ポケモン小説wiki
ごめんなさい の変更点


written by ひぜん

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電灯の薄らとした灯りが差し込むひんやりとした2階の薄暗い廊下。
雪が深々と降り積もる季節は屋根の下にいようと例外なく寒く、もちろん暖房なんて通っているわけでもないごく普通の廊下で佇む俺の足は、
靴下を穿いていることを忘れさせる程に冷たくなり、そのあまりの冷たさに思わず片足を上げてはもう片方の脚にこすり付ける動作を繰り返す。
何も、好きでこんな凍てつく廊下にずっといるわけではないし、かといって誰かにここから動かない事を強要されているわけでもない。
廊下を数歩奥に進めば俺の部屋の扉があり、そこに行けば当たり前のようにストーブが置いてあるし、絨毯も敷かれているから足が凍えることもないだろう。
というよりも、いつもなら真っ先に自室に向かっている。
普段なら別に気にも留めない母の部屋の扉。この扉の奥にいる相手に大事な話があって、今こうしてここに立っているのだが。
母の部屋にいるのだから、相手は当然母。……ではない。むしろ、母の方がまだ幾分楽だったんじゃないか、と思う。
部屋を開けるドアノブに右手を掛けようとしては、その手は寸前で止まる。しばらく部屋を開けようか悩んだところで、宙を泳いだうちに俺の頭に不時着し、ぼりぼりと髪の毛を掻き&ruby(むし){毟};る。
触れたら石化してしまう呪いでも掛けられているわけでもないのに、さもそうであるかと思うほどに、俺は扉に触れる事すら&ruby(ためら){躊躇};っていた。
……何、相手はポケモン1匹じゃないか。それも俺の、昔からの付き合いの。昔からの付き合いの……。
……最後に話したの、いつだったっけかな…。数か月?いや、もっと前か……。1年以上は経っている気がする。
というか、姿すらまともに見た記憶がない。本当に同じ屋根の下で生活していたのかと思うほどに、この1年は金色の毛並が視界に入った記憶がない。
それなのに、そんなことすらも気に留めなくなっていた俺がいたのは紛れもない事実。
最後に彼女に掛けた言葉が頭に蘇ってくる。その言葉が頭の中に響き、その時の景色が鮮明になるにつれ、俺の中には後悔の念が重く重くのしかかってくる。
小さい頃から一緒だったパートナーとも言える相手に投げつけられた、暴言の数々。
投げつけたのは暴言だけではなかった。その時手元にあった物と言う物、手当り次第に投げつけて、感情のままに机を殴って、「出ていけ」と追い出したあの時の記憶。
あの時の俺は本当にどうにかしていた。何をそんなに怒り狂う必要があったのだろうか。彼女が、何をしたって言うんだ。
その時は彼女がいなくなって清々とすらしていた気がする。気が付けば、部屋に彼女がいない生活が当たり前になって、いつしかそんなことがあったことも忘れ、
家の中なのに彼女の姿を見ることもなくなる。謝るなんて事も頭に浮かばないまま、月日だけが確実に過ぎて行った。

――謝らなければならない。

廊下で突っ立っていたって、何も変わらないし、何も伝えられない。俺は覚悟を決め、ついに触れる事すらできなかったドアノブに手を掛けた。
ふぅっ、と一息ついてから、ゆっくりとドアノブを下に降ろし、扉を押し開く。一度に全部は開かず、最初は部屋の中が&ruby(うかが){窺};い知れる程度に。
部屋の中は廊下と同じか、それより少しだけ寒さが和らいだ程度の暗い空間だった。スタンドライトの優しい光だけが、僅かに部屋の中を照らしている。

「……入るぞ」

そう言い、ドアを開けきり中に入る。これから謝ろうとしているのに、入るぞ、というのは&ruby(いささ){些};か言葉が荒かったかもしれないが、
正直そんなことを考える余裕はないくらいに、俺はとても緊張している。
開け切ったドアの向こう、ベッドと壁からできる角に、彼女は……いた。
俺とは正反対を向く形で、それでいて顔を隠すように9つの尻尾で顔を覆い、小さく、小さく……まるで部屋から存在を消そうとしているんじゃないかと思うほどに、彼女は縮こまって。
スタンドライトの灯りに照らし出される彼女の金色の毛並は、遠目に見てもぼさぼさで、毛づやは明らかに悪くなっていた。
毎日のブラッシング、日課だったもんな……。あの日以来、いや、それよりもっと前からか……。まったくブラッシングなんてしてあげなくなっていた。
忙しいことを言い訳にして、気づけばまったく相手にしようともしていなかったな……。

「キュウコン……」

思わず、縮こまる主の名を呼んでいた。
期待していたのかもしれない。名前を呼べば、また昔のように仲が良かった俺たちに戻れる気がして。心のどこかで、彼女がそれを望んでいるのではと思って。
しかし、キュウコンは名前を呼ばれた瞬間にビクリと体を震わせただけで、しばらく経ってもそれ以外に反応は示さない。
心なしか、先ほどよりもさらに小さく縮こまった気がする。
下手に声を掛けてしまったせいでできた妙な間が、とても気まずい。重苦しい空気に耐えかねて、一歩、彼女の近づいたときだった。

「……何」

久しぶりに聞いた、彼女の声。たった一言。その一言が、いつも一緒だった昔を思い出させてくれる気がした。
ただ、その声は今までに聞いたことがないような低さで、何だか刃が立っているような切れ味すら感じさせる。

「その、何ていうか……久しぶり」

違う、そうじゃない。あの時のことを謝りたいんだ。ただ、彼女のどこか突き放すようなトーンに押され、思うように切り出せない。
何を掴もうとするわけでもない右手がまた宙を泳ぎ、今度はおでこに不時着しそのまま天井を仰ぐ。
そのまま目を瞑り、考えるは頭の中に散らばる、たくさんの言葉のピース。上手く伝えるために、一つ一つ整理していく。
整理をする中で浮かんできた、昔の記憶。
まるでフィルムを装着したように、頭の中にあの頃の思い出が蘇る------



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「キュウコン!」

玄関の扉を、開けるというよりも突き破らんばかりの勢いで押し開け、家中に響く子供の声。息を切らして帰宅して、開口一番に出てきた言葉がただいまではないのは、
それだけその子が呼ぶ名前の主に思いを馳せていたから、というのには少々大げさかもしれない。
が、それだけキュウコンのことを思っていたのは事実であり、実際小学校に居る間、ずっとキュウコンの事で頭がいっぱいだった。
今日は何をして遊ぼうかとか、一緒にどこへ行こうか、&ruby(はたまた){将又};友達に自慢しに行こうか…。とにかく、キュウコンが大好きで仕方がなかった記憶がある。

「なぁに?」

玄関で膝に手をついて肩で呼吸する子供とは対照的に、リビングに通じる扉の隙間からひょっこり顔だけを覗かせて返事をする声の主はとても穏やかで。
9本の尻尾を&ruby(なび){靡};かせ、とっとっ、と軽快な足取りでこちらに向かってくる。
呼ばれたことに対しての疑問、というのは彼女の柔らかい笑みからは汲み取れず、既に次に起きる事は確信している様子だった。
実際、次の瞬間には彼女は汗だくの子供に抱きつかれており、何も知らなければその勢いに間違いなく押し倒されていただろう。
折角のさらさらとした綺麗な毛並が汗を含んでしまったというのに、そんなことは一切気にせず、むしろ全身一杯でその子の温もりが感じられる事がとても嬉しそうであった。

「ただいまっ」
「おかえり、カッちゃん」

トレーナーとポケモン、というよりも、まるで本当に親子のような仲で、遅れてリビングから出てきた実の母親にすら入る隙間がないほどだった。



元々俺とキュウコンの出会いはなかなかに変わったものと親から聞いていた。
それは小学校に入る前の話、いや、俺が一人で立ち歩きできるかできないかの頃にまで&ruby(さかのぼ){遡};るらしい。
母の押すベビーカーに乗って公園まで散歩に来た時だ。何処の鳥ポケモンの悪戯か、ベビーカーの中にモンスターボールが落ちてきたそうで、運悪くその落下地点にいた幼き頃の俺は泣きながらそのモンスターボールを投げ飛ばしたそうだ。
これまたどんな運命の悪戯なのか、その投げ飛ばしたボールがいいように草むらの中に転がっていき、偶然ポケモンをゲットしてしまったそうで。
その時に捕まえたポケモンが、キュウコンに進化する前のロコンというポケモンだ。
もちろん、元々ゲットする気などあるわけもなかった母は、ロコンのことを&ruby(ふびん){不憫};に思い逃がしてあげた。
なのにロコンはその場から立ち去ろうとしないどころか、泣きやまない俺の元までやってきて、落ち着くまでずっとそばに寄り添ってあやしていてくれていたそうだ。
泣きやんだ後も離れようとはせず、俺に尻尾や頭の飾り毛などいいように引っ張られておもちゃにされていたというのに、嫌な顔一つせず、むしろ楽しそうにしていたと……。



その日から、俺の近くにはいつもロコンが傍にいて、物心ついたときにはもうそれが当たり前の日常だと認識していた。
家にいるときも、出かけるときもいつだって一緒。食事をしたり遊んだり、時には一緒にお風呂に入ることもあった。人と違って乾かすのはとても大変だったけれど……。
でも、そんなことは苦ではなかった。だって、ロコンの喜ぶ顔を見ることができる、それがとても嬉しかったから。

キュウコンに進化したのは、俺が小学生にあがった時だった。おばあちゃんからお祝いにと、ロコンが進化できるという炎の石を貰ったのだ。
その瞬間は今でも忘れない。透き通るような黄金色の中にまるで小さな炎が閉じ込められたような焔朱色が映えるその石にロコンが触れた刹那、ロコンを包み込む眩しい進化の光。
口を開けて目を丸くする俺の目の前で徐々にその姿を変えいく。当時の俺が何とか抱けるくらいだった体はあっという間に俺の身長程にまで伸び、
くるんとカールした6つの尻尾は9つに分かれ、優雅に靡く。
あっという間にその瞬間は過ぎ去り、眩い光から解かれたロコン------新たにその姿を現したキュウコンは、閉じていた&ruby(まぶた){瞼};をゆっくりと開け、あっけにとられている俺に首をかしげつつも優しく微笑みかける。

「カッちゃん?」

次の瞬間には、キュウコンは思いっきり抱きつかれ俺の下敷きになる様に押し倒されていた。
おめでとう!------



ある時、俺はトレーナーを目指すという近所の友達にポケモンバトルを挑まれた。周りの子供たちはまだポケモンを持っていないか、持っていても未進化の小さなポケモンであることが多い。
「進化していて強そうだから」という理由で俺とキュウコンに勝負を仕掛けてきたらしい。
ポケモンバトルなんかしたことがなかった俺だが、テレビや公園なんかで目にすることは多く、興味がなかったと言えば嘘になる。白熱したバトルに憧れるのは、男の子としての&ruby(さが){性};なのだろうか。
キュウコンに聞いてみると、少し困ったような表情を浮かべつつこくりと頷いてくれたので、俺たちは初めてのバトルをすることになった。

結果は散々であった。相手がトレーナーを目指しているだけあってそこそこの経験を積んでいたというのももちろんあったが、
それ以上に俺のポケモンバトルに対する知識、経験の無さが&ruby(けんちょ){顕著};に結果に出る形となった。
単調に突っ込んでくるだけの相手に対してもまともな指示が出せず、挙句の果てにはキュウコンに「何かすごいビーム出して!」なんて、指示にも満たない無茶振りをし困惑させてしまい、勝負にもならなかった。
目を閉じたまま起き上がることすらできないキュウコンに駆け寄って、死んじゃ嫌だと泣きついていたのは今でもよく覚えている。

「キュウコン…っ! ごめんっなさい…っ、本当に、……っ!」
「カッちゃんは悪くないよ、だから、泣かないで」

ポケモンセンターの病床で目覚めたキュウコンに、俺は&ruby(すす){啜};り泣きながらずっと謝り続けていた。
大丈夫だよと、そんな俺を優しく慰めてくれるキュウコンにますます後悔の念が強くなる。
その日以来、俺はポケモンバトルに手を出そうとすることはなくなった。懲り懲りだった。そして、それまで以上にキュウコンとの接し方が密になっていった。
どんな時も離れたくないと、それまで以上に常に行動を共にするようになった。ブラッシングも毎日欠かさずするようになっていた。

そんな平和な日々がこのままずっと続く。少なからず、その時の俺はそう信じて疑わなかっただろう。
バトルで傷ついたキュウコンの姿を見て、もう二度とそんな姿を見たくない。そう強く願っていた俺自身が、まさか彼女を傷つけることになるだなんて。
あまりにも距離が近すぎた反動だったのかもしれない。心変わりというものが、これほどまでに恐ろしいことだなんて……。



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いつからだったのだろうか、と聞かれれば、そう深く考えずとも答えられる、俺とキュウコンの間に亀裂が入り始めた時期。
自分自身でもよく分からない。何故そんなものが生まれてしまったのか。その矛先がキュウコンに向けられてしまったのか。
ただはっきりと自覚しているのは、その時期は周りの目線が気になって仕方がなくて、&ruby(ささい){些細};なことでイライラしていたかなということ。

長かった6年の小学校生活を終え、中学に上がり1年が過ぎた頃。中学校生活にもすっかり慣れてきた時だった。きっかけは、ほんとに些細なことだった気がする。

(ねぇ、あそこの子見て)

どこからともなく聞こえてきた、女子の囁き声。学ラン姿でキュウコンと一緒に街を歩いていた時だった。
それが俺のことを指しているような気がして、何故だか無性に恥ずかしくなったのは今でも覚えている。
別に、悪い方に言われていたわけじゃないかもしれない。そもそも、俺のことを指していたかどうかも分からない。
でも、その時の俺にとっての一番の懸念事項は、“好奇の眼差し”を向けられているのではないかという事で、それが例え考えすぎだったとしても、常に疑念として付きまとう。
周りの同級生と違う目で見られることが、怖い。
たったそれだけ。たったそれだけのことなのに、次第に俺はキュウコンと一緒に出歩こうと思わなくなり、実際一緒に外にいる事は避けるようになっていった。

「悪い、今日は忙しいから」
「あっ……うん、ごめんね……、いってらっしゃい」

今までだったら、どこかへ行くときは必ず彼女の名前を呼んでいたのに、突然のように一人で外出するようになった俺を見ていろいろ思うことがあったのだろう。
部屋を出る俺を見てすぐに立ち上がったところを、すかさず留める。
実際のところ、忙しくなるような事など何もなかったのだが。しかし、小学校の時とは違う生活の変化は彼女も察していたのだろう。
仕方がないことなのだと、どこか諦めたように、その日を境に彼女は俺と一緒に出ようとはしなくなった。



それでもまだ「事件」なんて大げさにするようなことではなかっただろう。一緒に動きたがらない程度ならまだ可愛らしい。
後から言える事ではあるが、“年頃の子”という奴は大抵こういう感じなのだろう。……自分で言うのもなんだが。
だが、その“年頃の子”の言動は徐々にエスカレートしていき、無情にも罪なきキュウコンに更なる追い打ちをかけていく。



「…………」
「……」
「…………」
「……カッちゃん?」
「…………」
「……あの、ね。今日ママさんと買い物行ってきたんだけれどね、昔よく行ったゲームコーナーの隅っこに、カッちゃんがよく乗っていたラプラスの乗り物が」
「あの」
「……!」
「今勉強中だから、少し黙っててくれない?」
「ご、ごめん……」

次に変わったのは、キュウコンへの態度と反応。早い話が、“無視”だ。
キュウコンが俺の恨みを買うような事をしたとか、そんなことは一切なかった。するわけがなかった。ただ、段々に俺の口数が減っていって、気が付けば反応そのものが無くなっていた。
彼女の寝床は俺の部屋にあり、当然俺が部屋に帰ってくれば毎日こういう空気が生まれる。毎日だ。耐えられなかったはずだ。
あんなに仲良く過ごしていた日々が嘘のように、最も慕っていた人に一方的に避けられる辛さは想像を絶する。
彼女なりに、何とかこの空気を変えようと努力したのだろう。しかし、却ってそれが火に油を注ぐ形になってしまっていた。

白紙だったノートの一ページが見事に俺の性格を現したような汚い文字と数式で埋め尽くされた頃、椅子がギシリと軋む音とともに部屋の静寂が破られる。
&ruby(おおあくび){大欠伸};と共に思いっきり両腕を天井に伸ばしクルリと椅子を回転させ、そのままベッドに倒れ込もうとしていたのだが、その間を遮るようにあったのはキュウコンの姿。
やや&ruby(うつむ){俯};き気味にして上目使いで恐る恐るこちらを見てくる彼女の口元には、ブラッシングにいつも使っている1本の木製の&ruby(くし){櫛};が咥えられていた。
変に口に出せば反感を買うと思ったのだろうか。ずっとその状態で俺が気づくのを待っていたらしい。
その時の俺にだって、それが何を意味するかぐらいすぐに分かった。分かっていたけれど……。

「疲れているんだ、また今度な」

キュウコンに視線を向ける事もなく、そのまま彼女の横を通りぬけてベッドに倒れ込むようにして横たわる。
その日で何日目だっただろうか、キュウコンのブラッシングを怠るようになったのは。
あっという間に薄れゆく意識の中でそんなことが頭をよぎったが、答えの扉を開けるよりも先に夢への扉が開き、その中に吸い込まれるようにして意識を手放す。
日に日にぼさぼさに悪くなってゆく毛並みは、まるでその時の俺とキュウコンの関係を現しているようですらあった。

手放しつつある意識の中で、誰かが抜け殻となった俺の身体にそっと布団を掛けてくれたことだけは何となく分かった。



初めは本当に小さい、少し周りの土をかき集めれば埋めることができたような亀裂だった。それが時間を追うごとに少しずつ広がっていき、気がつけば僅かな衝撃を与えるだけで脆く崩れ去りそうな程にキュウコンとの関係は疎遠になっていた。
年頃と言う名の俺の土壌が、その亀裂に拍車を掛けていたのも災いした。その時の俺は、どんな関係修復の効果がある肥料をやったとしても受け付け無いほどに乾燥して、痩せ細った大地だったと思う。
同じ家、同じ部屋の中にいるのに、会話もコミュニケーションも一切ない。そんなギリギリの関係が続いていたが、それも長くはなかった。ついに、その日はやって来た。



その日、帰宅して自室のドアを乱暴に押し開けて入ってくる俺の様子は、誰から見てもイライラしていることが一目瞭然だっただろう。
入ってくるなり粗雑に鞄を床に放り投げて椅子に座る。座る動作までもが乱暴で、悲鳴を上げるような椅子の軋む音とともに、勢いがあまって膝を机にぶつける鈍い音も一緒に響き渡る。

「っ……てぇ……!! くそっ……」

悪循環。負の連鎖というか、その一言に尽きる。
こんなにもイライラしていたのは、確か母と直前まで口喧嘩していたから、だったはず。内容までは覚えていない。
覚えている程いちいち把握していないというよりは、この頃は口喧嘩自体が日常茶飯事で、ぶつかることなんてしょっちゅうだったから。
それは成績の事だったり、私生活の事だったり、時にはキュウコンの事だったり。
痛みを堪えつつ、無意識に携帯電話を開いてメールのチェックを始める。このまま放っておけば、もしかすればその時のイライラも自然と冷めていただろう。
しかし、少し叩けば簡単に変形してしまうのではないかと思うほど熱していた俺を、勇敢にも叩いてきた者がいた。後ろで丸まっていたキュウコンだった。
その頃は何があっても話しかけずに、黙って見守るだけだったというのに、こんな時に限って。

「また、喧嘩したの?」

返事はしない。それでも構わない、とキュウコンは続けてくる。

「何にイライラしているか私には分からない。分からないけれど……まずは少し落ち着こうよ。思い通りにならないからって感情の儘に物に当たるのはよくないよ。
 ママさんだってカッちゃんを怒らせたくて怒っているんじゃなくて、カッちゃんを心配して言ってくれているんだよ?
 それに私だって心配しているんだよ?昔と違って忙しいのは分かるし、最近私にも何も言ってくれないから尚更」
「何が言いたいんだよ」

説教じみた言葉の中にところどころ浮かび上がる、キュウコンの本音。携帯に向けられた視線は変わらないが、文字を打ち込んでいた指の動きは止まる。

「……カッちゃん、最近私に冷たい」

一瞬の沈黙が部屋に広がる。丸まったままだったキュウコンはやがて溜め込んでいた感情を湧き立たせるように立ち上がる。

「別に私はいいよ?カッちゃんに相手にされなくたって。でも、いつもいつもそうやって物に当たり散らして、少しは周りのことを考えたことある?
 話しかけても何も言わないし、黙っていても突然怒り出す。いつも近くにいる私の気持ちになったことなんてある?
 正直理解に苦しむよ。何をしてあげればいいのか分からないし何が正しいかも分からない。今カッちゃんがどうして欲しいか私には分からないもん!
 そうやって黙って逃げようとしても現実は何も変わ------」

刹那、俺は怒りに任せるままに机を両手で叩きつけ、右手に握られていた携帯電話を思いっきり横に振りぬく。同時に、ガラス性の物が割れる音が部屋中に響き渡る。
棚の上に置いてあった「何か」を壊してしまったようだが、そんなことはどうでもよかった。限界だった。
立て続けに浴びせられるキュウコンの感情交じりの質問攻めに、俺の理性の糸はブチりと鈍い音を立て絶ち切られた。
その時の俺はどんな顔をして振り向いたのか分からない。もし彼女が二足歩行のポケモンだったならば、思わず口元を両手で塞いでいたかもしれない。それくらいに&ruby(あおざ){青褪};めた表情をしていた。

「だからなんなんだよ!? お前は俺の親か? ああ!? お前に俺の何が分かるって言うんだよ!?
 第一うざいんだよいつもいつも!! そうやって分かったような口調で物言ってさぁ!?
 むかつくんだよ俺の部屋にまでそういうやつがいたら!?」

息を荒くし、間髪入れずに暴言という名の銃弾を乱射し続ける。
何が本音で、何が口から出まかせなのか分からなかった。自分が何を言っているのかさえ分からなかった。
キュウコンは言葉を失い、目に涙を浮かばせながら一歩、また一歩と後ずさる。
そして収まることを知らない&ruby(ばりぞうごん){罵詈雑言};はついに、絶対に言ってはならない単語を発してしまっていた。

『死ねよクソ狐が邪魔なんだよ!!さっさと消えてくれ!!』



――死ね


その単語を聞いた瞬間、涙で&ruby(にじ){滲};んでいた目が見たくもなかった光景を見せられてしまったかのように見開かれ、堪えていた涙が決壊したように溢れだし、床に零れ落ちる。涙に溺れる瞳からは完全に光が失われていた。

「嫌なんだろ俺が!?さっさと出て行けよ!!」

追い打ちをかけるように、俺は机の上にあった物という物を手当たり次第に掴み、投げつける。
投げつけられる物は、教科書やノートから、一歩間違えば刺さりかねないシャーペンや、鈍器になりかねない置物まで。
後先のことなんかどうでもよかった。ただ、感情に支配されるままに俺は手当たり次第に物を暴言をぶつけていた。
そんな俺に、キュウコンは完全に怯えていた。その目は完全に手の付けられない化け物を見ているようだった。
身の危険を感じ、慌ててドアの方へ飛びついてドアノブを開けようと飛びつくもパニックで思うように手が掛かっていない。そこにも俺は容赦なく物を投げつける。
やっとの思いで開けられたドアの隙間から、命からがらと言わんばかりに一目散に飛び出していった。


荒らしが過ぎ去った後の静けさに包まれる部屋の中、自室直下型地震でも起きた跡のような荒れた空間の真ん中で、一人肩で息をする。
喧嘩に勝った優越感だとか、そういうものは一切ない。かといって後悔の念がこみあげてくるわけでもない。
ただ、ぶつけようがない怒りがまだ僅かに身体を支配しており、感情に操られるままにベッドを蹴りつける。
蹴りつけた衝撃は見事に吸収され、ベッドにも足にもそれ程ダメージにはならない。
それだけベッドが頑丈で丈夫にできていたから、というよりは、ある程度頭が冷えてきたためか。
ふと、部屋を見渡す。散乱した文房具やノートに紛れて、ガラスの破片が散らばっているのが目につく。そういえば思いっきり携帯を投げつけたことを思い出し、慌てて無事を確認しようと拾い上げる。
必死に携帯を起動しようとする俺の足元には、破片となってしまったガラスにはめ込まれていたであろう、俺とキュウコンが仲良く並ぶ写真が一枚、無残にも傷つき折れ曲がっていた。



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……。なんで、だろうな。何をそこまで言う必要があったんだろう。
思いだせば出すほど後悔の念に駆りたたれ、頭を掻き毟らずにはいられない。何かの悪い夢であってほしい。いや、夢だったならその時の自分への恐怖と怒りですぐにでも飛び起きただろう。
何よりも、帰宅して直ぐに母に言われるついさっきまで、まるで何事もなかったことのように普通に生活していた自分自身が悍ましい。


ーー「カズマ、大事な話がある。」
  「ん、何?」
  「キュウコンちゃん、ポケモン保護施設に引き取って貰おうかと思うの。」
  「は?なんで?」
  「なんで?って、あんた自覚してないの?今キュウコンちゃんがどんな状況かすら分かってないでしょ!?」--


その後母から語られたのは、あの日以来母の部屋からほとんど出ようとせず、食事も受け付けなくなり日に日に痩せ衰えていくキュウコンについてのこと。
「何でちゃんと見てくれなかったんだ」と思わず怒鳴ってしまったが、そもそも俺が原因だということを突きつけられ綺麗に論破される。そりゃそうだ……。
とにかく、母にはもうどうしようもないということ。昔から一緒だった、いや、あの時キュウコンを突き放してしまった俺が動かなければ、何も解決しない。
もしこれ以上キュウコンと関わらないのならば、最悪そういう手段を取るということだった。


頭を掻き毟っては視界を遮ってと&ruby(せわ){忙};しない右手を落ち着かせ、今一度キュウコンの方へ向き直る。
俺だって、本当にキュウコンと離れたいわけじゃない。そんなわけがなかった。
ただ、あの時期あの喧嘩の後では素直になれなくて、そのうち時間が解決してくれるとどこか心の中でほとぼりが冷めるのを待っていた自分がいた。
その結果が、今のこのキュウコンとの距離感であるのは否めない。彼女の心の傷はとても深く癒えないものだった。
もしキュウコンが許してくれるのであれば、またあの時のように共に毎日を過ごしていきたい。あまりにも&ruby(わがまま){我儘};で自分勝手かもしれないが、突然突きつけられた別れの可能性を前に、本当に心からそう願う。目が覚めたよ。
本当に願っていたからこそ、この部屋に来てしばらく言いだせなかった大事な一言目を、やっと、初めて切り出すことができた。

「謝りたいんだ。……あの時のことを」

返事は……ない。しかし、彼女の耳がピクリ、と僅かに動いたことだけは分かった。返事を待たずして言葉を続ける。

「どこから……何から謝ればいいか、分からない……。それくらいに、君には悪いことをしてしまった。
 あの時の暴言は、その…出来心でというか、本当にそんなつもりで言ったわけじゃなくて……。無性にイライラしてたというか、
 ちょっと一人でいたかったから出てしまったというか、いやそうじゃなくて…………」

ダメだ。あの時の説明を付け加えようとしたはずが、段々言い訳がましくなってきた。自分ですらも聞き苦しい。
本当にあの時はどうにかしてたからこそ、何故あんな暴言を吐いてしまったのか説明ができない。
できない説明の代わりになる言葉は用意しておらず、再び沈黙が部屋に訪れる。一度破った沈黙をもう一度破るのは難しい。
せめて何を言うべきかぐらいは、部屋の前で立ち尽くしていた時にでも頭の中でまとめておくべきだったか。
不意に足にピリピリと痺れるような感覚を覚え、すぐにそれが寒さと長時間の直立からくるものだと察する。このまま立ち続けても何も変わらない、か……。
足の痺れには勝てず、図々しくも仕方ないと自分もベッドの横に腰掛けるように座り込む。ちらっと右に目を向けると、丸められた九つの尻尾が。手が簡単に届きそうで届かない、微妙な距離感。
もうこの距離感を縮めることはできないのだろうか。あの時当たり前のように触れ合っていた温もりがふと脳裏をかすめる。
小さい頃、こんな寒いときはいつもキュウコンに抱きついていたな……。物心ついたときからいた存在が当たり前になっていて、その時は特別何かを思ってたわけじゃないけれど。
人は何かを失った時に、初めてその大切さを知ることになるらしい。
俺の場合、あろうことか自分からその存在を切り離そうとしてしまった。その理由も説明できないし分からないだなんて何とも情けない。
そのくせ今になってあの時のことを許してくれだなんて、あまりにも都合がよすぎるのかもしれない。隣にいるキュウコンも、どこかで呆れているかもしれない。
もう俺のことなんか見たくもないのかもしれない。……いっそ、このまま離れた方が彼女のためなのだろうか。
……はは、今はそれすらも聞ける気がしない。目を閉じて視界から入る情報の一切をシャットアウトし、寄りかかっているベッドに頭を打ちつけるようにもたれ掛ける。真っ暗な世界の中で何かを掴もうとしばらく思考を巡らせる。
その時だった。床に投げ出していた右手に、ふわっと柔らかい何かが触れるの感じる。
くすぐったいようなその違和感を確かめようと目を開いてみると、そこにあったのはぼさぼさになった小麦色の尻尾が一本、手の甲に乗せられていた。キュウコン……?
隣で小さく丸まっている主から伸びてきていたそれは震えている。どこか恐る恐る伸ばしたように。

「……ごめんなさい、カッちゃん……」

そして、寒くて薄暗い部屋の沈黙を破ったのは、意外にも口を開いてはくれないと思っていた尻尾の主だった。
しかも、その口から出てきた言葉はなぜか謝罪の言葉。どうしてキュウコンが?

「分からなかったの……カッちゃんがどんどん大きくなっていくなかで、段々一緒にいられる時間が無くなっていって……。
 なんだか、そのままカッちゃんがいなくなっちゃう気がして、すごく焦っていたの……。でも、どうすればいいか分からなくて……」

思ってもいなかった言葉に、思わず目を見開いてキュウコンを見つめる。

「私の我儘だったの。カッちゃんに甘えられるのが嬉しくて、頼ってもらいたくて。
 それが、いつの間にか守ってあげなくちゃって思いに変わってて……。必要以上に関わろうとしてて、それがカッちゃんにとっては迷惑だったんだよね……」

目を見開いたまま言葉が出てこない。まさかそんな風に思っていたなど考えもしなかったから。

「もうカッちゃんは大人で、私がこれ以上守ってあげる必要はないんだって……。あの時『お前は俺の親か』って言われて初めて気がついたの。
 本当に、ごめんなさい……。死ねなくてごめ------」
「違う!」

そこから先は言わせなかった。君が思っていることは間違いだということを知ってほしくて。俺の思いを、知ってほしくて。
気が付いたときには、ベッドに預けていた身体は近づくことができずにいたキュウコンに、いとも簡単に触れることができていた。

「こんな都合のいいことを言っても信じて貰えないかもしれない。実際あの時に俺は取り返しのつかない言葉を幾つもぶつけてしまった。
 けれど、はっきり言えることがある。」

驚いたようにキュウコンは振り向いてこちらを見つめてくる。久々に見た彼女の顔は、近くで見るとはっきりと分かる程やつれており、その紅い綺麗な瞳は薄らと潤んでいた。

「俺は、心から君が死んでほしいなんて&ruby(みじん){微塵};も思っていない。それに、君は何も悪くない。
 悪いのは全部、身勝手な振る舞いで君を傷つけた俺の方だ。」
「でも……」
「キュウコンが謝る必要なんて何もない。なんにもないんだ。
 だって、君は俺がこんなにも酷い仕打ちをしても尚、俺のことを思い続けてくれていた。それだけで十分すぎるくらいだ。
 なのに俺はそれに気づくこともできないまま、時間が解決してくれるとずっと逃げていた。本当に、本当にすまない……。」

身勝手で愚かな人間を見つめ続けていてくれる真紅の瞳の主をそっと抱き寄せる。そして、キュウコンを落ち着かせるように、俺自身もキュウコンがそこに居てくれることを確かめたいがために、肩から背中にかけてそっと撫でてあげる。

「辛い思いをさせて、本当に……、ごめんなさい。もし君がよければ、ずっと……これからもずっと、俺のそばに一緒に居て欲しい。」

本当に俺は馬鹿だった。あの時もそうだったけど、今も、だ。
何を迷う必要があったのだろう。あの時の心情やら動機やらを説明して言い訳しようとして、勝手にドツボにはまって黙りこくって。
最後まで逃げようとしていたんだ、俺は。本当に大事なのは、相手に謝る気持ちを伝える事だってことを。今になって分かったよ。
この場に及んでまで、本当に情けない。そして、俺のことをこんなにも思ってくれて、ありがとう------


ふと、首筋につーっ、と零れる冷たい感触を覚える。その零れ落ちる雫を確認しよう、なんて無粋なことはしなかった。
ただ、今はこんな俺に預けてくれたその痩せ細った震える体をそっと撫でて、落ち着かせてあげたい。
久々に全身で感じた彼女は、心なしか前よりも小さく感じ、それは過ぎてしまった月日の長さを表しているようであった。



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震える彼女の身体が落ち着きを見せてきた頃。かなり長い時間キュウコンを抱き寄せていた気がする。
その間、まるで空白の時間を埋め合わせるかのように、お互いがお互いの温もりを感じていた。ただ、いつまでもこうしているわけにもいかない。いろいろ気がかりなこともある。
とりあえずは、この薄暗くて寒い部屋を変えよう。

「キュウコン、ご飯とかも大分食べてないでしょ? この部屋じゃ寒いし……俺の部屋、行こうか?」
「……入って、いいの?」

撫でていた身体を離して、座った姿勢の状態から見上げるキュウコンの問いに少し違和感を覚えたが、その問いに対する答えはとても簡単なものだ。

「当たり前じゃないか」


立ち上がりと同時にキュウコンが少しふら付いたため心配したが、大丈夫だよと言ってついてこようとする。
それでもやはり心配だったため、少々強引だが抱っこしてあげる形で母の部屋を出る。彼女も特に抵抗することはせず、素直に身を預けてくれた。
両手がふさがった状態でも器用に自室のドアを開け、部屋の電灯をつけた後に見慣れた部屋の景色を見回す。
一応俺のベッドの横にはキュウコン用の寝床がちゃんと用意してある。あの喧嘩の後しばらく使われることもなかったから片付けてよかったものかもしれないが、
何故だか仕舞うことなくキチンと掃除もしていたのは、心のどこかでキュウコンが戻ってきてくれることを望んでいたからか。
そんなの本人に聞かなければ分からない、というかその本人が俺なわけだが。そんなことは今はどうでもいい。
ただ、床は寒いだろうから俺のベッドの上にキュウコンをそっと乗せてあげる。
まずは食事かな。いきなりガッツリ食べられるように、というのは流石に無理だろうから、何かシンプルでお腹を満たせる且つ栄養のあるものがいいと思うけれど……。
キュウコンはと言うと、久々のこの部屋にどこか落ち着かない様子であちこちを見回していた。
その様子に少し苦笑しつつ、「楽にしてて大丈夫だよ」とだけ伝え、ヒーターの電源を入れて台所に向かう。



家の冷蔵庫という収納スペースは、開ける前の期待に反してお目当てのものが入ってないことが多いのだが、今回も例外ではなかったようだ。
決して整理整頓もされないまま消費期限が切れた食材溢れる&ruby(まくつ){魔窟};というわけではなく、むしろ幾つものタッパに小分けされ綺麗にしまわれており、
中身を当てるのは収納した本人にしか分からないように思える。

「何やってんの」

適当に引っ張りだしたタッパの蓋を空け、中に入っていた謎の黒い物体に俺渾身のにらみつけるを決めていたときだった。
中身を探るのに夢中で気づかなかったが、いつの間にかこの冷蔵庫の番人に背後を取られていたようだ。
別に何か盗み食いを働くつもりだったわけでもないので、別に、とだけ返して悪びれるわけでもなく再び物色を始める。

「キュウコンちゃんは?」
「……ちゃんと謝ってきた」

やっぱり母さんもそれは気になっていたか。
もし、俺が謝りもせずただ小腹を満たしたいがためだけに戻ってきて物色していたとなれば、どうなったかなんて言うまでもないだろう。

「キュウコンに何か食べさせてあげたいんだけど、何かいいのない?」
「なに、そういうことなら早く言いなさいよ」

このまま物色してても進展しそうにない。折角この空間を熟知しているであろう本人がいるのだし、聞いた方が早いと思っての質問だったが、
何やら俺が思っていることとは違うことが始まるらしい。
てっきり作り置きの料理なり缶詰なりを出してくると思っていたのだが、用意されたのはモモンの実と野菜とライス、モーモーミルクに他にもいろいろ……そして鍋。今から作るのか。
とか思っているうちに料理は始まり、用意された食材はあっという間にカットされ、油が注がれたフライパンに手際よく入れられていく。
あれよあれよという間に大体の作業は終わってしまったようで、あとは蒸して出来上がるのを待つだけらしい。

「リゾットなら食べやすいし、モーモーミルクで栄養も取れる。キュウコンちゃんも好きな甘さだと思うよ。
 何度か作ってあげているんだけれど、全然口にしてくれなくてね。でも、今のカズマなら食べてくれるかも」

鍋からやや深めの白い器に注がれるその料理から香る、甘く柔らかいミルクの匂いに思わず唾を飲んでしまう。

「あんなになるまで思い続けてくれる仔なんて、どこを探してもキュウコンちゃんだけだよ。
 私なんかよりよっぽどあんたの母さんみたいだよ」

本当にその通りだと思う。いつだって&ruby(そば){傍};に居てくれて、時には遊び相手としての友人として、時には守ってくれるパートナーとして、常に俺の生活の中にあり続けていた。
キュウコンも言ってくれていた。頼ってくれるのが嬉しいと。
一度は断ち切ろうとして解れかけた糸だけれど、また元に戻せるかな。いや、戻したい。
同時に、今度は俺がキュウコンに頼って貰えるような立派なパートナーとなってあげたいと、そう思う。

「ま、母さんはどんなに嫌がられようが構わず突っかかっていくけどね。ほら、突っ立ってないで冷めないうちに持って行ってあげなさいよ。待ってるんでしょ?」

物思いに耽っているところを母の一言で現実に戻される。そうだ、キュウコンも待ちくたびれているはずだ。
出来立てのリゾットに熱せられた器にしてやられるも、上手く淵を持ち直してキュウコンが待っている自室へ早足で向かう。



部屋に戻り、早速キュウコンにリゾットを食べさせてあげる。木製のスプーンで掬って口元まで持っていってあげると、
スンスンと匂いをとってから、ペロッと匙からリゾットを綺麗に舐めとる。
そういえば、お皿にがっついて食べるようなことはしなかったなあ、昔から。キュウコンらしい上品な食べ方をするものだ。

「おいしい……」

どうやら気に入って貰えたようだ。
まだ食べられそう? という俺の問いに頷くのを見て、一口、もう一口と掬ってあげる。おいしそうに食べている顔を見て安心すると同時に、何だか俺の方もほっこりしてくる。
ゆっくりと、少しずつではあったが器にあった分のリゾットは綺麗に完食してくれた。
これなら俺でも作れそうだし、あとで母さんに作り方を教えてもらおうかな。
覚えておけばいつでもキュウコンに作ってあげられるし。……ついでに冷蔵庫の中身のパズルの解き方も一緒に聞いておくか。

空になった器を机の上に置き、そのまま「あること」をするために&ruby(おもむろ){徐};に引出の中を漁り始める。
小さい頃の日課だった、気づいた頃には怠る様になってしまったそれを、キュウコンにしてあげるために。
1段目、2段目と筆記用具やらで少し乱雑になった中身をかき分けながら、最後に開けた引き出しの奥に目的の物はあった。
久しぶりに手にしたそれを、「じゃじゃーん」なんて俺らしくもないわざとらしい効果音を付け加えてキュウコンに見せてあげる。
それを見た瞬間に彼女の耳がピン、と立ち、布団を覆うように寝ていた九つの尻尾が僅かに振れるのが分かる。嬉しいときに見せる彼女の仕種の一つだ。

「大分さぼっちゃってたからね」

ブラッシング。長く綺麗な毛並を維持してあげるだけでなく、毛づやや皮膚の状態なども一緒に診れる健康チェックの手段の一つでもあり、
キュウコンとのコミュニケーションでもある、大切な時間だ。
とても嬉しそうにこちらを見る彼女の乗る布団に早速腰掛けて、まずは頭を優しく撫でてリラックスさせてあげる。これがブラッシングを始める合図でもあった。
まずは首から背中にかけて、柔らかくも少しぼさぼさになっている体毛に櫛を通しゆっくりと&ruby(す){梳};いていく。
しばらくやっていなかったためか、やはり櫛の通りはあまりよくなく、時々引っ掛かりを感じる。ここで大事なのが、決して力づくでやろうとしないこと。
無理にやると、毛を引っ張ってしまうことになり当然ながらキュウコンを痛みつけてしまうことになる。
引っかかったところは、先の方からゆっくりと根気強く&ruby(と){梳};かしてあげる。
あとは、イメージとしては櫛を包丁を持つような形に持ち替えて梳いてあげるのもポイントの一つだったりする。
引っ掛かりに対して、櫛の当たる面積を小さくすることで抵抗を減らし、通りやすくなるというわけだ。引っ掛かりが解れたところで、仕上げでもう一度櫛を持ち替えて丁寧に梳いていく。
長年キュウコンのブラッシングをしてきた中で覚えた技術の賜物だ。
サッ、サッ、と櫛の通る小気味の良い音が響く中、キュウコンは気持ちよさそうに目を細め、尻尾は嬉しそうに揺れている。
その様子を見ているだけでも、やっている甲斐があるものだし、何より俺自身も嬉しい気持ちで心が満たされてくる。

背中だけとはいえ、決して体の小さなポケモンではないので、その部分だけでも終わったときには既に時計の長針が半周余り過ぎたところを指していた。
だが、時間なんて惜しくはない。今はただ、久しぶりに過ごすこの時間をキュウコンのために使ってあげたい。
背中、首回り、四肢、お腹回りと時間をかけてブラッシングしていき、最後にキュウコンの代名詞ともいえる尻尾に取り掛かる。
うつらうつらとしているキュウコンには申し訳ないが、少し体勢を変えて貰わねば。
ポンポン、と軽く背中を叩きキュウコンが振り返るのを確認したら、左手人差し指で空中に輪を書くようにジェスチャーをして見せる。
頷いてキュウコンは一度起き上がりくるりと身を翻し、九つのうちの一つを俺の方に差し出してくれる。
これも長年ブラッシングをしていく中で生まれたハンドサインの一つだ。久しぶりとはいえ、我ながら慣れたものだろう。

差し出された尾の一本を左手におさめ、ブラッシングを再開する。
長らく手入れされずぼさぼさでみすぼらしかった毛並みが、梳かされたところから見る見るうちにふわふわとした豊かな毛づやを取り戻していく。
そういえば、キュウコンという種は、尻尾が敏感で触られるのをあまり好まないなんてことを友人から聞いたことがある。
思いだせば、俺が初めてキュウコンの尻尾をブラッシングしようとしたときも、あまり好意的な反応ではなかった気がする。
中には、触れば千年&ruby(たた){祟};られる、なんて伝説もあるくらいだ。彼女は大丈夫なのだろうか?
今でこそこうして当たり前のように尻尾を預けてくれ、何事もなくブラッシングさせてくれる。本人も布団に横になる様にリラックスしているが……。

「そういえばさ、キュウコンは尻尾は触られても大丈夫?」

考えるよりも先に動いた口に、言い終わってから少しだけ後悔の念が沸いてくる。なんというか、思った事を何も考えずに口にしてしまうのが俺の悪いところらしい。
そんなに気まずくなるようなことを聞いたわけでもないから大丈夫か、と自分にフォローを入れつつ、手のひらを通る豊かな毛の道を梳きつつのんびり答えを待つ。

「カッちゃんが、いいから……」
「……ん?」
「カッちゃんのブラッシング、優しくて、好きだから…。カッちゃんに梳いてもらうと、安心するの……」

思わぬ言葉に、覚えず手を止めてキュウコンを見つめてしまう。私は平気だよとか、そういう簡単なものを想像していたから。
そんな風に思っていてくれてたなんてな…。

「本当に、ごめんな……」

ブラッシングを怠っていた時の俺を思い出し、若干の照れくさい気持ちと、それを上塗りするほどの申し訳ない気持ちが複雑に絡み合い、謝罪の言葉を口にすることしかできない。
僅かな沈黙の後に、意識が逸れて止まっていた手を再開させる。先程までよりも、気持ちを込めて。
視界の片隅で、キュウコンが首を横に振ってくれているのが見えた。



「っ、んーーん……」

9本全ての尻尾のブラッシングを終えた頃に、ようやくガチガチに凝り固まった身体を思いっきり伸ばして軽く&ruby(ほぐ){解};す。
途中からは完全に意識のスイッチを切ってブラッシングをすることだけに集中して気にしていなかったが、ベッド横に置いてある鉛色のデジタル時計に目を向けてみれば日付はとっくに跨いでいたようだ。
そんなに長時間もほぼ同じ体勢で同じ作業を続けていれば体への負担はなかなかにくるようで、肩の重みから腰の痛みと、
身体のいたるところから、やっと聞く耳を持った俺の脳に疲れを訴え始める。
あまりにも多すぎる体中の悲鳴に、大きな溜息を一つ吐くと同時に、過労へのクレームを振り払うように上半身を大きく左右に捻ってもう一度身体を解してやる。
しかし、ある程度覚悟していたとはいえ、ここまで時間がかかるとは思っていなかった……。今までブラッシングをしていなかった分、それだけ毛も複雑に絡まり櫛の通りが悪くなっていたから、仕方ないか。
日頃のブラッシングの大切さを痛感させられる。

「もう大丈夫だよ、キュウコン」

ブラッシングを終えてからも横になったまま瞼を閉じて動かないキュウコンに、一応終わった旨を伝える。
それでも反応はない彼女が気になって、顔までそっと近づいてみる。
スー……スー……、と静かな寝息を立てているようで、どうやら既に夢の世界に漕ぎ出した後のようだった。
その寝顔をまじまじと見てみると、どこか幸せそうに笑っているみたいで。多分、今までまともに寝られなかっただろうし、今日くらいいい夢を見てくれていればいいな、なんて。
俺も、ブラッシングの疲れからきているのであろう眠気を感じ始めてきたし、そろそろ寝ようかな。
さて布団に横になろうと思ったところで、一つ大事なことに気が付く。肝心の寝床が、キュウコンによって占められていたんだった。
一応こうやって腰掛けるスペースぐらいならあるのだが、俺が寝られるスペースまでは確保されていない。
まさかキュウコンを押しやって寝る場所を確保するなんて、忍びなくてとてもできないし…。
少し悩んだあげく、床に敷いてあるキュウコンの寝床で俺が寝ることを思いつく。
俺には&ruby(いささ){些};か小さいとはいえ、直に床に寝るよりは大分マシだろう。それに、キュウコンみたいに丸まれば一応体は収まる。
悲鳴を上げている体には少し辛いが、今晩だけの辛抱だ。今までのキュウコンへのことを考えれば、これくらいなんてことないさ。
掛け布団を一枚だけ頂戴し、羽毛布団をキュウコンにそっと掛けてあげる。
そして俺は、部屋の電灯を薄らとしたオレンジ色の常夜灯に切り替え、この時期の寒さを凌ぐには心もとない薄めの掛け布団1枚のみをかぶる。
ホイーガのように体を丸めて横になれば、それでも幾分かは暖かい。
しばらくすれば、心地よい睡魔が疲れ切った身体を支配し意識が徐々に遠のいていく。
そういえばストーブの電源を消していなかった、なんてことを思い出したのは、既に身体が睡魔に支配された後だった。



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壁掛け時計の針の音だけが響く薄暗い空間の中で、ふと目が覚める。
普段目を覚ます時には感じないような身体の痛みと痺れ、そして目の前に迫る壁に、完全に覚醒しきっていない頭では何が起きているのかいまいち理解が追いつかない。
状況が理解できたのはそれからしばらく目をぱちくりさせてからのこと。ここはベッドではなく床に敷かれたキュウコンの寝床で、目の前にあるのは壁ではなくベッドであるということをようやく理解する。
そういえばそうだった。キュウコンが先にベッドの上で寝てしまったので、それで……。
寝る前こそ問題ないだろうと思っていたが、いざ寝てみると想像以上に寝心地が悪い。特に重心がかかっていたであろう肩辺りが痛む。枕もなかったので側頭部も痛い。
初めて体験した寝床のあまりの辛さに、思わずキュウコンが心配になる。こんな寝床で彼女は体を悪くしたりしないのだろうか。
あとでタオルを下に足すか、そもそも寝床を考え直した方がいいかもしれない。

それにしても、このまま再び眠りにつくことは出来そうにない。中途半端に覚醒した頭には、身体のいたる所から苦情が届いており脳は限界を訴えている。
ベッドの上には戻れないにしても、一度体を伸ばすくらいはした方がよさそうだ。起き上がろうとかぶっていた布団をどけようとして、ふと違和感に気づく。
手触りが布団にしては妙にふわふわしてて暖かく、布の質感というよりも毛皮のような感触。
いや、掛布団の上にもう一つ何かが被さっているようで、まるで尻尾のような……。

「……キュウコン?」

覚えのあるその感触に、思わず心当たりのある名を口に出す。
常夜灯で薄らとではあったが、顔を上げて見てみると確かに俺の上を覆うように尻尾がかぶせられている。その尻尾の主を探る様にベッドの反対側を向いてみれば、キュウコンが俺にピッタリと寄り添って寝ていた。
そういえば、掛布団一枚で寝ていた割に寒さはまったく感じず、とても暖かい。
つけっぱなしのストーブは、延長ボタンを押さなかったからかとっくに止まっており、キュウコンがいなければ風邪をひいていたいたかもしれない。

「……起きちゃった?」

俺の呼びかけで目覚めた事に気が付いたのか、閉じていた瞼を開き申し訳なさそうに聞いてくる。

「うーん、ちょっとね……」
「ごめんなさい、私が寝ちゃったばっかりにカッちゃんの寝場所を奪っちゃって……」
「いや、気にしなくていいんだよ。そのままベッドで寝ててよかっのに」

なんだか常に下手に出るキュウコンに、思わず苦笑してしまう。
まだどこかあの時の棘が抜けきっていないのかな。表情を見ても、その言葉が&ruby(へつら){諂};いからくるものなどではなく、本当に落ち込んでいるようで。

「……そんなに畏まった態度じゃなくていいんだよ?」

気まずい空気を誤魔化すように、キュウコンの頭まで手を伸ばしわしゃわしゃと撫でまわしてやる。
返事こそないものの、俺の荒々しい手つきに嫌な顔一つ見せず目を細める。
本当に前のように戻るには、まだまだ時間がかかりそうだった。

「でも、俺のために傍に来てくれたんだろう?おかげですごく暖かかったよ、ありがとう」

その言葉を聞いたキュウコンは、どこか安堵の表情を浮かべたように笑ってくれた。

「私も……、ブラッシング、すごく気持ちよかったよ。ありがとう」

思わぬ感謝の言葉。こう、面と向かって言われると何だか気恥ずかしい。
照れ隠しの意味も込め、どういたしましての言葉の代わりにもう一度思いっきり頭を撫でまわしてやる。

しばしの戯れの後、俺は本来の寝場所に戻る。しかし、直ぐには布団をかぶらず、ベッドの半分程のスペースをあえて空けながら
ベッド横の寝床で丸まろうとしているキュウコンを呼んでみる。

「よかったら、一緒に寝ない?」

不思議そうに首をかしげるキュウコンに、「なんだかすごく寒くてさ」なんて言い訳を付け加えて誤魔化す。
ストレートに言葉にしてしまうのは恥ずかしくて口に出せなかったが、本当は俺自身が久々にキュウコンに甘えてみたい気持ちがあった。
どこか遠い記憶に残る、彼女の温もりを思い出したくて、改めて感じたくて。

照れ隠しの口実と知ってか知らずか、でもそんなことはキュウコンにとってはあまり関係がないようで、俺の言葉に快く頷くとどこか嬉しそうにベッドに飛び乗ってくる。
ベッドに収まったのを確認してから、1人と1匹に丁度かぶさるように布団を掛ける。布団を掛ける動きの延長線上で、その手をキュウコンの首の辺りに添えてみる。
ふかふかの布団と、ふわふわの毛並に包まれて、雪が降り積もる季節であるのがまるで嘘であるかのような暖かくて幸せな空間に包まれる。
その気持ちよさに、思わず口角が上がってしまうのが自分でもよく分かる。
そのままでも十分心地よく、そのまま瞼を閉じたならば綿雲に沈み込むように心地よく夢の中に落ちていけそうだ。
でも。こうしてキュウコンと触れ合っていると、もう少しこうしていたいと思うと同時に、なんだか妙な胸の高鳴りを感じて仕方がない。
多分、久しぶりにこうして一緒になったからというのもあるかもしれない。もう少しだけ、年甲斐もなく思いっきり甘えてみたい。

「ねぇ、キュウコン。少しだけ、いいかな……」

俺はそういい、返事を待たずしてキュウコンの背中に片手を回し、ぎゅうっと抱きしめるとともにその豊かな首元の飾り毛に自身の顔を埋めてみる。
肌全体を通して感じる、絹のような、それでいてふわふわな毛並。そしてキュウコンの匂い、温かさが、鼻腔を通って脳に染み渡る。
……この感じだ。あの頃いつも感じていた、キュウコンの匂い。キュウコンの温もり。
瞼を閉じ、今傍らにいてくれる大切な存在を十二分に確かめる。

「何だか、子供の頃に戻ったみたい」

抱きついたまま放そうとしない様子の俺に、キュウコンからそんなことを言われてしまう。
顔を埋めている今、彼女の表情は分からない。でも、まるで子供をあやす母のような優しい声のトーンからは、決して馬鹿にしているような意図は感じられず、むしろ彼女もまた昔を懐かしんでいるようで。
小さい頃、寒いときなんかはこうやっていつもキュウコンと一緒に寝ていたな……。
昔と違い、俺の身体はすっかりキュウコンよりも大きくなってしまったため、&ruby(はた){傍};から見たらあまりいい絵面とは言い難いかもしれない。
それでもいい。常夜灯の&ruby(かす){微};かな灯りだけの部屋の中、それにどうせ今は布団をかぶってて見えやしない。

「……今まで、本当にごめん」

もう何度目か分からない言葉を、ぽつりと呟く。顔を埋めたままなので、聞こえていないかもしれない。でも。

「大好きだよ、カッちゃん」

その言葉に、埋めたまま遠のき始めた意識の中で、少しだけ強く抱き寄せて答える。もう二度と、大切なパートナーを傷つけるようなことはしない。
そして、今度は俺の番だ。今までキュウコンが俺のことを守ってきてくれたように、今度は俺が彼女を守ってあげたい。色々な世界を見せてあげたい。
今度の週末にでも一緒に遠出してみようかな。とある地方で開かれるというユキメノコの吹雪と鬼火の雪祭りなんかいいかもしれない。きっと気に入ってくれると思う。
でも、まだ体調も万全じゃないかもしれないし、しばらくは様子を見た方がいいのかな……。
彼女のためにしてあげたいことがカバルドンの背中から溢れ出る砂のように次から次へと沸いてくる。しかしそれも長くは続かない。
気が付けば身体からは力が完全に抜け、薄暗い部屋から離れ深々と緑が生い茂る景色が見えてくる。どこか心当たりのある景色、思いだせるような思いだせないような……。
ざわめく葉の音に後ろを振り返ってみれば、お座りの姿勢でこちらを優しく見守る、九つの尻尾を携える黄金色のポケモンが1匹。
いつの間にか手に握られていた虫取り網を持ち直し、麦わら帽子をかぶった少年は全力でキュウコンの元へ駆けていく。
気づかぬうちに開かれていた夢への扉に吸い込まれるように俺は深い眠りに着いていた。
今夜は、いい夢がみられるかもしれない。きっと。





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---初めて書いたものから、書き方を大きく変え課題であった地の文を意識して書いてみました。
最初は頑張ってた気がしますが、明らかにダレていった気がします。まだまだ力不足ですね……。

私はキュウコンが一番好きなので、何かこうキュウコンを只管愛でるものを書きたいなとか思ってたので個人的には勝手に満足しています(?)
某所で見かけた「外は寒いよ!?ここにあったかいキュウコンさんがいるよ!?」という意味深な妄想から、そんなシーンを描きたいと書き進めたものの
いざ書き終えてみればどこにもそんなシーンないですね……。とても悲しい。
寒い時期にキュウコンを抱きしめたいと思っていたはずが、気が付けばもう大分暑いですね。
でもいいんです。心はいつだって温まれますから。


何かご意見、指摘等あると勉強になります。


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