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こちらポケモン放送部! 一年目 の変更点


作者名:[[風見鶏]]
作品名:こちらポケモン放送部! 一年目

・官能表現、グロ表現はありません。
・この作品は長編を予定しているので更新は不定期です。
・パートごとに区切っているのでご了承ください。
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**四月 日常パート [#u55fe065]

 ここはポケモンたちが通う学校。
 とはいっても人間たちの世界とは違って小学や中学なんかはない。純粋に一般知識を学ぶための学校ってところかな。
 

 え? 僕? 僕は……やっと学校に慣れたってところかな。
 
 僕はシン、種族名はアブソル。まだ入学して間もない新入りの生徒さ。
 僕はここでいろいろな知識を身につけにきたんだけど、種族の問題でいろいろ問題があってね……。
 アブソルはほかのポケモンから毛嫌いされてて、僕は入学早々クラス内から孤立してしまったんだ。
 ……まあ別に気にしていないけどね。
 それよりももっと問題なのが、僕のクラスの担任だ。入学してから約半月、僕のクラスの担任は一度も顔を見せたことはない。
 そのため朝は授業が始まるまでいつも無法地帯だ。一体担任教師は何をしてるんだろうな……。

 何はともかく、入学してからいろいろと僕は悩んでいるわけだ。
 
 と言ってるうちに僕は学校へとついたようだ。僕はようやく覚えた自分の教室に入る。
 教室にはすでに何人かのクラスメートがおり、各グループで話の花を咲かせている。誰も僕のことには気づかない。気づいていてもおそらく無視しているのだろう。
 僕は一直線に自分の席へと向かい、荷物を置く。僕の席は教室の一番窓側の隅っこ。まあ要するに目立たない場所だ。
「ふぅ……」
 僕は小さくため息をついた。別に何の不自由もない、普通の毎日がこれからも続くのだろう。
 でも……これじゃあ何かつまらないよね……。
「なあ、おまえ部活何やるか決めた?」
「う~ん……、まだ決めてないんだよね~」
 一番近場にいるポケモンたちの話が耳に入る。
 部活……か、
 そう言えば授業で部活の話が上がっていたな。部活にでも入れば何か楽しいことがあるのかな……。
 一匹窓の外を眺めながらシンは考える。まだチャイムの時間までは間がある。
 登校中のポケモンたちが意気揚々と昇降口へと入っていく。楽しげなその姿にどことなしか嫉妬感を抱いている僕がいた。

 そうこうしているうちに予鈴が鳴ってしまう。どうやら考え込んでしまったようだね。
 相変わらずクラス内は先生がこないのをいいことに無法地帯と化している。
「やれやれ……」
 シンは小声で呟きながら授業に準備をする。

「こらぁっ! さっさとすわりなさいっ!」
 その声でクラス内の温度が一気に下がる。もちろんシンも例外ではなかった。
 そこにいたのは自分たちと同い年ぐらいのポケモン、ミュウがいた。
 もちろん同級生の注意を素直に聞くはずもない。やがてクラスはまた騒がしくなり始める。
「ちょっと! 先生が来たんだからもう少し静かにしてよっ!」
 ん? 先生が来た?
 その声でにわかにクラス内が鎮まる。何せ半月こなかった先生がはじめてくるのだ。
 どんな先生かの期待感の表れであろう。実際シン自身も期待していた。
「よかった。やっと静かになってくれたね、わたしはミゥ、このクラスを担任することになった教師だよ。みんな、よろしくね!」
 満面の笑みで自己紹介をする。
「……」
 まあ、当然の反応だろう。
 実際自分も信じられない、おそらく彼女は自分たちと同い年、または一つ上ぐらいの年齢だ。その彼女が先生だというのだから……まあ無理もない。
「じゃあ連絡終わり! みんなまた会ったらよろしくね!」
 そう言うとミュウ……いや、ミゥ先生はその場からテレポートして消えてしまった。
 しばらく教室は静寂に包まれる。もちろんあの嵐のような先生のせいだ。シン自身も困惑という念をとりされなかった。
「……うん、忘れようか」
 結論、あんな非常識な先生がいるわけない。
 いや、いてたまるか。
 とりあえずシンはその剣を頭のすみっこへと押しやった。


 そして放課後が訪れる。
 部活勧誘のため部活に入っている上級生が熱心にアピールをしている。
 クラスメイトも部活がどんどん決まっているようだ。日ごとに放課後の教室内がさみしくなっていくのがわかる。
「あれ? シン君もまだ部活が決まっていないの?」
 その言葉に僕は柄にもなく大きな反応をしてしまった。正直声なんてかけられるとは思っていなかったからだ。
「あ、び、びっくりさせちゃったかな……」
「いや、大丈夫、ごめんね、反応が遅れちゃって」
 僕はあわてて返答する。
 彼女はクラスメイトのイーブイ、名前はティオという。名前からよくオスと間違えられるらしいが彼女はメスだ。
 実は僕とティオは昔からの知り合い。専ら誰もその事実は知らないけどね。
「どうしたのさ、僕と話なんてすると変なうわさがたつよ?」
 できるだけ不愛想に答える。まだほかのクラスメイトがいる。ティオに変な噂は立てたくない。一応そのために全部伏せてるのだ。
「ひどいなぁ……、まぁいいや、部活見学一緒に行かない?」
 おっと……また唐突な提案で……。僕は外を見ながらその言葉を聞いていた。本当なら喜んで! ってとこなんだけど……。
「無理に僕じゃなくていいんじゃない? ほかのクラスメイトいるし……」
 僕と行動するのは避けてほしいな。ということで断る。
「いいじゃないかぁ~たまにはさぁ~……」
 ティオが甘えてくる。……正直かわいい。だけどそれは顔にはださない。
「だ~っ! 甘えるなッ!」
 声を荒げ僕はティオから離れる。幸い教室内は騒がしく二匹には誰にも気づいていないようだ。
「む~、いじわるだなぁ」
 ティオは顔を膨らませて怒る。
「悪いけど部活なんて入る気ないよ、変なうわさたったら困るし……」
 嘘ではない、実際それは考えてる。
 ただでさえわざわいポケモンのじぶんがいるだけで毛嫌いされるのに、部活に入りでもしたらその部活の評判が下がりかねない。
 僕にとってはつまらないがそれが一番いいのだ。
「なぁに? それはシンが嫌われてるからってこと?」
 だいたいあってる。
 やっぱり長くいると考えってものは読めるのだろうか? シンは少しだけ肩をすくめる。
「あってるみたいだね、もしそうだと思っているんだったらさ、私についてきてよ、それくらい……いいよね?」
 ティオの口調が少し変わる。だいたいこういうときは何を言っても聞かない。
 下手に断りでもすれば……。
「あいたっ!」
 ティオが足に鋭いパンチを入れる。
「ね?」
「わかったよっ!」
 こういうことになる。
 僕はしぶしぶ了承する。脛に入れられたせいでまだ足がずきずきと痛む。
 この借り……いつか返すからな。

「ほら、これみてよ」
 そう言ってティオは掲示板をシンに見せる。
 そこには健康についてや学習についてやらさまざまな掲示物が貼り付けられている。
 そこでシンの目にとまったものはある一枚の部員募集の紙だった。
「新しく放送部ができました! 部員を大募集してるよ! って……もしかしてこれのこと?」
 ティオが黙ってうなずく。
「まあ確かに新しい部活なら問題ないかもしれないけどさ……」
 シンは反論をしようとする。
 しかしティオからは反論したらまた殴るっ! というようなオーラが出ていたのでやめた。
「で? 僕について行けと……」
 またティオはうなずく。結局そう言うことになるのね……。
 シンは心の中でうなだれた。久しぶりだ、こんなに振り回されるのは。

 放送部は校舎の三階の突き当たりにある。今のところ上級生は部活でいないので生徒塔はガラガラだ。
「こんにちは~見学に……」
「やぁ! 見学者? うれしいな~!」
 おおぅ!? 何事!?
 いきなり大音量のマイクで声が飛んでくる。シンはかるく頭痛でふらついた。
「あっ! 君はシン君だね! 覚えたよ!」
「あ、は、はい、こんにちは……」
 声の主はミゥだった。片手にはピンマイクらしきものが握られている。
「で、今日は何を見に来てくれたのかな? 私でよければいろいろ答えるよ! 私が顧問なんだけど!」
「とりあえずそのピンマイクを切ってくださいっ! あたまがいたいんですっ!」
 僕は半ば奪いとるようにピンマイクをとるとスイッチを切った。
「あっ! こめんね~、練習中だったからさぁ~」
 どうも調子が狂う、シンは見えないように溜息をつきながらスイッチを切ったピンマイクをミゥに返した。
 まったく、どうしてこんなにもはじけてるんだか……。
「ありがと、入部希望者なのよね? うれしいなぁ、ささ、こっちに来てよ!」
「ちょ……まだ入部するって決めたわけじゃないんですけど」
 なぜか話が入部前提になっている。
「え? 違うの? でも決まり、シンは放送部決定ね」
「ちょっ! そ、そんなことだめですよ!」
 この先生、強引すぎる!
 シンは丁寧語が崩れないよう必死に断る。普通ならつかみかかっているところだ。
「じゃあ断る理由はある?」
「そ、それは……」
 予想以上に鋭い質問がかえってきた。シンは思わず口ごもってしまう。後ろではティオがドアの小窓から二匹を見つめている。
「ほら! ね、だから一緒にしよ?」
 恐ろしいほど無邪気な笑いでミゥはシンへと詰め寄る。
「そ、その……両親が反対するので……」
「あれ? そうなの?」
 とっさの出まかせだ。しかし考えればなかなかまともな理由かもしれない。その言葉でミゥは動きを止める。
 シンは一メートルほど距離をとってからミゥに対峙した。あまりくっつかれるのは好きではないのだ。
 ……ましてやこういう馴れ馴れしいのはなおさら。
「だから今まで部活に入らなかったんです。今日はそこのティオに誘われたもので、先生、早とちりさせてしまってすみません」
 少し落ち着けばこのようなものはいくらでも作れる。ティオには悪いけどここはしのがせてもらおう。

 しかし肝心のミゥの反応は薄かった。
「へぇ……、シン君両親いたんだ?」
 ミゥの瞳がシンを映し出している。瞳に映った自分の表情は、自分でも恐ろしいほどの無表情だった。
「それはどういう意味ですか?」
 思わず口調がきつくなる。
「シン君の両親はいないはずなんだけどなぁ……私の調査間違いだったかぁ」
「――!?」
 さすがに動揺を隠しきれなかった。
 なんで先生が知っているんだ……?
 ミゥの言う通りシンに両親はいない。幼いころに捨てられたのだ。そのため今はバイトなどをして学費を稼いでいる。
「あ、その顔、やっぱり嘘だったんだ。だめだよ~? 嘘なんてついちゃあ」
 ミゥはわざとらしく両手を腰に当て怒った表情をする。
 なんか屈辱的だ。
「なんで知っているんですか?」
 シンは食い下がる。ここで切れてしまっては負けだ。何よりもプライドが許さない。
「全部調べてるよ? 君のことはすべて」
 ミゥは当然のごとく答える。一瞬その言葉に違和感がないように見えるが、とらえ方によってはそれはストーカーだ。
 シンは背筋が寒くなるのを感じた。
「当然君が無許可でバイトしていることもね」
 冷や汗が出てきた。無許可でバイト、それも真実だ。
 ……隠していることはすべてばれているのだろう。今更普通の生徒ぶっても無駄だ。
「それで、いったいどうしようっていうんですか? やっぱり退学させる気ですか?」
 どうやら想像以上に窮地に立たされているようだ。
 入学して早々退学なんて冗談じゃない! どうする……?
「ああ、それなら大丈夫だよ、バイト、解約しといたから!」
 ……は?
 一瞬耳を疑いたくなった。
 バイトを解約? そんなことされたら……学費が払えないじゃないか!
「あれ? どうしたの?」
 ミゥはシンの目の前で手をふり半ば唖然としたシンを見つめる。
 なんかもういろいろと真っ暗だ。この先生が来てから……。
「まぁいいや、学費に困ってるんだよね、バイトするぐらいだから」
 ミゥはこちらに詰め寄る。何か考えている目だ。シンは何となく嫌な予感がした。そしてシンのそれはたいてい当たるのだ。
「実はね、わたし、シン君の学費、全部立て替えておいたの」
 なっ……なんだって!?
 声には出さないがいろんな意味で驚いた。そしてやはり嫌な展開が待っていた。
「だからさ、こういう条件にしない? 
 わたしが学費を払うから、シン君は私の部活に入ってくれないかな?」
 シンは思わずミゥを見据えた。初めから強制的に入れるつもりだったのだ。
「あ、もちろん断った時は分かるよね?」
「脅迫……するんですか?」
 シンは怒りを抑えミゥに言う。もはや破天荒という域を超えている。いくらなんでも我慢が出来なかった。その言葉にミゥの表情が変わる。
「脅迫? ひどいなぁ、わたしはシンのためを思っていってるんだよ?」
 口調が変わった。その表情は暗い怒りを秘めている。逆に攻められているような気分だ。
 なんでだよ……。
 シンは押し黙るしかなかった。
「シンはもっとみんなに知られるべきポケモンなんだよ? 成績優秀、スポーツ万能、それなのに君は自分の世界に閉じこもっている。
 わたしにはわかるよ? ほんとは君、みんなと話したいんだよね? 一緒に遊びたいんだよね?」
 まるで催眠術にでもかけられているみたいだ。それほどまでにミゥのことばは的確にシンの心の中をとらえていた。
「ねえシン、きっといいことある、だから放送部、一緒にしよ?」
 反論できなかった。
 一時の沈が場を支配する。それは流れを完璧にミゥのものにするのに十分な時間だった。
「決まり! それじゃあこれからよろしくね!」
「え……あの……」
 ミゥはよほどうれしいのか小躍りしている。とても声をかけれる雰囲気ではなかった。
 もはや突っ込む余地もない、とんでもない部活に手を出してしまったんじゃないか……俺。
「シン、大丈夫だった? なんかすごく疲れた顔してるけど……」
 ティオがドアを開け入ってくる。どうやら放送室なだけに防音はしっかりしているらしい。シンは心のうちで安堵した。
「あれ? あなたも入部希望者かな? えっと……お名前教えてくれないかな?」
 こっちは知ってて向こうは知らないのね……。
 シンは心の中で突っ込みながらティオの反応をうかがう。
「あっ、ティオといいます。えっと、ミゥ先生……でしたよね?」
 丁寧な言葉遣いだ。いきなりの質問にも動じていない。さすがというべきかな。シンは二匹のやり取りを見ながら感じていた。
「あっ、覚えていてくれたんだ~! そう、ミゥだよ。よろしくね!」
「は、はい……」
 ……そうでもなかった。やっぱりミゥの高いテンションについて行くのは至難の業みたいだね。
 とりあえず会話の中に入ってフォローしよう。
「それで、あなたも入部してくれるの?」
 さっそくというようにミゥが詰め寄る。気の弱いポケモンなら気圧されてうなずいてしまいそうな勢いだ。
 ま、とりあえずまずは落ち着いてもらおう。
「先生、そんなに詰め寄ったら……」
「はい、入部希望者です!」
 はいっ?
「ちょっ! ティオ! こっちに来て!」
 シンはあわててティオを自分のほうにつれてくる。考えなしで行動しているとしたらとんでもない。それは何よりも自分が証人だ。
「な、なに?」
 当然ティオは驚いた表情でシンを見つめる。とりあえず説明よりも意志を確認したほうが早いだろう。
「おまえ本気で入部考えてるのか?」
「じゃあシンはどうするの?」
「う、そ、それは……」
 予想外の早い切り返しに思わず言葉が詰まってしまった。そしてそこが勝負の分かれ目でもある。
「ほら! やっぱり入るんじゃない! シンだけ楽しいことを一人占めするなんて許さないんだからね!」
「そういう意味じゃない!」
「じゃあどういう意味よ!」
 だめだ。もうこうなったら言うことを聞かない。何とか理解を得るには……
「決まり! じゃあティオも入部ね!」
 はい強制決定。泣いていいですか?
 シンはただぼうぜんとその場に流されるしかなかった。この二人、考えるよりも直観で行動してるよ……。
「シン、これからよろしくね!」
「あ、ああ……よろしくな」
 半ばげんなりしながらシンはうなずいた。
「それで、放送部って言うぐらいだから放送するんですよね? いつなんですか?」
「明日」
「はあぁっ!?」
 思わず絶叫。いや、普通そうだろ。
「え……それほんとですか?」
 ティオも驚きを隠せないようだ。うん、まっとうな反応だと思う。
「うん、明日の昼休みに放送だよ。がんばろうね!」
 ごめんなさい、ほんとに泣いていいでしょうか? いくらなんでも無鉄砲すぎる。
「いや、がんばるとしても原稿がないと何もしようもないですよ」
 半分苦笑しながらシンはミゥに語りかける。
「あ、そうだったね~」
 一瞬殺意がわいた。
 とにかく考えなければいけないんだな。……ああ、頭が痛くなってきた。

「それで、何か放送することは決まってるんですか?」
「えっと、まず自己紹介と放送部の活動についてを伝えられればいいかなと思ってる」
 ……それだけ? ええ……。
 これだけで昼休みを何とかしろというのも少しつらい。
 この学校の昼休みはだいたい一時間近く、それなりに話題がないとネタが尽きてしまいなんとも内容がない放送になってしまう。
 やるからにはそんなのは遠慮したい。
「シン、私もいること忘れないでよ? ちゃんと私も考えるよ」
「あ、ああ、ありがとう……」
 なぜか言葉が詰まってしまった。そういえば久しく感謝の言葉を言ったことがなかった気がする。
 ティオ、しばらく一緒に離さないうちにこんなにも距離感ができてしまったんだね。少しだけさみしさがこみ上げてきた。
「わたしも考える、ほら、一応顧問だし!」
 そこ顧問関係あるか? と心の中で突っ込みながらもシンはそばにあるコピー用紙を手に取り目の前に置いた。
 構造はだいたい頭の中で完成してきている。後はそれをいかに文章に表せられるかの問題だ。
「さて……まずは自分たちの自己紹介を考えないとね。簡単でいいから書こうか」
 シンはティオとミゥを交互に見る。時間がないのでさっさと終わらせるに限る。
「あ、ちなみにわたしは放送に出ないからよろしくね。放送機器の設定をしないといけないから」
「決まってるのね……」
「……シン?」
 しまった……素でつっこんでしまったよ。ティオが少し不思議そうな顔でこちらを見つめている。
「わかりました。じゃあミゥ先生の紹介は僕たちが言うってことでいいんですね?」
 その場を無理やりごまかそうとする。
「うん、その方向でお願い、あと、猫かぶるのはよくないよ?」
 はい、しっかりと釘刺されましたね。別に猫かぶってるわけでもないけど。
「猫かぶるなんて……ちょっとかわいそう」
 あれ、かわいそう扱いされちゃってますよ?
 ティオは憐れむような目でこちらを見つめてきた。みているとなんだか本当に泣きたくなってくるので目をそらす。
「いや別に猫かぶっているわけじゃないんですけど……」
 とりあえず否定、変なイメージをつけられてもらっても困る。
「無理しなくていいんだよ? 素直になれば楽なんだから」
 ミゥが優しく語りかける。だがその表情はいたずらをする子供のような表情だった。シンはその様子をめんどくさそうに見つめ返す。
 もしかしてこの先生、僕よりも精神年齢が低いかもしれないな……。
 心の中でシンはつぶやいた。だとすればほんっとうにめんどくさい。
「わかりましたよ……そういうことにしときます。ところで放送部の活動って主にどんなことですか?」
 適当に流し次の話題へと移そうとする。あんまり構っていても状況はどうせ変わらないだろう。
「敬語禁止」
 はあっ?
「ちょ……どういうことですか」
「一応私は先生だけど、年はみんなと変わらないんだよね。だからさ、一応話すときは敬語抜きにしようよ!」
 はぁ、またぶっ飛んだ提案で。
 ある意味尊敬の念を抱く。やはりこの年で先生になるからにはこれくらいの思い切りが必要だということだろうか?
「ということで二匹ともこれからは日常の会話でよろしくね!」
「……」
 しばらく会話が止まった。ま、そりゃそうだろう。
 ティオは複雑そう顔をして下を向いている。内心ではかなり焦っているのが感じ取れた。
 正直僕もどうすればいいかわからない。それよりも明日の放送が心配でたまらない。
 放送室にあるただ一つの窓、外は夕焼けがかかり部活を終えた生徒が校門から楽しそうに帰っていく様子が見えた。
 基本部活終了の時刻は決まってなく自由なのがここの学校の大きな特徴だ。
 だが……あまりにも遅すぎるとまずいだろう。それにティオの家が心配だ。
「まあそういうのは置いといて明日の原稿を考えませんか?」
 苦し紛れにシンはを話題をそらそうとする。
「だ~めっ!」
 子供か! まあこっちも子供だけど! てか空気読んでほしいわ……。
 心なしか心の中の口調までもが変わってきた気がしてきた。
「わかった。これでいい? その……ミゥ」
 ティオが小さくつぶやく。
「そう、それでこれからはよろしくね!」
 違和感無さ過ぎ。どうしてこうも簡単になじんでしまうかな……。
「シンは? ちゃんとやってくれるよね?」
 いや、プレッシャーかけないで。というよりもやれというオーラたちまくりだし。選択権というものは存在しないみたいだ。

「……わかったよ。これでいいんだろ?」
「うん、よろしく!」
 あれだけいろいろ言っておいてその一言ですか……すごく振り回されてるね、僕。
 客観的に見てみるとすっこくあわれな立場なような気がする。いろんな意味でこの状況に従順に対応しているティオがうらやましく思えてきた。
「じゃあ原稿をさっさと考えま……考えるよ」
 なれない。まあそのうち何とかなるか。
 気楽に考えないとなんかもうやっていけないような気がし、シンは原稿に集中することにした。
「ティオ、家のほうは大丈夫なの?」
 文章を書きながらシンはティオに尋ねる。ティオは横でシンが文章を書くのを眺めていた。
「あ、うん、大丈夫、基本私の家は放任主義だから」
「へえ、そうなんだ。知らなかったなぁ」
 そういえばこういう何げない会話も久々だ。久々に羽を伸ばし会話ができるような気がする。いつの間にかミゥは壁にもたれかかって眠りこけていた。
 初めのうちはどうかと思っていたがそのうちそれも気にはならなくなっていた。原稿を書きながらシンとティオは久々の日常会話を堪能することにした。

 太陽が完全に沈むころ原稿は完成した。多少粗いが一応進行には困らない程度だ。
「一応完成したけどこれでどうかな?」
 シンはティオに原稿を手渡した。字が粗いので読めるかどうかが内心心配だ。だが、それも杞憂だったようだ。
 ティオは視線をこちらに向けるとゆっくりとうなずいた。
「よかった。これで何とか大丈夫そうだね」
 とりあえず最悪の事態は避けた……と。
「で、どうしようか」
 シンは視線をミゥのほうへと向ける。見事に眠りに落ちているミゥはちょっとやそっとじゃおきそうもなかった。
 ……たぶん蹴りつけても起きなさそうだ。いや、蹴りつけようか。
「そっとしててもいいんじゃないかしら? 原稿ができたので帰りますって置手紙を添えて……」
 たぶんそれが一番いいとおもいます。
「そうしようか、じゃ、おつかれさま」
「うん、おつかれ、明日、がんばりましょうね」
 眠りこけているミゥを後にして二匹は学校を後にした。


 そして翌日。いつもよりシンは早く登校した。この学校には部活の朝練はない。故に早朝の学校は影がなく静かであった。
 物を詰めたカバンを置き、シンは窓の外を眺める。ポケモンの姿がない校庭はどことなくさみしいような、怖いような雰囲気だった。
「あれ? もう来てたの?」
 おおぅ! 
 思わず飛び上がりそうになる。昨日もこんなことがあったような気がしたがそんなことはすぐに頭の中から消えた。
「ミゥ先生ですが、びっくりさせないで下さいよ!」
 シンはまだひっくりしている鼓動を感じながらミゥに詰め寄る。
「敬語は禁止って言ったでしょ?」
「はいはい、そうだったね!」
 シンはいら立ちを表しながらいう。とりあえず今は生徒がいないからこういうことが言える。もしいたならば……まあ無視の方向だろう。
「まあそれは置いといて……今日の放送、がんばってね」
 はい、話をふっておいてどういうつもりかな? この先生は。
 という突っ込みはこれくらいにして若干の口調の変化にシンは耳を向けた。
「心配しなくてもちゃんとやるよ」
 シンは窓の外を目をやる。まだまだ登校してくるポケモンはいないみたいだ。
「そう、ならよかった。この放送とを通してきっとシンは変わる。それはティオも一緒。……応援してるよ」
 一瞬言葉が出なかった。何と言うかこんな言葉が聞けるとは正直予想外だった。あまりにもイメージと違うというか……。
 時折ミゥは思ってもみない言葉を口にする。この学校に来てから周りの先生は覚えてきたつもりだがどうもミゥだけは理解することができなさそうだ。
「それじゃあそろそろわたしは行くね。シン、ティオによろしく」
 その言葉を言うとあの時と同じようにテレポートしてその場から消えてしまった。
 ろくに会話もしていないのになんだかかなり時間が立ったように思えた。
「ふぅ……」
 軽くため息をつく。別に期待にこたえるつもりではないが今日の放送、成功させたくなってきた。
「おはよう、シン」
「っと、おはよう、ティオ」
 いつの間にやらティオがやってきていたようだ。いつもなら無反応なのだが条件反射というものだろうか、無意識に答えていた。
 今日、ティオと一緒に放送をしなければならない。
「ティオ、あのさ」
 その言葉は思っていた以上に軽くシンの口から発することができた。
「今日の昼食時間にリハーサルをしない?」
 ティオは驚いた表情でこちらを見つめる。少し大きく見開かれた目はいつもとはまた違ったかわいさが垣間見えた。
 やがてその表情も溶けるとティオも口元はほころびティオは小さくうなずいた。
「うん、そうしようか」
 その言葉にはうれしさというものがちらついている。それを感じたシンは少しだけ心の中が温かくなるのを感じていた。
「それじゃあまた昼に放送室で会おうね」
 これでまた会話は途切れる。なぜだかそれが少しいやだった。
「……うん」
 ティオは少し間を置き返事をすると自分の席に戻っていく。ふと窓の外に目をやると登校の早い生徒がこちらに歩いてきていた。
 その顔は今の自分の心境とは対照的に学校が楽しくてしょうがないという笑顔に満ちていた。
 どうやら昨日の間に僕は昔の日常を思い出してしまったらしい。
 今の学校生活は暗く、つまらないものだった。なんとなくミゥの言うことが分かってきたかもしれない。でも、これが変わることなら正直前のほうがよかった……。

 それのせいかもしれない。なぜだか今日は授業が耳に入らずいつの間にか時刻は昼ごろをさせていた。チャイムが鳴り響きいっせいに生徒が席を移動し始める。
 ……放送室に行かなきゃならないね。暗い気持ちをとりされないまま僕は放送室へと向かった。

「あっ、来たね。こっちこっち!」
「あれ、なんでいるんで……なんでいるの?」
 リハーサルは確か伝えなかったはず。なぜかミゥが放送室にいた。そして肝心のティオがこちらにはいない。
「そりゃいるにきまってるでしょ? 放送機器のメンテナンスをしないといけないんだから!」
 あ、なるほどね。そりゃいるわけだ。
「ごめん! まった!?」
 しばらくしてティオが息を荒げながらこちらへ走ってきた。まるで朝起きてすぐのような毛並みをしている。
 いや……落ちつけよ。そんなことを言いそうになったが言えばパンチされるのは目に見えている。
「そんなに急がなくてもよかったのに……とりあえず息を整えてね」
「なによ、せっかく急いできたってのに……!」
 ほらね、この言い方でもこうだ。シンは軽く肩をすくめると昨日書いた原稿を取り出す。即席で作った原稿、今日はこれで勝負しないとならないのだ。
「私はメンテナンスしてるからやってていいよ。あ、マイクとかは使えるからね」
 なんだかんだいってやはり顧問だけある。シンたちには全然わからない機械を慣れた手つきで操作していた。
「始めましょ? あんまり時間ももうないし、一回通したら本番みたいね」
 ティオが壁に掛けられた時計を見ながらつぶやいた。
「うん、じゃあ本番通りとおそうか、先生、おねがいできますか?」
「お願いできる? でしょ、わかった!」
 こういう注意をされるのもなんだか変だな。そんなことを思いつつシンは本番通りの椅子へとつく。
 さて、これはまだリハーサルだ。固くならずに行こう。
「これがマイクか、うぅ、なんだか緊張するなぁ……」
 ここにきて一気にプレッシャーが襲ってくる。でもそれもリハーサルを通せば何とかなる、と願いたい。
「そうね、でもここまで来てるんだからがんばりましょう?」
 ティオも若干表情が硬い。でも言葉には迷いは感じられなかった。
「そろそろ行く? 言えばいつでも準備するよ?」
 ミゥが奥のほうからしゃべりかけてくる。一体何をしているのだろうか。奥のほうからは機械をレバーをいじる金属音が連続して聞こえてくる。
 とてもじゃないがその姿は想像ができなかった。

「いつまでもこうしてるわけにもいかないからやりましょう?」
 ティオがボーっとしている僕を見かねたように言う。いつの間にか考え込んできたようだ。
「うん、先生、よろしく!」
 少し変わった先生といじめられっ子の生徒、そしてその幼馴染。でこぼこな僕たち放送部のはじめての放送が今はじまろうとしていた。

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とりあえずここで人区切りをさせていただきます。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
何かコメントをいただけるのならうれしく思います。
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IP:61.7.2.201 TIME:"2014-02-26 (水) 18:06:53" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E3%81%93%E3%81%A1%E3%82%89%E3%83%9D%E3%82%B1%E3%83%A2%E3%83%B3%E6%94%BE%E9%80%81%E9%83%A8%EF%BC%81%E3%80%80%E4%B8%80%E5%B9%B4%E7%9B%AE" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; WOW64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/33.0.1750.117 Safari/537.36"

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