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#include(第七回仮面小説大会情報窓・官能部門,notitle)
Writer:[[&fervor>&fervor]]
この小説には&color(white){産卵};の表現が含まれています。
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******ed up, and then, *****ed out [#e53466aa]
*raveled up, and then, raveled out [#e53466aa]
 赤い糸。主人から手渡されたそれを私は手に取り、今一度眺める。そもそも育て屋という所自体初めての私に、いきなりこんな物を押しつけたのは一体どういうわけだろうか。
「あいつはツンとしてるし、正直ちょっと接しづらいかもしれないけど……ま、頑張ってくれ!」
 なんて声をかけられて、肩をバシバシ叩かれたのが随分と前の様な気がする。主人は前から適当な所が多かったけど、それにしてもちょっと説明不足過ぎやしないだろうか。
 川辺に建てられた小さな家屋と、その後ろにある大きな庭。私以外にも何匹かのポケモンが同じように預けられていて、思い思いに走り回ったり、休んだり、体を鍛えたり。
夜の寝床にするためだろうか、藁を重ねて屋根を拵え、仕切りで隔てた簡易的な小屋もそれなりの数用意されている。人間達はここを育て屋、と呼んでいた。
 トレーナーの元を離れ、かつ経験を積んでより強くなるための施設、らしいけれど。どうも主人はそれが目的で私を預けたわけじゃないみたいだ。
同じく主人が預けている雄のニャオニクスが、この育て屋のどこかにいる。そいつに会って欲しい、後は教えてくれるから、と主人は言っていた。
 夕日がきらきらと水面に反射して、世界がオレンジの衣を纏っている。このまま夜になってしまったら出会うことはきっと難しくなってしまう。
そうなる前に探さなきゃ、と私は腰を下ろしていた切り株から立ち上がる。ぎゅっと手に赤い糸を握って、私はひとまず木の生い茂る方へと足を運んでみることにした。

   ☆

 他のポケモン達に聞いてみた結果、どうやら例のニャオニクスを見たポケモンはほとんどいないらしい。唯一あった目撃情報は小屋の中に顔が見えた、程度の小さな物だけ。
もしかしたらずっとそこで寝ていたのかもしれない。けど、育て屋なのに何もせずただ寝るだけだなんて、一体彼は何のためにここに預けられているんだろう。
 辺りはいよいよ暗くなってきて、半分欠けた月が上と下の二つに分かれて煌めいている。その周りに揺れる光の粒を頼りにして、私は小屋の方へと駆けていく。
まだ手にはしっかりと赤い糸が握られている。何に使うのかは知らないけれど、とりあえず主人が渡してくれた物だし、無くすわけにはいかない。
「あの、誰かいませんか?」
 押すだけで開く簡易的な扉に手をかけ、ぐっと力を入れて中を覗く。そこには耳をパタンと閉じて、藁を積んだベッドの上で寝転がる藍と白の何かが転がっていた。
「ああ、やっと来たんだ。キミでしょ? 今日のボクの相手」
「えっ、私、雄のニャオニクスを探してそこに行け、って主人に言われて来たんですけど……」
 相手、というとポケモンバトルの相手のこと、なのだろうか。私だってそれなりに戦えるようにはなったつもりだけれど、まだまだうちのメンバーの中じゃひよっこだ。
このニャオニクスは私よりも前から主人と一緒に居たみたいだし、たぶん私より強いんだろう。私なんかで、果たしてきちんと相手が務まるだろうか。
「ああ、それボク。全く……マスターももうちょっと説明しといてくれたら良いのに。面倒だなあ」
 大きな青い瞳でこちらをじろじろと観察しながら、はあ、と大きなため息を一つ。確かに主人の言うとおり、ツンとしていてちょっと喋りづらい。
うちの他のメンバーのなかでは、あの波導犬とちょっと似ているだろうか。でもあいつはバトルと訓練にひたすら真面目すぎるだけで、別に捻くれてもいないし。
その点目の前の彼は真面目……にはちょっと見えない。斜に構える、というのはこんな感じなんだろうか。なんというか、初めて見るタイプの相手だ。
「ま、いいや。それじゃさっさとやることやろっか。赤い糸持ってるんでしょ? 早く結んでよ」
「えっと、やること……って、私、何やればいいの、かな」
 ちょっと歩み寄ってみよう、と思って敬語を取っ払って砕けた感じで喋ってみる。それに怒った様子はないけれど、私が何も知らない事に驚いているみたいだ。
手の中の赤い糸を出してみると、ずっとぐちゃっと握っていたせいか絡まっていてすぐには解けそうにない。参ったな、彼、怒らずに待ってくれるかな。
「もしかしてキミ……ほんとに何も聞いてないの? ここで何やるかも知らない?」
「ご、ごめんなさい。でも私、全然知らなくて」
 思った以上に私が何も知らない事が分かって、ちょっと面食らった様子の彼。私は私で、何をして良いかも分からず、扉を軽く開いたまま入り口で立ちっぱなし。
とりあえず入りなよ、と言われてようやく私は彼の側まで歩み寄った。彼と相対するようにして藁をかき集めて座り、ひとまずは彼の説明を聞くことにした。
「この育て屋、もちろん鍛えるのも一つの目的だけど、もう一つ目的があるんだ。それがタマゴ作り、ってわけ」
「タマゴ……作り? えっと、あの、それ、って、も、もしかして、その、あ、えっ」
 タマゴ作り。作り方は知らないわけじゃない。いつだったか、あの顎自慢の竜が無知な私にさも経験済みかのような口ぶりで得意気に話してくれたのを今でも覚えている。
あの時は本当に顔から火が出るかと思うほど恥ずかしかった。いや実際火は出せるんだけどそんな事はどうでもいい。あいつも今じゃ同じく化石組の姐さんとたぶん経験済みなんだろうな。
けれど、まさかこんなにも突然私にその機会が訪れるとは思ってもみなかった。もっとこう、色んな付き合いを経て初めて経験することだと思っていたんだけど。
「ま、落ち着きなよ。キミみたいに初めての仔もボクは数匹相手にしてるし、悪いようにはしないからさ。特に、キミみたいな可愛い仔、ならね」
 私の初めてが、このニャオニクス、だなんて。まだ出会って数分だというのに、もういきなり本番、なのかな。主人はタマゴの作り方を知っていて、私をここに預けたんだろうか。
いや、知ってたらそんな楽々と預けたりなんか出来ないか。そして、タマゴが出来るまではたぶん主人も私を預けっぱなしにするんだろうな。
ここでずっと暮らすのは私は出来れば遠慮したいし、主人をいつまでも待たせるのも悪い気がする。でも、やっぱりあんなことやるのはまだ早いような。
「え、っと、その……ちょ、ちょっと待って。ちょっとだけ、その……落ち着いてからでも、いいかな」
「良いよ別に。夜風にでも当たって頭冷やして来たら良いんじゃない? ボクはここで待ってるから、決心が付いたらまた来なよ」
「あ、ありがと。それじゃ、その……また、後で」
 また、とは言ったものの、すぐにはここに戻っては来られないと思う。このごちゃごちゃした気持ちに、果たしてどう整理を付けたら良いのだろうか。
扉を開いて、逃げるようにその場を後にする私。手に握った赤い糸が、吹き出る汗を吸って少し湿り気を帯びている、様な気がした。

   ☆

 ぱちゃぱちゃと足をばたつかせて川の水面を揺らす。ひんやりとした水が私の足下の黒い毛に絡まって心地良い。月明かりに照らされて、私の顔もゆらゆらと水の中に沈んでいる。
「あなた、もしかして今日入った仔? たまにいるのよねー、あなたみたいにここで何やるか初めて知って、動揺してる仔」
 声に驚いて振り向くと、そこには長い鬣を尾の方まで伸ばし、優雅に歩いてくるポケモンの姿が。尻尾に刺さる枝を手に持ち炎を灯すと、赤黄の二色が靡くのが分かった。
「あの、あなたは?」
「んー、そうね、この育て屋のベテラン、ってとこかしら。それより、あのニャオニクス君の今度の相手、あなたなんだって? 大変ねー」
 そんなに噂になっているのだろうか。確かにさっきまで片っ端からいろんなポケモンに聞いて回っていたから、知られているのも無理はないんだけど。
「でもあの仔も大変よね。なまじ強いせいでああやって色んなポケモンの相手させられて。昔好きだった相手とも離れ離れになっちゃったらしいわよ」
「誰かを好きになる風には見えなかったんですけど……好きだった仔がいたんですね」
 ちょっと意外だな、と思ってしまったのは彼には内緒だ。もしかしたら彼も、昔はもうちょっと素直な性格をしていたりしたんだろうか。あんまり想像が付かないけれど。
「そうそう、その恋が結局叶わなかったせいで、今じゃあんな風にちょっと捻くれちゃってるみたいだけどね。でも、あの仔意外と優しいし良い仔だからさ、あなたも仲良くしてあげてね?」
 それじゃーねー、と颯爽と去って行く鬣のお姉さん。もしかしたらあのお姉さんも、また誰かの相手をするためにどこかの小屋へと向かったんだろうか。
私もあんな風に、割り切って行為に挑めたら良いんだけれど。けど、やっぱり初めてを知りもしない相手にいきなり捧げるなんて度胸は私にはない。
別に私は誰かに恋してるわけでもないんだけど、昔ちょっと憧れたポケモンはいたりする。あの時のニャスパー君、今はどこで何をしているんだろうか。
 そのニャスパー君も、そしてその時の私も別の地方のトレーナーのポケモンだったから、ほんの少しの間しか一緒には居られなかったんだけど。
彼とは違って素直でかっこいいニャオニクスになっていたりするのかな。もしもう一度出会えるなら、きっと私は彼に恋してしまいそうなくらい、その時は仲良かった。
彼だってかっこ悪い訳じゃない。何ならあのときのニャスパー君を思い出すせいでちょっと彼も良いかな、なんて思ったりするけど、それでも彼はあの仔とは違う。
 きっと彼も、自分を見てくれない相手とそういうことをやりたくはないタイプなんだろうな。それでも、主人のために身を削ってまで頑張っている。
主人はなんだかんだ言って私たちの世話をきちんとしてくれているし、もしこういう事情が分かっていればきっと無理に私たちにこんな事させたりはしないはずだ。
言葉が通じない、というのは非常にもどかしい。そしてポケモンの生態が未だ人間達に解明されていないのも悲しいことだ。とはいえ、行為を見られるのも嫌だけど。
 このままずっとここに居たって埒が明かない。あんまり主人を悲しませるわけにもいかないし、覚悟を決めて私を待ってくれている彼にも悪い。
やっぱり私が覚悟を決めるしかない、か。ただ、そういうことをやる前に、彼が昔好きだった仔、の話は聞いてみたい気がする。
興味本位、なのもあるけれど、それ以上に。せっかく行為に臨むのなら、良い雰囲気で臨みたい。そして彼の捻れた心を、少しでも解してあげられたら。
そして私が、彼のことを少しでも好きになることが出来るなら。やっぱり彼のことを、もっとよく知る必要があるんじゃないかって、そう思うから。

   ☆

 小屋に戻ってきた私は、一度深く息を吸って、一気に吐いて。よし、と気持ちを固めて押し戸を開けると、また藁の上に転がっていた彼が横になったままこちらを伺ってきた。
「思ったより早い帰り、だったね。どう? 少しは落ち着いた?」
 落ち着いたかどうか、というと正直まだ気持ちの整理が付いていない。やるしかないな、とは思うけど、やりたいか、と聞かれると答えに困る。
目の前の彼の顔をまじまじと見ていると、昔のあの仔のことをどうも思い出してしまって。せめて彼がニャオニクスじゃなければ、思い出すこともなく始められた、のかな。
「少しは、かな。それで、あの……始める前に、なんだけど。あなたのこと、もうちょっと知りたいな」
 眠たそう、というよりも面倒くさそうな様子で目を半分ほど開いていた彼。私のその言葉に驚いたのか、目を丸くしてこちらを見てくる。もしかして、気を悪くしたかな。
暫しの硬直の後、彼もようやく頭の中で整理が付いたのか、また元の目に戻って私に対していいよ、と呟いてくれた。面倒そうな顔に特に変わりはないし、別段不機嫌なわけではないみたいだ。
「あなたの昔の事。恋してた仔、って……どんな仔だったの?」
 流石にその話には驚いたのか、がさり、と藁を揺らして体を起こしてきた。あの牝猫め、という恨み言が聞こえたのは、たぶん気のせいなんかじゃないんだろうな。
逃げられないように強い目で彼の目を見る私。怒られるんじゃないか、ってちょっと怖いのは確かだけど、ここで諦めたら私も、そしてなにより彼自身の気持ちが晴れない、と思うから。
「……いいよ。別に隠す気もないし。その時の仔、キミの進化前、フォッコなんだよね。キミを見てると少し思い出すよ、その仔のこと」
 カロス地方では最初にもらえるポケモンの内の一匹であるフォッコ。私は珍しくカロス産まれじゃないんだけど、結構この辺りでもよく見かけるポケモンだ。
もしかして、私にその面影を感じてくれたりしているのかな。心なしか目つきが優しくなったような、そんな気がする。気のせいかもしれないけど。
「その時ボクは主人のポケモンじゃなくて、別の地方で旅してたんだけどね。その時に出会った、名前ぐらいしか知らないその仔……可愛かったし、仲良かったよ」
 別の地方、別のトレーナー。私と似ているんだな、と思ったところで、点と点が線で繋がる。いや、でも、そんな都合の良い話があるわけ。
ただ、彼の語り出した昔の戯れが、私の頭の中のどこかに閉まってある思い出と同じで。暗闇の中で赤い糸を手繰り寄せれば、声が、体温が、色が、鮮やかに蘇る。
そういえば、彼の名前、まだ聞いてなかったな。でも、記憶の中のあの仔の名前は、まだ覚えている。忘れるわけがない、あの憧れの男の仔の事。
「でもお互いに別の地方のトレーナーが主人でさ。当然途中でお別れ、って訳。ま、ちっちゃい頃の失恋なんてその程度ってことだね。これで満足?」
 さらりと語る彼の目は、少し寂しさを滲ませていて。この強がりな態度、偏屈な性格はきっと、それを悟られないためのカモフラージュ、なんだろうな。
きっと彼はまだあの時の気持ちを諦めたりなんかしてない。今でも大切に思ってるからこそ、こうやって強がってないと彼自身が保てなかった。そんな気がする。
「あなたって、私とそっくりなんだね」
 どこから話を切り出せば良いか、と悩んだ末の一言。怪訝な顔でこちらを見てくる彼は、まだ意味が分かっていない様子。二つの尻尾がゆらゆらと揺れている。
「そっくり? ボクから見れば、キミは随分純粋で素直だと思うけど」
「そうじゃなくて。……私も、昔は別の地方のトレーナーが主人で、その時に出会ったポケモンと仲良かったんだ。その仔の事、今でも憧れてる」
 憧れ、というよりもきっと初恋に近かったんだと思う。小さい頃の恋心なんて気のせいみたいな物、かもしれないけど、もし会えたらきっとどきどきしてしまう、はずだ。
そして今も、ぎゅっと握った手が汗ばんでいて。赤い糸の感触をしっかりと確認できるほどに力強く握りしめた手が震えるのは、彼を目の前にした緊張のせい。
「色々教えてくれて……ありがと。もう始めても大丈夫だよ。ただその前に……名前、聞かせて欲しいな」
「ああそうか、自己紹介、まだだったね。ボクはナラット。で、キミは?」
 嬉しさで思わず目が潤むのをなんとか堪えて、抱きしめたくなる気持ちをぎゅっと抑えて、目の前の彼の姿をもう一度じっくりと眺める。思っていた彼とは結構違うけれど。
でも、根っこにある優しさはあの頃と変わらないし、時折見せる穏やかな表情は記憶の中で微笑む彼と同じ。進化しても、変わらない部分は変わらない、か。
彼は覚えていてくれただろうか。名前は知っている、と言っていたけれど。私の勘違いじゃなければ、彼の記憶違いがなければ、彼も分かってくれるはず。
「ヴァーレ。キミの言ってたフォッコと……たぶん、同じ名前、でしょ?」
 名前を伝えた途端、彼はぴたりと動きを止めた。ぱくぱくと動く口からは一切声が漏れる事なく、ただ本当に口を動かしているだけ。
信じられない、という表情で私を見る彼に、一歩、また一歩と近づく私。かさ、と足下の藁を踏みしめる音がして、彼の顔はもうすぐそこに。
そのまま彼の手を取って、未だ藁の上で座ったままの彼と目線を合わせるようにしゃがみ込む。あの頃より、やっぱりちょっと目つきが悪くなった、かな。
「キミが……あの時の、フォッコ? でも、だって、そんな、そんな奇跡、ある、わけが」
「久しぶり、だね。ナラット」
 ずっと我慢していたけれど、やっぱり堪えきれなくなって。彼を包み込むようにして、ぎゅっと強く抱きしめる。力なく抱き返してきた彼の顔は、何故だか少し濡れている。
その湿り気が私の毛を湿らせていくのを感じながら、私はぽんぽんと空いた手で彼の頭を叩く。なんでもない、という彼の声は、やっぱり少し震えていた。

   ☆

 ようやく落ち着いた彼と、いい加減やることをやらなくちゃ、と思い立って。一度彼を引き離して、手に持っていた赤い糸をもう一度見てみる。
最初に彼と出会ったときはあんなにぐちゃぐちゃして絡まっていたはずなのに、先端を引っ張るとあっさりと解けて一本の長い糸に変わる。
思うに私と彼は、見えない赤い糸で結ばれていたんじゃないだろうか。そうでもないと、こんな奇跡は起こりっこない。私が今まで選んできた選択肢も、無意識にこの糸を手繰っていたのかも。
なんてバカみたいな事を考えつつ、私は見える方の赤い糸を彼と私の手に結ぶ。彼の指は特にちょっと小さくて結びづらいから、手に直接。
「憧れてた仔とこんな事する日が来るなんて……正直、思ってなかった、かな」
 ようやく結び終えて、改めて彼と向かい合う私に、彼はさっきまでとは違って弱々しくそうこぼした。彼は初めてじゃないはずなのに、おどおどして見えるのはなんでだろうか。
「もしかして……緊張、してるの? さっきまであんなに飄々としてたのに」
「う、うるさいな。ボクだって……その、好きな仔を目の前にして、平静でいられるほど悟っちゃいないよ」
 ああそうか。やっぱり彼ほどの経験者でも、好きな相手との行為は緊張するものなんだ。好きな仔、と言われてなんだか嬉しくなる私と、自分の言葉が恥ずかしくなって頭を掻く彼。
一向に動く気配のない彼を見かねて、とりあえず何となくこうしてみれば良いんじゃないか、と思ってもう一度彼を抱きしめてみる。
「そう、だよね。私だってほら、こんなに緊張してるし。わかる、よね?」
 とっとっとっ、と感じる彼の鼓動は私と同じくらいのスピード。私の突然の行動にちょっと驚いた様子はあるものの、確かにそうだね、とまだ落ち着いた声の彼。
「よし、それじゃあ、始めよっか。最初は慣らしてあげるから……ゆっくり、ね」
 突然ふわりと浮き上がる私の体。耳を開いた、かと思えば彼の目が青白く光り、私の体も同じ色に包まれる。抵抗も一切出来ず、私の体は宙に浮いたまま固定されてしまった。
さらにその状態から、両足が勝手に開いていく。本当なら顔を覆いたいほどの恥ずかしさだけれど、今はせいぜい目をつぶるぐらいしか出来なくて。
彼の顔の前には、私の股ぐらが開いた状態で浮いている。その内股を滑るようにして、彼は私をゆっくりとなで始めた。その手つきが彼の経験の多さを感じさせる。
「へぇ、これなら割と大丈夫そう、かな」
 つつ、とその手が私の秘部へと近づいてくる。私自身、彼と抱き合っている辺りから感じていたけれど、やっぱりもう私のそこはぐっしょり濡れているんだろう。
独りでそういうことに臨んだことも何回かある。その時は弄っている内に段々と濡れてくる、程度だったのに、今回は何もせずとも既にぐちゃぐちゃだ。
くち、と粘液と物が触れあう音。割れ目に沿って彼の手が這わされると、じんわりとした熱が体中を駆け巡り、震わせる。今まで感じたことがないくらいに、気持ちいい。
「は、ぁ、んっ」
 声を上げればきっと周りに聞こえてしまう。だからなるべく声を堪えておこう、と思っていたのに。早くも我慢出来なくなって声を漏らす私。
もう一度、さらにもう一度、と何度も割れ目をなぞるその手はまだまだゆっくりで、それが却ってもどかしい。もし今手が自由になれば、きっと間違いなく私は自分の手を伸ばしているだろう。
「イきたいかもしれないけど、それはまだダメ。どうせなら……ね」
 ぴん、と割れ目の先端の突起を突かれて、情けない悲鳴を上げる私の体をふわふわと動かして、そっと藁の上に寝かせる彼。とろっとした蜜が割れ目から溢れて零れるのを感じる。
そして彼の体に目を遣ると、もう準備万端、とばかりに飛び出した突起が一つ。アレが、雄の性器、なのかな。そうなんだろうな。
赤く滾るその棒の先端からは、たらり、と私と同じような粘液が既に零れている。もしかして、彼も彼で結構盛り上がっていたりするのかな。
「ボクはもう準備出来てるけど。キミの準備、大丈夫、かな」
「うん、だい、じょうぶ。大丈夫だから……来て、欲しいな」
 私の上に覆い被さった彼は、その肉棒の先をぴたり、と私の割れ目に付けている。糸で結ばれた手と手を繋いで、彼の温もりを感じながら、私はこくり、と頷いた。
その様子を見て、彼がようやく私の中に入ってくる。十分どろどろになっていたとはいえ、まだ全然広がっていない穴をこじ開ける痛みが私を襲ってきた。
ぎゅ、と彼の手を強く握りしめて堪える私。その様子を見て、少し入れては呼吸を整え、また少し、という風に、焦ることなく事を進めていく彼。
本当は彼だって、きっと早く快感を得たいに決まってる。でも私のことを思って待っていてくれてるんだろうな、と思うと、申し訳なさを感じてしまう。
それに私自身、段々と彼が入ってくるにつれて、痛みよりも快感の方が強くなってきた。早く全部入れたい、早く動いて欲しい、そんな欲望が頭の中に渦巻いていて。
「これで全部、入った、よ。痛くない? もうちょっとこのままでも」
「ううん。私は平気。だから……もっと、気持ちよく、なりたいな」
 幸せ、というのはこういう事だろうか。彼と一つになれていることが、彼の熱を感じていることが、こんなにも心地よくて、温かくて、嬉しいなんて。
独りでやっていたときとは全然違う、鋭くも優しい快感が、どうにも癖になりそうで。もっともっと、と逸る気持ちを抑えられず、彼にせがむ私。
そんな私を見て大丈夫そうだ、と思ったのか、彼はずるずると肉棒を引き出し始める。私はというと中を擦れる快感にふぁ、と情けない声を上げながら悶えてしまう。
「いいよ、その顔。可愛いし……もっと、気持ちよくさせたくなるよ」
 繋がれた片手を私の腰に回して、もう片方の手で胸の毛を弄る彼。その中に隠れた突起を探し当てて、くりくりと摘まんで捻ってくる。
その僅かな感触に身悶えていると、ずずず、と再び私の中を満たしてくる彼の突起。二つの違った快感が私の体中に押し寄せてきて、行き場のない熱が吐息と共に吐き出される。
「ふぅ、あ、あぁっ、は、あんっ」
 私の背中の手がぐい、と動いて、私の顔と彼の顔がすぐ側まで近づいてくる。とろんと蕩けた私の顔が彼の瞳に写っている。ああ、彼がもっと、もっと欲しい。
自然と私は口を開け、彼の唇を受け入れる。形の都合上あまり上手くは出来ないけれど、それでも舌と舌の先端を互いに入れては出し、お互いを味わう。
暖かな彼の口を貪るように舐め回して、そして唾液がとろ、と零れるのも気にせずに、欲の疼くままに彼を求める。そして彼はきちんとそれに応じてくれる。
すっかり快感の虜になった私の頭をそっと撫でて、再び私は藁の上に寝かされる。そして彼は胸への愛撫もやめ、両手で私の肩を掴んで私を見つめる。
「それじゃ、終わりにしよっか。ヴァーレ……キミのこと、愛してる」
「う、ん……ナラット、私も……あなたのこと、大好きだよ」
 愛してる、の言葉に私の秘所がきゅん、と疼く。ぴく、と震える体は絶頂を求めるサイン。藁の上でぎこちなく腰を動かす私を見て、彼もその動きを段々と早める。
彼の荒い息と私の嬌声が小屋の中から外へと漏れる。きっと他のポケモン達にも聞こえているんだろう。でも今はそんな事はどうでも良い。
ただ気持ちよくなりたい、ただ彼と繋がっていたい、ただ彼と共に絶頂を迎えたい、ただ彼の吐き出す精を全て受け止めたい。
絞り出すような秘所の動きが活発になり、差し込まれる度にがくんと跳ねる私の腰。揺れる景色と彼の顔、そして無意識のうちに伸ばされた両手を彼の首に回して抱き寄せる。
「あ、あっ、も、うっ」
「いい、よっ、ボクも、も、もう、イ、イくっ、からっ」
 打ちつける腰の動きはさらに速く、そして少し乱雑に。彼の両手が私の背中に回されて、深く抱きしめる体勢に。お互いの体の熱を奪い合うように擦り合わせて、腰を一層深く沈めて。
「ふああああああぁぁぁぁっっっ!!」
「うああああああぁぁぁぁぁぁっ!」
 どくん、と彼が中で跳ねるのと、私の秘所がぎゅっと締まるのがほぼ同時で。ぷしゅ、と噴き出す私の蜜が彼と私の体を濡らし、そして藁へと流れていく。
ぴゅ、ぴゅと吐き出される彼の精を中で感じながら、私も愛液を噴き出しながら快感の余韻に浸り、だらしない笑みを浮かべて四肢を投げ出す。
彼も満足げな表情で私を抱きしめたまま動かない。ふぅ、はぁと荒い息を互いに吐きながら、そっと軽い口付けを交わして、ふふ、と笑い合う。
 じゅぽ、と彼の肉棒を抜けば、ひんやりと外気を受け入れながら彼の精をどろりと零す私の割れ目。その冷たさが少し気持ちよく感じられる。
疲れていない、といえば嘘になる。だけど、このまま一回で終わるのはなんだか少し物足りない。出来ることなら、もう一回くらい、彼が欲しい。
「物足りない、って顔、してるね。ふふ……ボクもまだ、物足りないし」
「ねえ、ナラット。もう、いっかい……ほしい、な」
 この暗がりが明るくなるには、結構な時間が掛かるはず。屋根のせいで空に浮く月は見えないけれど、私たちの夜は、まだまだ始まったばかりだ。

   ☆

「ふ、あ、あっ」
 ぐっ、と力を入れると、こんもりと盛り上がったお腹からぬるりと吐き出される大きな丸い物体。タマゴを産むのが、こんなに大変だとは思わなかった。
ぎゅっと強く握りしめた彼の手からは、私の手に向かって赤い糸が今も伸びている。心配そうに私を見てくれる彼に、呼吸を整えながら大丈夫、の頷きを見せる。
果たしてどんな仔が産まれてくるのだろうか。彼は強いから、と言っていたあの鬣のお姉さんの話からすれば、きっと強い仔が産まれるんだろうな。
 結局赤い糸を結んだ理由は分からなかったけど、彼と私が今も繋がっているんだと思うと嬉しくなれるから、それでいいか、とも思えてくる。
「後はマスターを待つだけかな。お疲れ様、ヴァーレ」
 優しく私の頭を撫でながら、疲れ切って藁に倒れ込んでいる私を労ってくれる彼の顔は、昨日出会った頃よりも随分穏やかで優しい。
きっと、こっちが本当の彼の姿。ただ、それまでに色々ありすぎて、辛さを隠すために強がりの仮面を被っていただけ、なんだと思う。
私は今の彼の方が好きだ。あのツンツンした態度が好きな仔もいるとは思うけど、少なくとも私は、本当の姿の彼の方が、幸せに見えるから。
「ナラットはやっぱ、今みたいに素直な方が良いと思うよ。その方が可愛いし」
「か、可愛い、ね……それ、褒めてるつもり? それに、ボクは今更この性格、直す気はないよ」
 けど、まだ彼は頑張ってその仮面を付け続けるつもりみたいだ。というより後戻り出来なくなっているんじゃないだろうか。確かに急に性格が変わると却って気持ち悪いかも。
ジト目でこちらを見る彼からは、それでも幾分か刺々しさがなくなったような。二つの尻尾が交互に揺れているのは、満更でもない証、なのかな。
「ま、キミになら……ちょっとは、素直になれる、かな」
 なんて伏目がちに呟く彼をクスッと笑うと、ムッとした表情で私を睨んでくる。もちろん怖い目じゃないし、何なら嬉しそうな尻尾のせいで笑い出しそうなほどだ。
さあ終わり終わり、と話題を逸らそうと必死な彼が、ずっと結んでいた赤い糸を解き始める。よく分からないけど、役目は終わったみたいだ。
物寂しさを感じながら、私の指に巻かれた赤い糸をするりと解く。彼からそのもう一端を受け取って、くるくる巻き取って手に握る。
小屋の外から聞こえる放送の中には私の名前。きっと主人が迎えに来たんだろう。ということは、いよいよ彼とのお別れの時だ。
「それじゃ、その……ありがとね、ずっと待っててくれて。ナラットにまた会えて嬉しかったよ、私」
「ボクの方こそ、キミに会えて良かったよ。それに、昨日は随分愉しませて貰ったし、ね」
 ふふん、とさっきの仕返しとばかりににやける彼。今思い出しても顔が熱くなるほどの昨日の情事。なんであんなに積極的になっちゃったんだか。
またね、が実現することを願いながら、私は小屋の戸を開く。朝日が水面を照らして辺り一面を眩しく照らし、そよ風が未だ残る小屋の熱気をふわりと運び去っていく。
手に持ったタマゴの温もりの中に、彼の温もりを感じながら。絶対また来るから、と約束して、彼の頬に誓いの口付けを置いていく。
「……うん、また。絶対、また会おう」
 寂しそうにぽつりと呟いた彼の声に、私の中でもう一度決心を固める。そして私は育て屋の出口の方へ向かって、タマゴを落とさないよう気をつけながら駆けだした。
未だ残る指の感触は、きっと見えない糸のせい。いつの間にか縺れていたそれが、やっと解けて一本になったんだ。だから今は、それをきちんと辿ることが出来る。
見えない糸を目を閉じて追えば、その先にいるのはあの時と変わらず優しくて魅力的な彼。姿形はお互い変わったけれど、結んだ糸は外れることなく今もちゃんと繋がっている。
だからまた、この糸を辿って会いに来よう。そしていつか、一緒に旅が出来る日が来ることを願って。今は私が一足先に、主人の元へと帰るんだ。
主人に頼めば、きっと分かってくれるはず。言葉は分からなくても、身振り手振りで伝えれば、主人だって鬼じゃないし、私の願いをきちんと聞いてくれると思う。
 おーい、と私を呼ぶ主人の声。タマゴを見て満足そうな主人の元へ急ぐ私の指が、くいっと引っ張られた気がしたのは、たぶん寂しがり屋の彼の仕業、なんだろうな。

   ☆

 その後、満足いかなかった様子の主人に、さらにたくさんのタマゴを求められて、彼と即座に再会する事となったのも、運命の悪戯、ってやつなんだよね、きっと……。

おしまい。
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・あとがき
仮面外しました!!!!!!!!!!!(2016年2月22日)

……いやほんとごめんなさい(
いつ外そうか考えてましたがにゃんにゃんの日なのでニャオニクスが出てるこの小説の仮面を外させていただきました。
ナラット君はこんな風にちょっと突っ張っててくれた方が可愛いと思います。猫だし(?

>いいコンビでした! (2015/05/26(火) 23:55)
ありがとうございます! 二匹とも可愛いですよね。
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