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妖しアヤカシ妖かし の履歴(No.2)


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 静かに降り続く雪の中を、一人の男は歩み続ける。山も、木々も、空でさえも真白に染まり、全てが一体となって消えてしまったのではないかと錯覚するほど。
 集落から離れ、極寒の荒地へと足を踏み入れる者はそう多くはない。この地を支配するのはけして人間ではなく、獰猛で狡猾な獣たちなのだ、と皆知っているから。
 だが彼は故あってこの場所にいる。時には息を殺して彼らの背後を通り抜け、時には道具を駆使して獣の動きを止めながら、彼は目的の場所へと進む。
「……この穴か」
 ぽっかりと空いた大穴の中は、昼時とはいえ薄暗く、奥に何がいるかは分からない。しかし、見る限りは誰も、何もいないように思える。
 今が好機、と彼は持参した杭を近くの大岩に打ちつけ、縄を固く結ぶ。そうして退路を確保した彼は、その命綱を握りしめ、大穴の中へと潜る。
 岩の屋根を越え、下へと降りると、薄暗かった大穴の奥、洞窟の全貌が見えてくる。やはり奥には種々の獣が跋扈しており、安全に進むことは困難を極めそうであった。
「やはりもう……いや、そんなことを考えるのはよそう」
 男の脳裏に過る最悪の想像。もう手遅れなのではないか、と誰もが思っていたし、彼自身も薄々分かってはいたのだが、それでも諦めきれなかった。
 一日前、彼の伴侶がこの大穴に落ちたと採集隊から聞かされたとき、彼は大層驚き、悲しんだ。帰り着いた者曰く、獣に襲われ、皆散り散りになったのだと。
 ある者はその場で命を裂かれ、ある者は腕を千切り取られ、ある者は逃げ惑い吹雪の中へ消え、ほとんどが帰らぬ者となった。
 そんな中、彼女は悲鳴と共にこの穴の中へ消えてしまったと聞いた時、彼はいても立ってもいられず、夕暮れの雪山へ走り出しそうな勢いであった。
 周りの者に制止され、やがて落ち着きを取り戻した彼は、しかし彼女の事を忘れることなど出来ず、こうして次の日の朝にはもうこの場所へと駆け出していたのだ。
 本当なら大声で彼女の名を叫びたい所だが、そんなことをすれば獣たちの格好の餌食になるだけだ。彼は落ち着いてポーチの中から目隠し玉を取り出し握りしめる。
 雪と違い、岩と氷に覆われた地面は足音も響きやすい。逸る気持ちをぐっと抑え、奴らの意識が他へと向いている最中に、その背後をそっと忍び足で通り抜ける。
 奥へと進む程、大穴から差し込む光が徐々に弱くなっていく。他にもいくつか小さな穴は空いているのだろう、全く見えない訳ではないのだが。
 狭い通路を陣取る獣に目隠し玉を放り投げ、文字通り煙に巻くようにしてさっとその隣を通り抜ける。彼もまたこの雪山で生活するものとして、普段から鍛えた足腰は確かなものだ。
 幸いなことに、思っていたほど獣の数は多くはなく、順調に洞窟の深部へと歩みを進めていた彼だったが、ついにその足が止まった。
「……行き止まりか」
 しかしここまで来ても、そこに彼女らしき人影はなく、静かな空間があるばかり。と、奥に無造作に落ちているポーチを見つけ、彼は血相を変えて飛び出した。
「これ、は」
 見覚えのある刺繍。シンジュ団員の証と、その横にあしらわれた不格好なモモンの実。間違いなく、彼が探している、彼女の持ち物。
「あなた、来てくれたのね」
 暗がりに浮かぶ彼女の姿は、あの日彼が最後に見た彼女のまま。思わず固まってしまう彼であったが、やがて現状を理解し、感極まって涙をこぼす。
 大丈夫だったか、生きていて良かった、一緒に帰ろう、いろんな言葉が頭の中に浮かび上がっては消えていく。声にならない声を漏らす彼に、そっと彼女は近づいて。
「ごめんね、心配かけて。でも良かった、貴方が来てくれて」
「当たり前だろう! お前が、お前に何かあったらって、思って、それでっ……!」
 うっうっと嗚咽を漏らしつつ、その身体を抱きしめる。もう会うことも、抱きしめることも出来ないと思っていたその身体は、温かいはずなのに、ぞわりと冷たくて。
「い゛っ……がぁっ、う゛っ……ぇ……?」
 肉が、(はらわた)が裂ける音がした。鋭い何かが、胸に、腹に、突き刺さっている。息が出来ず、痛みが身体を駆け巡る。
 その何かが身体から抜け落ち、自らの身体が支えきれずに崩れ落ちる。ぼとぼとと零れるのが自分の血であることに、その臭いで気づく。
 霞み行く視界に映った彼女は、もはや彼女の貌を留めておらず。白と朱の狐の面が、ニタリと嗤って自分を見つめている。
『死んだ者の痛みを、思い知れ』
 呪い狐と呼ばれるその獣には、けして近づいてはいけないのだと、かつて母に教わった。呪い殺されたくなければ逃げなさいと、教わった。
 この場所にほかの獣がなぜ居なかったのか。ほとんど何もない空洞だったはずの場所に、なぜ彼女が急に現れたのか。それを今になって、ようやく理解し。
 恐怖と絶望に染まった顔を見て、大層満足そうなその獣は、彼の魂らしき何かを握り潰し、その肉片を担いで消えていくのだった。


 妖しアヤカシ妖かし


「チョロいもんだな」
 さっきまで命が宿っていた生首を遠くへ放り投げ、血で濡れた口角を手で拭う。肉を喰らった残りは洞穴の隅へと雑に避け、うんと一伸び。
 霊の力を宿した存在でありながら、この世の肉体を確かに持つ存在でもある彼は、肉を喰らうことでその生を保つ必要がある。
 人間に殺された同族の恨み。自分自身、人間には何の感情も持ち合わせていないつもりだが、ああして人間を見ると、怒りが、憎しみがなぜか沸いてくるのだ。
 この場所へ迷い込んでくる人間はあまりいないが、この大穴の上で何かをしている人間は何度も見かけたことがある。
 そいつらも襲って喰ってやろうかと思ったことはある。しかしたとえ圧倒的な力の差があったとしても、複数を相手にしてはさすがに分が悪い。
 特に人間は小賢しく、何かしらの不可思議なモノを用いて彼らを惑わせてくることも多い。油断していては、次に喰われるのは自分かもしれないのだ。
「とはいえ、そろそろ狩り場を変えないとここも警戒されちまうか」
 あまり人間の集落に近いと危険だが、かといって離れれば離れるほど人間が寄りつくことも少なくなる。その絶妙な塩梅を満たす場所は多くない。
 当然いつでも人間を喰える、なんて事はなく、時には他の獣で飢えを満たすこともある。だが、人間を襲ったときのあの絶望に歪んだ顔は、他の獣では見られない。
 だから彼は、いつも人間の欲望を満たす幻影を最後に見せる。その者が望むことを、望む物を見せてやると、奴らは簡単に騙される。
 そうして偽りの幸せに浸った彼らに爪を立てたあの瞬間。あの顔を見るその一瞬が、堪らなく心地よいのだ。
「やっぱ喰うなら雌か子供だよなー。雄はどいつもこいつも肉が固くて喰いづれぇ」
 そもそも人間にありつけるだけでも十分有り難いのだが、一度欲求が満たされれば、より高望みをしたくなるのが世の常である。
 この極寒の地に、わざわざ足を踏み入れてくるのはほとんどが男で、たまに女が混ざる程度。まして人間の子供がこんな場所に来ることなどほぼほぼない。
 彼自身も、人間の子供は集落付近で遠目にしか見たことがないし、その肉にありつくなど夢のまた夢だ。
「あー、あとは昨日の雌、一発ヤっとけば良かったなー。腹減ってたからつい止めを刺しちまったけど」
 無論、子作りという点では同族の雌を抱きたいところだが、彼のこういう雑な性格はあまり同族の雌には受けが良くない。
 圧倒的な力でもあればそれでも求められることはあるだろうが、残念ながら彼はそれほど同族の中でずば抜けて強いというわけでもなく。
 結果として、交尾をすることも、まして番を作ることも出来ず、その欲は他にぶつけるしかない、という所で思いついたのが、人間の女であった。
 幻影の力で惑わせば、簡単に股を開く女もいる。あるいは別の幻影に浸っているその身体を押し倒し、強引に犯す事で絶望を味わわせることも出来る。
 人間をいたぶることを愉しみたい彼にとって、二つの欲を同時に解消できる良い手段として、しばしば彼はそれを実行していた。
 が、昨日大穴に落ちてきた人間は既にその命が消えかけていた事もあり、手っ取り早く首に手をかけ、恐怖の顔のまま骨をへし折って殺してしまったのだ。
 柔らかな肉の質感は美味かったが、随分とご無沙汰していた彼は、今になって急に後悔の念に駆られる。都合良くまた人間が降ってきてくれれば、なんてありもしない妄想をしていると。
「……え?」
 大穴側へ続く細い道の奥、既に暗くなった洞穴の、もう一方の行き止まりへと向かって、人間のような影が通っていった、ような気がして。
 いやいや流石に見間違いだろう、と思いつつも、先ほどの男を探して、さらに別の人間がやってきた可能性も否めない。
 静かにその道へと歩を進めると、そこには大穴から垂れ下がった紐と、道の奥へと去って行く、他の獣とは明らかに異なる形をした生き物が。しかもこの匂いは、紛れもなく人間のそれだ。
「おいおい今日はすげぇな、あとはアレが雌だったら最高……ま、雄なら雄で、一日かけてじっくり殺してもいいか」
 ついつい浮き足立つ気持ちを抑え、気づかれないようにそっとその後を追いかける。ちらっと大穴から空を見やると、いつの間にか雪は止み、星と闇とが空を覆い隠していた。
「こんな時間に、こんな場所に、一匹で来てくれるとはなぁ……ばっかじゃねぇのか……くくくっ」
 どうにもにやにやが止まらない。ああ、でもこの紐を伝って他の奴が来ても面倒だな、と少し冷静になった彼は、その紐をぐい、と引っ張るが、なかなかちぎれない。
 この先は行き止まりなので逃げられる心配はないが、出来れば気づかれる前にこっちから仕掛けてやりたい所。
 やがてしびれを切らした彼は、だん、と地面を力強く蹴って跳び、その頂点で爪を横に一薙ぎした。ぱらり、と落ちる縄は、人間の力ではどうあっても届かないような高さで宙に浮いている。
「ま、これでいいだろ」
 再び道の奥を見ると、他の獣を上手くすり抜けたらしいその人影が、次の空洞のさらに奥へと消えていく所であった。彼も足音を立てぬようにそれを追う。
 彼を見送った他の獣たちは、静かにその場から消えていく。大穴から外へとふわりと出て行く者もいれば、彼とは逆方向へと歩いて行く者もいる。
 他の獣は彼にあまり関心を示さないし、逆もまた然り。不必要な争いは誰も得しない事を皆分かっている。さらに言えば、この洞穴において、今最も強いのは彼であるから、なおさらだ。
 人間を追いかけて行き止まりまでやってきた彼の周りには、他の獣の息遣いも、足音もせず。しんと静まりかえった空洞の中、人間はキョロキョロと周囲を見渡している。
「やぁ、どうも」
 魂を感じ、魂の求めるものを感じ、それを幻影として見せる。それが普段の狩りの方法だが、今日はやけにその魂の返事がぼんやりとしていた。
 誰かの温もりが欲しい、としきりに叫ぶその魂に対し、彼が出した答えは、人間の男の姿で近づくこと。同じ人間がやってきたと思えば安心するだろう、と思ってのことだったが。
 魂の絶叫とは裏腹に、振り返ってこちらを見たその人間の表情はあまり動かず。むしろ、彼の方が動揺を隠せず、幻影が一瞬揺らぎかける程。
 なぜならばその人間は、どう見ても子供であったからだ。それも、おそらく雌の。
「……?」
 首を傾げるその人間に、一歩一歩近づいていく彼。夢にまで見た子供の肉。しかも、雌ならさらにお楽しみの時間まであるかもしれない。
 昂ぶる気持ちが声に出ないよう、ふう、と一度大きく息を吸って、吐く。首を傾げるその人間に、そっと屈んで目線を合わせ。
「お嬢ちゃん、こんな夜に、こんな場所に来て、どうしたんだい?」
 目の前の人間が望む姿となるように、自らを幻影で包み隠し、彼は優しく声を掛ける。無論、獣の声そのものが彼女に伝わる訳は無く、幻影が代わりに喋ってくれている。
「あの、私……実は、探し物をしていたら、迷ってしまって」
 悲しそうに地面を見つめてつぶやく彼女。他の人間達よりも軽装であり、明らかにこの極寒の夜を越せそうな姿はしていないが、一体どうやってここまで来たのだろうか。
 聞いてみたい気もしたが、下手に彼女のトラウマを刺激してもいけないと思い、彼はそうか、とだけ返すことにした。
「……行く当てがないのなら、俺と共に一晩明かすかい? 朝になれば、もう少し辺りの見晴らしも良くなるだろうから」
「本当、ですか? それなら是非! 実は、一人じゃその……寂しくって」
 相手を疑うことも知らないような、屈託のない笑顔。思い通りに事が運び、彼は思わずにやけてしまう。もちろん幻影にはそんな表情はさせず、ニコニコとした表情のまま。
 なぜ自分がここに居るのか、なんて聞かれれば答えに困っていた所だが、やはりこういう所はまだまだガキだな、と思いつつ。彼は洞穴の端の方で、岩壁にもたれるようにして座り込んだ。
「壁や地面は冷たいだろうから、俺の身体の上に、もたれてくれて構わないよ。ほら、おいで」
 焦るな、まだ早い、と彼は自身に言い聞かせる。今にもその布きれを引き裂いて、柔らかな肉に爪を立てて、欲望のままに雌として犯してやりたい気持ちを抑えて。
 鎌首をもたげかけている股の紅を諫め、彼は、彼の幻影は、トントンと自分の胸を軽く叩く。おずおずと近づく彼女の手を優しく取るそぶりをすると、今度は彼女が、彼の身体に飛びかかる。
「うおっ!?」
 思わぬ事態に一瞬また幻影が揺らぐが、慌てて彼は集中し直して事なきを得た。その手が腰に回されて、胸元の毛に乗っかった彼女の顔が、上目遣いで彼を見つめる。
「あ、ご、ごめんなさい。つい、その……抱きしめたく、なっちゃって。駄目、でした?」
「あ、いや、そんなことはないけど……驚いたよ」
 これは演技でも何でもなく、彼の本心であった。まだ何も知らぬ子供だと思っていたが、この顔は明らかにその"何か"を知っている顔だ。
 冷え切った彼女の手が彼の身体を撫でる度、彼女の顔が胸元に擦り付けられる度、彼の股間には熱が、劣情がふつふつとわき上がっていく。
「だって、お兄さん……ちょっと期待してるのかな、って」
 もう分かっているから、と言わんばかりに、回した手で腰を優しくなで回す彼女。扇情的な手つきで、腰から胸へ、胸から腹へ。
「へぇー、"そういう"ことも、もう知っているんだね」
「結婚はまだだけど、私にも許婚がいるんです。"そういう"ことはもう教えられているし、やったこともありますよ?」
 手つきはそこまで慣れている様には見えないが、初めてで物怖じするような様子でもない。彼女が言うとおり、何度か既に経験済みなのだろう。
「でも、だったらなおさら、いいのかい?」
 もちろん、彼はここで嫌だと言われたところで止めるつもりなど毛頭ないのだが。愛とか情とかに流される様な目合をしてみたいというのもまた、彼の偽りなき本心なのだ。
「許婚以外の誰かと、やったことはないんですけど、その……興味は、ある、し……」
「へぇ。君……思ってたよりずっと、淫乱じゃないか」
 両肩から胸に向かって大きく盛り上がった、朱と白の毛の山に、恥ずかしそうに顔を埋める彼女。こういう所は確かにまだ、子供のかわいらしさが残っている。
 その顔をぐっと爪で持ち上げてやると、上気した顔が彼の目を真っ直ぐと見つめている。期待や不安や、それ以外にもいろんな気持ちが織り交ざった、妖しい顔。
「ん、しょ……っと」
 身体を覆う布をぽいぽいとその場へ脱ぎ捨てていく彼女。足の履き物と首の帯以外、覆いが全て消えた彼女の白い絹肌に、彼はごくりと唾を飲む。
 丸くしなやかな体躯、少しばかり膨らみのついた胸元、適度に柔い肉をまとった四肢。まるでその後ろすら見通せるかの様な、透き通った身体。どこから喰ってやろうか、と一瞬我を忘れかけるが。
「ひゃっ!」
 まずは"ここ"から食べるべきだよな、と思い直し、だから彼は彼女を再び抱き寄せた。ひんやりと冷えた身体同士を温めるかのように、もじもじとお互い擦り合わせる。
 もうすっかり大きさを取り戻した彼の紅が、彼女の股とくち、と触れ合う。むに、と臀部を揉んでやると、んっ、とくぐもった声が漏れる。
「もう随分と出来上がっているようだね。ま、俺も君のことは言えないけど」
 彼女も自身の股に挟まっているそれの大きさに気づいたのか、少し焦りを見せ始める。彼の中にも、もう我慢出来ずに入れたい気持ちがふつふつと湧き上がる。
「ま、待って、下さい。こんなの、いきなりは、ちょっと……その、流石に」
「ああ、ごめん。それじゃあ……ほら、おいで」
 彼女をぐっと両手で抱え上げ、頭と足とを反転させて置き直す。彼女の目の前には、天を突き刺すかのような、大きな紅い一本槍が。
「ひぅっ、あぁ、っ」
 彼はもう待ちきれず、雫を零す彼女の割れ目に舌を這わせる。内側の口をひくひくと震わせながら、彼女の割れ目はその舌を奥へ奥へと引っ張ってくる。
「ほら、君も。十分濡らしてくれないと、後が痛いだろうから」
 目の前の巨大な凶器へ、おっかなびっくり手を伸ばし、触れる。ひんやりとした彼の身体の中で、最も熱を持っているであろうその部分を握り、意を決して口の中へ。
「んんっ、んぅ」
 ぢゅるぢゅると厭らしく音を立てて彼女の割れ目を啜ってやると、彼女も負けじと彼の紅をべちゃくちゃと唾液で濡らしてくる。零れた涎を潤滑剤に、その手は根本まで伸びてくる。
 細長い胴体とは別に、ふっくらと膨れた根本の瘤を、ふにふにと握るように確かめる彼女。そしてその部分から口元まで、激しく擦りつつ、先端の口をちろちろと舐める。
「んおっ、ふっ、これは、っ、なかなか」
「お兄さんも、上手で、ぁあっ」
「そりゃ、俺の方が年上だからな」
 年上だが経験の方はあんまり、なんて言えるはずもなく。概ね無理矢理な行為しかしたことがない彼にとって、相手を喜ばせるための前戯など初めて。
 見栄を張ってみたが、どうやら彼女にとっては結構好評のようで。人間よりも長く伸ばせる舌のおかげか、それともこの状況がなせる業か。
「はぁっ、ぁっ、もう、そろそろっ、いい、ですかっ、らあっ」
 だんだんと彼女の手が、口が疎かになってきたのを見逃さなかった彼は、寧ろより一層その舌の動きを加速させる。トドメに手の爪でかり、と割れ目の上にある突起を引っ掻くと。
「ひっ、ひぁぁっ、んんうぅっっっ!!」
 びくり、と身体を大きくのけぞらせ、彼の顔にぷしゅ、と水が浴びせられた。強い雌の匂いと、小刻みに震える彼女。惚けた彼女の目はぼんやりと目の前の紅を見つめ。
 その手を気持ちばかり動かして彼の紅を上下に擦りながら、根本をぺろぺろと舐めている。果ててもなお、その欲求は解消されることはなく。
「はぁうっ」
「や、ごめんごめん。君があまりにも起きないから」
 彼女の臀部を軽く揉んだだけで、随分大層な反応が返ってきたことに少し驚きつつも。此の分ならそろそろ良いだろう、と改めて彼女を抱きかかえ、もう一度位置を入れ替えて下ろす。
 背中を抱いてつつ、と爪で背中をなぞり、片手でその顔を優しく撫でて、ぎゅっと抱いてやる。周囲の冷気に冷やされた彼女の身体を温める様な素振り。
 彼女はそれに甘えるかのように、彼の腰を抱きしめる。顔が近づき、彼の口の先端と、彼女の唇が触れ合い、舌と舌が溶け合い、交ざり合う。
 やがて一つが二つに分かれると、彼女は片方の腕を彼の紅へ伸ばし、手でその先端を自身の股へと誘導する。彼はそんな彼女を眺めながら、満足そうにその頬を撫でる。
 んっ、と喘ぎながらそれを必死に求める彼女の肌は、お互いの体液に濡れ、差し込んだ夜の僅かな光に照らされて%ruby(なまめ){妖};かしく輝く。やがて大した抵抗もなく、ぢゅぷ、と先端が飲み込まれ。
「んっ、あ」
「おぉっ、こりゃ、凄い、なっ」
 ぎちぎちと彼を締め付けるかのような、だけれどもきつすぎず程よい刺激。少し苦しそうな彼女の身体を抱き寄せて、少し落ち着けながら徐々に奥へ。
「あっ、ぐ、ぁっ」
「大丈夫、かい?」
 根本へと近づく度、彼女は痛みとも喘ぎとも取れるような声を上げる。こくこくと頷きながら、彼女は両手で自身の身体を支えて押し上げ、ずぶずぶと彼を飲み込んでいく。
「あ゛っは、ぁっ」
 とうとうその膨らみを除いた全てを飲み込んだ彼女は、恍惚とした表情を浮かべている。そんな彼女の両胸を揉みしだくと、ふあぁ、と情けない声が返ってくる。
「ほら、ここからが本番なんだから。動かすよ」
「い゛っ、ま、ちょっと、まっ、あぁあぁぁっっ!!!!」
 ずるん、と一気に彼女を持ち上げて紅の一本槍を引き抜くと、彼女はびくびくと震えながらその場に汁をまき散らした。彼の体毛をしっとりと濡らし、ふうはあと荒い息を上げる彼女を。
 もう一度ストンと下ろしてやると、またしてもびくりと身体を捩り、もう一度汁が僅かに噴き出す。彼女が何かを言おうとする度に、彼の両手がそれを許さない。
「んっ、いいねっ、その動きっ! 俺もそのうち、イっちゃいそうだよっ」
 絶頂に伴う割れ目の動きが、彼の紅を掴んで離さず。ずこずことすっかり彼のモノを受け入れられるようになったその穴とは裏腹に、彼女自身はまだその快楽に耐えられる程強くはなく。
「んんうぅぅっ!! や、あっ、はあっ、も、ぁうっ! んううぅぅっ、く、は、あぁっ!!!!」
 喋ることもままならず、彼に使われるがまま、絶頂を繰り返した彼女の顔は、天を仰いで只管その悦に浸り続けるばかり。
 にゅぐにゅぐとさらに広がるその雌の穴が、徐々に根本の瘤に向かって広がってきている事に気がついた彼は、より激しく腰を彼女へと打ちつけながら、彼女の両脇を抱きしめ、一気に引き寄せる。
「い゛っああ゛あぁぁぁああぁぁっっっっ!!!!」
「ぐぅっ、が、あぁあ゛っ!!」
 ずぐっ、と太い音と共に、根本の奥まで飲み込んだ彼女の腹が、ぽっこりと一本槍の形に膨れ、堪らず彼女は叫びを上げた。すっかりびしょ濡れになった彼の腹に、ぴちゃぴちゃと水溜まりが作られる。
 どくどくと彼女の腹が波打つと共に、どろりと目合の隙間からは白い粘液が吐き出されている。彼もまたうっとりと細い目で彼女を見つめながら、その余韻に浸っている。
 繋がったままの彼と彼女。水溜まりの上にべしゃりと崩れた背を撫でて、肩の毛束に手を埋めて、唇と唇が、舌と舌が繋がり合う。
 長く続く彼の吐精を感じながら、彼女は満足そうに、その冷たい両の手で彼の首筋を撫でていた。

 ☆ ★ ☆ ★ ☆

「や、お嬢ちゃん、ほんと、凄いね……」
 あれから何度も身体を重ねた彼と彼女。彼の精を口で受けたり、彼女が馬乗りになってみたり、四つ這いの彼女を彼が後ろから犯したり、暫くご無沙汰だった彼も、ついに疲れ果てていた。
「お兄さんこそ、激しいし、大きいし……流石、(けだもの)って感じで」
 壁にもたれてふぅ、と一息ついていた彼の顔が一瞬で強ばる。立ち上がったままこちらを見ていた彼女が急に近づいて、ぼすん、と彼の胸に甘えてきた。
「や、やだなぁ。そりゃあ、男は獣だ、なんて言うけど」
「ううん。知ってたよ。最初から、ずうっと」
 彼はさっきまでの行為を改めて思い返す。そういえば確かに、服を脱がす事もなく肉棒を掴んだり、毛の中に手や頭を突っ込んだり、違和感はいくつもあったのだ。
 だが、幻影を見せている、と思い込んでいた彼は、そういう多少のことは気にもせず、行為が出来ればそれでいいか、なんて考えていたのだ。
 それがまさか、最初から幻影になど騙されていなかったとは思いもよらず。自分の姿を見てなお、怖がりもせず、挙句の果てに獣との交尾までしてしまうとは。
「それじゃ……俺に殺されるとか、喰われるとか、思わなかったのか?」
 これからそれを実行しようという彼自身が、もはや聞かずにはいられなかったほど。幻影を消し、真の姿を見せた彼の純粋な疑問に、彼女は答えることはなく。
 彼の胸に背中を預け、洞穴の天井に空いた小さな穴から見える空に目をやる彼女。つられて彼もそちらを見ると、小さな星がちらちらと見え隠れしていた。
「私ね、お母さんとお父さんを、目の前で殺されたんだ。私は息を潜めて、草むらに隠れて、なんとかその場をやり過ごした」
 寂しそうな声。震える手が、彼の手にそっと添えられる。爪と爪の間をなぞる冷たい指に、ぞわりと背筋を震わせる彼。
「村の皆は、その後泣いて帰ってきた私を慰めてくれたけど、私は悲しさよりも怖さよりも、怒りが収まらなかった」
 ここにきてようやく、彼はこの現状の違和感に気がついた。自身の身体は霊の力を宿すが故に冷たく、生を持つが故に温かい。だが、彼女はどうか。
「殺した奴を、今度は私が殺してやるんだって、その夜に息巻いて山に飛び込んだんだけど……」
 思えば一度も、彼女の足音を聞いていない。足はあっても影はなく、形はあっても温もりはない。自分が霊の力を持っているから、実体がなくとも触れているのではないか。
「急に山が吹雪いて、前も後ろも分からなくなって、夜の雪山で遭難しちゃったの。冷たくて、眠くて……」
 そもそも、幻影も消えた今、こうして言葉が通じるはずはない。彼と彼女の間に会話が成り立っている事実が、そもそもおかしいのだ。
「それで、次に気がついたらここに居たんだ」
 彼女はすっくと立ち上がる。寒気が少し和らぐ様な錯覚を覚え、その事実に彼はなお一層戦慄する。やはり、この冷たさの原因は、彼女。
「お母さんもお父さんも、どっちの顔も思い出せなくて。でも、その温もりが欲しくなって。ふらふらとそれを探してたら……貴方に逢えた」
 満面の笑みで振り返る彼女。狂気に満ちたその顔に、彼はずり、と座ったまま後ずさる。一歩、二歩、と歩くそぶりを見せながら、音もなく彼女は近づいてくる。
「嬉しかった。だって、貴方は私に温もりをくれようとしたから。たとえ偽りの姿でも、貴方が私を求めてくれたことは、嘘じゃなかった」
 裸のまま、さっき注いだ精をぼと、ぼとと垂れ流しながら近づいてくる彼女。逃げろ、と本能が叫ぶが、足が竦んで立つことすら出来ず。
「でもね、同時に気づいちゃったんだ。私も、貴方を求めてたんだ、って」
 彼女の姿がどんどんと近くなって。目の前に彼女の笑顔が張り付いて、溶けて、消えた瞬間。
「ぎっ、ああ゛っ!!!! いだっ、いだい゛っ!! いだぁあ゛ぁい゛っ!!!!」
 彼は痛みにのたうちまわる。命をどんどんと削られる感覚。霊であるが故に彼女を認識出来、生があるが故に命の痛みを知る彼にとって、彼女はまさに天敵であった。
『どう? 痛い? 私の呪い、効いてる? よかったぁ、私の魂かけた甲斐あって』
「このっ、くっ、が、ぁあ゛ぁっ!! やめっ、止めろっ、止めろお゛っ!!!! たの、だっ、のむっ!」
 頭の中に鳴り響く声。ギシギシと身体が軋んでいく感覚。折れてもいない骨が、抉れてもいない肉が、命と共に失われていく感覚。
『呪い狐が呪い殺されるなんて、最っ高に嗤えない? ふふっ、あははっ、あははははははははっ』
 笑い声を振り払うようにしてゴロゴロとその場で転がると、やがて彼女がひょい、と彼の身体から飛び出してきた。痛みは止むことなく、その呪いは彼をどんどんと蝕んでいる。
『あれ、案外あっという間だね。そっかぁ、こんな簡単に死んじゃうんだ。あ、どうせならその顔、お面にしたら面白そう!』
「ひっ……来るなっ、来るなぁっ!!!!」
 奇しくもかつて彼が屠ってきた人間たちと同じように、恐怖と絶望に歪んだ彼の顔。伸びてくる彼女の手を、何度振り払っても、振り払っても、すり抜けて。
『その表情、その叫び、ほんっと……あぁ、たまんない。私、あなたのその顔、大好き、だよ?』
「あ゛ぁぁああ゛ぁぁぁあ゛あぁっっっ!!!!」
 そうして彼女の手が彼の顔にかけられる。ギチギチと音を立てて剥がれ行く彼の顔。やがてその音が止むと、コトンと音を立てて地面に落ちた。そこにはもう、彼女の姿も、獣の貌もなく。
 洞穴に残されたのは、呪い狐の面、ただ一つだけであった。


 ――終――


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