罪の島
目次
北緯18度18分・西経64度49分──その島『リトル・セント・ジャーバス島』は、東南バリヤード海に存在する諸島群の一角に在った。
そこは世界に名だたる大富豪リクシー・アンバーシュタインの個人所有する島であり、100エーカーのその孤島には当時、彼の別荘が建てられていた。
件の人物・アンバーシュタイン氏は投資銀行の運営により莫大な富を築き上げた大富豪であった。
先見の明に富んだ彼の投資は、後に世界的な規模へと発展する数々の企業郡を進化させるのに多大な貢献をした。
当然ながらそれに見合う報酬もまた受けた彼の総資産額はもはや、一般人には聞き覚えの無い桁数を以て数えられるほどに膨らんでは、『リクシー・アンバーシュタイ』の名を、業界では知らぬ者などいない存在に成らしめた。
そんな界隈においては活躍華々しい彼ではあったが、不思議とその名が表へと現れることは稀で、一般層において彼の存在を知る者は一握りであった。
まるで己の存在を意図的に隠しているようにすら思えるその知名度の低さは一種のミステリーであり、そして彼に纏わる代表的な噂話にはもう一つ──今回私の経験した一連の事件を裏付けるおぞましい話が存在した。
曰くそれは彼の別荘において夜な夜な乱交パーティーが行われており、その催しには世界中の名立たる盟主や大企業の代表が参加しているといった眉唾な噂である。
金融業界はおろか政財界においてもこの噂話は有名で、中には物好きの同業者や経営者といった連中が直接に氏へとイベントの、そしてその別荘への招待を求めたという寓話すら残るほどである。
とはいえ反面、私はそれら都市伝説めいたゴシップなどは有名人にありがちの荒唐無稽な作り話であると切り捨てていた。
しかしながらある時──ふとした仕事の関わりから、私は彼の所有する島の存在を知るに至る。
複数の名義人を幾人も経由させては島の現在所有者を曖昧とさせているその手法は、意図的にアンバーシュタイン氏が所得を隠そうと画策した形跡であった。
それを発見した私はこれこそが彼と関わりを持つ為の唯一の手段であると確信する。
公私に渡る事情から彼と関わりを持ちたいと考えていた私は後日、そのことをアンバーシュタイン氏本人へと突き付けることとした。
もっともその時点での私の目的は彼の秘密を暴いてやろうだとか、あまつさえそこで行われている違法行為を糾弾しようなどという道徳心や正義感などではなかった。
単に私は自身の仕事のスキルアップを目指しては、彼との個人的な接触を求めたのである。
彼の事務所へと連絡をとり、受け継いでくれた秘書の一人へと『バリヤードの父親が分かりました』とだけ伝言を頼んだ。
あれだけの人物であるのだから、正面からまともにぶつかったのでは到底相手などしてもらえない。
この場合一番有効な手段としては、先方からこちらへと興味を持ってもらい、さらには相手方からの接触を待つ方法である。
かくしてその翌日には──聡明なるアンバーシュタイン氏から私は夕食を誘われるに至った。
イタリアンレストランの個室にて対峙した彼は存外に気さくで、巷間で囁かれるような投資界のフィクサーという印象は薄かった。
その当時で64歳を数え頭髪は全て白銀に色が抜けてはいたが、肌艶の良さと精悍な体躯からはまだ50代と名乗っても通用するであろう壮健さが、私が氏に抱いた第一印象の全てだった。
通り一遍の挨拶と共に乾杯を交わし、前菜が終わって次なる料理へと変わるその合間を縫って……
『──それで、「バリヤードの父親」とはどういう意味なんだい?』
アンバーシュタイン氏は私のグラスへとワインを注ぎながらさりげなく、そしてこの邂逅の核心に触れた。
それを前に私も煙に巻くような真似などは一切せず、業務上取り扱った顧客情報の矛盾から、件の島が氏の所有であることを知り得てしまった事実を説明し、今後私以外にもこのことに気付く者が現れるであろう危険性を説いてみせた。
同時にもし今後とも同不動産を所有するにあたり絶対に足のつかない方法など私心も加えてレクチャーしていると、当初は微笑みの下にも猜疑と警戒とを漲らせた氏の視線が、徐々に和らいでは私の語る不動産テクニックに対し、感嘆しきりで聞き入るようになった。
それらを語り聞かせ、時にアンバーシュタイン氏から上がる質問へ懇切に応えながらもしかし、私は氏があの島を所有している理由やその背景には一切触れなかった。
あくまでビジネスライクに徹し、常日頃顧客に接するのと変わらない対応で彼の接待をした。
斯様な仕事の話を終えても場の和やかな雰囲気は変わらずで、結果私達は3本のワインを開けては最後には、無礼講も甚だしい気安さで語り合っては笑い合った。
おおむね好印象を与えられた実感はあった。何よりも私からがして、氏との邂逅にはある種の友情めいた感情すら抱いたものであった。
別れ際には堅く握手をし、そしてどちらともなく抱き寄せては抱擁もまた交わすとその日の初会合はお開きとなった。
そしてその日以来──私とアンバーシュタイン氏との付き合いが始まったのであった。
私は氏のビジネスパートナーとの一人として、彼の不動産管理を任されるようになった。
その間にも幾度となく食事や、互いの家に招待し合っては信頼を深め合う関係に比例して、氏はプライベートな財産の管理についても私へ一任するようなる。
当然のことながらそれに関して一々聞くようなことなどしない。
彼が望むように売買を行い、そして関係者を探し出しては斡旋する仕事をつづけること一年──奇しくも、彼との初会合を果たしあのレストランにおいては私は『不思議な誘い』を受けることとなった。
『次回の夏の休暇には予定を開けておいてくれ。……君を私の個人的な別荘へと招待したい』
その瞬間──私は今まで忘れていた、氏にまつわる噂話を思い出していた。
極力その緊張を顔に出さぬようしてその別荘について訊ねるも、アンバーシュタイン氏はイタズラを隠す子供のように破顔しては両肩を揺するばかりで一向に応えてくれようとはしなかった。
ただ一言……
『この世では……少なくともこんな都会じゃ絶対に体験できない禁忌の楽園さ』
そう鹿爪らしくはぐらかせては、さらに楽し気に微笑んでみせるのだった。
そうして数か月後──
かねてからの約束通り夏の休暇を氏の予定に合わせると、私は彼が用意した自家用ジェットに乗り込んでは目的地へと誘導された。
私が生活の拠点としている市(まち)から実に11時間……ジェットは一度、グレート・セント・ジャーバスという島へ着陸すると、そこの空港にてアンバーシュタイン氏に迎え入れられた。
旅の疲れを労いつつも、彼は更なる移動を私へと告げる。
空港最寄りの港より氏が直接運転をするクルーザーに乗り込むと、水平線へと投げた視界には小さな島影が確認できた。
「あの島が、あなたの別荘地なんですね?」
『そうさ。奇しくも私と君が出会うことの原因にもなった忌まわしい島さ』
そう言いながらも上機嫌のアンバーシュタイン氏を見ていると、既に相当量の飲酒をしていることは明らかだった。
それでも運転の手際は堂に入ったもので、30分も海上を行くとクルーザーは無事に島へと到着した。
船着き場へとクルーザーが近づいていくと、対岸には幾人かの人影が現れては忙しなく動いてやがて、係留場の桟橋へと横一列に並んだ。
さてはこの別荘地の使用人が出迎えに現れたのかとぼんやりそれを見つめていた私ではあったが、徐々にクルーザーが近づいて像がハッキリとするにつれ、そこを見つめる私の表情は困惑の物へと変わった。
一方で運転席からそんな私の反応を窺う氏は、さも愉快そうに笑ってはようやくにこの地での目的を私へと告げる。
『あそこに並んでいる者達は誰でも好きなように扱うといい……何をしようと思いのままさ』
アンバーシュタイン島へようこそ──……氏はそう告げる。
その言葉を背にしながら依然として視線を桟橋へと向け続ける私の目には、見目麗しくも幼い第一進化前のポケモン達が礼儀正しく整列しては、深々と頭を垂れているのであった。
クルーザーから桟橋へ降りると、横一列にそこへ並んだポケモン達が一斉に頭を下げてはお辞儀の礼を取った。
ざっと見た感じでは10匹近いポケモン達が整列していた訳ではあるが、みな第一進化のポケモン達ばかりで、その光景は園児達の遊戯を見ているようなたどたどしさがあって何とも心和む出迎えだった。
楽園と称するにさしずめこの子達は天使の役割といったところだろうか。
アンバーシュタイン氏の演出もなかなか堂に入ったものだと感心していた私は次の瞬間──さながら天から地へと突き落とされるかのような衝撃に見舞われる。
私に次いでクルーザーから降りた氏は先んじて整列するポケモン達の前へ歩み出るや、履いていたチノパンの前ジッパーを下ろすなりそこから小便器にでも向かうかのような仕草で自身のペニスを取り出した。
その思わぬ行動に一瞬はぎょっともしたが、プライベートなビーチであることに加え野外とあっては、おそらく桟橋から小便でもするのだろうと私も高をくくる。
しかしながらアンバーシュタイン氏はそれを晒したまま整列するポケモンに近づくや、列の先頭にいたキルリアに大きく口を開けさせたかと思うと次の瞬間には──氏は自身のペニスを何の躊躇も無く彼女へと咥えさせてしまうのだった。
キルリアにしてもそれに対する嫌悪や抵抗は見られず、その後も小さな頭を前後させると氏のペニスを周囲に唾液と腺液とが撹拌される粘着音を立てては激しく口取りする。
そうしてキルリアに奉仕させていたのも1分に満たない時間で、すぐにそれを取り上げると氏はそのまま進行方向へと体をスライドさせる。
先のキルリアの隣にはミミロルが待機していて、彼の子もまた隣同様に大きく口を開くや氏のペニスを咥え込んでフェラチオを始めた。
目の前の光景をただ茫然と見守り続ける私に対し、5匹目のムチュールへと移動していた氏はようやくに気付いて声掛けなどしてくる。
『君も同じように回ってきたまえ、ウェルカムサービスだ。ここでこの子らにしゃぶらせて穢れを落とすんだ』
どこか自慢げに笑顔を見せながらそう語り掛けてくる氏は反面、ムチュールの後ろ頭を両手でホールドしながら無慈悲なイラマチオを敢行していた。
その暴力に晒されてはムチュールも激しく咳き込み、逆流した洟や唾液などを派手にブチ撒けもしたが、それでも氏は彼女を凌辱する手を一向に休めなかった。
そのままどんどん先へ進んでしまうアンバーシュタイン氏の背中をただ見守り続ける私は、ふいに腰元で生じた衝撃に気付いてその視線を落とす。
見下ろすそこには……先ほどのキルリアが腰元に抱き着いてはその赤い光彩の瞳で私を見上げていた。
頭の位置がちょうど股間の前へと当たる伸長に加えツインテール然とした鬣の容姿からは、ポケモンといえどもヒトの児童と見紛わんばかりだ。
しばしそのまま見合ってしまう私達ではあったが、一方のキルリアはそうして私を見据えながらも手慣れた様子でジーンズのジッパーを解いては先のアンバーシュタイン氏の時同様に私のペニスを取り出してしまう。
その瞬間、催眠から解かれたよう我に返った私ではあったが彼女に行為の制止を挟むよりも先に──キルリアは私のペニスを深々と飲み込んでしまうのだった。
途端陰茎と亀頭に生じたその熱に私は呻き声を漏らす。
加えてたっぷりの唾液を有した口中は、小柄な彼女とも相成っては一分の隙間も無く亀頭全体へまとわりついては膣さながらの粘膜感を憶えさせた。
いかにこの状況に戸惑いを覚えていたとはいえ、性に直結する展開を目の当たりにしていた私の体は意識とは別に興奮もしていた。
咥えられた時には既に半ば勃起の状態であり、それがキルリアの口中で愛撫されるに至っては完全な肥大化を果たしてしまう。
またこのキルリア自身のテクニックもまた生半可ではない。
私もまた一男子である以上コールガールの類いと褥を共にしたこともあるが、斯様なプロの技術と比べても今の彼女から施されるフェラチオは遜色見劣りするものではなかった。
そうして自分のペースをつかめないままにリードされ続けた私は女性の口中へと──こともあろうポケモンのその中へと射精を果たしてしまうのだった。
その瞬間、思わず彼女の頭を抱き寄せては性の奔流が尿道を迸るのに任せて射精を続けた私であったが、徐々に気分も沈静化をしてようやく我へ返ると、慌てて密着させていた腰を離した。
見下ろす先にさぞ嫌悪に歪んだ表情を浮かべているであろうキルリアを想像するも……目下にあったものは長く私のペニスを口中から引き抜きながら、吸いつけた口唇でコルク栓でも抜くかのよう軽快な音を立てるキルリアであった。
別段、何事も無かったかのような澄まし顔で口中に残っていたであろう精液の残滓を、閉じた頬を浮つ沈みつさせながら舌先で集めるや──それすらをも飲みこんでは、得意げに私の前で口を開いた。
開口することで口角に突き上げられた下瞼がまるで哂っているかのよう上ずっている。……おおよそポケモンの、ましてやけっして子供が見せるような貌ではない。
それでもしかし笑っていたのは事実だったようで、彼女にしてみれば客人を絶頂にまで導けたことの充実感をそこに感じているらしかった。
それを証明するよう、今度はサービスなどはおかまいなしに彼女は再び私に抱き着くと、擦り付けるようにして頭を振った。
『はは、礼を言ってるのさ。自分の奉仕で客人をもてなすことは、この島では一番の美徳であり彼女達の目的だからな』
気付けばいつの間にやら戻って来たていたアンバーシュタイン氏が満足げに頷いていた。
『そのキルリアは島に滞在中のパートナーにするといい、残りのスタッフ達は……そうだな、キミを持て成すための「踊り子」になってもらおうか』
氏からその単語が出た瞬間、和気藹々と私を接待するアンバーシュタイン氏とは裏腹に場には緊張が張り詰めたのが分かった。
ここに集まるポケモン達は皆表情を硬くしては俯き、先に氏へと奉仕をしていたムチュールなどはその青褪めた表情に脂汗を滝のように浮かべてていた。
それはパートナーとなったキルリアもまた同様で、彼女は強く私のジーンズを握ってしがみ付いては小刻みに体などを震わせてもいた。
いったい今後、この島では何が行われるのだろう?
それすらも分からずに私は今、この周囲を海に閉じ込められた『楽園』への入園を果たしたのであった。
アンバーシュタイン氏の別荘はその全てが圧巻の一語に尽きた。
大理石で内装された建物は、ローマ神殿やパンテオンなどといった太古の荘厳さを感じさせる白亜の宮廷そのものである
ギリシア式の破風や列柱があしらわれた出入り口はそこの庇ですらもが広大で、もはやどこまでが室内であるのかの境界すらつかなくスケールであった。
その庇において、私達の来訪を目ざとく見つけたワンリキーが二匹、頭に麻籠を乗せては登場して出迎える。
彼女達自身もサリーや首飾りを始めとした衣類によって装飾されていて何ともエキゾチックな雰囲気を醸している。
『ここからはこれに着替えたまえ』
言いながらワンリキーの一匹が掲げる麻籠を前に氏は桟橋の時同様、一切躊躇することなく衣類を脱ぎ始めては全裸になっていく。
その様子を横に戸惑うばかりの私の前にもワンリキーの一匹がついては、頭に乗せた麻籠を差し出してくる。
籠の中にはシルクと思しき長布が一枚、丁寧に畳まれては収められているのが分かった。
とはいえしかし、それを両手に取ったままどうやって纏うものか考えあぐねる私は再び隣のアンバーシュタイン氏を観察する。
その着付けはいたってシンプルだった。
長布を袈裟に肩から掛け、後は垂れた裾が地につかないようデタラメに腰や肩に巻き付けるといったものだ。
それに習い私もまた服を脱ぎ始めると、先ほどパートナーに指定されたキルリアが歩み出してきては、私の脱衣を手伝ってくれた。
彼女は麻籠から取り出したシルクを起用に頭の上へ乗せると、脱がした私の上着を空いた籠の中へと収めていく。
次いでジーンズも脱がし下着も剥ぎ取っては目の前にペニスが垂れるや、さりげなくも彼女はそこへ小さくキスをしてくれた。
客人への儀礼的な奉仕というよりも個人的な愛情を込めたかのようなさりげなさに、つい彼女への想いも募ってしまう。
かくして肩に掛けた長布に皮のサンダルという私達のいで立ちは、チュニクを纏う古代ローマ人の装いを思わせるそれとなった。
事実、短髪で巻き毛の氏などは目鼻の堀深さも相成って、まさにラテン人種そのものだ。
『数日間をここで過ごしてもらうにあたり、まずは施設の説明を一通りしておこうか』
氏の案内のもと建物内を進むと、先の玄関ホールよりも更に広大な一角へと出る。
広間の中央には、その中心が掘り抜かれては円環状とされた水場が湛えられており、そこには既に私たち同様の装いをした男女数人が腰かけている姿が見受けられた。
腰掛けた円環の縁から水場へと足を差し入れている者もいれば、緩やかに水源の沸き上がるその中央へと腰湯さながらに浸かる者もいてと、それぞれが歓談をしているようだった。
そんなメンバーの幾人かに私は思わぬ既知を感じては目を凝らす。
先方は気付いていないとはいえ、まじまじと他人を観察してしまう無礼を承知しながらも私は、その人物達から目を離すことができなかった。
「そんなはずはない……こんな所で鉢合うはずが」
あまりの光景につい小さく言葉を漏らす私の呟きを聞き取っては、アンバーシュタイン氏が傍らに寄ってきて演技染みた声掛けるをしてくる。
『──もしかしたら、世間ではよく知られた「有名人」を見掛けることがあるかもしれない。しかしそれは他人の空似だ。ここにそんな御仁達が居るはずもない。……そういうことにしておくんだ』
どこか警告も含んだかのような言い回しに私も我に返る。
同時にアンバーシュタイン氏が世界有数の大富豪であり、加えてこの場所がそんな氏の更にプライベートな空間であることもまた思い出した時──私は視界の先にいる著名人達が紛れもない本人であることを確信した。
そして同時に、もしあの人物達が本物であるのならばこの場所は極めて政治性の高い空間であることにも気付き戦慄すら覚える。
何故ならばいま目の前で談笑している二人など、表世界においては敵対国として対立し合う国同士の代表であるからだ。
そんな二人が同じ水場の中に沈み混んでは下卑た笑い声を交わし合う光景など、創作だとしても荒唐無稽な話であったろう。
しかもその光景の恐ろしさはそんな人物同士の邂逅だけに留まらない。
よくよく観察するに正面だって向き合う二人の間には……水場のその下には更に何者かの気配が見受けられた。
この浅い水位の中にも全身が沈み混んでしまう矮小さから、そこに居る者は明らかに子供と思しき体躯の者であり、そして時おり波立つ水面の合間から見え隠れするそれこそは──一匹のゼニガメであった。
事もあろう向かい合う二人の代表は……水場の中において、前後から四つん這いのポケモンを犯していのである。
その眺めと事実たるや、もはや悪夢のごとき光景ですらあった。
言わずもがな大変なものを目撃してしまった事実に目眩さえ覚える思いでいると、そんな私を観察しては、氏も更に自慢げに笑いをくぐもらせながら両肩をゆする。
『彼らともすぐに仲良くなれることだろう。最初はそんなもんだ、この状況にも追々慣れていけばいいさ。──それよりも長旅で疲れているんじゃないか? 再会も祝して何か飲もうじゃないか』
動揺を見透かされては氏に誘われるまま、私は壁面の一角に儲けられたカウンターまで移動する。
そこにおいてカウンターの天板に両肘をもたらせては大きくため息をつく私の前に、カウンター上を猫の如くしなやかに歩んできた小柄なグレイシアが出迎える。
首元にシャツの襟(カラー)と蝶ネクタイだけをあしらったその姿はそれだけでバーテンダーの持つフォーマルさを感じさせるようで、全裸が基本であろうポケモンのはずがそこには得も言えぬ愛嬌が醸されていた。
そんなグレイシアがグラスのステム部分を咥えてきては、カクテルグラスなど勧めてくる様子に心和んだのも束の間……すぐさまに私は驚愕に身を引くこととなる。
同様に隣でグラスを受けとる氏は天板の上に置いたグラスのステムを指々の股で挟み込んでは、プレートの上へと手の平を被せるようにしてグラスを固定する。
私にも同じように構えることを教授し、訳も分からずにそれをなぞる私の前に、あのグレイシアが再び陣取った。
後ろ足だけで身を起こすと、下腹を前へ突き出すようにしては股間をグラスの上へと誘導する。
その構えに最悪の光景を予想した次の瞬間には──
「ッ!? まさか──あぁ……!」
その悪い予感を裏切ることなく、グレイシアは私のグラスへと放尿を果たした。
しかしながら直後、それが尿道からの排泄ではないことにも私はすぐに気付く。
見ればそれはうっすらと穿たれた膣口の下端から──それこそバーテンダーがシェイカーから作り出したカクテルを注ぐかのよう、グレイシアの膣から溢れだした液体が緩やかに私のグラスを満たしていた。
目も醒めるようなマリンブルーの透明感を宿したそれを逆三角のグラスへ半分ほど注ぐと、今度は前足の蹠を膣の上に置いては自慰よろしくにそこの撹拌を始める。
陰唇の隆起も浅い子供のような膣上において、尿道を意識して刺激し続けるグレイシアは幾度となく押し殺した声を上げた。
やがて絶頂を思わせるかのよう一際大きくグレイシアが身を反らし、撹拌していた前足をどけると──今度は尿道から染み出してきた体液がグラスのブルーキュラソーへと注がれる。
明けの水辺のようカクテルグラスの中でイエローと蒼のグラデ―ションを為した液体の中にその仕上げとばかり、今度はこちらへと背を向けて尻尾をまた跳ね上げるや、雪の結晶を思わせる形の良い肛門をグレイシアは私の前に晒した。
そして四つ足の獣が見せるような排泄さながらのポーズをとるグレイシアが、その肛門がその縁を盛り上がらせた次の瞬間には──そこからは瑞々しくも艶やかなチェリーがひとつ排泄されてはカクテルに沈み、小さな気泡を水面へと発泡させた。
『排泄物などではないから安心したまえ。このグレイシア(バーテンダー)はそのように訓練されている』
同じものを同様にグレイシアへ作らせると、氏はそう語りかけてくるや規範を見せるかのようグラスのそれを煽り大きく息をついた。
躊躇なく飲み下しては満足げに鼻を鳴らすアンバーシュタイン氏を前にしては無下に断る訳にもいかず、私もまたそれに習い──手にしたグラスを一息に飲み干す。
口中に満ちるそれは紛う方なきブルーハワイのそれではあったが、それでも後味にはけっしてステンレスのシェイカーなどでは作り出せない艶かしい香りが残った。
衛生的・倫理的にもけっして許されるべきでもない斯様なグレイシアのカクテルではあったが……
存外に私は、それを美味だと感じていた。
如何なる宗教のものであっても、『地獄』には層というものがある。
その層は下るほどに、或いは進むごとにその苛烈さを増していくが、此処アンバーシュタイン氏の別荘もまさにそうであるといえた。
入り口もすぐの広間で見たものなど、まだ他愛もないものであったのだと今ここに至り私は実感する。
建物内をさらに進むとやがて、窓や採光を取れる類の開口は壁天井から一切無くなった。
足元から照らされる間接照明だけという大理石の空間は視界が不明瞭で、そこを闊歩している者達の判別をより難しくしている。
そんな中においても背丈の小さいポケモン達だけは、かの照明が顔まで届いてはその表情を見る者へ明瞭とさせていた。……その恐怖と苦痛に歪んだ、地獄の亡者たる表情を。
その場所は斯様な第一進化の幼いポケモン達を思い思いの方法で犯し、そして虐待をする悪意の大乱交場であった。
あるロコンは宙に抱えられた状態から膣と肛門の前後にどれだけの本数のペニスが挿入できるのかを試みられ、またとあるヤンチャムは規格外のディルドを数人がかりで肛門へと無理矢理に収められては苦痛の悲鳴をくぐもらせていたし、そしてあるヒバニーにおいてはどれだけ犯され続けたものか死んだように脱力したその体を両耳を握られては吊るされて、それを晒すゲスト達の笑いものとされていた。
排泄物を始めとするあらゆる体臭と粘液の臭気とが入り混じったこの生暖かい瘴気に限界を感じては私も嘔気を憶えて呼吸を止める。
それもしかし限界に感じると、私はこの場所からの逃避を望んではアンバーシュタイン氏にトイレの場所を訊ねた。
それを受け氏はしかし、
『この建物にトイレは無いんだ。というか、したくなったらその辺でするといい』
さもあっけらかんと氏はそう言い放って鼻を鳴らした。
言っていることの意味が分からず怪訝に見つめ返してしまう私を前に氏はこの空間を見渡し──やがて目当ての物を見つけてはそれを親指で指示す。
指定するその先に居た者は、数人の男達に囲まれたメッソンであった。
既にさんざんに奉仕を強要された後か、その体は全身が不特定多数の精液によって汚れていたが、内腿を地に付けるようにして待機するメッソンへと……取り囲んでいた男の一人が放尿をした。
右の側頭に浴びせられてはその瞬間に身を震わせたメッソンではあったが、すぐに大きく口を開くや浴びせかけられるそれを舌上にて受け止める。
注がれるその音が気泡の撹拌されるくぐもったそれに変わることからメッソンが下あごの中に男の尿を貯め込んでいることは明らかであったが、一向にそれが彼女の口中から溢れてこない様子を私も訝しく思う。
しかしながら反らせたその喉元が忙しなく上下している様に、彼女が便器さながらに注がれる男の小便を飲み下していることを知って愕然とした。
そんな男の愚行に習うかのよう、隣に控えていた数人も死んだ蛇のように垂れた亀頭へ両手を添えると、そこからメッソンの開け放たれた口中目掛けそれぞれに排尿を敢行する。
幼児然としたメッソンのキャパシティでは大人三人分の量など受け止めきれるはずも無く、その口角から滝のよう黄ばんだ汚液を垂れ流すメッソンは、呼吸困難の苦しみに呻きながらそれでもその小さな体の中に収めようと懸命に男達の尿を飲み下す。
その様子に悪戯心を起こした一人が口中にめがけて排泄していたそれの向きを変え、息苦しく呼吸を喘がせていた鼻腔に打ち付けさせた瞬間──呼吸を塞がれたことと、さらには鼻腔内に逆流した液体に反射して、メッソンは顔面を爆発させるかのよう咳き込んでは口中に貯められていた尿を周囲へと癖散らせた。
俯いては咳き込み続けるメッソンの頭部やその小さい背中へと男達はなおも放尿を浴びせ続けながら、嚥下を中断してしまったメッソンを激しく罵倒して責め立てる。
そんな不条理極まる避難の中、鼻孔から粘度の高い洟を垂れ下げては、その咳き込む動きに連動して左右にそれを揺り動かす様に、男達の間からは笑いの渦が湧き上がっていた。
その後も床へと散らばせてしまったその様々な液体を、メッソンは文字通りに鼻先を擦り付けては音を立てて啜った。
斯様なメッソンに対し、男達もまた不条理な叱責を浴びせ始める。やがてはそれに発奮を促されたのか再びペニスに血流を巡らせると……メッソンのその小さな頭ヒレをワシ掴んで宙に吊らすや、道具然としてそのいきり立ったペニスを彼女の膣へと挿入した。
小柄な彼女には規格外となるそれの再挿入に痛みと、そして苦しみの時間が再び始まることに絶望しては上げられるメッソンの悲痛な叫びに共振して──場に満ちる数多ののポケモン達の慟哭もまたうねりを帯びては、より一層に苦痛の度合いを場に深めていくのだった。
そんな光景を目の当たりにし、私は改めて氏の言葉を思い出す。
この場所におけるポケモンとは、在りと在らゆる処理の為の道具であるのだ。
それは性欲であり排泄であり暴力であり……その発散の捌け口こそが此処におけるポケモン達の存在意義であり、それゆえにそんな道具に対して気遣う者などこの場所には皆無であるのだった。
いつしか私は無意識に広場の中を歩み出していた。
一刻も早くこの場を抜けたい……そう思い闇雲に歩を進めるも、皮肉にもその行為は更なる地獄の深みへと私を運んでいってしまう。
ふと視線を巡らせた先には仰向けに寝かされるヒトカゲの顔面に騎乗した肥満漢が彼女の口中に脱糞を果たしていて、それを受け止めるヒトカゲもまた苦しみに両足をばたつかせながらもそれを必死に飲み込んでいた。
またある場所においてはさんざんに犯され尽くしては地に転がされるピィの口中へと、寄り添ったパチリスが己の胃に詰め込まれた多種多様の排泄物を含んだ嘔吐物を吐き注いでは直接に飲み下させたりと──……この場には、おおよそ考えつく限りの人の持つ悪意と醜悪さとが凝縮されているのだった。
そんな中、いつしか歩みを止めた私はとある一団の中において在るものを見つめていた。
目の前には掲げた両腕を鎖で括られては吊るされるサーナイトの姿がそこに在った。
此処に在る他のポケモン達同様に疲れ果てた様子の彼女は、生きているのもやら首を項垂れたまま微動だにしない。
子供だけが集められたこの場所においては、ただ一匹完全に進化を果たしきったサーナイトの存在はひどく不自然に思えた。
しかしながら彼女の全体を見渡した時、私は何故にこのサーナイトが此処に存在しているのかその意味を悟るのだった。
ボディラインの隆起すら消え失せたその痩躯の中、ただ一点だけ彼女の腹部が不自然なまでの丸みを孕んでいる様に気付いたからだ。
──そうか……用があるのは、この『中の子ども』だ……
もはや機械的にそんな気付きを得た私をよそに、群がっていた男達もまた動き出す。
サーナイトの前へと歩みだした男達の手には、皆一様に何らかしらの道具か携えられていた。
大槌、ペンチ、包丁めいた大振りのナイフに電池式のハンドドリル──これより男達がこれを用い、目の前のサーナイトへ何をしようかは一目瞭然だ。
その瞬間を前にしても私は……
──きっと、あの胎(はら)の中から無理矢理に卵を取り出すのだろう……
無感動にそんなことを考えては、彼女の辿るであろう末路をただぼんやりと見守るしかないのだった。
横凪ぎに打ちすえてくる大槌の一撃を腹に受け──俯いていたサーナイトは跳ね上げるようにしてその顔を上げた。
額の形が変わるほどに眉もとをしかめては歯牙を食い縛るその面相からは、自身の肉体の痛みよりも胎内の卵を気遣う焦りや心痛が伺えた。
とはいえ、ポケモンの卵ともなればその殻の硬度は頑強で、いかに大降りな鈍器を振る舞おうとも運動不足なセレブの膂力程度ではそれを打ち破ること叶わなかった。
それでもしかし10㎏の金床が打ち付けられるたび、サーナイトは肉体に反響する痛みと振動に耐えては呼吸を詰め、咳き込むように息を吐き出す仕草を繰り返した。
腹部はどす黒く鬱血をし、皮膚の破けた傷口からは筋繊維や脂肪の層が見え隠れに緩やかな出血をそこから滴らせる。
そんなサーナイトの腹部に挫創の斑地図を描くばかりの状況に苛立つと、男は自身の拳を振り上げてはそれでサーナイトの鼻先を打ちすえ悲鳴めいた罵倒を浴びせる。
道具を用いてもなお卵ひとつを割れないことへの羞恥に激情を催されたことからも、男から発せられる言葉はひどく震え、よもや同じ人間の言語とは思えぬほどに乱れた。
それを受けつつも、男の暴力から一時解放されたサーナイトは再び脱力に俯いてはただ時が過ぎ去るのを堪え忍ぶ。
もはや彼女にしても、自身の命の保証などはとうに諦めていることだろう。
それにも拘らず今のサーナイトを生へと執着させるものは、何者でもないその胎内に宿した我が子を守ろうとする本能に他ならない。
どうにかこの窮地を乗りきり、無事に出産にまで至れれば後の自分の命などはどうとなれ──とも言う思いでいたことだろう。
斯様なサーナイトを顔面や肉体の部位を問わずに殴り付けていた男も、やがては体力も尽き果て荒い呼吸に両肩を上下させたまま彼女と対峙するばかりとなった。
そうして男の薄弱な精神が一応の沈静を取り戻すのを見計らい、背後に控えていた別の一人が歩み出ては何やら声掛けなどする。
そこから何か提案してくるその言葉に耳を傾けながらも、依然として憎々しげにサーナイトを睨めつけていた男ではあったが──囁かれる耳打ちへ聞き入るうち、その顔には一変して粘着質な笑みが満ちては両の口角を吊り上げさせるに至った。
そこから最後にもう一度、忌々しげにサーナイトの顔面へ唾を吐きつけると男は選手交替とばかりに次なる権利者に順を譲る。
入れ替わるよう新たにサーナイトの前へと歩んでくる新たな拷問者の手には、包丁然とした刃渡りの巨大なナイフが握られていた。
鏡のようブレード部位全体が磨き抜かれたそれの切れ味を試すよう、男はその切っ先でサーナイトの頬元をなぞる。
途端、花が咲くよう擦(なす)られた頬が左右に開くと、その傷の縁から漏れだした流血は瞬く間に首筋を伝わって彼女の体を赤く染め上げた。
実際のダメージ以上にこの鮮血による視覚的な効果は絶大で、見守る周囲からそれに歓声が上がるのと同時に、刻まれたサーナイトもまたそれに慄いては表情をこわばらせた。
男のとった次なる行動は、まず彼女の片足を吊り上げる行為であった。
今現在、天井から両腕を吊られているチェーンワイヤー同様に新たな一本を引き寄せてくるや、それでサーナイトの右膝を括ってそれの引き上げをウィンチ操作する。
その右膝が胸元近くまで引き上げられると、スカート然とした皮膚がめくれ、その下の股間部をサーナイトは一堂へ開帳する姿勢となった。
その姿に謎の嘲笑をあげるギャラリーを背後に、ナイフの男は彼女の腰元へ跪くとそこにて何やら細工を施し始める。
その瞬間、再びサーナイトは頭(こうべ)を振り上げて目を見開くと──大きく開口しては声にならぬそれを振り絞っては呼吸を詰まらせた。
その仕草は何か激しい傷みに由来するものであると察せられたが、その理由を確認しようにも依然彼女の前で踞り続ける男が邪魔になって、そこでなにが起きているのかを確認できない。
しかし次の瞬間、夥しい量の鮮血が蛇口からの放水さながらに滴り落ちては足元で弾ける様に、あの男が手にしたナイフにおいて彼女の体を切り刻んでいることが察せられた。
その後も微動だもせずに作業へ集中する男の後ろ姿と、一方で頭を振り乱しては与えられる苦しみに悲鳴を上げ続けるサーナイトの姿は両極端な眺めであるといえた。
やがては一連の作業に一区切りをつけたのか、ようやくに男は顔を上げると大きくため息をついた。
それから首だけを振り返らせると、見守る一堂へ焦らすよう得意気な笑みをひきつらせてはようやくに、男はサーナイトの前を退いて自己の成果を披露した。
胸元に至るまで鮮血にまみれたサーナイトの膣は……その下腹に至るまで、縦に切り裂かれてはその間口を広げられていた。
そこに穿たれた尿道も然ることながら、クリトリスに至るまで左右に断裂された膣口からは、本来胎内の奥底に納められているはずだろう卵のエナメル質な表面が鮮血にまみれた頭を除かせている。
それを披露しながらもさらに、この切り込みは会陰を縦断しては肛門まで続いており、よもや間口の広げられたそこから卵が墜ちてくるのも時間の問題であることを男は長口舌に乗せては得意気に告げてくるのだった。
その言葉通り、面を俯かせるサーナイトの表情は今まで以上に苦しげに見えた。
痛みを堪えていることは元より、今となっては胎内の卵が滑り落ちてしまわぬよう、常時腹腔へ力を込め続けなければならないのだ。
そんな彼女を前に抱える卵が落ちる瞬間を今かと待ち望んでいた一堂ではあったが──皆が望む展開は一向に訪れようとしなかった。
それこそはサーナイトが存外の忍耐見せたこと……今の彼女は、文字通りの死力を振り絞っては我が子を胎内へと納め続けていた。
それを前に卵を手放すよう男が恫喝するも、依然として項垂れたままのサーナイトはそれに反応することすらない。
思わぬ恥をかかされたことに激昂しては、男は血塗れの彼女の下腹を蹴りつける。
この男にしてみれば今も手にしているナイフでその腹を裂けば卵を取り出すことは容易くもあるが、なまじ放り落とさせることを宣言してしまった手前、それ以外の方法でサーナイトに堕胎させることは沽券に関わることであるのだ。
とはいえ、その促進として見苦しい暴力行為に出た男へと周囲の冷笑が集まる頃──新たな手合いがまた、このタイミングを見計らったかのよう歩み出た。
先にナイフの男が大槌のそれと入れ替わった時同様に、これもまた耳元でなにか囁いてはナイフの男を納得させたようだった。
一連の行動に疲労も覚えていたのか、依然として荒ぶる呼吸を押さえられぬまま男は引き下がり──そして事ここに至っては、おそらくサーナイトへ止めを指すことになるだろう最後の拷問者が登場する。
この時点ですでに息荒く、ひきつるよう小刻みに漏らされる男からの笑いには……明らかに生物には発せようもないモーター駆動による収束音もまた共に奏でられていた。
威嚇するよう何度も短い周期で鳴らされるその正体は、右手に携えられたガンタイプの電動ドリルによるもの──その登場に周囲には期待を思わせる感嘆が漏れると、既にこの男自身も辛抱が利かぬのかサーナイトの前へ踞ってはドリルに装着されたピンバイス刃の先端を突きつける。
その切っ先は、腹部のなだらかな曲線の中にただ一点突き出した臍の先端へと宛がわれた。
卸したての新品と思しき刃は、この薄暗い空間においても鈍い光を返してはある者を不安に、そしてある者においてはその期待を煽るかのよう黒光りのシャフトを煌めかせていた。
そんなドリル刃が突如して高速回転を始め腔線(こうせん)を残像の中へ紛れさせてしまうや──一瞬にしてサーナイトの臍は肉片をはぜ散らしては、そこへ鮮血の飛沫を吹き上げるのだった。
周囲には石膏を掻くかのよう硬質な掘削音と共に、機械油と血液とが焼き焦げる不快な臭気とが立ち込めた。
高速回転するドリルとそれに晒される卵の外殻とが摩擦する熱によって、サーナイトの腹部より溢れでた流血が沸騰させられては斯様な臭いをそこへ醸していたのだ。
そんな前代未聞の暴力を受けるサーナイトは、今までに見せたどの表情よりも苦しげな顔を以て、自分の腹部にてその凶行をおこなっている拷問者を見下ろしていた。
痛みに耐えていると言うよりは、何か強く訴えかけるかのよう眉元をしかめては必死の視線と声ならぬ声を掛けるその意図は、行為の制止を訴えるものに他ならない。
しかしながらそれらはけっして、我が身を穿たれる痛みに屈してのものではない。
いま行われているドリルの穿孔がやがてはこの殻を突き抜いて、中の胎児へと影響を与えてしまうことを危惧しているのだ。
しかしながらそれも所詮はサーナイトの願望でしかなく、拷問者たる男の都合ではない。
既にこの行為に夢中となるばかりの男の五感には、ドリルの切っ先から摩擦によって立ち上がる体液の蒸発と、そして機械越しに感じる卵のエナメル層を確実に堀り削る小気味良い手応えしか享受していなかった。
もはやこの卵を貫けることを確信した男は機械を押し込む膂力に対し全体重すらをも傾けてはその瞬間に注視する。
そして一際高く悲痛に許しを懇願するサーナイトの声が響き渡った次の瞬間──男は突如として支えを失ったかのよう前のめりになると、体当たりさながらにサーナイトと体を密着させた。
突然のそれに、見守る一堂も不審に感じては二人へと目を凝らせば……そこには穿孔していた刃の消えたドリルが、サーナイトの腹部に密着している光景が写される。
その瞬間に一堂が感じた印象はドリルの刃が折れる事で、男が支えを失いつんのめったのだと想像を巡らせたがしかし──そんな、少なくともサーナイトにとっては希望的観測ともなるその想像は裏切られることとなる。
男が身を起こし、そしてゆっくりとドリルもまたサーナイトの体から離していくと……まるで子供の見せる稚拙な手品さながらに、サーナイトの腹部からはドリルに装着された黒光りの刃が現れ出した。
徐々に引き抜かれていくその光景を目下に、表情を無くしてはただ目を見開くばかりのサーナイトは小刻みに頭を振っては必死の目の前の現実を否定しようとする。
しかし完全にドリルが引き抜かれ、ただ一点サーナイトの腹部に穿たれた穴から、無色透明の羊水が吹き出した瞬間──彼女はこの世のもの成らざる声を上げた。
甲高くもしかし、語尾は喉頭に溢れる鮮血や唾液を打ち付けてはひどく滲み、そんな声を息が止まるまで絞り上げては、再び呼吸してまた叫び続けた。
この時ほど激しく身をよじらせては、両腕を括るチェーンワイヤーを軋ませて抵抗したこともない。
サーナイトにしてみれば、今すぐにこの両手で卵に穿たれた穴を塞ぎたかったことだろう。
……無論それが、既には遅きに失した行動であることを理解しつつもである。
それでもしかし、死にゆく我が子をむざむざと見送ることなど、一個の母親には耐え難い事であったのだ。
そんなサーナイトを嘲笑うよう、ドリルの男は第二穴となる次の穿孔を敢行する。
先に穿った穴のすぐ隣に再びドリルの切っ先を宛がうと──再びに回転を始めてはサーナイトの腹部を掘りえぐった。
既に最初の作業で要領を得たのか、二つ目となる穴はあっけなく穿たれた。
最初の一穴が貫通したことで強度にも変化が生じたのやも知れない。
再びドリルを抜いて穴を晒すと、空気の逃げ道が生じたことのより、穴から溢れる羊水は壊れた蛇口さながらの勢いで撒き散らされ始めた。
ここに来てサーナイトの抵抗は更に激しくなる。
もはや自力にて鎖の拘束を解き壊さんとワイヤーを軋ませ、その身を前のめりに強く傾けた次の瞬間──突如としてサーナイトの体が後方へと飛んだ。
見守る一堂もなにが起きたものやらと目を見張る中、そこには彼女の腹部へと鉄塊を打ち込んだ先の大槌の男の姿があった。
最初の光景の繰り返しと思われたその登場もしかし、今回の殴打には決定的な違いが見て取れた。
打ちすえられた男の大槌は──その先端の金床が、完全にサーナイトの腹部に埋もれていたのである。
インパクトの瞬間、場には束ねた繊維質を踏みしめるような鈍い音もまた響き渡っていた。
それら事実が現す現実は……サーナイトの胎内において彼女の卵と、そして無辜の生命がひとつ無惨に叩き潰されたことを語っていた。
ゆっくりと、その実感を味わうよう男が大槌を退かせると、サーナイトの股座からは卵が滑り落ちてきては足元に落ちた。
しかしながら一堂の前へ晒されるそれは、下半分の外殻に羊水を満たしただけの欠けた卵である。
それを前にして既に茫然自失の体で放心するサーナイトの前へと新たな男が屈むや、覗きこむようにして鮮血と肉片にまみれた膣口を見上げる。
どうやら肝心の胎児が卵の残骸の中に無かったことから、母体の胎内を探りに来たと言う訳であった。
無遠慮に膣内へ指先を差し入れると、その中で破裂しては膣や子宮に突き刺さった卵の殻をこれまた煩わしげに引き抜いていく。
次々と取り除かれては傍らの足元へ積み上げられていくそれら殻にはその鋭角な切っ先に様々な粘膜の肉片がこびりついていたが、もはやサーナイトが反応することもなかった。
赤い瞳孔の水晶体は徐々に濁り始めては、この憐れな生け贄の命が幾許もないことは火を見るよりも明らかである。
そんな中で、一連のサーナイトの腹腔を探っていた男が手を止まった。
既に肘に近い場所まで挿入していたその手を動かすと、サーナイトの下腹の表面が波打っては、出来の悪いホラー映画さながらの光景をそこに展開する。
やがてはこの膨らみが下降を始め、ついには完全に右腕が抜かれては、男は鮮血によってどす黒く染めあげられた拳を爪を上にして一度の前へと差し出す。
そこから見せつけるかのよう一本ずつ指を開き、やがて扇に広げられた掌の上にあったものは……──
ラルトスと思しき残骸であった。
まだ孵化には早すぎた未熟児は全体の色合いが薄く、さらには先の大槌に潰されてしまったことにより、生物としての厚みなど一切持たぬ、紙ごとき薄い体躯を仰向けにして晒していた。
そしてそれを確認した瞬間──一堂からは爆発するかのような笑いの渦が沸き上がる。
ここに集まる誰もが呼吸もままならぬほどに、潰れてはひしゃげた胎児を前にして笑い転げるのであった。
やがてそれを手にしていた男は改めてその母親たるサーナイトの前へと向き直る。
既に半ば以上生命力の尽きかけた彼女であっても、変わり果てたとはいえ我が子を前に最後の命の灯火が目に宿る。
そしてその瞳から止めどなく涙もまた溢れさせると、口許は震えるように動いては彼女なりの祝福と謝罪をこの小さな命の残骸へと掛けているかのようであった。
そんな親子の対面を前にしてもなお、男はこの状況を上回る更なる悪辣で残虐な凶行へと走る。
不意に、掌に置いていたラルトスの裾へと──事もあろう勃起したペニスの先端を宛がった。
その様を前にして目を見開くサーナイトを前にして、男はラルトスの胎内への挿入を試みる。
内蔵器の類いですら満足に発達のしていないラルトスには膣や肛門といった穴の区別すらもない。
ぺニスがひしゃげていた肉体の中を掻き分けていくと、まるでハンドパペットさながらにラルトスはぺニスの芯を得て、そこに立体を成した。
背後に垂れていた頭が持ち上がると、押し込まれるぺニスの圧によってラルトスの遺骸が大きく口を開く。
さらにはピストンもまた開始すると、まるでラルトスは生きている姿よろしくに幾度と無く身を起こして、口角の開閉を繰り返す。
その様子にさらに場に満ちていた悪意ある嗤いの渦はうねりを帯び、ある者はそんなラルトスの遺骸が口を上下するのに合わせ下卑た文言をアテレコに囁くなど、もはやこの場に心ある者などは──……否、『人間(ヒト)』などは此処に誰一人として存在などはしていなかった。
やがては死者への冒涜と凌辱の果てに男が果てた。
右掌に握り握りしめられたラルトスの開け放たれた口からは最初、そののどに詰まっていた羊水が溢れ、次いで男の精液が込み上がっては部位を問わぬ顔面の孔という孔からそれらは溢れ出しやがて──さんざんに撹拌された僅かばかりの臓腑が煮凝りのような鬱血した塊として吐き出されると、ようやくに男の行為は終わった。
それら行為の全てを目の当たりにし、やがては見守り続けていたサーナイトの目からも完全に生命の灯が消え失せると……彼女もまた我が子の後を追うよう脱力し、遂には息絶えた。
斯様なサーナイトの異変に気付いた一人が彼女の完全な死を確認してそれを声高に告げると、再び場からは歓声とともに純真であったはずの二人のポケモンを『売女』や『淫売の末路だ』と罵る声が上がっては更なる熱気を帯びていく。
その後も男達はラルトスやサーナイトの死体へと群がっては、もはや膣の役割すら果たせぬ残骸にペニスを打ち込んでは死姦と凌辱の限りを尽くした。
その光景に私は、これこそが現世に顕現した地獄であることを──そして同じ場に立つ尽くす自分自身もまた、同類の醜悪な獣であることを否が応にも実感せずにはいられなかった。
生物の形は『意志』によって模られる。
その意志とは自我や精神と呼べるものであるし、宗教的な側面からは魂とも言える物であるだろう。
目の前でその意思を失くしたサーナイトとラルトスは、群がる有象無象によって死姦の憂き目に遭う中において瞬く間にその形を崩壊させていった。
様々な男達の手に渡りながら手淫の道具とされたラルトスはもはやその体色の名残を残すばかりの肉片と化し、吊るされていたサーナイトもまた地に降ろされては顔の孔の箇所を問わずにペニスを突き入れられては──私が見守る目の前で瞬く間に数グラム乃至(ないし)数kgの肉塊へと朽ち果ててしまった。
それら光景の一部始終を見届けた私はもはや、立ち居すら保てなくなっては両ひざを震わせる。
今この瞬間、私もまた自分自身を見失っては己の形を崩壊させつつあった。
一連のサーナイトを凌辱した連中と同じ種であることの嫌悪が激しい自己否定となりいつしか私と外部との境界を曖昧とさせていた。
このままでは遠からず、精神的な衰弱に耐えきれず崩壊することは明らかであった。
なれば欺瞞や開き直りであっても自己を肯定しようと試みるも……もはや私は、自分も含めた『人間』と言うものに疲れはててしまっていた。
故に薄弱な私の精神は残酷な現世からの逃避を望み、もはやこの地獄の地の底において崩壊を迎えつつあったのだ。
そしてやがては意識の失われるままに頽れんとした私の膝頭をしかし──その刹那、何者かが支えた。
その弱く儚げでもある他者の感触と体温に、途端に私は失いかけていた自我の形を結び直す。
ほんの数秒間ではあったものの、確実に生命活動を止(や)めていた肉体へと循環するあらゆる体液の脈動に目眩覚えつつも、明瞭となった視線を足元へ結べば……そこにはあのパートナーであるキルリアが強く私の右足へと抱きついていた。
彼女こそが彼岸へと渡りかけた私の意思を連れ戻してくれた恩人に違いはなかったがその実、しかしながらそうした彼女の行動もまた、けっして私を救い出そうとして施されたものではなかったことに気付く。
同じく見上げてくるキルリアの顔もまた、眉元を強(こわ)めさせつつも紙のように青ざめては一切の表情を無くしていた。
恐らくは私同様の……否、同種のポケモンであった先のサーナイトの成れ果てを目にした彼女こそ、もっと強い恐怖や喪失感に苛まれたことだろう。
斯様にして私同様の死の境界に見(まみ)えた彼女はしかし、懸命に自己を現世へと繋ぎ留めるべくに抵抗をし、その果てに私へとすがり付いたのだった。
しかしながらどうにかして踏み留まる私達であっても、依然として絶望の幽世から脱しきれていないその精神状態は頼りなく曖昧なものであった。
これ以上此処に留まり続けていようものならば、再び我を見失う……この時のお互いの存在は謂わば、難破した夜半の大海原において奇跡的にしがみつくことのできた船の残骸に他ならない。
互いを認知することで確立し合い、そしてなおもこの意思を現世へ繋ぎ止める為にも『目の前の誰か』を感じ続けなければならないことを確信した瞬間──期せずして私達は抱き求め合い、更には貪るように互いの唇を交わした。
口中に流れ込むどちらのものとも知れない唾液を、砂漠のオアシスに辿り着けた感覚で吸い上げては飲み下す。
事実、喉も酷く乾いていた私などは、仄かに花の香も漂うキルリアのそれをひどく美味として享受した。
体全体で抱き込み、やがては両膝もついてキルリアに覆い被さると、いつしか私の口唇は彼女の幼くも平坦な肉体をなぞることに夢中となっていた。
その最中、強くキルリアの両手がそんな私の後ろ頭を掻い繰りもしたが、それが私を受け入れてくれるものであるのか、或いは強い拒絶であったのかは、終ぞその時の私には分からなかった。
吸い付けさせる唇が痺れるほどに彼女の胸元をついばんでは無惨な内出血の斑点をいくつも刻み込みながらやがて、私の舌先は彼女の膣へと至った。
自分の物ではない物体を摂り入れる時、そして自身の物体を相手へと干渉させる時、何よりも私達は意志の確立を実感した。
そしてその確立の究極の形こそ──今この瞬間においてはセックス以外にはあてはまらなかった。
袈裟に羽織る長布の下では既に石のように高質化したぺニスが痛みを覚えるほどに屹立している。
身に纏う被服を煩わしく思いながら取り出したぺニスの亀頭をキルリアの股座へ宛がうと──私は穴の判別もつかないまま、一息にその全体を挿入してしまうのだった。
粘度の高い体液を介した肉の感触と、その全体に行き渡る高温に私はキルリアを、そして自分自身を強く意識した。
それは同時に、目を見開き身を仰け反らせては息を詰まらせるキルリアも同様であったろう。
斯様にしてヒトとポケモンによるまぐわいという禁忌を犯したことの感慨になど浸る間もなく、私は腰を突き出し続けた。
私もキルリアも獣の如くに叫び合いながらまぐわい続ける。
互いの肉体に干渉するものは物理的なものに留まらず、声や息遣いといったものに至るまで及んだ。
その中において私は自身でもそれを予期する暇も持たずに射精を果たす。
とはいえそこに従来感じられる快感などは一切無い。
ただしかし、彼女の中に自分の体液を残せたことの達成感に私は酷く安堵する。そしてそれはキルリアも同じくに、他人を自分の中の感じることでようやくに自己を確立せしめた様子であった。
射精後も、重く背にのし掛かる脱力感の任せて彼女に覆い被さる私はその瞬間、左耳へ発火するかのような痛みを覚えては再び感覚を研ぎ澄ませた。
それは間違いなく、いま肌を合わせるキルリアから加えられている痛みだ。
互いの横顔を触れ合わせたままに密着する体勢ゆえに目視は叶わないが、恐らくはキルリアが私の耳へと噛みついたのだろう。
その力加減も単にじゃれつく程度に留まらず、ミリミリと細胞の押し潰される音が脳内へ痛みと共に広がるに至っては、もはや噛み千切らんと咬筋していることは明らかだった。
そんな状況にもしかし、不思議とその時の私には一切の恐怖も焦りもなかった。
むしろその痛みのお陰で自分と、そしてそれを施してくれるキルリアの存在を感じられることが嬉しかった。
もっとだ……もっと噛み締めろ!
私がお前にしたように、忘れられない痛みをこの体に残してくれ!
耳介の軟骨が歯牙によって断ち切られる痛みにもしかし、私は歓喜の叫びを上げる。
そして次の瞬間にはその本懐も果たされ、無事に私の耳は彼女のよって噛み千切られた。
ようやくに頭を上げると私は組み敷いていたキルリアを見下ろす。
緊張した面持ちでこちらをまっすぐに見つめてきている彼女の顔に、私の耳から溢れる夥しい出血が落ちてはその顔を斑に赤く染めていた。
この中でキルリアは依然として私を見つめたままゆっくりと口を開く。
その中に覗く小さな舌の上には、耳輪ごと丸々千切られた私の耳がそこに鎮座していた。
私の肉体の一部がキルリアの口(なか)にある──それを確認した瞬間、先の射精など及びもつかぬ充実感が背を走り抜けるのを感じた。
そして次なる私の願望こそはそれを彼女に飲み込んでもらうことだ。
どうか私を迎え入れてくれ……君の肉体の一部として、私の存在を君の中に残してくれ……そんな願いが見つめ合う中で伝わったのか、或いは端からそれを彼女もまた望んでいたのか小さな口は閉じられ、そして涙目にえづきながらその喉が隆起して再び口を開いたそこに、私の耳であった物体が消失している様を確認した瞬間──私は再度の射精を果たした。
今度こそは強い快感を伴う……否、これまでの人生においても最大限の衝撃を伴う充実感を私は彼女より得ていた。
しばし忘我してはその一時は全ての不安より解放された私も、次なるは彼女からの切実な視線によって我へと返った。
見下ろすそこには、どこか恨めし気な視線を結んできては上目遣いに私を見つめるキルリアの血塗られた顔があった。
当初彼女が何を求めている物やら理解できなかった私ではあったが、すぐにそれも察することとなる。
彼女のもまた同じであるのだ──自分の証を彼女の中へ残せた私同様にキルリアもまた、自身の一部を私の中へと送り込みたいのだ。
それを察し私もまた意を決すると、乾いた口中の中に唾液の糸を引かせては上下の歯を大きく開け放った。
しばしその格好のまま、何処を噛んだらいいものやら思いあぐねる私の逡巡は存分に彼女を焦らし、いたずらにその恐怖を煽る結果となってしまった。
しかし同時、そんな私を前にキルリアは僅かに表情を伏せるとやがて──小首を傾げ僅かに俯くや、まるで差し出すかのよう左側頭部の突起物を私の鼻先に突き出した。
ポケモンに詳しくは無いが、それでも彼女がエスパー型のポケモンであり同時に両頭部より生え出たそれらがエネルギーの受容器官であることの理解は私にもついた。
故にそこを差し出されることに戸惑いを覚えるが同時──だからこそ、それを選んだ彼女の意図もまた察する。
重要であるからこそ……取り返しのつかぬ部位であるからこそ、私達にとっては意味があるのだ。
それを理解した瞬間、私の胸はこれまでに感じたことも無い多幸感に包まれてはそれに刺激されて三度目の射精に達する。
既に小さなその胎内には収まり切れぬほどの精を受ける彼女もまた、自身の中に込み上がるそれらが麻酔さながらにキルリアを忘我の域へと達せたらしめていた。
ならば今以上の幸福を君に送ろう……そして私の中で君の存在をこの身が滅びるまで残すといい……──
次の瞬間──私は頭部の突起を力の限りに噛みしめた。
歯根へと伝わる繊維質の歯ごたえの中に溢れんばかりの彼女の血潮もまた感じると、私は再びに射精を果たしながら、夢現に周囲へ響き渡る苦痛の悲鳴を耳にするのだった。
歯根を圧迫する歯応えは──肉というよりはむしろ、高密度の繊維層を噛み裂く感触に似た。
前歯と犬歯が表皮を破り、更には先の繊維質な肉を噛み断って進むとやがて、一際弾力を持った何かに阻まれては私の咬筋も止められる。
それを何事か思うと同時に噛みきれないものかと上下の歯先を擦り合わせると──その刺激の対し、組み敷くキルリアが半狂乱の声を上げた。
甲高く、もはや超音波ともつかない響きを帯びたその様子からも、いま私の歯々から生じられる痛みがいかに尋常ならざる刺激であるのか伺い知れるようである。
ならば尚更に早く食い千切ってやろうと、私もまた件の軟骨を噛み締めては顎を上げ、そこから首を捻り上げては引き剥がそうと躍起になる。
その動きに切断された彼女の突起はその芯となる血塗られた軟骨が、解(ほつ)れた縄のよう筋や神経網といった繊維をまとわりつかせては外気に晒される。
それを前に私は更に噛み締め直し、体位を整えた次の瞬間──勢いをつけ身を仰け反らせるや、その反動を以て一思いにキルリアのそれを食いちぎった。
その一時、我が身を吊り上げられる外力が消えた解放感にキルリアも表情を呆けさせた次の瞬間にはしかし──肉体の欠損と同時に突起部で爆発したその痛みに対し、もはや声とは呼べないそれを以て彼女は咆哮した。
目を皿にして見開く反面で、鼻頭を芯に置いた顔面の中央は螺旋状に皺が寄って表皮を隆起させてと、もはや別種のポケモンと見紛わんばかりの凄まじい形相でその小さな身に押し寄せる痛みを体現する。
噛みきった頭部の切断面からはその力みに比例して夥しい出血が吹き上がっては、瞬く間に彼女の背を血溜まりの中へ沈めた。
そんな彼女を前に私は──それを成し遂げたのが自分であることの達成感に浸る余り、どこか他人事のようにその様子などを見つめてしまう。
口中にある彼女の肉片を租借すると、噛み締めたそこから滲み出る鮮血が、渇ききった喉と肉体には堪らなく美味に感じた。
それを味わえる今この瞬間、胸中に溢れるものは目の前のキルリアに対する純粋な感謝であった。
柄のもなく『運命』などと言うものに思いを馳せる──彼女がポケモンとして生を受け、そして今日この場所にいるのは、紛れなく私と出会うためだったのだ。
そしてそれはキルリアにとって同じことなのだと理解した瞬間、私は彼女の両頬に手を添えては逸していた視軸を自分へと固定させた。
視界の中へ私を捉えてはその一時、苦しみに歪んでいた彼女の表情が落ち着いた。
依然として激痛に苛まれては止め処なく落涙をするキルリアにもしかし、この顔を、この私を確認した瞬間──明らかな笑みをそこに湛えてくれた。
おそらくは私もまた微笑んでいたのだろう。なんと、幸せなことかと思った。
このままここで彼女と死ねることもまた、まんざらでなく思えた。
むしろそれを望むべくに彼女へと覆い被さると、私は強く口づけを交わしては、キルリアの口中へと深く自身の舌を差し入れる。
もはや彼女には私の意図は伝わっているはずだ。
そしてそれを証明するようキルリアもまた長く舌を伸ばしては私の中へ進入し次の瞬間──そんな自分のものともろともに、彼女は私の舌を噛み切った。
切断されたそれぞれの舌根を口中に残しては私達のキスもまた中断される。
喉の奥底で間欠泉のよう沸き上がる熱い飛沫をもて余しては溢れ出たそれらが口の端や鼻腔から溢れ漏れる。
そんな中で内頬をうごめかせると、口中に残った彼女の小さな舌が転がってはなんとも私を幸せな気分にしてくれる。
なんと愛らしいことか……その愛しさに心奪われる余り、肉体の息苦しさなどは微塵も感じなくなっていた。
そんな折、こちらへと向けられる気配に気付いて視線を下ろせば、そこには口を真一文字に閉じ合わせた表情で私を見つめるキルリアの顔があった。
私同様、口中において溢れ出る出血を抑えているであろう口の端や鼻腔からは嚥下も間に合わずに溢れた鮮血が幾筋にもなって漏れ出ていた。
そんな中、不意に彼女が口先を窄めて突き出したかと思うと……その唇を押し分けて、キルリアも顔とは比率の逢わない大きな舌先が頭を出した。
言わずもがな、それこそは彼女の中へ置いてきた私の舌だ。
そのイタズラっぽい仕草を愛らしく感じると、私もまた彼女から預かっていた舌先を同様に突き出させては彼女の前に晒す。
そうして互いに露とさせた舌先を触れ合わせては擬似的なキスを交わす私達はもはや──口中の出血からくる酸欠と失血にその意識を朦朧とさせていった。
それでもしかし、いま胸中に満ちているものは幸福感以外のなにものでもない。
示しあわせたよう互いにきつく抱き合うと、いつしか私の意識は遠退いていった……
まるで眠りに落ちるかのようなその感覚のなか安堵とそして、
──あぁ……愛しているよキルリア………
私達はどこまでも満ち足りては、やがてこの世界から完全に消え失せるのだった……──
アンバーシュタイン氏の訃報を知らされたのは、私が意識を取り戻してから7日後のことであった。
あの朦朧ともしかし、天上の楽園に身を浴していたかのような快感と充実感の直後──私は苦痛に苛まれながら現世のベッド上にて覚醒した。
感覚にしてみれば、キルリアと濃密に愛を語らっていた直後と今とが直結したがごとき状況は、しばし私を困惑させてやまなかった。
しかしながら順を追ってここへ至るまでの推移を聞かされることで徐々に私もまた冷静さを取り戻し、ようやくに事件の全貌を見渡せるに至る──
私とキルリアの意識が途切れたあの直後、予てより別荘への強制捜査を控えていた調査局一団がそこへの強襲を実行した。
この事は誰にとっても寝耳に水であったようで、件のアンバーシュタイン氏を始めとし、場にいた一堂の悉くが逮捕とそして補導をされた。
その中で私とキルリアもまた真っ先に発見されては緊急手術を受ける運びとなり──そして今、どうにか一命を取り留めては部下の報告を聞いている。
互いに舌根を噛み切っていた私とキルリアの容態は深刻で、事実出血と窒息によって完全に意識を失っていた私達はあと三分も処置が遅れていたなら命の保証はなかったのだとも聞かされた。
もっともだからといって五体無事に済んだかといえば事はそう上手くもいかず、接合手術を受けた私の舌は一部味覚の消失と、そして深刻な言語障害が残ることを余儀なくされた。
『──とはいえ、命あっての物種ではないですかノーラン警部。……いえ、退院後は本部長ですか?』
部下の軽口に頷いては私もまたベッドのリクライニングへ背をもたらせては大きくため息をつく。
不動産コーディネーターである私(わたくし)シュワルツ・ノーランは──『リクシー・アンバーシュタイ事件』潜入調査における仮の姿であり同時に、それこそは氏を摘発する計画の一部であった。
予てより氏には多くの脱税を始め、反社会組織に対するマネーロンダリングの便宜や資金提供が疑われていた。
加えて氏の周辺においては不可解な失踪事件もまた多発しており、今回調査局は強制捜査とその逮捕に踏み込んだと言うわけだ。
当然ながらそれの手引きと、そして計画全体の立案・指揮を取ったのは誰でもない私であった。
とはいえしかし、今回の成功を足掛かりに更なるステップアップを目論んでいた私にとってはアンバーシュタイン氏に対する個人的な恨みなどあろうはずもなく、むしろ私達はこれが摘発者と被疑者であることが惜しく思えるほどに心を通い合わせていたのは事実であった。
それだけに逮捕後の動向が気になり、それを尋ねた際に返されたものこそが──
『残念ながら、死にました……一応は独房での自殺ということになっていますが』
部下からの報告に、私はしばし放心しては言葉を失う。
こうもあっさりと事件が終了してしまったことの感慨がまったく湧かなかったからだ。
同時にしかし、鹿爪らしい部下の物言いにも気付いて私はそれを問いただす。
その結果分かったことは、一連の氏の自殺にはあまりにも不可解な点が多いことだった。
発見日の午前9時15分──独房内にて氏の遺体が発見された。
当然ながら機密事項であるこの一件は署内においても箝口令が敷かれ、この事実を知る者は調査員の中でも更に一握りの人間に限られた。
しかしながら皮肉にも、今このことを報告する部下こそがこの件の第一発見者であり、その事からも私は当時の状況を詳細に知ることができた。
『ただでさえ箝口令の敷かれている状況だっていうのに、その事情を知る一部にさえ意図的に事実をぼかした報告がされているんです』
上背を屈めては身を寄せて声をひそめる仕草はジョーク染みたリアクションというよりも、真にこれから先の情報を周囲に漏らすまいと注意する気遣いが見てとれた。
やがて部下は私の耳元において囁くように氏の顛末を伝える。
『例のアンバーシュタインの死体ですが……独房の中央において首の骨を複数箇所、折られた状態で発見されたんです』
その報告を受けた瞬間、私が想像する事件の真相とそして部下の推理もまた一致した。
それこそは──
『明らかに他殺ですよ。……口封じの為のね』
それ以外には考えられなかった。
今回の強制調査において補導をされた関係者らは、その誰もがおおよそ『一般人』と呼べるような人物達ではなかった。
それらは各国の要人を始めとし、国政に携わらぬ者達であっても皆、名だたる大企業の経営者や顧問といった、ある種下手な一国の大臣達よりも世界情勢に影響をもたらしうる人物達であったからだ。
事実、今回の摘発において『逮捕者』はかの死亡したアンバーシュタイン氏以外には出ていない。
彼らの所属する国の外交筋からは元より、この国の上層部からも、逮捕ではない『保護』に努めるようにとの達しがあった。
それほどにあの島へ集まっていた人物達は影響力を持った連中ばかりであったと言うことだ。
同時にその後の調査で、別荘島の内陸において人やポケモンを問わない数多くの白骨死体が発掘されたことと、更にはその近隣には大規模な芥子畑の存在もまた確認された。
手順としてはこうだ──
人もポケモンも問わず、この島へと訪れた者は何らかしらの薬物によって中毒者にされる。
ゲスト達はそれによって正常な意識を奪われ、その後はこの島において殺戮行為も厭わない饗宴の果て、後にそれら行為を収めた映像等で脅迫されては、氏の商売に対して優位になるよう便宜を計らされるのだ。
そしてこの島において労働に従事するポケモン達は更なる悲惨な末路を辿ることとなる。
重度の薬物中毒者へと仕立て上げられた彼ら彼女らは、薬の供与を餌にされては文字通り死ぬまで意のままに使役され続けるのだ。
思えばあの時──キルリアと共食いを果たしながらまぐわい続けた私の精神状態は異常の一語に尽きた。
恐らくは移動中のジェット内で振る舞われた食事や、そして島に着いてからはあのグレイシアが作ってくれたカクテルにも件の薬物が混入されていたのだろう。
そしてそれらによって酩酊状態となった私は自我を見失い、遂にはキルリアとのあの甘美なる瞬間を……否、狂気の一時を体験するに至るのだ。
そんな記憶の断片が、朧気な映像と共に血塗れで微笑むキルリアを私の脳裏へと閃かせた瞬間──私は跳ね上がるようにして、リクライニングへ横たえていた体を起こした。
その突然の行動に驚愕しては具合など伺ってくる部下を前に、それでも私は依然として正気を取り戻すことが出来なかった。
そうだ……彼女はどうなったのだ?
なぜに私は今この瞬間まで、あのキルリアに対し無関心でいられたのだろう?
しかしながら、こうまでも急激に彼女のことを思い出したのには誰でもない氏の死亡事件の報告へ触発されたに他ならない。
「……あのポケモンはどうした?」
『ポケモン? 何のことです?』
「私と一緒に死にかけていたあのキルリアだよ。彼女は今どうしてるんだ?」
突然の脈絡もない質問に戸惑ったのか、上目を剥いて思考を泳がせる部下はやがて、
『そういえばこれは別件の報告になるんですけど、そのキルリアですが入院していたポケモンセンターから姿を消してるんですよ』
部下その報告に、私は背が粟立つのを感じた。
「それは……いつの話だ?」
『えっとお……警部が意識を取り戻してすぐだったから一週間前になりますかねえ』
「………アンバーシュタイン氏が殺されたのはいつだ?」
『まだ3日前の話です。同時に館内の監視カメラの類いもみんな壊されてしまっていて、犯人の特定には至れてません。おまけに、これだけ派手に殺してるって言うのに指紋のひとつも残されてないんですよ』
私は魂が抜けたよう、再びベッドへともたれた。
この時、私が無意識に確信した事件の真相とそしてその犯人は──誰でもないあのキルリアの手によるものであることを、見えざる神の直感が私へと伝えていた。
氏の殺害事件に前後してキルリアが消えたのはけっして偶然からではない。
彼女はあの島から解放されたことを知り、改めて今日の報復へと出たのだ。
長らく人の出入りする施設において労働に従事していた彼女は監視カメラの存在も知っていれば、その役割もまた理解していたことだろう。
自身の人生は元より、ありとあらゆる同胞達の未来を奪い続けてきた仇が密室に囚われている状況などは、これ以上に無い復讐の好機と見たのだ。
そして彼女はその本懐を果たすことに成功する──ようやくに、綾の付いてしまった自身の人生へと一応の決着をつけられた訳だ。
そこまでを推理して更に私は脱力を深めていった。
荒唐無稽ともとれるこの考えは、未だ脳の隅に染み付いた薬物の見せる妄想であるのかもしれない。
あるいは──再び彼女と出会いたいという私の願望が都合よく事実の組み立てをしているだけなのかも知れなかった。
そんな折り、
『復讐するは……我に有り、か』
私はとあることに気付いてしまった。──否、思い付いたと言うべきか。
思わず独り言つる私の呟きも上手く舌が回らぬとあってはただの呻きとしか周囲には聞こえなかったことだろう。
そうしてしばし『その計画』に思いを馳せていた私は、思い出したかのよう傍らの部下へと声を掛けた。
「……今回の一件をマスコミへリークしろ。事件の内容と関係者を余さずリポートにまとめて、それを私名義で発表するんだ」
思わぬ私からの指示に部下は息すら忘れて私を見据えた。
『正気ですか警部……事は地元の買春クラブの摘発程度ではないんですよ? それこそ規模を考えれば、あなたは全世界を敵に回すこととなる!』
そんな説得とも脅迫ともつかない部下の進言にもしかし、私は再度この事件の真相を世に明らかとする決意を繰り返した。
斯様のごとき私の頑なさに今度こそ狂人を見るかのよう怪訝な視線を向けてくる部下ではあったがしかし、最後にはその準備を引き受けては去っていった。
そうして一人病室に取り残されるや、私はベッドのリクライニングに背を預け、見上げる天井の彼方へと思考を飛ばした。
この時私が夢想していた計画……それこそは、あのアンバーシュタイン氏の楽園を再び繰り返させることであった。
しかしながら今度はその役割が逆だ……今度は、今日までの虐げられてきたポケモン達こそが復讐の本懐を果たす時なのである。
キルリアのアンバーシュタイン氏に対する報復を聞いた時、私は彼女以外のポケモン達へと思いを馳せた。
いかに自由になったとはいえ、脳の半ばを薬物によって犯されたポケモン達は今後をどうやって生きることだろう……そして虐げられる以外に役割のなかった彼らが今後持ちうる『生き甲斐』を考えた時、私はこれしかないと思った。
彼らはこれから、残りの人生を掛けて自分がされたことを返していくのだ。
その対象とすべき連中の名前も顔も俺が提供してやる。
なまじ有名人であったことこそが、皮肉にもやつらの居場所を復讐者へと喧伝してしまうこととなるのだ。
そしてこの一件が日の目を見ることとなれば同時に、それを発表する私の名と顔もまた一躍世界へと轟くこととなるだろう。
テレビ、インターネット、雑誌に新聞と、あらゆる媒体に左耳の噛み切られた私の顔が晒されることとなる。そうなれば、『彼女』もまた私を発見しやすくなるはずだ──……
あのキルリアが、私へと復讐を果たしに訪れてくれる。
なぜなら私もまた彼女の同胞を見殺しにした輩の一人であり、そしてその肉体の一部を損傷せしめた当人であるのだから。
いつしか私の思考は再びあの薄暗く淀んだ、足元に瘴気の満ちる氏の別荘へと飛んでいた。
私があの罪の島へと赴いたように、今度はお前が私へと辿り着くがいい……。
そしてあのキルリアと再び出会えた時──あの場所での続きがまた繰り広げられるのかと思うと、
薄暗い期待を満たした私の体は、そこへ痛いほどの勃起を果たしてしまうのだった。
【 罪の島・完 】
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