ポケモン小説wiki
いつか光の差す朝に 第二話 の変更点


作:[[ハルパス]]

[[第一話>いつか光の差す朝に 第一話]]へ
---- 
***幸運を招く者の災厄―Misfotune― [#l5c3974c]
&br;



 さやさやと風が草を渡る音だけが響く、静まり返った世界。夜に覆われた大地を&ruby(ホノカ){仄霞};はとぼとぼ歩いていた。
 今夜は空には雲一つなく、降るような星々の間では上弦を過ぎた月が煌々と地上を照らしていた。気温は低いが寒さを感じる程ではなく、単に夜の散歩を楽しむだけなら正にうってつけの夜だっただろう。しかしこんなに気持ちの良い夜なのにも関わらず、仄霞の心は彼方の山々の影と同じように暗く重く沈んでいた。
 彼女にはただ好きなだけ夜の散歩をし、気が済めば居心地の良い住処に戻って眠れるような、そんな平穏な日常はもうない。故郷を追われ、遠くへ、どこか遠くへ、&ruby(いずこ){何処};とも知れぬ地へと逃げていかねばならないのだ。
 後ろ髪を引かれる思いで住み慣れた森を後にしながら、仄霞は先程の&ruby(マロン){栗};との会話を反芻していた。
&br;

     ☆
&br;

「ちょ、長老様! どういう事なんですか!?」
 雷に打たれたかのように、仄霞はしばらく身動きする事すらできなかった。夜更けに急に呼び出されたと思ったら、いきなり森を出て行けと言われるなんて。やっと声が出るようになると、仄霞はワナワナと震える声で栗に詰め寄った。
「どんな理由があったとしてもそれはあんまりです! 私はっ……私は……!」
「仄霞よ。儂とて、このような事は言いたくないのじゃ」
 栗の悲痛な声に、仄霞ははっとした。そうだ。栗はむやみに群れの仲間を追放するような、そんな冷血なポケモンではない。仄霞は例え一瞬でも、我を忘れて激昂した自分を後悔した。
「……すみません。つい、感情的になってしまいました……」
 深々と頭を下げて詫びると、栗は辛そうに微笑んだ。
「気にせんで良い。誰とて、このような事を言われれば激してしまうじゃろうて。……何故このような結論に達してしまったか、そもそもの経緯から話す事にしようかの……」
 栗は星空を仰ぎ、夜風に胸の飾り毛を靡かせながら語り始めた。
 今日の昼過ぎ、この森へ氷雨と名乗るマニューラがやって来た。彼女は自分を旅人だと紹介し、各地の珍しいものを見て回っているという。そして、この辺りに珍しい色違いのポケモンがいないかと尋ねてきた事を。
「ま、待って下さい!」
 そこで仄霞が話の腰を折った。
「たったそれだけの理由なんですか!? その……私の事を知らずに、ほんとに偶然、色違いの話が出ただけなんじゃないですか?」
「確かに、&ruby(きゃつ){彼奴};が“本物の”旅人ならば、儂らもこのような対応はとらんし、事態もこれ程までに深刻にはならなかったじゃろう」
 暗い顔で、栗は溜息をついた。
「“本物の”?」
 仄霞は尋ね返す。一体、何をもってして栗は旅人を偽物だと判断したのか。彼を疑う訳ではないが、出来る事なら何かの間違いであって欲しいというのが仄霞の本心だった。そんな仄霞の本心を読み取ったのか、栗はほんの少し、彼女が委縮してしまわない程度に語気を強めた。
「この栗、老いてはおってもまだ&ruby(もうろく){耄碌};してはおらんよ。……儂は、彼奴と話した時に僅かじゃが確かに嗅ぎ取ったのじゃ。彼奴の体から、ただの旅人にしては不自然な程の……血の臭いをな。あれは例えば、どこかに怪我を負っているなどというものではない。何度も何度も他者の血を浴び、体の芯まで血を染み付かせた者の臭いじゃ。これはどう考えても裏に何かあるとしか思えんのじゃよ」
 思わず身震いする仄霞を前に、栗は続ける。
「彼奴は恐らく人間の中でも一段と質の悪い連中――&ruby(ハンター){狩猟者};の遣いか何かで、旅人を装って来たと考えるのが妥当じゃろう。思うに、彼奴等は何らかの方法で仄霞、お主の存在を知ったのじゃ。そしてお主を探し求めておる」
 &ruby(ハンター){狩猟者};。その言葉の持つ暗い響きは、野生に生きるポケモンであれば誰でも知っている。非道な手段でポケモンを捉え、酷い場合にはその命さえ奪ってゆく悪魔のような存在の人間達。野生のポケモン達にとって、&ruby(ハンター){狩猟者};とは即ち恐怖と同義語だった。
「で、でも……どうして人間が私なんかを……? ただ色が普通と違うってだけで……」
 しかしそれでも仄霞は今一つ腑に落ちない様子だった。彼女は人間を見た事さえなく、ただぼんやりと話に聞くだけだった。
「そこじゃ。その色違いというのが、連中の求めるものなのじゃ。昔聞いたことがあるが、色違いの中でも特に&ruby(オッドアイ){虹彩異色症};というのは、古来より人間たちの間で、幸運を招く者としてたいそう価値のあるものとされ、闇世界では密かに高値で売り買いされることがあるという――命に値段をつけるなど、とんでもない事じゃが」
 憤慨した様子で、栗は鼻を鳴らした。
「とにかく、お主の狙われる理由はその瞳だけで十分なんじゃ。……人間に目をつけられている可能性のあるポケモンを、この森に置いておく事は出来んのじゃよ」
 辛そうに眉を&ruby(しか){顰};め、付け足した。ふと、その表情に老いと心労の色が浮かび悲しみに歪んだのを、仄霞は見た。これには仄霞にも思い当たる節があった。あの忌まわしい事件の、彼女は当事者と言ってもいい。
「母さん……」
 口の中で呟き、今は亡き母の優しく静かに微笑む顔を思い出す。
 記憶の中の母はただ笑うのみで、一言も口を利かなかった。
&br;

     ☆
&br;

 ふいに仄霞は顔を上げ、意識を現実へと引き戻した。夜空の月の位置からして、時刻はもう真夜中あたりだろうか。
 時刻を意識した途端、仄霞は急に眠気に襲われた。昼間ずっと起きていたし、夜は色々あったしでとても疲れていたのに気づいたのだ。どこか休める場所を探さなければ。でも、どこで? 彼女は生まれてから一度も森を出た事がなかった為、野宿の経験などなかった。仄霞は立ち止まって辺りを見回した。
 この辺りは地面の起伏が激しい丘陵地帯となっており、月光の下では碧黒い土地が幾重にも連なって見えた。所々黒い影が見えるのは、僅かに平らになっている場所に身を寄せ合うにして林立する小さな低い木立だった。
 いくら彼女に野宿の経験がなく、また故郷の森からまだ近いところとは言え、むき出しの平原で&ruby(うずくま){蹲};るよりは木陰に身を隠して眠ったほうが良い事は分かっていた。外の世界では何が起きてもおかしくはないのだ。
 仄霞は一人頷くと、ここから一番近い灌木の茂みを目指して歩き始めた。やがて密に生えたサツキの茂みの下に潜り込むと、体を丸めて不安な眠りについた。
&br;

     ☆
&br;

 暁の光が枝葉の隙間から差し込んできて、仄霞はゆっくりと目を開けた。途端に目に飛び込んでくる見知らぬ景色に、ああやっぱり昨日の出来事は夢ではなかったんだ、と改めて実感する。慣れない野宿で強張った体が朝露で湿っていた。
 そろそろと茂みの下から這い出ると、仄霞は身支度を整えて歩きだした。
 さほど大きくない木立の中で、鳥ポケモンが運んだのだろうか、一本だけぽつんと生えたオレンの木を見つけ、仄霞はまずまずの朝食をとる事が出来た。そして木立から抜け出し、晴れ渡った空の下に出たのは時刻にすると九時を回った頃だった。
 丘の間を吹き渡る風は爽やかで、芝草の良い香りを運んでくる。そよ風は優しく仄霞の体を愛撫して、青空の彼方へと飛び立って行く。
 目の前に&ruby(そび){聳};える丘を仄霞は一気に駆け上った。視界を遮る物が何もない頂に辿り着いて、仄霞は改めて、どこへ行くべきかと思案した。
 昨日は夜という事もあり、とくにこれといった考えも持たずただ森から離れる事だけを考えてここまで来た。しかし実際、行くあてなどないのだ。森を出た事のない仄霞は外の地形さえ満足に知らず、それは栗も同じだった。栗は賢かったが長である以上森を統治する役目があり、尚更外には出られない。よってこれに関しては栗も仄霞に助言してやれる事はあまりなかったのだ。
 途方に暮れ、仄霞は今来た道を振り返る。そうしたところで何か良い考えが浮かぶとは思ってもいなかったが。彼女の視界の先では、かなり遠くで――ただ、思っていたよりも近くで――生まれ故郷のリザネスの森の青緑の影が、静かに佇んでいた。住人のエーフィが一匹欠けたという以外、昨日と何ら変わらない姿で。
 突然、仄霞は漠然とした喪失感に見舞われた。今になって、自分が後にしてきたものの重みがひしひしと伝わったきたからだ。様々なものが、脳裏に浮かんでは消えた。思い出、大切な仲間――彼女を不本意ながら追放したものの、最後まで身を案じてくれた栗、種族さえ違うが、唯一の肉親で母の弟である&ruby(ラセツ){羅雪};、彼は仄霞にとって父親代わりだった。そして何より、一緒に遊んだ&ruby(リューク){鏐駆};や&ruby(イザヨイ){十六夜};や、親友の&ruby(クユラ){薫良};。
 リーフィアの屈託のない笑顔を思い出して、仄霞は胸が締め付けられる思いだった。もしかしたらもう二度と、彼女には会えないかもしれないのだ。今すぐにでも引き返し、昨日まで当たり前だった日常に戻りたかった。だが、それは所詮かなわぬ願いだという事を、仄霞は痛い程分かっていた。
 仄霞が戻って行けば、今度は他ならぬ薫良達を危険に晒してしまうのだ。何よりも友達を大切にする仄霞としては、それだけは何としてでも避けたかった。
『&ruby(オッドアイ){虹彩異色症};というのは、古来より人間たちの間では幸運を招く者として――』
 ふいに栗の言葉が頭を&ruby(よ){過};ぎった。
 ――幸運を招く者だって?
 とんでもない。私の周りからは、ほんのささやかな幸せさえこの手をすり抜けていったというのに。
 仄霞は自嘲すると、未練を断ち切るように再び前を向き、もう振り返らずに丘を下って行った。行き先など知らない。ただひたすらに、前進する事のみを考えて。
&br;

     ☆
&br;

 不運というのは続くものらしい。
 歩き始めて数時間も経たない内に、仄霞は向こうの木立から突然現れ出たポケモンの一団に取り囲まれてしまった。
 ポケモン達は皆同じ種族だった。鮮やかな朱色の体に、鋭い爪と牙。燃え盛る尾が特徴的な、十匹近いリザードの群れが仄霞を円形に取り囲み、包囲網を形成していた。
「よぉ、お譲ちゃん……。ここがオレらの縄張りだって事……知ってて入ってきたんだろうな?」
 仄霞の正面にいたリーダー格らしい体格の良い雄が、ドスの効いた声で問いかけた。ギラギラと睨みつけるような視線に、仄霞は冷や汗を垂らしながら後ずさった。森を出る前に栗に言われた事を思い出す。
『外の世界には、縄張りというものがある。この森はわりと寛容じゃが…うかつに他所の縄張りに踏み込んではならぬぞ。面倒な事になるからのぅ』
 どうやら、自分は知らずとは言えその縄張りの境界線を越えてしまったらしい。
「あ……あのっ……すみません。私、何も知らなくて……」
 しどろもどろになりながらも仄霞は詫びた。焦りの色を隠せない彼女に、先のリザードはニヤリと笑った。
「まぁ……知らなかったのなら仕方ない。今回だけは大目に見てやろう」
「ほ……本当ですか!?」
「ただし、一つ条件がある」
 ほっと安堵したのもつかの間。リザードは仄霞の全身をじろじろ不躾に眺めながら、舌舐めずりをしていた。
「条件、ですか……?」
「何、簡単な事だ。……オレらの玩具になりな。それで許してやるよ、両目違いのお譲ちゃん」
「――っ!?」
 予想だにしなかった回答に、仄霞は自分がかなり危険な状況に立たされている事を悟った。
 よくよく見れば、自分を取り巻くリザード達は全員雄のようだ。皆一様に下品な笑みを浮かべ、中には興奮を隠しきれず不自然に息を荒げている者もいた。
「やめて下さい……!」
 震えながら、仄霞は包囲網から抜け出そうと周囲に視線を配ったが、もう既に逃げられる隙間などなかった。こうなったら、戦うしかない。
「逃げらんねぇよ。諦めな」
「たっぷり可愛がってやるからさぁ……」
 そう言って仄霞に走り寄った一匹は、しかし、突如蒼白い念波に包まれて投げ飛ばされた。仄霞は念力を使ったのだ。
「このアマッ……! 大人しくしてれば痛い目に遭わずに済んだのによ!」
 リーダーのリザードが吠えた。と、周囲のリザード達が一斉に飛びかかってきた。
「ひっ……!」
 仄霞は必死で身をかわし、なんとか念力でリザード達を吹き飛ばすと一気に駆けだした。
「逃がすか!」
 リザード達も後を追う。
 仄霞の足は決して遅いわけではなかったが、ここでは土地勘のあるリザード達の方が一枚上手だった。たちまち仄霞は追いつかれ、切り立った丘の麓に追い詰められてしまう。仄霞は再び念力を使おうとしたが、バトル自体に慣れていない上、こんな大勢を相手にするのも初めてで集中力が続かない。結局、不発に終わってしまった。
「ったく……。手こずらせやがって」
 リザード達の悪態が、仄霞には妙にはっきりと響いた。
「お仕置きが必要だな。喰らいなっ、メタルクロー!」
 リーダーのリザードは勢いをつけて跳躍すると、一時的に硬化させた爪を振りかざし向かってきた。爪が風を切って唸る音が聞こえる。万事休すだ。
「きゃああっ!」
 仄霞は恐怖に目を瞑り、体を縮こませて痛みに備えた。
 刹那。
 何かが頭の上を飛び越えてリザードの方へ向かっていったのを、仄霞は体毛で感じる空気の流れで知った。
「アイアンテールッ!」
 ガキィッ!
 腹に響く低い声と、何か硬いもの同士がぶつかり合い一方を弾いた音。そして、
「ってぇ!」
 リーダーが地面に勢いよく叩きつけられた鈍い音と、
「なっ……なんだてめーは!」
 群れの他のリザード達の怒りと驚きに満ちた声。
 これらが続けざまに聞こえ、何が起こったか分からない仄霞はおそるおそる目を開けた。その目の前には仄霞とリザード達の間に割って入り、たった一匹で群れと対峙している大きなポケモンがいた。
「何よってたかって女の子イジメてんだよ。見苦しいだろ?」
「あ……貴方は……?」
 自分を助けてくれた事以前に、仄霞はそのポケモン自体に驚愕した。彼女を庇っていたのは、その善行にはおよそ似つかわしくないポケモンだったからだ。
 闇を連想させる漆黒の体に、禍々しく湾曲した二本の長く鋭い角。鞭のような尾の先は悪魔の如く矢じりの形に尖り、口から牙がはみ出している。
「エーフィ、お前は下がってな」
 ポケモン――ヘルガーは仄霞の方は見ず、リザード達を睨みつけながら静かに言った。
「くっそ、邪魔しやがって……!」
 リーダーのリザードはゆっくり手をついて起き上がり、瞳に怒りの色を湛えながら配下のリザード達に命じた。
「まずはそのヘルガーを叩きのめすぞ! 火炎放射だ!」
「おう!」
「くたばれ!」
 全てのリザード達がヘルガー目掛け一斉に火炎を吐いた。炎はゴウと唸りを上げながら、三方からヘルガーを襲う。
「危ないっ! 避けて下さい!」
 仄霞が叫ぶが、間に合わなかった。直後、ヘルガーはもろに火炎を喰らい――否、違う。驚いた事に、ヘルガーは何食わぬ顔で全身で炎を受け止めたのだ。
「へぇ……? これが火炎放射のつもりか?」
 ヘルガーは嘲るような口調で言い放った。
 猛り狂う業火に包まれながらも平然と立ち尽くし、薄ら笑いさえ浮かべたその姿はさながら地獄の悪魔のそれを思わせた。おぞましく、威圧的で、それでいて凛々しかった。紅蓮の焔をシルエットに、黒々とした体躯が揺らめく。
「オイ……嘘だろ!?」
「全然効いてねぇ!」
 攻撃が全く効かずうろたえたリザード達は、炎を吐くのを止め後ずさった。対するヘルガーは冷たく笑う。
「本当の火炎放射ってのはなぁ……こうするんだよ!」
 牙を剥き、今度はヘルガーが炎を吹いた。量も熱もリザード達とはケタ違いだ。
「ぎゃああぁっ!」
 同じ炎タイプであるにも拘らず、炎に包まれたリザード達が悲鳴を上げ倒れていく。力の差は明らかだった。
 間もなく彼らの周りのリザード達は全員、気絶するか立ち上がる気力をなくして地面に横たわっていた。仄霞は目の前の出来事にしばし呆然としていたが、すぐに我に返りヘルガーに駆け寄った。
「助けてくれてありがとうございました! ……あの、お怪我はありませんか?」
 最初見た時こそヘルガーというだけで恐れを抱いたものの、自分を助けてくれたという事は彼は悪いポケモンではなさそうだ。少なくともリザード達よりは。ヘルガーは仄霞を見、その両目の色に一瞬驚いた顔をしたが何も言わなかった。
「ああ、なんともない。……お前もさっさと住処に帰りな。じゃ、俺は行くから」
「待って下さい!」
 向きを転じ立ち去ろうとしたヘルガーに、意を決して仄霞は&ruby(すが){縋};った。
「あの……私も連れて行って下さい! 行くあてがないんです!」
 必死に訴える。バトルさえ覚束ない自分とは違い、見たところ彼はバトルにも旅にも慣れているようだ。もし共に行かせてもらえるのなら、独りで彷徨うより断然良いに決まっている。
 立ち止まったヘルガーに、仄霞は尚も続けた。
「お願いします! 私……私、&ruby(ハンター){狩猟者};に追われているんです!」
「……&ruby(ハンター){狩猟者};だと?」
 ヘルガーの目つきが突如鋭くなった。そのまま何も言わず、ヘルガーは射抜くような眼差しでじっと仄霞を見つめた。それ以上の表情の変化がない為に、彼が何を考えているのか仄霞にはわからなかったが、じっと注視に耐えた。
「街までだ」
 ややあって、ヘルガーはぽつりと言った。仄霞がぽかんとしていると、ヘルガーはもう一度言った。
「行くあてがないのは俺も同じだし、俺の旅に道連れは必要ないからな。ただ近くの街まで連れてってやるから、それから後は自分でなんとかすればいい」
 仄霞の顔が輝いた。
「ありがとうございます! 私、仄霞っていいます! 貴方のお名前は?」
「……&ruby(ヒエン){緋焔};だ」
 ヘルガーは、緋焔は短く答えた。
「緋焔さん、これからよろしくお願いします!」
 仄霞はぺこりと頭を下げた。短い間とはいえ、誰かと行動を共にできるのはとても心強かった。
&br;&br;&br;&br;&br;




(もしこの目が本当に幸運を招くのなら。彼に、賭けてみようと思う)
&br;
第二話、幸運を招く者の災厄 了

[[第三話>いつか光の差す朝に 第三話]]へ

----
中書き
もう一、二話仄霞中心に続く予定ですので、森でのごたごたはもう少し後になりそうです。
&br;
----

#pcomment

トップページ   編集 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.