※注意! この作品には官能的な描写が含まれます。
※前編からの続きものとなっています。まだお読みでない方はそちらからどうぞ。
おれの背負う岩宿の屋根に陣取ったアイアントが、地層の崖に浅く突き刺さったステルスロックを大顎で挟み、位置を微調整してくれていた。もうちょい下、と目だけで合図をよこせば、彼女は身を乗り出して的確に顎を操り、おれが石杭を叩きやすいよう、その一端をぐッと押し下げてくれる。
アイアントの顎にアッパーカットをかまさないよう慎重に、それでいて勢いをつけ、おれはステルスロックの釘頭を鋏で殴りつけた。
カぃ――ぃんッ!
握った鋏の空洞に手応えが乱反射する、マントルまで鳴り渡る岩石の快哉。これは、うまくいった。いや、いきすぎたくらいだ。新居を切り出すのに必要な深度を超え、地層に余分な亀裂を走らせちまったかもしれない。
脱皮したばかりで、力加減がうまく掴めないでいた。こないだ収穫したきのみを握り潰したばかりだってのに、またやった。次はもっとこう、軽くノックするくらいにしておくか。
隣のステルスロックに取っ組みかかったアイアントが、居心地悪そうに顎を離していた。
「……何か、聞こえない?」おれの鋏に乗り移り、アイアントは断層に前肢を押しつけた。虫の中にはこうして、地中を伝わる微細な振動を感じ取れる種族もいるという。「岩の中、何かが動いてる」
「また適当な嘘をつくんじゃあない。怠け者のアイアント2匹とシェアハウスするのは勘弁だぞ」
「そうじゃない。これは――」
アイアントは言いきる前に、おれの鋏から飛び降りた。振り返り、どことなく含みのある様子で触覚を萎れさせている。「どうした、疲れたか。休憩するか?」と気遣うおれの眉間めがけ、ステルスロックで穿たれた亀裂から、ごぱ! と水流が
「ちべてっ!?」びしょ濡れになった顔の前で鋏をクロスさせる。「ンちきしょう、湧き水を掘り当てちまった!」
「おじさん、面白」
「お前っ分かってたんなら教えろっての……!」
帯水層を横断するように貫いた亀裂が、雪解け水を引きこんじまったらしい。ぢゃばぢゃばと吹きこぼれる透徹した清水が、散らされたタマンチュラどものように芝草を転がり落ちていく。
「こんなこともあるの」
「力加減を誤っちまった。腕っぷしも強けりゃいいってモンじゃねえな」
「別にいいじゃん」小さな滝からたまらず退避したおれの鋏を、アイアントの顎がぐいぐい引っ張ってきた。「たまには水浴び、しよ」
「お前がしたけりゃ洗ってやる。おれは……、タイプ的にどうしても、なあ」
「……ちょっと前から思ってたんだけど」彼女がふと目を逸らしたかと思えば、戻ってきた灼眼はじっとりと強膜を狭めていた。「おじさん、におうかも」
「おれも、そろそろ体を洗うべきだと思ってたところだ」
「また嘘……」
嘘じゃねえ。気にしたことなどなかったが、抱いた雌に体臭を指摘されたのが、割とショックだったんだわ。それをはぐらかしただけだ。ンなこと、アイアントに教えちゃやらねえが。
クソガキだった頃を思い出したらしく水遊びに余念のないアイアントは、雪解けの落水地点を浅く掘り、掘り出した土で堤防を作り、あっという間に小さな
放浪するおれたちが手放しても、ここへ訪れるポケモンどもに知れ渡れば活用してくれるだろう。崖とは反対側、低木を数本隔てて眼下に広がる原野を見渡した。今はまだ下草が生い茂るばかりだが、ここらの丘陵地帯は夏になれば、満開のひまわりで埋め尽くされる。またとない絶景をひと目見ようと、もしくは蜜をひと口啜ろうと、遠方からわざわざ翅を伸ばしてくる虫どもで賑わうのだ。
いつ出会ったかも定かでないヘラクロスを探しに、ようやくこのひまわり畑まで戻ってきた。あやふやなおれの記憶を頼りにしたせいか道中、うだるような熱波吹き
荒野での滞在が長かったせいか季節の印象も希薄だが、彼女を拾ったのは確か、春の中頃だったはずだ。シェアハウスを始めてから、季節がひとつ巡ろうとしていた。
あの113号室を
水のミドリ
⬛︎⬛︎⬛︎
⬜︎⬜︎⬜︎
⬛︎⬛︎⬛︎
おれは崖際に岩宿を脱ぎ、ようやく強度を復元した外殻で浅瀬へ伏せていた。土手から両の鋏を投げ出し、体節ひとつひとつを開くように全身を寛げる。掲げた尾節を
「ここ、汚れが溜まってる。もっとこまめに水浴びして」
「ふぃ〜。極楽だわこりゃあ……」
「……おじさん、おじさんすぎ」
これまで面倒くささから沐浴は毛嫌いしてきたが、体節にこびりついた汚れだか老廃物だかをごっそりと削ぎ落とされる感覚は、声が漏れちまうくらい心地いい。失われていた肢の可動域もグッと広がったようだった。右の肢で左の脇腹に触れられたのはいつぶりか、生き別れたアゲハントとドクケイルが再会するくらいの感動モンだ。
数ヶ月ぶりの大掃除に辟易したのか、おれの尻尾へぶら下がるアイアントが顎を尖らせた。
「気づいてる? おじさんの歩いた後ろ側、いつも垢が落ちてる」
「そりゃあ生きてりゃ垢くらい貯まるだろ。飯を食えばうんこが出るってのと同じ理屈だ」
「……汚じさん」
「何言いたいか知らんがそんな目で見るんじゃあない。仕方ないだろ……まさかこの歳になって脱皮するなんてよ」
イワパレスに進化してから4回の脱皮を経、すっかり成長は打ち止めになったもんだと思いこんでいた。アイアントどもの蟻塚から切り出した戸建てを
シェアハウスを始める以前と同様ひとりで済ませるはずだったが、ブランクが空いていたせいかこれがなかなかうまくいかねえ。古皮が眼柄に引っかかり、あわや失明するところだった。見かねたアイアントの大顎が
「おあぁ〜……。そこそこ…………」
「またおじさん」
「おれの鋏じゃ、細かいとこまでは届かねえからな。アイアントがいてくれて助かるわ」
「…………っ」見えちゃいねえが、アイアントは触覚をぴこぴこさせているに違いない。「わたし知ってる。〝ヘイガニメイド〟ってやつ」
「……〝適材適所〟? ってそれ使い方間違ってないか」
耳あたりのよいおべんちゃらに機嫌を直したらしい、アイアントは大顎を器用に振るっておれの隙間から脱皮クズを摘出していく。マイホームのインテリアを精緻に彫りこむだけはある、細かい作業はお手のモンだった。おれに限らず甲殻を纏ったやつなら、アイアントのメンテナンスをありがたがること請け合いだろう。
背中側にこびりついた汚れをあらかた掻き出し終えたのか、彼女はおれの脇腹をしきりにせっついて、寝返りを促してくる。今度は腹側もやってくれるってのか。こりゃ、後で何をねだられるかわからねえな。
そうしておれは手際よく丸洗いされ、最後にアイアントの大顎が尾節の付け根へと伸びてきた。
「ここも、洗ってあげる」
「……おい」
ちんぽがしまわれている虫孔を暴こうと、小さな顎が
くすくす。おれの尻尾へじゃれつくようにしがみつき、半身浴するアイアントが大顎をゆるく開閉させる。
「皮を被ったままじゃ、みっともない」
「おまっ……。そんな下品な冗談、どこで覚えてきた」
「どういうこと」怪訝そうな灼眼がおれを半睨みにする。「おじさんいま、またおじさんぽいこと言ったの」
「……。いや、なんでもねえ。ともかくちんぽを洗われるなんざ、おれの柄じゃねえンだわ」
「脱皮のときは、わたしに任せきりだった」
「それとこれとは別モンだ」
「〝持ちつ持たれつ〟ってやつだと、思うんだけど」
「……。今度は、間違っちゃねえけど」
おれがひっくり返っているのをいいことに、
振るった鋏を
「悪ィが呑気に
「……まだ2日分はあった」交尾のお誘いを先んじて牽制され不服なんだろう、だがそれを己から切り出すこともできないとみた。言われのない当てつけが飛んでくる。「おじさん、勝手につまみ食い、したの」
脱皮してすぐに食いすぎると胃が膨れ、それで外骨格が固定されちまいそうで、ほとんど飲まず食わずだった。今朝確かめたときにはロフトに乾燥チーゴが3粒ほど残されていたはずだ。アイアントもおれも食ってねえとしたら……、まさか施錠してあるはずの玄関をすり抜け、性悪なエルフーンがコソ泥しに来たってのか。
責任をなすりつけるのは、よくねえな?
「体節を掃除してくれたとこありがてえが、アイアントお前、己の顔は洗ったか? 頬にチーゴのへたが付いてるぞ」
「えっうそ!?」
「嘘だよ」
「………………」あっけなくボロを出したアイアントがおれを睨む。「おじさんさ、やっぱり嘘つき」
「カマをかけたんだ。もっともおれが食ってねえんだから、お前しかいねえだろ」
アイアントは観念したのか、はたまた破綻を織りこみ済みでおれをおちょくっていたのか。つまみ食いの罪状を棚に上げておれの鋏から飛び出すと、尻をふりふり自由を満喫するように闊歩していった。はしたない仕草はやめなさい、乾かさないと風邪ひくぞ、危ない場所には近寄るな――などと父親ヅラして忠告しそうになって、おれは口を引き結んだ。
「……それじゃあ、楽しんでこいよ」
「おじさんに言われなくても、そうする」
顎を軽く掲げただけで、アイアントは振り返りもしなかった。湿った芝草を6本肢ではしゃらはしゃらと掻き分け、小さな背中が低木の合間に見えなくなっていった。岩宿を落ち着けたキャンプ地へ、日暮れまでには戻ってくる。おれたちが別行動を取るとき、いつしかこれが暗黙のルールになっていた。今のところアイアントはきっかりと門限を守り、悪い虫ともつるまずおれと夕飯を共にしている。それがいつまで続くとも限らないが。
「……さて、どうしたもんか」
濡れたままマイホームを着こんじまうと、アイアントに蒸れてにおうだなんだと言われかねん。用事を済ませるのは乾かしてからにするか。
岩宿の屋根へよじ登ると、低木の向こうに青葉のひまわり畑が茫洋と広がっていた。その終端から飛び出した小さな
鋏を噛み合わせ、そこへ顎を乗せる。遅れを取り戻そうと前日は歩き通しだったせいか、水
おれのものよりも融通の利きそうな鋏が、ウブとノメルをその中へとしまいこんだ。手入れが行き届いているのだろう、微かな摩擦音もなく握り締められれば、刃の隙間からにじみ出た搾り汁がもう片方の鋏へと注がれる。そこへツボツボの醸造酒を適量。しっかりと刃が噛み合わせられた鋏は、激しく揺すられようとも果汁の1滴さえ逃さない。そうしてできたカクテルとやらが、カゴのみをくり抜いて作られたカップへと注がれていく。輪切りのラムを1片添え、グライオンはおれの前へ滑るように差し出してきた。
「どうぞ。塩を舐めながらお楽しみください」
おれの目線の高さしかない切り株へ置かれたカップの縁には、奥側半分にだけ砂利ほどの大きさの半透明な結晶が付着していた。硬いきのみを圧搾して果汁をいただくってのは誰しも思いつく知恵だろうが、グライオンはそれを洗練させ、ここいらのポケモン相手にふるまっている。こだわりの強いヤツってのはいるもんだ。塩を加えるなんて余計に喉が渇くだろうに、おれには想像だにできない技巧が尽くされているのだろう。
両の鋏でカップを傾け、カクテルとやらをまずはひと口。鼻孔を抜けるような酸味に、ほのかな渋みと甘味が同居する芳醇さだった。ふた口目を含み、すかさず塩を舐めてみる。身構えたよりもしょっぱくはない。荒削りにされた塩の粒はべろの上でゆっくりと解け、ノメルの酸味を抑えつつウブの甘味をほんのりと引き立たせてくれる。まあ、空きっ腹に流しこめばなんだって一級品になるが。
「さっぱりしているな。そのままでも美味いが、塩を舐めることでその、なんだ……、深み? が増した。組み合わせの妙ってヤツだ」
「ああ、よかった」
おれの拙い食レポにも満足したらしい、不安げに注視していたグライオンの頬がほころび牙が覗いた。4分咲きの桜から散ったひとひらが偶然、置いたカップへと吸いこまれ水面に波紋をひとつ作った。こんな小洒落たモンはおれの趣味じゃねえ。飲んだ感想を伝えるのも、取引の一環としてだった。
カップについた結晶に目を細めていると、前の冬を思い出す。朧げなおれの記憶を頼りにひまわり畑へ戻ろうとしたことが災いし、おれたちは雪降りしきる塩湖へ迷い至った。そこで出会ったキョジオーンに世話になったんだが、別れ際彼女から塩の塊を分けてもらったのだ。
モノを運び、また別のモノと交換する。イワパレスってのはつくづく旅をするのに適した種族だと思うのだが、あいにく同族は縄張り争いにご執心ときた。物腰柔らかなグライオンはわずかな風に乗って長距離を流れ、以前はおれのように放蕩の旅をしていたという。鋭い鋏と体を支える二股のしっぽ。どことなく親近感が湧いちまったのか、はたまた同業者の先輩へ尊敬の意を示してか、けっこうな量の塩を割の渋い交換条件で譲っちまった。
「このカクテルは私が砂漠に滞在していた頃、初めて口にした酒なんです。あそこは岩塩がよく採れる土地でした。ここは海からも山からも遠いでしょう。もう再現できないものかと諦めていたのですけれど、まさか本当にイワパレスさんが運んできてくださるとは……。おかげで思い出すことができました。なんとお礼をしたらいいか」
「まあ、これも何かの縁、ってやつだ」
以前ヘラクロスとつるんでいた折にも、グライオンに1杯奢ってもらっていた。かつては彼もこの森に住み着いたばかりで、飲み物作りの腕もまだまだ青二才だったのを思い出す。そのときしきりに塩についての憧憬を聞かされていたのだが、手土産に運んでみて正解だった。こうも喜んでもらえると運び屋冥利に尽きるってモンだ。
当時は流れ者だったグライオンもすっかり馴染み、ツボツボのつがいを迎えこの大桜に棲みつき、常連のポケモンどもからは親しみをこめられ『すなあらし』と呼ばれているそうだ。特別な名前があれば住処にも愛着を持てるというもの。これは天井裏に隠蔽した枢密だが、イシズマイだったおれも初めて切り出したワンルームに愛称をつけていた。初脱皮で彼女を手放す羽目になった際、あまりの喪失感から三日三晩しょげこんだきり名前はつけていない。
塩の塊がえらく気に入ったのだろう、懐から取り出したそれを鋏でつまんでうっとりと眺めつつ、グライオンは空になったカップを下げにきた。
「よければもう1杯、お作りしますよ」
「悪ィな。酒はほどほどにしているんだ」
「アルコール抜きにもできますが」
「そりゃどうも。気持ちだけありがたく受け取っておく」
ヘラクロスの住処について有力な情報が得られなければ、夏まで付近に逗留することになる。どれ、アイアントと合流したら『すなあらし』のことを教えてやるか。甘い味のきのみは食わず嫌いしてばかりだが、グライオンの手腕にかかればペロリもといゴクリかもしれない。酒を混ぜるのはまだ早いが。
塩の塊と交換した、砂漠で採掘されたという小ぶりな宝石(アイアントが好きそうだ)を背中へしまいこみ、おれはグライオンを呼び止めた。
「おかわりの代わりといっちゃなんだが、ひとつ訊きたいことがある。この辺りで、ヘラクロスは見かけなかったか? カラサリスか、もしくはアゲハントをつがいにしているはずだ」
「ヘラクロスのお客様、ですか。そうですね……」浮遊するグライオンの尻尾が所在なげに揺れ、地面にでたらめな模様を描く。「前の晩春に1度、お見えになったはずです。桜が満開の繁忙期で、なにぶん詳しいことは覚えていないのですが……、確か、アゲハントのお連れ様がいらっしゃったような」
「そうか。……どこから来たか、とか、何か喋ってはいなかったか」
「いえ、そこまでは……。イワパレスさんのお力になれず、心苦しい限りです」
「いや、前の春には見かけた、ってだけでも大儲けだ。ありがとな」
おれは『すなあらし』を後にし、帰りしな森ですれ違うポケモンどもにヘラクロスについて尋ねてみたものの、これといった収穫はなかった。やはり遠くの住処から観光しに来ていただけ、なんだろうか。だとしたら望み薄だ。おれにもグライオンのような翼があれば捜索範囲を広げることもできたろうが、あいにくナックラーばりの機動力なら待っていた方が得策だろう。
なんだかんだと思案しているうち、できたばかりの湧水地まで戻っちまっていた。ロフトの2割ほどを占領していた塩の塊があっけなく
ついでに雌を引っかけていこうかとも思ったのだが、どうにも食指が動かなかった。川べりでおとなしそうなオニシズクモを見かけたのだが、どう声をかけたもんかと鋏をこまねいているうち、知り合いらしきデンチュラが彼女を連れ出していっちまった。
シェアハウスを始めてから他の雌を抱いたのは3度、いずれもアイアントと別行動をとっているときに限った。そんくらいのデリカシーは捨てちゃいねえ。岩山から滑落したセキタンザンを助け、コンサートの会場設営を手伝っていたナットレイからは誘われ、塩を譲られるに至ったキョジオーンは地層の美しさを口説きまくった。どの娘との交尾もとびきり刺激的だったが……思えば偶然にも虫グループを避けているのは、無意識にアイアントを意識してのことだったか?
――ぶるぉおおんッ!
白日の彼方から不意に低音が鳴り渡り、一直線におれ目がけて急接近していた。仰げば迷いなくこちらへ墜落してくる細長い影。ワナイダーが丁寧に仕掛けたトラップでさえ吹き飛ばしかねない衝撃波を伴って飛来するそいつに、おれは左の鋏で照準を合わせていた。
「おおーい、懐かしい顔がいるね!」いつか見たメガヤンマがにやついたまま、禿げかけた低木を気にもせず急停止してみせる。おれが岩を撃ち出すとは微塵も危惧していない、空を統べる者の傲岸さがあった。「黄色いのが咲くまでまだ随分あるってのに、いやにせっかちなやつがいたもんだ」
「お前は……」
鋏を下ろす。思い出してきた。あれはちょうどヘラクロスと別れてすぐだったか、このメガヤンマに道を尋ねられたのだった。異邦者のおれは目的地の洞窟までどうにか案内してやったのだが、迷っていたってのは建前で、その洞窟に連れこまれメガヤンマの相手をする羽目になったのだ。見知らぬポケモンには付いていくなと、こればかりはアイアントへ口酸っぱく言い含めている。
積極的な雌は嫌いじゃねえが、相手の良心につけ込むような
「今度はどこへ道案内してやればいい。灼熱の岩山か、雪降りの塩湖か? どこにだって連れてってやるが、途中で帰してくれなんて泣き言漏らすんじゃあないぞ」
「けッ、なあンだよ。前のことまだ根に持ってるのかい? ……でもよお、今回は騙すような真似しないでも、
「おい待て、なんで出会って2秒で合体、みたいな話になってるンだ」
「……なんだ、知らないのかよ」
「くどいぞ」
「黄色いのを見にくる呑気な奴らは、わざわざこんな端っこまで来ないもんでなあ」前肢でひまわり畑の終端をぐるりと指し示しながら、メガヤンマはおれへ耳打ちしてくる。「ここいらは、ヤリモクのヤツらが集まるナンパスポットとして有名なんだよ。ちょいと時期が早いもんだけど、アンタもそのつもり……、なんだろう?」
「……なるほどな」
おれが湧水池に戻った際、喉を潤している先客がいた。ガーメイルだった。ヘラクロスについて訊ねたかったのだが、「おい」とおれが声をかけただけで、そいつは蜜をくすねているところをビークインに見つかったか、というほどの慌てぶりで飛び去っちまった。何も敵意を向けたわけでもあるまいし、と
しっかしおれの嗅覚も鈍ったか。多くのポケモンが棲みつくコミュニティには大概こうした出会いの場が設けられている。染みついたフェロモンが嫌でも雄をその気にさせてくるもんだが、メガヤンマから教えられるまで一向に察せなかった。……おれもそろそろ枯れるってか?
老いの兆候を暴露して盛り上がるなんざいよいよだ。おれは右の鋏を掲げあげ、邪険に振ってみせた。
「そうか、邪魔をした。それじゃあな」
「おいおい、感動の再会だろう? 何をそんなに急いでる」メガヤンマが意味ありげに前肢をすり合わせる。「せっかくだ、これも何かの縁だろ。アタシと1発
「1度抱いた雌にはこだわらない主義だ」アイアントとはもう数えるのも億劫なほど体を重ねていた。「雄漁りなら別でやってくれ」
「なあンだよ、シたばっかかぁ? つれねェな〜。まさかつがいを持った、なんて冷めたこと言わないでくれよ〜?」
「つがいがいるように見えるのか?」
ちら、と低木の間からひまわり畑を透かし見る。アイアントが帰ってくる気配はまだない。それどころか草原は不自然なまでに静まり返っていた。我が物顔で羽音を轟かせるメガヤンマに因縁、もとい色目をつけられないよう、虫どもが息を潜めているようにも思える。
築浅の一軒家をしげしげと眺め回しながら、メガヤンマは前肢で牙をすりすりやっていた。初めて邂逅したバタフリーとコンパンが、お互いの体つきが似ていることを確かめるような興味深さだった。
「なんだい、これがアンタのつがいだって? シマシマにぶっかけるのがいいのかい」
「背負ってやるやつと、つがいにするべきやつは違う。今んとこは、どんなスケベな雌だろうが、ひとつ屋根の下で暮らすつもりもねぇよ」
「ひひッ、相変わらずで安心したよ。……じゃ、アッチの方も、まだまだ現役なんだろう?」
「あいにく分けてやれる食料もないときた。こういうとき、雄は雌に恵んでやるものだからな。ああ実に残念だ」
「そんなん要らねえよ〜。アタシとアンタの仲じゃないか。ぶっ濃いザーメン恵んでくれたら、さ〜……♡」
「……」
メガヤンマが口を開き、揃った牙の隙間から舌先をちろちろ見せびらかしてきた。あまりの露骨な仕草に、相変わらずなのはお前の方だろう、とさえ返せなかった。やたらとグイグイ来る彼女の複眼はあからさまな焦燥の色を宿していて、これはおれの予想だが、ここんとこ逆ナンは失敗続きで雄日照りなのだろう。
欲求不満を見透かされたことにバツの悪さを感じたのか、振り払うようにぱしん! とメガヤンマが翅を強かに打つ。
「なに、アタシが気に入ったヤツに限って、さっさとつがいを作っちまうもんだからなあ。ここらで言や、グライオンもビブラーバもイ〜イ雄だったってのによぉ。……そういう雄に限って、ずっと昔のことだってのに未だに思い出しちまう。ちょうどアンタとヤった前の日のことだったな。可愛らしい顔つきだったってのに、つがいがいるからって律儀にフりやがって……。ッたくあのヘラクロスは」
「――おいちょっと待て、ヘラクロスに会ったのか!?」
「なんだいその食いつきっぷりは。まさかアンタ、そっちもいけるクチだったのかい!?」
「そうじゃあない。おれ
「……ああ?」
メガヤンマは訝しげに小首を傾げていたが、おれの言い違いは気取られずに済んだようだ。アイアントとシェアハウスしている、と知られりゃネチネチと突っかかってくるに違いない。「誤魔化さなくていい。雄どうしでもイけるったって、アタシは別に気にしねえからな〜」すっかり交尾するつもりでいるメガヤンマの勘違いを正すのも億劫で「まあいいだろ」とおれは話を戻した。
「で、ヘラクロスにちょっかいかけたのは、どのあたりだ」
「別れたのはあの、桜の樹の下。見えるか〜? 『すなあらし』って呼ばれてる名所、みたいなとこなんだがなあ。お、ちょうどいまグライオンがきのみを搾ってる」おれの目線じゃ茂みに遮られて確かめられないが、図らずもその名前には聞き覚えがあった。「あのヘラクロス、道に迷ったってすり寄ったら、おひとよしにもあそこまで道案内してくれてねぇ」
「……同じ手口でも、おれならカモれると思ったわけか」
「ひっひひ、過ぎたことはイ〜じゃんか。実際そうだったし」メガヤンマは悪びれもしなかった。「んで、アタシの誘いを断ったヘラクロスは『僕、つがいがいるんです』『大事なんです。……ごめんなさい』だとかほざいてたっけ。ッひひ、もうほとんど泣き顔になっててよ、あのあと住処にとんぼ返りして、大好きな雌に慰めてもらったんじゃねえか」
「どの方角へ帰っていったか覚えているか」
「もちろん覚えてるぞ〜。……ま、こっからは、タダじゃあ教えらんねえけどなァ〜♡」
「………………」
長い舌で牙をちろちろ舐めまわしながら、メガヤンマはどうする? と口端を吊り上げて訴えてくる。思わず長いため息をこぼすと、ブロロロームがエンストしたみたいな喉鳴りがした。ここはヤリモクの虫どもが跋扈する即ヤりナンパスポット。ならば、ヤることはひとつだろう。
彼女は場所を移す手間さえ惜しむはずだ。おれはひまわり畑を再度顧みた。アリアドスどもがカサつき始める時間帯にはほど遠いが、アイアントが戻ってくるまではいくばくもない。その前に、ヘラクロスの居場所を吐かせてやるしかないだろう。――それも、メガヤンマの嬌声と一緒にだ。
「わーッたよ。おれも暇じゃねえんでな。手早く済ませるぞ」
「――ッへひひ、そうこなくっちゃあ」
逞しい牙をニッとむき出しながら、メガヤンマは翅をひとつ豪快に打ち震わせた。
「その岩を早く脱げ。ちんぽ見せろ。上がれ」
「いやにがっついてンのな」
崖際に茂った
メガヤンマはおれの眼柄を掴んで引きずり出しかねん剣幕だった。屋根瓦へ仰向けに寝そべったおれの周囲を忙しく飛び移り、これから同衾する相手を複眼に焼きつけているらしい。
「最近はハズレの雄ばっか引いちまってなあ。
「……阿婆擦れも大変なのな」
勝手知ったるように前肢で
癒着した肉を剥がされる鮮烈な痛みが走り抜けたのも、一瞬。肉厚なべろは
「これこれ、これだよこれ……。いやぁこのちんぽ、イ〜イ形してンだよな〜! ガチガチになったらアタシの顔くらい長さあるんじゃねーか? 中ほどでぶっとく膨らんでて、ここがまんこんナカを押し拡げてよ……。 美味そうな血管がバキバキに走ってるし、それに何よりこの色がそそられるよなあ。使いこまれた感じの赤紫色して、こんなん見せられたら雌は1発でまんこ濡れちまうって……。アタシの催眠術よりどぎついんじゃないかい? アンタこれまで一体どんだけの雌をヨガらせてきたんだよォ」
「ずいぶんと口が回るな。お前の口はちんぽを品評するためについているのか?」
「ッひひ、そう
メガヤンマは文句を垂れつつも前肢でがっちりとちんぽを握りこみ、おれの劣情を焚きつけるよう肉厚なベロをのたうち回らせていた。やたら長ったらしい舌が、半勃起ちんぽの裏側をねっとりと
交尾にありつけたことがよほど嬉しかったのか、メガヤンマは唾液でてらついた肉杭へ釘づけになっていた。何千とある複眼のどれもに、勃起しきったちんぽが大映しになっていることだろう。
「ああッ
「品評するなとは言ったが、まして酷評なんかするんじゃあない……」
「ばァか、褒めてンだよ! ッひひひ……」
アイアントのみならず、よもやメガヤンマからも
げんなりするおれの心うちに気づくはずもなく、メガヤンマはにッと口角を持ち上げると、満を持してちんぽを口腔へ含ませた。狭められた牙がちんぽの両サイドを
器用なもんだ、彼女はこれを中空で浮揚したままやってのけていた。それも窮屈そうに腹を折り曲げながら、だ。両の前肢でちんぽの膨らんだ中ほどをしっかりと支え、中肢はちんぽの完全な勃起を促すよう虫孔を揉みほぐしてくる。岩宿の外壁へくっつきそうなほど尻先を丸めこんでいるのは、後肢でこっそりと己の虫孔を弄っているからだろう。
「あ〜
「美味い方が上手くしゃぶれる、ってか?」
「ッひひ、惚れたちんぽはベロだけで気持ちよくなれッからよぉ〜。滲み出てきた先走りとか、特に美味え。なんか……なんだ、岩を舐めてるみたいなしょっぱさしてよぉ」
「味覚まで阿婆擦れてンのかよ……」
その塩味は以前抱いたキョジオーンの残り滓だろうが、おれは黙っておいた。冬に彼女と寝てからしばらくは真水で沐浴できる機会がなく、その間ちんぽがひりついてしょうがなかったのを思い出す。鉱物グループのヤツらってのは珍しい交尾形態を取るヤツも多くて楽しいのだが、絶頂の余韻よりも後を引く掻痒感には手こずった。
塩漬けちんぽを心ゆくまで堪能したらしい、メガヤンマの口内で練りあげられていた唾液が裏筋へと垂らされる。すかさず襲いくる顎肉の抱擁。ぢゅばッ、ぢゅずず……じゅるるる……ッ! 下品極まる水音は、彼女が吐きつけたばかりの唾を吸引したためだった。艶やかな牙の峰を押しつけ、粘着質なフェラの感触にアクセントを加えてくる。こうして雄を骨抜きにしてきたのか。あまりに耽美な光景をまざまざと突きつけられ、おれの喉も期待にぐぐぐッ、と鳴った。
「ンむッ、っぷ、んっぅンッ……。ひょっぱくへ、くっシェえ。ィひひっ、こりゃ、めしゅをダメにしゅる極悪ひんぽだねぇ〜!」
「フェラするか貶すかどっちかにしろ……」
まだまだおしゃぶりを止めるつもりはないらしい、メガヤンマはちんぽを頬張ったままキツめに口を閉じた。先端から3割ほどの位置に上顎と下顎が柔らかく食いこみ、左右は滑らかな牙で挟まれる。内部では蜜をたっぷり纏った舌が暴れ、ウツボットの唾液袋へ落っこちてしまった哀れなビードルをしつこく撫でまわしてくる。顎と牙で採寸されたおれ専用の肉穴に閉じこめられ、先っちょがじぃんと痺れるような甘い快感に満たされていく。
ちんぽを支える必要のなくなったメガヤンマの前肢と中肢が、いつの間にかおれの背中へと回されていた。それらを引きつけるようにして、にゅとんっ、不意にメガヤンマの頭が滑り落ちてくる。振り下ろされる頭頂部のフィン。ちんぽの6割ほどを柔肉に包まれ目を白黒させるおれの前で、ずろろ、ろ……ッ、とすぐさまメガヤンマは頭を上げた。どうよ? と己の性技をひけらかすように、複眼がいやらしく歪んでいた。
ちゅぽっ、ぢゅぼ、ぷぼ、ッぶぽ、ンぼッ! およそ雌の口から出てはいけないような水音を響かせ、メガヤンマは顎と牙でちんぽを扱いていた。窄められた口器の頬肉が隙間なく密着し、もう塩辛さが抜けた生肉からエキスを扱き出そうとする。それでいて舌捌きも抜かりない。裏筋へ沿わすように丸めたべろで軌道を確保しつつ、咥えこむときはざらついた表面で擦りあげるように尖らせ、戻す際にはべったりと貼りつけることで1発ごとの余韻を長引かせてきやがる。できるンなら耐えてみな、と挑発するかのような容赦のなさに、おれは下腹に力をこめっぱなしだった。
ひびが入りかねんほど握りこんでいた鋏で、忙しく上下する黒色のフィンをとっ捕まえる。いきなり頭を引き剥がされたメガヤンマは「オ゛っ」とえずいたが、はしたなく長いべろを伸ばして先走りのひと雫を掻っ攫っていくのだけは忘れなかった。
「……っ、どんだけしゃぶれば気が済むんだ」
「ひひっ、アンタならうっかり漏らしちまうようなことはねえだろうから、ついサービスしちまった。アンタも、感度バツグンで最高に気持ッちイイ交尾、したいだろ〜?」
「勝手に同族扱いするんじゃあない。あくまでおれは、お前から情報を引き出すためにヤってるワケであって」
「ひひひッ、そーいうことにしておいてやるよ〜ッ。ならなおさら、アンタには頑張ってもらわないといけないね。準備はこっちで済ませておいたから、アタシがつい口を滑らせちまうくらい、思いっきりまんこをほじくってくれよ〜? ……ッと、その前に」
メガヤンマは浮遊高度を少し上げ、唾液で磨きあげたちんぽへ3対の肢を揃えてしがみついていた。その長い腹部を反らし持ち上げることで前屈みになり、肢場が横倒しになるのを防ぎつつ、高嶺への登頂を成功させたヤジロンみたく器用にバランスを取っている。
「このちんぽ長くて安定してて、止まり木にするとちょうどイイんじゃねえかって思ってたんだよな〜!」
「ちょちょちょ、お前、重い……! 折れるだろ……」
フェラの最中ホバリングに勤しんでいた翅は振動をやめ、がしっと掴んだちんぽで休憩しているようだった。薄翅に走る
が、それはそれとして重い。彼女の全体重を垂直にかけられ、ちんぽが虫孔へ引っこんじまうかと思った。そのうえ肢に揃ったトゲが刺さって普通に痛い。のしかかられてなお勃起を保てるよう、尾節が丸まっちまうまで腹筋をグッと引き締めていた。いくら力自慢のヘラクロスでさえ、ちんぽの先にアゲハントを留らせるような下卑た曲芸はしねえはずだ。
まあこれも、翅を見せつける行為がメガヤンマ特有のセックスアピールってのならば納得できる。ここはいっちょ翅脈のきめ細かさでも褒めてやろうか……などと言葉を選ぶおれへ、牙を緩めどこか得意げにメガヤンマが胸部を張った。肢伝いにちんぽの先を揺さぶり、おれから
「へひひ……、こりゃ便利な止まり木だなァ。こうやるとうンめえ水も飲める」
「お前は阿呆なのか」
そうだった、コイツはこういうヤツだった。綺麗だな、なんてありきたりな
いつも左の鋏へ装填することにしている、予備用の
びしッ! と軽くない衝撃にメガヤンマはバランスを損ない、とっさに羽ばたこうにも翅の基部が軽く麻痺したらしい、体勢を立て直せず頭からつんのめった。
「イ――ってえなァ! 何しやがる!」
倒れこんでくる頭部を受け止めた勢いのまま、全身を捻って体位を入れ替える。不意を突かれ混乱する彼女を引き落とし、滑らかに
もがいて逃れようとする彼女の腹部の付け根へ、おれは右の鋏を投げ落とした。「ぐえ」なんて情けない悲鳴。左の鋏は、右のもののすぐ下へと滑らせ、こちらはメガヤンマの薄い脇腹をそっと挟む。末端に備わった黒いフィンを横倒しにしながら、おれは縦長な背中を組み敷いた。この体勢ならメガヤンマは無闇に暴れられねえだろうし、やおら離陸されたってしがみついていけるだろう。そうされないだけの信頼あってこその背面位だが。
フィンの側面へちんぽを柔く押しつけながら、おれは囁いた。
「つまらん冗談ばかりを垂れるその口から、エロい声をしこたま出してやるってンだ、ガタガタ言うんじゃあない」
「ひ――……ィ」
魅力的なおれの脅し文句に暴力的な交尾を期待してか、メガヤンマは息を飲んでしおらしくなった。地べたを這いずるイワパレスにとって、メガヤンマを上から眺めるのは新鮮だ。石切の際おれがステルスロックの目打ちをするような、旭日の斑点が1列になって並んでいる。背中側はこんな感じなのか……。おれじゃ顔を拝むことも難儀するマドンナを撃ち落とした達成感、のようなものがあって、思わず舌なめずりをひとつ。もっともコイツに関しちゃ、おれ目がけて墜落してきたようなものだが。
フェラしている間じゅう、手持ち無沙汰だった後肢はやはり前準備を終わらせていたらしい。メガヤンマの尻先には交尾相手を把持するための棘のような付属器が左右に1対備わっていて、そこを尾節で押し除ければ、付属器の付け根に秘匿されていた虫孔から愛蜜が粘りついてくる。腰を浮かせつつ数歩下がり、掲げられた尻先へちんぽの先をグッと押しつけた。待ち侘びていたかのように付属器はすんなりと失陥し、これから迎え入れる統治者の頼りがいを確かめるよう、にゅくにゅくと甘噛みしてきやがる。
アイアントは当然としてどの雌を相手するときも、おれを楽しませてくれる虫孔は口でじっくり舐めほぐしてやるのだが、ことメガヤンマに限ってはそんなまだるっこしい前戯なんざ求めちゃいねえだろう。そこをあえて焦らしてクンニに立ち戻り、さんざ
彼女の腹の付け根を押さえていた右の鋏を転がし、側面でじっとりと圧をかけた。強い雄に背中からのしかかられ、これから一方的な蹂躙を受けるに違いないと、メガヤンマの本能を早とちりさせてやる。目論み通り、暖機運転を終えた主翼をピンと伸ばしたまま、機体はやにわに熱を帯び始めていた。
「お……、お゛ッ。そうそッ、これこれ、このちんぽ……。ひひッ、帰ってきやがった……」
「バカ言え。いろんな雄を食い漁ってきたンだろ、記憶に残ってるはずがねえ」
「くひひひ……。アタシが覚えてなくとも、まんこが忘れちゃいねえってさあ」
眉唾だが、メガヤンマの言い分もあながち間違いではないのかもしれなかった。遠征から凱旋したビークインをもてなすミツハニーどもが勝鬨をあげるように、虫壺をたっぷりと満たした白蜜がおれを迎え入れてくる。腰を落としていくにつれ、大通りを進む女王蜂が沿道の臣民からハイタッチを求められるよう、無数の柔ひだが次々ちんぽを揉みくちゃにしながら絡みついてくる。
体節の隙間から髄が蕩け出るような心地よさだった。見てくれ通り幅広な肉筒はちんぽを上下からゆったりと挟みこみ、どこまでも続きそうな
しゃにむに稼働しそうになる肢の関節をグッと抑え、付属器のアシストに沿ってずぷずぷとちんぽを埋没させていく。手持ち無沙汰な左の鋏を滑らせ、いまどこまで到達しているのか意識させるよう、メガヤンマの脇腹をじんわり按摩してやる。
慎重に体重をかけ続けてしばらく、かッ開かれた付属器がおれの櫛状板とじゃれ合うようにして、虫孔どうしがしっとりと密着した。
「お゛ぉ……!? くひッ、ン〜……?」予定外に深くまで届いたちんぽに動揺したのか、甘く濁った感嘆が細長い腹底から湧き出ていく。「ッなんだ……? アタシが思ってたよりなんか……、長くて、ぶっとい?」
「怖気づいちまったか? ずいぶんとしおらしくなったじゃねえか」
彼女の違和感はもっともだった。
おれに撃ち落とされたってのに、メガヤンマは強気な態度を崩さない。
「ふ〜……ふッ、そういうアンタはどうなのさ。久しぶりに味わうアタシのナカはよぉ」
「ンだなァ」
食レポを求められたのは本日2度目だ。最奥まで侵攻したちんぽを軽く揺すれば、先端が肉粒の密集地を捲りあげた。「ンお゛ッ」と弾けた雌声とともに、甘ったるい蜜がじゅわりと滲み出してくる。ざらついた膣奥が潤沢なソースに満ち、生温かなとろふわの食感に様変わりしていた。極上の触れ心地に思わず吐息をこぼしちまう反面、ずっとここを貪っていたら糖尿になっちまいそうだった。祝杯を上げるビークインの御膳には、どの食料にも容赦なくローヤルゼリーがまぶされるってのか?
「まだ
「ここいら一帯のサカり場を巡ってきたからなあ。ひひッ、アンタも、抱いてみたいって種族がいたら言ってくれよお。紹介してやれっかもナァ」
「あいにく住処と雌は自力で手にするのがモットーなんだわ」
色情狂を自負するだけはある、膣壁は発達したひだを満遍なく備え、噛みついた肉を離すまいと生温かな粘膜を絡みつけてきた。なかんずく虫孔付近は媚肉が複雑に折り重なり、フェラでは届かなかったちんぽの根本をにゅちにゅちと食いしめてきやがる。あまたの雄虫を食ってきた肉食強者のまんこは、それこそアブリボンからペンドラーのものまでを食べ比べしているに違いない。ちんぽの長短にかかわらず入り口はひとつだけだ。アブリボンなんかを相手しているうちに、虫孔周辺ばかりを開発されてきたと窺える。
したらば、ここまで深くハメられることも稀なはず。さっき先端をなすりつけた肉粒の群生地が狙い目か。おれは再度ちんぽを左右へ揺らしてやった。「ひン゛っッ……!」白状するような掠れ声に加え、攻めどころを見事暴き出したちんぽを歓迎するよう、ぬっちょりと濡れほぐれた最奥がキャタピーの
熱波の岩山を彷徨っている折、おれたちは石を積み上げて建造された塔へ行き当たった。付近に棲まうセキタンザンの話じゃ、そこへ嵌めてある
すかさずおれは囁いた。
「お前、意外と綺麗な翅してんのな」
「お……?」
「太陽みたいな
「ひ! ッひひ……! ひゃいぃ……!」
さっき言いそびれた口説き文句。これまであまたの雄から囁かれてきたありきたりさだろうが、
尾部のフィンがある節あたりを中肢ですくい上げ、彼女の尻先が浮くようにしてやった。この姿勢を保持するよう言い含めるように、尻尾をちんぽの付け根へ回し、メガヤンマの付属器を固く握りこませる。そこへ先っちょの鉤針を引っかけた。虫孔へ突き立てた楔を打ちこむと同時にここを尾側へ引きつけてやれば、メガヤンマの頭の先にまで快感が吹き抜けるはずだ。
「そのまま濡らしておけ。でないと虫孔が擦り切れちまうからな」
「ぉ……おー、よ〜やく動く気になったかい。任せときな。それ、得意なんだよな〜♪」
「だろうな」
広域を見通せるよう側頭部まで及ぶ複眼にはすでに、媚びるよな雌の悦びが乗っている。調子づいた言い草は強気なままだが、メガヤンマはすっかりおれに体を明け渡したようだった。魅力ある雄として彼女に認められている。虫孔が擦り切れるくらい激しいぞ、なんて
後肢の体節を伸ばし尻を持ち上げ、長大な虫腹へ軌道を確保するようにゆったりちんぽを抜いていく。ず、ずッ、ずりゅりゅ……っ、やたらと発達した肉ひだはせっかく捕まえた雄の解放を頑なに認めないらしい、彼女の虫孔を裏返しかねないほどの握力でしがみつかれていた。イワパレスの両鋏はひとたび噛み合わされると、力自慢のダイオウドウだって振り解けない。メガヤンマの長い虫腹とみっちり癒着したちんぽは、まさにそんな咬合力を備えていた。
先端を残しちんぽのほとんどを取り戻すだけで、ゆうに10秒は経過しただろうか。ともすれば萎えちまいそうなほどの弛緩ぶりだったが、勝手知ったるメガヤンマは宿望を遂げたかのように快哉の喉笛を鳴らしていた。
「ひ……、ひゅっ……ッ。い、イ〜ぞ、その調子。そうそう、最初はゆっくり、なぁ……」
「わあってるっての」
これは以前にメガヤンマを抱いた際、僥倖にもおれが看破したことだったが、種族の特徴としてか、彼女は〝加速〟がお気に入りなのだ。バトルに臨むメガヤンマがまさにそんな戦法を得意とするように、交尾においても段階的に速まっていくリズム感をご所望のようだった。網罠をこさえるイトマルが同心円を描きながら中心へ進むにつれ、開始地点まで戻ってくる時間が次第に短くなっていくようなリズムを、だ。
ぬぷ、ずりゅっ――るるるッ。表面に塗りたくられた粘液が乾かぬうち、全身の体節すべてを少しずつ湾曲させ、ちんぽにわずかな初速を上乗せして押し戻す。もっとも重力と本能のままに任せちまえばメガヤンマの色眼鏡には
「ッあ〜……。ちんぽが長いとその分だけ味わえてお得だよな〜。ッそうそ、こないだヤったフライゴンなんかよぉ〜、体つきの割にちんぽが……ッひひひ、思い出しただけで笑けてきた」
「おれとの交尾に集中しろ。そんなに短小がお気に入りってなら、虫孔の付近だけで済ませてやろうか?」
「わァるかったよ。比べただけでそんなむくれるなって」
「おれはお前が満足できるようにだな……」
秘奥の肉粒密集地へとちんぽを押し当てれば、それが合図だったかのように長ったらしい腹がうねってぎゅうぎゅうと搾りあげてきやがる。虫グループの雌を相手するときおれより体格がひと回り以上も小柄なことが多いし、鉱物相手なら抽挿に硬さが伴った。ユルめの締まり具合じゃ射精まで漕ぎつけるのに苦心しそうだと危うんでいたが、これなら杞憂に終わりそうだ。
「あ……、ッあ゛〜……! 調子上がってきた……」
「まだ2段階目だろうが。気の早いヤツだな」
にゅとんッ。……ずる、ずッ、ンるるる……るっ。にゅりゅりゅりゅ――にゅとんッ! ちんぽを膣奥へ到達させる瞬間、彼女の尻先と繋がった尾節を引きつけ、虫孔どうしがディープキッスしかねないほどの衝撃を響かせた。いくら多くの雄虫を頬張ってきたとはいえ、腹部が長く臀部のか細いメガヤンマは、互いの表皮と表皮がぶつかって音を立てるような交尾経験は希薄だろう。おれとならそれも可能だということをひけらかすよう、ちんぽを咥えて盛り上がる薄い腹へと教えこんでやる。
ガッチリと結合する感触をえらく気に入ったらしい、付属器とおれの尻が擦れて硬質な音を鳴らすほど力強く打ちこまれるたび、メガヤンマは上機嫌に喉笛を鳴らしていた。
「ンっ、あ゛ッ!? っひひ、やっぱりアンタ、筋がいいね。アタシが見込んだだけのことはある」
「褒められても、何も出してやりゃしねえぞ」
「そうかあ? クッサいザーメンくらいなら、どぴゅどぴゅ出せるんじゃないか〜♡」
「……おれはお前から、もっとエロい声を引き出さなきゃならねえってこったな」
3段階目、
「ンっ、ひィ……! はああ、はァ……。なァなァ、ぉ前もっ――あ゛ッ♡ そろそろ、イきそ、なんだろ〜っ?」
「なわけ、あるか……ッての」
「声、震えて――ひぁ゛ッ! ン゛っ、るッぞお゛ぉ♡」
おれが射精へ漕ぎつけるのにいい按配の往復速度を、じっと耐える。締めつけの緩さを案じていた十数分前の己自身を呪った。アイアントは言うに及ばず、おれのちんぽを丸々収められる鞘の持ち主はいない。全体をなぞり上げられる快感ってのは、おれにとっても魅力的だったってことだ。体の相性のみを考慮するならば、メガヤンマをつがいに迎えいれるかどうか、一考の余地があるかもしれない。もっとも彼女はそんなこと求めちゃいないだろうが。
「んん゛ッ、ふ――ぎッ! ンぉ……お゛ッ♡ っスゲっ……! まんこんナカ……ッ、全体こすれて、イ〜イとこ当たってぇッ♡ っア゛これ、風に乗って上昇する、みたいでッ、ぎもぢ、いぃイイいッ!! ちんぽっお゛ッ、もっと、もっとお゛、くれよぉ゛っ……ッ!!」
「……お前のが、食レポっ、上手、じゃねえか」
こっからが正念場だ。腹全体を擦りあげるようなストロークはもう望まれない。慌ただしく後肢を伸ばしては縮め、縮めては伸ばし、メガヤンマの勘どころを小刻みにしつこく弾き倒す。付属器を捕えていた尾節ももはや丸めていられなかった。関節が柔靱な作りになっていないおれにとっちゃそこそこの負担だが、速度の調節にはこうする他ないのだ。
ずッずッずッずちゅンっ――慣れない強刺激にちんぽが快感よりも鈍い痛みを訴え始める。先に擦り切れちまうのはおれの方かもしれなかった。が、手心は加えない。多すぎる愛液は摩擦を緩衝し、腹底への素早い殴打を可能にさせていた。
「あ゛ッあ゛っンあ゛あ゛あ゛――、ンぁああああ゛♡ ッそろそろ、イきそ、イくっ、イぐッ――、これもうすぐイく、――ッあ゛♡ ぅひゃぁ〜……!」
「早く……、イってくれ……」
いよいよ竣成に入る。メガヤンマの腹部の付け根に置いた右鋏へおれの顎を乗せ、体重を前倒しにしながらちんぽを最奥までハメ込んだまま、掲げ上げた尾節を前後に激しくぶん回すことで、ガクガクと全身を細かく揺すりあげる。ストロークなぞあったもんじゃないが、これがおれにできる最も早い腰振りだった。
「あ゛〜〜〜っイぐ!! ッこれスゲぇッ! ちんぽスゲ――っあ゛あ゛あ゛あ゛ッ!! イくっイく、もういグっ♡ イぐイぐイぐ、っあ゛♡ ひゃ゛――!?」
「ずっと五月蝿いな。フっ、ッ……、イくときくらい静かに、できねえのかっ」
いっとう掲げ上げた鉤針を、岩宿の壁を打ち崩さん勢いで力任せに振り下ろす。死闘の末スピアーが怨敵の喉元へとどめばりを打ちこむよう、ぐぢゅんッ、これまでさんざ叩きのめしてきたメガヤンマのさらに奥へまで届かせるよう、深々とちんぽを突き刺した。
「ぉあ゛……、ひぃ゛♡ お゛ッ! ン゛っッッ……!!」
「ぐ……、ッく、そんな締める、んじゃあない……!」
メガヤンマは盛大にイっていた。
両の鋏に敷かれた長腹がのたくり回り、おれを跳ね飛ばさん勢いで尻先が暴れ狂う。押し寄せるアクメの乱気流でもみくちゃにされながら、翅が熱を帯びんばかりに重低音を轟かせる。おれからは見えちゃいねえが、えげつないフェラをやってのけた長舌を惜しみなく晒し、強気な顔を無様に歪めながらも深い絶頂快楽に酔い痴れているに違いない。
法悦さなかの膣壁に上下から隙間なく挟みこまれ、ため息が漏れちまうほど心地よい塩梅で搾りあげられる。動かずともうねる長腹がちんぽ全体を丹念に扱きつけ、腰を抜かしそうになるほどの快楽をじっと噛み締めていた。あれほど虐め抜いてやった最奥は、殻を奪ったカブルモへわざわざ感謝するチョボマキみたいに先端へと擦り寄って、先走りよりも食レポしがいのある濃厚極まりない白濁を恵んでもらうべく、ざらりとした感触をしつこく押し売りしてきやがる。
「おひ、ヒ……♡ はッはっ、はあぁぁ……、あ゛〜……♡ やっぱこのちんぽ、超イイじゃんか……」
「おい……、いつまで腑抜けてやがる。ふー……、ちんぽ外すぞ」
「ぉ、ッんお゛♡ ひひ、
ずる、にゅるるる……ッぽ。がくつく後肢に喝を入れ、メガヤンマを満足させるという大義を果たしたちんぽを引き抜いていく。これだけでもひと苦労だ。伸ばしきった後肢がこむら返りになりそうだった。虫穴から先端まで、べっとりとこびりついた愛液を彼女のフィンで乱雑に拭いつつ、冗長な腹を跳ね除ける。同じように荒く息づくメガヤンマを下敷きにしちまわないよう、おれは6肢を
どれほど経ったか。息を整えるだけの数瞬が、呆気に取られるほど間延びして感じられた。やっとの思いで斜面を上がりきったシガロコの気分だ。射精していないのに、いやだからこそなのか、血が滲むほどの摩擦から耐え抜いたにもかかわらず肉欲の解放を許されなかったちんぽが、どっと襲いくる疲労感にひしゃげちまいそうだった。
未だ絶頂が尾を引いているのだろう、ふらつきを残したままメガヤンマが離陸する。腹を重たげに
「ッひひ、期待以上に頑張ってくれちまってさ〜♡ アタシのまんこ汁をかき回して、こ〜んなエッロいドロドロ、作っちまいやがって……」
「しばらく待ってくれ……。ちんぽがひりついて仕方ない」
「心配すんなって、ヒドいようにはしねーから。アンタもイイ加減、どびゅどびゅしたいだろ〜っ?」
「……どうだか」
はるか東の島国に住み着いたイワパレスは一国一城を旨とし、それぞれが趣向を競い合うよう岩宿を豪奢に改築していたらしい。とりわけ屋根へ心血を注ぎ、そこを天守閣だとか呼んでいたそうだ。四隅のうち対角の2箇所には、城主の威厳を知らしめるべく仰々しい飾りがつけられた。反るタイプのシャリタツよろしくふんぞり返った意匠なのだとか、風の噂で耳にしたことがある。
屋根瓦に空いたスペースを陣取るように背中をずらし、角から尻尾を放り出せば、まさにその位置でちんぽが
珍妙な妄想を逞しくするおれの視線を遮るように、メガヤンマが赤土色の胸郭へ軟着陸した。3対の肢と肢がお互いをくすぐるように噛み合わされる。頭側へ重心を傾け、掲げた腹をぐぐッと鋭角に曲げつつ、ちんぽを捉えようと付属器が外殻の荒野を探索している。
「顔を突き合わせながらってのも、ラブラブしててイ〜イよなあ」
「そんな
ついにお目当てのブツを見つけ出した付属器はぐゎば……、と己を拡げ、挿入が容易になるようちんぽを鉛直に固定した。竣工した
「アンタはちんぽに集中して、気持ちよく射精することだけに専念しろよな〜♡」
「……変な真似はするんじゃあないぞ」
ぬぷ、ずぷぷッ、にゅるるる……とちゅんっ。根こそぎ耕された肉畝ともなれば、さしたる引っかかりもなくちんぽを丸呑みにしていった。大きく裂かれた付属器は櫛状板を押しのけ、おれの虫孔から続く溝を埋めるようにひっ付くと、腰まわりを抱きこむように定着する。ボコリと膨れあがった長腹が小刻みにのたくり、さんざ擦りあわせてきた粘膜を馴染ませ直す。離れていたのは束の間だったくせ、死に別れた己自身と再会したテッカニンみたいな熱烈さで肉ひだがへばりついてくる。
「あ、ッア゛〜……。何度食ったってイイな〜あコレ。アンタにも翅があったら、このまま飛んでたってのにさ〜」
「なんだそれは……。他の奴らに見せつけるってのか」
「アタシらの間じゃ普通の交尾スタイルさ。
「そうか。おれは遠慮しておく」
「なんだいアンタ、高いトコが怖いってのかよ〜。案外コドモみたいな一面、あるんだな〜っ」
「子どもじゃねえ。翅のあるヤツにゃ理解できねえだろうが、おれたちゃ空中じゃ満足に身動きも取れねえンだわ。阿婆擦れは誰に見られようと構わねえのかも知れねえが――ンぐっ」
がちり、と硬質な衝突音。実のない高説を垂れるおれの口が、前のめりに倒れこんだ彼女の口で塞がれる。牙の隙間からそっと差し出されたべろへ呼応するように、おれも同じものを絡みつかせた。ちんぽへお見舞いしたような舌捌きはなりを潜め、虫孔の掘削に奮励したおれを労うような、やわやわとした柔肉の慰撫。……コイツの
――たまにはこういうのも、悪くねえな。
最中メガヤンマの腹はゆるゆると波打っていたが、この程度では到底射精にまで至れそうもない。凶悪なフェラで雄を射精に追いやってきたメガヤンマだからこそ、己から動く術を持たないのか。大役を果たしたちんぽには心苦しいが、後戯にも似た冗長さがかえって心地よい。射精などせずとも、このまま適当に切り上げちまおうか。
ッぷは。もつれ合わせていた舌肉を引き下げる。お互いのよだれでべっとりと牙をてからせながら、メガヤンマがいやらしくニタついた。
「そんじゃ、お望み通り……、阿婆擦れの本気ってヤツを見せてやろうじゃないか」
「なんだ、癪に
ぬるま湯に浸かっていたちんぽが不意に、根本から強烈に揺すぶられた。クワガノンの電磁砲が掠めただけで残る痺れにも似た、全身の体節が歪に凝り固められたかのような、衝撃。
「お――!? ッぐ……、ぅお゛……?」
「――くひひ、ようやくイ〜声を出してくれたナァ」
何が起きている? 眼柄を思いきり押し下げ、不器用なギギギアルじみて入り乱れる12本の肢の間から尾側を見た。メガヤンマの尾部に備わった、滞空を安定させるための1対の
彼女の尻先ごと、埋没したちんぽが凶悪なまでの振戦に苛まれる。虫腹を駆使するような長大なストロークは一切ない。ひとつひとつは気づかぬほど微弱ながら、気のせいだとするにはどだい無理なほど鮮明な摩擦刺激、それが束となってちんぽを袋叩きにしていた。反動で動けなくなったおれが力闘した加速ピストンを岩石砲とするならば、メガヤンマのこれはロックブラストだ。1発ごとの威力こそ控えめだが、果たしてそれが2発で済むのか5発喰らう羽目になるのか、はたまたおれが気絶するまで続けられるのか――。
「おいっこれ……、ッお゛ぉぉぉ……! どうなって、やがる……!」
「これしてやると、どんなちんぽ自慢の雄でもす〜ぐ音をあげちまってさ。……アンタは、いつまで耐えられるンだ〜?♡」
「ぐ、ッふううぅゔう゛……!!」
案の定だった。絶え間なくもたらされる淡白な接触は、瞬く間にちんぽがもぎ取れちまうほどの痛痒感へと変貌していた。粘膜どうしの細やかな睦みあいでふやけきった快楽神経を根こそぎ掻きむしられるかのような、残虐なまでの原初的刺激。切り出した新居の6面すべてを
思わず腰が浮いちまっていたが、粘膜どうしの癒合は全く弛まない。勘弁してくれない肉壁の締めつけに退避を阻まれるばかりか、おれの腰回りがメガヤンマの付属器でがっちりとホールドされているのだった。気に入った雄を緊縛し、確実にザーメンをせしめるため開発されたかのような機能に、おれはまんまと絡め取られちまったようだった。
メガヤンマの元から脱出を試みるも、身じろぎさえ許されていないらしい。彼女の下腹を跳ね除けるべく尾節で掴みかかったが、アメモースにガンを飛ばされたかのように力がうまく伝わらなかった。いや、あまりに峻烈な刺激に対処しきれず、筋肉の緊張を解くことができないのか。握りっぱなしの鋏はぴくりとも持ち上がらねえ。ちんぽ周りの体節が好き勝手に
それでいて、虐げられるちんぽは一向に衰えを見せなかった。熟練のメガヤンマ相手でしか体験できない未曾有の性技を味わい尽くそうと、馬鹿正直に勃起を強めては摩擦面積をいや増している。いつ暴発するかのタイミングが掴めねえ。根本にまで精汁がこみ上げているような逼迫感が風の日のミノムッチめいて揺り返し、ともすれば中出ししかねない危機的状況に、おれは1秒でも早急な降伏を余儀なくされていた。
びびッ、びりリリリっ! 高らかに響く
「わ――、悪かったッ! 阿婆擦れとか言ったの謝るから! ごめんッ! ……っだからこれ、やめ、ろ――ッぉおおおお゛!」
「ひひひひッ、んじゃ赦す。なかなか我慢できた方じゃないか〜っ?」
メガヤンマが付属器の把持を弛めただけで、ぶるんッ、しなりをつけてちんぽが解放された。威嚇用の空砲を撃ちまくるおれの鋏じみてバウンスし、へばりつく愛液をふるい落としながら腹まわりを暴れ狂っていた。自力では起き上がれないペンドラーみたいだった。
――よかった、ついてた。もぎ取れちまっていないことに安堵し、いやまさかそんなことがあるはずないのだと重々承知しているのだが、後半はちんぽから伝わる感覚も曖昧になり、あまりに規格外な快楽はかえって不吉な結末をおれに予測させていたのだ。
胸郭を蹴って後退したメガヤンマは、すぐさま規定のポジションへ陣取っていた。先走りを垂れ流し脈動するちんぽを前肢でがっちりと押さえこみつつ、ご満悦とばかりに口角を持ち上げる。
「最後までよ〜く付きあってくれたな〜♡ そんじゃ、アタシの口んナカ、遠慮なくぶちまけな」
「ふー……、フ――――ッ! 加減できねえぞ……!」
しゃぶり直したメガヤンマの頭部を、感覚が戻った両の鋏で抱えこむ。虫孔から外された数秒のラグを誤魔化すよう幾度か上下させてから、唾液に滑らされるまま彼女の喉奥まで乱雑に押しこんだ。「ぉごぐ」と苦しげな吐息が漏れるも、吐き戻されることなく受け入れられる具合の良さ。膣壁よりも強靭な喉肉でぎっちりと締めあげられ、腹めがけて先端を押し曲げられる。ここが雌の
決壊の前兆を把握したメガヤンマがもごもごと舌を蠢かすたび、敏感に成り果てた裏筋がとどめとばかりに手荒く弾かれる。
「だひぇ、ひょのままぜ〜んぶ、にゃかにだひぇ。――ッひひ、ひんぽ、ふりゅえてりゅぞ〜っ♡」
「――ッ、息を止めていろ……!!」
そう忠告したおれ自身が息を止めていた。酸素の供給を止め脳みそを甘やかに痺れさせ、血液の循環さえままならないまま、目の前の雌をなんとしても孕ませるつもりで全神経をちんぽに集中する。極限にまで高められた射精欲求に焚きつけられ、煮
真髄が、爆ぜた。
「――ッぐ! ぬ゛うぅおおぉ゛……、フ――っが、あ゛ァ……!!」
「――〜〜っ♡」
単なる絶頂の快感と、雌を身籠らせる充足感は連続しているようで別モンだ。つがいになるつもりのないおれは前者で満足してきたが、中に出せとせがまれりゃ、忘れかけていた後者に本能が歓喜する。熱くぬめついた肉の奥底へちんぽを突っこみ、そこで子種を明け渡す雄としての本懐。精液の行きつく先は虫孔ではなく喉奥で、メガヤンマを身ごもらせることはついぞないと理解しちゃいるが、いい歳した成虫になってガキのひとりもこさえられない不甲斐ない雄の烙印を払拭するため、ちんぽは躍起になって遺伝子をまとめ売りしていきやがる。
「ふ――……っ、く……ぅぅ、ッ、しゃせッ、止まらね――ッ、ぅぐ、ふゔうぅッ!!」
「アンタもたいぎゃい、うるひゃいネェ……♡」
メガヤンマの複眼がいやらしく歪んでいる。己が射精に至らしめた雄の、だらしなく腑抜けた表情を眺めるのが心底楽しくて仕方ないらしい。咽頭のさらに奥へとひっきりなしに撃ちこまれる精虫を、彼女はむせることなく一気飲みしていった。ゴキュゴキュと喉越しの良い嚥下音が鳴りそうなほど、頭と胸を隔てる体節が忙しなく脈動している。
何もそんな、グライオンからドリンクを差し出されたわけじゃあるまいし、と野暮なツッコミが脳裏を掠めたものの、ちんぽの淵には塩がへばりついていたのだった。苦味好きなアイアントが顔を顰めるほど青臭い精液も、塩とのマリアージュがなされればグビグビいけるものなのか。脱皮直後の虚脱感にも似た途方もない余韻を噛みしめながら、おれは甲斐のない想像に勤しんでいた。
痙攣の収まったちんぽをべッと吐き出して、メガヤンマはよだれまみれになった下顎を前肢で拭っていた。
「ンひひひっ、ごちそーさん♡ ドロネバのクッサいザーメン美味かったぞ〜っ。あー臭っせ、喉の奥にこびりついちまった。アタシ以外の雌とヤるときは、せめてちんぽは洗っておけよ」
「ふうぅッ、すはー……っ! 何度もっ、――はあっはぁ、ガキ扱い、ふぃ〜……っ、するなっての……!」
「……なんだいアンタ、ムキになって。さっきの謝り方といい、意外と可愛らしいところ、あるじゃんか」
「っる、せえぇぇ……!」
おれより先に本調子を取り戻していたメガヤンマは、できたばかりの溜池で念入りに口をすすぎ、早々に水浴びを終えると、「そんじゃ、な〜!」とだけ言い残し、翅を乾かすつもりか剛速で平原を飛び抜けていった。
仰向けのまま取り残されたおれは鈍重な両腕を放り出して、雨雲から逃げおおせたウソッキーばりの息切れをどうにか宥めていた。軒先から眼柄をニュッと垂らし、ずんずん遠のいていくメガヤンマを目で追った。
上下反転した視界は熱に霞んでいたが、冴え冴えとした夕暮れの
「別れの挨拶くらい、ちゃんとしてけっての……」
唾が飲みこめるようになってようやく、おれは見えなくなった背中へひとりごちた。生涯何があるか分からねえ、生返事が
おれからは何か伝えそびれてないか、靄のかかった頭の隅々までを
――約束。
おれは飛び起きた。
「――っおい待て! 戻ってこおぉぉい!!」
礫を込めた左鋏を構えたものの、おれの射撃が届くのはせいぜいホイーガ15回転分だった。力なく屋根から投げ出した鋏が、ごちん、と岩宿の外壁にぶつかる硬い音。傾いた重心に頭部を引っ張られるようにして、あわや転落するところだった。
交尾の相手を務める対価として、ヘラクロスの居場所を教えてもらう――はずだった。己の迂闊さに反吐が出る。快楽へ突っ走ったメガヤンマの脳裏からそんな口約束はすっぽ抜けていただろうし、おれも、本来の目的を忘れるほど交尾にのめりこんじまっていた。
ちくしょう、まんまとしてやられた。せっかくの有力情報だってのに。次ばったり
「にしたって遅ぇな」
おれが打ち水で交尾の余韻を流し終わる頃には、あたりはすっかり夜の気配に覆い尽くされていた。普段なら既にアイアントが戻っている頃合いだ。よしんばメガヤンマとおれとの交尾を覗いていたとて、ここまで慎重にインターバルを空けるものか。
――シェアハウスを始めてから時たま思う。別行動を取ったまま、アイアントが帰ってこなかったら。
おれの
……ならせめて、別れの挨拶くらいしろ。
今朝方を思い返す。そっぽを向いたまま告げられた「そうする」が餞別だったなんて、おれは納得できねえからな。湿っぽいのが苦手ってんなら、自慢の大顎で跡が残るくらいのキッスをひとつ、おれの頬へ落としてくれるだけでいい。
そうでなくとも、のんき至極な野山じゃ想像もつかねえが、アイアントが悪辣なクイタランなんかに狙われ、丸焼きにされた体を炎のべろで舐め啜られている――なんてことはない、とも言いきれない。旅すがらバトルの何たるかを基礎地盤から教えこんじゃいるが、まだまだガキなんだ。シェアハウス仲間におっ
「……探しにいくか」
おれは乾ききらない外殻に岩宿を背負い、薄闇に沈んだひまわり畑へ向け、なだらかな勾配を下り始めた。
ひまわり畑にはぽつぽつと低木の群落が散在していて、注意深く確かめればその連なりがナンパスポットとの境界を形成しているらしかった。おれたちが湧水をこさえた岸壁側は、ゴルーグが地団駄を踏んだかのように岩石の起伏に富んでいたし、そのせいかひまわりの株もまばらで地面が剥き出しになっている。なるほど、気のあった雌雄が傍目を忍ぶにはうってつけだ。
「オレの縄張りに入ってきたの、あんたじゃないっスかあ。どう落とし前、つけるつもりっスか?」
「……しつこい」
アイアントは存外あっけなく見つかった。
体長だけならおれよりも優った相手に、しかしアイアントは全く動じている様子はない。いざとなったらバトルで打ち負かす自信があるようだった。
「だから、出てくって言ってるの。邪魔しないで」
「縄張りって意味知ってる? ここはオレの陣地なの。入った時点でオレに歯向かったことになるの。あんたは、オレの逆鱗を逆撫でしちゃってるってことに、なってるんスけど??」
前かがみになるモトトカゲ、その胸元がちょうどアイアントの顎にかすっていた。苛立ちを募らせた彼女がなんとなしにそこを挟むのは、ニダンギルが喧嘩し始めるよりも自然なことだった。
「
「知らない」
「っだから、エエト、知らないじゃなくって……。どう伝えりゃいいんだこれ……」
たじろぐモトトカゲに、アイアントは
後退を余儀なくされたモトトカゲが、威力がいや増していく連続斬りを受けながら叫んだ。左右へ逸れればいいものの、種族として急には曲がれないのかもしれない。
「あ痛っ……っちょ、いでッ、っテテ。もういいでしょ……あだッ!? 喉元を狙うのはナシで――ッああもう、我慢の限界っスからね! そんなつもりはなかったんスけど、ならこっちも反撃だ」
アイアントを突き放すように飛び退き、後脚で立ち上がったモトトカゲの尻尾に、隠伏した竜のエネルギーが纏わされる。アイアント相手に幅を利かせるコイツに威厳なぞどこにもないが、その遺伝子には赫赫たるドラゴンの血脈が流れているのか。
踏みこんだ右脚を軸に恐竜の体が大きく捻られる。腫れあがった喉袋に血走った双眸。憤激がしなる尻尾をひと回りもふた回りも肥大させる。
襲いくるワイドブレイカーの横薙ぎに、アイアントは防御するでもなく立ち尽くしちまっていた。顕現した竜の残虐さに強膜を見開き、身じろぎさえ忘れて見入っているようだった。
ここまでか。
おれは両腕の鋏を掲げあげた。広大なバリアを張り巡らせるイメージを、アイアントの眼前にまで届かせる。間一髪のところで展開されたワイドガードが、アイアントを薙ぎ払わんと振り下ろされたモトトカゲの尻尾を弾き返す。
まさか庇い立てられるとは思っていなかったのか、尻尾を丸めてふらつくモトトカゲを横切り、おれはアイアントの側にまで肢を進めた。
「っ、何」疲弊したような掠れ声。「助けてなんて、頼んでない」
「お前な……。相手がいくら横暴だからとはいえ、無意味なバトルをふっかけるンじゃあない。覚えておけ、長生きの秘訣だ」
「……おじさんダサ」
アイアントのぼやきを聞き流し、おれはモトトカゲへ向き直った。
「え、あれ、あれっ……!?」モトトカゲはしきりに視線を巡らせ、困惑したように前脚の先でこめかみの橙色を掻いていた。「ちょっと今、取り込み中なんスよ。後にしてもらえませんかね……」
「ンだお前、増援は予想外ってか?」
「ええっ……ト、っスね、あの」
「失せな!」
「!!」
おれの喝破でモトトカゲは腰砕けになっちまったようだった。喉袋は張り裂けんばかりに膨張し、円盤状に突き出していた。内側に巻きすぎた尻尾も同じく円盤状へ膨れていたのだが、即座にそいつは本当に、張り裂けやがった。
わずかに鮮血が散る。切り離されたはずのそれは筋肉を暴れさせ、ひまわり畑の豊穣を喜ぶように跳ねていた。擬態を見破られたシャリタツめいてのたうつそれにおれたちが気を取られているうち、モトトカゲは全速力で逃げていったのだ。
マラカッチに抱きつかれたフワライドのように萎びた尻尾を顎で摘んで、アイアントは頭を振っていた。再生力の高いモトトカゲという種族なら半日とせずに生え戻るだろうが、デコイに自切するというのは物珍しいのだろう、動かなくなったそれをガジガジやっていた。「宝物にする」だとか言い出さねえだろうな。
おれは眼柄を持ちあげ夜空を仰いだ。満月はまだ低い位置で揺蕩っている。
「何か変なこと、されなかったか」
「変なことって」
「そりゃ、あれだろ。無理やりケツを舐められたりとかだ」
「別に」
「別に、ってことはねえだろ」集団行動を常とするアイアントがひとりでいるとなりゃ、素行の悪い暴走トカゲが煽り運転をするには格好のターゲットだ。そうでなくとも彼女は竜の粗暴さを目の当たりにし、あのジジーロンをいやでも連想しただろう。故郷を焼き尽くされたトラウマが思い返され、心がささくれ立っているはずだ。「愚痴ならロフトから聞いてやる。このところ満足に寝られてなかったしな」
「おじさんには関係ない」
「……そうかい」
元より愛想はない方だが、今夜のアイアントはいやにそっけない。ヤンキーに絡まれもすりゃヘソも曲がるだろうが、むしろおれに助けられたのが不服といった様子だ。
なんだ、きのみのアテを掴めなかったのか。以前も何度か、不貞腐れて戻ってきたことがあった。帰路に手頃な岩をがじがじやったのだろう、大顎に砂粒をつけたままぐっすり眠れば翌朝、頭をぶつけたコダックのように前日の不機嫌をド忘れしている。切り替えが上手いのかなんなのか、ガキってのはまったく調子がいいもんだ。
虫の居所が悪いなら、おれが無闇に詮索を広げるべきではない。
「疲れたんだろ。運んでやるからさっさと中、入れ」
「……」
「ンだよ」
「これから行くところ、あるから」
「そんな気に負うことでもねえ」おれはてっきり、アイアントが夜な夜なきのみを探しに抜け出すつもりなんだとタカを括っていた。「おれだってヘラクロスの情報はからっきしだった。今日はそういう日だった。それだけだ。明日また聞きこみすればいい」
「おじさんさ、しつこいよっ」
伸ばした鋏が、大顎に振り払われた。
「お前ひとりでふらついちゃあ、またあんなヤツに絡まれるぞ」
「だから何」
「その度におれが割って入るのか? お前の悲鳴を聞いて、飛んでいって、窮地を助けてやる。おれにイルカマンみたいなことさせる気か?」
「やめてって言ってる」
「いい加減にしろ」努めて声色は丸めたつもりだったが、アイアントは触角をびくッと跳ね上げた。「……シェアハウスなんだ、共同生活を円滑に送れるよう、お前も譲歩ってモンを覚えたらどうだ」
「…………」
「そこまでだ」
眠りにつこうとするひまわり畑を吹き荒ぶように、草藪を切り裂いて小さな影が飛びこんできた。ピジョンか? ドラパルトか?
「不埒なイワパレスよ、そこのアイアント殿を離したまえ。嫌がっているであろう。我々は見過ごさん」
「我々、だァ……?」
素早く視線を巡らせたが、エクスレッグの他に気配はない。ミカルゲでもあるまいに、己をどうやら複数で呼んでいるらしい。メガヤンマといい、ここはアクの強いヤツしか近寄らないのか。勇み肌な正義漢気取りに目をつけられないよう、ナンパスポットの奴らは息を潜めているらしかった。
とうッ! それっぽい掛け声とともに舞い降りると、エクスレッグはおれを睨めつけた。婦女へ暴行を働こうとする凶賊を侮蔑するような目つき。それがアイアントへと向けられる瞬間、おれへの敵視はさっと柔和な彩りで覆われていた。
「ずいぶんと思い
「あ……」
「なんだ、知り合いか?」
「……知らない」
「お前な……」
エクスレッグの口ぶりからして、おそらくふたりは昼間のうちに接触している。そこでアイアントと何らかの契約を取りつけ、それを履行するためにおいでなすった、ってなところか。夜更けに彼女が出向こうとした理由もおそらくコイツだろう。
わざわざ隠し通す必要もないと結論づけたのか、アイアントは視線を逸らしながら白状した。
「昼に会った。きのみ、たくさんくれるって」
「なんだ、口説かれたのか」
「そんなんじゃないし」
荒涼とした地域じゃその日の食料を分けてもらうため、体を開け渡す雌も多かった。きのみが報酬となるのは厳しい環境だからであって、そんな交渉が成立しない肥沃な土壌だからこそ、こんなナンパスポットが成立するワケだ。そんなんじゃない、との言い分は、実際その通りなのだろう。
「それで、交換条件にお前は何を約束した」
「それは、その」
「はあ……」おれはわざとらしく鋏を振ってみせた。「さっきからやけに突っ張ってンのは、おれが塩と交換してくるブツをアテにしていたから、だろ」
「……っ」フイと逸らされた視線は、図星だと白状しているようなものだった。「おじさんはいいから。わたしひとりでどうにかする」
「はいはい、仕方ねぇな。そう意固地になるんじゃあない、生きてりゃ思い通りにいかないことなんざいくらでもある。――水揚げされたイルカマンが助けてやるさ。お前が好きそうな宝石が手に入ったんだが、背に腹は代えられねえ。これで交渉して――」
「ちがうッ!!」
ロフトから戦利品を取り出すべく岩宿を脱ごうとしたおれを金属音が引き留めた。一瞬、それがアイアントから発せられたものだとは思えなかった。彼女のこんな金切り声を聞いたのは1度きりだ。あの蟻塚の勝手口で巻き起こった惨憺が唯一、生意気盛りだった当時のクソガキを動揺させたのだ。
――おれとの会話のどこが気に障ったのか。いや、気に障ったなどでは生ぬるい。アイアントは押し潰されそうになり、どうにか抜け出そうとしていた。同族を
反射的に引っこめていた鋏を、開いて、閉じた。微かに震える目の前の背中をさすってやることさえ気後れした。いかなる衝撃をも受けつけないメレシーの宝石とは対照的に、肢先で触れただけでアイアントはばらばらになっちまいそうだった。
「どう、したんだ」
「……あっち、行って」
エクスレッグが腹回りの白い模様に片前肢を添え、仰々しいポーズで言う。首周りにスカーフを巻いていたならば、風にたなびいているに違いなかった。
「……不埒なイワパレスよ、構えよ。我々が成敗してくれよう」
「おい待て待て待て、おれはそういうつもりは毛頭なくてな、そもそもコイツはおれの――」
「問答無用!」
「ぅお!?」
出会い頭の不意をつくような鋭い一蹴は、的確におれの眉間を捉えていた。鋏をクロスさせ衝撃を左右へ散乱させる。とっさの防御陣形とはいえ及第点だと言える対応でさえ不十分で、地面へ杭打ったはずの6肢がわずかに
いや待て、今回だって争う必要はない。おれがアイアントを襲っているものだと、エクスレッグが早とちりしているだけだ。大きく飛び退いた彼の背後で気配を消す彼女を睨みつつ、おれは声を張った。
「おいエクスレッグ、
「このひとに襲われました」
「悪には天誅あるべし……!!」
「――ンにゃろうがッ!」
いつもの調子へ戻っていたアイアントにどこか安堵しつつ、おれは飛びかかってくるエクスレッグを右の鋏で受け止めた。初撃ほどの衝突ではないが、いなすのも精一杯だ、全身の体節が軋みをあげる。エクスレッグはおれの魂胆を見透かしたのか、鋏にへばりついたまま肢を畳み、おれの顔と顔とを肉薄させてきた。小石を充填した左の銃口を突きつけるには、関節があと2つ足りていねえ。
「お前も、しつっこいヤツだなぁ。おれたちのシェアハウスに加わりたいってンならタイミングが悪かったな、今ンとこ誰も退去の予定はねえ」
「貴殿こそ、我々の邪魔立てをするな」
「ああ……?」
ワナイダーが即席で拵えた投石機のようにしなりをつけ、エクスレッグはおれの鋏の側面を蹴った。反動を伴った跳躍の到達点は低木のおよそ3倍、その頂点で華麗に1回転、2回転、3回転――半。頭尾をさかしまにしたエクスレッグの、背中に備わった第3の肢が展開されていた。鋭利な返し刃を並べたそこは重力を上乗せし、闘気を纏っておれのマイホームへと振りかざされていた。
「あぶ、ねえなッ!!」
殻を破る要領で岩宿から脱離し、その勢いのまま玄関を後方へ弾き飛ばす。屋根を支える
直後、どがらあァっ! との轟音とともに、おれと居宅を断絶するようにエクスレッグが墜落した。渾身の
おれは尻尾でエクスレッグを絡め取り、全身を急旋回させた遠心力のまま放り投げた。その隙に古巣へと戻る。柔軟に着地した彼は体力こそ尽きちゃいないようだが、当初の気勢はさっぱり削られたはずだ。
「……我々の必殺技を回避するとは、イワパレス殿、鈍重な外観よりはるかに俊敏と見た」
「そりゃどうも。あんたのすばしっこさも、秋に入ってもつがい相手を見つけられなかったテッカニンみたいだったぜ」
「情け無用!」
「まだやンのかよ……!」
再三受け止めようと掲げた鋏を、今度は左へ躱される。右の鋏で受けることを既に見切られていた。左の鋏での迎撃も間に合わない。気配が一瞬消える。屋根の上か、とおれが勘づく頃には、耳孔を塞ぎたくなるほど嫌な音が天頂から降ってきた。ステルスロックを投げ上げ、エクスレッグに退避を強いる。
――とはいえ相性有利か。
タイプとしてはもとより、瞬発力によるヒットアンドアウェイを機軸とするエクスレッグはこれで迂闊に接近できまい。距離を取るならば今度こそ撃ち落としてやる。おれは両の鋏を握りしめた。いつでも射撃する算段はついている。
果たせるかな相手は近接戦闘の構え。じりじりと間合いを詰めてくる対象へ照準を合わせる。まずは1発、ジジーロンをも撃ち落とした礫の弾丸をくれてやるも、右前肢ではたき落とされた。続けざまにもう1発、これは簡単に見切られ小石は彼方へと弧を描く。再装填したものを3、4発、これらは第3の肢が瞬時に展開して弾き返された。
アイアントとモトトカゲの戦闘を焼き増ししているかのようだった。進路妨害の目論見で散らしていたステルスロックを蹴りこまれ、それらに応戦して撃ち落としているうちにも、エクスレッグは確実におれへとにじり寄っていた。灼熱を浴びてもなお涼しい顔で大剣を振るうセグレイブのようだった。
「バケモンかっての……!」
「そうか、そうか。我々は
「そりゃ都合がいい。寝心地バツグンのデスカーンを紹介してやれる」
「包帯で敷布を編めば良いか?」
「すまんな、世界イチ腕の立つハハコモリはもうヨノワールに手を引かれちまってる」
そうだ、軽口を叩きながら近づいてこい。あと3歩、2歩、1歩……! 弾幕に気を取られていたエクスレッグが、保護色となっていたモトトカゲの置き土産に肢をすくわれた。転倒するまではいかなかったがヤツが平衡を崩した瞬間――、右の鋏の装填が間に合っていた。
――捉えた!
弾き出した礫は、エクスレッグの左頬を直撃していた。お得意の肢ガードも間に合わねえ、かろうじて体軸を捻るも体力を根こそぎ攫ったらしい、英雄の活動限界を知らせるタイマーのように複眼が明滅していた。
勝負アリだ。
「がっ――ッッ!?」
衝撃が走った。頭部がしたたかに打ち上げられていた。半回転して銃撃を緩衝したエクスレッグの肢――後方へと大きく伸ばされた第3の肢が、おれの下顎へアッパーカットを食いこませていた。首が折れる。痛烈な
震盪する視界にエクスレッグを探す。いるはずの相手を捉えられずにふらつくこと数秒、この数秒がおれの敗北を決定的なものにした。
「どこへ――」
「これにて
いつの間にか背後へと這い寄っていたエクスレッグの一撃に、後傾から一気に前のめりへと転がされたおれは踏ん張りようがなかった。岩宿の背面を蹴り上げられ、架橋するブリジュラスめいて前傾させられた。鋏をどうにか突き出すが、家屋の倒壊は免れねえ。迫りくる大地と我が家に首をへし折られないよう、鋏もろとも巣穴への退避を余儀なくされていた。
どッし……ぃいん。
してやられた。3度の
「おじさん面白」軒下からコツコツと硬い音。それまで静観していたアイアントが、家宅を点検するように顎で叩いているらしい。「出られないんだ」
「アイアント、助けてくれ!」
「わたしの力じゃ、転がせない。……それともお
「やめてくれェ!」
「……そ。じゃ、頑張って」
「おぉ〜……い、なら、誰か呼んでくれえぇッ」
「ちょっと……、ン……っふふ、それ、面白すぎ……」
側面の換気口から飛び出た6肢をわしゃわしゃすれば、アイアントの堪えたような笑い声がくぐもって聞こえた。表情の変化に乏しい彼女は声を出して笑うことさえ稀だ、おれは相当滑稽に映っているはずだった。どこぞの南国の土地神を祀っていそうな、ネイティオお気に入りの止まり木じみた見てくれをしているのか。くそっ頭に血が昇ってどうでもいいことしか考えられねえ。
エクスレッグが勝ち誇ったように側壁を蹴りつけた。
「まさしく
「……ちッ」
「アイアント殿、場所を移そうぞ。満開の桜花を見上げながら耽美な飲料をいただける茶店がある」
「何それ」
「我々がエスコートする。振り落とされぬようしっかり捕まっていろ」
「わ」
エクスレッグがアイアントを抱えあげ、あの健脚をもってひまわり畑を駆け下りていく。……のだろう。ふたりの気配がずんずん遠のいていった。
ゆとりのないリビングは寝返りを打つことなどどだい無理な願いだった。こうなったら取り壊すのもやむなしか。かつて1度だけおれは空を飛んだことがあるが、それと同じ要領で殻を破れば窮地を脱することはできる。当時は新宅を切り出したばかりで躊躇なく解体できたが、今度は3日かけて施工を進めなきゃならねえ。それも素っ裸で、だ。宿なしのイワパレスなんざ回転しないギギギアルみたいなもんだ、いくら縄張りを棄てたおれとはいえ、そこまで開き直る勇気はない。
「だ、誰かあッ! お、おおお助け〜〜〜!」
素っ裸にされるくらいなら、助けを求めるなど恥でもねえ。おれが絞り出したあらん限りの蛮声は、豪邸の防音材に吸収されたのかほとんど外へ響かなかった。
つづく
なかがき
書いては消して、消しては書いて、できたと思ったら白紙に戻り、3ヶ月以上も間が開きました。ッぱキャラっスよ。モブでもキャラが決まればある程度シーンが潤滑に動いてくれます。まあそれで3万字くらい消えてるんですけど……。
度重なる修正により、2話あたりでイワパレスがグライオンから貰ったものがひんやりした岩→宝石に変わりました。これも先々使うかどうかまだ決まってない伏線なんでまた変更するかもしれませんが。
コメントはありません。 Comments/あの113号室をこの113号室で ?