※&color(Red){注意!}; この物語には&color(Red){官能};表現(&color(White){夢精};)などが含まれます。 written by [[beita]] 「リープス、起きなさいよ!」 突然の耳への奇襲によって快眠は終わりを告げる。 岩壁に預けていた身をひょいと起こし、その場に立ち上がった。 彼が眠っていた周辺だけは草が生えておらず、平らな地面になっている。 だが、ひとたび周辺に目を配れば彼の背の高さ程の草が生い茂り、日光を浴びながら気持ち良さそうにそよ風に揺られていた。 体積を倍以上に見せる程の黄色い体の毛。 そのもこもこした体毛から小さく顔、四本の脚、尻尾がひょいとはみ出している。 頭も同色の毛に覆われ、その他は青色である。 リープスと呼ばれた彼はメリープだった。 一方、彼を起こした者は彼とどことなく容姿は似ているが、体毛の色が白くなってそのボリュームが彼に劣っていることと、その他の部分は桃色をしている点では大きく異なっていた。彼女はモココである。 二匹は姉弟であり、朝は大抵このように姉に起こしてもらっているのだ。 目を覚ましたリープスはふわぁと大きく伸びをする。 「おはよう、姉ちゃん」 「お早よ。のんびりしてるけど時間大丈夫なの?」 リープスは割とのんびりマイペースな印象を受けるが、姉の方はむしろ逆でテキパキとした感じがうかがえる。 姉の言葉にリープスは一呼吸分間を空けてはっとびっくりした顔をつくった。 「あ! 今日は友達と遊びに行くんだった」 そうは言うものの、現時点で彼に急ぐような素振りは見えない。 「何であんたが忘れてんの……。早く行ってきなさい。友達は待たせちゃ駄目よ」 昨日帰ってきた時ににこにこしながら私に今日のこと話してたでしょ。何で忘れるのかしら……。 半ば呆れていてそこに深く突っ込むつもりは無かった。 どうせ、今日に始まったことでも無いのだ。 姉は朝食として用意していた木の実をポーチのような物に入れ、それをリープスの首にかけてあげた。 「まず行きなさい。朝ご飯はそれからよ」 リープスは特に嫌だとか文句は吐かず、はぁいと返事して出かけていくのだった。 絶妙なバランスを保って大きな岩が三つ積まれている場所。 三枚岩とみんなに称されるそれを目印にリープスはくさむらを駆けていく。 しかしその速度はお世辞にも速いとは言えず、人によっちゃ真剣に走ってるかすら疑われてもおかしくない程だ。 恐らく彼はスタミナを考慮した上での本気の疾走のつもりなのだろう。 さすがに平気で遅刻する程無神経なポケモンでもないはずだ。 はぁはぁと息が切れるまで走り続け、ようやく三枚岩が見えてきた。 やはりと言うべきか、リープス以外のポケモン達は既に到着していた。 「ご、ごめん~……ゼェゼェ」 リープスは荒く呼吸をしながら謝る。 そう言うなり彼はポーチから木の実を一つ取り出し、口の中に放り込んだ。 一生懸命顎を動かしていると、リープスに声がかかる。 「全然待ってないよー、大丈夫っ」 頭と体はもふもふした綿につつまれ、葉のような両手をもつモンメンがそう答える。 「それに、これぐらいの遅刻はいつものことじゃん!」 もう一匹。リープスに話しかける一匹の雌のポケモン。 体は水色で、小さな目やクチバシ。こちらもやたらともふもふ感に溢れた翼を持つ、チルットだった。 「うぅ……」 リープスは口をもぐもぐさせながら小さく唸る。 「別にゆっくり食べたらいいよ。早食いは体によくないしなっ」 モンメンが一生懸命口を動かす彼の様子を見て思わず言った。 それを聞くなり、リープスの食事の速度は途端に減速する。 ゆっくりでいい、と言ったことをモンメンは少しだけ後悔しそうになった。 あれからまさかあそこまでのんびりと食べることができるとは正直予想外だった。 「おまたせ~」 リープスは悪びれる素振りを微塵も見せずニコリと笑顔を見せる。 モンメンもチルットも少し怒りたい気持ちになっていたが、彼の屈託の無い笑顔を見せられてしまってはそんな気はすっかり収まってしまった。 「さて、じゃあ行こうか」 モンメンが二匹に告げ、歩き始めた。 リープスとチルットは返事をし、その後ろに続く。 暫らく経ち、三匹は目的地に辿り着いた。 とあるのんびりやさんのお陰で随分と時間がかかってしまったが、もちろん当の本人は自分の歩みがペースを乱していたことなんかには気付いていない。 彼らの目の前にあるのは、ぽっかりと大きな口を開けた洞窟の入り口だった。 奥には途方も無い闇が三匹を吸い込むかのように広がっている。 それまでは楽しそうに喋りながら歩いていたが、この洞窟を前にして一気に大人しくなってしまった。 「ぁ……中々面白そうだな……」 声を震わせながらモンメンが言った。 心なしか体も小刻みに揺れているように見える。 「あれ? モンモンあんた恐がってる?」 「ぅ……でも行かないとは言ってないだろ!? そういうチルはどうなんだよ?」 モンモンと呼ばれたモンメン、チルと呼ばれたチルットがお互いに状態を探り合う。 「私は見ての通り、全っ然恐がってなんかないわよ」 チルはどんと胸を張る。確かにその様子からは恐怖を感じとることはできない。 それを察したモンモンは話を更にリープスにもふる。 「え、ぼくも平気だけど?」 平然と返すリープスにモンモンは益々焦りを露にする。 何も返す言葉が見当たらず、見下しているような二匹の視線がひたすら辛かった。 「じゃ、じゃあ俺が先頭行くから! お前らは後に続いてくれ」 動揺を振り払うべく虚勢に任せてモンモンは言った。 だが、身を削ってまで発した言葉はいとも簡単に払いのけられてしまう。 「嫌よ。私だって先頭歩きたいもん! 怖がりのモンモンは無理しなくていいのよ?」 「何だと……っ」 モンモンとチルはお互いに睨み合う。 喧嘩と呼ぶには大げさだが、このような争いはもうほぼ毎日のように繰り広げられている。 「も~。二匹とも止めてよ。じゃあさ、ぼくが行くよ」 この二匹をなだめるのがリープスの役目だったりする。抑揚の無いおっとりした声でそう言うと、すっと一歩、洞窟の入り口に向けて足を進めた。 何故かリープスに逆らえないのも二匹の特徴で、彼の言葉に何も反論することも無く、言い争いは鎮圧する。 そして、ゆっくりと歩くリープスの後ろに並んだ。 「みんなぁ、ちゃんとついてきてる?」 尾を発光させながら、リープスは後に続いているであろう二匹に問い掛ける。 三匹では唯一暗闇でも明かりを灯せるので、どのみちリープスが先頭を歩くことになったのかもしれない。 「私は大丈夫! モンモンは知らないけど」 わざと意地悪くチルは答えた。 思考回路が単純なのだろうか、モンモンはやはりむきになって返答する。 「ついてこれてるに決まってるだろ! なんたってリープスの速度だぜ?」 強気に言葉を紡ぐ彼に進入前のような声の震え等は感じられない。 「まぁ、ぼくがあんましどんどん進んじゃってモンモンが置いてけぼりになったら可哀想だもんね」 更にリープスからもモンモンを蔑むような発言が飛んだ。 「あはは、リープス流石にそれは言いすぎよ」 チルが思わず突っ込みを入れる。 結局、この三匹はどこにいようと楽しい時を過ごすのだった。 時刻はほぼ正午。気の済むまで洞窟の探険をした後、彼らは再び陽の下にその姿を現した。 みんな満足気な表情を浮かべながら、洞窟から少し離れた所に腰を降ろした。 「いやー。楽しかったぜ」 「最初はあーんなにびびってたくせにね」 思わず声をもらすモンモンとすかさず皮肉を突き付けるチル、この二匹のやりとりは不滅だ。 それからはしばらく探険の話をしていたが、リープスのお腹が終了の鐘の代理を務めた。 「お腹すいた。ぼくそろそろ帰ろうかな」 「そっか、お前はウチに帰るとキレイな姉ちゃんが昼ご飯用意して待ってくれてるもんなぁ……」 モンモンが視線を宙に浮かべながらぽつりと呟いた。 「ぇ、キレイだなんて……そ、そんな」 「何であんたが照れてんのよ」 顔を微かに赤めながら取り乱すリープスにチルの突っ込みが発動する。 「え、だって……うぅ」 もじもじしながら弱々しく言葉を返す。 「リープスお姉さんのこと好きなんじゃないの?」 リープスの態度にチルが笑みを効かせながら切り込んできた。 何とも返事することが出来ず、リープスは地面に視線を移したまま何も言わなかった。 彼の態度を見るなりモンモンを悪ノリを始め、チルに便乗しだした。 「お!? てことは……っ?」 ここまで言われてついにリープスが顔をあげた。 さっきにも増して顔は赤く染まっており、表情そのものも形容のしようが無いくらいに凄まじいものになっていた。 「そ、そんなこと無いよ! ……きっと」 説得力にまるで欠ける程発言に力がこもって無かった。 それでもチルとモンモンはこれ以上食い付くのは可哀相と察したのだろう。更に突き詰めるようなことはしなかった。 ---- 「じゃ、また遊ぼうね!」 三枚岩まで戻った三匹はチルの声を合図に解散した。 リープスは相当の空腹感を催し、早くウチへ帰ろう、と決意するのだった。 しかし空腹とは難儀なもので、行動意欲すらも奪っていくのだ。 加えてもともとのんびりやのリープスだ。 結局低速を維持したまま帰路を辿るのだった。 「姉ちゃんただいま。お腹すいたよう」 「おかえり。じゃあお昼にしよっか」 姉は二匹分の昼食を用意したまま、ずっと待っていたようだ。 リープスは姉に促されるままに、姉と向かい合う形で座ることになった。 不意にリープスの脳裏には先程の会話が浮かんだ。 リープスが姉のことをどう思っているのか……。彼自身に問い掛ける。 思えば思うほど、自分が姉のことを意識しているという事実を認めざるをえなくなってきた。 「どうしたのよ。あたしの顔なんかついてる?」 姉の声により、はっとリープスの意識は現実に引き戻される。 朝にもこんな場面、あったような気がする。とか考えていたら、いつの間にか彼は姉から視線を反らしていた。 「いや、何でもないよ……」 「そう、だったらいいけど」 明らかに腑に落ちない顔をしながら姉は言う。 空気を重くしてしまってはいけないと思い、それから姉は何事も無く話をふりながら食事をすすめるのだった。 だが、リープスはほとんど隠し事や悩み事が無いため、姉は過剰に心配になるのだった。 いつか彼から話してくれるのを待とう。……もしかしたらほんとに何もなかったかもしれないし。 そう割り切って、以後はもう気にしないように務めるのだった。 陽は完全に沈み去り、辺りは静寂と闇に包まれた。今日すべきことで残すところ就寝のみだ。 リープスは寝床につき目を閉じる。 しばらくそうしてじっとしていると、意識せずとも昼の会話が何度も蘇ってくる。 加えて目蓋の裏側には先程まで一緒に過ごしていた姉の姿が映って消えない。 リープスは耐え切れずバッと目を開いた。 こうすることで意識を一度リセットすることができる。 落ち着いた所で彼は再び眠りに落ちるべく目蓋を下ろした。 「ん……ぁっ」 リープスは股間に違和感を覚え、ハッと意識を取り戻す。 柔らかく、それでいて湿り気を帯びたものに絡み付かれ、くすぐったいような不思議な感覚。 ふと視線を移すと、そこには姉の姿があった。 自分の姉がまさか自分のアレを口に含んでいる姿にリープスは驚愕した。 「ひゃ……っあ」 冷静な思考は舌による愛撫でいとも容易く消え去る。力なく声をあげながら、姉の行為になすがままになっていた。 時折、彼女の口からは厭らしく呼吸音がもれる。 気付けば彼の逸物は通常とは比較にならない程の大きさと固さを手に入れていた。 自分の意志とは無関係にこぼれる喘ぎ声。 リープスは自慰経験も無く、肉棒をこのように刺激されることは初めてだった。 だから当然、我慢できる時間もごく僅かであり、平均的なそれを遥かに下回っていた。 次第に込み上げる変な感覚に大きく喘いで対応するしかなく。 「――、―――――」 姉が何か言った気がしたが、既に思考力は十分削ぎ落とされていたため、その言葉を認識することができない。 やがて、頭が真っ白になるくらいの快感に包まれて―― リープスは目を覚ました。まだ陽も昇っておらず、姉もしっかり夢の世界に没頭している。 今までのは夢だったのか、と思うと同時にまたしても股間に違和感を感じた。 気になって股のまたりをまさぐると、ぬるりとした感触が前脚にまとわりついた。 びっくりして目視してみると彼の雄を拠点にその周辺がべっとりと汚れているのが見えた。 リープスは何事かとゾッとした。こういったことの知識は乏しいが、何となくこの現象については聞いたことがあった気がした。 でも今はそんなことをじっくり考えている場合なんかじゃない、と思いとりあえずこのネバネバした液を何とかしようと立ち上がった。 鼻につく異様な匂いが彼を更に焦らせる。 リープスは近くの小川に向けて全速力で駆けていった。 思わず感心してしまいそうなくらい、彼は速く走っていたのだ。 それもモンモンやチルはもちろん、姉にすらも見せたことの無い程の速度で。 小川に着くなりリープスはすぐにジャブジャブと水を雑にすくい上げる。そして彼は自身の股の間を洗うのだった。 中々一度にたくさん水をすくえなくて焦れったかったが、小川に飛び込んで全身ずぶ濡れは彼の豊富な体毛的にも絶対に避けたいところである。 代わりに何度も何度も。水をすくっては股間を洗っていた。 「夢精……だったっけ」 落ち着きを取り戻したリープスが冷静に事態を把握する。 まさか自分がこんなことをするなんて思ってもいなかった。 姉が起きていなかったのがせめてもの救いだ。こんな姿、姉に見られればどんな顔されるだろうか。 今の間に、姉が起きてしまったらどうしようか。 ウチに戻ったら必ず、どこ行ってたのと聞かれるに決まってる。 姉に面と向かって堂々と嘘なんてつけるはずも無いし、かと言って本当のことも絶対に話したくない。 色々考えているとどんどん時間が経過してしまう。 しばらく悩んだ後、少し怖かったがウチまで帰ることにした。 幸いながら姉はまだ眠りの中だった。 すやすやと寝息をたてているし、さっき起きた時から位置が変わっていないことからそう判断してもいいだろう。 さしあたってはやり過ごしたと、リープスはホッと深いため息をつく。 そして寝床で丸くなり再び寝ようとするのだった。 「……寝れない」 数分後、少したりとも眠気が襲ってこない現状にリープスはため息と共に声をもらす。 随分中途半端な時間に起きてしまったものだ、と今更ながら思う。 洗ったとはいえ、股間はまだ濡れていて僅かにだが気持ち悪い。 眠れないのならいっそ早く朝を向かえたい。 いつぶりだろうか、こんなに朝日が恋しくなったのは。 リープスは周りが明るくなる頃まで眠れずにぐだぐだと過ごしていた。 ---- がさりと物音が聞こえ、リープスは目を開ける。 その状態から見渡すと、立ち上がっている姉の姿が見えた。 東の空にはもう太陽が顔を出している。 いつも姉ちゃんってこんな時間に起きてるんだなぁ、とか思いながら、リープスもこれを機にと立ち上がった。 「あらリープス、おはよう。今日は早いね」 挨拶をかわす姉とバッチリ目が合ってしまった。 ドキリと心臓が跳ね上がり、リープスは反射的に目線を地面の方に向けてしまう。 股間が濡れていることに気付かれるかどうか以上に、夢の内容が反映されてしまっていることに気付いた。 今の一瞬、リープスは明らかにそういう風に姉を見てしまったのだ。 「あ、お……おはよう」 彼女からすれば何をこんなにあたふたしているのだろうと思っただろう。 そう言えば昨日からリープスの様子がおかしい。 これは確実に間違いなく何かあるだろうなと姉は確信した。 絶対の自信があるから少々強気に聞き出そうとしても怪我は無さそうかなと姉は質問を投げかけた。 「ねぇ? どうしたの?」 姉の言葉を聞いて微かにリープスの背中がぴくりと跳ねた。 そのまま姉はてくてくと歩み寄り、彼との距離を詰める。 意識せずとも夢で見た姉の姿と重なってしまい、彼女が近づくにつれて心搏数は高まってくる。 更に股間にも新たな違和感が生じた。それは濡れた感覚など比にならないようなもので。 目で確認せずとも分かる、この股の逸物がむくむくと肥大化している様子。 リープスはもう恥ずかしくなって何が何だか分からなくなってきた。 とにかくこんな張り詰めた愚息を姉に見られることだけは避けたいところである。 そんな彼が咄嗟にとった行動は明らかに不自然そのものだった。 迫る姉に対してすっと後退りし、くるりと姉に背を向けるとそのまま走り去って行った。 「一体どうしたのかしら……?」 あまりにも予想外過ぎる彼の行動に頭が追い付かず、姉は首を傾け、声をもらした。 それから彼女も彼女なりにリープスの心境を推理したが、しっくりくる回答が全然浮かばない。 やっぱり本人から聞き出す他無いか、と姉はリープを連れ戻すために彼が走っていった方向に進んでいくことにした。 リープスの行動範囲なんてたかが知れている、と甘く見ていたのは間違いだった。 姉がそう思ったのは捜索開始から一時間以上がゆうに経った後だった。 あんまり知らないところや遠いところに行くと危険な目に遭ったり帰れなくなったりするだろう。 彼女はそれをとても心配していた。 そんな時、目の先にリープスの友達であるチルの姿を捕らえた。 「あ。リープスのお姉さん、おはようございます」 目が合うと先に彼女の方から挨拶をして来た。 姉は何か知ってるのかもと思い、挨拶ついでにリープスのことを聞いてみることにした。 「おはよう、チルちゃん。あの、今日になってからリープス見てない? 朝から様子がおかしくて私がどうしたのって聞いても全然答えてくれなくて……」 様子がおかしい理由、チルには心当たりが無いはず無かった。 しかし、それを話すべきかどうか彼女は迷った。 ここで自分も変わった素振りを見せてしまうと姉に何か隠してると言っているようなものだ。 「見てませんけど……」 さしあたっては質問にだけ答えておいた。 万が一勘違いだったら厄介だなあとも思ったからだ。 「そう……ホント、どこへ行っちゃったのかしら……」 虚空を仰ぎながら姉は深くため息をついた。 非常に困っているような彼女の表情を見せられ、チルは放っておけないなと思わずにいられなかった。 「私も探すの手伝いましょうか?」 「え!? いいの? だったら凄い助かるけど」 「はい。彼の友達ですし当然ですよ」 本当は早く去ってしまいたい気持ちもあった。 でも、彼女の考えていることが正しければリープスがこうなった原因はチルの思うところほぼ間違いなく彼女自身にあるのだ。 無責任にもなれなくて、結局姉の協力をするという形を選んだのだ。 そうこうしている内に、もう一匹、リープスの友人が現れるのだった。 「おっ、キレーな姉さん。こんなところでどうしたんですか?」 こんな時にのんきに登場したのはやはりモンモンだった。 「あらモンモンくん。……リープス、見なかったよね?」 姉の表情と場の空気を察したモンモンはとても申し訳ない気持ちになった。 「ったくアンタは……。あのね、リープスが今朝から行方不明なの」 呆れたようにチルが言葉を付け足す。 モンモンは一気に真剣な顔になり、事態の深刻さを悟ったのだった。 「そう、か。……ならすぐ探しに行かないとな」 「当然よ。私たち今まさに行こうとしてたのにあんたが来るから……」 こんな時でさえ、チルはモンモンに突っ掛かるのだ。 もはや癖と言うか反射的に行っているのだろう。 「モンモンくんもありがとう。さぁ、では行きましょう」 姉がそう言いすっと歩きはじめる。 「あ、はーい」 するとチル達は途端に大人しくなり、さっと姉の後ろに並んで歩き始めた。 三匹で手分けして捜し始めたものの、捜索は難航した。 辺りは比較的背の高い草が生い茂り、ところどころに視界を遮るには十分過ぎる大きさの岩も点在している。 木々も生え渡り、視覚を駆使しての捜索をことごとく妨害してくれる。 のんびりなリープスのことを考えるとそんなに遠くへは行っていないはずなのだ。 それなのに、こんなに捜し回っても見つからないと言うことは……。 考えたく無かったが、最悪の事態の想像で姉の頭はどんどん埋め尽くされる。 ううん、そんなことない。きっとどこかに隠れてたりしてるのよ。 と、姉は意識的に自分自身を安心させようと楽観的になろうと努める。 「もしかしたら、リープスもうウチに帰ってたりして」 不意にモンモンが言う。 これだけ捜しても見つからないということからそれは大いに考えられる。 そうじゃないとした時のことを考えると怖くなったので、姉は彼の言葉を意識的に強く肯定した。 「そ、そうね。リープスのことだからお腹すいたってひょっこり帰ってきてるかもしれないわ」 姉の不安を少しでも軽減できればと、二匹は大げさなくらいに言葉と態度で肯定し、姉のウチまで行くのだった。 何となくだが、姉はウチに帰ってもリープスには会えない気がしていた。 その予想は的中した。 ウチを目の前にして視界に映った光景、それは姉がリープスを追い掛ける直前の状態と全く等しいものだった。 その瞬間、姉は倒れるように手を地面につけた。 そして彼女の瞳からは堪えていた涙が勢い良く流れ始める。 「何で……どうしたの、リープス……」 力無き声で地面に向かって叫んだ。 彼女のすぐ後ろに居たモンモンとチルもどうすればいいのか分からなくなった。 「私たち……まだもう少し捜してきます」 泣き崩れる姉にそう言葉を残すと、二匹は静かにその場を後にするのだった。 まだ調べていない場所でリープスが行きそうな場所。まだ一ヶ所だけ心当たりがあった。 それは先日探険したあの洞窟だ。 元々姉と回った捜索範囲からは大きくそれていたから行かなかったものの、活動範囲の狭いリープスから推測すればもはやそこしか可能性は無かった。 もし、居なければそれは何らかの事故にあったのと同義である、と断言できるくらい、二匹には自信があった。 洞窟へ捜しに行こうと思ったのは二匹とも同じだった。 姉と別れてからすぐに提案するのだった。 「なぁ、チル。やっぱ俺あの洞窟にいるとしか思えないんだけど」 「あんたにしては正論言うじゃない。私もそれを考えてたところよ」 「いや、大概正論だけど。……と、それは置といて。じゃあ行くか?」 「当然よ」 そう言うと二匹は比較的急ぎ気味に洞窟へ向かうのだった。 洞窟に辿り着いたのは良かった。でも、二匹は最も肝心なことを忘れていた。 「く……暗い」 「灯りなんて持ってきてないわよ」 あの時はリープスが居てくれたから洞窟内を明るく照らせたものの、今はそうはいかない。 逆に言えばリープスは一匹で来ても自らが光を放つことですいすいと奥に進むことができる。 他のポケモン達からなるだけ離れて一匹で居たいとするならば、ますます彼がこの洞窟にいる確率はあがるだろう。 「まず私が中を探索してみるから、モンモンはリープスのお姉さんを呼んできてから入ってきて欲しい」 姉ならリープス同様に光を照らすことは可能だろう。 チルは険しい表情でそう言うと、彼の返事も待たずにすっと目の前に広がる闇に溶けていった。 「ちょっ……チル!?」 モンモンが呼び止めようとしたが、そんな間なんて無かった。 また戻るのかよ……と、モンモンは愚痴りながら姉のいるリープスのウチまで戻るのだった。 先に入ってはみたものの、拡がるのは予想以上の闇。 景色をはっきりと目で捕らえられ無ければ地面すらもまともに感じられなく、平衡感覚が欠かれてしまう。 おぼつかない足取りでふらふらとチルは視覚の効かない空間を進んでいく。 「あっ」 不意にチルは声をあげ、その場に転倒してしまう。 どうやら、足元の小さい段差に躓いてしまったみたいだ。 転んだ際に擦りむいてしまったお腹を羽でさすりながらチルは立ち上がる。 「これくらいじゃ……負けないもん」 その後も何度も転んでは立ち上がり、チルは半ば強引に奥へと脚を運ぶのだった。 次第に目が慣れてきたのか、チルが躓いたりすることはほぼ無くなった。 だが、それまでの間に小さい段差に躓くことはもちろん、見えないまま壁に衝突することすらあった。更に、低い段差に向けて転落することも何度か経験した程だ。 チルの体は傷だらけになってしまっているが、彼女はもちろんそんなことお構い無しにただひたすらリープスの捜索を続ける。 もしかしたら同じところを何度も歩いているのかもしれない、そもそもリープスが居ないかもしれない。 不安要素は行動意欲を奪うには十分過ぎる程あった。でもチルは何故か足を止める気にはなれなかった。 あの発言に責任を感じたから? そんなことだけではここまで動けない、とチルは自分でも分かっていた。 もしかしたら無意識の内に出口を探しているだけなのか。本当はもう諦めたくて仕方ないんじゃないのか。 つい勢いで洞窟に飛び込んだものの、中で迷子になってしまっただけなのかもしれない。 自分の足音と、微かに聞こえる風の音の中、チルの脳内では延々とこのような思考が巡っていた。 静けさが不安を煽るのに一因しているのも間違い無さそうだ。今は暗闇に匿われているが、きっと今のチルの顔は泣きそうになっているに違いない。 「あっ……!」 それは一瞬の出来事だった。 またしても足を踏み外してしまい、間も無く体と地面との接触、それに伴う体の痛みを覚悟した。 でも、少し経ってもチルの体は地面との接触が起こらなかった。 ついに段差で転んじゃったで済まないような、仮に辺りが明るくても底が見えそうにない谷にチルは足を踏み入れてしまったのだ。 ようやく、チルの体が谷の壁面に体をこすり付けた。と言ってもその角度はほぼ垂直で、落下の勢いがおさまることは無く、壁面と接触することでどんどん新しい傷を作りながらチルは谷底へと転落していくのだった。 ---- モンモンと姉も洞窟まで辿り着いた。 「この中に、リープスが……?」 「はい、俺とチルはそうしかあり得ないと思いました」 「で、チルちゃんは先に入っちゃってるのよね」 「あ、はい。入っていくところまでは見ました」 二匹とも真剣な表情で、洞窟入り口付近で会話をかわした。 「じゃあ、姉さんお願いします」 「うん、分かった」 姉はモンモンの一歩前に立ち、そのまま洞窟の中に足を運んでいく。 モンモンも姉に続いて歩いていく。 昨日と酷似した状況にモンモンは昨日は姉さんのところに居たのがリープスだったんだなぁ、とか思う。 同時に、俺はいつでも後からついていくだけかよ……。と少し悔しい気持ちにもなった。 流石リープスの姉、と言ったところだろうか。モンモンは昨日リープスが照らしたそれより洞窟が明るく照らされたような気がした。 さすがに二度目の探索の上、今は状況が状況だ。モンモンはかすかに込み上げる恐怖心をかき消そうと集中する。 リープスを探すのが目的だが、結局チルとも合流しなければいけない。よくよく考えるとチルの行動は中々無鉄砲で賢い判断じゃ無かったよなぁ、とかモンモンは思った。 姉が辺りを照らしてくれるといってもまさか洞窟内全体に光を灯せる訳でも無く。ほんの直径にして数メートル程度。この照明を伴う捜査でさえ骨が折れそうなのに、彼女は無灯でよく捜しにいくと言えたもんだ。 と、モンモン心の中で愚痴をこぼしながら、姉の背中をずっと追って歩いていた。 と、モンモンは心の中で愚痴をこぼしながら、姉の背中をずっと追って歩いていた。 「チルー。リープスー」 もともとの明りを照らしながらに加えて声でも二匹を呼びかける。声を聞いて、明るい場所を目指せば必然的に姉とモンモンには会えるだろう。 そう、もしチルもリープスも動ける状態であったならば。それにリープスに関しては存在そのものをまだ確認できていなかった。 もしくはリープスの場合はわざわざ姉達を避けている場合もあるので、聞こえていながらわざと返事をしていない場合も考えうる。 今述べたような無事でないケースの可能性が浮かび、姉は少し気が重くなった。 「返事が無いわね……。こんな静かな洞窟であれだけ大きな声を出せば絶対に聞こえてると思うんだけど……」 「そうですよね。せめてチルとだけでもまず合流できればいいんですけど」 そう言葉をかわした時、姉の足が急に停止する。 「わっ」 驚いてモンモンも急ブレーキをかける。姉にはギリギリぶつからずに済んだようだ。 「姉さん、どうしたんですか。急に」 モンモンは鼓動が一気に早くなったのを感じながら姉に言う。が、直後。姉がどうして止まったかは彼自身が察することができた。 姉の正面少し先には見るからに深そうな谷がずっしりと構えていた。同時に、若干血の気が引いた姉の顔を伺うことができた。 この谷の存在が意味すること。言葉をかわさずとも顔を見合わせるだけで二匹は意見を共有するのだった。 そして、姉はか弱く声を震わせた。 「ま、まさか……」 チルは目を覚ました。相変わらず視界はほとんど無いに等しいが、出来る限り辺りを把握しようと周りを見渡す。 「痛……」 体を動かす度に全身に電流が流れたような痛みに襲われる。この時チルはさっき自分が谷へ転落したんだったと思い出した。 激痛は伴うが、羽も足も辛うじて動くことを確認し、ほんの少しだけ安心する。 それと同時。チルは羽から何か壁や地面以外の感触を覚えた。 と言っても、この感触は彼女は良く知っていた。まさに自分の羽を触っているかのような柔らかな感触。 「も……もしかして、リープ、ス……?」 この満身創痍の体では声を絞り出すのも一苦労。期待を抱きながらその感触からの返事を待つ。 「ぅ……」 「!?」 チルの耳は確かに声を捕らえた。それが何を意味していたかは分からないが、とにかく、今私が触れているこの感触は何らかの生物であるに違いは無い、ということは確信できた。 「その声は……チル?」 次いで意味をしっかり把握できる言葉が飛んできた。チルは驚いたような表情をすると、ばっとその声の方を見た。 「そう、よ。……あんた、リープス……よね?」 「うん……そうだよ」 居た。やっと見つけた。 チルの頭の中は達成感と安堵に満ち溢れ、ただでさえも動かない体が更に重くなった気がした。 「ところでさ……あんた、怪我とか、して……ないの?」 声から察する限り余り辛そうじゃないなと思ったのもあり、チルはそう尋ねることにした。 「えっとね。脚が凄い痛いよ。歩けそうに無いや……」 「そう……」 じゃあお互い動けないのね。会えたまでは良かったけど、洞窟からはどうやって脱出しようかしら。 と、一度は安堵したチルの頭には次なる不安がよぎる。 もうすぐモンモンがリープスの姉を連れて捜しに来てくれることに違いない。 それを待ちたかったが、ここは谷底。どこかに安全に降りて来られるような道が通ってない限り発見されることは無いだろう。 いつもは元気なチルの声も今では微かに吹き抜ける風の音にすら劣るような音量である。 一方のリープスはチルよりは状態は良さそうな感じはするが、彼の場合声のトーン的に谷の上まで声が届かなさそうだ。 そもそも動けない時点で絶望よねとチルは改めて状況の悪さを理解した。 丁度その時。 「チルー。リープスー」 聞き覚えのある声がどこからともなく聞こえてきた。 チルもリープスも聞き間違えるはずも無い、これはモンモンの声だ。 「来て……くれた、んだ」 本当ならば今こそこちらからも大声を出して谷底にいることを恐らく遥か上にいるであろうモンモンと姉に伝えたいところだった。 「わ……私、ここに……ひぁぅ……っ!」 チルは頑張って叫び声をあげようとするが、全身が全力をもってそれを拒んだ。 「ぼ、僕も……頑張ってみる」 チルの横でリープスはそう言うと、リープスも出せる全力の声を頭上見上げて何度も放つのだった。 「ここに誤って落ちちゃったとしたら……」 「き、きっと大丈夫ですよっ」 姉が谷底を見ながらぽつりと呟く。 姉が谷の下へ下へと届かせるように光を当ててみるが、底は到底見えそうに無い。 隣でそれを見ていたモンモンも心の中ではもしかしたら駄目かもしれないと思っていただろう。 ここはそれほどまでに深い谷だったのだ。 姉は崖沿いに光を向け、どこか谷底へ降りれるルートが無いかを必死で探す。 モンモンも姉の考えを察して、順に照らされていく箇所を凝視する。 それとも他に何か方法があるかも知れない、とモンモンはいつになく真剣に思考を進めていた。 姉が照らせる限りの場所を一通り確認し終わった。 どうやら地上から谷底へつながる道にあたるものは存在しないようだ。 「仕方ないわね……谷底の捜索は諦めましょう」 「そ、そうですね……」 と、二匹が諦めかけて、崖際から離れようとしたその時。 姉もモンモンも同時に谷の方を振り返る。 「何か……聞こえた?」 姉がモンモンに対し首を傾げ、聞いてみる。 「はい。俺も今、確かに聞こえました」 二匹が聞いたのは、こちらも同様に聞き間違えるハズの無い、リープスの声だ。 でも、声が聞こえたのは、先程踏査を断念した渓谷の奥底からである。 居場所がわかってもそこへ到達する手段が無いのだった。 と、モンモンがこの上無く残念そうな表情を浮かべたその傍ら。姉は真剣な目をしており、谷底を見据えて唾を飲み込む様子が見られた。 それを見た直後。モンモンは姉の次にしようとしている行動が容易に予測できた。 「モンモンくんは、ここで待ってて」 姉は抑揚の無い声でそう言うと、すたすたと半分足がはみ出すと言ったところまで崖に寄っていった。 「姉さん、危ないですって! 絶対怪我します!」 「大丈夫……と思うわ。私の体毛、衝撃にはある程度強いはずなのよ……」 彼女はそう言うとほとんど垂直の壁面を少しでも転がるように、体を丸めて精一杯壁に沿わせながら崖を降りていくのだった。 リープスは叫んだとは言いがたいような声も出し疲れ、一休みでもしようかとした時。 頭上から何やらさっきまでは聞こえなかったような音が聞こえてきた。 その音は次第に近付いてくる。もしかして落石か何かだろうか。 もしそうだとすれば動けない状態の二匹は危険なことこの上無いだろう。 だが、そうやって焦ったのも束の間。次の一瞬には音の正体に気付くのだった。 仄かな光を纏い、谷底へ転落してきたのはリープスの姉だった。 リープスの真上へと落下したのだが、お互いの豊富な体毛が緩衝材となり、衝撃はほとんど打ち消すことができた。 「いたたた……」 リープスの上から降りて全身至るところに出来た傷口を見渡しながら姉は口を開いた。 「ね……姉ちゃん」 姉の姿を目でしっかり確認した後、リープスも言葉をもらした。 「リープス。チルちゃんも無事だったのね。良かった……」 姉も二匹の姿を見て、怪我はしているもののそれが命にかかわる程度では無いと確認すると安堵の声を出す。 「ごめん、姉ちゃん……」 姉が本気で安心している様子を見て、リープスは一体どれだけ心配をかけてしまったのだろうかと自分の行動を後悔する。 友達も連れて、自分自身傷だらけになってまで捜してくれていることからどれだけ必死だったのか簡単に想像できた。 姉の顔もまともに見れずに、リープスはぽつりと一言、謝罪の言葉を紡ぐのだった。 「いいの。リープスが無事だったんだから。ホラ、帰りましょう」 ---- 姉はそう言ったものの、一体この状況でどうやって帰るというのだろうか。 二匹は足を怪我しており、自分の力では歩けない状態。更にここは洞窟の中の谷の底。 そもそも動けたところでどうしようも無い場所に三匹は居たのだ。 それでも姉の表情には一切の動揺が見られない。何か考えがあるかのような堂々とした態度である。 「とりあえず、上で待ってるモンモンくんにみんなの無事を伝えなきゃ」 姉はそう言うと、首を大きく後ろへ傾け、真上に向かって大きく叫んだ。 「モンモンくーん! リープスとチルちゃんとも合流したわ! 今から何とかして戻るから」 リープスの弱々しい声でも届いたのだ。これだけの大声を出せば確実にモンモンには聞こえているだろう。 するて間もなくモンモンから返事が返ってきた。 すると間もなくモンモンから返事が返ってきた。 暗いところに一匹にされて怖いのだろうか、声が震えてしたように聞こえた。 「チルちゃん、私の背中にしがみ付くだけならできるかしら?」 「ぅ、うん。多分大丈夫、です……」 姉の言葉にチルは苦しそうに返事をする。 その言葉を聞くと、姉はチルの目の前で背中を向けてかがんだ。 動かすたびに襲う全身の痛みに耐えながらチルはやっとの思いで姉の背中に飛び乗った。 チルがしっかり背中に位置を確保したことを確認するなり、姉はリープスの方を向き口を開いた。 「リープスごめん。まずチルちゃんから助けるね。流石に二匹いっぺんには……」 「ううん、大丈夫だよ。待つのは平気だから」 姉はリープスの返事を聞くと、壁に向かい手を当てた。 まさかこの壁をよじ登るつもりなの、とチルは姉の行動に疑問を浮かべた。 「電気ってね。実はちょっとした条件を与えると引力や反発力を生むの。……まだ実践したこと無いから成功する保障はどこにもないけど、きっと上手くいく自信はあるわ」 姉はそう言うが、チルからしてみれば助けてもらってる立場なのだ。 成功するだかどうだか言われた所で今は姉に全てを託すしかないのだ。 声を出すのはあまりにもしんどいので、姉の言葉に対する返事としてチルは彼女の背中で小さく頷いた。 姉が岩壁に向けて電撃を放つと、彼女の毛がふわりと逆立っていった。 「引力って言ってもかなり微弱なものなのよね……。でも、無いよりはずっとマシ。後は私の腕力で何とかするわ」 そう言うと姉は淵の見えない崖を見上げ、力強くその四肢を岩壁に掴ませた。 リープスは心配そうに彼女を見つめる。 壁は垂直に等しい程の角度な上、相当滑らかであった。 その壁を登っていくのは奇術か何かだろうと断言できる程だ。 そんな所に辛うじてしがみ付く姉の姿を見て不安を抱かずに居られなかった。 ぐいと、姉が体を持ち上げさらに上の部分に手をかける。 落ちちゃうんじゃないかと姉までもがハラハラしたが、何とか落下はせずに居られた。 真剣な表情を崩さず、姉はまた一歩、一歩と進んでいく。 背中に身を預けたチルも緊張のあまり痛みすら忘れて硬直してしまっている。 だが、姉の思惑はその通りにすすんでいるのだ。 チルとリープスがここから出られるかどうかは姉にかかっている。 心の中で強く祈りながら、チルは成り行きに身を任せるために目を閉じた。 「はぁっ……やっと、着いた、わ……」 崖を登りきると姉はチルをすぐ横に寝かせて仰向けに転がった。 腕を揉み解して、荒く呼吸をするその姿は、まさに満身創痍と言ったところだろう。 その頃、モンモンは暗くて怖かったに違いない。ずっとその場から動かずじっとうずくまっていた。 が、姉が来るなり、ぱっと表情を明らめて彼女に近づいていった。 谷底から戻った直後の姉は、そんな彼の姿を見て情けない雄ね、と心の中で思ってしまった。 「姉さん! チルも無事だったんですね」 「う……ん。見ての通り、私はこんなに、ボロボロ……だけど」 体と声に反してチルのその表情だけは安堵感が現れていたのか、非常に穏やかなものとなっていた。 「さ……て、次はリープスを助けに行かなくちゃね」 ほとんど休憩する間も無く、姉は体を起こした。 そして崖淵に立ち、遥か遠く見えない底を眺めると、姉は再び闇の中へと身を投じたのだった。 本当は少しだけ不安だった。 チルを助けた時に体力をほとんど使い果たしてしまったから。 また、同じ方法ができるかと聞かれれば、今の姉ならきっと答えられないだろう。 落下の際の微々たる痛みなんて気にならなかった。 状態は最悪。だが、弟を救うことだけを強く想い、何とか体を騙そうと心がけるのだった。 姉の二度目の谷底。とにかく一秒でも早くリープスをここから出して安心させてやりたい。 そう思いながら、リープスの目の前に背中を向けて、しゃがみ込んだ時。 「ねぇ……姉ちゃん? 変なこと聞いてもいい?」 こんな時にどうしたの、と姉は不思議に思ったが、拒むには理由が足りなかった。 「えぇ。どうしたの?」 こうやって会話をすることで不安感や恐怖を和らげることができるかもと姉は考えた。 上の二匹には悪いけど、こうやって時間を経ることで少しずつだけど、私の体力も回復してくるし。とも思った。 しかし、その姉の考えは甘かったと言える。 質問の内容次第では、結果としてさらなる疲労感を負わされる可能性なんて頭の片隅にも無かった。そしてリープスから質問がかかった。 「姉弟間で恋愛感情を抱くのっておかしいことなの?」 姉は一瞬思考回路が停止した。 いや、停止したのは彼女を流れる時間だけだったのかもしれない。 弟が繰り出すその一言で姉は全てを察した。 朝の一連の行動。こんな時だから今は考えないでおこうと思っていたが、不意に繋がってしまった。 十中八九? いや百中九十八九? それほどまでになぜか姉には確信があった。 だが、今この瞬間では彼女にはその確たる自信の根源を突き詰めることはできなかった。 ともあれ、彼、リープスは姉に恋をしてしまっていることは明らかだっか。 そうすれば、今までの行動、この言動に説明がつくだろう。 しかし、万が一姉の考えすぎだった場合は酷い妄想だったことになる。 無いに等しいその可能性すらも視野の端に入れつつ、姉は口を開くのだった。 「確かに相当少数派ではあるでしょうけど、そんなにおかしいことだとは思わないわ」 姉は何となくリープスとは視線を合わせ辛かった。 だが、目は逸らせつつも彼の様子は伺っていた。 姉の言葉に、リープスからは明らかに安堵の表情が現れていた。 一呼吸置きながら、表情から読み取れる心理的状況を考察すると、彼女は更に言葉を紡いだ。 「でも、良いとは言えないよね。可能ならば、身内では無い異性に恋をすべきだと思うわ」 「ふ、ふーん……やっぱりそんなもんなのかぁ」 後に続いた姉の言葉を耳に通した瞬間、彼の顔が動揺を訴えたのを見逃さなかった。 姉の確信はより百パーセントに近づいていった。 しかしそれを知ったところで彼女はどう対応すればよいのだろうか。 直接的な言葉はまだかけられていない。姉はなるだけ普段通りの接し方を意識する。 「じゃあもういいかしら。……登るわよ。私の背中に掴まって」 束の間の会話で肉体的には少しは楽になったものの、それに遥かに釣り合わない量の精神的疲労感を覚えた。 「うん……」 リープスは何か覚悟を決めるように返事をすると、目の前で姿勢を落とす姉に前脚を伸ばした。 息子だけは何があっても成長させないようにしたいところである。 リープスはついに姉の体に触れた。そしてそのまま肩にしがみつき、姉が弟を背負う図が完成した。 「行くわよ……落ちないようにしっかり掴まってなさい」 恐らく半分を通過したくらいだったろうか。何も余計なことを考えないとしていたリープスだったが、やはり触れている姉の柔らかい感触、零距離で嗅ぐ姉のにおいに興奮を催さずにいられなかった。 彼の肉棒はその瞬間から膨張を始めた。 だが、幸いにも姉は崖を登ることに尽力しており、背中に伝わる硬化した逸物の存在を感じ取る余裕はなかった。 リープスはただひたすら早く鎮まって、と念じるのだった。 ---- 姉の体力は何とかもちこたえ、リープスも谷からの帰還に成功した。 一方で彼女は口も聞けないくらいに疲労していた。 暗がりの中ビクビクしていただけのモンモンにはようやくほっとしたような表情が現われる。 チルとリープスの体は次第に痛みもひきつつあるので、歩けるくらいになるまで休憩することになった。 リープス達はようやく洞窟から出ることができた。 「チルちゃん、モンモンくん。ほんとありがとう。じゃあ、気を付けて帰ってね」 「いえいえ、とんでも無いです。むしろ余計なことしまって凄い申し訳ない気持ちなんですけど……」 チルのその言葉に姉はなだめるように言った。 「危険を省みずに行動に移ることは簡単にできることじゃないわ。あなたはその行動力をリープスの捜索に使ってくれた。……それに、ここにリープスが居ると言ってくれたのもあなた達だった」 姉にそう言われることで若干の帳消し感があったが、やっぱり余計なことをしたと言う罪悪感は拭い切れない。 もっと根源を辿れば、そもそものリープス逃亡の原因でもあるのだ。 不意に思い出してしまい、帳消しという単語すらも闇に放棄してしまう。 一方、そんな様子を見てチルちゃんて凄い真面目なコなんだなぁと姉からは思わず笑みがこぼれる。 これに関しても薄々だが、きっと心当たりがあったんじゃないかなとも思っていたのだ。 もちろん言いづらいことであるのは十分承知しているけど、彼女は一生懸命になってリープスを捜してくれていた。責める理由なんてどこにもない。 彼女の中ではそのように意見がまとまっていた。 「そんなに悲しそうな顔されると、まるでリープスが見つからなかった方がよかったみたいに思っちゃう……」 姉がか弱く発すると、そのまま俯いてしまう。 「いえ。ま、まさかそんなつもりじゃありませんよ!」 しょんぼりする姉の素振りに胸を打たれ、チルは思わず否定する。 「まさかね、冗談よ。……でもほんとに自分を責めないでね。ありがとう」 チルの反応を待ってたかのように姉の切り返しは早かった。 途端に表情は明るく作り替えられ、すらすらと言葉をつらねた。 落ち込んでいたチルの気を少しでも楽にさせようと思った姉の策略だった。 チルもすぐにそれに気付き、いつまでも落ち込んでちゃ駄目かなと彼女自身の中でも見切りをつける。 こうして四匹は別れ、それぞれの帰路につくのだった。 その帰り際、リープスは姉に怒られたりするのかなぁと少し怯えていた。 そのせいか、単に早く歩けないだけかは分からないが、前を歩く姉に大きく距離を空けていた。 しかし、その心配は必要無かったようである。 姉は今回の一件については一切何も聞いてこなかった。 かえって心配になってきたリープスは前方に見える姉の背に向かって口を開いた。 「姉ちゃん、ごめん……」 ただでさえのスローペースが無意識の内に更に遅くなる。 リープスの言葉を背に受けた姉は立ち止まり、ふぅとため息をつくと後ろを振り向いた。 「あんたも何いつまでも引きずってるのよ。無事に終わったんだからそれでいいんじゃないの?」 ほんの少しだけ怒りを添加して弟に告げる。 リープスは姉の言うことを聞かない訳にはいかなかった。 すぐにパッと切り替えることなんて到底彼には不可能だが、姉に怒られるのは絶対に嫌だ。 リープスはぶんと首を振ってもう考えないようにしようと努める。 それからは終始無言のまま二匹は帰り道を辿るのだった。 その日の夜。リープスはついに感情を抑えきれなくなっていた。 内側から溢れだすいてもたっても居られないようなもどかしい感覚。 二匹は微妙な距離をあけて、それぞれくさむらの中で楽な姿勢をとってボーっと時間を過ごしていた。 「姉ちゃん」 ふとリープスが姉を呼び掛ける。 彼は我慢の限界に直面していた。 姉の姿が見たい。 姉の声が聞きたい。 姉の体に触れたい。 姉と一つになりたい。 彼の脳内は姉に完全に占拠されてしまっていた。 彼の脳内は姉に完全に占拠されてしまっていた。 もう彼女のことしか考えられない。 「どうしたの?」 くさむらから声が聞こえる。 草の背が高く、リープスの位置からでは姉の姿を確認できない。 リープスは意を決して立ち上がると、その声が聞こえた地点へ移動を開始した。 「ねぇ、姉ちゃん。……聞いてくれるかなぁ?」 ドクンと心臓が強いビートを刻む。 全身の温度が凄い勢いで上昇していくのを感じた。 だけど、それでも、リープスは今更引っ込む訳にはいかなかった。 「ん、何かしら?」 姉がそう言うと、リープスは大きく息を吸い込み、吐いた。 伝えたいことを何度言おうとしても、喉でつかえてしまう。 姉はそんな弟を急かすでもなくただじっと彼の言葉を待っていた。 「僕……姉ちゃんのこと……」 発声できたことを自覚できた瞬間、リープスの心臓は一際大きく飛び跳ねた。 一度言い出してしまえば、あとは勢いに任せたいところだった。 だが、リープスは途中でまた口を閉ざしてしまった。それも一番肝心な部分を残して。 もちろんこうなってしまえばまた口は堅く閉ざされた訳であり、その扉を再度解放することは容易ではない。 リープスはまたしても喉に言葉を詰め始める。 何でさっき言い切れなかったんだろうと悔いたくなった。 「私が……どうしたの?」 沈黙に耐えられないと思ったのか姉がとうとう口を開いた。 彼女のその言葉が促進剤として大きな役目を果たすのだった。 「ぁ……あぅ……そのさ、す……好き、なんだ」 リープスは恥ずかしさで頭がおかしくなりそうだった。 リープスは恥ずかしさで頭がおかしくなりそうだった。 目の前が真っ白になり、耳も耳鳴りしか聞こえないように感じ、唯一顔が熱くなる感覚だけはっきりと自覚できた。 でも、言いたいことを言えたといえたとことで、胸の内にずっとたまっていた妙なモヤモヤ感だけは無くなった気がした。 でも、言いたいことを言えたということで、胸の内にずっとたまっていた妙なモヤモヤ感だけは無くなった気がした。 「……そう、なの?」 姉の表情からはあからさまに動揺が見て取れた。 今までの行動、谷底での言動を照らし合わせれば、彼が姉に好意をもっているのは容易に予想がついた。 しかし、まさかこのタイミングで告げられるなんて。タイミング的には全くの想定外。 流石の姉もしばし言葉を失う。 どう言ってあげるのが一番いいのか、必死に頭の中で正解と呼べそうな対応を考えた。 ここで一つひっかかるのが、姉が弟に抱く感情。 好き、という言葉を選ばざるを得ないくらい彼女は弟に好意を持っていた。 だが“好き”でも違う“好き”では無いのだろうか。 姉自身では判断ができなかった。 だから何とも答えられない。 二匹の間で沈黙の時間が訪れる。 リープスはまたしても逃げたい衝動に駆られていた。 しかし既にそれで大事になった直後の今である。 その時の映像が鮮明に浮かび上がり、彼を何とかその場に留めていた。 しかし、そのせいで場に動きができず、お互いに口を開くきっかけすら失っている。 気まずい。ただの四文字の羅列がここまでふさわしい状況というのも中々無いのではないだろうか。 そう言いたくなる程に二匹を取り巻く空気は重く淀んでいた。 こうなると結局先に何か動きださなきゃと意識するのは姉の方であった。 「私達……姉弟よ?」 言ってから失敗だったと思った。 そんなこと、彼だって重々承知してるはず。 「うん、でもそれが変なことじゃないって教えてくれたのは姉ちゃんだよ」 そう。私自ら肯定したのだった。と、これもすぐに気付いたが、全ては姉に対して不利に働くのだ。 彼女は必死になって言葉を探す。 無神経な発言は矛盾を生み、弟を酷く傷つけることになる。 しかし、この場にふさわしい台詞なんてすぐには思い浮かばず、姉はどんどん追い詰められていった。 「そう……だけど」 辛うじて絞りだした声は彼の発言に対する返事以外の何でもなかった。 そうだけど、そうなんだけど。 姉の中ではやはり彼女自身が弟に抱く感情が引っ掛かっていた。 どっちの“好き”なのか。姉にはもはや判断できなくなっていた。 でも、それこそが伝えるべき事項。弟が望む答え。 姉はついに決心して口を開き、言葉を紡ぎ始めるのだった。 「私もね、リープスのことは好きなのよ。でもそれが恋愛対象としての好きか、可愛い弟としての好きなのかは……私ですら分からない。 だから、伝えようにも言葉がつかえて、何も言えなかった……。 ごめんなさい。……こんなにはっきりしない回答なんて回答にならないよね」 「じゃあ、じゃあさ……どうやったら分かるのかな? 僕は姉ちゃんの気持ち……聞きたい、なぁ」 直球で断られなかったことに相当な期待感を抱き、リープスにしてはかなり強気に攻めにいった。 姉はまたしても凍り付く。一度こうして崩れてしまうと姉は随分と弱いものである。 私としても、きちんとした答えを出したい。そういった気持ちは当然姉の中には存在していた。 だから必死に自分の中の解を見つける方法を考えていた。 「ごめんなさい……しばらく考えさせて」 今の姉にはこう言うのでせいいっぱいだった。 今の姉にはこう言うので精一杯だった。 気持ちの整理のための時間が欲しかったためでもある。 この状況で適切な判断をするには頭がごちゃごちゃしすぎていた。だから姉は何よりも時間を欲していた。 こう言われればリープスも一旦折れるしかなかった。 「分かった……でも、今日中には聞かせてね」 「ええ」 姉がゆっくり首を縦に返事すると、リープスはくるりと反転しその場を去っていった。 辺りは気付けば真っ暗に。 今日という日もあっという間に夜に突入していた。 あれからずっと姉は考えていた。 だが、いつまで経っても自分の気持ちは愚か、それを確かめる術すら思い浮かばない。 リープスには今日中に何かしらの返事は致すということで約束を交わしてしまった。 でも、約束を破る訳にはいかない。 何も言わずに待たせてしまうくらいなら、謝ろう。 姉はそう決意し、弟がいるところへ動き始めた。 「あ……姉ちゃん」 元気の無い顔に一筋希望が差し込んだような、リープスはそんな表情をしていた。 「ごめんなさい。あれだけ言っておきながら、これだけ時間を与えられながら、私は何も答えを出せなかった」 「……そっか」 彼の表情がみるみる内に泣きそうになってくるのが見て分かり、姉はじわじわと胸を締め付けられる。 「でもさ……僕は考えたんだ」 顔を伏せながらリープスは呟いた。 それを聞き姉ははっとした顔をする。 不本意ながら、それに乗っかってしまおうと思ったのである。 「え、本当……?」 顔が教えてください、て言ってるんだろうなぁ、と姉は発言しながら思った。 しかしリープスはそうは言ったものの、中々教えてくれそうにない素振りを見せる。 何かを躊躇うような……そんな感じが伺えた。 言いにくいこと? 実行しにくいこと? 答えを待つ姉はそれを手がかりに考えてみる。 「……ぁ」 割と時間を要すこと無くこれかなという答えに辿り着き、僅かに声がもれた。 でもリープスは姉が気付いたことに気付いていない様子である。 彼は彼の中で葛藤しているのだろう。 元々私が言いださなきゃいけなかったんだし、今だってそのきっかけをもらったんだ。 ここはちゃんと私から言ってこそ、よね。と自分に言い聞かせ、姉がついに口を開いた。 「リープス。私分かったかもしれない」 ---- リープスはその言葉を理解するのに時間を要した。 「え……え?」 戸惑う彼の様子が容易に見てとれる。 「つまり……こういうことよね」 姉はそう言うなり弟との顔の距離を縮める。やがて唇同士が触れた。 顔の高さを合わせるために姉も四つんばいになって。 接触していた時間はわずかで、姉はすぐに顔を離してしまう。 姉は心臓がバクバクいっているのを感じながらもリープスの反応を伺う。 彼は腰を抜かしたかのように地面にへたりこんでいた。 その顔は真っ赤になっていて、姉と唇を重ねたことを未だに信じられない様子だった。 「ね、ねえちゃん……」 震えた声でリープスはいう。効果は抜群だったようだ。 「でも、リープスが言いたかったことは……これじゃないよね?」 姉は既に弟をそういう対称としても受け入れている自分がいることに気付いていた。 彼はその先を望んでいるに違いない。姉も拒むつもりは一切無かった。 「凄いや……何でそこまで分かるの?」 リープスは恥ずかしながらも驚きを隠せない。 「私はリープスのお姉さんだから」 姉は自身ありげな表情を見せながら言った。 直前まで弟の気持ちに気付かなかった者が何を言うか、と姉は心の中で自分自身に突っ込んでおいた。 リープスは仰向けになり、自らの大事な部分すらも曝け出す。 「いくわよ……?」 姉が尋ねると弟は頷いてうんと返事をする。 彼女はリープスの股に手を伸ばす。 恐る恐るながらも姉の手は彼のモノの先端に触れる。 同時にぴくりとリープスが反応する。 そんなに感じるものなんだ、と感心しながら姉は目線を上げ、彼の瞳を覗き込んだ。 リープスの顔は羞恥と興奮で紅潮しきっていた。 それを見た姉は何故か嬉しいような気持ちになった。 私もやっぱり色々ネジ吹っ飛んじゃってたかな、とかうっすら思いながら更に手を進める。 彼女はリープスの息子をその掌に掴んだ。 この頃になりようやく彼の愚息は全開となった。 重力をものともせず天を指し、掌は正味半分程度の面積しか覆えていない。 仰向けになった瞬間から膨張は始まっていたが、姉はここまで大きくなるとは正直予想していなかった。 弟はまだ対した刺激も与えていないのに目は虚ろで、はぁはぁと呼吸は荒く既に悦に浸っている。 この様子だとあっと言う間に果ててしまいそうだ。 ふにふにと姉は軽く肉棒を揉んでみた。 「ひゃあん」 女の子みたいな高い声をあげて、リープスは喘ぐ。 このまま即効で決めることもできなくは無さそうだが、それでは面白くない。 もっとたっぷり時間をかけてあげた方がいいよね、と姉は考えていた。 「どう? ……イきそう?」 軽くペニスを揉み続けながら姉は尋ねる。 「はぁ、はぁ……も、もうダメ……かも」 その言葉と腰までびくびくさせながら刺激に耐える彼の様子から本当に限界が近いんだなと察した。 このままでは達し兼ねないと思い、姉は即座に手を離した。 どうやらまだ間に合ったようで、オーガズムに至り精液が飛び出すようなことは無かった。 快楽の波が引いてきて少し余裕ができると、リープスは目線を姉に向ける。 恐らく何で刺激を止めたの? みたいなことを訴えたいのだろう。 確かに焦らされた側からすれば、いっそ一思いにとどめを刺して欲しいと望むところである。 もっとも、それが姉の狙いだったのだが。 これからどうやって絶頂まで連れていってあげようか。 色々と思考を張り巡らせ、彼女は次の一手に踏み出るのだった。 姉は彼の股間に顔を近付ける。 近くで見ると彼の雄の象徴からは既に透明の液体が分泌されているのが確認できた。 同時に、肉棒からは雄の匂いが鼻にまとわりついてきた。 姉はそれらすらも冷静に把握できていることを自覚し、思ってるより落ち着いてられてることを認識する。 ぴちゃり、と姉の舌が彼の竿の先端に触れた。 電気ショックを浴びたかのようにリープスの体はびくっと反応する。 それに気を良くした姉は亀頭を中心に舌を這わせた。 あくまで優しく丁寧に。撫でるような動きを意識しながら彼女は舐め続けた。 「ひぃ……ぁん……」 次第に悦が込み上げてきたのか、体を小刻みに震わせるだけでは追い付かなくなる。 加えて声を吐き出すことで、何とか対応しようとしていた。 気付けば姉もこの行為に夢中になっていた。 空腹に飢えた獣が餌を貪るように、姉は彼の肉棒に食い付いていた。 その衝動はついに口内にモノを含むまでに発展した。 じゅるりと音をたてて、彼のモノを万遍無く舐め、口で扱き、時には吸い付く。 「はぁ、あっ……あ、ぁ……」 姉の動きに合わせてリープスは喘ぎ声をもらす。 一度手で寸止めを食らわせた直後だ。もはや決壊には一瞬を要すだけだった。 リープスの声は加速度的に大きくなり、最終的には叫ぶ程に発展した。 「ああぁーっ!」 リープスがこんなに大きな声出せたんだ、と姉が思わずにいられないくらい彼の叫喚は凄まじいものだった。 その直後、彼のペニスがぶるんと震えると先端からは白濁色の液体が噴出された。 彼のモノを咥えていた姉は当然その液を口で受け止めることになる。 来る、と心構えはできていたものの、いざ口内に粘液が注ぎ込まれると途端に苦しくなる。 精液の粘度を甘く見ていたな、とか姉は思った。 幸いにも射精はすぐに止み、射出量もそこまで多くなかったので、むせ返ったりすることは無かった。 それでも、口の中を浸す精子達を飲み込むのに中々苦戦するのだった。 「うぅ……姉ちゃん、ごめんなさい」 放出が止まり少々余裕を取り戻し、リープスが口内に白濁をぶちまけたことを謝った。 「ううん、いいの。出させたのは私だったし」 元々外に出させるつもりは無かったんだからそこはしっかり飲み込んであげるものよね。 と、むしろ姉が罪悪感を感じた。 「次は、僕が……」 「……ええ。来て」 リープスの呼吸が整った頃、次は姉が仰向けに寝そべった。 彼はおどおどとした仕草で姉の秘所の目の前にまで近づき、とりあえずと軽く表面を撫でてみた。 姉の体は無意識にビクッと反応を示す。 リープスは少々驚いて前脚の動きを止めてしまったが、すぐにまた再開した。 一方の姉は最初の一撃は突然だったためもあって受け入れ体勢が伴っていなかったが、続く刺激に対しては体を震わせずに耐えることが出来た。 だが、それも最初の内だけで、次第に沸き上がる体の内側から込み上げてくる何かに体を動かさず、声を出さずには居られなくなった。 「んっ……ん」 まだ辛うじて声は鼻からもれる程度だが、痙攣したかのような体の震えは止められない。 一方のリープスもそんな身悶えする姉の様子に興奮を押さえられないようである。 さっき出してからまだあまり時間が経っていないというのに、彼のペニスは見事に復活を遂げていた。 興奮が高まるにつれて、彼の前脚の動きも徐々に早くなる。 それはつまり、姉からすれば刺激の増幅を意味するものである。 彼女の身動きは時間に比例して大きくなり、もはや全身を使っての運動となっている。 声も望まずして出たようなかん高い、発音もままならないものが吐き出されていた。 そうしている間に姉の秘部からはどんどん愛液が分泌されていき、リープスの前脚を濡らしていく。 リープスは不意に表面をなぞるだけだった指を中へ侵入させた。 姉の雌は十分すぎる程水気を帯びており、まるで導くかのように指を受け入れた。 「んぁ……んん……っ」 姉の喘ぎ声が一際大きくなる。このことに更に発情したリープスは指の出し入れを始めた。 それによって姉の快感は一気に何倍にもなる。 なるべく声は我慢しようとしていたが、もはやそんなレベルでは無くなってきた。 姉は弟の指に翻弄されるがままに喘ぎまくり、抑制など一切効かない程までに彼女は快楽に溺れていた。 「あぁっあ……はあっ、あん……あぁん!」 ビクンと姉の体が大きく波打つ。 それと同時に彼女の秘部からは大量の愛液が溢れだした。 どうやら姉は絶頂に達したようだった。 「はぁ……はぁ、はぁ」 姉は大きく口を開いて意欲的に空気の循環を行う。 リープスはそんな姉の様子を見る傍ら自らのモノをらちちらと見た。 彼の愚息は相変わらず元気に直立していた。 その様はまさにどうぞ使ってくれと訴えているように見えた。 リープスは仰向けの姉に覆いかぶさるように体を動かす。 「ねえ……入れてもいい?」 彼の性に関する知識は浅いものだが、交尾の意味はしっかり理解していた。 今リープスは雄として当然の衝動に駆られているのだろう。 姉は呼吸を落ち着かせるので精一杯の状態であり、とてもまだ話せるような状態では無かった。 そのため、姉は首を縦に二往復させることで返事をするのだった。 ---- 姉は異物感に顔をしかめる。 周到に濡らされて滑りはよくなってはいるものの、彼の肥大化したペニスを受け入れるのは容易では無かった。 引き裂かれるような痛みも同時に伴うが、弟と一つになるため、と強く自分に言い聞かせて激痛に耐えている。 「姉ちゃん……大丈夫?」 心配そうにリープスが声をかける。興奮状態で視界が狭くなっているはずの彼にすら気を遣われるということは尋常じゃ無いくらい今の私はすさまじい顔をしているのね。と、姉は感じた。 「見ての通りよ……大丈夫、ではないわ……」 正直痛み以外何も感じない。彼女は苦痛に苛まれながらも声だけは絞りだす。 本当ならば嘘でも大丈夫と伝えたかったが、とてもそんな嘘がつける状況じゃなかった。 「でも……ちゃんと続けてね。どうせなら、最後まで行きたいから……」 姉の発言後、明らかにリープスの勢いが衰えた気がした。 だから姉は痛みをこらえながら、続けるように言った。 リープスは初めてとは思えないくらい絶妙なペースで自らのモノを姉の中に埋めていき、ついにその全身が納まった。 やはり姉弟とあって互いの気持ちがわかるのか、息の合い方は中々のものだった。 その頃には姉も痛みは十分にひいており、快感も次第に感じるようになってきていた。 「全部、入ったよ……」 リープスが言う。恐らく彼はこれからどうするかよく分かってないのだろう。 「じゃあ、動いて……」 「動く?」 弟の頭には疑問符が浮かび上がっていた。 言った後に、やっぱり伝わらなかったかと姉は思った。 「……ソレを何度も抜いたり挿したりするのよ」 分かってはいたケド、こうやって言うのはなんか恥ずかしい。 でも、リープスは分かってくれたようで、逆再生でも始めたかのようにゆっくりと肉棒を引き抜いていく。 「ひゃ……ん」 この時ようやく姉の中での悦と痛みが逆転した。 苦痛による呻きとは全く異なる、艶っぽい声音をあげた。 もちろんリープスはその声を聞き、ひたすら興奮を高めるのだった。 リープスは抜いては入れ、入れては抜くをひたすら繰り返す。 興奮で理性を保ってるのか怪しいくらいの状況にも関わらず、彼の腰の動きは緩慢で、そして丁寧だった。 姉は肉壁をかきわけられる感触に慣れてきたようで、徐々に嬌声をあげる頻度もあがってきた。 「あっ、ひゃん……ぁ、あん……ん……っ」 姉はもう完全に快楽に溺れていた。 対するリープスも度重なる腰の前後運動で二度目の絶頂を迎えようとしていた。 「はぁ……はっ。ね、姉ちゃん……」 息を乱しながらリープスは口を開いた。 もう限界が近いということを伝えようとしたのだろう。 しかし、彼が自覚していたよりも決壊は早かった。 一旦動きを中断するという手も無くはなかったが、結局姉の反応をうかがうよりも前にリープスは果ててしまった。 「あっ……ひゃあぁっ!」 姉の中でリープスの雄槍がびくびくと猛り狂い、膣内が温かい液体にどんどん満たされていく。 その射出量は二度目の発射だという事実を見事に忘却させてくれる。 「はぁっ……はぁ、はぁ……」 姉の上に重なる状態だったリープスだが、今はとても前脚で自分の体重を支えてられないと察し、姉に全体重を預けた。 とにかく疲れた、そんな様子が彼から感じられる。 対する姉はまだ達せておらず、微妙な不満感を抱きながら弟の体重を受け止めている。 「ねぇ、リープス?」 「はぁはぁ……な、なぁに?」 リープスは荒い呼吸の合間に返事をする。 「もう少し休憩したら、もう一度やって欲しい。まだ……満たされないの」 結構キツいこと言っちゃったかな、とか言ってから負い目を感じた。 「う、うん。分かった、頑張る。……なんか僕だけ気持ち良くなっちゃってごめんね……」 むしろ謝られてしまい、姉は複雑な気分になった。 でも今更断れるはずも無く、ここは彼の言葉に甘えようと、姉自身に言い聞かせるのだった。 硬さを失ったペニスが姉の中から現れる。 彼のモノは自ら放った白濁液に汚されていた。同時に姉の膣口からも白濁が流れ出た。 所々に赤みを含んでおり、姉が膣内で出血したのだろうという推論を与えてくれる。 それを視界にとらえたリープスは少し申し訳ないような気持ちになった。 姉には痛い思いばかりさせて、自分はあっさり果てる。 そのことに罪悪感のようなものを感じ、尚更もう一発やってやろうという気が起こった。 「私が、元気にしてあげる」 姉がしばらくぶりに体を起こすと、その向かう先は彼の股間。 何の躊躇いも無く、彼女はリープスのモノを口に含んだ。 「あん……ぅ」 弱っていたペニスにまたしても刺激が送られる。 丁寧に精液を舐めとるように、姉は舌を動かし続けた。 次第に彼の肉棒は再び硬さと大きさを手に入れた。 だが、さすがに間を置かず二度も射精を行えば感度はかなり鈍くなっていた。 加えてこんな行為に及んだことは彼の人生で初の出来事なのだ。 彼にかかる負担は思っているよりも大きいに違いない。 実際、リープスに舌が這い始めた直後は悦より不快感が上回っていた。 その様子は当然姉にも伝わっていた。 本当に辛そうな弟の姿を見ているとこのまま続けていいのか不安になった。 かといって行為をやめることもできず、姉は弟への奉仕を続けるのだった。 それでも可能な限り丁寧にしてあげようという意識はあった。 結果、その甲斐あって彼の肉棒はすっかり元気を取り戻した。 リープス自身、姉の優しい愛撫に今はすっかり悦に浸っている。 「これでどう、かしら?」 「うん……凄くいい」 姉の問い掛けに、ペニスをギンギンに張りながらリープスは返事した。 その後姉は言葉は使わず、目で合図を出した。 リープスも当然この後の展開は理解していた。 でなければ今の彼女の奉仕の意味に説明がつけられない。 リープスは姿勢を起こし、姉を押し倒そうとしたが、直前で前脚の動きが止まる。 そこで少しの間彼の動きは停止する。 どうしたんだろう、と姉は心配になっただろう。 今になって怖気づいたのかも、と察したくもなった。 しかし、その憂慮は不必要だったようだ。 リープスは姉を押し倒したりはせずに彼女四つん這いにさせる。もちろん、お尻はリープスに向けさせて。 姉は一瞬、何をするのかと戸惑ったが、すぐに彼の意図を汲み最終的には彼女自ら体勢をつくった。 二度目の挿入。 姉は体が慣れ、弟は動作に慣れが入ったためか一度目のそれに比べると遥かにスムーズに事は進んだ。 愛液を滴れまくる程に姉は彼の逸物を待ち望んでいたのだ。 もはや痛みなど無いに等しく、モノの進入と共にどんどん悦に溺れていくのだった。 あっさりと根元まで飲み込むと、姉はリープスに動くように訴えた。 この体位の方が楽かもしれないが、お互いに顔を見られないことが残念だ。 元々後背位を選んだのは、正常位でリープスが前脚で体を支え続けることが苦に感じたからである。 その割には結局この体勢もしんどいな、とリープスは思っていた。 それでもいつまでもグズグズしてる場合じゃないと意識し、彼は腰を動かし始める。 「ひゃ……あぁん」 ガクガクと姉の腕が震える。あまりの快感に微かに痙攣を起こしているようだ。 一方のリープスにも変化が無い訳が無かった。 膣の内壁にペニスを擦り付ける度、確かに込み上げる悦楽。 加えて腰を動かすことはそれなりの労働になるらしく、呼吸も段々乱れてくる。 流石に今度は姉が達するまでは堪えないと、といった使命感も湧き上がる。 かといったところで初体験のリープスには耐えられる時間を延ばす術など分からない。 仮に知っていたところで、実践できるかは別問題ではある。 結局は何の面白みもない我慢比べになってしまうのだ。 「はっ……あっあっ、……あぁあん!」 「あっ、ん、……うあぁっ!」 姉がリープスに対し一瞬早く叫び声をあげた。 その瞬間、膣がきゅっと締まり刹那遅れてリープスも限界の号砲を鳴らした。 リープスは今回三度目の射精の時を迎えた。 やはり体は既に限界だったようで、申し訳程度にちょろりと粘液が吐き出され、間も無くして雄槍は大人しくなった。 やることはやり切った。早く横になって休みたい。 リープスの脳は一意にそれを訴える。彼は最後の力を振り絞り姉から自らのモノを引き抜いた。 「はぁっ……はあっ……」 そのままリープスはバタリと地面に倒れこんだ。 姉も今の四つ脚の姿勢を解くと、横たわるリープスに並ぶように体を転がした。 栓をなくした姉の秘所からは彼女が達した事実を肯定するように愛液が流れ出ている。 姉はぜぇぜぇと荒々しく空気の循環を行う弟の顔にそっと手を沿わせた。 そしてそのまま顔を支えながら彼女の方からリープスに口付けた。 姉はすぐに息が続かなくなることは目に見えていたのですぐに口を離した。 それから二匹は無言のまま、ただ各々が呼吸音だけを奏でながら時を過ごしていた。 いつの間にかリープスが寝息をたてていることに姉は気付いた。 微妙に顔を覗き込んでみるが、深い眠りに落ちているとみて問題なさそうだ。 姉はそう判断するとすやすやと眠る弟の頬にそっと口付けし、こう囁くのだった。 「リープス……大好き」 ---- 太陽が昇り、二匹は目を覚ます。 まず一番最初に思ったことは、行為の最中は全然気にならなかった臭いに関してだった。 辺りは、というか全身が独特の鼻につく臭いを放っている。 液まみれで眠ってしまったのだから当然といえば当然である。 二匹はお互いに顔を見合わせた。 「ねぇ、リープス」 「体洗おうー……、だよね?」 姉が最後まで言い切る前にリープスに言葉を遮られた。 姉はやっぱり考えてることは同じよね、と苦笑しながら頷いた。 「子供……できたらどうしよ?」 川へ向かう道中、突然姉が呟く。 リープスはその途端に現実に引き戻されたような気がした。 膣内に射精してしまった事実、それだけはもうどう拭いようもない。 リープスの表情が一気に曇る。 何を勢いに任せて馬鹿なことやってるんだと自分を叱りたくなった。 しかし、姉はすぐにまた口を開いた。 「私は……凄い嬉しいことなんだけど」 その発言にリープスは面食らった表情を見せる。 「そっか、まだ直接言葉では言ってなかったかしら。今回の行為ではっきり分かったわ。私、あなたのこと……好き」 ただでさえ面食らった顔をしているというのにこれ以上どんなリアクションを示せばいいのだろうか。 今のリープスはまさにそんな様子だった。 驚きと困惑を共に大量に含んだような、表現するならこんなところだろう。 傷つけるだのそういった心配はいらないが、ちょっと刺激は強かったかもしれない。 それから二匹は無言のまま、まもなく川へたどり着くのだった。 川へ着くなり姉はざぶざぶと水に浸かった。 一方のリープスは体毛のことがあり、彼女のように堂々と川へ突入することはできなかった。 姉自体体毛が無い訳も無かったが、そんなことを気にするつもりも無かったようだ。 姉は全身を洗う中、リープスは対称的に水を丁寧にすくいながら局所的に洗っている。 姉はざっと軽く洗い流せたかな、と思うとリープスの方を向き、口を開いた。 「あの時、何にも分かってなくてごめんね」 あの時、とは昨日の朝やそれまでのことを指すのだろう。 リープスが姉のことを想う気持ち、それに彼女は全く気付いていなかった。 「別にいいよう。結果として姉ちゃんと結ばれたから」 水を汲む前脚の動きを止め、はにかみながら答えた。 その笑顔につられて姉も思わず笑みをこぼした。 そういえばリープスのここまで屈託の無い笑顔を見たのっていつぶりなんだろう。 姉は意識の合間にそんなことも考えていた。 それから姉はリープスが満足いくまで洗い終わるまでの時間、昨日のことを思い出していた。 とても一日分の内容とは思えない程中身の詰まった一日だった。 朝のリープスの逃亡。半日近くかかった必死の捜索。 ようやく見つけた場所が谷底で、姉は身を犠牲にしてまで救助に向かった。 帰宅後、その日の夕方頃に弟からの愛の告白。 自分の気持ちを確かめるために、最終的に選んだ答えが…………性行為。 夜になって、周りのことなんて一切映っていない状況で、ただリープスとの行為に夢中になっていた。 これが本当に24時間以内に起きた出来事だったのか。 と、姉は思い返せばますます疑いたくなってくる。 しかし、癒え切っていない体の傷や体についた精液の後を見るかぎり、昨日の出来事は夢では無かったということになる。 「姉ちゃん。姉ちゃーん?」 ボーッとつっ立っていただけの姉を心配してかリープスが声をかける。 その時彼女はやっと我に帰った。 「あ。ご、ごめん。ちょっと色々考えてた」 「昨日のこと?」 現実時間に帰ってきた彼女は即座に返事するものの、それに対するリープスの対応に驚かされた。 もしかして顔に出てたのかしら、とあたふたしながら姉は水面に映る自分の顔を確かめた。 意識してしまったせいか、別段何かを読み取れそうな表情でも無かった。 「やっぱりそうなの?」 再び声がかかり、姉は顔をあげる。 視線の先にはとても嬉しそうなリープスがいた。 彼女がどれほど顔に出していたかは分からないが、弟は姉の思考をばっちり読んでいる。 姉は衝撃の後に甚大な恥ずかしさに襲われた。 「そ……そうだけど」 もう強がっても無駄よね、と姉は顔を赤くしながら肯定した。 「うわぁ。姉ちゃん恥ずかしがってるー」 さらに悪そうな笑みを浮かべながらリープスは言う。 「そりゃそうでしょ! そんなこと考えてたなんてバレたくないもん」 「そうかなぁ? 僕は今までで一番幸せな夜だったよ?」 こう言われてしまうと姉も反論に口詰まる。 そんなことより彼は何故こう恥ずかしげも無く昨日のことをペチャクチャと喋れるのだろうか。 雄ってそういう生き物なのかな、と姉は勝手に思っておくことにした。 ともかく、このままリープスのペースで会話を進められるのも癪だと感じ、姉は折れる方向に向かい始める。 「そ、それは私だって……そうだけど」 「でしょっ。じゃあ何も隠すことも無いでしょ」 「……そうね」 絶対つくりが入ったな、て思われるくらい下手糞な笑みで彼女は肯定した。 でも、それで満足したのか、リープスはそれ以上突っ込んでくることは無かった。 「さ。洗い終わったら帰りましょ」 適度に間を見て姉が言った。 それには弟もただ一言肯定の意を示すだけだった。 こうして、一匹の雄の子の禁断の恋はたくさんの障害を乗り越え、ついに結ばれたのだった。 二匹はいつまでも幸せに過ごしているに違いないだろう。 あいらぶまいしすたぁ 完 ---- ・あとがき 話の構成自体はもっとずっと前から練り始めてましたのですが、二ヵ月半程執筆に費やしてついに完結しました。 当初は[[飢えた獣に青春を]]くらいの長さ予定していましたが、洞窟での捜索が予想以上に長引いてしまい、前作を遥かに凌ぐ長さになってしまいました。 導入は言わずもがな“近親相姦”。姉弟にしようとは最初から決めてましたので、それにふさわしいようなあらゆる進化系を探しました。 大概の進化系は、体のサイズ的に無理があるかなと続々却下。 結果、モココとメリープが選ばれることになりました。 姉は結局名前が明らかになりませんでしたが、これは初期の段階からの設定です。 チルとモンモンについてですが、選抜理由は一瞬で分かるでしょう。 まぁ完全にもふもふ(コットンガード)つながりですw。 谷底に落ちたリープス達を助けるためにモンモンがつるのムチでも使えれば良かったんですがね……。 ともあれ、長かったと思いますがここまで読んで下さいましてありがとうございました。 ---- ご意見、ご感想、誤字脱字の報告などご自由にどうぞ。 #pcomment IP:119.26.174.15 TIME:"2012-06-30 (土) 14:22:57" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E3%81%82%E3%81%84%E3%82%89%E3%81%B6%E3%81%BE%E3%81%84%E3%81%97%E3%81%99%E3%81%9F%E3%81%81" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Windows NT 5.1; rv:13.0) Gecko/20100101 Firefox/13.0.1"