それもまた、世界の終わり&その他のアケプテ短編 作:群々
「なあなあ、実はお前に話したいことがあるんだけど!」
調子よくアーケオスが絡んでくる。いつものように。瞳がきらきらと閃光を発している。
「なに、って聞いて?」
「……なんだよ」
仕方なくプテラは聞き返す。無視していても、こいつはこちらが折れるまでずっと同じことを言い続けるだろう。
「俺、前世の記憶があるんだ、すごくね?」
「前世って、化石になる前の?」
「そうそう! お前はねえの?」
プテラはしばらく考えてから、首を横に振る。
「で、記憶ってどんな」
「俺たちの化石って同じ場所から見つかったらしいじゃんか」
そんな話は、研究員の人から聞いたことはある。ただ、自分の場合は化石ではなく「琥珀」から復元された身だが。
「ずっとそれが気になってた。そしたら、急に、思い出しちゃったんだよ……」
アーケオスはわざとらしく言葉を止める。背が低いから、プテラの顎の辺りを期待を込めた眼差しで見つめている。プテラにはこのあと何と言ってほしいか、よくわかる。
「何をだよ」
「言わなくても、わかるだろ? 前世で死んだ時のこと、なんで俺たちが一緒の場所で死んでたか、だよ! すげえ、大発見だろ?!」
興奮のあまり小躍りしているアーケオスの姿は、引っ叩きたくなるくらいには憎たらしいが、屈託のない笑顔は、ちょっと可愛らしい。
「知りたいだろ? お前だけには特別に、教えてやるよ」
「まだ何も答えてないだろうが……」
アーケオスは、すっとプテラに迫り、薄いながらもしっかりとした胸板にそっと手をあてる。伝わってくる心臓の鼓動を愛しんでいるかのようだ。オレンジの鱗で覆われた頬が、ほんのりとピンク色に染まっている。
「いつ見ても、いいカラダしてるなあ。やっぱり、プテラん中でも飛びっきりのイケメンだよなあ、お前って」
鼻の穴をプテラの鳩尾に押し込み、肺をいっぱいに使って、じんわりと汗ばんだ臭いを嗅ぐ。
「もっと誇っていいと思うんだけど、俺的には」
「言いたいことあるなら、早く言ってくれよ」
プテラは目をつむる。けばけばしい色彩の羽に包まれてむず痒い。体も火照ってきた。
「なあ、俺たちって、雄同士だけど、好き合ってるよな」
「…………そうだな」
二匹は同じ場所で化石と琥珀となって掘り出され、同じ場所で復元され、それからずっと一緒に過ごしてきた。そういうわけでもないだろうが、雄同士ではあったものの、早いうちから互いに関心を持つようになり、それがいつしか一つ上の次元のものになっていた。アーケオスの方から告白してきたときも、プテラはすんなりと受け入れた。さすがに、そういう嗜好まで一緒だと知ったときにはビックリはしたけれど。
「でも、その、挿れたことはまだ、ないよな」
プテラは急に息苦しくなってくる。高地にいるときみたいに、思い切り肺を膨らませたわりに、酸素が入ってこない。
「それに、俺、お前のアソコだって見せてもらったことない」
「俺だってない……」
「俺はいつでも見せてもいいけど? お前が見せてくれって言えば、今、ここで。ここの大きさなら、お前にも負けない自信あるんだからな?」
「ちょっと待て。なんでいつのまに俺たちのチンコの話になってんだよ。話したいことがあったんだろ?」
石のような皮膚から汗が垂れていくのを、アーケオスは逃さずに舌で舐めとる。一瞬、麻痺したかのように、プテラの全身が微かに痙攣する。
「誰よりも速く飛ぶために、一切の無駄なく絞られたお前のカラダ」
アーケオスにしては知的な言葉遣いをしながら、爪の先端で、呼びかけるようにプテラのスリットの縦筋のうっすらとした線をくすぐる。
「……いい形してるんだろうなあ。出てきてくれてもいいんだぜ? 今」
「断る」
プテラは、一発、拳骨を喰らわす。調子づいてきたこいつを一旦抑えつけなければ。強気なのやら自信過剰なのやら、こういう時のアーケオスは本当に手に負えない。
「やれやれ、つれねえなあ」
頭をさすりながら、アーケオスはへらへら笑う。かと思うと、瞬時に真剣な表情に変わる。
「でも、これはマジな話だからな。聞いて驚いてくれよ……!」
気分屋にしても、風のように変わるこいつの感情はなんなんだろうと、プテラにはいまだに不思議でならない。
「あ、でももっかいお前の臭い嗅いでいい?」
「駄目だっ! 岩雪崩ぶつけるぞ!」
「げっ。それだけはヤメてっ……」
アーケオスの瞳が潤むと、高ぶった感情がたちまちに鎮まってしまう。告白してきたときも、こんな目をしていた。この顔を見ると雄なのに、胸が締め付けられるくらい愛しいと感じてしまう。
プテラはため息をつく。
「じゃあ、とっとと話せ。前世、死ぬ時に何があったって?」
「本当の本当に、聞いて驚けよ? マジでびっくりするから」
アーケオスは、ネイティオが予言をするときのように、目をかっと見開き、言った。
「俺、前世で、お前のことを「レイプ」」
プテラ の いわなだれ!!
「ぎゃんっ!……ひ、ひでえよお……俺、まだ全然話してないのにい……」
「うるせえ! 心臓に悪い言葉使うな! なんか他に言いようなかったのかよ!」
プテラは顔が真っ赤になっている。
「だって、事実だもん、仕方ねえだろっ!!」
アーケオスは頬を膨らます。意固地になっている。弱気の状態になっていても、自分の考えを譲るつもりは毛頭ないようだ。ジタバタまでしはじめるといよいよ手に負えなくなってくる。
「わかった、わかった! 俺が悪かった。かいふくのくすり持ってくるから、頼むから静かにしててくれ!」
「そんなのイヤだ、ミックスオレにしろよ! 研究室んとこに輸送箱、届いたばっかりだっただろ? あれ3本持ってきてこないと絶対に、イヤだーっ!!」
図々しく思いながらも、プテラはしぶしぶとミックスオレをくすねに行く。
3本の爪を使って、アーケオスがやたら慣れた手つきで缶のフタを開けると、ヒトとほとんど同じようなやり方で、ミックスオレを一気飲みする。でかい音とともに、大きく上下する喉彦を、プテラは感心しながら眺める。
二匹はあぐらをかいて向かい合っていた。アーケオスがミックスオレを飲む音と、プテラの心臓のバクバクいう音が共鳴する。
2本目の缶を飲み干すと、満足気に羽で口を拭い、3本目の缶を開けるとプテラに渡す。
「ほい、お勤めご苦労、みたいな感じ?」
すっかり元の調子に戻ったアーケオスを見て、安堵したような、ちょっぴり後悔したような、うまく整理できない気持ちになる。
「いいから、さっさと話せ。今度はちゃんと最後まで聞くから……」
両手で缶を包み込み、老人がお茶を飲むような姿勢で、ミックスオレを一口、喉へ流し込む。美味いことは美味いけれど、甘ったるい味がしばらくの間しつこく舌に粘りつくのは苦手だ。
「じゃあ俺がしゃべってる間、いわなだれ禁止な? あとストーンエッジも禁止な? 約束破ったらアバゴーラとガチゴラスと、あとジーランスさんにも言いつけるからな!」
「わかったわかった……」
「ようし。じゃあ、聞いて驚けよ、ていうか驚いて聞けよ……!」
アーケオスの顔が紅潮している。いよいよ話ができる喜びや興奮でいっぱいという顔だ。プテラには相手の考えていることがよくわかる、オンバーンのおみとおしはこういうものなんだろうと思った。
「たぶん、隕石が落ちたばかりだったんだと思うんだけど、前世の俺は、一匹で腹を空かしてふらふらしてるプテラを見つけたんだけど」
プテラはうなずく。翼と足をしっかりと組み、瞑想の修行をするような姿勢をとりながら、アーケオスの言葉に耳を傾けようとする。
「お前、本当に弱っててさ。一歩進むのもやっと、って感じ。俺、それ見ながら、ちょっとイタズラしてみたくなったの。あ、あくまでも前世、の話だからな?」
プテラは黙っている。アーケオスも話を続ける。
「で、アーケオスというかアーケンのころから、プテラには散々な目に遭わされてきたわけだから、この弱々しい翼竜をこの機会にたっぷりいたぶってやろうと、思ってえ……」
アーケオスの話は、自分が話したいように話し、話の筋の肝心なところをはしょったり、どうでもいいところを異常なほどに長ったらしく引き伸ばしたりするので、真剣に耳を傾けないと、ふと、何の話をしているのか忘れてしまう。しかし、話し方が歪な分、そこでアーケオスが感じた、おぞましい邪な興奮は、気持ち悪いくらい伝わってくる。
それと、自分はあくまでも無関係のはずなのに、古傷が疼くように、下腹部がソワソワする。思わず、自分の体に触れ、なんともないことを確認したくなってしまう。
「でな……プテラがさ……で……が………………かわいくてさあ……たまんねえ……ふう…………それで……もう……ヤバすぎ…………で…………そう思うだろ?……どうして…………好き…………ああ!…………抱いて……寝かして…………だろ……………………サイコー……!……きれい………………と、まあ、こういうわけ」
「……話はこれで終わりか」
「うん」
「わかった」
プテラ の いわなだれ!
「ぐええっ!」
プテラ の ストーンエッジ!
「ぎゃあんっ!!」
「話が終わったあとだから、約束は守ってるからな?」
「うううう……結局喰らわすんじゃんかあ……」
岩の破片から、やっとのことで顔を出す。
「でも何度でも言うぞお……ほんとーに、思い出したことをありのままに話しただけなんだからなあ……」
「一応聞いとくが、それを思い出して、どう思った」
「ゴメン、すげえ興奮した。何回もオカズにしちゃった」
あまりにもあっけらかんとしてアーケオスが答えるので、プテラは言葉が出ない。
「さっきも言っただろお……そんときに出したお前の声、雌よりも色っぽかったんだよお……」
「やめろ、やめろ! ていうか勝手にそのプテラを俺扱いすんな!」
そうでなくとも、嫌な記憶が本当に呼び起こされそうな気がして、無性に恥ずかしくなってくる。
「……よしんば、お前の話すことが本当だったとして、だ」
プテラは泣きべそかいているアーケオスの鼻先に指を突き立てる。
「それを俺に話して、何になるんだよ」
アーケオスの生々しい話を聞いてから、尻尾の付け根がずっとムズムズしてしょうがない。琥珀になる前に、どれだけヒドイ目に遭わされたのか、想像するだけでそこが痛くなってくる。
「さては、俺のことをあてこすってるのか?」
アーケオスは黙り込む。図星らしい。
「俺たち、付き合ってるのにまだ特別なこと何もしてない、ってさっき言ってただろ、お前」
「うん」
「……不満なのか?」
アーケオスが不意に笑う。いつのまにやら隅に置かれていたミックスオレの飲み残しに手を伸ばして、体力を持ち直していた。
「お? ようやく、その気になってくれた?」
「……いくらなんでも俺は、そんなことするのは絶対にイヤだぞ。一応、雄としてのプライドが」
「そんなことばっか言って、結局ヤッてくんないのは何テラさんだったっけか。夜、リードしてるのは、いっつも俺なんだけど?」
「いや、それは……」
「寝そべったままなんにもしないで、されるがままにしてばっかじゃん! それはそれでいいけどさ! お前がそんなに雄のプライドっつうんなら、もっとガツガツ襲って来いよ! 俺の羽根全部むしっていいからさあ!」
アーケオスがわめき出す。なんだか知らないうちに立場が逆転している。優位に立っているはずなのに、肝心なところで強気に出られない。付き合っているのに、恋人の欲求を満たせないのは、自分が愚図なせい、ではある、けども。
「お前、本当に俺のこと好きなのかようっ?! バカでホモの俺がかわいそうだからって、お義理で付き合ってるだけなのかよっ……」
「いや、いや。そういうわけじゃ……」
「じゃあ」素早く、プテラの腹にしがみつく。
「今すぐここでチンコ見せろ。フェラしてやるから!」
「何言ってんだ、やめろ、やめろ!」
ひっついたアーケオスを引き剥がそうとするが、どこからそんな力が出てくるのか、接着剤でくっつけられたかのように、ちっとも離れてくれない。
「うえええええん……お前のデカマラ咥えさせてくれよう……んで中にぶっ込んでぶっ壊してくれよお……」
「卑猥な言葉を叫ぶんじゃねえ、脳味噌溶けてんのかっ!」
「うるせー! パートナー相手にチンポも見せられねーのかよ、バーカ! うんこ! なんちゃってドラゴン! リザードンもどき!……」
もう一発、岩雪崩を喰らわせようと思ったが、もはやこいつが強気なのか弱気なのかどうかプテラには分からなくなってしまう。弱気になっているのは、むしろ自分の方なのかもしれない、と思った。
chapter:1
太陽も雲も見えない、灰色の空をぼんやりと見上げながら、プテラは腹を空かせ、身を震わせる。世界がこんなことになってしまって、どれくらい経ったのかもうわからない。この空がかつてどんな色をしていたのか、ぼんやりとしか思い出せない。
どこかから何かが落ちて来たのがすべての始まりだったらしいが、よく知らないし、考えたって分かるわけもない。地平の果てから聞いたことがないくらいの大きな衝撃音がした後、幾夜にも渡って熱を帯びた岩石の雨が降り続いてすべてを焼き尽くしたかと思うと、今度は巨木をいくつも積み重ねたような波が押し寄せ、何もかもを奪い去っていった。プテラの知っている世界が、たちまちにして消滅し、灰色だけが残された。
群れの仲間はほとんど死んでしまった、というより消えて跡形もなくなってしまった。奴らがみんな死んでしまったという実感も、悲しみも、湧いてこないほど、きれいさっぱり。餌にしていた連中もことごとく抹消されたおかげで、かろうじて生き残ったものたちも飢えに苦しむことになった。生への執着が強い輩は、抜け駆けして一口分にも満たない食料にありつこうとし、あまつさえ殺し合いまでした。要するに、意味のない死だ。
別の生き物のような何かへ変質していく仲間たちを横目に、プテラはだんだんと深い虚無感と無関心の中に落ち込んでいった。群れの同胞たちが一体、また一体と、いつのまにか消えていっても、さも当然のことのように受け入れているようになっていた。
その繰り返しの果てに、とうとう自分以外誰もいなくなってしまったが、それすらもプテラにはどうでもいい。純然たる灰色の世界で、死にもせず、生きもせず、どこへ、何のためにかもわからず、彷徨い続けていた。
これまでこうして生き延びてきてしまったが、もはや限界だと思った。腹一杯に食って胃もたれを起こすとほんの一口だって食べるのが苦痛になるように、ガタガタ震える腕で体を支えながらほんの一歩を歩くさえ苦痛になっていた。
「やっと見つけた」
一体のアーケオスが威勢のいい口調で絡んできた。赤、黄色、緑、青、色とりどりの羽で飾られたその体は、単調な灰色に対して、目障りなほどに派手だ。
プテラたちが衰退していくにしたがって、それまでは物陰に逃げ回って、コソコソと身を隠して暮らしていたアーケオスたちがのさばるようになった。暖かい羽毛に覆われた体は、急激に寒くなった環境にも順応できたし、何より気が遠くなるほど長い間、プテラたちの餌食にされてきた恨みもあった。今や、復讐とでも言わんばかりに弱ったプテラを追い回し、蹂躙するようになった。世界はひっくり返り、二つの種族の立場も逆転した。
奴らに嬲られ殺された仲間を何匹も見た。雄は殴打され、雌は慰み者にされ、ボロボロになって打ち捨てられた。力が出せなくなったプテラたちは、アーケオスたちに見つからないよう、ひっそりと暮らさなければならなくなってしまった。腹が立った。悔しかった。涙が出た。とてつもなく惨めだった。こんなひどい感情を抱くことになるなんて思いもしなかった。だが、どうすることもできなくなっていた。
プテラは咄嗟に逃げようとしたが、体はその反応についていかなかった。バランスを崩し、力なく地面に転んでしまうと、すかさずアーケオスは前に立ち塞がり、プテラの頭を爪でがっちりと掴んだ。まるで、かつて自分たちがこいつらの子供を捕まえたときのようなやり方で。
「逃げるなよ。せっかくなんだし、ちょっと遊んでよ?」
不敵に笑いながら、アーケオスはじっくりと足に体重をかける。
あまりの痛さに、プテラは悲鳴をあげた。翼を激しくバタつかせて、限界を訴えようとするが、アーケオスは聞こえないフリをし、ますます足に力を入れた。ガチゴラスにでも踏み潰されているような気分だった。頭蓋骨が割れてしまいそうだった。
プテラは、自分がこんなことを口走ったのを聞いた。
「頼む、命だけは助けてくれ……!」
はっとした。命の危機を感じて初めて、自分が生に執着していることに気づかされた。こんな状況なら死んだ方がずっといいはずなのに、どうして俺は生きたいなんて思ってもいないことを言ってしまったんだろう?
アーケオスは足の力をぴたりと止めた。その言葉を待っていたとでも言わんばかりに、嬉々としてプテラの脇に、糞をするときの姿勢で座り込む。気味悪いほどに落ち着いた笑顔は崩そうとしない。
「そっかそっか。俺がアンタのこと、殺すとでも思ったの」
目下のものを愛でるような口調でアーケオスは語りかけ、プテラの体を乱暴に仰向けに転がすと、爪で首元の毛並をポリポリと掻いた。
「馬鹿だな。アンタなんて殺す価値、ないし」
嘲りながら、プテラの痩せ細った脇腹をつまむ。
「だいたい、プテラの肉って筋肉質でまずいんだよ、知ってた? 言っとくけど、二度と食えたもんじゃないんだよ、あんなの」
「……」
「俺は暇つぶしのためにアンタで遊んでるだけだから。生かしも殺しもしないんで」
何度も脇腹を爪弾く。
アーケオスに小突かれているあいだ、プテラはこのまま死んでしまえればどれだけいいだろうと、何度も何度も考えていた。しかし願っても死は都合よく訪れてはくれない。いや、事はもっとシンプルなはずだった。自分の爪で喉を掻き切ってしまえばいい。確実に死ねる。頭ではそう考えられた。それなのに、爪を喉元に当てると、手がぷるぷると震え、それ以上動かすことができなかった。
その様子を退屈そうに見物していたアーケオスは、いい加減うんざりして口を挟んだ。
「そういうところがいちいち馬鹿なんだよ、アンタ。意地張っちゃってさ。もう何もかもメチャクチャになったんだから」
と言いながら、プテラの腹の上にのしかかった。
「やりたいようにやって、堕ちるとこまで堕ちればいいじゃんか」
じゃ、俺の好きにさせてもらうよ、と独りごちながらアーケオスはプテラの体をまさぐりつつ、かじりつくように首元に口づけしだした。プテラはさっきみたいに抵抗しようとするが、体に力が入らない。アーケオスと遭遇したことで、自分の体力が想像以上に衰弱していたことを思い知る。それに、抵抗したところでこいつを止めることはできそうにもない。
アーケオスの手はうっすらと浮かんだプテラの筋肉の輪郭を丁寧に撫でる。あばらが浮き出した薄い胸板、脇腹から尻尾の付け根にかけて脂肪がほとんどなく、皮膚がべったりと筋肉に貼り付いたようになっている腰まわり。我が物顔で空から世界を牛耳っていたころの面影は消え去りつつあった。
こんなにも誰かに体を触られる経験をしたことはもちろんなかったの。鳥肌が止まらなかった。皮膚の表面を触られているような単純なものではなく、自分自身がモノとして扱われている感じ。気分が悪い。
「かっ、勘弁してくれ……俺と同じ、雄のくせに……」
「雄だけど、それがどうかした?」
何食わぬ表情で、長い舌でプテラの首筋を責めている。
「自分がなにをしてるか、わかってるのか?」
「雄同士でこんなことするのがそんなにヤ?」
アーケオスはため息をついた。
「でもオレには関係ないことだし」
今度は長い舌を器用に動かして、プテラの体を舐め始めた。首筋、腋、胸元、敏感なところをしつこくくすぐる。アーケオスの息が次第に荒くなっていく。言葉少なになり、赤ん坊が一心不乱に母親の乳房にありつくように、プテラの体を音立てて吸っていた。
これまでに感じたことのない、こそばゆいとも、気持ちいいとも悪いとも言えない、何とも言いたくない感覚。いやでも体が熱くなってきた。プテラは死にたくなり、瞳からは涙がこぼれた。最後まで残った自分が、誰よりも屈辱的な嬲られ方をされている。みすぼらしくなった体を、雌のように弄ばれている、今まで都合のいい餌としか思っていなかったアーケオスの、しかも同性に、こんな形で復讐されている。
「殺してくれ……頼むから、もう殺してくれ……」
風邪を引いているかのようなかすれた響き。アーケオスはそんなプテラの言葉には耳をさず、ますます強く体どうしを密着させるような姿勢をとる。
「ちょっと、黙ってろよ……」
両手でプテラの首を慎重に持ち上げ、ゴツゴツした顔の骨格を、川の水で木の実の汚れを洗い落とす時のように、拭くように撫でる。アーケオスの爪が、プテラの頭を締め付ける。ちょうど二匹の顔が向かい合うと、必死に泣くのをこらえているプテラの口を、アーケオスが貪る。
「……!」
「……」
口をパクパクさせたり、爪で脇腹をつねったりして、アーケオスがしつこく合図を送ってくる。意味はわからないでもないが、悪あがきで口を閉ざしていたプテラに痺れを切らしたアーケオスは一旦、顔を離した。
「ねえ」
押し殺した声で、ささやく。
「ちゃんと言うこと聞いてくれなきゃ、もっとイヤなことするよ?」
にんまりと、不気味な笑みを浮かべる頬は、不自然なまでに引きつっていた。瞳孔が縦長にきゅっと引き締まり、有無を言わさない無慈悲さがそこに浮かんでいる。
従うか、そうでないか、どちらかひとつだった。
従う→chapter2・3へ
黙っている……→chapter4・5へ
chapter:2
悔しくてたまらないが、もう相手の要求には逆らえっこないと、プテラは観念した。渋々と自ら口を開いて、アーケオスを受け入れる。
すぐに、貪欲なひょろひょろと長い舌が、口の中へ乱暴に侵入し、プテラの舌を捕らえる。狂おしいキスをしながら、催促するようにアーケオスが腋を小突いてくる。もっとしっかり舌を絡ませろ、と言いたいのだろう。プテラは配慮するように、自分でもびっくりするほど従順に、舌を動かし、アーケオスのそれと絡める。
ただそれだけを残して、世界からあらゆる音が消えてしまったかのようだった。二匹の舌が不器用に巻きつき、いったん距離をとり、また別の向きから絡み合おうと何度も試みる。いくら舌を遊ばせても、アーケオスは満足していないようだった。それどころか、キスをすればするほど、もどかしさを募らせているように見えた。決して合うことのない鍵だということを知らずに、扉を開けようといつまでも無駄な試みを続けているようだった。
「あっ……あ、あ……あっ! あっ!……ああっ」
長い舌がプテラの喉彦まで忍び込もうとする。耐えきれずえずこうとしても、アーケオスが、まるで食われようとしているみたいに顔まで突っ込む勢いで接吻をしているから、口を閉じることができない。牙が首元の鱗に刺さるのも気にせず、アーケオスはますますプテラの奥へと入りたがる。
「が、がががが!」
プテラは翼を地面にバタつかせ、止めてくれと懇願すると、呆気にとられてしまうほどあっさりとアーケオスは口を離した。粘りに粘った唾液がなかなか途切れなかった。息は上がっていた。ゆっくりと深呼吸をした生温い息吹がプテラの顔にかかる。
「飽きた」
そっけなくつぶやく。
「ベロも痛くなってきたし」
プテラの腹の上で馬乗りになっているアーケオスは、空と大地も何もかもが混ざり合った灰色の風景を見回す一方で、おもむろに自分の股をまさぐっていた。キスの興奮のおかげで体はより敏感になっていたので、そいつが顔を出すのは早かった。
黄色い羽毛から生え出たうっすらとピンクがかった雄を握り締め、プテラの鼻先に誇るように見せつけ、アーケオスは笑みを浮かべた。
「俺のこと、ただの食い物としか思ってこなかったんだろ」
「うぐぐ……」
「俺も所詮、アンタと同じオスだってこと、わからせてやるよ」
我慢しきれずにもう薄く透き通ったそれを揉みしだきながら、
「ねえねえ見てよ。どう思う?」
面白くてたまらないかのように、熱を帯び始めたペニスをしなやかにしならせて、プテラの鳩尾に押し当てると、弱々しいながら、淡々としたリズムを刻む心臓の鼓動に刺激されて、どんどん勃起していった。窪んだ鳩尾に嵌め込まれた先端が、プテラの口元にまで迫ってきた。
「ほら、大きいって、言いなよ」
命令なのか、懇願なのか、ただの独り言なのか曖昧な言い方だった。生温い異物の感触と、鼻をつく臭いに吐きそうなのをこらえて、プテラは牙を食いしばっていたら、アーケオスの平手打ちが飛んできた。
「おい、デカイ、って言えよ」
「……すごく、デカい」
「かわいいなあ、アンタ、本当に」
からかいながら、再び濃密なキスをくらわせる。さっきよりもずっと執拗で、欲望に塗れ愛が欠落した暴力的なキスだ。熱狂が高まっていくにつれて、下半身の舌も徐々に熱を帯びていき、むくむくと育っていった。
「ん……んん……」
「はあ……はあ……案外、聞き分けいいじゃんか、アンタ……どうよ? 雄同士のキスもいいもんでしょ?」
プテラは黙っている。アーケオスは今度は握り拳で頬を打った。
「もうこんな世界なんだ。どんなことがあったってよくない?」
「…………」
何も言うことができない。プテラは同意しかねた。言っていることがよくわからない。この狂ったような状況で、アーケオスの方も頭がおかしくなってしまったんだろうか?
「馬鹿じゃねえの」
アーケオスはわざとらしく舌打ちした。
「もっと聡明な奴らだと思ってたよ。実のとこ。でも、こんなにボケッとしてるなんて、拍子抜けしたよ」
拳をさっと振り上げて勢いをつけ、地面を砕くようにプテラの顔面を殴った。鈍い音がした。
「わかんねえんだったら、今からちゃんとわからせてやるよ」
改めて、アーケオスは自慢のイチモツを握りしめた。
「ここじゃあ、あんだけ傲慢だったプテラが、アーケオスのチンコをしゃぶって喜ぶんだよ!」
間髪入れず、アーケオスは勃ちに勃ったつよきをプテラの口に押し込んだ。生温かい口内で、アーケオスのそれはさらに勃起していった。プテラはもう少しで窒息してしまいかねなかった。
「あがっ! ぐぁああっ!」
「びっくりしたぜ」
アーケオスは満足気な表情を浮かべる。
「プテラの口が、こんなに俺のチンコにピッタリだったなんてさあ……」
「がががががっ……がっ……!」
肉厚のペニスに喉まで押し込まれ、抵抗もできないプテラは、唸るような叫びをあげるばかりだった。そのザマを、アーケオスはニヤニヤしながら見下ろし、舌舐めずりをする。
「やべーっ……もう逝っちまいそうなくらい気持ちいいよ、アンタん中」
「…………!」
「なあ、いま何を考えてる?」
「…………ががが!」
「目が潤んでるぜ……いまのアンタ、すっげえ哀れで可愛いよ。どうせ、こんな目に遭うなんて夢にも思わなかったとか考えてんだろ?……死ぬ間際にアーケオスのデカブツ舐めさせられるなんて仲間たちに申し訳ないとか、しょうもないこと考えてやがんだろ?!」
アーケオスの口調は興奮するたびに、わざとらしい、吐き捨てるようなトーンへと高まっていった。落ちぶれたプテラへの哀れみのこもった軽蔑と、蹂躙する得も言われぬ喜悦で、アーケオスは熱に浮かされ、我を失っているようだった。
「そんな下らないことなんて、もうナシだぜ」
興奮任せに、また一発プテラの頬を殴る。
「テメエのこと、俺のデッカいチンポのことしか考えられねえようにしてやるよ……!」
そう言ってプテラのツノを掴むと、アーケオスはゆっくりと腰を振り出した。生ぬるく、既にベトベトした代物が、プテラの口を出たり入ったりする。
「!!!!!!」
何も言うこともできず、ただ、されるがままにアーケオスの立派なブツを口いっぱいに頬張り、しゃぶらされた。
「あっ……あっ……あっ……」
プテラはきっとアーケオスを睨んだ。悔しさで瞳が潤んでいるのが、アーケオスの憎悪と嗜虐心をいっそう掻き立てる。
「その目を見てみたかったんだよ」
アーケオスは偽りの慈悲を施すように微笑んだ。
「なんで俺がこんな目に、って感じ、最高だね。憎めよ、もっと悔しがってみせろよ、興奮するから……!」
乱暴に、プテラの頭を前後に揺り動かし、さらに膨張するファルスで口内を蹂躙する。プテラは何度もむせ返り、アーケオスの脚にしがみ付いて、虚しく限界を訴えたが、激しく頬に拳骨を喰らうと、抵抗しても無駄だと観念した。
こいつの汚らしい雄を牙突き立てて噛み切ってやりたかったのに、顎に全く力が入らないことに、プテラは絶望した。
「はあっ、はあっ、いい口してるぜ、ホント……」
アーケオスはツノから手を離すと、ペニスを口へ突っ込んだまま、座り込んだ。プテラもつられて、滑るように四つん這いの姿勢になった。
「ほら、今度は自分で舐めろ。オレを気持ちよくさせてくれよ……」
「うぐっ……!」
悔しげな上目遣いで、プテラはフェラをし始めた。しかし、舐めるなんて考えたこともないものを、どう舐めればいいなんてわかりようがなかった。やみくもに巨根を舐めていると、アーケオスの平手が尻に飛んできた。
「ヘタクソ。そんなんじゃいい雌になれねえぞ」
「……うっぷ」
「ほら、もっとよく頭動かして、付け根から舐めあげるんだよっ……!」
ぎゅっと目を瞑り、言われるがままにそいつをしゃぶりあげる。音を立てながら、このイチモツを吸い上げていると、ピクリと震えたり、ムクっと膨れる反応を口に感じた。
「はああっ、クソっ! いいぞおっ……さすがおーじゃだな……フェラもお上手……!」
プテラは背後に違和感を覚えた途端、思わず尻の筋肉をきゅっと凹ませた。アーケオスの爪が、アナルの辺りをくすぐって、中に挿入ろうとしていた。
「んぐっ!……んんんんっ!!」
「おい、サボんなよ。しっかりとしゃぶってろよ……」
「んふっ!……んううううっ……」
尻の穴を深くほじられている感触が気持ち悪いのに、振り向くこともできないもどかしさで、殺気だった目つきでアーケオスを睨んだ。尻尾を振って、アーケオスの手を払おうとしても一向に動じようとしなかった。
いくら立場が逆転したとはいっても、ここまで体を弄ばれるのは屈辱だった。クソッ、クソッ、クソッ……悔しさのあまり、涙も流れてきた。
とうとうアーケオスの爪が付け根まですっぽりと尻の中に収まった。爪の先端を細かに動かし、前立腺の辺りをくすぐると、思わず腰が震えた。
「んんっ!……んぐぎゅっ!……」
「気持ちいいんだな? 声出せよ」
「んふううっ……ぐうっ……」
あと一歩のところで、雌のような甘い声を出してしまうのを必死に堪えながら、膨らんで萎む気配のない巨根を早く鎮めようと、プテラは意地になった。
「うっ!……なかなかうまいじゃんかっ……」
「ぐぐぐぐぐっ!……んふっ!……ふうっ……!」
「はあ、はあっ、ココがいいんだろ?……ああっ……!」
アーケオスは二本目の爪をプテラの尻に挿れ、直腸の内部を激しく弄くり回して、さらに穴を拡げていく。
「んはあっ!……うんぐうううううっっ!」
我慢のあまり、腰が激しく痙攣した。絶対によがり声など出すまいと、欲棒をしっかりと咥え、息すら漏らさまいとした。
「ちっ、つまんねえの。だったら、こうしてやるか!」
無理やり、自らの珍棒からプテラの頭を引き抜くと、そのまま乱暴に突き飛ばして仰向けにさせた。
「うぐっ! おっ、おい……」
「アンタ、自分の置かれた立場、まだちゃんとわかってないよな」
そう言って、勃起した歪んだ欲望をぎゅっと握りしめる。既に、愛液の先走りが先端から漏出し始めていた。
「オレの言う通りにしねえと、もっとイヤな目に遭わせるって言ったはずだよなあ?」
弱々しいプテラの腹の上に細長い肉の棒を叩きつけて、アーケオスは陰気に笑いかける。
「や……やだっ……やめろっ……てっ……」
プテラは目を背け、両翼で顔を覆った。
「顔見せてくれよ」
アーケオスは力づくで翼を引き離す。素の力では、圧倒的に劣っていたので、プテラは簡単に腕を押さえつけられてしまった。
「泣いてるんだな。アンタも、泣くことってあるんだなあ」
「いやだっ……頼むっ……それだけは勘弁してくれ!」
「なんで?」
嘲りながら、アーケオスは言い放つ。
「キスして、フェラして、ケツアナほじくったら、次はこうなるに決まってんじゃん。最初からわかってたことだろお? つうか、まだつまんねえプライドにしがみついてんのか。バカだねえ」
隆々としたペニスの先端が、プテラの肛門に触れている。挿入寸前の興奮で、脈がピクピクと動いている。
「まず、これを、こうするじゃん?」
腰でゆっくりと肉棒を押し出して、プテラの中をじわじわと侵犯していく。
「うあっ……やだっ、入ってくるなっ!……」
「言っちゃってえ」
ぬっとプテラの鼻先に迫って、アーケオスは歪んだ笑みを浮かべる。
「悦んでるぜ、アンタのカラダ……!」
「だ、黙れっ……」
尻穴を弄られ続けたことで、勃ちあがってしまったおぞましい隆起に恥じらいながら、プテラは無駄な抵抗をした。
「あああっ!……」
「いいぜっ、絶望に歪んだその面……ありきたりだけど、やっぱり唆るな……」
暗い悦びを顔に表しながら、アーケオスはいっそう肉棒を奥へと押し付けていく。
「散々痛い目遭わされたクソやろうどもを代表して、アンタをこの世で一番屈辱的な思いをさせてやるんだからな! ざまあみやがれえ!」
大口を開けて、アーケオスが哄笑したが、その声はアーケオス自身にも聞こえなかった。それをかき消すほどの地鳴りが轟いていたからだった。
「……?」
恐る恐る後ろを振り向くと、遥か遠くにぼんやりと浮かんだ火山から真っ白な煙が猛り狂うように立ち上っていた。
「うぎゃああっ!!!」
考える間もなく、アーケオスの後頭部に、噴石が激突した。不意をつかれて、平衡感覚を失って倒れそうになる。
「あ……あが……」
その姿を見た、プテラは意を決して起き上がり、残された力を振り絞って、アーケオスの面を翼で思い切り打った。
「ぎゃあんっ!……ううっ……」
雄としての誇りを喪失してしまうギリギリのところで幸運が巡ってきた。手がつけられなかったアーケオスも弱ってしまえば、こっちのものだった。
「ったく、ふざけやがって……アーケオスの分際で、調子にのりやがって」
「あ……あ……」
さっきまでの残忍なアーケオスの表情はもはやなく、瞳からは涙が溢れ、おぞましいほどの恐怖に怯えて、全身の羽が逆立ち、痙攣が収まらない。
プテラはもう一度、アーケオスの顔面向かって拳を思い切り振り下ろした。ひしゃげる音が痛々しく辺りに響き渡る。一発とは言わず、岩を砕こうとするように何度も殴った。
拳骨を喰らいながら、アーケオスの方はずっと懇願し続けていた。
「すみません、すみません! ほんっとにすみませんでした! でもどうか、そのっ、僕の話を聞いてほしいんです……」
「何を今更。誰が聞くか、生意気な鳥め……」
「お願いですう! 聞いてくれたら、殺すなり食うなりなんでもしていいですから……」
プテラはそんな言葉は無視して、仕返しに何をしてやろうかと考えていた。だがそれにしても。自分のナニは勃起したままで、萎える気配がなかった。まったく、腹は減りすぎて、一周回って食欲が失せるくらいなのに、性欲はこんなに有り余っていたとは。
ひとまず、これを処理しなければいけない。でも、どうやって?……プテラは目の前で腰を抜かして、怯え切っているアーケオスを睨み付ける。
「おい」
「ひっ!」
殺されるものと思って、アーケオスは咄嗟にカラフルな翼で顔を覆った。相変わらず、この種族の気の変わりようは滑稽だとプテラは呆れた。
「悪いが、さっきから勃起が治まらないんだ。コレ、大好きなんだろ? 責任取れ」
「はっ……はい……」
プテラは座り込んで、股の間にそそり勃ったおうじゃのしるしを指差す。
「舐めろ」
「はい……っ」
アーケオスは自ら、頭をプテラの股ぐらに突っ込んで、壮健な巨樹を頬張り、口を上下に揺り動かしながら、猛り狂ったプテラの性を慰め始めた。アーケオスのパックリと大きく裂けたような口は、最大に勃起したプテラのそれさえも根元まで咥え込んだ。
「はあっ……」
チュパチュパとペニスを愛撫する音が甲高く響く。長い舌をチロチロとさせて、根本から舐めあげるアーケオスの舌捌きは丁寧で、健気で、どこか可愛らしい。
驚くほどに気が小さくなって、言われるがままにしゃぶり続けているこの鳥の哀れな姿を見ていると、さっきまで煮えたぎっていた憎しみが瞬く間に溶解し、いたいけな子どもに対するような、慈しみの気持ちが湧いてきた。
「美味いか」
「はっ、はひっ……」
アーケオスのひょろ長い頭を優しく掻き撫でてやると、もっとペニスを喜ばせようと、口内の動きを激しくさせる。四つん這いになって奉仕する姿は、雄のくせに艶があった。ビクビクと伏せ目がちに、試行錯誤しながらフェラを試みる姿が、たまらなかった。
愛撫を一旦止めさせて、プテラはアーケオスの顔を上げて、見つめ合わせた。
「……おい」
「あっ!……ごめんなさいっ……なにか、不満でした……?」
「いや。もっとよく顔見せてみろ」
「えっ」
プテラは大きく口を開いて、アーケオスにキスをした。食われるものと勘違いして、アーケオスは体を強張らせたが、舌を挿れられた途端、従順に身を任せた。舌を絡めあって、互いの唾液を混ぜ合い、いっそう互いを求め合った。
「んんっ、んんっ」
「はあ……はあっ……」
プテラは口を離すと、満足気に、垂れる唾液を舐めとった。顔を上気させ、惚けた表情のアーケオスの頬を軽く叩くと、我に返って羽根を震わせる。
「言い分を聞いてやる。話せ」
「えっ、いやっ……そのっ」
オドオドしているアーケオスを抱き寄せて、灰色の翼でそっと包んだ。色とりどりの羽毛が体に密着して痩せた体に暖かい。
「話せよ。どうせ、こんな世界なんだから。何があったっておかしくないんだろ?」
「…………もう、乱暴しない?」
「なんだか、もう、どうでもよくなっちまった」
耳元で囁くと、アーケオスは安心したように、口を開いた。やっとのことで言葉を振り絞りながらも、つよきだった時のような気持ちの余裕が戻ってきていた。
「オレ、お前らのことが心底憎かった……仲間が何匹もお前らに殺されたんだ。復讐してやりたかったけど、自力じゃ勝てないし。ビクビクしながら生きるしかなかったんだよ」
「……」
「だからこんなことになってオレ、嬉しかったんだ……まさか、生きてるうちにこんなチャンス巡ってくるなんて思わないしさ」
「……だったら、普通に嬲り殺していればよかっただろうが。なんで、俺と交わろうとしたんだよ?」
アーケオスは弱々しく笑った。
「話は最後まで黙って聞いてほしいな……というか、聞かなくても分からない? オレ、ホモなの。雄としかヤリたくないカラダなワケ」
「…………」
「引いてんだろ。ま、わかるけどさあ。でも、オレ、ずっともーそーしてたわけ。アンタらより強くなって、ぶちのめして、好きなだけケツアナ犯してメスイキさせてーってこと考えながら、抜いてたの」
「……正直、言葉にされるとエグい」
「軽蔑するならしろよ。でも、オマエらのこと、憎いのは勿論だけど……もうこんなんだから言っちまうけど、ちょっと憧れてた気持ちもないわけじゃなかったのっ」
「ふうん……」
「まーそのっ、できるもんなら、お近づきになりたいっていうか、そのちょっとキュッと引き締まったカラダ触らせてもらえないかなーっていうか……」
「変態だな」
「まあ、完全じゃないけど、望みは叶ったから満足はしてるけどさ」
「なんだよ。俺を雌みたいに犯したいんじゃなかったのか」
「……邪魔が入らなけりゃ、とっくにしてたとこだけどさ」
目線を下に移して、アーケオスはまだ勃起の収まらないプテラの偉大な象徴を愛おしむ。
「フェラの途中だったじゃんか。満足するまで舐めてやるから」
おもむろにプテラの股ぐらに潜り込むと、硬く反り返った立派なペニスに頬擦りし、うっとりと付け根にキスをした。
「ああっ……!」
口一杯に頬張り、頬を染め、伏し目がちにフェラするアーケオスの舌遣いは、丁寧で、一舐めごとに深い愛情が感じられた。
「ひもひい?……」
「ああ……気持ちよくてどうにかなりそうだ、アーケオスっ……」
プテラはため息をつき、全身の力をゆっくりと抜いた。天を見上げ、恍惚と目を瞑り、翼をしどけなく投げ出すと、股をいっそう大きく開いた。
「はああああっ……」
下半身のツノの快楽に身を任せながら、プテラはこれまでにはない感情を抱き始めていた。こんなにも強く、愛されているという感覚。自分のカラダの一部がここまで尊いものとして扱われ、崇拝の対象になっていることは、気恥ずかしいと同時に誇らしくもあった。
しかも、その相手が憎悪の対象であったアーケオスというのが、不思議な巡り合わせを感じずにはいられなかった。
そのような悦びの中で、プテラは最大限に勃起した後、奉仕への報いとして、たっぷりとアーケオスの口に射精した。
「うはああああああっ!……はあっ!……はあっ、はあっ、はあ……」
激しい喘ぎとともに、プテラの腹が一気に凹み、うっすらと筋肉の白線が浮かび上がる。
アーケオスは、しっかりとプテラの男根にありつき、放出される雄々しい精液で喉を潤した。ゆっくりと喉仏を鳴らしながら、飲み込んだ粘液は、古代鳥の豊かな腹にすっかり収まった。
「もう、腹一杯」
アーケオスは満足気にささやいた。
「幸せか、おまえ」
「うん、だってこれでアンタとオレは、ずっと一緒」
「……俺にはちょっとわからないけど」
「わかんなくていいよ、別に。ほら」
アーケオスはプテラの前で仰向けになり、四股を投げ出し、従順な姿勢をとった。
「オレをもっとメチャクチャに汚してくれよ……!」
プテラは息を飲んだ。淫らにくねるアーケオスの姿態を見て、萎えた劣情が瞬く間に膨れ上がった。相手がアーケオスであることも、雄であることももう関係なかった。勃ちあがったこのガチゴラスで、精一杯愛してあげたいと思う気持ちには勝てなかった。
「わかった」
両脚を持ち上げ、ぱっくり開いたアナルの深淵を広げながら、プテラは先端を慎重にあてがう。
「痛かったら、ちゃんと言ってくれよ……」
恐る恐る、アーケオスの中に入る。初めは抵抗を感じたが、直腸が弛緩するのにしたがって、徐々に奥に入り込んでいく。
「あっ! プテラぁ……」
「悪い、痛かったか」
「違うんだ、そうじゃなくて」
アーケオスは首を振った。
「いいんだよ、これで」
地面が獰猛な唸り声を上げながら、ガタガタと揺れる。さっきよりも確実に激しさを増していた。
「早く、やっちまってくれよ。何もかも、終っちゃう前にさ」
「そうだな」
自分の愛棒が、全部アーケオスの中に収まった。穴の中に入ってもますます膨れ上がって、アーケオスの腹からもその形が浮き出した。
「ううっ……プテラぁ……好きぃ……」
羽毛ごと、その隆起を掻き撫でながら、アーケオスは甘い声で誘うと、プテラの腰は勝手に動き出した。
「ああっ♡ いいよお、プテラっ……オレの鳥マンコ、ぶっ壊してよっ……!」
うなだれて、両翼を力なく垂らしながら、ペニスを出し入れする腰だけに気持ちを集中させ、体をぶつけ合う一発一発に力を込めた。
「ああっ♡……ああっ♡……ぎもぢいいよおおおお……ブデラぁ……♡」
「ふう……ふう……ふう……!」
本能のままに腰をいっそう波打たせて抽送し、アーケオスのカラダをたっぷりと味わう。最初で最後に犯す雄の味は、苦々しくも、嫌いではなかった。
「あ゛あ゛っ……そろそろ終わりにするぞっ……アーケオス」
「やだっ……もっどぶぢごわ゛じでぐれよ゛おっ……!」
「いくぞっ!……」
体全体を大きく後ろへ反らしながら、プテラは腰の振りをいっそう速めた。アーケオスの悦びの入り混じった悲鳴に煽られて、理性のタガが外れ、激しくも優しく責めあげることだけを一心に考えた。
「はあっ……」
削ぎ取られた自分の肉体を両腕で掻き撫でる。灰色だった空が、たまたま裂けて、そこから差し込んできた光が自分たちを照らした。そういえば、太陽ってまだあったんだな、とプテラは一瞬思ったが、そんなことはすぐに忘れて、腰を振った。
chapter:3
いつ絶頂に達したのか、プテラは覚えていなかった。気がついたら、果てていて、そのまま気を失ってしまったらしかった。
「うぐう……」
おもむろに上体を起こす。地鳴りはまだ鳴り続いているらしい。さっきよりもはるかに大きい。あちこちに噴石も飛んできている。
鎮まって、精液まみれになった自分のペニスを見て、さっきまでの自分を思い出し、恥ずかしくなる。いくらなんでも、同性相手にあそこまで性欲丸出しで腰を振っていたなんて、ちょっと信じ難かった。
この、目の前で大の字で倒れているアーケオスに対して、ありったけの感情をぶつけた気がする。なんと叫んだのかは、思い出せないが。
ピクリとも動こうとしないので、プテラは相手に覆いかぶさって、様子を確かめる。死んでいた。間違いなく。
「……」
いったい、いつ事切れたんだろう。射精した後か、でも一体、俺は何回射精したもんだろう? 少なくとも、快楽を体いっぱいに味わいながら、こいつ的には幸福に死んだんだろう。
それというのも、アーケオスの目と口が、ぱっくりとだらしなく開いたままだったからだ。悶え、喘ぎ死んでいったのが一目でわかって、逆にこちらが顔を赤くしてしまうくらいだった。いかにも、よわきなアーケオスにふさわしい間抜けづらだ。
急に、へりすぎた腹に痛みを感じるようになってきた。喉の渇きも尋常ではなかった。しかし、ここから一歩動く体力すら、プテラには残されていなかった。どちらにせよ、動きたくなかった。もう生きていたくもない。
「まったく。最後まで手間かけさす鳥だな……」
亡骸の脇に横たわって、プテラは死を待つことにした。空から火山灰が豪雨のように降り注いできていた。待っていなくとも、勝手に俺はこの灰に埋もれて窒息するだろう。ちょっと、苦しい思いをするかもしれないが、死ねることには変わりないからありがたい。
ついさっきまで、暴虐に振る舞っていたモノを脇目に覗く。危うく、プテラとしての貞操をこいつに奪われるところだったが、苛立ちとか憎しみとか、そういうものはもう何もなくなってしまった。できれば、こんなことになる前にこいつと出会うことができればと思ったが、最良の終わりというのはなかなかないものだと諦めた。
chapter6へ
chapter:4
プテラは黙っていた。意固地にも口を開こうとはしなかった。頭の中では相対する考えがグルグルと巡っている。今更抵抗して何になる、と思ってはいた。だが、ほんのわずかに残っていた、空の王者たるプテラとしての誇りが、どうしても素直に言うことを聞くことができない。
アーケオスは嬉しそうに舌打ちした。
「そっか。それなら最初からそう言ってくれればよかったのに」
胸をさすっていた手を即座に股へと滑らせ、ゆっくりとそこを、揉むようにいじり始める。
「これでも一線は越えないつもりでいたんだけどなあ」
上の空でつぶやく。
「アンタがイヤだと言わないなら、仕方ないね」
手首の黄色い羽毛がプテラのスリットをくすぐる。刺激が下半身を走り、むず痒くピクピクと体が反応してしまう。
「ち、違う……」
「もう遅えよ」
一発、平手打ちをくらわす。
「黙ってるってことは、いいよ、ってことに決まってんだろ」
せせら笑いながら、腹筋のうっすらと浮かんだ線と鼠蹊部が収斂する辺りを執拗にこねくり回す。すぐに、熱いものがそこからこみ上げてくるのを、プテラはもう抑えられない。
体内に収まり切らなくなったそれが顔を出すと、溺れた奴がやっとの思いで水面に顔を出したときのような、苦しみと安堵が揺れ動く一瞬のように、威勢よく勃起した。
アーケオスは薄笑いを浮かべた。
「ほら、嘘つくなよ。アンタの体、メチャクチャ欲しがってるじゃん。かわいいな」
ピンと張った自分の雄をまじまじと見つめることなんて今までありもしなかった。垂直にそそり立っては、グラグラと揺れる肉棒を見ていると、無力感が湧き起こってくる。今までの俺が生きてきたことは一体何だったんだろう。足をおっ広げて、せいぜい排尿にしか使ってこなかった器官を、アーケオスなんかに晒しているなどとは。
耐えられない屈辱感で言葉を出せないプテラのことなど気にかけず、なおも男らしさを保っていた立派な巨樹を握りしめ、がむしゃらに上下に動かした。
「わっ!……やめ……っ!!」
アーケオスは物思いをしているような表情を浮かべながら、プテラの雄を見つめ、それを扱く速度をあれこれと模索する。その所作は真剣なようでもあり、ふざけているようでもあった。秘部を弄ばれている恥辱感とは裏腹に、プテラは体が火照り、さらに頭が焼けるような感じを覚えた。考える力が少しずつ失われつつあるようだった。
「わかった! これくらいがちょうどいいんだな? すごく喜んでるぜ……!」
「あっ……あっ……ああっ……」
あまりの快楽にプテラの背中は反り返り、体全体がきれいなアーチを描いた。宙に突き出された胴体は張り詰め、皮膚と骨がぺったりとくっついたようになり、痩せ細った体をさらに貧弱に見せた。場違いな巨根に、体の栄養を全て吸い取られてしまったかのようだ。
アーケオスは、プテラのそれに添寝するように顔を近づけて、根本からベロリと舐めあげる。数回扱いては、舐め、数回扱いては、舐める。
「はあああっ……! はあ……はあ!!……っ」
プテラのモノがそれでも待ち遠しげにそそり立っていた。なんとかしてそれを抑えつけたいのに、収まる気配はまったくない。
先走りがじわじわと先端からあふれ始めたところで、アーケオスがピタリと手を止めた。
「ったく、やってられっかこんなの」
わざとらしく緩慢に手をぷらぷらさせる。
「もう我慢できねえよっ……!」
突如、アーケオスがプテラを乱暴にうつぶせにし、腰を持ち上げ、尻を突き出させる。手際良く尻尾をめくり上げて尻の穴を露わにさせながら、指をしゃぶって唾液で濡らす。
「やっ……」
「言っとくけど、アンタが悪いんだからな」
指の濡れ具合を確かめながら、独り言のように話す。
「だって、俺はちゃんと念押ししたじゃんか。それでも、イヤって言わなかったんだから、それはヤってもいいってことじゃん? 何度も言ってんだろ、クソが」
このくらいでいいか、とベタベタになった指を睨みながら、アーケオスはつぶやく。
「いやだっ!……やめてくれ! それだけは……っ」
「うっせえよ、てめえはもう、とっくに堕ちてんだよ!」
プテラの肉のこそげた尻を、何度も手で打った。ペシペシと乾いた音が響く。
「アンタはもう俺の奴隷なんだよ。わかる? おしりペンペンされる気分はどうよ? 子どもん時以来?」
翼で打たれるたびに、微かに残った尻の肉が震える。プテラの萎えてしまったペニスが情けなく揺れている。
「まあいいよ。どうせ世も末なんだし?」
冷めた口調。
「最期に、すっごく気持ちいいことしてもらえんだから……嬉しいだろお?」
慎重に、だが躊躇なく、爪を一本、穴の中に突き挿す。その指がプテラの中へゆっくりと沈み込んでいく。
「んっ……んん……っ!!」
指が付け根まで入り切ると、アーケオスは試しにプテラの中で動かしてみる。
「はあっ!……ん〜っ……ん〜……」
甲高い、雌のような喘ぎ声にニヤリとすると、指を抜き差しし始めた。最初はゆっくりと。徐々に速く。やがて激しく。
「んんっ……ああっ!……んん……んんんん……!!」
「ほらもっと喜べ、変態!」
嬉々とした笑みを浮かべ、アーケオスが叫ぶ。勢いのあまり、爪が内壁に多少食い込んでしまっても構わず、欲望のままに出し入れし続ける。プテラの腰が、爪の動きに合わせて痙攣する。
「ああっ、あっ、あっ、ああああっ!……」
痛みと、受け入れがたい快感が、体全体に広がる。雄としての矜持というべきものが揺らいでいくのが感じられた。しかしこれは単純に雌に堕したというわけでもない、全然違う。性別など関係なく、もっと下層の、奴隷の中の奴隷、何をする権利もないが、どんなこともされる権利だけは持っているような、考えうる限りでもっとも惨めな存在。
「あっ、あっ、あっ、って」
アーケオスは憎たらしげに口真似をしながら、さらに激しく尻を叩く。
「それしか言えねえのかよ、テメーは……クソがっ! 鳴くんならもっともっと雌みたいな声でよがれっての! 雰囲気台無しだろうが!」
「やっ……ああん……んっ!、んっ!、んっ、ん〜っ!」
ぶら下がっていた情けない雄が不本意にも元気を取り戻してきた。血が通い脈打って健康的になった赤いそれが、灰色の下腹部にぴったりと貼りつくさまは、マンタインの腹にくっつくテッポウオさながらだった。
「いいぞっ!……もっとよがれよ! もっと!! もっと!!!!!」
「んん……〜っ、はあっ……!……くうん……♡」
プテラの爪に力が入り、深く地面に食い込んで、長い線を刻む。勝手に上体が捩れ、腰が動く。狂ったように激しくなるアーケオスの責めに必死に耐えながら、出したことのない甘い声に戦慄し、絶望する。
激しいつのドリルをたっぷり喰らわせたところで、アーケオスは乱暴に指を引っこ抜いた。プテラの尻の肉がピクリと細かに揺れる。中で遊ばせていた指をくわえ、プテラの味をしっかりと味わうようにしゃぶり尽くしたアーケオスは、今度は両腕でがっちりと尻を掴み、穴の前に顔を近寄せた。
「やればできるじゃん」
両手で尻を揉みしだきつつ、見た目と比べてずっと柔らかな実の感触に激しく興奮するように、手つきは情熱的だ。
「ほんっと、かわいいなアンタ……」
アーケオスは、プテラの下の口にぎゅっと自分の口を押し付け、果汁を飲もうとするかのように、強く啜った。
「!!!……やっ……ん〜っ、んんんんんんん〜っ!」
「はあ、はあ……うま……」
頭に垂れかかる尻尾を振り払いながら、一心不乱にプテラの尻に吸い付く。すっかり顔を埋め、そこから溢れる「栄養」を一滴も逃さまいと口をぴたりとくっつけ、蛇のように舌をチロチロとさせながら、丁寧に、愛し気に舐め続ける。
「やっ……んん……やめっ、んっ、ん〜っ♡……ん〜っ」
舌から来る刺激につい腰を艶にくねらせてしまい、プテラは自分が心底嫌になるが、愛撫されるごとに、石のように硬くなった自分の雄が疼くのを我慢できない。
「お? メチャクチャ勃ってんじゃん」
アーケオスは下から、プテラのお腹に貼り付いた棒を眺める。
「扱けよ」
「ううっ……」
アーケオスはプテラの尻を乱暴にぶつ。何度も打擲された灰色の皮膚には、ほんのりと赤い手の跡が浮かびあがってきていた。仕方なく、プテラは自分で息子を扱き始めた。
「スゲえ、ビンビンじゃんか。やっぱ、好きなんだねえ……」
「………………」
プテラは黙って自慰を続ける。アーケオスも別に答えを期待しているわけでもなかった。再び、尻の穴にかぶりついて、しつこく舌で愛撫した。
認めたくないが、後ろも前も気持ちよくて、プテラはついよがってしまう。腰が滑らかにウェーブする。プライドの残り滓のようなものだけが、ギリギリのところでプテラの理性を保っていたが、それもいつ破壊されてもおかしくない感じだった。
頭の片隅にちらりと、このまま快楽に溺れてしまってもいいと思う諦念が浮かび上がり、危うくその考えに飲まれそうなのに気付いて、我に返った。アーケオスに尻を弄ばれている間、何度もそうなりかけた。何度こらえてもすぐにやってくる耐えがたい睡魔みたいだった。
「はあ……」
アーケオスが名残惜しそうに、最後にぎゅっと顔を深く埋めてから口を離した。長く、ねっとりした銀糸を口から垂らしながら、うっとりとため息をつく。貪られたこそげた尻が弱々しく震えていた。
プテラの尻尾の付け根には、グチョグチョにされてぽっかりと縦にこじ開けられた洞窟が出来上がっていた。そこに空気が入り込んで、冷え冷えとする。アーケオスに弄られたところは敏感に反応するようになっていた。
「どうよ?」
再び、爪をしゃぶりながらアーケオスが言う。
「こんな開けたところで四つん這いになってケツマンおっ広げてるってさ。ホント、情けないよね。堕ちるところまで堕ちちゃってさあ……」
「ひぐっ……」
急に死んだ仲間たちのことが脳裏に浮かんできた。こんな姿をあいつらに見られなくて本当によかった、と思った。そりゃ他のやつらもアーケオスたちにひどい目に合わされてきたが、俺のように生き恥をさらされるようなことはなかった。あいつらは死んでよかったんだと、今になって実感する。
生き延びちまった結果が、これだ。
よりにもよって、こんな気が狂った、変態に出くわしてしまうなんて!
ぽっかりと開いた肛門を、灰色の空に高く突き出したままの姿勢で、プテラは突っ伏して泣いていた。感情がこもりすぎて、逆に喜んでいるようにも聞こえる叫びは、灰色の空に溶けこんで消えていく。
慰めるように、ポンと臀部に何かが置かれる。
「泣いてんのか? 元気だせって」
黄色い羽毛からいつの間にやら生えていたペニスをいじって元気にさせながら、アーケオスは気味の悪い吐息をつく。だらしなく垂らした舌から唾液の細い線が、プテラの背筋の筋に落ちてじれったいほどゆっくりと流れていった。
「コレで、すっかり、悲しいことなんて忘れさせてやるからさ」
「ひっく……もうヤだ……ゴロシテぐれっ……みん゛な゛のどごに、行かせでぐれえ……」
「はいはい、イかせて欲しいんだな。勇気出して上手におねだりできて、偉いぜアンタ……」
ご褒美やるから口あーんってしろよ、と独りごちながら、膨張したつよきを穴に押し当て、しばらく先端でくすぐっておいて、ちょうどいいポジションが見つかると、ゆっくりと中へ入っていく。
「んぐっ……」
「はあっ……すげえ……いいぞ……そのまま……」
「いだっ……い……!……いだいぃぃぃ……!」
アーケオスは苛立たしげにプテラの腰をしたたかに打った。
「痛えわけねえだろカス! 何のためにケツマン広げてやったと思ってんだよ? ほら、もっとケツ突き出せって……力抜けよ……!!」
たまらずプテラは苦しげに深く息を吸い、吐き出すと同時に、強張った腰の力を一挙に抜いた。それにつれて、アーケオスのモノがするすると中へ入っていくのを感じた。熱をもったそいつが、アーケオスの興奮につれてムクムクと膨れ上がり、プテラの中を締め付ける。
「……ふあっ……ああ……んっ♡……」
最初の痛みが和らぐと、入れ替わるようにして、かすかだが不思議な感覚を味わわないわけにはいかなかった。はっきりと言葉にしたくはないが、それは明らかに気持ちがよいのだった。どうして尻にこんなものを挿れられて気持ちがよくなってしまうのか、経験のなかったプテラには皆目見当がつかない。
「思った通りの締まり具合だな……! どエロ翼竜め……」
アーケオスはゆっくりと全体重をかけて、自慢のカギを奥へと押し込んでいく。入念に広げておいたからなのか、もともと相性がよかったのか、ごく自然にプテラの中へ付け根までしっかり収まった。
「んんっ♡……」
不意に漏れる喘ぎと、反応していっそう固くなるイチモツ。辺りには自分たちしかいないはずなのに、ずっと前から誰かにこの無様な姿を見られているような気がした。プテラの空想は激しくなり、それが死んだはずの仲間たちだと想像して、目を覆った。
プテラは心の中でもうどこにも存在しないものたちに対して弁明する。これはなにかの間違いで、雄に犯されて喜ぶような俺ではないと、断じて、断じてそのはずなんだ……
「…………………………………………」
「…………………………………………」
二体が完全に一つに繋がってから、なぜか沈黙が流れた。必死にこらえてもなお漏れ出す吐息だけが聞こえていた。
「おい」
アーケオスがぶっきらぼうに言う。
「何ぼうっとしてんだよ。腰振んだよっ!」
「んんんんっ」
腰を強く打たれて、プテラは尻を大きく反らせた。
「……………………んっ」
しぶしぶ、くびれの辺りをクネクネさせて、自らアーケオスの雄に応えてやる。プテラは、屈辱的ながら、自分の置かれた立場をわかりつつあった。腹の裏側で生暖かいものが暴れている。体の中を激しくいじくり回されて気分はよくないはずなのに、どうしてこんなに体は悦んでいるのだろう?
「んん〜っ♡……ふう〜っ!……やあっ……♡」
自分の理性は嫌がっているのに、腰の振りはどんどん激しく、大きく波打っていくのを止められなくなっている。アーケオスが尻をはたいて唆すのに合わせて、いっそう情熱的に腰をくねらせていくと、自分という生き物がなんなのか分からなくなってきた。
「へえ……アンタ、雌の才能あるじゃん」
「ふあっ……ちがっ……ううっ♡」
尻は勝手にアーケオスを欲しがっていた。舌をだらりと垂らして喘ぎながら、心がみるみる何かに浸食されていく。プテラはぎゅっと目を瞑った。これはあくまでも悪い夢のようなものだと思おうとしたが、一瞬も保たなかった。
「ああ、クソっ!」
アーケオスはそう叫ぶと、プテラのツノをキツく握りしめて、そのまま上半身を無理やり持ち上げた。
「エロい腰振りしやがって……本性現しやがったな、ド変態! ご褒美においしいの、くれてやるよ……!」
「やっ!……やあっ……♡」
プテラの体を弓なりに反らせた姿勢のまま、アーケオスは我を忘れたように、暴力的に腰を振った。膨らんだ肉棒の先端に、肛門の奥のプテラの秘部は、容赦なく何度もつつかれた。
あばらがくっきりと浮き出して、みすぼらしい肉体を晒されたプテラは、息苦しく、声をあげることもできなかった。ただ、犯される尻穴に、永遠かと思われるほどにもたらされる、痛みと快感の混合した耐え難い刺激だけを、感じ続け、頭の中にはもはやそのことしか残らなかった。
「あががががっ!……っっっっっっっ!!」
熱さを通り越して、焼けるような尻の苦悩。ついこの間まで、堂々たる姿で空を我がものにしていた自分のカラダは、もはや見る影もなく哀れな姿を晒していた。
「おらっ! とっととイケよ……! たっぷり気持ちよくなって、無様に死ねよ……」
アーケオスがぱっと手を離すと、プテラの上体は勢いよく地面に叩きつけられた。受け身をする余裕もなく、まともに顎を打ってしまい、痛みとともにジンジンとくる痺れを感じた。そこをすかさずアーケオスが責め立てるので、プテラは悶え死にそうになった。
「………………………………っ!!!」
「なに、ボケッとしてんだよっ!……喜べよ、雑魚が! 興醒めさせんじゃねえよ……!!」
興奮のあまりに、掌でプテラのこそげた尻を叩きのめす。何発かは外れて、引き攣って極端に凹んだ脇腹の辺りに当たった。
性欲任せに、乱暴に、滅茶苦茶なテンポで抽送されるアーケオスの凶器に、プテラの下半身はすっかりメロメロにされていた。尻は自ずと悩ましく振られ、アーケオスをもっと奥まで誘いたがった。
「すげえ喜んでんじゃん……仲間がいなくて残念だったなあ……きっとみんな軽蔑するぜっ……アンタのこと!」
「うぐっ♡……ううっ♡……う〜ん♡」
「なあ! 言いたいことあるんじゃないの? 早く口に出して、楽になろうぜ?」
さっき顔を打った衝撃のせいなのか、ずっと頭の中で大事に守ってきた何かが壊れてしまった。
このモノトーンの世界には、自分とこのアーケオスしか存在しないも同然だった。空も森林も海も、あらゆる背景は消え失せてしまった。自分の世界はひっくり返って、もう取り返しがつかなくなってしまった。そんなものはもう自分の頭の中にしか存在しないし、記憶さえ次第に霞みつつあった。
いや、そんなものは本当に存在したんだろうか? 過去の思い出は一つ一つ、頭から剥がれていってしまった。振り返ってみたら、あったはずの昔というものが消え失せていて、自分に認識できるのは、今、この場所だけになっていた。
そしてそこでは、一匹のアーケオスに、雄の、プテラとしてのプライドを剥ぎ取られ、陵辱され続けている。
(もう゛っ、どうでもい゛いっ♡……)
プテラは覚悟を決めた。元はといえばあの時、素直にアーケオスに従わなかった俺が悪いのだ。この状況、いくら見くびっていた相手とはいっても、俺は判断を完全に誤ってしまった。ああ、意地を張ってプテラのプライドに縋ってしまったのが運の尽きだった……。誰よりも無様な最期を、淫乱な雄として終えるのだ。でもこれは、慢心した俺への罰なんだ、きっとそうだ、そうに違いない。プテラはそれ以上、難しいことは考えないことにした。
それに、なにより尻の中が気持ちよくてたまらなかった。もう男根の虜になっていた。もっと、もっと奥へ突いて欲しかった。いっそのこと、そいつで全身を串刺しにして欲しいくらいだった。
「アーゲオズぅ、オ゛レ゛をっ、オデのおじりぃぃぃ……っ」
プテラは振り絞るように言葉を発した。快楽をおねだりして一層淫らにフリフリする腰に嫉妬しているかのように、懇願する調子で。
「アダマまっじろになるまでっ♡、おがじで、くれよ゛っ……!」
アーケオスは汚く笑った。
「へえー……とうとう、雄を捨てる気になったんだな。ほんっと、哀れでざまあねえ、ゴミだな。プテラのくせに、恥ずかしくねえのかよ?」
長い首を屈めて、プテラの尻のきゅっと窪んだ辺りを愛しげに一舐めすると、プテラは大きく尻全体を波打たせて、犯される悦びを表現した。アーケオスに激しく打たれても、尻を振るのをやめなかった。むしろ嬉しかった。
「ふうっ……マジこいつどうしようもねえな……っ! おら、とっとと逝っちまえよ、クズ!」
「んんっ♡ んんっ♡」
いったん吹っ切れてしまうと、頭がおかしくなるのは驚くほどに早かった。アーケオスから飛んでくる罵詈雑言も、尻を鞭打つ手も、直腸の突き当たりにまで達するペニスも、すべてが快楽に還元され、プテラの尻から頭まで犯していく。
アーケオスは、爪を突き立ててプテラの尻をきつく掴みながら、引き攣った笑みを浮かべ、弄ばれ尽くされ、すっかりだらしなく弛緩したアナルに渾身のピストンを喰らわせる。一撃ごとに、カラダの裏側が焼けただれていく感触とともに、自分が無残に壊されていくのが、プテラにはいっそ爽快に思われた。地べたに這いつくばって強者にケツを慰みに捧げる弱者、奴隷、底辺の悦びが、カラダで理解できた。
「ああ゛っ♡ あーゲオズぅっ♡ もっどっ♡ ばげじぐっ♡ ぶっでぐれ゛ぇ♡……」
「言われなくたって、わかってるっつうの、気持ちわりっ!……」
ほんのりと赤く腫れ上がったプテラの尻は、何度も打たれた末に擦り剥け、乱暴に掴まれたことにより食い込んだ爪の跡が痛々しく刻まれていた。傷ついたそのカラダに、なおも際限なく平手打ちが飛び、痛めつけられた箇所からじわりと充血した。
さっきからおざなりになっていたペニスを、プテラは自ら掴んだ。夢中になって扱くにつれて、ますます喜んで勃ち上がるそれは、生まれたての子どものように可愛いと今では思える。
「はあ゛っ♡……はぁ……ぎもぢっ……ああ゛ん♡……」
プテラの目は潤んでとろけていた。両目の焦点が合わなくなり、視界はぼやけ、霞んでいた。心なしか頬も緩んでいた。
「やればできるじゃんか……今のアンタ、最高にキモいぜ……! もう、種族の恥晒しだな! 申し訳ないとか思わねえの?……ほら、ごめんなさいって言ってみろよ……!」
「……んっ……ごめ゛ん゛な゛ざい゛♡……べん゛だい゛でずん゛っ♡……ま゛ぜんでじだっ……♡」
「けっ、無様だな!……ああー……そろそろ出ちまうぜっ……!」
プテラは激しく腰を前後して、精一杯におねだりをした。尻に深く突き刺さり、はち切れんばかりに膨れ上がったペニスに愛されたくてたまらなかった。
「アーゲオスぅ♡……オレ゛んながに、じぇん゛ぶ出しで、ぐれ゛……っ♡」
「へへへっ、いい子じゃんか……しょうもないクソ野郎、おらっ、トドメだっ!!」
激しい腰をぶつけた末、アーケオスは溜めに溜めた精液を一挙にプテラへぶちまけた。直腸に深く突き刺さった欲望が、心臓のように激しく脈打ちながら、続々とドロドロと濁った液体をとくとくと流し込んでいき、プテラの尻を悦ばせる。
「おおんっ♡……イグっ……イグっ、イグぅ♡……」
とめどなく注入されていく熱い愛液が、腹の中を満たしていく興奮で、プテラは射精し、自分の精液を虚しく地面に垂らす。
「はあっ♡……はあっ♡……はああっん♡……」
今まで感じたこともない快楽に、すっかりプテラは魅了されていた。雄としての尊厳がとっくに奪い去られたことは、もう気にならなかった。気持ちいい抽送がもう終わってしまったのが惜しくてならなかった。
アーケオスがやっと萎えた逸物をゆっくりと引き抜くと、栓の抜けたプテラのアナルから、収まりきらなくなった精液が滑稽に噴射した。あらかた中身を出し尽くした後には、痩せ細ってなおも精悍な体つきにはおよそ似つかわしくない、おぞましく緩んだ尻穴が露わになる。漏れ出すザーメンを堪えるべくもないそれは、ペニスどころか、アーケオスの拳すら飲みこんでしまえそうなほどに拡張され、まだ物欲しげに微かに痙攣している。
言うまでもなく、アーケオスは再び勃起した。
「はあっ……アーケオスぅ……♡」
尻をほとんど直角に突き出しながら、プテラはアーケオスを誘う。
「は? 何? はっきり言ってくんねえとわかんねえんだけど?」
意地悪に、プテラの尻尾をきつく引っ張る。そのままひっちぎってしまいそうなくらい強く。
「あっ♡……そのっ……もっとっ、俺のケツマンっ、にっ……ぞのデッガいヂンボっ、挿れで、ぼしいでずっ♡……」
アーケオスは苦笑した。あれだけ空を我がもの顔に占領していた奴が、よくぞここまで堕ちたもんだとむしろ関心した。弱ったプテラを狙って復讐がてら乱暴しようと思ったら、想像以上の逸材を捕まえてしまったようだ。
「はははっ。恥も外聞もかなぐり捨てたみたいだな!……俺のチンポ、絞り尽くせよ……!」
また、硬くなった男根をプテラの中に入れる。今度は力を入れなくとも、簡単に奥へと収まった。爪をまだ1・2本は入れられる余裕すらあるほどだった。
「あっ♡……あはあっ♡……んんんんんん〜〜♡……」
プテラは腰を激しく上下させ、尻でアーケオスのペニスを受けいれ、しゃぶった。おやつを与えられた子どものように、夢中になって肉棒にありついた。
「なんだそれは、ケツに脳みそ移っちまったのか?……へへへっ、ケツでフェラしてやがって、おら、もっと美味そうに食えよ!」
淫らな尻を爪でガッチリと掴むと、アーケオスは興奮と嗜虐心に任せて、深く肉にめり込ませながら引っ掻いた。痛々しい3本の線が刻まれ、黒ずんだ血が流れ出した。
「ぎゃあんっ♡……はあっ!……んんんっ……」
それすらも、プテラにとっては快楽にしかならなかった。理性を失ったよがり声をあげながら、プテラは尻で深くうなずき、ひたすらにペニスを求め続けた。もっと早く犯されればよかったのにとさえ思った。瀕死で味わうにはあまりにも惜しいくらい、気持ちが良すぎた。………………
chapter:5
もう何度、イったかわからないが、アーケオスは、プテラが事切れていることに気づいた。とっくの前から性に酔っ払っていたので、もう犯している相手のことも意識しなくなっていたアーケオスは、ふと辺りがやけに静かなことに気がついた。
ただ自分の腰を振るゆさゆさした音、腹の肉がぶつかり合う音、自分の気味の悪い喘ぎ声が耳に障って、ようやく我に返った。
アーケオスは舌打ちをした。持ち上げていた亡骸の腰が急に重くなりだした。尻の中が、いつの間にかヒンヤリしている。いくら腰を振っても、何のいやらしい手応えもない。まるで石に穿たれた穴に自分のモノを突っ込んで虚しくオナニーしているも同然の有り様だった。
地面に上半身を突っ伏して、ピクリとも動かなくなったプテラ だったものを、アーケオスは見下ろす。ついこの間まで、我が物顔で空を独占していたもの、自分たちに手当たり次第襲いかかり、貪り食っていたもの、弄んでいたもの。傲慢にも永遠に自分たちの時代が続くもんと思い込んでいたものを、アーケオスは嘲った。
ちくしょう、もっとヤリたいことがあったのに、死に逃げしやがって。でも、まっ、最悪な死に方には変わりないからいっか。俺はまだ元気だし、最後まで付き合ってもらおっか。
腰を深く揺さぶりながら、アーケオスは最後の一発を決めた。プテラの方は何の反応もよこさないから、勝手な妄想をして興奮した。もうケツにチンポ嵌められることしか考えられなくなって、あの世でもケツマンおっ広げて、誘う身振りで腰を淫らに振って醜態を晒しているとか。
プテラの尻ですっかり自分の精液を搾り切って、アーケオスは萎えたペニスを気怠げに引き抜いた。両手で支えていたプテラのカラダは腰から崩れ落ちた。
どんな顔してるか、一応見てやろうか。痩せ衰えた割にはちょっと重かったが、アーケオスは興味本位で、カブトの裏を覗き見る時のように、死骸の体をひっくり返した。
「…………!」
自分の好奇心が後悔された。ゴミなんだから、ヤリ捨ててこの場から立ち去るべきだったと思った時には、性欲への酔いもすっかり覚めてしまった。
たっぷりと尻から頭まで犯してやったはずのクソ野郎の顔は、言葉を失ってしまうくらいに、崇高だった。目と口は優しく閉じられ、あらゆる苦しみや快楽から解放されているとでも言いたげだった。
飢餓の末に極限まで肉が削り取られ、打撲跡や擦り傷だらけになった肉体は、痛々しいどころか、畏怖を催させるほどには、美しく、淫らに触れるのも憚られた。
こんなものを今の今まで強姦していた自分自身にゾッとするとともに、なぜ宿敵だったものに対してこんな感情を抱いてしまうのかわからず、腹立たしい気持ちとがないまぜになり、アーケオスは地団駄踏みたい気分だった。
「ああ……くそっ」
もう一度メチャクチャにしてやろうと、自分のスリットを撫で回したが、何か不思議な力が働いてでもいるのか、微塵も感じなかった。この神々しい野郎に精液をぶちまけることができたなら、憎いプテラどもへの自分なりの復讐は完遂されるはずなのに。
アーケオスは美しい死体の上にぴったりと重なった。はげしい地鳴りと共に、大地が震えた。どこかで何かが噴き上がり、激突する音が聞こえた。ああ、その辺の火山でも噴火したんだな。
思うまもなく、辺りに岩石が飛んできた。小石のようなものから、拳ほどの大きさのものまで。ぶつかったら死ぬだろうな、と一瞬考えたが、そんなことはすぐに忘れてしまった。こんなになった今、いったいそれがオレに何の関係があるんだっての? くそっ。
しかもなんか知らんけど、灰みたいなもんが降ってきやがる。あっという間に積もり上がって、オレたちはそん中に埋まろうとしている。こいつと重なったまんま。ああ、早く死にたい。それと、こんな格好で死んでること、ほかの奴らには見つかりませんように!
chapter6へ
chapter:6
「おい、変態」
プテラが苛立たしげに叫ぶ。
「……んー……」
「邪魔だから、どけって」
「うー……」
「寝てるフリしてんのはわかるんだっての」
さっきから、うたた寝している自分に絡みついて体のあちこちを羽根で撫でさすってくるアーケオスの頭に拳骨を喰らわす。
「うぎゃあっ!……チクショー……いいじゃんか、別にぃ……」
頭をさすりながら、アーケオスは舌を出す。
「よくねえよ、気持ち悪い」
上体を起こして、アーケオスに触られていたところを忌々しげにさする。
「素直じゃねえよな。気持ち良くなりそうだから、って言やあいいのにさ!」
思わずもう一発、拳が出てしまう。
「……あと一回やったら、オレ、泣き喚くからなあ……」
「……うぐっ」
プテラはため息をついて、どうにでもなれという気持ちで床に大の字になる。すかさず、アーケオスが上にのってきても、何も言えない。
「オレたちのカセキ、こんな格好で見つかったんだってな」
「まあな」
確かにそれは事実だった。地層から見つかったアーケオスとプテラのカセキ。二体が抱き合うように重なりあった状態で発見されたことから、研究者の間ではなにかと議論が起こったとか起こらなかったとか。
だが、アーケオスがそれを口にするのは、抱き合う口実でしかない。
「運命感じるよな。なん千万年ごしに、また、こうして重なり合ってさ」
アーケオスの手がよからぬ縦線に触れている。体を愛撫されてほんのり赤らんだそこは、嫌でも敏感になっている。
「おいっ……よわきだからって調子のるなよっ……」
よわきを逆に利用して主導権を握っていたアーケオスは、プテラの抵抗する声も聞き流して、その胸筋の微かな膨らみと谷間にできた鳩尾に口づけして、甘く喘がせる。
「プテラぁ……アンタって、やっぱりいいカラダしてるよな」
「こら、調子にのるなって……」
「正直、メチャクチャに責めたいし、責められたいって感じ」
「わかったから口に出すな、変態」
「おまえこそ、また悦んじゃってさ!」
スリットからムクムクとはみ出してきた雄くさいプテラのペニスを、見下ろしながら、アーケオスはにんまりする。
「6000万年か……なんか、思い出せそうで思い出せないんだよな。死ぬ前に、アンタとヤッたってのは確かなんだよ。カラダがなんとなく覚えてるし」
根本から立派なつのドリルを舐め上げながら、その味が過去の記憶を呼び起こしはしないものかと、アーケオスは試していた。
「どんなことしたんだろうなあオレたち。なあ、アンタはなんか思い出せる?」
フェラの快感に身を任せながら、プテラは目を瞑り、はるか昔の光景を思い出そうとした。なにもかも灰色の景色があり、そこを彷徨う痩せ衰えた自分の姿を。
「変態」
両腕を腰のくびれから、さりげなくお腹の下の方へと滑らせるアーケオスに、プテラは仰向けのままつぶやいた。
うたた寝をしていたプテラにのっかかって、イタズラごころで体を触っていたところだった。
「どうして?」
「どうしてもなにも」
「関係ないもんね」
興味津々に、アーケオスはプテラのお腹に触れる。
自分より一回り大きいながらも、胴回りははるかにほっそりとしていて、筋肉が引き締まって張りのあるカラダは、アーケオスである自分にはないものだ。この一切のムダのない肉体のおかげで、誰よりも速く、美しく空を滑ることができる。忙しく翼をバタつかせてやっとのことで飛べるアーケオスにとっては、ちょっと羨ましくも、妬ましい。
「おい、こら、どけ」
プテラは小声で怒鳴った。こう言われるとそろそろ危ない。いわなだれが飛んでくるかも。この体格差がなければ、それに弱気という特性がなければ、もっと対等に振る舞えるのに、と自分が恨めしい。
でも。内心怖がりながらも、すごすごと引き下がるのはゴメンだ。それでダンマリしながら、プテラの脇腹をつまんでみる。
「……お前、ちょっと太った?」
「何だよいきなり」
「だって、こないだはこんなに肉、なかっただろ」
「あー……この頃あんま長い距離飛んでなかったからかもな。木の実食ってばっかだし」
アーケオスはプテラの腹に顎をのせた。硬いように見えて弾力のある腹筋が心地よい。
「ちゃんと運動してくれよ。お前がデブになるなんて、ヤダよ」
ニヤニヤしながら脇腹を揉んでいると、プテラの堪忍袋の尾が切れる音が、はっきりと聞こえた気がした。
いつの間にか、勢いよく空中に弧を描きながら吹き飛ばされた。仰向けに倒れこんだアーケオスの上に、今度はプテラがのしかかってくる。マジになってるときの表情。
「てめえ……黙ってればいい気になりやがって」
「すすす! すみませんでした! お前が意外と怒らないからって、調子のりました!!」
弱気が発動してしまったので、もう抵抗する気にもならない。
「お、お願いだから、い、い、いわなだれだけはやめてえ……」
見下すような視線を据えたまま、プテラはアーケオスの黄色い羽に覆われた体を組み敷いていたが、ふと、丸いお腹に目をやると、つい気になってしまった。
「な、なんだよっ」
プテラは目を瞑って、アーケオスのお腹を何度も、確かめるように揉んだ。確信すると、にやりと笑った。
「お前、ちょっと痩せたな?」
「い、いいだろ、別に痩せてたって!」
アーケオスは躍起になって言い返すが、図星をつかれたので、声が裏返っている。睨み付けるプテラの強いプレッシャーに圧されて、とうとう観念してしまう。
「……実は、最近ダイエットしてました」
「どうして」
「べ、別になんだっていいだろ」
脇腹をつねりながら聞くので、思わず微かな悲鳴をあげる。
「ちょっと、ス、ス、スマートな体型になりたかっただけ」
爪は肉の深くまで食い込んだ。身をよじるような痛さだ。
「お、お前、みた、いなカラダが、ううう……うらやましくって……なんだよ、悪いかよっ!」
そういえば、とプテラは思い返す。最近こそこそと物陰で何をしているのかと思ってのぞいてみたら、腹筋の真似事をしていたことがあった。
「まったく」
両手でたぷたぷしたお腹を揺らして遊ぶ。
「もうちょっと太れよ。ムキムキのアーケオスなんて、気持ち悪いだけだろうが」
「な、なんだよ、それっ! バカにしてんのかっ」
「すごくバカにしてる」
アーケオスは悔し紛れにジタバタした。
「今まで通りポッチャリでいろっつうんだろ?! わかったよ! でもさ、だったらお前もちゃんとその贅肉取っとけよ!」
「はいはい……」
アーケオスがプテラの脇腹を爪で掴もうとした。二本の指でようやく掴めるかどうかの贅肉だった。
「あー、めっちゃおもろかったな!」
人口的に作られたジャングルの茂みに、新品のベッドか何かのように飛び込んだアーケオスは、腹を抱えて笑い出した。
「オムスターのやつ、あんなマジな目でさ、見てくんだもん!」
落ち着いていることができずに、草地の上を転がりながらうつ伏せになってクツクツを笑いを堪えながら握りしめた爪で何度も地べたを打つ。そのたびに抜け落ちてハラハラと舞う黄色や青色の羽根の動きを、プテラは仏頂面で追う。
「なあ、おもろかったよな?!」
な?! しつこく念押ししてくるアーケオスの忌々しいほどすがすがしい面をプテラは睨みつける。体力が有り余っている時のコイツに凄んだところで、セキタンザンに水をかけるようなものだと、わかりきってはいたが。案の定、アーケオスは意に介することなく、目を輝かせながら話を続ける。
「だって何も言わずにさ、俺のチンポがお前のケツから出たり入ったりしてんのを、こんな!(といって爪で摘むような仕草をした)めっちゃ近いとこからガン見してくるんだもん! 腰振るの集中できなくなりそうだったなあ!」
「……いちいちそんなこと口に出すな」
「でさあ、まじまじと接合部を眺めながら、オムスターの奴、ずっと考え込んでたんだよなあ……何考えてたんだろ? 『へえ、Hってこんなものなんだなあ』って神妙な顔つきしちゃってさ!」
「うるさい」
「なんだよそうイライラして……あ、そっか! お前、だって俺がタチしてるあいだ、ずっと牙食いしばってたもんな。周り見てる余裕もなさそうだったし。ほんとさあ、いっつも甘ったるい声あげながらチンポに完敗して、ったく、ガバケツプテラめ!」
「ぶっ殺す」
プテラが咄嗟に振り下ろした拳骨が空を切った。アーケオスはそのカラダのわりにやたらと俊敏で腹立たしい。翼竜の額に血管が浮かんだ。
「ごめん、ごめん!」
そのくせちっとも申し訳なさそうには見えないアーケオスは、悠然と草地に寝そべりながら、挑発するように「俺の隣、空いてるぜ?」とでも言いたげに隣の草地をポンポンとはたく。
「でも、ほんとのことはほんとのことじゃん? ガバケツプテラって、俺、それ以外に言葉が見つかんないんだもん!」
舌の根の乾かぬうちに調子づく。おもむろに腋を掻きながら、屈託がなさすぎるほどに笑って見せる。どういうつもりなのか、プテラにはアーケオスの腹の底が知れなかった。数千年前から、こんなちょこざいな野郎に翻弄され続けている自分のこともわからなくなってくる。
「でもさ、あんだけガン見されながらヤるだなんて、流石に初めてだったけどさ、俺、正直めっちゃ興奮しちゃったんだよなあ」
それには返事をせず、プテラは生意気な最古鳥から視線を外した。それでも奴のけばけばしい黄色い羽毛が際立って存在を主張してくるのが鬱陶しいといったらない。
アーケオスは一瞬の隙をついて、サッと起き上がると、いきなりプテラの胸元に抱きついた。プテラは咄嗟に反応することができず、「あっ!」とそれまでの苛立ちもうっかり忘れた純粋な驚きの声を挙げてしまった。
「……なんだよ」
「なんだよって、なんだよ?」
「殴るぞ」
「殴る?」
「ああ」
「野暮ったいなぁ」
甘ったるい声で耳元に囁いてくる。末尾の「なぁ」をやたらねっとりと発音するので、生温かい吐息がこめかみの辺りにかかり、プテラは顔を顰める。ていうか、この会話の流れで何がどう野暮ったいんだよ。
プテラを見つめるアーケオスの目はずっと目元が柔軟に緩んで、頬には呆れるほどくっきりとしたえくぼができていた。一発でもその頭を小突いてしまえば「よわき」が発動するというのはわかりきっているほどわかりきったことなのに、振るいかけた翼は肩より上には上がらなかった。こちらを見上げるくりくりとしたアーケオスの顔つきがゆっくりと迫っていた。
「なあ、プテラ?」
辺りにサッと陰が差して一段と薄暗くなるように、おどけたような眼差しが不意に真剣さを帯びたものに変わる。
「っぱ、好きだわあ」
唐突にそんなことを言って、両翼をプテラの背中に回すと、グッと力をこめて抱きしめる。ふわふわとした羽毛が、プテラの岩肌のようなカラダを揶揄うようにくすぐる。アーケオスの体温がやけに生々しく伝わってきた。
「いきなりなんだよ」
呆れつつも、そんな態度で振る舞われると決まってプテラはくろいまなざしを浴びせられたかのようににっちもさっちもいかなくなってしまう。クソがいくつも付くほど生意気で小賢しく、いくらでもゲンコツしてよわきを通り越してオーバーキルしたくなる奴だというのに、いざ素直になられると、煮え繰り返った苛立ちはたちどころに失せてしまって、悪くないどころか、そこが魅力だとさえ思ってしまうのだからおかしい。
「なんだよお、言った通りじゃんか!」
ここまで腐れ縁も同然に付き合っていれば、お前の心情も手に取るようにわかるぜとも言いたげに、アーケオスはにんまりと微笑んでいた。
「ほんと、いつまで経っても素直じゃないし、不器用だよな、元・『空の王者』くんは」
「元は余計だろ」
「モトトカゲってポケモンもいるだろ?」
「知らねえよ」
ようやっと握り拳で小突いた一発は、申し訳程度に頭に載っけるだけだった。ライトグリーンの鱗が敷き詰められたアーケオスの頭部は、柔らかく、ほんの少しツヤツヤとしてもいる。
イヤイヤそうに、そのくせ躊躇うこともなくプテラも両翼をアーケオスの腰に回していた。柔らかい羽根の中に沈み込んだ指がふんわりと脇腹のプニプニとしたところに軟着陸する。細く引き締まった自分のカラダつきとは対照的な豊満な肉体は、指で押さえ込むと面白いほどに変形する。まるで細かなビーズを詰め込んだクッションのようだった。
「うっ!……」
アーケオスは急に顔を赤らめ、俄かに襲われたくすぐったさを押し隠そうとキュッと申し訳程度に腹を凹ませる。弱らせるのには、ゲンコツを喰らわせるよりも随分効果的なようだった。
「ったく」
プテラは殊更に呆れ返ってみせた。
「また太ったな?」
溜飲を下げたプテラは反撃とばかりに、アーケオスの腹を弄る。皮下脂肪に絡めた指が軽やかに動き回った。
「ちちちち、違うって!」
元から赤らんだ顔にいっそう血を漲らせながら、躍起になって言い張るが、プテラの指がぐっと肉を引っ張ると、頬っぺたのように伸びるので、アーケオスの必死の形相も相まって余計に笑いを誘うのだった。
「んだよ、いいだろ、別に!」
ムキになって開き直り出すのも微笑えた。
「アーケオスとしちゃあ、これでもフツーなんだからな! 自称・『空の王者』のフツーを俺に当てはめられても困るだけなんだよ! プテラってそういうところあるよな! そーゆーゴーマンなところが生きるかを死ぬかを分けるんだっての!……」
口をパクパクさせながら喚き立てるのは、所詮は鳥らしい振る舞いで、しれっと織り交ぜてくる悪態も気にならなかった。アーケオスが言葉を積み重ねれば積み重ねるほど、お腹の肉も弄りがいがあるというものだった。
今度はプテラの方がふいうちにアーケオスをキツく抱き寄せる番だった。獲物を捕らえるほどの圧力をかけて抱き締めると、互いの肋骨がぎこちなく肌を介してごつんと触れ合った。
「あっ……やっ、め……」
呆気に取られたアーケオスは首を絞められたかのように口をパックリと開けて空気を取り込もうとしている。目は見開かれ、オドオドした様子で宙を見上げている。
「くすぐっ……ふあっ……!」
かわいいな、と口に出しては言わないがアーケオスの頭部を掴んで、くしゃくしゃと撫でる。鱗が剥き出しになった尻尾がふんわりと浮かび上がった。
「チョロい」
「うっ……うっせ」
後頭部のなだらかな曲線に沿って手を滑らせ、首元の一際ふさふわとした羽根に指の付け根まで埋めると、風邪でもひいているかのように熱い。そこも指でつまむと、お腹の肉と同様に柔らかく、餅のようにどこまでも伸びる。
「やめろってぇ……いじわるぅ……」
プテラの胸にしがみついて、今にも泣きじゃくりそうにしている。行き場を見失った手が。よわきにさえしてしまえば、後はこっちのものだ。
「あー……っ」
撫でられた頭を鳩尾に埋めて、グズっている姿は相変わらずアーケンのころそっくりで、去勢を張ってプテラの飛行についていこうとして、無理して上った木の枝から案の定墜落した時の泣き顔をふと思い出させた。豪快に顔を地べたにぶつけて、あやすのに一晩かかった。プテラ自身だって、復元されてまもないころだったから子守りなんて不慣れだったから、あまりにも泣き止まないアーケンに苛立って、一回本気でつばさでうつをしてしまい、研究員からこっぴどく怒られたものだった。
「……えいっ!」
「?!」
いきなり胸を押された勢いで、プテラは思いっきり尻もちをついた。呆気に取られている隙に、アーケオスがニタニタとした陰湿な笑みを浮かべながらのしかかってくる。
「よわきになったと思ってたか! 残念でした!」
「てっ……テメェ!」
ええ?! 笑いを堪えきれない様子でアーケオスはおどけた。
「違うんだよなあ……だいたい、ブン殴られたわけでもねえし! あー、っぱいつまで経っても甘っちょろいしツメも甘いんだよなあ、お前はなあ」
「ああ?!」
吠えるプテラを尻目にアーケオスは首を大袈裟に横に振った。一発そのツラを叩いてやろうかと翼を振り回すが、かげぶんしんでも積んでいるのかというくらいに当たらない。その図体のくせに、無駄にすばしっこいのが異常に腹立たしい。それに、のしかかられた腹のあたりはおもしを載せられたようで、抜け出そうにも抜け出せなかった。
「じゃっ、次は俺の番だから!」
わざとらしい舌舐めずりをしながら、せせこましく両手を擦り合わせる。抵抗しようとするプテラをものともせず、しっかりと下半身をカラダで押さえつけたまま、爪先で隆起した鎖骨をなぞる。
「くっ……!」
「ほらほら、どうしたんだよプテラぁ!……」
ぎゅっと筋肉を圧迫しながら、アーケオスの爪の腹が首から胸元へ移る。こそばゆさに、不自然に胸筋に力が入った。
「感じてんのかよ? そうならそうだって言えよ」
「違う!」
「ほんと、素直じゃないなあ?」
胸の下側の筋肉が溜まった部分を逆手でいじくる。ムキムキという程でもないが板のように薄っぺらいわけでもない、程よく筋肉の発達した胸が機敏に揺れる。そこにいきなり口づけをした。プテラは変な声で叫んだ。
「……やめろ!」
「やめねえ!」
「んでだよっ!」
「気持ちいいくせにっ!」
「違う! 違う!」
「ふーん?」
頬をこれ以上ないくらいに緩ませながら、アーケオスはもう一度プテラの胸筋を喰んで、口に挟んだままグイグイと引っ張る。
「ぐふうっ!……」
「ほらな」
それ見たことかとアーケオスは笑って、今度は鳩尾に顔を埋めた。彫り上げられたような谷間の溝を唾液をまとった舌で何度も舐める。アイスを舐めるように、こびりついた汚れをこそげ落とすように、表面に浮かんだ汗の滴だけを器用に拭うように、舌つきを変えながらプテラの胸を執拗に舐め続けた。プテラは悶えながら、勘弁してほしいと思い、くすぐったいと思い、不本意ながら気持ちいいとも感じ、カラダが内側から燃え上がってくるのを感じた。
「んー、どしたあ?」
とぼけた顔をして見下ろしたアーケオスが「おやぁ?!」と殊更に驚いて言った。それから、むしろ相手に同情を示しているといった余裕を含んだ笑みを見せる。いかにも空々しい。
「ほんと嘘をつくのが下手だなあ。プライド高すぎるのも問題だと思うけどお? そこんとこ、どうなんだよプテラぁ!」
「知るかっ!」
アーケオスは返事をせず、二匹の腹の間から芽生えたように存在を主張するそれを握って、すかさず上下させた。
「ぅああっ……!」
「へへへっ、なっさけないお前の顔……好き!」
「い゛……言ってろっ……ふあっ……!」
「ほらほら、どんどんでっかく、硬くなってるぞっ……さっきあんなにオムスターの前で射精したばっかってのに、ほんとお前って」
「やがましっ……ふっ?!……ふーっ!……はあーっ!……」
「変態だなあっ?!」
手の動きを早めた。アーケオスの爪が包皮を持たない陰茎を強く握りしめるので、このままミンチになってしまいそうなほど圧迫感があった。
「ぎゃぅ!……あうぅぅぅっ!……」
「おいおいおい、どうしたぁ?! 何が古代の空の世界では敵なしだったってえ?……けど、悪いけど俺は覚えてんだからなあっ!……すげえ? ぼんやりとだけど、お前のこと、一転攻勢! って感じで、好き放題にエロいことしてやったんだからさ……」
「はあっ!……ああっ!……」
さりげなく空いた方のアーケオスの爪が尻尾の付け根を弄っていた。抵抗する暇もなく、爪先が弛緩したアナルに吸い付く。慣らすのに唾液すら必要でないことがわかると、大胆にもさらに奥へと挿し込んだ。
「ふあああっ……!」
「何千万年前だったっけ?……まあいっか。それでもな! あん時の顔覚えてるし、今でも夢に見るし!……そう! ちょうど今のお前の顔みたいになあっ……へへへっ!」
「んんんんっ……!」
「何もかもどうでもよくなって、チンポとケツで気持ちよくなって、アヘアヘ喘いで、見苦しいけど、とっても幸せそうで」
「あ゛ぅっ!……ひゃ゛っ、しゃめ゛っ!」
「なんだよ、毎度毎度イヤそうにしたってわかるんだからな! これされるのが、お前、大好きだってさ!……いやー、マジでエロ過ぎんだろ。お前みたいにカッコよくて、それでいてどうしようもなくバカくそエロいプテラと永遠にこんなことできるなんて!……」
思わず、アーケオスの手を握って扱く動きを制止していた。口はキツく噛み締め、威嚇するような険しい目つきが潤んでいる。しばしの間、圧迫から解放されたペニスに触れてみると、イキりにイキり立ったそれは麻痺して何の感覚もなかった。
「どうしたあ?」
「その……それ以上は、やめ、やめろ」
「もう射精そうだって?」
「だから、それ以上はっ……」
「別にいいだろお? ほら、ほら、ほら……ほらほら、ほらあっ!……」
トドメを刺さんとばかりに、肉棒を握ったまま思いっきり手をシェイクさせ、同時に肛門にまとめて挿し入れた三本の爪もグリグリと直腸の奥にまで押し込んでくる。急所をこれでもかとばかりに責め立てられて、プテラは抗う言葉も出せなかった。異物を押し込まれ、たちどころにするすると吐き出すのを反芻する感触と、ペニスを扱かれる感触とがないまぜになって、プテラ自身説明のつかない興奮が嫌でも高まった。何百回とそうさせられてきたことによってわからせられた感覚が、これ以上耐えられそうにないことを知らせていた。
両翼を庇にして自分の顔を覆い、プテラは目を瞑った。何も言わなかった。
「あ゛っ……あ゛っ……あ゛!……っっ……あっ!……はあっ……はあっ……!」
吐精してもいないアーケオスまで満足げに息を漏らしていた。灰色の岩肌に撒き散らされた精液を一掬いして、口に運ぶ。そしてニヤける。
「いま一つだなあ。まあ、さっきもいっぱい出したからかな?」
まだキツく勃起したままの雄を扱き直すと、微かに残っていた残滓が潮を噴いて恥ずかしい。上体を捻らせて拘束から逃げ出そうとすると、アーケオスの太腿がプテラのカラダをしっかりと挟み込んだ。
「逃げちゃだめだぞ、プテラぁ?」
「くっ……」
生意気な態度を取るプテラを嗜めるように、アーケオスは再び爪を翼竜のアナルに挿し込む。あっというまに付け根まですっぽりと埋め込んでしまうと、ピッピのゆびをふるを真似するかのように内壁で爪を掻き回す。
「くぁっ!……ぎゃ……て……め゛っ!」
「おいおい、随分ガバガバなんじゃねえの!」
「ひっ……ひらばっぐ……れ゛っ!」
「ん? 今何て?」
「こんにゃ……ろぅっ?!」
手慣れた動作で二本目の爪を挿れた。それでもまだアナルには余裕があったので、そのまま三本目も挿れた。少し窮屈になったプテラの中を手首を捻りながら、執拗に弄り回した。
「ぐぅ!……ひゃめっ!……くっずぉ……!」
「どうした? 急にひいひい言うようになっちゃってえ……ほら、俺の爪全部挿入ってんぞお……」
「いぃひっ……ぅおぁっ……んぅぉぉぉぉ……!」
「気持ちいいなら気持ちいいって言えばいいんだぞぉ、プテラ?」
「んあっ……に゛っ……に゛いっ……」
ほんと素直じゃねえなあ、とアーケオスはほくそ笑む。そんな戯けた顔を見る暇もなく、プテラは気怠げに首を動かし、波のように何度も押し寄せてくる何とも言い難い尻から来る刺激を耐え忍んでいる。
アーケオスは爪をガタガタと震わせながら、思い切り前後へ出し入れするように動かした。にちゃ、とした粘っこい音に合わせ、プテラの口から低い唸り声が挙がる。
「いぎっ!……ぎゃっ……はっ゛! んがあ゛っ!……ああ゛!」
両翼はピンと張り詰めて地べたに釘付けにされたかのようだった。翼と一体になった指の一本一本が戦慄したように。顔つきはこの世の終わりを見たかのような絶望の趣があった。この表情を眺める瞬間が何よりアーケオスには至福だった。解れてきた雄穴の中で、何度も爪を捩らせ、出し抜きし、気まぐれに腹の裏を強く押した。その辺りに埋め込まれている少し硬い粒のようなものを弄ると、眼前で銃を放たれかのようにプテラの上体が跳ねた。
「に゛ぁっ!……ぞっ、ぎょぉっ!……おおお゛ほっ!」
「お前とは何回『H』しても飽きねえよなあ……すっごく無様なんだもん!」
「う゛っ……ぎゅぅぅぅっ!」
「ほら、何だよコレは?」
腹の内側をこねくり回されて、さっきから舌のようにだらしなく垂れていたプテラの雄が再び垂直におっ勃ったのをサッと掴むと、そのまま思い切り口に咥え込んだ。
「お゛おふぅっ……?!」
「ああ、うえあお、いんおおっ……」
アーケオスの細長い口に、槍のようなペニスは軽々と収まっていった。厚い舌で先端から根本まで隈なく舐めまわしながら、喉元の咽せるギリギリのところまで目一杯に頬張った。ズュズュズュ、とわざとらしい音を立てて一気に肉棒を啜り上げると、プテラから悲鳴のような掠れ声が挙がった。アーケオスは何度もそれを繰り返し、次第にペースを早めた。
「あ゛っ、アーげオスっ!……ぎゃんめっ!……ろふっ!」
アーケオスは何も聞こえていない振りをした。口の中がプテラの雄で満たされ、蒸れて酸っぱくなった臭いが鼻腔をくすぐった。口をキツく閉じてそれを搾り上げるようにすると、先端が湿っていた。すかさず舌で捉えると、一際塩辛い味がした。
おもむろに顔を上げた。口元からはいつまでも唾液の糸が離れなかった。出しぬけに直腸を出し入れしていた爪も引き抜くと、プテラの腰が波打った。
「誰がフェラ抜きしてやるって言ったんだよ?」
「ぐっ……?!」
「さっきイッたくせに、贅沢コくなよなあ!」
既に股座から突き出していたアーケオス自身の雄棒をしゃにむに扱いて、しっかりと硬くさせた。
クッソ、何もかも全部たまんねえ。プテラの上体を持ち抱えると、そのまま仰向けにひっくり返した。体力の有り余っているときのアーケオスの馬鹿力は、かくとうタイプ顔負けだった。プテラの尾を掴んで引っ張り上げると、ゴム紐のように伸びる。つられて引っ張られた腰が浮き上がって下半身が宙ぶらりんになった。滑空のために骨の内側がスカスカになっているから、片手で事足りるほどに軽かった。おかしな体勢で半ば滑稽に宙を動き回る両脚の間から、勃起した長いペニスが心元なさそうに揺れている。
「なあ!」
アーケオスは呼びかけた。
「結局、して欲しいんだろ? 素直に言えって!」
「……何にもされたくねえ!」
しばし、性器を攻められるのが止んだことで、プテラは多少なりとも気持ちに余裕を取り戻しているようだった。
「強気なこと言っちゃって、本当お前って」
思わず口元を緩めながら、アーケオスは言った。所詮はこの俺に尻尾握られて、これからどうなるかなんてわかりきってるくせに、抵抗して、そのくせしてほしがってんだからなあ。
にんまりとしながらアーケオスは翼を振り下ろして、吊り上がった翼竜の尻肉を打った。
「んあっ!」
「聞き分けの悪いヤツはお仕置きしてやるよ!」
埃をはたき落とそうとでもするかのように、左右の引き締まった臀部をリズミカルに翼で打つと、すぐに灰色の肌が赤らんだ。恥ずかしがって頬を染めているかのようだった。
「いだっ!……おいっ! テメエ! ぜってー殺す! ひぎっ!……」
「はいはい、あと10回やるからなあ?」
「いい気になりやがって……いっ!」
アーケオスは周囲にはっきりと音が聞こえるように叩きながら10数えた。数える合間に肉をちょっとだけ爪でつねると、プテラの短い足が暴れてアーケオスの胸元を蹴飛ばそうと頑張っているのを、微笑ましく見ていた。
1、2、3、3、4、5、6、5、6、7、7、7、8、8、8、8、9、8、9、8、9……
「……10! ほら、どうだよ?」
「いっぎ……ぜっ……てめえ! 適当なことしやがって!
「ええ?!」
「……後でゼッテー殺してやる」
ぶつぶつと独り言ちるプテラの尻尾を予告なしに離すと、ダイレクトに腹を打って怯んだ隙にその細まったプテラの腰をがっちりと抱えて、さっきまでたっぷりと弄り、しっかりと打ちのめした尻に羽毛に塗れた腹をくっつけた。岩肌の表面の冷たさのあとに、ジワジワと体内から込み上げてくるプテラの体温が感じられた。
「はあ……プテラくんさぁ……」
ゆっくりと腰を揺らして戯けると、上反ったペニスが捲れ上がったプテラの尾と擦れ合って気持ちが良かった。少し冷ややかに感じられるのもかえって気持ちを唆られた。
「死ね、あとくん付けもやめろ……」
「いいじゃんいいじゃん、俺のこと大好きなくせに、照れんなよー」
「テメエが無理やり俺に迫ってくるだけだろがっ!」
「嘘つけよ」
血の流れが増してピンクがかった赤みを帯び出した臀部の肉を渾身の力を込めてぶっ叩くと、面白いように翼竜の腰が跳ねた。
「いつまで減らず口叩けるか……なあっ!」
爪で勢いよく押し開くと臀部の谷間から現れる縦割れにギュッと口を押し付ける。
「んうっ!……」
プテラのくぐもった声を聴きながら、舌先でアナルの縁の皺を執拗に舐めた。その微妙な凹凸の加減を舌で感じると、余計に自分の雄が頭をもたげた。普段は取り澄ましていても隠しきれそうにない雄を凝縮させたような癖になる臭いを嗅ぎながら、さらに舌を伸ばした。爪三本で弄ばれたばかりのアナルは、あっけなく舌を受け入れたので、四方八方に舌を巡らして、ありとあらゆるところを舐めずった。
「んふぅ!……んっ!……んぅぐっ」
弱いところを柔らかい舌で愛撫されて、プテラから甘ったるい声が漏れるのをアーケオスが聞き逃すはずもなかった。相変わらず上向いたままのペニスが臓器のように音を立てていた。頭の中はプテラのことでいっぱいだった。好きだ、可愛い、セックスしたい、ぶち犯したい、中出ししたい、ケツイキさせたい。
プテラからは早くも疲れたような息が漏れて、長い口先からは舌がはみ出し、かといってどうすればいいかもわからず、オドオドと雑草を舐めていた。舌にまとわりついた唾液がほっそりとした草に移り、その重みで草がゆっくりと横倒しになっていく。
「おい」
顔を離し、アーケオスは訊ねた。
「次、何して欲しい?」
「……」
「プテラ?」
「……」
「何して欲しいかって聞いてんじゃん、無視すんなってえ」
「……チッ」
「あっ、舌打ちしたな! だったら」
もう一度、俺の舌で堕としてやるかあ。元々弱いアーケオスのおつむではあったが、もはやまともなことを考えることはできなかった。今度は舌の筋肉がつりそうになるくらいに突っ張って、直腸からさらに奥へ侵入した。
「んはっ……ア、アーケっ……くっ、クッソ……てん……メえっ……!」
何か喚いているプテラのことなど構わず、舌の動きに集中する。目を瞑ると、舌とキュッキュと収縮を繰り返す内壁の絡み合いが感じられた。まるで、自分の意識がプテラのカラダの内側にあるような想像をし、妄想をした。いっそこの頭ぶち込んじまったら超ヤベエよな、とまともではない頭で考えていた。脳みそは空気を入れられたように膨れ上がっているように思えた。下手したらこのまま破裂してしまいそうだ。
「くっ!……んっ!……ぐぅ!……んっ!……んっ、んっ、うっ、うっ、うっ、うっ、ううっ!……」
執拗に尻の奥を責められているうちに、いつものことではあったが、プテラも考えることが面倒くさくなってきたのだった。考えようとしても、挿れられる若干の痛みを伴う窮屈さと、思わず惚けてしまうほどの排泄感が交互に、止まることなく続くので、思考は寸断され、その間隔も長引くようになると、しまいにはもう後ろのことで頭がいっぱいになっている自分に、相変わらず、不本意ながらも気づくのだった。
「くうっ!……ぎゅっ……きゅ、きゅううぅぅっ!……」
「おー、どした?」
いつものことだけど、ケツで善がってる時の声、ほんとこの世のもんとは思えないくらいエッッッッッッッッッロぉ……そうしたことはおくびにも出さず、アーケオスは言った。
「いっ……いぎっ……じゃい」
「んー? 何て?」
相変わらず舌を挿れながら適当に受け答えするアーケオスの言が苛立たしくももどかしかったが、痒いところにほんの僅かに届かない感覚がいつまでも続くのがたまらず、もう叫ばないではいられなかった。
「ち、チンポ、欲じっ!」
アーケオスはおもむろに顔を上げた。
「何、誰のチンポを何して欲しって?」
「お、お前のおっ!」
「俺の? 何を?」
「チンポほっ!」
「だから! チンポをどうして欲しいんだっつの! バカ!」
「チンポ、いっ、いっ……」
「んっと、素直じゃねえ奴!」
「ひぃぎっ!」
「舐めた口とケツしやがって! ほら、何してほしいかちゃんと言ってみろよ!」
「いぎゃ! いぎゃっ! ぎゃめっ! ぎょごっ!……」
「ほら? なんて?!」
「お前のっ……チ……チンポ……挿れで欲じっ!」
「どこにだよ!」
「ぎゅっ!……」
「ほら、もっかい!」
「お! お前のっ……チ……チンポ……俺の……マンコに゛っ……挿れで欲じっ!」
「敬語で言えや、このクソ翼竜め!」
「お前のチンポ俺のケツにぶっ込んでくりゃざいっ!……」
「ははあ……しょうがねえなあっ」
アーケオスは笑いを堪えそうになりながら、ゆっくりと自分の雄を扱いた。普段はあんな強面をして、いっそ俺のことをたびたび弱気にしてくるくせに、セックスするとなると途端に立場が逆転して、ここまで思うがままに扱えてしまうことにたまらなくゾクゾクしてくるのだった。
頬を染めたようなプテラの小賢しい尻が何か言いたげにおどおどと揺れている。
「わかってる、わかってるってのおっ!」
一切の屈託のない笑みを浮かべてアーケオスは翼竜の狼狽する尻に語りかけた。何もかもが面白く、ひどく気分を昂揚させていた。ついでにその割れ目を一舐めまでしてやった。
「ほんと……可愛すぎっ」
アーケオスの囁きが聞こえているのかいないのか、プテラは四つん這いの姿勢のまま、苦しげに、惚けたように、全身を重たげに上下させながら息していた。そんな臀部にめざましビンタを喰わらせ、腫れかかったところを爪で甘く引っ掻いてやると、尻が勝手に首を縦に振るのがたまらなかった。
「ふんっうぅ……!」
もはや下僕以下に成り下がったかのような嬌声をあげる情けない相棒の姿を憐れみつつも愛しく、アーケオスは股間から吊り下がった自分の雄を力強く扱き上げた。血管が剥き出しになるくらいに屹立したそれは、挿入時に入り口を掠めてひん曲がったりしないように根本を押さえつける必要もなさそうだった。アナルは「お」と発音する時のように大口を開けていた。
「挿れるぞ……カラダの力抜いとけよお」
そう言って、真っ黒な穴に狙いを定めて、相手が心の準備をするまもなく、腰を勢いよく前へ突き出した。
「ぐっ?!……ん……はう!……うぅ……」
熱々のペニスは笑ってしまいそうになるくらい簡単に奥まで挿入った。少しだけぐいと押し込んで、タバコの火を揉み消すように雁首を直腸の突き当たりにグリグリと押し付けると、プテラの口から、
「んぐぁぁぁっ……!」
と、絞り上げるような苦悶が漏れてくる。
尾を押しのけて、プテラの背中の上にぺったりと重なり合った。丸めた背中から浮き上がった脊椎が自分の腹に食い込んでコリコリと言うのが心地よかった。
「はあっ……プテラぁ」
腰を雑に前後させ、両爪を引き締まった胸や腹に微かに触れる程度にさすり回しながら、アーケオスは煮えたぎった思念の中で、爆発しそうなくらいに幸福でいた。
「気持ちいいか?」
「うっ……」
「気持ちいいかって聞いてんだろお?!」
「!!……気持ぢっ!」
蕩けた肛門の粘液が羽毛を濡らして、整髪剤を塗ったように固めていた。ゴワゴワした羽毛が接合部と擦れ合うと、っちゃ……っちゃ……とねばっこい音を立てるのがいかにも「掘っている」という感触がして、アーケオスはいつも興奮した。
「あークッソ気持ちっ!……お前のケツ……!」
腰の振りを速めた。愛する相手の中で肉棒が一際膨れ上がるのを感じた。今度は頸の微かな雄臭を嗅ぎながら、リズム良く腰を振った。そのうち自分のカラダの実在感が薄れてきて、文字通り俺はコイツと一体になったという錯覚を本気にするようになっていた。数千万年前もこんな風に俺たちはなっていたんだからな、とアーケオスは思った。そんで変わらずに俺はコイツのケツにチンポぶち込んでめちゃくちゃに腰振って犯して互いに気持ちよくなってんだ、言葉にしてみると馬鹿げてるし気持ち悪いけど、最高に嬉しくて気持ちよくって幸せでたまんねえ! ぶっ殺すぞ!
「いっつも言うけどさあ! 何が『空の王者』! だっつうの! ドラゴンポケモンのなりぞこないのくせにさっ! お前なんて、俺の、チンポで、陥落して、メス堕ちして、ケツでイッて、トコロテン? して、俺のモノになってればいいんだよ!……ほら、ほらっ!」
「ぐふああああっ!……イ゛っ!」
「おら、ケツでいっちまえよ、おら! クソザコプテラ!……」
「じゃめっ!……おふっ……イ……グっ! イグっ! イグイグイグイグっ!……」
雄として情けない姿勢のまま、プテラはガタガタと身を震わせた。紐で吊り下げられたかのように浮き上がる腰のあいだから、押さえる人のいなくなったホースのように肉棒がのたうち回って、押し出された精液が鳥ポケモンの糞のようにピュッ、ピュッ、と飛び出した。
「へへっ……!」
プテラの内壁が押し合いへし合いして、アーケオスの肉棒を絞り上げると、腑抜けた声が出てしまうほどに気持ちが良かった。頭に、股間に、瞬時に血が集まるような気がした。早くこいつの中で射精してやりてえ! という思いで頭がいっぱいになると同時に、メチャクチャに腰を振り、プテラのカラダに自分のカラダを釘のように何度も打ちつけた。
「おっ……おれもい!……っぐ!……ぅうううぅうううっぅぅぅぅぅぅっ!」
男根の半ば辺りに力を入れて充填された精液を放つと、たった一息でみずでっぽうのような勢いで排出された。前立腺を思い切り突かれたプテラが悶絶するまもなく、二発、三発、と白濁が注がれて、直腸に収まりきらなくなった分が、汚らしく唸りを立てる排泄音とともに、逆流し、接合部の僅かな隙間から漏れ出て、泡立ちながらプテラの腿やアーケオスのペニスや羽毛を伝って、地べたへ流れ落ちていった。
「あー……」
吐精しきった後の一仕事終えたような快い疲れを感じながら、アーケオスは腰を引いた。ペニスの抜けたプテラの肛門は呆然としたような表情をしながら、勢いよく中出しされた精液を唾のように吐き出した。足元は少しくすんだ白色で汚れ、独特のすえた臭いが辺り一面に立ち込めていた。何度となく目にしてきながら、その都度新鮮に思える光景だった。
まだよだれを垂らしているプテラの尻にアーケオスは舌を伸ばした。気だるげに、先っぽを器用にチロチロと動かしながら、窄んだ皺の味蕾を密着させて、細かな精液の汚れまで拭き取るようにした。普段よりだいぶ感度の高くなっているアナルは、舌でくすぐられるたびにピクピクと動くのが面白くて、アーケオスはいつまでもそれをしていたいとさえ思った。
尻を突き出したまま、プテラの上体は地べたにぺったりと突っ伏していた。なおも痙攣している爪の周りの草が毟り取られて、焦茶色の土が剥き出しになっている。
「んぐうっ……」
「……どうしたあ?」
「あ、あーけ、おす……」
「んー?」
甘ったるい相棒の声を聞くと、アーケオスは射精したばかりというのに、また胸が激しく鼓動していた。
「どうだ? 今日も気持ち良かったろー? 俺のチンポ!……」
プテラは黙っていた。その代わりに尻の筋肉がキュッキュッと収縮した。今更照れんなよ、と言う代わりに一発打ってやると、なかなかいい音が鳴った。それから態度を急変させて、いま打ったところをペロペロペロと舌で舐めてやった。
「んあっ……アーケ……っ……!」
「わーってるって、今日もチンポに負けず頑張ったなプ……」
いきなり、鞭のようなしなやかなものに横っ面を張られ、アーケオスはものの見事にぶっ飛んだ。横転し、狼狽して頬を押さえ悶絶していると、いきなり全身に重くのしかかってくるものがあった。
「アーケオス……アーケオス……!」
「あっ……あっ……」
「俺が何を言いてえか、わかっているよな……?」
「あっ……えっと……うん……はいっ……」
いまさっきプテラの尾に引っ叩かれただけで、たちまちにしてさっきまでのヤルキモノのような異常な勝ち気はどこかへ雲散霧消してしまい、瞳はひたすらに潤んで、涙が溢れていた。
さっきまであんなに雄か雌かもわからない喘ぎ声をあげていたプテラは豹変していた。表情の窺い知れない瞳は赤く不気味に輝いていて、アーケオスの羽毛の一本一本を戦慄させた。数千年前、数えきれない同族はこんな風に最期を迎えたんだろうな、と納得する恐ろしさだった。
「プ……プテラ」
「なんだ」
「す……すんませんでした、ホントに、タチできるからって調子乗りました、いや、ホントに……」
「で?」
「えっと、なんと言えばいいのか……」
「いいか、曲がりなりにもこういう仲とはいえ、オムスターの目の前だけじゃなく、もっかい俺を辱めようとはアーケオスのくせに、大した度胸だ」
「で、でもっ、そのっ、恐れ多いんですけどっ……!」
アーケオスは自信なさげに宣った。そのくせ宣った瞬間にはもう自分の言ったことを後悔する始末だった。
「こんなこと言うのは、もしかしたらフェアじゃないかもしんないけどっ、そのっ、えっと、ウケになるたびに可愛く喘ぐお前の方にも、そのっ、なんと言うかっ、問題がっ」
「ああっ?!」
渾身のもろはのずつきがアーケオスの脳天に炸裂し、意識が途切れそうになる。プテラは平然と弱るアーケオスは見下ろしている。反動を喰らって痛いはずなのに、全くそんな風を見せないのは端的に言って恐怖だった。
「おい」
プテラは言い放った。その言葉だけで氷河期がやってきそうにアーケオスには思われた。
「俺の恥ずかしい姿たっぷり拝んだ分、そっくり返してもらわないとフェアじゃない。そうだよな?」
「まったくもって、その通りです、はい……え……えへへっ……」
あちこちに泳がせていたアーケオスの目線が、やがて力強く突っ勃ったプテラの肉棒に留まる。さっき掘っていた時にトコロテンしたんじゃなかったのかと目を丸くしていると、無理くり顔にそれが押し付けられる。
「腹這いになれ、ケツ突き出せ、さっさとしろよ」
「あ、はいっ……」
言うがままの姿勢を取った直後に、間髪入れずにプテラの雄がぶち込まれた。それを必死に尻で頬張りながら、アーケオスは痛いやら気持ちいいやらで、悲しくて泣いているのか嬉しくて泣いているのかわからないほどだった。
「今日は寝られないと思え、この阿呆が」
「はいっ・
二匹の交尾はいつもこのような風であったが、それでいて吐き出すものを吐き出して、すっかり疲れ切って眠ってしまえば、後腐れもなく、また翌日には同じことを繰り返しているのだった。……
あとがき
新作があるのはいい……けど、なぜ4年前に書いたものをわざわざ上げるのか?
そんな大それた理由があるわけでもなく、夏にΨycho!というのを投稿したとき、ちょい役でプテラとアーケオスのコンビを登場させてみたら、久々にこの二匹で何かエロいものを書いてみてもいいかと思って、新しく書いてみた。どうせなら、過去に書いたものはwikiにアップしていなかったから、この機会に投稿しておくのも悪くないな、というその程度のことだったのでした。
初期のアケプテ小話を書いたのは2020年初頭、自分がようやっとインターネットで小説を公開し始めたころのことで、振り返ればとても懐かしく思えてきます。
この4年間の変化というのは小さくなく、例えば『それもまた、世界の終わり』で頻出する所謂「♡喘ぎ」は、今では全くしなくなっています。ざっと読み返してみましたが、こんなに「♡」を使っていたとは……
『RE:アケプテ小話』では、久々に最初から最後まで性欲を丸出しにしてそれで終わる文章を書きましたが、4年前とは性描写に対する心境が変わったのか、だいぶ書いてる時の感触は違っていました。とはいえこの辺は、悪くも良くもですね。
『それもまた、世界の終わり』について覚えていること。読めばわかる通り、展開によってアーケオスとプテラどちらが優位になるかで話が分岐しているんですが、書いていた当初はもっと雄大な構想をしていた気がします。最後のchapter6がわりとあっさりめに終わっているところは、細かなところは覚えていないんですけれど、妥協でこのような形にしたのだと思います。この頃は、妥協するところはそんなに書き込まずにサラッと流して済ましてしまう思い切りが良かったなと思います。これは今とは確実に違うところかと思います(それに新作のアケプテのカップルが過去作の彼らと同一たりえているのか、どうか)。僕は書けば書くほど完璧主義に陥るきらいがあるようです。
ともかく、まだこれらの作品を読んだことがないというのであれば、ご覧いただければ幸いなのです。プテラとアーケオスのコンビはもっと書かれて描かれていいはずなので……!
作品の感想やご指摘はこちらかツイ垢 へどうぞ
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