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:最後のつるぎ の変更点


 ミドリの亡骸は、使いを出してバルジーナに処理をしてもらうように頼み、風の強い熱帯夜の中でアオ達は奇襲をかけた。

「ご苦労様、防人の皆さん」
「ロゼ。お前こそ、苦労がようやく報われたという感じだな」
「恐縮です、アオ様」
 ロゼは散らばった人間の死体の中で、青い身体を赤く染めて佇むアオから労いの言葉を受け、嬉しさを前面に押し出し喜びの表情を見せる。
 かつてポケモンハンターにこき使われていたゾロアークの彼は、主人の命令によって一人佇んでいるアオの命を狙ったが、匂いや仕草で速攻ばれてアオに骨を折られて返り討ちにされた。アオは何かに使えそうだからと彼を介抱し、優しくすることで手なずけ、人間の生活に溶けこませては情報収集に当たれるよういろいろ訓練させていた。
 機密情報はさすがに無理だが、侵攻やら制圧やらの情報が入ってきたときにはその戦争が終わらないうちに駆けつけ、応戦することが出来ればいいというくらいの認識で情報の飛び交う町に潜入させたところ、見事にこうして戦果を挙げられたというところである。
 交易の飛び交う町で得た情報によれば、双龍の街から出撃した軍が、雪花の制圧に向けて侵攻。その侵攻ルート上にある城塞都市を補給のための拠点として落とそうとしているとの情報を聞きつけた。
 都市の方は籠城を決め込み、戦争は長期化すると思われたのだが、その結末は今ここで血だまりの中で何事もなかったかのように話し込んでいるアオ達を見れば一目瞭然である。夜間、城壁の外で天幕を張り翌日に備えて眠っていた敵軍はアオ達の姿を見て一応の警戒を敷いていた者の、一番瞬発力のあるヒスイが足に力を込めた瞬間には見張りの一人目が声を出す間もなくやられ、他の見張りが叫び声をあげて何事かと起きる前にレンガの岩雪崩と地震が、声のように戦場を伝わり制圧する。
 ロゼが優れた悪タイプの技でアオを攻撃し、それをレンガやヒスイたちが自己暗示で共有する。素の状態でも数多のポケモンを圧倒するレンガの制圧力は、自己暗示とヒスイの手助けによって極限まで高められ、その勢いは誰も止められない。
 取り逃がした浮いているポケモン、飛べるポケモンはレンガが岩の技で倒すことも不可能ではなかったがやはりそこは確固撃破に特化したアオが仕留めてレンガへの攻撃を防ぐ。アオ達三人のあまりの強さに恐れをなしたところで、当然敵は逃げに入るわけではあるが、それを単純に許すはずもなく向かってきた敵を適当に迎撃するのが連れてきたメブキジカ達の役目である。
 アオ達はメブキジカをどれほどあてにしているかと言えば、これ以上ないくらいと言っても差し支えない。と、いうのもメブキジカの持つ草食の特性は、群れることで互いに互いを強化する自己防衛のための特性。
 アオ達が自信を強化するための悪タイプの技を持っていないことに比べれば、自分たちで強化できるということは非常に強いアドバンテージである。素の強さも伸び代もアオ達と比べて遥かに劣るメブキジカ達であっても、草笛を横一列に並んで吹き鳴らし、自身を強化しつつ向かってくる敵に自然の力をぶつけてやれば、草地の力を受けて種爆弾と化した力を強化された体から放てば、それは敵の体をやすやすと貫いて余りある。
 このメブキジカの密集戦法も、レシラムを大将として神格化した軍のお得意戦法であり、ロゼの入れ知恵を見よう見まねで実行したものだが、逃げ腰の敵には上手く刺さるものだ。草笛によって引き起こされた眠気で集中力も途切れたところに攻撃が来るのだからある程度は当然なのかもしれないが、逃げることも戦うこともまるで出来なくなった双龍からの軍隊は、なすすべなく瓦解した、

 敵は1万どころか3万の軍勢がいたのだが、その2割近い数をたった数頭のポケモンたちが駆除したという知らせは大いに雪花やその途中にある街を沸かせ、この一件でアオ達は英雄視されることとなる。

 レシラム軍にとっては風のように現れ、風のように去って行った英雄コバルオン。ゼクロム軍にとっては、疾風の如き死神が列をなしていたと伝わった。
 その名が一般人にまで届くのはのちの話ではあるが、とりあえず初陣は非の打ちどころのない大勝利として歴史に名を連ねたのである。

 ◇

「まだミドリの事を気にしているのか? 防人さん」
 一日かけて自分たちが暮らしていた森へ戻ると、アオは上の空のままに星を見上げていた。ロゼは木の枝に腰掛けたままアオを見下ろし、身分の差なんてないかのように砕けた口調でアオに話しかける。
「……まぁな」
「一度は愛した男ですからね。気に病むのも仕方ないですが、たまには忘れて楽しんだらどうです?」
「ロゼ、お前な……女性の心の傷を抉りかねないそういう発言は、気をつけて言った方がいいと思うぞ」
 と、言うもののアオは別段気分が悪そうな様子もなく、うっとおしいロゼの到来を喜んでいるようにも見える表情だ。
「す、すみません、防人さん」
「わかればよいのだ」
 本当に分かっているのかどうかは知らないが、と心の中で付け加えてからアオは続ける。
「それで、何の用だ?」
「褒めてもらいたかったのさ。防人さんにね」
「頭でも撫でてやれば満足するのか?」
 馬鹿みたいなことを恥ずかしがる様子もなく言いながら、同意してくれたような口ぶりのアオに甘えてロゼは木の枝から飛び降り、跳ねるようにして一歩でアオの前まで行き、ひざまずく。
「是非」
「お前は馬鹿か」
「頭がよくて悦に浸れぬのならば、私は馬鹿でいいと思っております」
 驚くことに二人の会話は真顔である。
「人間というのは妙なものだな……」
 どうやら人間の世界でよからぬものに触れて来たらしいロゼは、情報を得るためによく訪れたという酒場の中で女性の胸に顔をうずめることを覚えたらしく、アオには良くわからないがやわらかい胸の感触を楽しむとのこと。
 手癖の悪いロゼは街中でスリをしては女性にそういうことを頼んだというのだが、人間の言葉を発することが出来ないというのにどのようにそんなことをが出来たというのやら。聾者の振りをしていれば結構どうにでもなったと言い張るロゼの語る人間生活は得意げであったが、そうして人間と暮らすうちに色々と思うところはあったようだ。
 アオに対して民間人を襲わないようにと頼み込んだのもロゼ。民間人が完全に清廉潔白かと言えばそうでもないが、レンガ以上に真摯に訴えた『彼らもまた被害者』問う言葉はアオの心を揺さぶることに成功したのである。
 それが、ミドリの居ない五年間の間の出来事。人間と暮らしていくうちに、文字も読めるようになりさまざまな知識を吸収していったセグは、声帯こそどうにもならなかったもののこちら側からの意思の疎通も可能になって、生活については驚くほどなじんでいたようである。

「うぅん。やっぱり人間の女とは一味違う柔らかさがありますねー」
「そりゃ、我らの胸には乳房がついていないからな」
「それがいいんじゃないですかぁ。この鉄臭いにおいとケモノ臭いにおい。人間は体臭が薄くってね……夜になったらムーランドの香りを求めてさまよったことも一度や二度じゃないわけで」
「苦労かけたのは謝るが、それを私でやるなと言いたい」
「いえいえ、役得には甘えませんとね」
 ロゼは悪びれるそぶりの片鱗すら見せずに、アオの胸に顔をうずめてその匂いを嗅ぐ。こんなことが許されているのは同じ防人のレンガと息子であるヒスイくらいなもので、ここまでずけずけと踏みこんでくるロゼの対応にはアオと言えども対処しきれない。
 恥ずかしいので黙ったままそれに身を任せていると、満足したのか最後い一回深呼吸して顔を離す。
「あー、やっぱり防人様は違いますねぇ」
「もう少し匂い以外も褒めて欲しいものだな」
「何言っているんですか。ほかのメブキジカがさんざん見た目の事は褒めているじゃないですか」
「そういう問題でもないような気がするぞ」
 やれやれとばかりにアオは肩を竦める。
「言葉にしなくても、アオさんはお美しいし、強くて素敵ですよ。自信持ってくださいな」
 そう言って、ロゼはアオの背中に手を置いて座るように促した。最初はいぶかしげにロゼを見ていたアオだが、ロゼが睨まれても引かないので素直に促されるまま座ることにした。
 そうして、ロゼは胡坐をかいて座り、アオはいつでも眠れるような伏せた体制に・

「ところで、ミドリさんの事……さっきも聞きましたがやっぱり気にしているんですか?」
「そりゃ勿論さ。優柔不断でうじうじしている奴だったけれど、悪い奴じゃないんだ……目の前のものを救うのは私よりもずっと得意だよ。ミドリは……」
「人間だったら医者に向いていたかもしれませんね」
「確か医者というのはタブンネのような役割だったかな?」
「えぇ、他人の怪我や病気を治すのが仕事です……基本的に、誰も傷つかない仕事ですよ」
 笑って言ったロゼの表情を見ながら、アオは寂しそうにうつむく。
「人間の事、知れば知るほど私はうらやましくなってしまうな」
「楽しいことしか語っていなければそうもなります。人間だっていろいろ大変なんですよ……税金を納めるとか、強さ以外の要因で身分が決められてしまうとか。まぁ、私たちポケモンも生まれたときから捕食者と被食者が運命づけられてはいますが……抗うことを許されているから人間とは違うのです」
「ある意味では、防人というのも貴様の言うような貴族や王という存在に近い。それを踏まえて考えれば、人間とそう変わりないともいえるが……」
「えぇ、その人間がまともならばなんですがね」
 アオがよいところに気が付いたとばかりに、ロゼは言う。

「アオさんたち防人は、きちんと自分の責務を果たしているじゃないですか。だから、私たちは尊敬するしついていきたいとも思います……しかし、しかしですよ? 王が横暴でまともに仕事をしなかったらどう思いますか? たとえるならばアオさんが、メブキジカに食料を集めさせて、木を切り倒されていようと知らんぷりなんて感じですよ」
「私なら間違いなく殺すな。殺せれば、の話ではあるが……」
「殺せませんよ。王様は守られていますからね。あなたとは違って肉体が強いわけではありませんが、手を出せないんです。そして、兵隊も強い……ですから民間人は武器を持っていて、しかも鍛えている兵隊に対して何も抵抗できないのです」
「だろうな。私に勝てるメブキジカもいないことだし……」
 アオはため息をつく。
「民間人も被害者か……」
「戦争のために、沢山の人間が被害をこうむっています。貿易で優位に立ちたいとか、相手国を搾取したいとか、そんな理由で……民間人への利益の還元も少ないんですがね」
「つまり、たとえるならば私だけが肥え太っていくわけだな」
「いつまでたっても下の人たちは裕福になれません。兵隊たちはたくさん飯を食っているから元気いっぱいなのに、飢えて死ぬ人の多いこと……」
「みんなで食料を分け合えないのか? というか、皆で仲良く畑仕事をやればどうにでもなるんじゃないのか、それ」
「なんででしょうね? 人間は私達より賢いんです。その人間が考えても考えてもダメなんですから、そんな単純じゃないのかもしれません」
「……殺しあうことで均衡をとるのなら、我々ポケモンを巻き込まなければ大歓迎なのに。売るがモスだって喧嘩するときに森で炎ぶちかますばかは居ないというのに」
「人間の縄張り争いは殺しあわないと無理ですから……」
 実の無い問答をしているうちに、空しくなってアオは黙る。

「そういえば、なんで人間が戦争を行っていることに対する愚痴になってしまったんでしたっけ?」
「……そういえば、なんの話題だったか」
 そう言って顔を見合わせ、二人は笑いあう。
「え、っと……確かあれですよ。ミドリさんの事……」
「そうそう、それだ……私も年かな」
「そんなことないですって。アオさんお美しいままですし」
「そう言われて悪い気はしないが、私は逆にお前らが先に老いていくのが寂しくてたまらんよ……もう、私に使えるケンホロウも3代目だ……って、また脱線させる気か?」
「アオさんが『私も年かな』って言ったのがいけないんじゃないですか」
「……そうだったな」
 ふぅ、とため息をついてアオは続ける。
「ミドリは、私の都合にずいぶんと振り回されていた気がするんだ……そのせいで、今でも悩んでいる。私は、どうすればよかったのかって……もっとうまく話し合っていれば、殺し合いは回避できたんじゃないかって、思ってしまうんだ」
「あったとしても、もうミドリさんはもう……」
「言うなよ。それでも考えずにはいられないのさ。私はうじうじしていることが多いからな……」
 アオはため息をつく。
「話を聞いてはくれないか。誰にも言えなかった言い訳……すこし、誰かにぶちまけたいんだ」
 アオの視線はどこを見ているのやら。一定しないせずに移ろう目線を負いながら、セグは彼女の苦悩する表情に嘆息する。美しい、とは思ったが、やっぱり活力が足りない。
「……レンガさんじゃなくてよいのですか?」
「あいつは、私の悩みに関係がある。全く無関係のお前で、一番気を許せるのがお前くらいしかいないから……」
「そうですか。では、聞きましょう」
 小さく会釈して、ロゼは胡坐をかいた膝の上に肘を置いた。

「私はな。ずっと自分に嘘をついていたんだ……」
「自分に、ですか」
「あぁ。お前にも話したと思うが、人間に祭りに誘われた時に、奴ら祭りに乗じて私達を殺そうと罠を張っていたんだ……レンガとミドリは、爆弾を。私の方にはクロスボウを持った人間が何人も囲んでいてな。森のポケモンたちに手伝ってもらって撃退したが……
 そのあと、私はクロスボウの矢を食らって盛大に転んでしまってね。その時、流産したあたしはあまりのショックで……『最初っから子供がいなければ、こんなに悲しい思いをせずに済んだのに』って、強く思ってしまったんだ」
「それは……辛いですね」
「あぁ、辛かった。辛すぎて、私は忘れてしまったんだ……自己暗示は得意だったからね、それを悪用して。自分が腹に子供を宿していたことすらな。だけれど、憎しみは残ったんだ……」
「と、言いますと?」
「夢を見たんだ。現実の光景そのままの夢を……忘れようとしても忘れきれなかった、妊娠という思い出の残差が夢に出て、それに伴って、自分の子供を殺されてしまったということに対する強烈な憎しみだけが……私の中に残っていたんだ。
 レンガも、ミドリも、それどころか森の仲間全員が私の事を気遣って、子供なんて最初っから居なかったことにして話を合わせてくれていたのだが……だから私は、人間に対する自信の感情が、怒りではなく憎しみであることに気付けなかったのだ」
「それで、何か問題があったのですか?」
 あぁ、とアオは頷く。その目の端には涙が玉のように浮かび、瞬きするとともに零れ落ちる。
「憎しみの感情を憎しみと理解できず、義憤に駆られての行為だと思い込むことで私は自身を正当化しようとした……単なる虐殺を、私は正義と信じてやった。自分の感情が憎しみだとわかっているのならば……せめて、あんな復習という愚かしい形ではなくもっと別な……別な形で、解決を試みたかった」
「それが、例の……大人を虐殺したというあれと、さらにそのあと、村人をほぼ全員殺したという。あの……お話につながるというわけですね」
「そうだ。ミドリは、そんな私を嫌っていた。そして、うじうじして人間を殺すことに協力してくれないミドリの事を、私も嫌っていた……その結果、私はミドリに酷いことをしてしまい、彼を追いつめてしまったんだ。
 彼の子供がビリジオンだったから、その子さえいればお前に用はないって……この森を追い出した」
「その話も聞きましたが……どっちも、辛かったのでしょうね」
 そう言ってくれたロゼの言葉が嬉しくて、少し気がまぎれたアオはかすかに笑みを浮かべる。
「私が、自分の子供が既にひとり死んでいたことを思いだした……思い出させられたのは、そのあとの事だよ。レンガに、風化した遺骨を見せられて、ワンワン泣いて、自分の感情を整理するのにもかなり長い時間がかかった。それぐらい、私は最初の子供を心待ちにしていたんだって……自分で自分がわからなくなるくらいに泣いた。
 ミドリもきっと、あいつなりに傷ついていたんだと思う。ぞれで、自己暗示で非常な自分を演じていたんだと思う。そうでもないと、説明できないくらいにあいつは豹変していたから……それほど辛い思いをさせて、さらに追い打ちをかけるように私はミドリを殺した」
 言っているうちに、アオの声が上ずり、裏返る。
「私……ミドリにとって最低の女だな……」
「かもしれません……」
 誰にも見せたことの無いような、アオの涙。その灘を目の当たりにして、慰めるよりも先にロゼは肯定する。
「でも、他の誰かにとって、最高であればいいじゃないですか。そのために、アオさんは動いているんでしょう? 森の木々を、戦争なんかに利用させないって息巻いているんでしょう?」
「そんな私を、お前はどう思うのだ?」
「軽蔑しようなどと思ったことは一度もありません。正直、貴方が子供を産むまでは少し怖かったですが、今はもう……子供を二人も育てているじゃないですか。今はもう優しさがにじみ出ていますよ……」
「自分だけ幸せになってとんだ食わせ物の女だとは思わんのか?」
 自嘲気味に笑いアオは尋ねるがロゼは否定する。
「あなたは、失うものが何もないときにああして虐殺を繰り返していましたが……今の戦う理由は、後世のための戦いではありませんか? 正直なところ、私はずっと人間と暮らしていたために良くわかりませんが……レンガさんは貴方は子供が生まれて変ったと、何度か漏らしていることを聞いています。
 ですからまぁ、なんというのでしょうか。アオさんが戦う理由、聞かせて欲しいですね……」
「戦う理由など決まっている。防人の使命として、森に住む者たちを守る義務がある……生まれたときから備わったその業を背負って生きている」
「それだけですか? 貴方は、今まで誰もやったことの無いことをやっているんです……」
 ロゼの言葉に何も返すことが出来ず。アオは黙る。

「貴方は今までこの世界を生きてきた数多の防人とは違う業を持って生まれたのですよ、きっと。変化には苦痛が伴います……それを、ミドリさんや人間にばかり押し付けているように思っているのかもしれませんが、それは違うのではないですかね。
 何が正しいのか、アオさんはきっとわからなくなっているのだと思います。そんな時は、私たちがいます……私たちは貴方に従っていますけれど、私が貴方に何も言わずについてきましたでしょうか?」
 アオはロゼに言われた言葉を思い返す。
「人間にも、良い奴はいるのです。だったな……」
「えぇ、自然を壊すことを反対する者もいますし、戦争のために森を荒らすことを良しとしない者もいると……彼らもまた被害者であると」
「レンガにも同じことを言われた」
「言われて、どうしました?」
「人間も被害者だというのならば、人間の加害者を殺そうと、ターゲットを絞ろうと考えた……」
「えぇ、そうして試行錯誤しているのです。だから私たちは貴方についてゆくのです……あなたが正しくないと思ったのなら、私たちは止めますよ。ですから、ついてくる人がいる以上は……大丈夫なんだって。それでいいんじゃないでしょうかね?」
「そういうものなのかな?」
「行動しなきゃ何も変わりませんよ。行動できる貴方に誰もが惹かれるのは、貴方が持っているのが他にない要素だからですよ」
 アオはロゼに言われて、自分の中にあるからまった感情を整理する。実のところ、最初から自分のやりたいことはほとんど結論が見えている。
 それでも、自分のやっていることが不安で仕方がなく、誰かに後押ししてほしくなる。そういう時に、このロゼという男はレンガよりも口がうまくて、良く慰めてくれそうなのをアオは日々の暮らしの中で知っていて。
 長女の&ruby(みかげ){御影};はヒスイとレンガに任せ、それとなく人気のないところにこの男を誘い出しては見たが予想以上に気分が楽になったことに、アオは人知れず感謝する。
「その要素にほれ込んだんです。私は大丈夫ですけれど、他の人には弱気なところ見せないでくださいよ?」
「わかっている。お前だからこそこういう一面も見せられるんだ……あとは、レンガに見せるくらいかな」
「おや、防人様の特別になるとは至極光栄極まりない」
「光栄か……そうだな」
 何かを考えながらアオは笑う。

「私はたまに、不思議なことを考えてしまうことがあるんだ」
 ロゼと話すうちにどこか吹っ切れたのか、アオは独り言のように取り留めもなく話し始める。
「お前は、多分私たちの中で最も人間に深く染まっている……私はそんなお前が好きだ。交尾したくなるわけではないがな……私達よりも物事を柔軟に考えたりしている。そんな風に見えるんだ……
 人間に染まっているお前を見て思うのは、私が……人間を好きになれるんじゃないかって思っているのだ。最近はな」
「そりゃまた……人間と仲良くなれるならばなりたいものですが」
「昔は、人間と我々は住む場所こそ違えど、狩る者と狩られる者の関係であれど、明けをm\飲み交わすなかであったという」
「あぁ、酒ですか。あれは最初はまずいですけれど、慣れたらおいしいもんですよねー」
「そうなのか? レンガやミドリはまずいと言っていたからな、人間の味覚はわからないなんてぼやいていたもんだが……」
「慣れればですよ。あの飲み物の中のまずい味に対して鈍感に、美味い味に対して敏感になれば美味しく飲めるようになりますよ」
「都合のいい舌だな」
「都合のいい舌になるまで飲むんです。それが出来るくらい、昔は人間と仲が良かったんじゃないですか?」
「なるほど」
 そういう考え方もあるのかと、アオは頷く。
「そういう時代に生まれたかったものだな」
「作りましょうや。きっと、いつか昔に戻れますよ……あなただけじゃない、人間もそう願えば」
 力強いロゼの言葉に、アオは驚き目を見開く。
「お前は、それが出来ると思うのか?」
「人間は現金なものです。今頃、街じゃあなたの事を英雄だなんだと勝手なことを言っているでしょうよ……」
「そうなのか……じゃあ、我らは今頃」
「かもしれませんよ。まぁ、やられた軍隊の方には死神とか悪魔とか破壊新とかいろいろ呼ばれているでしょうが……なんなら、明日にでも人間のところに行って調べてきましょうか?」
「一つの戦争が終わったのだ。そんなに急ぐこともあるまいて」
「いえ」
 ロゼは笑って、アオの言葉を受け流す。
「アオさんの喜ぶ顔が見たくなりました」
「おいおい、お前は……そんな理由でどこに行こうというのだ」
「もちろん、人間の動向を知るために、人間の街へ」
 得意げに言って、ロゼはアオに肩を寄せる。
「貴方に嬉しいニュースを持ってきたいのです」
「で、私に肩を寄せる理由はなんだ?」
「好きだからです」
「生まれ変わって出直して来い」
 アオは笑ってロゼを貶すが、まんざらでもないアオの表情がロゼには嬉しかった。
「防人は防人を産まねばならんのだ。防人以外の子供を産む気は今はないよ。まだコバルオンがいない……」
「コバルオンが生まれたら狙ってもいいんですね」
「そうは言っていない。だがまぁ……頑張って生きてみろ」
「よし来た」
「来るな」
 他愛もない、くだらないだべりあいをしながら、二人はつかず離れず、現状維持のまま口だけを動かした。
 人間を虐殺しつてしまった自分が幸せになることはとても虫のいい話かもしれないのだけれど、それでも。


「今ならわかるよ、ミドリ。恨むべきは人間じゃないってこと……私の子供を殺した人間はもういない」
 ロゼがいなくなった森で、一人森の見回りに従事するアオは、わずかばかりのミドリの亡骸を埋めた場所にて自分の思いを吐露する。
「自分の行ってきたことが正義じゃなくても、それに付き合ってくれたレンガの気持ちも嬉しいけれど……あなたの言うことも正しかったのだと今は思う。
 許してくれとは言わないけれど……せめて、私の子供だけでも導いて欲しい。あなたが言う、人間も救いたいというその思いを……私なりの方法で実現できるように頑張るから」
 当然墓から声が返ってくることもなく、アオは長女の教育をしながら次の戦が始まるのを待つ。小競り合いや定期報告のために珠にロゼが帰ってきては、自分の恋心に答えるかどうかと聞いてきたが、全部あしらっていくうちに、ミカゲが3歳になるまで月日が過ぎて行った。

 ◇

 この戦争における争いの発端は、税金であった。豊かな南部と、海岸の東部では税率が比較的高く設定され(このあたりを理解することさえアオは難しかった)、雪花や双龍といった大陸の中心側にある街は税金が安く設定されていた。
 その関係を維持しようと主張するのが、真実を掲げるレシラム軍。平等という名の不平等を推し進めようと、ゼクロム軍がレシラム軍に圧力をかけているという状態だ。実際のところ、ゼクロムを信奉する軍隊の言うとおりに『税率を平等にする』ことは、深刻な貧富の差を生み出すことになる。
 それが内乱や革命につながるかもわからないことを危惧し、『今の税率を維持しようとすることが真の平等である』とレシラム派は説くのだが、私利私欲にまみれた豊かな地域の領主であるゼクロム派達は、そんなことがまるでどうでもいいかのようにレシラム派の意見を圧殺しようとしている。

 小数を犠牲にされることを恐れている雪花の住民にとって、アオ達はロゼの言うとおりまさしく救世主として崇められる存在となって行った。そして、より豊かになろうと税率の引き下げを求めるゼクロム軍にも、アオ達の行動は強欲な自分たちに対する天罰だなどととらえる者もちらほらと現れ、雪花近郊に攻め込もうという兵士たちの士気は減少を続ける一方である。
 対してレシラム派の兵士たちの士気はうなぎ登りで、しかもアオ達のおかげで雪花の守りは薄くても大丈夫だと判断したのか南側の守りを厚くすることで人も兵器も豊かなゼクロム派に対して連戦連勝であるらしい。
 そうこうしているうちに、神格化されたアオ達の元にある日謎の訪問者が訪れる。
「それで、私に会いに来たというのだな……カイジ?」
 レードが引退した後の後継者として伝令役を務める
「えぇ、変な奴ですよ何か先端に水晶のようなものをはめ込んだ杖を持っていて金属がチリチリと鳴るんです。マントを羽織っているから旅人のようでもあるんですが……なんだか見たことの無い鳥もつれていますし、ここらじゃ珍しいルカリオやメタグロスも連れていて……さらには、防人様たちにも似た偶蹄のポケモンも……」
「防人にも似たポケモンだと……?」
「正体は不明です……それで、とりあえず最近暴れまわっているポケモンを出せと。お付きのルカリオを見る限り、こちらの言葉もわかっているようですし……普通の人間じゃないですよあれ」
「わかった。とりあえずムーランドを集めよう。私に噛みつかせて、万全の態勢を敷いてからあった方が無難だし……それに、有志を募っていつでもそいつを殺せるように兵隊を集めておけ」
「わかりました。生け捕りの必要は?」
「出来るならば生け捕りだが、むずかしかったら構わん、殺せ」
 そんな、味気もないアオたちの会話など知る由もなく、人間は防人を呼んでくると言い残して飛び去ったカイジをのんびりと待つ。杖を立て掛け、木の幹に腰掛けながら木漏れ日なんか浴びて。一応この場所には肉食のポケモンなんかも出没するのだが、そんなのが現れてもどうということはないとばかりの無防備さ。確かに、連れているポケモンを見ればそれも納得だ。
 ジャイアントホールと呼ばれる辺境に住むメタグロス。そして修行の岩屋と呼ばれる広大な岩窟に住むルカリオ。どちらゼクロム派が住む領地からのポケモン、ということは、もしかすると、もしかしなくとも敵である可能性は高い。
 しかし、わざわざ自分が敵であるということをわかりやすく教えるような愚かしい真似などするのであろうか? シキジカとかならどこにでもいるわけだし、渡り鳥の様な龍にもカイリューのように強力な種はいる。
 だとすれば、逆に敵であるということをわからせるための編成なのであろうか、真相はわからない。
「やぁ」
 アオが接近すると、転寝をしていた男は帽子をとって挨拶をする。こちらの事を警戒もしなければ恐れもしないその態度、アオは少々気に障らないでもなかったが、あくまで冷静にその男を観察する。
 紺色の服。ところどころに山吹色の紋様をあしらい、手の甲には強い力の渦巻く水晶がはめ込まれた青い手袋。つんつんに跳ねたヘアースタイルだが、手入れ不足ではなくつややかに仕立て上げられている。匂いは少なからず血の匂い。それはルカリオのものなのか本人自身からも漂っているのかはわからないが、間違いなくこの男自身は今まで戦ってきたどんな敵よりも強い。
 正義の心を限界まで積みきった今だから勝てると断言できるが、この男の中にある得体のしれない力は、敵に回せばこの上なく危険である。そしてもう一人、額から生える純白の一本角、そして耳の付近から生える青い角。深紅の鬣はどこかロゼを髣髴させるが、尻尾や首回りの青い体毛や、純白の顔と胴。そして雨に濡れたように水分を含む尻尾などはこのポケモン独自のものである。
 シキジカに近い体型ながら、彼女はすでに大人のようで、しかも子供を一人連れている。子供の方はまだ角も生えていない幼い個体のようだが、メタグロスやよくわからない鳥に対してきゃっきゃとはしゃぎ回る際には、蹄から水を出して滑るように移動していて、何とも優雅なものである。
「何の用だ、人間よ? ポケモンを見る限りどうやらゼクロム派のようだが……」
「中立だよ……」
 まるで、喋られることが当然であるかのように、アオがテレパシーを用いたことを気に留めず男は答える。
「ゼクロムもレシラムも、私は関係のない立場にいるんだ。外国から、留学に来た口でね……確かにこの子たちはゼクロム派の土地で捕まえたポケモンたちだけれどね」
「留学?」
「自分の暮らしている土地では学べないことを学ぶことさ……ついでに、ポケモンも捕まえて故郷に送っておこうとね……」
「留学というのはよくわからないが、お前の口ぶりからすると我々の敵ではないわけだ」
「うん、そうだね」
 と、男は頷く。
「では、何のために来たのだ……人間よ」
「アーロン」
「アーロン?」
 人間が口にした謎の言葉に、オウム返しでアオは尋ねる。
「私の名前だ。アーロン、と呼んでほしい……君は?」
「&ruby(アオ){鏖};。というか、人間と普通に会話しているというのもなんだか妙な感じだな……」
「私は、あの子と話すのに慣れているからね……あの子も人間と喋られるんだ。変った子だろう?」
 そう言ってアーロンが視線をよこすと、ルカリオはおずおずと頷いて自己紹介を始める。
「王林です、よろしくお願いします」
「よろしく。ルカリオは色もタイプも同じでよく似ているポケモンだと聞いているよ」
 形だけの自己紹介を終え、アオはアーロンに目を向ける。目鼻立ちは見事に整っており、この森まで旅してきたというのに(メタグロスやルカリオを乗せてぴじょっとが飛ぶことは不可能だろう)それを感じさせない清潔感もあって、人間だというのにどこか浮世離れした印象を受ける。
「そして、君達に紹介するポケモンとして……もっとも重要な子を一人紹介するよ。種族名はケルディオ……君達3種の剣に加えて……最後のつるぎだ」
「最後の、つるぎ?」
「私も、正義の心の特性を持ち、聖なる剣を使えるのです……」
 ケルディオという種族らしい女性は、そう言ってはにかんだ。
「私の名前は&ruby(ミズキ){水樹};。この子は&ruby(ミソギ){禊};」
「それで、私に用というのは?」
「君達が、雪花の森と雪花湿原を守っているコバルオン達でいいんだよね」
「あぁ、巷では英雄などと呼ばれているが……正直、そんなことよりも早く戦争が終わってほしい限りさ」
「その事なんだけれどね」
 まだしゃべろうと思っていたところで横槍を突かれ、アオはむっとするがそれよりも大事なことがあるとばかりにアーロンはアオの目を見据える。

「人間を甘く見ないほうがいい。手段を選ばなくなった人間は……君たちの都合なんてお構いなしに酷いことをするよ……」
「その時は返り討ちにするまでだ」
「うん、相手が剣や槍を持ち出してきたのならばぜひともそうするべきだと思う。でも、相手がそんな親切だとは限らないんだ……そうだね、例えば火責めんなんてのは人間にとっては良くある攻撃手段だ」
「火責め?」
「火事にさせる事さ。人間の場合は街を焼くことが一般的だけれと。ここは森だから、街以上によく燃えるだろうね……」
「馬鹿な。そんなことバオップの子供が一番最初にやっちゃいけないこととして教育されるものだぞ?」
 アオが声を荒げるが、アーロンは首を振って否定する。
「人間にとっては常套手段さ……相手を殺せるのならば、関係ない……君たちが殺せるのならば、人間はどれほどにだって残酷になれる。女を求め、交尾のために殺し合いを繰り広げるポケモンは多々いるが……だからと言って、大抵は逃げる者を追いはしない。
 しかし、人間はそれをする。根絶やしにしなければ気が済まないような奴もいる。そして君は、その標的になりかけているんだ」
「それは脅しと受け取っていいのか?」
 その言葉から一拍置いて、アオは角を構える。

「脅しとも、警告とも取れるだろう……だが、私は中立の立場。それ以上でもそれ以下でもない……私の言うことを信じて、それでもゼクロム派を邪魔するのか、手を引くのか……人間相手に先手を打つのか、それは君の自由だ。
 だがね、君達の住処はこうして……私にまでばれてしまっているというその意味を、もっと重く受け止めておくべきだと私は思っている」
「わかった、心に留めておく……」
 突き出した角を収め、アオは立っているのも馬鹿らしくなったのか、座ってアーロンと同じ目線になる。
「でもね、悪いことに、もう今の状態ですら手遅れなんじゃないかと、私は思っている。今になって君たちが雪花周辺から手を引いたとして、それでゼクロム派の者たちがどれほど納得するのかもわからない。悲劇的な結末を変えることは出来ないかもしれない……だけれど、一つだけ可能性があるとしたら、最後のつるぎなんだ」
「ケルディオ、か。何者なのだ、あのポケモンは?」
「最後のつるぎさ……戦いを収めるためのつるぎさ」
「戦いを収めるためのつるぎ……だと?」
「ええ」
 今度はアーロンではなく、ミズキが答える。
「ワシらのつるぎは、嬉しい感情や親愛の感情を表すときに、知らず知らずのうちに角を叩き合わせるような行為をしておるのじゃ……この森ではどうかはわからんがのう」
 アオは自身の行動を思い返す。思い返してみれば、レンガと喋っている時はいつもそれをしているし、ヒスイと触れ合うときは親子としても同じ戦士としてもコミュニケーションの手段として使用している。
「そうだな、嬉しいことを言ってもらったときなんかは、確かに角同士を叩き合わせている」
「人間たちの間でも、剣を交差させることは共に手を取り合って戦おうという意思表示の表れで……ワシのつるぎ、つまり角は……戦うための角ではなく、戦いを収めるための角なのじゃ。」
「ほう。では、戦意を失わせるような技の一つや二つ、持っているのだろうな? それとも、その角を鳴らすと良い音でもなるのか?」
「いえ、残念ながらそれは……人間の間では、争い事というのは炎という形で表現されているのじゃ。一度燃え上がれば止めることすらできないものの象徴として」
「だから、争いの炎を消す……水タイプ、でいいのか?」
「うむ、水タイプじゃ。とはいっても、争いの炎なんてものは比喩じゃから、結局は雨を降らせても争いを防ぐことは出来んのじゃがな」
「まぁ、そんなものだね。確かに昔は木造建築も多く、その頃は相手の土地を奪い取ったときに支配の象徴として家を燃やすようなこともあったから……いや、今でもか。今でも、戦場は放火されて蹂躙されることもある」
 アーロンがミズキの言葉に補足するように言う。
「もったいないな……どうして人間はそんな無駄なことをするのだ?」
 もっともな疑問をアオは呈するが、アーロンは首を振る。
「相手に敗北を刻み付けるためなのだろう。逆らう気なんて二度と起きないように……このケルディオはそれを防ぐためのつるぎ。味方に向けるつるぎなんだ」
「私達に……向ける?」
「そうじゃ。無論、戦が終わるまではこのつるぎ、敵に向けることは変わらぬが……もしもヌシらが周りが見えなくなったときは、それを押さえるのがワシらケルディオのつるぎ。指揮官のつるぎじゃ……」
「いまさら、私達に何か指示を下そうというのか?」
 もう長いこと自分が指揮官のようなものなのだから、いまさら何を言っているのだとアオは笑う。
「今は、危険な状態じゃからな。人間が何を仕掛けてくるかもわからないとなれば……その時、意見を出せる者が一人でも多い方が、上手く回ることもあろう。今までのヌシらの意見は尊重して、人間と戦うこと自体は否定せぬ……じゃが、そろそろどうやって戦いを収めるかを考える時ではないのか?」
「どうすればいい。奴らの本拠地にでも攻め込むか?」
「それは……」
 と、ミズキが言いかけたところで、アオはアーロンを睨む。
「アーロン。お前は何か意見はあるか?」
「そうだな。私が考えるに、住処を変えたほうがいい……さっきも言ったように、君達がここにいると、ゼクロム派のポケモンはここを狙うだろう……」
 アーロンは淡々と意見を述べる。強調することも誇張することもなく、ただ自分の思ったことを伝えるだけだ。
「いや、それは無理だ。この森を守らなければいけないのに、この森を離れるなどと……」
 と、アーロンの言葉をアオは否定するが、アーロンは笑う。
「そういうことは、仲間とも話し合ったほうがいいんじゃないかな……」
「あ……」それに、人間はあまり聞くべきでもない気がするよ」
 間抜けな声を上げて、ようやくアオはレンガやヒスイと話すべき内容であったことに気付く。
「おい、カイジ。お前さっさとヒスイとレンガを連れて来い」
 アオは木の上に視線を向けるなり、どうにも閉まらない口調でそう言った。
 レンガとヒスイを交えて話し合いは続いたのだが、結局森を離れるわけにもいかないという結論は変わらず。戦争の終結を待つばかりという結論は変わらない。その話し合いの中で、符と口にしたアオの疑問、『アーロンはなぜここに来たのか?』という問いに対しては、『レシラム派の軍師に頼まれて訪れた』と返す。
 ゴチルゼルを飼いならし、テレパシーを用いて戦況を把握し即座に作戦を得る天才軍師とのことで、先見の才にも恵まれている。それゆえに今回も火責めの危険性があるなどと口にした彼の突飛な言葉も、アーロンは信じてここに訪れたのだと。
 ついでに、ミズキとは旅をしていたら、面白そうな人間なので話しかけてみてから意気投合したという。

 そうして、時は移り変わり、ヒスイが7歳、ミカゲが4歳。そしてミソギが1歳になったころ。
 森は、アーロンの言葉通り炎に包まれた。

[[:ゼクロム]]

IP:223.134.155.167 TIME:"2011-12-10 (土) 19:04:17" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%3A%E6%9C%80%E5%BE%8C%E3%81%AE%E3%81%A4%E3%82%8B%E3%81%8E" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 9.0; Windows NT 6.1; WOW64; Trident/5.0)"

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