【12】シアター・アローラの徒花(エンニュート)
目次
念願のアローラに降り立ったのは、既に陽が沈み夜の帳が下り始めた頃であった。
それでもしかし視界のパノラマいっぱいに広がる蒼穹の夜空と、そして南国特有の潮風に草花の密な空気を乗せた風は植物学者・リットの心を弾ませてやまない。
ふと『これで女性と同伴なら最高だったのに』となどと浮ついたことを考えて、すぐにリットも頭を振った。
そもそもが植物とそれに類するポケモンを愛するリットは、異性にはわき目もふらずに今日まで生きてきた。
幼少時より動植物やポケモンを見るとリットの集中力はたちどころに高まり、他の雑事煩悩は一切が消えてなくなる性質だった。
それゆえに行きついた先が学者というのは本人も望むべきところではあるが、20代も半ばを過ぎた今になると、それでも恋愛のひとつでもしておくべきであったかとも焦りに近い感情が湧き上がることも多くなった。
そんな時はなおさらに自身の研究に打ち込んだ。
一度集中すると内外のあらゆる凡念は振り払われたし、それを学業へ注ぐことにより年齢に見合わぬ異例の教授へと出世したのも確かだ。
ともあれ、明日以降もこの地にてポケモンのフィールドワークに勤しもうと気持ちを新たにする。
そうすれば、今のこの切ない気持ちもまた慰められることだろうとリットは思うのだった。
そんな空港前のロータリーで決意を新たにしているリットへと、
「おぉーい、旦那ァ! リット・リッケルさんってぇのはアンタかーい?」
ふいに自分の名を呼んでくるその陽気な大声にリットは我に返る。
それに振り返れば、数メートル先のタクシー待機場にて手を振る青年の姿が見えた。
年の頃はリットと変わらないように見える。
ファッションかそれとも天然か、強(こわ)く縮んだ短髪に薄い唇と切れ長の目、加えてやせ型の鋭利な輪郭は一見強面にも見えたがしかし、気さくな笑顔はすぐにリットの緊張をほぐしてくれた。
「そうだけど……もしかして予約してたタクシー会社の人?」
「そのもしかしてさ。そしてそのタクシー会社の社長にして唯一の社員だ。──エルベルってんだ、エルって呼んでくれ」
改めて握手を交わした二人は互いに微笑みあった。
今回一週間の滞在をするにあたり、各種移動の手配をしてくれる現地マネージャーを探していたところ、この彼・エルの名前が候補に挙がった。
恩師でもある教授からの推薦ということもあって素性は確かではあったが、まさかこんなにも若い人物とは思わなかった。
「その教授さんってのと付き合いがあったのは親父の方だろうな。残念ながら親父は腰がイカれて引退しちまった」
「それじゃあ船の方は?」
尋ねるリットの真意は、今回の調査においては島々を巡る調査船の手配もまたこのエルの会社が引き受けていたからにあった。
その元経営者が業務を離れているとあって、船は誰が運転するものかという不安に駆られての質問であったが、
「心配するなァ、船舶免許は俺も持ってる。陸も海も運転には自身があるぜ。オマケにセスナだって操縦できるんだ。……もっともこっちの方は無免だけどな」
そういって快活に笑うエルに、まだ初対面の緊張が解けないリットはどうにも愛想笑いがぎこちない。そもそもが人付き合いからして得意ではない方だ。
この時エルもまたそんなリットの他人行儀な空気を察していた。
顧客(ビジネス)の付き合いなどはドライであるべきなのだろうが、どうにもリットは同年代ということもあり何かと世話を焼いてやりたい気持ちにエルは駆られた。
そんな想いもあり、リットの荷物をタクシーのトランクに詰め込んで出発するや、
「腹減ってないかリット? いっしょに晩飯でもどうだ?」
そんな誘いをエルはリットへとした。
それを受け、当のリットもまた面食らったようではあったが、これからの一週間を共にするパートナーとの親睦を深めたいという思いはリットにもあったのだろう。エルの誘いに小さく頷くと、
「夕食は機内で済ませたから、少し吞みたいかな。良かったらそれに付き合ってもらえると嬉しいんだけど」
「決まりだな! それならいい店知ってるぜ。知る人ぞ知るアローラ最高の場所へと連れてってやるよ」
リットの返事に気を良くしたのかエルは運転の速度を上げた。
この時リットはてっきり居酒屋やあるいはレストランのような場所へと向かうものだと思っていた。
しかしながら車は郊外へと出て数分──街の明かりから遠ざかり、辺り一面暗闇のハイウェイを走り続けるに至りリットは疑問を持ち始めた。
手間を考えたのならばホテルもある街中で店を探した方がずっと種類も豊富で気楽であろう。
それをわざわざ街から離れ、数分を費やして移動するエルの意図をリットは測りかねていた。
そんな折、まだ出会って数分とも経っていない人物を手放しに信頼しても良かったのだろうかという疑心暗鬼にすら捕らわれかけたその時、
「見えてきたぜぇ……この世の楽園がよ」
不意なエルの台詞に視線を上げれば、前方には暗闇の道路の丘陵からせり上がってくる何色ものネオンライトが見え始めていた。
近づくほどにそれは巨大となり、やがてその足元に辿り着く頃には──昼間にも劣らぬ眩さのそれをリットは茫然と見上げていた。
鮮やか……というよりはドぎついネオンライトのそこには、エンニュートをあしらったであろう電光看板がウィンクをするような明滅をアニメーションさせていた。
そしてそんなエンニュートの隣には、それに負けないほどの極彩色で煌めく巨大な店名──
「シアター……アロー、ラ?」
そう読み上げて茫然とするリットの肩へもたれかかるようにエルは肘を置いた。
「そう、『シアター・アローラ』。この地域で……いや、世界で最高峰のストリップ劇場さ」
圧巻の光景は建物の内部に入ってからも変わらなかった。
広大なホール内は室内を二分するようステージが横断しており、席に椅子は見当たらず胸元辺りまでのテーブルがあちこちに多く点在している。
天井のネオンライトは忙しく明滅を繰り返しながら光量に緩急をつけて客達を照らし、壁面や天井から下がるポスターには様々な衣装を着飾った様々なポケモンが、それぞれに官能的なポーズをとっていた。
「ここはポケモン専用のストリップさ。人間の踊り子なんて一人もいやしない。でも退屈はしないぜ? 人間以上に個性豊かだからなァ」
いつの間にやらビールを運んできたエルはそれを手渡すと、まだ戸惑いから抜けきれないリットのジョッキに自分のそれを打ち付けては大きく煽った。
見れば周囲も多種多様な客達で溢れている。
人種の違いは元より、意外であるのは女性客もまた多いことだった。
「ここはちょっとした観光スポットでもあるからな。……もっとも知る人ぞ知るって場所ではあるが」
「若い女性客も多いんだね」
「そいつらはむしろ見学に来てる別の店の御同業さ。なにせこの店のショーやパフォーマンスは単にポケモンが芸をするって以上のクオリティだからな。それを学びに来る女の客も多いのさ」
まるで我が事のよう得意げにそれを語るエルの傍らで、リットは生返事を返しつつもどこか冷めた思いでいた。
いかにどんな趣向を凝らせようとも所詮はポケモンである。
ストリップの本質が『女性の裸を鑑賞する』ものである以上、平素日頃から全裸に近い状態であるポケモンのそれに何を期待すればいいものか?
所詮はアイデア勝負の観光ショーだと高をくくっては、今宵最初の踊り子(ポケモン)によるオドリドリ達の団体ショーを目の当たりにしたリットはしかし──数十秒後にはその穿った考えは一変させられていた。
それぞれに前止めのキャミソールを身に着けてステージへと躍り出たオドリドリ達は、正面から見たならばまるで一体しかそこに存在していないかのような、人間には再現不可能なレベルでのシンクロをそこに発生させては、見事な『千手観音』のパフォーマンスを完成させていた。
加えて4体ともそれぞれに羽根や毛並みは違うはずなのに、いつの間にか先頭の一匹が別のオドリドリに変わるマジックは、至近距離から観察しても見抜けない精妙さであった。
さらにはその妙技に中において効果的にキャミソールの裾をひらめかせると、リットの視線は自然と彼女達の股間へと誘導させられる。
そうして観客の目をそこへ集中させては、その瞬間を狙って僅かに膣の間口へと手羽先を添えてはそこを開口させて陰唇の影をうかがわせた。
激しいダンスの合間と、さらにはストロボのよう明滅する照明の効果からそんな一瞬の御開帳はなおさらにリットの印象に残るのだ。
──あと少し……もう少しで完璧に見える……!
いつしかオドリドリのそこを見定めようと前のめりになるリットへ冷水でもかけるかのよう、突如としてショーが終わった。
次いで湧き上がる拍手と歓声にリットも我に返っては、跳ね上がる様に頭を上げた。
いつの間にか夢中になっていた……。
しかもそれは単にダンスのレベルに留まらず、そこには確かにメスを見つめるオスの興奮もまた存在していたのだ。
そんなリットの心中を察したかのよう無言のままニヤニヤとこちらを見つめるエルの視線に気づき、
「はぁ……すごいね此処は。価値観がひっくり返ったよ」
「へへー♪ だ~から言ったろ?」
もはや飾りも衒いも無くそう認めては、その感謝も込めリットは改めてエルと乾杯を交わした。
その直後──客席からひときわ高い歓声が上がった。
それに驚いて咥えたジョッキのビールを吹き出しては両肩を跳ね上がらせるリットではあったが、かたやエルは対照的に期待に眼を輝かせては歓声の方へと視線を巡らす。
「な、何なんだ……?」
「この劇場の『プリンセス』達がお見えになったのさ。見てみろよ」
次いでウィンクと共に立てた親指で差されたその先には──末広がりに陣を組んだポケモン達が客席の中を練り歩いてくる姿が見えた。
そこに居た者達はサーナイトやウェーニバル、そしてマスカーニャといった店内のポスターにて威風を誇っていたポケモン達である。
ある者は和装、ある者はウェスタン風に、そしてある者はバニーガールにシルクハットという、それぞれに個性を発揮するいで立ちで練り歩いてくるその登場は、それらを照らし出すスポットライトなど無くとも、十分に彼女達の輝きを観客達へ分からしめるに十分な魅力をそこへ満たしていた。
そしてそんな中においても一際強く、さながら後光でも背負うかのよう一段と美しく輝いていたのは──その先頭に立って歩く純白のエンニュートに他ならなかった。
他のポケモン達がそれぞれの衣装に身を包むなか、彼女エンニュートだけは素の姿のままで歩いてくるのだが、そのポケモンとは思えぬ完成された立ち居と、腰に片手を突いて僅かに胸を張った歩調には、もはや生物の境界を越えた美しさが存在していた。
「さっきのオドリドリ達なんざ、前座も前座さ。彼女達のショーこそが本番だ」
下品に指笛で場を賑わかせるエルにもしかし、リットは件のエンニュートを見つめたまま身動きが取れなくなっていた。
それはもはや『見惚れている』というよりはもう、捕食者に小動物が見据えられているにも等しい。
そんななか、視線だけを巡らせながら今日の観客達の品定めをしていたエンニュートの視線がはたと一点に見据えられた。
同時に歩みもまた止めてしまっては立ちつくす先頭(エンニュート)に、後続のポケモンもまた戸惑っては互いに視線を交わし合う。──どうやらこの行進は本来、止まることなく最後まで歩き続けるものらしい。
そしてそんなエンニュートがその慣例を中断してまで見つめるその先には──誰でもないリットが居た。
そうして互いに見つめ合う周囲はポケモンも人間も問わずに騒ぎたてたが、この時のリットとエンニュートの二人にはそんな外界の喧騒などは一切が消えていた。
エンニュートの体色の如き白き意識の世界で見つめあう二人──運命の出会いは、予期せぬ時・予期せぬ場所、そして予期せぬ存在の中で今、果たされてしまったのだった。
周囲からの呼びかけで我へ返ったのは、リットもエンニュートも同時であった。
それでもしばし互いから視線を外さずに見つめ合う二人であったが──やがてはエンニュートがそれを振り切る形で一行は客席への行進を再開した。
そうして去りゆく彼女達の背後を見送りながらまだ白昼夢から覚めやらぬといった様子のリットへと、
『あれが純白姫のエンニュート……この劇場の看板スターさ』
新しいビールのジョッキを煽ったエルが説明をした。
店の看板に描かれているエンニュートも彼女であるらしく、そもそもこの劇場が今日の格式を誇るに至ったのも彼女のショーが始まりだったのだという。
見目麗しい彼女の美しさに魅了されて、連日この劇場は彼女のファンやそのリピーターが詰めかけるのだそうだ。
「それも分かるような気がするよ。あんなに綺麗なポケモンなんて見たことが無い」
「だろ? ……この後のお楽しみになるがな、この劇場は最後にお気に召したポケモンと一夜を共に過ごせるかもしれないってサービスがあるんだ」
「それってどういうこと?」
「ここのポケモン達は最高級のコールガールでもあるのさ。気に入った踊り子がいて、なおかつ彼女のお眼鏡に適えばここの踊り子達を抱くことだって出来る」
思いもよらぬエルの言葉に、リットは目を皿のようにしては見返した。
胸中に満ちていた思いは『信じられない』の一語に尽きたが、それはポケモンと性交を交わすことにではなく、むしろあんなエンニュートを抱くことが出来るのだという事実に対する驚きであった。
しかしながら、
「でもよ、あのエンニュートだけは今までに誰一人オトした奴はいねーんだ……それこそ中には国家予算並みの金額を提示したって富豪もいたそうだが、それでもエンニュートは鼻にも掛けなかったそうだぜ」
まだ誰の手も触れられていない純白の花を想像してリットは不思議な安堵を覚えていた。
しかし同時にそれは、彼女が自分如きには絶対に手の届かない高嶺の花であることの証明でもある。
そのことに気付くとようやくにリットは冷静さを取り戻せたような気がして小さく鼻を鳴らした。
「ともあれ、今夜はここで宿泊だ。お前も目当ての踊り子に見当付けておけよ? もっとも一人寝の個室も用意はしてくれるけどな」
「人間とすら経験も無いのにいきなりポケモンだなんてハードルが高すぎるよ」
思わぬリットのジョークにエルも弾けるよう笑い声をあげると、場には劇場側からのアナウンスコールが響き渡った。
『今宵も紳士淑女の殿堂シアター・アローラへお越しいただきありがとうございます! これより始まりまするは10人の踊り子達による妖艶の饗宴! どうぞ皆様お楽しみくださいませ! そしてキャンディタイムではどうか踊り子達よりキャンディをお買い求めいただきますよう願いいたします。それが今宵の踊り子達へのチップとなっております』
おそらくは何千回と繰り返しているであろう口上には一切の淀みも無く、うっかりしたならばそのまま聞き逃してしまうほど流暢にアナウンスされた。
同時、ホールに大音響のBGMが流れ出すとステージがスポットライトの集中砲火で眩く彩られた。
そしてその光の元へ歩みだしてきたのは──その長い手足が艶めかしいヒスイ・ドレディアの姿であった。
風呂上がりよろしくに身を包み込んだバスタオルの裾から伸びた御美脚(おみあし)にリットの心は再びときめかされる。
もとより植物学者ということもあってか、草系ポケモンにはめっぽう目が無い。そんなリットにしても、ここまで美しい足を持ったドレディアは初めてであった。
衆人環視の中、その美脚を高々と上げ、さらには氷上のフィギアスケーターの如く華麗に舞い踊りながら身を包むバスタオルを脱ぎ捨てると──その下にはたわわに実った二つの巨乳に加え、妊婦よろしくに大きく張りだした腹部もまた披露された。
場所が場所であるからここに揃えられる踊り子達は皆がスレンダーでスタイルの良い者達が集められているだろうに、どうして斯様な体型のドレディアがステージに上がれるのかと不思議に思うリットではあったが──その謎はすぐに明かされることとなる。
背を向けて腰を折り、観客達へ自分の局部が良く見えるよう尻を突き出したドレディアは次の瞬間──客席へと撃ち放つよう、膣から何かを弾け出させた。
集中した照明の下、体液を光の粉のよう纏いながら放物線を描いて飛んでいくそれはやがて……客席のリットの手の中へと落ちた。
思わぬそれを受け取ると観客達からは歓声が上がる。
「良かったな!」と囃し立ててくる傍らのエルに戸惑いつつも手の中を見ると、そこにあったものはドレディアの愛液にまみれたモンスターボールであった。
潤沢な粘液の感触に生唾を飲み込むと、本能的にリットはそれを鼻先へと運んでしまう。
上唇に彼女の粘液を感じながら大きく息を吸い込むと、鼻腔内には柑橘系を思わせるような南国の香りが広がった。
その中にも生物特有の艶めかしい体臭も混じってはむしろ、これこそがドレディアの膣の香りであると実感して、その擬似クンニリングスにリットは興奮を胸に募らせた。
──もし見染めてもらえるなら彼女がいいな……
その香りに忘我しながらステージ上を見遣ると、そこには次々と客席へボールを播種させてはその数を観客達へカウントさせているドレディアの姿があった。
そのつど妖艶にポージングをしながらモンスターボールをひり出す彼女は、膣から16個・アナルから26個──都合42個のモンスターボールをひり出してショーを終えた。
終わる頃には、始まりの時のボテ腹が嘘のように解消された見目麗しいスレンダーなドレディが、客席へと綺麗なお辞儀を一つする。
「彼女、いいなあ。もし叶うならあのドレディアをもっと見たいんだけど、それにはどうしたらいいんだい?」
「なんだ、もう決めちまうのか? もしお気に入りの踊り子が居たら、この後のキャンディタイムでチップを弾んでやればいいのさ」
エルの説明するこのシアターでのシステムはこうだ。
まずは踊り子によるショーが披露された後、その踊り子がキャンディを売りに客席を回る。
客達はその労をねぎらう傍らでチップを払いキャンディを買ってやるわけだが、もし彼女と一夜を共にしたいと言うのであれば、その時に踊り子の膣に収められた棒キャンディを所望する。
それの売買に踊り子が応じれば交渉は成立となるが、もし断れればそれまでということである。
「あのドレディアもキレイどころだが、草ポケモンはそんなに買う奴もいないだろからイケるんじゃないか? ……でも金はそれなりに掛かるぜ?」
「カード使えるかな?」
そんな話をエルとしていると、ホールにはどよめきににも似た歓声が上がった。
さてはドレディアのキャンディタイムが始まったのかと、その方向へ視線を投じたリット達であったが──目の前の光景はそんなリットの予想を上回るものであった。
神々しく純白の体躯にスポットライトを纏い、さながら十戒のワンシーンのよう人ごみの断ち割かれたその花道を歩んで来るのはドレディアではない。
リットまでの一直線を優雅に歩み進んでくるのは──誰でもない、あの純白のエンニュートであった。
エンニュートと視線が絡み、再びリットは硬直した。
しかしながらエンニュートはリラックスした様子で、微笑みを宿した表情には再びリットと相見えたことに対する喜びが溢れていた。
そうしてリットまでの直線を歩み寄り、遂にはその元まで辿り着くと改めて二人は至近距離での対峙を果たす。
ふくよかな乳房と豊満な臀部はそのくびれの細さによって緩急が付けられ、もはや直立する姿は生物の佇まいというよりも芸術作品の向きすらある。
身の丈も、身長175cmのリットと並ぶほどに長身であり、それがより一層にこのエンニュートの美しさを引き立てていた。
──あのエンニュートが目の前にいる……! どうして? なにかアクションをしなきゃいけないんだろうかッ?
そんな美しきエンニュートを前にして混乱もしきりのリットは、必死に脳細胞を回転させては目の前の彼女に対する行動を考える。
しかしそんな混乱もしきりのリットをリードしたのはエンニュートだった。
リットの胸元へすがるように両手を添えると──エンニュートは前置きも無しにその唇を奪うのだった。
その行動に周囲からは驚きの声が上がる。
一連のエンニュートの行動はその全てが型破りな物だった。……否、もはや客にも劇場側にしても、それが『型破り』であるのすら分からないほどに、エンニュートの行動は前例のないものと言えた。
そうして周囲の一同が驚愕の中で見守る中、なおもエンニュートは濃厚なキスをリットと繰り広げていく。
その種族性特有の長い舌を侵入させてはリットの舌根を絡み取り、そして余すことなく歯牙の表面をなぞっては存分にリットの口中を味わいつくすエンニュート。
斯様にして口中を蹂躙されることで大量のエンニュートの唾液が流れ込んではその味わいにリットも意識を朦朧とさせる。
舌同士の粘膜の擦れ合う感触と、ハーブのごときアロマを感じさせる彼女特有の匂いが鼻腔に満ちては、もはや薬や催眠術にでも中てられたかのような酩酊状態へとリットは導かれていた。
しばしそうしてキスを繰り返した後、名残惜し気にエンニュートは舌を抜いて互いの体を離す。
そうして再び互いは見つめ合う。いくらか緊張も解けてきたこともあり、改めて対峙することでリットにもまた気付くことがあった。
上目遣いに見つめてくるエンニュートの視線は何処か不安げに問いかけるような表情(いろ)をしていた。
その美しさゆえに近寄りがたい彼女がその実、臆病にもリットの一挙手一投足を過敏に反応していることが窺えた。
この時になってリットは自分がエンニュートに選ばれたことと、そして彼女もまた自分に想いを寄せてくれていて、こちらからの返事を不器用に待っているのだということにも気付いた。
もしそうなのだとしたらリットの答えなどは既に決まっている。
改めてエンニュートを見つめ返し、そして緊張に乾く上唇を舐めて言葉を選ぶと──
「君からキャンディを買いたいんだけど……ダメかな?」
この店の流儀に従ってそうリットもそう訊ねた。
それを受け、その一瞬エンニュートの顔から表情が消えた。
目を見開いてはリットを見つめ、そして己が受け入れられたことの実感が心と体とに満ち溢れるや、エンニュートは幼児(おさなご)の如き天真爛漫に笑顔を見せてはリットへと抱き着く。
そうして箇所を問わずに再び濃厚なキスを見舞いながらエンニュートの右手は自身の股間へと伸びた。
そこには既に、白と赤を螺旋に編み込んだ棒キャンディが挿入されており、エンニュートは依然としてキスを繰り返しながらそれを引き抜いていく。
今までのやり取りで肉体が昂っていたことも手伝ってか、キャンディは膣内の熱と愛液によって溶かされては、その先端が先細りに丸みを帯びていた。
そんなキャンディを膣から抜き取ると──それをエンニュートはリットへと咥えさせる。
瞬間、それを見守るホールからは取り囲む観客達からの大歓声が上がった。
それこそはもはや攻略不可能とまで思われていたエンニュートのキャンディを史上初、物にした者が現れた瞬間であったからだ。
彼女の味を宿したキャンディが、僅かな塩気とそしてペパーミントの甘さを溶かさしては口中に広がっていく。
そんなキャンディを咥えたまま流されるがままのリットへと、エンニュートは次なる行動へと移っていた。
両ひざを折り、リットの腰元に鼻先が付くように蹲踞の姿勢で屈みこむと、エンニュートはリットのジーンズをから彼のペニスを取り出していた。
一連の濃厚なキスと、そしてエンニュートの愛液を味わったことによる効果かリットのペニスははち切れんばかりに勃起しては天を突いた。
その本能的な反応に、それを見上げるエンニュートの瞳はより一層に輝きを増す。
爬虫類型特有の細く先別れをした長い舌をそこへ巻きつかせると、客達の前にもかまわずにエンニュートはリットへのフェラチオを敢行した。
「あ、うわ……こんなところで……?」
衆人環視の元で行為に励んでしまうことに戸惑いを覚える反面、リットはエンニュートのテクニックとそれに伴う快感に翻弄されては、たちどころに周囲への羞恥心も薄れていく。
炎の穂先のよう小刻みに揺れる舌先が直にペニスの鈴口から尿道の中へと侵入する。
そのまま細身の形状に任せては尿道内を遡ってくる感触に晒されて肛門を収縮させるとリットと、一方ではこれ以上になく濃厚なペニスの味を舌先に感じるエンニュートは、その興奮から自身もまた膣へと指を這わせて激しくそこをかき乱す動きを始めた。
やがては口いっぱいにペニスを頬張り喉の奥までそれを迎え入れつつも、自慰による浅い絶頂を繰り返してはその場に愛液の飛沫を潮と上げるエンニュートの姿を、周囲の客達もまた次々と多種多様なカメラに収めていく。
斯様にストロボが飛び交っては自身の痴態が晒され、さらには言い逃れようもない証拠として残されていく状況に──不謹慎ながらもリットは強い興奮を覚えていた。
そしてそんな精神の昂りは如実に肉体へと現れるや、エンニュートの口中においてリットはペニスの背に激しい痛痒感を感じた。
「あ、あぁ……エンニュート、そろそろイキそうだよ」
小声でそれを伝えると、リットの全てに集中していたエンニュートは射精の予期にいっそう目を輝かせた。
そして想い人の精液をを求めてはさらにしゃぶり、そして幾重にも舌を巻きつかせては絞り上げる奉仕を激しくしていく。
斯様に、人間には到底不可能なテクニックに晒されてはもうリットにも抗いようが無かった。
無礼を承知でエンニュートの頭に両手を添えてかいぐると次の瞬間──
「あぁ……くうぅ……ッッ!」
リットはエンニュートの口中へと思いの限りに射精を果たしてしまうのだった。
エンニュートもまたそれを拒否するような真似はせず、リットの腰へ両手を添わせると正面から受け止めては口中に満ちる精液の香りとリットの体温に恍惚と表情を蕩けさせるのだった。
その絶頂に周囲から再び歓声が上がると、客達は口々にエンニュートへ顔を上げるように要求しては、射精を受け止めるメスの顔をカメラに収めようと下卑た声援を送る。
それに応えるようエンニュートもまたリットを解放し顔を上げると、まだ先端から残滓の雫を珠にして漏らし続ける亀頭をマズルの上へと誘導した。
そうしてその上で垂れ落ちる精液を受け止めては自身の顔へ亀頭をすり付けては、さも妖艶にしかしこれ以上にない充足感を宿した笑みを──
ザーメンのこびり付いた貌へと満たしては、エンニュートも満足気に舌なめずりをしてみせるのだった。
射精後の余韻に浸る間もなくリットは軽々とエンニュートの小脇にかかえられた。
持ち上げられる浮遊感に後に、体には突風が打ち付けられたが如き衝撃が走る。
次いで我に返れば今まで自分が居た席が遥か下方に在り、そこから自分を見上げているエルの姿が小さく見えていた。
おそらくはエンニュートがリットを抱えた後に跳躍したのだろう。
そのジャンプ後にエンニュートが降り立ったのは──どこでもない、ステージの最先端であった。
そこへリットを下ろすや、仰向けに寝そべる彼の上に乗り上げてエンニュートは深くキスをする。
互いの口中を行き来する舌を、味わうよう噛みしめ合っては再び唾液の交換をした。そのキスの激しさ・濃厚さたるや、もはや食事にすら通じるものがある。
そうしてキスを味わう傍らでエンニュートは器用にリットのシャツを脱がし、そしてジーンズも剥いでいく。
やがて再び二人の唇が離れる頃には、リットは全裸でステージ上に寝そべさせられていた。
屈んだ状態から改めてリットの裸体を見下ろしてはエンニュートもまた大きく鼻を鳴らした。
幾度となく舌なめずりをしては生唾を飲み込む様子から、彼女の興奮が伝わってくるようである。
やがてはリットに対して背を向けるようその体を跨ぎ直すと、屈みこむやエンニュートは自身の尻をリットの鼻先に突き付けてはシックスナインの体位を取る。
そしてリットがエンニュートの膣を慰めるよりも先に──彼女は目の前のペニスを大きく頬張るのであった。
リットのペニスを口にした瞬間、目の前の膣からは小さく潮が吹き上がり、その甘酸っぱい愛液でリットの顔を濡らす。
マーキングさながらに、フェロモンの原液に中てられてはリットの意識も朦朧となった。
そうして前後不覚になるとリットもまたエンニュートの膣にむしゃぶりついた。
もはや衆人環視の下で性交を晒すことへの抵抗や羞恥心などは、この時完全にリットの中から消え失せていた。
むしろ灼熱感すら覚えるスポットライトの下で自分達の一挙手一投足のこと如くに歓声が上がる感覚にはある種の快感すら覚えるほどである。
その高揚感をさらに感じたくて、そしていかに自分がエンニュートを愛しているのかを知らせたくて、なおさらにリットが彼女を責める手は激しさを増した。
陰唇をかき分けて膣口を開かせると、堰を切ったかのよう溢れ出した愛液がリットの胸元にしたり落ちた。
細身の彼女にふさわしい狭所の膣口は指一本ですら収まるものかと疑わしいほどに可憐で愛らしい。
まずはそこを解してやろうと、リットは舌先を突き立てては挿入さながらに膣口を舌で埋める。
膣に広がる粘液を帯びた熱の感触と、そして弾力のある舌先が膣壁を刮ぐ感触に強い快感を覚えては、その一瞬エンニュートもペニスから口を離しては背を仰け反らせて浅い絶頂に震える。
同時に膣からも止めどなく愛液が溢れ始めると、リットもまたそれを漏らさじと音を立てて吸い上げた。
口中に満ちるエンニュートの愛液に刺激されてペニスが幾度となく跳ね上がるのを目下に確認すると、再びエンニュートもまたそれを咥え込んでは愛撫し、そして慰める。
茎全体を咥え込みつつ、睾丸に沿わせた掌を窄めたりしてはそこもまた揉みほぐして存分に愛撫した。
それら複合された動きにペニスの痙攣が小刻みに忙しなくなるのを感じると、本能的にエンニュートは射精が近いことを悟る。
そしてその直前において、彼女は一切の奉仕を止めて身を起こした。
そうして背中越しに流し目を送ると、自分の下に敷いているリットを見遣り──エンニュートは妖艶に微笑む。
斯様にして見つめたままさらに腰を浮かせると、エンニュートは立ち膝のまま僅かに移動しては、自身の膣口を反り断つペニスの先端へと宛がう。
ついに交尾の瞬間を前にして、二人の胸中には弾けんばかりの興奮が渦巻いていた。
そのまま一息には挿入せず、そんな興奮を自身で煽るよう膣口に亀頭を擦り付けては焦らし、その瞬間をエンニュートは愉しんだ。
そしてついにペニスの先端を膣口へ埋めると──じっくりと、互いの肉の感触を確かめるようエンニュートは挿入を果たしていくのだった。
「あ、あぁ……熱い! 溶かされるッ!」
痩躯のエンニュートと相成ってはその膣の締め付けもまた生半ではない。
潤沢な愛液を纏わりつかせては肉の中を切り裂いて進むが如く感覚は単純なセックスなどではなく、熱によって互いの肉を溶かしては性器同士を癒着させるような感覚すらあった。
そしてその感覚を誰よりも強く感じているのは誰でもないエンニュートであった。
もはや悲鳴さながらの高い声を上げながら、無垢の膣道を人間のペニスに引き裂かれる痛みと──そしてそれ以上に身を貫く快感と悦びに吼えるエンニュートの声は、今までに聞いたどんな歌、どんな音、そしてどんな声よりも切なく聞くものの感性を刺激した。
ついには根元までリットのペニスを受け入れ、完全にその腰の上に座り込んで挿入を果たすと、二人は台風の目に入ったが如くそのしばしの静寂と余韻を味わうのだった。
しかしながら、それでも衝撃の続きを所望したのはエンニュートであった。
依然として繋がったまま両ひざを立て、M字に開脚するよう座り直すと──そこからエンニュートは激しいピストンを繰り出すのだった。
後ろ頭で両手を組み、スクワットさながらに行われる暴力的な騎乗位それに、受けとめるリットは馬乗りで殴られるかのような感覚にもなる。
それでもしかし自分もまたエンニュートを刺激してやれればと、リットもまた腰元で弾むエンニュートの臀部を両手にワシ掴むや──そうして彼女の尻が撃ち落とされるのに合わせ、リットもまた腰をしならせては下から突き上げる動きを加えた。
互いの尻と腰とが打ち合わせられる瞬間、亀頭はより深くエンニュートの体を突き上げては容赦なくその深部に鎮座する子宮口を押し潰した。
斯様な子宮へのダイレクトな衝撃は痛みにも似た快感を伴っては、さらなる繁殖の本能を刺激してはエンニュートに過多ともなるアドレナリンの放出を促す。
見目麗しい眉元をしかめ、マズルを伝って滴る洟すらも意に介せず口先を細めては、壊れた笛のよう低く吼え続けながら快感に耐えるエンニュートは、もはやこのシアターのスターや姫でもない一匹の浅ましいメスポケモンでしかなかった。
それでもしかしそれを見守る一同は魅了され、そして刺激された。
本能を解放した野獣の姿でさえ、エンニュートは美しかったのだ。
そしてその終わりの瞬間もまた唐突に訪れる。
一部の隙間も無く粘膜同士が結合した中において、互いの絶頂もまたシンクロを果たしていた。
リットの射精の予期はダイレクトにエンニュートにも伝わり、それを察知した肉体は膣内において子宮口を下げ始めては、その間口で亀頭を包み込む。
そこから激しく収縮し、そしてその動きにエンニュートの絶頂も同調してはより一層に強く締めあげた瞬間──リットもまた射精を果たした。
照らし付けるスポットライトの下、その生涯で最大級の快感に晒されたエンニュートは──その美しい肢体を弓なりに仰け反らせては絶頂に震える。
もはや見守る一同にも一切の声や言葉も無い。
ただ姫が美しく果てる様を見届けては一様に息を殺して嘆息するばかりだった。
やがては激しく痙攣させていた肉体も沈静化を迎えると、エンニュートはゆっくりと身を起こしてはリットのペニスを解放する。
立ち上がると膣口から抜け落ちたペニスは精魂尽き果てた様子で横たわり、その頭上においてはエンニュートが自身で精液まみれの膣を両手で広げ開帳をした。
両膝を折り、腿を水平に保っては開脚すると、今しがた種付けされた膣を観客達へと披露しては何処か自慢げに舌なめずりをするエンニュート。
そのお披露目にホールからは大歓声が上がった。
皆、時の止まった回廊から解放されたよう口々にエンニュートのまな板ショーを湛えてはチップを投げつけ、場に紙幣の紙吹雪を舞い上がらせる。
そんな観客達の熱気を依然ステージ上で横たわったままに聞きながら──リットは他人事のよう、自分が重大な過ちを犯してしまったことに気付くのだった。
ステージ上での交尾の後──改めてエンニュートの部屋へと連れ去られたリットは、更にそこにてめくるめく一夜を経験した。
考えつく限りの快感を試し、そして思い付く限りの快感を互いに享受した。
いつしか一体化したまま眠りに落ち、そして先に目覚めたリットは彼女を起こさぬよう退室しては帰路についたのだった。
すっかり快楽に溶かされて霞のかかった頭と、疲労甚だしい肉体ゆえに千鳥足で通路を往く。
どうやらここは先のエンニュートをはじめとするポケモンや、従業員が寝泊まりをする一角らしい。
外へ出るにはどう辿ったものかと思案に暮れていると、
「──あ、見つけた! おい、リット!」
背後からの急な声──振り返ればそこには、必死の形相でこちらへと走り寄ってくるエルの姿が見えた。
「やあ、エル。どうしたんだい、そんな慌てて?」
「やあ、じゃねーっての! 呑気なこと言ってねーでズラかるぞ、急げ!」
我ながら互いの温度差を滑稽に感じながらも、すっかり行為後の多幸感で満たされているリットには緊張感というものが無い。
「でもその前に支払いしないと。エンニュートのキャンディ代をまだ清算してないよ」
「もうそれどころの話じゃねーんだ……下手したら命まで取られちまうぞ」
「え……どういうことだい?」
ようやくにリットもその不穏な空気を察した。
「いいか? あのエンニュートはこの店の商品でありながら、絶対に売れない・売らないことが前提のポケモンだったんだ。それをどこの馬の骨とも知れないお前なんかが落としちまった……」
いわばエンニュートはこの店の象徴そのものだとエルは説明する。
常連の中には彼女を落とそう──その初物を手にしようと通い詰めては大金を積み重ねていた者達もいるのだ。
そのエンニュートが処女性を失うということは、そう言った上客達がこの店を見限って離れることもまた意味していた。
そしてプライド高い連中の中には、自分が成し得なかった偉業を達成したリットに嫉妬から報復を画策する者だって出るかもしれない。
しかし今において最も身近な危険性としては……
「この店のオーナーが、お前に落とし前を着けさせるってことだ」
注意深く周囲を警戒しながら、エルはそう断言した。
「店側が客に手を下すのか? あり得ないだろそんなの」
「さっき言った金持ち達の機嫌取りに、自分で手を下すって言うのは十分にあり得るぞ? 『俺達も被害者なんです。だから報復しておきました』っておもねりゃ、やつらの溜飲も下がるし、今後だって贔屓にしてもらえる可能性もある」
ここは表社会の正規店などではない、裏社会の非正規店なのだ──それを実感した時、さすがの世間知らずもまた顔色を失わずにはいられなかった。
その矢先、
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