「初戦で負けてしまった……」 「終わりやね、ウチらの最期の夏も終わりやね」 ポケモンセンターからすごすごと出てきた、くたびれた学ランの青年とオオタチ。 5月ゴールデンウィーク直後の土日から、6月に梅雨入りするころぐらいまで、高校生ナンバーワントレーナーを決めるための大会の市町村予選がある。 1年生の時は原則出られず、2年生の時はオオタチに故障発生で出られず。今年が最初で最後だったが、案の定というか当然の結果に終わってしまった。 しかも市町村予選ではなくゴールデンウィーク前の校内予選1回戦である。 「あんさんはポケモンバトルに向いてない気がするんよな」 「しかし俺はコンテストは好かん」 そういう意味じゃないんだが、とオオタチは顔を引き攣らせた。この男、一言で言ってしまえば勝つ気がないのである。 「あんさん、本気で勝ちたいならウチなんかとっとと捨てて厳選すべきでっせ。いや、それ以前に技構成から考え直した方が」 この男、全く技構成を考えていない。とりあえず気に入った技は覚えたままに、気に入らない技は一度覚えたきり全く使わないから体が忘れてしまった。 しかもコンテストでも使えなさそうなものばかり。 いや、そもそも市町村予選からはポケモン1対1の一本勝負じゃなくなるので、オオタチ一匹じゃ物理に的回らないのだが。ルール上は一匹のみの参加も可とはいえ。 「分かっちゃいるけど、俺はロマンで勝ちたいんだ」 「ロマンで勝てたら苦労はしゃーせん」 他所の高校、特に私立高校にはジムリーダーの息子や四天王の直弟子など幼い時からポケモンバトルのエリートになるように定められた人間が厳選に厳選を重ねた最上のポケモンを連れて入学することも珍しくない。 当然彼らは全国大会まで勝ち進んで名だたるトレーナージムに勧誘されたり社会人トレーナーの内定を得るために闘ってるようなものだから箸にも棒にも掛からぬような謎トレーナーごとき蹴散らして当然っちゃ当然なのだが。 どうせそういうトレーナーに負けるならと自分の好きなように闘って負ければいいという理論も分からなくはないが。 「まーえーじゃないか、あんさんは進学志望でプロトレーナー目指してるわけでもなしに」 エンジュシティを流れる用水路には昔から桜が植えられている。1か月前ならまだ花も盛りだったが、今ではすっかり見事な葉桜である。 青年はしばらく黙って歩いていた。オオタチも黙って後に続く。ゴールデンウィークはすぐそこだ。 「すまんな。お前には痛い思いばっかりさせていい思いは全然させてやれなかった」 もちろん彼は進学志望なのでゴールデンウィークも遊びほうけるようなことはしない。ゴールデンウィークに限らず、これからも、しばらくの間は。 「別に覚悟してますし」 青年はオオタチの頭をガシガシ撫でた。きゅるると鳴く。 「タマムシ大学もエンジュ大学もB判定なんだから頑張りましょうよ」 「そうだな」 青年はオオタチをボールに戻した。 IP:114.188.104.146 TIME:"2015-08-02 (日) 22:37:49" REFERER:"http://pokestory.dip.jp/main/index.php?cmd=edit&page=%3A%E4%BB%AE" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Windows NT 6.3; WOW64; rv:39.0) Gecko/20100101 Firefox/39.0"