!」 頭の中で思いっきり何かが弾けて、前も後ろも分からなくなる。ただただ、堪えきれないほどの快感が体中を電撃のように暴れまわった。少し遅れて、自分の中を熱い液体が満たしていくのがどうにか知覚できたが、それすらも気持ちがいい。貪欲に、一滴残らず搾り取ろうとまるで自分のものでないかのように胎内がうねる。 余韻に浸りながらも、じっとしていた。一足早く抜け出したらしいタードが己を抜こうとするのを静止する。 「まだ、繋がったままで……」 充足感に包まれながら、互いに顔を見合わせた。赤紫のさした彼の顔は、今までのどんな顔よりも魅力的だ。 「ふふ」 「…どうした?」 彼は問う。僕は答えた。 「やっと、一つになれたね」 照れながらも、彼は返す。 「……ああ」 窓から差し込む夕日の光が、とても眩しく感じた。 いまは、まだこのままで。この時間が永遠に続けば良いと、心からそう願った。 ---- 「シャワー、掛けるぞ…」 「ん……お願い」 再びお湯が身体に降りかかってくる。と同時に、身体についていた泡や汚れが綺麗に流れ落ちていく。だんだん、体の感覚が戻ってきた。全て落ちたのを確認すると、早々とお湯を止めて湯船につかろうとふたを開ける。と、中から待ってましたと言わんばかりの湯気が立ち込めてくる。もう何時間、この湯気たちは待ち続けていたのだろうか。 湯船へと先に入ると、彼も後から入ってくる。すこし二人で入るには狭いが、それがかえって嬉しかった。 「僕ね、」 タードに話しかける。 「しゃぼんの香りが好きなんだ。甘い様な、苦い様な。それでいて何処か暖かく、しかも爽やかで。そして、何処か羨ましい。そんななんとも形容しがた い、素晴らしい香り」 「羨ましい?」 「そう。ただ、今はどうだろう?」 何故に、と言った彼に心の底からの笑いをかけながら答えた。 「まるで君みたいじゃんか。君が居れば、」 大きく大きく、笑いながら。 「僕には十分だから。ずっと、ずっと一緒にいようね」 ずっと、何があっても、二人で。 風呂から上がった時に見た窓の景色にはまだ、あのしゃぼんの香りが漂い続けている。しかし、もうあの時感じた羨ましさは残ってはいなかった。 最後に、僕は窓の外、しゃぼんの香り浮かぶ澄みゆく空に微笑んだ。 ~fin. ---- *あとがき [#m8cdbe72] まずは仮面小説大会お疲れ様でした。某狐様には感謝です。 この話は正直に言ってしまうと(多少言い訳っぽくなりますが)ぼろぼろです。 まず執筆期間が5日間と舐めすぎなこと。やる気あんのかと野次られそうですが、どうにも時間がありませんでした。 次に、最後のほうの数行がものの見事にすっぽ抜けてて、気づいた時には後の祭り。無くてもあってもあまり変わらないのですが……。 とまあ、こんな感じで、最後の方にはもういったれと勢いだけの物になってしまいました。 が、こんな文でも2票いただきまして、6位につかせて頂けました。 票を入れてくれたお二方、あとリセットされる前に1票入れてくださった方、本当に有り難うございました。正直票もらえないかな、とあきらめていたのでとても嬉しかった記憶があります。 作中の二匹の名前は、一応由来としてはマグマラシはQuilava(英名)から、ニョロボンはtadpole(御玉杓子)からそれぞれとりました。本当はタッドとすべきなのですが個人の好みでこうなりました。 体格差とかはこの際もうぜんぜん考えていません。マグマラシは確か普段は四足だったはず。ニョロボンってどうやって布かぶるんでしょう。というか、こんな人いないでしょう。常識的に考えて。 まあクィル君はいい子なのでしょう。知らんけど。 クィル君がボクッ娘なのは、作者の頭だとマグマラシはケモショタだからです。ただしバクフーンは姉御。異論は認めます。 タードの部屋がきったないのはこうなりたくないなぁと思った結果です。何これおぞましい。 ボディソープで、というのは随分前に何処かで見かけて、なおかつここのwikiでは少なかったからだという理由だけで決定しました。正直、もっと練れば良かったです。口惜しい。 とまあ、自分で書いておきながら疑問の多く残る問題作でしたが、楽しんで書かせていただけました。読んでくださった皆様に感謝です。本当に有り難うございました! 以下ノベルチェッカー先生のお言葉。 【作品名】 しゃぼんの香りと澄みゆく空と 【原稿用紙(20x20行)】 48.5(枚) 【総文字数】 16039(字) 【行数】 349(行) 【台詞:地の文】 18:81(%) 【ひら:カタ:漢字:他】 62:1:32:2(%) 【平均台詞例】 「ああああああああああ、ああああああ」 一台詞:19(字)読点:22(字毎)句点:81(字毎) 【平均地の文例】 ああああああああああああ。ああ、ああああああああああああああああああああああ。ああああああああ、あああああああああああ ああああああああああ。 一行:71(字)読点:32(字毎)句点:26(字毎) 【甘々自動感想】 すばらしい作品でした。 長くもなく短くもなく、心地よい長さでした。 三人称の歴史物とか日本を舞台にした作品というのはやはり良いですね。 文章が適度に区切ってあるため、読みにくさは感じられません。 また、台詞と地の文の割合も良い。 「恥ずかしいなんていわせないよ?僕のだって見て、弄繰り回しまでしたくせに」という言葉が心に響きました。 あと、文章作法を守ってない箇所がちょくちょくあったように思います。 あと、個人的にひらがなで書いたほうがいいと思ってる漢字がいくつか使われていました。 これからもがんばってください! 応援してます! 毎度のことながら先生、台詞選びが酷いですね。それは……。 最後に、局部をしゃぼんで洗ったら早めに流さないと粘膜が痛んでやばいそうです。絶対に真似しないで下さいね。確かめたわけじゃありませんが。 以下コメント。何でも、よろしければどうぞー。 #pcomment IP:61.22.93.158 TIME:"2013-01-14 (月) 18:11:32" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E3%81%97%E3%82%83%E3%81%BC%E3%82%93%E3%81%AE%E9%A6%99%E3%82%8A%E3%81%A8%E6%BE%84%E3%81%BF%E3%82%86%E3%81%8F%E7%A9%BA%E3%81%A8" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 9.0; Windows NT 6.1; WOW64; Trident/5.0)"