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※官能表現があります。
今回は旅のお供やバトルではなく、主からボックスの中での用事をエクスは頼まれた。最近何かと外に出る機会が多かったので、彼の休憩も兼ねてのことだったのだろう。
奇妙な機械の中に広がっている不思議な空間。最初はエクスも戸惑いもしたが、慣れてくればそれなりに快適で身を休めるにはちょうど良い塩梅であった。
周囲の環境を設定できるらしく、今は草原のような風景が周りに広がっていてほんのりとそよ風まで感じる。とても自分があの小さな機械の中にいるとは思えなかった。
人間の技術のすごさを身をもって実感したところで今日の任務だ。主からは、別の地方の同種が来ることになったから、仲良くしてあげてほしいと聞いていた。
同じポケモンでも生まれた地方によって姿が変わることがある、リージョンフォームなる現象があるらしい。まさか自分の種にもそのような傾向があるとは初耳であった。
姿は違えど、同じ種族であることには変わらない。それならば最初の接触はエクスが適任だと主は判断したようだ。もちろんエクスも主の頼みならば、と意気込んでいた。
だが、同種とはいえ初対面の相手だ。もともとそこまで愛想のある方ではない自分がちゃんと打ち解けることができるかどうかと言われれば。そんなに自信はなかった。
ここで待っていれば相手はそのうち来ると主は言っていたが、まだだろうか。だだっ広い空間にぽつんと一匹で佇むというのはどうにも落ち着かない。
ボックスの環境を自由に変えられるのならば、もう少し木陰になりそうな木でも生やしてもらいたい。後は、近くにちょっとした水辺でもあれば完璧だった。
「ねえ」
エクスが理想のフィールドに想いを馳せていたところ、背後から声が掛かる。振り返るとそこには、自分とよく似た青い姿に背格好。貝殻を模した被り物。逆三角形の尻尾。
なるほど、確かに自分と異なる部分もあるが共通している部分も多くある。これが、リージョンフォームという奴なのか、興味深い。
と、目の前に現れた同種が今の姿とはさらに異なっていたか、あるいは差異がもっと少なければ。エクスも冷静で居られたのかもしれない。
「君が別の地方の私の姿ってわけね、へえー」
物怖じせずにエクスの方へ近づいてきた別地方の同種。潮風の香りと、それに合わせて漂ってきたのはほんのりとした雌の匂い。
ただ、それよりもエクスが感じていたのは、自分が持っている水の素質と異なる、禍々しさを含んだオーラ。彼女がその身にまとっているのはどう見ても。
「初めまして、私はユウギリ。君、名前は?」
「……エクスだ」
「そっか、よろしくね」
握手、の意味合いなのか右前足をすっと差し出してくるユウギリ。ダイケンキという種族の体の構造上、手のひらを合わせての本来の握手の形は難しい。
初対面の相手からの挨拶。仏頂面のエクスに対しても、物怖じせずに気さくに接してくれている。ここは同じように前足で応じるべき場面、なのだが。
ユウギリが持っている悪の気質が、無条件で彼女を受け入れることを拒ませていた。別地方の姿で違うタイプが付くことがあると、エクスも頭では理解していた。
元々白黒はっきりさせたがる性分故、悪タイプに対してはどうしても良い感情を抱けずにいる。例え同じダイケンキのリージョンフォームだったとしても、それは同じ。
むしろ同種族だからこそ、なぜ悪などに身を染めてしまっているのかという思いが先走って、手心のない態度を崩せないままでいた。
「どうしたの、そんな怖い顔して。せっかくなんだし仲良くしましょうよ?」
「寄るな」
険しい表情のままのエクスにも動じずに、距離を詰めようとしてくるユウギリ。踏み出す足取りに躊躇いが見られない。度胸があるのか、あるいは無神経なのか。
ほとんど無意識のうちにエクスはさっと後ろへ身を退いてしまっていた。主の頼みはどうやら引き受けてやれそうにない。本能がユウギリを拒否してしまっているようだ。
「なぜ悪に身を染めている?」
「なぜ、って言われてもねえ。こう、進化したら自然と付いちゃった感じ?」
眉間にしわを寄せたままのエクスの問いかけにもまるで動じる様子はなかった。ユウギリはあくまで自分のペースで、能天気な回答。
相手にすればするほど、自分の調子を乱されていく感じがする。もし、彼女に悪タイプが付いていなかったとしても、仲良くできていたかどうか自信がなかった。
「悪タイプがそんなに気に入らない? そんなに悪いもんじゃないよ」
「黙れ。貴様と慣れ合うつもりはない」
後でため息をつく主の姿が一瞬頭を過ったが、エクスはとうとう言い切ってしまった。これまでずっとへらへらと軽そうな笑みを浮かべていたユウギリからも表情が無くなる。
悲しんでいるとか、がっかりしているとかではなく、ただただ無表情に。ほう、その顔つきだとダイケンキらしい貫禄が見え隠れするかもしれないな、とエクスは勝手に評価をする。
「ふうん。それじゃあ……こういうのは?」
言いながらユウギリはすっと右前脚を自分の左肩辺りへと伸ばす。そこは、ダイケンキの武器でもあるアシガタナの柄の部分。まがりなりにも彼女も持っているというわけか。
その動作が何を示しているのか、さすがに察せないエクスではなかった。なるほど、慣れ合いよりも遥かに面白そうだ。
「……いいだろう、受けて立とう」
「わかった。痛い目見てもしらないよ?」
「その言葉、そのまま貴様に返してやる」
売り言葉に買い言葉。エクスもアシガタナの柄へ前脚を掛ける。口で会話するよりも技をぶつけ合った方が、分かり合えることが多い。なんて、戦闘狂の台詞だろうか。
初対面の相手と会話するよりも、バトルする方が抵抗感がなかった。この状況は新しいポケモンを受け入れるからと、安易に同族のエクスを選んでしまった主の選択ミスであろう。
「いち、にの、さんで、同時に剣を抜くってのでどう?」
「なるほど。面白い」
「じゃあ、今から数えるからね」
カウントする側の方がタイミングを掴みやすいから有利なのではと、エクスはふと思う。まあ、悪タイプに不覚をとるつもりはないし、多少不利な状況を覆してこそ、だ。
柄に手を掛けたまま姿勢を低くして、いつでも自慢の刃を振りかぶれるように身構えた。準備は整った。後はユウギリが数え切るのを待つだけ。
「いち……」
一つ目。
「にの……」
二つ目。さあ次だな、とさらに気を張ってアシガタナの柄を強く持ち直そうとしたエクスの所へ、いきなり飛びかかってきたのはユウギリ。
右腕にはしっかりとアシガタナが抜かれて握られている。自分のものとは異なった、ゆらゆらと波打った形をした黒い刃。禍々しさすら覚える。だが、ちょっと待て、話が違――――。
「ぐわっ」
慌ててエクスも刀を抜こうとしたもののやはり間に合わず、ユウギリの振りかぶった刃の一撃を頭頂部にもろに食らってしまう。幸い、頭はもともと被り物で守られているので直接裂傷などはない。
だが、ユウギリが放った刀の鋭い衝撃は兜越しでもしっかりと貫通していた。頭を殴られたことにより、ぐわんぐわんとエクスの目の前の景色が揺れる。完全に攻撃に身構える体勢が取れていなかったことも大きなダメージの要因だった。
戦闘中にふらついていては相手の格好の的になってしまう。何とか立て直さねばと踏ん張ろうとするも、体が言うことをきいてくれない。その隙をユウギリが逃すはずもなく、再び刃を構えて追撃の準備に取り掛かる。
今度は片手でなく両手に掲げられたアシガタナ。ユウギリが両方の前足をクロスさせ十字を切るように振り切ると、赤黒い刃が容赦なくエクスに襲い掛かった。
ただ切りつけているだけではない。四方八方から飛んできた細かい刃が次々とエクスの体へと突き刺さる。こんな技、見たことがなかった。おそらく、ヒスイ地方ならではの特殊な技。
度重なるユウギリの攻撃になすすべもなく、エクスは膝を付いて地面に突っ伏してしまった。残念だが、もう立ち上がれそうになかった。売られた喧嘩に負けてしまうだなんて、情けない。
「……エクス。私がいたヒスイ地方ってね、とても寒くてとても厳しい大地だったの。人間もポケモンも弱いと生き残れなかった」
地面を踏みしめて近づいてくるユウギリの足音が聞こえる。うつ伏せになっていたので直接見えてはいなかったが、すぐ近くまで。悪らしく、とどめでも刺すつもりなのか。
だが、ここはボックスの中。瀕死状態になることはあれど、命まで失ってしまうことはない、はず。自分のことではあるが、同族との喧嘩で死んでしまってはいくら何でも死にきれなかった。
「私は生きるために得たこの力を誇りに思ってる。だから私には私なりの事情があるってこと、ちょっとは理解してほしいな」
足音が止まった。エクスがゆっくりと顔を上げると、ユウギリがじっと見下ろしていた。さっきまでの張り詰めた空気はどこへやら。最初に話しかけてきた雰囲気の彼女に戻っている。
思っていたよりも体が動くし、痛みも少ない。もっと派手にやられてしまったと思っていたが、致命傷にはならない程度に加減されていたらしい。屈辱的な気持ちと、少しほっとした気持ちがエクスの中で入り混じる。
まあ、ボックスの中で戦闘不能沙汰を起こせばさすがに主も黙っていないだろう。そこは喧嘩を売った側のユウギリも考慮していたのかもしれない。
「ねえエクス、聞いてる?」
「ち、近づくなっ」
ぐいっと覗き込んでくるユウギリ。エクスが想定していた二倍くらいは顔が近い。近すぎるのだ。
「どうして? あなたの硬い考えを改め直すいい機会じゃない」
「や、やめろと言って……」
ユウギリが何か言っているようだがまったくエクスの頭には入ってこない。喋った彼女の吐息を感じてしまうくらいに距離を詰められすぎている。
相手と程よい距離感を保つ、という認識が彼女には欠落してしまっているのだろうか。これだけ近いとユウギリの雌の香りを嫌でも感じてしまって、意識せざるを得ないではないか。
「あ、もしかして。硬派貫きすぎて異性に免疫ないとか?」
かあっと熱くなった顔を見られてしまった時点で手遅れだった。硬派を気取っている自覚はなかったものの、図星である。異性との交流経験は皆無に等しい。
普通に話すだけならまあ、そこまで問題はない。ただ、今のように体を寄せられたりすると、一気に顔に熱が上がって冷静でいられなくなって、何も考えられなくなってしまうのだ。
「なーるほど。でも、それはそれで興味が湧いちゃうのよねえ」
にいっと歯を見せて笑った彼女のそれは、悪タイプにふさわしい悪意に満ち溢れていた。ほとんどうつ伏せで倒れていた私の上に馬乗りの体勢をとって、ぎゅっと身を寄せてきたものだからたまらない。
手合わせのときはあんなに機敏に動いていたというのに、腹部や内股の皮膚は思っていたよりもずっと柔らかくて。これでもやっぱりユウギリは雌なのだなと痛感させられる。
「は、離れろっ、汚らわしいっ!」
これ以上、密着されるとまずい。非常にまずい。ユウギリは嫌がる自分の反応を楽しんでいるのか、お腹を背中へと擦りつけるようにしてくるのだから余計に質が悪かった。
ああ、でも、柔らかくて、何だか心地よいかもしれない。これが、雌の体の感触。リージョンフォームとは言え同じ種族のダイケンキ。雄と雌でこんなにも違いがあるものなのか。
「口ではそう言ってるけどさあ、これはなあに?」
自分のお腹と、地面の間に挟んで必死に隠していたエクスのもの。隙間から前脚を差し込まれて、ユウギリに探り当てられてしまう。爪の先が当たって、ぴくんと反応してしまっていた。
エクスの股間からは、にょきりと確かにその存在を誇示する桃色が顔を覗かせていた。ユウギリの体に興奮してしまっていたと認めるほかなかった。体は誰よりも正直なのだ。
「こっちのカタナはなかなか良さそうじゃない。切れ味、私が試してあげよっか?」
言うが早いかユウギリはエクスの体をごろりと反転させて仰向けの状態にする。力の込め方や手つきに無駄がなく、とても手馴れている気配を感じさせる動作だった。
隠すものがなくなって、ぴんと上を向いた張りの良いエクスの雄が露わになる。異性相手に見られるのは初めてだというのに、こんな形になってしまうとは不本意極まりない。
恥ずかしさと情けなさで、辛いマトマの実を齧ってしまったかのように顔が熱くて熱くてたまらなかった。そんな彼の反応を見るユウギリはどこか満足げだ。
「あっ」
ユウギリは爪の先をすうっと肉棒に沿って這わせる。敏感な個所だけに刺激は大きかったが痛みはない。どちらかというとこそばゆいような、緩やかな愛撫だった。
それでも思わず声が出てしまうくらいに、エクスには衝撃が伝わっていた。如何せん抜き身の腰刀を誰かに触れられるのは初めてのこと。耐久力は、おそらくない。
何度か先端から根元まで、弄ぶように爪を上下させていたユウギリだったが。やがて口を近づけて舌を這わせ始めた。彼女の言う切れ味を試す、とはこういうことなのだろうか。
兜のとげが突き刺さらないよう、ユウギリは首を横に傾けて器用に舌を撫でつけてくる。そんな艶めかしい彼女の表情にも、そそられるものはもちろんありはした。だが。
何よりも直接的な刺激が、爪のときとは段違い。堪えようとしても、口元から小さな声が所々で零れてしまう。雌なのか雄なのか分からないくらい、甘い声。
エクスも自分で抜き身を処理してやった経験は何度もあったが、そのときとは比べ物にならない。彼が初めてなのと、ユウギリの技術も合わさっての相乗効果。
瞬く間にエクスの刀は刃こぼれしてしまいそうに、ぴくぴくと震えだした、が。そのタイミングを見計らったかのように、ぴたりと舌の動きを止めるユウギリ。
「え、あっ……?」
「悪タイプに偏見持ってたこと、私に謝って。そしたら続き、してあげる」
この期に及んでそう来るとは。そんな弱みを握って要求するような真似をすれば、逆効果だと分からないのだろうか。ここですんなりと謝罪できるなら、エクスも最初から悪タイプに辛辣な態度など取っていなかった。
「く、それは……」
頑なに悪タイプというものを拒んでいるのは意地になってしまっていることは分かっている。今まで接したことのある悪タイプのポケモンもそうであるが、ユウギリもおそらく根っからの悪い奴というわけではなさそうな感じはしていた。
そうでなければ手合わせでエクスが負けた時に容赦なくとどめを刺されていたであろうし、そもそも悪タイプをちゃんと理解してもらおうなどと働きかけてきたりしないはずだ。
ただ、状況が状況だけに、変なプライドが邪魔をしてエクスの決断を躊躇わせていた。続きはやっぱり気になる。ここまでされておいて、快楽への欲求を断ち切れるほどエクスも硬派であり続ける自信はない。
「嫌ならいいのよ。ここでおしまいにするから」
「う……わ、分かった」
ここで終わらせてしまっては、抜き身の刀からも不満の声が漏れてきそうだった。現に刺激が無くなったことに対してぴくぴくと不平を言うかのように揺れている。
ええと、謝罪。謝罪か。ユウギリに対してと、悪タイプに対して。両方を含めた言い方を頭の中で少し考えてからエクスは口を開いた。
「悪タイプを悪いものと決めつけてしまっていて、申し訳なかった。ゆ、ユウギリ……」
「んー、ちょっと気持ちが足りてない気がするけど……まあ、私の名前初めて呼んでくれたからおまけでよしとしてあげる」
とりあえず、謝罪は受け入れてもらえたらしい。続けてくれる、との約束通りユウギリは再び舌を抜き身に近づけて、はくれなかった。そのままエクスの上へと覆いかぶさって、ぐいっと腰を沈めてきたのだ。
「そ、そっちなのかっ」
「続きならこっち以外ないでしょ? 私もエクスの切れ味、ちょっとだけ楽しみにしてたんだからね」
ぬるり、と先端に生暖かい感触。自分から出た先走りの量にしてはやけに湿っている感触だった。ひょっとするとユウギリもそれなりに昂っていたのかもしれない。
そのせいか彼女が完全に腰を沈めてしまうまでにそこまで時間は掛からなかった。舐められるだけで達しそうになっていたエクスは、彼女の締め付けに歯を食いしばって耐えるのがやっとだったが。
ユウギリの方はというと、多少息を荒げながらもうっすらと笑みを浮かべる余裕くらいはあるようだ。それでも全く物足りない、というわけではなさそうなのでエクスの刀も思ったよりは中で健闘しているのかもしれない。
「それじゃあ……今度はちゃんと今から、動くからねっ!」
「んおっ」
手合わせとは違って、確かに予告通り。ただ、前もって教えてくれていても準備が出来ることと出来ないことがある。今回は後者であった。
軽く腰を浮かせたかと思うと、そのままぐっと沈めてきたユウギリ。エクスの腰刀は熟練の鞘に深々と差し込まれて、強烈にずるずると締め上げられて。
「あっ、がっ、かはっ……」
呼吸なのか、喘ぎなのかもはや分からない声と共にエクスは腰を引きつらせ、盛大に果てた。ぶるぶると震える肉棒に応じて、上のユウギリの下半身まで揺れてしまうくらい激しく。
彼女の中へと納まりきらなかった白い液体が結合部からぽたぽたと零れ落ちて、エクスの股間も濡らしていく。今の自分の頭の中と、どちらが白かっただろうか。
ユウギリの刃で殴られたときより遥かに、目の前がぐるぐると回って頭がぼうっとして。何も考えていられなくなる。ただただこの心地よさに身をゆだねて、全て投げ出してしまいたくなる。
「初めてにしては、なかなか頑張ったんじゃない。量も申し分ないし、エクスの刀。名付けて、ひけん・しらなみ、なんてどう?」
何がどうなんだ。と、エクスには言い返す気力もなく。息を荒げながら虚ろな瞳でユウギリを見上げることしか出来なかった。
視界がはっきりしていたとしても、たぶん彼女の目を直視することは難しかったはずだ。不意を突いてきたにしても、何もできずに手合わせで打ち負かされ。
さらにはユウギリの腹の下で無様な姿を晒しだして。今まで自分が積み上げていたプライドがすべてがらがらと音を立てて崩れ去っていくようだった。
けれども、喪失感ばかりではなくすっと心が軽くなった感覚もエクスは覚えていた。これはユウギリの中にすべてをぶちまけた後の快感とは、別のものだと思いたい。
「ねえ、エクス。ちょっとずつでいいから、仲良くしましょうよ。私は、同族に会えて結構嬉しかったんだから」
「……考えてやらんでもない」
ユウギリを拒絶する言葉が反射的に出てこなくなったのは、エクスの中で何かが変わり始めたからなのかもしれない。
一方的に敵視していた相手から味わわされた敗北によって、砕けた彼のプライドは小さな粒になって別の形を再び構築しようとしているようだった。
「もう、素直じゃないわね」
エクスの考えが少しは変わったことをユウギリも感じ取ったのだろう。やや呆れながらも、その口調には柔らかさが混じっていた。
おしまい