ポケモン小説wiki
かべのなかにいる! の変更点


#include(第九回帰ってきた変態選手権情報窓,notitle)

&color(pink){注意! この小説はR-18なシーンを含みます。};

&color(crimson){追記};
2020/07/07 [[朱烏]]さんにご厚意でFAを描いていただきました。挿絵つきで53倍えっちになったのでぜひ読み返してくださいませ。

&size(32){かべのなかにいる!};

[[水のミドリ]]

目次
#contents


*1 [#US6LM9b]

 可愛い可愛い娘ふたりをリビングのソファで寝かしつけ、ゆるりと上下する背中へ毛布をかける。……ふぅ、ようやくお昼寝モードになってくれた。ちょっと休憩を挟みたかったがそうも言っていられない。新しいトレーナーは快くあたしたちを迎えいれてくれたが、初老で寂しい独り身だ。進化前は世話役ポケモンだとか分類されているあたしに家事くらいは任せてもらおう。さ、ちゃちゃっと夕ご飯をつくっちゃいますかね。キッチンに浮かび立ち、ニンジン、ジャガイモ、タマネギにお肉。カレーの具材を気分よく並べていた。
 なのに。
「むー! おねーちゃんのいじわる!」
「私に勝つ……それがどれだけ厳しいか、その身に叩きこむとしよう!」
 うるさい。非常にうるさい。防音設備のしっかりしているアパートだとはいえ、今にも近隣住民から怒鳴りこまれそうな声量だ。幸いにもお隣は防音の特性を持つジャラランガとそのトレーナーで毎日遅くまで帰ってこないが、夜泣きでもされたら1発で怪獣大戦争が勃発するだろう。
 おそらく寝ぼけたウェンディが隣で眠る姉の尻尾へ噛みついたのがキッカケだと思う。弱点を突かれて(そうでなくとも寝ているところをいきなり噛まれたら誰しも怒るだろうけど)幼いながらも逆鱗に触れたらしい、アイーダがやり返したのもまずかった。甘噛みの応酬は次第にヒートアップし、あたしが目を向けたときにはリビングのテーブル上空でドラメシヤ2匹のウロボロスが完成していた。「やめなさい!」と叱る間もなく離散し、急に始まる室内おいかけっこ。ソファの周囲を飛び回ったかと思えば、観葉植物を挟むようにしてじりじりと睨みあう。隙間風のようにリビングを吹き抜け、ライトのシェードを派手に揺らし、つい数分前まで夢の中にいたとは思えない溌剌っぷりを見せつけてくれる。 
 タマゴから孵ったばかりの妹のウェンディは、14年も先輩にあたる姉のアイーダへ追いつこうと躍起になっていた。姉はゴーストポケモンらしくローテーブルをすり抜けたが、続く妹はあたしと同じで透明化するのが苦手だ。したたかに頭を打ちつけ、机からテレビのリモコンが転げ落ちる。頭を抱えながら起き上がりキョロキョロあたりをうかがい、カッコつける姉へ一目散に突っ走った。……けれども急旋回した相手に反応できず暖炉へ頭から突っこんだ。
 ずぶ濡れのワンパチみたいに煤だらけになったクリアボディをフルフル振るい、ウェンディが赤い襟を尖らせてアイーダに食ってかかる。……リビングを掃除することと、姉妹を風呂場へ連れて行くこと。それからちゃんと叱ること。あたしの仕事がみっつ増えた。
「くりゃえおねーちゃん、ひっさつ、〝どらごんありょー〟!」
「吹けよ風、呼べよ砂嵐……!」
「こーら、ふたりともいい加減にしなさい?」
 落ち着きなどタマゴの中に忘れてきた姉妹のケンカはとうとうバトルごっこにまで発展した。とはいえドラメシヤがドラゴンアローを繰り出せるはずもなく、ウェンディが放った渾身のそれはただの電光石火。
 対するアイーダはさすがお姉ちゃんといったところか。技を出すにもおぼつかない妹の面倒を見るような雰囲気さえあった。砂嵐は使えないしキバナさんの物真似は鼻につくが、姉としての意識も芽生えてきたようだ。電光石火を涼しい顔して受け流しているあたり、バトルの基礎もしっかり理解しているらしい。うんうん、なんたってあたしの自慢の娘だもの。
 一直線に突撃したウェンディは姉の体をすっぽ抜け、年季の入ったブラウンのソファへ頭から墜落した。スピードも足りていなかった彼女の体はストライプ柄のクッションに跳ね返されて空中で1回転、見事なドラメシヤ拓のできあがり。あたしの仕事がまた増えたが、今のはなかなかの勇姿だった。外すことを恐れず躊躇なく突っ走れるあたり、ドラゴンダイブの才能があるのかも。最終進化するまではあたしもその技を使っていたから、ウェンディだって血を受け継いだあたしの娘なのだ。親バカ? そうかもしれない。
「あれーっ、なんでこうかがないのー!? おねーちゃんすごーい!」
「フッ、さすが私」
「おーい、暴れるならベランダ出なさいって言ってるでしょ? そろそろ怒るわよー?」
 あたしが顎で示した先、東向きの掃き出し窓からは芝の生えそろった専用庭が広がっていた。お隣との仕切りがないせいであまり騒がしくはできないが、子供たちが遊ぶくらいなら丁度いい。キッチンスペースから首を伸ばしてあたしが逆鱗の喉を低く唸らせるも、じゃれあうふたりの耳には届いていないようだ。……ふたりとも遊び盛りなんだ、物を壊すことはしないと思うからアイーダに任せておいていいでしょう。毎回注意しているとこっちの気が滅入る。はぁ、とこぼれそうになったため息を押し殺してニンジンへ爪をかけた。ドラパルトに進化してから生えてきた爪はなんだかんだ子育て生活に重宝する。料理するさまもなかなか板についてきたんじゃないか。トッピングの特選リンゴとルーのスパイシーな香りが鼻腔をくすぐった。
 対面型のキッチンはカレーの下ごしらえを進めながらでも子供たちの様子が分かる。電光石火を透かされたからくりを把握できずに首をかしげる妹に対峙して、姉のアイーダがSNS映えしそうなポーズを取った。
「な……なにそれ! かっこいいー!」
「私の妹ならば、ウェンディもこの技を使えるはずだ。ドラゴンの荘厳さ、とくと目に焼き付けよ……! 荒れ狂えよ私の必殺技、アパートごと妹を吹っ飛ばす……!」
「よしなさい」
 ……そうだ、あたし譲りに血の気の多いアイーダは、ことバトルとなると加減が分からなくなるきらいがあった。嫌な予感がして顔を上げると、興奮した彼女が尻尾に竜の闘気を纏わせている。それこそバトルで使ったなら相手を場外まで吹っ飛ばせる技、ドラゴンテール。それがぼーっと見入っている妹の手前まで迫っていて。
「ひゃわ!?」
 間一髪のところでウェンディが跳ね上がった。驚いてバランスを崩したアイーダがキリモミ回転、液晶テレビへ飛んでいく。勢い余った彼女の尻尾が、テレビ台に飾ってあったいかにも高そうな陶器の花瓶を弾いて――
「って、危なあぁっ!」
 ニンジンを放り出してキッチンから飛び出した――つもりが、体を透明化させるのをすっかり忘れていた。ガチャン! とキッチン吊るしに幅広の頭が引っかかり、フライ返しとマッシャーが金属質の悲鳴を上げる。……くそっ初歩的なミス、またやっちった。口を左右に引っ張られた不細工な顔で落下していく花瓶を見つめることしかできない。重力に従って半回転した一輪挿しは、その口から煤っぽいフローリングに真っ逆さま。唖然としたあたしたちに見守られながら花瓶としての最後を華々しく散らすのだろう。衝撃は一瞬にして全体にひびを生み、絶妙なバランスで焼成されていた花瓶を修復不可能なまでにバラバラに打ち砕く。そうなるまでのたった1秒ほどの時間がやけにスローに見えた。……ああ、なんてこと。
「おっと」
 どうにかこの家から追い出されないようトレーナーへ平謝りする算段をあたしがつける――それよりも早く、床を舐めるように石板の腕が伸びて、その先端に揃った影の5本指が花瓶を受け止めた。
 タイミング良く書斎のドアを開けて浮かび入ってきたデスバーンのクレイが、テレビの横へそれを戻す。生けられたバーベナが潰れないように、不定形な指先で傾いた茎をそっと整えていた。
 カタパルトに引っかかったおたまを鍋に放り入れ、あたしは彼の元へと滑り寄った。
「助かったよクレイ、ありがとさん。……ったく。ごめんねぇこんなそそっかしい娘たちで」
「いえいえヒュドラさん、貴女がいらしてから毎日が賑やかで楽しいものです。僕も親離れしたあの子を思い出しちゃいました。……それよりアイーダちゃん、怪我はないかい」
「……大丈夫」
 反省してはいるのだろう、娘はしょげ気味に尻尾をうなだれさせていたが、気遣ってくれたクレイの腕の石板はぶっきらぼうに払い除けた。まるで「触らないでください」とでも主張しているように、だ。クレイもクレイで影の指を所在なげにうにうにさせている。
 あたしの喉から再び、小さくため息が漏れかかった。……ダメダメ、こんなことで怒るべきじゃないぞハイドレンジア。娘が思い通りの対応をしてくれなくたって、母親のあたしが態度に出すべきではない。
 そそくさとあたしの影に隠れようとするアイーダの尻尾を引っ掴んで、真っ黒ケなウェンディと揃えてクレイの前に突き出した。
「ほら、パパにありがとう、は?」
「あぃがとー、ぱーぱ!」
「…………」
 無邪気に挨拶するウェンディのかたわら、思春期まっさかりなアイーダはそうもいかなかった。ぱっちりとしたクリーム色の瞳を背け、ばつが悪そうに俯いたまま動かない。つまらなそうに口端を曲げてまごつき、爪も生えていない短い腕を手持ち無沙汰に組んでいるだけ。10秒20秒と経っていっこうにダンマリを決めこむ彼女に、あたしは無意識に尻尾の先でフローリングをたしたしと叩いていた。……いけない、すぐイライラするのは本当によくない。更年期はもっと先だと思っていた。
「アイーダ。……ちゃんとして」
「だって」
「だってじゃない、お姉ちゃんでしょう。もうじきウェンディを頭に乗せてお世話するのよ。しっかりしなさい」
「…………」
 お姉ちゃんでしょう。……あたしも幼い頃さんざん言い聞かされた口説き文句。ずるいのは分かっているが、あたしたちの種族にこの言葉は魔法のように効く。世話好きの本能がそういう立場であることを受け入れやすいのだろう。
 目論見通りアイーダは煤けた妹を見つめて「なんだかなあ」みたいな顔つきになって、クレイに向き直ってくれた。
「……ありがとう、ございます。私の不注意でご迷惑おかけしました。すみません、&ruby(・){ク};&ruby(・){レ};&ruby(・){イ};&ruby(・){お};&ruby(・){じ};&ruby(・){さ};&ruby(・){ん};」
 ……はあぁ〜〜〜っ。
 思わず深々とため息を落とした。ちがう、そうじゃないの。ありがとうを言って欲しかったのはそうだけれど、あたしの本心は別のところにあった。
 彼女はまだ、クレイに心を開いてくれないのだ。
 分別のついていないウェンディは屈託なく「パパ」と呼ぶが、クレイは娘たちの実の父親ではない。正確に言えばまだあたしのつがい相手でもないのでアイーダの呼び方に誤りはないのだけれど、将来的にクレイとそういう関係になりたいと思っているあたしとしては、ゆくゆくは娘にも彼をお父さんだと認めてほしい。
 14年あたしの背を見て育ってきたアイーダは再婚相手が屈強なドラゴンなどではなく、土くれと影を練り上げたようなデスバーンであることが納得いかないらしかった。妹が生まれたばかりで、さらに新しい父親までできるとなれば、ママを取られてしまう、家庭に居場所がなくなってしまう! とストレスを抱えこむのもわかる。こっちに来てからというもの、娘たちはあたしにベッタリだ。それこそ庭に出ずリビングでバトルするくらいに。その気持ちも分かる。子連れ再婚においていちばん辛いのは間違いなく子供たち。アイーダはよく気配りのできる子だ、言いたいことのほとんどを飲みこんで笑顔を繕っているに違いない。もしや花瓶を落としたのも、言葉に頼らずあたしに不平を訴えようとして……? いや、変な詮索はやめよう。女手ひとりで育ててきたあたしなら、そんなことしない子だって信じてあげないと。


*2 [#vAd1Sbs]


 ひと月前、ナックルジムに所属するジムポケモンだったあたしは、娘ふたりを頭に乗せてこの家へ転がりこんだ。ナックル西のポケモンセンターの裏あたりにひっそりと門を構えている、2階建て軽量鉄骨造のポケモン携帯者向けアパート、その角部屋である106号室。間取りは2SLDKとファミリー向けの広さは確保されているものの、入居者に家族連れは少ないという。築25年を誇る物件の外壁は中世の城壁から再利用されたアンティークレンガで古風さに拍車をかけ、茶色を基調とした家具類やオフホワイトの壁にだってシミが目立つ。その上このあたりは夜になると治安もあまりよろしくないからだ。クレイのトレーナーは古物鑑定士をしている初老の男性で、この広さは体の大きなポケモンと一緒に暮らす分には丁度いいのだとか。ガラルの中核都市であるナックルシティも、川向こうの物件で最寄り駅から徒歩20分ともなるとぐんと家賃が落ちるらしい。
 そんなトレーナーも昔はガラルリーグをめぐる精悍な青年であって、あたしがクレイと初めて出会ったのもナックルジムのバトルコートでだった。もう30年は前になるだろうか、先代のジムリーダーの切り札として繰り出されたあたしは、進化したてのカタパルトに弟と行き倒れていた野良メシヤを住まわせ、対峙するデスバーンを威嚇するように大きく喉を震わせた。
 スタジアムを縦横無尽に駆け回りながら繰り出すドラゴンアローを、クレイは単眼ひとつ歪ませず涼しい顔で受け止めていた。ダイマックスを果たした彼は、進化して浮かれていた(実際に浮いてはいたが)あたしにとって文字通り壁として立ちはだかったわけで。
「この勝利を、いつまでもひび割れない僕の思い出に、残させてもらいますから!」
 なんて決めゼリフを覚えている。たぶんクレイに言ったら「そんな昔のこと……よしてください、若気の至りだ」って恥じらうに違いないな。くく、今度からかってやろう。
 ともかくジム戦の決着は全くパッとしないもので、撹乱に降らされた岩雪崩をあたしが避けられず、尻尾を挟まれ動けなくなったところをシャドークローでとどめの1発。進化してなまじ瞬発力を手にしてしまったせいか、ゴーストタイプらしく物体を透けるのが苦手になっていたのだ。
 以来、月に1度程度の頻度でクレイと地域のバトルセンターで落ち合い、ゴーストポケモンとして己の体と向き合う習慣ができた。ジムでの生活は毎日同じポケモンと顔を合わせてばかりで、そこでの愚痴をはばかりなく吐き出せるクレイはいつしかあたしの心の拠り所となっていたらしい。
 顔なじみというか腐れ縁というか、それだけ長くつき合いがあれば気心も知れ、あたしはすっかり砕けた口調で話すようになった。クレイの物腰柔らかな言葉遣いは変わらなかったが、お互いの好みとか価値観とかは把握しているつもりだ。それこそいきなり同棲を始めてもいがみ合いが起こらないくらいに。
 1年前に彼のつがいであるイワパレスのヤドネさんが亡くなられてからトレーナーもいい相手を探していたらしく、今こうしてご相伴に預からせてもらっている。同じ屋根の下で暮らすようになってからパートナーが豹変した、なんて結婚哀歌もあるが、クレイは相変わらずいいひとだ。あたしが真心こめて作るカレーも壁画の竜の目をほころばせて食べてくれる。……どこが口なのかいまいち分からないが。連れ子のアイーダとウェンディにも我が子のように優しく接してくれるし、懐かない姉にも根気強くお父さんとして振る舞ってくれる。……ちょっと気の弱いところが心配にはなるが。
 さっき落としかけた花瓶のバーベナだって、トレーナーに連れて行ってもらった花屋で姉妹が選んだものだった。小さな赤い花が身を寄せ合うように咲くバーベナの花言葉は『家族の絆』だったりするのだが、それをアイーダに伝えればまた距離を取られちゃうかな、と困ったように笑って、健気に毎日水を取り替えてくれる。
 本当にとてもいいひとだ。……ただひとつ欲を言うならば、もっと積極的になってほしい。
 リビングのソファで寝息を立てる娘たちの横であたしが彼にちょっかいを出しても、「まだそういうのは……早いと思う」と冷静にたしなめられるだけ。昼間は子育てに追われて彼との時間なんてほとんど取れないから、せめて寝る前くらいは……と寄せていた期待に応えてもらえたためしはない。やはり彼の中にはまだ前嫁のヤドネさんがいるのだろう。形見になったイワパレスの岩宿を削り取って大事に持ち歩いているのだと、以前その塊を石棺の隙間から取り出して見せてもらったこともある。鉱物グループ同士の愛情表現にはピンとこなかったが、『彼の中にまだいる』が比喩でもなんでもなく未練タラタラだということはよく分かった。
 あたしとしてはもっとこう、腕を絡ませるとか、不定形の部分を融け合わせるだとか……、そういうスキンシップくらいは取りたいのだ。デスバーンの気持ちよくなるところが見当も付かないので、あたしからアプローチしづらいのも難点になっている。
 それにどうも不定形どうしの睦み合いは、ほかのタマゴグループとでは味わうことのできない官能があると聞くじゃあないか。シャンデラを恋ポケに持つマホイップの雌友達の話によれば、大好きなカレと肌を寄せ合うだけで身も心もとろけるような心地なんだそう。それはクリームが炎に溶かされているだけでは? と野暮ったい疑問も頭に浮かんだが、お菓子の家のあるじにでもなったかのように幸せそうな彼女に水を差すのも気が引けたから、真相は闇の中。それからの彼女のノロケ話はほとんど聞いていなかった。……クレイとそれをしたらどうなっちゃうんだろ。鉱物グループも併せ持つ彼と融け合ったらかえって固まって動けなくなるのでは? と悪寒がしたが、言葉通りひとつになれるのだから普通のセックスより幸福の度合いは高いのだろう。たぶん。
 ともかく、クレイとはこんな距離を探り合うような関係性を取っ払って、「おまえ」「あなた」で呼び合う仲に進展していければな……、と、あたしは密かに思っている。



 こげ茶、黄褐色、はちみつ色。不揃いな横縞パターンの壁紙はイワパレスの背負っている岩宿をイメージしているのだろう。ヤドネさんが逝去してからトレーナーに頼んで貼ってもらったらしい。2部屋ある洋室のうちの南角の方、そこがクレイの部屋。8畳ほどの広さの洋室は大人びて落ち着いた雰囲気だった。西側の壁一面に設えられた作りつけの棚には難しそうな古書や古びた金属器、古物として価値のつかない調度品なんかが並べられている。どれもこれもクレイにとっては思い出の品だそうだ。端っこにはあたしを下して手に入れたジムバッジが、静かに輝きをたたえている。
 めぼしい家具は幅広なデスクがひとつ。これも使いこまれていた。ここへ向き合い古物に想いを馳せるのがクレイの趣味。町東に住むシンボラーとは文通友達らしく、古代文字の便箋がスタンドで丁寧に畳まれている。……古代フェチは理解しがたいけど、これを続けて40年は飽きないというのだから驚いた。
 あとは角に観葉植物の鉢と、体の硬い夫婦が身だしなみをチェックするための大きな姿見が立てかけてあるくらいで、部屋は小綺麗にまとめられている。がらんどうとした南側の半分はヤドネさんのお気に入りだった砂地が敷かれていたらしいが、それも撤去されたまま。長らく使われてきた愛の巣は、彼ひとりではちょっと寂しい広さだった。
 床を拭いて、クッションを洗い、娘たちを風呂に入れ、夕飯を食べ終えてようやく、夜。
 満腹になった姉妹を頭の格納庫へ納め小ぢんまりとした庭へ出る。アパートの角を曲がり南側の裏路地へ。向かいには建築資材倉庫の同じようなレンガの壁が2メートルもないほどに迫っている。安物件に景色は望めないが、染みついたようなカビっぽい冷気が心地よい。あたしもゴーストタイプのはしくれ、こういうところは落ち着くのだ。
 カタパルトをぶつけないよう裏路地を慎重に進んだあたしは、頭で待機する娘たちに目配せをする。手入れの行き届いていない室外機と雨どいの間のレンガ壁めがけて、思い切り頭を突きこんだ。
「ばあ!」
「……またかい」
「クールだなあ」
「そう何度も同じ手で驚かされてもね」
 地層の壁から上半身だけ出して、デスクへ向かうクレイの平たい背中へ大声をぶつける。ゴーストタイプの彼に〝おどろかす〟は効果は抜群! ……のはずが、彼は古物の壺らしき陶器を置いて振り向いた。壁画に描かれたドラゴンの顔だけが外れてこちらを振り返るものだからあたしの方がギョッとする。これはいつ見ても慣れないなあ。
 あたしの頭ではウェンディが全力のお化けポーズをとり、かたやアイーダはそっぽを向いていた。姉はリビングでおとなしく待つことと、あたしとクレイの部屋へ突撃することを天秤にかけ、けっきょく後者へ傾いたらしい。厨二病を拗らせてはいるがまだまだ甘えたい盛りなのだ。クレイがあたしに何かしないよう監視するのが目的かもしれないけれど。
 とまあ不意打ちのドッキリはあえなく失敗したわけだが、110年も生きた竜がこんな児戯めいた甘え方に子供たちまで付き合わせるのは、わざわざ彼の趣味の時間を妨害するためではない。
 ナックルジムは竜の威厳を引き立てるようなバトルスタイルで、そこで育ったあたしも得意な技はドラゴンダイブをはじめ竜技ばかり。ゴースト技を蔑ろにしていたせいか不定形としての体のつくりを失念することも多く、キッチンで引っかかったようにとっさに壁抜けできなかったりする。子育て生活を送るうえで必要なのはゴーストの能力だ。時間に余裕のできた今、それを克服するため数日おきに壁抜けの練習をすることが日課となっていた。
 トレーナーはあたしと娘たちのために綿のベッドを部屋の隅へ入れてくれたけれど、ぽっと出のあたしが愛の巣へずけずけと上がりこむのも気が引けた。そういうのはクレイの気持ちの整理がついてから。段階を踏んだ方がクレイの負担もないだろう。寝るのはもっぱらリビングのソファだ。
 だからこうして、上半身だけお邪魔する。
「壁抜け、あたしもだいぶ上手くなったもんじゃない? 初めはただの体当たりだったのに」
「当初は貴女が激突するたびにアパートが倒壊するかとヒヤヒヤしていました。不定形の体に慣れるには壁抜けが1番だとは教えましたけど……、壁に挟まったままでいると体が固められて、抜け出せない! ……なんてことになるから、気をつけた方がいいと思う」
「あっはは、まっさかそんな! ……カレーのお味はいかがだった?」
「それはもうリザードン級でした! 隠し味ははちみつだったのかな、あれが効いていましたねえ。リンゴも弾けるようにみずみずしくて……。あ、次はすっぱくちがいいかな。ヤドネが好きな味でね、週末はいつも粗挽きヴルストのすっぱくちだったんだ」
「……羨ましいなあ」
 とまあちょくちょく前の奥さんと比べられるのだが、彼との話は忘れていたあたしの恋心を思い出させてくれるのだ。壁抜けの鍛錬ついでに談笑するのが日々の楽しみだった。

 なんていうのは半分建前で。
 むしろ大事なのはもう半分。アパートの外壁から生やした下半身にあった。


*3 [#YWOYoQ7]


 ガラルリーグ最後の砦、トップジムリーダーを名乗るキバナさん率いる最強ドラゴンジムの最前線で戦ってきたあたしがそこを辞め、一般家庭でいきなりホンワカ育児生活を始めるには無理があった。毎日バトルに明け暮れていた体は闘争を求め血をたぎらせ、放っておけばあたりの骨董品を壊しかねない竜の本能に見舞われる。休日はトレーナーの袖を引っ張り、地域のバトルセンターまで駆けこむのが日課となっていた。押しかけた挙句、こんな手のかかる母親なのだから面目も立ったもんじゃない。
 それともうひとつ。溜まるのだ、性欲が。
 いや、性欲なんて言葉で片付けられるものではないのかもしれない。獣欲よりも数段凶暴な、竜欲とでも呼ぶべき性衝動。ナックルジムはドラゴンの本能にも配慮が行き届いていて、定期的な性病検査をクリアしていればポケモン同士でヤりたい放題だった。当然あたしもジム内外で毎晩のように発散してきた身なので、いきなりの禁欲生活がまかり通るはずもなく。不定形ポケモンとして生活サイクルを回すには、この性欲を抑えこむのが目下の課題だった。
 荒れ狂う竜欲の相手を、奥さんを亡くして傷心なクレイに頼むわけにはいかなそうだった。見るからにセックスとかに興味なさそうだし……。というか本当どこで気持ちよくなれるんだろ。デスバーンとは見れば見るほど分からない体のつくりをしている。
 それで、短い自分の爪なんかでは到底満足できなかったあたしは、家の外へ性欲のはけ口を求めた。
 ジムポケモンを70年もやっていればナックルシティのいたるところに知り合いくらいできるもの。散歩がてらご近所に挨拶して回れば、信頼できる雄何匹かに声をかけることができた。こんなところにいるあたしに訝しむ相手も、「夜にあたしの尻尾を見つけたら来な。損はさせないよ」と耳許で囁けば、秘密にすることを約束してだらしなく鼻の下を伸ばしてくれた。幸運にも求愛ののろしを見つけられた雄は、にょきりと壁から生えているあたしの尻を好き放題できるってわけだ。
 こうして雄に頼むのは、クレイとそういう関係に進展するまで。もしくはあたしが不定形の体に慣れ、自分で竜欲を抑えこむことができるようになるまで。事実、毎晩のごとく続けてきたこんな痴態はこの3週間で次第に頻度を減らしていた。月頭は毎夜遊び相手を求めて尻を振っていたが、それももう4日に1度程度にまで落ち着いている。

 ……お。

 尻尾を夜空へ垂らしてものの数分、澄んだ夜の外気へ晒されていた尻へ感触があった。ヤドンもビックリの食いつき具合。
 節くれだった5本の指が、あたしの尻たぶをふわふわと掴んでくる。綿毛をつまむような繊細さを保ちながら、それでいて指づかいには遠慮している雰囲気を感じられない。いやらしいケツしてるな、とは以前のパートナーによく言われていたので、あたしの尻は雄どもを惹きつける魔性があるのだろう。指を押し付けられるたび尻肉が柔らかく沈む感覚。試しに誘うように左右へ振らしてやれば、大きな手のひらは喜んで肉を持て余すように転がした。
 ……ちょっと待て、これ誰の手だ? この1ヶ月で相手にした雄の種族くらいは覚えている。レパルダスのには肉球があるはず。ネギガナイトは尻に乗ってくるし……。いちばん近いのはカイリキーだが、筋肉質でもないし腕が4本ある気配はない。まだ相手したことのないヤツみたいだった。
 きつく口止めはしたはずなのだが口の軽い雄が自慢げに話すもんだから、こうしてあたしの知らない相手が釣れることもたまにある。ひどい扱いをする奴なら壁を抜けて叩きのめしてやればいいし、あたしとタマゴグループが被るドラゴンでも不定形でもないなら誰だっていいのだが、種族もわからない相手に好き放題されるというのはあたしの暗い興奮を煽る。ケツに触れる感覚だけで相手を想像し、見ず知らずの相手に犯されるのも背徳感があってよい。テレビに出ていた人間が見えない箱の中身を手触りで当てるクイズがあるが、まるっきりそんな感じだ。指先がけっこう器用な種族っぽいが、今宵の相手は、はて。

「――なんだけどさ、月末はナックルジムの試合観戦に連れて行ってもらうことになったよ。アイーダちゃんもキバナさんが好きなんだろう、スタジアムで直接見るといい。……ヒュドラさんも聞いているかい?」
「あ、ああ、うん、観戦ね、わかった」
 おっと、話の内容はさっぱり聞いてなかったけど、つい反射的にOKしてしまった。あまり壁の向こうに意識を飛ばしていると、クレイとの会話がままならなくなることもしばしば。交尾の段階になれば勝手にヤってくれるので、かえって気が楽なんだけど。
「アイーダちゃんにはあらかじめチケットを渡しておこう。無くさないようにね」
「……いい、試合くらいネットで見れますので」
「…………そうかい」
 あっさりとフラれたクレイがチケットを石板の隙間へ戻して、あからさまに気落ちしていた。彼なりに考えたアイーダに対してできる〝父親らしいこと〟なんだろうけど、彼女を試合観戦に誘うのはちょっとナンセンスかもしれない。まして娘は戦うあたしをいちばん近くで――カタパルトの中から同じ景色を拝んできているのだ。自らもフィールドに立っている彼女がバトルを見るだけで満足するはずもないだろう。苦労して手に入れてくれたトレーナーには悪いが、チケットでは父娘の溝はまだまだ埋まりそうにない。こればっかりは時間をかけなきゃ解決しないだろうけど。

 壁の向こうは誰だろなゲームを再開する。唯一自由に動かせる尻尾の先端で、ごつい指の主のヒントを探した。えぇと……。全身毛むくじゃらで、ずんぐりむっくりの胴体に太い手足。なかなか図体のデカい奴ってことは……お。コッチもけっこうなもんじゃあないか。尻尾の先が微かに接触するもどかしいところで肉棒の感触を確かめる。若さを雄弁に主張するような張りはなく、硬さを失い下に垂れ下がっているが、合格合格。まぁこんなもんでしょ。
 厚ぼったい尻尾を根元からぐいと持ち上げ、濡れ蕩けているはずのマンコを見せつけた。気配だけで背後の雄が気色ばむのが分かる。尾先で握り直した肉棒をちゅこちゅこっと数度擦ってから、あたし自身の股へ向けたそれで、くば、と膣口を開いた。前屈みになったのだろう、興奮した鼻息がアナルにかかり、いじってもらえる期待にひくひくと媚肉を脈打たせてしまう。揺れる尻肉をむんずと両手で掴まれたかと思うと、マンコへあてがわれた肉棒がにゅるん、とあたしの中へ侵入してきた。
 ん……、気が早いなァ。せっかくなんだしその器用な指でマンコを引っ掻いてもらいたかったけど。まあ壁から生えた尻と行きずりでセックスするような奴に期待なんかしないほうがいい。
 大きさは並だったけど、体格もあり下半身がふくよかなあたしとでは釣り合いが取れていなかった。まぁテクがあれば満足できるかな……と思っていた矢先、相手も壁から突き出た尻を犯すというアブノーマルさに興奮しているのだろう、お互いの粘膜をなじませるとすぐ動き出してしまう。ずんずんっと乱暴に腰を打ちつけられたところで、ぜんぜん刺激が物足りない。試しにきゅっとマンコを締めつけてやると肉棒がびくびくっと中で跳ねるもんだから、長期戦にも期待は持てそうになかった。

 ――明日の晩ご飯、何にするかな。

 ふと目を泳がせると、綿のベッドに転がった姉が何かを覗きこんでいる。トレーナーから貸し与えられたタブレットを起動させ、アイーダは毎日巡回しているナンスタグラムでキバナさんをチェック。ポストされた写真へ片っ端から「そーなの!」ボタンを押していた。クレイには背を向け、さも構ってほしくなさそうにしている。……露骨すぎるぞ娘よ。あんたはもうちょっと愛想を振りまいたらどうなんだい。
 対照的にウェンディはとてもよく懐いている。落ちこんだクレイを気づかうのは本能だろうか、まごつく彼の指へ甘えるようにじゃれついていた。尻尾と両手、中央の石板を中心に伸び出た浮遊する石くれはいいオモチャで、それを追いかけてウェンディが部屋を駆け回る。
「ウェンディ、一緒に見よ」
「うんー」
 しかし姉に呼び止められ、ウェンディはあっさりとクレイの元を離れた。彼女はまだ知る由もないが、無垢な子供の何気ない仕草が大人を傷つけるんだぞ。それもじきに覚えてくれるだろうか。
 キバナさんがスマホロトムで自撮りした試合のハイライト。音声だけでスタジアムが熱狂の渦に巻きこまれていることが分かった。あの歓声、独特の酩酊感、バトルの純粋な興奮を思い出して、あたしの中に眠れる竜の血潮がざわめき立つ。
「……母さんも見なよ。ジムのみんな、元気だよ」
 アイーダが掲げるように見せてくれたタブレット。キバナさんの自撮りはいつも正確で構図もしっかりしていて、あたしの妹弟子にあたるヌメルゴンが勝利のポーズを取っていた。SNS映えするから明日のネットニュースには確実に載っているだろう。
 画面端に映ったバトルコートのベンチ、そこにはよく知る面影を残したドロンチの姿があって、あたしは食い入るように見つめていた。ジムに置いてきた弟も姉離れと同時に進化を果たし、野良メシヤを頭に乗せてジュニアリーグの子どもたち相手に奮闘しているみたい。
(ナックルジムも変わりない、か。あたしが欠けた影響もなさそうでよかった……)
 つくづくそう思った。その途端。

『ホホ、お前さん、ガラルジムのドラパルトとな』
 突如、頭に直接しゃがれ声が響く。
 とっさに左右へ首を振ったが、それらしいポケモンが部屋にいるはずもない。突然あたしが怖い顔をするものだからきょとんとするアイーダ。……あたしにしか聞こえてないのか? なるほど、防音機能のしっかりしているアパートの壁はポケモンの鳴き声など通さないが、テレパシーを阻害する仕様にはなっていないらしい。あたしを犯している雄はエスパー使いで、壁越しに話しかけてきたのだろう。腰を振りながら思念を送りつけてくるとはなんてまあ小器用な。
『最強ジムの看板ドラゴンちゃんに相手してもらえるとは……長生きもするもんだわい』
(ちょっとこれ……、勝手に頭の中覗かないでほしいんだけど。モラルが欠如してるんじゃない?)
『ホッホホ、ケツがインモラルなお前さんに言われてものぅ』
(………………うざ)
 こっちの言いたいことを脳内に思い浮かべれば、壁向こうの爺さんは断りもなく拾っていってくれるらしい。ジムのことをしみじみ感慨深く考えてしまったばっかりに、物は試しにと読み取ろうとしていた爺さんの思念に引っかかってしまったのか。壁に挟まったままの交尾は後腐れないのが利点なのに、こんな七面倒な絡み方をされるとは。
『あの時は遠巻きにしか拝めなんだが……、全くおぬしの尻はむっちりとしとるなぁ。わしを誘ってるんじゃろ』

「……ちょっといちいち話しかけないでよ」

「え?」
 タブレットを持ったままキバナさんの推し語りをしていたアイーダが、パチクリと目を瞬いた。興奮に持ち上げられていた口角がみるみるしぼんでいく。――違う、違うの。今お母さんお取り込み中というか、それどこじゃないというか。とにかくセックス相手とと娘、性欲と母性を同時に扱うのは無理があった。このまま爺さんを追っ払ってもよかったけど、娘をあやしている間にテレパシーでうだうだ愚痴を言われるのも快くない。
 胸に抱いてやろうにも壁に挟まったままでは届かない矮小な腕を伸ばして、画面でキバナさんと勝利のポーズを決める後輩のドラゴンを指した。
「あ、いやね、ほらヌメルゴンちゃん、あたしにだけ分かるように口動かしてたみたいだから。こんな拡散されてる動画でそんなことされて、恥ずかしくなっちゃって」
「ふぅん……?」
 かなーり首を傾げてはいたけれど、納得してくれたみたいだった。落としかけた花瓶を床すれすれのところで拾い上げた夕方のひと幕が思い返される。ふぅ一安心。

 したのも束の間、スタミナ切れか腰の動きが鈍っている中、尻を触るごつい手が振り下ろされべチン! と快音を上げた(ような気がした)。声こそ出さなかったものの、突如見開かれたあたしの両目にウェンディがギョッとする。慌てて笑顔を取り繕って、なんでもないのよ、と柔和に微笑んだ。
(いきなり何すんの……!)
『こう見えてもわしは昔ジムに挑戦したことがあってな。覚えとるか、21年前、お前さんが負かしたヤレユータンのことを。手のつけられん暴れ竜だったお前さんはここで何やっとんじゃ』
(詮索してほしくないんだけど)
 こう見えるもなにも姿なんて見えないんだけど、うわっこいつはヤりづらい。送りつけられるテレパシーのせいで反射的に答えてしまいそうになるし、そんな昔の仕事話をほじくり出されても全く興奮しない。あたしの記憶に残ってないあたりその程度の挑戦者だったのだろうが、相手はそうでもないみたいで。バトルで負けた積年の恨みを乗せてテレパシーで娘との対話を邪魔してくるのだから、神経がすり減って感じるどころじゃなかった。……なんて考えるとそれも伝わってしまうんだからやりようがない。無心無心。
 ヤレユータンの爺さんはあたしのデカケツがいたく気に入ったらしく、テレパシーで老害っぷりを披露しながら大福でも握るかのように尻たぶをむにりむにりといじってくる。繊細なのか筋力がないのか、その手づかみは弱々しく円を描くだけ。孫の頭でも撫でているのかってくらいの力加減に催促ぎみに尻を振るも、『ホホっぷるぷるしとるわい!』と上機嫌になるのみ。
 どうせならもっと……、いや、なんでもない。さっさと果ててくれ。
 言葉遣いから推測される年齢の割には若さみなぎる人型の肉棒。あたしの中でヘコヘコと前後するそいつを追いこむようにキュッと締めつけると、爺さんは感動したように尻を軽く叩いてくる。
『ほ、ホ、ホ! わしのテクに竜門が喜んどるわい……!』
(あ……あーんあーん、きもちいいー)
『お前さんも感じておるのかい。わしも張り切っちゃおうかの!』
(何だコレ)
 棒読みならぬ棒思いな嬌声を頭の中で形成すれば、それを盗み取った爺さんが喜んで肉棒を突き立てる。目の前にはあたしを心配する娘がふたり。お母さんはいいから動画見てなさい、と優しく諭す。……自分の置かれた状況が滑稽すぎて虚しくなってきた。
 バックから犯してくる腰つきがご老体のものとは思えないほど早くなり、ああラストスパートかけたんだな、と悟る。せめてイくと同時に逝かないでくれよな、なんて不謹慎なことを盛大に思いながら(たぶん爺さんは腰振りに集中してテレパシーで読み取られなかったんだろう)、肉棒のピストンに合わせてきゅうきゅうと膣肉を締めつけてやった。
『ホホっ出す――出すぞい! お前さんもイけ! バトルじゃ勝てんかったが床勝負でわしに屈しろ……! ほおおぉっ、でる、でるでるで――、――』
(…………?)
 射精直前になってあれだけ煩かったテレパシーが切れた。と同時、あたしのマンコを征服しようと跳ね回っていた肉棒も抜き取られる。べつに中出ししてもよかったんだけど……と欲求不満を思念に乗せても、あのしわがれ声が頭に届くことはなかった。というか尻にぶっかけられた感触もないけど、もしかして本当に逝っちゃった……?
 さすがに血の気が引いた。射精して事切れたヤレユータンがアパートの壁にくずおれているところを発見されたらとんでもない事故物件だ。追い出されるどころかトレーナーが住めなくなってしまうかも。

「……ねえ、あたし一瞬だけ外出てくるからさ、クレイ、娘たちを見ててくれる?」
「夜道は危ないので気をつけて」
「…………私も行く」
「アイーダ、わがまま言わないの。お姉ちゃんでしょ」
「……わかった」

 とんぼ返りの要領で壁へ埋めこまれた体を急いで反転させようとしたあたしの尻へ、ズンっ……。何やら重たげな質量が乗せられる感触があった。肉棒じゃない。ヤレユータンの腕……にしては毛むくじゃらな肌触りもしないけど。でもまあ逝ってないなら安心だ。ゴーストタイプなのに死体とかホント駄目なんであたし。
 ホッとひと心地ついたところを見計らうようにして、乗せられた腕まがいの存在感がズリズリとなすりつけるよう尻尾の付け根を上下する。ゴツゴツとして厚ぼったく湿った感触、その正体に思い当たったあたしの背中が戦慄にわななき立った。

 え?

 あ、これ、知ってる。
 このチンポ、知ってる……。
 擦りつけられていたのはヤレユータンの腕などではなく、アレクというあたしのよく知るドラゴンの肉棒だ。並の雄とは比べ物にならないほど凶悪な逸物を携えた彼は、何を隠そうあたしの元つがいだった。
 どうして、とか、なんでここが、とか、疑問がしっちゃかめっちゃかに頭の中を駆け巡る。バトルコートに立つ時よりもアドレナリンが吹き出し体温が急激に上がる。けたたましい心音が脳内にサイレンを鳴らしている。不整脈を起こしたように口の端からこぼれる呼気が震えあがる。
 アレクに肉棒を押し当てられているという状況、想像しただけで脳が痺れてきた。忘れるはずもない、アイーダとウェンディをあたしの胎へ仕込んでいったあの雄が、壁1枚を隔ててそこにいるのだ。

 外に出かけなくていいのかい、と気をつかってくれるデスバーンに、野暮用だったしクレイと一緒にいたいのよ、と苦笑いして誤魔化すことしかできなかった。優しそうな単眼に助けを求めるあたしの声はかすれて喉奥で潰れてしまった。


*4 [#1x6i685]


 ドラメシヤから進化したあたしが弟を頭に乗せてナックルジムの登竜門を叩いたのも、ゆうに70年は前のこと。 
 何も知らない田舎娘だったあたしは、新人教育係のアレックスというオノノクスに世話されていた。コイツがすべての元凶だ。
 アレクはいわゆるヤリチンで、周囲の雌竜に手当たり次第に手を出してはハメ倒してきた最低野郎だ。上背は種族の平均である1.8メートルはおろか2メートルをゆうに超え、浮いているあたしさえ抱きすくめるほど筋骨隆々とした体躯を備えている。各所の筋肉は格闘タイプも真っ青なほど鍛え抜かれ、顎のまさかりは純鉄と見紛うくらい常に磨き上げられていた。チンピラ程度なら赤銅色の瞳で睨まれただけで腰を抜かしてしまうほど。サザンドラの牙も通さない全身の竜鱗は古傷だらけで、彼がどれほどの歴戦をくぐり抜けてきたかを誇示していた。怪獣かドラゴンのタマゴグループに属する雌ならば、ひと目見ただけでイイ雄だと心惹かれるはずだろう。あたしもそんな愚かな雌のひとりだった。すぐに知ったことだが、当時ジムにいた雌のドラゴンはスタッフも含めすべからくアレクに喰われていたらしい。型破りにもほどがあった。どれくらい型破りかと言うと、ジムには闘争心の特性を持つ彼と同種の雌がいたのだが、血の気の多い彼女が新入りのあたしに手を上げず大人しく順番を待つくらいだった、と言えば想像に難くないだろうか。アレクの型破りは闘争心の特性さえ丸めこむほどなのだ。
 タマゴを身篭ってしまい引退や休戦を余儀なくされた雌もそりゃあ多かった。だのにアレクについて黒い噂が立たなかったあたり、アフターケアと根回しはキッチリとされていたようで。何も知らないおぼこなあたしは、ジムに配属されて1週間と経たないうちにあっけなく手篭めにされていた。
 当時のあたしにとってアレクはすごく大人でカッコよく、ジムバトルでは負け知らずで、おまけに話も面白く刺激的だった。他の先輩の雌を差し置いてパートナーに選ばれたんだと勘違いしたあたしはすっかり舞い上がり、弟を寝かしつけては身体を明け渡し、若さにかまけたイチャラブセックスを繰り返した。
 だけれど、それこそアレクの思う壺だったのだ。
 あたしのような無知な雌をチンポで堕とすことを生粋の趣味としている彼にとって、ワイルドエリアからのこのこ上京してきたあたしは格好の的だった。あたしが心酔していた強さも大人っぽさも雌を魅了するための手管でしかなく、彼に抱きすくめられれば何もかも許してしまうくらい骨抜きにされていた。
 そうと気づいたときにはてんで遅かった。あたしの体はいたるところを性感帯へと開発されており、付き合って1ヶ月で尻尾の付け根をぎゅっと握りしめられるだけで軽くイってしまう体になり果てていた。ていのいい恋ポケとして振り回されること10年20年、繰り返し教育されたおかげでアレクのチンポを差し出された途端、彼がいいように精液を排出できるよう体が勝手に動いてしまう。そう、本当に全く逆らえない。もはやDVだ。殴りつける体の部位が腕からチンポに取って代わっただけで、ひとたび彼が腰を振ればあたしはさしたる抵抗もできずに泣いて許しを乞うことしかできなくなる。そのくせこの凶悪チンポでないと満足できない体に作り替えられているのだから、彼を遠ざけることなど頭の片隅にも浮かばないのだ。
 そのうえアレクの情愛の注ぎ方はいっそ恐ろしいまでだった。あたしがドラパルトへ進化しても彼の竜欲は衰えるどころか一層の拍車をかけ、弟が寝たところを見計らい性処理玩具として弄ばれた。アイーダが孵化すると1度タマゴを産んだ雌に気遣う必要もない、とでも考えたのか、ますますの苛烈さを増してウェンディを孕ませられた。妹は晩熟で孵るのに4年もかかり、あたしがそのお世話で神経をすり減らしている間はさすがにアレクから手を出してくることはなかったが、つい半年前に彼女が孵化すると彼は性懲りもなく目の色を変えた。
 それどころか物心のつき始めたアイーダにもどぎつい目線を向けるのだ。彼女がドロンチに進化すればすぐにでも手を出しそうな剣幕に、あるはずもない身の毛がよだつ思いだった。
 このままアレクの元にいては親娘ともどもダメになる。あたしも娘たちもヤツの性奴隷なんかではない。ドラパルトは短くとも400年は生きる種族だし、この先ずっとアレクの言いなりにされると考えただけでぞっとする。ひとりの雌として、二児の母として、そして何より誇り高きドラゴンとして、チンポに負け続けることはあたしのプライドが許さなかった。
 ウェンディが頭の格納庫へしがみつけるようになってすぐに雲隠れした。その数ヶ月前には内密にクレイへ話を持ちかけ、彼のトレーナーへかくまってくれるよう泣きついたのだ。ワイルドエリアの住処へ帰ることも考えたが半世紀以上も経ていれば環境は激変しているだろうし、心細い今は長年支えになってくれていたクレイに縋りたかった。荒れ狂う竜欲に火照る体をなんとか抑えこみ、ドラゴンとしての生き方を捨てること、二度とアレクに会わないことを心に誓った。
 そうして夜逃げみたいにしてこの家へ転がりこんだのだ。弟には教えたがジムの先輩後輩には一切行方を告げず、お世話になった門下を裏切るも同然の逃げ方で一切の連絡手段を絶った。そこまでしないと恐ろしいのだ、アレクという雄の魔性は。

 そいつが今、壁1枚を隔ててあたしの背後にくっついている。いきり勃たせたチンポを尻へぐいぐい押し付けながら。

『うは、マジで噂通り壁から尻出してんのかよ、みっともねーな。……夫に声もかけずに1ヶ月も外泊なんて水臭いじゃねーか、お? ヒュドラを散々イかせてやった久々のチンポ様だぞ、どうするべきかちゃあんと覚えてるよな?』
 なんてアレクは言ってやがる。実際は壁越しに聞こえたわけではないし、ましてテレパシーなど使えるはずもないのだが、確信できる。分かるのだ。70年も同じ屋根の下で修行してきた兄弟子兼元夫の口からこぼれ出る戯言など、耳にしなくても一言一句間違えずに再現できるほどそらんじていた。同じように向こうもあたしの頭の中は手にとるように分かるんだろうけど。
(も、もうあたしはアンタのつがいなんかじゃ……! ぁ、ア……!)
 形を思い出させるように尻肉へ撫でつけられるアレクのチンポ。そんなことされずともありありと思い出せる。というか忘れようにも忘れられなかった。長いし太いし先端は斧頭のようにえげつなく張り出ていて、あたしが何度も善がり狂った激熱チンポ。ジムの雌ドラゴンを喰いまくり赤黒く淫水焼けしたつよつよチンポ。あたしが大好きな――大好きだった、アレクのチンポ。
 そして何より、このチンポにはイボイボがついている。こいつが、こいつが曲者だった。あたしのマンコを満遍なくえぐり抜くそれは憎たらしくカリ裏にまでびっしりとはびこり、馴染ませて引き抜かれるだけで膣内の敏感なところを根こそぎ掻きえぐっていくのだ。尻伝いにその凹凸がはっきりと感じ取れて、あたしの喉を生唾が垂れ落ちた。このイボつきチンポで中を掻き回されてたまらなかった夜ランキングが勝手に脳内再生され始める。確信持って言える、これに堕ちない雌はいない。なんせあたしもそのひとりなのだから。
 しかもこれ、この熱を纏ってだぶついたように肉が張っているこの感じはだいぶ溜めこんでるな。1週間は射精していないらしい。……いや、1週間どころじゃない、もっと長く、もしかしてあたしが行方をくらましてからの1ヶ月、他の雌を抱いてこなかった……?
 もしくはアレクもあたしじゃないとイけない体になっていたってこと……? な、なんだよ、それは……ちょっと哀れじゃないか。し、仕方ないな、今日くらいはあたしが相手してやっても……。
 ――いやいやいやいや、いや! あぶない、またまんまと体を明け渡すところだった! 騙されるな、そうしてアレクはあまたの雌を食い物にしてきたんだ。あっけなくほだされかけたあたしを見て、壁の向こうではあのイケメン顔がほくそ笑んでいるんだろう。くそっ見たい!
『久々の元妻まんこ、たっぷり可愛がってやるから覚悟しとけ、な?』
 彼の顔を想像すれば、ありもしない幻聴にぞくぞくと背筋が震え上がった。ま……ますい、このままじゃ奴のペースに呑まれる。ってか勝手にあたしが堕ちる。どうしよう、どうしたら――

 ぎゅうううっ!

「ひゅぐッ!?」
 ――っッッ!! き、効く……! ヤば、これやっバ!
 爪を立てるように尻尾の付け根を握りこまれて、あたしは暴竜じみたうめき声を喉奥から漏らしていた。虐めないでください! と縋りつくように尻尾をアレクの腰へ巻きつけてしまう。つねられただけで脳は被虐快楽を思い出し、さまよう魂みたいな白い火花が視界の端をチカチカ漂いだした。

 というか思わず声を漏らしてしまった。愛しの娘と夫には変に思われてないか? 平和な部屋の中へ焦点を合わせる。いつのまにか手に入れておいたらしい、アイーダに似合いそうなリボンの髪飾りを彼女へ渡そうとしていたクレイが驚いて、竜の顔だけを取り外しあたしの顔を覗きこんできていた。
「いきなり声を上げて、どうかしたかい?」
「あっいやっ、何でも、なんでもない。あたしは大丈夫だから、どうぞ続きを続けて……、ね」
「うん、そうさせてもらうけど……なんでそんなぎこちないの。しかしそろそろ休んではどうだろう。壁抜けの練習はこのくらいにしてさ」
 ……壁?
 ――そうだ、何もアレクにすごすごと尻を差し出す必要なんてないのだ。室内へ戻れば、さすがのヤツでも今日のところは諦めるだろう。欲求不満なチンポ出したまま住宅街をさまよって補導されればいい、ざまあみろ。ふっと体を脱力させる要領で、壁からすり抜ける意識を強く持つ。元ダンナの呪縛から逃れる勢いで、クレイの分厚い胸板(というか板)へ甘えてみてもいいかも。

 ……あれ?

 抜け、ない……? そんなまさか。再度体の透明度をぐんと上げるも、あたしの胴体はがっちりと固められたまま動けない。……いや。いやいやいやいや落ち着け、冷静になればできる。まずは深呼吸だハイドレンジア。バトルでノーマル技や格闘技を透かすときの感覚を頭の中に強く再現して、全身の存在感をを希薄にする。いつもこうすれば抜けて……すうぅっ、はあぁぁ……。

 抜けない。

 あれっあれレレレレレ!? すりぬけの特性を強く意識しても、あたしの胴体は壁に挟まったまま。冷凍ビームで凍らされたように腰あたりがうんともすんとも動かなかった。短い足を暴れさせ爪で外壁のレンガの目地を引っ掻いたところで尻尾が慌ただしくしなるだけ。このまま死ぬまで抜けなかったら? ぞっとした。ドラメシヤは太古の恐竜が息絶えうもれた大地から魂だけが抜け出して生まれた、なんて逸話があるけれど、こんな気分だったのだろうか。部屋の壁紙まんま地層だし。

『何してんだオラ』

 ぎゅむううぅッ!!
(――んンンンンンンン!!)
 さっきよりも数段強烈に尻尾の根元がひん曲げられる。声を出さないよう思いっきり下唇を噛むも、尾の付け根はアレクに抱かれてから真先に開発された急所のひとつで、ここを握り潰されればあっけなく全身の力が抜けてしまう。イタズラ好きなニャースも母親に首根っこを噛まれると途端に大人しくなるが、たぶん同じ原理だ。無様に尻肉を波打たせ、チンポ様を前に逃れようとしたことを謝罪するよう腰をヘコらせる。これで許してもらえるとは到底思わないが、ここで意地を張り尻尾でなぎ払おうものならケツ肉つねり20回×5セットの調教地獄が待っているので無駄な抵抗はしない。
『お、身体の方はちゃあんとご主人様のこと覚えてるみてーだな。おら、今日は壁にハマったまま朝までハメてやっから、ドスケベ経産婦マンコ期待させとけよ』
(な、ふぇ、ヒ……!?)
 ……そ、そうか、コイツの仕業か! アレクの特性は〝型破り〟。バトルでは相手の特性を無視して己の斧を通すことのできる横暴な威圧感を纏っている。不慣れなあたしの〝すりぬけ〟が封殺されて、壁に挟まれちゃった……!? ジムの砦としてバトルの知識も網羅しているアレクにとって、あたしを無力化するなんて前戯みたいなもの。あたしが暴れようが尻尾は離してくれないだろうし、そのぶん容赦のないお仕置きが待っている。
 これはもう堪えるっきゃない。アレクに歯向かうことなく従順なふりをして、コイツが満足して帰るまで――たとえあたしが何度イかされようと――声を忍ばせ、心まで連れ戻されないように。
(見ててねアイーダにウェンディ、それとクレイ。あたし、絶対チンポなんかに負けたりしないんだから……!)
『お、いーぞ。それでこそ堕とし甲斐があるってモンだからなァ』
 知らない知らないっ。禍々しい幻聴を振り払うようこめかみあたりに力をこめた。あたしの覚悟なんか差し置いて、無防備な尻へずりずりとチンポが擦りつけられる。表面に隙間なく生えそろったイボでマッサージしてくる剛直のえげつなさを想像して、口のなかで勝手に舌がうねり回る。横に広いあたしの口を満遍なく征服してくる形、熱、そしてにおいを思い出し、幻影に支配された喉奥が勝手に唾液を分泌し始めた。そう……そうだ、おしゃぶりしなければ。アレクがチンポを出してから5秒以内に咥えこまないと、後で非道極まりないイラマチオを強制させられるのだ。カタパルトの後ろ側を掴んだまま逃げられないようにチンポを喉奥へ固定され、あたしがえずき締まる喉奥をオナホ代わりに鬼ピストンをかましてくる。酸欠で失神でもしようものならその間にマンコを好き放題されるので意地でも気道を確保し、結果重い煙のようなチンポ臭を肺の細胞ひとつひとつに染みつかせてしまう悪循環。被虐の悦びを刷りこまれたのも多分これだ。
 フェラをするときはまず「失礼します」とアレクのチンポへ断りを入れるのが最低限の礼儀。体に染みついたルーチンワークが喉の奥で唾液を泡立たせた。それから大口を開けて肉うねの並ぶ喉奥を晒す。これからここでチンポを思う存分扱き抜き、気持ちよくザーメンをコキ捨てるんですよ、とでもささやくようにアレクの興奮を煽るのだ。肉厚で柔らかく、いかにも絡みついたら心地よさそうな舌をれろれろれろ……、と活魚のように踊らせれば、見せつけられたアレクは期待に胸とチンポを膨らませる。ビキビキと威嚇する雌殺しのマラに触れるか触れないかのところで舌先を透明にして、鈴口にぷっくりと溜まったカウパー玉をすくい宙に浮かせるのがあたしの一発芸だった。そのあと口に含んだアレクのそれを堪能し、濃縮された雄のにおいで脳髄をダメにしてもらう。ペロリと唇を舐め性欲の昂りを示したところで、ひと思いに舌をチンポへ巻きつけて――

「……母さん?」

 すぐ側からかけられた声に魂が飛び出しそうになった。リボンを振り解いたアイーダが、いつの間にやら訝しげにあたしを見つめているじゃあないか。どうしたの、と返事をしようとして舌がもつれた。ベロンと伸ばされたベロが口の端から大きくはみ出ている。口周りが満遍なく濡れているあたり、無意識に舌舐めずりをしていたらしい。
 よもやあたしが壁越しに本当の父親のチンポを擦りつけられているとは知りもしない娘。ノーマル技を透かすことくらいお手の物だ、アイーダに勘づかれて壁の向こうへ透過されたら、まずい。非常にまずい。地面に落ちた花瓶さながら、家族の絆にひびが走る音がする。極力声色を震わせないよう喉に力をこめて、言った。
「なんでもないのよ。これは……これはアレよ、小顔になる運動なの。舌の筋肉が衰えると頬がたるんじゃうからね、そうなの。あんたも今のうちから始めておきなさい」
「…………、ほんとかな」
 めちゃくちゃ怪訝そうな瞳であたしへ首を傾けてくるアイーダ。思春期まっさかりな娘が変顔なんかするワケない。案の定言い出した手前引っこみがつかず、あたしは口許でベロをのたうち回らせる。初めてこんなことしたが不定形の体は実に伸縮性に富んでおり、ベロの先がカタパルトの穴まで届いた。
 ……やめてくれ、そんな目で見ないでくれ娘よ。隣では理解していないウェンディが真似をして舌をチロチロさせている。幼子がする仕草にしてはとても愛らしい反面、壁から生えて無様に舌を動かすあたしは妖怪か何かに見えてるんだろう。家族に晒せたもんじゃない。「バトル観戦の代わりにヨガにでも行くかい?」なんて言うクレイの肩が震えを押し殺すようにかすかに上下している。優しくされる方が傷つくんだよ。せめて思いっきり笑ってくれ。
「ねーねーママぁ、にらめっこやろーよー!」
「もも、もうおしまい! 小顔体操は1日5分までって決まってるの。ウェンディ今日は疲れたでしょ、もう遅いわもう寝なさい。ね、ね?」
「まだえーと……、8じだよ?」
「ワガママ言わないの。アイーダ、寝かしつけてあげてね。お姉ちゃんでしょ」

『こっち集中しろオラ』

(――ッ、ひぎ…………!!)
 尻をむにむにと弄んでいたアレクの手が、油断しきっていたクリトリスをびんっと弾いた。雌の体でいちばん大事に扱わなければならない場所を冒涜する仕打ち、目ん玉がひっくり返ったかと思うほど強烈な快楽刺激に歯を食いしばって声を殺す。敏感すぎる陰核頭はもはやあたしを言いなりにするスイッチで、アレクに命じられるまでもなく震える尻尾をたくし上げ股下がよく見えるような体勢になっていた。じれつく視界を戻せば、にらめっこで遊んでくれるのだと勘違いしたウェンディがあたしに負けじとあっかんべーをしている。……娘よどうか純粋に育ってくれ。決して壁に挟まろうなんて考えないように。
 もたげた扁平な尻尾を薄くスライスしたように走る縦筋、そこをぐぱぁ……とこじ開けられれば、あたしの股を粘っこい愛液の糸が垂れ落ちていく感覚が伝わってくる。敏感な粘膜が冷えた外気にさらされ、チンポの面影を探すようにひくひくと切なげに息づいた。
『うーわエロ……つかお前どんだけ感じやすいの。爺さんゴリラの粗チン可愛がってたからってハメ待ちマンコ濡れすぎ。ドバドバ汁垂れてくっし……。蛇口かよ』
(ちょ、そんないじんなって……うぅッ)
 壁から生えている尻尾をひねれば簡単に愛液を滴らせてしまう蛇口。あんまりな言い草に下半身をのたうち回らせたが、もう片方の腕で根本を押さえつけられていてはもじもじ続きを催促しているようにしか見えなかったに違いない。
 身構える猶予すら与えられないまま爪が2本忍びこんできた。したたった粘液をすくい取り、内壁へたっぷりと塗りつけるようにマンコを引っ掻かれる。膣天井のコリコリした肉ひだの密集地――Gスポットも徹底的に開発されたところのひとつで、敏感な粘膜を無遠慮に掘り返されようとご主人様の愛撫に体は打ち震えるのみ。じりじりとやぼったい熱が腹底からこみ上げ、マンコが無意識のうちにぎゅっぎゅっと爪を食い締める。たぶん外ではずちゅ、ざちゅっ! とねちっこい水音が響いているはず。住宅街のどこで潮干狩りやってんだ? なんて近隣住民に探し回られた日には、しばらく外を出歩けないだろう。 
 こう言ってはアレなのだが、アレクはセックスがめちゃくちゃ上手い。壁越しに犯してくる雄どもなんて比じゃないほど気持ちよかったし、そうでないと処女を奪われたついでに成仏するほどハメ倒され、尻をつねられただけでイけるような体に調教され、情けなくおもらししながら泣いて許しを乞ったあたしの立場がなくなるしそれは嫌なので上手い。上手いということにしておく。
 ともかく、恋ポケだった頃の私は彼の性技で散々にイき狂わされていた。勝手に気持ちよくなる粗チンどもと違い、アレクは的確にあたしを気持ちよくさせてくれる。そう、竜欲に火照るこの体を解消してくれるのはアレクだけ。ちょっとだけならこのまま彼に任せたって……
『ひと手間かけてやるだけで格段に気持ちよくなんのになーヒュドラのマンコ。これしないでハメるなんて勿体ねぇ』
 ……そんなことない。唐揚げは下味をつける前に塩砂糖水へさらすとジューシーになる、みたいな知識をひけらかされ、一気に現実へ戻された。こんな心構えだとあっけなくアレクに持っていかれるぞ。絶対に言いなりになんかならないんだから!
『おら挿れんぞ』
(はヒ……!)
 べちべち、とチンポの先端で尻を2回叩くのがアレクの挿入合図だ。これをされるとどうすべきか、考えるまでもなく体が重々理解していた。マンコが丸見えになるくらい尻尾を高く掲げ、目いっぱいガニ股になったままツンとヒップも持ち上げる。蹲踞のポーズをいちばん卑猥な角度からアレクへ捧げられるのはあたしの専売特許。きしめんみたいな尾の付け根まで透明度を上げれば、あたしのいやらしくひくつくアナルまで見せつけられてしまう。そのままデカケツを何度も左右にゆすりチンポねだりの淫靡な誘惑。本来なら自分の指でマンコを割り開くのが正式な作法なのだが、アパートの内壁を引っ掻いてカリカリと詫びを入れることしかできない。
『ハメ乞いケツダンスは衰え知らずじゃんか。おら、待ちに待ったチンポ様だぞ、胎奥までがっつりハメてほしかったらマンコからこいよな』
(はい、はいッ! ご奉仕させていただきますっ!)
 突然テレパシーみたいな声が脳内に響いた。……あ、あれ、なんだ今の。あたしの声みたいだったし、もしかしてあたしが思い浮かべたのか……? アレクに惑わされないよう娘たちのことを考えているはずなのに、脳のストッパーを介さず体が勝手に返事をしている。正気をしっかり保てハイドレンジア。無意識に返事するなんて洗脳されているみたいじゃないか……!
『おらよ』
(お……、ほォ……!)
 忌々しく黒ずんだカリ高亀頭をあてがわれただけで、淡い快感にこれからを予期した背筋がぞくぞくと粟立った。入る……はいって、くる……。肉びらをイボチンポの先で左右に開陳され、油みたいに煮えたぎった先走りを膣口に塗りつけられた。それだけでお尻がピクピクと小刻みに跳ねる。竜欲のきざしをちょいとひっかけられただけでアレクの味を思い出してしまった腹奥が、たらふく特濃ザーメンを飲ませてもらえるものだと勘違いして脳へ被虐的幸福を訴えてきた。部屋の奥、鏡に映ったあたしの顔がだらしなく崩れ、しゃんとしようと力をこめると目も当てられないほど不細工になった。
『おら先っぽ入れてやったぞ。こっから先は分かんな?』
(や、やらせていただきますうっ!)
 亀頭で膣口をくじるように押しつけられれば、ねちゅ、ぷちゅ、と粘っこい蜜音が立ったことだろう。生殖粘膜を練り合わせたまま余った爪を腹側へ回されクリトリス脇をカリカリカリカリ……、と甘く引っ掻かれる。たまに陰核頭を梅雨時期の雨粒のように優しく叩かれると、それだけで腹の奥がじんじんと甘く疼き始める始末。これから暴虐の限りを尽くした交尾をされると分かっているのに、あたしを大事にしてますアピールまるだしの愛撫がてきめんに効く。愛されているんだとバカな体が早合点。子宮の呼び出しボタンを執拗なまでに連打され、あっけなく膣穴から愛蜜をドバつかせてしまう。
 まずかった。
 生来あたしは子宮が降りてくる体質らしい。アイーダを産んでからはそれが顕著で、お腹を撫でるような淡い快感のきざしを感じただけで雄へ容易に子袋を受け渡そうとしてしまう。ヤレユータンの控えめチンポだけでは欲求不満だったあたしの腹奥は、刺激を求めて自らアレクの雌殺しチンポを無防備に迎えにあがってしまっていた。なんという自殺行為、吹雪が吹きすさぶげきりんの湖にダイブするようなものだ。
 それにいつもはフェラと尻尾で3発ほどヌいてから本番に入る。1ヶ月貯めこんだ絶倫チンポをそのままハメられて、雑魚マンコがタダで済むはずがない。壁に埋まったままGスポをえぐり抜かれ、ポルチオをボコボコにリンチされ、挙げ句たらふくザーメンを飲まされるのだ。それも家族にまじまじと見られながら。……やば、最悪の未来を想像しただけで恐怖に全身が慄いた。決して期待してとかではない。

 ――バチっ、ばちいイイイィっ!!

(ンひぃいいいッ!?)
『はよしろ』
(お、おゆるしっ! いっいまする、いますぐご奉仕しますからっ!)
 まごつくあたしの尻を思いっきり穿ち抜く往復ビンタのスパンキング。あたしの尻にはオノノクスの手形が赤く見事に浮き出ているはずだ。マゾ快楽に痙攣する下半身をどうにか浮き立たせ、チンポが外れない程度にデカケツを左右へ振って平謝りした。それだけでカリ裏の剛突起にマンコの柔ひだを削られ、脳裏が焼け泡を吹くくらい顔が歪む。
 実体を薄くしていた尻尾の存在感を取り戻し、アレクのごつい腰へ巻きつけた。引きつけるようにして尻を小刻みに上下させ、じっくりとカリ高チンポをたぐり寄せる。さんざんな無礼を挽回しようとアレクの目を喜ばせるよう腰をフリフリ。先端のえげつない膨らみをマンコへ収める算段になって、ふいにその存在感が抜け落ちた。――あっやば、しくじった。そう思う間もなく失態をしでかしたあたしの尻尾の付け根がギュニィっとねじ上げられ、あえなく悶絶し下唇を思い切り噛む。くそッ絶対わざと抜きやがったな。文句が喉元を出かかりすごい剣幕になってるんだろうけど、頭に浮かぶのはアレクに対する弁明ばかり。
『……あ? なんだヒュドラ、マンコめちゃくちゃ狭くなってんじゃねーか。粗チンしか食ってこなかったんだろ、夫様のチンポの帰りを拒否るとか、ずいぶん度胸あるなあ』
(ち――違ッ! 拒んでなんかないっ、アレクのが前にも増してデカくなってるだけっ)
『んー? 1ヶ月も行方くらましたくせによくそんな大それた口叩けんな。デケェのはケツだけにしとけ?』
(やっやります! あたしの雑魚マンコでせいいっぱいご奉仕させていただきますからっ!)
 ぎゅっと愛情を示すように尻尾でアレクのがっちりした腰回りを捕まえた。再度チンポをあてがってもらって、今度こそ外さないよう至極丁寧にケツを沈めていく。にゅるん、とつっかえながらも侵入してきた雌泣かせチンポが入り口を擦っていく感触は窮屈で、それでいてあたしのマンコ圧に負けず逞しく押し入ってくる感じがたまらない。
 まだ先端が入っただけなのに、クリ裏を押し上げるイボの感覚がえげつないくらいに分かる。地に足ついたポケモンでは難しいであろう、バックで犯された体位のままあたしが上下に腰を振る。大樹のように動かない彼の体を支点として、そのぶっとい枝めいて硬く突き出たささくれチンポを徐々に迎えこんでいく。……な、なんか、あたしが知っているアレクより本当に太くなっているような。いや久しぶりだからそう感じるだけか。いつにも増して熱くだぶついてエラも張ってるし……お、やば、中ほどまでは咥えこんだはずだけど、このまま進めるのはまずい。もう少しであたしの第一弱点であるGスポットにさしかかる。でっぷりと膨らんだイボ亀頭で快楽を待ちわびたここを潰されたら……? 脳内で娘たちに大見得を切った手前アレなのだが、ちょっと手心を加えてはもらえないだろうか。
(〜〜〜っ、こ、これっ、やっぱこのチンポすご、だめだぞ、そんな興奮したらあたし壊れちゃうからな。ぉ、お手やわからに、ん、ふんっんうぅ……!)
『おいまだ先端しか入ってねーじゃんかよ』
(う、うそ……!? こっこんなの無理、ぜんぶ入れるなんてぜったいむり……! しぬっしんじゃうから!)
『もう死んでんだろーがッ!』
(っお゛!?)
 苛立ち紛れにグッと腰を数センチ突き出される。たったそれだけの侵略でさえ敏感に成り果てたGスポを思いっきしえぐられ、聞くに耐えないメス声を脳内にひり上げた。
 まずい、媚びすぎたのが裏目に出た。リア充なアレクはウジウジする奴がいちばん嫌いだ。チンポもイライラして膣肉に食いこんだカリ裏突起をさらに尖らせている。今すぐハメ殺してもいいんだぞ、と憤るアレクの背中をなだめるよう尻尾が勝手に愛撫するが、そんなことで身を引いてくれるはずもない。
 このまま止まっていると死ぬ。ケツを下ろしても死ぬ。にっちもさっちもいかなくなって、わずかに埋没した先端と膣粘膜をなじませるように行ったり来たり。その微々たる往復がかえって腫れ上がった急所をカリ裏イボ棍棒で弄られる羽目になりあえなくイきかけた。そのくせ何も知らない腹奥は突き上げられるのを待ちわびたようにバカ丸出しで降りてきている。
『Gスポ以前よりざらざらになってねーか? そこ好きなのはわーったから、さっさと子宮口キスしろや。こっちから叩き潰してやってもいいんだぞ。そら、さーん、にーい――』
(あい、あいっ! ごめんなさ、いまいれる、負けグセついたクソ雑魚マンコ今いれますからあ……!!)
 絶頂には決して至らないよううまく快感をコントロールされながら膣天井の弱りどころを虐められれば、あたし自身さえ想像しえない無様な文言が脳内で反芻される。マンコはもうさっさとイくときの収縮を繰り返しているのに、あと一歩のところで呼び戻されるもどかしさ。きゅんきゅんも最高潮に達している腹奥がアレクので思い切りどつき回されることを期待して、乞い縋るように肉ひだを絡ませてしまう。
 もう猶予なんてない。アレクに好き放題されるより、自分でやったほうが快感を堪えられる ……可能性もあるはず。体重をかけるようにして、ずるん! と猛り狂うチンポを深々と咥えこんだ。
 こちゅっ。
(は、へ…………?)
 無防備な子宮口がアレクの剛直で持ち上げられ、頭の中に真っ白い火花がじれついた。膣道は満遍なく絶倫イボチンポでぞりぞりと擦りあげられ、ポルチオの泣きどころを容赦なく押し潰された途端弾ける雌の悦び。あられもなく漏らしてしまいそうになる開放感が迸り、壁に支えられたまま下半身から力が抜けた。どうにか尻尾をアレクに巻きつけ、無様なチンポケース状態を維持する。二度も結合を解いてしまう失敗をしでかしようものなら子宮リンチどころじゃ済まなかった。
(お、お゛、お゛ッ……! ふフーっ、ふ、ウうぅ……!)
『おーおー締まる締まる。どーだ、思い出したか? これがヒュドラを躾けてきたチンポ様だぞオラ』
 タマゴが帰ってきたと勘違いした産道がチンポを押し出そうと勝手に力みあがり、あえなく鮫肌めいたイボちんの反撃に熾烈な快楽を訴えてきた。1ヶ月ぶりに直接攻撃を喰らわされた子宮はうず高く積もった疼きをいっぺんにぶちまけたみたいに甘く弾け、それがずっと高いところにいったまま降りられない。頭の中はもう真っ白、下半身の揺れが壁を跨いで腕にまで広がり、カタパルトを地層へ突き刺すようにして身をよじった。
 イっていた。
 バトルタワーの脱法ミントで性格まで淫乱に変えられてしまったみたいに、深々とイった。押し殺しようもない痙攣が顎まで震わせ、短い腕は縋りつくものを探すようにぴたりと揃えて壁に爪を立てる始末。ゴースの輪郭みたいに頭が蕩け、もう何も考えられなくなる。そうだ、あたしはアレク専用の肉便器だ。壁に設置され尻を貸し出し、配慮なしに精液をコキ捨ててもらうためだけの雌――

 我を失いかけたあたしの明滅する視界に映る、綿のベッドへ丸まってうつらうつらしているドラメシヤの後ろ姿。……そう、そうだ、あたしは肉便器なんかじゃない。あの子たちの母親だ。
 ウェンディを寝かしつけたアイーダはクレイと向かい合っている。小さな背中しか見えないが、あれだけ毛嫌いしていた相手とちゃんと話せるようになったなんて。いったい何を喋っているんだろう。聞き耳を立てようにも、強烈な絶頂感に三半規管ごとダメにされたあたしの耳はろくな音声を拾っちゃくれない。

『ひとりで勝手にイってんじゃねえ』 
(あっひゃ……!? ま、まって、ほんとデカくなってるっ、なにこれ、なにこれぇ!?)
『俺もよー、ヒュドラにハメられなくてストレス半端なくてさ。無心に筋トレしたらなんかチンコもでかくなったんだわ』
 あ、死んだ。あたし死にました。ただでさえアレクに歯が立たないっていうのに、ダイマックスを遂げた増強チンポに勝てるはずなんてない、耐えるなんて無理ですハナから分かってました。娘の前で恥ずかしいところは見せられない! とか粋がってスミマセンでした!
(ひいぃっおたすけっ! 戻る、ジムに戻りましゅ、あたしの負け! チンポ入れられただけで降参するクソザコマンコの負けですっ! ゆるして、娘たちの前で醜態を晒すのだけはどうか……!)
 謝罪の念を繰り返し心の中で唱えながら腰を振る。動かないアレクの腰めがけてスイングするように尻を振り下ろし、たちゅ、たちゅ、たちゅ、と軽快な水音を掻き立てていく。後背位でハメられながらこの動きを継続できる雌はそうそういない。アレクもそれをいたく気に入っていて、「ヒュドラは全自動デカケツオナホだな」と無体に褒められるといっそうご奉仕してしまうのだ。現に彼のチンポが逆鱗を逆立てたようにエラ張りをビキビキと尖らせたから、これは効いている。イけ、早くイってくれ、いやイってくださいお願いします……! 響き渡る水音は隠しようもないだろうが、もう近所迷惑とかそんなことに気を配っている場合ではない。
 あたしの動きに合わせてアレクも淡く腰を揺する。半世紀以上もつがいとしてやってきた雄雌の交尾行動はあまりにも精密で、あたしの弱点という弱点を余すことなく網羅した特注チンポが、次第にその往復を深く重いものに変えていく。
『あーやっぱヌメまん気持ちいいわー』
(つよ、ちゅよひィっ! チンポつっよ……! 手加減、心くばり! ネストボール級マンコにお慈悲を! 遊び相手にもならないネタパマンコにご容赦くださいぃ!!)
 ヌメまんとはあたしの膣がヌメヌメしている、ということではない。〝ドラゴン最弱ヌメラ級まんこ〟の略で、つまりそれはアレクのチンポに易々と堕とされてしまうザコ雌だと貶すための蔑称だった。ひとの体をカレーの出来具合みたいに評されるははなはだ癪だったが、実際その通りなので何も言い返せない。それどころか貶されることでぞくぞく背筋が湧き立つので止めるべくもない。
『今さら謝っても遅せーんだよボケ!!』
(ほにゃぁああああ〜〜〜ッ!!)
 リザードン級キョダイマックスチンポがあたしの中を悠々と蹂躙する。長大なストロークでチンポの軌道を確認したあと、どちゅこんッ! といきなり殴りつけられ錯乱している子宮口めがけて全力のフルスイング。堅牢強固なアパートの壁は一切の衝撃を緩衝せずイボ棍棒を子袋へもろに食らったあたしは、断末魔の嬌声を上げてマゾ雌アクメ地獄へと叩き堕とされた。
『前よりまたケツでかくなったか? やっぱこのデカケツに腰ぶっつけんのたまんねーわ。娘のアイーダちゃんは元気? おかーさんは壁にはまったままマンコ犯されるのが大好きな淫乱クソ雑魚ドラゴンだって教えて、いつか親子丼してーんだよなぁ』

 ……はっ、娘はどうしてる? イき震える腰から否応なく響かせられる快感を押しやり、室内に目を向けた。
「――クレイおじさん、私のこと何にも分かってない! 私はリボンもチケットも欲しくないの……子供扱いしないでくれませんか!!」
「うぅん、そういうわけじゃあ……」
 修羅場!
 いつの間にこんな手がつけられないほどヒートアップしていたのか。そうだ、あの子たちにはまだまだお母さんは必要だ。こんなところでチンポに屈するわけには……!
 
『おーこれこれ……Gスポはぷりぷり柔らけえ粒ひだが揃ってっし、子宮のコリコリ感も健在か。タマゴ2個も産んだうえ不定形なくせにガッチリ締めつけてきて……こりゃ実家に帰った安心感あるわ』
(ひとの中で感慨に浸るな……!)
『は?』

 ドスっ!!

(ひぎぃいいいっ! おふ、おおお゛ぉッ! ごべんなさ、ナマ言ってごめんなさいっ!)
『あーもー許せんわ。ヒュドラの&ruby(な){情};っさけねー姿拝めたから、せっかく娘の前だし今日はこのくらいで勘弁してやろーかと思ってたけど、こりゃ分からせないとダメだわ。はい肉便器に再任命決定〜!』
(ご――ごかんべん! おゆるしっ! かんにんしてっ! それだけはどうにか……ぅにひぃぃッ!)
 必死の弁明むなしくアレクは腰づかいを急激に加速させた。どっちゅばちゅっばちゅンっ! 愛液でびしょ濡れのマンコが激昂イボ棍棒でかき乱され、子宮を情け容赦なくタコ殴りにされる。カボチャが化けて出たみたいなプリケツへ猛然と腰を打ち付けられ、そのたびに脳天で小さな絶頂が繰り返し繰り返し弾けていく。 
 もう快感を押し殺すとかそれどこじゃなかった。口許からだらしなく舌をまろび出し、尻肉をわなわなと波打たせてマゾ悦感に浸りいる。イきすぎて背筋をのけ反らせたせいで喉奥によだれが溜まり始め、そのおかげで引き抜かれたナゾノクサみたいな喘ぎが漏れなかったのがせめてもの救いか。
(ほぉおおおおッ! んおぉおおおおお゛!! やばっヤバ、種づけ前の鬼ピストンだめぇえええっ! マンコ壊れるッ、お母さんなのに成仏しちゃ――んおおおッしっぽ、尻尾のつけねにぎにぎダメふぇえええ!?)
『あークソ雑魚ヌメまんハメ殺すの楽しーなアぁああ! 俺から逃げようとする雌をチンポで釣り戻すのやめらんねーわ。……お、俺もそろそろ……、オラっヒュドラにガキ仕込んだザーメンもっかい流し入れてやっから今日イチマンコ締めろ!』

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 雌に言うことを聞かせるためだけの張り手が尻へ鞭打たれ、命じられるまでもなくマンコが勝手に窄まった。まさしく逆鱗に触れられ暴れ回るドラゴンのように痙攣するチンポが、引き締まるあたしの腹を食い破らんと大乱闘。知ってはいけない雌の被虐快楽を最大限に味わえる高速ピストンでマンコをめちゃくちゃに掻き回されれば、気持ち良すぎて全身が狂ったように跳ね上がる。
 何遍も絶頂に絶頂を上塗りされ、とうとうダイマックスしたポケモンが倒れるときみたいな極限の法悦があたしの全身を貫いた。

「い――イぐううううう゛っ!!」

「行かないで!!」
 思わずこぼれ出た雄たけびを押し戻そうと短い腕で口を覆ったあたしの耳に届いたのは、地層の壁からアパートを抜け出そうとするアイーダの唸り声と、それを止めようとするクレイの、ちょっと怒気を孕んだ声だった。
 娘を呼び止めようと伸ばされたクレイの腕がしなり、影の指先があたしの鼻面をべしりと打った。絶頂快楽から急に引きずり下ろされ、目の前に魂が浮いているみたいにチカチカする。
 行手を遮られたアイーダの、苛立ちを隠すそぶりすら見せないような睨みを向けられて、それでもクレイは怯まなかった。彼の周囲にはアイーダの気を引こうと用意してあったのだろう、飴玉やら人形やらが散乱している。あえなく突き返されたらしい。
 それでも彼の単眼には決意のような光が宿っていて。
「僕もさ、距離感が掴めなくて、アイーダちゃんとどう接していいかわからなかった。怖気づいてコミュニケーションをとれないなんて、父親になる資格はない。それは分かってる」
「…………」
「どうすれば……僕と話してくれるかい」
 時が止まったように静まり返る室内。この数秒ばかりは、あたしも下半身の感覚が断裂しているみたいに息を止めていた。ウェンディの寝息だけが静かに続いている。
 緊張を破ったのはアイーダだった。ゆらり、幼いながらも竜の殺気を纏った彼女が、クレイの目を睨み上げながら、尻尾を不穏に揺らしている。
「……バトル、してほしい」
 アイーダが顎で指し示したのは、棚の端っこに飾られたバッジケース。あたしを打ち破り勝ち取ったナックルバッジも丁寧に磨かれてそこに輝きを添えてた。あたしはアイーダに教えていないが、クレイがバトルの実力者なのは薄々感づいていたのだろう。それなのに常日頃はおどおどと覇気のない彼に不信感を募らせもしていたのだ。
 果たし状を叩きつけたのはおそらく、クレイの強さをその目で確かめるため。ドラゴンでなくとも本当の父親にふさわしいか試すため。
「本気で来て」
 臨戦態勢をとり目を据わらせたアイーダ。ただならぬ気配にクレイも彼女の意図を汲み取ったのだろう。ふわりと石板の体を浮かび上がらせ、稼働部分をすべて取り外して両手と尻尾をぞぞぞぞ、とうねらせた。
「……庭に出ようか」
 促されたアイーダが、クレイの開けたドアからこの部屋を後にする。続けてクレイの背中がリビングへと消えていき、後ろ手に扉が閉められた。
 追わなければ。そう思ったと同時、体が勝手に滑っていた。地層の壁を外れ、彼らを追いかけるようドアの前まで進み出る。

 ……あれ。

 あれほどこびりついていたあたしの胴体が、すりぬけの特性を思い返したかのようにあっけなく壁から抜けていた。父娘の決闘を見守るべくドアへ滑り進もうとした体を急旋回させ、今の今まではまっていた地層へ頭からダイブ。
 カビ臭い路地裏の空気が肺を満たしすぐ下を見下ろせば、アイツはすぐそこにいた。
 向かいの倉庫のレンガと2メートルの幅もない砂利道へ尻尾を投げ出すようにして、アレクがだらしなく股をくつろげていた。家庭崩壊の危機を前に緩んでいたあたしのヌメまんでもどうにかイけたのだろう、へたりこんだ腰周りには1ヶ月分の白い粘液がべっとりとはびこっている。アパートの壁にも付着していたらしく、そこを通り抜けてきたあたしの脇腹にも粘液がこびり付き、尻尾の先で拭い取ってからベシャリ! と乾いた砂利道へ打ち付けた。
「……おう」
「…………」
 なんとも間の抜けた挨拶をするオノノクス。賢者タイムなんだろう、挑戦者を容赦なく受け止めるようないつもの覇気は感じられず、ワイルドエリアでこんな情けない姿でだらけていたら一瞬で縄張りを失いそうな雰囲気だった。
 ……なんでこんなヤツを好きになってたんだろ。
 いくら性豪のアレクといえど、この時ばかりは生まれたてのキャタピーにも敵わない。威勢を張るように首のまさかりを振るうも、そんな癖あたしには筒抜けだった。
「拗ねんなって。なんだ、まだハメ足りねーのか? わーかったよ、ジム戻ったら朝までイかせてやるから、ンな睨むなって」
「………………、って」
「あ?」
 喉奥で竜の炎を灯すようなあたしのドスを利かせた声に、闇の中でアレクがたじろいだのが分かった。ずりずりとへっぴりごしに後退したぶんだけ、あたしは浮いたまま詰め寄っていく。
 ガッ、とアレクの腰が倉庫の壁面に当たる音。顔と顔が数センチのところまで迫ったところで、両眼をかっ開いて住宅街の静寂をつんざいた。
「帰れつってンだよこのヤリチン野郎!!!!」
「は!?」

 ――ドガアァァァっ!!

 レンガの倉庫を吹き飛ばしかねないほど竜の怒気を咆哮に滾らせて、ガラ空きの土手っ腹へ渾身のドラゴンダイブ。「げっへ……!」と聞いたこともないアレクの断末魔を心地よく耳に通しながら、気絶した彼の顎のまさかりを手に取った。首をかがめ、鋭利な切っ先をあたしの開いたカタパルトにはめる。脱力した下半身を尻尾で巻き取り、ガッチリと固定された斧の牙を支点として、霊力も駆使しつつアレクの重い図体を持ち上げた。
 方角は東北東。距離4.820、風向き南西2.21。カタパルトよし、装填よし、技のPPよし。システムオールグリーン。

「ファイア!」

 バシュ――うるぅうううううッ!!

 あと10秒ほど経てば、街の遠くからけたたましい着弾音がアパートまで響いてくることだろう。天井を大きく開けたスタジアムの中央で、どこかの世界の伝説の剣みたいに逆さまに突き刺さったオノノクスが発見されるのは、きっと夜明けになってからだ。


*5 [#EKQ46vF]


 満身創痍の体を引きずって庭へ戻ると、父娘の本気バトルは山場を迎えているところだった。寝起きで這い出てきていたウェンディは庭の奥のフェンスにしがみつき、姉の勇姿をつぶさに見守っている。
「竜の血が流れてるんだろ私! だったら勝つしかないよなあ!」
 いつかキバナさんが現チャンピオンに追いこまれたとき吐いたセリフ、それをなぞらえてアイーダが自分自身を鼓舞する。もう全身埃まみれ、シャドークローのかすり傷は見るも痛ましいくらいなのに、彼女の内に灯る闘志はいまだ燃え盛っていた。
 30年前、ジム戦であたしの前に立ちはだかったクレイは、圧倒的な壁だった。あの光景と同じ。アイーダも打ち倒すべき相手としてクレイと対峙していた。
「竜よ吠えろっ!! 必殺、キョダイゲンスイぃ――いいいッ!!」
 それはもちろんキョダイジュラルドンのダイマックス技などではなく、ドラメシヤの矮躯から放たれたただのドラゴンテールなのだが。……思えばアレクからタマゴ技として受け継いだこの技で花瓶を割りかけたのが、今日の一連の騒動のきっかけだと思うと感慨深い。彼とは今日で金輪際キッパリと関係を断つのだけれど、その技でクレイを父親として認めようとしているのだから、家族とはなんと複雑なものなんだろう。いや、不定形ポケモンの体のように決まった形に定まらないものなのかもしれない。
 へろへろと横に薙がれた尻尾をあっけなく受け止めたクレイ。熱々の油へ潜らせたかき揚げのように暴れる我が子をそっと両手で包みこみ、手加減に手加減を重ねたようなシャドークローが振り下ろされて、あっけなくバトルは幕を引いた。
「ありがとうアイーダちゃん。……いいや、アイーダ。君の気持ち、真っ直ぐ伝わってきた」
「――はあっ、はあ、はぁあああっ、ハ……!」
 事前にこうなることを想定していたのだろう、クレイが石板の中からペットボトルの水を取り出して彼女へ差し出した。彼の手のひらの中でくったりとするアイーダは拒むことなく受け取り一気にそれを飲み干して、フルマラソン選手のように残りを頭からかぶって体を冷やしている。
「あっ!?」
 突如、夜を退けるような眩い光が庭を照らし出した。驚いて硬直したアイーダの体が、神秘のベールに包まれる。ハッと息を飲む間もないほど一瞬でその光が解けると、そこにはドロンチへと進化した彼女の凛々しい姿があった。
 手で顔をぺたぺたと触り、新たに生えた足をピコピコ動かして。横から飛びついてきたウェンディをさもそうするべきというふうに頭へ乗せて、アパートの陰から見守っていたあたしを振り向いた。
「ママ……っ」
「アイーダ……!」
 進化を遂げ一段と逞しくなったアイーダ。うんうん、よくやったよ。すんごいバトルだった。駆け寄って、あらぬ体液でべたべたするのも気にせずに深々と抱擁を交わす。……「ママ」なんて呼ばれたの、しばらくぶりな気がする。2年ほど前から「母さん」と呼ばれていたけれど、それはあたしがなかなか孵らないウェンディに神経を尖らせていた時期で、ああやっぱりアイーダには気苦労をかけていたのだな、と改めて胸の中の我が子を抱いた。
「私ひとりでウェンディのお世話できるから。……ママはもっと、自分のことを大切にしてよ」
「……うん」
 あたしが思っているよりもずっと、アイーダは大人になっているのかもしれない。女の勘ってやつは鋭いから、もしやあたしが壁の中で何をやっていたか、薄々感づいているのかもしれないけど。いますぐ打ち明けられるのは怖いから、200年後くらいに冥土へ持っていく笑い話として聞くとしよう。
 あたしの胸からそっと離れたアイーダは、もとのクリーム色を一段と濃くしたような芯の通った色の瞳で、今度はしっかりと石板の竜を見つめた。
「クレイさん……ううん、パパ。ママをよろしく。……幸せにしないと、ドラゴンアローですよ」
 言葉尻は気恥ずかしげに敬語でまとめたアイーダが、クレイへ向かって小さく頭を下げた。それは今まであたしが見守ってきた娘のものではなく、ひとりのドラゴンとして堂々たる顔つきで。
 早くも彼女の頭でくつろぎ始めたウェンディがぎゅっと目をつぶり、ドラゴンアロー……ではなく電光石火の顔をする。誰からともなく笑いが漏れて、それは全員に伝播した。戻ろうか、とクレイが促して、家族でリビングの光の中へと吸いこまれていった。



 あたしの唾液やら何やらで汚れた床を掃除して、べとべとになった下半身を洗って、腹ごしらえにカレーの残りを腹へ収めちなみに、その後。
 書斎のトレーナーの元へ飛んでいった姉妹は、そこを彼女たちの新たな部屋にするべく交渉しようと立てこもり、彼の膝の上でそのまま眠ってしまったのだという。そっと脇にどけたトレーナーは張り切って書斎の整理に取り掛かり、つまり洋室にはあたしとクレイのふたりが残されていた。
 分厚い彼の胸板へと泣きついて、今まで隠してきたことが懺悔となってあたしの口からこぼれ落ちていく。1ヶ月間彼を裏切って見知らぬ雄に体を明け渡してきたこと。さっきまで壁越しに抱かれる痴態を見せつけていたこと。アレクに無理やり抱かれ、元の生活へ引き戻されそうになったこと。ジムポケモンとして決して泣くまいと心に誓って70年、その揺り返しが来たのかクレイの胸元には広々と暗いシミがついていて、まるで娘たちより子供に戻ってしまったみたいで恥ずかしい。
「あの子たちが言うこと聞いてくれないとすぐカッとなって怒鳴りそうになる。それに自分の性欲もコントロールできないし……。アイーダはずっと素直になってくれなくて、クレイにまで迷惑かけちゃってた。ドラゴンとしても母親としても、……雌としても失格だよ」
「…………」
 クレイは安っぽい言葉で慰めてくることもなく、ただ2本腕であたしを抱きしめてくれる。飛びついた瞬間は戸惑ったように指をくねくねさせていたが、あたしがあまりに傷心していたせいか、突っぱねることもしなかった。石版の重みがかからないように気遣ってくれるぎこちなさが、かえって大切にしてもらえているようで心地いい。 
「僕も早く家族になろうと躍起になって、アイーダへ無理に娘の役割を押し付けていたんだなって、さっき思い知らされたよ。僕たち不定形のポケモンは、そういう型にはめられるのが嫌いなのかも」
「お姉ちゃんでしょ、ってあたしも何回も言ってきたけど……、お姉ちゃんであることを強要してたんだよね、きっと。余計なストレスを与えてたんだ、アイーダは言われる前からちゃんとしっかりしてたもの。……そういや〝型にはまる〟で思い出したけどさ、壁から抜けなくなってこんなことになったワケだけど、あれはどんなカラクリだったんだろ? 不定形の体ってのは難しいな」
「ああ、それは貴女が僕を驚かせてきたから。ほら、〝おどろかす〟は接触技で――アッ」
「エ?」
 しまった口を滑らせた! みたいに壁画の竜眼を見開くクレイ。……こりゃなんか知ってるな。腕や尻尾を1枚板に戻し知らばくれる彼へじっとりとした視線を送り続ける。竜の威厳を乗せて(今のあたしにそんなものがあるのかは不明だが)口の中に大文字をチラつかせれば、壁画に描かれたドラゴンの顔だけ外れて視線をそらされた。
「おいちょっとツラ貸しな」
「あー……、ハハ、えぇと、まいったな……」
「全部吐け?」
 指で額を掻くような仕草をしながら、クレイはあっけなく白状した。いわく、あたしが壁に埋没して雄の慰み者になっていたのは初回から分かってたということ。今日は一段と強い雄を相手していると察していたということ。助けようかとも思ったけど、あまりに喘いでいるあたしが止めないでほしそうな顔をしていたということ。……どんな顔だ。
「僕の〝さまようたましい〟は直接触れた相手にくっついていく特性だからね。〝すりぬけ〟頼りで壁を透けていたヒュドラさんは、気が動転していたうえ特性が働かなくなって、壁から抜けられなくなったんじゃないかな。それで、僕がアイーダを止めようとぶん回した腕が貴女にぶつかって特性が元に戻った、と。型破りはこの場合関係なかったんだと思う」
「なんで知っててすぐに助けないのさっ!」
 なんかもう、安心と憤りと恥ずかしさで、叫びながら笑っちゃっていた。あたしが隠そうとしていたものは全部すり抜けてクレイに知れ渡っていたらしい。
 というかそうだ、クレイはあたしを何だと思っているんだ。あたしが誘惑しても嫌悪感を示されないあたり、彼もこちらに気があるはずなんだけど。妻となろうとしている異性が知らない雄に襲われてても助けてくれないとか……あたしってばそんな魅力ない? そもそも壁に挟まったまま不特定多数に体を売るなんてこと、友人以上の関係であったら釘を刺して止めると思うんだけども。
 えっなんだ、自分のことを棚に上げて思うけど、普通にショックだな……。
 顔に出ていたのだろう、クレイが石板の腕をしどろもどろに振った。
「いや、誤解しないでほしいんだけど……なんというかその、壁にはまったヒュドラさんが、竜の描かれた壁画であるところの僕そっくりでさ。ヤドネが壁に潰されているような姿のポケモンだったのも相まって、貴女があの状態で犯されてる姿を見て、実は興奮してました……」
「は? キモ」
「ストレートな悪口は傷つくよ」
「ちょっと想像のはるか上な性癖だったからさ……ごめんて」
「ヒュドラさんにだけは言われたくないな。僕に見られながら犯されて、ひどく興奮していたでしょ」
「ウぐ」
 まっとうな物言いに二の句が告げなくなったあたしの体が、影の腕に引き寄せられる。角ばった石材を当てまいとする気遣いがやっぱり心地よく、あたしはされるがまま体を擦り寄らせた。石板の切れ目に爪を差しこんで、硬質な肩のくびれへ手を回す。これで合っているかどうか自信はないが、彼からアイーダを相手していたときのような戸惑いは感じられない。あたしの背中にも石板の重みがふんわりと乗せられて、彼と同棲して1ヶ月、お恥ずかしながら初めて抱き合った。
 特殊すぎる性癖暴露についていけなかったけど、つまるところあたしで興奮してくれたってことじゃない。それなら……? うまく剥けた蒸し蟹の肢みたいな彼の尻尾にあたしの希薄なそれを巻きつけて、どこか分からない耳元めがけて囁いた。
「なあ……あたしのカタパルトに空き部屋ができちゃったんだけどさ……。ドラメシヤがいないと落ち着かないなあ」
「……それ誘っているんですか」
「もうずっとそうしてきたつもりだよ。……でも今夜はとくに体が火照って寝つけそうにないんだ。――おっ」
 ケラケラ笑うあたしの背中を這い回る彼の指が、突如いやらしくねちっこい動きに変わる。脇腹を撫でるように下がりつつ、ぎゅむ、と尻肉を握られた。……へぇ、おとなしそうな顔してこんな触り方もできちゃうのね。これからの夜も楽しみかも、なんて。
 思わず舌舐めずりをこぼしたあたしの体が不意にひょいと持ち上げられる。そっか、続きはベッドでやるんだね。なんて安心しきっていたところを、浮ついた彼の足取りはあらぬ方向へ。あたしが顔を出していた地層の壁際まで運搬さた。はてな? と見上げた彼の単眼は興奮にじっとりと濡れていて。
 どうしたの、とあたしが口を開くよりも早く、支えていた腕をほどき版築の壁へしなだれるようにして抱きすくめられる。壁ドンにときめく歳でもないのだけど、なんというかちょっと近い。近すぎやしませんか。とっさに透けることを忘れたあたしの体は地層と壁画にサンドイッチされた。お、重い、というか苦しい……クレイどうしちゃったの。これどんなプレイっすか!?
「あの……あのあのあの!?」
「ああ、ずっと柔らかそうだと思ってたけど、おまえの尻は本当にぷにぷにだね」
「〜〜〜〜っ!」
 クレイに「おまえ」なんて呼ばれて耳がとろける心地なのだけど、反面状況が飲みこめない。影の指がデカケツへ沈みこんできた。……え、なんかすごい掴まれてる。アレクよりは力強くないはずなのに、尻肉が溶け落ちるような心地よさ。というより彼の指、あたしの体の内側へ入ってきているような……? 
「あ、あなたっ! ちょ、ちょっと――ふうんっ、重いんですけど……」
「さっきも言ったろう。僕は壁に挟まれているおまえに興奮するんだ」
 ――きっしょ!
 いやまってそれどころじゃない。興奮したクレイがぐいぐい体重をかけてくるせいで肺がひしゃげ、呼吸もままならなかった。カタパルトが地層につっかかって横を向くこともできないあたしの口許へ、壁画の竜の顔が飛び出してきてさらなる窒息を強いる。……あっこれキスか! 砂の味しかしない!
「むぐ、ちょ、これホント苦し、しぬ、シヌ……!」
「落ち着いて、僕らはもう死んでいるじゃない。体をもっと不定形にしてごらん」
 言われるまま全身の力を抜く。壁から外へ抜ければひと安心――と思いきや、あたしの下半身はアパートをすり抜けることなく、クレイの体へと吸着するように輪郭を失った。尻に食いこむ指がさらに深いところまで浸食して、その感覚でマンコがぬるり、と湿潤する。それも愛液が白く濁るくらいの本気っぷりで。
「あ、あれ、なん――ヒャアっ!? なんでぇっ」
「不定形どうしがくっつくと、こうやって体が融けてひとつになるんだ。……いちど覚えちゃったらやめられなくなるよ。前の旦那を忘れてしまうくらいに」
「ひ――」
 かすれた悲鳴を最後に、あたしの口が石板の竜のそれで噛みつかれる。痛みなどまるでなく奥へ奥へと引きずりこまれるような錯覚。硬質な体とは裏腹にクレイの中身は流動的で、どろり……と喉奥へ流れこんでくる何か。ザーメンより濃密にこびりつく魂そのものとでも言うべきものが、じわりじわりとあたしの体内へ染みついてくる。
 呑まれる。呑みこまれる。頭へ直接クレイが流れこんでくるようで、未曾有の感覚に脳が混乱をきたしているところに、尻をまさぐる指の動きが活発になった。柔肉を揉みしだく中指がそのまま腹側へ回され、丹田の辺りをくにゅくにゅとほじくられたかと思えば――
「はひ、ちょ、まっ――ふっぎゅ……!!!?」
 ぬるり、と子宮を撫でられた。
 マンコを介さずあたしの胎内へ侵入してきた影の指が、アレクから逃げ切り安心しきっていた子宮を、きゅう、とつまんだ。
 とたん痙攣し始めたあたしの下半身が、壁とクレイに挟まれたままどろりと溶け落ちる。
「実はこういうこと、やってみたかった。ヤドネは気持ち悪がってあまりさせてもらえなかったものでね」
「えっうそうそうそ――あっ、指ッ、ちょ、あ゛ッ!? お腹、上か、らぁああ゛ッ!!!?」
「壁越しに知らない雄に突き回されて、僕、さすがに我慢ならなかったさ。おかげでほぐれてるみたいだから……僕が満足するまでせいぜい耐えておくれよ、な? 言ったろ、壁に挟まったままでいると、そのまま抜け出せなくなるって」
「ほにゃぁアアアア!?」
 さまよう魂は濃密に接触したあたしたちの周囲を止むことなく飛び交っている。ふだん穏便なクレイは豹変してドSだった。こんなのもちろん耐えられるはずもない。あたしはその夜、石板のドラゴンとひとつになるくらい体を蕩けさせられた。荒れ狂うあたしの性欲は竜の威厳もろともあっけなく彼へ追従し、支配してくれるクレイへ染みついたマゾ痴態をさらけ出す。彼がそんなことを望むかどうか分からないが、あたしの脳内は早くも彼に許しをせびる淫猥な言葉でいっぱいだ。これから夜を重ねるたびに、もっともっとドロドロに融け合って――

 リビングのテレビ脇の花瓶では、小さな赤い花をより集めたようにバーベナがみずみずしく咲いている。それが押し花になるのも時間の問題かもしれない。――あたしみたいにぺチャンと壁に挟まれて。





END

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あとがき

みんな大好きケツパルトのドラ書きました。今まで適役が見つからなかったので見送っていたのですが、剣盾でドラパルトが出てきてくれたので昔書き捨てていたプロットをサルベージ。不定形ゴーストであんなむっちりした尻を持ち、ドラメシヤがいるから壁向こうで何されようとも堪えるしかない……壁尻するために生まれてきたみたいなデザインしやがって! そうでなくともドラパルトが壁につっかかって抜けなくなるって状況だけでも面白い短編できそうですね。
しかし壁尻そのものに私そこまで造詣が深くないので()、その道の人がこれ読んでどんな感想抱くのかわからないんですけど……笑ってもらえたらいいかな。たぶんシリアスギャグとの相性はいいハズなのですよ。壁にはまって抜けられなくなるってだけでオモシロ設定なわけですし。淫語使わせたのは完全に趣味なんですけども。ドラゴン最弱ヌメラ級まんこ、のくだりがお気に入りです。最近わたしこんなのしか書いてねえな。
オノノクスがドラゴンテール覚えるのSMまでだったんですね。ろくに調べもせず家族がうんぬん〜、とかのキメ文に書いててすまんかった。特性のブラフさえ無くせればジャラランガでいきたかったんですよ。見た目からしてチャラいですし、何よりちんちんがエグそう。




以下大会時にいただいたコメントに返信します。


・セルフ壁尻美味しかったれす(^q^) (2020/05/26(火) 12:46)

これ執筆する1ヶ月前まで[[こちらの作品>不器用なこの身にご褒美を]]にて割と力をいれて濡れ場書いていたので、今回はだいぶフザけたエロだったのですけど残さず食べていただけたようで何よりです。
でも読み返すとメインシーンに到達するまでやはり長かったですね……冒頭1万字くらいずっと壁尻するヒュドラの動機づけとかうだうだ書いてて、壁尻しながら家族うんぬんのやりとりを面白くするための設定や伏線を盛りこみすぎたかな、と思います。でも前置きなしにセルフ壁尻やるお母さん嫌じゃないですか?



・ポケモンの特徴を活かした展開と、濃密な描写が素晴らしかったです。 だんだん呂律回らなくなっていく所がとてもキますね。 ドラパルドの名前と呼ばれ方が違うのは、ローマ字読みと言うことですか? (2020/05/26(火) 18:02)

本ポケはいたって真剣なのにはたから見ると滑稽な濡れ場は書いていて楽しいです。というか頭の中で思い浮かべるセリフも快楽漬けにされたら呂律回らなくなるのですか? ……考えるのはやめときましょう。だってその方が読んでて面白いんだもん!
ハイドレンジア(Hydrangea)が長いので親しい仲のポケモンは彼女をヒュドラ(Hydra)と呼びます。スペリングそのままですが英語とギリシャ語なので読みがぜんぜん違いますね。ヒュドラはなんか首いっぱいある神話のドラゴンの名前なのでドラパルトの彼女にぴったり。ちなみにhydrangeaはアジサイを意味する英語ですがその花言葉は『浮気心』です。ぴったりー!



・不定形という我々とは違う理の種族性質をこれでもかというほどに表現なされており敬服の一言に尽きまして。何を食せば斯様な狂った作品(誉め言葉)を書けるのかご教授いただきたく。 (2020/05/30(土) 17:53)

鉱物グループは核で増えるみたいな話は[[以前>妖精ROCK!!!!]]書いていて、なら不定形はこういう生殖してもいいよね、と独自設定をあの手この手で読み手へ押し付けました。デスバーンもそうですがミカルゲとかフワライドにちんちん無さそうですし、体を直接混ぜ合わせて交配してもいいじゃない。ポケモンごとのこういうこと考え始めると妄想が止まらないね……これを肴にお酒が進みます。私みたいに9%の強いやつ常飲してるとそのうちこうした幻覚見えてきますよ。オススメはしません。



・ゴーストタイプならではのぶっとんだプレイに感心させられました。ドラパルトちゃんはかわいい (2020/05/30(土) 21:32)

もともとゴースト好きでしたからね……最近はあまり書いてあげられていませんが。進化系をひとくくりにすればたぶん全ゴーストのうち8割くらい小説に出してる気がします。
壁抜け中ひょんなことから頭だけ抜けなくなって後退するんだけどもカタパルトが引っかかって、エリザベスカラー着けられた猫みたいなブサイク面さらしてほしいですね。ブサかわ。



・竜の壁画のポケモンと不定形竜ポケとは、まさにベストカップル。ヒュドラの壁尻プレイも実にハマっています。ネタの扱いも見事ですが、アイーダが葛藤を乗り越えてクレイに娘として心を開いていく描写にも感動しました。(2020/05/30(土) 23:13)

ハマってましたね、壁尻だけに!!!!!!!!
せっかくだしガラルの土地で剣盾の子たちをたくさん出してあげたいじゃないですか。対戦でチヤホヤされてるドラパルトですがそれ以上にステキな属性の詰め合わせなのですよ……子持ち、古代生物、ケツがデカい、ステルス戦闘機、下半身スケスケ、ケツがデカい、カタパルト、ケツがデカい、etc。だいたい小説に活かせたでしょうか。それからデスバーンさん可愛く書けたかな、と思います。顔のパネルだけ外して視線そらされたい。
父娘のバトルシーン、実は投稿する2時間前までバトルで解決することすら決まっておらず白紙でてんやわんや状態だったんですが、書き始めてみればアイーダちゃんが勝手に動いて事態をまとめてくれました。まるで自分から家族になりたがってるみたいで。私自身が「……幸せにしないと、ドラゴンアローですよ」って言われていたような気がします。



・壁尻ものと思わせてから、親子愛と主役との筋が、最後で一つに重なるところに、プロットのこだわりと冴えが見えて、エロいと同時に読後の快さがありました。 (2020/05/30(土) 23:59)

壁尻シーンをどう面白くするか考えたときに、やっぱり壁向こうようり目の前で修羅場が起こってほしいなと(?)。そうなんですよー、プロット段階からオチの付け方にとても悩みました。冒頭から壁尻で1万字くらいのやり逃げ作品(?)にしようと構想していたのですが、どうにも形に纏まらなくて……。あと一般的な壁尻(?)って輪姦されたり快楽堕ちしたりとダーク風味というか、そういうイメージだったのでもっとほっこりさせたかったのです。というか壁尻小説の前例(?)調べたらピクシブにたくさんあって世界は広いんだな……としみじみ思いました。




読者の皆々様、投票してくださった方、主催者様、ありがとうございました!

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