お初の方は初めまして、[[けん]]と申します。 人間とポケモンの直接的な描写や倒錯した表現を多々含みます。 苦手な方の閲覧はお控えください。 ---- 1. ヒトとポケモン 「スグル、元気がなさそうだねェ」 借りたホテルのベッドの上で蹲ったままの主人を遠巻きにエンニュートは言う。 その一言につられるように他のポケモンたちも主人の様子を見に集まってくるのだが。 「ここの所ずっとあんな感じだもんなぁ」 「ポケモントレーナーやめて、シャカイジンってのになるって聞いたよ」 「シャカイジンってなんだ? おいしいものなのかよ」 「そんなの知らないよ!」 それぞれジャラランガ、サンドパン、ドデカバシは口をはさむ。 無神経なオス共の会話がなんと不快か、エンニュートは歯を鳴らしたい欲求に駆られた。 このポケモンたちが言う通り、ほぼ成人を迎えたスグルはとうとうトレーナーを卒業して、普通のごく一般的な生活に戻るという決断をしたのだと言う。 それが人間にとっては普通のことではあったが、ポケモンたちにとっては酷なことであった。 スグルはそれが分かっていたから余計に悩みを募らせていたのである。 それは彼らたちも痛いほどわかっていただろう。 ポケモンフーズの製造会社に内定をもらい、一週間後には正式な入社式が執り行われる。 つまりは今の内に今まで思い描いていた「島巡り」や「ポケモンとの生活」に一端の区切りをつける必要があった。 彼の中でそれは大きな通過点に過ぎないだろう。 ヒトの人生はポケモンたちが思い描く以上に長く太いもの。 今やるべきことは何かと考えたときに、スグルは自分自身と向き合うことだと言うこと。 何も考えていないオスたちに比べれば、エンニュートは少しだけ彼の元気のない理由がわかるのである。 そしてエンニュート以上に苦しい思いをしているポケモンがいることも彼女は知っている。 言い争いをしている三匹を後目に、エンニュートはそのポケモンの元へ向かう。 そのポケモンはバルコニーで一人立ち尽くしていた。 「どうすることもできないね」 ぽつりと言うと、そのポケモンは小さく唸った。 「あんたが一番スグルのこと、知っているんだろう? 何か教えてくれないか」 「あたしは何も知らない。 思い出したくもない」 はぁと溜息をついたのはスグルの一番の理解者だったガオガエンだった。 手が付けられないほどのお転婆で博士ですら手を焼いた彼女を指名したのはスグル。 そして彼女を受け入れたのもスグル。 どんなに旅がつらくてもガオガエンとスグルは諦めなかった。 水の試練で大敗しても、博士との一対一で死にそうな思いをしてもガオガエンは諦めなかった。スグルの顔を見ていると言葉にし難い感情がふつふつ湧くのだ。 それなのに今のスグルときたらなんだ、あんな情けない主人は見たことないと言わんばかりの変わり果てた姿。 「あんたが悩んでちゃあ、他の奴らもあんな感じだ」 「あんなのいつも通りじゃないか」 「まァそうなんだけどサ。 そういえばガオガエン、あんたが悩んでいる事はきっとそれだけじゃないはずだよね?」 エンニュートは何かを知ったかのようにガオガエンに問いかける。 すると彼女の赤い顔がさらに赤く染まるのだ。何を照れる必要があるのかと尋ねたいが、あえて何も言わなかった。 「うるさいな、これはあたしとスグルの問題だよ」 「あたしも手伝おうか?」 「遠慮しておくよ」 ガオガエンは右手で顔を抑える。 どういう訳か頬が火照る。 スグルが悩んでいる理由がそれだけではないということをなんで彼女は知っているのだとガオガエンは言いたかったのだ。 彼女だけが知るスグルの抱える気持ち、秘めたる思い。それは地よりも海よりも深い、情人では理解の及ばない世界。 「スグルも男の子なんだなって」 にやにやしながらエンニュートは囁いた。 この言葉が数通りの意味合いが含まれていることをガオガエンは分かっていた。故に、彼女はそれ以上口を開きたくなかったはず。 「なんだよ、知ってるなら言ってくれ」 もうこの際全てを終わりにしてしまえと言わんばかりにガオガエンは言い放つ。 恥じらいを浮かべながらも抵抗のない言葉にエンニュートは面食らいながら、こうつづけた。 「一昨日の晩、 あたしはふとスグルの寝室を見たのさ。 するとスグルは性欲の処理をしていた。 ずっとあんたの名前を頻りに呼んでね。 きっとあんたとセックスしている情景を浮かべていたんだろうさ」 とても気持ちよさそうだったよとトドメの一言を付け加えると、ガオガエンの耳は完全に垂れた。 ガオガエンもずっと前から旅をしている頃から薄々感じてはいたが。 「なあガオガエン、スグルにとってあんたは絶好のメスってことだ。 オカズにされるなんて名誉だ」 「あんな男に食われたくない」 「何言ってるのさ。 あたしだったらすぐヤっちまうさ。 あんなに我を忘れるぐらいに好きな相手に没頭できるなんて良いことだヨ」 「エンニュートには一生分からないさ。いや、分かってもらいたくない。あたしはもう何も見たくない」 それ以降、ガオガエンはとうとう口を閉ざしてしまった。 目尻に涙をためていたのにエンニュートは気が付くと、そっとバルコニーを後にする。 きっと詰られたと彼女は思い込んだのだと思うとエンニュートは心を痛める。 罪悪感を抱えながら他のポケモンたちがいる部屋ととぼとぼ戻った。 「でも結局さ、あたしらの言葉ってスグルには届かないんだよねェ」 むなしい彼女の一鳴きが微かに部屋に響く。 2. スグルとガオガエン ちょうど四年前、僕はニャビーと出会った。 両親と親戚に背中押される形で、半ば強制で島巡りに参加する僕。 事情を察した島キングから相棒となるポケモンが分け与えられる。 気が強くて、自由気ままな性格だったニャビーを選んだのは、ただ単純にニャビーの生き方や性格があまりにうらやましかったからに違いない。 周りの目に怯えるようにいきる僕にはこのポケモンがあまりに輝かしく思えた。 最初の一か月は地獄のような日々で、 言うことの聞かないニャビーを手名付けるのに一生懸命でバトルに勝てたことなんてほぼなかったはずだ。 このまま島巡りを諦めてしまおうかと思ったぐらいに。 僕にとってこの旅はただの苦痛でしかない、周りの子が島巡りをするから僕もしなくてはならないというルールはどこから生まれたのか、そしてどうしてわざわざ旅なんかする必要があるのかと喉から出かかる言葉たち。 真横でのびをしながら毛繕いをするニャビーに、どうしたら君みたいに自由気ままに生きることができるんだい、と小声で尋ねたことがあった。ただ、人間の言葉なんてニャビーに伝わるはずはない。 いろんなものに縛られて、しがらみだらけのこの生き方が自分には窮屈すぎて呼吸もままならない。僕も君と同じようなポケモンになれればいいのになと何度も思った。思うだけで、何の解決にはならないが。 それでも諦めず、僕は島巡りを再開した。 再開した理由も、だんだんニャビーが僕の言うことを分かってくれているのかという錯覚に陥ったからだ。 息が合っていると思い込むようにした。 + これは二つ目の島を訪れたときの出来事だった。 コニコシティに訪れた際に僕と進化したニャヒートは共にアイスを食べながら休憩をしていた時のことだったと思う。 「貴方のニャヒート、ベッピンさんね」 通りがかったお上品な年上の女性にそう言われ、僕は思わず色々と疑ってしまったのだ。 しばらくその女性と話した結果、僕がずっとオスだと思っていたニャヒートはメスだったという事実に気が付くことになる。 毛づやもいいし、とても手入れが行き届いてる。そして幸せそうと太鼓判を押され嬉しい気持ちは半面、今までの接し方を許してほしいとも僕は思う。 なにより僕の思っている言葉が彼女には届かない事実に僕にはつらかった。 話せれば、きっと彼女の思っていることも僕に対する不満も全部言えるだろうにと。 食べずに持ったままのアイスはやがて無様に溶けてしまった。 ぷいと横を向いてしまったままのニャヒートに申し訳ない気持ちを抱きながら、またその横顔に色々ともやもやした気持ちを抱きそうになるのを感じながら一種の息苦しさを感じる。 きっとこの暑さは僕の頭すらおかしくしてしまったと思うようにする。そうしないとやっていけないような気がして。 + メレメレ、アーカラ、ウラウラ、ボニと四つの島を訪れて、島キングに挑む日々。 いつしか四年も経っていて、僕の身長も幾分か伸びたことだろう。 (そういう風に信じないと己の身長の無さに悲しくなってくるのだ) 華奢だったニャヒートも屈強なガオガエンになり、あと数匹パートナーのポケモンが増えた。 数多くの試練は必ずしも楽なものではなくて、時には大敗に顔を歪ませるときもあった。それでもこの子たちは僕についてきてくれた。 僕にとってその事実だけが嬉しかった。 チャンピオンにならないかとお誘いの言葉を頂いたこともあったが、僕は丁重にお断りする。 そこまで僕は強くなろうとも思わないし、ある程度の区切りがついたらこの旅をやめようとも思っていたからだ。 そして今まで戦ってくれた仲間たちをしっかり元住んでいた場所へ逃がしてあげることを考えていた。 ずっと一緒に過ごしてはいたが、友達のいない僕とは違いこの子たちにも家族や仲間、友達がいるはずだ。 しかしパートナーたちは僕のもとを離れることを酷く嫌がった。 離れ離れになるのを嫌がる顔を見ていると心苦しくもなったので、結局一匹も逃がさずに僕は故郷のメレメレ島へ帰ることとなる。 * 借りたホテルの一室で僕は一人。 パートナーたちをしっかり休ませてあげるという理由の休暇を設ける。 先日の就職試験でありがたいことに内定をいただき、正式に社会人になる一歩を踏み出した。 はじめて島巡りをするときのような複雑な気持ちに押しつぶされてしまいそうで、溜息が止まない。 ベッドに四肢を投げ出すと、どっと押し寄せる疲労に目を閉じてしまいそうだ。 しばらくするとこの子たちとも長い間お別れになると考えると急に目頭が熱くなるのだ。 ようやく心開ける存在と出会ったのにと。 正直、入社式が怖くてたまらなかった。 また僕を見下す人間がいるんじゃないかと不安になる。 幼いころのトラウマというか恐怖が心をかき乱す。 気丈な彼女がうらやましいと一人ぼやく。 と同時にそんな彼女が僕は愛しくてたまらなかった。 僕にとって彼女は一番の理解者だと思うし、本音を打ち明けられる唯一の存在。 進化して雄々しくなってしまったが、余計にその姿が僕にとっては色々とよろしくないものを彷彿とさせる。 そのような趣味は一切持ってはいないのにと言い聞かせる。 でも僕にとっては彼女は一匹のメスであり女だ。 僕のことをひょっとしたら嫌っているかもしれない、それでも僕はずっと彼女のことを好きでいたいと思わんばかり、僕は一人催す。 なんで君が人間じゃないんだと僕は何度も思った。 やましい気持ちを抱えたのはちょうど彼女が進化した時から。 あれから一年ほどこの気持ちを抱えていたが、本当に気をどうにかしてしまいそうだ。 わからない、俺にはわからない。 どうしてこんなにも君のことが好きなんだ。 いっそ人間をやめてしまいたい、と精一杯息を吐き出してその場で満たされた。 火照る体はまるで炎タイプの彼女の身体のように暑い。 滲む汗はいつも以上。 萎えてしまった僕の感情を奮い立たせてくれるのは彼女の魅力か、それとも。 いつものように背中をよじ登る罪悪感に身を粉々にしたかったのは今日に限ったことではなかったが、今日はいつも以上に心が押しつぶされてしまったのは言うまでもない。 その焼けるような彼女の体温に抱かれて果てることができたらどんなに楽だろう。俺は一人ごちる。 ---- なかがき 現在誠意執筆中です。 近いうちに続編の推敲が終わるので、しばしお待ちください。 推敲が予想以上に早く終わりました。 次回の執筆が予想以上に遅延していまして、ご迷惑をおかけいたします。 ケツタタキされつつガンバリマス...。 それではしばらくの間、お付き合いくださいませ。 #pcomment(しがらみコメントログ,10,below)