【8】マホイップのおかし工場
目次
一口食べただけで──それがこの世に在らざるものであることを僕は気付いた。
具体的に言うのなら、このホイップクリームの味わいは、人の手での再現は不可能だ。
僕達パティシエ仲間の間でそのお菓子の存在が騒がれ出したのは12月になって間もない頃のことだった。
屋台にて路上販売されているというそのカップケーキが今、巷では評判になっているのだという。
個人の商いに加え、屋台という販売形式のそれは一か所に留まらず、いつだってランダムに出現しては数量限定の美味極まるカップケーキを売っていくのだという。
かねてよりそんなカップケーキ屋の存在は僕も耳にはしていたが、とはいえそれも『一日数個』や『神出鬼没』の言葉が演出する稀少性に目が霞んでいるだけだと高をくくっていた。
それゆえに、問題のケーキを味わった時の僕の衝撃は計り知れない。
土台になっているボトム生地は大したことはない。おそらくは市販のクッキーなどを加工して作ったものだろう。
問題はやはり『ホイップクリーム』だ。
何度舌の上で吟味をして咀嚼を繰り返しても、僕にはこのクリームの原材料が判断できない。
上白で、しかも口当たりのしっかりした一口目の印象を考えるならば、生来のクリームに植物由来性の材料を混ぜたコンパウンドクリームと観るのが妥当だが、吟味した時に感じられる滑らかな舌触りや、なおかつインパクトのあるコクは純正の乳脂によるものだ。
しかもこれは何らかの手が加えられてそう加工されたものなんかじゃない。
先にも述べた材料の比率だとか調理法などといったレべルで語られるものではないのだ。
例えるにこれは──このクリームをそのままに抽出させられる牛(あるいは動物)がいる以外には考えられなかった。
それからというもの、このホイップクリームの正体を探るべく僕の調査が始まった。
まずは同僚が買えたという場所を訪れてみる。
そこはなんてことはない公園だった。
天然の自然林を背後に控えるそこは、ベンチや石畳が整理されていたりと何とも小綺麗な印象を受ける。
聞くにこの場所で、昼過ぎ辺りに同僚はその屋台と遭遇をしたそうな……。
当然ながら、今さらに尋ねるこの場所にその屋台の影は無かった。
その後もさらに僕はネットの情報を頼りに調査を続ける。
巷で話題になっているとあって、その屋台の出現情報には事欠かなかった。運よくそれに遭遇した客は、漏れなくそのことを自身のSNSで発信してくれるからだ。
10件近い出没情報を纏めると、件の屋台が現れる範囲は実に円周3.5km──途方もない範囲に思える数字ではあるが、むしろこの事実が屋台の出現場所を特定させる確信をもたらせた。
この『3.5km』の数字がとある範囲のものと一致したことを僕は発見したからだ。
それこそは、初日に同僚が買った公園の背後に広がっていた自然林──国立天然公園の外周約3.5km・面積約58.3haの数値と合致していたからである。
あの屋台はこの公園の外周のいずれかに必ず出没をしていた。
となれば、その工房がこの自然林のどこかにあることもまた確定したことになる。
林の中のいずこかで作ったカップケーキを、その日のとある条件に合わせては外周のどこかに出て販売するというのがこのお菓子屋のルーチンと見受けられた。
そしてその出現場所における法則性もまた僕は発見する。
俗にいうホイップクリームの保持温度は10℃以下が適正とされる。その気温を越えてしまうとクリームそのものが熱によって柔らかくなってしまい品質が保てないからだ。
さらに小さな屋台で数量限定の少量を頒布するという販売方法を考えれば、屋台そのものに保冷の為の機材が詰まれていないことも察せられる。
すなわち、この販売員は当日の気候や気温から販売場所を決めていることに僕は確信を得ていた。
とりあえずはこの仮説を元に、僕は件の屋台との接触を得るべくに探索を始める。
当日とそして翌日の天気と気温を調べ、それの出現場所のヤマを張った。
先の気温のことを考えると、雨天もとより晴天であってもいけない。そして当日、見上げる空の雲の動きから予測した場所に赴くと──僕のヤマは的中した。
その屋台は、そこに在った。
場所は国道沿いの歩道の一角で、やはりあの自然公園を背後にしていた。
逸る気持ちを押さえて僕は近づき、そして店員に声を掛ける。
しかしながら件の屋台は予想よりもはるかに小さなものであった。
さながらベビーカーを二台ほど縦列した程度のそれは、『販売屋台』というよりは、木箱を搭載したミニリヤカーといった風である。
加えて店員もまた面妖だ。
背の丈は子供ほどで、目深にかぶったパティシエ帽と白衣、そして手に付けた白のゴム手袋といういで立ちのせいで、その中の人物像が一向に伺えない。
おまけに販売においても、その人物は一言として言葉を発しようとはしなかった。
今日のラインナップは従来のホイップクリームとそしてチョコクリームの二種類で、その売買のにおいても販売員は値段を尋ねる僕に立て揃えた指の数で金額を提示するといった具合だった。
ともあれ僕はその二種を買い求めると、屋台から少し離れた場所にまで下がってはそれを喫食した。
ホイップクリームのものを一口食べてまずは確信する。この屋台で間違いはない。
続いてチョコクリームのものを口にして──僕は低く呻った。
これまた味のバランスが絶妙だったからだ。
ややビターに仕上げられたそれもやはり、ありえないほどの完成度をそこの有していた。
ホイップクリームのものとは違い、格段に調理の工程が多くなるだろうチョコレートにも拘らず、やはり僕にはそのレシピも、そして原材料の特定すら何ひとつ分からない。
こうなると『完璧』であるそのこと自体がむしろ『不自然』だった。
いったいこれはどのように作られたものか、訊ねたところで応えてはもらえまい。ならば僕が執る手段は一つだけ……。
僕は当初から決めていた通りに、この屋台の後を付けることを決めた。
依然として国道で見守り続けているとその後、屋台の存在に気付いたハイカーが何台か車を止めては例のカップケーキを買い求めた。
そして想像通り、20個にも満たないその数を販売し終えると──件の販売員は屋台を引いては歩道柵のつなぎ目をすり抜けて、林の中へと入っていくのであった。
その後を、僕も一定の距離を以て追う。
小柄な見た目通りにその歩みは遅く、かなり離れた場所からであってもこの尾行は容易だった。
しばし獣道を進んでいくと──不意に、甘い香りを感じては僕も息を飲む。
そして同時、遠くに追う屋台の背中を通り越して、なにやら尖塔の影が立ち上がって来るのを確認する。
近づくほどにそれは大きくなり、やがてはその全貌を見上げられるまで近づくと、僕は歩みを止めた。
その光景に僕は目を見開く。
目の前には白亜の城が──その所々をお菓子やグミでデコレーションした、お菓子の城がそびえたっていたからだ。
それと同時、僕はふいな衝撃を受けて我に返る。
そうして跳ね上がるように振り返るも、背後には誰もいない。……否、その人物達は小さすぎるがゆえに最初、僕の視界に入ってこなかったのだ。
改めて見るそこには──足元に色彩とりどりのマホイップ達が、僕を取り囲んでいるのだった。
目の前には色とりどり5匹のマホイップが僕を見上げていた。
不思議そうにこちらを見上げてくる表情は、淡い瞳の色合いも相成ってこの遭遇にどんな感情を抱いているのか判断に難い。
ともあれこの子達が今しがた、背後から僕の尻をつついたようである。
そしてさらに別の気配もまた感じては、再び建物へ振り返ると──その眺めに僕は絶句した。
そこにはやはりマホイップ達が居た訳だが、今度はその数の桁が違う。
いつの間にこんなに出てきたものか、目の前には視界一杯を占める無数のマホイップ達が僕を見上げいた。しかもその一匹ずつがみんな違う色合いからか、目の前にはさながらグラデーション模様の絨毯が広げられているような光景だった。
その眺めに改めて僕は恐怖する。
ここは……天然のマホイップの巣だ。
知らなかったとはいえ、僕は不用意にもそこへ足を踏み入れてしまったのだった。
やがて、再び背後から尻をつつかれた。
急かすようなその仕草からどうやら建物へと進めという意味らしい。
下手に逃げ出して猛襲を受けてはひとたまりもない……僕は隙を伺いつつも彼女達の指示に従った。
言われるまま件の城に入ると、そこの眺めに僕は我を忘れては視線を巡らす。
中はそのどれもがクリームで作られた家具や什器に満たされていた。足元ももっとおぼつかないものかと思いきや、飴細工であろうそこはちょっとやそっと飛び跳ねた程度ではびくともしない硬度で練り固められている。
しばしそんな中を進むと途端に視界が開けた。
そして目の前の光景に息を飲む。
そこには一列に並んだマホイップ達が、工程別に様々な作業をしていた。
一か所ではクッキーを潰しては磨り潰し、そして一か所ではそれを型に詰めてカップケーキの土台を成型している。さらにその土台が隣の列へと送られると、そこに待機していたマホイップ達が自身の手から出したクリームをそこへと盛り付けていた。
そう……この場所こそが、例のカップケーキの製造工場だった。
それを目の当たりにして僕もまた頷く。あのクリームの味や感触の正体はこういうことだったのだ。
製造方法も分からぬほどに完成されたクリームは、そのもの自体がマホイップの体から出されたものであった。なるほど、分からない訳だ。
そもそもはマホイップが自身のクリームを人に提供すること自体が珍しい。普段ならば懐いた相手にしか振舞わないからである。
と、こんな物を僕に見せてどうするつもりなのだろうか?
そんなことにも気づきながら、素知らぬ顔で一連の製造工程を眺めていると、さらに歩くように促される。
やがて僕はその製造ラインの一角へと誘導され、さらには先程のクッキーの部署に落ち着いた。
そこにて有無を言わさず手渡されるクッキー。彼女らと同じ作業をしろということなのだろうか? それともこれを食べてみろと?
ともあれまずは貰い受けたそれを僕は一口齧った。
一口食べて、同時に鼻を鳴らす。
やはりこのクッキー自体は大したことが無い。初めて彼女達のカップケーキを食べた時にもそれは感じた事である。
「ちょっとこれ借りるよ。それから……キミでいいや。ここにキミのクリームを少しくれるかい?」
傍らにあった乳白色のボウルを引き寄せると、テーブル上に置かれていたクッキー数個を頬り込む。そしてさらにそこへ、僕は傍らにいたマホイップからボウルの中へとクリームを少量入れてくるように頼んでみた。
思いのほか意思疎通は可能なようで、思惑通りにクリームもまたもらい受けると僕はそこでの作業を開始する。
先に述べたボトム生地の欠点と、そしてその改善方法もまた僕は気付いていた。
カップケーキの土台となっていたあのボトム生地には圧倒的に水分が足りないのだ。
だから口にした時に、この土台部分だけが先に崩壊してしまい、クリームとの一体感を失くしてしまう。
クリームを加えたクッキーを粉々に砕き、それを型に詰めて成型すると僕はそれを強く押し固めていく。
あのボトム生地の欠点はここにもある。
非力な彼女達では、強く生地を固めることが出来ない。先の水分不足に加えて、非力な成型法で作られていたがゆえに、あの不完全なボトム生地が出来上がっていたのだ。
「……よし、こんなもんかな?」
言いながら完成した土台を掲げて確認していると、傍らに控えるマホイップ達が上着の裾を引いた。
その土台を自分達にも見せろということらしい。
そうして自作のボトム生地を手渡すと、それを手にした一匹の周りには途端に他のマホイップ達も集まっては注目した。
数人の手に回しながらその硬さを確かめては一同も驚きの声を上げる。その声を聴いては僕もそうだろうと納得する。
先の彼女達の土台ではホイップクリームを盛ることはおろか、次の工程に運ぶ途中であっても崩れてしまっていたことだろう。
一日に数えるほどの量しか生産できない理由はここにあった訳だ。
やがてはそんな土台生地が一巡して戻ってくると、再び彼女達は僕に向き直る。
そしてこれまたクリームを固めて作ったであろうすりこぎ棒を手渡して来るや、一同はそれぞれのラインへと散っていった。
そしてそこにて始まる作業の中で、僕は我を見失う。
いったい僕にどうしろと?
茫然自失と立ち尽くしていると、傍らの一匹が僕の目の前に大量のクッキーを運んできた。
そうして目の前のテーブルに山とされたクッキーを前にしながら……これからの僕は彼女達の一員として、ここでカップケーキ造りを強いられるということを理解したのだった。
※ 注意!
この章以降には ポケモンの排泄物を飲食する 表現があります。
その後、状況に流されるまま僕は数時間の作業をした。
ひたすらにクッキーを砕いてボトム生地を成型する傍ら、一緒に作業するマホイップ達にはその作業法のレクチャーなどもする。
こう言っては何だけど……存外にこの一時は僕にとって楽しい時間となった。
やがては気付くと、窓から望む外の光景は真っ暗になっていた。
冬というとこもあって陽が沈むのも早いのだ。いったい今は何時なんだろうか?
そんなことを考えてると、一匹のマホイップが高い声を上げた。
どこか優しい笛の音を思わせるような、甲高くも柔らかい響きのそれ──その声が工場に響き渡ると、他のマホイップ達も作業の手を止めては一斉にその方向に振りむく。
やがてはそれぞれに席を立って散会していく様子に、僕もようやく帰れるのかと安堵のため息をひとつ。
……が、しかしこれでまだ終わろうはずもない。
思っていた矢先、僕もまた尻を押されては別の場所への移動を促された。
今度はいったい何だ?
そうして為されるがままに歩かされると、またも一同が会せられるような大広間へと通された。
先ほどの工場とは違い、ここは巨大な円卓をそれぞれのマホイップ達がぐるりと囲むように出来ている。
そしてそんなテーブルの上に満載された色とりどりのフルーツの山を見るに、どうやらここが食堂で、そして僕はその食事会に招待されたことを悟るのだった。
そして想像通りそこの一角に座らされると、とたんに僕の前に大量のフルーツや木の実が運ばれてくる。
やがては他のメンバーが全員席に着くや、一同は一斉に食事を始めるのだった。
妖精然とした淡くて儚げな見た目とは裏腹にみな食欲旺盛で、音を立てては無心で食事をする様子に僕は圧倒される。
とはいえしかし、その眺めに安堵もまたしていた。
どうやら僕が食料にされることもなさそうだ。
あとはどのタイミングでここを抜け出すかに思いを巡らせながら、フルーツのひとつを齧ったその時である。
隣に腰かけていた一匹が不意に僕の裾を引いた。
口の周りをフルーツの果汁まみれにした彼女の口元をぬぐってやりながら何事か尋ねると、彼女は短い手足を振り回しては何かのジェスチャーを僕に伝えようとしてくる。
やがてそれが僕の手の中のフルーツを指している物だと分かり、これが欲しいのかと察して差し出すと──彼女はその上に手をかざしては次の瞬間、まるで手品のようにそこからホイップクリームを抽出しては僕の果物に盛り付けてくれた。
どうやらサービスをしてくれたらしい。
僕もそれにお礼を言って、そのクリームの盛られたフルーツを一口齧っては……その味わいに目を剥いた。
もはやそれは、元のフルーツとは遠くかけ離れた味わいとなっていた。
ただ甘いだけではなく、クリームの粘度による口当たりやコクが見事にマッチしている。
咀嚼するごとに口中で撹拌されては味わいを変えるそれへ夢中になって、僕は瞬く間に食べてしまう。
食べ終わった後もその余韻に浸っていると、テーブルの上には新たな影が動くの感じて僕も顔を上げた。
また新たなフルーツが運ばれてきたのかと思いきや、顔前にいたのは行儀悪くもテーブルの上に立ちつくしたマホイップの一匹であった。
そしてよくよく見て見ると僕の目の前にはいつの間にやら大皿が一枚用意されていて、僕と件のマホイップはそれを挟むように対峙していた。
一体何をするものやらと見守っていると、やがてはマホイップはこちらに背中を向ける。
そうして腰を折りお尻をこちらへと突き出すと、そのドレス然としたスカートのすそをめくり上げた。
あくまで『ドレス然』であるそこは生体部分の一部であり、スカートの下にはみっちりと肉で埋められている。
その中央には小さな穴がひとつ穿たれていて、それが僕に向けられては幾度となく引くついているのだった。
位置的にはちょうど人間で言うところの膣や肛門に当たる場所だろうか。
そんなものを晒して何をするものかと見守り続けていると……やがてはその穴の淵が蠕動を始め、そこから黄色い物体が頭を出した。
同時にそれを出すマホイップからは低いうなり声もまた響きだす……それと今の行為を合わせるにこれは、『排泄』以外の何物でも無かった。
そのあまりの展開にただ驚愕しては見守り続けるしかない僕の目の前に、ようやくそれがひり落される。
冬の寒さもあってか、皿の上で暖か気に湯気を立てるそれ……。
黄褐色の物体は先細りの円柱形で、マホイップの胎内で暖められていたことと、さらにはひり出しの際に肛門のふちで角が丸められては、元の物体が何であったのか判別出来なくなっている。
最初こそは嫌悪の思いでそれを見守っていた僕であったが、不意に鼻孔にその湯気が漂うや──その香りに途端に僕の嫌悪は吹き飛んだ。
それこそは温められたバナナの甘く深い香りに他ならなかったからだ。
さらに気付けば、目の前には別のマホイップ達もまた集まり出してきては先の子と同じよう皿の上に身を屈め、皆一様に同様の排泄を始めている。
黒ずんだ色合いの子からはチョコと思しき欠片が散りばめられたバナナが、そして黄色の色合いが深い体色の子からはキャラメルを思わせる苦味を帯びた香ばしさのそれらが次々と目の前にはひり出されていった。
そうして計三本のホットバナナが目の前に出されると──マホイップ達の視線は僕へと集中する。
その視線が意味するところは、期待だ──。
自分達のもてなしをこの客人が受け入れてくれるかの期待を彼女達は僕に向けている。
気付けば飴細工製のフォークもまた用意されていた。
僕は自分の意志とは別に、さながら操られるかのようそれを手に取ると……その切っ先を皿の上のバナナへと向けた。
一番最初にひり出されたそれの上にフォークの先端を着地させると、柔らかく温められたそれは雲の上に乗るかのよう沈んではフォークの重みだけで切り取られてしまう。
そうして切り分けられた欠片を切っ先で救い上げ、もはやなるようになれとそれを口に含んだ瞬間──僕は自分の脳が沸騰するかのような感覚に見舞われた。
深く豊饒なその香りは、元のバナナをどんなに熟成させようとも得られない極上の甘みと融けるような舌触りをそこに生み出していた。
夢中になってそれを食べると、次にはチョコのそれにも迷わずフォークを突き立てる。
もはや切り分けるなんてマネはせず、一本丸々をすくい上げては頬張ると、今度は濃厚なチョコの苦みが唾液腺を崩壊させては、その美味なる味わいを口中いっぱいに広げた。
そうして夢中になってそれを食べていると、僕の食いっぷりに気をよくしたのか次々とマホイップ達がテーブルに上がり出してきては、目の前の皿にバナナをひり出していく。
それを前にする僕もまた、わんこそばよろしくに出される傍からそれを頬張り、しまいにはその食事に夢中になるがあまり、まだひり出し途中のマホイップのアナルへ直接口を付けては直に吸い出すまでした。
僕の唇からの吸引と、さらには残らず食してやろうという浅ましさから激しく舌を這わせてくる動きにマホイップも甲高い声を上げる。
以降は……食器などは介さず、皆直接に肛門から提供されるそれを僕は貪っていった。
さながら麻薬同然の味の魅惑とそして急激に上がっていく血糖値の波に晒されて、いつしか僕も意識を失った。
それでもしかし倒れる僕の顔の上には、次々とマホイップ達がバナナを排泄していく……。
こんな、一見したならば地獄のような光景──
それを理解しつつも眠りゆくその時の僕は……ひり出され続けるバナナの熱を顔中に感じながら、例えようのない幸福と満腹感に満たされては意識を失うのだった。
眠り落ちた瞬間と直接つながったかのよう、僕は突如として覚醒する。
その衝撃に驚いて身を起こすと──周囲にはまたも大量のマホイップ達が居て、僕を取り囲んでは不思議そうに見上げていた。
同時に自分が一糸まとわぬ全裸であることにも気付く。そしてさらに視線を足元へと巡らせれば……
「う……うわぁッ? な、なんなの!?」
両脚を埋め尽くすほどに、僕の下半身へ群がっては乗り上がるマホイップ達を見つけてさらに驚愕した。
最初は僕を温めてくれているのかと思った。
12月のこの時期、屋外とはいえ全裸でいるにもかかわらずまったく寒さを感じなかったからだ。
しかしそうした暖房の役割は、あくまで副次的な効果なのだと気付く。
僕の下半身に大量に乗り上げている彼女達の本当の目的は……
──僕の体を舐めてるの……?
見下ろすそこには僕の腿は元より、足裏の指の股にまで舌を這わせては僕の体中を舐めているマホイップ達の姿であった。
そして同時にそんな舌先は──僕のペニスにまで及んでいた。
こちらには3匹のマホイップが陣取っては陰茎や陰嚢を交互に舐めまわしている。
それを視認するや、僕の体にも刺激の波が走る。
各所から来るむず痒さの中にもしかし、ペニスそこから感じる刺激だけは明らかに別な快感を伴ったものであった。
そうした意識と肉体とがシンクロを果たすと、途端にその反応は体へと変化を及ぼす。
ペニスはさながらに、草むらからヘビが鎌首を持ち上げるかのよう起き上がってきては勃起した。
その肉体の変化にマホイップ達は揃って声を上げる。同時、皆一斉にそそり立つ僕のペニスへと群がった。
亀頭の先端やその脇、もはや場所の見境も無しに柔らかなマホイップ達の唇が吸い付いてくるとあっては、そこに激しい快感もまた生まれる。
そしてしばしそれに晒されていると……
「あ、あぁ……ダメ……ダメぇ!」
僕はあっけなく達してしまった。
亀頭の先から精液が打ち出されるや、そこを咥えていたマホイップも口内射精に驚いては口を離す。
同時に解放された亀頭からは噴水の如くに精液が吹き上がっては、その久方ぶりの快感に僕もまた忘我する。
一方でマホイップ達は大騒ぎだ。
揃って声を上げると降り注ぐ僕の精液を口にして飲み込んでは、さらにいまだ緩やかに射精を続ける僕のペニスにもさらに群がる。
見下ろす下半身はもはや山と化したマホイップ達の背中に覆われて、自分のペニスがその中でどうなっているのかすら見えない。
それでもペニスに先ほど以上の力と執拗さで唇を吸いつけられている触覚だけは強く伝わってくる。尿道は鈴口から強く吸われるがあまり、陰嚢と肛門が痛痒いほどに収縮を繰り返している。
しばしそうされていると、途端に群がっていたマホイップ達の山が崩れた。
その中心から出てきたペニスはすっかり萎んでいて、こちらを一斉に注視してくるマホイップ達の視線からも『もう終わりなの?』といった意図が感じられた。
「はぁはぁ……ごめんよ。疲れちゃって、連続は無理なんだ……」
そう謝る僕に対し、マホイップ達は何やら話し合いだしてはしきりに頷き合う仕草をする。
やがて僕の前に数匹のマホイップ達が歩み出してきた。
いったい何が始まるものやら見守っていると、そのうちの黄色い個体の子がドレスの裾をまくり上げては、僕の目の前のあの排泄口を晒した。
ピンク色の柔肉の中に一点、赤く充血した肛門が外気に反応してはその淵をひくつかせている。
そこに対し、傍らの一匹がその間口を手の平で塞いだ。そして次の瞬間、斯様にして肛門を塞がれたマホイップが大きく声を上げた。
突然その声に驚く僕。
そして何が起きているものか注意深く観察するに……どうやら肛門を塞いでいるマホイップの手の平から、浣腸よろしくに大量のクリームが胎内へと注がれているらしかった。
やがては押さえつけていた手の平の淵からクリームが溢れ出して激しく飛び散ると、マホイップの直腸が完全に満たされたことが分かる。
よほど大量のクリームを押し込まれたのか、必死に力を込めて閉じているだろうそこからは、体温に溶かされたクリームの雫が泡を立てては漏れだしていた。
依然として何も分からず見守り続ける僕に対し、突如として周囲にいた数匹が抱き着いてきては僕の頭を両脇からホールドする。
それと同時に左右から伸びてきた幾本もの腕が僕の口中へ侵入してきたかと思うと、数匹がかりでマホイップ達は僕の顎を大きく開かせてしまうのだった。
そんな開け放たれたそこに狙いを定めては、さながら後退駐車のよう振り返り確認をしながらにじり寄るマホイップ……。
それらの統率された行動に、彼女達が何をしたいのかようやくに僕は気付いた。
かのマホイップは、自分の直腸内に収められたクリームを直に僕へ食べさせるつもりだ。
「んッ……んん! ま、待っへ……!」
それを知り抵抗しようとするも、既に体には思うような力が入らないことにも気付く。
おそらくは先に食べたマホイップ達のクリームには、他の動物を鎮静化させる成分が含まれていたのだろう。本来はリラックス効果を高めるためのそれも、今となっては僕の身を拘束する為の薬剤以外なにものでもなかった。
やがては鼻先の距離までマホイップのアナルが肉薄し、そして開け放たれた僕の口にめがけて──勢いよく直腸内のそれはぶちまけられた。
その勢いゆえに、最初は蜘蛛の糸のようクリームは細く打ち出されては僕の舌に着地する。
僕の頭を押さえるマホイップ達も、打ち付けられるそのクリームに対して器用に僕の頭を左右に振ってはと、それが残らず口に入るようサポートもする。
やがては勢いが弱まり、腹腔から押し出される空気の圧にクリームが撹拌されると、周囲には粘着質な水音を響かせると共にアナルからはじけた甘い飛沫を僕の顔へ存分に吹き付けた。
しまいにはそこからさらに尻を突き出させるや、ディープキスさながらに僕の唇と自身のアナルとを接触させては、腹腔に残る最後の一滴までひり出そうと躍起になる。
褐色に黄ばんだクリームはキャラメルやカラメルを煮焦がしたような深い苦みを伴い、そこへ僅かに混じる酸味が甘み全体の中で際立っては得も言えぬ味わいをそこに醸し出していた。
そして飲み下したそれが完全に胃に収まるや──途端、臓腑が焼けるような熱を僕は体の芯に感じた。
さながら今呑み下したクリームが血流に乗って体内を駆け巡るような血流の感覚……腹から生じたそれが実感できるほどの熱を以て下半身へと降りていき、そしてそれがペニスで収束するや──僕は再びに勃起を果たしていた。
その復活に再び声を上げてそこに群がるマホイップ達。
思うに先のクリームは、強壮剤だったのだろう。
その効果を持つマホイップの胎内から直に生成されたそれを対象に食させることで、今のような効果をもたらせたのだと考えられる。
そしてもしそうなのだとしたら………そう考えた時、僕は恐ろしい想像をそこに思い描いてしまうのだった。
僕は、生きてこの工場を──……否、このマホイップの巣から生還できるものなのだろうか?
僕の意思や体力などおかまいなしに、彼女達は強壮剤を僕へ投与しては精を絞り続けるのではないか?
そもそもがあのカップケーキの路上販売からが、これに興味を持って引き寄せられる♂を誘い込むための罠だったのだとしたら………。
そんな妄想を逞しくする僕の前に、突如としてマホイップの一匹が顔を寄せた。
鼻先が触れ合わんばかりの距離で不思議そうに僕を見つめる彼女は──突如として笑った。
まるで僕に『ここへ来てくれてありがとう』とでもいうかのよう微笑み、そして口づけをする。
激しく舌同士を絡めると、彼女の口中からも溢れ出してきたクリームが僕の喉へと流し込まれる。
甘美なその味わいに再び僕は意識が朦朧とするのを感じた。
そして同時に、こうしてこの場所で死ぬまで快楽と甘みの中に浴して飼われ続けるのも………まんざらでもないかと、僕は考えてしまうのだった。
風の強い夜は眠れなくなる……こんな日は特にそうだ。
僕は電灯の一切消された室内から夜空を見上げる。
月明かりの眩い今宵などは、電気に頼らなくとも月光で十分に室内は見渡せた。
しばし所在もなげに家の中を彷徨った後、淹れたはいいが飲むことなく弄んでいるマグカップを両手にしたまま……僕はリビングのソファに落ち着いた。
手の中を見下ろし、ココアの水面に映る自分を幾度となく揺らしては崩してを繰り返した後、意を決して一口すする。
僅かな量ではあったが、それでも口中に満ちる腐臭に辟易して僕はため息をついた。
マホイップの工場から僕が連れ出されたのはもう半年も前の話だ。
当時、消息不明なっていた僕に仲間達が捜索願を届け出、直前の目撃情報からあの工場が発見されるに至った。
もっとも救出された時のことなんて僕は微塵も覚えてはいない。
渇き、飢餓、窒息するような閉塞感、そしてひどい倦怠感と鐘が共鳴のように体中を巡り続ける鈍痛……それらのありとあらゆる苦しみの中で覚醒した僕はむしろ、保護された病院こそが何者か悪意の第三者に攫われた結果ではないものかと思ったくらいだった。
発見当時の僕は、あの工場においてマホイップの群れの中に埋もれていたと聞いた。
捜索隊は最初、そこに人間がいるとは思わずに群がるマホイップ達を追い払ったのだそうな。
元は無力な個体達の集まりである。
さしたる抵抗も無く、蜘蛛の子を散らすよう逃げ出していくそんなマホイップの下に……僕を発見した。
肉体的な損傷は見られなかったものの、その時の僕は完全に自我を喪失しており、おおよそ会話らしい会話も不可能ならば、第一発見者の隊員に至っては既に僕が死んでいるものだとすら思ったようである。
その後、横たわる僕の血色が良かったこととそして瞳孔に反応があったことから生存を確認──急遽搬送されたことから、僕の失踪事件は世に知れ渡ることとなる。
連日様々なメディアが『奇跡の生還』などと囃し立てたが、当人である僕にとってのその後はまさに筆舌に尽くしがたい地獄の日々の始まりでもあった。
僕からは正常な味覚が失われていた。
一部の果物や野菜を覗いては、何を食べても鼻腔には腐臭が漂う様になった。加えて食感や喉ごしも、まるで腐肉を咀嚼するかのような感覚に苛まれて、肉類はその一切が食べること叶わなくなっていた。
おそらくはマホイップのクリームによる中毒症状であると診断された。
あの工場においてマホイップ達に飼われていた僕は、その食事の大半を彼女達から提供されるクリームや食料で補っていた。
果物や野菜といった一般的なものでさえマホイップ達は一度体内に取り込み、その腹腔内で消化や醸成させたものを、再び嘔吐や排便によって排出しては僕に与えていた。
既にクリームの中毒状態となっていた僕は、それらを喜んで享受したことだろう。
……今も時折りフラッシュバックする記憶の片鱗には、仰向けになって開け放たれた僕の口内に向かって食事を嘔吐をするマホイップや、はたまた鼻先に突き付けられた花弁のようなアナルから、その淵を広げてひり落される排泄物の光景を思い出されることがあった。
長期間にわたるそのクリームの摂取により、脳の一部が機能不全を起こしたことで救出後の僕の味覚は壊滅的なものとなってしまった。
ならばと、マホイップの与えたクリームの代替品として従来の生クリームやカスタードクリームの類を食料としても試みたが……むしろこちらは味以上に精神的な反応が強く出る結果となった。
事もあろうか僕は、バニラビーンズの甘い香りに中てられると勃起し、そして果てには射精にまでを至るという特異な体質となっていた。
そこに意志や快感は存在しない──おそらくはあの工場において、マホイップ達が僕の肉体をそのように改造してしまったのだろう。この後遺症は今現在ですら治っていない。
当然のことながら、パティシエ業は退職を余儀なくされた。
しかしながら生活費に困るようなことはない。
意外だったのはこうした『ポケモン被害』による心身の後遺症には、国から補助や助成金といったものの支給があるのだった。……とはいえ、結局は壊れた僕の味覚もそして心も癒されることは無い訳だが。
救出されて以降、僕は物音に対して敏感になった。……場合によっては幻聴や幻視の類に悩まされてもいる。
具体的には生活の場のありとあらゆる場所で彼女達──マホイップの笑い声や気配を感じてしまうのだ。
静寂の中に居て、晩鐘の余韻のように響いてくる空気の膨張音を聞いていると、その中にマホイップ達の笑い声がかすかに残響しては尾を引いた。
あるいは物陰から話し合うような声が聞こえてきたり、ふと視界を移動した際には目の端に走り去る小さな影を捉えたような気がして僕はそこを凝視してしまう。
そんな気配を感じる時、僕の不整脈はこれ以上になく乱れては昂るのだった。
そして今宵もまた……ソファに座る僕は、数メートル先のテレビ台の影に蠢く何かを見つめている。
両手にマグカップを握りしめたままの姿は一見したならば落ち着き払っているようにも見えようが、その内心は叫び出したいほどの衝動に見舞われていた。
それでも『あれは幻だ』と自分に言い聞かせては必死に内なる自分を押さえつけるのだ。……もう、こんな生活にはほとほと疲れ果ててしまった。
そして今もまた、そんな発作が収まってくれることを祈りながらそこを見守っていた僕だったが──今日のそれはいつもと様子が違った。
平素日頃の幻影は瞬間的なものですぐに消えてしまうのに、いま視線の先に捉えているものはなおも動き続けているのだ。
いよいよ以て狂ってしまったかとさらに目を凝らす僕の視界に──物陰のそれは突如として姿を現せた。
テレビ台の物陰から遠慮がちに顔を出してこちらを覗き見たのは──間違いなくマホイップであった。
それを確認し、僕は急激に立ち上がる。
手からこぼれたマグカップが足元で弾んでは、中身のココアを放射線状に床へ広がる。
そんな僕を確認してはおずおずをそこから出てきては、僕の前に歩み出してくるマホイップ。
質量を思わせる足音も、体温を感じさせるまなざしも、そして……──あの甘く芳しい香りも、間違いなく実態の彼女であった。
その接近を前に思わず後ずさる僕は再びソファへと落ち込んだ。
やがてマホイップは完全に僕の元まで辿り着き、そして膝の上にさえ登ってくると……僕の両頬に手を添えてはまっすぐに僕を見つめた。
既に重度の摂食障害から骨と皮ばかりになっていた僕の頬や顎の輪郭を幾度となく暖かい手でさすってくれると次の瞬間、彼女は小首をかしげては僕にキスをした。
舌同士を絡ませてしっかりと僕の唇を開けさせると同時、マホイップの口中から溢れだしたクリームが僕の喉頭に流れ込んでくるのが分かった。
そして生暖かい流れのそれを舌や喉に感じた僕は大きく目を見開く。
味がある──甘く、そして強い旨味を感じる『食料』の味わいだ。
僕はその小さな体を抱きしめると狂ったように彼女の口を吸った。そんな僕に応えるかのよう、マホイップもまた精一杯に胎内のクリームを吐き出しては僕に給仕をしてくれる。
しばし久方ぶりの食事を満喫すると、ようやく余裕を取り戻した僕は周囲の変化にも気が付く。
あちこちでささやかれる話し声、忍び寄る足音達……マホイップを手に抱いたまま立ち上がると、僕は周囲の物陰から次々と歩み出てくるマホイップ達を見つけては愕然とした。
どこから侵入してきたものか、すでにリビングいっぱいになったマホイップ達が一堂に僕を見上げる光景は、あの工場の再現でもあった。
その中において、僕の顔は大きく歪む。
吹き出した汗と流れる涙が瞬く間に顔全体を濡らした。
そうして激しく震える声を押さえながらに僕は……──
「……遅いよ、みんな」
ようやく、望み通りに迎えが来てくれたことへ僕は久方ぶりの笑顔を見せるのだった……
途端、彼女達は僕に群がってはその再開を喜ぶように頭を撫でてくれたり、はたまた痩せた僕を心配した別の子は、自分のクリームもまた僕に提供してくれたりもした……
あの日以降、彼女達もまた僕のことを探していてくれたのだ……
もはや群れの一員と認めてくれた僕をどうにか取り戻そうと周囲を窺いながら接触の機会を待った……そして今、ようやくに僕達はまた巡り会えたのだった……
幸せだった………また彼女達との生活に戻れる……
食事の心配や、周囲の目や将来の自分など気にすることなく、また彼女達と生活ができる……
一緒に食事をしたり、はたまた新しいお菓子を開発しては売り歩くなんてのも悪くない……
僕は久方ぶりに感じる未来への希望に酔いしれては、眩暈がするくらいに笑うのだった……
「ははは……待って、ここじゃマズいよ……ここで証拠を残したら、また捜索されちゃう」
僕の身を案じてか、次から次へと押し寄せては自分のクリームを分け与えてくれるマホイップ達に僕も笑顔で応える……
そしてリビングを見渡すと、壁面に設けられた窓が僅かに開けられているのに気づいた……
ふとそこから下を望むと、近くには非常階段も望める建物の下にこれまた無数の仲間達が居た……どうやらここから登って来たらしい……
そうして下を覗き込む僕の尻を誰かがぐいと押した……
どうやらここから飛び降りろとのことらしい……
改めて見下ろす眺めに息を飲む……なにせここは4階だ……
躊躇して見下ろし続けていると、今まで腕に抱いていた子が僕の胸を蹴っては宙に身を躍らせた……
当然のそれに驚いては落ちていく彼女に視線を向けると──やがてはその下で、数多く群がった仲間達にエアクッションよろしくに抱き留められ、階下から彼女は手を振った……
そうか……これならば安心だ……何も怖くない……
窓から斜に差し込む月光は、さながら未来へと僕を導いてくれる階段のように見えた……
その希望を辿り、僕は窓のへりに足を掛ける……
室内にいたマホイップ達も僕の体に乗り上げては、みんなで帰ろうと声を合わせた……
そうして階下にマホイップ達を捉えると、僕は迷うことなく月明りの夜空へと身を躍らせた……
全てがひどく緩慢に動いていた……
風も重力も音すらも無い空間に、僕とマホイップ達だけが浮かんでいる……
そうしてスカイダイビングよろしくに宙空で皆が手を繋ぎ円になると、僕らは目一杯に体を広げては目下の仲間達の元へと落ちていく……
ただいま……ようやく帰れるよ……もうどこにも行かない……今度こそ僕は、永遠に君達と一緒に生きるんだ……
永かった落下は終焉を迎え、そして地上にて彼女達に抱き留められた瞬間──
今までに嗅いだこともないくらいの勢いと濃厚さで、甘く切ないマホイップの香りが爆発するのを僕は感じ、た………………
【 マホイップのおかし工場・完 】
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