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エントリー作品一覧
※♂×♂描写、かつ軽微な♂調教描写あり
走れモトトカゲ 作;群々
モトトカゲの少年は、草原を爽やかに吹き抜けた風に恋をした。
その日も東1番エリアの草原を我が物顔で駆けずり回った。存分に走り回って内側から火照った身体を冷やそうと東パルデア海の穏やかな波に足を浸したときだった。この辺りを荒々しく駆け回っているケンタロスとは違う足音が、モトトカゲの耳に心地よく響いた。
振り向くと、派手な紅色の体躯をしたものが浜辺に佇んでいた。自分より二回りほどは大きく、逞しい体つきをしているコライドンというポケモンのことなど、東1番エリア以外の世界を知らないナイーヴなモトトカゲには知る由もなかったが、胸元から突き出たタイヤのような喉袋から、自分との深い縁のようなものを感じた。
不意に目が合った。首を出したウミディグダのように直立したまま、モトトカゲは何も言うことができなかった。なぜか胸が激しくドキドキし、走ってもいないのにカラダが燃え上がようだった。
しばらくモトトカゲを見つめていたコライドンは、やがてくるりと背を向けると、草原の方へ駆け出していってしまった。飛んでいるかのような走りだった。額から長く伸びた触角が紐帯のように後方へたなびいていた。
モトトカゲのカラダが勝手に動いた。追いかけなければいけない気がした。まるであのコライドンと自分が遠く生き別れた実の兄弟であるかのような予感がその小柄な身を突き動かしたのだった。
コライドンの後方にピッタリと付いて、カイデンたちが飛び交う浜辺から険しい上り坂を一気に駆け抜けていった。コライドンが立ち止まれば、モトトカゲは少し距離を置いたところで一休みした。コライドンは走り出せば、モトトカゲもまた追いかけ始めた。
ボウルタウンを掠めるように通り過ぎると、高く聳え立つ岸壁が迫ってきた。その壁に向かって躊躇う様子もなくコライドンは飛び込むと、そのまま爪で岩肌を掴み、浮き出した肩甲骨を柔軟に上下させながら登り始めた。モトトカゲは呆気に取られて、すいすいと登っていくコライドンを見つめていた。
音を立てて唾を飲み込んだ。岩に手をかけてみたが、上る勇気はなかった。見上げれば気の遠くなってしまう高さに、どうすることもできなかった。そんな切りたった崖を難なく上り切ったコライドンは、自分のいる地上を見下ろすこともなく背中を翻して姿を消してしまう。
モトトカゲは気が焦った。心臓が爆発しそうな音を立てた。尿意のようなものを覚え、もぞもぞと股を擦り合わせた。思い切って壁にしがみついて頑張ってはみたものの、精々自分の背丈ほど上ったところで、力無く落っこちて背中を打ってしまうのだった。痛いのと悔しいのと悲しいのとで、モトトカゲはその場でぐずり出してしまった。
勇ましい雄叫びがした。ハッとして見上げると、崖上にコライドンの姿があった。自分のことを見下ろしてくれているのかどうかはわからなかったが、しばらく崖側に佇んでから、コライドンは再び姿を消した。そんなことをしても崖上を見ることはできないのに、モトトカゲはすっくと背伸びをした。
涙を抑えながら、モトトカゲは走り始めていた。しゃにむに岸壁の周りを走って南5番エリアの渓谷に入ると、すっかり日が沈んでしまう。辺りがすっかり暗くなっても走るのをやめなかった。左手の岩の塊をチラチラと見遣りながらあのコライドンの姿を探した。石ころのように転がるココガラやマメバッタに蹴つまずきそうになりながら急いだ。
空が白み出したころ、崖上から遠目にもわかる大きな影が現れた。それは間髪も入れずに、勢いよく崖から飛び降りたかと思うと、ふんわりと翼を広げ、滑るように空を飛んだ。影は次第に大きくなって、ハッキリとその容姿を確かめることができた。緋色の鱗が朝の光に燃えていた。間違いなかった。モトトカゲは見惚れたかのように、立ち止まり、しばしコライドンが飛ぶ姿を眺めていた。
この晩は一睡もしなかったが、疲れなど、あの日緋色に映えるコライドンの背中を見て忘れてしまった。渾身の力をこめてモトトカゲは走り出した。
南5番エリアを過ぎると渓谷も終わり、再び見慣れたような草原地帯へ入った。全速力で駆けたおかげで、コライドンの背中が少しずつ大きくなってきた。少し離れたところにピッタリ着いたモトトカゲがホッとしたのも束の間だった。
コライドンが軽快に跳ね上がり、丘下の平原にふんわりと着地した。モトトカゲは急ブレーキし、高台の縁で止まった。コライドンはこちらを振り返りもせずにどんどん奥へと進んでいく。
恐る恐る下を覗き込んだ。ちょっとした段差から川に飛び込むのとはワケが違う高さだった。足が勝手にガタガタしてきた。けれど、ここでグズグズして一匹ぼっちになってしまうのもイヤだった。どっちもイヤだった。モトトカゲの瞳が赤く充血した。
さっきまですぐ目の前にいたコライドンが、もう草むらに隠れて見えなくなってしまいそうだ。いてもたってもいられなかった。呼吸を整え、その規則的なリズムに意識を集中させ、思い切ってそこから飛び降りた。着地は思ったよりも軽やかだった。脚にジンとくる痺れを堪えながらモトトカゲは三度走り出した。右手には大きな川が流れ、そこを挟んだ先には何やら巨大な街が見えた。
その街をコライドンは南下して、プラトタウンという小さな集落の外れの草地を駆け抜けていた。モトトカゲはその姿を認めると、何かにお願いするような気持ちで全力を振り絞った。坂を上り、高地を駆け抜け、途中谷間に開いた穴を勢いで飛び越した。再び、コライドンの背中が視界いっぱいに広がっていた。
そんなモトトカゲの努力を褒めるように、南パルデア海はキラキラと輝いているのだった。崖に沿って進みながら、モトトカゲはしばしその絶景に見惚れた。そんな自分を導くコライドンの姿はますます眩く見え、まるで夢か何かを見ているような気持ちだった。
遺跡が朽ちるままに打ち捨てられたところに行き着くと、コライドンはストップした。ちょうど日が沈んだところだった。辺りをキョロキョロと見回してから、その場で仰向けに寝転がって、そのうちすやすやと寝息を立て始める。モトトカゲは少し離れた草むらの中からその様子を眺めていた。集中の糸が切れてひとしきり欠伸をすると、二日分の眠気が一挙に押し寄せてきた。モトトカゲはその場でうずくまって目をつむった。あっという間に夢の中だった。夢の中ではどこまで心地よい風吹く穏やかな草原が広がり、木々には色とりどりのきのみがなっていて、いくら食べたって良いのだった。
✳︎
また日が昇った。走り出したコライドンを待ちかねていたとばかりに、モトトカゲは茂みを飛び出す。急勾配の岩場を慎重に下りてしばらく走ると、草原の緑色は徐々に深みを増していく。周囲からは風に乗って甘く爽やかな香りが漂ってきた。豊かに茂るオリーブの木々を掻い潜るようにして先へ進むコライドンを見失わないように、地べたでちょこまかと動き回るミニーブに気をつけながら、モトトカゲはとにかく目の前へ意識を集中させる。
セルクルタウンを尻目に大農園を過ぎれば、長い坂道にさしかかった。見るからに険しく、厳しそうな道のりだったが、目の前を走るコライドンにはどこ吹く風で、少しもペースを落とさずに力強い足取りで急勾配の道を駆け上がっていく。モトトカゲも負けじと追いかけるが、どれだけ気力を振り絞って走ってもコライドンとの距離はどんどん開いていってしまう。
峠にさしかかると、コライドンの姿が見えなくなった。モトトカゲは強い不安に襲われた。自分があそこまで辿り着くまでまだ時間がかかりそうだ、その間にもしどこかへ走り去ってしまったら——目を血走らせながら、泣き出したいような気持ちで、モトトカゲは坂道を駆け抜けた。ドキドキしすぎて胸の喉袋が破裂し、色んなものが吹き飛んでしまいそうだった。
坂道のてっぺんまでたどり着いた。道は二方向に分かれていた。コライドンの姿はどこにもなかった。モトトカゲはその場にへなへなと崩れ落ちそうになるのを我慢して、二又になっている舌をしゅるしゅると出した。涙ぐみながらも、長い舌を伸び縮みさせ、空気と絡め合うようにチロチロと動かしてみると、鋭敏な舌の感覚を通じて、道を外れた草原の辺りから微かなオリーブの香りがした。そこには、ホカホカと蒸れる雄の臭いも混じっていた。
なだらかな坂道を下り切った先で、コライドンがうたた寝をしているのを見つけ、モトトカゲは心底嬉しかった。仰向けに腕枕して、脚のように太く引き締まった上腕を無防備なほどに曝け出している。見つかってもいないのに、慌てて丈高い草むらに飛び込んで、恐る恐る顔だけを外へ覗かせた。その音で目を覚めましてしまったらしい。ぐっと背伸びをしてから、コライドンはまた走り出した。モトトカゲも急いで後を追った。
草原を突き進むといきなり洞窟があって、その洞窟を抜けてしばらく道なりに走ると、辺りの風景はいつのまにやら砂漠に変わった。
ちょうど砂嵐が吹き荒れているところだった。コツコツと鱗に当たって刺すようだったし、目にも砂粒が入り込んでうまく目を開けられない。前を走っているコライドンにとってもそれは同じことらしかった。凄まじい向かい風に、しばしその場で顔を俯けて砂塵をやり過ごしていた。モトトカゲはその隙にできる限り背後に近づいた。その大きなカラダを陰にすると、多少は砂を避けることができるのだった。
見上げれば、砂ごしに太陽がとても間近に見えた。カラダの内側からとろ火をかけられているようにじわじわと暑さが染みる。不意にコライドンが駆け出す。モトトカゲも追いかける。ドンファンの群れや、砂地を泳ぎ回るメグロコの集団が連なって列になって走る二匹を遠めから物珍しげに眺めていた。
やっとの思いでロースト砂漠を抜けるとすっかり日暮れだった。湖を臨む草原をコライドンは右手に走っていき、大きな洞穴へ入っていった。目を擦りながらモトトカゲも後をつけていくと、洞窟の中にはいくつも柱のようになった岩が並んで天井を支えている。さっき砂漠を歩き回っていたイシヘンジンたちの大きいのが寄り集まったような見た目だった。
モトトカゲはコライドンの姿を探すと、洞の奥まった辺りで、もう仰向けになって休んでいるようだった。モトトカゲは岩陰に潜んで、その寝息に耳を立てる。シュルシュルと出し入れする舌にコライドンのカラダから漂う何ともいえない臭いを感じて、なぜだかわからず目まいがした。
急に聞き慣れない足音がした。モトトカゲは恐る恐るその方向に視線を向けた。そいつの背中から生えた刃のようなヒレが欠けているのに思わず身震いをしてしまった。屈強な体格をしたガブリアスが、牙を剥き出しにしながらゆっくりとした足取りでコライドンに近づいてきたのだった。眠るコライドンのそばに近づいたガブリアスは襲いかかるでもなくじっとその全身を眺めていた。しばらくするとゆっくりと頭を下げ、コライドンのカラダを上から下までまじまじと観察し、カラダに密着しそうなほどに鼻先を近づけて頻りに臭いを嗅ぎ始めた。ひどく荒い深呼吸が洞穴に響きわたった。
ガブリアスが爪の腹でゆっくりとコライドンのカラダに触れ、掠れる音を立てながらがっちりと膨らんだ胸を撫で回す。空いた側の胸には口を寄せて、ねちょついた音を立てながらしゃぶりついた。コライドンの腕がガブリアスの胸に伸びた。モトトカゲは目を覆った。近くに水場はないのに、ぴちゃぴちゃという音がしていた。苦しそうでもあり、心地よさそうでもある呻きも地鳴りのように聞こえた。それから、何かがペチペチとぶつかり合って乾いた音が立った。
モトトカゲの顔は赤く染まっていた。手で顔を覆い、目もキツく閉じていた。低く、甘い唸り声が耳に届いた。思わず目蓋がぴくりと震え、ほんの少し視界が開けてしまう。そして指と指の微かな隙間から、二匹の姿をチラリと見た。コライドンの腹の上でガブリアスが全身を激しく上下に揺らしていた。モトトカゲの顔は上気し、そのままばたりと気絶してしまう。
✳︎
朝早くコライドンが列柱洞を駆け出すのを見て、モトトカゲも慌てて追いかけた。何の変哲もなかった。コライドンの様子にもおかしなところは少しもなかった。昨晩見たことは夢か何かだったのか、モトトカゲは頭がグチャグチャになっていた。けれど、ほんの一瞬目にしただけなのに、コライドンとガブリアスのお腹から生えてきたものの大きさが、イヤというほどよく思い出せるのだ。
穏やかな草原地帯を下るにつれ、大きな湖が眼下に広がってくる。湖畔からコライドンは迷うことなく水中に入り、水を掻いて向こう岸へ泳ぎ出した。モトトカゲは考えるよりも先に湖に飛び込んでいた。犬かきよりは多少器用な泳ぎ方で、モトトカゲは湖を遠泳した。周囲ではギャラドスたちが睨みを聞かせ、湖底の方からヘイラッシャが物珍しげにライドポケモンの泳ぎを見つめている。離れ小島からはトロピウスが不思議そうにモトトカゲを眺めているし、色とりどりのシャリタツも食えない表情でその泳ぎぶりを品評しているみたいだった。そんな見慣れぬポケモンたちに内心おどおどしながら、モトトカゲはただ、前を勢いよく泳ぐコライドンだけを見つめていた。
先に向こう岸についたコライドンが花びらのように広がった尾羽を振りながら歩くのが見えた。モトトカゲは気が急いた。けれど必死に脚を掻き回しても、なかなか前に進まないのがもどかしい。ミガルーサが威嚇してくる。ハクリューがそばにまとわりついてくる。モトトカゲは平静を保つことに気を集中させた。
日が傾き出したころに、やっと陸地まで泳ぎ切ることができた。ほんの少し岸辺で横になって一休みをし、コライドンが歩いて行った方へ走ったが、岩陰から飛んできたカイリューにぶつかりそうになった。身をかわそうとしたら、思い切りその場に倒れ込んでしまう。途端に、集中の糸がぷつりと切れた。カラダの打ちどころも悪かったのか、立ち上がることができなくなった。力がうまく入れられない。
コライドンのことを思った。こんな情けない自分を置いてどんどん先へ行ってしまう後ろ姿を思い浮かべ、それがどんどん頭の中で小さくなっているの対して、どうすることもできない自分に悲しくなり、叫び出したかった。
何かが側に近づく気配がした。目を開き、上を見上げたところでモトトカゲはまた気絶してしまいそうだった。ずっと追いかけてきたコライドンが自分のことを黙って見つめているのだ。
「大丈夫か?」
コライドンが言った。
「疲れてるのか。だったら、これでも食っとけ……な?」
そう言って傍らにオボンの実を置いた。なんとか腕を伸ばしてオボンを口にすると、不思議なほど力が漲ってきた。モトトカゲはすっくと二足で立ち上がり、コライドンと向かい合った。言葉が出なかった。
「大丈夫みてえだな」
よしよし。コライドンの手がモトトカゲの頭に優しく触れた。それから、コライドンは背中を向け、別れの言葉も言わずに走り去った。
モトトカゲはしばらくその場で呆然としていたが、ハッとして再び走り始めた。頭にはコライドンの温もりが残っていた。古びた木橋を渡り、オコゲ林道に入ると、草葉の色が燃えるような紅葉色に変わった。ノノクラゲたちが剽軽なフォームでモトトカゲに並んで走った。その様子を木陰からリククラゲが訝しそうな視線を向けている。そして、先を行くコライドンの紅色の体色が何にも増して鮮やかだった。
オコゲ林道を抜けると切り立った高い崖道があり、そこからはあれだけ苦労して泳いだオージャの湖の全体が見渡せるのだった。胸がすく景色だった。大滝の間近に走った粗末な橋を思い切って駆け抜け、途中道のなくなったところは岩壁をつたって渡った。食らいつくようにコライドンに付いていった。
やがて湖を離れ、長い坂道を伝っていくとナッペの雪山にさしかかる。走っている最中にも、コライドンは時折こちらを振り返った。その視線だけでモトトカゲには勇気が湧き出た。あまりの寒さにカラダの内側がかじかんでいたけれど、雪煙が火のように灯ったところに次々とボチたちが現れたとしても、ちっとも驚かなかった。モトトカゲは走り、雪山を上り、吹雪を掻い潜り、山中の町を軽やかに駆け抜けた。町を抜けたら、あとは一気に山を下った。コライドンはそれこそ飛ぶように走った。モトトカゲも負けじと後に続いた。勢い余って前につんのめりそうになるほどに全力で走った。白い息がブロロロームの蒸気のように口から噴き出した。
山を下った遥か向こうに、草原地帯が開けてきた。コライドンが振り返り、顎で行く先を示す素振りをした。おい! お前は付いて来れるか? そう優しく挑発しているみたいだった。モトトカゲは発奮し、無我夢中になってコライドンの後ろを追いかけ続けた。
どこをどう走ったのかなんてわかりようがなかった。夢の中を走っているのとさほど変わりがないくらいだった。ただ、目の前にはコライドンの姿があるのだった。それだけを見ていれば良かった。東1番エリアの草原しか知らなかったモトトカゲは、コライドンに導かれ、どこまでも走り続けることができた——
✳︎
モトトカゲは目を開ける。いつの間にか眠ってしまっていたらしい。辺りを見回せば、もう雪山ではなかった。瑞々しい草木がそよそよと風に揺れる水辺にモトトカゲはいた。小さな湖で、小島には古びた石塔が建っている。
低い声で欠伸をしながらモトトカゲは水面を目をやり、久々に自分の姿を見た。コライドンほどではないが、胸や脇の腹だとか、あちこちの肉がキュッと引き締まったように思えた。
近くの大木のそばで、コライドンがいつもの仰向けになった姿勢で眠っているのを見つけた。腕を枕にして、大っぴらに見せた腋の香りが舌に染み込んで、ぽうっとさせる。モトトカゲは音を立てないように、こっそりと近づいた。列柱洞の夜のガブリアスがしたように、モトトカゲはコライドンを見下ろした。間近に見ると、その力強い肉付きがよくわかった。紅白の鱗が混じり合ったカラダに刺青のように刻まれた模様にうっとりし、自分の何も刻まれていないドブのような緑色のカラダが不釣り合いに思えて恥ずかしかった。その鱗ごしにくっきりと浮かび上がった整った筋肉の形に、モトトカゲは思わず息を飲むのだった。
どうしてここまでコライドンを追いかけてきたのか、追いかけ続けることができたのか、モトトカゲはやっと言葉にできた、と思った。ほとんど衝動のような恋。どこまでもこのコライドンに付いていき、できるものならずっとそうしていたい、共にありたい。曖昧だった感情が少しずつ形をとって、デカヌチャンがアーマーガアの翼を叩き合わせて巨大なハンマーを形作るように、明瞭な形と意味を持った。コライドンに導かれてパルデアを走り続けるうち、モトトカゲは心身ともに成長したという自覚が湧いていた。
もっとよくその姿を見たい。もっと味わってみたい。低く腰を屈めた瞬間、コライドンの腕がモトトカゲをグッと引き寄せた。互いの喉袋がぷにぷにと密着した。モトトカゲは目を丸くした。
「よう」
コライドンが声をかけた。
「よくここまで付いてこれたな」
大きくて立派な手がモトトカゲの背中を撫でる。モトトカゲはコライドンの自信に満ちた表情に釘付けになり、おかしくなりそうだった。
「なんだよ。俺のこと好きだから付いてきたんだろ?」
モトトカゲはただコクリと頷いていた。うし、コライドンが自分の腿の肉を揉みながら、妖しげな笑みを浮かべる。
「じゃあ、まずは頑張ったご褒美をくれてやる。欲しいだろ? な?……」
「……うん」
モトトカゲはやっとのことで答えることができた。コライドンの雄の臭いが舌だけでなく、今や口と鼻の中へ入り込み、肺だけでなく胃臓にまで流れていくかのようだった。
「はいはい。いいところですが、ちょっと待ってください」
不意打ちの言葉に、モトトカゲはギョッとした。
「私と縁続きであるモノ、コライドン……この私を置いてけぼりにされては、イヤです」
朗読するかのように、その異様なものは言った。後ろを振り返ったモトトカゲには何が何だかわからなかった。真っ先に目を引いたのは、燐色に灯る生気のない瞳だった。瞬きをするときも瞼は閉じず、そこが真っ暗になるのだった。
「変な顔をしないでくださいよ、特にそこのモトトカゲ」
厳格な教師のようにピシャリと注意をする顔立ちは、色あいは違っていても、モトトカゲである自分の顔に恐ろしいほど似ているのだった。
「まったく。私はあなたのずっと未来の姿であり、故に名をミライドンと言うのですよ」
「変なタイミングで、邪魔しやがって……」
コライドンは罰が悪そうだった。ミライドンはしてやったりとばかりに胸を張る。透けた胸から、何かがぶくぶくと泡を立てていた。それに合わせてこめかみの辺りから盛んに弾ける電撃がV字型のツノを描いた。
「あなたのものは私のものだし、私のものはあなたのものです。それに、せっかくこんなに可愛いイワンコがいるんですから、ここは私に一つ任せてくださいよ」
「……お前の好みってだけだろうが」
コライドンは舌打ちをした。モトトカゲは二匹の間でオドオドするしかなかった。何の話をしているのかさっぱりだった。
「とにかく、まずは」
ミライドンの手がモトトカゲの両脚を掴んだ。避ける間もなく、ミライドンの前に引きずられ、四つん這いの姿勢にさせられていた。頭はなおも真っ白だった。
「このイワンコをたっぷりと可愛がってやらないといけません」
機械的に呟きながら、ミライドンは爪をモトトカゲの後ろに躊躇なく挿し込んだ。
「あっ!」
モトトカゲが叫んだのも束の間だった。挿入り込んだミライドンの爪が、お尻の穴からどんどん自分の中を侵していく。
「あっ……イヤ、や、やめっ」
ミライドンは光らせた尻尾を大きくしならせて、モトトカゲのお尻を打った。
「あきゃっ!」
「ほら、暴れると痛いだけですから。ゆっくりと力を抜いてくださいよ」
爪はますますモトトカゲの奥に挿さった。抗おうとするとお尻がキュッと締まり、そのせいで痛みが走る。全身が燃え上がりそうだった。それに、ミライドンの尾は容赦なくお尻や背中を叩いてきた。
「ね、ねえ、た、たた助けでっ!」
コライドンに縋ろうと咄嗟にカラダを伸ばすモトトカゲのことを、すかさずミライドンは引き戻し、モトトカゲの薄緑色をしたお尻を数発続けて尾で打った。
「ダメです。大人しくしてくれないと……まったく困ったイワンコですね」
「やだっ! 痛っ! いぢゃっ!……なんで! なんでっ!……なんでこんな」
「ほら、こうしたらどうです? 私としても爪を『抽送』させるのは面倒ですし」
「ああ゛っ……ふひっ……ふひい゛っ! ぃぎいぃっ!」
ミライドンの爪が勝手にブルブルと電動し出した。モトトカゲの直腸が激しくほじくり返されるかのようだった。
「どうです? もっと強めますよ? どうです? どうでしょうか?……」
「ぎゃっ! アギャっ! 無理……ういいっ! やめ……あええええ゛っ!」
「おい、初心なのにいきなりヤリすぎだろうが」
コライドンは呆れたように言った。
「それに、これは俺が手塩にかけて……」
「コライドン」
ミライドンはコライドンをピシャリと制すと、空いた手で彫琢された胸の立体感を確かめるように撫で回した。
「たくさんの雄にそのカラダを売る姿も悪くはないですが……まあ私としても目の保養にはなるのは認めますけど。ガブリアスですとかカイリューと交わった時でも、あなたの肉体は見事に栄えます。でも、あなたとは私が一番ということをどうかお忘れなく」
「めんどくせえヤツ」
「愛してるってことじゃないですか……キスしましょう、コライドン。そして、今日もいい『セックス』をしましょうね」
「ふん……」
ミライドンはコライドンに口付けた。それから舌を絡め、唾液を絡めた。その間にも、モトトカゲに挿れられた爪は、二匹の興奮が高まるにつれて激しく電動していた。モトトカゲのお尻の奥で何かが疼いた。
「あっ、ダメ! 無理っ! なんか出るっ! 出るぅ!……あああああ! イグううううッ! イクイクイクイクイクイクゥ……イクぅぅぅぅうううううう!」
モトトカゲは野太い声で叫びながら、二匹の間でピクピクと腰を震わせた。何も、何一つとして意味がわからなかった。
後書き
……ちょっと待ってね