◇キャラクター紹介◇
○ナル:人間♀
アローラ出身のエリートトレーナーの卵。
現在はオレンジアカデミーの学生。
○ビーニャス:ガオガエン♀
ナルの最初のパートナー。
バトル好き。
○ハーミィ:マスカーニャ♂
ナルが入学するときに
仲間に加わった、ビーニャスの後輩。
お調子者。
「ビーニャス! DDラリアット!」
トレーナーのナルの命令を受け、ガオガエンのビーニャスは両腕を広げて勢い良く回転する。回転するラリアットをまともに食らった相手のペルシアンはボールみたいに吹っ飛んで、あえなくKOだ。
ナルは相手のトレーナーから賞金を受け取り、ビーニャスに向けてグッと親指を立てた。
それともう一人――いや、もう一匹。近くの岩に腰掛けたポケモンが、満面の笑みでパチパチと拍手をしている。
「ビーちゃんつよーい! カッコイー!」
マスカーニャのハーミィは、おどけた調子でビーニャスを褒める。
「ビーちゃんはやめろって言ってるだろ」
「えー。いいじゃん、カワイイのに」
「だからだよ。どう見てもそういうガラじゃねーだろ、アタシは」
こいつとパルデア地方で出会ってから、もう随分になる。お互いに立派に最終進化したというのに、進化前だった頃の呼び名を変えないのはわざとなのか、無意識なのか。
「ボクにとってビーちゃんはビーちゃんだよ?」
「……チッ、もういい。好きにしろ」
全く、調子を狂わされる。
昔はもっと純粋で可愛くて、弟みたいだったのに。いつからこんなにお調子者になってしまったのか。
「ビーニャス、ハーミィ! 行くよー!」
ナルの呼ぶ声がしてそちらを見ると、ナルばもう歩き出していた。二匹は駆け足で、トレーナーを追いかける。
二匹のトレーナー、ナルはオレンジアカデミーの学生で、チャンピオンを目指してジムを巡っている。これまでにハーミィと二匹で、四つのジムを制覇した。
ときにはダブルバトルをすることもあり、ハーミィは良き相棒である。
だが、最近どうも、それだけではなく、アタシはこいつのことが気になる。
「どしたの? こっちをじろじろ見て」
「なんでもない」
気がつくと目線がハーミィの姿を追ってしまう。
相変わらず、進化しても可愛い顔つきはそのまま――
「あー、可愛いボクに見とれてるんだー」
「そんなんじゃねえよ!」
ハーミィはまるでビーニャスの心を読んだかのように、イタズラっぽく笑う。
勢い余って否定してしまったが、まあ、可愛いのは事実なわけで。
「今さら見とれるかよ。何年一緒にいると思ってるんだ」
「じゃあボクが可愛いとは思ってくれてるんだねー」
「はいはい、可愛い可愛い」
自分で言うか、とツッコミたくはあるが、いつもこの調子なので、ツッコミにも飽きた。
適当にスルーするに限る。
「ビーちゃんもカワイイけどねっ」
「だーかーらー、そうやってからかうのはやめろって」
百歩譲って、アタシが可愛かったのなんてニャビーの頃の話だ。
今や、泣く子も黙る強面に、格闘タイプ顔負けの筋骨隆々の体。そんなガオガエンのアタシが可愛いなんて言われて、間に受けるはずがないだろうに。
「ボクは本気でそう思ってるんだけどなー」
本当に、こいつの心は読めない。
ナルはアローラ地方のエリートトレーナーの家系に生まれた。
アローラ地方では、トレーナーとしてデビューする際には、各地のトレーナー育成担当者から、初心者用のポケモンを一匹もらうことができる。
ポケモンをもらいにきた三人の子供。ナルはその中の一人だった。
「わぁ、この子かわいー!」
ニャビーのアタシのところへ、まっしぐらに駆け寄ってきた無邪気な女の子だ。
「えー、おまえ知らないのかよ」
別の男の子が、ナルの後ろから声をかける。
「ニャビーは進化すると立つんだぞ」
「へ? 立つからなんなの?」
ナルはきょとんとした様子で、男の子の方へ振り返る。
「へへっ、まあいいや。オレはモクローにするぜ。カッコよく進化するからな!」
「じゃ、ぼくはアシマリで」
もう一人の男の子もポケモンを選び、意見は割れることなくパートナーが決まった。
「よろしくね! わたしはナル! ええと、きみの名前は……どうしよっかな……」
ナルはうーん、と首をかしげる。
すると、アタシをここへ連れてきた大人の女性が、ナルに話しかけた。
「この子、女の子なんだ。ニャビーはほとんどが男の子だからね、めずらしいよ」
「女の子! わたしといっしょだ! じゃあ、えーと……」
このときもらった名前は、今のアタシには似合わないかもしれないけれど。
「ニャビーの女の子だから……ビーニャス! 進化しても、美人さんになるんだもんね!」
子どもの頃のナルが願いを込めて与えてくれた、大切な名前だ。
その後、家庭の事情でパルデア地方に引っ越すことになったビーニャスとナル。
ナルは十二歳、ビーニャスはニャヒートに進化していた。
「立つってなんだったんだろ。ちょっとふとましくなったけど、ビーニャスは今日もかわいいよね!」
オレンジアカデミーへの入学が決まったナルの手持ちに、新たに一匹のポケモンが加わることになる。
くさねこポケモンのニャオハ。
人懐っこそうな瞳が印象的だった。
「ニャオハだから……ハーミィってのはどぉ? ねえビーニャス、いい名前だと思わない?」
ナルに同意を求められた。まあ、いいとは思うが、大事なのは本人が気にいるかどうかだ。
「ハーミィ、だってさ。お前の名前。気に入った?」
「……うん。ボクの、名前……ハーミィ。かわいい。すき」
ニャオハの男の子は、屈託のない笑顔をみせて、頷いた。
「気に入ったってよ」
ポケモンの言葉は直接人間には伝わらないが、信頼関係を築いたトレーナーとなら、ある程度の意思疎通はできる。
「うんうん。ビーニャスもさんせーってコトで! きみの名前はハーミィ! これからよろしくね!」
これがアタシとハーミィの出会いだった。
それからナルは、アカデミーの寮に入る。
ナルは最初の相棒のビーニャスと、パルデアに来てから出会ったハーミィを等しく可愛がってくれて、夜は二匹と一人で体をくっつけて眠った。
ハーミィにはヒトと暮らす上でのしきたりを教えてやったり、アカデミーでボケモンバトルの実践を学ぶときには、稽古をつけてやったりと、それこそ姉弟のように育った。
それから一年ほどが経ち、先に
「立った……ハーミィが立ったよ……!」
ハーミィはニャローテへ進化して、二足歩行になった。
「立つってそういうことかぁ。でもこれはこれで、可愛いよねっ」
ナルは戸惑いつつもすぐに受け入れたが、ビーニャスはそうもいかなかった。
ハーミィの視線が自分より高いところにある。体格こそニャヒートの方が大きいものの、あんなに小さかったハーミィに見下ろされてるのは変な気分だった。
「ビーちゃんっ! 撫でさせてー」
おまけに、二足歩行になったのをいいことに、ハーミィはナルの真似をし始めた。
「ちょっ、おい! 恥ずかしいからやめろって……!」
ニャオハだった頃はアタシの足元にすり寄ってきていたくせに。
「えー。ナルはいいのにボクはだめなの?」
「アタシの方が先輩なんだからな!」
「先輩を撫でちゃダメなの……?」
「ダメとは言ってないけど……」
思い返せばこのとき、片鱗を見せていたのかもしれない。けれど、そんな日々は長くは続かなかった。
課外学習で野生のポケモンとバトルするうち、ビーニャスが二度目の進化をしたのだ。
「ビーニャスも……立った……?」
ナルの驚きと戸惑いは、ハーミィが進化したときの比ではなかった。立ち上がっただけではない。身長はニャローテのハーミィの倍はあるし、百五十センチそこそこのナルよりも遥かに大きい。
「……でも、ビーニャスはビーニャスだもんね!」
どんな姿になっても、子供の頃からの相棒だ。ナルは変わらず愛情を注いでくれたが、関係性には少なからず変化はあった。
ナルの部屋に、大きな寝床が新しく作られた。ナルのベッドで一緒に眠るには、ガオガエンに進化したビーニャスはさすがに大きすぎる。
ニャローテのハーミィが変わらずナルのベッドで眠るのを、ビーニャスは新しい寝床から微笑ましく眺めていた。
子供みたいに可愛がられることが恥ずかしくなってきていた頃だったので、寂しくはなかった。一足先に大人になったんだと、嬉しくもあった。
ハーミィがバトルで活躍すると、ビーニャスは彼の頭をぽんぽんと撫でてやった。進化前のお返しだ。
「やるじゃねえか」
「……ありがと、ビーちゃん」
照れくさそうに笑うハーミィは、また素直な弟に戻ったようだった。
しかし、いずれハーミィも進化するときがくる。互いに大人になったとき、どんな関係性になるのか。進化前のニャヒートとニャローテの体格差を考えれば、ガオガエンより大きくなることはないと思いたいが、一進化で立ったという実績がある。
ものすごく背が高くなって、またハーミィに見下ろされる可能性も――
そうして時は流れ。
背が抜かされる心配は杞憂に終わった。
マスカーニャに進化したハーミィは、ニャローテの頃よりは背は伸びたものの、ガオガエンのビーニャスより三十センチほど低い。
「へへっ、アタシが撫でるのにちょうどいい高さになったじゃねえか」
「うーん……背伸びしないと届かない……」
「お前は撫でなくていいんだよ」
「ちぇー。進化したらビーちゃんより大きくなるかもって思ったのになぁ」
「残念だったな。けど、アタシは良かったと思ってるぜ。お前が進化しても可愛いままで」
「カワイイ……かぁ」
二匹の関係は、これからも変わらなさそうだ。
このときは、そう思っていたのに。
あれからさらに二年が過ぎ、現在。
十六歳になったナルはアカデミーの四年生。今年が卒業の年だ。
もう単位は揃っていて、この卒業前最後の課外授業で残りのジムを攻略してチャンピオンを目指している。
過去には一年生のうちにチャンピオンになってしまった学生もいたらしいが、本来は、チャンピオンの称号を得られるだけでもトレーナーとしてはエリートの部類なのだ。
まあ、ナルがビーニャスとハーミィの二匹だけで戦うことにこだわっていなければもっと早く目標をクリアしていたかもしれないが。
そんなこんなで、テントを張るのを手伝いもせず、念入りに毛づくろいをしているこのマスカーニャは、今や立派な戦友である。
ジム巡りの旅では、夜には野宿になることが多い。キャンプを張り、サンドイッチを作ってポケモンと一緒に食べるのもパルデアのトレーナーの慣習である。
「お前、ほんとキレイ好きだよな」
「今日もいっぱい戦って、汚れちゃったし」
「アタシ達はバトルが仕事なんだから気にしても仕方ないだろ」
「でも、夜はナルに添い寝してあげなきゃいけないから、キレイにしておかなくちゃ」
そうなのだ。ハーミィは未だに、ナルと一緒に寝ている。
ハーミィとナルの関係は、マスカーニャに進化しても変わらなかった。
まあ、今ではナルの方が少し背も大きいくらいだし、彼女の中ではハーミィは小さくて可愛いイメージのままなのかもしれない。
「ビーちゃんもちゃんとしておいたほうがいいよー? 炎タイプだから水浴びとかニガテでしょ」
「アタシだって最低限はやってるっての」
こいつほど神経質ではないが、身嗜みの一環として、全く気にしていないわけではない。
「……臭かったりしたらお前やナルに嫌われるし」
「ふーん。やっぱりボクに好かれたいんだー?」
ハーミィはこちらに近寄ってきて、上目遣いでイタズラっぽい笑みを浮かべる。
不意打ち気味の表情に、一瞬、胸がとくん、と高鳴った。
「そこまでは言ってない」
否定しながらも、動揺を隠しきれない震えが声に出てしまったか。
「ふふ、照れちゃってぇ。ま、とーぜんだよね! ボクって可愛いから」
また、それに気づかないハーミィではなかった。
ここぞとばかりにビーニャスをからかってくる。いや、可愛いとは思っているし、照れてしまったのも事実ではあるのだが。
それはそれで腹が立つというか、認めたくない気持ちが勝ってしまう。
「勝手に言ってろ」
ぶっきらぼうな言い方で突き放すことしかできなくて。
本当は昔みたいに、仲良くしたいのに。
それからナルが作った焼きチョリソーのサンドイッチを食べて、ビーニャスが起こした焚き火にあたりながら、ハーミィと今日のバトルの反省会。
ナルはスマホロトムで新しく出会ったポケモンや技の知識を調べたりと、座学に余念がない。
「ボクたちもナルの頑張りに応えなきゃね」
「ああ。それは違いねえな」
ハーミィも、最近ではビーニャスと遜色ない活躍をすることも増えてきた。
今では弟や後輩ではなく、対等な仲間として頼りにしている。
こうしてバトルの話をしているときは、その対等な関係性が心地いい。
昔のように仲良くはしたい。
けれど、アタシはもう、姉弟のような関係を望んでいるわけではない。
「……ふぅ。ボクはもういいや。残り、いる?」
ハーミィは半分ほど食べたサンドイッチを、こちらに差し出した。
草タイプのポケモンの多くは光合成ができるから、光と水と空気があればある程度は生きていけるらしい。水は多く必要になるから、要するによく飲むがあまり食べない。
「いらないなら貰っとくが……お前、もっと食わないと体力つかねえぞ」
「ま、体力担当はビーちゃんってコトで」
「ったく……」
それからいつも通り、ハーミィとナルはテントで、ビーニャスは外で寝るのが習慣になっていた。
夜も更けた頃、テントの幕がゴソゴソと開く音でビーニャスは目を覚ました。
ちょうど出てきたハーミィと目が合う。
「あれ? ビーちゃん、起きてたの?」
「いま起こされたんだよ」
「ごめんごめん。ナルを起こさないようには気をつけたんだけど……」
普段から外で寝ていると、警戒心も強くなるのか、ちょっとしたことで起きてしまう。
ハーミィは用を足すためだろう、そろりそろりと歩いて、近くの茂みに消えていった。
その姿を横目で追いながら、目を閉じる。
意識はまたすぐに眠りに落ちて――
「ビーちゃん」
――落ちていた意識が、耳元で囁く声に引き戻された。
気がつけば、ハーミィがすぐ近くにいた。
「わっ……!? な、なんだよ、びっくりした」
「久しぶりに、ボクと一緒に寝ない?」
「はぁ!?」
突然の提案に驚いて、声がひっくり返ってしまった。
「ちょっと、大声出したらナルが起きちゃうよ」
「いやだってお前、きゅ、急に何を言い出すんだよ」
「急にって……ビーちゃん、いつも一匹で寝てるから寂しいかなって」
「もう子供じゃないんだ。寂しくなんか……って、おぉい!?」
伸ばしていたビーニャスの腕を枕にして、ハーミィは身体を丸め、背中をくっつけてきた。
「いーじゃん、たまには子供の頃みたいにさ」
ニャオハの頃から変わらない、甘い香りが鼻をくすぐって、少し懐かしい気持ちになった。
けれど、今は何故か、それだけじゃなかった。
周りをリラックスさせる香りのはずなのに、どうして、こんなにも胸がどきどきするのか。
「ビーちゃんの体、あったかいなぁ」
「あ、ああ……炎タイプだからな」
「そんじゃ、朝までおやすみー」
それから一分と経たないうちに、ハーミィはすやすやと寝息を立て始めた。
本当にただの気まぐれで、ビーニャスと添い寝がしたかっただけのようだ。
ていうか、アタシは何を考えていたんだ?
一緒に寝ようと言われただけで、それ以上でも以下でもないのに。
ガオガエンに進化する前は、背中を丸めたハーミィを後ろから抱いて、ビーニャスも一緒に丸くなって。その後ろからナルが抱いてくれて。
あの頃と同じように、ハーミィの背中を抱こうと、その細い体に腕を回そうとしたところで、思いとどまった。
無理だ。そんなこと。
何故だか、そうするのが怖い。抱きしめてしまったら、後戻りできなさそうで。
ああ、そうだ。アタシはもう、気づいている。
アタシはこいつを弟でも仲間でもなく、一匹の異性として、意識しているんだって。
結局、あれから一睡もできなかったせいで、翌日のバトルはあまり調子が上がらなかった。
八割の命中精度はあるはずのクロスチョップは全部外すし、逆に自分は相手の技を避けられないし、連続技は全段食らうし。
案の定、その夜の反省会でハーミィに突っ込まれた。
ナルは少し離れたところにテーブルを設置して、サンドイッチを作っている最中だ。
「なーんか今日のビーちゃん、動きにキレがなかったよねー。らしくないっていうか」
「寝不足なんだよ。そんな日もあるだろ」
お前のせいでな、とは言いたくても言えなかった。
言ってしまえば、余計にからかわれるに決まっている。
「寝不足ぅ?」
しかし、ハーミィの性格を考慮していなかった。こいつは、たとえ言わなくても――
「あー。そっかぁ。昨日はボクが添い寝してあげたから……」
――なんでもかんでも、自分の都合のいいように解釈するやつだった。
ところが、今回に限ってはそれが図星なのがまた困る。
ハーミィはいつもの悪戯っぽい微笑みを浮かべて、ビーニャスに詰め寄ってくる。
「ビーちゃんったら、なんかや~らしいコト考えちゃったんでしょー。それで眠れなかったんだぁ」
「ばっ……誰がお前なんかと……!」
「えー。じゃあボクのことキライなの? 傷ついちゃうなぁ」
「なんでそう両極端な話になるんだ! 嫌いだなんて言ってないだろ」
「じゃあやっぱり? ボクにドキドキしちゃったんだ?」
ああもう、ムカつく。なんでアタシがこいつに手玉に取られなきゃいけないのか。
生意気でお調子者で、でも憎めなくて、いつまでも可愛いこいつには――
一度、わからせてやる必要がある。
「ああ、そうだよ! ……って言ったらどうすんだ? ハーミィ」
「……え゛!?」
ハーミィはこの反撃を予想していなかったのか、目を見開いて後ずさりした。
「え、ええ~っとぉ……ビーちゃんに限って、そんな……ね?」
ハーミィは顔を赤くして、露骨に戸惑っている。この反応は予想外だった。
こいつ、今まで散々アタシをおちょくっておいて、自分が言われる側になると弱いのか。
慌てふためくハーミィを見ていると、今までの借りを返してやりたくなってきた。
「お前、アタシをなんだと思ってるんだ? アタシだって一匹の雌なんだぜ」
「そ、そ、そ、それは……」
ハーミィは首をぶんぶんと振って、ビシッとビーニャスの鼻を指さした。
「じょ、じょーだん言ってボクをからかってるんでしょ! その手には乗らないからね!」
動揺を振り切ったつもりらしいが、まだ顔は赤いし、声も上ずっている。
滅多とない機会だ。もう一押ししてやる。
「冗談だと思うなら、確かめてみるか?」
「ど……どうやって確かめるっていうのさ?」
「今日の夜、またテントを抜け出してアタシのところに来いよ。そうしたら教えてやる。アタシが本気だってこと」
「ふーん、ホントにホンキなんだ? いーのかなぁ、そこまで言っちゃって」
ハーミィはようやく落ち着いてきたのか、いつもの調子を取り戻してきた。
「ボク行っちゃうよ? ビーちゃんをゆーわくしちゃうよ?」
「へッ、その勇気があるならな。アタシはもう、お前の口ばっかりには騙されないぜ」
「ふたりとも、サンドイッチできたよー! ……あれ?」
ナルはいつもと違うビーニャスとハーミィの様子を交互に見て、首を傾げた。
「ケンカした? いつも仲良しなのに……」
二匹は気まずくなって顔を見合わせた。
が、ナルに要らぬ心配をかけたくない気持ちは、二匹とも同じだ。
「食べよっか! 今日の具材は何かなーっと」
「……そうだな。サンドイッチを食べたら、真面目に反省会だ」
さっきまでの会話は忘れて、それからはいつも通り。
ビーニャスの不調は、ナルは運が悪かった程度にしか考えておらず、あまり気にしていないようだった。それよりも、下振れを引いてもバトルに勝てたことを褒めてくれた。
そうして、その日もまた夜は更け――
あんなことを言った手前、先に寝てしまうわけにもいかず。
ビーニャスはハーミィとナルが眠るテントを、じっと見つめていた。
けれど、一向にハーミィが出てくることはなく。
さすがに疲れて、ビーニャスは眠りに落ちてしまった。
そうして何時間か、眠っていただろうか。
「――ちゃん」
またあいつの声がする。聞き心地の良い草笛のような、澄みきった声。
けれどどこかアタシをバカにしているような、ちょっと癇に障る声色。
「ビーちゃん」
「……はっ? な、なんだよ。ハーミィか……」
まだ朝にはほど遠い、深い夜。
なぜハーミィが起こしにくるんだ?
「……んもぉ。ホンキだとかなんとか言ってたくせに、爆睡してんじゃん」
寝ぼけて頭が回っていなかったが、ハーミィに言われて、思い出した。
「おっ、お前……! な、なにしに来たんだよ」
「んー? ビーちゃんが来いって言うから来たんだけど?」
本当に来るとは思っておらず辟易するビーニャスに対して、ハーミィは余裕たっぷりの挑発的な態度だ。
「ふふふ、口ばっかりはビーちゃんの方だったね」
まさか、ハーミィにここまでの度胸があったとは。
十中八九来ないと思っていた。
だが、ハーミィは来た。プライドの高さゆえの、チキンレースのつもりか。
「勘違いすんな。アタシは言ったことはやるぜ」
「……ほ?」
ビーニャスは一瞬反応の遅れたハーミィに近づいて、肩と膝の下を支える形で抱き上げた。
お姫さま抱っこというやつだ。
「わっ、ちょっ……ビーちゃんっ!?」
「騒ぐな。お前はアタシの誘いに乗ったんだ。覚悟を決めろ」
こうなったらもう、自分の気持ちに正直に行動するだけだ。
ナルにバレるとまずいし、人やポケモンが通りかかる可能性もあるので、そのままハーミィを茂みの中へと連れ込んだ。
「えっ、あ、あの……ほ、ホンキなの……?」
「だから本気だって最初から言ってんだろ」
ハーミィの細い体を仰向けに寝かせ、ビーニャスは膝をついて、見下ろす格好になる。
「ぼ、ぼ、ボクは、こんな……こんなつもりじゃ、なくて……」
「散々アタシを挑発しておいて、今さらなに言ってやがる。お前も自分の言葉に責任を持て」
ハーミィはこれまでに見たことがないくらい動揺しているが、逃げる素振りは見せなかった。
本当に嫌だったら逃げ出したっていいんだ。
きっとハーミィも少しは、アタシに気があるんじゃないのか。
「……せ、責任……っ!? え、や、やっぱり、え、え、えっちなことするの!?」
「……あのな。そうじゃなかったらなんだってんだ」
二匹とも大人になったと思っていたが、こいつ、もしかして中身は子供のままなんじゃないのか。
ええい。
ここまできたら、ハーミィがたとえ無知だとしても後には引けない。
ビーニャスはハーミィの細かな濃緑色の体毛が生えた後足に触れ、すぅっ、と股の間へと手を滑らせていった。
薄緑色のモフモフとした体毛の下に、隠れていた柔らかな袋が二つ。
「ゃっ……そ、そんなとこっ……触られたら……!」
いつもの強気な態度はどこへやら、想像もつかない可愛い反応に、ビーニャスもぞくりとした興奮を覚えた。
袋の間、もう少し前を指先で探ると、ぷにゅ、とした感触の小さな突起上のモノにたどり着く。
「んにゃっ……! だ、ダメだよぉ、ビーちゃんっ……!」
そこを指先でグルグルと軽く回すように愛撫すると、突起がにゅっと伸び始めた。
「あっ、ぁっ、ぁっ……! な、なんだか、ムズムズするよぉ……! ふぁあっ……!」
指先でつまむことができるぐらいの大きさになったところで、ビーニャスは顔を近づけた。
いつも隠れていた薄緑色の体毛の下を、こんな風に覗き込んでいる背徳感で、自分の呼吸が荒くなっているのがわかる。
まだほんの少し反応しているだけのピンクの突起を、ペロリと舌で舐めた。
「はああぁぁんっ……! ううぅ、背中もゾクゾク、してきてっ……ぁっ、ああぁっ……なにこれぇ……っ……!」
チロチロと舌を這わせると、ハーミィのものはピクピクと反応しながら、少しずつ大きくなってくる。先端からは、透明な粘液が染み出してきている。
「だ、だめぇっ……、ビーちゃん、やめてっ……!」
「ん、れろ……ちゅ……どうしてだ……? 気持ちよさそうじゃないか……」
反応がいちいち、初心で可愛い。
もしかすると、一匹でしたこともないのか。
「お、おしっこ……出ちゃいそうなのっ……!」
どうやら、ビーニャスが思っていた以上に、知識も子供だったようだ。
もうマスカーニャに進化して大人になったと思っていたが、本当にこいつは見かけと態度ばかりで。
「それはおしっこじゃない……んっ……出して……いいんだぞ……れろっ……」
「そ、そんなぁっ……んっ、あぁっ……! ほ、ホントにダメだよぉ……!!」
ビーニャスは構わず、ハーミィにソフトなフェラチオを続けた。あまり刺激を強くしたらハーミィが壊れてしまいそうだから、優しく。
「にゃっ、ぁっ……ふにゃぁぁぁ……っ……」
ハーミィが力の抜けた声を上げたのと同時に、彼のものから生温かい透明の液体が噴き出した。
ビーニャスはそれを顔に浴びてしまい、思わず軽く仰け反ってしまう。
それは噴水のような勢いでなかなか止まらず、ビーニャスとハーミィの間に水たまりを作っていく。
体から放つ甘い香りに加えて、植物の葉や茎を絞って出てきた水を薄めたような、草の匂いが広がって、一瞬、なんだかわからなかったが、すぐに合点がいった。
「……悪い。本当におしっこだったのか」
草タイプだから、やっぱり体は植物に近いらしい。
「だ、だから……言ったのにぃ……ビーちゃんのばかぁ……」
ハーミィは涙ぐんだ目で、こちらを見つめている。そんな視線を向けられると、悪いことをしている気分になる。
が、元はと言えばビーニャスをからかって挑発して、プライドのためだけに意地を張ってここまで来たんだから、悪いのはこいつだ。
「続き、やるぞ」
「続きって……ボク、おもらしさせられちゃったのに……ま、まだやるの……?」
「当たり前だろ」
半勃ちのままになっているピンクのソレを、かぷりとくわえ込んだ。
「にゃぅぅっ……!」
その瞬間、ハーミィの体がビクンと跳ねた。くわえた肉の突起も、根元からピクピクと動いて――
「ぁっ、あ、ぁぁ……」
今度は、口の中でおしっこをされた。ビーニャスがくわえた刺激で、まだ残っていたおしっこを出してしまったらしい。
「んっ……ん、く……」
こうなっては仕方がないので、ハーミィのものをくわえたまま、口内に出されたおしっこを嚥下する。
「び、ビーちゃん……そ、そんなっ……飲んじゃダメ、だよぉ……」
ほとんど水みたいな味だったが、ほんの少しだけ、青汁みたいな、青臭い風味がした。
草
「ん……っ、はぁ、はぁ……お前が……アタシの口の中でするからだろ……」
そこから舌で刺激を続けると、今度はまた、少し粘性のある液が蜜のように湧き出してきた。くわえたモノがさらに大きく、固くなってくる。
「んっ、……ちゅぅ……っ…」
「や、やっ……吸わないでぇ……!」
牙で傷つけないように注意を払いながら、大きくなった突起を根本から吸い上げる。
「にゃっ、あ、ぁあぁっ……!」
「ぢゅぅぅぅっ……ぷはっ……はぁ、ふぅ……」
息継ぎのために口を離すと、そのピンクの肉棒は信じられないくらい大きくなっていた。
始める前は体毛に隠れて見えないくらいだったのに、今や前にも尻尾が生えてきたのかと思うくらいの主張でそそり立っている。
このまま口で最後までしてしまおうか、とビーニャスは思っていたのだが、ハーミィの反応があまりに可愛くて。ビーニャスの下半身も、ぐちゃぐちゃに濡れてしまっていた。
やっぱり、我慢できそうにない。
「ハーミィ……いいか……?」
「ボク、こんなにされちゃって……もう、なんだっていいよぉ……」
「言ったな……」
ビーニャスはぴんと突き立ったピンク色の突起に、自分の秘所をあてがった。
けれど、思ったより簡単には挿入らなかった。
ガオガエンの方がマスカーニャより体格は大きいはずなのだが。
「ちっ……難しいな……」
「ぁふっ、ビーちゃん……それじゃくすぐったい……」
「うるせえな、アタシだって初めてなんだよ!」
羞恥心を隠そうと、声が大きくなってしまった。
なんとかハーミィのものを中に入れようと、少し体重をかけると、互いの潤滑液が滑って、ぬるん、と先端が入ってくるのがわかった。
「ん……くぅ……ちょっと、入ったか……?」
「ビーちゃん……もっと、こっち……」
苦心していたら、ハーミィが下から手を伸ばして、ビーニャスの体に抱きついてきた。
ここまでくると、さすがのハーミィもなにをするかは理解して、覚悟を決めたようだ。
「なっ!? ちょっ、待てって……!!」
ハーミィがぎゅっとビーニャスの体を抱き寄せたとき、二匹の力が合わさって、ハーミィのものが奥まで入ってきた。
「ぁあああっ……!!」
少しの痛みはあったが、急展開への驚きの方が大きかった。
「だ、だいじょうぶ……? ビーちゃん……」
「はぁ、はぁ……ちょっとびっくりしただけだ……問題ねえよ……」
ゆっくりと、ビーニャスは腰を前後に動かし始める。
「ぁっ、ふぁっ、んっ……!」
ハーミィの可愛い喘ぎ声と、下半身に突き刺さる未知の刺激、そしてなによりハーミィとひとつになった喜び。
お腹の奥から全身へじわりじわりと快感が広がっていく。
「んんっ……くっ、ふぅ……っ! ハーミィ……痛く……ないか……?」
雄の体がどんなふうに感じているのか、ビーニャスにはわからない。自分の快楽に走りたい気持ちを抑えて、ハーミィの様子を伺う。
「ボクは……平気、だけど……ビーちゃんこそ……」
それはハーミィも同じなようで、その気遣いが少しうれしい。
しかし、ハーミィが平気と知れば、衝動を抑えきれなかった。
「アタシは……もっと激しく、したい」
「えっ……?」
戸惑うハーミィの声。でも、もうこの衝動は止められない。
「いいよな……?」
これまでより激しく腰を動かすと、二匹の接合部が潤滑液で滑り、ピストンのように往復する。
「っ、ん、ふぁああっ! そ、そんなにされたらっ……ビーちゃん……!」
今はビーニャスの中にあるハーミィの一部が、ときどきピクピクと脈打っているのがわかる。
それに加えてハーミィが自分の名を呼ぶ声もまた、快楽の一部となって溶け合い全身へと駆け巡っていく。
「はぁっ、はぁっ、んっ……ぅああっ……! ハーミィっ……!」
「ビーちゃん……ぁっ、ふあぁっ、ビーちゃんっ……!」
こちらもハーミィの名を呼ぶと、それ以上にたくさん返ってきて。
こんなにも求められている。今、ハーミィはアタシのものなんだと強く実感する。
その感覚がさらに興奮を高め、二匹は互いの存在を意識しながら、快楽の頂点へと昇っていく。
「あっ、あっ、あぁっ……! ビーちゃん、ボク、もう……ビーちゃんっ、ビーちゃん……! ふにゃああああ~っ……!!」
これまでより一層甲高く、喘ぎ声というより鳴き声のようなハーミィの声が聞こえたとき、お腹の中のモノがどくん、と脈打ちながら、熱いものを吐き出すのがわかった。
「ぁっ、ハーミィっ……出てるよ……っ……、ぁ、あ、あああああっ………!」
その熱さを感じた瞬間、全身を駆け巡っていた快感が爆発的に高まり、視界が真っ白になった。あまりの快感の強さに耐えきれず漏れた自分の嬌声に驚く間もなく、全身がガクガクと痙攣する。
断続的に自分の中で放出されるハーミィの熱い体液の流れを感じながら、ビーニャスはぐったりとハーミィの上に倒れ込んだ。
ああ、ハーミィとついに雌雄の関係になってしまった。
ビーニャスは絶頂の余韻とその嬉しさを噛みしめて、しばらく茫然自失としていた。
そのまま五分ほど経過しただろうか。
「……ビーちゃん。そろそろ苦しい……」
遠慮がちなハーミィの声で、はっと我に返った。
「わ、悪い! アタシ、お前の上に乗ったまま……」
ビーニャスは慌ててハーミィの体から降りて、その隣に横たわった。
細身のマスカーニャと筋骨隆々のガオガエンの体重差は倍以上もある。さぞ重かったことだろう。
「お前を潰しちまうとこだった……」
「べつに、ボクはそこまでヤワじゃないよ」
ハーミィも横を向いて、ビーニャスと向き合う格好になる。
しかし、ハーミィの口をついて出たのは、予想外の言葉だった。
「ビーちゃんに襲われちゃった……あーあ、初めてだったのに……」
不満そうに口を尖らせるハーミィを見て、ドキリとする。黒い鉄球を飲み込んだような感覚に、血の気が引いた。
おいおい。もしかしてアタシは、勝手に両想いだと勘違いして、とんでもないことをしてしまったんじゃねえのか。
「えっと、ハーミィ……あ、アタシはその……な、なんと言って詫びればいいのか――」
誠心誠意、謝るしかない。そう思って切り出した矢先に、ハーミィは笑い出した。
「うふふふっ。ビーちゃん、やっぱりおもしろ~い」
「……は?」
ハーミィにからかわれていることに気づいたときは、正直イラッとした。
「お前なぁ……アタシの純情を弄びやがってこの野郎!」
「わーっ、わーっ! 怒らないで、ビーちゃん……!!」
跳ね起きて駆け出したハーミィを、ビーニャスもすぐに追いかける。
しかし、俊敏性ではまるで勝負にならない。ハーミィの背中はぐんぐん遠ざかる。
ビーニャスが茂みを飛び出したときには、ナルのテントに駆け込むハーミィの姿が見えた。
「くっそ、あの野郎……」
そう口には出したものの、正直なところ、もうビーニャスの怒りはほとんど収まっていた。
冗談を言うということは、ハーミィも嫌ではなかったのだ。ハーミィに受け入れてもらえた。その事実がはっきりしただけで安心する。
「ハーミィとアタシ……これからは、恋人同士……ってことだよな……」
自然と、顔がほころぶのを我慢できなかった。
ビーニャスとしては余韻に浸りながら甘いピロートークをしたかったが、中身が子供のままのハーミィにそんなものを期待したのがバカだった。
でも、恋人同士なら、また何度だって機会はある。
ガキのあいつに、これから一つ一つ教えてやればいい。
「ったく……アタシはなんであんなヤツ、好きになっちまったんだろうな」
ハーミィがテントに戻ったあと、急にどっと疲れがきて、それから朝まではぐっすりだった。
「ビーちゃん、おはよー」
「ああ、おはよう」
ナルが勘づくこともなく、ハーミィもいつも通り。
互いに気恥ずかしくて、ビーニャスも昨夜の話はしないようにつとめた。
けれど、あれだけ求め合い、肌を重ねた余韻が、まだぼんやりと残っていて。
「この調子なら今日は次のジムまでたどり着けそう……」
スマホロトムでマップを確認しているナルを横目に、ハーミィとビーニャスはどちらともなく近づいて、身を寄せ合った。
「……なんだよハーミィ」
「ビーちゃんこそ……」
まだ少し、触れ合っていたい。そんな気持ちが互いに透けて見える、朝。
ビーニャスは身をかがめて、ハーミィと顔の高さを合わせて――
「よし! ふたりとも、出発するよ!」
「ひゃぁっ!」
「うわっ!?」
ナルの声に驚いて、キスはできず終いだった。
けれど、ナルの後ろについて歩き始めたとき。
ハーミィは無言で横に並んで、ビーニャスの手を握った。
「……っ。おい、ハーミィ……」
息を呑んで横を見ると、ハーミィは向こうに顔をそらしていて、その表情は伺えない。
「いーじゃん、べつに……」
見えなくても、その照れた顔を想像するだけで、ビーニャスには十分すぎるご褒美だった。
生意気でお調子物で、とびきり可愛いこいつとの旅路は、この先なにがあっても、素晴らしい思い出に残るだろう。
戦友としての、そして恋人としての絆で、なんだって乗り越えられそうな気がする。
ビーニャスはハーミィの手をぎゅっと握り返した。
「もう、離さないからな」
-Fin-
三月兎です。
マスカーニャのカップリングが書きたかったので勢いで短編を執筆しました。
いいキャラができた気がするので、もしかしたら続くかもしれません。
例によって例のごとくですが、
あまり期待せずに次回作をお待ちいただけますと幸いです。
もしよろしければ、作者の過去作もよろしくお願いいたします。
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