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お前のお陰で の変更点



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作者[[GALD]]

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お前のお陰で
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間に合え、くそっ、動け。頼むよけてくれ。
「夢か…。そうか、俺は捨てられたのか…。」
道端に一匹リザードンが薄暗い霧の中起き上がった。辺りを見渡すが誰の姿もない。
「やはりお前は…。」
そう呟いて森の中に姿を消した。
 
「また外部の者か。」
快晴の空の中、緑の影が何かを見つける。そして緑の影は森の中に急降下して木々の間に溶け込む。先には、待ち構えていたわけではないが、落下に気付いて構えるリザードンがいた。緑の影はリザードンの前に降り立つと、きつく睨みつける。
「ここで何をしている。」
フライゴンはさっそうと怒鳴りつける。対してリザードンはいつくるとかと、がっちり構え直す。
「俺は散歩していただけだ。お前こそ何者だ?」
リザードンはのどが渇いているのだろうか、かすれ声で返事する。
「この辺では見ない顔だが、貴様何者だ。」
一歩的に話を突き付けるフライゴンに、リザードンは不満を覚えるが、この状況で何をいったところでと思ってしまう。
「確かに、この辺の者じゃない。人間のポケモンって言えば分かるのか?」
「汚らわしい者共の仲間だと…消え失せろ。」
フライゴンは人という単語に殺意を剥きだす。
「俺が何をしたんだ?」
「黙れ、消え失せぬか。」
フライゴンは我慢の限界で、上空へ羽ばたきそのまま爪をリザードンに向けて落下する。リザードンは戦うことが納得出来ず、攻撃を地面に受け流す。
フライゴンは止まることなく、片腕だけで地面に直立し、爪は地面に傷を残し、周囲に亀裂を走らせた。
「貴様らは森を減らし、大地を汚す。自分勝手と思わぬか。」
「落ちつけ、お前が暴れても同じだろ。」
リザードンの言葉にフライゴンは固まる。フライゴンの行動停止を確認すると、リザードンは一安心する。
「俺の名はレ―ジ、お前は?」
リザードンは警戒心をほどいて話しかけるが、ピリピリしているフライゴンは沈黙して睨みつける。
「貴様に、何も言うことはない、消え失せろ。」
「そうか、別にそう言うなら仕方ないな、また明日にでも出直す。」
そう言ってレ―ジは翼を広げると、フライゴンは背を向ける。フライゴンは飛び去っていくレ―ジを見ることもなく、滞っていた。
「行く当てもないし、困ったな。戻るわけにもいかないし…な。」
空中でレ―ジがつぶやく下の地上では、フライゴンは物思いにふけっていた。
レ―ジの言ったことは正論だ、覆すことは難しいだろう。ならば今まで自分がしてきたことは保護ではなく破壊だったのかもしれない。
たくさんの人間とポケモンと戦ったのは一体なんだったのだろうか。その答えがレ―ジを認めれば、自分のしたことが完全に破壊になってしまうと、フライゴン心の葛藤による不安に埋もれていた。
しかし結局、レ―ジに会うことしかなくなってしまう。翌日、自分の引き裂いた地面から目を逸らしたくてもそらせず立っていた。
「よぉ、気が変わったのか?」
昨日と変わらないかすれ声でフライゴンはハッとすると、レ―ジが現れていた。自分でも行くつもりはなかったのに、フライゴンは自然に来ていたようだ。
「お前の言ったことは正しい、それだけだ。」
「そうか、お前の名前聞いてもいいか?」
「私の名はブリュート。レ―ジ、お前に聞きたいことがある。」レ―ジはお互いの距離が縮まったはずなのに、表情ひとつ変えてくれないブリュートの心境はいまいち広くないと思う。
「私が守ろうとして、行ってきたことは間違えであったのだろうか?」
「俺には分からない。しかし、お前が守ろうとしたものは形を残しているなら、間違ってないんじゃないか?」
ブリュートは頭の中で物事の整理に入る。レ―ジはブリュートの頭の中を覗いたわけではないが、悩んでいるのを難なく察する。
「昔のことは気にするな。俺もお前も一秒先は変わっているかもしれない。」
ブリュートはそれを聞いて思考を停止する。レ―ジは自分のペースで話を続ける。
「これから違うようにすればいいんじゃないか?」
「それもそうかもしれないな。」
ブリュートはレ―ジを拒んでいたことが、馬鹿らしくなってくる。それから双方すぐに溶け込みあった。ブリュートは森のことや自分のやりたいことなど、森に関することを多く語り、レ―ジは所々に口をはさみつつも、ほとんど黙って聞いていた。
ブリュートはレ―ジの事についてあまり触れず、レ―ジもこれと言って明かそうとしなかった。
ブリュート自身、レ―ジのことについて聞けば人間の話も話題に出るには避けれないと判断したからだ。
しかし、人間といることはブリュートにとって気がしれないことだったが、同時にいたらどうなるのかと気になるものであった。
「お前にとって人間とはなんなのだ?」
こんなことを聞くなんて、自分でもどうかしてるとブリュートは思う。
「あいつは俺にとって大切な存在、お前が自然を思うのと同じだ。」
ブリュートにとって分かりやすい例えをレ―ジはだす。ブリュートはよく分からないが、レ―ジにとって大事なんだろうと頭に入れなおす。
「ならばそいつの元に戻らなくてもいいのか?」
日も夕暮れに見合った色合いを見せる時間帯になっている。ブリュートはレ―ジに心配して、ひとつ提案してみた。レ―ジはそれに返答もせず、奇妙に沈黙している。
「レ―ジ、どうかしたのか?」
「あぁ、悪いな。そうだな…帰ることにする。」
レ―ジは名前を呼ばれて放心状態を解かれると、腰を上げて歩きだす。
ブリュートは大きくはない種火のようなレ―ジの尻尾の先を見つめていた。それから反対方向の奥深くに足を進めた。
「そうだったのか、俺は…くそおおお。」
ブリュートの反対側でレ―ジは叫んで木に拳を入れ、殴りつけられた木はなぎ倒されそうな勢いでしなる。
そして、翼を広げ大きく広げて、突風をへこませた木にぶつける。突風に煽られた木は発火し始める。
「なぜだぁぁぁ。」
火の海は隣接している気を飲み込み根絶やしにする。そのなかでレ―ジは独り叫んで、再び翼を広げる。
「止めぬか、レ―ジ。」
攻撃を構えている所に割って入る音声。森が炎上していることに気づいたので、ブリュートは急いで飛行してきたようだ。
ブリュートは上空からレ―ジをみると咆哮を上げる。それでもこちらをみようとしないので、ブリュートは降下しレ―ジにぶつかる。
「何をしておるのだ、レ―ジ。」
「うるせぇ、お前に何が分かる。」
「いったい何があったというのだ。」
「俺はあいつを…死なせちまったんだよ。」
ブリュートはそれを聞いても他人事のように、森が燃えているのにも関わらず落ち着いている。レ―ジは、何一つ表情を変えないブリュートは強く睨む。
「私には分からない。しかし、お前がやっていることは破壊だ。」
「だったらなんだ、俺と戦って止めるか?」
レ―ジは闘争心ではなく殺意を剥き出しにして、やるき満々のようだ。対して、ブリュートは冷静なまま戦う気配はない。
「お前と戦って、どちらかが勝ってなにも良いことなどありはしない。」
「ブリュート…」
レ―ジは一度名前を呟くと、紐が切れた操り人間のように脱力した。我にかえって辺りの様子に落胆するレ―ジに、ブリュートは同情もなく顔色は味気ないほどいつも通りだ。
「人間どもが後にここに来るだろう、ここにいてはまずい。」
ブリュートは空に舞い上がり、レ―ジも後を追う。先頭を行くブリュートをレ―ジは無言で追い続けた。
ある程度すると、ブリュートは森の中に紛れる。レ―ジははぐれないように森にもぐりこんだ。
何の変哲もない森の中に、大きな穴があいた洞窟のようなものがある。夜間のためか、レ―ジは上空からでは気付かなかった。
洞窟の中は真っ暗で、なかは明かりがないと危ないだろう。
「私の住処のような所だ。」
「ブリュート…俺は…」
さっきのことをレ―ジが引きずるのも無理はない。だからと言って、ブリュートは怒りもせず全く相手にしない。レ―ジのことなど他人事のようにあっさりしている。
「私は森が燃えるのは耐えがたい事だ。しかし、レ―ジ、いつものお前でないお前を見るのも同じだ。」
レ―ジはうつむいていた顔を上げる。
「私は迷ったが、手を出さずにいられた。私は変われたのだろうか?」
「すまないな、ブリュート…」
「過去は気にするな、一秒先は変わっておるのだろう?」
レ―ジは参ったと降参する。何枚もブリュートの方がレ―ジより上にいるようだ。
「私は寝る。お前は好きにするがいい。」
ブリュートは洞窟の暗闇に消える。レ―ジはかわったと言えばよかったと、タイミングを逃したことに後悔する。
行く当てもレ―ジにはなく、洞窟に入る。自分の命と言うべき尻尾の炎が辺りを僅かに照らし出す。この暗い中ブリュートは大丈夫なのだろうかと、レ―ジが疑問を持ちながら奥へ進む。すると、ブリュートの面影らしきものが目に入る。
「明かりはつけたりしないのか?」
「私は基本的に火は好きではない。」
「悪いな、今夜はお前にとって眩しいかもしれない。」
レ―ジは体を捻る様に寝転がり、翼を閉じる。それから尻尾を頭に繋げて円を描く様に動かす。
レ―ジの顔から少し離れたところで、炎がメラメラと燃えていた。ブリュートはレ―ジ灯している種火の方を向いて、同じような体勢で横になる。
尻尾の炎はブリュートの嫌う激しいものではなく、滑らかで優しく二匹照らしていた。
「お前、炎が嫌じゃないのか?」
「これぐらいの炎なら問題ないかもしれぬ…これもお前のおかげだ、礼を言うぞ。」
「俺も、お前のお陰で変われたのかもしれないな。」
レ―ジはそう言って返事を待ったが、応答がないので気が抜ける。それから、レ―ジも目を閉じるとある光景を浮かべていた。
二つの大きさの異なる影が、夜間の中森沿いの道をさまよっていた。一つの影はもう片方よりも大きく、尻尾があることから察するに、人間ではない。おまけに、尻尾の先の炎がオレンジの背中と翼を照らしている。その隣を人間らしい物体が並んで歩いていた。
「暗いなー」
小さいほうの影が辺りの外灯に不満そうだ。実質、外灯はかなりの間隔で設置されていて、その上真下に行かないとまともに照らしてくれない。
「お前が遊んでいるからだろ。」
独特の乾いた声で、大きい方が喋る。そして二つの影が外灯の真下に入り、次の外灯へ向けて下を通り過ぎる。
二つの影の正体は片方は自分で、もう片方はいうまでもなくあいつだろうとレ―ジは確信している。
「家はまだか、なぁレ―ジ?」
「もうすぐだろうが、背中に乗るか?」
トレーナーは首を横に振る。レ―ジはこの時にトレーナーをいやでも背中に乗せていればと強く思う。
「俺が高い所駄目なの知ってるだろ、それにもう少しで俺の家じゃん。」
トレーナーはお先にと走りだす。レ―ジはやれやれとため息をついたと同時だった。
黄色い眼を二つ備え、エンジン音を響かせながら鉄の魔物がトレーナーに接近する。
そして、レ―ジは何かを口走ったが、もう後には退けない。トレーナーはランプの視界に入り魔物が食らいつこうと、そこで俺の記憶を途切れていた。                                                             
それから知らぬ間に夜は明けていて、自分一人道端に倒れていた。トレーナーの死を目にして、自分は気絶してしまったのだとレージは推測する。
それから、森に逃避してブリュートにあって今に至る。
レ―ジはどうも空白の時間が気がかりだった。なんだか思い出さないと胸騒ぎがする。それにトレーナーも事故の痕跡もないなどと考えなおせば、不審な点が多すぎる。レ―ジは翌朝そのせいで寝不足だった。それだけの時間を費やしてか、レ―ジは空白の時間を取り戻した。が、やはり案の定よくない物だ。
レ―ジにブリュートと共有出来る時間がほとんど残されていない。
「目を覚ましたのか、レ―ジ。」
ブリュートはレ―ジよりも先に起きていたようだ。レ―ジは目を覚ますと寒さに震える。朝の洞窟は冷え込んでおり、レ―ジにはたまらないものだ。
しかし、のんびりと過ごしているほど時間を余してはいない。
「ブリュート大事な話がある。」
ブリュートは早朝から硬い表情でレ―ジに耳を傾ける。
「俺はトレーナーを見殺しにしたんだ。」
レ―ジはうつむき深刻そうに尻尾を見た。おそらく重大な問題を抱えているのだろう。
「俺は目の前であいつが死んだところをみた…と思っていた。しかし、そうじゃなかったんだ。」
「何が違うというのだ。」
「あいつは車にひかれそうになったんだ。車ってのは人間の機械なんだが。」
またチラッと自分の尻尾を見ては、レ―ジは何かに追われるように焦っている。
「それぐらいは知っている。それより、なぜ尻尾を気にしておるのだ。」
細かい説明を省けて時間を節約のはレ―ジにとるてありがたい。ブリュートはレ―ジの尻尾を確認するが、何の変化があるか分からない。同じようにただ生命線の火が燃えている。
しかし、よく見れば同じようにとは語弊があるようで、以前より乏しい炎だ。
「炎が小さくなっているだろ。俺はこれが消えたら死んでしまう…そして、こいつは消えようとしている。」
「どういうことだ、なぜお前の炎は消えようとしておるのだ。」
「話を戻すぞ。あいつがひかれそうになった際、俺はあいつをかばった…それを思い出してから、もう空前の灯だ。」
こんな道理の通らない話あっていいものかと、ブリュートは言っても、レ―ジは何も返してくれない。
「しかし、お前は生きているではないか。」
「この体は幽霊みたいなもんだ。おそらくこの体はもう限界だろう。」
ブリュートはゴーストタイプというのを知っていたしみたこともった。しかし、目の前にレ―ジは飛行と炎タイプで実体もある。
「短かったけど礼を言っておく。あいつも生きてるだろうしよかった。」
突然別れを告げられても、ブリュートは何一つ言っていない。
「お前のお陰で俺は変われた。あいつには会えてないが、俺が居座った意味もあったな。」
「だからと言って、お前のいる意味がなくなったわけではなかろう…」
「そうだな。また必ず会いにくる。」
レ―ジのかすれている声が一層聞き取りにくくなる。何を根拠にこんなことを、これぐらいの嘘頭の固いブリュートにだって見抜ける。もう一度顔を合わすことがないということぐらい。
「レ―ジ…私は…」
ブリュートは悲しみというものを具体的に感じたことはない。今までならブリュートの気高いプライドが感情を殺してきたので、ここまでの打撃を味わったことがない。
今回もダメージをかなり軽減してくれているので、ブリュートは涙を流すにまでは至らない所でとどめている。
しかし、プライドが高すぎるのか異性という境界線をブリュートに踏みとどまらせる。
ブリュートの心境がドロドロになっているうちも、レ―ジの体は透明になっていき、尻尾の炎もケーキの蝋燭のように弱い。
「火をみたら俺を思い出してくれ。出来ればあいつにも伝えてほしい…」
レ―ジも同じ用な境遇に置かれていた。自分でまったく素直になれない。思い残すことは今になってできてしまったのに。
「私は…」
先をブリュートが発しようとした時は、すでにレ―ジの姿はなかった。
その夜ブリュートは一人でレ―ジの面影を探すように、木々を集め火を灯した。
「お前のお陰でこんな感情を持つことができた。お前のお陰で私は変われた…のだろうか?」
炎は無言でパチパチと音を立てていた。
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何かございましたらどうぞ。
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