ポケモン小説wiki
くさぶえ の変更点


written by 名無し草 



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太陽の白い光が花畑を包み込み、僕はその中を駆けてゆく。 
色とりどりの花についた朝露が太陽の光を反射し、思わず目を瞑ってしまいそうだ。 
僕は適当な場所で立ち止まると朝の冷たい空気を思いっきり吸い込んだ。 
その冷たい空気に混じって、花のあまい香りが鼻をくすぐった。 
・・・さてここからが僕の日課。 
僕は前脚から生えている葉に口をあてるとゆっくりと息を吹き出す。 
          ~♪♪~~♪~ 
この広い花畑に“くさぶえ”が響き渡る。 
花びらが風にのってひらひらと揺れる。 
それはまるで僕のくさぶえにあわせて踊っているかのようでとても楽しかった。 
朝の輝く太陽、雲ひとつない蒼空、そして鮮やかな花の絨毯・・・ 
僕の胸は躍り、くさぶえの音色は活気付いてゆく。 
「素敵な音色ですね」 
突然くさぶえに混じり、誰かの声が聞こえた。 
くさぶえをやめて周りを見渡すが、花畑が延々に広がっているだけでその姿を見つけることはできなかった。 
あきらめて、再びくさぶえを吹こうとする。 
「ここですよ」 
足元で声がした。視線を下に向けるとやっぱりそこには”花”があった。 
空耳かなと首をかしげているとその“花”はもぞもぞと動き出した。 
驚いたことに目の前の“花”と思っていたものは一匹のポケモンだった。 
「驚かせてしまってごめんなさい。私はシェイミ。よろしくね」  
シェイミと名のったそのポケモンは笑顔であいさつをしてきた。 
とても愛くるしい顔で、つぶらな瞳が印象的なポケモンだった。 
「僕はリーフィア。こちらこそよろしく」                                                                      
このあたりに住んでいるポケモンは少ない。 
僕はこの小さなポケモンとの出会いに喜びを感じていた。 
「ねぇあのくさぶえ、もう一度聞かせてもらえる?」 
僕はうなずくと再び前脚に生えている葉を口にあて、そっと息を吹き出す。 
        ♪~♪♪~~♪  
静かな音色が二匹をつつみ込む。 
くさぶえを吹いていたリーフィアはふとシェイミのほうを見る。 
彼女は目を瞑り、リーフィアのくさぶえに聞き入っていた。 
それがうれしくってついくさぶえに出てしまう。 
静かな音色はどんどんと 速度 (テンポ)を上げていき、ついには活発な音楽へと変わっていた。 
その場は小さな演奏会となった。 



「ありがとう。とても楽しかったわ。」

くさぶえの演奏が終わり、シェイミはその小さな手で拍手を送ってくれた。 
いつもは花を相手にくさぶえを吹いていたからポケモンが間近で聞いてくれるのはうれしかった。 
「それじゃ、僕は水浴びをしてくるよ」      
これも僕の日課。ここの花畑には森が隣接していている。 
その森の中には小川が流れていて、僕はくさぶえを吹き終えるとそこで水浴びをしていた。 
「待ってください」 
森に向かって歩き出すとシェイミに呼び止められた。 
「明日…明日もここに来てくれますか?もう一度あなたのくさぶえが聞きたいんです」 
「うん。またここに来るよ」 
僕はシェイミと約束をし、森に向かった。 
途中後ろを振り向いてみたけどシェイミの姿は花に埋れてもうどこにいるのか分からなくなった。 



 森の中は太陽の光が木々によって遮られていて薄暗く、ひんやりしていた。 
それでも所々木漏れ日が差していて恐ろしいとは感じなかった。 
静寂につつまれた森の中、リーフィアの足音だけが聞こえる。 
木々の間を縫って行くと穏やかに流れている小川が姿を現した。  
僕は躊躇いなく川の中へと飛び込む。 
水しぶきが周りに飛散すると同時に心地良い冷たさが身に染みてくる。 
先程までくさぶえに使っていた前脚の葉も水を吸いこみ、青々しくなってきた。 
「今日のくさぶえの調子はどうだい?」 
しばらく川の中を漂っていると急に声をかけられた。 
声のするほうに振り向くとそこには一匹のジュプトルが立っていた。 
彼もこのあたりに住んでいるポケモンで僕の親友でもあった。 
「今日は目の前で聞いてくれたポケモンがいたからいつもより調子がよかったよ」 
「へぇ、俺は今まで寝ていたからお前のくさぶえ聞き逃したよ」 
「ハハハ、それは残念だったね。また明日聞いてよ」 
僕は川からあがると全身を震わせ、体についている水滴を振り払った。 
水滴はまわりに飛び散り地面に、草に、そしてジュプトルにふりかかった。 
「ちょ、おま…何か一言ゆえよ…」 
「ゴメンゴメン。そうだ!今日出会ったポケモン、君に紹介するよ」 
「そうだな。どんなポケモンか気になってたことだし、頼むわ」 
「うん。じゃあ明日の・・・今頃ぐらいに花畑で」 
「おう、わかった」 
そして僕はジュプトルと別れた。 
明日の今頃が楽しみで、今すぐにでもくさぶえを吹きたい気分だった。 



              ※ 
太陽が昇り夜の暗さをかき消してゆく。 
今日も空には雲一つ見あたらない。絶好のくさぶえ日和だった。 
しかし僕は焦っていた。 
昨日シェイミと出会った場所が分からなくなってしまったのだ。 
探すといってもこの広い花畑を隅々まで探していたら日が暮れてしまう。 
困った・・・昨日約束したのに・・・ 
・・・そうだ。 
僕は思いっきり息を吸い、声を出す。 
「シェイミー!どこ~!」 
静かな朝に僕の声が響き渡る。 
遠くのほうで、微かに僕の声が反復しているのが聞こえた。 
しかしシェイミからの反応はない。 
もう一度叫ぼうとしたとき遠くのほうで何かがひょっこりと花の中から出てきた。 
姿をあらわしたのは紛れもなくシェイミだった。 
僕は彼女のもとへと駆け寄った。 
「急に呼ばれたからびっくりしましたよ」 
「ごめん。君と約束していた場所が分からなくなってね…」 
とりあえずシェイミに会うことができてよかった。 
さっきまでの焦りはどこかへ行ってしまった。 
「今日は僕の親友を紹介するよ。もうすぐここに来る」 
「本当ですか!?うれしいです!」 
シェイミは目を輝かせ歓喜の声を上げる。 
「あっちも君と会うのを楽しみにしてたよ。…っと来たみたいだよ。あれが親友のジュプトル」 
約束の時間になり、ジュプトルが花畑にやってきた。 
彼はリーフィアを見つけるとのそのそと近づいてきた。 
足取りが重く、目がうつろだった。きっとまだ眠いのだろう。 
「ふぁ~ぁ、おはよ」 
大きな欠伸とともに出てきた声はあまりにも間抜けだった。 
「眠そうだね。」 
ジュプトルは目をこすって眠気を取ろうとしていた。 
「ああ…昨日夜遅くまでな…ところで昨日言ってたポケモンは?」 
「ん?君のそばにいるよ」 
僕はジュプトルの隣に視線を送る。 
ジュプトルも僕の視線を目でなぞり隣を見る。 
「なんだ、花しかないぞ?」 
「その“花”が昨日言ってたポケモンだよ」 
シェイミの背にはふさふさした緑色のものが生えていて二輪の花が咲いている。 
一見ふつうの“花”だった。 
「あ、あのシェイミです。よろしくおねがいします」 
「うぉ!動いた」 
「ハハハ、だから言ったでしょ。シェイミ、今言ってた親友がこのジュプトル」 
ジュプトルはまだ驚いていた。 
どうやら今の出来事で眠気は飛んでしまったみたいだ。 
「じゃ、くさぶえを吹くよ」 
僕は前脚に生えている葉を2,3回揉んで具合を確かめる。 
そして息を深く吸いこみ、葉に口をつける。 
目の前の二匹が僕を興味津々といった目で見てくる。 



      ♫~♪~~♫ 
まずはゆっくりとした 速度 (テンポ)からはじめる。 
穏やかな雰囲気がリーフィア達を包む。 
そよ風が頬をなで、周りからは花のあまい香りが漂ってくる。 
それらがより一層この雰囲気を際立たせていた。 
まさにそれは風と花とが織り成す 交響曲 (シンフォニー)。 
そして今度はどんどん 速度 (テンポ)をあげていく。 
それは、空のように壮大で太陽のように明るい音色になった。 
リーフィアの奏でるその音色はシェイミ、ジュプトル、そしてくさぶえを吹いているリーフィア自身の胸を弾ませた。 
四方に広がる花の絨毯、鮮やかな蒼穹、それに浮かび白光を放つ太陽、そしてリーフィアの奏でるくさぶえ。 
これらが混ざり合い不思議な世界を作り出す。 
そしてしばらく演奏が続き、時は流れる・・・  
 「やっぱり森の中で聞くより間近で聞いたほうがいいな」 
くさぶえを吹き終えたあと、ジュプトルはそう声を洩らした。  
僕も目の前にポケモンが二匹もいたから緊張した。 
「うん。いい音色だったよ。じゃあまたな」 
そう言うとジュプトルは立ち上がり、森に帰っていった。 
「シェイミ、どう…」 
シェイミのほうを向くと彼女はその小さな瞳から大粒の涙を流していた。 
僕はその意味が分からずうろたえた。 
「ど、どうしたの?」 
「っ…いえ、これで心置きなく逝くことができると思うと…」 
いくことができる?一体どういう意味だろか? 
「リーフィア、黙っていてごめんなさい。私はもう3年前に病で死んでいるの」 
「それって…」 
僕は口を開くがすぐにシェイミの言葉が重ねられ、それ以上何も言うことができなかった。 
「私、この花畑に何年も前から棲んでいたの。毎日花に囲まれてしあわせだった。 
でもね、いつの日からか体が重くなっていってついには動けなくなったの。体の中に得体の知れない何かが蠢いて気持ち悪かった」 
シェイミは淡々と語りさらに続けた。 
「この花畑にいたポケモン誰もが私に気付かなかったの。この体のせいでね・・・。悲しかったわ。苦しんでいる自分を誰も見つけてくれなかったことがね・・・そして、死んでからも誰も私を見つけてくれなかった」 
リーフィアは信じられなかった。シェイミがすでに死んだポケモンだなんて。 
しかし彼はシェイミの体の異変に気付いた。彼女の体が消えかかっていた。それはまるで花畑の景色に溶け込むように。 
「…でも最期にリーフィアやジュプトルに会えてよかった」 
「消えないでよ…せっかく仲良くなれたのに…」 
過ごした時間は短かったけどリーフィアにはシェイミが大切な何かに思えた。 
その証拠にリーフィアの目には熱いものが溜まっていた。 
「ありがとう」 
シェイミはそれだけ言うと消えてしまった。 
その跡にはこの花畑では見られない薄紅色の花が咲いていた。 
シェイミが消えた後、リーフィアの目に溜まっていた熱いものはあふれ、いくつもの玉になって薄紅色の花に落ちた。 







シェイミが消えてからも僕は花畑に行ってくさぶえを吹いていた。 
そして今日も… 



僕はこの花畑で一本しか存在しない薄紅色の花の近くに座り、いつものようにくさぶえを吹く。 
ーシェイミ、僕は君のこといつまでも覚えているよ。 
すると僕の心を読んだかのように薄紅色の花だけが揺れた。 




今日も花畑にくさぶえが響き渡る。  




end        


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