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【31】夏禍の豹剣 の履歴(No.1)


【31】夏禍の豹剣

たつおか




 この作品には以下の要素が含まれます。


【登場ポケモン】  
パオジアン(♀)・ヒスイガーディ(♂)
【ジャンル】    
逆レ・バトル・憑依・ポケモン同士
【カップリング】  
少女(中身パオジアン) ×ヒスイガーディ(♂)
ヒスイガーディ(♂)×パオジアン(♀)
【話のノリ】    
ノーマル・暴力描写






目次




第1話・奇禍の封抜



 近年に無い猛暑に苛まれたその夏──ツェン家の一子であるリンと、その眷属(パートナー)であるヒスイガーディは同家の地下深くに在った。

 古来より此処には『凍裂』なる厄災が封じられているとの伝承が在り、リンのツェン家はその監視役となって封印の守人を務めてきたという由来を持つ。
 一族にとってこの場所は禁忌の地であると同時にしかし、季節の折り目には多種多様の儀式も執り行われる聖地的な役割もまた果たしてきた場所であった。

 当然のことながら斯様な場所へ軽々しく足を運ぶなどは、厳格に禁じられてきたことではあったがこの日──あまりの暑さに耐えかねたリンは、ガーディを伴わせては密かに此処を訪れていた。

「はわ~……ほらねー? やっぱりここ涼しいんだー♪」

 地下三階、そしてここへ至るまで三重の扉を経て隔離された此処は常に冬の如き冷気を満たしていた。
 隙間なく敷き詰められた石畳と同じくに石積みで作られた正方形の石室は、入り口から突き当りまでの到達に大人の足でも数分を要する広さであり、その天井にあっても懐中電灯の光が広く拡散されてしまうほどの高さを誇っていた。
 さながら屋内運動施設といった趣すらある此処は、この夏の酷暑の中にあっても厳冬の如き静謐さをそこに保っている。

 この場所における稀有な室温のことを知るリンは浅はかにも避暑の目的で此処を訪れていたが、それに随行したガーディは気忙しげに周囲へ視線を巡らせては幾度となく主人へと帰還を促していた。

 ポケモン特有の鋭敏な感知能力は、一目にしてこの部屋の持つ異常性を察知していた。
 その気配は既にこの地下への石段を下り始めていた頃から感じていたものであり、此処へ至るまでの扉と石室を通過するごとに深まっていった斯様な違和感は、この部屋においてついに確信へと変わった。

 何者かが──此処には居る。

 そもそも代々に受け継がれてきた『封印の守人』なる役割は、けっして前時代的な儀礼などではない。
 古来より受け継がれてきた数々の儀式はその全てに意味があり、そしてそれを折り目正しく執り行う理由こそは、文字通りにここに封印された『何者か』を慰める為の物であったのだ。

 そのことを本能的に察したガーディは、斯様な場所からの退去を再度主人へと進言するも……一方のリンはといえば、一人臆することなく部屋の中を進んでいってしまう。
 やがては突き当りまで辿り着き、そこにて壁面に描かれたそれを目の当たりにし、小さなリンはそれを見上げた。

 中央に眼球のような二重螺旋を置き、そして上下左右に対称となる直線を幾何学模様に配したそれは、その周囲が丸く縁どられた意匠からもリンには巨大なモンスターボールの様に見受けられた。
 強い警告を意味するかのよう発色鮮やかな黄金で描かれたそれは、さながら紋様自身が発光しているかのような錯覚に陥る。

 そんな紋章めいた壁画を前にして、

「なんだろうねコレ……すごくキレイ……」

 さながら宵闇を彷徨っていた羽虫が電光へ惹きつけられるかのよう、リンは茫然自失とそこへ近づいていく。
 一方でそれを目の当たりにしたガーディはそんなリンのワンピースの裾を噛んでは必死に引き留めようとする。

 ガーディにとって眼前の紋様は、凶事の先触れ以外の何物でもなかった。
 この紋様と対峙する時に覚える恐怖は、さながらに雪崩を目の前にしたかの如き圧倒的な絶望感を以てガーディの心臓ワシ掴んでいた。
 ついには後ろ足だけで立ち上がると、その前足でリンの背中を抱いては引き止めようとも試みるも──リンは子供とは思えぬ力強さで其処へと歩み続ける。

 やがては紋様の前に立ち尽くすリンへ新たな変化が現れた。
 其れはもとより其処へ在ったものか、あるいはリンを招き入れた何者かが用意したものか──彼女の目の前にはその胸元ほどの高さの『杭』が一本、同じくに黄金の輝きを放っては屹立していた。

 その先端に傘を思わせる角度なだらかな三角錐の設けられたそれは、その頂点にまるで手を掛けることを誘うかのような円環が置かれていた。
 そしてリンはその思惑を辿るかのよう、そこへ両手を被せる。

 その行動にガーディは一際大きな声を上げた。
 もはや威嚇とも取れる剣幕で無礼に吠え立てるも、今やそれらガーディの声すらもリンには遠い。
 猫のよう胸の前で水平に両手を揃えては円環を握りしめるや次の瞬間──リンは難なくそれを石畳の足元から抜き取ってしまうのだった。

 年月を思わせるその黒く重厚な杭はしかし、重量や摩擦といった一切の物理法則にとらわれぬ動きを見せてはスムーズに抜き去られ、土中に埋もれていた筒身を外気に晒すやたちどころに灰塵と化しては消え失せる。

 そしてそれと時を同じくして、眼前の紋様にも変化が現れた。

 足元を鳴動させつつそこへ光を帯びると共に、平面であったはずの壁面は紋様を湾曲させながら立体的にその身を盛り上がらせ始める。
 見る間にそれは半球状にせり出してきてはやがて、その淵を一際強く発光させるや次の瞬間──浮き上がるかのよう壁から剥がれ落ち、その内部に秘めていたものを一同の前へと晒した。

 もはやこの段に至ってはガーディもまた、袖手傍観して変わらずにその光景を見守り続けるしか出来ない。
 斯様にして露とされたそこには……洞が一つ、穿たれていた。

 この暗がりの地下よりも更に闇深いその中より、この深淵を包み込む冷気よりも更に悍ましい気配が溢れ出流る。
 そこに封印されていたものが今、この世に放たれてしまったことをガーディは確信した。
 此処に何が封じられているのかなど見当はつかなくとも、それがけっしてこの世に在ってはならない存在のモノであることは、古来より引き継がれてきた本能が知識以上の確実さを以てガーディに教えるのだ。

 現世へと漏れ出した気配はやがて、そのモノの鳴き声とも瘴気の渦巻く風の音(ね)ともつかぬ音を周囲へと響かせる。

 それは呪詛だった──。
 曰くある言語においては切断を意味し、またある言語においては慈悲無き殺戮を意味するその言霊……それらにまつわる凶事は、全てこのモノの声に由来しているのだ。

 瞬く間にその気配は石室を覆いつくす。
 さながらに陽が雲に陰るかのよう急速に、そして液体のよう侵食しては石室内を包み込みやがて──それは誰でもないリンへと収束を始めた。

「あ、あ、あああ………」

 既にあの杭を引き抜いた時から心ここにあらずであったリンの表情は、一層に色を失くし、ただ無表情にそれが幼き肉体と心の器を満たす感覚にうわごとを上げる。
 その時になって初めてガーディは我に返った。
 場に満ちる邪悪の根源はいま、リンの全てを喰らいつくそうとしている。
 出遅れてしまったことの後悔を噛みしめながら、それでも彼女を少しでもこの場から遠ざけようと再びリンの背後へと駆け寄ったその瞬間──閃光の如き速力を以て身を翻したリンの右掌が、裏拳を以てして激しくガーディの鼻先を打ち弾いた。

 突然の一撃に打ち払われては、激しく地に身を擦り付けてもんどりうつガーディ。
 そうしてうつ伏せに身を横たえたまま、しばしガーディは身動きとることも叶わなかった。
 誰でもないリンに暴力を振るわれたことへショックからそうなっているのではない──ガーディを行動不能にまで陥らせてしまった理由こそは、単純に彼の需要量を越えるダメージの大きさに所以する。
 あの細身の少女から放たれたものとは思えぬ破壊力の直撃を受け、ガーディは一撃の元にノックダウンを余儀なくされたのだ。

 それでも震える頭を辛うじて持ち上げては、揺れ続ける視界の中にリンを捉える。
 ガーディを打ち払った姿勢のまま振り切った右手を宙空に留めた姿勢で、リンは依然そこに立ち尽くしていた。
 完全に拳は握らず、指々の第二関節までを曲げて掌は解放させたその形は、さながらに猫科獣の蹠(あしうら)を思わせるような形に握られていた。

 やがてはゆらりと頭が持ち上がり、その重さにバランスを崩しながらリンは振り返る。
 切りそろえた前髪の隙間から覗く眼球は従来の白目が暗青色に反転し、その中央に切り込まれた白き瞳孔を以てガーディを捉える。

『あれから……幾星霜を、数えた事か……』

 発せられる声は明らかにリンの物ではない。
 それはまだ自由の利かない体を油の切れた機械のよう途切れ途切れに動かしてはガーディへと向き直る。

『西領では……あの女狐と青二才に……まんまとしてやられた……そして惨めにも封じられ……妾は今此処に居(お)る………』

 己が境遇を語り聞かせるとも独り言つともつかない口調で呟きながら、リンは前傾に背を沈め、両肘を腰に付けた。
 そして僅かばかりに肘から先の両腕を左右へ展開させると、その掌は再び蹠の形へと象られる。

『西領より引き離されはしたが……未だ妾の膂力は健在よ………その証明を、この者の一族の血と引き換えに証てみせようぞ……』

 元の端正であどけなかった面影など微塵も感じさせぬ面相で眉間に険を込めると次の瞬間──天に向けた左右の掌より、それぞれに黒き刀身が皮膚を突き破っては出現した。
 その切っ先に氷刃を宿し、稲光を思わせる刃紋を纏わせた漆黒の刀身……それを宙空にて擦り合わせ、不快な金属音を奏でては左右へと振り払うと……──

『妾は豹剣(パオジアン)──四災が『凍裂』の一柱』


 その名乗りと共に厄災パオジアンは、改めてガーディを見据える。

『まずはこの身の慣らしと……そして幾星霜にも渡る封印の憂さを、お前の血肉で贖ってもらおうか!』


 その口上が終えるともつかぬうちにパオジアンは──猛々しくも飢えた獣の如くにガーディへと打懸るのだった。



第2話・奈落の贄殿


 
 パオジアンと刃を交えるに際し、ガーディは寄り代となっているリンの肉体を傷つけまいと配慮しては、少なからずの手心を加える思惑でこの戦いへと挑んだ。
 しかしながら、それこそは取るに足りない気遣いであったことに……即ちは自身の自惚れを思い知らされる結果となった。


 初手において、自身の得意とするスピードにおいて撹乱すべく、ガーディはパオジアンの周囲を電光石火のフットワークにて翻弄した。

 テールランプのごとき赤い残像の帯を引きながら縦横無尽に標的を囲い混むこの戦法は一族内における訓練や、はたまた外部でのポケモンバトルにおいてさえ攻略されたことはないガーディの必勝パターンとも言うべき布石の一手ではあったが──その中央で微動だにしなかったパオジアンがある時、

『あなやぁ………』

 場違いにも嗤いを浮かべた。
 そうして次の瞬間にはフットワークの中央に捉えていたパオジアンが、突如として消え失せる。
 その動きにガーディもまた目を見張るとその姿を探す。
 動体視力に優れたガーディの目は即座に自身の前方にリンの……今となってはその体を憑き奪ったパオジアンの背を発見した。
 どうやら相手もまたガーディとのスピード勝負に打って出たらしい。

 その意図を計ると、ガーディもまたスピードを上げた。
 見たところ自分の方が速力には勝る自負があった。ならばこのまま一息に決めてしまおうと、更なる力を滾らせては四肢をしならせたガーディではあったが……そこに彼は思わぬ違和感を覚えた。

 僅か前方に捕らえているパオジアンとの距離が一向に縮まらない。
 ならばと思いさらに全身のバネを俊敏にさせるも、二匹の距離はその一時わずかに縮まるばかりでまたすぐに引き離された。
 やがては追いかけるパオジアンの背が僅かずつに遠ざかっていく。
 そしてその距離は半周ほどに離れては疾走するパオジアンを横目に捉え、さらに数瞬後には──一変して背後からパオジアンに追走される展開へと状況は変化していた。

 この時になり、ようやくにガーディも気付く。
 彼のパオジアンは俊足自慢の自分を遥かに凌ぐ速力を持っていたことを。

 高速のその世界の中において、やがては左隣に追いつかれてしまうと二匹は並走する形で肩を並べた。
 この一事からも分かることはパオジアンは自身よりも速力に劣るガーディを隣にして、その優越感に浸っているという事実……そして存分にそれを愉しみ、さらにはガーディの狼狽ぶりを存分に愛でた後、

『キルキルキル……愚鈍めぇ』

 横並びで目の合ったパオジオンの貌が……よく知るリンの口角が、目尻に触れ合わんばかりに吊り上がった次の瞬間──さながら爆発するかの如き衝撃が鼻先に炸裂した。

 その一撃に地にへばりついていた蹠が離れると、ガーディは突風に弾かれるが如く宙を錐揉みしては、壁面の一角へと叩き込まれる。
 斯様なガーディを打ち込まれた壁面は、彼の質量のみならずガーディが纏ってきた衝撃波もまた受け止めては、大きく半球状に崩壊してその瓦礫を宙へと舞わせた。

 倒れ込むガーディの頭上に崩れた瓦礫が舞い落ちるも即座に起き上がり、辛うじて前傾姿勢に身を沈めた構えを取り直すもしかし……もはやそれらは本能で行われているだけであり、ガーディの意識は遠く脳や肉体から離れた場所にあった。

 朦朧とする意識はそれでも現状を把握しようと回転するあまり、つい先ほどの攻防を記憶の中へと再生させる。

 パオジアンが自分を追い抜いた直後、繰り出された右裏拳がガーディの鼻頭へと炸裂していた。
 それにより体幹が崩されたガーディは、自身が纏っていた高速の衝撃に飲み込まれそこから弾き飛ばされては今に至っていた。
 そして斯様な状況分析は同時に、この聡明なガーディへ一つの答えを導き出すに至った。

 自分如きの実力では、けっしてこのパオジアンを討伐することは叶わない──

 それに気付いては、場違いにも戦い始めにリンの身を案じた自身を自嘲した。焦りや闘争心すらをも失わせるほどに、彼我の戦力差は圧倒的であったのだ。
 
 そうこうするうちに、視界の先に遠くパオジアンの姿が見えていた。
 今あの高速世界から降り立ったものか、あるいはもっと早くにあの場所にいて朦朧とするガーディを眺めては愉悦に入っていたものか……ともあれしかし、まだ終わりではない。

 もはやこの戦いにおける勝敗に自身の命の有無は関係なかった。
 是が非でも、たとえこの身に代えてもガーディはパオジアンを此処より地上へと出してしまう訳にはいかないのだ。

 その決意が再び気力を呼び覚まし、そして僅かばかりでも休憩を取れたことで肉体に感覚を取り戻したガーディは──今一度大きく咆哮を上げては再び、前方のパオジアンへと地を蹴った。

『おぉ、おぉ……愛(う)い愛い……好(よ)き仔犬じゃあ』

 傷つき、心身の負傷に震えながらも気力を奮い起こすガーディの姿は思いもよらずパオジアンの胸を打った。
 さりとてそれは生命賛歌への感動には程遠く、対象を自分よりも一段下の存在として見下すが故の憐れみと、そして愉悦からの感心である。

 一方で後の無いガーディは持てる己の全てを以てパオジアンへと当たった。
 従来は丸みを帯びた鬣の毛先が鋭く毛羽立つほどに体内の炎を燃焼させては、そこから濁流の如き巨大さの火炎放射を吐きつける。
 瞬時に炎柱にまとわりつく空気を吸い込んでは、取り巻く周囲の大気を熱波に変えてパオジアンに迫るそれ。

 しかしながら我が身の数倍を誇るその炎を前にしてもパオジアンは動じない。口元には蔑みの笑みを残したままである。
 そしていよいよ以てそれを直前に控えるや、

『キルキルキル……裏を取ったつもりかえ?』

 突如として正面に据えられていたパオジアンの視線が右へと走った──そこにはこの火炎放射に並走して迫りくるガーディの火炎車が見えていた。
 先の火炎放射は威嚇であると同時に足止めであり、本命はこの火炎車だ。
 火炎放射を受け止めるならばそれに追従して追い打ちをかけ、躱そうものならば無防備なそこへ全力の火炎車を打ち込むのがガーディの戦術であった。

 そしてその二択を前にパオジアンは──空へと舞い上がった。
『躱した』のだ。

 そこへとガーディは追撃する。あとは全力でぶつかるのみ。
 一方のパオジオンもまた、体勢の制御が利かぬ宙空とあっては迫りくる火炎車を避ける術もない。
 飛翔した時のままの片膝を上げた無防備な姿勢のパオジアンへと、ガーディもまた咆哮一閃とばかりに火炎車の飛翔を敢行したその瞬間──

『うつけめぇ………』

 突如として、パオジアンの姿が消えた。
 その瞬間をガーディの目もまた追っていた。
 宙空において両膝を畳んで身を丸めるや、パオジアンは両掌から突出していた剣の剣脊に両足を置いた。そしてその両剣を手の平から分離させると同時──それを足場にして今度は地上へと跳躍を果たしたのだ。

 これにより完全にガーディの攻撃は目論見を失った形となる。
 しかしながら──この瞬間こそが、ガーディの戦術における盤上逆転の一手であった。
 
 宙において丸みを帯びてガーディを包み込んでいた炎が一変して尖鋭的なフォルムへとその形態を変える。
 そしてその切っ先を、まるで弓の狙いを定めるかのよう下降中のパオジアンへ定めるや次の瞬間──再び石室の空気を焼き貫いては、ガーディはフレアドライブによる強襲を敢行した。

『あなやッ────!』

 それを前に、この日初めてパオジアンの表情から哂いが消えた。
 高速で迫りくるそれに対し、再び両掌から刃を生み出しては防御に当てようとするも──もはやその再生すら待たずにガーディは乾坤一擲の体当たりをパオジアンへと炸裂させた。

 激しく自身の身を打ち当てたまま、双方は地の石畳へと衝突しては周囲にガーディの炎を爆発飛散させた。
 赤く熱を持った爆心地は大きくその地表を削り取り、周囲には飛び散った炎の残滓と黒煙とが立ち上がる。
 そして斯様な煙の暗幕の中、足元の炎に照らされた影が一つ……ゆらりと立ち上がった。
 
 しばし影法師は茫然と足元を見つめた。
 やがて黒煙の薄れゆくその下から現れた者は……──

『キルキルキル……まこと、好い狗じゃあ』

 その頬の一部を僅かに煤けさせたパオジアンであった。
 そうして完全に黒煙の晴れたそこに現れた光景は──その鼻先をパオジアンの右掌でワシ掴まれては地表に叩きつけられた姿のガーディが、力なく瓦礫の中心で横たわるばかりだった。

 完全に意表を突いたあの瞬間においても、やはりパオジアンの膂力が勝った。
 宙空でガーディを受け止めたパオジアンは、力任せに身を翻しては、受け止めたガーディを勢いそのままに石畳ヘと叩きつけたのである。

 押さえつけていたパオジアンの掌が離れてもガーディは微動だにしなかった。
 もっとも肉体を取り巻く炎はその勢いこそ衰えさせつつも消えていない様子から、辛うじて一命はとりとめているようではある。
 がしかし……それとても詮の無いことだ。
 もはやガーディは尾の一振りとして動かすことは叶わなかった。

 おそらくはこのまま死に至ることだろう。
 仰向けのまま微動だにしないガーディにもしかし──その時、ある肉体の変化が起きた。
 こともあろう天に向けられた股間の毛並みの中から薇(ゼンマイ)の如きにゆるりと鎌首を持ち上げながら……勃起してきたガーディのペニスが硬く屹立したのであった。

 それを目の当たりにし──爆発するようなパオジアンの笑い声が周囲に響き渡った。
 文字通りに腹を抱えては身を屈め、死に瀕した生物が見せる生存本能の生理現象をパオジアンは心底から憐れに感じては込み上がる嘲笑を抑えきれなかった。

 しばしそうして笑いつくした後、何を思ったかパオジアンは依然仰向けになったままのガーディへと鼻先を突き付ける。

『憐れな仔犬ヨ……ならば、死ぬ往くお前に妾からの手向けじゃ』

 語り掛けながら自身のワンピースの胸元を両手でワシ掴むや、パオジアンは身に着けていたそれを左右に千切り剝いだ。
 ワンピースとその下に纏っていたスリップの残骸が宙に散らされては、そこに残っていた炎の残滓に浸食されて灰燼と化す。

 乳房の膨らみなど微塵も無い、僅かにアバラの浮いた胸元と白く起伏の無い腹部を晒しては、その股間を覆っていた最後の下着の一枚もまたパオジアンは剥ぎ取って捨てる。
 体毛の一本も生えそろっていなければ、おおよそ排尿にしか使われてこなかったであろう尻の割れ目と同化した膣のスリットを露出させては、パオジアンはガーディを足の間に跨いだ。

 そうして両膝を曲げて腿を水平にすると、その犬型ポケモン特有の先細ったペニスの先端を下ろした膣のスリットになぞらせては刺激を与えつつ……

『今日までこの者に仕えてきた褒美じゃ……』

 折った膝の上に右ひじを乗せては頬杖をつくと、そう傲慢に吐き捨ててはパオジアンはガーディを見下ろした。
 斯様な状況には、その意識を朦朧とさせていたガーディもまた我に返り必死の抵抗を試みる。
 無駄な抵抗と知りつつも身を捩じらせれば、皮肉にもペニスはパオジアンの膣の溝を解しては、一層にその内部へと先端を潜り込ませてしまった。

『キルキルキル……おぉ、こそばいこそばい。焦るでない……待てぬというのなら叶えてやろう』

 改めて身を起こすや、パオジアンは肩をいからせて両手を膝頭に被せる。
 そうしてその瞬間を恐怖に慄く眼差しで見つめてくるガーディを射竦めながら次の瞬間──


『この娘の純潔………しかと味わうがいい』
 

 一切の躊躇もなくパオジアンは、ガーディのペニスを幼きリンの膣内へと挿入させてしまうのだった。



第3話・豹姫の賜宴



 潤滑のされていない狭所の膣へと、同じくに表皮の乾いたぺニスが挿入されると──切っ先は膣壁に突き立っては無惨にその筒身をひしゃげさせた。
 その痛みに頭を仰け反らせては短い悲鳴を発するガーディを尻の下に、

『おぉ、おぉ……こそばゆいこそばゆい。この娘も難儀よのう。人の身とあらば耐え難いて』

 さも他人事といった体でその反応を楽しむパオジアンに敷かれつつ、ガーディは思わせ振りなその言葉の意味を視線にて問いかけた。
 それを受け、一層にパオジアンの下瞼が愉悦に歪む。

『キルキルキル……分からぬか? この娘の意識は、始まりから今に至るまで明瞭よ』

 そして告げられる事実に──ガーディは愕然とした。
 いかにこの凶獣へ対応する為とはいえ主に牙を剥いた今までの無礼の数々……それらはリンの意識がそこに存在していないと思うからこその行動であったのだ。
 しかしそれらが全てリンの知るところであったことを聞かされた瞬間、ガーディは肉体のダメージ以上に魂が疲弊するのを感じた。

『妾が肉体の主導権を握る傍らで、こやつは幾度となくお前の身を案じておったぞ?』

 それに気付いてか……否、端から斯様なガーディの困惑と葛藤など見通していたパオジアンは、愉悦としてそれを観察していたのだった。

 そしてガーディの上、蹲踞に折り畳んだ両膝を開帳しては、櫓をこぐかのように腰元をスウィングさせて無理矢理にそのぺニスを根本まで納めた。
 仔犬型のモノとはいえ、その全てを飲み込んだリンの小さな膣口は限界まで広がり、ついにはその縁からは破瓜の鮮血を溢れさせるに至る。
 
『それそれ小娘よ……お前ももっと、この仔犬を楽しませんか』

 それを見留めてはさらに激しく上下の腰の動きも加えるパオジアン──硬く屹立したぺニスが膣壁を内部から突きえぐいては下腹にその陰影を浮き上がらせると同時、内から突き上げられたヘソの中身が挿入ごとに外部へと押し出されては腹部にコブを浮き上がらせる。

 リンの肉体もその無遠慮な痛みの刺激に激しく失禁しては、ガーディの下腹へ排尿の飛沫を撒き散らした。
 哂いに歪むパオジアンの──そんなリンの目尻からは涙が止めどなく溢れ、それこそは彼女の意識が明瞭にそこに存在する何よりもの証だった。

 それを目の当たりにし、ガーディもまた高くか細い声を切なげに上げては涙に暮れる。
 主を傷つけてしまったことの謝罪と、そしてこの理不尽極まる状況を嘆く弱々しいものだ。
 そこにはもう、今しがたまで刃を交わした戦士の姿は微塵も無い……ただ戦いに敗れた敗者が、勝者の特権である陵辱の限りを尽くされては為す術もなく蹂躙されるのみである。

『キル……キルキルキル! これよ……これぞ至高の愉悦……この瞬間に勝る快楽などありはしない』

 一方のパオジアンもまたピストンを不規則にさせては、より一層にこの快感を貪ろうと躍起になる。
 斯様な興奮を反映してか、先の戦いにおいて息一つ切らせなかったパオジアンの額や背中には珠のような汗が浮いては、周囲に燻る炎の残滓に反射して鈍い煌めきを返す。

 体重に任せて腰を打ち落とせば、自身の尻とガーディの腰元で撃ち挟まれた鮮血が飛沫となって飛散し、膣そこから生じる激痛を物語るよう、斯様な着地のたびに吹き上がる尿がガーディの体を濡らす。
 それでも膣内に満ちる破瓜の血糊とガーディのペニスから滲んできた腺液で、徐々に挿入の往復がスムーズになってくると、いよいよ以てパオジアンは騎乗位でのピストンを激化させた。

『キルキルキル! キルキルキルキル! 苦しめ! 永きに渡り妾をこのような場所へ封じ込めた一族とそのポケモンよ! 妾の屈辱と堅忍の年月に比ぶればこの程度、痛みの内にも及ばぬわ!』

 依然として腰を打ち付けつつ、パオジアンは左掌を天に掲げるやそこへ再び漆黒の刀身を生じさせる。
 そして手のひらを返し、玉露を浮かべた氷の切っ先を組み敷くガーディの腹へと宛がうとまるで児戯の落書きの如くにそこを切り刻み始めた。

 致命傷には至らぬ浅いそれでもしかし、そこに生じる焼けるような痛みに身悶えてはガーディものたうち、残り僅かな生命を燃焼させるかのよう苦し紛れに背の炎を吹き上がらせる。
 
『キルキルキルッ! キルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキル‼』

 騎乗位のまま頭を仰け反らせ、その幼くも繊細であったリンの顔をこれ以上になく醜く歪ませては力の限りに哂うパオジアン──そして斯様な復讐劇のフィナーレもまた近づいてきていた。

 ふいにガーディが小刻みに腰を痙攣させ始めると、仰向けに地へ着けていた尻を左右へと激しく擦り付け始める。
 今ガーディの身に起きている感覚は場違いの排尿感に他ならない。
 なぜその感覚が今になって起きるのか困惑するガーディを余所に、

『おぉ、おぉ……仔犬よォ、もう辛抱堪らんか?』

 さんざんにガーディの内面を切り裂いたパオジアンが窺うように身を屈めては鼻先を寄せた。

『いかに愚劣で低能の動物とはいえ、繁殖の理は知っておろう……?』

 依然としてガーディの目を見つめたまま、冷水を滴らせた剣の切っ先で下腹をなぞる。

『今の身の震えは、お前の一物から子種が吐き出される前兆よ。それがこの娘の胎内(はら)へと侵入し、子の成る宮へと注がれれば……それにてこの娘は懐妊する』

 性の知識などは微塵として持ち合わせてはいない幼きガーディであっても、パオジオンから諭されるその意味、そして神聖さは本能を通じて理解さらしめるものがあった。
 だからこそ一層に身をよじり、組み敷かれた尻の下から離れようとガーディは躍起になる。

 その禁だけは破ってはならない。
 自身を卑下する訳ではないが、自分の汚れた精などを慕ってやまないリンの胎内へと吐き出してしまう訳にはいかなかった。
 そしてそんなガーディの忠義と健気さは、

『キルキルキル! あな愛(いと)しや、あな愛(う)いやぁ! 先にも申したであろう? これは褒美じゃ……存分に、お前の汚れた精虫をこの幼き肉壺へと吐き出すがいい‼』

 この段に至ってパオジアンの興奮を最高潮にまで熱し上げた。
 右の掌を以てガーディの鼻頭を覆い地へ後頭を押し付けると、その一切の肉体の自由を奪う。
 そうしてもはや一片の抵抗すらもガーディが返せない状態へ彼を束縛すると、尻を鞭のようしならせては上下の律動へ躍起になる。

『うふォ……ッふォおお……果てるッ。穢らわしい狗の一物を、仇の小娘の肉壺で苛んで果てるゥ……!』

 呼吸も荒く、溶け出すかのよう全身から汗を噴き出させては、借り物であるリンの幼い肉体へ到来する初の絶頂の相伴にあやかってパオジアンも苦しげに眉をひそめた。
 そして一際強く腰を打ち付け、睾丸もろともにガーディのぺニスを子宮口で敷き潰した瞬間──

『ンォホォオオオオオオオオオオオォォッッッッ!!』

 つい先刻までの貴人然とした振るまいなどかなぐり捨てては獣声を上げ、パオジアンは絶頂を迎えた。
 それとほぼ時を同じくして、ガーディもまた初となる射精を慈悲もなくリンの胎内で果たしては──仰向けに喉を反らし全身を痙攣させる。

 初精であることに加え今の状況とあっては、ガーディにとっての射精は快感と程遠い感覚であった。
 ただ排泄の器官から吐き出されるそれが、心身の両面をもってリンを汚してしまっている事実に滂沱するばかりだ。

 それでもしかし若く頑強なガーディの肉体は放尿のごとくに射精を続け、一方でリンの子宮もまた生殖の本能を刺激されては、幾度となく膣を蠕動させてそのぺニスから精液を絞り上げた。

 やがてはガーディからの精の放出が終わり、本来ならば神聖であるはずだった全ての儀式が終わると……パオジアンは両膝頭に手の平を被せては、引き抜くようにして身を起こす。
 そうして膝立ちになりながらガーディの鼻先へ股座を寄せると、

『ほぅれ……しかと見よ。貴様の罪の証だ』

 恥丘の両脇に指先を添え、そこから左右へと膣を展開しては陵辱の限りを尽くされた内部をガーディの眼前に晒す。
 破瓜の鮮血がガーディの精液に撹拌されて色を薄めたそれは、さながらに桜の花をそこへ散らすかのよう膣口から桃色の残滓を溢れださせていた。
 
 それを確認するや、ガーディは一切の躊躇いもなくそこへ舌を這わし、償いとリンへの慈しみを表さんとばかりに舐め尽くしては誠実に後戯を施す。

『キルキルキル! 憐れよお! 惨めよのう! 共に畜生道へと堕ちた気分はどうじゃ!?』

 一方でそれを受けるパオジアンは、依然として呼吸(いき)を荒らげながら声の限りに嗤い、そして二人を蔑んだ。
 やがてはそんな嘲笑にも一区切りをつけると、

『ふん……もはやお前らで遊ぶのも飽いてきたわ。共にその首、掻き切ってくれる』

 遂に一連の凶事を終わらせるべくにパオジアンは左掌を天へと掲げる。
 そうしてそこへ氷剣を発生させ、それにて全ての終わりを告げようとしたその時──

『うぬッ……な、なんじゃ……?』

 パオジアンにとって予期せぬことが起こった。

『つ、剣(つるぎ)が………!?』

 掲げる手の平にはとめどもなく流水が溢れるばかりで、パオジアンの氷剣は辛うじてその切っ先のみが現れるばかりであった。

 同時に己の身の異変にも気付く。

 とうに閨事の熱も興奮も過ぎ去ったはずの肉体は依然として滝のような汗を噴出させ、いつまでもパオジアンの呼吸を息苦しくさせていた。
 いかに人の体を寄り代としているとはいえ、氷の化身たるパオジアンにとって今の状態は異常事態といっても過言ではない。

 そんな折り、ただ困惑もしきりであったパオジアンはふと──己へと向けられる意識を察知する。
 この状況とあっては、その主は一人しかいない。
 パオジアンはその者へ視軸を転じるとやがて、咬牙切歯に呪詛を絞り出す。 
 見下ろすパオジアンの憎悪の先にあった者は──

『貴様の仕業か……腐狗(くちいぬ)めが……!』

 依然、組み敷かれたその下で股座に鼻先を潜らせたガーディの視線であった。
 そしてその目は、つい先ほどまでの憐れな負け犬ではない戦士の目へと──再びそこへ輝きを宿していたのだった。

 この時になってパルジオンは初めて、己がガーディの罠に嵌められていたことに気付いた。

 戦いの始め、戦力差の分析において自身の力が到底及ばないことを悟ったガーディは『とある戦略』を実行に移す。
 それこそはこの部屋の温度を限界にまで高め、氷の化身たるパオジアンを弱体化させるというものであった。

 以降はそれを実行する為、ガーディは様々な戦術を一連の戦いに盛り込んだ。
 曰くそれは火炎放射を囮にした火炎車の追撃であり、フレアドライブによる急襲であり、そしてパオジアンがガーディを嬲り続ける間もその苦しみ悶える傍らで死に物狂いに発火を続けた演技に至るまで──。
 さもパオジアンに圧倒されていると思い込ませながらもさりげなく、そして確実にガーディは石室の室温を上げ、そこの酸素を消費し続けた。

 いかに自身の力で強化を施すとはいえ、酸素の運用効率が悪い人間(リン)の肉体に憑依してしまったこともパオジアンにとっては悪手と言えた。
 この時の為に造られた機密性の高い密室、リンの肉体、酸素の燃焼を可能とする自分──それらすべての環境を利用し、ガーディは思いつく限りの方法で戦術を積み重ねては、今の戦略を完成させるに至ったのだ。


 それこそは遥かな昔よりリン達ツェン家と共に、いつか訪れるであろうこの厄災へ対処すべくに研究と研鑽を積み重ねた一族の集大成と言えた。


 それら全ての企みに気付き、なりふり構わずパオジアンは場からの脱出を図ろうと注意を外へ反らせたその瞬間──ガーディもまた動いた。
 横たわらせていた肉体を爆発させるかのよう跳ね上がらせるや、ガーディはパオジアンの首根に噛みついては押し倒し、今度は自身が上に覆い被さる体位を取る。

『くッ……お、おおおおおお! 離せい! 腐狗ゥッ! 離せェェえええええええッッ‼』

 パオジアンもまた激しく抵抗をした。
 両掌より氷剣を呼び出すや、それを以て死に物狂いにガーディを切り刻む。
 しかしそれを受けてももはやガーディが怯むことは無い……時すでにガーディは、この厄災と刺し違える決意を固く心に決めていた。

 連綿と一族の間で受け継がれてきた宿願と魂とを、今まさに燃やし尽くす時が来たのだ。

 組み敷くパオジアンの首を噛みしめ続けたまま、最後の燃焼をガーディは敢行する。
 その背より立ち上がった業火は、さながら翼を広げるかのよう巨大に石室へ舞い上がっては、そこにガーディの命の煌めき広げた。
 炎は様々な形をそこに象っては消えていく……それは人々の姿のようにも見えれば、様々なポケモン達の面影のようにも見えた。
 そしてそれら炎が石室を満たしてはこの戦いを俯瞰した時──

『く、口惜しやッ……恨めしやァァ……』

 それらを目の当たりにし、初めてパオジアンは恐怖に眉を歪ませる。
 天へと吹き上がるガーディに炎の中に、実に多くの者達をパオジアンは見た。
 曰くそれは自分が殺め苛ませ狂わせた者達であり、そして戦い挑んでは辛酸をなめさせられた者達であり……それらパオジアンに係わった全ての魂たちが今、刻(とき)を超えて此処へと集結していたのだ。

『あ、アアアアァァァアアアアアァァ………恐ろしやァァァァァ……、…………』

 そしてパオジアンが完全なる敗北と恐怖とを確信した瞬間──その邪悪なる意識はリンの中から消滅した。
 斯様なパオジアンの末路を見届けて、やがては炎の治まるガーディもまた跡を追うように意識を失う。

 もはや肉体には灯火ほどの体力も残されてはいない──
 いつしか全ての感覚が消え失せて、その意識は眩い光の中へと溶け込んでいく。

 事ここに至り、彼にもう心残りは無い。少なくとも自分の役割は果たせたとも思う。
 一族の悲願がここに達成させられたのであるならば、もうガーディに生への未練などは微塵も残されていなかった。

 ただ……ただひとつ、最後にガーディはリンの声を聞きたいと思った。
 一族やその眷属などという関係や世界とは別に、あの優しくも愛してやまない少女に労ってもらい、そして名のひとつも呼んでもらえたのならばどれだけ幸せなことなのだろうか、と……


 そんなささやかな願いを胸に秘め、ガーディは最後の瞬間を迎える。
 巡りゆく追憶の中にはリンと共に過ごした幸せな日々の光景が──溢れんほどに映し出されてはガーディの末期を彩ってくれていた。



第4話・ 奪姫豹変



 高く澄んだリンの声──……
 その名を呼んで額を撫ぜてくれているその感覚にガーディは緩やかに覚醒を果たした。

 それでもしばし目を瞑ったままリンからの愛撫をガーディは受け続ける。
 心地良いそれに徐々に意識もまた鮮明になってくると、脳裏にはあのパオジアンと死闘を繰り広げた地獄のような光景が蘇ってはガーディを身震いさせた。

 しかしながら、それにも拘らず依然ガーディを優しく呼び起こしてくれるリンの声に変わりはない。
 さては一連の出来事は夢だったのかと、ようやくにガーディも納得をする。

 よりにもよって酷い夢を見たものだと半ば呆れ、そして深く安堵してはゆっくりと瞼を開く。
 それでもリンの顔が見られるのならばこれ以上に幸福なこともないと思った。
 今日はたっぷりと甘えそして遊んでもらおうと、淡い期待を抱きながら瞳を開いたガーディはしかし──幸福から急転直下の絶望を味わう事となる。

 目の前にはポケモンが一匹いた。

 痩躯の長い首としなやかな肢体、そしてその体表のいたる所へ氷の結晶を斑模様に纏ったその姿は──紛う方なき四災・パオジアンの姿そのものであった。

 瞬時に肉体が緊張で強張る──同時にガーディは体を横たえたままに身を跳ね上がらせては後ずさり、着地と共に前傾姿勢へ構えを取って尻尾を上げた。

 見れば場所もまだ、意識を失う前まで居たあの地下である。
 ……夢などではなかった。そして同時に戦いはまだ終わっていなかったのだと再認識をする。

 低く呻り、強い警戒を発しながら相手の出方を見守るガーディではあったがしかし……事態はそんなガーディのさらに斜め上を往く方向へと展開していくこととなる。

『待って待って、落ち着いてー。わたしだってばぁ』

 そんな目の間のパオジアンから発せられたその声に一瞬ガーディは毒気を抜かれた。
 その喉から発せられたものは間違いなくリンの声であったからだ。

 それでもしかしすぐに我へ返ると、先ほど以上の警戒態勢を取る。
 相手はあのパオジアンであるのだ。
 対象をいかに弄んではその心をかき乱そうかを狡猾に実行する性根を知るからこそ、今のリンの声音もその企みではないのかと疑る。
 しかし……

『本当にわたしなんだってばあ! パオジアンが気絶した時に入れ替わっちゃったの』

 後ろ足で立ち上がり、器用に前足で空を掻きながら人さながらのジェスチャーを見せてくるパオジアンからは、先ほどまでの緊迫感や邪悪さは感じられない。
 むしろ斯様なパオジアンの仕草はガーディが普段よく知る、リンの姿そのものであった。

 にわかには信じ難い思いで構えを解くと、それでもガーディは警戒しながらパオジアンを観察する。
 その両眼は幼さを感じさせるほどにあどけなく、上顎からもこの厄災を象徴する剣の存在もまた消え失せていた。
 そうして恐る恐るに近づいては鼻先をその体に触れさせるや、

『もー、やっと信じてくれたー?♡』

 パオジアンは──もとい、リンは前足でガーディを抱きしめて幾度となくその横顔を舐めて愛撫した。
 その時である。

[ みだりにこの体へ触れさせるな小娘! ]

 禍々しいその声もまたガーディは確かに聞いた。今度こそは聞き間違えようもないパオジアンの物である。
 再び背筋を跳ね上がらせては飛び退り距離をとるガーディを前に、

『んあ~、違う違う! もー、ややこしいな~』

 リンは前足の肉球で自身の頬を挟み込むと、苛立たし気にそこを揉み挟む動作をしてみせる。
 そんな緊張感など微塵も見られないリンとは裏腹に……

[ 返せ! 返せェッ! 妾の躯を、返せェェェェッッ! ]

 怒気を含んだ……というよりは悲壮なパオジアンの声はなおもガーディの頭の中に響き渡っていた。
 パオジアンの体と入れ替わってしまったリン、脳内に響くパオジアンの声、そして瀕死であったはずの自分が戦う前と変わらずに壮健でいることの理由……それら何一つ理解の及ばぬ状況をリンはたどたどしく説明していく。

『なんかね、わたしがパオジアンになっちゃったみたい』

 荒唐無稽なリンの説明は以下の通りであった。
 あの死闘の末にパオジアンの意識が消え失せると同時、リンも自身のコントロールを取り戻した。
 しかしながら肉体は人間(ヒト)ではなくポケモンのものであり、そのことに途方もくれたがしかし──目の前で死にかけているガーディを見つけるとそれどころではなくなってしまった。

 どうにかしてガーディを助けられないかと混乱しきりのリンではあったがその時──不思議とリンは自身の生命力を他者へ与える方法を思い付く。
 そもそもこれは、元来の持ち主であるパオジアンが他者の生命を奪う際に用いる法ではあるのだが、そんなことはリンの知ったことではない。
 奇跡よ起これとばかりにリンは、ありたけの自身の生命力を瀕死のガーディへと注いだのであった。

 それを受けガーディの治療が進む傍ら、本来の肉体の所有者であるパオジオンもまたリンの中へと発生した。否、目覚めたというべきか。
 当然のことながら自分の生命力が勝手に他者へと注がれていること、さらにはこの状況でありながら一切の肉体の支配権が自分には無いことにもまた気付き、先ほどからパオジオンは取り乱し続けているという訳であった。

 ……皮肉にも自分がリンへとした仕打ちが今、入れ替わる形で己へと還ってきてしまっているのだった。

 その説明を受け、改めて自分の体を見下ろすガーディ。
 なるほど確かに肉体の疵はすべてふさがっているが、同時に以前には無かった変化もまた現れていた。
 赤かったはずの体毛は残らず、青み掛かった純白のそれへと色が変わってしまっていた。
 とはいえそれも些細なことだ。
 そんな自分の変化など意にも返さず──

『あは、あははは♪ ガーディ、くすぐった~い♡』

 ガーディは改めてリンへと抱き着くや、顔や体の境も無しに彼女を舐めては抱擁をした。
 多少の状況の変化こそあれ、心の底からリンが無事であったことをガーディは喜ぶのだった。

『ガーディ……一生懸命に戦ってくれて、ありがとね』

 そんなガーディからの愛撫を受けていたリンもまた、ふいに鼻先を寄せて舐め返した。
 丁寧に気持ちを込めて舐めてくる愛撫には、普段のフレンドシップを確認するものには無い親密さがあった。

 やがて頬を舐めていた舌先はガーディの鼻先を愛撫し、遂には人が交わすような口づけを以てその口を塞いだ。
 それから互いの口角を噛み合わせるように小首を傾げては、舌同士を絡めるようなキスが展開されていく。

 そんなリンからのいつにない愛撫に戸惑いも覚えたが……ガーディもまたそれを心地よく感じては、施されるキスをなぞっては同じように返していく。

 しばしそんな包容が行われた後、改めて二人は見つめ合う。

『ガーディ……あなたのこと好きだよ。友達とかトレーナーとかじゃなくて、男の子としてあなたが好き』
 
 語りかけながらリンはガーディの両肩の上に前足をかける。
 そして体をもたらせては組敷くように押し倒してしまうと、

『もう一回……アレ、しよ? 今度はさ、いっぱいイチャイチャしようよ』

 もはや返事など待つこともなく、リンは再びにガーディの唇を奪ってしまうのだった。

 
 

第5話・因果の後先



 ガーディを仰向けに横たわらせ、リンは下腹の毛並みの中へと鼻先を埋めた。
 そこから幾度となく深呼吸を繰り返しては彼のペニスを探り当てるわけだが、鼻先に感じるガーディの腹の香りとそして体温、さらには絹のごとき柔らかな毛並みの感触に──

──はわ~……サイコー……♡

 しばし恍惚とする。
 こうしてガーディの腹の嗅ぐ行為は以前からも時折り行っていたが、自身がポケモンになってもそこに感じる多好感に変わりはなかった。
 しばししてガーディが切なげな声を出してきてはリンも我に返る。
 今日はこんな二人の関係を更なる先へと進ませる行為なのだ──改めてリンは鼻頭を潜らせる行為に躍起になった。

 しばしして鼻先に粘膜の感触を感じた。
 滑らかな毛並みの中にあってその一点だけが無毛で湿り気を帯びている感覚は間違いなくガーディのペニスそれである。
 それを改めて確認するや、リンは躊躇もなくそれを咥え込んだ。

 途端舌上に強い塩気が生じる。
 しかしながら既に溢れ出していた腺液が唾液に溶け込むと、その味わいはまた変わったものとなる。

──ガーディのおチンチン美味しい……舐めてたらまたセーエキ出るかな?

 そんな期待がリンの唾液腺を崩壊させてはより一層にしゃぶる速度と吸い付けさせる頬の動きとを忙しなくさせていく。
 先のパオジアン主導によるレイプ以前にはこうした性知識などまったく持ち合わせていなかったリンも、今現在パオジアンと同化するにあたり彼女の持っていたそれら知識をリンもまた共有していた。

 それによりこうした閨事に関する知識は元より、それに所以する興味や悦びといったものも、今のリンは実に肯定的に受け取ることが出来るのだった。
 その現れとして、

『んぅ……ぷはッ。ねえ、ガーディもわたしのオマンコ舐めてー♡』

 リンは自分達の体位が互い違いになるよう跨ぎ直すと、自身の尻もまたガーディに向ける。
 短毛であるパオジアンの体とあっては毛並みをかき分けるまでもなく、既に濡れ割いた陰唇がガーディの眼前に膣口を広げていた。

 そこから立ち上がる芳しいその香りに当てられてガーディも発情を促されると──まさに獣の如くにそこへと鼻先を埋める。
 荒々しく舌先を膣内へ挿入させると、そこから縦横無尽にそれを動かしては大きく膣壁を舌でこそぐ。
 その愛撫に反応し、依然としてペニスを咥えたままのリンがくぐもった声を上げる様子(レスポンス)がなおさらにガーディを興奮させた。

 ガーディにしてもつい先ほどまでは交尾の知識などまったく無ければ、まだ発情すらも迎えたことのない個体であった。
 ゆえにパオジアンによる逆レイプはその行為中は元より、射精に至っても快感を感じられずにいた訳だが……今こうしてリンと重ねる褥は、性に対する興奮と強い期待とがこれ以上になくガーディの心を踊らせていた。

 斯様な性の目覚めには、先の治療において自分の中へと注ぎ込まれたパオジアンの生命力が由来しているのだとガーディは気付く。
 あの時にパオジアンの持つ記憶や経験といった情報もまたガーディの中に注ぎ込まれ、それをリンと共有するに至った──おそらくは当の本体であるパオジアンの声が脳内に聞こえるのもそうした理由からだろう。

 しばしそうして互い慰め合っていると、

『んおぉッ!? んむぉぉおおおお……もうダメェ……ッ!』

 リンが先に果てた。
 咥えていたペニスを離してそこへ横顔を縋りつけると、初めて迎えるエクスタシーに震える。
 膣からは放尿と思しき量と勢いで愛液が吹き上がり、しとどにガーディの鼻先を濡らした。

『おッ♡ んッ、んおおおおお………ッ♡♡』

 しなやかな背を仰け反らせて身を硬直させると、幾度となく身を痙攣させながらリンは絶頂の余韻に浸る。
 やがてはその緊張も解けると──今度は一変して脱力し、液体さながらにガーディの上へと体をもたらせた。

 斯様にして荒い呼吸を繰り返しては身を委ねてくるリンの体の重みがガーディには心地良い。
 そんなリンの濡れ乱れた膣を、責めるでもなく舐めて慰めていると敏感な体はそれにすら反応しては再び潮を噴き上げる。

 そんなリンの痴態を目の当たりに、改めてガーディは自身の情欲が昂るのを感じた。
 頭の中はこの愛しいリンの膣へ自身のペニスを挿入することと、そして彼女を妊娠させたいという強い願望で沸騰寸前だった。
 そして斯様なガーディの心の内を読んだかのよう、

『ふふ………いいよ。ガーディの赤ちゃん、産んであげる♡』

 ふいに微笑んだかと思うと、リンが疲れた笑顔をこちらへと振り返らせる。
 同時にガーディもまた、今の自分達がパオジアンの力によって一心同体であることにも改めて気付いた。
 初めての性交にも拘わらずガーディがリンを絶頂させた手練やそしてリンもまた素直にそれを迎え入れられた理由には、こうした互いの快感をダイレクトに探り合える肉体側の装置もまた関連していたのだ。

 そんな折──

[ やめろ! それだけは留まれいッ‼ ]

 突如としてその声が二人の脳内に割り込んだ。
 言わずもがな、その『装置』こそパオジアンである。

『あ、もう目を覚ましたなー。せっかく通信切ってたのにぃ』
[ やらいでか! 妾の体をこれ以上不浄の者に触れさせるな! 『交尾』などは言語道断じゃ‼ ]

 表情が見えずとも分かるその切羽詰まった様子に二人は揃って鼻を鳴らす。
 今日に至るまでこの厄災は、姿を変え存在を変えあらゆる権力者達を篭絡させては狂わせてきた。
 先のリンの肉体を支配しての逆レイプ然り、それら行いは他者の肉体であるからこそ奔放に振舞えていたのだった。
 しかしながらそんなパオジアンが今、本体たる我が身を汚されることに恐怖を抱き焦燥しているというのだから、その身勝手さにリンとガーディは多少の腹立たしさを覚えなくもなかった。

 だからこそ……

『こりゃ、ちょっとお仕置きが必要だね』

 呟く様にパオジアンへ語り掛けるや、リンは数歩を前へ歩んではガーディの上から退く。
 そこにてリンは前足を折って身を屈め、改めて腰を突き上げてガーディの前へと尻を晒すや、

[ な、何をするつもりじゃあ……? ]

 勿体付けた様子でゆっくりと尻尾もまた持ち上げ、その下に濡れ咲いた膣口を、リンはガーディの前へ開帳する。
 そして重ねて折り畳んだ前足の上に顎をもたらせながら、リンは背後のガーディへと妖艶に微笑んでみせると、

『召し上がれダーリン♡』

 それを受け起き上がってきたガーディもまた、リンの尻に両前足を添えては後ろ足で立ち上がる。

[ あ、あああ……やめろォ……やめてたも………ッ ]

 垂涎のよう腺液の滴り続ける先細りのペニスを膣口へと誘導し、そしてそれが陰唇をかき分け膣口を探り当てた次の瞬間──ガーディは一息に根元まで、自身のペニスをそこへ挿入してしまうのだった。

[ ぎゃあああああああああああァァァァッッ‼ ]
『あんッ♡ キタぁッッ♡♡』
 
 まさに対照的なリンとパオジアンの声がそれぞれにこだました。
 そこからガーディは思うまま、力の限りのピストンを敢行する。
 リンが相手ではあるものの、その肉体は屈強なパオジアンのものであり、それに順応しているリンもまた快楽の内にそれを受け止められるように仕上がっている。

 事実、そんなガーディからのピストンを受け止めるリンは──

『あんッ、スゴいッ! 気持ちいいッ♡ ガーディのおチンチン、サイコーッッ♡♡』
 
 石畳へ横顔を押し付けては、ガーディのぺニスによってもたらされる快感に、理性などかなぐり捨てた声を上げた。
 その一方では……

[ ああああああ──ッッ!! や、やめてェ! やめてたもッ! 狗の一物など妾の中へ納めぬでおくれェェッッ!! ]

 パオジアンの悲痛な絶叫が、リンとガーディの脳内には響き渡っていた。
 この時ガーディは、純粋な性欲以外の衝動もまた自分を突き動かしている感覚を覚えていた。

 ひとつはリンに対する想いだ。
 彼女とひとつになれることの達成感は、一個の生物としての喜びをガーディに感じさせてくれた。

 そしてもうひとつのそれこそは……誰でもない、このパオジアンを調伏していることにこそある。
 リンに全てを奪われてしまった彼女を憐れむと同時、しかしガーディの中にはその様を目の当たりにして、言い様もなく胸がすく思いもしていた。

 それこそは代々に渡る一族および、この厄災によって非業の最後を遂げた者達の無念が、今のガーディの体を借りては、その仇を討っているに相違ないとも確信した。

 なればこそ遠慮は無用である。
 パオジアンの細い尻へさらには力を込めて爪を食い込ませると、ガーディは更なるピストンの激化を図った。

[ ガッ、ごォッ……死、ぬゥ……んぐォォ………、…ッ! ]
『んおゥ! んほぅッ♡ しゅ………しゅごおぉ……ッッ♡♡』

 神に近い厄災ポケモンの力を貰い受けたガーディの交尾はもほや、結合部から煙が立ち上がらんばかりの勢いで繰り広げられる。
 その激しさたるや、罰を受けているパオジアンは元よりリンですらもが意識を朦朧とさせるほどのものであった。

 その最中でガーディもまたぺニスへの痛痒感に射精を予期する。
 そして当然ながら精神の繋がったリンとパオジアンは──

『出してぇ! いっぱいセーエキ出してぇぇッッ♡♡』
[ 嫌ァァァァッッ!! お願い、やめてェェェェッッ!! ]

 それぞれに絶頂を迎えると同時──ガーディもまた思いの限りの射精を二人の膣の中へと果たした。
 背後からリンの背中へと覆い被さり、その首をうなじから噛み締めてはくぐもった唸り上げつつ渾身の種付けを敢行する。

[ ああ、あああぁ………… ]

 それを受け、もはや抵抗する気力すらをも完全の奪われて屈服したパオジアンの意識は……やがて再びリンの中から消え去っては沈黙した。

 斯様なパオジアンの断末を見届けるや、ガーディは憑き物が落ちたかのよう我へと返る。
 そして同時にリンの事もまた思い出すや、ガーディは噛み締めていた牙を離しては、慌てて彼女の様子を窺った。

 そこには赤真珠の如くに血を滲ませた歯痕を首筋に残したリンが、その口角に泡を噴き上げては横顔を石畳に押し付けている姿が目に入った。
 慌てて身を離し介抱しよう試みるも──ぺニスの根本がコブ状に肥大化してリンの膣に嵌まり込んでいる事からも離れること叶わず、むしろそこに走る激痛に思わずガーディでさえもが悲鳴を上げた。

 しかしその一方で……

『はぁはぁ……いいよぉ、ガーディ……無茶しないでぇ……』

 依然として俯せているリンから声が掛けられる。
 見れば肩越しにこちらへと流し目を送るリンが微笑んでいた。

『それよりももっと後ろから抱いて……ずっとギュッてしてて……』

 言いながらリンが体を横たえると、ガーディもまた釣られる形で共に添い寝をする。
 リンの望む通り、包み込むようにその肩へ顎をのせると前足を腹の前に回しては背中から抱き締めるようにして身を寄せた。

 気付けば根本のコブが嵌まり込んだぺニスからはまだ緩やかに射精が続いていて、それが脈打つ度に送り出されるリズムと、そして身を重ねるリンからの鼓動とが重なっては、狂おしいほどにガーディを幸せな気持ちにさせた。


 その感覚を共有する二人にもはや言葉は必要なかった。
 ただ激動であった一日を振り返りながらいつしか──二人は深い眠りへと落ちていくのであった。



エピローグ



 その日、都内で発生した銀行強盗の襲撃現場に現れたのは……──

「愛と正義のポケモン! ピーオージーン参上! 雪に変わっておしおきよ♡」

 その全身をニンフィアよろしくの、黒いレースリボンに身を包んだポケモンであった。

 白を基調とした体色に黒のリボンというゴスロリ風のいで立ちにもしかし、そのポケモンは凄まじい強さを見せては瞬く間に現場の強盗3名と、その協力者であったポケモン2匹を取り押さえてそこを去っていった。

 さらにはこの事件の前後にも似たような事例が多数発生しており、いずれの場合も強盗や危険なカーチェイスを繰り広げる凶悪犯達を、かのポケモンは瞬く間に取り押さえてはその身柄を確保していたのである。

 専門家すらその種類の特定が難しい稀少な見た目も相成って、巷間では新たな都市伝説として浸透し始めたこの事象ではあるがしかし……──


「ふ~……今日も世の為、人の為に頑張っちゃったねパオジアン?」

 自室に戻り、姿見の前でゴスロリ調の自分自身(パオジアン)に語り掛けるリン。
 そんな問いかけに対し、

[ うおあああぁぁ~ッッ‼‼ 殺せ! もう殺してくれぇッッ‼ ]

 その内面から呼応したのはその肉体の本来の持ち主であるパオジアンであった。

「ダメだよ、ワガママ言っちゃ。あなたが今まで迷惑かけた償いを少しでもしなくっちゃ」
[ 世直しのことではなく、妾はこの見た目のことを言っておるのじゃ! ]
「えー、カッコイイじゃん?」
 
 姿見を前に着飾った姿を見つめるリンとパオジアンとの温度差には液体窒素と溶鉱炉並みの差がある。
 よくよく見ればこの姿、全身のいたる所を黒レースのリボンと、さらには雪の結晶を模したアクセサリーで彩り、ご丁寧に腰元にはミニスカート然とした腰巻という、さながら女児アニメのヒロインヒーローを思わせるような出で立ちであった。

「全然おかしくないよね、ガーディ?」

 幾度となく姿見の前で体を翻し、さらに後ろ足で直立しては左前足の内肘に右手首を乗せて相手を指差す決めポーズも披露してみせるリン。
 その傍らでは舞踏会のアイマスクで顔を隠し、さらにシルクハットとマントを羽織った『ブリザード仮面』なるガーディも同意を示すよう一声吼えた。

[ おおおおおお……ッ、こんなことならあの時に消滅した方がどれほどマシだったか……! ]

 リンとガーディにだけ聞こえるパオジアンの内なる声が耐えがたい苦痛と悲哀とを入り混ぜては絞り出される。

 あの封印の地下室における事件以降──リンはこのパオジアンの容姿と能力を自在に切り替える力を手に入れていた。
 それによりリンが始めたことがこの、有事の際にはパオジアンに変身して事件を解決するという『世直し行脚』であったのだった。

 もっともパオジアンは既に討伐したものとして、リンも自分の家に報告していたことからも、表立って『パオジアン』を名乗るわけにはいかない。
 その結果生み出されたのが変装にて正体を隠した『愛と正義のポケモン・ピーオージーン』であったという訳である。

 この時のパオジアンには自身の体はおろか、人であるリンの体に至るまで双方どちらの支配権も得てはいなかった。
 ただただこの体の中においてリンの行う世迷言……もとい世直しを見つめ、それに加担する道化たる自分を憐れみ続けるしかないのだった。

[ そちらのガーディを復活させるために力を使ったせいで妾の永久性も失われてもうた……後はこの同化したお前が死ねば妾もその巻き添えで死ぬ……そんな脆弱な生き物になってしまったというのに、なおもお前は妾を苦しめるか!? ]
「あなただって今まで他の人にヒドいことしてたんでしょ? じゃあ今度は自分の番じゃない」
[ ぬぐぅ……ッ ]
 
 二人の不毛なやり取りはいつもこの着地点で終了する。
 自身が強大な力を持っていた頃は斯様なリンの言葉も笑い飛ばしたであろうが、もはや肉体の借り暮らしが確定してしまった今となっては唯々諾々と受け入れるしかパオジアンには無かった。

「さてと……無事に人助けも出来たし、今日の『ごほうび』いっちゃおうか?」

 一方で話を切り上げたリンは改めて傍らのガーディへと向き直る。

[ ま、待て! よもやまた妾の体で致そうと宣うかッ? やるなら自分の体に戻って致せい! ]

 慌てふためくパオジアンを前にガーディもまた仰向けに寝そべると、胸の前で前足を折り揃えては無防備に腹を晒す。
 新雪のように白くふくよかな内腹の中に一点、赤い花の如くに勃起したペニスが屹立していた。
 それを前にしてリンもまた興奮に鼻を鳴らすと、上唇を大きく舐めては口中に生じてくる唾液を飲み下す。

 ポケモンの体を使役した後は決まって強い興奮状態に陥るのが常であり、そしてその慰め役は決まってガーディであった。
 そのことに対し、自分が下賤の者に触れられることを激しく忌避するパオジアンではあったが、

「もうわたし達は一心同体でしょ? それにこれは罰なんじゃなくて『ごほうび』なんだからパオジアンも楽しんでよ♡」

 そう言っていつもリンは彼女を説得してしまう。 
 そもそもが再三、パオジアンには拒否権など無いのだ。

 やがてリンはガーディの元へとたどり着き騎乗位にその体を跨ぐや、お互いの前戯も無しにその先端を膣口に擦り付けていく。
 先の活躍ですっかり興奮状態となった肉体は、すでに溢れんほどに濡れ咲いてはいつでもガーディを迎え入れられる状態にまでなっていた。

「それじゃあ今日も良い事が出来たのをお祝いして……カンパーイ♡」
[ んぎゅおああああああああああああッッ‼ ]


 訳の分からない音頭と共に、一息でペニスを挿入してしまってはその後ハードファックへと移行していく二人……。
 きっと短い人の生が全うされるその日まで、自分はこんな理不尽に振り回されることだろう。
 しかしながらリンと共有するその強い快感に晒されながらパオジアンも──


[ まあ……これはこれで良いか…… ]


 いつしかこのノリにも感化され始めている自分へ気付くこともなく──過ぎ去りし日の厄災は、正義執行の『ごほうび』を諦観の内に享受するのであった。











【 夏禍の豹剣・完 】


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