#include(第七回仮面小説大会情報窓・非官能部門,notitle) 作:からとり 作:[[からとり]] ※この小説には&color(white,white){死亡表現};が含まれています。ご注意ください。 ---- 「お前なんか、弱いポケモンはいらない」 「お前なんか、弱いポケモンはいらない」 突如発しられた、感情のない冷淡な声に私はしばらく何も考えられなかった。いや、認めたくなかったのだろう。 最愛の人からの、最も聞きたくない言葉であったから。 私は無意識の内に首を大きく横に振っていた。激しく、首が外れてしまうのではないかと思うくらいに。 そんな風に荒れ狂っていた私の姿を見ても、あの人は表情を変えることなく冷酷な眼差しを向けていた。 そして、いつまでも居座る私に痺れを切らしたのか―― 「いいから……はやく俺の前から消えろ!」 地面に落ちていた石を拾うと、躊躇することなくそれを私に投げつけてきた。 「いいから……はやく俺の前から消えろ!」 地面に落ちていた石を拾うと、躊躇することなくそれを私に投げつけてきた。 石は、確実に私の顔付近に迫る。そして―― ――あの空の約束―― 「……ット。おい、ピジョット!」 そんな力強い声が、私を悪夢から呼び覚ましてくれた。 「……ット。おい、ピジョット!」 そんな力強い声が、私を悪夢から呼び覚ましてくれた。 ハッと、大きな翼を広げながら私は起き上がる。そして、すっかり見慣れたその声の主の姿を確認すると、ホッと一息することができた。 私より一回り程小さい。しかし艶々として気高い雰囲気を感じされる羽根に加え、見る者を思わず震え上がらせてしまいそうな鋭い眼光を持ち合わせるその姿は、私より大きな貫録を感じさせる。 そのポケモン――オオスバメは普段の姿と異なる、心配そうな瞳を私に見せていた。 「随分とうなされていたが……いつもの悪夢を見たのか?」 その問いに、私は小さく頷いた。 「随分とうなされていたが……いつもの悪夢を見たのか?」 その問いに、私は小さく頷いた。 またか……ため息をつきながら、オオスバメはそう呟いた。 その言葉の通り、この悪夢を見たのは一度や二度ではなかった。そして、近頃はより深刻になり、ほぼ毎日のようにうなされてしまっている。 「なあ、いい加減どんな悪夢なのか教えてくれないか?」 「いつも心配かけてごめんね。でも、何でもないの。私は大丈夫だから……」 私のことを心より気遣ってくれるからこそのオオスバメの問いかけ。 「なあ、いい加減どんな悪夢なのか教えてくれないか?」 「いつも心配かけてごめんね。でも、何でもないの。私は大丈夫だから……」 私のことを心より気遣ってくれるからこそのオオスバメの問いかけ。 彼の優しさは重々伝わっていたが、それでも私は本当のことを言えないでいた。 そんな私に対して、彼は深く追及することはしなかった。そして、木の実を取ってくるといって顔を覗かせたばかりの太陽が煌めく、大空へと飛んでいった。 彼の後ろ姿を見送った後、私は知らぬ間に嘆息をもらしていた。 心配をしてくれているオオスバメに本当のことを言えないでいる罪悪感。そして、毎日のように悪夢として蘇るあの出来事を……。 数十年前……自然の木々と人工的な住処が入り混じる町で、まだポッポだった私はとある一家のポケモンとして日々を過ごしていた。 そして、私の隣には明るく活発なトレーナーの男の子――シュウタがいた。 シュウタとはいつも行動を共にしてきた。家にいる時も、外へと出かける時にも、私たちは一緒に笑いあって生活をしてきた。 勿論喧嘩をすることもあった。彼も私も幼く、お互い我が儘なことばかり言い合っていた気がする。 でも、必ず最初に謝るのはシュウタだった。半べその顔になりながら、心の底から頭を下げ、そして私を抱き抱えてくれた。彼はとても思いやりのある、やさしい子だった。 ある時――シュウタと一緒に町のシンボルとなっている大きな木が特徴の、自然豊かな公園に行ったときだ。 私は鳥ポケモンの自慢である翼を羽ばたかせ、遥か高くに実っていたオレンの実を彼に取ってあげた。 彼は笑顔で私の頭を撫でてくれた。そして半分こにして一緒にオレンの実を分け合った。 木の下に座り、美味しく木の実を食べながら、彼と私は大きな木よりさらに遠々しい場所にある、空を見ていた。 壮大な蒼と柔らかそうに見える雲が流れていくその情景は、思わず時間を忘れて眺めてしまう。 「やっぱり空ってすごいな……俺も空を飛びたいな!」 真っ直ぐ、無邪気な声で彼は言う。 「でも俺には翼がないしなぁ……お前が羨ましいよ」 シュウタは私の翼を、物欲しげな目で見ていた。 「やっぱり空ってすごいな……俺も空を飛びたいな!」 真っ直ぐ、無邪気な声で彼は言う。 「でも俺には翼がないしなぁ……お前が羨ましいよ」 シュウタは私の翼を、物欲しげな目で見ていた。 私も彼と、この大空を一緒に飛びたいという気持ちは勿論ある。だが、現実としてそんなことが出来ないことは幼い私でも分かっていた。 「あっ、良いことを考えた。お前の背中に乗ればいいんだ! これなら俺もあの空を飛べるぜ!」 しばらくして、突然閃いたようにそう言い、シュウタは立ち上がって私の顔を見た。 「あっ、良いことを考えた。お前の背中に乗ればいいんだ! これなら俺もあの空を飛べるぜ!」 しばらくして、突然閃いたようにそう言い、シュウタは立ち上がって私の顔を見た。 無邪気に、眼をキラリと輝かせる笑顔で。 確かにその方法ならば……! と一瞬思ったが、私はすぐに落胆する。 ポッポである私が彼を乗せられるわけがない……と感じ取ったからだ。 「もしかして、俺を乗せることは無理だと思ってる?」 無理だと悟るような表情を見せた私をシュウタは見抜いたようだ。 「もしかして、俺を乗せることは無理だと思ってる?」 無理だと悟るような表情を見せた私をシュウタは見抜いたようだ。 そして、フフーンと鼻を鳴らしながら、彼は私の顔に合わせるように再びしゃがみこんだ。 「いいか、ポッポ。お前は進化して……ピジョットになったらとっても大きくなれるんだぞ」 確かに進化すれば、今のシュウタを乗せることはできるかもしれない。 「いいか、ポッポ。お前は進化して……ピジョットになったらとっても大きくなれるんだぞ」 確かに進化すれば、今のシュウタを乗せることはできるかもしれない。 だが私がピジョットへと姿を変える頃には、シュウタも大きく成長していることだろう。 それでも無理やり乗せることはできるかもしれないが、万が一にも空から落としてしまったらいつもの笑い話ではすまない。 不安がる私の様子を見て、シュウタは安心させるような面持ちをして、バックの中からあるものを取り出した。 大きさはポッポである私が咥えられるほど小さく――しかし、宝石を超えるような美しい輝きと中に刻まれる神秘的な紋章が私を引き付ける。 シュウタが取り出したもの、それはキーストーンと呼ばれる代物だった。 「この間、父さんにプレゼントとしてもらったんだ。……ピジョットになって、さらにメガ進化をすれば十分俺を乗せて、一緒にあの空を飛べるだろ!」 メガ進化の存在自体は聞いたことがあった。だが、私の種族がメガ進化できるとは思いもしなかった。 「この間、父さんにプレゼントとしてもらったんだ。……ピジョットになって、さらにメガ進化をすれば十分俺を乗せて、一緒にあの空を飛べるだろ!」 メガ進化の存在自体は聞いたことがあった。だが、私の種族がメガ進化できるとは思いもしなかった。 シュウタが言うには、ピジョットがメガ進化すると体長が一回り程大きくなれるらしい。それであれば、比較的無理をせずに彼を乗せることができるかもしれない。 「まだピジョットナイトを持っていないけど、お前が進化する前に必ずゲットして見せる!」 はっきりと、強い口調で言い切るシュウタ。 「他にも、トレーナーとポケモンの強い絆がないとメガ進化ができないみたいだけど……俺とポッポなら問題ないよな!」 そして、再び私の頭を撫でてくれた。心なしか、いつも以上に彼の撫でる手が温かく感じられる。 「まだピジョットナイトを持っていないけど、お前が進化する前に必ずゲットして見せる!」 はっきりと、強い口調で言い切るシュウタ。 「他にも、トレーナーとポケモンの強い絆がないとメガ進化ができないみたいだけど……俺とポッポなら問題ないよな!」 そして、再び私の頭を撫でてくれた。心なしか、いつも以上に彼の撫でる手が温かく感じられる。 そんな彼に私はうん! と精一杯の頷きを返した。私の言葉自体は彼には通じないけれども、常に私と行動を共にしている彼には想いが自然と伝わる。 「ありがとな! これからも俺とポッポはずっと一緒だ。そして、一緒にあの空を飛ぼう!」 約束だからな――私とシュウタはあの日、永遠の絆と大きな約束を誓い合った。 「ありがとな! これからも俺とポッポはずっと一緒だ。そして、一緒にあの空を飛ぼう!」 約束だからな――私とシュウタはあの日、永遠の絆と大きな約束を誓い合った。 しかし――数年後、シュウタが少し大きくなり、私がピジョンへと進化をした頃から状況が大きく変わってしまった。 シュウタの友達内でポケモンバトルが流行し、彼も私以外のポケモンを多く持つようになった。 私自身は他のポケモンとも仲良くしていたし、初めの内はポケモンバトルで勝っても負けてもシュウタは笑顔でお疲れ様と言ってくれていた。 だが、しばらくバトルを続けていくうちに――シュウタは強さだけを求めるようになってしまった。 虐待とも思えるような過酷なトレーニングを毎日のように課し、バトルで負けると鬼のような形相と口調で私たちを罵倒した。 その頃の彼は、常に獲物を狙う虎のような、とてもおぞましい顔をしており、約束を交わした頃の思いやりのある無邪気な笑顔はどこにもなかった。 次々と、弱いと判断されたポケモンたちは捨てられていった。私はそんな彼の姿を見たくなどなかった。 お願いだから、昔のシュウタに戻って! 必死に、抗議するように彼に何度も叫んだ。 しかしその度に、うるさい! と一喝されてしまっていた。 そして、あの出来事――彼が私を捨てる日がやってきた…… あの出来事の後、何かを思考する余裕もなく、私は一心不乱に飛び回っていた。ある時は山地へ。またある時は寂れた町へ。心身共にボロボロになっており、このまま自然の中に朽ち果てていくと思っていた。 そして――壮大な緑が一面に広がる、森林地帯にて私は行き倒れた。薄れゆく意識の中、私は私の終わりを悟った。 しかし今、私は生きている。あのオオスバメに助けてもらったから―― こんな私を助けるため、精一杯空を飛び木の実を集めてくれたこと。少しだけ元気が出た私の姿を見て、普段はしないであろう微笑みをくれたこと。 そんな彼の献身的な優しさに支えられ、私は徐々に活力を取り戻していった。 今ではピジョットへと進化を遂げ、オオスバメと共にこの森林地帯の大きな木の上を住処として静かに暮らすようになった。 「シュウタ……」 無意識の内に、私は元トレーナーの名前を呟いていた。 「シュウタ……」 無意識の内に、私は元トレーナーの名前を呟いていた。 最愛のトレーナーにされた仕打ちはとても残酷なものであり、私の額には最後に浴びせられた――石の傷が刻まれている。 身体に傷跡が残っていることもあり、オオスバメと平和に暮らしている今でも思い出してしまう。 あれだけの酷いことをされたのだ。勿論、憎しみという負の感情は芽生えていた。 しかしそれ以上に、シュウタに会いたいという気持ちが大きかった。 少し我が儘で――でも、とても思いやりのある、やさしく無邪気な彼に。 そして、遥か昔に交わした、あの空の約束を―― 私の視界は知らない間に雫で潤み、下へポタポタと落ちていった。 「おい……大丈夫か? ピジョット」 溢れ、流れていた雫が、艶々とする羽根の感触によって拭き取られる。 「おい……大丈夫か? ピジョット」 溢れ、流れていた雫が、艶々とする羽根の感触によって拭き取られる。 私の前には、いつの間にかオオスバメが戻っており、優しく涙を拭き取ってくれていた。 「あり……がとう」 まだ上手く言葉にはできなかったが、オオスバメの思いやりに少し気が楽になった。 「あり……がとう」 まだ上手く言葉にはできなかったが、オオスバメの思いやりに少し気が楽になった。 そんな私に、彼はオレンの実を差し出してくれた。この木の実に加え、彼の心地よい優しさを感じると、ふと懐かしい感触が脳裏を過る。 ああ、間違いない。私が求めている――昔のシュウタだ…… 私は再び感極まり、涙を流しそうになったが、寸前で踏みとどまった。 木の実を食べ終わり、私とオオスバメは木の上でじっと空を眺めていた。 空には時折、鳥ポケモンたちの気持ち良い鳴き声が音色のように響き渡る。 そんな空に想いを馳せながら、私はふとオオスバメの顔を覗く。 なんだか、彼の様子がいつもと違う気がする。 普段は鋭くキリッとした目が、わずかに左右をうろついている。 そして何かを言おうとしている風にも見えるのだが、寸前で口ごもっている。 「ねぇ、どうかしたの?」 そう声をかけると、オオスバメはえっ? と不意を突かれたのか、慌てふためく。 「ねぇ、どうかしたの?」 そう声をかけると、オオスバメはえっ? と不意を突かれたのか、慌てふためく。 明らかにおかしい……私の悟った表情を見て、彼は諦めたかのように肩を落とす。 そして何かを決意したかのような面持ちを見せると――瞬く間に彼は私を抱いていた。 「ピジョット……好きだっ!」 突然すぎることでまだ思考の整理はつかない。 「ピジョット……好きだっ!」 突然すぎることでまだ思考の整理はつかない。 だが、輝くような気高い羽根の感覚とその匂いは確実に私を虜にし――そして今言われた愛のある言葉に嬉しさが込み上げてくる。 意識せずとも、私は自然と彼に抱き返していた。 時が止まったかのように、動くこともなくしばらくお互いの温もりを心から感じていた。 「君を初めて見た時……ピジョンの頃からとても綺麗だなと感じていた。その麗しい瞳も、見る者全てを魅了するであろう羽根も……」 お互いに少し落ち着いた後、私たちは再び空を眺めながら話を交わしていた。 「君を初めて見た時……ピジョンの頃からとても綺麗だなと感じていた。その麗しい瞳も、見る者全てを魅了するであろう羽根も……」 お互いに少し落ち着いた後、私たちは再び空を眺めながら話を交わしていた。 空は、すでに暖かな夕暮れに染まり始めている。 「勿論最初は君が危ない状態だったから、それどころじゃなかったけど……あの頃の君は常に哀しい目をしていた。それを見てオレは君を絶対元気に、そして笑顔にしたいと思った」 私もそうだ。助けられた直後は、絶望しかなくて何も考えられなかったけれども。 「勿論最初は君が危ない状態だったから、それどころじゃなかったけど……あの頃の君は常に哀しい目をしていた。それを見てオレは君を絶対元気に、そして笑顔にしたいと思った」 私もそうだ。助けられた直後は、絶望しかなくて何も考えられなかったけれども。 オオスバメが必死に、私を助けようと日々行動してくれたこと。常に私のことを気遣ってくれたこと。 そんな彼の姿を見て、私は元気になり……そして自然と、彼に惹かれていったのだ。 「君が元気になって、ピジョットに進化してくれた時は本当に嬉しかった。雄として、可愛らしい君より、一回りも小さいということは悔しいことではあったんだけどな」 「大きさなんて関係ないわ。あなたは、私にとって……理想的な、カッコいい雄よ」 少しばかり恥ずかしい言葉ではあったが、私にとっては確然たる事実である。 「君が元気になって、ピジョットに進化してくれた時は本当に嬉しかった。雄として、可愛らしい君より、一回りも小さいということは悔しいことではあったんだけどな」 「大きさなんて関係ないわ。あなたは、私にとって……理想的な、カッコいい雄よ」 少しばかり恥ずかしい言葉ではあったが、私にとっては確然たる事実である。 オオスバメを超える雄など……私には考えもつかなかった。 「ありがとう。……オレは君と、2匹で幸せに暮らしたい。だからさ……」 少し怖いと感じてしまうくらい、真剣な眼差しと言葉で彼は言葉を続けた。 「過去のことを話してくれないか? 君の額にある傷も、今見ている悪夢もそれが原因なんだろう? 辛いとは思うが、オレも力になりたいんだ」 ずっと話すことができなかった。彼に、迷惑だけをかけると思っていたから。 「ありがとう。……オレは君と、2匹で幸せに暮らしたい。だからさ……」 少し怖いと感じてしまうくらい、真剣な眼差しと言葉で彼は言葉を続けた。 「過去のことを話してくれないか? 君の額にある傷も、今見ている悪夢もそれが原因なんだろう? 辛いとは思うが、オレも力になりたいんだ」 ずっと話すことができなかった。彼に、迷惑だけをかけると思っていたから。 でも、お互いの本気の想いをぶつけた今なら――正直に話した方がいい。 私は意を決して、オオスバメに、あの過去の出来事を話し始めた。 私は今、1匹で数十年ぶりにあの約束を交わした――大きな木の前に佇んでいる。 かつてシュウタと暮らしていた町は大きく様変わりし、広がっていた自然の木々はほとんどなくなってしまい、逆にビルなどの近代的な建築物が多く目につく。 しかし、町のシンボルでもあった大きな木の立つ公園は姿を変えることなく、今も自然の精力を伸ばし続けていた。 この場所だけは、何も変わっていない―― その事実が、少しだけ私を安堵させた。 この思い出の地に1匹で訪れた訳――それは、私の過去を真摯に聞いてくれたオオスバメの言葉からだった。 そのトレーナーとの、思い出の地に行って来い……と。 困惑する私をよそに、オオスバメは自身の生い立ちを話してくれた。 彼にも愛すべきトレーナーがいたということ。 そして、そのトレーナーと死別したということ―― 他に頼る人脈もなく、彼は無我夢中にただ空を飛び回っていたらしい。 深い深い哀しみ――それは常に彼に纏わりつき、いくら前を向いて生きようと身体を動かしても、心がそれを許してくれなかったらしい。 そんな彼が、現在の平穏な生活が送れるようになった一つのきっかけ。 それが、彼とトレーナーとの思い出の地へと赴いたことだったらしい。 その地で重い重い哀しみを、咆哮として心の中から取り出し―― 笑顔笑顔の楽しかった日々を、すっと胸に刻んで―― そうして、彼は一区切りをつけ、前を向いて必死に生きるようになったのだと。 公園内を一通り見渡すように飛び回った後、私は大きな木の枝へと翼を休める。 これからの生活のためにも、区切りをつけなければ……シュウタのことは全て、忘れよう。 そう思い、一息ついた私は――宿る彼への想いを全て雄叫びへと変え、身体から外へと送り出そうとした。 しかし―― 思い出されるのは、ほとんどが幼いころのシュウタと私の――いつでも笑いあって幸せに暮らしていた情景だった。 それは、私を心地よく穏やかな心情へと導いていく。 そして最後に蘇ったのは―― 「――これからも俺とポッポはずっと一緒だ。そして、一緒にあの空を飛ぼう!」 この地で交わした、永遠の絆と大きな約束だった。 やっぱり……私はシュウタのことを忘れることはできなかった。 今の彼が何をしているのか、全く分からない。私のことなど、全く覚えていないかもしれない。 それでも、私は会いたい――思いやりのある、無邪気に笑う彼に。 ふと、木の枝から下を眺めていると、こちらへと向かってくる人影が見えた。 徐々に近づいてくるその影に、過去の記憶が重なる。 まさか……と私は何度も、何度も凝視を続ける。 心なしか若干弱弱しく歩くようにも見えるその男の姿は――間違いない。 青年となって成長した、シュウタであった。 本能的に、私は翼を羽ばたかせ、彼の目の前へと赴いた。 彼は突然現れたピジョットに、驚きを隠せない様子だ。 よく考えると、私が彼に捨てられた時はまだピジョンであった。 1日たりとも、シュウタのことを忘れなかった私は、何とか青年となった彼を見抜くことができたが。 一般的に見ても、彼が私だとわかるはずも―― 「……お前はもしかして、俺が逃がした……ピジョンなのか?」 しかし、彼は覚えてくれていた。私が彼のことを想い続けていたように、彼も私のことを想っていてくれていたのだ。 「……お前はもしかして、俺が逃がした……ピジョンなのか?」 しかし、彼は覚えてくれていた。私が彼のことを想い続けていたように、彼も私のことを想っていてくれていたのだ。 私が大きく頷くと、彼は間髪も入れず私に抱きついた。 シュウタに抱きつかれたのは、ポッポの頃以来であった。 もっとも、あの頃は抱きかかえられていたという表現の方が正しいが。 しかし、感じる彼の温もりと優しさは当時と全く変わっておらず、私を幸せに包み込んでくれた。 シュウタは私の額に残る、傷を優しく撫でまわしていた。 「……本当にごめんな。お前の体も……心も傷つけてしまって……」 傍から見てもわかる涙声で、瞳から溢れんばかりの雫が流れ出していた。 「……本当にごめんな。お前の体も……心も傷つけてしまって……」 傍から見てもわかる涙声で、瞳から溢れんばかりの雫が流れ出していた。 そんな彼を、私は強く抱き返す。 お互いに時間が止まったかのように、お互いを温かく抱き続けていた。 涙を自然の地面へと、ポタポタ落としながら。 永遠とも思える時間が過ぎた後、私たちは互いの身体を引き離す。 しばらくの間、お互いがお互いのことを見つめ合い――そこで、私はいくつかの違和感を覚えた。 明らかにシュウタの顔色がおかしいのだ。 また、体も成長したとは思えないほど――酷く痩せ細っていた。 そして―― 「ゲホッ、ゲッホ!」 血を吐いてしまうのではないかと思うくらいの、激しい咳き込み―― 「ゲホッ、ゲッホ!」 血を吐いてしまうのではないかと思うくらいの、激しい咳き込み―― シュウタは大丈夫なのか……彼のことを想い、私はとても心配になった。 「すまない……心配をかけてしまって」 咳き込みながらも、シュウタは振り絞って言葉を続ける。 「……実は、俺はもう先がないんだ……治る見込みのない病気に、かかってさ」 私には何を言っているのか分からなかった。いや、理解したくなかった。 「もうすぐ、……朽ち果てて死ぬのだと思う」 嘘だ。嘘だ。せっかく、昔のシュウタに会えたというのに。 「お前を捨てた時の俺は、強さだけあれば……幸せになれると思っていた。バトルに勝ち続けて、周りのみんなが……俺を褒め称えてくれた」 咳き込みながらも、確実に伝えたい言葉を、シュウタは続ける。 「でも、強さだけを求めて無理をし続けた俺は……重い病気にかかっちまった。その時、助けてくれた仲間はほとんど……いなかった。そこで俺はようやく気づいたよ。ピジョット……お前という存在の大きさに……」 大きな懺悔と後悔を、哀しそうな表情で彼は言いきった。 「すまない……心配をかけてしまって」 咳き込みながらも、シュウタは振り絞って言葉を続ける。 「……実は、俺はもう先がないんだ……治る見込みのない病気に、かかってさ」 私には何を言っているのか分からなかった。いや、理解したくなかった。 「もうすぐ、……朽ち果てて死ぬのだと思う」 嘘だ。嘘だ。せっかく、昔のシュウタに会えたというのに。 「お前を捨てた時の俺は、強さだけあれば……幸せになれると思っていた。バトルに勝ち続けて、周りのみんなが……俺を褒め称えてくれた」 咳き込みながらも、確実に伝えたい言葉を、シュウタは続ける。 「でも、強さだけを求めて無理をし続けた俺は……重い病気にかかっちまった。その時、助けてくれた仲間はほとんど……いなかった。そこで俺はようやく気づいたよ。ピジョット……お前という存在の大きさに……」 大きな懺悔と後悔を、哀しそうな表情で彼は言いきった。 それから彼は、弱った体に鞭を打ち、毎日のようにこの公園へと足を踏み入れたらしい。 私は何も言えなかった。まだ、気持ちの整理ができていなかったから。 「でもな……ある意味、病気になって良かった……とも思ってるんだ。こうして、昔の気持ちで……ピジョット、お前にまた会うことができたから」 そう言い、彼はニコリと笑みを浮かべた。 「でもな……ある意味、病気になって良かった……とも思ってるんだ。こうして、昔の気持ちで……ピジョット、お前にまた会うことができたから」 そう言い、彼はニコリと笑みを浮かべた。 少しばかり弱弱しいものであったが、その笑顔は間違いなくかつてのシュウタが見せていた――無邪気で温かいものであった。 私は無意識の内に再び彼に抱きついていた。 彼もそれに答えるかのように、優しく抱き返してくれた。 「最後に……俺の我が儘を聞いてくれるか……」 シュウタの言葉に、私は強く頷いた。 「最後の力を振り絞って、これを用意していたんだ」 そういって取り出した2つの石。 「最後に……俺の我が儘を聞いてくれるか……」 シュウタの言葉に、私は強く頷いた。 「最後の力を振り絞って、これを用意していたんだ」 そういって取り出した2つの石。 1つは私が見た覚えがある、キーストーンと呼ばれる代物。 そして、もうひとつの石は―― 「ピジョットナイトだ――最後に、あの空に交わした約束を、夢を叶えたい」 限界に近いであろう彼の体力が持つのか、そんな不安も正直あった。 「ピジョットナイトだ――最後に、あの空に交わした約束を、夢を叶えたい」 限界に近いであろう彼の体力が持つのか、そんな不安も正直あった。 でも、彼が本心で望んでいることだ。そして、私自身も――彼と一緒の夢を叶えたい。 彼の想い――そして私の想いがシンクロし合い、私の身体は一回り大きく姿を変えた。 メガ進化を遂げた私の背に、彼はゆっくりと座る 私は彼に負担をかけぬように、慎重に翼を羽ばたかせる。 ゆっくりと。ゆっくりと。 そして、私たちは、ともに憧れていたあの空へと飛び出していった。 「ありがとう」 「ありがとう」 お互い、最後に最高のパートナーへの、感謝を口にして。 「ありがとう」 「ありがとう」 お互い、最後に最高のパートナーへの、感謝を口にして。 シュウタが息を引き取って、3年もの年月が流れた。 私たちは今、彼のお墓の前に佇んでいる。 私の隣には、正式に契りを結んだ、最愛の夫オオスバメが。 そして2匹の愛の結晶ともいえる最愛の子、ポッポが。 子供を見せたくて、私たちは彼の場所へと赴いたのだ。 「今回のことで俺のことは忘れて……お前は幸せに暮らしてくれ。それが俺の、一番の幸せだ」 最後にシュウタに言われた言葉を私は思いだしていた。 「今回のことで俺のことは忘れて……お前は幸せに暮らしてくれ。それが俺の、一番の幸せだ」 最後にシュウタに言われた言葉を私は思いだしていた。 彼に言われた通り、私は気持ちに区切りをつけて新たな生活を歩み始めている。 私は今、とても幸せだ。 でも、彼のことや彼との楽しい思い出を、私は決して忘れるつもりはない。 「いつまでも私たちのことを、見守っていてね。シュウタ……」 「いつまでも私たちのことを、見守っていてね。シュウタ……」 幾時が経とうとも、私はずっと思い続ける。 彼と夢を描いた、あの空のことを―― ――End―― ---- ノベルチェッカー 【原稿用紙(20×20行)】 30.8(枚) 【総文字数】 8690(字) 【行数】 306(行) 【台詞:地の文】 17:82(%)|1507:7183(字) 【漢字:かな:カナ:他】 31:56:6:6(%)|2701:4887:570:532(字) ---- 〇あとがき 本当に申し訳ございませんでした。 からとりです。[[この作品>いしのいし]]以来の投稿となりましたが…… 実に9日間も投稿が遅れてしまいました。 大会主催者様をはじめ、多くの方に大変なご迷惑をおかけしたことを深くお詫びいたします。 そして、こんな状態にも関わらず読んでくださった方、票を入れてくださった方。ありがとうございました。 大変未熟者ですが、精進できるよう頑張ってまいります。 〇作品について 「捨てられたポケモンは何かしら苦しみを味わっているけど、トレーナーも後悔して苦しむことがあるんじゃないか?」 ふと思い浮かんだ疑問から、ポケモンのみならずトレーナーの苦しみも含めた上で、このストーリーを構築していきました。 最終的には再開して絆を取り戻すような構成にしましたが、お互いの強い想いが1人と1匹を再び手繰り寄せたのだと思います。 後半が急展開になってしまったのは、時間が足りなかったこともありますが やはり文章表現等の技量が不足していたためだと強く感じています。 〇コメント返信 >感動しました··· (2015/05/28(木) 23:03さん) 9日遅れの立場でありながら、票を入れていただきありがとうございます。 今回は、少し哀しいと感じてもらえるような内容にしたいと思っていましたので、感動していただけたのであれば大変嬉しいです。 投票、閲覧をしていただいた方々、そして大会主催者様。 今回はご迷惑をおかけして、本当にすみませんでした。 そして、ありがとうございました。 ---- 感想、意見、アドバイスなどがあればお気軽にお願いします。 #pcomment(あの空の約束コメントログ,10)