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:開戦 の変更点


 昼ごろに戻ってきたアオは、人間と戦うことは止めないといった。しかし、今度は人間を敵とみなすのではなく、味方につけて戦争を終わらせようと。
 彼女は、いつ戦火にさらされるかもわからない双龍の街が侵攻された時、それに駆けつけてレシラム派の人間を救えば、レシラム派が属する雪花の街に英雄視されるのではないかと、レンガやロゼに話した。
「不可能ではない……だが……もしもその行いのせいでこの森に直接攻撃を仕掛けてくるようなことがあったらどうするのだ?」
 レンガがアオに問う。
「返り討ちにしてやるさ」
 なんて、アオは強気な発言から切り込んでみる。
「アオさん、貴方……私のご主人にもそこそこ抵抗されるくらいの強さでしたが、大丈夫なんですか?」
 ロゼがもっともな質問をして、レンガも頷いてアオに答えを求める。
「確かに、強い人間もいることはいる。しかし、こちらにはいくらでも対策法はあるのだ。人間が大挙して押し寄せてくれば、それとなく悪タイプの技を使える物を集めて、自己を強化してやればいい。
 ロゼと出会ったあの日にそうしなかったのは、のんびり強化なんてしている間にシンボラー。スターに乗って逃げられるのが我慢ならなかったからさ」
 アオは鼻で笑って自身をアピールする。
「大丈夫、敵が逃げる心配のない奴ならば、こっちから逃げて正義の心で返り討ちにしてやるさ」
「確かに、私の主人は旗色が悪くなったらシンボラーで逃げる腹でしたからね。アオさんの判断は間違ってはいませんが……いえ、ここはアオさんやレンガさんの言う伝説を信じましょう」
 レンガの言う伝説というのは、コバルオンとテラキオンとビリジオン、その三頭がそろったときに真価が発揮され、一騎当千ならぬ三騎当万の戦力を持つという話である。にわかには信じがたい話ではあるが、アオの強さを考えれば嘘ではないのかもしれない。
 身重の時ばかりはさすがに不覚を取ったと聞くが、普段の彼女ならばそれもなんとかなったのであろうか。
「あくまで、人間の味方として参戦するという名目で、結成て無理をしないという約束でなら、私も協力したいと思います……というか、アオさんやレンガさん、そしてヒスイさんををなるべく危険には晒したくないので……無理はしないと、約束できますか?」
「わかっている。私も、本当はすべての子供を産むまで無茶をしてはいけない体だからな……そこらへんは心得ているよ」
「私も同意見だ、少なくともテラキオンの子供が生まれるまでは、この体を朽ちさせるわけにもいかないものでな……」
 いくらか建前も入っていただろうが、誰だって死ぬのは嫌だろうし、そう無茶なこともしないだろうとロゼは思う。防人に伝える情報は慎重にしなければいけないとは思いつつも、防人を上手く使えるように自分自身も頑張らなければと考える。
(防人に仕えるというのはそういうことだ……仕えるにふさわしい者となれるように、戦もたくさん見て、出来ることを増やして差し上げないとな……)
 そうして、ヒスイが大人になるまで五年の歳月が過ぎた。

 ◇

「馬鹿野郎……今を逃したら、出撃の機会なんてないっっていうのに……」
 初めての進軍。大量のメブキジカと、正義の心の発動要因としてのムーランドを連れ、アオは先頭をシンボラーのスターに任せ、二番手を歩いていた。泣き顔は誰にも見せたくないし、独り言も聞かれたくない。
 あの時、もしもミドリが話を聞いてくれればこんな気持ちにならなかったのかと思うと、ひどく悲しい気分になる。
 ミドリは、雪花の大森林を去る際に、一人ケンホロウを連れて行った。ミドリとは親しかったそのケンホロウのリアンは、今日この場所でメブキジカが収集されることを知り、その情報を隠れ住んでいたミドリに伝えたという話であった。
 その五年の間に何があったのかは知らないが、アオには心当たりがあった。自分も使用していた技、自己暗示である。
 自分が流産したという強烈な記憶を忘れ、食料危機から来る危機感を自己暗示で感じることで強引に発情期を引き起こしたりもした。おそらく、ミドリも強烈な自己嫌悪や悲しみから……
「私が、そんなに恨めしくなったのか……ちくしょうめ」
 恨めしくなったのかもしれない。そのせいで、私の話も聞かずに殺そうなんて思いに至ったのかもしれない。そうでもなければ、ケンホロウからいろいろ聞いているのだろうし、ターゲットが人間を&ruby(みなごろし){鏖};ではなく、ゼクロム派の兵士のみに絞るということだってそれとなく聞いているはずなのだ。
 それすら耳を貸さなかったというミドリの事を、内心では見限っておきたかったともリアンは言っていた。そんなになるまで放っておかなければまだ解決の道もあったろうに。どこまでも、どこまでも事態が悪い方向にしか進んでいなかった。
 ミドリに対してリアンが何もせず、また何もできなかった自分が悔しくて、恨めしくて、アオは道中独り言ばかり。こんな自分の姿はついてきてくれる森の仲間には見せられず、彼女は誰にも見られないように二番手を選んだ。目の端に浮かべる涙も見せず、独り言も聞かせることなく、アオはただ気丈に振舞うことを義務付けられたかのように。

 やがて、森を抜け、平原を走ってゆくと見えるのは雪花の街。レシラム派はこの五年のうちに双龍を奪取され、雪花の方まで群を後退させていた。アオ達にとっては戦場が近くなってむしろ好都合な話である。
 ミドリの亡骸は、使いを出してバルジーナに処理をしてもらうように頼み、風の強い熱帯夜の中でアオ達は奇襲をかけた。今心配するべきはミドリの事ではなく、目の前の戦いの事なのだ。
 ミドリに対する愚痴はいくらでもある。だからこそ、看取ることも看取られることもなく逝ってしまったミドリのようにはなりたくない……人間の戦いを終わらせる。そして、人間の戦いが生み出す資源不足も終われば、家を建てたり砦を建設したりという用途でも、クラボの実を火砲に使うという用途でも人間が気を使う機会は少なくなるはず。
 そうじゃなければ、私は何のために戦っているのかという話だ。
「今日はやけに生暖かい風が吹くな……」
(レシラムを崇拝し、この世界の真実の姿を求める者たちの手助けをするわけだからな……案外、レシラムあたりが見守っているのかもしれない……ならば、それをネタに皆の士気を上げるのもいいかもしれないな……)
 アオは、雪花の街のすぐ北の方にある龍螺旋のとうに思いを馳せる。
(あそこには、今でもたまにレシラムが姿を見せる……案外、本当に私たちを見守ったりでもしてくれればいいのだが……)
 そんなことを思いながら平原を歩いていると、見えてくるのは包囲された街。ゼクロム派の軍師たちは長期戦を覚悟で籠城する雪花の街に対してひたすら待ちに入る。弓矢も届かないような場所から虎視眈々と街を監視され、街を出ようとすれば殺されるという状況で精神を摩耗させる。
 お互い、命の奪い合いはされないために兵士の数が減ることはないが、雪花の街は徐々に食料がなくなり困窮するのは目に見えている。対して、ゼクロム派の兵士たちは双龍からの食糧供給により、長く持つことであろう。
 よって、雪花の街が取れる行動は、外部からの援軍を待つか、降伏するかのほぼ二択。その援軍も、吹寄の街がゼクロム派に対抗できるだけの兵を用意できるかどうかと言えば微妙なものである。
 その援軍として、颯爽と現れれば防人たちの株も上がりましょうと、ロゼはこの機会を降って湧いた幸運と称し、アオ達をけしかける形となったわけだ。森を守るために、募った有志は森に何頭いるかもわからないメブキジカの内のごくわずかのみで、頭数だけ見ればとても心もとないものの、精鋭ぞろいと思えば悪くはなかった。
 それら精鋭ぞろいの兵士たちを振り返り、アオは深呼吸から演説を始める。

「時は来たれり。人間に粛清を与える時が来た……皆の者、我の後に続け!! 人間達にその勇猛果敢な姿を見せつけるのだ!! 進め!! この暖かい風は、草をざわつかせ我らの接近を上手く隠してくれるはずだ。
 気配を絶ち、奇襲をするには絶好の日より……天も我らを味方する好機、逃す手はないぞ!! さあ、噛みつけ、お前ら!!」
 待ってましたと、連れてきたムーランドやレパルダスがアオに対して思い思いの悪タイプの攻撃を放つ。いかに悪タイプに強い彼女でも、これは痛かったのかさすがに顔は顰めたが、それも一瞬の事。痛みに耐えると同時に、全身に湧き上がる力。
 本来、正義の心の特性は悪タイプのポケモンを打ち倒すための力だが、悪タイプのポケモンも含めて森のポケモンの仲間であるアオにとっては、仲間を守るためのと育成でしかない。味方にこうして噛みついてもらったところで、次いで行うのはレンガとヒスイの自己暗示によるアオが正義の心によって強化した力を写し取ることである。
 この二つで、すでに伝説といて語られている三騎当万の戦いも可能であるが、アオの後ろに控えるメブキジカ達にも自身のやり方を参考にした恐ろしい技術を仕込んでいる。と、言うのもこのメブキジカ達は全員が草食の特性を持っており、草の力を音に混ぜて放つ草笛と呼ばれる技を使うことが出来てしまう。
 本来ならば眠気を誘うためのその技も、草食の特性を持つメブキジカにとってはそれすら喰らう対象である。放たれた音を喰らいつつ、逃げてきた人間たちの眠気を誘い、草食の特性で徐々に強化されていく膂力を用いて蹂躙する。この状態になってしまえば、ムーランドもレパルダスも用済みの役立たずになってしまうので、捕食者たちは噛みつくだけのつまらない仕事である。
 ともかく、防人は噛みついてからの行動が速い。まずは、リフレクターを用いて防御力を上げる。人間が使ってくるポケモンなんて、基本的にはバッフロン化イワパレスくらいしかない。家畜の延長のようなポケモンばかりならば、リフレクターさえ張り出してしまえばあちらに勝機なんてない。

 夜、城壁に囲まれた街をさらに加工用に天幕を張っている兵隊たちに、出来る限り近くまでアオ達は近づく。それをサポートするのは街の城壁を乗り越え抜け出してきたロゼで、彼は注意深い人間でも早々見つけられないくらいのクオリティを保った幻影で周囲に同化し、ゆっくりとアオ達を敵陣の真ん中まで連れてゆく。
 ただでさえ夜な上に、ロゼの優れた幻影。、索敵に特化したポケモンでもなければ見つけることは不可能であろうその潜入術で、アオ達は敵陣の真ん中まで忍び込みし。
「さぁ、やってくださいよ、防人さん!! こっちは応援しつつ、邪魔にならないように退散しておりますんでねぇ!!」
 ロゼが激励のバークアウト。まくしたてるような大声で、寝ている兵士たちや防人の鼓膜をつんざくがしかし、悪タイプの力を伴うその大声は防人の力を増させる。
 まずは、レンガの地震が周囲のすべてを粉砕する。天幕に眠っていた兵士たちは最悪の目覚めから何が起こったかもわからないうちに殺され、巻き込まれないように跳躍したロゼは、防人たちがそうしたように自己暗示で強化した膂力を以ってして、立ちふさがる者を全て蹴散らし、すれ違いざまに切って捨てながら防人の攻撃に巻き込まれないよう戦線を離脱する。
 緩むことの無い高速移動。暗闇に紛れるゾロアークが高速で動く姿を肉眼で正確にとらえることは難しく、陣の真ん中だからと奇襲すら装置していない兵士たちは丸腰だ。剣を持ちだしてきたところで、寝起きの兵などおそるるに足らず、無人の荒野を行くがごとしの勢いでロゼはゼクロム派の人間の陣を抜けた。
 その間のアオ達は、伝説以上のの活躍を繰り広げる。レンガが戦列を乱し、ヒスイが雑魚を蹴散らし、アオが残った敵を――と、言いたいところだが、正義の心を限界まで積もらせたレンガの攻撃を耐えきる者なんているわけもなく。
 結果、二人はレンガがカバーできない死角からの攻撃をつるぎで跳ね返したり、手助けの技でレンガを強化したり、壁張りなおしたりという仕事に終始した。それを続けるうちに、勝てるわけがないと人間たちは蜘蛛の子を散らしたように逃げるのだが、方角によってはその結果はひどいもの。
 待ち構えていたメブキジカの種爆弾により次々と肉塊にされてゆくさまは見ていて哀れなほどである。とるものもとりあえず逃げ出した兵隊たちが弓矢を持っているわけもなく、メブキジカを避けたルートを通ろうとした結果アオ達に追撃されてしまって多くの命が奪われてしまった。

 そうして、敵が疎らになってくると、アオ達は潮時とばかりに撤収した。
「ご苦労様、防人の皆さん」
 血まみれの体毛をなめて毛づくろいしながら、アオは同じく血まみれのアオ達を迎える。
「ロゼ。お前こそ、苦労がようやく報われたという感じだな」
「恐縮です、アオ様」
 ロゼは散らばった人間の死体の中で、青い身体を赤く染めて佇むアオから労いの言葉を受け、嬉しさを前面に押し出し喜びの表情を見せる。

 機密情報はさすがに無理だったが、侵攻やら制圧やらの情報が入ってきたときにはその戦争が終わらないうちに駆けつけ、応戦することが出来ればいいというくらいの認識で情報の飛び交う街に潜入させたところ、見事にこうして成果を挙げられたというところである。
 交易の盛んな街で得た情報によれば、双龍の街から出撃した軍が、雪花の制圧に向けて侵攻。その侵攻ルート上にある城塞都市を補給のための拠点として落とそうとしているとの情報を聞きつけた。
 情報を聞きつけたことには街の閉鎖が手早く開始され、ロゼも慌てて街の外に避難する形となり、相方のシンボラーと共に様子を見守ることとなる。城壁に囲まれた街はと言えば、開戦からすぐに籠城を決め込んでいたために、この攻城戦は長期化すると思われた。ゼクロム派、レシラム派、そしてどちらにも属さない商人たちも含めて、誰もがである。

 だが、その結末は、血だまり後にして何事もなかったかのように話し込んでいるアオ達を見れば一目瞭然である。
 アオ達ががんばってばかりのように見えて、丸腰で逃げていく人間を肉食のポケモンたちもさりげなく逃げる敵兵に襲い掛かりもするし、メブキジカ達の横陣はゼクロム派の兵士にとってみれば恐怖の隊商であったことだろう。
 そもそも、メブキジカ達は、防人たちが自信を強化するための悪タイプの技を持っていないことに比べれば、自分たちで強化できるという非常に強いアドバンテージを持っている。素の強さも、強さの伸び代もアオ達と比べて遥かに劣るメブキジカ達であっても、草笛を横一列に並んで吹き鳴らし、自身を強化しつつ向かってくる敵に自然の力をぶつけてやれば、草地の力を受けて種爆弾と化した力を強化された体から放てば、それは敵の体をやすやすと貫いて余りある。悪タイプの援護がなければアオ達でさえも危なかろう。
 このメブキジカの密集戦法も、かつてレシラムやゼクロムを大将として祭り上げたとされる戦争時代でのお得意戦法であり、ポケモンを統率するすべを失っている今となっては失われた戦法であった。しかして、レシラムと同じく強いカリスマのあるアオ達防人ならば――と、ロゼの入れ知恵を見よう見まねで実行したものだが、逃げ腰の敵には上手く刺さるものだ。草笛によって引き起こされた眠気で集中力も途切れたところに攻撃が来るのだからある程度は当然なのかもしれないが、逃げることも戦うこともまるで出来なくなった双龍からゼクロム派の軍隊は、なすすべなく瓦解した、

 敵は一万どころか三万の軍勢がいたのだが、その二割近い数をたった数頭のポケモンたちが駆除したという知らせは大いに雪花やその付近にある街を沸かせ、ジョジョに遠方にも矢のような速さで伝わってゆく。驚くほど思い通りに。この一件でアオ達は英雄視されることとなったのである。
 レシラム軍にとっては風のように現れ、風のように去って行った英雄コバルオン。ゼクロム軍にとっては、疾風の如き偶蹄の死神、偶蹄の悪魔が戦場を蹂躙していたと伝わった。
 その名が一般人にまで届くのはのちの話ではあるが、とりあえず初陣は非の打ちどころのない大勝利として歴史に名を連ねたのである。

 ◇

「まだミドリの事を気にしているのですか? アオさん」
 一日かけて自分たちが暮らしていた森へ戻ると、アオは座り込んだまま、上の空の心で星を見上げていた。ロゼは木の枝に腰掛けたままアオを見下ろし、身分の差なんてないかのように砕けた口調でアオに話しかける。
「……まぁな」
「一度は愛した男ですからね。気に病むのも仕方ないですが……お付きのケンホロウにも愛想を尽かされるような奴です。あまり気にかけすぎても体に毒では?」
「ロゼ、お前な……女性の心の傷を抉りかねないそういう発言は、気をつけて言った方がいいと思うぞ」
 と、言うもののアオは別段気分が悪そうな様子もなく、うっとおしいロゼの到来を喜んでいるようにも見える表情だ。
「す、すみません、アオさん」
「わかればよい……」
 本当に分かっているのかどうかは知らないが、と心の中で付け加えていると、ロゼは木の枝から飛び降りてアオの隣に座り、話を聞く体制を整えた。
「それに……愛想を尽かされるような性格になるほど彼の心をゆがめてしまったのは私なのだ……私が、もう少ししゃんとしていればな……」
「……誰を恨んでも仕方がありませんよ。後悔することで気持ちの整理をつけるのもいいですが、前を向きましょうや」
 アオは、ロゼの言葉を聞いていないわけではないようだが、黙ったまま何も言わなかった。少し黙れという合図なのかと判断して、ロゼはそのままアオと同じ方向を見続ける。
「天の川が綺麗ですね……」
「今日殺した者も、ミドリも、あの中にいるのだろうかな……」
 アオは星を見つめて思う。今度はロゼが黙ってしまって、意地の悪い質問をしてしまったものだとアオは思う。

「それで、何の用だ?」
 いい加減首が疲れたころ、思い出したようにアオが尋ねる。
「褒めてもらいたかったのさ。防人さんにね」
「頭でも撫でてやれば満足するのか?」
「……是非」
 馬鹿みたいなことを恥ずかしがる様子もなく言いながら、同意してくれたような口ぶりのアオに甘えてロゼはアオの前に移動して跪く。
「お前は馬鹿か」
「頭がよくて悦に浸れぬのならば、私は馬鹿でいいと思っております」
 驚くことに二人の会話は真顔である。
「わかった、ならば好きにしろ」
 と、アオは立ち上がり、ロゼは立ち上がったアオの胸元に顔をうずめる。
「うぅん。やっぱり人間の女とは一味違う柔らかさがありますねー」
 と、言っているロゼの口ぶりからもわかるように、このロゼという男は大層人間の世界を満喫してきたようである。
「そりゃ、我らの胸には乳房がついていないからな」
「それがいいんじゃないですかぁ。この鉄臭いにおいと獣臭いにおい。人間は体臭が薄くってね……夜になったらムーランドの香りを求めてさまよったことも一度や二度じゃないわけで」
「苦労かけたのは謝るが、それを私でやるなと言いたい」
 だが、まんざらでもないアオは言葉以外では彼を受け入れている。子供がじゃれてくるのを迎え撃つような穏やかな笑顔でロゼの熱い抱擁を受け止める表情は、
「いえいえ、役得には甘えませんとね」
 ロゼは悪びれるそぶりの片鱗すら見せずに、アオの胸に顔をうずめてその匂いを嗅ぐ。こんなことが許されているのは同じ防人のレンガと息子であるヒスイくらいなもので、ここまでずけずけと踏みこんでくるロゼの対応にはアオと言えども対処しきれない。
 恥ずかしいので黙ったままそれに身を任せていると、満足したのか最後い一回深呼吸して顔を離す。
「あー、やっぱり防人様は違いますねぇ」
「もう少し匂い以外も褒めて欲しいものだな」
「何言っているんですか。ほかのメブキジカがさんざん見た目の事は褒めているじゃないですか。それに胸のもふもふのさわり心地は抜群ですから安心してくださいな。どんな季節でも冬のメブキジカ以上の感触ですよ」
「そういう問題でもないような気がするぞ」
 やれやれとばかりにアオは肩を竦める。
「言葉にしなくても、アオさんはお美しいし、強くて素敵ですよ。自信持ってくださいな」
 そう言って、ロゼはアオの背中に手を置いて座るように促した。最初はいぶかしげにロゼを見ていたアオだが、ロゼが睨まれても引かないので素直に促されるまま座ることにした。
 そうして、再びロゼは胡坐をかいて座り、アオはいつでも眠れるような伏せた体制に。

「ところで、ミドリさんの事……さっきも聞きましたがやっぱり気にしているんですか?」
「そりゃ勿論さ。優柔不断でうじうじしている奴だったけれど、悪い奴じゃないんだ……目の前のものを救うのは私よりもずっと得意だよ。ミドリは……」
「人間だったら医者に向いていたかもしれませんね」
「確か医者というのはタブンネのような役割だったかな?」
「えぇ、他人の怪我や病気を治すのが仕事です……基本的に、誰も傷つかない仕事ですよ」
 笑って言ったロゼの表情を見ながら、アオは寂しそうにうつむく。
「人間の事、知れば知るほど私はうらやましくなってしまうな」
「楽しいことしか語っていなければそうもなります。人間だっていろいろ大変なんですよ……税金を納めるとか、強さ以外の要因で身分が決められてしまうとか。まぁ、私たちポケモンも生まれたときから捕食者と被食者が運命づけられてはいますが……抗うことを許されているから人間とは違うのです」
「ある意味では、防人というのも貴様の言うような貴族や王という存在に近い。それを踏まえて考えれば、人間とそう変わりないともいえるが……」
「えぇ、その上に立つ人間がまともならばなんですがね」
 アオがよいところに気が付いたとばかりに、ロゼは言う。

「アオさんたち防人は、きちんと自分の責務を果たしているじゃないですか。だから、私たちは尊敬するし、ついていきたいとも思います……しかし、しかしですよ? 王が横暴でまともに仕事をしなかったらどう思いますか? たとえるならばアオさんが、メブキジカに食料を集めさせて、木を切り倒されていようと知らんぷりなんて感じですよ」
「私なら間違いなくそんな腐れ防人は殺すな。殺せれば、の話ではあるが……」
「殺せませんよ。王様は守られていますからね。あなたとは違って肉体が極めて強いわけではありませんが、手を出せないんです。そして、兵隊も強い……ですから民間人は武器を持っていて、しかも鍛えている兵隊に対して何も抵抗できないのです」
「だろうな。私に勝てるメブキジカもいないことだし……草笛を利用したあの戦法で攻めてこられれば別かもしれんが」
 アオはため息をつく。
「人間は加害者なのですが、加害者のほとんどは被害者でもあるのです……ただの加害者でしかない人間なんてごくわずかなのです」
「民間人も被害者か……」
「戦争のために、沢山の人間が被害をこうむっています。貿易で優位に立ちたいとか、相手国を搾取したいとか、そんな理由で戦うくせに、国の利益ばかり優先して民間人への利益の還元も少ないんですがね」
「つまり、たとえるならば私たち防人だけが肥え太っていくわけだな」
「ええ。その証拠にいつまでたっても下の人たちは裕福になれません。兵隊たちはたくさん飯を食っているから元気いっぱいなのに、民衆は飢えて死ぬ人の多いこと……」
「みんなで食料を分け合えないのか? というか、皆で仲良く畑仕事をやればどうにでもなるんじゃないのか、それ」
「なんででしょうね? 人間は私達より賢いんです。その人間が考えても考えてもダメなんですから、そんな単純じゃないのかもしれません。農地が足りないとか……そういうものなのでしょう」
「殺しあうことで均衡をとるのなら、我々ポケモンを巻き込まなければ大歓迎なのに。バオッキーだって喧嘩するときに森で炎ぶちかます馬鹿は居ないというのに」
「人間の縄張り争いは殺しあわないと無理ですから……」
 実の無い問答をしているうちに、空しくなってアオは黙る。

「そういえば、なんで人間が戦争を行っていることに対する愚痴になってしまったんでしたっけ?」
「……そういえば、なんの話題だったか」
 そう言って顔を見合わせ、二人は笑いあう。
「え、っと……確かあれですよ。ミドリさんの事……」
「そうそう、それだ……私も年かな」
「そんなことないですって。アオさんお美しいままですし」
「そう言われて悪い気はしないが、私は逆にお前らが先に老いていくのが寂しくてたまらんよ……もう、私に仕えるケンホロウも3代目だ……って、また脱線させる気か?」
「アオさんが『私も年かな』って言ったのがいけないんじゃないですか」
「……そうだったな」
 ふぅ、とため息をついてアオは続ける。
「ミドリは、私の都合にずいぶんと振り回されていた気がするんだ……そのせいで、今でも悩んでいる。私は、どうすればよかったのかって……もっとうまく話し合っていれば、殺し合いは回避できたんじゃないかって、思ってしまうんだ」
「あったとしても、もうミドリさんはもう……」
「言うなよ。それでも考えずにはいられないのさ。私はうじうじしていることが多いからな……」
 アオはため息をつく。
「話を聞いてはくれないか。誰にも言えなかった言い訳……すこし、誰かにぶちまけたいんだ」
 アオの視線はどこを見ているのやら。一定しないせずに移ろう目線を負いながら、セグは彼女の苦悩する表情に嘆息する。美しい、とは思ったが、やっぱり活力が足りない。
「……レンガさんじゃなくてよいのですか?」
「あいつは、私の悩みに関係がある。全く無関係のお前で、一番気を許せるのがお前くらいしかいないから……」
「そうですか。では、聞きましょう」
 小さく会釈して、ロゼは胡坐をかいた膝の上に肘を置いた。

「私はな。ずっと自分に嘘をついていたんだ……」
「ええ、存じております」
「あぁ。お前にも話したと思うが、人間に祭りに誘われた時に、奴ら祭りに乗じて私達を殺そうと罠を張っていたんだ……レンガとミドリは、爆弾を。私の方にはクロスボウを持った人間が何人も囲んでいてな。森のポケモンたちに手伝ってもらって撃退したが……
 そのあと、私はクロスボウの矢を食らって盛大に転んでしまってね。その時、流産したあたしはあまりのショックで……『最初っから子供がいなければ、こんなに悲しい思いをせずに済んだのに』って、強く思ってしまったんだ」
「それは……辛いですね」
「あぁ、辛かった。辛すぎて、私は忘れてしまったんだ……自己暗示は得意だったからね、それを悪用して。自分が腹に子供を宿していたことすらな。だけれど、憎しみは残ったんだ……」
「その憎しみによって湧き上がる怒りを、義憤だと勘違いして人間を襲ったのでしたっけ?」
 あぁ、とアオは頷く。その目の端には涙が玉のように浮かび、瞬きするとともに零れ落ちる。
「憎しみの感情を憎しみと理解できず、義憤に駆られての行為だと思い込むことで私は自身を正当化しようとした……単なる虐殺を、私は正義と信じてやった。自分の感情が憎しみだとわかっているのならば……せめて、あんな復讐という愚かしい形ではなくもっと別な……別な形で、解決を試みたかった」
「それが、今につながるわけですね」
「そうだ。ミドリは、そんな私を嫌っていた。そして、うじうじして人間を殺すことに協力してくれないミドリの事を、私も嫌っていた……その結果、私はミドリに酷いことをしてしまい、彼を追いつめてしまったんだ。
 彼の子供がビリジオンだったから、その子さえいればお前に用はないって……この森を追い出した」
「どっちも、辛かったのでしょうね」
 そう言ってくれたロゼの言葉が嬉しくて、少し気がまぎれたアオはかすかに笑みを浮かべる。
「辛かったさ……お前がいない間、レンガの胸で沢山泣いたし、ミドリは姿を消したまま会いに来なくなるほど辛かった……あいつなりに相当傷ついていたんだと思う。それで、自己暗示で非常な自分を演じていたんだと思う。そうでもないと、説明できないくらいにあいつは豹変していたから……それほど辛い思いをさせて、さらに追い打ちをかけるように私はミドリを殺した」
 言っているうちに、アオの声が上ずり、裏返る。
「私……ミドリにとって最低の女だな……」
「かもしれません……」
 誰にも見せたことの無いような、アオの涙。その灘を目の当たりにして、慰めるよりも先にロゼは肯定する。
「でも、他の誰かにとって、最高であればいいじゃないですか。そのために、アオさんは動いているんでしょう? 森の木々を、戦争なんかに利用させないって息巻いているんでしょう? そんなあなたについていく私は、最低な女についてゆくアホですかね?」
「私を、お前はどう思うのだ?」
「最低な女でも、今は頼れる防人です。だから軽蔑しようなどと思ったことは一度もありません。正直、貴方が子供を産むまで……ヒスイさんを産むまでは少し怖かったですが、今はもう……テラキオンの女の子も生まれて、子供を二人も育てているじゃないですか。今はもう優しさがにじみ出ていますよ……誰かを殺すとき、それに対して感謝と、謝罪の心を浮かべられる。そんなあなただからこそ、ついてゆきたく思います」
「自分だけ幸せになってとんだ食わせ物の女だとは思わんのか?」
 自嘲気味に笑いアオは尋ねるがロゼは否定する。
「あなたは、失うものが何もない時にこそ、ああして虐殺を繰り返していましたが……今の戦う理由は、後世のための戦いなのではありませんか? 正直なところ、私は人間の偵察のために人間と一緒に居た時間も多いですが……レンガさんは貴方は子供が生まれて変ったと、何度か漏らしていることを聞いていますし、私もそう思います。
 まぁ、変ったのが子供のせいなのか、それとも流産の事実を知ったからなのかは正直なところ分かりませんが……やっぱり、守る者が出来たからなんじゃないかなって思うのです。いくらあなたが防人ったって、名前も知らないような他人のために戦うって鳴門モチベーションも下がるでしょう? 子供という、明確な護る隊証はかくも特別……母親の、真下や草食動物で、しかも防人であるあなたの思惑なんて私には絶対に理解出来ないかも知れませんが、そうでしょうや?
 ですけどまぁ、なんというのでしょうか……そんなの所詮は憶測ですからね。本当のところはどうなのだろうかって思ったことは一度や二度じゃなかったりします……」
 長い長い言葉を終えて、ロゼはアオの方を上目づかいで覗き、頼む。
「ですから、アオさんが戦う理由、聞かせて欲しいですね……」
 柔らかな微笑を湛えて、アオは小さく鼻息を漏らす。
「戦う理由など決まっている。防人の使命として、森に住む者たちを守る義務がある……生まれたときから備わったその業を背負って生きている」
「それだけですか?」
 ロゼの言葉に何も返すことが出来ず。アオは黙る。
「子供が健やかに生きられる森がいい。そんな森を作りたい……とは思っているさ。私たちの世代は、思ったよりも早く三つのつるぎが揃ったからな。子供の世代にすべてのつるぎがそろった場合、親の世代は防人を引退して森を去るのが決まりだ……そうして旅立った私たちの親の世代は、森に変えることもせずに放浪の旅をつづけ、そこで設けた子供にも旅を強いるのさ……いつかその旅の過程で、三つのつるぎと出会い、揃うまで定住は許されることもなくな。今頃親は……どうしているのやらな……っと、すまない。話が逸れた」
 自分でそれに気付いて、アオは咳払いを一つ、話を戻した。
「ともかく、早くに三つのつるぎが揃ってしまったばかりに、私たちは一人の教育役を残されたのだ……ミドリの父親、モエギというビリジオンをな。しかし、そのモエギもトルネロスの襲撃にあって、死んでしまった……だから、私たちは子供をもっときちんと育ててやりたいと。そう思うんだ……そして、子供たちのために何か残してやりたいとね。
 そうじゃないと、寂しいじゃないか……一番最後に生まれた子供は、親の顔すら知らずに育つのだから、少しでも私が生きた証に触れてもらわないと……」
「そうですよね。子供が生まれてよかったというものです」
 納得したようにロゼは笑うが、よせやいとアオは笑い飛ばす。
「だが、それと人間を攻撃するのは全くの別問題さ。ただ、タイミングが悪かったとも良かったとも言えるが……タイミングが重なっただけで。生きた証を残すには絶好のチャンスだけれど、出来ればそんなチャンスも来て欲しくなかったよ……出来る事なら遠い昔のように、人間と我ら防人が同じ場所で同じものを飲み食いできるような世界がよかったさ……
 だが、こういう世界に生まれてしまったのだ。『たら』『れば』なんて言葉を使って、現実から目を背けても意味がないんだ……子供たちが大人になる前に戦争を終わらせる。ともかく、それが今の私の望みだよ」
 言い終えたアオは満足そうにため息をついた。ロゼは頷くと、風が流れるままに任せて沈黙を味わう。まだ消し切れていない血の匂いが風に戦いだ。

「貴方は……」
 ロゼは言いかけることで、聞く準備を促してから本格的にしゃべる。
「貴方は今まで、この世界を生きてきた&ruby(あまた){数多};の防人とは違う業を持って生まれたのですよ、きっと。でも、変化には苦痛が伴います……その苦痛を、ミドリさんや人間にばかり押し付けているように思っているのかもしれませんが、それは違うのではないですかね。貴方は頑張っているし苦しんでおります。
 自身が殺しあいの業を背負うこともヒスイさんが同じく殺し合いの業を背負うことも、良い顔をしていないのを知っています。ですから、高みの見物だと思う必要はないですよ……一緒に苦しみながら新しい時代を作っているのですから……」
「だと、良いのだがな」
 瞬きと一緒に、アオは目を伏せ俯く。
「何が正しいのか、アオさんはきっとわからなくなっているのだと思います。そんな時は、私たちがいます……私たちは貴方に従っていますけれど、私が貴方に何も言わずについてきましたでしょうか? ミドリさんほど反発はしませんでしたが、私もレンガも貴方に何も言わずについてきたでしょうか?」
 アオはロゼに言われた言葉を思い返す。
「『人間にも、良い奴はいるのです』。だったな……」
「えぇ、自然を壊すことを反対する者もいますし、戦争のために森を荒らすことを良しとしない者もいると……彼らもまた被害者であると」
「レンガにも同じことを言われた」
「言われて、どうしました?」
「ヒスイが実は二番目の子供だと教えられたあの日……人間も被害者だというのならば、人間の加害者を殺そうと、ターゲットを絞ろうと考えた……。そして、話し合ったな」
「えぇ、そうして試行錯誤しているのです。だから私たちは貴方についてゆくのです……あなたが正しくないと思ったのなら、私たちは貴方を止めますし、諭してそれとなく報告修正させますよ。ですから、ついてくる人がいる以上は……大丈夫なんだって。それでいいんじゃないでしょうかね?」
「そういうものなのかな?」
「私はそう思っております。……もちろん、怖くて何も意見できないほど横暴な領主も、人間の中にはいないこともないのですがね……アオさんはそうじゃないですから。それに何より、私達も人間との関係を変えたいのです……そのためには行動しなきゃ何も変わりませんよ。行動できる貴方に誰もが惹かれるのは、貴方が持っているのが他にない要素だからですよ」
 アオはロゼに言われて、自分の中にある、絡まった感情を整理する。実のところ、最初から自分のやりたいことはほとんど結論が見えている。
 それでも、自分のやっていることが不安で仕方がなく、誰かに後押ししてほしくなる。そういう時に、このロゼという男はレンガよりも口がうまくて、良く慰めてくれそうなのをアオは日々の暮らしの中で知っていて。
 長女の&ruby(みかげ){御影};はヒスイとレンガに任せ、それとなく人気のないところにこの男を誘い出しては見たが予想以上に気分が楽になったことに、アオは人知れず感謝する。
「その要素にほれ込んだんです。あ、でも……ああ田がすぐにこうやって弱気になる一面に幻滅吸う人もいるかもしれませんから……ですから、私は大丈夫ですけれど、他の人には弱気なところ見せないでくださいよ?」
「わかっている。お前だからこそこういう一面も見せられるんだ……あとは、レンガに見せるくらいかな」
「おや、防人様の特別になるとは至極光栄極まりない」
「光栄か……そうだな」
 何かを考えながらアオは笑う。

「私はたまに、不思議なことを考えてしまうことがあるんだ」
 ロゼと話すうちにどこか吹っ切れたのか、アオは独り言のように取り留めもなく話し始める。
「お前は、多分私たちの中で最も人間に深く染まっている……私はそんなお前が好きだ。交尾したくなるわけではないがな……私達よりも物事を柔軟に考えたりしている。そんな風に見えるんだ……
 人間に染まっているお前を見て思うのは、私が……人間を好きになれるんじゃないかって思っているのだ。最近はな」
「そりゃまた……人間と仲良くなれるならばなりたいものですが」
「昔は、人間と我々は住む場所こそ違えど、狩る者と狩られる者の関係であれど、酒を飲み交わす仲であったという」
「あぁ、よくレンガさんが言っておりましたね……酒って、あれは最初はまずいですけれど、慣れたらおいしいもんですよねー」
「そうなのか? レンガやミドリはまずいと言っていたからな、人間の味覚はわからないなんてぼやいていたもんだが……」
「慣れればですよ。あの飲み物の中のまずい味に対して鈍感に、美味い味に対して敏感になれば美味しく飲めるようになりますよ」
「都合のいい舌になるのだな」
「ええ、都合のいい舌になるまで飲むんです。それが出来るくらい、昔は人間と仲が良かったんじゃないですか?」
「なるほど」
 そういう考え方もあるのかと、アオは頷く。
「本当に……そういう時代がまた来るといいな」
「作りましょうや。きっと、いつか昔に戻れますよ……あなただけじゃない、人間もそう願えば」
 力強いロゼの言葉に、アオは驚き目を見開く。
「お前は、それが出来ると思うのか?」
「人間は現金なものです。今頃、街じゃあなたの事を英雄だなんだと勝手なことを言っているでしょうよ……」
「そうなのか……じゃあ、我らは今頃、大歓迎ムードあのかな」
「かもしれませんよ。そうじゃないかもしれませんし……まぁ、良くも悪くも恐れられていることは確かでしょう。まそれに、やられた軍隊の方には死神とか悪魔とか破壊神とかいろいろ呼ばれているでしょうが……なんなら、明日にでも人間のところに行って調べてきましょうか?」
「一つの戦争が戦争が勝利で終わったのだ。そんなに急ぐこともあるまいて」
「いえ」
 ロゼは笑って、アオの言葉を受け流す。
「アオさんの喜ぶ顔が見たくなりました」
「おいおい、お前は……そんな理由でどこに行こうというのだ」
「もちろん、人間の動向を知るために、人間の街、雪花へ」
 得意げに言って、ロゼはアオに肩を寄せる。
「貴方に嬉しいニュースを持ってきたいのです」
「で、私に肩を寄せる理由はなんだ?」
「好きだからです」
「防人に生まれ変わって出直して来い」
 アオは笑ってロゼを貶すが、まんざらでもないアオの表情がロゼには嬉しかった。
「防人はあと一人、防人を産まねばならんのだ。それまでは防人以外の子供を産む気は今はないよ。まだコバルオンがいないのだからな……」
「と、言うことは貴方にコバルオンが生まれたら、貴方は私と子づくりしても良いということになる。その時は狙ってもいいんですね」
「そうは言っていない。だがまぁ……発情期が来るまで頑張って生きてみろ」
「よし来た」
「来るな」
 他愛もない、くだらないだべりあいをしながら、二人はつかず離れず、現状維持のまま口だけを動かした。
 人間を虐殺しつてしまった自分が幸せになることはとても虫のいい話かもしれないのだけれど、それでも。


「今ならわかるよ、ミドリ。恨むべきは人間じゃないってこと……私の子供を殺した人間はもういない」
 ロゼがいなくなった森で、一人森の見回りに従事するアオは、骨がほとんどバルジーナに回収され、僅かばかり残ったミドリの亡骸を埋めた場所にて自分の思いを吐露する。
「自分の行ってきたことが正義じゃなくても、それに付き合ってくれたレンガの気持ちも嬉しいけれど……あなたの言うことも正しかったのだと今は思う。
 許してくれとは言わないけれど……せめて、私の子供だけでも導いて欲しい。貴方が言う、人間も救いたいというその思いを……私なりの方法で実現できるように頑張るから」
 当然墓から声が返ってくることもなく、アオは長女の教育をしながら次の戦が始まるのを待つ。小競り合いや定期報告のために、毎回新月のころになるとロゼが帰ってきては、自分の恋心に答えるどうかと聞いてきたが、全部あしらっていくうちに、季節が夏から一年後の秋になるまで月日が過ぎて行った。
 このとき、アオはもう23歳となっていて、長男のヒスイも6歳。長女のミカゲは3歳となっていた。

 ◇

 この戦争における争いの発端は、税金であった。気温も暖かく豊かな南部と、海岸の東部では税率が比較的高く設定され(このあたりを理解することさえアオは難しかった)、雪花や双龍といった大陸の中心側にある街は税金が安く設定されていた。
 大陸深くは乾燥しているために作物を育てるのも難しく、鉱石などを売買して凱歌を得るの意も限界がある。そのため、大陸の中心側が安い税率で、そうでない場所が重い税率というのは至極当然の流れであったのだ。

 その関係を維持しようと主張するのが、真実を掲げるレシラム軍。平等という名の不平等を推し進めようと、ゼクロム軍がレシラム軍に圧力をかけているという状態だ。実際のところ、ゼクロムを信奉する軍隊の言うとおりに『税率を平等にする』ことは、深刻な貧富の差を生み出すことになる。
 それが内乱や革命につながるかもわからないことを危惧し、『今の税率を維持しようとすることが真の平等である』とレシラム派は説くのだが、私利私欲にまみれた豊かな地域の領主であるゼクロム派達は、そんなことがまるでどうでもいいかのようにレシラム派の意見を圧殺しようとしている。

 小数を犠牲にされることを恐れている雪花の住民にとって、アオ達はロゼの言うとおりまさしく救世主として崇められる存在となって行った。そして、より豊かになろうと豊かな海側、南側の税率の引き下げを求めるゼクロム軍にも、アオ達の行動は強欲な自分たちに対する天罰だなどととらえる者もちらほらと現れ、雪花近郊に攻め込もうという兵士たちの士気は減少を続ける一方である。
 対してレシラム派の兵士たちの士気はうなぎ登りで、しかもアオ達のおかげで雪花の守りは薄くても大丈夫だと判断したのか、南側の守りを厚くすることで南側においては人も兵器も豊かなゼクロム派に対して連戦連勝であるらしい。

 そうこうしているうちに、神格化されたアオ達の元にある日謎の訪問者が訪れる。
「それで、私に会いに来たというのだな……カイジ?」
 レードが引退した後の後継者として伝令役を務める
「えぇ、変な奴ですよ何か先端に水晶のようなものをはめ込んだ杖を持っていて金属がチリチリと鳴るんです。マントを羽織っているから旅人のようでもあるんですが……なんだか見たことの無い鳥もつれていますし、ここらじゃ珍しいリオルやメタグロスも連れていて……さらには、防人様たちにも似た偶蹄のポケモンも……」
「防人にも似たポケモンだと……?」
「正体は不明です……それで、とりあえず最近暴れまわっているポケモンを出せと。お付きのリオルを見る限り、こちらの言葉もわかっているようですし……普通の人間じゃないですよあれ」
「わかった。とりあえずムーランドを集めよう。私に噛みつかせて、万全の態勢を敷いてからあった方が無難だし……それに、有志を募っていつでもそいつを殺せるように兵隊を集めておけ」
「わかりました。生け捕りの必要は?」
「出来るならば生け捕りだが、むずかしかったら構わん、殺せ」
 そんな、味気もないアオたちの会話など知る由もなく、人間は防人を呼んでくると言い残して飛び去ったカイジをのんびりと待つ。杖を立て掛け、木の幹に腰掛けながら木漏れ日なんか浴びて。一応この場所には肉食のポケモンなんかも出没するのだが、そんなのが現れてもどうということはないとばかりの無防備さ。確かに、連れているポケモンを見ればそれも納得だ。
 ジャイアントホールと呼ばれる辺境に住むメタグロス。そして修行の岩屋と呼ばれる広大な岩窟に住むリオル。どちらゼクロム派が住む領地からのポケモン、ということは、もしかすると、もしかしなくとも敵である可能性は高い。
 しかし、わざわざ自分が敵であるということをわかりやすく教えるような愚かしい真似などするのであろうか? シキジカとかならどこにでもいるわけだし、渡り鳥の様な龍にもカイリューのように強力な種はいる。
 だとすれば、逆に敵であるということをわからせるための編成なのであろうか、真相はわからない。
「やぁ」
 アオが接近すると、転寝をしていた男は帽子をとって挨拶をする。こちらの事を警戒もしなければ恐れもしないその態度、アオは少々気に障らないでもなかったが、あくまで冷静にその男を観察する。
 紺色の服。ところどころに山吹色の紋様をあしらい、手の甲には強い力の渦巻く水晶がはめ込まれた青い手袋。つんつんに跳ねたヘアースタイルだが、手入れ不足ではなくつややかに仕立て上げられている。匂いは少なからず血の匂い。それはリオルのものなのか本人自身からも漂っているのかはわからないが、間違いなくこの男自身は今まで戦ってきたどんな敵よりも強い。
 正義の心を限界まで積みきった今だから勝てると断言できるが、この男の中にある得体のしれない力は、敵に回せばこの上なく危険である。そしてもう一人、額から生える純白の一本角、そして耳の付近から生える青い角。深紅の鬣はどこかロゼを髣髴させるが、尻尾や首回りの青い体毛や、純白の顔と胴。そして雨に濡れたように水分を含む尻尾などはこのポケモン独自のものである。
 シキジカに近い体型ながら、彼女はすでに大人のようで、しかも子供を一人連れている。子供の方はまだ角も生えていない、今年の春に生まれたばかりの幼い個体のようだ。メタグロスやよくわからない鳥に対してきゃっきゃとはしゃぎ回る際には、蹄から水を出して滑るように移動していて、何とも優雅なものである。
「何の用だ、人間よ? ポケモンを見る限りどうやらゼクロム派の地方から来たようだが……」
「中立だよ……」
 まるで、喋られることが当然であるかのように、アオがテレパシーを用いたことを気に留めず男は答える。
「ゼクロムもレシラムも、私は関係のない立場にいるんだ。外国から、留学に来た口でね……確かにこの子たちはゼクロム派の土地で捕まえたポケモンたちだけれど、関係はないよ」
「留学?」
「自分の暮らしている土地では学べないことを学ぶことさ……ついでに、ポケモンも捕まえて故郷に送っておこうとね……」
「留学というのはよくわからないが、お前の口ぶりからすると我々の敵ではないわけだ」
「うん、そうだね」
 と、男は頷く。
「では、何のために来たのだ……人間よ」
「アーロン」
「アーロン?」
 人間が口にした謎の言葉に、オウム返しでアオは尋ねる。
「私の名前だ。アーロン、と呼んでほしい……君は?」
「&ruby(アオ){鏖};。というか、人間と普通に会話しているというのもなんだか妙な感じだな……」
「私は、あの子と話すのに慣れているからね……あの子も人間と喋られるんだ。変った子だろう?」
 そう言ってアーロンが視線をよこすと、リオルはおずおずと頷いて自己紹介を始める。
「王林です、よろしくお願いします」
「オウリン……か。よろしく。リオルは進化すれば色もタイプも同じでよく似ているポケモンだと聞いているよ。なんだか親近感もわきそうだな」
 形だけの自己紹介を終え、アオはアーロンに目を向ける。目鼻立ちは見事に整っており、この森まで旅してきたというのに(メタグロスやリオルを乗せてピジョットが飛ぶことは不可能だろう)それを感じさせない清潔感もあって、人間だというのにどこか浮世離れした印象を受ける。
「話を始める前に、君達に紹介するポケモンとして……もっとも重要な子を一人紹介するよ。種族名はケルディオ……君達3種の剣に加えて……最後のつるぎだ」
「最後の、つるぎ?」




















「私も、正義の心の特性を持ち、聖なる剣を使えるのです……」
 ケルディオという種族らしい女性は、そう言ってはにかんだ。
「私の名前は&ruby(ミズキ){水樹};。この子は&ruby(ミソギ){禊};」
「それで、私に用というのは?」
「君達が、雪花の森と雪花湿原を守っているコバルオン達でいいんだよね」
「あぁ、巷では英雄などと呼ばれているが……正直、そんなことよりも早く戦争が終わってほしい限りさ」
「その事なんだけれどね」
 まだしゃべろうと思っていたところで横槍を突かれ、アオはむっとするがそれよりも大事なことがあるとばかりにアーロンはアオの目を見据える。

「こんなことはあまり言いたくないのだけれど、人間を甘く見ないほうがいい。手段を選ばなくなった人間は……君たちの都合なんてお構いなしに酷いことをするよ……」
「その時は返り討ちにするまでだ」
「うん、相手が剣や槍を持ち出してきたのならばぜひともそうするべきだと思う。でも、相手がそんな親切だとは限らないんだ……そうだね、例えば焼き討ちなんてのは人間にとっては良くある攻撃手段だ」
「焼き討ち?」
「火事にさせる事さ。要するに火で攻める事。人間の場合は街を焼くことが一般的だけれと。ここは森だから、街以上によく燃えるだろうね……」
「馬鹿な。そんなことバオップの子供が一番最初にやっちゃいけないこととして教育されるものだぞ?」
 アオが声を荒げるが、アーロンは首を振って否定する。
「人間にとっては常套手段さ……相手を殺せるのならば、関係ない……君たちが殺せるのならば、人間はどれほどにだって残酷になれる。女を求め、交尾のために殺し合いを繰り広げるポケモンは多々いるが……だからと言って、大抵は逃げる者を追いはしない。
 しかし、人間はそれをする。根絶やしにしなければ気が済まないような奴もいる。そして君は、その標的になりかけているんだ」
「それは脅し……いや、挑発と受け取っていいのか?」
 その言葉から一拍置いて、アオは角を構える。

「脅しとも、警告とも取れるだろう……だが、私は中立の立場。それ以上でもそれ以下でもない……私の言うことを信じて、それでもゼクロム派を邪魔するのか、手を引くのか……人間相手に先手を打つのか、それは君の自由だ。
 だがね、君達の住処はこうして……私にまでばれてしまっているというその意味を、もっと重く受け止めておくべきだと私は思っている。ゼクロム派の者もきっと住処を知っている」
「わかった、心に留めておく……」
 突き出した角を収め、アオは立っているのも馬鹿らしくなったのか、座ってアーロンと同じ目線になる。
「でもね、悪いことに、もう今の状態ですら手遅れなんじゃないかと、彼は言っていた。今になって君たちが雪花周辺から手を引いたとして、それでゼクロム派の者たちがどれほど納得するのかもわからないってね。悲劇的な結末を変えることは出来ないかもしれない……だけれど、最後のつるぎのこの子ならば、もしも火事になっても最悪の事態だけは避けられるかもしれない」
「最後のつるぎ……ケルディオ、か。何者なのだ、こいつは?」
「最後のつるぎさ……戦いを収めるためのつるぎさ」
「戦いを収めるためのつるぎ……だと?」
「ええ」
 今度はアーロンではなく、ミズキが答える。
「ワシらのつるぎは、嬉しい感情や親愛の感情を表すときに、知らず知らずのうちに角を叩き合わせるような行為をしておるのじゃ……この森ではどうかはわからんがのう」
 アオは自身の行動を思い返す。思い返してみれば、レンガと喋っている時はいつもそれをしているし、ヒスイと触れ合うときは親子としても同じ戦士としてもコミュニケーションの手段として使用している。
「そうだな、嬉しいことを言ってもらったときなんかは、確かに角同士を叩き合わせている」
「人間たちの間でも、剣を交差させることは共に手を取り合って戦おうという意思表示の表れで……ワシのつるぎ、つまり角は……戦うための角ではなく、戦いを収めるための角なのじゃ」
「ほう。では、戦意を失わせるような技の一つや二つ、持っているのだろうな? それとも、その角を鳴らすと良い音でもなるのか?」
「いえ、残念ながらそれは……人間の間では、争い事というのは炎という形で表現されているのじゃ。一度燃え上がれば止めることすらできないものの象徴として……じゃから、それに対抗する意味での水なのじゃが……」
「ただの象徴的な意味であって、実際にそういう効果があるわけではないのか? なんだか、名前負けだな」
「う、うむ……残念ながら、名前負けというのは否定できん。……争いの炎なんてものは比喩じゃから、結局は雨を降らせても争いを防ぐことは出来んのじゃがな」
「まぁ、そんなものだよ、アオさん」
 と、アーロンはフォローする。
「昔は木造建築も多く、昔の時代では相手の土地を奪い取ったときに支配の象徴として家を燃やすようなこともあったから……いや、今でもか。今でも、戦場は放火されて蹂躙されることもある。それに対抗する水というのはとても重要なものだと思うよ」
 アーロンがミズキの言葉に補足するように言う。
「放火……? もったいないな……どうして人間はそんな無駄なことをするのだ?」
 もっともな疑問をアオは呈するが、アーロンは首を振る。
「相手に敗北を刻み付けるためなのだろう。逆らう気なんて二度と起きないように……このケルディオはそれを防ぐためのつるぎ。味方に向けるつるぎなんだ」
「私達に……向ける?」
「そうじゃ。無論、戦が終わるまではこのつるぎ、敵に向けることは変わらぬが……もしもヌシらが周りが見えなくなったときは、それを押さえるのがワシらケルディオのつるぎ。指揮官のつるぎじゃ……」
「いまさら、私達に何か指示を下そうというのか? 指揮官は私で間に合っている」
 もう長いこと自分が指揮官のようなものなのだから、いまさら何を言っているのだとアオは笑う。
「今は、危険な状態じゃからな。人間が何を仕掛けてくるかもわからないとなれば……その時、意見を出せる者が一人でも多い方が、上手く回ることもあろう。今までのヌシらの意見は尊重して、人間と戦うこと自体は否定せぬ……じゃが、そろそろどうやって戦いを収めるかを考える時ではないのか?」
「どうすればいい。奴らの本拠地にでも攻め込むか?」
「それは……」
 と、ミズキが言いかけたところで、アオはアーロンを睨む。
「アーロン。お前は何か意見はあるか?」
「そうだな。私が考えるに、住処を変えたほうがいい……さっきも言ったように、君達がここにいると、ゼクロム派のポケモンはここを狙うかもしれない。その時、被害に会うのはここのポケモンだ」
 アーロンは淡々と意見を述べる。強調することも誇張することもなく、ただ自分の思ったことを伝えるだけだ。
「いや、それは無理だ。この森を守らなければいけないのに、この森を離れるなどと……」
 と、アーロンの言葉をアオは否定するが、アーロンは笑う。
「そういうことは、仲間とも話し合ったほうがいいんじゃないかな……」
「あ……」
 間抜けな声を上げて、ようやくアオはレンガやヒスイと話すべき内容であったことに気付く。
「おい、カイジ。お前さっさとヒスイとレンガを連れて来い」
 アオは木の上に視線を向けるなり、どうにも閉まらない口調でそう言った。
 レンガとヒスイを交えて話し合いは続いたのだが、結局森を離れるわけにもいかないという結論は変わらず。戦争の終結を待つばかりという結論は変わらない。その話し合いの中で、ふと興味本位で口にしたアオの疑問。『ミズキとはいつどこで出会ったんだ』との問いに対して、ミズキは当ての無い旅をしていたら面白そうな人間なので話しかけてみて、その時に意気投合したからだという。
 もう一つ『アーロンはなぜここに来たのか?』という問いに対しては、『レシラム派の軍師に頼まれて訪れた』と返す。
 彼はゴチルゼルとウルガモスを飼いならし、テレパシーを用いて戦況を把握し即座に作戦を練る天才軍師とのことで、先見の才にも恵まれている。それゆえに今回も焼き討ちの危険性があるなどと口にした彼の突飛な言葉も、アーロンは信じ、彼に変わってここに訪れたのだと。ケルディオという種族名を知ったのも、その軍師から教えてもらったからだそうだ。

 結局、話し合いは深夜まで続いたのだが実の無いままに終わり、夜が明けるころには防人の人間に対する愚痴となっていた。
 アオは普段ポケモンたちが人間に対して何を思っているのかを延々と語り、アーロンは苦笑しつつもそれに相槌を打ちって受け止めた。ようやく愚痴も尽きて眠り、夕方ごろに起きたアーロンは、丁寧にあいさつをしながら知り合いの軍師が待つ雪花に戻って行く。
 この出会いをきっかけに、アーロンは自分の手持ちのうち、メタグロスだけを街に残し、ピジョットを駆ってこの森に来ることを一ヶ月ごとに繰り返すようになる。ミズキとミソギの様子は? この森に変わりはないか? 町は平穏だよ、とアオ達に情報を渡すために。
 そのうち、ロゼとも仲良くなり、彼の連れているリオルの王林とは、時折兄弟のように仲良く狩りに興じているようなことも聞いた。

 何もかもが平穏に過ぎてゆき、ゆったりと時が移り変わり、その年の冬。
 森は、アーロンの言葉通り炎に包まれた。

[[:ゼクロム]]

IP:223.134.158.230 TIME:"2012-07-02 (月) 00:05:11" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%3A%E9%96%8B%E6%88%A6" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 9.0; Windows NT 6.1; WOW64; Trident/5.0)"

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