作者[[GALD]] 一応、官能的表現が含まれております。 ---- なんで生きているんだろう。分からない。ここで何をしている。何のために、何をするために生きているんだ。 なんで俺達はここに生きているんだろう。俺は何もすることもないし、何も思いつかない。 「なぁ、お前ら。なんで俺はここにいるんだ?」 「私は知りません。貴方が考えればよいのでは?」 横にいる黄色い虎が返事する。こいつとあと一匹、俺達3匹は長い付き合いだ。逆に言うと3匹以外での交流が全くない。 見渡しても辺りは焦げ跡ばかり。その上ろくな光もなく、なんだか居心地が悪い。 「なぁ、いい加減に外に出ようぜ。俺はこんなとこ飽き飽きだ。」 「我は気長に待つ。今はまだ来るべき時ではないだろう。」 もう片方の相方といい二人ともなんだか固い。俺はただでさえ狭まくて生活しずらいとこで、さらに狭い空間で生きている。 俺は何となく、こんな生活に嫌気がさしていた。光が差し込まない焦げたここで何日過ごしているんだろうか。 ちょうど飽き飽きしているそんな時だった。上のほうからミシミシと音が聞こえる。砂埃がさらさらと落ちてくる。 俺は期待しないわけにはいかなかった。 「今日こそ出る日になるんじゃないか?」 「私はそうは思いません。どうせ誰かが暴れてるだけでしょう。」 「私も同じだ。」 本当に二匹共夢がない発言、冷静で俺だけがいつもはしゃいでいる。確かに、俺の期待通りにいった試しはないが、今日という今日はついているらしい。上にひびが入って天井が抜ける。ドスンと音を響かせ何者かが落ちてくる。 「おいおい、お前ら見てるか。」 「まさか、本当になるとは…」 「一体何奴、このような所に…」 ただでさえ暗いのに、落ちてきたせいで砂埃に包まれてさっぱりである。俺の期待に応えてくれる者であってほしいと、俺は胸を弾ませていた。 「俺達もとうとう外へでれるんじゃないか?」「む、貴様は…人間…」 煙の中から一人物影が立ち上がると、あたりをきょろきょろして落ち着きがない。確かに床が抜けて真下に落ちてこれば誰でも焦る。 「私達の存在もばれる日がきたか。逃げるぞ。」 「えー。なんでだよ。こいつについて行こうぜ。」 「エンテイ殿、どいうつもりですか。人間ですよ。ついて行く必要などありません。」 横にいるライコウが俺の名前を呼んだ。隣でスイクンも睨みを利かせていた。 「いいじゃん、連れて行ってもらおうぜ。」 のりきなのは俺だけでのようで、二匹ともあまり俺に賛同したくないらしい。 「忘れたのか?私達はこいつらに付き合う必要など…」 昔俺達はこいつらにひどい目にあわされた。多人数に囲まれ、場所を追われたりそれはひどい扱いだ。 それで俺以外の二匹は特に人間に対してピリピリしている。 「俺はいく、じゃぁな。」 「待て、勝手に…どうしたものか。」 「仕方ない、我もいくしかなかろう。」 舞っている埃が落ち着くと、歩みよった俺の姿が人間の視界に入った。 初めて俺の姿を目にする人間は、起き上がることが出来ないようだ。俺達は三匹とも常時それなりに風格と圧力を醸し出している。戦闘時なら意識して威圧しているので相手も緊張するようだが、あくまでそれは相手がポケモンならでの話である。 人間相手ならこんな風にご普通に向かい合っても、慣れていなければこのように蛇睨み状態だ。 「何ともなさそうだな…お前は誰だ?」 人間は腰でもぬかしているように、起き上がらずに地面に座り込んでいた。 「俺を連れていかないか?そうするならボールにでも入れてこっそりと抜け出してくれ。」 「別にかまわないが…」 「そうか、ならさっそく頼む。早くしないと他のやつが来るだろうしな。」 人間は早速ボールを取り出して、俺にめがけて投稿する。よけることもせず、抗うこともせずに、俺はすんなりボールに収まった。 後のことはよく分からないが、うまくやってくれよ… ---- あれから数か月が経過、案外早いものだ。俺達のことを教えると、手持ちに入れたことで喜ぶかなと思えば、そんなこともなく無反応だったのが懐かしい。 「また何か企んでいるのか?」 俺がぼーっとしているのがライコウの目にとまったのか、ライコウが近づいてくる。 「いつも主に迷惑ばかりかけて…」 やれやれと首を振るライコウの気持はわからなくもない。あの後、こっそりと脱走は成功したものの、俺が狭いとか色々とごねたことがある。 そして結局、外を出歩いて隠れている意味がなくなった。 俺達の存在が公になると、大騒ぎになった。ライコウとスイクンは連れ出したトレーナーと俺に説教したが、なんだかんだで俺もあいつも真面目に聞いていなかった。 しかし、事はそれだけで終わらず、流石一時期崇められたこともあるわけか、色々なものが支給されることとなった。ほとんど断ったらしいが、 俺達3匹と暮らすのには狭いので家を増築することはたのだらしい。 そのお陰で、俺達は3匹とも家の中で同時に出まわれるようになったのはありがたい。 「まぁ、いいじゃん。うまく行ってるわけだし。」 「その様な考えだからいつも…」 「別に気にしなくてもいいぞ、ライコウ。」 「しかし主、いつエンテイが調子に乗るか分かりませんよ。」 スイクンを横に並べてあいつが歩いてきた。全員あいつを違った名前で呼んでいるが、本名で呼んだりは誰もしない。 スイクンに至っては最初の頃は人間人間とひどかった。今は十分親しんでいるが。 「首輪でも付けて鎖で縛らないと無理だよ。訳の分からないことばっかりするし。」 スイクンはうんざりして俺を見下す。こいつはこんな言い方だが外に出ると性格が何度かずれる。 外に出ると凛々しいのだが、家の中だと微塵の欠片もない。むしろ家の中にいるほうが何度もずれているという方が正しい。 「そこまでしなくてもいいだろ。だいたいそこまで問題事ばかり起こしてるか?」 「してるから言ってるんでしょ。」 俺の発言はいつも通り叩かれる。俺は嫌われているのかと疑いたくなるくらい、いつも俺の意見は通らない。 「いいじゃないか、それより買い物に誰か来るか?」 あいつがうまく話を切ってくれる。このままほっておかれても、無駄に続く口論を永遠に聞くだけだから正解である。 「主にお任せします。」 「俺も同じく。」 ライコウは一歩後ろに下がり、俺も面倒だから後ろに引き下がる。 「私がいくね、ライコウばっかりだし。」 「よし、お前らは戻ってろ。」 町を出歩く際は基本一匹しか連れて歩かない。この時が唯一マスターと二人で時間を共有できる。とは言っても、私は外に出ると緊張して口調が変わっちゃうけど。 「早くしろよ。さっさと済ませたいからな。」 マスターは準備できているようだ。私も準備することもなく、玄関から飛び出て外の空気に触れる。 やはり、室内の空気とは歓喜をしていないわけではないが違う。何故こんな風に感じるのは自分でも説明できないが、自然とシャッキリしなければと背筋が伸びる。 「それでは行くぞ。」 後ろについて歩いていると、周囲の一般人が私達の道を自然と作ってくれる。流石にうやまれるだけの立場だけのことはあるが堅苦しい。 私は救急車でなかれば消防車でもないただの一匹のポケモンだ、別に道を譲る必要はない。 「ついたようだがどうするのだ?」 「適当に買いだしだからな。ぶらぶらして考える。」 最近は見慣れられているようだが、最初の方はよく周りから距離を置かれていた。 普通に接してくれるのなんてこいつぐらいのもんだ。本当にこいつは不思議だ、私はただの人間だと軽くあしらっていた筈なのに、言ってしまえば飼い犬だ。 一度は嫌ったはずの人間になぜこうも従えるんだろう。こいつに何を思って素直に耳を傾けるのか、いつも不思議だ。 家の中では緊張感が抜けるせいか、あまりこんなことにこだわりもせずにいるが、外でこんな事を考えることも必要だろう。 「お前本当に外に出ると変わるな。難しい顔ばっかして疲れないのか?」 つまらなさそうな私の顔を見あきたのか、多少ちょっかいを私に掛けてくる。 何を言われようと、外では私は表情を変えることはないのにこいつは何か期待でもしているのか、私に何故にかかまってくれる。 「別にそんなことはない。買物の方を優先してくれ。」 「お前が考え込んでいる間に終わったぞ。」 「む、そうか。にしても少ないな。」 私の目の前にこいつが持っているのはビニール袋の数だけ数えても両手に一づつ持っているだけで、これといって目立つ物は購入していないようだ。 「そうか?何か欲しいものでもあるのか?」 「そうではないが、鎖とか首輪は買ってないのか?」 私はまじめに言っているつもりなのに、周りから嫌な視線とボソボソと声が上がり始める。こいつも周りに合わせているのかあわただしくなっている。 私達を取り囲む負のような渦は一体何が原因なのだろうか。 「頼むから誤解されるような事言わないでくれ。だいたいあれは冗談じゃないのか?」 そういって小声で適当に話を合わせろと、私に向けて口を細かく動かす。 私はしっくりこなかったが、その場は言われた通りに動いて周りは静まった。 「何故あそこであのようなこと言わせた。」 帰り道で隣にいるトレーナーに問いかけみた所、お前に首輪つけると思われるだろと言われた。 「私に首輪をつけることがよくないのか?」 「そう言うわけじゃないけどさ。首輪に鎖ってあんまりいい響きしないだろ。」 言われてみるとそうかもしれないが、別にそれはトレーナーの自由であって、つけられるようなら私達に抗議の余地はないだろう。 「それにお前結構身分的には高いだろ。それに首輪付けて鎖で引きまわすってのもな。」 「それは貴様の勝手だろう。私達に拒む権利はない。」 そう、こいつら人間は私達の言い分は聞こうとはしなかった。何度交渉したところで聞く耳を持たず、ただ会う都度私達を追い払うことだけに精を注いでいた。 祭っておいて、恐怖の対象となれば簡単に私達を祭壇から引きずり落とし、最低の位にまで蔑む。 そうやって、都合のいいように扱われるだけなのに、私はいま素直に従っている。 矛盾しているのに普通にそしている私はどうかしているのだろうか。 「どうせお前ら首輪付けたところでだろ。エンテイはどうせ好き勝手だろうし、自由でいいじゃないか。」 何でこいつはここまで私達の敬意もなければ、見下すこともないのだろうか。 「私の事を貴様はどう思う?」 「どうって言われても、伝説にあって珍しいとか…すまん、勉強不足だ。」 「私自身をどう思うと聞いているのだ。」 「そりゃ二重人格でなんか変な奴だけど、というか今日は一段と変だぞ、お前。」 確かに変かもしれない。独りで悩んでいる内に表に出てしまっているのか。いや、私に限ってそんな馬鹿な事をすることはずがない。 「お前、分かりやすいやつだな…」 「どういう意味だ。貴様なめてるのか?」 私は周囲に圧力をかけるが、こいつは変化を起こさず平然としている。足の歩幅、体の揺れ、私の見る限り変わりない。 「だからお前らといると体持たないんだよ。あーもう、怒るなって。」 「ふん、まぁいい。さっさと帰るぞ。」 私は速度を上げて無言で足を進める。私のわがままにトレーナーは付き合って、速度を合わせる。 「少しは落ちつけって、止まれって…止まってください。お願いしますから…って急に止まるな。」 「貴様が言うから止まったのに、今度はなんだ?」 「少し休憩でもしないか?」 そう言ってトレーナーが手荷物を置き始めるので、釣られて止まってしまう。 よからぬみちくさかもしれないが、先に帰っても門は固く閉ざされているというのは目に見えている。 「お前今日変だぞ?どうかしたのか?」 「貴様が何故私を敬わないのか考えていた。」 「なんだ、敬ってほしくなったのか。」 軽く笑いを堪えながら言われるものだから、私はまた圧力をかける。 ようやく真剣なのが伝わったのか、トレーナーは微笑するのをやめた。 「貴様何故そうしないのだ。周りの人間は少なくとも謙遜するというのに…」 「お前だって一応俺の手持ちだしな。手持ちに腰低くしても、上手くいかないだろ。」 真剣になって損したなと私を笑っている。普通の人間と思考回路の根本が違うのか、私の思う人の考えとは大きく異なる。 「お前らがどう感じてるかは知らないけどさ。そりゃ、愛情とかいると思うし…な?」 今度は恥ずかしそうに、それを伏せるためにトレーナーは笑顔を無理やり作る。 私の心の悪天候もようやく晴れそうだ。思ってもみれば、こいつの中に深い考えが保存されているわけがない。 「ふん。貴様相手に時間を費やした私が損したものだ。」 「あ、今お前笑っただろ。珍しいな、こっちで笑うなんて。」 「五月蠅い、さっさと行くぞ。」 私が歩き出すと慌ててビニールに手を伸ばす。私が待ってくれないのを思ってか、走って私とあいた距離を縮める。 私は本気にならない程度に、速度を上げてあいつと間隔をあけようと測る。 「照れるなって。分かったから待て…待ってください、お願いしますから。」 「なんだ?手伝ってほしいなら、ライコウでも呼んだらどうだ?」 手伝うって言ったくせにと愚痴をこぼして、私にボールを向ける。 「ま、いいか。お疲れ様。」 さりげなく全然働いてないけどなとトレーナーは愚痴を言って、俺をボールに収納した。 ---- 私は路上に突然呼び出されて、一応終始一貫の出来事を聞いて、背中に主を乗せて走っていた。 あやつもなんだか適当な事をして、全く二匹とも…やはり私が主ためにがんばるしかないだろう。 「しかし、妙にあいつ何があったんだ?お前、何か知らないか?」 私の背中から降りると、心配そうにして私の顔を見ている。 「申し訳ありません、主。私の中では思い当たることはありません。」 そう言って、袋の片方を咥えて主が鍵を開けてくれるのを待つ。 「そうか、今から出して聞くしかないか。家の中だと素の方だし放してくれるだろ。」 主が鍵を差し込んで捻り、扉のロックが外れる。そこから主は扉を開けて中に入らず、私の入れるように押さえてくれる。 私は咥えている袋を落とすわけにもいかないので、軽く頭を下げて中に入る。 それから主は中に入って、袋を私から受け取るとありがとなとお礼をお馴染みのように言ってくれると、ボールを二個適当に投げる。 「よし、それじゃ会議始めるぞ。」 「帰ってきて早々めんどくさいな。」 主の意気込みもエンテイのせいですぐにだれる。こいつはいつになれば真面目になってくれるのだ。毎回、私達自身ついていって、結果的には成功しているのだが不安になる。 「一応お前関係ないしな。めんどうならどっか言っててもいいぞ。」 主も別に聞いてほしいようではないようだ。この二人は話す時は真面目に対して、受け身に回ると点で話にならない。 私の話も聞いてくれているのかそうでないのか怪しいところだ。完全なうわの空、主は返事だけ返してそのまま抜けていくことがしょっちゅうだ。 そんな主が相談と言っているのだから、この場に居合わせないわけにはいかない事なのに、エンテイのやつは。 「それでさ、お前今日何か変だけど何かあったのか?」 「別に何もないよ。」 「そうか?別に無理に言わなくてもいいけどさ。一応心配だしな、こいつらも。」 主はさりげなく私達に視線を投げると、エンテイは大きく欠伸をしてやる気のなさだけをアピールする。 私はシャッキリしているつもりだが、スイクンは一向に暗いのをみると私も威厳が足りないのだろうか。 「じゃ、マスター二人だけで…その話てくれない?」 なんだかぎこちないスイクンだ。3匹中だと、まず私が一番まともだ。これだけは私は胸を張れるだろう。 次はスイクンで、エンテイは論外だ。 そんな具合で、気品もあるスイクンが妙に取り乱すとは何事なんだろうか。 「そうか、わかった。それじゃ、上に上がるか。」 「え、え、いいの?その、え、誤解とかしてほしくないんだけど。」 エンテイはクスクスと端で腹を抱えたそうにしているが、興味深いことがあるにしても私にはさっぱりだ。 「ライコウ、エンテイを押さえて置いてくれよ。」 「あー心配いらねぇよ、別に水を差すつもりはないしな。」 口元を震わせているエンテイはふざけている以外に取りようがない。 まともな雰囲気を乱すとは、ここは主に代わって一括いれるとしよう。 「お任せください、主。このような不当な輩は通しませぬのでご安心を。」 それを聞くと、スイクンを後ろに階段を上って行く主の姿を見ていると、切なかった。 同時に、私は心の中でスイクンが羨ましくて、僅かに嫉妬していたかもしれない。 私の中で変な気持が渦巻いていた。スイクンは主とあんなに距離を縮めているのに、私はただ立ち止まっているだけ、主との距離感は常に一定。 その距離感は常に主従関係を意味している。私と主は種族も違うし、あくまで下に仕えている身分、当たり前に縮めれる距離は決まっている。 いかん、スイクンの変な調子に私まで呑まれている。ここは落ちついて、警備を続けなければ… 私自身、まともと自称しておいてこんな不安定な心情を辺りにさらしてしまえば、それこそ変なやつになってしまうではないか。 落ちついて主の命に従い、与えられた事を遂行する。今の私に求められているのはそれなのだ。 今はこんなに素直に従っている私だが、いつからだろうか。 気がつけば、私は主に心を許して器を認めて後ろを歩くようになっていた。 別にこれといって特殊な物に魅せられたとか、そんな類ではなく知らない内に、私は主との距離をつめた。 今も変わらない、何もこれと思っていないのに…主… 「おい、お前いつまでぼーっとしてるつもりだ?」 「どうしたのだ?言っておくが、主の命令通り通さないぞ。」 ぼーっとしていてエンテイの存在を忘却の彼方へ除外してしまう所だった。 問題児を目の前に置いておいて、自分の世界に溶け込んでいると何をしでかすか分からない。 「あのな。ここはついて行くしかないだろ。ばれなきゃいいんだよ。」 「何を言っておるのだ。その様な事が許されるわけなかろう。」 エンテイは平然とやぼなことを言ってのける。 私に反対されて素直に諦める訳がないのは目に見えているが、何度もうまく言って通ろうとする。 「だから言っておろう。別にスイクンはお前とは違って問題ごとなど。」 「証拠はどこから?もしかして、お前気づいてないのか。」 エンテイが再び気味悪く笑い声をもらしながら喋り出す。 「そんか硬いことばかり言ってると、スイクンにあいつ持ってかれるぞ。」 「な、エンテイ、一体何を根拠にそのようなことを。」 この時だった、上手くエンテイに私は踊らされて階段の守備を怠ってしまった。 ---- 「マスター、話聞いてくれる?」 長い間、私はずっと一人だった。崇めらている時だって、周りが作った土台に乗っていたにすぎなかった。 それなのに、誰もが距離を置いてへんに装って近寄ってこない、今だって同じ。 土台から引き落とされると、一層疎外された。エンテイとライコウとは一緒にいたけれども、別にいてもいなくても変わらないような冷たい繋がりがあっただけ。 エンテイは時々騒いだけど、そんんなに相手に出来る気分には一度もなれなかった。 私はうまい具合に周囲の渦に巻かれて、結局渦の中には誰も手を伸ばすことはなかった。 誰も危険を背負ってまで、異端な生物には会いたくなかったのだろうと思う。 だから、きっと私はマスターにこんなに一緒にいたいと思うのは。 それを言おうと思ったけど、それより先に私はマスターに飛びついて頬に温かい涙を這わせていた。 「マスター、やだよ…一人になりたくないよ…」 私はきっとマスターの優しさを見ていた。 ただ対等に分かりあえる、そんな甘い関係が欲しかった。 マスターは何が何だか分かっていないが、私を受け止めて黙っている。 なんだかマスターと接していると体が自然と発熱して、少し蒸し暑いきもするが、私はずっと泣いていた。 「もう一人にしないでよ…もう一人なんて嫌だよ…」 「分ったから、泣くなよ。ゆっくり話してくれればいいからさ。」 私は色々溜めこみすぎて憤懣してしまった、色々一人で考え込みすぎたのだろう。 一方的に、私は伝えたい事が抜け落ちているのも気にぜず、同じことを繰り返し言っては泣いていた。 自分でも何がしたいのか分からないけど、マスターに抱かれていると安堵があって一層涙がこぼれた。 「落ちついたか?」 「うん…」 少し落ち着いて私は深呼吸してから、離れて事の成行きを説明した。 泣きじゃくった子供のように、ゆっくり説明をして再び泣きだした。 普段なら私でも子供っぽいと恥ずかしく思うけど、私の頭はパンクしていて羞恥なんて考えられなかった。 そうして、私はすべてを吐き出すとやっと情緒を取り戻した。 「そりゃ、悪かったな。」 マスターは突然私を抱き寄せた。突発に起こったので、私は抗うすべもなく、バランスを崩してマスターを下敷きにした。 「ちょっとマスター、恥ずかしいよ。」 「さっきまで、自分もしてたくせに。」 私の頭は正常に作動していたのでちゃんと恥ずかしいと感じた。それでも不思議なことに私はマスターから離れようとはしなかった。 ただべったりと、こんなにべったりしたのは初めてだ。背中に乗せることは多々あっても、そんな軽い気分にはなれなかった。 緊張とは反するように、私は同時に安心感があった。幻惑から解き放たれたかのように、まともな精神状態を維持していた。 泣き疲れて少し眠気もあり、安心感に包まれて私はすこしウトウトしていた。 「お前…重いんだな。」 「潰すよ?」 せっかくのムードもなんだか茶番みたいだ。言った通りに、私は今まで気遣っていた足の力を抜く。変な体勢で力を入れて保っているのも疲れてきたしいいタイミングだ。 冗談で笑っていたマスターも、だんだん笑えなくなっていき、真剣にもがき出す。 何をしたところで、マスターの力ではどうとなるわけもない、私が何をしても許されるわけではないが、何だって出来る。 「おい…そこで見てないで…助けろ…よ…」 幽霊にでも頼んでいるのだろうか。マスターは誰かに緊急信号を送っていた。 こうしてじゃれあっている楽しいもので、私は泣いていたことなんか忘れて、のんきにのしかかっていた。 「おい…お前ら…頼むから。」 「チッ…ライコウがうるさいからばれたじゃねーか。」 「な、お前が勝手に上ったのだろう。主、申し訳ありません。」 私はマスターをすぐさま投げだし、なんだかやりきれなさに襲われた。私は空気の読まない存在を計算に入れ忘れていた。 でも、これでいいんだよね?マスター… ---- 「しまった、つい気を。」 「お前は本当に単純で甘いな。」 俺はライコウの壁を軽々と突破した。予想外のライコウの動揺から推測するにも、俺の勘は的外れではなさそうだ。 後は足音に気を配って、着実に階段を上るだけでいい。 「待たぬか。それ以上行くというなら。」 「騒いだらばれるぞ。おとなしくついてこればいいだろ。」 ライコウはあっとした顔で声のボリュームを落とす。俺はあいつの部屋の前で立ち止まると、ライコウもこっそりとついてくる。 「覗きは駄目じゃないのか?」 「お前に言われる筋合いはないぞ。私はお前がややこしい事をしないように、見張っているのだ。」 俺は扉を僅かにずらすと、隙間から光が漏れ出し中では出来上がったムードが充満していた。 「ほら、いくなら今だぞ。」 「いや、あれも主が選んだ道。私がどうのこうとは…」 ライコウは半ば納得しながら、半ば認めたくなさそうに沈んでいる。顔は隙間から洩れる光景を向いているのに、目線は床に向かっている。やりせなさをライコウは受け止めていた。 なんだか俺はむしゃくしゃしてきた。せっかく楽しむつもりでやってきたのに、テンションが急降下。説教される側のつもりだったが、俺はとうとう痺れを切らした。 「いつまでそうしてるつもりだ。」 「私が主の邪魔など…」 「お前とあいつどっちがえらいんだ?」 そうだ、俺は分かっている。あいつと俺どっちが上なんて関係ない。そんな繋がりなんかじゃない。 俺がライコウに説教染みた呑気な事をしている間、あいつは俺達に救援を求めていたらしい。もちろん、俺達は全く耳を傾けなかった。 「どっちが上でどっちが下かっていってるんだよ。」 あいつは、俺がどう思うかって聞いたら間違えなく、ストレートにパートナーと答えた。 普通すぎたから、俺はつまらないなというと、あいつはエンテイ様とかそんなの方が嫌だろって笑った。 俺もそれもそうだと同じく笑ったけど、心の中ではそれが嬉しかった。だからついて行きたくなったんだ。 単純に、遊べる、慣れ合っていられる、ただそんな友と呼べる存在が俺は欲しかったんだ。 まだ会って時間はほんの一握りかもしれない、けどあいつに俺の見る友情は間違ってないはずだ。 差別なんてない。人間とか種族なんて関係なく思えるあいつが… どうやら俺まで頭の一部をライコウとスイクンと同じウィルスが伝染して、やられてしまっているらしい。 「おい…お前ら…頼むから。」 仕方ないと思っていたが、こんな気分で向かい合うと顔を合わせられず、俺はオドオドしていた。 ライコウも隣であたふたと言い訳を練っている。 「ライコウはともかく、なんでお前が慌てるんだ?」 「まずいことしてばれたら、誰だって慌てるだろ。」 いつもの俺なら笑ってごまかしているのだから、筋の通らない発言だ。案の定周囲は疑いの念を持ち始め俺を取り囲む。 前にはスイクンとあいつ、背後にはライコウと八方を固められて逃げようにも、この部屋からの脱出すら不可能だろう。 「お前は絶対なにかあるだろ。」 「こいつに限ってないわけがないよ。」 「おそらくなにかあるでしょうね。」 俺と似たような立ち位置にいたライコウですら敵に回っている。ここまで俺側には誰も寝返ってくれないだろう。 ここまで俺を集中砲火で追い詰めて、誰も俺にかわいそうだと思わないなんて上のない奴らだ。 へらへらするいつもの余裕も、俺達三匹の間で流行っている病気のせいで、焦燥しか感じない。 三匹達同じ悩みの種を持っているのに、俺だけが攻められるなんて納得がいかない。 ならば全員道連れにしてやろうと、反骨精神を持ち始めた。 「分ったよ。ここにいる3匹全員お前のことが好きなんだよ。」 俺は切りこんでみたものの、いざ声を発してみれば恥ずかしいものだ。もちろん、俺だけではなくライコウとスイクンも取り乱している。 なんで変な意地張って俺はこんな事をしているのだろうか。発熱して考え事どころか状況整理すらろくにできやしない。 「お前ら全員、今日おかしいぞ?」 「おかしいのはお前の鈍さだ。」 俺は獲物に向かって飛びかかり、前足二本を両肩にあてると、あいつは床にドタンと倒れる。あいつは反射で支えるように俺の前足の間に手をあてて必死に抑えていた。 「少なくともお前は同性だろ。俺は同性とは…」 「何言ってんだ?お前が今していることは立派なセクハラだぞ。」 「主、ご存知ではないのですか?そいつは私達と同じ雌ですよ。」 「なるほど、通りで感触が…」 手を動かして確かな感触を感じると、あいつは急いで手を放し、誤解だと騒いでるのを見てスイクンとライコウは大笑いする。 俺も釣られて笑いだし、あいつは一人だけ必死になっていた。 そう言えば、俺達はまともな自己紹介をした記憶がない。性別を知らなくても仕方がないが、犯罪は犯罪だ、きっちり罰を背負ってもらおう。 「お前ら、後で呼ぶから出てってくれないか?」 「また主に何か迷惑を…」 「いーの、さっさと出るね。」 スイクンが珍しく俺の肩を持ってライコウをひっぱりだしてくれた。当たり前だが、ライコウと一緒に獲物を逃がしては意味がないので、俺は前足で押さえつけている。 俺は引き下がるわけもなく、この光景に自然と唾が口の中にたまって一度飲み込んだ。 「早速始めるか。」 「やっぱりそうなるのか。」 「あぁ、それしかないだろ。」 「お前達のことは好きだけどさ、やっぱり偉いんだし、子孫繁栄に俺を使うことはないだろ。」 だったら俺は馬鹿でいい。馬鹿同士で笑い合っていられるのなら、そっちの方がましだ。 昔見たいな楽しめない生活はうんざりだった。だから時に今の俺のように刺激が欲しくなるのだ。仮にこいつがいやがったとしても、結局は無理やり行為に持ち込むだろう。我ながらいつも通りのわがままだ。 「お前が好きならそれでいい。」 俺は獲物に食らいついた。別にこいつもこれとして、反抗することもなくただ二人だけの世界で時を過ごした。 ---- 数時間の時が流れて、エンテイが下りてくると、私はマスターの部屋に向かった。 部屋は窓が開いていて、夜の冷たい風がゆっくりと吹き抜けている。窓辺でマスターは冷風にあたっていた。一見涼んでいるようにしか見えない光景であるが、私はそれとなく訳を察した。 私は人間よりも嗅覚が発達しているので、換気していても僅かに残っている臭いを感知することが可能だ。 そのため、私は部屋で異臭を察知して、だいたい何があったか想像できた。 「あんまり風に当たらない方がいいよ。」 「いたのか…」 「あのさ、私、マスターのこと好きだよ。」 何にせかされているのか、私は勝手に口走っていた。冷やな夜風程度では冷めないぐらいヒートアップしている。 今更私に対するマスターの持っている印象なんてどうでもよかった。失言でもいいからマスターに伝えたい事を伝えたかった。 「お前もか…エンテイに十分遊ばれたしな、何でもしてやるよ。」 「マスター、やっぱりそういうの好きなんだ。」 私はゆっくり横になって、保守的な体勢を取る。マスターは口で説明しなくても了解しているようで、私のお腹を覆う。 こんな体勢を取るだけで、体は何をするのか分かっているらしく、なんだか自分を抑えれなくなりそうだ。 「ねぇ、エンテイとどんなキスしたの?」 「なんでそんなと聞くんだよ…」 語尾を聞くだけでも言いたくないもが、私にはよく分った。確かに誰だって、そんな事を好き好んで言わないだろう。 でも、エンテイでもサービスしてもらったなら、私も同じぐらい優遇してほしいと欲望を持っていた。 貪欲なのかもしれないが、こういう状況に置かれると自然と欲が湧いてくるのである。 「別に教えてくれなくてもいいけど。」 「わかったよ、長い間してましたよ。これでいいだろ。」 「私もしていいかな?」 はいはいわかりましたよと、マスターは私の腹の上に自分の腹を合わせると、次に口を合わせてくる。 マスターの温かさ私の口の中に入ってきて、私は必死に手を伸ばすように舌で追いかけた。 数分するとマスターが離れようとしたが、逃がすまいと私は尻尾を駆使してマスターを縛り、強制的に数十分上乗せしてやった。 マスターは解放されると、息をぜぇぜぇと呼吸を整えていた。 離れた後も、私の口の中には感触が残っていてまだ続いているみたいだった。 「お前な…絶対遊んでるだろ。」 「そんなことないよ。それより、続きしてよ。」 「分ったよ。いいのか?」 「いつでもいいぞ。」 緊張すると人格がすり替わっている訳ではないが、やはり口調が自然と変わってしまうらしい。 自分で意識して声を変えることが出来ないのは本当に不便だ。 「頼むから、ここでその声は勘弁してくれ。というか、どうやってその声だしてるんだよ。後、お前雄じゃないよな?やめてくれよ、そんな冗談。」 流石に性別まで逆転するなんて、そう簡単に成せる技ではないだろう。 それにしても、私が雄に見えるとは。つまり普段はエンテイのような不埒な輩と同じに扱いを受けていると言うのは嬉しくない。 にしても、確かに声の高さや喋り方まで普段の私とは離れているものだ。ということは、おそらく今まで会ってきた人間の大半は私のことを雄だと認識していることになる。 やはり、うれしくないな。まず、考えていること自体意味の分からないことばかりの、変な生き物と同格というのが気に食わない。 しかし、今はその変な生物のお陰で設けられているのだから少しは感謝するか。 「理由を聞かれても分からん。緊張すると勝手になってしまうのだ…それと、私はちゃんと雌だ、失敬な。」 それから私はあーと何回かマイクテストを繰り返し、何とか元の声に戻した。 「戻ってるかな?ちゃんと雌っぽい方になってる?」 今回見たいに毎回自分で調整できれば便利かもしれないのに。 もう一人自分の人格があるのとは違い、意識はしっかりとしているのだが、通常の私とは違う行動をとったり、口調が変わってしまうのは今のようにやはり難点だ。 「戻ってるけど、雌っぽいってな…響きがあまりよくないんだが。」 じゃ、今からもっと雌っぽく鳴き叫ぼうかな。別に減る物じゃないしね。 もちろんマスターの言いたい事はわかるし、表情を見るだけでも十分伝わってきた。 「初めてだから、多少優しくしてよね?」 今更になって、どうして引き気味になっているのだろう。もう進める限り進んだし、目指す所にたどり着いた。あとはじっくりと楽しむだけ。 今なら私にはマスターに見える、孤独を中和出来る優しさを。 ---- かなり久しぶりの更新ですね… ぼちぼち続けていく予定です。 私は不自然な光景を2度も目撃した。そう、主の部屋から出てきたエンテイ、スイクンが共にすぐに寝ると言いだして倒れ始めるのだ。 ありえない光景を眼にしてからというもの、私はマスターの部屋の中で何が行われているのか気になって仕方がなかった。 そして、私に順番が回ってきたのだから気を引き締めねばならない。 しかし、マスターがエンテイやスイクンに対して互角に張り合えるほど強くはないのは知っている。 ということは、戦闘を繰り広げているのは考えにくいし、私の頭では全く見当がつかない。 自分で出向いて部屋の中を探索するしかないと、私は覚悟をきめてドアを前へ押した。 「失礼します、主。」 「お前か、で、お前もなのか?」 私の頭の上にクエスチョンマークが浮きだした。 その様子を見て主は少しホッとしているようだ。私の中で思い当たることとは、エンテイとスイクンがまた主に迷惑をかけたのだろう。 私は何も企てていることもないし、強いて言うなら何があったのか気になってきてみたものの、これと目につくものはない。 深読みをしすぎただけで結果的外れだが、これで気にすることもなくなり尋ねたいことに専念できる。 「失礼ですが主、私のことをどのようにお考えですか?」 「今日何回目だ…その質問。お前のことだから、深い意味はないと思うけど。」 主は私に原稿でも渡されたかのような、私には心に刺さったり、逆に和らげてくれたりする内容だった。 私の思うこととは矛盾し、明らかに私の考えをひっくり返して、主と私の間をいつの間にか隔てていた壁を簡単に突破した。 ふりかえってみれば、今まで自分のしていたことが無意味だった虚しさなどではなく、自分は馬鹿だったと私は気が楽だった。 「申し訳ありません主、私の勝手な思い込みでした。」 素直な風に装っておいても、俯いて目線を横に向けたいた。 やりせない私を見てか、主は私の頭に手を乗せてわしゃわしゃと大きく撫でて、気にするなと私が何か言おうとしても笑って強めに撫でて黙らせた。 他人の意見を聞く気がない理不尽な行動かもしれないが、主の優しさが伝わってくる主らしいおこないだ。 エンテイがどれだけ迷惑をかけても笑っていて、スイクンにどれだけ貶されても何とも感じなくて、私がどれだけ失敗しても許してくれる。心が広いとかじゃなくて、私には見える、主の持っている温かい心、親しみを。 主従関係のようなものではない、ありふれたことなのかもしれないが、私が今まで感じたことのない温もりだ。 もともと壁なんてなかった、私が勝手にそうあると信じ込んでいた幻だったんですね、主。 「主、私は間違っていました。私は主のことが好きです、大好きですよ主…」 私は昔のように上に立って崇められるぐらいなら、主と呼べるのような存在の下にいあたかったのだろう、私が主に見るような愛情を求めて。 「やっぱり、お前も下心ぐらいあるよな。」 「す、すいません。つい、調子に乗ってしまって。」 主には常に潔白でありたい、主従関係を保って傍にいたいと思っていた。 こんなものは幻想にしか過ぎなかった。心の片隅の僅かな欲望が、成長して私に抑制できない猛獣と化していた。 押さえつけて、隠しきっていたのに、今私を従えて主に牙をむこうとしている。 止めなければいけない、早く鎖にでもつないで閉じ込めなければいけないのに。 私だけが主からの愛情を求めていたのではない、欲望もまた愛情を餌にして生きて成長していたのだ。 「俺も好きだ、ライコウ。お前ら3匹全員なんてあつかましいかもしれないけどな。」 正直この時の主の台詞は意外だった。ふざけて返答してくれた方が、エンテイ達が茶化してくれた方がマシだったかもしれない。 主と出来あがったムードで、私は何を言えばいいか、どうすべきか分からない。 それに、私の抱いていた想いは全部伝えれた、少なくとも告げたはずなのに、妙にもやもやして、何をどうしていいのかますますわからない。 とりあえず、私も寝ようと主に一礼すると退出したが、廊下でエンテイやスイクンに鉢合わせ。 無言で倒れていった二匹が疑問が生まれるが、私が部屋から去っていくのを見て二匹とも私を呼び止め、部屋に戻そうとする。 そのまま二匹に押し進められて、結局思い残した部屋へ、良くも悪くも巻き戻しである。 「お前な、俺達がいったろ。こいつは控え目すぎて話にならないってよ。」 「だってさ、流石に俺にもそんな勇気ないぞ。」 薄々と私はここにいてはまずい気がしてきた。元々3人で何か企てたことがあり、主はそれを実行しなかった、そこまで現段階で把握している。 ここからが問題である。エンテイとスイクンはこうなることを予想していて待ち伏せしていた、となると囲まれている私は相当不味い。 「マスターがやらないなら、私達がやるよ。」 背後が急に無重力になったように感じる。私が慌ててもがいても、後ろ脚の間からエンテイが潜り込んでいて下半身が宙に浮いているのだから、効果がない。 まず、何処に頭をもぐりこませているのかという話だが、そんな話題に触れる間もなく、私の体は地面に一度もつくことなく一回転し床に背中をぶつけた。 すぐさま私は起き上がろうとしたが、あいにく私は4足歩行、仰向けからの起き上がりなんて曲芸レベルだろう。 その隙をスイクンがひらひらと高貴に見える白帯が、いつもはたるんでいるのにピンと張って一本が前足二足を束ねて、後ろ脚も同じようにギュッと縛り付けられ、はしたない格好で身動きがとれない。 いかん、このような醜態を主の前で、もう少し早く反応できていればエンテイに持ち上げられることはなかったのに。 「あのな、勇気以前に俺の力で、お前の真似できるわけないだろ。」 「だから今やってやっただろ。そもそも、これぐらい根性で何とかしろ。」 「二人とも分かったから、早くしてよ。私だってライコウ縛っておくのしんどいだから。」 スイクンが二人をまとめあげると、3人で無防備な私を取り囲む。 これがまさに袋の中のネズミというやつだろう。 「主、できればその、こちらを向いてくださらない方が、うれしいのですが。」 こんな恥ずかしい格好、人前でさらすものではないのに、それを集団で囲まれているのだ。 もう何をされたっておかしくない。 「さっきも言ったが、こいつは俺やスイクンとは違って性的感情はほとんどないからな。」 「あぁ、わかってる。スイクン、ちゃんと押さえといてくれよ。」 最初は何をされるかさっぱりだった。 必死に抵抗はしたが、主はともかく力ではエンテイに及ぶ訳がなく、その上スイクンに拘束されていたので手も足も出ず。 体をいいように弄ばれ、最後には自分の欲望を抑えきれずに色々やらかして夜を過ごしてしまった。 「主、起きてください。朝ですよ。エンテイ、スイクンも起きぬか。」 私はすぐに目を覚まして主の傍から距離を置いたが、スイクンとエンテイはまだ寝ていて主と3人でべったりしていた。 私も寝たふりをしておけばもう少し主と、おしい事をしたものだ。 「お前体力ありすぎだろ…昨日一番激しかったくせに…」 主は再びエンテイとスイクンに挟まれながら寝てしまった。 その光景を見ているとやはり羨ましくなってしまう。 とうとう、私は自らの足を主の方へ向け3匹で主を囲むように姿勢を崩した。 なんの抵抗も覚えずに、主の傍に気楽に横になったのは初めてだ。 これからも主であってください、主。 -完- ---- 久々に一作品。 色々膨らませて、無駄に爆発した感がするのが現状です。 最後まで読んでくださってありがとうございました。 ---- 何かありましたらどうぞ #pcomment