大会は終了しました。このプラグインは外して頂いて構いません。
ご参加ありがとうございました。
エントリー作品一覧
※高密度作品につきペース配分注意
「あとはトランクにこの機材を詰め込んで、と」
どうにか荷物をトランクに詰め込んで汗を拭う。
僕が格闘タイプで今が冬場だったとしても、荷物の積み込み作業を一人でやってたら流石に汗もかくし暑く感じる。
「荷物、全部積み込んでくれたのかい?」
「はい、サンドル先生の助手ならこれぐらい当然です!」
「それは頼もしいね、でも君の荷物も忘れず後部座席に置いておくんだよ」
「僕の荷物ですか?ショルダーバッグはここですし先生と違って着換えも要らないですよ?」
「そうは言っても泊りがけで温泉に行くんだ、タオルや洗面道具なんかは持っておいてもいいと思うよ」
「そうですね、置いてきます!」
サンドル先生は新進気鋭の小説家で、3年前にデビューしてから格好良さを追い求める作風に少しずつファンも増えてきている。
本名は「サンドル・M・コウキ」というらしく、生まれが複雑だったせいでペンネームみたいな名前になっちゃったからそのまま使ってると教えてくれた。
「荷物置いたんでもう一度戸締り見てきますね!」
後部座席に荷物を置いてからもう一度仕事場を兼ねた先生の家の戸締りを確認していく。
そういえば僕の自己紹介がまだだったかな…
僕はサンドル先生の手持ちポケモン兼助手兼一番弟子をやってる雄ポのルカリオだ。
エールっていうのが名前なんだけど、どうやらカロス語から来ているらしい。
でも格闘タイプに「翼」を意味するカロス語の名前ってのも変わってるよな?
とりあえず家の戸締りは大丈夫そうだ、そのことを先生に伝えると頷いて玄関のカギをかけた。
水道とガスは今朝から数日間は止めてるから火の元は問題なし、僕と先生は車に乗り込んだ。
サンドル先生の運転はとてもスムーズで、混雑した道路にも関わらず高速道路のインターチェンジまで予定時間通りに着けそうだ。
お気に入りのオレンジティーで喉を潤して、ぼんやり車窓をながめていると楽しさとリラックスする感覚が共存しているような気分になる。
「それじゃあエール、おさらいも兼ねてそろそろ今回の旅行の目的は何だったか確認しようか」
インターチェンジ手前の交差点まで来て、信号待ちの間に先生からの質問。
これも立派な弟子としての勉強だ、頑張って答えなきゃ…!
「えっと、きっかけはまずサンドル先生が【本場の温泉まんじゅうを食べたい】って言い始めたのがきっかけで…」
「エール、前回教えたことを覚えているかい?相手に伝えたいことがある時は…」
「そうでした、【結論から先に伝えたり要点をまとめて書く】でしたね!」
「その通りだよ、じゃあ今回伝えるべきは【行き先】と【何をしに行くか】だね」
「なるほど、だったら【温泉地に取材旅行へ行く】でどうでしょうか?」
信号が青に変わって出し忘れたウインカーのチカチカという音が鳴り始める。
「【行き先】も【何をしに行くか】もきちんとまとめられているね、合格だよ。確かに僕がリアリティを求めてることとか、編集者の魔の手から逃れて温泉でくつろぎたいとか、本物の温泉まんじゅうや温泉たまごを食べてみたいとか理由は色々あるけど、目的を伝えるにはその二つで十分だ。これは小説でも使えるテクニックだよ」
やった、ヒントは貰ったけどサンドル先生から褒めてもらえるなんて…!
「ご褒美というほどでもないけど、よく勉強してるエールにはこれをあげよう」
信号が右折の矢印に変わる3秒前ぐらいのタイミングで先生がパンを入れるような紙袋を渡してくれた。
中にはチョコで固められた輪切りのオレンジがいっぱい…!
「オランジェットだ!」
「目的地までは6時間ぐらい余裕でかかるからゆっくりおやつに食べるといいよ、オレンジティーにもよく合うと思うよ」
まさか先生が僕の好物を買っていてくれたなんて素直に感激…!
おいしいオランジェットを食べているとオレンジティーも一緒に楽しみたくなって両方一緒に堪能する。
インターチェンジを通り抜けて車窓を流れる景色はスピードを上げた。
「そうだ、ちょうど昨日新作を書き上げたんだけど暇つぶしに読んでみるかい?」
高速に乗ってから1時間ほど経って何故か量が増えたオレンジティーを飲んでいると、サンドル先生が僕に聞いてきた。
「読みたいです!先生は眠気覚ましに飴とかどうですか?」
「嬉しいね、昨日ダッシュボードにチェルシー入れといたから適当に1個食べさせて欲しいな。もちろんエールも食べていいよ」
ダッシュボードからチェルシーのアソートパックを開けて適当に1個取って、袋を開けてステアリングから離れた先生の左手に乗せた。
「おっ、コーヒースカッチとは分かってるね!」
先生の好きな味で良かった…!
あとは僕の分にバタースカッチを取り出して口の中でころがす。
砂糖と合わせても醬油と合わせても美味しい味になるバターって本当にすごい…!
「それで、僕の新作は取材用バッグのタブレットに入れてるから、乗り物酔いには気をつけてね」
先生の作品はいつも面白いけどその新作を書き下ろし状態で読めるなんて今日は本当にラッキーだ!
一体どんな作品なんだろう?
※官能作品につき人間×ポケモン描写有り
夜風の寒さとこれから起こるであろう事態に震えながらアパートへの道を急ぐ。
本当なら19時までには帰れるはずだったけど、さっき通った改札の時計の短針は余裕で10を通り過ぎていた。
これが僕だけの一人暮らしなら寒さに震えて帰るだけだったけど、残念ながらそういう訳にもいかない。
時間通りに帰ろうとしたらゼミの教授に実験の手伝いを頼まれただけならまだ良かったけど、あいつはスマホも持ってなければ節約重視でアパートには電話も置いてないことを忘れていた。
流石に19時前になってきて遅くなるからと連絡の一つでも入れようとした時にそのことを思い出したのが運の尽きで、もう逃げられない手伝いから21時前に解放されて今に至る。
流石にご立腹どころじゃ済まないだろう。それこそ全身アザだらけで明日を迎える覚悟はしてるし、何ならブチギレて家を出てしまってるかもしれない。
とりあえず今できることは1秒でも急いで帰ることだ。
急いで帰ろうとして、入り口の結露に濡れたタイルに足を滑らせて人生で数年ぶりに転んだけど、それも気にせず3階までの階段を上る。
302号室のドアの前まで来て一旦深呼吸、覚悟を決めて鍵穴に鍵を差し込んで回し、ドアを開けた。
怒声の竜巻が吹き荒れるだろうという予想に反して部屋は静かで薄暗かった。燃えるへそを曲げてボールの中に戻ったんだろうか?
そんな仮説を立てながら小さく「ただいま」と呟いて部屋のスイッチを押そうとした時、何かにしがみつかれる。
「お前、今までどこ行ってたんだよ…!」
部屋が真っ暗じゃなくて薄暗かった時点で気付くべきだった。
ヒトカゲの尻尾とは違って闇討ちのために自力で火を消せる仕様だから無線ルーターの光か蛍光灯の豆電球ぐらいにしか思ってなかったけど、それにしては明るすぎた。
火力を制御することさえも忘れてしまう程、感情が強くなりすぎてしまっていたことを…
「ただい」
「今日は早く帰って来るって言っといて22時過ぎるのかよ!連絡もなしに3時間も俺を不安にさせたかったのかよ心配させやがって…!」
しがみつかれた感触は寝起きの毛布レベルであったかくてふわふわで、僕を決して離さないという意思を感じる。
「アグニ、遅くなってごめん…」
不慮の事故で3時間の待ちぼうけに遭った同居ポケのガオガエン、アグニの闇討ち強襲ベアハッグを前に僕は無条件でギブアップを選択した…
「どこも怪我してないんだな?」
10センチの身長差と体勢で顔は見えないけど、声の震え方からして相当怒りと悲しみが強いらしい…
「怪我もしてないし風邪も引いてないよ。ただ、教授に実験の手伝いを頼まれて遅くなったからこんな時間に…」
「怪我はないならまずは良かった」
若干力が弱くなる。厳密にはさっき転んだけど大丈夫だ、多分。
「でもどうして連絡の一つもなしなんだよ?スマホ持ってるよな?」
怪我がないだけでは許してくれないらしい…
「確かに僕はスマホ持ってるし電話する時間もあったけど、アグニはスマホ持ってないしこのアパートに電話置いてなかったから…」
しばらく沈黙が続き、「そういやそうだな」という小さな返答。
「つまり、今回はお前にもどうすることもできなかった不可抗力という訳か。こればっかりは責めてもしゃーないな」
「分かってくれて良かった…」
ベアハッグから解放されて安堵したと同時に両肩へ大きな手が置かれる。
「でも俺を心配させたことは事実だろ?」
「確かにそれはそう、だけど…」
助かったと安堵した直後に事実を突かれて動揺する僕を、充血した瞳の悪そうな笑顔が覗き込む。
「じゃあ決まり、俺に心配させた罰として今日一日は俺の言うことを何でも聞け、いいな?」
「うん…」
アグニに心配させたここまで主張されると申し訳なさが増大して、素直に聞き入れてしまう…
なんか僕を思い通りにしたいだけのようにも感じるけど…
「そんな不安そうな顔しなくても、無茶なコトは言わないから安心しな」
頭をぽんぽんと叩くように撫でられると、そんな考え事も忘れそうな安心感に包まれる。
トレーナーとポケモンの関係でこんなことってあるのかな…
アグニから「とりあえず飯にしようぜ」と言われて椅子についたけど、テーブルには既に料理が並んでいた。
アグニがご飯を用意してくれたことは何度もあるけど、それにしてはラインナップが豪華だ。
デリバリーで注文したらしいアソートタイプのピザとカルボナーラ、白いスーツを着たサンダースの顔が描かれた箱に入ったフライドチキン、赤いアフロのバリヤードが頭をよぎるハンバーガー屋のフライドポテトまで並んでいる。
真ん中に鍋敷きだけ置いてあるのは気になるけど、大きなコーラも冷蔵庫から登場してパーティー用の夕食みたいな感じだ。
けれど何故だろう?この料理たちは何かが足りないような気がして美味しそうとは思えない…
「アグニ、今日は料理豪華だけどこれって一体?クリスマスにはまだ早いけど…」
「忘れたのか?今日は俺とお前が出会った日だからこうしてお祝いしてるんだろ?」
そうだった、今日は僕がまだニャビーだった頃のアグニをゲットした日だ。
10歳になって半年経つのにポケモンを持たせてくれない家族にしびれを切らして自分でポケモンを捕まえようと計画、友達との少し早いクリスマス会でもらったモンスターボールを手に家の近くにいた野良ニャビーに狙いを定めて…
「ごめん、こんな大事な日を思い出せなかったなんて…」
「進んでボールに入った俺が勝手に祝ってるだけだからな、気にすることないぜ…」
キッチンに向かうアグニの顔は見えないけど、さらに傷つけてしまったような気しかなしない。
ただでさえアグニに辛い思いさせたばかりなのに、リカバリーどころかさらに辛い思いさせてる俺はどうすれば…
「それ言うなら俺こそごめんな、料理のチョイスをミスってほとんど上手くあっためられないし美味くあっためられないモンばっか選んじまった…」
アグニに言われて違和感の正体にようやく気が付いた。19時に帰って来ることを想定してデリバリーを頼んだ料理ばかりで、3時間も手を付けられずに冷めていった結果温かい料理のはずが湯気がなかったんだ。
「気にしないで、元をと言えば遅くなった僕が悪いんだし…」
「でもな、一つだけあっためられる料理が残ってた」
ミトンを使わずにアグニが鍋敷きに置いた両手持ちのお鍋からは温かな湯気が立ち上っている。
「これが一番食べて欲しかったんだ、他の料理も頑張ってあっためてみるからゾンビレベルでも蘇生できたら拍手してくれよ!」
お鍋に僕の視線を注文させてから蓋を取ると、熱々のロールキャベツがトマトソースで煮こまれていた。
覗き込むとかけてるメガネが瞬間で湯気に曇ったけど拭く暇も惜しくて外してテーブルに置き、辛うじて見えてる右目の視界を頼りにレードルで取って皿に盛り付ける。
「ナイフとフォークいるか?俺としてはかぶりつき推奨だけどな」
「じゃあかぶりつこうかな」
「はいよ、火傷には気をつけてな」
カルボナーラを右手で蘇生しながら空いてる左手で渡されたお箸を受け取って湯気のたつロールキャベツにかぶりつく。
塩味の効いたトマトソースと柔らかくて甘いキャベツを舌先で感じながら三分の一ぐらいで噛み切ると、火傷スレスレなほどに熱い肉汁が口の中に流れ込む。
ハンバーグより優しい味付けのタネの肉感と噛んだ時に肉汁が弾けたソーセージのパンチが聞いていて、それらを包み込むようにとろけるチーズのまろやかさが広がっていく…
「どうだ、美味いか…?」
期待の眼差しを向けて覗き込まれてるけど、回答は一つしかない。
「美味しい」
「良かった! タネから頑張って作った甲斐があったぜ!」
心底嬉しそうなアグニを見て内心ほっとしてる僕がいるけど、後半の一言がちょっと気になる。
「タネからって、これ全部アグニが作ったの?」
親バカならぬトレーナーバカかもしれないけど、アグニはポケモンの中でもかなり料理が上手い方だと思ってる。それを考えてもこのロールキャベツの味は小さい頃から実家で食べて来た思い出の味としか思えない。
確かアグニをゲットした日の献立もロールキャベツだった気がする。分からず屋の父親からは理不尽に怒られ「捨てて来い」と叫ばれながらも泣きながら必死に抵抗した後、根負けした父親がどこかに出かけた後、母親が「ニャビーちゃんにもご飯食べさせてあげてね」と言って小さなロールキャベツも一緒に用意してくれていて…
「おうよ、この前お前のお袋さんからレシピ貰ってたんだ。お袋の味と見分けつかないぐらい俺のロールキャベツは美味かったか?」
勝ち誇った表情のアグニに安心しながらロールキャベツにかぶりつく。
この懐かしさを感じる味をずっと口の中で感じていたくてほぼ無心状態で食べ続けて…
「おい、どうしたんだ?」
ロールキャベツを食べ続けていると急にアグニの指が僕の頬に触れて水滴を拭い取った。
「ごめん、汗かいてた?」
確かにロールキャベツは温かいけど汗をかくような料理じゃない。自分で声に出して汗じゃないと気づいた。
「やれやれ、これじゃ記念日すっぽかされたのも無理ないな」
アグニは温めても打つ手なしと諦めたポテトを置いて向かいの椅子を引いて座る。
「なぁ、お前頭コラッタになってないか?そのままの頭でいたら俺が食っちまうぞ?」
「頭、コラッタ…?」
「そうだ、精神的にかなり疲れてんだろうけど今のお前は俺に捕って食われるコラッタレベルにダウングレードしてんだよ、忙しいのは分かるけど無理し過ぎだ」
頬杖のままあっさり色々と言われて混乱はしてるけど、「疲れてんだよお前」ってことだと思う…
「ったく、いつまでもそんな死にかけの顔でいるんじゃねーよ!俺はそんなお前の顔はもう見飽きたんだ!」
さっき座ったばかりなのに立ち上がったと思えば僕の顔を髪をわしゃわしゃ撫でまわす。
「アグニ、そんなにされたら痛いよ…」
「ダメだ、お前が俺の言うこと聞いてちゃんと元気になるって言ってくれるまでずっとこうしてやる…!」
「わかったって、ちゃんと疲れ取って元気になるからやめて…!」
これ以上わしゃわしゃされたら顔の造形ちょっと変わりそうな気もしてまたもや無条件降伏。
「よく言ったな!でも今のお前には自力じゃきついだろうから今日は俺が世話焼いてやるよ!」
「う、うん…」
色々と世話を焼いてくれるのはありがたいんだけど、どうも今日はずっと迷惑かけてばっかでちょっと精神的は罪悪感が強い…
「まずは晩飯さっさと食っちまおうぜ、人を良くするって書いて食べるだからな!」
頭を撫でてから一瞬、椅子に座って遅めの夕食をがっつき始めたアグニを見て色々と安心した僕も冷め始めたロールキャベツの残りを口に入れた。
遅めの豪華な夕食を思いの外余裕で平らげた後、「後片付けは全部やっとくから先に風呂入ってな」と言われて一番風呂に入ることにした。
熱すぎずぬるすぎないお湯に冷たい指が痛い。
体を洗う前に軽くシャワーを浴びながら、ふとこの前の【ポケモン生態学】の授業で出されたレポートについて考えていた。
ポケモンの中には種族こそ違えど似た性質を持つポケモンが存在しており、そういったポケモンには行動の特徴にも似たような傾向があるらしい。
その中でもネコ科に近い種族のポケモンは自由気ままに見えて母性本能が強いらしく、雌ポケモンが他種族のポケモンを育てるケースも野生ではよく見かけるらしい。
そんなポケモンをの近い種族内での行動の特徴に関して調べてまとめるのが今回のレポートなんだけど、どんなポケモンの内容で書くか…
「後で論文でも検索してみるか…」
「お待たせー!後片付け終わったから一緒に入るぞー!」
いきなり浴室のドアが開いてテンション高めなアグニが入って来た。
「アグニ⁉一体どうしたの⁉」
「どうしたもこうしたも、風呂入りに来たんだが?」
慌てて両手で股間を隠すのは間に合ったけど、予想外の事態で反応が遅れた…
「…いやそうじゃなくて、色々とマズくない?」
「俺水はダメだけどお湯なら平気なんだよな、心配ご無用だ」
「それもそうだけど、一緒にお風呂入るのってマズくない?」
「そうか?ちょっと狭いけど一緒に入った方が効率はいいと思うぜ?」
「いやだから、性別的に色々とマズいって話で…」
アグニにはトレーナーであるはずの僕でさえ時々忘れそうになる大事なことが一つあった。
一人称が俺だったりその口調や性格だったりでどう見ても雄にしか見えないけど、実はアグニは8分の1を突破した個体だ。
つまり、アグニは雌だ。
「そんなこと気にする必要あるか?ニャヒートのころまでは何回かお前に体洗ってもらったこともあるから今更だし、トレーナーとポケモンなんだから恥ずかしがることないだろ?」
まぁアグニにその辺の羞恥心がないから雄に見えても変じゃないか…
「というわけで今日はお前の体を洗ってやるよ!」
「えっ」
僕がぼんやりしていたうちに既にボディーソープを準備完了していたらしいアグニの泡に濡れた手が僕の両肩に置かれる。
肉食のポケモンらしく獲物を逃がす気はゼロらしい、小さな声で「お手柔らかに」と返すぐらいが精いっぱいだった。
「しっかしお前も大きくなったよな、ついこの間まで坊やだと思ってたのに」
「やめてよ、僕だってもう20越えてるんだよ?」
「そういうなよ、俺にとっちゃまだまだ可愛い坊やなんだから…」
「そういうアグニも言うほど年齢変わんないでしょ?」
「そうだけどよ…」
洗い場も一人と一匹でちょうど満員レベルの広さ。そんな距離感で体を洗われながら可愛いとか言われながら雌ポケモンに背中洗われると、色々と考えてしまう程度には僕も大きくなってる。
「ほい背中は終わり、あとは体の正面も洗うぜ」
「そこはいいよ、自分で洗うから」
「おいおい、今日は何でも俺の言うこと聞く約束じゃなかったのか?」
曇った鏡越しでも悪そうな笑みを浮かべてるところが想像できる。
「まぁ背中から手を回して洗うことにするし、痛いことはしないから安心しなって」
僕の返答を待たずに背中から手が回ってきて、洗っているというよりバックハグみたいな体勢になった。
ここまで密着すると蒸らしタオルを背中に巻いたような、ボディーソープの香りに混じって不思議とドキドキするような香りもして…
胸周りやお腹にも手が撫でて来て泡で包まれていく、でもこれより先に来られるのはマズい…
「ちょっと泡なくなってきたからボディーソープと洗面器取ってくれるか?」
「洗面器も?いいけど…」
ボディーソープと洗面器を取るために両手を伸ばした瞬間、へその上にあったアグニの両手が瞬間で下に移動する。
「隙あり、こうでもしなきゃ恥ずかしがって洗わせてくれないだろ?」
「ちょっ、アグニ、そこは本当にいいから…」
アグニの両手は一瞬の隙を逃さず、僕の竿と袋を確実に手の中に収めていた。
「動くと爪当たるからおとなしくしとけよ、ちゃんと優しく丁重に洗ってやるから」
耳元であやす様にささやかれながら袋を優しく揉むように撫でられる。
爪を立てないように優しくしてくれるみたいだけど、その分ゆっくりと丁寧に触られて正直ヤバい。
少し体温が上がったように感じるのは風呂のせいと決めつけても、アグニにモノを洗われながらビルドアップでもしたら流石に笑えない。
どうにか意識を別の方にそらして耐えるしかない…!
「んじゃ次はこっちだな」
竿の根元に指先が当たっている、ここはレポート課題について考えて意識を逸らすしかない…!
今回のテーマに関する事例として挙がってたのは【ネコ科系統の雌ポケモンの母性本能】だったっけ…
ネコ科に該当する雌ポケモンは母性本能が強くて、アグニも僕に対して色々世話焼いてくれて、それってアグニは僕に…
「この前見た時より気持ち小さいか?触っただけじゃ分かんねぇけど…」
「いやそんなに小さくな …ッ!」
サイズに触れられて思わず反論しようとしたプライドが意識を引き戻してしまった。
「だよな、ベッドの上で息を荒くして触ってた時はもうちょい大きかったし…」
撫でる手が竿の先っぽをそっとなぞってから、中間あたりを少し早く洗い始めた…!
「そうだよ、って見られてたの…?」
「一度だけな、でもオナニーぐらい俺もしてるから恥ずかしがることないだろ?」
軽く笑いながら言われると恥ずかしさも若干うやむやにされた気がする…
「見ちまったのは俺もしてるって情報でおあいこな、でも最近してないけど大丈夫か?」
「あっ、ちょっとストッ…」
一連の流れで既に半分ぐらいビルドアップしかかってたのが、最近の話を持ち出しながら洗う名目を忘れた触り方をされて耐えられるはずもなかった…
「おっ?」
「…ごめん」
僕はアグニの手の中で完全にビルドアップしてしまった…
「あーそのなんだ、ちょっとからかうつもりがやりすぎた、すまん」
「それもそうだけど、アグニに触られてビルドアップしちゃうなんてドン引きだよね…」
換気扇の音がやけに大きく聞こえる沈黙が続く…
「…普通にこっちも坊やだと思ってたけど、予想以上に男になってるぜ」
「えっ?」
耳を疑った。ずっと僕を坊や扱いし続けるアグニの口からそんな言葉が…?
「俺な、確かに雄っぽい言動するしお前を坊や扱いして可愛がり倒してるけど、こんなことお前にしかしないって決めてるからな」
再び耳を疑うセリフを聞いた、ついに僕の耳がおかしくなったかもしれない。
「それって…?」
「ああもうこんな時でも鈍いヤツだな… この際ハッキリ言うけど食べちゃいたいぐらいトレーナーとしても雄としても好きなんだよ、お前のこと!」
再び響く音が換気扇の…
混乱しすぎて文法すら怪しくなってきた…
「…やっぱ今のはなかったことにしてくれ、足だけ洗ったら先出といていいからな。それと勝手にチンコ触って勃たせたりしてごめんな」
「あ、うん…」
バックハグ状態の手が離れた後、互いに無言で足も一緒に洗ってシャワーを浴びてそのまま浴室を出た。
手の離れていく感覚が何故か寂しくて、ビルドアップしたまま隠すのも忘れていた…
風呂上がりからいつもの癖でパソコンを起動、ゲームのデイリーミッションをこなした後ランクマッチに潜ってみたけど、普段ならしないようなミスを連発して見事に3連敗。
3連は切り上げ時と言う言葉にならって煮え切らない気持ちのままログアウト、こんな時はベッドにうつ伏せで寝転んで気持ちを整理しよう。
ベッドサイドの写真は僕とニャビーだった頃のアグニのツーショットを飾ってある。ちょうど出会って一週間後に撮った写真で、当てつけのように反対し続けた父親が祖母の説得で渋々了承したのがこの日だ。
その日からトレーナーとしてあちこち冒険して、一応ジムバッジも8個揃えた。
リーグに挑む道もあったけどポケモンのことが詳しく知りたいと感じていたこともあって学問への道を進んで来た日々。
茨の道程じゃないにせよ動く歩道とは程遠い道のりだったけど、歩き始めてから今日までアグニはずっと僕についてきてくれていた。
僕にとっては大事なポケモンのつもりだったけど、アグニにとってはいつの間にかトレーナーのエリアを飛び出して唯一の存在になってしまったらしい。
改めて「僕にとってアグニはどんな存在?」と聞かれると昨日までみたいに「大事なポケモン」とは答えられる気がしない。
帰ってきた時みたいに辛い思いはさせたくないし、オーバーなぐらい世話を焼いてくれて豪快に笑ってみせて欲しい。
いつも世話を焼いてもらってばかりの僕だけど、動き出すタイミングは今かもしれない。
「やっぱ熱い風呂は最高だな! ところで今日提出の課題はあるか?」
「いや、今日提出は特にないかな」
「じゃあゲームのデイリーミッションは全部こなしたか?」
「それはさっき終わらせた」
「そりゃあいい、ホットミルク淹れたから今日はそれ飲んでさっさと寝ようぜ」
心身ともに疲れてる時は三大欲求全部満たすのが手っ取り早い治療法だからな、と笑いながらマグカップを載せたおぼんを持ってベッドサイドに腰掛けた。
「そういえばさっきの話の後、色々考えてたんだけど…」
「その件は反省してるからあんま掘り返さないで欲しいんだけどな…」
「僕も、アグニのことが好きだ。トレーナーとポケモンの関係じゃなく一匹の雌ポケモンとして」
いつもは帰って来るはずの豪快な返答も今は来ない。
「さっき撫でてくれる手が離れて行く時に寂しさを感じて気づいたんだ。アグニが僕のことを想ってくれてるみたいに、僕もアグニのことトレーナーとかポケモンの関係以上に大事な存在なんだ。日頃世話焼いてもらって借り作ってばかりだけど、この借りを返せるようにこれからも一緒にいさせて欲しいんだ」
「…前から思ってたけど、お前時々核心を突くというか格好いいこと言うよな」
しばらくの沈黙をアグニがそっと破った。
「返事どころかあんな格好良く告白されちゃ、もう坊や扱いもできないな」
あまり僕も見たことないような微笑むような表情で、そっとマグカップを渡して来る。
「それはありがとう、あちっ!」
冬場で時間も経ってた気がするし熱くない風に渡されたけど、ホットミルクは思いの外熱かった…!
「前言撤回だな、よく冷まして飲めよ」
「うん…」
思い切って言った後だと、世話を焼いてくれる一挙手一投足すらぬくもりを感じる気がする。
「坊や扱いは続行として、坊や扱いを卒業できるように俺が力貸してやるよ。でも借りを返し切れないぐらい世話焼いてやるから覚悟しとけよ?」
普段通りの豪快な喋り方や笑顔の中にどこか可愛らしさのような、今まで感じなかった感情が混じってるようにも見えた…
「飲み終わったら今日はもう寝ようぜ、何気に日付変わってるしな」
何気にスマホの時計も0時になっている、折角アグニが勧めてくれたし今日はもう寝よう。
灯りを消してベッドに潜って横になるとアグニの気配を背中から感じる。
首筋に肌の触れる感触と熱い吐息がくすぐったい。
「アグニ、一緒に寝たいの?このベッド手狭だけど…」
「寝るっちゃ寝るけど、この流れは交尾一択だろ?」
「こうび」
「そう、交尾だ」
ここに来てまた頭の理解が追い付かなくなる。
「…いや、何で急に交尾?」
「ほら、心身回復のためには性欲も満たした方がいいし、さっきやり過ぎたお詫びもしたいし、何より坊やを卒業する第一歩踏み出す手伝いしてやろうと思ってな」
右手首を掴まれて少し後ろに回されると、指先が熱く濡れる。
「雌をこんなにムラつかせたんだ、しっかり交尾するのが雄の役割だけど、今回は俺が手厚く世話焼くから頑張ってみようぜ!」
相も変わらず巧みなアグニの誘導に吸い寄せられるように動かされつつも最後は僕の意思で、改めてベッドの中で向かい合わせになることを選んだ。
「さっき触ったのが俺のマンコで、本当なら実際に触らせてやるつもりだったんだが、先にこっちをスッキリさせとかないとな」
アグニの右手はいつの間にか再びビルドアップしていたモノをしっかりと優しく掴んでいた。
「俺もこういうのはマンガでしか知識ないけど、自分でシコる時よりは気持ちよくしてやれる自信あるから任せときな」
それだけ言って僕の生殺与奪の権を握ったアグニの右手はさっきよりも絡みつくように撫で始めた。
しかも左手では僕の上半身や顔を撫でながら、僕自身も知らない敏感な箇所をざらついた舌でくすぐったく舐めてくる。
「お前のチンコビクビク脈打ってるな、一週間ぶりで気持ちいいのか?」
「……うん」
体が知らなかったレベルの快感が襲ってきて息の荒いまま頷くのがやっとだ…
「今のお前滅茶苦茶可愛いな、あちこち舐めて開発していいか?」
「……やだ」
「…冗談だっての、おっ、先っぽも濡れて来たな…!」
快感に包まれながら少しずつじんわりとした感覚になって先走りが出始めたらしい。
その先走りをアグニの親指が器用に絡めてモノを撫でる潤滑剤にする。
より滑らかに伝わる快感に射精しそうになる感覚が現れ始めたタイミングで手がそっと離れる。
「俺の舌で人間のチンコ舐めたら多分怪我するから舐められないのはご勘弁な、その代わり遠慮なく口に出していいからいっぱい出せよ?」
射精のタイミングまで見極められてたことが驚きだけど、「ちょっと待ってな」というハンドサインをする右手にちょっと期待してしまう僕がいる。
開いた手がOKサインに変わって1秒、敏感になったモノが熱くて柔らかい中に包まれた。
舌では直接舐めないけど、熱い唾液がかき混ぜられる刺激は気持ち良すぎた。
出そうどころか一言も言えないままアグニの口の中で盛大に果てていた…
「本当にいっぱい出したな、ちょっとこぼれた…」
口元から白い液が垂れたまま思考回路が低下した僕に笑って見せた。赤と黒の体毛に白はとてもよく引き立っている…
「さてと、お前のチンコはもう一戦イけそうだし軽く俺の体の勉強したら本番だな!」
そう言ってベッドの上に座り直すと、アグニの全身が視界に飛び込んでくる。
「どうだ?ニドクインみたいなおっぱいこそねーけどすれ違った雄ポケモンが振り返るような体型維持してるんだぜ?」
得意げに見せているだけの事はあって、アグニの体は引き締まっているけど雌らしさをかんじさせる確かにいいスタイルだ…!
同人誌みたいに盛るペコ要素はないけど発達した胸筋には惹かれるものがあるし、下半身は思わず目が行ってしまう。
赤い股の中央で桃色に濡れる秘所もそうだが、お尻も引き締まっているけどふっくらしているように見えて…
「尻に目が行くとは結構お目が高いな、ちょっと体勢変えてやるから軽くなら揉んでもいいぜ」
目線でバレてたけど自信ある箇所だったらしく、アグニは四つん這いになって尻尾を持ち上げてお尻を見せつける体勢になった。
「わぁ…!」
そっと膨らみに手を添えると手のひらや上半身とは違った柔らかさで、撫でる感触や揉む感覚も癖になりそう…!
「おーい、そろそろ本番始めようぜ」
アグニのお尻に夢中になってると尻尾で手をどけられた。
「もうお互い準備万端だし、また今度触らせてやるから、な?」
それでも触ろうとすると諭すように説得してきたのでそっと手を引いた。
言われてみれば僕のモノはもうビルドアップしてるし、アグニの秘所もさっき触った時より濡れて雫がこぼれ落ちそうになってる。
「俺がリードするから仰向けになってな」
捕食者の様で雌っぽい表情で言われるままに僕は仰向けになった。
そこに跨るような体勢でアグニが覆いかぶさって来る。
「俺の処女託すから1回は頑張れよ!」
先端に熱く濡れる感覚があったと思った瞬間、モノ全体が熱い中に包まれた。
「悪い、ちょっと処女捨てる時は痛いって聞いたから一気に済ませたくてな…」
痛いぐらい勢い良く入ったことにちょっと戸惑いながらもいいよと答えた。
僕自身の耐久値は情けない話全然大丈夫じゃないけど、アグニにだって無理はして欲しくない。
「でも、そろそろかも…」
「あいよ、じゃあ次の挿入でイっちゃいな…!」
僕の返事を待たずに不敵な笑みのアグニは一旦抜けるギリギリまで離れた。
「いっぱい来てくれ、俺の大好きな…」
最後の一言を聞き取る暇もなく、再び繋がった快感に全ての思考が吹っ飛んだ…
「お疲れ様、初めての交尾にしては頑張ったと思うぜ」
盛大にアグニの中で果てた後少し失神していたらしく、後始末も全部やってのけたアグニが今ベッドに戻ってきた。
「そういってくれるのは嬉しいけど、アグニは満足できなかったんじゃ…」
「今回はさっきイってるお前をオカズに発散してきた、でもいずれは満足させてくれよ?」
「頑張るけど温かい目で見守ってて…」
「はいよ」
笑って頭を撫でてくれているぬくもりをまた一段と愛おしく感じる。
今も現在進行形で借りを作り続けてる僕だけど、いつか全ての借りを返してみせる。
まずは明日、一緒にスマホを契約してアグニに寂しい思いをさせた借りを返そうか。
そんなことを考えながら、撫でてくれる快感の中で目を閉じた。
【警告】
これより先尿描写に耐性のない者は読んではいけない
タブレットのページを閉じて小さく深呼吸する。
「どうかな、今回は面白かったかい?」
「先生、【今回は】じゃなくて【今回も】ですよ、もちろん面白かったです!」
「そうか、嬉しいことを言ってくれるね。これで執筆意欲がさらに湧いてくるよ。もしこの作品が好評なら、足りない3つ目のパックに名前をあやかった作品でも書こうかな」
安定した速度だった車がほんの少しだけ加速した。
「ふぁ…」
オレンジティーとオランジェットを食べたり車に揺られながら小説を読んでいたからすごく眠い…
「まだ目的地まで遠いし寝てていいよ」
「いいんですか、先生の眠気覚ましを手伝うのも僕の役目…」
「眠くなったらどうにかするよ、それに事故で臨死体験でもできたら貴重な創作資料になるからね」
「先生…」
後半は不安な中身だったけど、折角だしちょっとお言葉に甘えさせてもらおうかな…
「ん…」
シートベルトを苦しく感じて目が覚めた。
ぼんやりとした意識の中で緩やかで気持ちいい振動が少しずつゆっくりになっていくのが分かる。
「あれ… 先生、温泉に着いたんですか?」
「いや、そうじゃなくて…」
困り顔の先生の指さす先にはたくさんの車。
「ブレーキランプを天の川に例えた歌もあったけど、こういう場面じゃ吞気なこと言ってられないね…」
「渋滞、ですね…」
「あぁ、カーラジオによると10キロ越えの事故渋滞で復旧のめども立ってないそうだ。到着予定は3時間ぐらいズレるかもな…」
「そんな…」
不安を紛らわすようにオレンジティーを半分ぐらい一気に飲んだ。
あれから1時間ぐらい経ったけど、車は1キロも進んでいない。
暇つぶしに一度波導を張り巡らせてみたけど、あまりにもマイナスな感情が多すぎて嫌になったので辞めた。
今では暇すぎてサンドル先生と【5文字以上しりとり中】だ。
「キャロライナリーパー」
「パープルヘイズ」
「頭寒足熱」
「つみれ鍋」
「ベーコンエッグ」
「グルタミン酸ナトリウム」
語彙力を駆使する遊びだから創作のトレーニングにはなるだろうけど、時間が経てば経つほどどんどカオスになっていくのが難しい…
「宇宙旅行」
「ウルトラダッシュアタック」
「クレーン作業」
「ウイングガンダム」
「無量大数」
「ウイングガンダムゼロ」
「老化予防」
「ウイングガンダムゼロカスタム」
「エール、ちょっとガンダム改修しながら使いまわすのはズルくないかい? 無期限休業」
「先生こそ【う】で攻めすぎないでくださいよ、続けて暇つぶしするのが目的なのにこれじゃあ結構考えるの大変なんですから…! ウルトラソウル」
「そうだったね、僕もちょっと手加減するよ ルテニウム」
カオスになる度に指摘しあいながらさらに続けて今に至る。
「焼きおにぎり」
「…」
「焼きおにぎりだから次は【り】だよ?」
「……」
「おーい、エール、大丈夫かい?」
「あっはい!次は【り】ですね!」
先生とのしりとりは雑談混じりで勉強になるし正直楽しいけど、少し上の空になってしまう。
原因は単純、ほんのちょっぴりだけどおしっこしたくなって来た。
まぁ、まだ我慢は出来るし事故渋滞だって1時間以上過ぎたんだしそのうち復旧するはずだ。それに僕だって先生の助手だしあんまり恥ずかしいことは言いたくないプライドだってある。
渋滞を過ぎればサービスエリアも寄るだろうし、僕なら大丈夫なはず…!
「アクアビット」
「…トリックルーム」
「ムクホーク」
「………」
「おーい?」
「…………クリムガン」
「……まだ渋滞は続きそうだし言い直してもいいよ?」
あれから20分ぐらい経っても渋滞が解消される気配はないどころかほとんど動いてもいない。
景色もここまで動かないとなると、波導を使わなくてもみんな苛立ってるのが容易に想像できる。
「エール、ちょっと眠いのかい?それともどこか具合悪いとか…」
「…いえ、そんなことないです! 続きはクリムガンじゃなくてクレジットカードで!」
先生には心配されちゃったけど、おしっこ我慢してるってバレるのも恥ずかしいから頑張って耐えるんだ…!
僕が一匹で覚悟を決めた時、前ぶれもなく車が少し前進する。
じゅっ…
一瞬閉じてる股の間がちょっと湿った感じがして、慌てて先生に気づかれないように抑える。
漏らしたりはしてないけど、ちびってしまうぐらいにはヤバいのかもしれない…
「エール、やっぱり具合悪いんじゃ?」
慌てて前を抑えたから先生に気付かれてしまった。
「いえ、本当に大丈夫です…!」
「ならいいんだけど、もしかしておしっこしたいとか?」
先生の洞察力が高いのか、それとも僕の行動がバレバレだったのかは分からないけど、先生におしっこを我慢してることがバレてしまった。
ここで先生に打ち明けるのは恥ずかしいけど、なかなか渋滞も解消されないしもうちびり始めてる。僕はどっちにすればいいだろう?
※この物語には2つの結末が存在します、あなたの判断でエールの行動を選んでください。
(片方を読み終わればまたここに戻れるので両方読みたい方はご安心ください。)
打ち明けない
打ち明ける
やっぱり先生の弟子としておしっこを我慢してるなんて言うのは恥ずかしい、ここはサービスエリアまで我慢するしかない…!
「そんなことないです、次先生は【ど】で始まる言葉ですよ」
「そうだったね、でも何かあれば早めに言うんだよ?」
普通に心配してくれている先生を見るとちょっと胸が痛いけど、なおさら耐えるしかない。
さりげなく股に力を入れてしりとりに意識を集中しようとした時、先生がカーラジオを点けて道路交通情報の放送が車内に響く。
「聞いたかい?渋滞の原因になった事故の処理作業が始まったそうだ、これなら30分ぐらいで復旧するんじゃないかな!」
じゅいっ…
喜びの声を上げようとした時、気が緩んでしまってさっきよりも温かく湿って慌てて尻尾あたりに力を入れた。
渋滞が解消されるなら30分ぐらい耐えてみせる…!
あれから40分ぐらい経ったけど一向に渋滞が解消される気配がない。
トロトロとでも動いてるのがせめてもの救いだけど、サービスエリアの距離を示す看板すら渋滞に捕まって一度も見ていない。
渋滞が解消されることが希望だったのに、不屈の心もくじけそうになってきた…
あれから5分に一回ぐらいちびり続けてるし、その度に必死に気合いを入れ直している。
「エール、そろそろ正直に答えて欲しいんだ」
不意に真面目な声で先生が話しかけてくる。
「君はさっきからおしっこを我慢してるんだろう?」
言い出すのが恥ずかしくて隠して来たのに今更言うのは恥ずかしすぎないか…?
「大方言い出すのが恥ずかしかったならそのことは僕のせいだろうから謝るよ、でも正直に言ってくれないと僕も君を助けてあげられないんだ」
真剣に心配してくれてる声に車内が沈黙に包まれる。
先生にこれ以上心配させるのも辛いし何よりこれ以上おしっこを我慢するのが辛い…
「実は僕、おしっこがしたくて、ずっと我慢してて…」
「だろうね、渋滞引っかかった頃からそんな気はしてたよ」
予想通りと言わんばりの笑みを一瞬浮かべた後、サンドル先生はまた真剣な表情に戻る。
「次のサービスエリアまでは大体11キロ先って所か、渋滞はこんな感じだけどどれぐらい我慢できそう?」
「えっと、そうですね…」
なるべくちょっとでも我慢できそうか膀胱に相談してみるけど、30分も持つか怪しい…
「もうそんなに我慢できないって様子だね、言い出し辛くして可哀想なことしてしまったな…」
少ししゅんとした様子の先生は車を少し前進させながら周囲を見回す。
「車を降りて路肩でしておいでと言いたいけど、右側の車線だとエールの座る助手席のドアは開けられないな…」
僕もヤバくなるけどやむを得ないな、と呟くと先生は少し残ったオレンジティーを飲み干した。
「入りきるかどうかは怪しいけど、これにおしっこしちゃっていいよ」
先生が差し出したのはオレンジティーの入ってたペットボトル。
確かにこれならおちんちんの先っぽをペットボトルの口に当てればうまくおしっこできそうだ。
「僕は横向いとくから気にせずスッキリするといいよ」
やった、これでようやくおしっこできる…!
右側の窓の景色を見ながら先生がペットボトルを差し出してくれて、それを受け取ろうと僕が手を差し出すと手の甲にペットボトルがぶつかった。
「ん?」
「あっ」
僕の手の甲にペットボトルが真っ直ぐ引っかかっている。
それはつまり、「ペットボトルの底にトゲで穴が開いたこと」を示していた…
「うそだああああああああ!」
ようやく我慢から解放されると喜んだ矢先、僕はもうしばらくおしっこを我慢することになった…
「辛いだろうけど頑張るんだよエール、ノロノロだけどさっきサービスエリアまで10キロの看板を通り過ぎたよ…!」
「ふぅ…はい…!」
ペットボトルがお釈迦になってから10分、ペットボトルの代わりになるような道具は探しても車内にはなくて我慢続行になったのに、一度おしっこできると認識した体は寸止めになってもおしっこを出そうとしてきて耐えるのが本当に辛い…
先生に隠す必要がなくなったから両手で少し濡れたおちんちんを抑えて我慢できるようになったけど、視界に入るものや場所が全ておしっこするための道具やおしっこするための場所に見えて来た…!
「…エール、このバスタオルをシートの上に敷いて座ってくれるかい?」
先生は後部座席に置いていたバッグから白いバスタオルを渡して来る。
「もう君も我慢の限界だろうし、一応これを敷いておいて欲しいんだ。もしこれ以上我慢するのが辛かったらしちゃっても…」
「サービスエリアまで我慢します…!」
「そうか、エールならできるよ」
先生の言う通りにバスタオルを敷いてその上に座ったけど、先生は僕のちぎれかけなプライドを大事にしてくれた。
そんな先生の想いを嘲笑うように両手で抑えたおちんちんからは少しずつおしっこをちびり続けて、濡れて行く股と両手に不屈の心も挫けるのは時間の問題だった…
「エール、渋滞が解消されたらしいよ、サービスエリアまであと9.8キロだ!」
先生が僕を励ましながら動き出した前の車すら追い越そうとする勢いでアクセルを踏み込む。
でも、僕を助けようとした加速はくじけかけた不屈の心にはとどめの一撃だった。
「あっ…」
おちんちんから本格的に出始めたおしっこを必死に両手で止めようとしたけど抑えた両手がおしっこで熱く濡れるだけで全く止まらない…
「そんな、待って、出ないでよ…!」
思考回路は完全パニックで涙声になっても手で抑えても止まる気配はなくおしっこは出続ける。
バスタオルが濡れていく感覚が本当に我慢できなくて漏らしてしまった真実を僕に突き付けて来た。
「えぐ…ひっく…」
サービスエリアまで我慢できなかった悔しさと我慢し続けたおしっこをしている快感が心をぐちゃぐちゃに搔き乱して、泣きじゃくりながらお漏らししている幼いリオルにも笑われそうな状態になっていた…
「我慢お疲れ様、よく頑張ったね」
優しい先生の声を聞きながらもおしっこは止まらなくて、1分以上出続けていた…
「ここのサービスエリアはシャワー借りれるらしいから体洗っておいで、後片付けは僕がしておくよ」
しとどに濡れてぼさぼさになった股の毛並みを隠すために先生のバスタオルを借りて腰に巻いた姿でシャワーブースに向かった。
シャワーを浴びながらおしっこの染み込んだ毛を洗っていると、さっきあんな盛大にしたばっかりなのにまたおしっこが出そうになって来た。
おかしくなった体にちょっと笑えてきて、思い切ってシャワーを浴びて音をごまかしながらおしっこをした。
腰を隠す役目の終わったバスタオルで体を拭いて戻ってくると、先生は助手席に売店で買ったらしいゴミ袋を敷いてくれていた。
「僕も見立てが甘かったらしくてね、バスタオルでは吸い切れずにシートに染みちゃったよ」
苦笑いしながら先生が指差した方には、さっきまで僕が座ってたバスタオルが手すりにひっかけてあった。
真っ白くて大きなバスタオルの半分以上が黄色っぽくなっていて、さながら食パンにはちみつか琥珀色のジャムをつけたみたいに見える。
必死に我慢し続けたおしっこはこんなに我慢してたんだな…
「向こうに着いたら旅館でバスタオルを貸してくれるらしいから心配しなくていいよ、それと…」
「それと?」
「今度はおしっこしたくなったら遠慮せずお早めにね、それじゃあ取材旅行に向けて再出発だ!」
いたずらっぽい先生の一言に、僕は赤面しながら頷いた。
END1 トラフィックジャムの防衛戦
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この渋滞がいつになったら解消されるのか見当もつかないし、もうちびり始めてる時点でかなりヤバい気がする。
それに冷静に考えたら、もしお漏しでもしたらそっちの方が恥ずかしいじゃんか…!
もう恥ずかしいとか言ってる場合じゃない、ここはちゃんと打ち明けよう…!
「はい、実はおしっこしたくなっちゃって…」
「そうだったのか、どのぐらい我慢できそう?」
先生は特に笑ったり怒ったりすることもなく対応してくれている。サンドル先生が優しくて助かった…
「あんまり長い時間は難しい気がします…」
「なるほど、見たところ1時間は耐えられそうにはないし、早めに対策を考えといた方が良いかもしれないね。早くも我慢できないってことは?」
黙って首を横に振る。
「ならしばらくは大丈夫だね、ひとまずはサービスエリアを目指す方向で考えつつ臨機応変に対策しよう。外でしておいでと言うには右側の車線で助手席のドアを開けられないからな…」
先生が的確に対策を考えてくれて、ちょっと不安が楽になった気がする。
じゅいいっ…
気が緩んでさっきよりも多く股間が濡れている気がして慌てて尻尾あたりに力を入れた。
無意識に両手でおちんちんを抑えたけど、先生に隠す必要もないなら露骨でもいいかな…?
「エール、どうやら渋滞の原因になった事故が解消されたらしいよ。それにしてもちょっと暖房強すぎたかな?」
渋滞の解消に目途が立ったことに安心しつつ、暑さで火照りそうで先生が二口飲んだオレンジティーを飲み干す。
「エール、おしっこを我慢してる時に水分を摂って大丈夫なのかい?」
「えっ?あっ!」
ボーっとした頭のせいでやってしまった、これじゃあさらにおしっこしたくなっちゃうのに…!
「僕のバカ、完全に悪手じゃないか!」
カッとなった勢いでペットボトルを握り潰した。僕はバカすぎる…!
「おいおい、ペットボトルを潰したらいざという時使えないぞ?」
「あっ⁉」
さらに悪手だった…!
「まだ希望はあるよ、このペットボトルに穴とか開いてなければ…」
落ち込む僕を励ますように先生が潰したペットボトルを復元しようとしてくれたけど、底に穴が開いて使い物にならなくなってしまった…
「マズいな、他に使えそうなものがない今保険はなくなってしまったか…」
先生は平気なはずなのにまるで僕のことのように悩んでくれるのが後悔を加速させる。
「先生、僕、頑張ります…!」
勝算がある訳じゃないけどこれ以上先生に迷惑かけないためにも、サービスエリアまでおしっこを我慢するしかない…!
未だ解消されない渋滞に祈りを込めるように10キロ先を見るように焦点距離を変えた。
「っ…ふうっ…」
あれから約30分、やっぱりうっかり飲んだオレンジティーが大失敗だった。
股をぎゅっと閉じて両手でおちんちんを抑えるけど、それでもきつくて体をくねらせたり足をばたつかせたりして誰がどう見てもおしっこを我慢してるようにしか見えない。
しかも股の間は結構濡れ始めていて今のままでもちょっと知り合いには見せられないよ状態だろう…
「渋滞はまだ解消されずにトロトロとしか動かないし、エールも長くは我慢できなさそうだしどうすれば…」
不安そうにハンドルを握る先生を縋るような気持ちで見た時、急に強い尿意が来た…!
必死に抑えてもじわじわとおしっこがにじみ出て来るような感覚が止まらない。
「っ…ダメだ、耐えなきゃ…!」
ここで耐え切れなかったらお漏らししちゃうのは想像できるけど、耐えるのがキツい…
「エール、大丈夫かい⁉」
「ごめんなさい、もう、我慢でき、ないっ…」
ギリギリまで無理はするつもりだけど、心の声はおしっこをしたすぎて不屈の心が弱音を上げてる…
トロトロとしか車も動かないしもう遠いサービスエリアまで絶対間に合わないよ…
「まだだ、まだ終わらんよ!」
突然普段落ち着いている先生が僕を励ますように叫んだ。
「エール、もうちょっとだけ頑張るんだ!」
もう五感全てが尿意に侵食されかけたような中でチカチカという音が聞こえる。
先生の励ましに応えるため僕も最後の力を尻尾あたりと両手に込めた。
「そこだっ!」
先生の叫びと共に、左斜め後ろのドライバーの一瞬の隙を突いて車が右車線から左車線に滑り込んだ。
その直後にまた車の速度は落ちて渋滞で動かなくなった。
「エール、早く車から降りておしっこしておいで!」
何が起こったのか頭の整理が追いついてないけど、先生がシートベルトの留め具を外してくれてどうするべきか分かった。
一瞬左手だけでおちんちんを抑えながら右手でドアを開けて車の外に出た。
路肩は全てコンクリートと銀色の防音壁の場所ばかりだ。これが山の近くならちょっとでも隠れたかったけど、ここまで隠れる場所がないとかえって吹っ切れた。
防音壁の傍まで走って行く時にもちょっとずつおしっこで手や股が温かく濡れていく。
それでも防音壁の前まで来て、おしっこで濡れたおちんちんを抑えず両手で持って、準備はできた…!
「んっ……」
琥珀色の太い水流が防音壁の下のコンクリートを濡らす。
勢いが強すぎて跳ね返った雫が足にかかるけどそれを気にする余裕なんてない。
「はぁっ……」
尿道が痛いぐらい太くて激しい水流は飛び散りながらも綺麗な放物線を描いている。
普段ならもうおしっこが全部出終わってる頃なのにまだまだ止まる気がしない。
周りはきっとおしっこしてる僕を見てるんだろうけどそれも気にならない。
だって、やっと我慢し続けたおしっこをできたから。
ここがトイレじゃないとかそんなことはどうでもいい、ただ我慢し続けたおしっこをするのが気持ち良くて、ちょっとした征服感すら感じるほどおしっこきもちいいよ…!
一分以上は続いたおしっこもようやく止まった。
おちんちんを振っておしっこの雫を落としてから先生の待つ車に戻った。
「おかえり、スッキリできたかな?」
「はい、スッキリしました…!」
「それなら良かったよ、僕も左側の車線に移動すれば君が路肩でおしっこできることを思いつけて良かった」
先生の渡してくれたウェットティッシュで手と股を軽く拭いて綺麗にしておく。
「それにしても気持ちよさそうだったね、いっぱい我慢してたんだね」
「それはまぁ、って先生見てたんですか⁉」
「君に万一のことがあったら心配だから僕も見てたし、周りの車は人間もポケモンも多分みんな見てたね」
「うう…」
さも当たり前みたいに言ってるけど今思えばかなり恥ずかしい…!
「まぁお漏らししなくて良かったじゃないか、旅の恥は搔き捨てだし何事も貴重な創作資料だよ?」
「そんなものですか…?」
「そういうものさ。おや、渋滞が解消されたみたいだ」
ふと窓の外を見ると防音壁にさっき僕がおしっこした場所がくっきり残っていた。
あんなに我慢してたんだな、なんて感想を抱いた時には車は走り出して車窓からも左の視界からも離れて行った。
END2 琥珀色の放物線
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