・官能描写はありませんが暴力的なシーンやグロテスクなシーンが数多く含まれます、苦手なら遠慮なくブラウザバックしましょう。
・この物語はフィクションです、実際の事柄、及び他のwiki作品とは関係ありません。
「おやっさーん!」
奪還目的の潜入中、おやっさんは凶弾から二匹をかばって倒れ、愛用の白い帽子を弟子のゲッコウガに託して力尽きた。
それでも止まない弾丸と増援で飛来したアーゴヨンの攻撃から階段の陰に逃げ込んでやり過ごすも、スピアーの巣になるのは時間の問題だった。
階段の陰でルチャブルがアタッシュケースを開けると6枚の円盤が入っていた。
「悪魔と相乗りする勇気、あるかな?」
「ほえ?」
困惑しながらもゲッコウガが一枚の円盤を手に取ると、ルチャブルも微笑んで一枚の円盤を取る。
「うおおおおおっ!!」
二匹が円盤を起動させた時、ディスプレイ全体が光に包まれた。
C F J
X X 7
F 7 X
ビギンズナイトジャックポットチャレンジ ―失敗―
「ホント最ッ悪、ビギンズナイトリーチってJP突入率9割越えじゃなかったの…⁉」
久々のゲームコーナーで最新機種のポケモンライダーWに挑戦したら見事に5万溶かして大敗。
クリスマス時期にも関わらずコガネシティゲームコーナーの店頭で空っぽのケースを前に膝をつき撃沈しているジュナイパーがいるとすれば、それは間違いなく僕だ。
ワカバタウンで開店休業の雑貨店を営んでるけど実質ニート同然。
この前占ってもらった時に「未来を変えるレベルのラッキーイベント発生、欲しいものが手に入る」なんて言われて有頂天になった僕がバカだった。
一生遊んで暮らせるだけの大金も、世界レベルの敵を倒して大活躍する未来も、自分の運命を好転させるような何かを持った不思議な友達も、そんなものはなかったんだ。
なんかもう、今日がクリスマスだってのに悲しくなってきた。
「もういいや、今日はさっさと帰って泣き寝入りしよう…」
帰るといってもタクシーに乗るだけの金もないし、飛んで帰るにもネオン輝くビルが高くて飛び上がるのも楽じゃないし、ここからなら地下道を通った方が速い。
壁にもたれながら地下道の階段をゆっくりと重い足取りで降りきろうとした時、足先はとろりとした何かで濡れていくのを感じた。足の裏を見ると赤い。
「この鉄の匂い、血が付いたのかな…?」
垂れて来た血の出所を探して左斜め後ろを見ると、鮮血の中にポケモンが倒れていた。
だが倒れていた、というには少し変な体勢だった。
両足を壁にもたれかけ、昼寝で腕枕をするような形に両腕を頭上で曲げながらも右手には赤く濡れたアタッシュケースを掴んでいて、さながらジョッキーのジョニィのような、そんな死体にしては奇妙すぎる体勢だった…
「うわああああああああっ!」
初めて死体を見たショックとその奇妙過ぎる現場に無意識に階段から飛びのいてバランスを崩し尻餅をつく。
血だまりの中で倒れているのは既に死んでいる証拠だと思って救急より警察かと悩んでいた時、血だまりの中で何かが少し動いた。
恐る恐る近づくと、左手の指先がほんのり動いた。痙攣や死後硬直でもなさそうだ。
「あれ、まだ生きてる?」
左手を掴むと普通に高いぐらい体温があるし、ぎゅっと握りしめると脈を感じる。
「…どう、いう、つもり?」
弱々しく、けれども透き通るような声が問いかけてきた。
「君大丈夫⁉こんなにいっぱい血が出てるし、救急通報してあげるからちょっと待ってて…」
「ひとりで、も、大丈夫…」
「そんなこと言ったって、こんなに血が出てるんだから、君の体にはきっと傷があるんだろうし…」
「ここには、何も、ない…」
倒れているポケモンは大丈夫だと言ってくるが、全身緋色に濡れて大丈夫と言われて信じる方が無理がある。本当に目立った傷はなさそうだけど…
「地下道じゃ電波通じないな、とりあえず引きずってでも治療受けさせてあげるから…!」
左腕を掴んだままどっちの出口から出ようか悩んでいると、痛いぐらいのパワーで握り返される。
「だから、その手を、離して…!」
「んっ、あっごめん、痛かったね…」
左腕を掴んだままで動き回ったら流石に痛かったらしく、手を離してあげると向こうも離してくれたが、それきり左腕は階段に投げ出されてしまった。
「ねぇ大丈夫⁉ とりあえず電波通じる外で救急通報するからちょっと待ってて!」
右手にアタッシュケースを掴んだままうつ伏せに倒れるポケモンに一言かけてから急いで通話アプリを起動しながら出口に向かって飛び出した。
不思議な言動のポケモンと、地下道の階段で会ったのは偶然だった。
written by 慧斗
「確かに血だまりに倒れてはいたけど、別に命に別条はないね。というより体に出血箇所が見当たらないレベルだよ」
ポケモンセンターに連れて行こうとしたら迅速なたらい回しの後警察病院に。
担当医師のヤレユータンに告げられた一言に驚きと安堵が混じる。
「体に出血箇所がないって、それって怪我してないってこと…?」
「そういう感じだな。でもちょっと別の問題があってね、君も来てくれないか?」
言われるままに何重にも仕切られたドアを通り病室へと足を踏み入れた。
「…」
病室の可動式ベッドでもたれていたのは若いガオガエンだった。その目線だけで弱いポケモンなら回れ右しそうなぐらいの威圧感だ…
「シャワーで体洗うのも一苦労だったよ、という訳で本題なんだが、彼は自分のことを含めて何も覚えていないらしい」
「記憶喪失ってことですか?」
「ああ、何なら自分の種族すら混乱してたほどだ。最も知能テストの方は簡易なもので調べても150はゆうに超えていてね」
雑に渡されたファイルの資料には好成績を出した知能テストの結果が挟んであった。
「実際に証拠を見せよう、イッシュ地方で中華風のBGMが流れるのは?」
「…ホドモエシティ」
「16×55は?」
「…880、あるいは28」
「塩化水素と水酸化ナトリウムを同量混ぜ合わせると?」
「…食塩水ができる」
「タロットカードの大アルカナでTHEが付かないのは何枚?」
「……6枚」
「流派東方不敗は?」
「王者の風よ!」
「全新!系列!」
「天破侠乱!」
「「見よ、東方は、赤く燃えている!!」」
突然拳を交えながら問答した二匹に若干引きつつも、ノールックで思考整理できるのは確かにすごいかもしれない、なんて感じる僕がいる…
「ほら、知能検査の結果は良好だろう?」
「はは、はい…」
多分この先生知能テストはしてるけど、これじゃ記憶は分からないよね…
僕からも何か聞いてみようかな?
「今まで食べたパンの枚数って覚えてる?」
「………ゼロ、そもそも何も食べてない」
機嫌悪そうな返答に混じって小さくお腹の音がした。
「お腹空いてるんだね、何か買ってこようか?」
そっぽを向きながらも小さく頷いた。
「じゃあ軽く買ってくるよ、ちょうど近くにサンドイッチ屋さんあるんだ…!」
「私は書類を警察に届けるからこれで、何か思い出せるかもしれないし君は彼ともう少しいてあげてくれ」
ちょっとフリーダム過ぎる先生が退室したのを横目に、病室の窓を開けてサンドイッチ屋の方向へ飛翔した。
「お待たせ、ローストビーフサンド買ってきたよ!オーブンポテトとジンジャーエールも一応あるよ」
「…あぁ」
持ってきた袋を渡すと少しいぶかる様子を見せた後、包みを開いてサンドイッチにかぶりついた。
「…美味い、けど酸っぱい匂いのするやつ入ってる、取れ」
「酸っぱい匂いって、ピクルスのこと?」
「食べる前から傷んでる匂いする、俺に腹を壊せと言いたいのか?」
「そうじゃなくて、お酢に漬けてるだけだよ。騙されたと思って一緒に食べてみて?」
「…分かった」
一匹っ子だけど弟を持った気分というか、保育師に転職した気分というか…
小さいポケモンではないし、僕の話も聴いてくれるのは助かるけどね…
「! 美味い…?」
「でしょ、いっぱいあるからゆっくり食べてね」
言動は風変わりなところあるけど、僕が見る感じ悪タイプでも悪いポケモンには見えない。記憶を亡くしちゃったのも、何か怖いことに巻き込まれちゃったとか…
「そうだ、一緒にテレビ観よう!何か思い出すかもしれないよ?」
なんとなくの思いつきでテレビの電源を入れる。連続殺害事件のニュースからチャンネルを変えて、適当にCMの流れてるチャンネルに変える。
「…お前のこと、まだ何も聞いてなかった」
「僕のこと、そうだね…」
突然僕のことについて聞かれて内心焦る。ほぼニート同然のジュナイパーなんてあのガオガエンにインプットされるのはちょっとポケモンとして恥ずかしい気もしてきた。
「それでは推理クイズです、以下の文章を聞いて回答を考えてください」
20階建てのマンションに住むルカリオ君は、家に帰る時エレベーターに乗りますが、一度6階で降り、そこから階段を使って10階にある自宅に帰ります。
10階から降りる時は、エレベーターで1階まで降りるのですが、何故帰る時は一度にエレベーターで家へ帰らないのでしょう?
「え?どういうことだろう?」
話題作りの狙いでわざとらしく呟いてみるけど、本当にどういうことか分からない。
本当に言動が謎すぎる。運動する気なら最初から階段を使うし、途中で降りるというのも良く分からない。途中まで運動するなら1階から初めて途中で乗りたいものなのに…
「…2通り、考えられる」
結構本気で悩む僕を横目にガオガエンはぽつりと呟いた。
「2通りも?どういうことなの?」
「1つは【本来の階で降りると危険な時】、例えばそのルカリオがストーカーにつけられていて、マンションの何階に住んでいるかバレたら困る時は、途中の階で降りることでストーカーにエレベーターの停まった階に住んでいると誤認させることができる…」
「なるほど、でもそれなら降りる時まっすぐ降りたら危なくない?」
「普通マンションの出入口は何階に住んでても1階だ、わざわざそこで気を付ける必要もないだろ…」
「確かにそうだね…」
でも、エレベーターを錯乱用に使うポケモンなんているのかな…?
「そしてもう一つは【エレベーターのボタンを押せない時】、つまり身長が低くて6階のボタンまでしか押せなかったとすれば説明がつく」
「でもルカリオっておっきくない?普通に10階ぐらいならボタン押せそうだけど…」
「わざわざ“君”を付けるのが妙だ、種族名じゃなくて相性だとしたら…?」
淡々と語っていくロジックが必要最小限かつ的確すぎる。
まだ素性も好きなアーティストすら分からないけど、もしかして相当頭がいいのかも…?
「それでは正解VTRです」
そんなことを考えているとCM明けの正解発表が始まり、ちっちゃなリオルがクローズアップされた。
「リオルのルカリオ君はまだ学校に通う前の小さくて元気な男の子、仮に背が足りなくてボタンが6階までしか押せなくても途中から元気に階段を…」
「すごい、本当に当たってた…」
気の抜けた解説VTRと淡々と語った推理に若干僕一人が呆然としている時、乱暴に病室のドアが開いた。
「警察だ、お前たちは連続殺害事件の容疑者である可能性が高い、みっちり話を聞かせてもらおうか!」
「お前らなんだろう、連続殺害事件を引き起こしたのは?」
「アイエエエ!ヨウギシャ⁉ヨウギシャナンデ⁉」
「huh?」
「…ちょうどお前らがいたって方の反対側の階段でな、デンリュウが殺されていた。そして死亡推定時刻とお前らのいた時刻はちょうど合致するんだ」
「いや、僕はその時間までゲームコーナーにいましたから…」
「まぁお前はそこまで疑わしくないし、その時間に地下道を通ったポケモンはまだ何匹か防犯カメラに映ってあるからな…」
取り調べ室で色々情報を並べてくる担当警部のゼラオラの尋問に内心冷や汗だったけど、どうやら僕はあまり疑われていないらしい。良かった…
「だが問題はそっちのガオガエンだ、搬送された時に地下道から出たのは映ってたがお前が地下道に入った姿はどこにも映っていなかった。出入口はあの二か所だけなのに、だ。聞くところによれば血だらけで記憶喪失だったそうだが一体どんなマジック使ったんだ?え?」
ゼラオラは容赦なく圧迫尋問をかけているが、記憶喪失してる相手には可哀そうだ。それに僕には悪タイプでも悪いポケモンには見えない。
「昔の喧嘩仲間に似てるよしみだ、正直に話せば罪が軽くなるように取り合ってやるよ。どうする?」
「ちょっと待ってください、僕が見つけた時彼は動くのもしんどい程弱ってたんです。むしろ被害者の一匹という線を疑うべきでは?」
喧嘩仲間に似てるってのもちょっと気になるけど、冤罪になりそうな事態を放っておくのは許せなかった。
「色々事情は聴いているがそれを踏まえても状況が奇妙すぎる、アタッシュケースの中身も変な技マシンと読み込み機能付きのデバイスなんてのも不可思議だ…」
「あのアタッシュケース…」
記憶を取り戻す手がかりになるかもしれないけど、同時に奇妙な事件の凶器にも疑われてしまうアイテムかもしれない…
「…警部だっけ、一つ教えて欲しい」
色々謎が深まる中で今まで黙っていたガオガエンがようやく口を開いた。
「質問によるが聞いてみろ」
「…さっき【連続殺害事件】と言ったが、どんな状況で何を根拠に連続殺害事件と定義したのか、その辺りを教えて欲しい」
「そうか、彼は記憶がないから何も知らないんです、僕もちゃんと把握したいのでお願いします…!」
「…分かったよ、あまり理不尽に疑うのも気が引けるし、口外しないなら教えてやる」
事情が事情だからか、ゼラオラはため息をついて封筒から資料を取り出した。
「今から二か月前、この近くでゴルダックが何者かに殺されていた。それからこの地方では不定期に殺害事件が連続で起こり、今回のデンリュウでちょうど5件目だ」
見せてくれた写真には、全身が緋色と見間違える程血に濡れたゴルダックの遺体が写っていた。しかも口から何かの肉塊を吐き出したような状態だった。
思わず目を背けたくなって写真をテーブルに置くと、ガオガエンはそれを取ってじっくりと視始めた。まるで何かを探しているかのように。
「吐き出したような肉塊、これは心臓か?」
「あぁ、そいつの心臓だ。よっぽど恨まれてたんだろうな…」
「心臓えぐり出すだけでも十分だが、わざわざ吐き出すようにした意味… ん?」
普通にスプラッター映画のポスターにできそうな構図の写真なのに、ポケカのアートレアでも鑑賞するかのようにさらっと見てるのがすごいよ…
「このゴルダック、頭のジェムがないのか?」
「鋭いな、いつからなかったのかは不明だがこのジェムは後天的に、それも鋭利な切り口で切除されてることは確かだ」
「ってことはもしジェムが容疑者によって切り取られたものだとしたら、その線で事件の共通点が…?」
「おい、お前…」
滅茶苦茶にらみつけられてるんだけど、何か僕間違えたかな…?
「実際そのジュナイパーの発言通り、被害者は全員ジェムがなくなっているのが共通点で同一犯の犯行だと思われるが、お前なんのためにこんな共通点を作ったんだ?」
「矛先戻しやがって…」
「……ご、ごめん」
そっか、事件そのものに話題を戻したら矛先が戻っちゃうんだった…
「警部!また一連の事件によると思われる被害者が!これで6件目です!」
「なんだと⁉」
「被害者はアサギシティ在住の雌のエーフィ、ジェムもなくなってます!」
「犯行推定時刻は?」
「午前5時~6時の間と思われます!」
「ジュナイパー、お前がサンドイッチを買ったのは何時だ?」
「えっと、24時間営業の店だけど、レシートには7時14分って書いてる!」
「ということはその頃は俺も病院にいたんだ、同一犯によるものなら俺が殺したって可能性は消えるよな警部さん?」
事実から正論を見つけて早くもゼラオラに交渉を始めた。ヤダこの子怖い…
「…それもそうだな、だが事件次第では色々聞かせてもらうからな!」
「はーい、こっちもまた色々聞かせてくれよな」
もうここまで来たらどっちが主導権握ってるのか…
「そうだ、確かお前記憶喪失なんだよな。ちょうど9時過ぎで窓口も開いただろうし、一度申請しておいたらどうだ?」
「69番、結構かかりそうだね…」
「今41番だな、この漫画13巻からしかないけど1~12巻どこ行った?」
「元からないのかも、13~28って3部だけしか置いてないのか…」
「まぁいいや、全27巻の漫画も読み終わったしこれ読むか」
「はやっ…」
取り調べから釈放されて今度は記憶喪失に関する諸々の手続き。だけど今日は激混みで相談窓口も順番が来るまで数時間かかりそう…
「68番の方、68番の方、いらっしゃらないようなので69番の方!」
「よし呼ばれた、行くよ!」
立ち上がろうって窓口に行こうとすると目の前で割り込まれる。
「待つナリ、当職が先ナリ!」
※威力は抑えてますがノルマ達成のため【そういう描写】がありますので、お食事中に閲覧しないことを強く推奨します。
「当職は68番の番号札を持ってるナリ、だから当職が先ナリ!」
68番が不在で次の69番になったから行こうとしたら、語尾が気になるスリーパーに割り込まれた。
「いやでも、今は69番なんですから少なくとも貴方の番じゃないでしょう…」
「当職はストイックで上級国民の有能弁護士ナリ!そんな弁護士が申請するのは緊急の用なんだから黙って下級国民は大人しく引き下がれナリ!」
「はぁ…」
胸元に弁護士バッジらしきものはあるし、上級とか下級とか知らないけど、中年太りよりも酷いレベルでお腹が出てる体型でストイックはないだろう。それこそナスなら迷わず買うレベルで出てるのに…
「…」
こんな時ガオガエンがオラついてくれれば万事解決だろうけど、何故か彼は僕の後ろに隠れている。君の身長じゃ僕の陰には隠れられないよ…
「申し訳ありませんが、ただいまは69番の方をお呼びしていて…」
「うるさいナリ!当職は一刻を争うナリ!黙って言う事聞かなきゃみんな開示してやるナリよ!」
受付のイエッサンも困ってるし、頭がおかしいスリーパーは缶バッジだらけでチャック半開きなリュックを揺らして聞く耳持ってないしどうすれば…
「…ダウト」
僕ではこの状況をどうすることもできないと諦めかけた時、背後から静かに、力強い声が響く。
「おいそこのスリーパー、黙って聞いてりゃてめーは三つダウトがあるぜ…」
「…勝手に当職の主張にケチ付けるとは、貴様何奴ナリ?」
「通りすがりのガオガエンだ、覚えておけ!」
さっきまで読んでた漫画のせいか突然言動がハイになったかと思うと、スリーパーの持っていた番号札をいつの間にか気づかれずに手に取っている。
「まずは一つ、これ68じゃなくて89だな、ひっくり返せば68だが注意書きの文字の上下を考えれば一瞥しただけで分かるよな?」
「本当だ、これどう見ても89であって68じゃないね…!」
この状況でどうすればいいか分からないけど、唯一僕の味方とも言える存在に便乗して盛り上げるっきゃないよね…!
「そそそんなこと言ったって当職には100万件の殺害予告が来てて一刻を争う事態ナリ!今朝も【ナイフで滅多刺しにして刺殺する】って殺害予告がざっと100件も…」
「それが二つ目だ。お前が割り込む動機、殺害予告じゃなくてライブに遅れたくないだけだろ?」
慌てて目を泳がせながら弁明するスリーパーを一蹴しながら、ガオガエンはさらにリュックから一枚の紙を抜き取る。
「ピンプクローバー、最後はゼータか? とにかくこのライブチケットは今日の昼公演だろ?」
「そ、それを返すナリ!」
「大方そのダサいリュックと関係してそうだが、グループの情報知ってたら教えてくれ!」
スリーパーの短い手をバスケットボールのドリブルの様に軽快に躱して僕の手元にチケットが回ってくる。
「ピンプクローバーZ、幼い雌ポケモンだけで構成されたアイドルグループで実際痛リュックと合致してるね、確かリーダーが最近行方不明とか聞いたけど…」
「なるほど、要はこいつロリコンって訳だ!」
スリーパーが僕からチケットを奪い取ろうとした瞬間、先に赤い手がチケットを掴み取り丸めて受付の奥に投擲、投げられた紙はいい感じに広がってシュレッダーに吸い込まれていった。
「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
「ほらよ、これに懲りたら黙って順番を守るんだな」
絶望の叫びを上げて崩れ落ちたスリーパーの上に黙って綺麗なままのチケットを置いている、じゃあさっき投げたのって…?
「あれ番号札、すり替えといた」
スリーパーを鼻で嘲笑った一言に内心安堵していると、崩れ落ちたまま恨みの籠った声がした。
「…これはいけない。しっかりと自分の罪を認識しなさい、当職のような弁護士に喧嘩を売ったこと後悔させてやるナリ!」
「えぇ…」
なんか滅茶苦茶逆恨みされちゃってるよ…
なんで僕昨夜からずっとこんな目に…
「やれやれ、三つ目のダウト、明かさざるを得ないようだな」
逆ギレされて困惑する僕を庇うように強靭な身体と強い証拠が割って入る。
「まだ当職を侮辱するつもりなら開示するナリよ…!」
「お前みたいな無能にか?というよりお前、そもそも弁護士じゃないだろ?」
ナイフを向けるように突き付けた人差し指と共に放った一言は僕にも衝撃だった。
「いやいや、どれだけ無能でもあれは一応弁護士だよ?弁護士バッジだって付けてるし…」
「…そのバッジが問題だ。よく見てみろ、こいつのバッジは段ボールバッジだぞ!」
建物中に聞こえるように叫ばれ慌ててバッジを隠そうとしたスリーパーに対して、ガオガエンはその眼前で手を叩く。
無慈悲な猫だましが炸裂してスリーパーが目をつぶった隙に、バッジはその時スデに抜き取られていた…
「画鋲に切り抜いた段ボールを貼って模様書いたみたいだが横から見たら段ボールだってバレバレだったぜ。これなら画鋲だけで作ったり自前でキャストした方がまだマシだな、これじゃあ百均のなりきりおもちゃにも劣るぜ」
画鋲に気を付けてそっと渡されたのは弁護士バッジに似せたパチモンだった。確かにこれじゃ幼稚園児の工作のがまだマシだ。
「ま、そういうことだ。これに懲りたらおうちに帰って法律のお勉強でも始めるんだな、ロリコン弁護士もどきのおっさん」
完膚なきまでの鮮やかな勝利、ゆうべ5万スったけど、その後闇のゲームで大勝したぐらいの快感…!
これぞプレジャー人生の快楽…!
「記憶喪失とのことなので、身元捜査や臨時の戸籍も申請しておきますね、それから…」
受付のイエッサンは打って変わって超有能だったので、次々に面倒そうな申請と手続きを終わらせてくれている。これで僕も肩の荷が下りるよ…
「お住まいはどうないさいますか?」
「…」
業務的な質問、けれどもそれは確実に深刻な事実を突きつける質問で。
「…………」
「…えっと、大丈夫?」
「……………………」
頼もしい推理も猫だましを決めるワイルドさも影を落としている、僕は背中しか見えてないけど、きっと不安で辛いのかもしれない。というか僕だってCDプレイヤー片手にホームレス暮らしなんて絶対嫌だ。
「良かったら、僕の家来る?散らかってるけど空き部屋あるよ……?」
「…いいのか?」
「…お店番してくれるなら三食用意するし、エアコンとwi-fiもちゃんとあるよ…?」
不安そうだった後ろ姿が小さく頷いた。
「それでは書類を準備しますのでもう少しお待ちください」
受付が終わってあとは書類待ちだがそこまで時間もかからないだろう。
でもこれで良かったのかな?今更になって悩んできた。善意で考えたけどそれがもし僕を苦しめる結果になったとしたら…
「……ありがとう」
「ん?」
何事もなかったかのように座って28巻の続きを読み始めてるけど、確かに聞こえた。
多分大丈夫。君の場合は…
「そういえば呼び出し番号90番なのにあのスリーパー行かないね?」
「さっきあいつの整理券シュレッダーにボッシュートした、だから89番ですらないぜ」
どうやら3部を読み終えて満足げな様子だが、さっきしれっとえげつないことしてたんだね…
「…唇の動きから見ると【当職の整理券今度は334番、これじゃライブに行けないナリよ】って感じか」
「読唇術できるの?」
「よく分からない、【待合室で出したら社会的に終わるナリ…】」
「…本当にそんなこと言ってるの?」
「さぁな、【そうだ、いざという時は音をかき消せば大丈夫ナリ】」
「アフレコみたいだね、呼ばれたから行ってくるよ」
「ん、オープン」
何やらよく分からないことを呟いてるのを聞きながら、僕は受付に書類を受け取りに行こうとしたその時だった。
「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!! ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!!
突如ロリコン弁護士もどきのスリーパーの発狂が警察署の待合室にこだました……
傷んだヨワシのような生気を失った目で掃除係のチラチーノが自慢の尻尾で床に散らばったモザイクと何かの破片を掃除している。
ヘドロウェーブのような色のモザイクを掃き取った尻尾もヘドロウェーブ色に染まって濡れぼそり、やがてモザイクがかかってチラチーノがまた一匹ショックで失神してしまった。
「…ねぇ、いつまでも笑ってないで書類受け取ったし早く帰ろうよ?」
肝心の君は一連の流れで爆笑してグラスフィールド級に草を生やしている。そういやテラスタルタイプが何故か草だったとか病院で言ってたっけ…
「…そうだな、実験も大成功だったしそろそろ帰るか」
笑っていたのが演技かと思うほどすんなり元の状態に戻っている。
「そうだね、何か手がかりになるかもだし、そこのパンフレットとかフリーマガジン一通り貰っておこうよ」
「…分かった、でもリア獣警察とかマゼンタ警察のパンフレットなんて手がかりになるのか?」
「……何に使えるか分からないけど、万一ってこともあるしね?」
「そうだな…」
5万を代償に変わったポケモンと奇妙な経験、それと多種多様なパンフレットを片手に思わぬ収穫を得てワカバタウンの家へと歩き出した。
「むにゃ、もう食べられないよ、というか僕今日はまだ何も食べてないよ…」
寝言で気づいたかつてないほどの空腹で目が覚めた。
家に帰ってから疲れてそのまま寝てたらしいけど、全然記憶がない。
「適当にウパーイーツでラーメンでも頼も、野菜炒めトッピングの醬油ラーメンとチャーハンと、餃子も食べちゃおっかな! カロリーは二匹分だけど実質イノセント、二匹分…?」
そういえば何か忘れていると思ったら、滅茶苦茶忘れてた。
エアコンやWi-Fiの話だってしたのにあのガオガエンに何かしてあげた記憶がない。
「なんか下の階から音もするけど、色々大丈夫なのかな…?」
ウパーイーツの確定ボタンを押す前にスマホの画面を閉じ、不安にかられながらゆっくりと階段を降りていく。
キッチンからほんのり漂う美味しそうな香りにつられて、警戒することを忘れてドアを開けた…
「ちょうど良かった、晩飯できたぞ」
キッチンでカフェエプロン姿のガオガエンに菜箸を突き付けられた。テーブルにはラーメンの入ったどんぶりが二つ並んでる…
「…これ、君が作ったの?」
「…ありあわせで作ったし袋の裏見ながらであんま自信ないけどな」
謙遜なのか調理法覚えてないのかは分からないけど、ありあわせにしてはお店のラーメンみたいだ。
というより今の僕があまりの空腹で補正かかりまくってるのかもだけど…
「…いただきます」
買い置きしてたインスタントの醬油ラーメン、誰が作ってもある程度の味は保証済みだから…
「!」
一瞬呆然として箸を落としかけた。インスタントの醬油ラーメンに野菜炒めをのっけただけ、とは思えないぐらいの味がする。
スープはシンプルであっさりな醬油だったものに野菜と肉のうま味が合わさり、それでいてパンチも効いた味がやみつきになる。
野菜炒めも火は通って固くないけど程よくしゃっきりしていて、ラーメンを邪魔しないどころか互いを引き立て合うような感じさえする。
麺こそそのままだけど、元々が水準高いやつだからこれでお店開いても十分やっていけそうな気さえする…
「美味しい、これ美味しいよ…!」
一匹暮らしになってから二度と言わないと思ってた台詞だけど、思わず本心で叫んだ直後にはまたすすり始めてる。空腹だとしてもこんなの初めて…
「そうか、なら良かった」
満足げな返答しながらどんな表情をしてるのか、ラーメンに夢中で見る余裕もない程だけど、記憶がないなりにでも得意なこととか見つかったなら良かったよ…!
「あ」
ラーメンに満足してアイスコーヒーで一服していると、ちょうど食べ終わったガオガエンは手配書のパンフレットを見ながら思い出したようにつぶやいた。
「食器洗いよろしく、俺炎タイプだから水仕事できない」
「あ、うん…」
一番面倒なことは僕の担当になるのね…
あれから一週間、特に頼んでもないけどガオガエンは掃除やお店番どころか毎食自炊してかなり美味しいご飯を作ってくれている。
その分水仕事は全部僕に押し付けられたけど美味しいご飯にありつけるし、開店休業の店にもお客さんが少し来てくれて久々に売上が入ったりで、明らかに一匹で暮らしてた時よりもQOLは格段に向上してる。
「晩御飯の後片付けも完了、あとはのんびり部屋でゲームでも…」
部屋に戻ろうとした時、隣の部屋から何かを引き裂く音が聞こえた。
「⁉」
半開きのドアから引き裂く音と苦痛に叫ぶような声も続いて響く。
あの部屋は先週まで空室だったけど、今は風変わりな君の寝室。
「大丈夫⁉どこか痛いの…?」
慌ててドアを開けると、引き裂かれた雑誌のページの上で爆弾解体のコードに悩んでるような思い詰めた表情のガオガエンがうずくまっていた。
「どこか具合でも悪いの?それとも怖い夢でも見ちゃった…?」
数瞬迷ったけど駆け寄って安心できるように翼で包み込む。羽毛布団一枚程の効力あるかさえ怪しいけど、他にできることなんて…
「一週間経ってもできること全部やっても、俺が誰で何をすべきか、何一つ分からねぇ…」
…忘れかけていた。記憶をなくしている中で僕の家に居候状態、色々できること頑張って役に立とうとする君ならきっと、必死に記憶を取り戻そうとして頑張ってそれでも思い出せなくて、ずっと辛かったことなんてちょっと考えれば分かるはずなのに…
破れて舞うページから庇うように包み込む翼の力を強くする。部屋の隅にはアタッシュケースが開いたまま転がっていた。
「少しは落ち着いた…?」
「…」
翼の下で無言ながら頷く感覚。こんな時どうするべきか、一瞬で検索でもできれば楽なんだろうけどそれは無理だから即興で考えて行動することしかできない。
「不安になるのは無理もないかもしれないけど、そんな時こそ一旦冷静になった方が新しい発見だってあるかもしれないよ?」
「…そう、だな」
「きっとそうだよ、だから明日気分転換に一緒に出かけてみようよ?家の中以外の場所で何かを思い出せるかもしれないからね…!」
「分かった、出かけよう…」
どうやら元気になってくれたらしい、安心して翼を緩めて畳んでみると雑誌のページが何枚か引っかかっていたけど、そこまで悪い気もしなかった…
なんとなく「おやすみ」だけ言って部屋に戻ってきたのはいいけど何かする気になれない。
明日出かけるの誘っちゃったし、今日は早めに寝とこうかな…
普段通りベッドに寝転んでスマホをいじりながら、あのガオガエン用にスマホ契約してあげようか、なんて考えているうちに睡魔が襲って来た。
「じっくりとご覧ください。安い買い物ではありませんからね」
インテレオンは中のアタッシュケースを開いて見せる。
「こ、これを使えば当職は有能弁護士になれるナリか…?」
鼻息を荒くしてアタッシュケースの中の円盤を片っ端から見ているスリーパーをインテレオンは鼻で笑った。
「有能弁護士?その程度とは軽く見られましたね。これを使えば貴方のような親のすねかじり虫でも教祖、相性次第では神にだってなれるというのに…」
夜泣きする赤子をあやすように囁いて、一枚の円盤をスリーパーに渡す。
「多少値は張りますが、貴方なら下手なジャンクよりもこちらの方がお似合いですよ…」
そっと呟いてインテレオンは夜空を見上げた先には、雲に隠れた下弦の月がぼんやりと光っていた…
「…ねむい」
…なんか寝た気がしない。
8時にセットしたスマホのアラームは正常に作動してて、睡眠時間どころか就寝時刻と起床時刻すら吉良吉影と同じレベルなのに、全然寝た感覚がしない。
「なんか、サザ〇さん一家が世界征服を目論んで、完全に征服されるあと一歩まで追い詰められてたような、絶対変な夢見たせいだな…」
二度寝する気にもなれないし、他にすることも思いつかないのでベッドから降りて水でも飲むことにした。
キッチンに入るとテーブルには旅館の朝食みたいな朝ごはんが二匹分並んでいる。
「おはよ、今日も朝ごはん作ってくれたの?」
「あぁ、出汁巻き卵上手く焼けてるといいが…」
家に来てから毎食ご飯を作ってくれるガオガエンは今日も朝ごはんを作って広告を読んでいた。
僕もご飯をよそってテーブルに座り、現在挑戦中らしい出汁巻き卵を一口食べる。
飽和状態まで出汁を溜め込んだ卵のふんわりとして上品な味がたまらない。白ご飯の上でバウンドさせるとご飯まで美味しくなった。ご飯のおかずにもなるしお酒も呑める味がする…
初めて作った時点でかなり美味しかったけど、彼は「卵の層に焼きムラがある」って首傾げてた。全然美味しかったけどな?
「美味しい、焼きムラも全然ないし和食屋さんでやっていけるよ?」
「お前には礼を言う、俺はまだまだ上手くなる。…こいつは500万か、高額だな」
「何読んでるの?買いたいものでも見つかった?」
「これか?」
読んでいる広告を渡されて見てみると、ポケモンの顔写真とその下に高額な値段。
「これって、指名手配書だよ…?」
「警察署でフリーマガジンと一緒にもらってた、このエレキブルは500万で買えるのか?」
「いや、懸賞金だから捕まえたら500万貰えるね。一応生死不問らしいけど、って君まさかお尋ね者捕まえるの⁉」
「店は文字通り閑古鳥、そしてお前は洗い物以外しないヒキニート、だから俺が稼ぐ」
「うぐっ…」
的確に痛いところ突かれた。経絡秘孔知ってるとか言われてもわりと信じられそうなレベル…
「まぁ、そんな簡単にお尋ね者を見つけられないから懸賞金かけられてるんだし、とりあえず今日は色々楽しもうよ!」
「…分かった」
どうにか暴走を止めることはできた。変なこと巻き込まれたら絶対僕もただじゃ済まないだろうしね…
その後はご飯代替わりに押し付けられた食器洗いだけ終わらせて、相変わらず破天荒で切れ者なガオガエンを連れて遊びに出かけた。
「まずはスマホ買っておいた方がいいよね、先にショップに寄って契約だけしよっか」
「あぁ」
久々に来たショップは最新機種が色々並んでて買い替えの悩みたくなるけど今日は我慢しなきゃ…!
「いらっしゃいませ、本日はどういった機種をお求めでしょうか?」
「ほら、店員のタブンネさん聞いてくれてるよ、どんなのがいい?」
「最新機種のハイスペックモデル、データ無制限プラン」
「かしこまりましt」
「却下、流石にそれされると僕の貯金が底を尽きちゃう」
記憶喪失、しれっとえげつないこと言い出すから怖いよ…
「なんかほら、最新機種じゃなくても便利な機種だってあるし、通話相手もいないのに無制限プラン買ったところで意味ないしさ…」
「…」
ちょっと悲しそうな目で睨まれた。ごめん流石に言い過ぎたね…
「他に欲しいポイントとかある?こんな機能付きがいいとか…」
「…変身機能付きのやつ」
「……はい?」
「………お客様、返信機能でしたら全ての機種に搭載されておりますが…?」
「だから返す方じゃなくてチェンジの方の変身、その機能付きの機種が欲しい」
「「……huh?」」
僕とタブンネの声が重なった。
「お客様、返信機能はともかく変身機能付きの機種は流石にございません…」
「そうだよ、いくらなんでも店員さん困らせるようなこと言うのはまずいよ…」
流石にそのリクエストには答えられないよと二匹で諌めようとするけど、ガオガエンの方に逆に「huh?」みたいな顔をされてしまった。
「そうか?お前のスマホに変身機能あるんじゃないのか?」
「ゑ?」
「ほら、日曜日の朝テレビの前でスマホいじりながら叫んでただろ?テレビのヒーローの真似して「変身!」って叫んでたからてっきりあるのかと」
きょとんとした顔で爆弾発言されてしまった。
「お客様……」
タブンネの僕を見る視線が痛い…
「ヒーローの方じゃなかった?それじゃああっちか、その30分前後の幼い雌ポケモン向け番組用の変身機能が…」
「わーっやめて!僕そんなの見てないから⁉いくらなんでも風評被害がすぎるからって店員さんも屠殺場のポカブを見るような目で僕を見ないで本当信じてぇ……!」
一応言っておくと僕はそこまで日曜の朝テレビにかじりついてる勢じゃない。まぁ小さい頃は変身アイテム買ってもらえた友達を羨ましく思いながらテレビのリモコンで寂しくごっこ遊びしてたけど、流石に今はしてないぞ!みんな信じてくれ…!
「そういやお前の部屋のクローゼットには確か…」
「僕の負けだよ、欲しい機種買ってあげるからこれ以上噓八百並べないで…!」
「…じゃあ最新機種のハイスペックモデルデータ無制限プラン、周辺アクセサリーも全部セット」
「かしこまりました!契約進めていきますので少々お待ちください!」
滅茶苦茶悪そうな顔してる。さっきまで味方寄りだったはずの店員さんまでガオガエンの味方になっちゃってるし。
わりと本気で貯蓄大丈夫かな…
「それじゃあゲームコーナーでの遊び方を教えるよ、まずはメダルに交換した後打つ台を探すんだ。角台とかゾロ目も縁起はいいけど、基本はグラエナできそうな台を探すんだ…」
ずっと情けないとこばっかり晒してるので、そろそろガオガエンに格好いい所見せておくべくこの前の雪辱を果たすためもあってゲームコーナーへ。
あんまり興味なさそうで音がうるさいと不機嫌だけど、僕が勝つとこ見せるまで終われない。
なぁに、この前はたまたま調子悪かったけど、今回は普通に勝ってやるさ…!
「…噓だ、ウゾダドンドコドーン!」
あれから2時間、ポケモンライダーWでリベンジするも今度は6万溶かして大敗。
「…俺がやる」
呆れた顔して買ったばかりのスマホを試していたガオガエンにとうとう見かねられた。
「…君なんかにできるの?」
「ボタン押して絵を揃える、簡単だ。メダル3枚くれ」
「…3枚だけだからね、オエージ!」
メダルを3枚投げると見事に片手で全部キャッチ、やるね…
「…」
しかしメダルを投入しないどころか、設定モードを開いて何かを見始めた。
「筐体排出量データ取りつつ、メモリスロットポイント及びCPUを再設定、チッ!ならドライバーのメモリスロットにメモリガジェット直結!惑星の本棚ネットワーク再構築!トライアルメモリ更新!ドライバー制御再起動、放出期移行!排出量修正、メモリスロットポイント上昇!リーブオールビハインドシステム、オンライン!アクセルトライアル起動!」
普段の言動から信じられないような早口と共に設定画面を開いて次々に何かを書き換えていく。この筐体そんなことできたのか…
しばらく十字キーだけでいじり倒した後、画面はトライアルジャックポットチャンスに移行していた。
「全て、振り切るぜ…!」
3枚コインを入れたと同時に画面上のタイマーが起動、それと同時にまたボタンを連打し始めた。
「そうか、トライアルジャックポットチャンスは制限時間内に画面の指示通りにボタンを押す実力型チャンス、でも10秒で複数のボタン100回なんてちょっと無理が…⁉」
そんな心配を横目に高速で叩かれていき、真ん中のスロットボタンを叩いてガオガエンは手を止めた。
「「9.8秒、それがお前の絶望までのタイムだ」」
ディスプレイと同時に決め台詞を披露、5000超えのトライアルジャックポットが一気に払い出し始めた。
「交換所で12万に換金、元を引いても6万か?」
「…君に会った日に5万負けたから儲けは1万かな」
「お前弱すぎる、やめとけ」
「ハイ、シンシニウケトメマス…」
ビギナーズラックも真っ青のあんな快勝見せられたら、しばらく自信なくして行けと言われてもゲームコーナー行く気なくなっちゃったよ…
「晩飯の食材だけ買いたい、油淋鶏とパイクーならどっちがいい?時間かかるけど酢豚と魯肉飯も可」
「今日は中華の肉料理気分なんだ、その中なら油淋鶏かな!」
「美味そうなレシピ家にあった、それで作ってみる」
「いいね、じゃあお肉を買いに…」
急に後ろでドサッ、って音がした。
「ん?」
振り返ると、青いニンフィアの死体が地面に落ちていた…
to be continued…
中書き
リモコンをその手のツールに見立てたこと、一度はあるかも
ハイエナのコツは筐体にもよるけど、ステップがそこそこ溜まってたりJPが高額なのはおすすめかな
そろそろ物語も動き出すかもね…
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