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ホワイトクリスマス!死神の鎌が届く瞬間 Ⅱ の履歴(No.1)


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官能描写はありませんが暴力的なシーンやグロテスクなシーンが数多く含まれます。
結構な数のポケモンが命を落とします。自分の好きなポケモンが命を落としても平気な方のみどうぞ。
・この物語はフィクションです、実際の人物や団体、及び他のwiki作品とは関係ありません。
                                                                    written by 慧斗




ホワイトクリスマス!死神の鎌が届く瞬間 Ⅱ


事件を振り返る
事務所に戻る

ブレイクタイム C&Jの軌跡 [#68rVLS9]



「お兄ちゃんとお別れなのは残念だけど、色々ありがとうございました」
「まぁこれで事件も解決したしね、これからどうするの?」
「えっと、ジョウトジョウト鍋祭りに行ってから帰ろうかなって!」
 取り調べも担当がゼラオラだったおかげで手短に済んで、今はワカバタウンの家でちょっと贅沢にロイヤルミルクティーを淹れてそれぞれの時間を堪能している。

 あの事件はジャラランガの死亡とDISCの破壊によって幕を閉じたことになっている。
 沢山のポケモンの命を奪ったジャラランガがアサギの灯台の床を全部壊して根城にしようとしていたところ、洗剤の混合事故で発生した高濃度の塩素を吸い込んで死亡。ニュースではそう放送されている。
 俺たちの存在を伏せて、面倒なことは全てジャラランガに擦り付けておいてくれたゼラオラには毎度のことながら感謝しかない。

「ジョウト鍋祭り?なんだそれ?」
「あれ?ジョウトに住んでるポケモンはみんな知ってるって…」
「ガオはギリギリ記憶ないからね…12月25日、つまりクリスマスの夜にプール並の大きさのお鍋で鍋料理を作って振る舞ってくれるビッグイベントだよ」
「そんなのあったのか…」
「私の住んでるアローラでもニュースになってるから結構有名かな」
「なるほどね…」

 アシレーヌはジュナと会話中、俺はパソコンの画面と睨めっこしながら事件ファイルを記入している。
 表向きは解決したものの、この事件には共犯者もいることは確かだし、DISCの使い手なら放っておくわけにもいかない。
 とはいってもアシレーヌはもう関係のない話だし、明日の朝には成功報酬と引き換えにさようならだろう。

「でもホテルとかどうするの?」
「あ、そういえば考えてなかったな…」
「良かったら鍋祭りの日まで泊まって行きなよ?ご飯ぐらいは用意できるよ?」
「そうなの、じゃ是非…!」

『ジュナ、お前はいいよな、冷蔵庫とかお財布事情を考えずに色々決定できるんだからよ…』
『あの子、君のこと満更でもなさそうだよ?』
『自称嫁のお前がどういう風の吹き回しだよ?』
『さぁね?』
『お前なぁ…』
 …とりあえず俺たちの情報から書いていくか。



ガオガエン(俺)
・1.8メートル79キロ
・技構成はフレアドライブ、DDラリアット、雷パンチ、インファイト
・去年のクリスマスより前の記憶がない
・ジュナとDISC犯罪専門の探偵事務所を結成、自分は探偵だと自負しているがスイーパーみたいな仕事もやるのでわりとアバウト
・使用DISCは“結合の記憶”を持つJOINT
・ガオの元から高い近接戦闘能力に長射程攻撃、防御、回避、拘束などの搦め手に至るまで戦闘スタイルの幅を広げられるチェーンは相性の良い武器で、そんなチェーンをかなり自由に操作できるJOINTのDISCとの相性はバッチリなんだ!
ポケモンCQCもガオの技や身体能力、チェーン、JOINTの能力の三つを組み合わせることで初めて形になるからこそ、あのネビュラチェーンにも迫るチェーン術と隙のない高威力の格闘戦で襲い来る強力なDISC使い達を次々と倒しているんだ!(By.ジュナ)

JOINT
破壊力-★★★☆☆
スピード-★★★★★
持続性-★★☆☆☆
精密動作性-★★★★★
射程距離-★★☆☆☆(ただし、一度能力を使用可能にしたものの有効範囲は無制限)
能力拡張性-★★★★★

能力…同じ性質を持ったものの結合を自由に操作する。結合と分解(結合の解除)の両方が可能。
 割れたコップを修復したり相手の身体の関節を外したりと色々便利に使えるが、結合も分解も自由自在にできるチェーンに用いるのが一番効果的。
 この能力はそれなりに体力を消費するので、チェーンのリングを操作するぐらいなら簡単にできるが、大規模だったり複雑だったりすると結構カロリーを消費してしまうので持続力は高くない。
 実はジュナとの思考共有もこのDISCの力。“同じ性質”であれば何でも結合できるため、早朝の目覚まし時計を聞いて「もう少し寝ていたい…」と同時に思った結果、無事に思考共有に成功した。


ジュナイパー(ジュナ)
・1.6メートル38.5キロ
・技構成は影縫い、影打ち、ポルターガイスト、ブレイブバード
・俺の(仕事上の)相棒。CHRONICLEによる情報収集や、飛行能力や射撃能力に搦め手といった戦闘での能力など、俺に不足している要素を程よく補ってくれる。素早さを補うことが今後の課題かもしれない。
・使用DISCは“年代記の記憶”を持つCHRONICLE
・仕事上の相棒と言ったように、仕事の面では頼りになるし、プライベートでも良い友達であると言えるが、ジュナの方は俺を(番としての)相棒として認めているような気がする。仲が悪いよりは遥かにいいが、不定期高頻度で発情される俺の身にもなってくれ…

CHRONICLE
破壊力-☆☆☆☆☆
スピード-★★★★☆
持続性-★★★★★
精密動作性-★★★☆☆
射程距離-★☆☆☆☆(情報の検索範囲は無制限)
能力拡張性-★☆☆☆☆

能力…過去の時間に起こった事実を知ることができる
 戦闘能力は皆無、能力の展開範囲もジュナの脳内だけだが高い情報収集能力を持つ。
 アリバイ崩しをするなら圧倒的チート性能。出版物や映像も事実にカウントされるため自由に閲覧可能。
 ただし、検索の際には最初になるべく詳細な時間情報が必要。期間指定や全期間での検索も一応は可能だが、絞り込むには他の情報が必要だったり、検索期間を間違えたり広範囲で調べたりすると目当ての情報を見つけられなかったり、情報過多により検索を維持できずに中断されてしまう。また、未来の事柄については能力の関係上調べても分からない。
 惑星の本棚の代役にはなれなかったが、俺たちの捜査で得た情報を組み合わせれば時間が不明でも検索はできるので、そんな時はジュナの腕の見せ所だ。
 ちなみに俺もJOINTの思考共有のおかげでCHRONICLEの能力を認識できるが、俺に見られる情報はあくまで“その時ジュナが見ているもの”のみである。


ゼラオラ(ゼラ?)
・1.5メートル44.5キロ
・技構成はプラズマフィスト、インファイト、炎のパンチ、アクロバット
・若くしてジョウト警察コガネ署の警部
・主にDISC絡みの犯罪を追っており、俺たちとも度々協力関係になる
・かつては俺と喧嘩仲間だったらしいが俺は全く覚えていない
・チャラそうに見えるが勤務態度は結構真面目
・使用DISCは“発動機の記憶”を持つMOTORのDISC
・いつも俺たちの解決した事件の後始末ありがとう

MOTOR
破壊力-★★★★☆
スピード-★★★★★
持続性-★★★★☆
精密動作性-★★☆☆☆
射程距離-★☆☆☆☆(本体内部に発現)
能力拡張性-★★★☆☆

能力…モーターによる身体能力の強化
 体内にモーターが発現して、身体能力の大幅な強化をしてくれる。体内とは言っても身体への影響はない模様。
 能力は至ってシンプルだがその分使いやすく、電気タイプで高速物理アタッカーのゼラオラとは非常に相性の良いDISCといえる。
 特にスピードへの貢献度に優れるがパワーもなかなかなものがあり、そこそこ高火力の攻撃を高い回転率で放つことができる。
 これは俺の推測だが、モーターと構造が同じで逆の事をする



「そういえばここに並んでるドミノはどうしたの?触っていい?」
「おい、それはまだ製作途中の…!」
 俺の制止もむなしくアシレーヌはドミノを倒してしまう。
 倒れたドミノが台車付きのやかんを発進させ注ぎ口からこぼれ落ちたビー玉は紅茶の箱にキャッチされてテーブルのレールに移動する。
 食品サンプルの並んだテーブルの中をビー玉は転がり、紙コップの中に入ってミミッキュみたいな挙動をしたり、灰色のワッカネズミ(1匹だけ)が運転する赤いオープンカーに運ばれたりする中、二匹分用意された食器のうち朝食は片方にしか盛られていないことに気付いて戸惑うかのような挙動を見せたビー玉はマグカップのゴンドラで降りて行く。
 ローテーブルにあった歯ブラシを一本落としてレールを開き、ビー玉によってストッパーの外れたろうそくはカップルの写真に激突、それには目もくれずにビー玉は端の蓋付きゴミ箱に落下、一回転した蓋には“ピ”の文字の紙が貼られている。

「「センチメンタル…」」
「えぇ…」


「…だから製作途中だって言っただろ?ろうそくに点火してないから未完成だったんだよ」
「いやろうそくに点火してなくても装置完成してたよね?」
「甘いな、ろうそくに点火することでカップルの写真に火を点けて燃やす演出が入り、よりセンチメンタルな気分になれるということだ」
「うん…ただでさえセンチメンタルなのに、写真燃やす演出入ったら、私、もう…」

「ガオ、これってまさかこの前言ってた“センチメンタルな気分にさせるピ○ゴラ装置”って奴…?」
「正解だ!というかセンチメンタルになっただろ?」
「…いやどの辺が?」
「どの辺がって、装置全体がセンチメンタルだったろ?」
「こくこく」
「まさか、あのやかんとか歯ブラシがそうだって言うのかい…?」
「ああ、コンセプトは“死に別れたパートナーの事を忘れようとしても忘れられずに苦悶する光景”だ。感傷的な気分になるだろ?」
「いや、どちらかと言えば油性ペンみたいな愛称の歌手が恋はしないとか歌ってるように思えるんだけど…」

「ったくこれだから芸術センスのない奴は…」
「普通にこれN○Kの製作スタッフに見せよう?」
「いつもユーフ○テスさんには良いモン見せてもらってるしな、この際ファンアート感覚で送ってみるか?」
「ついていけない…」
 ピ○ゴラ装置に関しては俺のセンスを理解できないらしいジュナはため息交じりにテレビを点けるとちょうどピ○ゴラが始まっている…
 なんて都合のいい話はなくて、ただのニュースだった。

「次のニュースです、コガネシティで観光に来ていた雌のコリンクが何者かに殺害されました。被害者のコリンクは何者かに頭を切断されており、切断された頭部は現場から持ち去られていた模様です。警察はこの事件に関して…」


「…」
「…」
「…」

「アシレーヌ」
「何かな?」
「成功報酬はもうちょい先でいい」
「ほえ?」
「この事件、共犯者以外にも裏があったらしいな」

FILE7 難事件推理計画 restart [#1zSlY6F]



 ピンポーン
 木製のドアのアイキャッチに比べれば興ざめするようなチャイム音に思わず顔を見合わせた。
 それまでシリアスな空気感だったせいで、俺たちはそれぞれJOINTで一本に繋げたキヘイチェーンを構えたりリーフブレードの構えを取ったりフライ返しを両鰭で持とうとしたりして、独特の警戒態勢に入っていた。

『これ、役割的に俺が行かなきゃいけない感じですか…?』
『メンバー内で一番ガード性能高いからね、一応影縫いによる援護射撃の準備はしとくよ』
『そのフォローはありがたいけど、なるべく不要であることを祈るな…』

 最悪キヘイチェーンじゃない本式のチェーンを手繰り寄せることもできる。
 インターホンの画面を見ると、見知ったオーダイルの姿があった。

「夜遅くに悪いね、野菜のお裾分けだ!」
「ありがとうございます、少々お待ちを…」
 ジュナとアシレーヌにサムズアップしてドアを開けに行く。
 大丈夫だと思いつつもキヘイチェーンはそのままにしている。

「採れたての春菊に人参は葉っぱ付きでお裾分けだ!」
「ありがとうございます、人参の葉っぱはかき揚げにでもするかな?」
「かき揚げ良いね!でもこれをおかかとふりかけにしたら結構美味いんだぞ?」
「ご飯のお供枠か!それはナイスアイデア!」
 圧倒的接待モード、正直苦しい。

「オーダイルさん、そういえば今年は大根できてないの?去年もらった大根美味しかったんだけど…」
「おおジュナ君!悪いけど今年は大根が不作みたいでね、なかなかできないんだ」
「そっか、できるといいね!」
 ジュナのやつもらう気満々じゃねーか…
「でもよ、そもそも畑に大根なんてなかったよな?」
「…いけねぇ鍋を火にかけたままだった!じゃまた!」
 俺の接待モードに限界が来る前に帰ってくれたからいいけど、正直疲れた。

「ちょっとあの言い方失礼じゃない?」
「俺が大根と人参の葉っぱ見間違えるかよ、あの畑に大根なんてなかった」
「そう?まぁ別にいいけど…」

 CHRONICLEによると現在時刻は21時を回ったところ。
 今警察署に行っても再び対策会議の真っ最中だろうし、街中を調査するにしても襲撃箇所があまりにもランダムすぎて2匹じゃカバーしきれない。
『今できることとして、CHRONICLEでこれまでの事件に関する情報を整理しようと思うんだが、お前は体力的に大丈夫か?』
『夜行性ポケモンを舐めちゃダメだよ?それよかガオの方が休んだ方がいいんじゃないかい?』
『それこそ俺がいなくちゃ頭脳労働担当はどうすんだ、平常運転にさせてもらうぜ』
『とは言っても最大戦力が万全の体調でいてくれないと、万一の時に誰が僕たちを守ってくれるのさ?』
『わーったよ、今日は早めに寝るから全員早く寝る、寝てる間にジョウトが半壊してても全員無事なら明日考える。それでいいだろ?』

『…任務了解。さぁ、検索を始めようか』


・ダイケンキ…コガネシティ
・ロコン…36番道路
・オオタチ…ヨシノシティ
・ニョロゾ…34番道路
・ペルシアン…エンジュシティ
・パラセクト…コガネシティ
・ネイティオ…キキョウシティ
・ヤドラン…ヒワダタウン
・コリンク…コガネシティ


「関連ありそうな事件はこれで全部だけど…」
「アシレーヌの依頼してきたダイケンキの事件を始めとして、さっきのニュースのコリンクを含めてこれで9件…」
「お兄ちゃんだけじゃなくて本当にいろんなポケモンが死んじゃったね…」
「…あぁ、そうだな…」
 アシレーヌのコメントは一瞬場違いにも思えたけど、よく考えたらこれが普通の反応だった。

「体の一部が見つからないという共通の殺され方なのに、それ以外の共通点がないってのも変な話じゃねーか?」
「そうかな?DISCの性質によって殺し方に共通点が出てくるのはよくある話じゃないかい?」
「それならなくなったパーツの位置が変じゃないか?仮に小さな穴のある断面やなくなったパーツがDISCの能力に関することだったとして、普通なら確実に倒せる頭を狙うはずだが2件目のロコンの時点で逆に頭だけ残るケースが発生している。生首コレクターだとしたら頭だけ置いていくのも変な話だろ?」
「確かに、言われてみればそうだね…」
「とりあえず、ジュナは殺されたポケモンに共通点がないか調べてくれないか?」
「CHRONICLEで誕生日とか性別とかを調べればいいのかい?」
「そうだな…趣味とかもそうだし、怪しい情報は全部ピックアップしてくれ。何が手掛かりになるか分からないからな」
「了解、ガオはどうする?」
「俺はもう少し現時点の情報から共通点がないか探してみるかな、何となく大事な何かを見落としてる気がするんだよな…」


 甘ったるくないチョコレートの香りと共にアシレーヌが入ってくる。
「ジュナイパー、ココア淹れたよ」
「ありがとう、ココア美味しいよね」
 どうやらココアだったらしい、冬の夜の考え事のお供にはありがたい。

「ん」
「ん?」
「ココア、飲まないの?」
「いや、あるなら喜んで貰うけどよ…?」
 俺の前に置かれるのはマシュマロ入りココアのマグカップだが、その傍らにはドーナツの入った紙袋が既に“置かれた”という結果だけを残して俺の認識を突破して置かれていた。
 さりげなくジュナの方を見る。ジュナの方にはドーナツはおろか、マシュマロすら入ってない…?
「…アサギの市場で売ってたの、食べて?」
「じゃ、お言葉に甘えて…」

 指輪の魔法使いになった気分でプレーンドーナツに大口でかじりつく。
 アイシングやチョコもない素朴なドーナツだけど、今の俺には十分甘かった。
 ジャラランガとの激戦と頭脳労働に疲れていた身体に染み渡る甘さに思わずにやけてしまう。
 マグカップで表情を隠そうとして飲んだココアはそれ以上に甘くて、にやけるどころかむしろ笑えて来そう…

「ねぇ、僕のドーナツは⁉」
 流石に吹き出しそうになった。
「さぁな、少なくともこれは俺のだ。以上」
「さっき私にお小遣いくれたからそのお礼、質問ある?」
「嗚呼神よ、僕が手間暇かけて育んできた存在が会って間もない女の子に餌付けされて懐きかけてます、僕は一体どうすれば…」
「邪神アルセウスは先月ニャルラトホテプによって滅ぼされたので代わりに俺が答えます、適度な距離感で高い餌を与えれば懐くかと」
「そもそも餌付けなんて言わないで!」
「おお神殺しの反逆者から天啓を授かった、ありがたや…!」
 なんかさっきからアシレーヌの反応が少しオーバーだし、流石にジュナの茶番に付き合うのも疲れた。
 しゃーない、いつもの手で行くか。

「ジュナに頼みたいことあったんですが、面倒なモードなら無視してもかまいませんね!」
「⁉はいはい何かな僕に出来る事なら何でも言うんださぁ早く!」
 手のかかるガキはお前は…
「殺されたロコンって原種?それともアローラ?」
「え~っと、アローラだね」
「氷タイプの方か⁉」
「うん、そうだね」
「…了解、じゃ頼んだ通り頼むぜ」

 ジュナはCHRONICLEで検索を開始したのを見て、さりげなく二口目のドーナツを頬張って資料と睨めっこする。
「アシレーヌ、お前はアローラに住んでたんだよな?」
「そうだけど、どうかした?」
「いや、そっちでは炎タイプのロコンって見かけた事あるか?」
「ううん、アローラのロコンはみんな氷タイプになっちゃうし、見かけても観光客じゃないかな」
「なるほど、逆もまた然りか…」
 ジョウト地方はアローラ地方とは逆の現象が起こっており、炎タイプのロコンがほとんどで氷タイプのロコンなんてテレビで見たことあるぐらいだ。
だったらなんでわざわざ氷タイプの方のロコンを狙ったんだ?原種のロコンなら腐る程いるのに、ジョウトの観光客にもいるかどうか怪しいレベルの氷タイプのロコンを狙った理由が何か気になる…
とりあえず被害者のタイプでも書き出してみるか…

・ダイケンキ(水)…コガネシティ
・ロコン(氷)…36番道路
・オオタチ(ノーマル)…ヨシノシティ
・ニョロゾ(水)…34番道路
・ペルシアン(ノーマル)…エンジュシティ
・パラセクト(虫・草)…コガネシティ
・ネイティオ(エスパー・飛行)…キキョウシティ
・ヤドラン(水・エスパー)…ヒワダタウン
・コリンク(電気)…コガネシティ

「何か分かりそう?」
「残念ながらチンプンカンプン。炎タイプ弱点の線を考えたけど、タイプ相性を気にする奴が得意なタイプのポケモンばかり狙わないのも変な話だし、キュウコン相手ならまだしもハッサムがロコンごときに倒されるとも考えづらい。俺が炎タイプ弱点ならそもそもロコンなんてターゲットにも入れないし、かと言って氷タイプのロコンに恨みでもあるならウラウラ島にでも行ってロコン狩りした方が手っ取り早い」
「なるほど…」
「あのジャラランガと関係あるのかとか、DISCの能力とか犯行動機とか、分からない事は多すぎるけど、氷タイプのロコンはきっと一連の事件に関係あるはずだぜ…」

FILE8 HEATの邂逅 [#7OAnbvh]



 ふと気付くと横向きの視界に朝日に照らされながらよだれを垂らして熟睡中のアシレーヌが入る。
 ソファでは検索中の姿のまま熟睡中のジュナもいる。
 つまるところ、3匹仲良く寝落ちである。

「寒っ…」
 時計は朝の6時半、起きるには早すぎるし部屋に戻って二度寝と洒落こむには遅い。
 暖房も切れた肌寒い部屋に置かれたホットココアはアイスココアに進化していた。マグカップの時点で冷たくて飲む気力もない。

 気合いで椅子から立ち上がり、熟睡中のアシレーヌを抱き上げて階段を上る。俺たちの家とはいえ雌に貸してる部屋に入るのも気が引けるので、とりあえず俺のベッドに寝かせて置いた。
「んみゅぅ、あったかいよぉ…」
「…入りてぇ」
 レジギガスの落した手袋の中をポケモン達が共有して寒さをしのぐ童話を思い出して入りたい衝動にかられたけど、朝飯の仕込みを始めることにして部屋を出た。

 とりあえず暖房を入れて、献立を考える。
 相変わらずジュナは眠っている。
 それにしても、立ったまま寝れるなんて器用なヤツだよな…
「…」
 一瞬両翼がものすごく魅力的に見えた。俺の目は間違いない。
 起こさないように翼の中に入り、即席の肩掛けとしてジュナを利用する。
 早炊きモードの炊飯器でご飯が炊き上がれば完成だがもう少し時間もあるしせっかくならココアを再び温めて飲もう、俺の火力で。
「自力でカップごと中身を温められるって、我ながら便利だよな」
 アイスココアは再びホットココアにフォルムチェンジ、一口飲めばこれで俺も体の中に温もりを確保できた。
「…でもこれ、俺が放熱してヒーター役やった方が電気代節約になるよな?」
 寝起きのテンションに身を任せて暖房を切り、熱を集中させて放熱する。
「長時間はしんどいけど、朝はこれ結構いいかもな!ヒーター…?」
 何かが閃きそうな気がして、思いついた単語を片っ端から言ってみる。
「ヒーター、ヒート、HEAT、B゜z、熱、ニャヒート、灼熱の記憶…」
「ヒート、マキシマムドライブ!マキシマムドライブ!マキシマムドライブ!マキシマムドライブ!マキシマムドライブ!マキシマムドライブ…!」

「熱っ⁉何コレ熱い熱い熱い焼ける焼ける焼ける火事だあちゅい!」
「あっ」
 そういやジュナを肩掛けにしたまま放熱してたんだっけ…


「美味しい、このお味噌汁おだし変えた?」
「良く分かったな!今日は白ねぎだからだしを」
「ただのだしの素なんだよね…」
「「…」」

「このだし巻き卵も美味しい!」
「ちょっといい卵使ってるんだよな!」
「同じくだしの素の暴力なんだよね…」
「…」
「焼き上げる技術は俺の力だろ…?」

「このきんぴらごぼうも美味しい!」
「白米に合うよな!」
「冷凍に入れてた常備菜…」
「…」
「常備菜ぐらい別にいいだろ…?」

「このご飯も美味しいね!」
「…炊飯器も最近調子いいのかもな!」
「先週ポンコツ呼ばわりしてたのに…」
「「…」」


「なぁ、早く機嫌直せって」
「…めんどくさい」
「危うくローストされる所だったのに言うことあるんじゃない?」
 完全にジュナは機嫌を損ねていた。ほとんど俺のせいなんだけど、機嫌の損ね方がいちいち陰キャ臭いというか面倒というか…

「…アシレーヌにまで冷たく接する理由ないだろ」
「僕が焼かれてるのにグースカ寝てて助けにも来なかった、よりにもよってガオのベッドで」
「それは私も知らないんだけど…」
「僕だって自分で寝た事あっても寝かせてもらった事ないのに…」
 とことん面倒くせぇ…
 でもこのままじゃ調査に支障が出そうなのできつく行っとくか…
「ジュナ、一言しか言わないからよく聞けよ?」
 反応を許さない速度でジュナの胸倉を軽く掴み、俺を見上げさせるようにホールドする。どう考えても俺は上、ジュナは下だ。
「そのうちベッドまで運んで寝かせてやるから事件を追ってる間は控えろ、OK?」
「お、OK…」
 本当に世話が焼けるな…


「ちなみに、昨日の被害者の検索結果はどうだ?」
「生年月日や年齢、技構成なんかに共通点はなし、趣味や経歴は今調べてるよ」
「了解、俺はアシレーヌとコガネ警察署に行くから検索を続けてくれ」
「…なんで?」
「なんでって、役割分担だよ?普通だろ?」
「…確かに」
「心配せずとも昼飯は作ってくからよ、よろしく頼むぜ」
「ああ…」

 なんかこの事件引き受けてからジュナの様子が変なんだよな…
 まぁいっか、そのうち治るだろ。


「意外だったな、あのジャラランガが死んだ後にも事件は終わらないなんて」
「そうだな、水絡みの場所を移動できる共犯者と何か繋がりがあればいいけどな…」
 昨日の今日だがゼラオラの顔には疲れが出ていた。
「一応そちらにもメンバーを割いて調査中だ。そっちはどうだ?」
「とりあえず被害者から何か共通点や法則性がないか調査してる。探偵にできることなんてたかが知れてるからな…」
「いや、こっちもメンバー不足で協力してくれるだけでもありがたすぎる話だ。あまり時間はないが情報共有するか?」
「そうだな、今のままじゃ凝り固まった頭がパンクしそうでな…」
 ゼラオラは短い休憩時間の合間、俺はアシレーヌに重いバッグを持たせたままなので、情報交換も手短になってしまう。
「なるほど、炎タイプではなく氷タイプのロコンを狙ったことに違和感を感じているのか…」
「ああ、あくまで推測の域を出ない話だけどな」
 残念ながらゼラオラ側の捜査は難航しているらしく、俺から推測の情報を提供するだけで終わった。

「いい気分転換になった、また何か分かったら共有しよう」
「…無理するなよ」
 手を振って別れようとしたタイミングでようやくメインの要件を思い出した。
「そういえば、あのヒメグマはどうなった?」
「!」
「…どうした?」
「そういえばいつの間にかいなくなっている!」
「マジかッ⁉」


 ゼラオラは焦りを隠しながら近くを通りかかったゴーリキーに声をかける。
「昨日証言に来ていたヒメグマは今どこにいる?」
「どこって、昨日警部が“帰していいぞ”って言ったそうですが…」
「誰から聞いた⁉」
「確か警部に言われたとあのヒメグマが、あれ…?」

「一体何がどうなっている…⁉」
「ハメられたのかもな…」
 あのヒメグマは怪しいと思ってたけど、想像以上にヤバい奴だったか…!
「とりあえずヒメグマの行方も追ってみる、お前も何か分かったらよろしく頼む!」
「もちろんだ、体壊すなよ」

「遅かったね、何かあったの?」
「ちょっと面白くなってきた、とだけ言っとく」


 ついでに買い物だけ済ませて帰ることにした。
「今夜のおかずは何するの?」
「そうだな…人参の葉っぱあるし天ぷらにでもするか?」
「いいね!私ジョウトに来たら食べたい天ぷらがあったんだ!」
「アローラでも天ぷらあるのか…ちなみに何の天ぷらなんだ?」
「紅生姜!」
「お、おう…」
 てっきり珍しい魚か大穴でちくわを予想していただけに面食らってしまった。
 ちょうど春菊もあるし、細々した野菜達もかき揚げにしてしまえば冷蔵庫の整理もできる。
 ちょっと奮発して貝柱や鳥でも一緒に揚げるか…?
 ふと肉類の棚を見た時にいい感じの合挽き肉が視界に飛び込んできた。一瞬遅れておろしハンバーグを食べたがっていたジュナの顔が頭をよぎる。
 特に迷わず貝柱と一緒にカゴに入れてレジに向かうことにした。


「なんで今日こんなに重いの…?」
「油と料理酒買ったからな、紅生姜天食わせてやるからもうちょっと頑張れよ…!」
「それにしてもさっきから持ってるその重いカバンは何なの…?」
「チェーンだよ、昨日ポケモンCQCを見ただろ?」
「それにしたって買い物もチェーンも重すぎるよ…」
「チェーンは買った物の倍は余裕で重いぜ?交換するか?」
「それはヤダ!」

 冗談っぽく会話しながらも、頭の中では事件について考え続けていた。

・容疑者と思われていたジャラランガの死後も同じ手口で続いた事件
・海水を移動できる共犯者の存在
・不可解なヒメグマの言動
 まだ首謀者の正体も手口も掴めてはいないけど、何も分からないままじゃない。
 ジャラランガと共犯者は当然グルな訳だが、もしヒメグマの不可解な言動が首謀者を庇うためだとしたら…?
 ジュナと思考を共有すると、ちょうど殺されたコリンクについて調べている途中だった。
『ガオのご飯は美味しいからもちろんお昼のガパオライスも美味しかったよ、それとも急ぎの検索かい?』
『そんなとこだ、連続で悪いけど、俺たちの倒したジャラランガについてもっと詳しく調べてくれるか?』
『ガオの判断を信じるけど、今更何かあったの?』
『ちょっとやつの犯罪記録と交友関係を知りたくてな…それと、あのヒメグマは多分クロだぜ』
『クロ?何か証拠が出たのかい?』
『ゼラオラの許可なく他の警官に認可させて警察署の外に出たらしい。もしかしたら一枚噛んでるかもな』
『ってことは僕はあのクソガキに騙されてたのか…許せない…』
 ちゃんと俺は言ったからな…
『何となくガオの睨んでいる事が分かったよ、“ジャラランガ、首謀者、共犯者、ヒメグマがチームを組んでいる”、そう言いたいんだろう?』
『流石だな、チームだと考えればヒメグマの不可解な言動にも説明が付く』
『なるほどね、期待通りの情報が出る様にもう一頑張りかな!』
 機嫌もおおむね良くなった様だが、天ぷらに合わせておろしハンバーグのダメ押ししとくか。

「ところで、お前昼飯はどうする?」
「そうだね、最近ずっと美味しいものばかり食べてるから悩む…」
「そりゃどうも、ガパオライスならまだ残ってるけど一旦帰って…」


「誰か!助けて!」
 思わず顔を見合わせる、距離はここから近い。
「そっちで声がした!」
 戦闘経験多い俺より気付くのが速いとは、伊達に音技使うポケモンじゃないな…!

 声の方に向かうと、怯え切った様子のエーフィが必死に助けを求めていた。
「助けてください!急に凶暴なポケモンに襲われて、彼氏が私だけ逃がしてくれたけどこのままじゃきっと殺されちゃう…!」
「アシレーヌ、そのエーフィを連れて逃げろ。彼氏ってのは今どこだ?」
「あっちの公園の方に走って…」
「待ってろ、今行く!」
 ゼラオラレベルの速度を内心羨ましく思いつつ、言われた方向に急ぐ。

「何なんです、いきなり襲ってきて…!」
「それはこっちの台詞だ…!」
 ちょうどキノガッサとガブリアスの戦闘中だった。
 他にポケモンはいないし、どっちかがエーフィの彼氏でもう一方が凶暴なポケモンの方だろう。なんで種族を聞かなかったんだ俺…?
 これがもし片方がブイズなら即決だったけど、どっちの可能性も捨てきれないか…!
「大変だ、エーフィが!」
 息を吸い込んで、わざとらしく叫んでみせる。
「なんだって⁉」
「…なんだ?」
 反応速度と表情を見る感じ、彼氏はキノガッサの方か…!

 困惑したようなガブリアスの頬を蹴り上げてキノガッサを解放する。
「一体、エーフィに何があったんです…?」
「彼氏はお前だな?」
「はい、そうですが…?」
「お前の事を心配してた、彼氏なら早く行って安心させてやりな」

 お辞儀をして走り去って行くところまでは見ていないが、無事に逃げられたらしい。


「何なんだお前は!?」
「そっくりそのまま返すぜ、ナニモンだテメー?」
 あとに残ったガブリアスと対峙する。

「ガオガエン、か… 予定とは異なるが問題ないな」
「ガブリアス、余計な消耗は避けられそうだな…」

 勢い良く振り下ろされた鰭を右腕でガード。
「お前、いつの間に鎖なんか…⁉」
「あいにく余計な消耗してる余裕ないんでな、ポケモンCQC捌式、ホウオウクロス・ブラザーフッド!」
 チェーンをパーツごとに結合、近接戦闘特化のアーマーとして使用する。
 攻撃を受けるために右腕だけ先に装着したが、チェーンの量には余裕がある。
 右腕だけじゃなく左腕の分もナックルと一体型のアームガードとして装着、レッグガードやショルダーとチェスト兼用ボディーアーマー、ヘッドバンドまで装着したところで余ったチェーンは背面にホウオウの尾羽を彷彿させる飾りとしてマウントしておく。
 チェーンを用いたアーマーならJOINTを一度使用するだけで攻防ともに強化することもできるし、万一出し惜しみする余裕のない相手だとしても手元にチェーンがあるのとないのとでは大違いだ。

「さっき蹴った時に気づいたけどよ、お前鮫肌持ちだろ?」
「ただの脳筋かと思ったが、ちょっと骨が折れそうだな!」
 構えの動きから足元に危険を感じてサイドステップでストーンエッジを回避、チェーンで覆われた足で岩を蹴り砕き、散弾のようにしてガブリアスに浴びせる。
 大したダメージにはならないまでも一手ずらせれば十分だ。
 防御に集中してがら空きになった腹部めがけてDDラリアットを直撃させる。
 強い衝撃と鮫肌の効果で右手のナックルに使用していたチェーンにヒビが入る、さっきは蹴りを直前で浅くしてダメージを受けずに済んだがうっかりダメージを受ければ不利になるのは俺の方だ。

「捕まりな!」
「ぶっ潰す!」
 いまひとつと無効でフレアドライブと雷パンチは今回お役御免、インファイトで攻めかかると同時にガブリアスは俺の身体めがけて白い物体を放つ。
「DISCか…⁉」
 インファイトを中断してDDラリアットの要領でその場でスピン、背中にマウントしていたチェーンで白い物体を弾く。
 塊を弾いた手ごたえはあったが、その直後に分裂するような感覚。

「⁉」
 急に視界が塞がれる。光の感覚はあれどもガブリアスの姿や公園の景色は完全に認識できない。
 ガブリアスの間合いや周囲への警戒を考えるなら俺を倒すのは地震ではなくストーンエッジの確率が高い。
 前言撤回、お役御免なんてとんでもない話だったな…!

「当たるとヤバいかもな!」
 全身に炎を纏い、音から察するに移動していないであろうガブリアスめがけてフレアドライブで突撃する。
 鮫肌に直接接触せずともフレアドライブを使えばチェーンも高温化して緋色になる。いまひとつでも無事ではいられない。
 数メートル先で手ごたえがあった。確実に衝突して吹っ飛ばしたが俺も頭に何かが大量に付着する。
「目潰ししても正確に攻撃してくるなんてよ…予想以上に強敵だったが、これでお前は終わりだ」
「待ちやがれ…!」
 ガブリアスを追おうとしても視界不良と頭への違和感に包まれて上手く動けない。
 フレアドライブの炎も出しっぱなしのままでその場に座り込み、何らかの違和感が…


 …いつまで経っても起こる気配がない。それどころか視界も少しずつ良好になって来て、目に砂が入った程度の感覚になった。

「おーい、頭に白いものいっぱい付いてるけど大丈夫?」
「なんとか大丈夫らしい、ガブリアスには逃げられちまったけどよ…」

FILE9 Do you want the truth?



 アシレーヌに洗面台として機能してもらうことで、頭と目の中の異物を洗い流すことができた。
「一体何があったの?」
「ちょっと変な白い物体を飛ばして来るガブリアスと接敵してな、何とか無事だが逃げられちまった」
「白い物体って詳しくは分からないの?」
「最初に目潰しにくらっちまったから残念ながら詳しくは見てない。強いて言えばチェーンで弾くとばらけたぐらいだな」
 自嘲気味に呟いて背中に付けていたチェーンを見ると、何かが付着している。
 付着というよりはこびりついたような感じだが、さっきチェーンで弾いた一部が高温のチェーンによって焦げてこびりついたんだろう。
「…これも帰ったら調べてみるか」
「なんか、一気に忙しくなったね」
「それだけ真実に近づいたって考えれば気力は維持できそうだけどな」
 そのまま帰ろうとしたが、アシレーヌが「一応診てもらった方がいい」と言って聞かないのでポケモンセンターに寄ったけど、異常なしと一蹴されてしまった。

「今朝からストレス溜まっててちょっと頭に来た、精神安定のために美味いピッツァ食って帰るぞ」
「あ、ちょっ…」
 頭に来た勢いで隠れ家的な店のドアを開けて店主のズルズキンにVサインして2匹用のテーブルに座る。クリスマスイブながら隠れ家だったおかげで飛び込みで入っても十分空いていた。
 流石に真っ昼間からワインを開ける気にはならないけど、前菜のパンチェッタを食べてからグラスのジンジャーエールを飲み、にやけたままで互いの顔を見合わせた。
「来て良かっただろ?」
「こんなの初めて…!」
「ブルスケッタとかも頼むか?辛いの好きならトリッパのマトマ煮込みも結構美味いんだよなここ」
「トマトとモッツァレラのやつはあるの?」
「カプレーゼか?」
「…そんな名前だったかも」
「OK、奢りだからどんどん食えよ!」
 カプレーゼとトリッパを追加注文、途中で皿を交換して堪能しているとマルゲリータとシチリアーナが焼き上がってテーブルに届く。

「ん?」
「えっ?」
 注文通りで期待以上の焼き上がりのシチリアーナは正直2枚目を焼いてもらおうか悩むレベルだし、アシレーヌのマルゲリータも美味しそうに焼き上がっている。
 しかし、ピッツァは2枚ともなぜかハート形に焼き上げられている。正直気まずい。
 さりげなく厨房の方を見ると、ズルズキンにウインクされた。
 暗黙の了解でお互いにピザカッターで素早く切り分けて、ハート形を崩すように食べ始めた。
 プッタネスカを思い出すような刺激的なマトマソースのピザは俺の好みでしかないのが地味に悔しい…
 ふと顔を上げると、アシレーヌも同じこと考えてそうな顔でマルゲリータを食べ進めていた。
 そのまましばらく見ていようと思ったけど、数秒で目が合ってしまい慌てて目線をそらした。

 食後にティラミスとエスプレッソをサービスされて舌鼓を打っていると、ジュナから連絡が入った。
『ガオの予想通りだね。あのヒメグマの身元は判明しなかったんだけど、使ってるDISCの正体ははっきりしたよ』
『あいつもDISC使いだったのかよ…』
『使用DISCはLIAR、“噓つきの記憶”を内包したDISCだね』
『もう信じられないや…』
『名前の通り“ついた嘘を本当だと信じ込ませる能力”だね』
『対象の指定がなさそうな分、地味に厄介な能力だな…』
 コガネ警察署で好き放題できる能力だ、厄介じゃないはずがない。
『一応“嘘だと気付いた時点で気付いたポケモンへの効果は切れる”んだけどね、始めから衝撃を信用してなかったガオを除いてみんなやられちゃった訳だ…』
 確かにあの時、俺はヒメグマの事を信用せずに始めから“嘘をついているかもしれない”と考えて証言を聞いていた。
 だからこそジュナを使ってカマをかけたりもしたけど、DISCの可能性を考えなかった俺の甘さに内心舌打ちして話を続ける。

『じゃあ、パラセクトの話も…』
『パラセクトは同じ様な手口で殺されたのは間違いないね、ただ証言とは嚙み合わない事実を発見したんだけど』
『嚙み合わない事実?』
『ガオに頼まれて死んだジャラランガの事も調べただろう?それでジャラランガの殺害歴を検索したんだけど、死んだ日にデンリュウを殺害したぐらいだし、ACIDを使い始めた日も12月22日で君が襲われた日からなんだ』
『なるほどな…』
 まだまだ謎は多いが、ヒメグマは首謀者と接点を持っていると考えていいだろう。
 すると、首謀者、ヒメグマ、共犯者、ジャラランガの4匹のチームなのか?いや、それだとヒメグマがジャラランガを特定できるような情報を流す必要性はないし、別々だとしても分からない事の方が多い。
『あぁそうだ、さっきDISC使いかもしれないガブリアスと接敵したんだ。一応それも調べといてくれるか?』
『分かったよ、ゼラオラにも連絡しないとね…!』
『頼むぜ、お土産買って帰るからよ』
 会話を切って、ぬるくなったエスプレッソを飲んだけど案の定酸っぱくなっていた…

 ジュナへのお土産用にポルチーニ茸をトッピングしたマルゲリータを注文して会計をしてると、ズルズキンにささやかれた。
「今日は可愛い仔連れて来てくれたから割引ね」
「そんな関係じゃねーよ…」



「ゼラオラへの連絡も済ませたし、あとはこっちでDISCの情報も調べておくかな」
 情報を検索していく中で、ヒメグマのLIARにコケにされた悔しさを拭い去れない。
 CHRONICLEのおかげで情報収集はできているけど、DISCブレイクしない限りはかかっている嘘も解除できない。
「噓つきのついた嘘がエラーを起こせば解除できるだろうけど、どうやってエラーを起こす?」
 ヒメグマに関してはなぜかCHRONICLEの力でも身元が判明しなかったから過去から弱みを握って解除させることもできないし、エラーの起こし方だってなかなか思いつかない。
「ガオならこんな時、どうやって倒すんだろうな…」
 戦闘面では近接戦闘を主体とする敵が多いから僕が遠距離からチクチク射撃するよりも近距離パワー型で接近戦を得意とするガオの方が確実に敵を撃破できる。おまけにDISCの能力も戦闘に活かしやすい。
僕に速さか耐久でもあればいいけど、速さはガオと同レベルだし僕の耐久には我ながら期待できそうもない。実際活躍といっても攻撃を受ける心配のない時だけだし。
 情報収集なら僕の方が得意だけどあくまでDISCの能力に依存しているし、一番肝心な推理力や心理戦の能力に関しては僕では足元にも及ばない。
 明らかに勝ってるのは水を使う家事ぐらいかもね…

「見た目とできることが違うのも一種のギャップというかパラドックスというか…」
 パラドックス…

『ジュナ?ちょっとお土産のピッツァ焼き上がるまで時間かかるからゼラオラに会ってから帰るぜ』
『ゼラオラには一通り連絡入れたよ?』
『そうだけどよ、ちょっと差し入れ持ってってやろうと思ってな。ここ数日働き詰めだろあいつ?』
『それもそうか…』
 推理も戦闘もこなしつつ回りへの気遣いもでkいるなんて、やっぱりすごいよ…
『何ならいろんな店はおろかデパートすらも今日は5時で閉めちまうし、明日は鍋祭りもあるから警備にも手を回さなきゃいけないらしいし大変だな…』
『そうだね、重役のスポンサーが絡んでるから簡単に中止にもできないだろうし…』
『ま、ジュナも能力使いすぎて疲れてるだろうけど頑張ってくれよ?情報収集に関してはお前だけが頼りなんだし、ポルチーニ茸をトッピングしたアツアツのマルゲリータ食わせてやるからよ!』
 引け目と憧れを感じて葛藤している僕の心を知ってか知らずか、遠回しに“頼りにしている”と言うだけ言って会話は終わってしまった。

「…」
 何とも言えない思いで情報を簡単に書き出してみる。

・ジャラランガ…ACID(酸で溶かす能力、彼は一連の事件の実行犯ではない模様)
・ジャラランガの共犯者…???(海中を活動できる、DISCを使ってるかどうかも不明)

・ヒメグマ…LIAR(ジャラランガの犯行という嘘の証言、真の首謀者を庇った?)

・ガブリアス…???(ガオが接敵、白い物体を飛ばすDISC?)

 分からない事は多いけど、とりあえずガブリアスのDISCについて調べてみようか。
 CHRONICLEを作動させて、1週間前ぐらいで絞り込んで検索を開始する。
「一つ目のキーワードは“白”」
 情報がある程度減る
「二つ目のキーワードは“固体と液体”」
 ガオから聞いた話から、固体でもあり液体のような性質を見せたらしいからそれを放り込んでみたけれど、今一つ絞りきれなかった。
「ダメだ、あと一つキーワードがあれば…」
ガオ抜きでやれるのはここまでらしい。悔しさを嚙み締めながら検索を中断すると、ゼラオラから着信がある。

「ジュナイパー!ガオガエン達はどこだ⁉」
「どこって、これから行くって…」
「さっき出て行ったんだが急いで連れ戻してくれ!ヤバいことになりやがった!」
 スマホの向こうのゼラオラの声も落ち着いているように聞こえてかなり焦っていた。
「一体何が?」
「あのヒメグマが入ってきて『事件は全部解決したよ、明日の鍋祭りを楽しもう!』なんて大声で叫びながら警察署内を走り回ってんだ!」
 顔から血の気が引いていくのを感じた。
「捕まらないのかい?」
「それが捕まえようとする度に『私はゼラオラ警部と仲良し!私に乱暴なことしたら警部が黙ってないよ!』なんて叫ぶから余計に面倒なことになっちまって…」

「俺はお前やガオガエンからの情報もあってヒメグマを信用しないことで嘘を看破したが、他の署員は完全にやられちまって警察署は機能しなくなっている…!」
「なんだって…⁉」

「これ以上噓つきに嘘を言わせるわけにもいかない、お前も動けるなら加勢してくれ!」
 ゼラオラのスマホが床に落ちる音。怒声と甘ったるいヒメグマの声。
「噓つきに嘘を言わせる…?」
 何となく考えが纏まってきた。
 ポルチーニ茸トッピングのマルゲリータを食べたくてたまらないが、これ以上ヒメグマに好き放題させる訳にもいかない。

「ごめんガオ、僕のワガママにもう少し付き合ってくれ」
 ガオに連絡しようと悩んだけど結局連絡はやめて、2階の窓からコガネシティに向けて飛び立った。


「俺がやられた後も、カラマネロとブニャットが殺されたらしいな」
「一体これからどうなっちゃうの…?」
「さぁな。とにかくジュナはピッツァを晩飯、俺たちはガパオにでもするか」
 ドアを開けると家の中にジュナの姿はなく、テーブルに置き手紙が一通。

「“警察署でトラブル発生なのでコガネに行きます、晩御飯までには戻りたい。いつもワガママ聞いてくれてありがとう”だって…」
 完全に入れ違いでジュナは飛び立ってしまった。あいつ、一体何をする気だ…?

FILE10 ジュナルドのウワサ!



「さっき聞いた通り、デパートは閉まってるな」
 影打ちのダメージを下げた状態で展開、周囲を警戒しながら警察署の窓越しにヒメグマを探す。
 3階の廊下を叫びながら走り回っているのが見えた。早く何とかしないといよいよヤバいかもしれない…!
 ふと気付くと、ファーストフードの店のテナントが入ってる隣のテナントビルのドアが開いていた。影打ちを中に飛ばしてみたけど他のポケモンの気配はない。これは、結構使えるかもしれないね…!

 咳払いを一つして、ジャラランガのような汚い声に似せて姿を隠しながら叫ぶ。
「予定変更だ!隣のテナントビルの中で一旦合流するぞ!」
「ジャラランガ…?とにかくそっちに行けばいいのね」
 ガオの予想通りジャラランガとヒメグマは接点持ちか、これでヒメグマは誘導できた。
 そして、このビルは既にポルターガイストで僕の手足のように動かせるし、隠れた部屋には防犯カメラの映像を確認するテレビだけでなく館内放送の設備もある。

「さぁお仕置きの時間だよ、僕やみんなをコケにしてくれた事のね」


「ちょっと、呼びつけておいてガブリアスやオーダイルもいないじゃない!」
 案の定1階でウロウロしている。そしてガブリアスとオーダイルは仲間か…?
「っていうかあんた塩素にやられて死んだんじゃないの?なんで生きてるの⁉」
 いちいちイライラさせる喋り方だな…
 まぁいいか、そろそろアドリブ本番だね…!

「やぁ、こんにちは!」
「こんにちは、って誰なのよあんた!」
「僕の名前はジュナルド、マクジュナルドってハンバーガー屋のマスコットさ!」
「そんなキャラいたっけ?っていうか何でマスコットが喋ってる訳?」
「もちろんさぁ!ジュナルドはお喋りが大好きなんだ。君と一緒に色々お話しようよ☆」
「っていうかさっきから何なの⁉いきなり変なビルに呼びつけたりして!」
 館内放送から突然高めの声で架空のマスコットキャラクターを名乗る何者かが喋りだしたら、普通はこれぐらい混乱もするか…

「ジュナルドの足はね、このくらい。ハンバーガーが、3個分くらいかな?」
「ちょっと聞いてるの?館内放送でいたずらしてるそこの奴!」
「もちろんさぁ!でもジュナルドはあくまで館内のスピーカーを乗っ取って喋ってるだけだから、この建物の放送室に来たって今は喋れないよ?」
 ヒメグマは明らかに混乱した反応を見せている。この程度で怖がってちゃ拍子抜けだけどね…

「ジュナルドは今、ダンスに夢中なんだ!ほらね、ジュナルドもみんなも自然に体が動いちゃうんだ☆」
 ポルターガイストを作動させて近くにある手頃な大きさの物をテンポ良く動かす。
「⁉ 何今の⁉」
「君も一緒に踊ろうよ!優しいスローダンスでいいからさ!」
「これ絶対ヤバいって!早く逃げなきゃ!」
 ドアを開けようとしてもポルターガイストの範囲内。逃がすはずがない。

「そのままでいいからさ、ジュナルドの話を聞いてよ?話を聞いてくれたらかえしてあげるからさ!」
「…本当なの⁉」
「もちろんさぁ!ジュナルドは嘘なんてつかないよ、君とは違ってね」

「…なんで私を噓つきなんて言えるの?」
「驚いた?ジュナルドは君の事もよく知ってるよ!」
 さりげなく“お前は噓つきだ”と名言されたヒメグマは目に見えて焦りを生じている。

「確かにジュナルドはマクジュナルドのマスコットだよ?でも、黄泉比良坂店のマスコットだけどね」
「黄泉比良坂…?」
「簡単に言えば、“この世とあの世の入り口”かな。だからハンバーガーを売りながら君のことをずっと見ていたんだ」
「…あの世って、バカバカしいこと言わないでよ!」
「さっきのダンスだってあの世の力だよ?もちろん見てたのは君だけじゃない、ポテトを揚げながらずっと見てたのさ、この世のクズって奴をね☆」
「クズ…?」
「そうさ、黄泉比良坂で店の掃除をしていると死ぬには惜しいポケモンばかりやって来るんだ。最近だと頭のないダイケンキや頭しかないアローラロコンとかね」
「…」
 わざと名前を出してみたが、この反応を見る限りやっぱり絡んでるか…
「それに引き換え、この世には生きる価値のないクズがぬくぬく生きてるんだ。例えば、罪のないポケモン達を守るために必死になっているポケモン達を嘲笑うかのように嘘の情報を流して混乱させるクソガキのヒメグマとかね」
「…何よ!私がクズだって言いたいの⁉」
 敢えて逆撫でするような言い回しを選びながらも大詰めは残しておく。ここでダメージを与えるにはまだ早い。

「君自信にクズの自覚があったなんて、嬉しいなぁ☆」
 あの答えは自分がクズだという自覚アリだ、さらに逆撫でしていく。

「ジュナルドはマクジュナルドのマスコット以外にもう一つ、まだこの世にへばりついてるクズをあの世に連れていくお仕事もしてるんだ☆」
 ヒメグマの周りにあった配線コードを動かして首の周りを漂わせる。
 小さく悲鳴をあげて部屋を動き回るヒメグマの姿は滑稽だけど、笑いをこらえて次のセリフを編み出す。
「ジュナルドはね、いろんなあの世への送り方を知ってるんだ!特別に痛くない方法にしてあげようか?」
「べ、別に大したことないじゃない!子供のいたずらと同じでしょ!」
「散々好き放題しておいて殺されそうになったら命乞い、まさに君は正真正銘のクズだね☆」
 大げさな台詞を言いながら配線コードをヒメグマの足に巻き付けて転ばせる。
「きゃあっ!」
 ようやくガキっぽい声が出た、結構時間かかったね…

「本当に殺さないで!私まだ小さいから死にたくない…!」
「だめだめだめだめだめだめだめ、君はこれから死ななきゃならないんだ☆」
「なんでよ…!」
「君たちが殺したポケモンの中には君より小さいポケモンもいたんだ。それに、君のしたことは既に子供のいたずらのエリアをはみ出したんだ」
「そんな…」

 ホラー映画のような展開からじわじわと精神的に追い詰めていく。
 ガオならきっとこうするだろうし、驚かしたり怖がらせることにかけてはゴーストタイプの方がずっと得意なはずだ。
「とはいっても今日はクリスマスイブ、一つだけ君にチャンスをあげるよ☆」
「チャンス…?」
「そう、君はLIARのDISCを使ってこれまで悪いことをしてきたんだ。そのDISCを使って良い事をすれば考えてあげるよ!」
 普通ならDISCを知っている時点で違和感に気付くはずだが、ヒメグマにそんな余裕はないらしい。
「良い事ってどうすればいいの⁉」
「簡単なことさ、君はLIARの能力を使ってこれから僕の言う言葉を言えばいい。準備はいいかい?」
「わ、分かった!それならできる…!」

「行くよ、『私は噓つきです』」
「私は、噓つきです…?」

 何か憑き物が落ちたような感覚がする。これで上手く行った…!
「上出来だ、ちょっと考えてあげよう」
 気づかれないようにゼラオラに連絡をすると、ちゃんと正常になったらしい。
 LIARの能力の前提として発言は嘘である必要がある。もし「私は噓つきです」という言葉が嘘なら本当のことを言っていることになり、正直ならそもそも「私は噓つきです」なんて自分に嘘をついたりしない。
 要はついた噓にパラドックスを生じさせることで嘘の理論を崩壊させて、これまでついた噓の能力を解除してやった。
 これは賭けだったけど、ガオみたいに推理が的中した…!

「約束通り考えてあげたよ」
「じゃあ早く私を解放して…!」
「考えた結果、君をあの世にご招待してあげることにしたんだ☆」
 当然DISCブレイクもしていないのにこのまま逃がすつもりはない。

「待ってよ!考えてくれるって言ったし返してくれるとも言ったじゃん!噓つき!」
 絶望に染まりかけた泣き顔で懇願しても既に逃げられないよ?
「噓つきから噓つき認定貰っちゃったね、でも僕は嘘はついてないよ?ちゃんと考えてあげた結果、やっぱり擁護できないからあの世にご招待するんだし、そもそも返してあげるなんて一言も言ってないよ?」
「えっ…?」
「僕は“返して”あげるじゃなくて“還して”あげるって言ったんだ、もちろん君の魂をね☆」

 今度こそヒメグマの顔は絶望に染まった。とどめと行こうか…!
「君のような罪深い魂は、輪廻の輪に戻ることもできずに輪の周囲を回り続けるんだ。魂そのものも回りながら輪廻の輪の外を永遠に回り続けるんだ☆」
「やめて、死にたくない…!」
「ジュナルドはクズを見るとつい殺っちゃうんだ、逝くよ?」
「待っ」


「Round Round Loop☆(回って回って回り続けろ☆)」


 ヒメグマは完全に泡を吹いて白目を剝き意識を失っている。
「I’m lovin‘ it☆」
 ジュナルド状態で一応声を出してみたけど反応はない。
 ポルターガイストで操作する物体も何かの欠片が増えている。手繰り寄せてみるとLIARのDISCの破片だった。

「やった!僕だけでDISCブレイクに成功した!」
 LIARの能力を解除したから警察署も正常に機能するし、情報だって正常に伝わるはずだ。
 念のためコードで縛りあげておいたけど、ヒメグマそのものは一体どうするかな…?
 この際フライヤーに頭から漬け込んでじっくり揚げてやろうかと思ったけど、外からの気配を感じて矢を構える。
「この感じは、上から…?」
 ポルターガイストで認識できないということは屋上にいるらしい。影打ちを飛ばしておきながら気配を消して屋上へと上がって行く。
 屋上へと通じるドアの向こう側影打ちに手応えがあった、ドアを開けると同時に羽根の矢を放つ。
「あのヒメグマを倒すとは、タダモンじゃねぇな…?」
 町の灯りで生まれた影を縫い留められたガブリアスが息を粗くして僕を睨んでいる。

「君もDISCを持ってるんだろう?ついでにブレイクしておこうかな」
 普段の口調を崩さず、けれども頭はフル回転させてガブリアスのDISCの能力を推理する。
 白っぽくて崩れやすい固体を飛ばすだけの能力なんて考えにくい。普通はそれ以外に何かの能力があるはずだ。あるいはTOFUのDISCなんてあるのか…?
「ほう?やってみろ!」
 二射目の矢を構えようとした瞬間にガブリアスは薄い円盤を6枚ほど投擲する。
 矢を構えずに円盤を弾くために使うことで直撃を避けたが危なかった、一体どこからこんな円盤が…?

「墜ちな!」
 地震を打ちそうな動きに反応して飛び上がるけど、さっきと同じ円盤が複数投擲される。
「僕だって二度も同じ手は通じないよ!」
 飛び上がった状態から体勢を変えて急降下、ブレイブバードに変えてガブリアスと地震で砕けた天井もろとも階下へ落ちていく。

「それなりに強いようだな…!」
「そりゃどうも…⁉」
 よく見るとガブリアスには左の鰭が、というか左腕の一部がなかった。
 落下の衝撃でちぎれたのか?それにしてはやけに断面が白い…?
 理由は分からないが幸い転落してきた場所は1階のファーストフード店のあった場所で、ある程度の調理器具はある。このまま背後からキッチンばさみを飛ばして一撃くらわせて…

「⁉」
 背中を鋭い何かで切り裂かれる。
「ったく、焦らせやがってよ…」
 左の爪で頬をかきながらガブリアスは僕を見下ろしている。
「ひ弱に見えて奥の手使わせた奴だ、冥土の土産に面白い事聞かせてやるよ」
 左腕は白い何かで繋がっているらしい。あれは接着剤か…?
「フライゴンも殺し、駆け足になったがさっきルカリオも殺したことで全ての準備は整った。」
 うつ伏せのまま起き上がる気力もない。ふと横を見るとさっきガブリアスが投擲した白い円盤が落ちている。見た感じ植物みたいだし、これは一体…?
「これで準備はできたしお前はDISCを知ってるみたいだから特別に俺のDISCの能力で他のやつと同じように殺してやるよっ⁉」

 ガブリアスが悠長に話してる間にキッチンばさみを背中に突き刺してその隙にテーブルや椅子で即席のバリケードを作って籠る。
 死の運命を目の前にして、ようやく僕の頭はガオみたいな機転や推理力を手に入れたらしい。
 白い植物でこんな薄い円盤みたいなものを切り出し、崩れやすい固体であり液体みたいな物質を作れるなんて、滅茶苦茶だけどDISCは一つしか考えられない。
 そして、ガブリアスの奇妙な言動。
 これでジャラランガやヒメグマとの関連性ははっきりした。そして、DISCの能力と殺されたポケモンの共通点も今ここで一つに繋がった。


「まさか、このままじゃジョウトが危ない…!」


 何とかしてこの事をガオに知らせなきゃと思ったけど、決定的なダメージを受けてしまい上手く思考を共有できない。
 だったら一か八か矢文で行くか…!
 ハンバーガーを包むのに使う包み紙をポルターガイストで持って来た。
 バンズを含めた9層のバーガーの隣にはアルファベットでHAMBURGERと縦に書かれていた。
「死に際にラッキーだね…!」
 血で文字を書く理由もなくなった、矢で囲むような跡を付けてからさっきの薄い円盤とLIARのDISCの破片をくるんで羽根の矢にセットする。
「お願い、届いて…!」
 勢い良く放った矢はワカバタウンに向けて放った。謎解きみたいになったけど、ガオが受け取ってさえくれれば謎を全て解き明かして事件の真実に気づいてくれるはずだ。

 矢を放つと同時に身体の力が抜けて意識が遠のいていく。
 ガブリアスがガオに使ったのと同じだろう物体を僕に撒こうとしている。
 最後の力を振り絞ってポルターガイストで思いつきの秘密兵器を広げる。
 頼む、間に合ってくれ…!


 視界が真っ白になってブラックアウトしていった。
 ポルチーニ茸トッピングのマルゲリータ、食べたかったな…


「!」
「どうしたの?」
「思考共有してたはずのジュナの思考が消えた…」

FILE11 エターナル・グッドバイ [#48iTn0g]



 思考共有はJOINTの能力によるものなので俺の能力が途切れない限り消えることはないが、肝心の思考そのものはジュナに依存するからそれが消えたということは…
「あいつが、死んだ…?」
 噓だよな、ただ意識失ってるだけだろ…?
「ちょっと、死んじゃったってどういう…?」
「そんなこと俺が知るか!事実から推測しただけで俺だってあいつが死んだって信じられるかよ…!」
 探偵として活動する上ではCHRONICLEを使えることもあって情報収集役としてはかなり優秀だった。
 戦闘面では俺の相性不利なタイプに有利に立ち回れることもあり、機動力を確保できる飛行能力や影縫いによる拘束能力付きの遠距離射撃、ポルターガイストによる屋内での変則的な戦いもできて、DISC抜きでは機動力や搦め手、遠距離攻撃に乏しい俺にとってはペアを組むなら相性のいい存在で…

『違うだろッ!お前は俺の…』
 思考共有する相手も不在な抜け殻の空間に吠える。
『…今更遅いけど、“相棒”って呼ばせてくれ!』
 今更届かないし届けられないけど、こうでもしないと壊れそうだった…
『この事件を解き明かして、お前の体をワカバタウンに連れて帰ってやるからな…』


「悪い、ちょっと取り乱したな…」
「仕方ないよ、私だってお兄ちゃんが死んじゃってすぐはそうだったから…」
「スタンド使いもびっくりの精神力だな… ちょっと外の空気吸って来る」
 DISC使いとの抗争に巻き込まれて精神的に成長したんだろうか?その点俺はまだまだ未熟で…
 ふと気付くと玄関のドアに何かが刺さっている。
 抜いてみるとハンバーガーの包み紙を貫いた矢だった。
「矢文…?」
 そしてこの矢が誰のものかは考えなくても分かった。

「ジュナが、俺たちにメッセージを遺してくれていたらしい…」
「メッセージ?」
「この矢はジュナの矢だ…」
 包み紙を開くとDISCの破片と白くて薄い円盤が包まれていた。
 最高レベルのCHRONICLEは使い手が死んでも壊れないし、見たところLIARの破片と見て間違いないだろう。
「厄介なDISC能力が減ったな…」
 情報を混乱させる能力が盤面から消えたことはこちらにとっては大きなメリットで、あいつの死も無駄ではなかった、って言い切れるだけの余裕はまだない…
「この白いのってなんだろ?大根かな?」
 アシレーヌは白くて薄い円盤と睨めっこしている。
「だな、この感じは千枚漬け用にも見えたけどそれにしては妙に厚い…」
 千枚漬けなどの調理用の切り方にしては中途半端に厚く、どちらかと言えば円盾やチャクラムのような投擲武器のように見える。

「他には特になにもなくて、ハンバーガーの包み紙には何も書いてないね?」
 普通ならこの紙を手紙として使いそうな気がするけど、予想とは違って何も書かれていなかった。
「いや、敵に襲われた状況下なら悠長に文字を書いてる余裕もないし、大根とDISCの破片だけならそのまま飛ばして来るはずだぜ。これにはきっと何かある」
 光に透かして見ると、ハンバーガーの絵を囲むような跡があった。
「このハンバーガーの絵が囲まれてたぜ!」
「…で、それは何を意味するの?」
「…これから考える、うん」

 ハンバーガーの絵と隣のHAMBURGERの文字を囲んだだけ、以上。
 これがもし特定のアルファベットだけに跡があるなら“AMBER”みたいに一発で分かったけど、そういった類のものはない。
「まさかお前は“HAMBURGER”とか“DONALD”みたいなDISCの使い手に殺されたのかよ…?」
「そんなふざけた能力もあるの…?」
「別の世界では親子丼の能力持ってるやつがいたらしい…」
「えっ…」

「とりあえずジュナが生死に関わる状況下で必要もないことをするような奴じゃない、この大根と包み紙はきっと何かのメッセージのはずだ…」
 この台詞もそろそろ十回は言っているかもしれない。
 さっきから二匹で考えているけど、全然ヒントもなければ突破口の一つも見えない。
 ジュナはLIARをDISCブレイクした、それだけが事実で他は希望や願望で推理しているだけにすぎない。
 推理もCHRONICLEも事実から追跡しなきゃ真実には決してたどり着けないのに、俺の心にジュナの事が重くのしかかりすぎて、最後まで希望や願望を捨てきれずにいる…

『冷静さを無くして感情に流されて事実を追えないなんてよ、探偵失格だな俺…』
 情けなくて力なくテーブルに両手をつく。泣いたり怒ったりするよりも笑えて来た。
 今まで誰が死のうがどれだけ傷つこうが冷静に真実を推理して依頼をこなしてきた俺じゃなかったのかよ…!


『大丈夫、落ち着いて考えたらきっと解けるはずだよ』
 胸元に回された鰭、脳内に響き渡る優しい声と後ろから抱きしめられる感覚で荒れ模様の脳内が少しだけ落ち着く。
『…解けるのか?』
『あのジュナイパーなら推理力を信じてメッセージを残してそうだよ、きっと真実に到達するための大ヒントを。それに…』
『それに…?』
『ガオくんなら全ての謎を解き明かしてお兄ちゃんを殺した奴をやっつけてくれるって、私信じてるから…』
 背中を抱きしめる力が強くなった。
 家族を殺されて死に顔すら見られなかったアシレーヌにとっては、俺だけが真実に到達するための唯一の希望なんだ。俺がこんなところでくすぶっててどうするんだよ?

『わざわざ脳ミソの中まで励ましに来てくれてありがとな、確かに落ち着かなきゃ見えるモンも見落とすよな…』
 背中から密着する温もりを正面に持って来てさりげなく、力強く抱きしめる。
『心の中で言おうかどうか悩んでた状態だったのに、どうして伝わっちゃったんだろ?』
『多分“センチメンタルな気分になるようなピ○ゴラ装置”一緒に見た時に同じこと感じたから、JOINTの能力で思考が繋がったんだろうな…』
『あっ…』
『これは見ない様にすること自体はできるし、通信機なしで会話できるから結構便利なんだぜ?』
『確かに鰭だとスマホ上手く触れないから、悪くないかも…』
『とにかくちょっとは冷静さを取り戻せた、依頼を達成するべく“ガオくん”が事件を解決してみせるさ!』
『やめてソレ!恥ずかしかったから聞かなかった事にして!』
『そんな寂しい事言うなよ?雄ってのはそういう一言でフルパワー出せるんだぜ?』
『そう言われても… そういえば私どうでもいいこと気づいたんだ!』
『事件の推理が最優先であることを自覚しているガオくんはからかいたい気持ちをグッとこらえて進んで話を聞こう、言ってみてくれ』
『…ダイケンキとロコンって一部の文字引っ張ったら“ダイコン”になるなって!』

『…ごめん、俺が悪かった、ちょっとからかいすぎた』
 苦し紛れの冗談で一匹寂しく笑うアシレーヌを見ると流石に心が痛む。
 ダイケンキとロコンを組み合わせてダイコンだなんて…
 …ダイコン?

 ふと気になって包み紙の絵を再確認する。
『そういえばあの中には薄切りの大根が入ってたし、包み紙のバーガーの絵も9層でHAMBURGERも9文字…』
『どうかしたの?』
 そしてダイケンキは頭から首にかけてがなくなっていて、ロコンは逆に頭以外がなくなっていた。
 急いでゼラオラに電話をかける。
「どこ行ってたんだ⁉あのヒメグマの能力は解除されたからいいけどさっきまで本当に大変だったんだから…」
「ゼラオラ、一連の事件で殺されたポケモン達の失われたパーツを教えてくれ」
「その声は真実に向かってる最中だな、了解だ。何か分かったら教えろよ!」
 電話が切れて、メモの写真が送られてくる。

・ダイケンキ…頭から首にかけて
・ロコン…首から下
・オオタチ…首及び胴体の上辺
・ニョロゾ…腹部
・ペルシアン…胴体
・パラセクト…キノコの傘の外周部分
・ネイティオ…首及び胸元
・ヤドラン…頭部
・コリンク…頭部
・カラマネロ…胴体下部分
・ブニャット…首及び胴体の上辺
・フライゴン…頭部
・ルカリオ…頭部

 そして、大根の断面を見ると刃物で切ったというよりおろし金に触れたようにざらついている。
『鮫肌…?』
 直近で鮫肌に心当たりのあるポケモンはヤツしかいない。
『頭部を襲われた俺はコリンクとカラマネロの間で…』
『でも生きてるよね?』
『生きてるけど言動が引っかかってな、一応俺もカウントに入れておく』


・ダイケンキ…頭から首にかけて
・ロコン…首から下
・オオタチ…首及び胴体の上辺
・ニョロゾ…腹部
・ペルシアン…胴体
・パラセクト…キノコの傘の外周部分
・ネイティオ…首及び胸元
・ヤドラン…頭部
・コリンク…頭部
・ガオガエン…頭部
・カラマネロ…胴体下部分
・ブニャット…首及び胴体の上辺
・フライゴン…頭部
・ルカリオ…頭部


『これで完成かな?』
『そうだな…』
 アシレーヌの発言、ジュナの矢文、ゼラオラのくれたデータ…
 俺はついに一つの真実を見つけ出した。


「そうか分かったぜ!ジュナが本当に俺に伝えたかった事が!」
 俺自身でもわかるぐらい不敵な笑みを浮かべている。
 ジュナ、やっぱりお前はいい相棒だったよ。

 だからこそ、あとは俺に任せろ…!





※ガオガエンは謎を解き明かして“ジュナイパーが気付き、ガオガエンに伝えたかった事”に気付きました。
このまま読み進めても問題ありませんが、これを読んでいる皆さんも是非謎を解き明かしてみてください。


真実に到達する
最初から事件を振り返る
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