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Ψycho! の履歴(No.4)


『自分の頭で考える』とは、『ちゃんとした専門家が書いた確度の高い複数の資料を参照して、論理的に考えて結論を出す』という意味であって、『何も見ずに想像だけで決めつける』という意味ではない
——おすすめで流れてきたX(旧Twitter)の投稿より


 まず僕はΨのことをΨって呼んでる。
 Ψって呼ぶのはもちろん僕がΨのことが好きだから、単にKabutopsって決まりきった名前で呼ぶよりも、もっとΨに対する特別な気持ちとかが込もってるように感じるからだ。それにある時、Ψが「プス」って呼ぶんだよってことを教えてもらったとき、これだ! って思った。ΨっていかにもΨらしいし、何より文字の形がΨの頭みたいじゃないか! 僕はすぐにKabutopsをΨって呼ぶようになって、今も呼んでる。呼ぶたびΨは怪訝な顔をするし、言われるたびにその呼び方やめろって言って鎌を構えて凄むんだけど、僕は死ぬまでΨをΨって呼んでやろうと思ってる。僕がそう感じた瞬間、ΨはΨ以外ではありえなくなったから。


 Ψycho! 作:群々


 化石、というものから蘇ってから僕、ことOmsterとΨ、ことKabutopsは一緒だった。一緒だったというのは、僕もΨも同じタイミングで復元というのをされたからだ。もっとも、その時僕はOmniteだったし、ΨはKabutoだった、っていうことは置いておいて。
 僕がΨを好きになったのは、もちろん生まれた(生み出された?)時から仲良しだった、ってこともあるけど、何かストーリーがあるからってわけじゃない。僕は少しずつΨが好きなんだなってことを自覚し、一つ一つ、バラバラのピースを繋ぎ合わせるように確かめていったって言った方がいいのかもしれない。
 いずれにしても、僕はΨが好きになっていた。Kabutoの頃から僕はΨといることにsympa!——っていうのはChigorasだった昔から今までちっとも陽気で愚直で変わることのなかったらしいGachigoras爺さんの口癖なんだけれど——を感じていたし、進化してKabutops、つまりΨがΨになった瞬間には確かに僕がこれまで感じたことのない何かを感じもした。

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 ええと。ええと。

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 けどやっぱり、Ψって文字の形を知ったときが一番だったかな。このことはPatchiragon、Patchilldon、Uonoragon、Uochilldonからなる「四賢人」に教えてもらった。「四賢人」——Patchiragon、Patchilldon、Uonoragon、Uochilldonは自分の存在について僕らよりずっと深く考えていて、だからいっぱい本を読んでいて、何でも詳しい——からΨって文字と「プス」って読み方を教えてもらった(いや、授けてもらった)瞬間はなんだかとてもすごかったもん。その1文字で僕は全てを了解できた、って気がした。そのことはまた後で話すよ。

 ✳︎

 やめろ、ってΨは言う。気持ち悪いから、ってΨは言う。
 僕はΨに抱きついてみる。腕を全部使ってΨのカラダに絡みついてみる。僕はΨと比べてずっと背が——背中なんてないんだけれど——低いから、僕の顔はちょうどΨのお股、正確にはお腹の白い甲羅とお股の白い甲羅のまんなかあたりにひっついている。
 Ψの肉体の内側の温もりが僕の真っ青な顔面に伝わってくる。温もり、どちらかといえばちょっと冷たいけれど、生きているΨの体温、感情の機敏を、僕はそこから感じとれるような気がする。
 離れろ、ってΨは言う。僕はわがままになってΨから離れてやらない。こうして絡みついている限り僕はずっとΨから離れないでいることができる。離れないことができない。Ψは威嚇のつもりで両手の鎌を振りかぶる。けれど、もちろん僕の触手を切り付け、モトトカゲの尻尾みたいに切ってしまおうだなんてことは考えないだろうし考えない。苛立ち、動揺し、困惑し、頭が真っ白になっている。Ψの心はわかりやすいなあ。白い腹甲がほんのりと温かかった。その裏側でΨの心はポカポカとしているんだ。
 僕は腕の一本をΨの腰に回し、別の一本を背中から伸びる縁棘の一本に回し、別の一本をΨのお尻に回す。あたかも自然になったように僕は腕をそこに回す。いっそう強くΨに絡みつくフリをしながら、僕は案外柔らかいΨの体のあちこちの感触を味わう。
 胸から垂れてきた水滴が僕の剥き出しの瞳に滲みる。塩辛い水だ。僕は何度も目をチカチカとさせながら、Ψの水滴と僕の涙の入り混じった液体をねっとりと瞳から流す。僕とΨがそこでは確かに混じり合ってる。Ψは抵抗してゆったりとほっそりとしたカラダを捩らせる。
 僕とΨはそうやって一日を過ごすことが多い。

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 要するに、僕はΨのこと好きだし愛してる、って思う。

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 ほら、Ψが海をすいすいしてる!
 僕はΨが泳ぐことで水面に微かな音を立てるのを聞きながらうとうとしている。僕はΨが泳ぐ姿をすぐ横から観察しているかのように空想してみる。華奢だけどがっちりとした胴をくねくねと動かして、まるで氷の上を滑ってるみたいに前へ進むんだ。背中から生えている縁棘の先っぽがほんの少し揺らぐのが、なんだかやけに印象に残る。人工的に作られた海の端っこまでΨはあっという間に到達してしまうと、水中ででんぐり返しをして、やわらかなタッチで脚先で壁を蹴ってターンし、また一方の端っこまですいすいと泳いでいく。雨が降っているときなんかは、Ψはいっそう快調に飛ばし、目覚めてから最初のごはんを食べさせてもらって、二回目のごはんを食べさせてもらうまでのあいだ、ずっと泳いでることだってあった。
 疲れないのかなあ、ってOmsterの僕なんかは眼を見張りながら見てる。ずっと泳げてるってことはあんまし疲れないんだろう、たぶん。
 Ψが全身から水を滴らせながら浜辺を這い上ってくる。天井の人工光に照らされてΨのカラダはキラキラと輝いている。Ψの体が普段よりシュッとしたように僕は感じ、僕の視線はΨの首、胸、お腹、太もも、膝、脛、くるぶし、足、鎌、腋、肩、もう片方の鎌、腋、肩を彷徨って、お月様をはんぶんこしたみたいなΨの頭を見、真ん中の一段高くなったところの、三角州?——っていういかにもな言い回しはもちろん「四賢人」からの受け売りだ——みたいになった直線と円弧がそれぞれ接するところについた目と僕の目が合う。
 どうした?ってΨは訊く。
 何でもないよ、って僕は言う。
 Ψは黙って僕のそばに近づいて、あぐらを掻く。
 疲れた?って僕は訊く。
 いや、ってΨは言う。
 何か食べる?って僕。
 いや、何か吸う?って僕は言い直す。
 どっちでもいい、ってΨは言う。一体、どうしたんだ?ってΨ。
 ううん、って僕の返事。
 なんだよ、ってΨは言う。
 僕の腕の何本かはごく自然にΨの背中、縁棘に絡みついている。ドラゴンポケモンとか尻尾の長いポケモン同士がするような素振りを僕はイメージする、具体的にはArcheosとPtera——二匹は表ではギャアギャアと喧嘩してるみたいに見えるけれど裏側に回れば(僕は目ざといのだ)そうしていることがわかる。もっとたくさん例を僕は僕が見たものを通じて挙げることができるだろう。Abagoura とArmaldo——もう少ししたら出てくるよ——に、Gachigoras爺さんとAmaruruga姐さん(はそう言えるかどうか難しいけれど)とか、RampaldとToridepsは……どうだったかな。今度Yuradleと3匹で一緒にお茶する時にでも聞いてみようか。

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 僕がΨのことをΨと呼び、そして書くようになった経緯を詳しく話さなきゃ。話がとっちらかっちゃってごめんね。けど、ΨがΨであるからには、もう僕がΨをΨ以外の言葉——要するにKabutopsだとか——で言っていた時の感覚がわからなくなってしまっているのだ(僕はOmsterであるからには、やっぱりそんなにおつむが良くない。だって頭の大きな殻! これのせいでOmsterは身動きが取れなくなって絶滅したって言われてるんだから!)。それくらい、僕にとってしっくり来る言い回しであり、表現の仕方だったのだ、Ψは(だから、とりあえずこの一節で僕がΨをΨと呼んで書く前のΨのことはΨ(Kabutops)と表記することにしてみよう。わかりづらいけど許してね)。

 ✳︎

 僕は腕で砂浜に線を引いてた。Ψを——その時はまだKabutops、つまりはΨ(Kabutops)を——描こうとしてたんだよ。
 けど、いつも、いつも、たった数本、線を描いただけで僕は描くのを止めてしまい、絶望しちゃうんだ。だって、砂浜に描かれているのは、決してΨ(Kabutops)なんかじゃなかったから。確かに大まかにはΨ(Kabutops)の形を描いているように見えた。目を細めてみれば、そう見えなくもないかもしれない。けれど、これは「決して」Ψ(Kabutops)なんかじゃありえない。
 げーじゅつ? あーと? なんてややこしいものは僕にはわからないけど、目にしているものに対していいなあ、とか思う感性はもちろんある。Omsterの僕にさえそれは備わってるんだ。
 僕はいつだってΨ(Kabutops)のことをじっくりと見てた。Ψ(Kabutops)の全てを見ていると、僕は何とも言えなくなった。胸なんてものはないけど胸が熱くなる、ドキドキしてくる、ときめいてくる。僕は僕の触手たちで僕を強く抱きしめて、苦しいって思うまでキツく自分で自分を縛り続ける。そうしていないと湧き起こる感情を僕は僕に繋ぎ止めておくことができなかったから。
 それはΨ(Kabutops)がHだって思うことはもちろんあったと思うけどそれだけじゃない。ホントはもっと言うべきことが山ほどあって、カッコいいな、素敵だな、かわいいなぁ、勇ましいな、逞しいな、麗しいな、美しいな、侘び寂びだなあ、粋だな、乙だな、なんともいえないなあとか。それでも全然言い足りないどころか、たぶんいくら言ったところで僕の巻貝のなかで煮えたぎってる気持ちを全部言い切るなんてことはできやしないってことがわかるだけなんだ。Omsterだけど、言葉は所詮はそんなものだってことは——ポケモンだしうまく使いこなせないから——よくわかる。
 だったら絵ならどうだろう? と思って僕は浜辺にΨ(Kabutops)を描こうとしたんだ。僕の頭の中なのか裏側なのか、心なのかどこなのか、とにかくそこに浮かんでいるΨ(Kabutops)は紛れもなく僕の感じる一切のΨ(Kabutops)——「四賢人」の言葉を借りれば“ιδεα”——であって、僕はそれをただ模写すればいいって思ってた。実際描いてみるまでは本当にそう思い込んでいたんだよ。
 僕はもう僕が書いたΨ(Kabutops)と思しき何某かを、潤んだ瞳で眺めるんだ。けど、1秒たりともそれを直視することはできなかった。まじまじと線を見れば、何て臆病なことだろう、自信満々で引いたつもりの線はガタガタと震えていた。Ψ(Kabutops)の半月状の頭も、そんなの書くなんて余裕余裕!って思っていたにもかかわらず酷く幼稚なものだった、Omniteの頃に、何もそんな劣等感を抱くことなくお絵描きができた頃に描いた線にも及ばないように思えた。それはΨ(Kabutops)かΨ(Kabutops)でないか? って言われれば多分Ψ(Kabutops)だろうって答えることはできるだろうけれど、正直そっくりさんにも似つかない……
 僕は1秒たりとも頭のなかでΨ(Kabutops)の形を思い浮かべなかったことなんてなかったはずだった。なのに、こんな稚拙な、失敗作みたいな姿でしかΨ(Kabutops)を表現することができなかった。ということは、僕はΨ(Kabutops)のことをわかったつもりになっていただけだった、ってことだ。思い通りにΨ(Kabutops)のかっこよさ美しさかわいさひっくるめてを表現することができないのだから、僕はΨ(Kabutops)の何も理解していないし、何も見ていない、何も知らない、何もわからない……
 だから、僕は腕で顔を覆って泣いたんだよ。

 ✳︎

 こんらんしてしまったとき、僕はいつも「四賢人」に相談することにしたのだった。こう言う時は「四賢人」に相談するのが一番だ。僕は「四賢人」に見下ろされながら事の次第を説明し、助言を乞うた(「四賢人」は僕の四方を取り囲む、北にPatchiragon、南にPatchilldon、東にUonoragon、西にUochilldonが立ち、その立ち位置はいつも確固たるものだ。南にPatchiragonがいることは絶対にないし、東にUochilldonが立っているということも絶対にない。理由はわからないけど、そこには「四賢人」なりの考えがあるらしい。何度か聞いたことがあるんだけど、実を言うとよくわかんないからいっつも忘れちゃうんだ……)。「四賢人」は顔を突き合わせて——Uochilldonだけは顔を真上に向けていた——話をした。僕には難しい話だった。
「——ストア派の哲学によれば」
「——グノーシス派の意見に照らし合わせるんだ」
「——いや、ニュッサのグレゴリウスはこうも言っていた」
「——ここはスコラ哲学の考えも考慮すべきだ」
「——それは超越論的ではないか?」
「——ニーチェが」
「——ハイデガーは」
「——現象学的還元を施して」
「——構造主義的の視野から考えてはどうだろう?」
「——加速主義……」
「——思弁的実在論的議論を蔑ろにしてはならない」
 こんな調子で話がしばらく続いたあと、「四賢者」を代表してPatchilldonが僕の前に進み出て、一枚の紙を渡してくれた。
 ⚪︎△◻︎
 僕はそれをまじまじと見つめた。見つめたところで何がわかるってわけでもなかった。これは何だろう? 僕は目配せする。
「良寛」
 ってPatchiragonは註釈してくれる。
「是何」
 これはUonoragon。
「龍也」
 Uochilldonが上を向き続けながら応じる。
「人大笑。我亦大咲」
 Patchilldonが締めくくる。
 僕は首——くどいようだけど、そんなものはないんだけれど——を傾げる。どういうこと? それは当然のギモンであるはずだ。僕がなかなか意味を飲み込めないのを見て、Patchilldonはしばらく黙り込んでから、大きなくしゃみをし、鼻ちょうちんをブランコみたいに揺らし、こう付け加えた。
「これても鳳凰也」
「その形象が本当らしく見えるかどうかは表面的な問題に過ぎない。物事の本質は別のところにある」
 ってPatchilldonに呼応するようにPatchiragonが言った。
 それからUonoragonが僕のそばに歩み寄って、いつのまにかその大きな口に咥えていた一枚の紙を渡したんだ。
 そこには、そう、それが書かれていたんだよ。
 Ψ
 これをKabutopsのsignifiantだと思いなさい、というのが「四賢者」のアドバイスだった。これがKabutopsの一切合切を表す記号だって。そう思い、考え、信じ、確信するようにすることが肝要。
「『説文解字』にもそう書いてある」
 ってUochilldonが請け合ったんだから間違いがない。
 やっぱり「四賢人」は頼りになるなあ。

 ✳︎

 Ψ
 僕は早速砂浜にそれを書いた。紛れもないΨ、Kabutopsの象形文字を。
 Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ
 なるほど!
Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ
 なんだかそれはとても楽しい!
 「四賢人」が言った通り、抽象というのはとてもいい。僕はΨという記号を書く。僕はそれをΨとみなす。それだけで僕はΨを書き、Ψを思ったことになる。なんて古代の知恵だろう!
 僕は日が暮れるまで浜辺にΨを書いていた。何本もある腕を全部使っていっぱいΨを書いた。
 人工の砂浜をΨで埋め尽くしてやった。
 とっても楽しかった!……Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ

 ✳︎

 ああ!Ψが台の上に横たわっている。胸の辺りがほんの微かに上下している。
 胸や脇腹の辺りに何本も管が通されていて、初めて見た時には、僕はゾッとしたものだった。Ψは死んでしまうんじゃないか、って思って僕は泣きそうになったんだ(「元来人間は——ってことは僕ら理性あるポケモンたちもだよ、と「四賢人」は注釈した——失うという恐れほど、愛情を刺激し、焚き付けるものはないように生まれついている」とPatchiragonは言った。それはしょーぷりにうす?のしょかんしゅー?にあるってUonoragonは言った。だいごかんだいじゅーきゅーしょかんを参照ってUochilldonは言った。Patchilldonはくしゃみをした)。
 透明な管を通じて細長い楕円形の容器のなかに、ポタポタと少しずつ青い液体が溜まっていく。それはΨの血なんだってことを「四賢人」から教えてもらった。そもそも、Ψの青い血をどうして採っているのかも「四賢人」から教えてもらった。Ψの青い血はみんなの役に立つんだって。それで治せる病気がいっぱいいっぱいるんだって。
 僕はそれでホッとする。そして僕のことじゃないのに僕はとても誇らしい気分になった。そうしてΨの青い血を改めて見ると、海の青よりも空の青よりもキレイだな、美しいな、って思った。一滴、また一滴と垂れ落ちる真っ青な血を僕はいくらでも飽きずに観察することができた。鈴口のような目を細めて、できる限りその液体に視線を集中させて、疲れちゃうくらいくっきりとそれを視界に収めようって頑張った。
 Ψはエラいなあ、って僕は思った。まるで自分が褒められたみたいに嬉しかった。だってその血でみんなの役に立つんだから。それに本当に僕にとってカッコよくて、カッコよくて、カッコよくて、カッコよくて……何回同じことを唱えてもそれ以上に溢れ出してくる感情を僕は抑えることができないんだ。それは例えば、Ψの血を一滴でも良いから飲んでみたいな、って思うような。そうすればあくまでもそれはΨの血だけど、僕とΨが混じりあったって言えなくもない、かもしれない。もちろん、僕の愚かな空想に過ぎないと言われればそれまでだけど、言うべきことは言うべきだと僕は思う。だって黙っていたら、何も伝わらないし、伝えられないものね。
 採血の終わった後のΨはぐったりしている。血をいっぱい抜かれると疲れてしまうみたいだ。岩場の上に寝そべって、両腕の鎌をダラリと垂らしてじっとしている。僕はそばに近づいて、Ψを見る。Ψを観察する。
 健やかな寝息を立てながら、呼吸に合わせて胸が上下してる。腕とか脇腹とかさっき注射の針が刺さっていたところを僕は見つめる、心配していたけれど別に傷が残っているわけじゃないので僕は安心する。
 ああ、Ψのことずっと考えてると胸(胸?)が痛くなる。なんだか今の僕とΨの関係が永遠であってそうでないような。儚い、っていうか。つまり終わりとか死ってものを考えてしまう。僕はΨといること、Ψがいることをもう遠く過ぎ去ってしまった過去か何かと思い、いまが一番sympa!だってわかっているのに、それがいつか終わってしまうんだろうってことをふんわりと思って、それでもうたまらなくなってしまう。
 Ψが僕のことに気づいて、重たげな目を開く。
 どうした、ってΨは言う。
 ううん、って僕は言う。
 変な奴だな、ってΨは言う。
 うん、って僕は言う。
 おう、ってΨは言う。
 困ったような顔をしながら、Ψは目を瞑り、寝返りを打つ。もぞもぞと寝苦しそうにため息を吐きながら、右膝を曲げて、左足を投げ出す。腰をちょっとだけ左に拗らせると、右側のお尻が浮き上がって、隙間からもう片方のお尻の一番膨らんだあたりが岩場にぺちゃりと潰れているのが覗く。
 僕は少しΨから距離をとってようくその姿を見る。じっくりと見る、観察する、目に焼き付けようと頑張る。残念ながら僕は砂浜に、
 Ψ
 と書くだけで満足しなければならないし、別に満足しているからいいんだけど、この姿を自由自在に描ければそれに越したことはないよね、ってのはもちろんなんだ。だって、僕がこの砂浜の粒ほどの言葉を使ったとしても、きっと完璧に描かれたΨの姿ほどには何事も語らないだろうからね。でも、そんなことができるだけの才能、とかそんなことができるようになるまでの努力、そのための時間もない僕にできることはΨと書くだけで我慢する心の持ちようなんだ。こんなことを言うと未練があるみたいだ、いけない、いけない。でも、Ψを見ていると僕の内側の何かが掻き乱され、燃え上がり、つるぎのまいをしたときにそうなるらしいみたいに心も体も昂ぶったのは確かだ。
 やれやれ、ってΨは言った。
 僕の視線が背中に刺さって気になっちゃったのか、Ψはまた僕に向かって寝返りを打つ。左肘——つまり腕と鎌の境目だね——を岩場に置き、右腕の鎌を頭の後ろに回し、右脚で左脚を跨ぐ姿勢を取った。そうすると胸の甲羅を堂々と張ったような姿勢になって、僕の目を引く。
 お疲れ様、って僕は言う。
 なんだよいきなり、ってΨは言う。
 血を取ってたんでしょ、って僕は言う。
 何てことはない、ってΨはうそぶく。
 えへへ、と僕は笑う。
 変なヤツ、とΨは言う。
 
 ✳︎

 要するに、僕はΨのこと好きだし愛してる。そして、何から何まですっ飛ばして言ってしまえば——Hしたいなあ、って思ってる。
 H?

 ✳︎

 H。
 H!
 H?……
 僕はもともとそう思っていたのかもしれないけれど、最初はそれを僕自身に説明し、理解させるだけの言葉、考え方、観念ってのを十分には持ち合わせていなかった。
 キッカケは……ううん、ArcheosとPteraの関係?ArcheosがよくPteraのカラダの上に覆い被さってじゃれ合おうとしている姿を見かける。Pteraは怒りながら抵抗するんだけれど、Archeosの腕っぷし(翼っぷし?)がなかなか強いので押さえつけられるがままになっていることが多い(なんだか意外!)。結果的にはPteraがArcheosにゲンコツを喰らわせて、Archeosは泣きべそをかくまでそれは続くのだ。
 僕はArcheosになんでそんなことするのって訊ねた。なんでって!ってArcheosは呆れて返事もできないくらいだった。そりゃアイツのこと好きだからに決まってんじゃん。Archeosは何の迷いもなく言い切って、またPteraのカラダの上に覆い被さりに(あるいはゲンコツを食らって泣きべそをかきに)行くのだった。
 一から十まで理解はできなかったけれど、僕はそれをsympa!なことだとは思ったんだ。

 ✳︎

 ああ、僕は、Hしてみたい、Ψと!
 一応、そう口に出してみた(浜辺に誰もいないことを確かめて、確かめてからも何度も顔を左に向けて右に向けて、180度回転してまた確かめて、それから口に出して言ったからΨはもちろん誰にも聞かれてはいないはず)。
 けど何をしたいかって、口では言葉では何とでもどうとでも言えるけど、それが何なのか何であるべきなのか、僕にはまだよくわからなかったんだ。えっへん。

 ✳︎

 Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ
 僕はまた浜辺にΨと書いていた。そしたらΨがやって来て、僕がΨと書くのをしゃがみ込んで見つめた。
 何してるんだ?ってΨは言う。
 Ψを書いてるんだ、って僕は言う。
 これが俺?ってΨは首を傾げる。
 そうだよ、って僕は言う。
 「四賢人」に教えてもらったんだよ、って僕はヒトが腰に手を当てるように腕を口の脇あたりに当てて言う。
 Ψは僕が浜辺に書いたΨをひとしきり見つめて、首を傾けてあっちからこっちから眺めて何やら考えていた。
 そっくりでしょ、Ψに、って僕は言う。
 そうかもな、ってΨは絞り出すように言葉を発する。そうして、Ψは鎌の先っぽを浜辺に突き刺す。僕と浜辺を交互にじろじろ見つめながら、さらさらと鎌を動かした。僕が書いたΨの隣に、描かれたのは僕だった。
 そっくりだ、って僕は目を瞠る。
 そうか?ってΨは言う。
 うん、そっくり、って僕は言う。僕には全然できないや、って僕は言う。Ψはちょっと得意げに頷く。
  Ψってカッコいいなあ、って僕は言う。
 なんだよいきなり、って Ψは言う。
 僕は黙って浜辺にΨを書く。 Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ ……Ψも真似して鎌を器用に動かしながらΨと書く。僕とΨはお腹が空くまでそうしていた。

 ✳︎

 Hってどんなものだろう?
 そういうわけで、Hしてるところを見せて欲しいって僕はアテのありそうな仲間たちに頼むことにした。
 Abagoura とArmaldoに聞いてみた。あの二匹は仲良し以上に仲良しだってことくらいOmsterである僕も知っているし、それに僕と仲良し以上に仲良しとまではいかないけれど仲良しのYuradleは二匹のHを見せてもらったことがあるって言っていたから。Yuradleは首を長く伸ばしてその様子を観察したことがあるんだって(——だって僕は「観葉植物」だからね!)。
 けど、そうしたらAbagouraにこっぴどく怒られた(——ったく、あの観葉植物しかり、どうしてここにはおかしなやつしかいないんだよ!)。鰭で額をピシャリと叩かれた。いててて。瞳を潤わせる僕をArmaldoは慌てて宥める(——ま、まあ話くらいは聞いてやっても……な?)。Abagouraは今にもからをやぶりそうなほどに腹を立てていたけれど、鰭を力一杯組んでそっぽを向きながらも話だけは聞いてくれる。
 僕はΨが好きで、Ψが大好きで、おそらくはHをしたいってことを僕はAbagoura とArmaldoに話した。けれど、僕とΨはどうやってHをすればいいんだろう? Hをするってもっと、何かが必要なのかな? そもそもHするとどうなるんだろう? それはsympa!なことなのかな?……
 ぺち、とAbagouraの鰭が僕の額に置かれた。
 いいか?俺たちは愛し合ってるんだ、ってAbagoura。
 愛し合ってるってどういうこと? って僕は訊く。
 そうだな……Armaldoができる限り僕と目線を合わせて言葉を絞り出す。愛し合ってない者同士じゃしないことを、俺たちはするんだよ。
 つまりそれがHってこと? 僕の瞳はかなりキラキラしていたらしい。Abagouraは別に僕らがいるところはちっとも暑くないしむしろヒンヤリしているくらいなのに、鰭でパタパタと顔を仰ぐ。
 だから恥ずかしいからやめろ馬鹿!ってAbagouraはほとほと困り果てたように怒った。

 ✳︎

 そもそも僕のこの殻の、軟体の内側から感じられるこの気持ちはいったい何なのだろう? それは確かに好き、っていうことなんだけど、好きってなんだろう?
 わからないことがあった時はやっぱり「四賢人」に訊くのが一番だ。何もわからない僕の頭で考えようとしたって、ちっとも考えなんてまとまらないし、まとまったとしてもまとまったつもりになってるだけだろうから。
 その結果をかいつまんで言うとこんな感じだ。
「—— 『恋愛を定義することはたやすくない。われわれの言いうることはこうである。たましいにおいては、支配の情であり、精神においては、同情であり、肉体においては、多くの秘事をかさねた後、愛の相手を所有しようとする隠密でしかも微妙な欲望である』
「—— 『純粋でほかの情熱を交えない愛がこの世になるのなら、それは心の奥底に隠されていて、われわれ自身知るところなきものである』
「—— 『恋は火と同様、たえず動いていてこそはじめて存続する。行くさきざきの望みとか、心配とかいうものがなくなったら、すぐに存在しなくなる』
「—— 『ほんとうの恋は、亡霊の出現も同じである。だれもがその話はするが、それをまのあたりに見た人はいくらもない』
 むかしの偉いニンゲンが言ったことなんだってさ。そう言われると、僕のふわふわとして、単なる思いつきなんじゃないかって思っていた考えも、あながち馬鹿にできないって思えてくる。
 
 ✳︎

 Abagoura とArmaldoはHがどんなものか教えてくれなかった。
 なので、Hしてるところを見せて欲しいって今度は僕はArcheosとPteraに頼んだ。
 いいぜ!Archeosは二つ返事で了承してくれた。Pteraは瞬く間にArcheosを羽交い締めにする(——なんでだよ!)。Archeosはまだ力たっぷりだったから体を巧みにくねらせてPteraの拘束から抜け出して、逆には羽交い締めし返した(——いいだろ!なんか面白そうじゃん!)(——どこが!)(——全て!)。
 じゃ、見とけよ見とけよ!ってArcheosは威勢よく言いながら、Pteraをうつ伏せに力づくで抑えつけた。覚えとけ、悪態を吐きながらPteraは諦めたようにArcheosにされるがまま、腰を高く突き出した。そうしたら——見よ、Behold、って「四賢人」なら言うかもしれない——太腿の間にはもう大きなpenisが垂れ下がっていて、それはArcheosも同じだった。それら——penisがいくつもあるのはpenesesとかpenesって言うんだって、これは僕があとで「四賢人」に教示されながら辞書? ってものを引き引きしてわかったことなんだよ——、だから要するにArcheosとPteraのpenes(こっちの方がなんか知的で好きだ)はみるみるうちに大きくなって、太くなって、硬くなった。僕はそれを間近に見つめる。僕は背があってないようなものだからしょうがないけど、Ψだったら屈んでそれらpenesを眺めるかたちになっただろう。
 見せ物じゃねえぞ、ってPteraは僕を牽制する。
 見せ物だろ、ってArcheosはPteraの言ったことをまぜっ返す。袖みたいな鮮やかな黄色の羽毛から伸びたような肌色の爪でPteraのお尻を鷲掴みにする。Pteraのお尻に三本の深い溝が刻まれて、それが時間をかけてゆっくりと元の形に戻るのを僕は興味深く観察する。
 だから見せ物じゃねえってえっ!Pteraは苛立ちと焦りと恥ずかしさをみんないっしょくたにサンドイッチにしてしまったように言う。penisも生きてるみたいにPteraの言うことに同調してるみたいに怒髪天を貫いた。
 見せ物だよ!ってArcheosはもう当分はPteraに拳骨を喰らうことはないだろうって得意顔をしてた。ゆっくりと腰を前に後ろに揺らしていた。penesが触れ合って、お互いソワソワしていた。
 とにかく僕はArcheosとPteraからHとは何なのかを見て学び、聞いて学んだ。一回で済めば良かったけど、思わず腕で目を覆っちゃったから見損ねた、聞き損ねたこともいっぱいあったし、何しろ僕にとって初めてのことばっかりだったから全部を一気に飲み込むこともできなかった。というわけで、僕は僕が十分に理解できた——僕自身の言葉でそれを把握し、できるようになるまで何回かArcheosとPteraにHを見せるように頼んだ。Archeosはいつも乗り気になってくれた。Pteraは不服そうだったけど、Hをしようと言う時にはなぜかいつもArcheosに負けるし、拳骨を喰らわすのもすることが終わってからなのだった。
 とはいえ、それをここで逐一話すのは一旦やめておこう。こういうお話にはつかいどころってものがあるんだ。それに、これはあくまでも僕とΨにまつわる話だからね。

 ✳︎

 ただ、ここで一つに疑問が生じる。ArcheosとPteraのしたことを通じてHが何か、っていうのは外面的には確かにわかった。けれど、どうして“お尻”なんだろう?というのも、僕がΨのことを好き以上に好きっていうのは明らかすぎるほどに明らかなんだけれど、そういえば僕はΨのお尻を一際強く意識していることを、ArcheosとPteraのしたことを通じて気づき、ハッとさせられたんだ。
 Ψには魅力的なところがたくさんある。顔がカッコいい。体つきが細っそりとしていて、それでいて逞しい。両手の鎌はうっとりするくらいのフォルムをしてる。そうした体一切を支える脚は華奢だけれど、力強い。もっと細かく語ることはできるかもしれないけれどここでは省略……大切なのは、そんななかで僕はやっぱりそういえばジロジロとΨのお尻を眺めていたことなんだ。それは本当に無意識なことだった。Ψのお尻を見ると僕はなぜだか余計にドキドキしてる!けど、それに気づいたのはArcheosがPteraのお尻に対してしつこいくらいの執着を見せるのを目の当たりにしたからなんだ。Archeosは撫でたり、舐めたり、揉んだり、つねったり、叩いたり、そして挿れたりした。正直に告白をするならば、ArcheosがPteraに対してしたことを見て、僕はドキリとさせられた。僕の中で抱いていたけれど表には出てこず、だから僕の貧弱な語彙では決して言い表せようはずもなかった欲望ってものを、その時、はっきりとわかることができたからだ。

 ✳︎

 おっと、話し忘れてた!
 Archeosがこっそり僕に耳打ち——僕が音を聞くことができるカラダと殻の境目あたりにArcheosは頭を屈めて口先をそこに押し付けるようにしてだ——したことに、僕は思わず目からウロコが落ちそうだった。
 俺たちさ、前世の記憶があるんだよ、ってArcheos。
 僕は疑わしい、って目つきをしていたみたいだった。
 本当なんだぞ、Archeosはまるで僕にキスをするみたいにぎゅっと口先を押し付けて念押しする。俺は前世で死んだ時の瞬間を覚えてるんだから——って聞いてもいないのにArcheosは話す——あれは星にでっけえ隕石が落ちてからしばらく経ってからのことだったんだ。何もかもめちゃくちゃになっちまった世界で、俺は弱ったPteraのことを見つけてさ、出会いとしては最悪だったかもしんないけどそれから——Archeosの話を全部書こうとすると長くなっちゃうからここまで。というのも、本当のことを言えば、途中から僕は何だか眠たくなってしまって、うつらうつらしていたから話の終わりの方はうろ覚えになってしまったんだ。その時はArcheosがそのままPteraを殺してしまったとか、あれ? もしかしたら途中でPteraがArcheosに今みたいにゲンコツを食らわせて立場が変わってしまったのかも知れない……でもさしあたってはどちらでもいいよね。
 ともかく、目からウロコが落ちるって不思議な言い方だよね(後で「四賢人」のうちのPatchiragonに教えてもらった。「——彼の眼より鱗の如もの脱て再び見ことを得、すなはち起てバプテスマを受」ってことだってさ。どういうことかって聞かれたら僕はこれ以上うまく言葉にすることができない。言葉は言葉のまま受け取られるべき時もあるって、それもPatchiragonの言だ。彼の眼より鱗の如もの脱て再び見ことを得、すなはち起てバプテスマを受。僕は唱えてみる。だからといって、何か起きるわけでもないけどね!)。

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 閑話休題(こんな言葉知っててすごいでしょ!)。

 ✳︎

 整理しよう。
 僕は僕の欲望について、少しずつだけどわかってきた。Ψの左脚と右脚の付け根の少し膨らんだところへの欲望、その間に垂れ下がる尾剣の裏に隠されたところへの欲望、そして、そう、そこにpenisを挿入してみたいという欲望——
 僕にそのような欲望があるということを僕はわかった。でも、それはどうして?

 ✳︎

 言うまでもなく、僕にはpenisがない。
 その代わりに右から数えて3番目の腕は「交接腕」と呼ばれていて、一般的に、そこに僕の種は仕込まれていて、子孫を増やす時には異性の「外套膜腔」に「交接腕」を挿れて種を運搬する仕組みになっている。
 実際にそれをしたことはないけれど、右から3番目の「交接腕」が他の腕とは何だか違うな、というのは感じる。何かがそこに溜まっているような感覚を時おり覚えることはあった。言われるまでそれが僕の種だってことは全然わからなかったけれど。
 そう、言われるまで、あくまでも。
 思い返してみれば、Ψのことを見、考え、触れ、感じているときに僕の「交接腕」は熱くなっていたようにも思えてくる。その時は全然意識していなかったけれど、もしかしたらそうだったかもしれない、と今になると思えてくる。
 初めて「交接腕」を熱くしたのはいつのことだったろう? もう初めてΨの進化した姿を目の当たりにした時から? それかもうしばらく経ってから? いや、そんなこと考えようとするのはヤボだろう。RampaldとTorideps、喧嘩したらどっちが勝つかな、って考えるみたいなことだからね。
 僕のこの「交接腕」を僕にとってのpenisだと考えることにすれば、じゃあ、僕はこれをΨの、僕が惹かれているところに挿れたい、ということになるだろうか。僕はじっと腕を見て考えてみた。それは普通の意味におけるpenisを挿れることと同じなんだろうか?

 ✳︎

 僕はこういったことの一切を包み隠さず「四賢人」に報告した(僕は人間たちが言うところの報告・連絡・相談ができるOmsterなんだ)。
「読書会をしなければならない」
 とPatchiragonが言った。
「読書会をするべきだ」
 とPatchilldonが言った。
「読書会をするのに賛成だ」
 とUonoragonが言った。
「読書会をするのにとても賛成だ」
 Uochilldonが言った。
 だから、僕は「四賢人」の読書会を見学することになった。課題図書は『A感覚とV感覚』って言ってた。試しに最初だけ目を通させてもらって、僕が僕だけの力で理解するには難しい本ということはわかった。

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 「——これはあるニンゲンが考えたことだが」とPatchiragonは前置きし、こんな考え方があることを僕に教えてくれた。世の中には不思議なニンゲンがいるもので、Fellatio——つまりpenisを口に入れるっていうこと——をする時のパターンについて分類なんてしたんだって。それは以下のようになる。

(1)男Aが女Bと、お互ひに内心これを好みつつ行ひ、しかもAが、受身のBに強圧する形で行ふ場合。

(2)男Aが女Bと、Bはこれを好まないにもかかはらず、敢て行ひ、受身のBに強圧する形で行ふ場合。

(3)男Aが女Bと、お互ひに内心これを好みつつ行ひ、しかも受身のAが、Bをして能動的にこれを行ふやうに強ひる場合。

(4)男Aが女Bと、Bはこれを好まないにもかかはらず、敢て行はせ、しかも受身のAに対して、むりやり能動的に行はしめる場合。

(5)男Aが男Cに対し、相手がこれを好むことを十分承知しつつ、全く受身のCに、この行為を能動的に強圧する形で行ふ場合。

(6)男Aが男Cに対し、Cが全くこれを好まないにもかかはらず、受身のCに能動的に強圧する形で行ふ場合。

(7)男Aが、男Cがこれを好むことを承知しつつ、しかも受身のAが、Cをして女性的能動的にこれを行ふやうに強いる場合。

(8)男Aが、男Cがこれを好まないにもかかはらず、敢て行はせ、しかも受身のAに対して、むりやり女性的能動的に行はしめる場合。

(9)男Aが、男Cの意志如何にかかはらず、むりやりに受身のCに対してこれを敢て女性的能動的に行ふことを好む場合。

(10)男Aが、男Cのこれを好むことを十分承知しつつ、全く受身のCに、この行為を女性的能動的に行ふ場合。

(11)男Aが、自ら受身で、男Cによって、男性的能動的にこの行為を強圧されることを好む場合。

 僕は途中で眠くなってしまってしまいまで聞くことができなかった。それではとPatchilldonが言った。それは以下のようになる。

(1)男Aと女Bは、軽微なサド・マゾヒズムの関係にあり、男Aはサディストである。

(2)男Aは(1)よりもやや重症のサディストである。心理的サディズムが加味されてゐる。

(3)男Aと女Bは、軽微なサド・マゾヒズムの関係にある、男Aはマゾヒストである。

(4)男Aは、心理的サディストであり肉体的マゾヒストである。

(5)男Aも男Cも同性愛者であり、男Aは男役であり、且つサディストである。

(6)男Aは同性愛者であるが、Cは必ずしもさうではない。従って男Aは、明確に男役と規定することはできないが、明らかにサディストである。

(7)男Aも男Cも同性愛者であり、男Aは男役であり、且つマゾヒストである。

(8)男Aは心理的サディストであり、肉体的マゾヒストであるが、明確に男役とは規定しがたい。なぜなら、男役女役は、相互の表象交換の上に成立つ相対的パートナア関係であるのに、相手側に表象が欠けてゐては、この関係が成立たないからである。

(9)男Aは、心理的サディストであり、且つ肉体的サディストであり、且つ女役である。なぜなら、Cの表象如何にかかはらず、Aの行為自体に、相手の男性表象と自己の女性表象と渾然としてゐるからである。

(10)男Aも男Cも同性愛者であり、男Aは女役であり、且つサディストであるが、心理的サディストではない。

(11)男Aは、女役であり、且つマゾヒストである。彼らは自らを女と表象する。

 僕は途中で眠くなってしまってしまいまで聞くことができなかった。それならばとUonoragonが言った。それは以下のようになる。

(1)異性愛者でサディスト。

(2)右に同じ。やや重症。

(3)異性愛者でマゾヒスト。

(4)異性愛者で、心理的サディストで、肉体的マゾヒスト。

(5)同性愛者で、男役でサディスト。

(6)同性愛者で、男役であることがあいまいなサディスト。

(7)同性愛者で、男役でマゾヒスト。

(8)同性愛者で、心理的サディストで、肉体的マゾヒストであるが、男役であることはあいまい。

(9)同性愛者で、女役で、心理的サディストで、且つ、肉体的サディスト。

(10)同性愛者で、女役で、やさしいサディスト。

(11)同性愛者で、女役で、マゾヒスト。

 僕は途中で眠くなってしまってしまいまで聞くことができなかった。それではとUochilldonが言った。それは以下のようになる。

'' All Pokemons are perverse. ''


「これを日に10回、朝昼晩と唱えること」とUochilldonが言った。
「All Pokemons are perverse!」と僕は全部の腕で伸びをしながら唱えた。

 ✳︎

All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!

 ✳︎

 泳ぎ疲れて浜辺で寝てるΨのそばに僕は近寄る。Ψは浜辺に這い上がってから、その場で何度も寝返りを打って、いまはうつ伏せになっていた。Ψの全身がゆったりと上下している。脇腹のちょっとくびれた辺りを腕でチョンと何度か突いてみてもΨは気が付かない。僕はΨをじっと観察する。時間はゆっくりと流れているように感じた。僕は僕なりに僕の意識を研ぎ澄ませると、この世界にはもはやΨと僕しかいなくなってしまったかのようにさえ感じられてきた。
 Ψのお尻に砂がこびり付いていた。甲羅をしっとりと濡らす水滴が糊になって、砂をくっ付けてるんだ。Ψの黄土色のカラダに白い砂が雲のように見える。まるでどこかの風景みたいに。
 僕はΨのお尻の砂がついたところにピッタリと口を合わせた。僕の丸い口を取り巻く牙をゆっくりとシャッターのように閉じると、僅かに空いた隙間にΨの案外柔らかい部分の肉が吸い寄せられる。海水の冷たさと、体温の温さを僕は口で感じる。僕は息を吸い込む。砂利がΨの甲羅から離れて、僕の口の中に吸い込まれていき、僕に口腔にまとわりついた。
 何してる、っていつの間にか目を覚ましてたΨが言う。
 えっと、と僕は言う。Ψはうつ伏せのまま僕の方へ振り向き、僕じゃない方も見て、それらを交互に見て、なんだかとても困ったような目つきをしている。
 砂がくっ付いてたから、取ってあげないとと思ったんだ、と僕は正直に言う。
 どうして、ってΨは訊く。
 どうしても何も、って僕は言い、何かを言おうとする。
 俺のケツにキスするのがそんなに楽しいか? ってΨは言う。
 変なやつ、ってΨは畳み掛ける。
 えへへ、って僕は答える。口の中で砂利の感触がはっきりする。さっきまでΨのカラダに張り付いていた砂利は、いま、僕の中にある。
 好きだよ、Ψ、って僕はΨに言った。
 好き。
 Ψはため息をつき、寝返りを打つ。
 そうだな、ってΨは言う。
 ほんとだよ、って僕は念を押す。
 はいよ、ってΨは言う。
 Ψの右腕の鎌の側面が僕の殻の上に置かれる。僕の殻を撫でさするように鎌が左に右に動いた。コツコツコツ、とΨの鎌と僕の殻が響きを立てた。
 ねえ、Ψ、って僕はΨに言う。
 Ψは何も言わない。だけど、僕の殻を撫でる鎌は動いている。
 本当にΨのことが好きなんだよ、だって、って僕は続ける。僕は腕を伸ばし、仰向けになったΨのお腹の甲羅をさりげなく撫でる。角ばっているけど、ギュッと押すとパンパンに張ったタイヤみたいに弾力があって気持ち良い。
 ずっとΨと一緒にいたいな、と僕は言う。
 Ψのカラダがほんの少し温まったのを僕の腕は感じる。
 たとえば僕とΨがさ、ArcheosとPteraとか、Abagoura とArmaldoみたいな関係になるってどうかな、って僕は訊く。
 どういうことだ?、ってΨが訊き返す。
 どうもなにも、って僕は口ごもる。Ψのお腹の触れた腕は少しずつずれて、今は胸の辺りにある。Ψの胸の高まりが力強くなっている。僕はそれを感じている。
 ΨのHなところもみたいな、って言ったらどうする?、って僕は言った。
 その時、Ψの胸が、まるで撃ち抜かれたみたいにトクリ、って音を立てたんだよ。

 ✳︎

All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!

 ✳︎

 僕は「四賢人」に混じって——というより、北にPatchiragon、南にPatchilldon、東にUonoragon、西にUochilldonが立って僕はその中心に立っていたんだけれど——読書会に参加した。
「——『つまり、そもそも臀部とは人体にあって最も愛嬌のある、福々しい、いついつまでも齢を重ねないような部分である』……」
「——『口とは反対側、そこそこわりかた暇であり、したがってわれわれの『内部』への関心の門戸としなければなりません。』……」
「——『接吻行為も本来的にはA感覚的魅力である。ましてわが小紳士連は、自身から出たウンコの色合い、固さ、ソフトクリームの度合などについて疾っくに研究済み』……」
「——『そもそもA感覚とは、いまだセックスとして展開されぬものの自己限定で、云わば見当のつかぬ痒所に似たものである。これによる、そこはかとない牽引のために、トイレがわれわれの二次的故郷となっている』……」
「——『いったい、前立腺マッサージ器、番号つきのへーカル氏拡張器、アルツベルゲル式冷却器等々、このたぐいの魅力は、それらの冷たい、また温暖な金属の感触が肉体内において知覚されるという点に存ずる』……」
「——『これに反してA感覚にはつばさがある。というのもそれが得体の知れぬ渇望におかれたものであるからです』……『〈排泄口に隣合っているためにあれが恥ずかしいものになった〉したがって、〈こちらまでが性器の一種として間違えられた〉のでは決してなく、A感覚はセックスの原子形態で、単孔類時代のまま取残されているのだ、ということです』……」
「——『 A感覚そのものの不幸性、すなわち未生への憧れ、進化以前に対するノスタルジーと云ったものが、よくオリジナルな思想や芸術を醗酵させるタネになるのでなかろうか』……」
「——『なるほどP感覚は、Pそれ自身としては単なるおしべでしかありません』……」
「——『ところでギリシア彫刻に見る若うどの若々しい、可愛らしいペニス、あれはいったい何事でしょうか? 審美的要求にそれが生れるとは常識です。それもあるけれど、しかしそればかりではない。あれはそこに、その後方にある丸く軟らかな臀部の存在を、云い喚えるとA感覚の所在を指示する標識でしょう』……」
「——『若くしてしなやかなるもの、即ち、まことに束の間の話ではあるが、永遠的薄明とも喩えたい状態におかれた美少年をもって、プロトン派やスーフィ派が〈美しき理想(ボウイデアル)〉としたのは、頷かれることです』……」
「——『いかなる場合にも緊密に繋っている直腸神経と性器の神経が、……単孔類状態のままに保存されて、以来眠り続けてきて、わずか排便時にのみ余韻を残しているものが、性的行為と結びついた……性的行為にむすびついた継続的刺激を俟って覚醒することは考え得られる——つまり、その部分の神経が同性愛者では非常に発達しているから、オルガスムもあり得る。』……」
「——『 AにはVのような粘着力がありません。運動として、それは排出です。だから、それへ向かっての攻撃の魅力が増加します。それを逆にしますと、排出の禁止感の興味となるでしょう。顫動を喚ばないわけがありませんから……だって長時間という事は同性愛の重大な要素になり得る筈です。』……」
 ただでさえ重い殻が、知られざる考えや言葉をなんとかいっぱいできるだけ詰め込もうとしたせいで余計に重くなってしまって、僕はしばらく身動きが取れなくないくらいだった。残念ながら僕は全てを理解することはできなかったけれど、「四賢人」の話が終わったあとで、不思議なことにある考えが浮かんだんだ。それはとても自然な感情だって思えた。ダンディなGachigoras爺さんがことあるごとにsympa!って叫ぶときみたいに(Gachigoras爺さんはそういう時、専用の大きな山高帽子を頭から脱いで、誇らしげに掲げる。それと同じように、この大きくてクソッタレな殻を取り外して、王冠のように掲げて、そしてsympa!って叫んでやりたいな)。
 ええと。
 僕が悟ったのはこういうことだ。Ψに対して感じていることは別に異常なことでないってこと。えっと、もっと正確に言おうとすれば、異常なことは異常なことでないってこと。異常なことが普通のことだってこと。異常なことは奇妙なことだけれど、奇妙ってのは素晴らしいってこと。異常なことは異常でないことと比べてずっとたくさんあって、ずっと多様で、要するにsympa!ってこと!
 だからΨとHしたいと思っている僕はまっとうなOmsterだってこと!
 All Pokemons are perverse!

 ✳︎

All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!

 ✳︎

 そもそも僕が欲望してるところは、うんちを出すところだ。Ψだってここからうんちを出す。当たり前のことだけど、僕は、そういえば、あんましよく考えてみたことがなかった。
 ところが、僕はふとしたことで、物陰でΨが踏ん張ってるのを見た。あまり口に出して言うのは憚られることかもしれないけれど、Ψがしゃがんで、お尻を突き出して、全身をプルプルさせて、時に苦しげに息を漏らしている姿を僕はまじまじと眺めていた。
 僕はそれがぽと……ぽと……って地べたに落っこちるのを見る。
 排泄が済んだΨはホッとしたような様子をして、おもむろに立ち上がり、脚で砂を集めてそいつの上にまぶすように隠した。それから近くにあった岩に座りこむように屈んで、尾剣を突き立たせながら、何度もお尻の辺りを擦った。少しカラダを前屈させながら、地面に突き刺した両鎌を支えにしながら、腰を前後に揺らしてお尻についた汚れを落とそうとしている。膝を軽く曲げているので、腿の辺りがカラダの重みを受けてプルプルしている。
 おい、僕の視線に気がついたΨが叫ぶ。
 何見てるんだよ、Ψは慌てて、僕に向かって来ようにも、お尻を擦っている最中だからそこから動くに動けない。
 ごめん、って僕は素直に謝った。
 見かけちゃったから、つい、って僕は言い訳した。
 つい、じゃない、ってΨはすごく頭を赤くしながら言った。
 お前は俺がウンコするのを見るのも好きなのか?ってΨは言った。
 ええと、と僕は口ごもった。意味もなく何本もある腕をうねうねと動かした。
 やれやれ、ってΨはやっとお尻を擦り終わって言った。離れると、岩場にはほんの少し茶色く掠れた縦線が走っているのが見える。
 Ψのカラダが僕のすぐ目の前にある。僕はΨの腿に腕を伸ばす。許しを請おうと思ったのもあるし、正直に言えばΨのカラダに触れたかった。
 悪気はなかったんだよ、って僕はもう一度謝った。
 ふう、とΨはため息をつく。
 僕のこと嫌いになっちゃった?って僕は訊く。
 そういうわけじゃないが、ってΨは答えた。
 ありがとう、Ψ、って僕はΨの優しさに感謝した。
 これからは見るなよ、ってΨは釘を刺す。
 うん、って僕は頷いた。
 でも、うっかりその場に立ち合わせたら見ちゃうかも、って僕は正直に言った。
 なんでだよ、ってΨはずっこけた。

 ✳︎

All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!

 ✳︎

 僕は朝の体操をしながら、それを言うことにしていた。全ての腕をしっかり、ピンと伸ばして。そうしないと動きが固くなっちゃうからね。左に10回、右に10回、そして2回に1回のペースでAll Pokemons are perverse!って僕は言い、終わると僕は深呼吸する。
 何を口ごもってるんだ?ってそばで胡座を掻いていたΨが言う。
 「四賢人」から教えてもらったんだ、って僕は言う。
 どういうことだ?ってΨは知りたがる。
 おまじない、って僕は言う。
 何の、ってΨは僕に身を乗り出しながら訊く。Ψの頭がすぐ僕の前まで迫る。僕は腕の先端同士をちょんちょんとする。
 Ψ、好きだよ、って僕はΨの顔をしっかり見て言う。
 何だよ、いきなり、ってΨは困り顔をする。
 いいんだよ、って僕は言う。
 僕がΨを好きで、僕がΨとHなことをしたいな、って思っていても、それは全然変じゃないってことを、これを唱えれば確信できるんだ、All Pokemons are perverse!って僕は言い、叫ぶ。
 俺はなんて言えばいいんだ、ってΨは僕からちょっとだけ目線をズラす。頭が庇みたいになって、Ψの整った胸とお腹に黒い影が差す。まだ泳いでいないのに、一滴の水が胸のあいだの窪んだところから垂れている。僕は腕をヒョイと伸ばして、その水滴に触れる。Ψは驚いて身を反り返らせた。そのまま後ろに倒れそうになるのを、慌てて鎌を横倒しにして支えた。
 わかったよ、ってΨは言う。
 俺のこと、好きなんだな?ってΨは訊く。
 好きだよ、Ψ!って僕は言い返す。
 はいよ、ってΨは言い、僕が全身でΨのカラダに覆い被さるままにさせた。
 好きだよ、Ψ、好き、好き……って僕は言い続ける。僕は言い続ける。

 ✳︎

All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!
All Pokemons are perverse!

 ✳︎

 離せ、ってΨは言う。
 やめろって、ってΨは言う。
 いやだよ、って僕は言う。心の中では叫んでもいる。
 もう離さない、って僕は言う。……(つづく!)



なかがき

これは僕がΨに対して抱いていたモヤモヤとそれに対してオロオロしていた僕の記録だ。
次は僕とΨがどのようにHをするかということについて話すから、楽しみに待っててね。

みんなもわかると思うけれど、僕はおつむが良くない。というのも、僕の殻は動くには大きくなりすぎて滅んでしまったから。
だから「四賢人」がせっかく僕に教えてくれたこと、ちゃんと飲み込むことができなかった。
そういうわけで、突然なんだけどここでみんなに聞いて欲しいことがあるんだ。
僕はあの「四賢人」が教えてくれた(1)から(11)のタイプうち、どれがあてはまると思うかな?
次のお話をする時までに考えてみてくれたら嬉しいな! Omsterより

作品の感想やご指摘はここかツイ垢 かコメント欄までね!

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