ポケモン小説wiki
私と俺の狭間 の履歴(No.2)


大会は終了しました。このプラグインは外してくださって構いません。
ご参加ありがとうございました。

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 ――彼との日々は楽しかった。





「っしゃあやっちまえクロー!」
「これでキメる!」
 ドラゴンクローで渾身の一閃。相手が力尽きて倒れた途端に、観衆から大歓声が沸き起こる。私達はまた一つ優勝記録を重ねた。
「今日もキレッキレだったぜ!」
「ファングがいつも的確なアシストしてくれるお陰さ!」
 タッグを組むオスのガブリアス、ファングと手の長い爪でハイタッチを交わした。
 私はクローと言う源氏名でファングと共にダブルバトルに興じ、この地域一帯では敵なしのガブリアスコンビとして名を馳せていた。私が的確に止めを刺せるのも、彼のペースの崩し方が上手いお陰。プライベートでも腹を割って話す仲であり、絶対の信頼を寄せていた。そんな彼に異性としての情を強く抱いていくのは必然だった。


 そしてついに、私は覚悟を決めてファングに想いを明かした。
「私の(つがい)になってください」
 彼となら旧知の仲だし、番になっても楽しい日々を送れる。そう信じていたのに、この告白をきっかけに狂わされる事になろうとは、当時は想像だにしていなかった――


 彼は目を丸くした。途端に困惑の色が滲み出す。
「……悪い。オマエをメスとして見れねぇ」
「え、どうして!? 私たち絶対相性いいと思うんだけど」
「『仲間』としてはな。でもオマエ、オレより雄々しいトコあんじゃん? 果敢に切り込んでくトコなんかオス顔負けだし、そんなんで今更メスとして見ろと? ムリムリ」
 せせら笑いを交えた彼の一言一句が、つららばりの如く心に突き刺さった。体が震え、牙を鳴らし、溢れる涙。
「そんなこと思ってたのかよ……あんた本当に最低な野郎だよ! もういい、タッグ解消してやる! あんたの顔も見たくない!!!」
「んだよいきなり!? もう勝手にしやがれ!!」
 彼は引き止めなかった。走って棲み処に戻り、地団駄を踏んで咽び泣いた。これでもメスとして生きてきたつもりだった。なのに最も信頼していたオスからその事を全否定された傷は、余りに深過ぎた。
 こうなったら……! 私の中で、ある覚悟が芽生えた。


 その足で、日頃世話になっている医者のストライクを訪れた。私の言葉に、彼は一驚を隠せずにいた。
「ほ、本当にいいんだな?」
「うん、お願い」
 真剣な眼差しで、頷いた。板張りの処置室で横になる。途端に走る緊張。
「ぐうっ!」
 突如襲われる激痛にぐっと口を噛み締めて堪える。牙が食い込んで血が出るのも気にする余地はない。急激に滲む脂汗。一分一秒が途轍もない長さに感じた。
「終わったよ」
 しつこく残る痛みに顔を顰めながら起き上がる。背鰭には薬草が沢山貼り付けられ、机の上には赤く汚れた灰色の欠片が乗っていた。鎌とそれを拭く葉にも赤が目立つ。
「これでよかったかい?」
「ああ、ありがとう……」
 脂汗に濡れた笑顔を、ストライクに向けた。


 数日安静にして、背鰭から役目を終えた薬草が剥がれ落ちる。露になった姿を目にして、俺は大きく頷いた。これからはオスとして生きていくんだ。これまでの功績も、クローという名も捨てて、新たな「俺」になってやる。

 決意を新たに慣れ親しんだ棲み処を離れ、新天地へと歩み出した。



私と俺の狭間(ジレンマ)






 ――あれから数年が経った。





 遠く離れた所で、俺は持ち前の高い戦闘力を武器に名を馳せていた。筋肉が増え、口調は雄々しくなり、初めは作っていた低い声もそれが当然になり、元の発声を忘れてしまった。誰が見ても立派なオスと信じて疑わなかった。ある点を除けば。
「あれ? 兄ちゃん雌の匂いしてんな」
 近所のポケモンの言葉にギクッと鮫肌が立つ。見た目は雄でも体内は雌。幾分薄まったが発するフェロモンは雌のそれだ。元から(ファング)が靡かない程度に薄かったろうが。
「はは、嫁とちょっとな! 悪い悪い」
 と苦笑して返す。こんな感じで伴侶持ちと言う方便でどうにか切り抜けていた。次第に俺に告白するメスも増えたが、同じ方便で断れた。無論、俺が棲む所も一切明かしていない。
 不都合な所がありつつも、強さと雄々しさで皆に憧れられるのは大層気分がいい。俺はオスとしての日々をそれなりに愉しんでいた。



 そんなある日、俺の棲み処の近くにメスのヌメルゴンがやって来た。どうやら訳ありらしく、ネガティブなオーラを感じる。周囲のポケモン達が気味悪がる一方、悪ささえしなきゃ来る者拒まずな立場なので、棲み処の確保や木の実、川の場所を教えたりと、一まずここで暮らせるよう俺が面倒を見た。
「こんな私のために、ありがとうね」
 彼女が見せた屈託のない笑顔は、不思議と見るだけで温順になれる。同じドラゴンタイプとあってか、彼女とはすぐ仲よくなれた。


 ヌメルゴンが棲み始めてから程なくして、彼女は自身の過去を打ち明けた。
 以前は遠い地で風俗に長く従事して名声を得ていたが、体を壊して引退。以降はしつこい客から逃れるべく遠路遥々(はるばる)ここに辿り着いたらしい。
 話を聞き、彼女は若くして雌としての役目を失った自分に魅力などない、と傷心しているのが窺えた。


 メスである事を捨てた俺が、そんな彼女と出会ってしまったのは、最早何かの縁なのかもしれない。だからこそ少しでもヌメルゴンに寄り添えないか、そんな事を考え始めていた。
「……うまく言えないけど、お前の笑顔はすごくかわいい。産めるかどうかなんて関係ない。それだけでも充分俺には魅力的だぜ」
 慰めにはならないだろうが、思った事を素直に伝えた。ふふっ、彼女は笑顔を見せた。
「ありがとう。今の私をそう言うのは君だけだよ」
 なんか照れ臭くて、胸が温かくなった。
 いい娘なのに避けられるのは勿体ない。それ以来俺が密かに顔を立て、ヌメルゴンは徐々に周囲とも上手く溶け込めるようになった。雰囲気も明るくなり、近所の住民と笑顔で雑談する彼女を見る機会も増え、もう大丈夫だろうと安堵した。





 ――そんな折、ヌメルゴンが突如真剣な表情で俺の前に現れた。





 彼女は俺の手を強く握る。
「ボロボロの体だけど、私の番になってください!」
 俺は些か動揺した。幾度か告白されて覚悟はしていたが、あの時発した呪いの如き一字一句がいざそのまま俺に向けられると、思い出したくもない痛苦が蘇る。俺は即座に常套文句を返した。
「悪い、気付いてるだろうけど、俺もう嫁がいるから……」
 けど、彼女の眼差しは一切ぶれなかった。
「私、諦めないから。番になれるそのときまでずっと、待ってるから!」
 参ったな。俺はすっかり当惑した。
「そんなことを言われても、俺はすぐに返事できないぞ。頼む、今は諦めてくれ……」
 こんな事言いたくないのに、言うしかなかった。彼女は何も言わずに去る。その背を見て大息が漏れた。


 よく考えりゃおかしな話だよな。俺がメスだとバレないために断ったとはいえ、これまで多くのメスに愛の告白をされた事は、「オス」にとっては嬉しさ極まる筈なのに、素直に喜べていない自分。
 これまでの努力が実り、皆にはオスと見てもらえるようになったのに、肝心のメスを異性として好く、その境地には到底至れていない残酷なまでの事実を、ヌメルゴンに突き付けられた。こんな重大な矛盾に、俺は目を背け続けてきたんだ。
 畢竟俺の中の「私」は、いまだにオスに好かれたがっているのか? でも既にオスに対する興味関心も薄れてるし……。


「おはよう! どうしたの急いで?」
「おはよう、ちょっと急ぎの用事。じゃあな!」
 ヌメルゴンに挨拶されたが、慌ててその場を走り去る。用事なんてないのに。
 それだけじゃない。ファングとの楽しい日々まで夢に出てきて、その度に寝汗をかいて飛び起きた。そもそも彼に想いを伝えさえしなければ、こんな道を歩まずに済んだかもしれない。無理だと解ってても、どのみち不幸になろうとも、あの日々に戻れたとしたら。完全に捨て切れなかった思い出が、脳裏にちらつく。
 俺はこの先どうすりゃいいんだ? 脳内で延々と、その疑問が渦巻いていた。





 ――そんな中、事件が起こる。





 普段通り木の実を採って棲み処の洞窟へ持って帰る途中、聞き慣れない物音を耳が拾った。その先にはヌメルゴンの棲み処がある。俺は途端に胸騒ぎを覚える。最近余り近寄らなかった方角へと足を運んだ。
 近づくにつれ只ならぬ気配を感じ、即座に身を隠す。藪の枝間から見えた先には、破壊された彼女の棲み処。更に飛び込んで来た光景に、俺は息を呑んだ!
「む、むぐ……!」
 口を岩で塞がれ、四肢を岩に捕らわれたヌメルゴンは声を出せず、泣きながら抵抗するも岩はびくともしない。涙に濡れた視線の先には、雄の証を勃起させてぬめりを滴らせ、舌なめずりをしながらじりじり距離を詰めるガブリアス。その姿と手口を見て、俺は途端に鮫肌が立つ。
「へっへ、素直に抱かれてりゃあ、こんな痛ぇ目に遭わなくて済んだのによぉ……」
 紛れもなく、奴だった。かつて想いを寄せ、共に楽しい日々を過ごした者が、眼前で凋落ぶりを晒すなんて。
 奴はメスとしての俺だけじゃなく、戻りたいとすら思った日々までぶっ壊すつもりか! 沸き起こる憤怒(ふんぬ)に、初めて武者震いを覚えた。すぐにでも飛び出したい衝動を抑え、機を窺う。
「嬢をやってたその体、じっくり味わわせてもらうぜぇ」
 手を出そうと意識がヌメルゴンに向けられた刹那、疾風迅雷の如く藪から飛び出し、ドラゴンクローで渾身の一閃!
「グーーーーーー!!!」
 奴の絶叫で周囲に気付かれないよう、俺は咄嗟に腕で口を塞ぐ。奴が脂汗を滲ませながら両手で押さえ付けた股間から、夥しい血が滴る。そこにあった筈のモノは、地面に転がり落ちていた。醜悪(グロテスク)な雄の姿が目に入らぬよう、即座に体を以て彼女の視界を遮り、四肢を捕らえる岩を砕いて解放する。俺を見たヌメルゴンは、驚きを隠せずにいた。
「すぐそこに洞窟がある! さっさとそこに逃げろ!」
「あ、ありがとう……!」
 ヌメルゴンは震えながらもこの場を脱する。やおら振り向き、牙を剥きつつ奴の顎を爪で持ち上げた。
「俺のシマでみみっちい真似しやがって……なあ、ファング?」
「ま、まさか……!」
 奴は血の気が引いて固まった。だが容赦なくその身を側の(くさむら)に投げ飛ばし、俺もそこに飛び込んだ。


 ……これでいい。あの日々が嫌な思い出となる前に、決別出来るのなら……。


 近くの川で汚れを落とし、壊されたヌメルゴンの棲み処に戻る。地面に落ちていた奴の肉塊を拾い上げ、根元を俺の股間に宛がった。もし俺が「雄」ならこんな感じだったろうか。秘所に付いた血を見て、零れる溜息。そしてソレを逆向きにして、再び強く押し当てた。





 雲一つない空なのに、目に映るは土砂降りの雨――





 俺が棲む洞窟に戻ると、背を丸めて震えるヌメルゴンの姿。相当恐ろしかっただろうと胸が痛んだ。ましてやそれが奴だったとなると、尚更だ。
「もう大丈夫。奴は俺がやっつけた。ここは俺ん家だから安心しな」
 顔を上げて振り向いたヌメルゴン。その目から大粒の涙が零れ落ちる。俺の胸に飛び込み、わっと号泣した。彼女の頭を撫でると、鮫肌も厭わず更に強く抱擁する。


 ……洗ったとは言え、俺の体から雌の匂いが立つ。ましてや洞窟内はそれが染み付いている。これこそ周囲に棲み処を一切明かさない最たる理由だった。
 彼女にはこれ以上隠し通すのは無理だし、無駄に落胆させたくない。ヌメルゴンが落ち着いた所で、意を決して重い口を開いた。
「悪い。お前の気持ちに応えられなかったのは、俺が『メス』だからなんだ……」
 えっ、彼女は涙ながらに見上げた。胸が抉られるようだった。
「それにお前を襲ったあの野郎、実は昔の相棒で、俺が恋してた奴なんだ」
「嘘……!?」
 仰天するのも無理はない。かつて華々しい功績を彼と上げた事や、彼にメスとしての俺を全否定された事等、全て洗いざらい話した。きっと彼女はがっかりしたな。そう思い込み、項垂れた。
「君がメスなのも、嘘をついてたのも薄々気付いてたよ」
 俺は耳を疑った。隠していたつもりだったのに、あっさりバレるなんて。
「でも私はね、こんな自分を日々助けてくれた君の強さと優しさ、かっこよさに惚れたの。オスかメスかなんて大きな問題じゃない。『君』に惚れたの。ごめんね。それに……」
 ヌメルゴンは、柔和な笑顔を向けた。
「さっき私を助けてくれた君は、どんなオスよりもかっこいいヒーローだったよ!」
 初めてそんな事を言われ、胸が疼いた。それが何かは解らない。けど何故だろう、その言葉がとても嬉しかった。
「……なあ、もしだったら落ち着くまでここにいるか?」
 咄嗟に出た言葉だった。喜んで、二つ返事で彼女は答えた。


 こうして、周囲にはヌメルゴンを匿うと銘打って、彼女との同棲が幕を開けたのだった。これなら棲み処を襲われる事もあるまい。





 ――ヌメルゴン改めヌメとの生活は、想像以上に楽しかった。





 彼女は俺の戦いぶりを褒め、時に駄目出ししてくれていい刺激になるし、俺が怪我をすると、いのちのしずくで治してくれた。そのお礼に俺はメス時代に培った泥パックで、ヌメの肌をより綺麗に潤わせて喜ばせた。ガブちゃんと呼ばれるのはむず痒いが、その内慣れるだろう。


 そんな生活を始めて数日後の夜。仰向けで寝ていた俺は体の火照りを感じて目を覚ます。同時に下腹部に気持ちいい刺激がもたらされる。寝ぼけ眼で頭を上げると、飛び込んで来たのは俺の雌裂(ほと)をねっとり弄ぶヌメ。
「お、お前何やっ……!?」
 途端に吹き飛ぶ眠気。後ずさりしようにも快感に妨害されて力が入らない。
「私と同じモノを持ってるんだから、同じ気持ちよさを味わえるね、ガブちゃん……だから君と一緒に、気持ちよくなりたい……!」
 うっとりしながら雌責めを再開するヌメ。流石元風俗嬢とあって、俺のほぼ純粋な場所も、この手に掛かれば快楽の源泉になってしまう。
「うあっ、気持ちいい……ヌメぇ……!」
 身をくねらせながら俺は快楽を受け容れ、とうとう彼女と一線を越えた。
「かっこいい君が、こんなにぐしょぐしょにしてよがって、すっごくエッチ……」
 言葉にされると、無駄に羞恥を煽られる。それが更に、膣に感じる甘い電流を増幅させて俺の身を震わす。彼女の指使いで別物のように柔らかくなった肉が、俺の中を掻き回す指に絡み付き、体が勝手に求めてるような、不思議な感覚に陥った。
 ヌメの指が、雌裂から抜かれる。見た事もない量の愛液が、ねっとり糸を引いた。彼女は立ち上がり、俺の眼前に豊満な尻を向けた。雌の割れ目から、皮膚のぬめぬめと異なる質感の粘りが糸を引き、俺の首元に滴った。太い尻尾を高く上げ、割れ目を更に近づけた。俺と似ているようで異なる雌の臭いが、鼻腔を満たす。
「私のココも舐めてちょうだい」
 仰せのままに舌を伸ばし、粘膜に触れた。程よい塩気と微かな渋味が、味蕾を刺激する。ヌメも四つん這いになって俺の雌穴を舐り、喘ぎ声を漏らしながら相互に快楽を享受する。結構上手ねと彼女に褒められ、更に気分が乗ってきた。
 無性に雌の味を欲して、ヌメの潤う黒ずんだ秘穴を貪る。俺の紅色の穴は舌に蹂躙され、同時に胸や腹を盛り上げる筋肉を愛撫される。どちらの刺激も、俺には効果抜群。
「んぁ、あ、あぁ……!」
 鼻に抜ける嬌声は、次第に甲高いものへと変わっていく。それは忘れていた筈の、メスの声だった。
「あぁっ……ガブちゃん、いいにおい……!」
 俺の火照った雌臭を、彼女は気に入ったらしい。ヌメは体を覆う粘液のせいか、性器以外は余り臭いがしなかった。
「あ、あぁっ!」
 更に大きな何かが、俺の膣に侵入した。見るとそれは、彼女の頭の触角だった。より奥へ伸び、拡げられる刺激は、逞しい俺の体を戦慄かせる。その先端がある一点を刺激すると、強烈な快楽の波が一気に体中へ広がった。
「あぁ、やあんっ!」
 今まで出した事のない艶声が漏れた。
「出るんだ、こんな声……」
 ヌメがにっこり笑う。気持ちよすぎて彼女を刺激するのすら忘れる。下腹部はじんわり熱を持ち、膣全体がウズウズしてきた。その奥の、存在すら忘れていた雌の袋が、下へ移動するかのようにキュンキュンする。ヌメに犯され汚れる度に、どんどん強まる熱と疼き。それはやがて俺を狂わせに掛かる。
「やっ! おかしく、なるぅぅ!!」
 俺の体は、犯されて初めてその瞬間を迎えようとしていた。下腹部が一層熱くなり、それがいよいよ溢れるような感覚。漏れ出す愛液が急に増え、俺は一気に上り詰めた。
「あぁぁぁぁぁんっ!!!」
 雌袋と膣が猛烈な快楽と引き換えに収縮して、性感のピークに戦慄き、ブシュッと透明な雌汁を撒き散らしてしまった。ビクビクと絶頂の余韻に浸ると、ヌメが雌穴を近づける。
「ほら、忘れてるよ」
 一心不乱に舌を挿れ、先程の真似で膣内を掻き回す。彼女が甘く鳴くと蜜が溢れ、黒ずむ肉が徐々にひくつく。
「やあぁぁんっ!!!」
 豊満な肉体が震え、俺の舌を締め付けて大量の愛液を顔に浴びせた。口に溜まったそれを、躊躇せずに飲み込んだ。


 結局俺達は何度も果て、ぐったりして恍惚の余韻を味わう。雄々しい肉体は、史上最も雌臭く汚れた。頬を染めて見つめ合う。俺達の距離は、確実に縮まった。下腹のぬくもりが、いつまで経っても冷める事なく残っていた。





 ――なんてこった、まさかこの俺が……!





 ヌメとの交わりから更に数日後、突然の吐き気に抗えず猛烈に吐いた。咄嗟に気付いたヌメが背中を摩る。次第に落ち着き、お礼を言おうと振り向くと、彼女は笑顔だった。
「おめでとう!」
 意を解せず、首を傾げた。彼女の手が、筋肉の凹凸の目立つ俺の腹を撫でた。
「え、マ、マジで!?」
 解った途端に目を白黒させる。
「私とのエッチでデキるなんて、嬉しい!」
 何を言ってるんだ? 普通に考えればおかしいのに、彼女は怪訝にすら思ってないよう。その理由を訊いてみた。
「鮫の仲間のポケモンのメスって、オスがいなくても子供を産めるんだよ」
 初耳だった。元風俗嬢ならではの知識を披露され、曲がりなりにも陸鮫である俺の無知振りにショックを受けた。
 いや、待てよ。脳裏に浮かんだのは、あの行為の更に前の、俺しか知らない一場面。もしやと思ったが、すぐ心に仕舞った。彼女の言った通りに考えた方がまだマシだから。
 撫でた腹は、じんわり温かいような気がした。


 吐き気は日を追う毎に治まるが、代わりに締まっていた俺の腹は徐々に丸く膨れる。俺よりもヌメの方が、喜びを露にした。その真意を知るからこそ胸が痛み、ちゃんと産まなければと体に気を遣った。
 やがて育む命で、見た事のない大きさにまで膨らむ俺の腹。ヌメが優しく叩くと、思いの外いい音がした。不便な事も多々あったが、ヌメが傍で常に助けてくれて、彼女に感謝するばかりだった。
 周りには病気をしたと嘘をつき、ヌメ伝いに住民達からお見舞いを貰った。非常に助かったし、何より彼らの温かさが身に染みた。


「オスになろうとしてたのに、おかしいよな」
 岩の窪みの水溜まりに映る背鰭の切れ込みを見て、自嘲気味に呟く。
「そんなことない、ガブちゃんはガブちゃんだから」
「……ありがとう」
 彼女の言葉に、救われた気がした――



「っ……産まれる!」
 それは前兆もなく訪れた。腹に痛みが走り、中で破ける感覚がする。
「大変!」
 ヌメは苦悶する俺に寄り添い、寝床へ行く。膣口から粘液が溢れて寝床の藁に滴る。彼女に手を握られながら、俺は腹に力を込めた。破けた雌の袋から膣へと、大きな何かが動いていくのを感じる。
「がんばってガブちゃん! 私がついてるから!」
 初めての産みの苦しみを味わう俺を必死に励ましてくれる。握られた手の感触に、心なしか安心感を覚えた。いきんで発した高熱で反射的に汗が滲む。長い膣を押し広げながら徐々に下りて行く。それが出口に差し掛かり、粘液に塗れた穴が丸く広がった。
「出てきた!」
 丸い薄灰色が覗く。いきむ度にその姿は徐々に露になる。するとヌメは突然俺の前で仰向けになった。
「私の中に産んで!」
 突拍子もない要望だった。俺はそれに応えた。
「お前の中に……産むぞ……!」
「産んで……! これで私たちの子供だって実感できるから……!」
 彼女に跨り、出掛かった卵を性器に押し付けた。俺達は自ずと口を重ねた。口を離して両手を握り合い、全力でいきんだ。俺の体から彼女の体へ、最も大きな部分が移り行く。とうとう俺を脱し、触れ合う秘所から夥しく溢れる粘液。
 産んだ。俺はぐったり座り込んだ。
「今度は私が……!」
 叶わない筈の願いが、これで叶う。立ち上がって力を込めた藤色の体から、灰色の殻が覗く。徐々に穴を押し広げ、新たな命が藁の上に産み落とされた。
「やっと産まれた……!」
 開き切って汚れた秘部の俺達と粘液塗れの卵を交互に見て、喜びが湧き上がった。
 だが油断は出来ない。鮫系の卵は然るべき設置をしないと孵化に至らない。昔教わった内容を思い出し、その通りに設置した。これで大丈夫、あとは生まれるのを待つだけ。


 命を産み落とした体を癒し、バトルのリハビリをしながらヌメと共に丹精込めて卵の世話をする。大きく変わった日々はとても新鮮だった。卵に触れると、自然と顔が綻んだ。
「ガブちゃん、お母さんの顔になってきてるね」
 ヌメに言われてはっとした。思えば確かに、彼女に出会ってからオスとして生きる気概が薄れ始めていた。でも彼女はそれでいいのだろうか?
「ヌメ、俺は『お父さん』の方がいいか?」
 すると彼女は首を横に振った。
「無理に自分を作らなくても、ありのままでいいよ。ガブちゃんは今でも十分かっこいいもん」
「ヌメ……」
 胸がじんと熱くなる。これが一体何なのか、少しずつ解ってきたかもしれない。言葉にしない代わりに、彼女をそっと抱き締めた。





 ――その時は、突然やって来た。





 俺の耳が物音を拾う。それは間違いなく卵が発していた。
「動いた!」
 歓喜の声にヌメも駆け付け、動く卵を凝視する。ちゃんと育ってきたのを確認出来て安堵と期待の情が湧き上がる。ここまで来たら、更なる進展に至るまでそう時は掛からない。交代で世話する中、とうとう殻にひびが入ったと、ヌメが声を上げた。
「がんばれ!」
 俺達の声に応えるようにひびは更に広がり、一部が割れて灰色が覗く。自ずと胸が高鳴っていく。ついに生まれるんだ、俺達の子供が!


 パキパキと大きな音を立て、殻が割れる。元気なフカマルが誕生を迎えた。
「やったぁー!!!」
 俺達は歓喜に沸いた。抱き上げると、その腕に生命の重みをずっしり感じる。俺達を見つめてニコッと笑うフカマルが、途端にぼやけた。
「ありがとう、ありがとう……うおぉぉぉぉっ!!!」
 ヌメの前で、初めて声を上げて泣いた。彼女は優しく俺を抱き締めた。
 俺はいつの間にか、ヌメのお陰で飾らない自分を曝け出せていたんだと実感した。初めは彼女と深い仲になる事を拒んでいたが、今ならそうなる事に対して微塵の不安もなかった。
 涙を拭い、我が子をかわいがるヌメに真剣な眼差しを向けた。ずっと有耶無耶にしていた事に、自らけじめを付けるべく。
「ヌメ、お前とならこの子と一緒に幸せになれるって確信した。だから……私の番になってください」
 あの時呪いとなった言葉を、再び口にした。ヌメは涙を浮かべながら、満面の笑みを見せた。
「ありがとう……! ずっと、ずっと待ってたよ、その言葉!」
 胸が熱くなり、こみ上げる想いを抑え切れず、再び号泣する。釣られてフカマルも泣き出した。
「もう、一気にふたりをあやすのは大変なんだよ」
 呆れながらも発したヌメの言葉に、温かみを感じる。私達三匹はぎゅっと強く抱擁を交わした。奇しくもあの言葉が、ありのままの「私」を解き放ったのである。



 もう自分を偽る必要はない。周囲の住民にも、私がメスである事、そして病気の振りをして妊娠を隠した事を陳謝した。そしてヌメと番になり、子供と三匹ここで暮らしていくと宣言した。
「そうか! おめでとう、兄ちゃん、じゃなくて母ちゃん!」
「強さに性別なんて関係ない、変わらず頼りにするよ。応援してる!」
「かっこいい母ちゃんって言われるように頑張りなよ! ヌメちゃんも、ちゃんとパートナーを支えてやりな!」
 彼らは温かく受け入れてくれた。この地で生まれた新たな縁と、こんな私を認めてくれる嬉しさに、涙を禁じ得なかった。
「もうまた泣いちゃって」
 ヌメが優しく頭を撫でる。泣きながらも、私の胸にはこれまでにない清々しさを感じていた。





 ――皆との日々はとても楽しく、幸せだ!


【原稿用紙(20x20行)】 32.7枚
【文字数(空白改行除く)】 9793文字
【行数】 275行
【台詞:地の文 台詞率】 88:130行 40% / 2006:7938文字 20%
【かな: カナ: 漢字: 他: ASCII】 5427: 521: 2758: 1224: 14文字
【文字種%】 ひら55: カタ5: 漢字28: 他12: A0%



戯言、コメント返信

実は前回の仮面小説大会でかなり大きな挫折を味わってしまい、それを抜け出すために3月から準備を進めていたものがこれになります。
これまでプロットを一切書かなかったP-tanの、プロット処女作が実はこれです。本文も4月中に書き終え、まさにこの短編大会に向けて入念に準備して臨んだ作品でした。最速エントリーできたのもこのお陰です。……そこまでしといて頂いたのは1票でしたけど。
わかってます。単純に文字数が足りなかったです。1.5卍だったらもっと掘り下げられたなと思います。
他にも婉曲表現が多すぎて逆効果だったなと痛感する場面もちらほら。
でも、だからこそこの1票が自分にとってはとても重みのある物であり、大きな救いになったことは紛れもない事実です。
あの時の挫折があったからこそ、そしてこの大会に拙作を出したからこそ、新たに学べたことがあるので、いい経験になりましたし、いい意味でも吹っ切れました。……まだまだ筆を折るには早いな。
ちなみに初めてまともにレズセックスを書いたのですが、いかがでしたでしょうか?


以下、コメント返信です。


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