CAUTION
※今作のコライドンの描写は主にSV発売前の情報と印象に依拠しており、本編での描写、設定とは
※※故に設定が迷子の箇所がございます(特に冒頭10話まで)
※※※要は顔とガタイの良さだけで書いた妄想の代物です
※※※※SVに関する重大なネタバレも含みます(予定)
※※※※※ケモホモです、⚣です。複数、過激なプレイなど基本何でもアリです。
なぜかガラル地方に転生したコライドンだけどイケメンなので何とかなった その2
作:群々
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「それで」
とキバ湖の瞳のオノノクスは腕をキツく組みながら、どう言葉をかけてやったものかと思案する。
「どうしようもねえからって、俺のところに来たって?」
目の前には朱色のカラダが映えるドラゴンポケモンが肩を落としてオノノクスと向き合っている。ある日、突然ワイルドエリアに姿を現したそのポケモンは、名前をコライドンといった。長年この場所を住処にしてきたオノノクスは、元よりさほど外界に詳しいわけではなかったが、ついこの間まで、コライドンなどというポケモンを見聞きしたことはもちろんなかったが、ジャラランガのやつがいきなりコライドンを連れてきた時には、一目見ただけでその内側にこもる力を感じ取って殺気立ちそうになったものだ。そんなヤツを連れて、能天気に振る舞っているのだから、ジャラランガのヤツちょっとくらい注意力を持ったらどうなんだ、と実のところ呆れもしていたのである。
別の世界から飛ばされてきた、と話すコライドンの言葉には少々信じがたい部分もある。が、悪いことを企んでいる様子はなさそうだったし、ジャラランガやプテラやオンバーンやら、勝手にオノノクスの元へやってきては好き勝手騒いでいく「陽気な」輩どもとは、うまくやっているようでもある。それに、畑を作るのも手伝ってくれたしなと、かき氷のようにふっくらと柔らかい土がこんもりと盛られた畑にオノノクスは目を移す。
ところが、明け方にたった一匹で現れたコライドンの様子は何やらおかしかった。その姿は屈強であるはずの体格に反して小さく、弱々しく見えるのだ。普段ならば力強く風になびいているはずの額からの触覚が力無く重力に押し負けていたし、胸元から飛び出さんばかりのタイヤのような膨らみも今はパンクを起こしたかのように微かに平べったい。
コライドンはオノノクスの顔と地べたを交互に落ち着きなく視線を泳がせながら、もじもじとしていた。相手の機嫌を慎重すぎるほどに伺っている様子だった。怒られることを恐れる怯え切った子どものようで、オノノクスはまだ事情もよくわからないうちから、いじらしいと感じた。どうしたんだよ、とオノノクスは努めて穏やかな口ぶりで話しかけた、貴様に何かあったらしいってのはわかるが、まずは何でもいいから話してみろ。
コライドンはこれまでの事態を包み隠さずオノノクスに話したのである。舌足らずではあったが、ガブリアスとの間で起こった出来事について。そのせいで迷惑をかけたどころか、プライドをひどく傷つけるような真似をしてしまった以上は、ジャラランガのところにいるのも気まずく、申し訳も立たない気がして、何も言わずに出てきてしまった、ということらしい。とはいえ、コライドンにとってワイルドエリアは未だ右も左もわからない土地に変わりなかった。結局どうすればいいかわからず、向かったところは自ずとキバ湖の瞳だった。
確かに、そんな体躯でワイルドエリアなどほっつき歩いていてはイヤでも目立つ。おまけにガラルでは知られていないポケモンなのだから、もしヒトにでも見つかったりしたら余計に騒ぎが大きくなってしまう。そうなっては元いたところへ帰るどころか、平穏無事に過ごすことさえままならないだろう。
オノノクスは首を振る。
「別に何から何まで口に出す必要はねえよ」
コライドンの口元に腕を伸ばす。
「言わんとすることは大体わかった」
ふしくれだった手の平を、コライドンは目を丸くして見つめ、微かに頷く。制した腕をゆっくりと下ろし、オノノクスは胸を軽く膨らませながらみずみずしい草の匂いを含んだ空気を吸い、人間がするところの喫煙のようにやんわりと口を窄めて息を吐き出した。コライドンの大きな瞳がくりくりとして、胸が膨らんでは縮むのを見つめている視線がこそばゆかった。自分よりも一回り大きい図体をしているくせ、こうして相対しているとまだ年端も行かないような印象を受けた。貴様みたいな野郎なら、ちょっとは世間ずれしててもおかしくねえと思ってたけど案外そうでもねえんだな、とオノノクスの言葉を待ち受けている相手の不安そうな表情を観察していると、見られていることを察したコライドンは黙って目線を泳がせた。
「で、貴様はどうしたいんだ?」
不意をつかれたようにコライドンは仰け反った。本当に困惑した表情を浮かべ、目は半ば閉じてオノノクスの様子を恐る恐る伺っている。オノノクスは腕を組み直し、コライドンの答えをじっくりと待つ。
「えっと」
やっと絞り出した言葉だったが、コライドンは俯き加減になって、なおも考えをまとめられないでいた。
「いずれにせよ、ここにいたらきっとアイツ、探しに来るんじゃねえか」
ジャラランガのヤツ、不貞寝でもしてねえといいが、とオノノクスは願うが、その一方であの「うろこポケモン」が不機嫌になったり気落ちしたりすると大概昼まで起きあがろうとしないことも知っていた。よりにもよって、こういう時にそんなことをするのがジャラランガというままならない雄であることを、オノノクスはこれまでもわからされてきたのである。
何となく、今回も、よりにもよって、そうなるような気がした。ワイルドエリアに太陽が昇った。青みを帯びた地べたの暗がりが幕を開くようにじわじわと明らんでいく。朝の日差しをまともに受ける格好になったコライドンが顔を顰める。その表情は今の深刻らしい状況からはあまりにもかけ離れたように見えたので、オノノクスはつい顔をほころばせる。
「す、すみません」
と、コライドンは何も言われていないのに、ワケもわからないままに謝るのもおかしかった。オノノクスは握り拳を作って、コライドンの逞しい胸をそっとパンチする。
「ま、気が済むまでいたって構いやしねえ。もしアイツが尋ねてきたら話はするだけしといてやる。ただし、な」
そうして、白地に朱で描かれた葉っぱを思わせる模様があるあたりでグッと拳を押し込むと、程よい抵抗感を持ちながら沈み込んでいく。引きつった面持ちのコライドンに、オノノクスは揶揄うような笑顔を見せ、空いた方の手でフカフカした土の盛り上がった畑を指差した。
「お前が作ったソレ、またちゃんと世話してくれるんだろ?」
な? っとオノノクスの拳が筋肉ごしに肋骨に触れた。
「……すみません」
色々なことを言おうとしたけれど、結局さっきと同じ言葉を繰り返すコライドンなのだった。
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キバ湖の瞳にゃ少なくともあの野郎は近寄らねえからな、とオノノクスが受け合ってくれたことは、ひとまずコライドンを安心させた。オノノクスが言うには、ヤクザなガブリアスはそもそも泳ぐことを好まないし、第一わざわざオノノクスのもとまで会いにくる理由もなかった。だいたい、元々くっついていたジャラランガのヤツとああいうことになってしまったからには、なおさらこんなところまで来るワケもない。オノノクスが堂々と鼠色の胸を張りながら言うものだから、コライドンはその言葉を信じた。
「まあ、なんだ」
オノノクスは腰に手を当てて、皮肉っぽくはあるが彼としては精一杯の柔和な表情を浮かべた。ひとまず横になっとけよ、貴様、疲れてるようだしな?
それが魔法の言葉ででもあったかのように、コライドンは急に全身が重たく感じられてきた。胸筋に挟まれた胸袋が鉛のような重みを帯びて、思わず膝をつきそうになった。力無く垂れていた触角が首にのしかかって、肩がひどく凝っていた。オノノクスに案内されるがまま、人目につかない木陰に移動すると、精根尽き果てた旅人のように草むらに突っ伏した。
胸袋は針で小さな穴を開けられでもしたかのように萎んでいて、生い茂る草の感触が胸元の盛り上がったところまで届いていた。朝になって間もないというのに既に鱗を灼くようになっていた日なたの暑さが、この木陰ではトーンを一つ下げたように和らいでいた。草に覆い隠された土の冷たさも感じられた。それは、夜通しワイルドエリアをあてもなく歩き回り、混乱し、錯綜していたコライドンの気持ちを多少なりとも落ち着かせてくれる。
ジャラランガの寝床をとぼとぼと離れてから、あてもなくワイルドエリアをうろつき回った疲れがどっと押し寄せてくる。確かに、コライドンはどこかへ行こうとはした。けれど、どこかへ行こうとしてもガラル地方などというコライドンの知らない土地であるからには、じゃあどこへ行けばいいんだよ? そんな当然のことに気づいたのは、うららか草原を横切り、やがてどこか外の世界へ繋がっていると思しき門の手前に辿り着いた時になって、ようやくだった。
コライドンは呆然としていた。見知らぬガラルという土地に一匹ぼっちにされて、自分はそこから足を踏み出すことも、かといって踏みとどまることもできそうにないという相反する感情に囚われ、訝しげにそばを通り過ぎるイワークの姿や、見慣れないポケモンの姿に怪物でも見たかのように混乱して瞬く間に遠くへ飛び去っていくオンバットたちのことも気に止めず、コライドンは立ち尽くしていた。門の向こうから現れた人間らしき人影に驚かなければ、コライドンはいつまでもその場に立ち尽くしていたかもしれない。
踵を返せば、まだジャラランガは眠っているあの場所へ戻り、何事もなかったかのように振る舞うことはできただろうが、そうするだけの勇気はいまのコライドンにはどうしても湧いてこなかった。何を話せばいいのか、考えただけで胸が潰れそうだ。後ろを振り返れば、キバ湖の向こうには古びた見張り塔の黒々とした輪郭が浮かんでいた。あの場所でジャラランガと無邪気に戯れていたのは、決して昔のことではないはずなのに、もう失われてしまったことのように感じられてしまい、屈強なコライドンの胸は弱々しく締め付けられるのだった。
キバ湖の瞳のオノノクスのもとにやってきたのはコライドン自身の意思というよりは、そうなるよりは仕方がないという、それまでの理由に過ぎなかった。北も南も行くあてがないためにコライドンが延々と彷徨わなければならないエリアに、たまたまオノノクスの住む場所があったまでのことで、それ以上でも以下でもなかった。
思い切り胸と腹を大きく膨らませながら空気を取り込む。土と草と水の香りをふんだんに含んだ空気が鼻腔を流れる。肺がいっぱいいっぱいに膨らんだところでしばし間を置いて息を止める。そうして意を決したように溜め込んだ息をふうっ、と吐き出した。吸った息をすっかり吐き出してしまっても、口先を小さくすぼめてまだ吐いた。
ギュッと腹に力を込めてしゃにむに腹を凹ませると、腹部の内側まで張り詰めて、ガクガクと震えた。そのまま背中とくっつき、挟まった内臓をぺちゃんこにしようとするかのように、限界まで腹を凹ませようと頑張った。
コライドンは息を吸い直した。そしてもう一度息を吐き、同じことを何度も繰り返した。無性にそんなことをしたくてたまらなかった。腹の内側から痛みが感じられるようになったところで、コライドンは深呼吸を止め、ゆったりとした動作で横向きに寝返りを打った。
オノノクスも言った通り休むことが先決だった。先のことはどうにも考えようがなく、不安と迷いしかコライドンの胸の内にはなかったが、むわむわと盛り立つ草いきれの匂いに取り巻かれながら、何者でもない時間を過ごそうとした。
「っ……?」
目を瞑ってしばらくして、コライドンから苦悶じみた声が漏れた。
「んっ……」
違和感を感じたのはお尻の辺りだった。ごく微かではあるが奥のあたりがトク、トク、と鼓動している。昨晩、ガブリアスに好き勝手されたばかりの後ろの穴、それがひとりでにブルブルと震え始めているような気がした。
「きゅぅ……!」
コライドンは下腹に腕を伸ばし、何度も上下にさすって労った。いやな予感がした。何かがまだ後ろに挿入っているかのような錯覚があった。いや、いや、そんなはずは、ねえだろ、とコライドンは自分に言い聞かせ、カラダにも念入りに言い聞かせようとするが、異物感は消えてくれるどころか、煮えたぎっていた。そして茹で汁が止めどない泡を噴き上げながら鍋から吹きこぼれるように、それはいきなりやってきた。
「あっ! ぎゃっ!……」
気づいた時にはもう遅かった。ドク、と尻の奥が激しく疼いていた。疼いているというよりは痙攣していた。ガブリアスの極悪なペニスが思い切り自分の直腸を刺し貫いた痛みを伴う感触が蘇ってきた。悪いことには、その刺し貫かれた感触はその瞬間で時が止まってしまったかのようにいつまでも続くのだった。
「ぎゃぎゃぎゃっ!……ぎゃっ、す……!」
コライドンは慌てて背中を弓なりに外らせながら、両手で臀肉をギュッと掴んだが、緊張してオッカの実のような形が浮かび上がる大臀の筋肉は石のように硬くなって引き攣っていた。それに麻痺したかのように、手で触れても感触がしなかった。
「あぎゃっ……あぎゃすっ!……あっ……ぎゃぎゃっ!……」
こうなってしまったからにはコライドンはひたすら堪えるしかなかった。尻から直腸まで一気にこむら返りをしたかのような痛烈な震えがカラダを苦しめているあいだ、コライドンの見開いた目からは涙が溢れ、キツく閉じた口からは溜まった唾液が流れ落ちる。太ももから膝にかけてカタカタと震えが止まらなかった。
「く……くそっ」
ただ休んでいたいだけなのに、なんで、なんでこんな目に遭わなくちゃなんないんだよ、コライドンは頭の中で何度も毒づき、早くこの下半身の震えが収まってくれと願った。それはたかだか1分か2分のことに過ぎなかったのだが、コライドンにとっては1時間でもまだ慈悲深いと思えるほどの長さだった。
ようやく尻の痙攣が和らいできた時には、コライドンはイヤでもガブリアスのヤツがニッコリと八重歯のような牙を見せながらご満悦な表情をするのをイメージしていた。オノノクスが確かに受け合ってくれた通り、ここにヤツの姿はいるはずはないにもかかわらず、またしてもカラダを犯されたような気がして、どうしようもない気分だった。
けれども、尻がいきなり痙攣した間に、股ぐらからペニスが恥じらいもなく露出して、しかも硬くなっているのに気づいて、コライドンは困惑した。クールダウンした尻穴がもきゅもきゅと蠢くたびに、頭で考えていることとは相反する感情が湧いてきているのにも閉口した。
「あぎゃあっ! はっ……!」
恐る恐る、爪先を尻穴に触れさせただけでコライドンの腰は後ろから蹴りを入れられたように前方に突き出る格好になった。
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果たして、キバ湖の瞳には誰も来ないのだった。
指定席の切り株の上に腰掛けたオノノクスは、降り注ぐ陽射しが牙に反響して、目元に直撃したので思わず目をキツく瞑り、ふと、時間が経ったと思った。俺は何をしてたんだっけか、いや、別に何もしようとしてたわけじゃねえな、とオノノクスは考え、冴えてもいるし眠たくもある瞳を細く閉じたままにしながら、そうだ、と思い至った。
果たして、キバ湖の瞳に来やがらねえ、ったく、ジャラランガの野郎め! オノノクスはグラファイト色の胸板を流れる汗の滴を爪でほじくるように拭った。まだ十分に太陽が上りきってはいないとはいえ、日陰にでも留まっていないとやっていられない暑さだった。ワイルドエリアでもとびっきり暑い一日になりそうだ。だからといって、コライドンに去られたジャラランガの野郎が、ここにやって来ない理由にはなんねえよなあ、と拭っても拭っても止まらない汗を、今度は手のひらで胸全体に伸ばす仕草をした。
コライドンはまだ茂みで横になっているらしいが、時折悶えるような声を上げるのが聞こえた。様子を観に行くと、寝静まってはいるようだが、何かに触れられるのを恐れているかのように腰のあたりがひとりでに震えているのに、いじらしいという感情さえ起こった。寝顔を覗き込んでみれば、随分とあどけなかった。普段から、どこかおどおどとした様子は感じられていたが、あんなことがあったからには、気持ちに整理がつかなくなるのもしょうがないことと思われた。
ガブリアスの野郎にカマを掘られるならまだしも、ジャラランガの目の前で淫らな姿を見せてしまった申し訳なさに、こうして世界から身を隠すように縮こまっているコライドンに同情はする一方で、やはり、どことも知れない場所、知っていたとしても遥か遠い場所からやってきたポケモンを匿うのは、オノノクスの身には余った。何を考えているかわからないキテルグマの群れを除けば、島の外の連中とはできる限り没交渉でいたいオノノクスにとって、コライドン一匹だけでここまで落ち着かなくなるものかと、自分自身でも初めて自覚するほどなのだった。
ともかく、丸く収まって欲しいとは思っているのだから、俺の意思を汲んでジャラランガの野郎には一刻も早くキバ湖の瞳を尋ねてきて欲しいと願っていた。とはいえ、奴の不貞腐れていざという時に意気地のない弱さを考えれば、当分来ないだろうことも予測はしていた。果たして、キバ湖の瞳に誰も現れなかったとしても、それほどガッカリせずに、苛立たずに済んだのだ。
もともとがやかましく鱗を打ち鳴らすことに生き甲斐があるような種族のくせ、どういう了簡かは知らないが、打たれ弱さでいえばコライドンの10歩先を行く雄だった。まだガブリアスと付き合ってたころに遊びに来て(バカなドラゴンどもは、ここが離れ小島だからといってすぐリゾート地扱いする)、野生のキテルグマの連中と組み合ってボロ負けした日は、ガブリアスの軽口めいた揶揄いすら受け付けないくらいに塞ぎ込んだことがあった。その時は、まだ生意気だが気のいい雄だったガブリアスと揃って苦笑いをして済ましたものだが、いま考えてみれば、自分の弱さを突きつけられることを異常なくらい恐れていた。むかし、よっぽど可哀想な目にでも遭ったんだろうが、かといって自分の弱みを曝け出す根性もなく今に至るのも、こう言っちゃなんだが、ドラゴンらしい振る舞いじゃなかった。ある胸を堂々と張って、何物にも動じていなきゃそれでいい、としかオノノクスは思わなかった。そうでもなければ、ワイルドエリアで野生として生きてくのは覚束ないとさえ思った。
それにしても、普段は誰にも来てほしくないと思っていたのに、今日に限っては真逆のことを考えている。オノノクスは我ながら笑ってしまいそうだった。こうなったら、オンバーンとプテラのバカどもでもいいから来てほしいと思い、それはそれで、別の意味で面倒になるじゃねえか、と自分自身にツッコミを入れた。淫らなことは淫らなことで上書きしろってか、馬鹿馬鹿しい。これ以上変な考えをしていたら、オノノクス自身むかしのことを思い出してしまいそうになる(イッシュ、という土地の名前は
やおら立ち上がり、腰を落とし、頻りに首を降って汗を弾き飛ばす。首筋から背中にかけて連なる黄金色をした甲冑の鱗がくねくねと横揺れした。物置代わりにしている木の窪みに腕を伸ばすと、ポケモンだけの世界にはいかにも不釣り合いなプラスチックの容器を取り出す。いつだったか、ここをキャンプ地にしていったトレーナーの誰かが忘れていったボディーソープ。湖畔までそれを持っていき、四角柱をしたディスペンサーの上側についたポンプを慎重に押すと、半透明のドロっとした液体が手のひらに垂れてくる。
少し湖水を混ぜて、手を洗うようにしばらく擦り合わせ、湧き立ってきた泡が消えないうちに、オノノクスは慌てて全身に塗りたくる。手の届く範囲で首元から胸、腹、脚にまで泡を行き渡らせると、花のような香りがほのかに立ち上ってくる。花のようで、花ではないだろうが、いい香りであることには変わりはない。
たまたま拾って以来、トレーナーとそのポケモンたちが使っていたのを見様見真似でやっているのだが、ボディーソープでカラダを洗った後はとてもサッパリとして気持ちがいいから、こんなものに野生の身分である自分が毒されるのはどうかと思いつつ、やめられなくなっているオノノクスなのである。これを拾ってから随分経つが、大切に使っているから、まだ半分ほどは残っている。とはいえ、量が少なくなっていくにつれ、なんとなく憂鬱になっていくのだろうと考えると既に憂鬱である。いざとなったら、遠目に見えるエンジンシティやらその向こうにあるとかいうナックルシティによく出入りしているオンバーンとプテラの二匹組にそれとなく頼まないといけなくなってしまうのか、とまで先のことを考えると、反吐までは出ないが、ため息のひとつはつきたくなる。
キバ湖に浸かり、全身の泡を洗い落としてから、のそのそと水飛沫を上げて戻ってくると、時たま樹木に憩っている虫ポケモンが軽率に進化だか脱皮だかしている、あの気分を味わったような気になれる。確かに、一度この気分を味わってしまったら、もう止められそうにないのは、身をもって知ってしまった。全身から漂う心地よい香りを吸うと、オノノクスは満ち足りた心地だった。
さて、少し暑さが和らいできたら、ちょっくら畑でも弄ろうか。そして、あの野郎が起きてきたら、手伝わせてやろう、少しは気分転換にもなんだろ。もし良い仕事が出来たんなら、一押しだけだが、このボディソープを使わせてやるのも悪くないと思った。俺とは違ってちょっと羽毛のようなものが生えてるから、半押し程度でもそこそこ泡立つに違いない。
そんなことをウキウキで考えていたところ、アギャッ! と悲鳴がしたので、オノノクスはコライドンのところへ慌てて向かった。鎧を纏ったような図体ゆえ、そう急ぐこともできないのがなんとももどかしかった。
なかがき
38〜40話更新しました。
以前言っていた通り、文量が増えてきたので、ここから「その2」としてページも新しく。
この話、しれっと2年以上書き続けてますが、僕のSVは本当にコライドンで始まり、コライドンで終わりそう(SV世代までに終わるとは言っていない)
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