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綿草行路 の履歴(No.2)


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綿草行路
作:からとり



 絵に描いたようなぽかぽか陽気にそよ風。
 この暖かな風に乗って――俺はこの世界を旅している。


 風に乗って世界を旅して、綿胞子をあちこちにばら撒き子孫を増やす。


 これが俺たち、ワタッコ一族に課せられた宿命――と言いたいところだが、それはもはや過去の遺物だ。何が起こるか分からない過酷な旅に出なくたって、気の合うパートナーと愛を育んでいれば自然とタマゴが生まれ、子孫繁栄に繋がっていく。

 元気でね、お兄ちゃん。
 旅に出る俺を見送ってくれた妹の顔を思い出す。俺がいうのも何だが、妹は中々端整な顔立ちをしていて、その綿胞子も美しいものがあった。周囲の雄たちに言い寄られることも多かったが、最終的には妹の幼馴染であったキノガッサと縁を結び、娘も生まれ家族で幸せな日々を過ごしている。今じゃあこれが当たり前の生き方で、俺のような世界を回る旅に出るワタッコは珍しいものであった。
 妹たちの生き方を、否定するつもりはない。そもそも仔を立派に育て上げるのは、とてもとても大変なことだ。俺も幼いころは全然気にしていなかったが、この歳になってようやく親の偉大さを実感していた。妹も、キノガッサも、娘も――みんな、とにかくずっと幸せでいて欲しい。それが、俺の願いだ。


 

 旅を始めて、数日が経った。

 季節風の流れに苦戦していたのも、最初の数時間ほど。この頃には意識せずとも綿胞子を使って、風に乗って先へ先へと進むことが出来た。風と一体化しているようなこの感覚は、少し不思議で――心地よい。俺が風になって、この広大な世界を吹きわたっているようだ。
 この数日だけでも、沢山の発見があった。雲や飛行するヒノヤコマがスッと映るくらいに透き通った美しい湖に、とてつもない激流で轟音を立てる大滝を越えようと挑み続けるコイキングの群れ。噂では聞いていたが、やはり直接目のあたりにすると想像をはるかに超えていて。生み出された自然の壮大さと、共に生きるポケモンたちの鼓動に俺の胸の高鳴りは止まらなかった。
 俺は幼いころから目立った存在ではなかったが、好奇心だけは誰にも負けなかった。周りが身を固めていても、俺はこの広い世界への憧れを抱き続けていた。長い時を経て身体の奥底に眠っていたはずのワタッコとしての本能は、俺には堪らないものだったのだろう。



 
 旅を始めて、数週間が経った。

 穏やかな海岸の近くで束の間の休息をとっていた俺の元に突然、その海燕は現れた。海燕は幼そうなパチクリとした目で、俺の綿胞子に期待の眼差しを向けていた。よくよく見ると、海燕の嘴からは涎が垂れていて。何をしでかすか察した俺は海燕を止めようとしたが、遅かった。海燕はその嘴を使って、俺の綿胞子にかぶりついてきた。最初はご満悦の笑みを浮かべていた海燕だったが、すぐに激しく咳き込み苦悶し続けた。毒、痺れなどの症状を引き起こすことのできる綿胞子を食べたのだから、苦しむのは当然であろう。少し考えれば分かることなのに、この海燕は馬鹿なのか。それとも、無知なのか。
 一方的に食べられたとはいえ俺の綿胞子が原因である以上、俺は海燕を見捨てることは出来なかった。急いでいる旅でもない。俺は辺りに実っていた木の実を食べさせたり、眠りの胞子を使ったりして、海燕の看病に励んだ。

 は!? ここはどこ? ボクは誰……? あ、ボク。カイデン!
 予想以上に、この海燕の回復は早かった。その第一声を聞いて、何か後遺症でも残ってしまったかとも思ったが、どうやらこれが海燕の素らしい。ともあれ、元気そうであるのは何よりだ。しばらくして状況を理解した海燕は、おじさんありがとう! と快活そうな声で俺にお礼を言った。おじさんという言葉に、俺は何とも言えない複雑な感情を抱いた。いつまでも若々しくありたいと思っていたが、生きとし生けるものは平等に歳を重ねる。幼い海燕の正直な物言いが、俺の客観的な姿なのだろう。

 おじさんはなにをしているの?
 無邪気な眼差しで問いかける海燕に、この世界を旅している。と俺は簡潔に答えた。

 面白そう! ボクも連れてってよ!
 悩む仕草もせずに即答した海燕に、俺は想わすはあ!? と、突拍子もない声を上げてしまった。想定外過ぎて、不意にこおりのつぶてをぶつけられたような錯覚に陥る。既に旅をすることが決まったかのように胸を張って翼を広げる海燕に、俺は完全にペースを狂わされていた。




 俺は海燕と共に、世界を旅することにした。

 旅は命懸けだ。楽しいことだけじゃない。幼いお前を守ることなど出来ない――年長者として口酸っぱく海燕に語りかけたが、海燕は一度も怯むことなく同行を訴えかけた。
 幼い海燕は既に、一匹になっていた。父の記憶はない。物心ついた頃からは、母と二匹で暮らしていた。だが、数週間前。丁度、俺が旅を始めた頃に海燕の母は突然失踪していた。仔に与えるエサを求めて、不慮の事故にあったのか。それとも世話をし切れないとばかりに蒸発したのか。真相はわからないが、数週間経っても帰ってこないのであれば、この海燕と母が再開することはもうないのだろうと、俺は悟った。
 最低限の知恵はあるのかも知れないが、俺の綿胞子をパクっとするような海燕だ。まだまだ未熟で、このまま一匹で立派に成長できるとも思えなかった。それに、海燕には未知の世界を知りたいと思う探求心があった。幼いころの俺と、重なったところもあったのだろう。
 これも……この旅で生まれた、一つの縁なのかもしれない。
 俺は最後に、海燕に旅へ出る覚悟を説いた。海燕は、至って真剣な面持ちで強く頷いた。こうして幼い海燕は、俺の旅の同行者となった。

 
 

 海燕は、風を知らなかった。
 
 わあ、すごーい! 世界って広いんだね!
 海燕との旅が始まって数日ほどが経つが、海燕は飛行しながら視界に映る未知の風景に慣れることはなく、常に目をキラキラさせて歓喜の声を上げる。そして思うがまま、自らの向かいたい方向へと羽ばたこうとするが、突如吹き荒れた逆風に吹き飛ばされる。

 逆風にぶつかるな。風を全身に感じて、風の流れを見極めるんだ。
 俺は飛ばされた海燕を受け止めつつ、世界に吹き荒れる風について指導していった。当然ながら飛ぶことに特化した生体の燕だ。幼くても、純粋な飛行能力であれば俺なんかより圧倒的に高い。ただ、まだこの海燕は様々な顔を覗かせる世界の風を、理解していなかった。季節、気候、地形、環境……。毎日毎日、状況に応じて風は大きく姿を変える。旅を続けるのであれば、意識することなく風に順応していかなければならない。
 何度も何度も海燕は風に吹き飛ばされた。要領は正直、あまり良くない。それでも海燕には、へこたれない根性があった。真摯に俺の教えに向き合う海燕の姿を見て、俺の指導にもより熱が入るようになっていった。



 
 海燕は、世間知らずだった。

 旅を通じて風を知っていき、海燕の飛行にも板がついてきた頃。
 旅の休息がてら、俺と海燕はある森林の枝の上で羽を休めていた。次に向かう方角や風の動きを話しながら飛び立つ準備をしていると、枝の下から震え上がるような咆哮と轟音が響き渡った。驚いた俺は探るように、地上の様子を覗き込んだ。そこには、怒り狂ったガブリアスが一匹で何やら暴れ回っていた。
 近年では友好的に日々を過ごすポケモンが増えてはいるが、世界はまだまだ広い。こういった荒くれ者も勿論一定数存在する。それにしてもこんな緑の多い地帯にガブリアスがいるのも珍しいが、どこか遠くから飛んできた個体なのかも知れない。良い住処が見つからないのか、あるいは愛した者からフラれたのか。理由は定かではないが、鬱憤を晴らすために見境なく暴れ狂っているようだ。何はともあれ、触らぬアルセウスに祟りなしだ。気づかれぬようにサッと飛び去ろうとしたところで、俺は海燕の姿がいないことにようやく気づいた。

 おじちゃん。そんなに怒ってどうかしたの?
 俺が気づいた頃には手遅れだった。海燕は暴れるガブリアスの背中に近づくと、あろうことかいつもの調子で話しかけていた。ああん!? どすの聞いた声で振り返り、海燕に向けて睨みを利かせるガブリアス。無知ゆえに、変わらぬ無邪気な笑みを浮かべる海燕の姿が気に食わなかったのだろう。ガブリアスはそのまま切れ味抜群の右腕の鰭を振り上げ、海燕に向かって振り下ろした。

 俺の身体は勝手に反応していた。海燕を、守るために。
 ギリギリのタイミングで、俺はガブリアスに突進をぶつける。不意の一撃に倒れこむガブリアスに間髪入れず、俺は眠りの綿胞子を繰り出す。至近距離からの綿胞子をがっつり吸い込んだガブリアスはそのまま倒れるように眠りについた。俺は固まっている様子の海燕を大声で我に返らせ、共に上空へと飛び出していった。



 
 海燕は、とても純粋だった。

 父さん、ごめんなさい。
 あのガブリアスから逃げ出し、ようやく一息ついた頃。海燕は目に涙を浮かべて俺に謝ってきた。いつの間にか俺の呼び名は、おじさんから父さんへと変わっていた。
 ガブリアスに突進した際、ヤツの鰭が引っかかったようで俺は負傷していた。と言っても、時が経てば自然と治癒するような軽傷だ。それでも海燕は、父さんが死んだら嫌だ。と言って木の実を集めてきては、俺に渡してくるようになった。風も知らず、世間も知らなかった海燕はこの旅で様々な経験をすることで、変わっていった。だが、その純粋さは旅を始めた頃から変わることなく、そして俺にどんどん懐くようになっていった。そんな海燕の姿に俺は、かつての妹と娘の親子のやり取りを、今の自分に重ねるように思い出していた。



 
 海燕が、俺の話を聞きたいと言い出した。

 まだまだ未熟なところもあるが、旅を通じて海燕は確実に成長していた。今まで隠していたわけでもないが、一緒に旅をしているのだから話をしても良いだろう。俺は海燕に、俺自身の生い立ちや家族の話。そして旅に出た理由やワタッコの旅の目的について話をした。海燕は至って真剣に、時には笑ったり驚いたりもして俺の話に耳を傾けていた。

 ふうん、散らばった綿胞子が父さんの仔になるんだ。ということは、ボクの弟や妹が出来るんだね!
 そう言って、無邪気に喜ぶ海燕の素直さは成長しても変わらない。そんな様子を見て、俺の頬も自然と緩んでいた。もう一つ聞いていい? 海燕の言葉に、俺は頷く。

 父さんの旅は、いつ終わるの?
 俺は少しの間押し黙ったが、一息ついて空を見上げながら答えた。

 俺が、満足するまでだ。
 何それ、分からないよー。と不服そうに頬を膨らませる海燕。俺のその言葉に、嘘はなかった。

 


 海燕が、俺の心配をし始めた。

 ここ最近、俺の自慢である綿胞子の量が明らかに減っていた。それに比例するように、俺の飛行テクニックも鈍ってきていた。風の動きを読めても綿胞子のコントロールが間に合わず、海燕に助けてもらうことも出始めた。

 父さん大丈夫? しばらく旅はやめてこの地で療養して、綿胞子が戻るまでゆっくり二匹で過ごさない?
 海燕は、俺を本気で気遣ってくれた。その優しさが伝わるからこそ、俺は辛かった。

 何でもない。
 俺はそれだけを海燕に伝えて、引き続き旅を続けた。海燕は不安そうな表情を見せたが、ずっと一緒に旅を続けているからこそ、俺の旅への想いが変わらないことを理解していたようで、渋々従ってくれた。



 ……どうやら俺のワタッコとしての一生も、そろそろ終わりが見えてきたようだ。
 次に向かうのは、グレイトマウンテン。山頂からの夕焼け空が極上の絶景であると呼ばれる場所だ。
 
 この目的地が、俺の生涯の終着点になることを、俺は悟っていた。


 

 海燕と、喧嘩をした。

 俺の一生の終着点となるはずの、グレイトマウンテンの目の前で休息を取っていた時。これが最後の休息になるなと、ぼんやりと考えていた俺に海燕は、いつになく重々しい口調で告げた。

 父さん。もう旅を辞めよう。こんな状態で山を登るなんて……このままじゃ本当に死んじゃうよ!
 今度ばかりは絶対に譲れないという頑なな表情を見せた海燕に、俺は諦めたように遠くを眺めていた。旅をするワタッコの運命について、いつか海燕に伝えないとは思っていた。それでも、その事実だけはこれまで伝えることが出来なかった。後延ばしにすることが、結果として大きな傷を負わせることになることも理解していたはずなのに。

 旅に出ると覚悟を決めたワタッコは、綿胞子が尽きるまで旅を辞めることはない。
 そして綿胞子が尽きた時、それは旅の終わりでもあり――ワタッコの一生の終わりでもある。
 淡々とした口調で俺は海燕に真実を語った。海燕の目はいつまでも見開いていた。本当の父親のように慕ってくれた海燕の取り乱す様子を見るのは、辛かった。

 何言ってるんだよ!! 今からでも遅くないって。この場所で父さんとボク、二匹で暮らそうよ! そしたら父さんも元気になって、いつまでも一緒に暮らせる、だろ……。
 海燕は怒鳴るように感情を爆発させて、そして最後にはボロボロと涙をこぼしていた。ああ、海燕のこんな姿は見たくなかった。これも全て、ここまで黙っていた俺が悪いのだ。それでも俺は、海燕の言葉に首を振った。俺の綿胞子の状態は、俺自身が一番よくわかっている。もう何をしようが、綿胞子が蘇ることなどはなく、俺は数日後には消え去ってしまうのだと。だからこそ最後まで旅を続けて、グレイトマウンテンの山頂から眺める夕焼けを見ながら、俺の一生を終えたい。小さな、それでも確たる決意を含んだ声で俺は海燕にそう伝えた。

 父さんの死ぬ姿を、ただ黙って見てろってこと!? 父さんが死ぬと分かって、のこのこついてく息子の気持ちが、父さんにはわかるの!?
 もう知らない! 海燕はその勢いのまま、俺の元を離れるように羽ばたいていった。立派になった海燕には、俺のことなど忘れて幸せになって欲しい。それが、俺の願いだった。



 
 海燕と別れ、俺は俺の終着点へと向かった。

 自慢の綿胞子は微かに残っているだけだ。今の俺は、風に乗るというよりも風の吹く方へそのまま引っ張られているようだった。それでも運の良いことに今の風は、山の斜面を登るように吹き荒れていた。これが最後の旅だ。俺は残された気力を振り絞って、グレイトマウンテンを登っていく。この調子なら、何とか山頂まで辿り着ける。そう思った。

 
 大空からポタ、ポタと雨粒が落ちてくる。
 瞬く間に、それは豪雨へと姿を変えた。降り注ぐ強烈な刺激と急激に冷える空気に、俺はなすすべもなく落下していく。
 ああ、最後の最後に自然の驚異に飲まれて俺の一生は終わるのか。だがそれも、旅を続けてずっと付き合ってきた、大自然との縁なのだろう。俺はこの運命を、静かに受け入れたつもりだった。


 
 消えゆく意識の中、俺は見た。
 ――まばゆい光に包まれる海燕の姿を。



 
 重い重い瞼を、力を振り絞り開いた。
 まだ意識があった。豪雨など、あったとは思えないくらいに快晴の青空の下、俺は山頂を目指して飛行していたのだ。勿論今の俺に、空を飛ぶような力は残っていない。

 父さん! 目覚めたんだね……本当によかった!
 俺の下から、聞きなれた声が響く。少しだけ、声が変わったかもしれない。それでも俺は、その声の主を忘れるわけがない。間違いない、海燕だ。
 俺は海燕の背中に乗せられ、山を登っていた。海燕は、最後に会った時から見違えるように姿形を変えていた。もうボクは海燕じゃなくて、軍艦鳥だよ。そう言って立派な軍艦鳥へと進化を遂げた海燕は、俺に語りかけた。


 
 ごめん。ずっと一緒に旅を続けていて、父さんの覚悟もわかっていたはずなのに。
 どうしても、父さんと永遠に会えなくなることを信じたくなくて……ボクは覚悟が、なかったんだ。

 でもボクは父さんの仔だよ。後をつけていたら、やっぱり父さんはボロボロになっても最後まで、旅を続けていた。
 そんな父さんの最後の終着点には……息子であるボクが、導いてあげるから。


 
 どんどん近づいてくるグレイトマウンテンの山頂。
 軍艦鳥の背中は、とてもとても大きくなっていた。俺の想像以上にこの軍艦鳥――いや、息子は、立派に育ったのだ。






 
 俺と息子はグレイトマウンテンの山頂に腰を降ろし、大きな夕陽を眺めていた。

 その標高から見下ろせる世界は、俺がこれまで旅を続けてきた壮大な大自然そのもの。それが鮮やかな夕焼け色に染まっている様子を見て、胸がこみ上げる思いだった。

 最後に父さんとこんな絶景を見れてよかったよ。本当に、父さんの旅の集大成って感じだね。
 息子はそう言って、寂しそうに笑った。

 俺の綿胞子は、完全に失われていた。
 俺の意識は、少しずつ少しずつ薄れていく。

 ありがとな。最後まで旅を続けて、最高の景色を眺めながら一生を終えることが出来た。
 旅をするワタッコとして、これほど幸せなことはない。
 俺は掠れたような声で、息子に最後の言葉を紡いでいった。
 今話したことに嘘偽りはない。心の底から、俺は俺の生涯に満足をしていた。
 それでも、一つだけ。新たに芽生えてしまった気持ちも、あった。

 ……こんなに立派になったお前と別れるのは、寂しいな。
 息子に聞こえるか聞こえないかの声で、俺は呟いた。タイカイデンへと進化した息子の晴れ姿を、もっと見たかった。もう少し一緒に、旅を続けたかった。日々の幸せを、噛みしめて過ごしたかった。
 それでも俺が息子と出会えたのは、ワタッコとしての旅から生まれた縁からだ。だからそういった想いは生まれても、最後まで旅を続けたことへの後悔は、一切なかった。
 

 
 息子は大きくなったその両翼で、俺のことをギュッと抱きしめていた。
 優しく、温かなその感触に包まれながら。俺の意識は天へと昇っていく。

 
 
 俺の生涯最後に願ったのは――息子の、これからの幸せであった。











 父さんへ

 向こうでも元気に過ごしていますか?
 父さんのことだから、天に行ってもあちこち旅をしているのかもね。

 ボクは今、よい縁に恵まれて愛する番と共に暮らしています。
 タマゴも見つかって、もうそろそろボクも父親になる予定なんだ。
 責任は重大だと思うけど、みんなで協力してよい家庭を築けるように頑張るよ。

 それと……たまに旅をしているワタッコを見かけるんだ。
 父さんが残した綿胞子から生まれたなら、ボクの弟と妹になるよね。
 だから積極的に声を掛けたりするし、旅の手助けできることはしているんだ。余計なお節介には、ならない程度にね。
 でもみんな頑張っているから、幸せになって欲しいよ。


 最後に、これだけは伝えたいんだ。
 風の便りで、父さんの元まで届けばいいんだけど。


 
 父さんと出会えた縁で、身寄りのないボクはここまでの幸せを掴むことが出来たんだ。
 父さん。本当にありがとう。ずっとずっと――忘れないよ。







【合計枚数】 28.9枚(20字×20行)
【総文字数】 7671文字
【行数】 577行
【台詞:地の文】 0:100(%)|0:7648(字)
【漢字の割合】 全体の約28(%)|2156(字)



○あとがき

 まずは今回遅刻をしてしまい、すみませんでした。
 投稿まで色々と悩み抜きましたが、何とか思い描いていた物語をこうしてカタチにすることが出来ました。

 今回の作品の構想はスカーレットをプレイ中、ふと見たワタッコのずかん説明がきっかけでした。

 "季節風に 乗り 旅をする。 綿胞子が 尽きるとき 旅と ワタッコの 一生は 終わる。"

 SVで初めて追加された"一生が終わる"の文面ですが、
 その儚さにロマンを感じ、いつかワタッコの旅の一生を物語にしたいな、と考えていました。
 そんな中大会のお題が「えん」だったため、旅と言えば"縁"。そう思い、今回ワタッコのお話を書き始めました。

 生まれた"縁"の相手に関しては、旅によって出会うということで生態が違う種族が良いというのと、
 次世代に繋がるような形にしたかったため、カイデンをチョイスしました。
 "燕"ということでお題にも合っているのと、純粋に可愛いということもあります。

 減点されてしまいましたが、5票分もいただくことが出来たことはすごく嬉しいです!
 読んでいただいた皆様、投票いただいた皆様。ありがとうございました!!




〇コメント返信

 ・文句なしのいい話。遅刻が惜しい (2023/06/10(土) 17:13) さん

   遅刻に関しましては、いただいた票を減らしてしまう形になり申し訳ありませんでした。
   そんな中でも……良い話と票を投じていただけたのが、すごく励みになります。
 

 ・心温まるお話でした (2023/06/10(土) 22:16) さん

   ワタッコの一生を通じて何かを感じていただけたらいいなと思っていたので、
   そう思っていただけて良かったです!
 
 
 ・よかったです (2023/06/10(土) 22:34) さん

   貴重な1票を投じていただき、嬉しいです。



 ・好きです。それしか言えませんが本当に好きです。 (2023/06/10(土) 23:31) さん

   ヤッター! そう言っていただけると、作者冥利に尽きます……。


 ・このお話を読んでからワタッコの図鑑を読み返して、その生態を初めて知りました。
  今までは只ふわふわ飛んでる〜としか思ってなかったのですが、悲しい結末が待ってるのですね...。
  ポケモン世界の解像度を高めてくれた作品ということで1票入れます。
  投稿お疲れ様でした! (2023/06/10(土) 23:38) さん
   
   私もワタッコのずかんを見て、哀しいなと思いつつもその儚さと生き様にエモさを感じました。
   ポケモンずかんって、眺めているだけでも楽しいですし妄想が広がるんですよね……。
   なので、妄想を広げたこの作品によってポケモン世界の解像度を高めていただけたのは、凄く嬉しいです。



 最後になりますが、本当にありがとうございました!!
 



 感想など、何かありましたらお気軽にどうぞ。

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