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ep1 日常? の変更点


**日常 [#ga234df7]

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誰得ストーリー2

#hr

朝のさわやかな日差しが差し込む。
小さな木造の建物が並ぶ中で、独り、黄色の首飾り、尻尾と朱色の毛並みが特徴的なブースターがさっさっ、と箒を持ってクリーム色に塗られた建物の前を掃除していた。

「ふぅ・・・今日もいい日だなぁ。」
そのブースターはそうつぶやくと、掃除が済んだらしく、箒を背中に乗っけて建物、彼女らのお店に入っていった。
「ヌエくーん。掃除終わったよ?」
ブースターは足を拭いて居間に上がると、女の子らしいやや高いトーンの声で、新聞を見つめるグレーと黒の毛並みを持つグラエナに話しかける。
「ありがと、お疲れフレア。ご飯作るから待ってね。」
「うん。」
男の子らしい低いトーンの声で話すヌエというグラエナは、新聞とにらめっこをやめて、台所へと向かった。フレアというブースターはそのあとをとことこ、ついていく。ふたりの毎朝の光景だ。

居間の机に並べられた様々な料理を前に、二人は横並びで座って手を合わせている。
「いただきまーす。」
「いただきます。」
食事の挨拶をすると、色とりどりに調理された木の実、サラダや暖かいスープをヌエとフレアはゆったり、朝の時間を過ごすように自分たちのおなかに入れていく。
「おいひいね。」
もごもごと口を動かしながら言うフレアに、ヌエはくすっと笑ってありがと、と返す。

「ごちそーさま、ヌエくん。」
フレアはそういうと、隣に座るヌエの頬に軽くキスをする。
「・・・ありがとフレア。」
顔を赤くしたヌエはお礼もそこそこに、食器を背中に乗っけて台所へと戻っていった。
じゃばじゃばと食器洗いを済ませたヌエは、そっとフレアに忍び寄る。そして手を彼女の首元に・・・
「ひゃぁ!」
「どう?」
首元にヌエの手が触れた途端、フレアは全身の毛を逆立たせて、何とも言えない高い悲鳴を上げた。そんなフレアににこっと笑うヌエ。
「つ、冷たいじゃんか・・・」
「うん。じゃ、準備するよ。」
「う、うん。」
フレアは会話を挟む余地すら与えられず、ヌエの後についていく。ヌエはあわただしく建物の木の戸を開くと、フレアはガラスでできたろうそく立てに火をともす。
「今日も一日、商売繁盛、よろしくお願いします。」
そうフレアが灯った灯りに言うと、ヌエもうん、と頷き、彼らの一日は始まった。

ここはポケモンだけの世界。この世界のポケモンたちは自分たちの文化を持ち、子をはぐくみ、そして死んでいく。
グラエナのヌエは、その世界の町のひとつで、薬屋を営んでいる。まだまだ修行中のようで、頼りないけれど、それでも食べるために猛勉強もしている。・・・そして失敗も。
ブースターのフレアは、そんなヌエの大事なお嫁さんであり、パートナーである。恋愛結婚ではないし、お互い少し年齢差があるが、フレアもヌエもそんなこと気にすることもなく、いつもくっついている。
周りのポケモンたちは彼らを”見習いさん”と呼ぶ。・・・今日はどんなドタバタが巻き起こるのだろうか。
ヌエの店は、ヌエの父からのれん分けという形で託されたものだが、その父は薬の質のチェックのためにたびたび訪ねており、その検査はとても厳しい。失敗すると、十二時間ぶっ通しの説教を食らうことになる。
そのためヌエは勉強を欠かせない。

「今日も暇だね・・・」
フレアは、お店の奥、彼らがいつも生活している居間とお店の間を仕切る玄関の板の間にいて、オレンジ色の毛並みの四肢を投げ出す伏せの姿勢で退屈そうに店にいるヌエを見つめる。
「いつも暇だからね。」
お座りの格好をしてるヌエは特にいつものこと、と気にする気配はないが、寝ころぶフレアにしてみれば、不安はちょっぴりある。なにしろふたりが食べていくには、この店での売り上げが欠かせないからだ。
「ねえねえヌエくん。頼まれたのもうできたの?」
フレアが数少ない注文を思い出して言う。ヌエは呑気にああ、そうだった、と言い残すと居間に戻っていった。このお店ではヌエが職人みたいな仕事をやって、フレアはあくまでお客さんをもてなす係。
だからお客さんが注文するとなると、ヌエがいつも直接聞いている。いつも頼まれるのは咳止めの薬、飴など日用品に近いものも多く、なんでも屋のように使うポケモンもいる。
「こんにちは。」
ガラガラと木の扉が開くと、エンペルトが挨拶をしてお店の中に入ってくる。フレアはあわてて起きて、そのエンペルトのもとへ行く。
「いらっしゃいませ。」
「ああ、フレアちゃん。おはよう。咳止めできてる?」
「は、はい。少々お待ちください。ヌエくーん!」
フレアが威勢のいい声でヌエを呼ぶと、ヌエは小さな布袋を提げてやってきた。
「こんにちは、アデリーさん。咳止め、いつもの通り作りましたよ。」
そう言ってヌエは、布袋をアデリーに渡す。アデリーはここにやってきたときからの、実家からの常連客みたいなもので、ヌエたちが飢えない理由の一つである。
アデリーは布袋の中身を一つ一つ取り出す。掌に琥珀色の小さな丸い球、がコロコロと転がり、アデリーは慎重に確かめると、また袋に戻し、にこっと笑ってヌエたちを見た。
「はい、確かに。じゃ、これお代金ね。ありがとう。」
「いつもありがとうございます。また来てくださいね。」
ヌエがにこっと笑って言うと、アデリーもうん、と首を縦に振った。布袋を提げたアデリーが店を出て、そして見えなくなるまでヌエとフレアはずっとアデリーを見ていた。

見送りを終えたヌエたちは、再び店に戻る。そしていただいた代金を大切そうにしまうと、また店番に戻った。
「これで飢え死に回避だね。」
フレアはくすっと笑って言う。ヌエもうん、とちょっと深刻そうに受け止める。そしてまた板の間に退屈そうに伏せたフレアと一緒にごろっと寝転がる。
「うー・・・お金がほしいよ・・・」
ヌエがそういうとフレアもふふっと笑った。
「じゃあもっと勉強しよーね。」
うん、とフレアの言葉にうなずくヌエ。すっく、とヌエは立ち上がって、居間へと戻っていこうとする。フレアはヌエのほうに顔を向けて、ヌエに尋ねる。
「あぁ、ヌエくんどこ行くの?」
「勉強となんか新しいの作ってくる。」
新しいの、とは薬のことだろう。フレアはそう思っていってらっしゃい、と声をかける。ヌエが戻った居間からは、がたごとと何かを探す音と、何かを取り出す音がフレアにの耳に聞こえてきた。
けど、いつものことなのでフレアは特に気にせず、店番をしながらごろごろしている。
「ヌエくんへんなのばっかり作ってるもんなー。」
ぼそっとフレアはつぶやく。確かに、ヌエが作るものは薬とかそういう代物ではなく、泥棒撃退用の激臭ボールであるとか、犯人捕獲用のトリモチボールであるとか、どちらかというと薬屋というよりも防犯用品を作ることにこだわりがあるみたいだ。
あくタイプのくせに、といつもフレアは言うけれど、そのヌエが作る物自体もなかなかの売上なので、とくには気にしない。まあいろいろあって、ヌエはあくタイプ、と言われるのがあまり好きでないようだ。
「でも・・・忙しいよりものんびりしてるほうがいいかなぁ。」
うふふ、とフレアは澄んだ黒の瞳を細めて再び呟く。ヌエもフレアものんびりするのが好きなようで、それがヌエの成長を妨げてる、ともフレアには思える時がある。
「ん?」
ふと、フレアの耳に、とことこという自分たちと同じようなポケモンが歩く時の特有の足音が聞こえてフレアはすっと立ち上がる。
「お客さんかな?」
その足音はわずかに大きくなりつつあり、近づいてることにフレアは気づく。
「こんにちは。」
「あ、はい。こ・・・」
フレアが応対に出ると、その目の前にいたのは・・・黄色と白のとげとげをもつサンダースだった。しかしただのサンダースというわけではなく、フレアには面識があるサンダースであった。
「お、お兄ちゃん・・・」
「おっす、元気してるか?」
フレアの兄の、ライトである。
「久しぶり・・・」
「久しぶり。ヌエくん、さん?いる?」
「ヌエくん?ちょ、ちょっと待ってね。ぬえくーん!!」
ライトは明らかに自分の妹ではなくヌエのほうに用事があるようだった。フレアはちょっと不満を持ちつつも、またヌエを大声で呼び出す。
「ふぁい?」
ちょっと耳を寝かせて眠そうなヌエがのそのそと店先にやってきた。
「あ、ら、ライトさん、お久しぶりですね。」
眠そうなそぶりを見せてしまって後悔するヌエに、ライトは苦笑いしつつ、ヌエの瞳をまっすぐに見つめる。彼らが会うのは、ヌエとフレアとの結婚が決まって、挨拶に向かった時以来である。
なので、ヌエにとってはあまり親しくはないのであるが。フレアとヌエが結婚したのは、本人たちの合意ではなく、親の合意であるが、それでもヌエもフレアもそんなことは気にも留めない。むしろ利益が大きいとフレアもヌエも思っている。
親の合意のおかげ、親の責任だということをちらつかせることで、ある面、ヌエもフレアも親に対して少し大きな態度を取ることができるようになったからである。
「な、なんですか・・・」
そして頭を地面につくほど下げるライト。
「すみません!今日泊めてください!」
「・・・はい?」
事情がつかめないヌエとフレア。
「どしたのお兄ちゃん?」
「母さんと喧嘩しちゃって・・・」
「はぁ?」
なんだか子供みたいな理由でやってきたライトに、ますます混乱するヌエとあきれるフレア。
「ま、まあ事情はあとで・・・とにかく上がってください。」
「す、すみません。」
それでもヌエはライトを居間に上がらせることにした。ライトはお店に入ってきた時のような堂々とした態度はもはやとっていなくて、なんどもため息をつきながらサンダースの特徴であるとげとげもなえさせて、よほどショックなことがあったんだろうなあとフレアに思わせる。
ライトが店先から居間に行ってしまうと、フレアとヌエはお互い小さなトーンで会話を交わす。
「何かあったのかなぁ?」
「うーん、わかんない。お兄ちゃんにはお兄ちゃんの・・・」
言葉に詰まるフレア。いい表現が思いつかないみたいで、それを察したヌエは耳打ちをする。
「事情?」
「うん。じじょーがあるんじゃないかなぁ。」
首をかしげるフレア。うーん、と店の先から外を見たヌエは何かを思い出したように言う。
「店番、俺がしようか?フレアは、ライトさんと・・・」
「えー・・・でも・・・」
異論があるようなフレアの態度だったけれど、最後にはうん、と頷いて居間へ上がっていった。ヌエは店先に立って、近くの商店や、その先に流れる大きな川を見つめてリラックスのための深呼吸をする。
「ふぅ・・・」

「ふれあ・・・」
ライトはあとからやってきたフレアを見るなり、安堵したような、でもまた不安がよみがえったような複雑な表情を浮かべてはぁ、とため息をついた。
「どーしたのおにーちゃん?なんで喧嘩したの?」
フレアは余計な気遣いなどせずに、ストレートに兄に問う。
「・・・いつ結婚するんだって言われて。」
「・・・ぷふっ。」
それだけで喧嘩するものなのかな、と思ったフレアは笑うまいと思ったが、それより先に笑ってしまい。ライトは余計に表情を暗くした。
フレアにしてみれば、結婚など自分の全くあずかり知らぬところで決められて、ヌエとの相性が抜群に良かったからそれ以降いつもくっついているけれど、母のリサーチが悪ければ、本当に絶縁状態にもなりかねなかった。
「私もヌエくんもほぼ勝手にそのー・・・」
フレアは結婚についてヌエと初めて会った時のことを言おうとしたが、その時にあったことを思い出して赤面してしまう。初めて会った日、ヌエとフレアは親に面会させられて、その日に肉体的な契を結ばざるを得なかった。そういう伝統だったからだ。
お互いの親の誠意として、契を交わすらしいが、そういう儀式的なことで、自分の初めてを、ヌエにささげたフレアにしてみれば、不満はあるといえばある。フレアにしてみれば、もっと自分の意思でヌエに触れたかったという思いが強かった。
「母さんがその、俺に無断で決めるんだったら・・・と思ってさ。」
「じゃあ勝手に決めてもらえばいいじゃん。」
フレアの言葉にライトはえっ、という驚いた表情を浮かべて、お前はわがままだ、と言わんばかりの厳しい表情を浮かべるフレアをじっと見つめる。
「おにーちゃんはさ、まだ年齢=(イコール)彼女いない歴なんでしょ?だったら決めてもらえば?」
これまで聞いたことのない妹の厳しい言葉に、ライトはうう、とフレアから目をそむけてしまう。
「で、でもフレアだってさ、」
「私はああいう状況でもヌエくんのことが好きになったから、快くヌエくんを受け入れたんだよ?」
「で、でもさ・・・」
あくまで弁解に逃げる兄に、フレアはもう頭の中が爆発しそうになる。もじもじとする兄は妹にとって頼りないの一言ではもう済まない。
「おにーちゃんはそんなんだからダメなんだってばっ!!」
抑えようとした怒りも、抑えられなくなって。その怒号が聞こえたのか、あわててヌエが居間にやってきて、フレアをなだめようとする。
「ふ、フレアやめなって・・・」
「ヌエくんも何か言ってよぉっ。」
フレアの一言に、ヌエは、ああ、来なきゃ良かった、と自分の振る舞いを悔いたけれど、来てしまった以上、この兄妹をなだめるしかない。
「で、どうしたんですか?」
「え、ああ。そのーっ。」
自分の情けなさを自覚したのか、ライトは言葉に詰まって、話すことができなくなってしまった。
「フレアっ、ちょとちょとこっち。」
手をくいくいと動かして、フレアを居間から玄関の板の間に連れ出すヌエ。フレアもちょっと落ち着いて素直にうん、とライトを残して出ていく。

ふたりきりの空間。事情がわからず困惑するヌエは、ちょっぴり怒って、拗ねてる風なフレアにとにかく話を聞くことにしてみる。
「どしたの?」
「えっとねー・・・おにーちゃんがモテなくて困ってるんだってさ。」
「それだけ?」
「うん。」
うん、と首を縦に振るフレアと、ますますよくわからなくなってしまったヌエ。
「えっとーまずライトさんは・・・」
「私のーおにーちゃんで・・・えーっと・・・」
フレアもヌエの混乱ぶりを察したのか、とりあえずできる限りの言葉で伝えようとする。
「お姉ちゃんいなかったっけ?」
「おねーちゃんは・・・おにーちゃんのいっこ下で・・・おにーちゃんが私たちの兄妹のなかで一番年上なの。」
「え、あ、そっか。で、ライトさんは何を?」
「たしかおにーちゃんはヌエくんと同い年だったはずだけど。」
敬語使わなくていいよ、と遠まわしに言っているのか、フレアは年齢のことを言う。ヌエも、あ、そう、と少し驚く。
「おにーちゃんは私みたいに勝手に結婚相手決められるのが嫌なんだってさ。」
「ああ。」
納得、といった表情でフレアを見るヌエ。こんな説明でわかってくれるのか、とフレアはまたクスっと笑ってしまう。
「ま、確かに。俺はそんなに嫌じゃなかったけどなぁ。勝手に決められる、っていうこと自体は。」
「なんでぇ?」
不思議だ、と思うフレアはヌエの顔を覗いて言った。ヌエは戸惑いがちに自分の思いを素直に述べる。
「俺はとてつもなく臆病で、モテなかったからね。」
「うん、わかるっ。」
自分と初めて会った時のヌエを思い出して、にこにこ笑顔で大きく首を縦に振るフレア。そしてそのリアクションを示した数秒後に、ああ、余計なことをしてしまった、と後悔する。
「・・・」
「ごめんヌエくん。でも・・・」
「俺はフレアと会えて、フレアが大切な存在だと思ったから・・・」
ヌエの言葉にフレアはぽっ、と元の朱色の毛並みの顔をさらに紅潮させて照れてしまう。フレアにとって、ヌエの言葉はとっても暖かい。
「ぬ、ぬえくん・・・」
「あ、フレア、ありがとな。」
「ううん、そんなことないよぉ。」
自分の体をヌエの体にすりすりと擦りつけてうれしい感情をいっぱいに表すフレア。ヌエもフレアにくっついたまま、離れないでいる。朱と黄、灰と黒、の毛並みは隣り合って、時折擦れると、ふたりともぷるっと震える。
お互いがお互いへの愛を示すように、時折見つめあって、笑む。

「・・・で何の話だっけ?」
しばらくして、ヌエはなんで自分がフレアを呼び出したかを忘れてしまった。
「なんでだっけ?」
笑顔のフレアは、わざと言わないことにして、ヌエのそばにぴったりくっついている。
「あのー・・・」
す、とライトが表れて、ああ、そうだった、と要件を思い出したヌエとくっつきタイムが終了してちょっと残念そうなフレア。ふたりはまた居間に戻ることにした。

居間で隣り合うフレアとヌエに、机を挟んで真向かいにいるライトはちょっとおどおどして、落ち着きがない。
「あの・・・」
ライトが沈黙を破る。
「あの、ヌエさんは・・・」
「呼び捨てでいいって。」
ヌエの言葉に、また黙ってしまうライト。なんだかじれったいなぁと思うフレアに、ライトは自分との距離を測ってるんだなぁとかつての自分を思い出してヌエはそう感じた。
「ヌエさんは、最初どうでしたか?仕事とか・・・」
「仕事?」
「はい、実は俺、自警団の捜査部の部長になることになりまして・・・」
てっきり女関係のことを聞かれると思ったヌエは首をかしげる。自警団というのはこの町の治安維持にあたる仕事で、この町の平和に貢献している。
「仕事は・・・親からの引き継ぎだから、なんというか・・・親からここを任されてるんだけど・・・」
「そうですか・・・それで俺、みんなの上に立つんだからいい加減に結婚しろって親に急かされてまして・・・でも、俺モテたことないから。」
「だから私はおかーさんに決めてもらったらいいって言ってるんだけどさ。おにーちゃん踏ん切りつかないんだって。」
「それでライトくんはどう思ってるの?」
「えーっと・・・」
ヌエはライトが自分の過去によく似てるなぁと思った。
「俺の経験からいうと、本当に好きな仔でもいないなら、やってみてもいいんじゃないかと思うんだけどさ。」
そう言うヌエに、ライトはうーん・・・と両手で頭を抱えて悩んでいるみたいだ。フレアとの出会いはヌエにとって自分の一生の大きなターニングポイントであったことは間違いないようだ。
フレアがどれだけ甘えても、わがままを言おうとも、それらを拒まれようともフレアにとってまじめに向き合ってくれるのはヌエだけだ。そういう意味では、ヌエもフレアもお互いの心の一部になっていた。
「いるの?」
「・・・いません。」
「じゃあ決まったじゃん。さ、帰った帰った。」
フレアが手を2、3度振ってしっしっ、と虫でも追い払うかのようなそぶりをする。それでもライトはどこか不安そうでまだ何か話をしたいことがあるような感じだった。
「どしたの?」
やっぱり気になるヌエがライトに問うと、ライトは戸惑いがちに言葉を発する。
「もう!そんなに決められないんだったらさっさと家帰ったらいいじゃんっ!」
フレアもさすがにこれ以上の忍耐はないようで、怒りの炎が彼女の言葉には渦巻いている。
「・・・わかった。」
ライトは聞こえるか聞こえないかくらいの声でつぶやく。フレアはそれを聞いてほっとする。
「家に・・・帰ります。その代り・・・ついてきてもらえますか?」
「・・・は?」
ライトの言葉にちょっと唖然とするフレアとヌエ。たしかに喧嘩して出てきた以上、ひとりでひょこひょことは帰れないだろう、ついていってもいいかなぁ、とヌエは思った。
「ちょっと顔を出しにくい・・・ので。」
「ま、まぁいいか。」
「でもお店どーするの?」
フレアの言葉に、ヌエはうーん・・・と悩んでいる。ライトもさすがにそこまでさせることはできないので、二人のお店が終わるまで待つことを決めた。
「じゃ、じゃあ待ちます・・・ヌエさんが終えるまで。」
そこまでしてついてきて欲しいのか、とヌエは思ったけど、これ以上巻き込まれないためにはこれくらいしてもいいかな、とも思った。
「じゃ、店番よろしく。」
ヌエはそう言って、席を離れると、フレアとライトを残してまたさっきちらかした本と睨めっこを始めた。実家に電話をしたフレアははいはーい、と機嫌よくまたお店に戻っていった。ライトは気が重いながらもフレアの後についていった。

フレアは兄と店にいる気まずさを感じながらも、時折覗きに来るお客さんの応対にせっせと励んでいた。一方のライトはその妹のすることをただ眺めるだけ。
「あ、この防虫剤ですね、ありがとうございます!」
お客さんのハッサムに、防虫剤の玉を渡すフレア。代金をもらうと、それを首の毛並みにしまいこんで、珍しく連続してやってくるお客さんの応対をする。
「ありがとうございます!」
威勢の良い挨拶をするフレアに、お客さんはみんなにっこり笑みを浮かべている。それを後ろから見るライトは、自分の知っているそれまでの妹と比べて、変わったな、と思った。
ライトの記憶の中にあるフレア、それは無口で自分の言いたいことを全然言わなくて、その反面気難しくわがままなところも多くて、ヌエとの関係で見せる女の子らしさとか元気さなど、昔にはなかったように思える。
こんなに変わるものなのか、とライトは驚きを隠せない。ライトにとってヌエというグラエナは少し近寄りがたい存在な面もある。それは明るく、頼りがいがあるという自分とは対極的なイメージのためだ。故にフレアの言うヌエ像には若干戸惑っていた。
今日ヌエたちのところに来たのは、妹のフレアであれば自分の置かれてる環境に好意的に理解を示してくれるんじゃないかという今にしてみれば甘い予想がもとで、現実に来てみると、フレアが一番厳しくて、ヌエが一番理解を示してくれる。
「こんにちは。」
そうこうするうちにまたお客さんがやってきた。今度のお客さんはウィンディでちょっと具合がよくなさそうだ。
「すみません。薬を頼みたいんですが。」
「は、はい。ヌエくんっ?」
フレアがそのお客さんは自分では対応できないと感じ、すぐにヌエを呼ぶ。
「あ、今いく。」
その声がして間もなく、ヌエは店頭にやってきて医者に行ったかどうか、などと詳しく何度もそのお客さんに尋ね、メモをびっしりと取っている。
フレアがいつもヌエに届かない、と思うのが、この集中力で、ヌエの父もヌエの唯一の長所で、それだけで飯を食ってると言うほどである。それ以外はほかのポケモン以下、というのがヌエの父のヌエに対する評価である。
そんなことないけどなぁ、とフレアは思うけど、ヌエの父はヌエが自分のお店を持って以降、ヌエには自覚を持て、と厳しい面を見せることが多くなったらしい。
フレアがそんな回想をしているうちに、ヌエは薬草棚から5つ6つの薬草を取り出して、居間へと戻っていった。薬を作るようである。その間、フレアはお茶を風邪っぽさそうなウィンディに出して、ちょくちょく世間話の相手を務める。
居間かキッチンかはわからないけれど、ゴリゴリと何かをすりつぶす音が聞こえた後、また音は静かになり、ヌエはせっせと自分の仕事に勤しんでいるようだ。

ライトはこういう空間にいることにかなり気まずさを覚えるようになっていた。ふたりは必死に動いて、生活の糧を得ようとしているところである。それなのに自分は・・・と。
フレアはフレアで情けない兄だと思いつつ、見せつけるように元気を出す。ほぼ無関係といっていいヌエだけは、マイペースにいつもの調子だ。
「お薬、できましたよ。お大事に。」
そういうと、ヌエはウィンディに小さな粉薬を見せ、それを丁寧に一包ずつ、オブラートに包んで、紙袋へ入れる。そしてウィンディにさんざん薬の説明をした後、紙袋を渡し、代金をもらった。
ぐー・・・
気が付けばライトのから空腹を示す音が景気よく狭い店の中に響き渡る。
「はぁ・・・」
「帰ったらよかったのに。」
フレアの冷たい言葉。ライトは言い返すことすらかなわない。ヌエは店の中を見渡して、自分が作った虫よけやらクサい防犯ボールやら、が売れてるかどうか確かめる。
「はぁ。フレア、お昼にしよっか。」
「うん。またおいしいごはん作ってね?」
ヌエがうん、と頷いて、また店の奥へ戻っていく。フレアとライトはまた気まずい時間を過ごす。ふと、フレアの耳に、ぱたぱたと小さなポケモンが走ってくるような足音が聞こえた。そしてフレアにはこの足音の主が誰かわかる。
「あ、来たかな?」
そして振り返ると、そこにいるのは小さなポチエナ。
「ユウくんこんにちは。」
「こんにちは!」
澄んだ赤い瞳をきらきらと輝かせて、ポチエナのユウは背負ってた荷物を降ろす。このポチエナのユウはヌエの弟でお父さんに頼まれて週に一度か二度、薬の原料を運んでくる。
ヌエの父は別の小さな町で大きな薬屋を営んでおり、小さいながらもヌエの薬屋のほうが町中にあって、交通の便はいいものの、山が遠いのでハーブ、薬草などは必ず届けてもらうようにしている。
「おにーちゃんは?」
荷物を降ろしたところで、ユウは兄であるヌエを探す。フレアはお昼ご飯作ってるんだよ、とユウに言うと、ユウはそっかー、とちょっぴり残念そうな表情を浮かべる。
「電車で来たの?」
フレアが聞くと、ユウはうん、と大きくうなずく。お疲れ様ーとフレアが頭を撫でて、急須に入っているさっき客のウィンディのために淹れたお茶の余りをコップに注いで、ユウに渡す。
「おねーちゃんありがとっ。」
「どういたしまして。」
フレアにとってこの血のつながりのない弟はとってもかわいい。フレアは父も母もイーブイの進化形でゆえに子供はみんなイーブイである。そんな中でヌエと10以上歳の離れたユウという弟はフレアにとって実質初めて深く接する幼いイーブイ以外の種族、ということになる。
ヌエは姉と妹、そしてユウの3匹の兄弟がいるけれど、姉は独立して、妹も姉にくっついて生活しているらしい。ヌエ曰く女系家族らしいが、ただヌエの父をはじめとして男が情けないから姉はとっとと自立する道を選んだようだ、とフレアはヌエの父から聞いた。
「おいしい。」
「うふふー、ありがと。」
フレアは結婚する際、ヌエの両親からいろいろな話を聞いた。父はヌエには薬屋を大きくしてほしいと願ってるようで、ユウにはそれを守ってほしい、と考えているようだ。母親はヌエに似てマイペースで、時折ふらっとお店に現れては、ヌエと勉強会をしている。
ヌエの母は薬草などのスペシャリストだったようで、父より深い知識を持っている。ヌエくんのお父さんもお母さんのお尻に敷かれて大変だなーというのが、フレアの率直な思うところである。
そろそろ昼ごはんできるぞー、というヌエの声が店に響き、ライトとフレア、そしてユウは居間に上がっていった。
「おにーちゃんやっほ。」
「ああ、ユウ来てたのか。」
ヌエは会うなりユウから荷物を受け取ってその場で薬草のチェックをユウと一緒にしている。先に食べてていいよ、というヌエの言葉に甘えて、ライトとフレアは今の机の上にあるフレンチトーストをほおばる。

「えっとー・・・これが解熱用のやつか?」
「うん。おかーさんがそうゆってたよ。」
乾燥してやや茶色の入った草や葉をひとつひとつ丁寧に細かいところまで見ると、またノートに記して、一種類ごとに棚へ持っていく。
「あ、これはダメだな。」
「そうなの?」
「うん。見て、これ。」
ユウが兄の持つ草を見ると白い斑点がいくつかついていた。
「これは病気になってるやつだわ。」
「草も風邪ひくの?」
そのユウのかわいらしい表現にヌエがくすっと笑うと、まあそんなところかな、と言ってユウの頭を何度も撫でる。
フレアはその光景を温かいまなざしで見ている。ヌエにとっては、年の離れた弟というのはとってもかわいいらしい。喧嘩も滅多にしなかったようだし、昔はよくお出かけに連れて行ったらしい。
年々成長していくユウは、ヌエより賢いらしく、いい学校入れてあげなきゃ、と家族で思っているようだ。

「よし、終わり、飯食うぞ。」
「うん。」
と、ヌエとユウがテーブルの上を覗くと・・・
「あ、ごめんヌエくん。切り分けたらよかったね・・・」
フレアは一枚だけ残ったフレンチトーストを見て、申し訳なさそうに言う。
「うーん・・・はんぶんこするか。」
「うんっ。」
そういうとヌエはトーストを手に取って半分に引き裂いた。その片方をもらったユウはとっても嬉しそうにばくばく食べる。ヌエもその食べっぷりを見てユウもお腹すいてたんだなぁ、と食べながら思った。
あっという間にきれいになった食器類をフレアが洗っている間、ヌエはユウに来客を紹介する。
「こちら、ライトくん。フレアのお兄さんだよ。」
「よ・・・よろしく。」
「よろしく・・・」
ユウの反応はいまいちよくない。ライトがおどおどしているのがちょっと気に入らないみたいだ。そうこうするうちにフレアは食器棚に食器を並べ終えてヌエのところにやってきた。
「ユウは一回フレアの実家に行ったじゃん。」
「うん・・・あー。」
「どした?」
まだユウの反応は良くない。フレアはユウが実家に来た時のことを思い出した。ヌエは一度、フレアの兄弟姉妹に会うために、ユウと両親を連れてフレアの実家に行ったことがある。
「そーいえば、ユウくんおねーちゃんに捕まってたんだよね。あの時。」
「そんなことあったっけ?」
「うん。」
フレアとユウはぺこっと首を縦に振る。どうやらフレアの姉のエーフィのユーリは年下の男の子が好きなようで、ユウを見るなり帰るまでくっついて、ユーリは楽しかったかもしれないが、ユウにとってはちょっと怖い思い出のようだ。
「今日この後、フレアの実家に行く予定なんだけど、ユウは来る?」
ぶんぶん、と首を横に振って嫌がるユウ。そんなに嫌だったのか、と思うヌエと申し訳ないな、と思うフレアとライト。
「さっき行くって連絡したときはおねーちゃんいなかったけどね。」
フレアがそう言っても、ユウは行きたいとは思わないようだ。
「ま、途中まで一緒に行こうか?」
そうヌエが言うと、ユウはうん、と頷いた。ヌエの実家とフレアの実家はヌエのお店から見たときには同じ方角に位置し、鉄道を使うときは途中まで同じだ。
「じゃ、もうちょっとゆっくりしてていいぞ。」
「はーい。」
ユウは居間にコロコロ寝転がって、兄が仕事を終えるのを待つことにした。ヌエはその間、ユウが持ってきてくれた薬草を整理し終え、自分の父に連絡し終えると、またお店に戻った。
フレアもそのあとをとことこついて行って、またいつもの通り仲良くくっついている。ライトは眠そうなユウの話し相手をすることにした。
「ユウ君はなにが好きなの?」
「ぽけもんばっかぁ。」
伏せるユウは上目づかいでライトの様子をうかがっている。そんなユウに、ライトはやさしく語りかける。
「運動すき?」
「うんっ。」
徐々に打ち解けていくふたり。

そんなふたりの会話を盗み聞きするヌエとフレア。
「ユウくんとヌエくんって性格結構ちがうよね。ヌエくん運動得意じゃないし。」
「うーん。運動は得意じゃないけど俺は好きだけどなぁ。あ、お客さん来た。こんにちは。」
ライトとユウの会話を時折気にしつつ、ヌエとフレアはまたいつもの仕事へと戻っていく。午後は午前に比べてお客さんが多いのがいつもだ。フレアはまた元気にあいさつをして、お客さんを迎える。
ヌエもお客さんが持ってくるお医者さんの処方箋を見て、確認して、薬草を組み合わせていく。周りのポケモンたちはヌエを見習いだけど、いてくれるだけで心強い、といつも頼りにしてくれる。
そんな町が、ヌエもフレアも大好きだ。

「はぁ、もうそろそろお店閉めないとなぁ・・・」
すっかりあたりは夕闇に包まれて、あちこちの街路灯に火がともった。ヌエはそういうと木の戸を閉めて、本日は閉店しました、というプレートを提げる。
フレアはさっきまでお金を挟んでいた自分の首周りの黄色のもふもふ毛並みを何度も確認して、コインが一枚も毛並みに挟まってないかを確認すると、今日の売り上げをすべて袋に入れてコインの種類ごとに分けていく。
「ヌエくん、お金見てね。」
「ほいほい。」
ヌエは頂いた代金を丁寧に数え、書き記していく。そしてバチバチと電卓をたたき、何度も何度も目の前のノートに書きもまれた数字とにらめっこし、計算が済むと、それを特殊な金庫にしまう。
「ユウ?起きてるか?」
「寝てる。」
ヌエの声に、帰ってきたのはライトの声。ヌエは仕方ないな、とユウの体を揺さぶる。ユウのグレーの毛並みはなんどか揺らされると、ぴく、と震え、ユウは起き上がった。
「おはよぉ・・・」
「帰るぞ。」
ん、と首を一度縦に振るユウ。ヌエはそんなユウにほい、と一枚のコインを渡す。
「おかね?」
「そうそう。お駄賃。いつもありがとな。」
ユウは嬉しかったようで、ヌエにありがと、とお礼を言いつつも視線はそのコインから離れない。そしてヌエはフレアとライトに視線を移して口を開く。
「さて、みなさん出発です。」
「はーい。」
「はい。」

夜の闇に包まれた町。戸締りを確認したヌエはユウを背負って、駅まで歩いていく。フレアとライトはようやくまともに会話ができるようになったらしく、近況を話している。
「先に俺の家に行くから、フレアはライトくんと行ってていいよ?」
「やだ。」
ぷいっと首を横に振るフレア。ついてくる?とヌエが聞くとライトもフレアもうん、と頷く。そうして4匹は鉄道に乗り、ヌエの実家へ向かった。

「はぁ、遠いね。」
「夜も遅いしなぁ。」
ヌエとフレアはライトのフラッシュのなか、とことこと進んでいく。ユウはもうすっかり眠たいようで、ヌエの背中に捕まって、くぅくぅ寝息を立てている。
「ユウくんかわいーね。」
「うん。年の離れた弟っていうのはかわいいもんだよ。」
しみじみ語るヌエにライトもこく、と頷く。
「なんでおにーちゃんが頷くのよ。」
くすっと笑って言うフレア。ライトはいやぁ、と照れて、理由を語る。
「弟のフィーアは中途半端に歳が離れてるから、時々イライラすることもあるんだよなぁ。」
「フィーアってリーフィアの?」
ヌエが聞くと、ライトとフレアはうん、と頷く。彼らもまた、兄弟姉妹が自分たちを含めて5人と多く、フレアは3姉妹の真ん中で、ライトは2兄弟の兄である。
「あ、見えた見えた。」
暗闇の中に明かりのついた大きな建物が目に入る。

「こんにちは。」
玄関の鍵を開けて入ると、ヌエより少し老けたグラエナがヌエたちを迎える。
「あ、お帰りなさい。ヌエ、ユウ。フレアちゃん。えーっとそこのサンダース、名前忘れた。」
「ライトです。フレアの兄です。」
そのグラエナは、ああ、そうだった、と思い出して、ごめんね、と謝る。ライトはいえいえ、と気にしないそぶりをした。
「ごめん母さん、俺すぐ行かないといけないからさ。」
その言葉に、ヌエの母は惜しそうな表情をするけれど、気を付けてね、とすぐに笑顔になった。
「ユウ、じゃ、また今度な。」
「うん、おにーちゃんも元気で。」
後ろ向きになったヌエは背負っていたユウを玄関に下ろすと向き合って何度も頭を撫でる。ユウは嬉しそうに澄んだ赤い瞳を細めて、兄の感覚を受け止めていた。その光景を後ろから見ていたフレアとライトはにこっと微笑む。
「じゃ、行こうか。」
「うん。」
手短に別れのあいさつを済ませると3匹は玄関を出て庭を通り、ライトの家を目指す。ヌエの母親はヌエたちが見えなくなるまで玄関にいて、ヌエたちを見送った。
ヌエの実家を出て、またライトのフラッシュに照らされて道を歩くヌエたち。
「ああ、家族っていいなぁ。」
ライトは唐突につぶやく。
「じゃあ早く結婚したらいいじゃん。」
フレアの突っ込みに、そうだなぁ、とため息交じりにライトは言う。ライトは、母親がユウとヌエに暖かい態度を取っているのを見て、なんだかうらやましくなっていた。
「にしても、ヌエくんの家、怖いね。夜は。」
「そう?グラエナだから別に夜が怖いとかそんなんはないけど・・・」
「だって庭とか真っ暗じゃん。昼間に来たときははきれいだなぁと思ったけどさ。」
ヌエの家の庭には小さな池と、小石が敷き詰められた道があり、心を落ち着ける間、として一族は使っているようだ。
「俺、一回あの池に落ちてさ。」
「えっ?」
ヌエのどんくさい話に、ライトとフレアは失笑する。フレアはさすがに子供の時だろう、と思った。
「子供のとき?」
「ううん。初めてお酒を盛られたとき。ふらふらになってさ、あの池の縁をとことこ歩いてたら、滑ってぼちゃん。姉ちゃんと父さんに引っ張り上げてもらって。」
「ださい。」
ストレートなフレアに、ふふっと自分でも笑ってしまうヌエ。
「フレアはお酒飲んだことあるっけ?」
「まだないよぉ。飲めないもん。」
ああ、そうだった、と思い出すヌエとライト。しばらく他愛のない会話を続けるうちに、彼らはライトの家にたどり着いた。

ライト、とフレアの実家は大きな二階建ての建物で、昔は大きな一族だったらしいが、時代の流れとともに、普通の家庭と同じ程度になったらしい。
フレアとライトはここで育ち、フレアの家から少し離れたところにある森の学校が彼女が教育を受けたところである。
「早く行ってよー。」
家の門の前でライトをぐいぐいと押すフレア。ライトはなんだか気まずい様子でたじろいでいる。その光景を見てはぁ、とため息をついたヌエは玄関のチャイムをちんちんと鳴らす。
するとものの数秒で、玄関の扉が開き、お帰り、と笑顔で自分の息子娘を迎える母親のシャワーズ。ヌエは自分だけイーブイ進化形じゃないので、フレアの実家にいるときは割と気まずい。
「おかーさんただいまぁ。」
「お帰りなさい、フレア。ヌエさんもお久しぶり。」
「ミズナさん、お久しぶりです。」
玄関でフレアとヌエに元気にあいさつをするシャワーズのミズナ。フレアとライトの母である。そしてそのミズナは露骨にライトを無視する。
「か、かあさんただいま・・・」
「ふん、お帰り。」
明らかに不機嫌なミズナ。ライトに散々冷たい視線を浴びせたミズナは、ま、どぞどぞ、とフレアとヌエを座敷に案内する。ライトも申し訳なさそうにフレアたちについて行く。
自分の部屋に帰ってもよかったんだけれども、ただそのままだとフレアたちが帰った後にろくなことにならないということがライトにはわかっていた。
「じゃ、こちらでゆっくりしててください。フレア、手伝ってくれる?」
「うん、おかーさん。じゃ、ヌエくん待っててね。」
うん、とヌエが首を縦に振ると、フレアは元気よく母親とともに畳が敷かれた和室から出て行った。広い和室に残されたのは、ライトとヌエ。
「やっぱり帰ってくるんじゃなかったっ・・・」
震えるライト。よほどお母さんが怖いんだろうなぁ、と思うヌエは、フレアと初めて会った、その儀式のときにフレアがミズナにぶたれて大泣きしたのを思い出した。
母親が怒るとめちゃくちゃ怖い、というのは、どこの家庭も一緒なんだな、と思ってふふっと笑うヌエ。
「はぁ、大丈夫だよ。命までは取られないって、たぶん。」
落ち着かせるような口調ではヌエは言わなかったけど、涙目のライトを落ち着かせるのに、少しは、効果があったようだ。
しばらくヌエはお座りの姿勢のまま、あたりをじーっと見渡す。するとこっちを覗いているブラッキー、とリーフィアと幼いイーブイ。グラエナの自分がこの一家にいて、ちょっと浮いているように感じるヌエ。
「やっぱり居心地良くないなぁ・・・」
ぼそっとつぶやくと、ヌエの視線に気づいたのか、その3匹はヌエのいる部屋に入ってきた。
「お久しぶりです、クロノさん。」
「ヌエくん、久しぶりだな。元気にしてるかな?」
はい、というとブラッキーのクロノ、フレアたちの父親は、ヌエの前に座って、息子娘をそのそばに座らせる。
「フィーア、ヌエさんだぞ。」
「知ってるってば。」
「コロナ、ヌエさんだぞ。」
「それくらい知ってるよぉ。ふれあおねーちゃんの旦那さんでしょ。」
フィーアというのはライトの弟で、イーブイのコロナは一番下の妹だそうだ。フレアはこんなにぎやかな環境で育っているけれど、母親のミズナはフレアはおとなしく自己主張が下手だったと言っていた。今は正反対だなぁとヌエは思う。
「ライト、元気か?朝からすごい怒鳴られてたけど。」
クロノがそういうと、ライトはまた震えて今度は泣き始めた。
「ユーリおねーちゃんが一番げんきだよね。」
イーブイのコロナはいい加減会話に飽きたのか、ぱたぱたと走り出して、部屋から出て行った。
「ライトにーちゃんが一番ネガティブだよね。」
フィーアもそう言い残すと、またどこかへと走り去った。たしかにこの環境で親と喧嘩したら相当気まずくなるよなぁ、とヌエは肌で感じた。
「フィーアもそろそろお嫁さん探しのころかなぁ。」
クロノはそうつぶやく。どうやらこの家では恋人がいないと勝手にお見合いを両親が決めてるみたいで、フレアも何も知らないまま、ヌエと出会った。
このしきたりを唯一逃れているのが長女のユーリだけで、そういうのが嫌だと家を出て、自立して生活しているが、たまに家に帰ってくるらしい。
「うーん、ヌエくん遊んでよー。」
また戻ってきたフィーアがヌエのそばに来て、トランプを広げている。ヌエもうん、と頷いてなにしよっかーと話をしている。
「あ、父さんも混ぜてくれよなー。」
しばらく3匹でトランプ大会・・・ライトは震えたまま。

「お待たせヌエくーん。」
フレアが晩御飯のごちそうを背負って和室に戻ってくると、ヌエとフィーアはそれを手伝って、机に御馳走を広げる。どうやらフレアとヌエが帰ってくると連絡があったときから、準備が始まっていたようで、とても豪勢だ。
色とりどりの木の実、おいしそうな果実と穀物。それに加えて暖かそうなスープ。それに加えてコロナを連れてきたミズナがお皿を並べる。ヌエもフレアの家族に交じって手伝うと、豪勢な食事が出来上がった。
「できたよー。ヌエくんどこ座る?」
フレアはじっとヌエの目を見てどこに座る?と聞く。幸いヌエたちがいたところは誰もいなかったので、そこに座ることにした。
「ここ座るよ。」
「じゃ、私も。」
仲良く隣り合って座り、食事の挨拶をする。食事にはさすがにライトもいる。
「ふう、じゃ、いただきます。」
「いただきます。」
そうしてご飯にありつくヌエとフレアの家族。一番食欲旺盛なのはフィーアなようで、ヌエに食べる量で負けたくないのか、せっせとがつがつ食べている。
「ところでフレアはヌエくんとうまくやってるかい?」
唐突に聞くクロノ。ヌエがドキッとしてしまって、なにか怒られるかも、とびくびく震える。
「うーんとね。うん。なかいいよ。」
「夜は?」
「ふぇっ!?」
唐突に口をはさむミズナ。しかも今度は結構ド直球な質問に。ヌエは完全に視線が泳ぐ。クロノもライトもミズナの言葉にあわわ、と落ち着きをなくして、フレアが何を言うか、注目している。
そのフレアも夜、の意味を理解して、どういえばいいのかパニックに陥っている。
「ふぇっ、えーえー、夜?夜はすごく過ごしやすいよ?」
「そういうことじゃないの!」
ミズナの攻撃はかなりきつい。明確な回答を迫ろうとしている。
「い、言えるわけないじゃん。」
「お互いの中を認めたってことは、跡継ぎがほしいっていうことだからね。」
「う、うん。うー・・・」
フレアはやっぱり答えられなくて、ミズナはとても不満そう。ヌエはもう気が気ではない。
「か、母さん、コロナたちの前でそういう話は・・・」
「あ、そ、そうね。あはは、私は何を言ってるのかなーっと。」
ミズナはまだ幼い子供たちが自分を見る視線に気づいて、自分が何を話していたのかようやく思い出す。フレアとヌエの夜は、ヌエが臆病なこともあって、そんなに交わっているわけではない。
フレアはそこが不満だけど、一緒に過ごす時間はいつでも楽しい、と思ってるし、まだ自分に子供ができる身体なのかも、わからない。ただ、お嫁さんに行くっていうことはかわいい孫が見たいっていうことだ、と母親に何度かは言われた。
どうにか誰にとっても心臓に悪い話は終わり、また一家団欒のにぎやかなご飯の時間が訪れた。
「ご飯おいしいですねー。」
「うん。さすがおかーさん。」
ヌエとフレアはただ、話を蒸し返されるのだけを阻止しようとして、とにかく必死に話をつなぐ。
「ヌエさんのお薬屋さんはどうですか、基本お暇だとお聞きしましたが。」
「そんなことないよ、おかあさん。今日も忙しかったよねー、ヌエくん。」
「そうだね。なんだか最近は忙しい日々が続くなぁ。」
へー、とヌエとフレアの話に頷くクロノとミズナ。自分の娘のことはやはり、気にかけているようだ。兄弟たちの中でもっともはやく結婚したのが、フレアだということで、ミズナはヌエと会う機会が多い。
フレアについてよく知っているし、どうすればいいかよく教えてくれるし、ヌエにとっても、ミズナは恩人である。ご飯の間、みんなは終始、にこやかに会話を交わしていた。

みんな食事を終えて、休憩中。
「ふー・・・ごちそうさま。」
「あ、ぬえくんしなくていいよ。私がするから。」
すっと立ち上がって、食器を持っていこうとするヌエを、フレアが止める。でも悪いよ、と断るヌエだったけど、ミズナは、大丈夫よ~、と止めさせた。
「あ、ライト、ヌエさん、話があるからここにいてね。」
「はい。」
ミズナはライトとヌエをここにいるよう引き留めると、フレアとフィーアを引き連れて食器を片づけに向かった。

じゃばじゃばと水道が流れる。その中にミズナとフレアは食器をざぶんと浸す。そしてフィーアが次から次へ持ってくる食器をまた同じように水に浸す。
すべての食器が台所に集まると、ふたりはそれらを洗い始める。フレアが水に浸かったお皿を手に取って、石鹸のついたスポンジでごしごしと汚れを落とす。そして石鹸のついたお皿を母親のミズナに渡すと、ミズナは泡を落として、乾燥棚に並べる。
一見簡単に見える作業だけれど、ふたりの息が合わないとお皿を落として割ってしまったりするので、見ている以上に難しい作業だ。
「フレア、実際はどうなの?」
「ふぇ?」
その作業の最中、唐突に夜の話を蒸し返すミズナ。
「そ、そんなの・・・」
「言えないか。そうよねぇ。でも、知ってるっていうことは、少なくともヤっちゃってるってことよね。」
うふふ、と笑むミズナに、図星のフレアはかぁぁ、と顔が熱くなる感覚を覚えて、何も言えなくなってしまう。うぶだなぁ、とミズナは思ってもうちょっと責めることにした。
「どれくらいでお楽しみをしてるのかな?」
「う、言いたくないよぉ・・・」
あ、認めた、とミズナは思った。認める言葉を発さなくても顔はもう真っ赤だし、はったりで発言を引き出す必要すらない。ミズナはフレアについてよく性格は似ていると感じる。億劫なところが過去、よく似ていた。自己表現が下手なところとか。
けれど、そのミズナでも、フレアと一つ違う点があると、最近感じるようになった。それは、フレアは割といじられるのが好き、要はMで、ミズナはいじるのが大好き要はSであるということである。
初体験が初体験だから仕方ないかなぁ、ともミズナは思う。ミズナもフレアと同じように、出会った時点では見ず知らずのクロノと一発決めて結婚したわけだが、ミズナは割と主導的だった、と自分で思っている。
けれど、フレアの場合、ミズナはフレアには全く知らせずに、しかもそれでフレアの初めてをヌエに奉げさせたわけで、その点では受け身であって、Mになる素質もなくはないといえる。
「フレアは最近なんか不満そうだけどさ。」
やっぱりミズナははったりかまさずにはいられなかった。フレアはもうお皿を洗う手、すら止めて、これ以上追い込むと泣き出してしまいそうだ。
「うー・・・ヌエくんさ、臆病だから・・・」
おお、勝手に話し始めた、とミズナは思った。まぁこれくらいの会話を聞けば最近ご無沙汰ですねーというのはわかる。ミズナは実は特殊な巫女の系譜の出身で子供のころからこういった話術の教育を親から受けていた。
ゆえに、割と、ほかのポケモンの心を見抜くのは難しいことではない。そんなことは家族のだれにも言いませんが。今現在付き合いがあって、ミズナの過去を知っているのは、両親を除けば夫であるクロノと、そして幼少期からの唯一の親友である、ヌエの母親のグラエナのヨミ、だけ。
まだ一人前として不安のあったヌエの母親と、まだまだ結婚という年齢ではないフレアを持つミズナは、お互いが今後の彼らに深く関わりを持ち合うことで、ふたりの結婚に合意したという経緯がある。
「臆病だから、なかなか強引には来てくれないっていうこと?」
「う、うーん、強引じゃなくてもいいんだけど・・・」
フレアは手を首の黄色の毛並みに触れさせて、とってももじもじしている。朱色の繊細な指が繊細な黄の毛並みをかき分けてフレアの心の状態を表すようにくるくる動く。
「欲求不満なんだったら、フレアから強引に仕掛けてもいいと思うけどなぁ。」
「でも最近忙しいし・・・」
ふーむ、これは困った、とミズナは思う。たしかに、最近の町の噂では、ヌエは調剤師として、また薬草を見抜く力がメキメキと向上してきて、0,99人前くらいと噂されるようになっていた。
これはつまり、周りのポケモンのヌエに対する評価が上がって、ヌエの薬屋兼便利屋を利用するお客さんが増える、ということである。長期的な視点では、これは大変喜ばしいことであるが、フレアの夜が寂しいということでは、夫婦として問題あり、ということである。
しかもさらに噂によると、ヌエは休んでいても頼めば薬を作ってくれる、という休みなし状況で、フレアもそれを知っているからなかなかフレアからもアプローチしにくい、ということである。
「そうねぇ・・・じゃさ、一緒にお風呂入ってる?」
「え?・・・うーんと、三日に一回くらい。」
「毎日、毎日入るようにしなさい。」
「ふぇ?そ、そんなことしたら・・・」
ホントになんなんだこの夫婦は、とミズナは思う。異様に照れ屋なふたり。でもヌエのほうは理性(リミッタ)を外せばぶっ飛んでいきそうであるから、調教してもいいかと思うんだけど、そうすると今度はフレアがついて行けなくなる。
「身体に不調、がないなら、できる限りそうしなさい。」
ミズナの言葉に、最初は戸惑いとためらいがあったようなフレアだけど、口をきゅっとしめて、何か覚悟を決めたようだ。
「・・・うん。」
「そうする?」
「うんっ。」
ちょっと照れのあるフレアの表情だったけれど、ミズナの言葉で心を決めたのか、またじゃぶじゃぶとお皿を洗う前足を動かし始めた。ミズナは嬉しく思う反面、ちょっとの不安もあるけど、このふたりならきっとうまくいくだろうと願って、またフレアとの共同作業を始めた。
「今日ヌエさん泊めるの?」
「うーん。私は泊まろうと思ったんだけどさ。ヌエくんは・・・」
「じゃあフレアの部屋に泊めてあげなさい。」
その言葉を聞いた途端、またフレアの顔に躊躇いが浮かぶ。
「え、ででもきたな・・・」
「掃除くらいしてるわよ。」
「ホント?」
ほんと?ととっても嬉しそうなフレアの表情。ミズナはうん、と大きくうなずいて、ひとまずほっとする。じゃぶじゃぶと皿洗いを進める音が台所に響いている。

食事を終えてから、ヌエはフィーアとのトランプ遊びを再開して、顔がげんなりしていた。
「ヌエさん弱いよぉー。」
「うーん。弱いな。」
神経衰弱とババぬきをはじめて10連敗中。ふたり、だと必ずどちらか一方が負けるのだが、それでも破格の弱さだ。トランプに誰か加えようとおもっても、コロナは部屋に戻って寝てしまったみたいだし、ライトはおびえて震えているし、クロノはよほど大事なことでもあるのだろうか、さっきからトランプどころではない、といった様子だ。
いまはまたババぬきの最中で、ヌエが持つトランプは1枚。フィーアが持つトランプは2枚。つまり、この展開次第で勝つか負けるか決まる、というわけである。
「じゃあ、こっちか。」
す、と手を出して取ろうとすると、フィーアの目つきが変わる。栗色の瞳がす、と細くなったが、視線はどこか落ち着かない。
「じゃあこっちだな。」
ははーん、ひっかけか、と思ってヌエは指の向き変え、もう片方を取ると・・・
「だ、だまされた。」
「弱い。」
ジョーカーでした。あぅーと悔しそうなヌエの声が座敷に響く。でも、フィーアはヌエが強かろうと弱かろうと、トランプを続ける。何しろいつも遊んでくれるライトが今日は使い物にならないポンコツであるからだ。
と、とことこと誰かがこの部屋に向かってくる足音に気づいて、ヌエはす、と立ち上がる。
「あ、ヌエさん、楽にして。フレア、はやくはやくっ。フィーアちょっと外して。」
やってきたミズナはテキパキとみんなに指示を出して、フィーアを部屋から追い出し、後からやってきたフレアとヌエ、ライトを大きな机に横に並べて座らせると、自分とクロノはその真向いに座る。
追い出されたフィーアは不満そうだったけれど、大人の話だと分かると、さっさと部屋に帰ってしまった。
「さて、ヌエさんが今日来てくれて本当に良かった。」
本題を切り出すクロノ。その目つきは、腑抜けた父親、ではなくて一流のネゴシエーターのようだ。ヌエはこれから議論されることの内容についておおよそは把握できていた。
「ライトの結婚について・・・です。ご存じのとおり、ライトは今度、自警団の1つの部のトップになるということで、役職の影響力も大きいし、家庭を持って身を落ち着けさせることが必要だと思います。」
クロノもまた自警団の一員として長年コミュニティに仕えている。そのことで、家庭を持つことの重さも、職責の重さも、知っている。
「ライトはどうしたいの?」
ミズナが聞く。ライトは少しもじもじして、でもやがて覚悟を決めたように、ゆっくりと口を開く。
「おっ俺は・・・結婚したい。結婚して、ヌエさんみたいになりたい。」
そのライトの声は緊張にまみれた震える声だったけれど、ほっと安堵の空気が部屋を包み込む。これまで結婚に否定的だったライトが前向きになることで、クロノも、ミズナも、フレアもこれで結婚騒動もひと段落か、と落ち着く。
「じゃあ、相手探ししますか・・・」
クロノはそういうと、ヌエのほうを向く。そしてぺこりと頭を下げる。
「ヌエさん。これから、ライトの先輩として、いろいろ教えてあげてください。」
「は、はい。」
ヌエははい、といいライトのほうを向くと、ライトもぺこ、と頭を下げる。
「希望があれば聞きますが?好みのポケモンとか。」
ミズナはもはや商売モードで、自分の息子のライトからいろいろ聞き出そうとしている。そのシーンをみて、フレアは自分のときはこんなこと聞かれなかったのになぁ、とも思うけど、自分のパートナーのヌエのすがすがしい表情を見てと、いつもの生活の楽しさを思い出して、やっぱりお母さんすごいなぁと思い直す。
「そうだなぁ・・・美形ならだれでも。」
「ミロカロスでも?」
そういうミズナにあわててやっぱいいです、と言い直すライト。
「ま、フレアのときとは違ってちゃんと絵か写真か持ってくるから。」
フレアはなーんで自分のときは全部秘密だったのかなぁ、と思うけど、たぶんこんな風にされると逃げ出しちゃうからかなぁと自分を納得させる。そしてライトは再びうーんと考え込んで、母親のミズナにいろいろ聞いている。

ライトとミズナが何やら話している間に、ヌエはフレアのところにやってくる。
「俺、今日・・・」
「私の部屋に泊まっていきなよ。」
フレアがえっへん、と胸を張って言う。
「いいの?」
ちょっと臆病になるヌエに、フレアはいいに決まってるじゃん、と笑顔で言う。もう夜も更けて、あと3時間もすれば日が変わる、という時間だ。
「あ、フレア、フィーアとコロナにお風呂入りなさいって言ってきて。」
「はーい、お母さん。」
フレアはにこにこしたまま、その部屋を出て行った。しばらくしてどたどたとやかましい音がすると、コロナとフィーアは仲良く浴場へ向かっていった。
「ライト、次お風呂入りなさい。その次私が入るから、そしたらヌエさん、入ってください。」
「は、はい。ありがとうございます。」
ミズナの言葉にフレアはにこっと笑んでミズナを見ると、ミズナはフレアにウィンクを返す。
「ねーねーヌエくん、私の部屋に行こうよ。」
「あ、ああ。うん。」
フレアはヌエは部屋から連れ出す。すーっと目線でふたりの動きを追うクロノ。それに気づいたミズナはぎゅっとクロノの背中をつまむ。
「いてて・・・」
「お父さんは余計な心配しないでよろしい。」
はい、と反省したクロノはライトと世間話をしてもやもやする気持ちをごまかす。

大きな屋敷のような家の中で、フレアの部屋はどの部屋からも少し離れている。これは兄弟で近い部屋にいるよりも、座敷のある部屋に集まりやすい距離ごとに兄弟を分散させたためで、それぞれの兄弟たちの部屋は近くはない。
ぎぃ、と1年ぶりくらいに自分の部屋を開けるフレア。ミズナの言うとおり、自分の見られたくないようなもの、汚かったところ、埃、などはすべてきれいに片づけられていた。ヌエはちなみにフレアの部屋に入るのは初めてである。原因はもちろん、照れ。
「部屋、きれいだね。」
「お母さんが片づけてくれたんだって、さっき教えてくれた。」
ヌエの言葉にフレアはトーンを抑えめにして話す。これから起こるであろうことの期待も込めて。部屋は子供部屋にしては少々大きめで、おそらく成長しても使えるように大きいサイズのベッドがでーんと部屋を占領していた。
「このベッドも・・・」
「うん。イーブイだったときからここで寝ててさ、寝れないときはおねーちゃんの部屋まで行って、一緒に寝てたなぁ・・・」
フレアは少々恥ずかしそうに自分の過去を話す。
「俺はねーちゃんに甘える云々以前に母さんに寝かされてたからね。」
「へぇ。どして?」
お互い初めて話すこともある過去に、ヌエもフレアも興味を持って聞き返す。いつも一緒にいるはずなのに、お互いまだまだ知らないことも多いようだ。
「俺の寝つきがとっても悪くてさいつも夜更かししてて、あ、そういえば庭の池に落ちたの一回じゃないわ。子供のころ寝れなくて家をうろうろしてたら池に落ちて、母さんが鬼の形相になって助けてくれたなぁ。」
「かわいい子供だったんだね。」
フレアの言葉に、ヌエはそうかなぁ、と照れ隠しも含めて笑う。そしてふたりをあまい空気が包む。そしてフレアはゆっくりと、ベッドに上って、転がろうとする。
「ヌエくん・・・」
「フレア・・・」
フレアはごろっとベッドに寝転がるが、そのベッドはいまだにひとりで寝るには大きすぎるといえる。フレアはそのシーツの上に、朱色と黄色の毛並みを、仰向けにさらして、ヌエに自分の、まな板より少しだけ膨らんだ乳房を見せる。
これもフレアの悩みの一つで、姉と母は豊な乳があるのに、自分はすべて吸い取られたかのようにぺったんこであることだ。最初は成長が遅いだけだと自分に言い聞かせていたが、時間が経ち、姉の同じ齢だった時に比べて、明らかに見劣りしていた。それでもフレアは精一杯にヌエを誘惑する。
「きて・・・」
フレアの誘いに、こく、と頷くヌエは仰向けのフレアの体にまたがるように、覆いかぶさっていく。覆いかぶさったヌエのグレーと黒の毛並みのヌエはそっとフレアに顔を近づけて・・・
「んっ・・・」
「んん・・・」
口づけを交わす。最初は相手を確かめるように先端だけ、けれどゆっくりと口を開いて、舌を交わす。
「んぁっ・・・」
「ん・・・」
ヌエが口を傾け、フレアに息を送りやすいようにすると、フレアから息が漏れて、それがヌエの顔にやさしく触れる。その瞬間に、ヌエの舌はその涎とともにフレアの口腔に入り込む。
「んっ・・・」
また声にならない声がフレアから漏れて、それがフレア自身に気持ちの良い刺激をもたらす。キスを通じて、フレアの体内に気持ちのいい電気がぴりぴりと走る。
本来であればほかのポケモンの舌であっても異物は身体が拒否反応を起こす。でも、この刺激はフレアにとってとっても気持ちが良かった。まるで最初から受け容れることを前提にしていたかのように。
ヌエの舌は、ちょっとざらついているんだけど、ヌエとフレア自身の唾液で、そのざらつきも、口腔をなめまわされるフレアにとってはよい刺激でしかなかった。
「んん・・・」
フレアの舌とヌエのが絡まり、決して慣れることのない快楽が化学反応のようにフレアの全身に起こる。ぽっ、と燃え上がったフレアの精神は、どこかでこれを押しとどめようとする通常の理性をあっさり壊してしまった。
お互いの唾液を分け合うかのように舌を絡めさせ、ちゅぱちゅぱと水音を立てて、ふたりの激しいキスは続く、と同時にヌエの手が、フレアの乳首を探り出す。
「んんぁっ・・・」
フレアの胸にある2つの快楽のボタンうち1つにヌエが触れただけでも、フレアの肢体はぴくん、と震える。震えた肢体と尻尾はヌエがまたがって、丁寧に抑え込む。特に尻尾はヌエの股間が密着して、なんとも暖かい感触にフレアは包まれた。ヌエもフレアの尻尾の律動に、興奮を抑えきれない。
激しいキスを続けるヌエとフレア。ヌエは器用にフレアの乳首を攻め立てる。右から手を変えて左へと、交互に弄られる乳首に、フレアの身体は、じんじんと熱く痺れる感触に覆われる。
「はぁっ・・・んんっ・・・」
また息を漏らしたフレアに、ヌエは息を奪うようにまた口づけを交わす。息を奪われたフレアは苦しいんだけど、それが余計に、身体の反応を敏感なものに変えていく。
もうすっかりフレアの身体は火照りを抑えきれず、ヌエもまた、自分のものをすっかり大きくしてフレアの尻尾にぐいぐいと押しつける。
「ふぁぁん・・・はぁ、はぁ、はぁはぁ。」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・」
もう息が限界、とばかりにフレアはヌエをぱたぱた叩くと、ヌエはゆっくりと口づけをやめる。キスの激しさを物語る透明の橋がふたりの間にかかるが、すぐに消えてなくなってしまう。うつろな瞳でそれを見ていたフレア。
「ふぁ・・・あぁっ・・・んぁっ・・・」
ヌエはまた手で、フレアの胸を攻め立てる。口を覆うものがなくなったフレアは、甘い声を出すけれど、自分の声に気づいて、抑えようとする。
「なんで我慢するんだよぉ・・・」
「んっ・・・恥ずかしいかぁ・・・ひゃぁん!」
残念そうに問うヌエに、フレアは恥ずかしい、というけれど、今度はヌエの口は敏感なフレアの乳房全体を覆って、やさしく舌を使ってフレアを攻め立てる。フレアはできるだけ声を出すまいとするけれど、そんな誓いは敏感な身体がすぐに破ってしまう。
「ひゃぁっ・・・あぁぅ・・・やぁ・・・」
ヌエの舌の動きはゆっくりと、けれど確実にフレアを快楽に狂わせていく。フレアは徐々に大きくなる疼きに、ただ手でヌエの耳をつかむことしかできない。
「はぁっ・・・はぁっ・・・やぁ・・・ぬぇくん・・・あぁっ!」
だんだんぼやぼやとし始めるフレアの視界に映るものは、ヌエの唾液で色づいた胸の毛並みと、時折指を使って乳首をつまむヌエ。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
「フレアかわいいぞぉ。」
一度止めたヌエはフレアをじっと見る。今のフレアは何かを求めるように瞳はうつろで、もう四肢も投げ出して、ヌエが与える快楽に身を震わすだけだ。
「はぁん・・・」
ヌエはそっとフレアの割れ目に指をあてて、そっと開く。フレアはそれすらもどかしいように、ぴく、とまた身体を震わせた。
フレアの割れ目から見える膣は、すでに濡れ始めているようで、きれいなピンクを愛液が淫猥に飾り立てる。ヌエはそこに指を這わせてみる。
「やぁっ、あぁんっ!あぁっ・・・」
ヌエの指がつー、とフレアの秘所を撫でただけで、フレアはぴくぴくと震え、もう最初抑えようとした甘い声を抑えきれない。そしてヌエは指を膣にあてがおうと・・・

「ヌエさーん、おふろどうぞー。」
かなり遠くから、ミズナのものらしき声が聞こえた。びっくりしたヌエはあわてて自分のやっていた行為を中止して、息を切らすだけのフレアの意識を確かめる。
「ふれあっ、ふれあ!」
「ぬえくん・・・どしたのぉ・・・」
明らかに反応の鈍いフレア。
「お風呂だって。」
「あ、うん・・・行かなきゃ。」
いけるか?と不安なヌエはまずフレアを起こそうとしてみる。
「大丈夫?」
「も、だめ。」
息を切らせたフレアは限界なようで、ヌエの言葉にも鈍い反応を示す。
それでも、ヌエが何度も体をさすると、フレアは落ち着いたのか、大丈夫、という反応を示す。フレアはどうにかひっくり返ると、ゆっくりとベッドから降りた。
「ぬえくん、一緒にお風呂はいろーよ。」
「あ、ああ。」
まだまだふらふらして、瞳がうつろなフレア。そんなフレアを見たヌエは、溺れそうであきらかにひとりではお風呂に入らせることはできない、と思っていた。
「背中乗んなよ。」
伏せたヌエはそっとフレアに背中を差し出すと、フレアはうん、と嬉しそうにヌエにまたがる。そしてゆっくりと立つヌエ。
「ひゃ!」
「どした?」
嬌声を上げたフレアに心配なヌエ。聞いてみるけど、首を横に振って答えようとはしない。
フレアは、ヌエにまたがったはいいが、そのヌエが動くたびに、今まで散々ヌエに快楽を植え付けられた胸や割れ目をはじめ身体がヌエの毛並みに反応して、快楽がぴりぴりと身体を貫くのだ。
「はぁん・・・あぁっ・・・」
「だいじょぶか?」
「んっ・・・ぬえくんのせいなんだからぁ・・・あっ・・・」
甘い声が抑えられないながらも、ヌエのせい、とは言ったフレア。ヌエは中途半端でやめちゃってまずかったなぁ、と思うばかり。
「誰かに聞かれたらどうしよう・・・」
囁くようにぼそっと言うヌエに、フレアはまたかぁぁ、と快楽以上に全身が熱くなって、恥ずかしくなってしまう。とにかくヌエはフレアを動かさないように風呂場まで運んでいく。
「んっ・・・ぁ・・・」
そっとそっと動いてるつもりでも、フレアは甘い声を出して、その吐息がヌエの背中にやさしく触れる。すると毛並みが少し逆立って、またフレアに刺激を与えて、また甘い声を出させる。
「フレア?風呂場どっち?」
広い家の中で、お風呂を探して迷うヌエ。フレアはヌエの毛並みをつかんで、あたりをうかがう。
「えっとぉ・・・あっち。」
「ほんと?」
うん、とか細い声で答えるフレアに、わかった、とヌエはまた歩みを進める。

フレアは快楽との戦いに、ヌエはそれを気づかれまいとする戦いにどうにか勝利したようで、風呂場の閉ざされたドアの前に立っている。
「さて、開けるか・・・」
ヌエがそっと手をドアの取っ手に触れると・・・
ガラガラガラ・・・
「ぎゃっ!」
向こうから開いて、身体を乾かしたミズナが出てきた。ヌエとフレアはびっくりして、もうどうすることもできない。相手から見れば、なにか怪しいことをしているのは確実にわかってしまうだろう、というのは今のフレアとヌエを見ればたちどころにわかるだろう。
「あ、お楽しみの途中みたいでしたね・・・」
うふふ、と嫌な笑みを浮かべて風呂場の洗面所から出ていくミズナ。ヌエはミズナから殺気を感じていたし、フレアはこんなところを見られるなんて、という羞恥心で身体を震わせていた。
完全にミズナはこのふたりが何をしていたかわかっているようで、怪しい笑みを浮かべてふたりの眼前から去って行った。
「はぁ・・・」
とりあえず怒られなくてほっとしたヌエ。旅館かと思うほど広い洗面所でヌエはため息をついた。慰めるようにフレアはそっとヌエの頭を撫でる。
「ありがとフレア。」
ヌエはお礼を言うと、タオルがあるのを確認してから、洗い場へのドアを開ける。

「わぁ~・・・広いな。」
「おかーさんの趣味だってさ。」
旅館かと思うくらい広い浴槽と洗い場。明らかに客をもてなす、というほどの設備が備わっている。フレアが言うには、ミズナはお風呂好き、というより、お風呂でいろいろしたいから、受け継いだ家のお風呂を大きくした、というのである。
「降ろすね?」
「んっ。」
ヌエが後ろ足をまげると、フレアはその傾斜に身を任せてずるずるとヌエの身体から降りた。フレアはあんまり力を使いたくないみたいで、べたぁ、と風呂場の床に身体を沿わせている。
大丈夫?とフレアの体をさするヌエだけど、こくり、と頷くフレアの瞳はやっぱりうつろだ。
「ぬえくんっ・・・」
けれどその瞳は、ヌエの心を打ちぬき、かわいらしく誘惑するもので、そしてまだフレアが満たされていない、というのを読み取れるものだった。
「甘えん坊だな、フレアは。」
「ぬえくんだってやりたいくせに・・・」
不満げな表情を浮かべるフレアに強がりは言うものじゃないな、と思ったヌエはふふっと笑い、シャワーの温度を手で確かめる。
「一度体を流そっか。」
ぺこ、とフレアは頷く。ヌエはシャワーをフレアに向けて、ばしゃばしゃとフレアを濡れさせていく。フレアの黄色と朱色の毛並みは濃く色が変わり、もふもふとしていた毛並みは縮んで、少しブースターのイメージを違うものにさせていく。
「ひゃぁ・・・」
「ほら、仰向けになって。」
フレアは時折ぷるっと震えて、とてもくずぐったそうだ。ヌエの言葉に応じて、ゆっくりひっくり返るフレア。
「うぅん・・・」
「どした?」
寝言のような可愛い声を出すフレアに、ちょっと心配なヌエ。ヌエはフレアのおなかと首回りの黄の毛並みにシャワーが良く当たるように、フレアの頭からかぶさって、シャワーを丁寧に浴びせる。
「くすぐったくて・・・」
「あ、そう。」
全身が火照ったままのフレアの目の前にあるのは、ヌエの腰。そしてそこにあるのは大きくなったヌエのもの。フレアはちょい、とヌエのものを掴む。
「ぎゃ!な、なに?」
「ぬえくんかわいいー。」
両手でものを掴まれたヌエはびっくりして動けなくなってしまう。そんなヌエに、フレアは濡れる床をうまくすべって、口をそーっとヌエに近づける。
はむ。はむ。
「ふぁっ・・・ふれぁ・・・やめぇ・・・」
愛しさを表すように、フレアはねっとりと、唾液を絡ませてヌエのものを舌で転がせる。予期せぬ展開に、ヌエの身体はぷるぷる震える。
「んむぅ・・・」
ねとねとと、しつこく、いやらしくフレアはヌエのものを攻め立てる。
「ふ、ふれあぁ・・・やめっ・・・」
「ん、あーえ。」
このままされるがままでもいいんだけど、なんだかちょっぴり口がさみしいヌエは、そっと、フレアの割れ目に舌を這わせる。
「ん、んんーっ・・・」
舌を這わせただけでもびくびくと身体を震わせるフレア。ヌエはそのまま指で割れ目をくぱあと開き、その筋に沿って丁寧に舌でフレアを撫でる。
「ひゃむぅん・・・ぬぇくぅ・・・やぁっ・・・」
すっかりヌエのものを離してしまったフレアはまたじわじわと身体を覆い始めた快感にあえぎ始めた。ヌエはそっと後ろ足をまげて、フレアが咥えやすいように腰を落とす。
「んっ・・・」
またフレアはねちょねちょとヌエのものを咥えて、舌でヌエのものを撫でる。ヌエはフレアの割れ目にそびえるクリトリスを指と舌を使って丁寧に弄っていく。
「あぅぅ・・・んっ・・・んむぅ・・・」
フレアはどうにか、ヌエのものに集中したいんだけれど、ヌエの舌の動きで幾度となく快楽に流されそうになる。ヌエは一度、指で自分がなめていたものを強くつまむ。
「ひゃぅ!ひゃぁんっ!」
ぴくぴくとフレアの下肢が震えると、ヌエのものを包んでいた暖かい感覚はなくなった。
「ふれあ?」
「あぁ・・・ぬえくんいいよぉ・・・」
フレアの瞳はすっかり快楽を受け止めるだけになっているが、ヌエがさらに腰を深く落とすと、フレアはまた、しゃぶり始めた。
「んっ・・・んむぅ・・・」
ヌエが何度かクリトリスをつまむと、少し慣れたのか、フレアはしゃぶるのを止めはしないが、体を震わせて、息と淫らな声を漏らす。
さっきヌエが腰を低くしたので、ヌエのものが口から離れなくなっているだけなのだが、フレアにとっては楽な姿勢ではある。ヌエの行為にぴくぴくと電気がフレアを貫き、そのたび気持ちよさに身体は震える。
徐々に大きくなるヌエのものは、フレアの息を少しずつ、奪っていく。ヌエもそろそろ出そうなのを感じて、腰を上下に振り始める。
「ふっ、ふれあぁ・・・う・・・あぁ・・・」
先に果てたのはヌエで、びくびくと震えたものはフレアの口腔に精を放っていく。フレアの口腔にはなんとも苦い、けれどヌエを思うフレアはそれを拒まず、息ができなくなるまで自分のなかに精を飲み込んでいく。
「はぁっ、はぁ、はぁ・・・」
息が詰まりそうになると、口の中のものを息で外に送り出すフレア。すると、淫猥なにおいがフレアの口を、鼻を、覆って、白濁があふれる。朱色の毛並みを覆う白。
フレアが自分の、唯一姉たちに負けていないと思う端正な表情は、精と、与えられる快楽にもう溶けてしまっている。

「ぬえくん・・・いっぱいでたね・・・」
「ああ・・・」
賢者たいむ、というわけにもいかずヌエは、お返し、をするために仰向けのフレアと同じ方向に身体を向け割れ目に顔と前足を向けて、フレアがこれから何をされるのか、というのを見えるようにしていた。
さきほどの前戯で、フレアの割れ目は自分の愛液で濡れているようにヌエには見えた。そっと、指をそびえる丘と割れ目に沿わせる。
「ひゃぅ・・・」
「指、入れていくね。」
「あ、うん・・・」
この自分の膣に異物が入る感触というのは、フレアにとっていつもドキドキする時間だ。期待と、与えられる快楽への畏怖、フレアがいつも慣れないところではある。
ヌエが指で広げると、血色の好いきれいなピンク色のフレアの膣壁は、愛液で少し濡れていて、ヌエの理性を引っ込ませるように誘惑している。
じゅ、と愛液と指が触れる感触がして、フレアは少し冷たいヌエの指の侵入を感じていた。身体もふるふると小刻みに震える。
「あ・・・あ・・・」
ゆっくりと入っていくヌエの指は、愛液と絡まり、暖かいフレアの肉の感触に包まれる。ヌエが指をすっぽりと入れると、ゆっくりとその指を前後に動かし始める。
「あぅ・・・あん・・・」
その動きに、ぴくぴくとフレアのおなかの毛並みが震えて、もう快楽に身をゆだねるだけのフレアには、ちょっぴりもどかしい。徐々に指の動きを速めるヌエ。
「やぁ・・・あんっ・・・ひゃぁ・・・」
指が前後に動くたび、ぴりぴりと小さな快楽がフレアを包む。そして絞り出すように甘い声を出させ続ける。
ヌエの指にも、次第に抑えきれないほどの愛液が絡まり、指を引くと、愛液が少し押し出され、戻すと、嬌声とともにまた愛液が指に絡みつく。
「あっ、あんっ、あぁぁっ!」
徐々に大きくなるフレアの嬌声が風呂場に響く。快楽に貪られるフレアの頭は徐々に雲に覆われるようにまっしろになり、理性や恥というものを消し去ろうとしていた。
ほのおタイプのフレアには、熱さなどどうとでもなるというに、ヌエから、初めて快楽を与えられて以来、フレアの身体の芯からじわじわと出てくる快楽の熱には、どうしても勝つことができない、というよりも勝ち負けということを考えさせてすらくれない。
「あぁっ!やぁぁっ!」
ヌエの指とフレアの膣はちゅぷちゅぷと水音を立てて、そしてそれは速くなる。
そのヌエの指は、フレアの締め付けが徐々にきつくなっているのを感じ、そしてフレアの身体がびくびくと震え、フレアは絶頂に達した。
「やぁっ・・・ぁぁんっ、やぁっ!きゃぁぁんっ!あぁぁぁんっ・・・ぁぁっ・・・ぁぁぁ・・・」
ひときわ大きな快楽の電気がフレアの体を貫くと、フレアの身体は熱に覆われ、自分の身体が痙攣していることを感じることもできない。体力というものをすべて奪われた、フレアはそんな感覚を覚える。
「あぁぁ・・・ぬぇくん・・・はぁぁん・・・」
フレアの膣はヌエの指を物足りなそうに締め付け、愛液があふれたかと思うと、フレアの快楽で緊張した体は徐々に緩んでいく。ヌエはゆっくりと指を抜くと、フレアの割れ目から黄色い透明な液体が放物線を描いてあふれ出た。
じょろろろ~・・・
「ひゃ!あっ、あぁ・・・ぬえくんみたらやだよぉ・・・」
快楽がまだ身体を巡っているのに、フレアの羞恥だけは戻ってきたらしく、あふれ出るおしっこに気づいて、手で隠そうとするけど、届くはずもなく、ただ好きなヌエの体を染めていくのを羞恥の涙でぼやける瞳から見つめるだけだ。
筋肉が緩んだ拍子に飛び出たフレアのおしっこの放物線はなかなか収まらずに、まだひくひく震えるフレアの身体から出され続ける。フレアは目をそむけるように手で顔を隠して、ヌエの反応を拒絶しようとしていた。
ゆっくりと放物線は小さくなり、黄の尻尾を汚し、最後に朱の毛並みのお尻にちょろちょろと垂れると、勝手に消えて行った。
「ふれあ・・・我慢してた?」
恐る恐るヌエが聞くと、フレアはぷいぷいと横に首を振る。そして羞恥とダメな自分を卑下したくなる自分に対する悲しみで、フレアの瞳からは涙があふれる。
「えぐっ・・・えぐっ・・・」
「ふれあ・・・泣かなくていいんだって。」
「だってぇ・・・」
ヌエが必死になだめようとやさしい言葉をかけてみても、フレアの涙はなかなか止まらない。
「じゃあ、こうしたらいいかな?」
そういうと、ヌエは割れ目に顔を近づけて舌で割れ目全体をゆっくりと舐める。フレアはそのヌエの行為が何を意味しているのか、すぐに理解できた。
「ひゃ、やぁ、きたないよぉ?わたしのおしっこ・・・」
「じゃあ、泣くのやめる?」
自分を思ってのこと、とフレアはすぐにヌエのやさしさに気づいた。うん、とフレアは首を縦に振ると、ヌエはにこっと笑う。
「ぬえくん・・・」
「フレアには泣いてほしくないからさ。」
とはいうものの、ヌエがフレアとやっちゃうときは、たいていフレアは最後には泣いちゃう。ヌエにしてみれば、よくわからないので、泣いてるけど泣く、という行為にはカウントしていないようだ。
慰めの効果があったみたいで、フレアの涙はゆっくりと止まって、また自分の後ろ足のさきっちょと同じくらいの距離にいるままのヌエを見る。
「おっきくなってるね・・・」
泣き止んだフレアの視線は、またおっきくなってるヌエのものにくぎ付けになっている。そんなことを言われると思わなかったヌエはいやぁ、と照れ混じりに頭をポリポリと掻く。
「きていいよぉ・・・」
ヌエを誘惑するフレア。涙で瞳が潤むこともあってか、効果は抜群のようだ。ヌエはそっと、フレアに覆いかぶさると、頬にキスをする。
「じゃあ、やっちゃうね。」
キスのついでに耳元でささやくヌエにうん、と首を縦に振るフレア。ヌエはフレアが受け入れてくれるうれしさを感じながら、割れ目の膣口に、そっと自分のものをあてがう。
「んっ・・・」
じゅ、と先っちょが入る感触がフレアには感じられた。それはヌエの指とは違って、大きく、そしてなにより熱い。フレアはヌエとつながっているときがとっても好きだ。
指を入れられたり、舌でなめられたりしているだけのときは、ちょっぴり遊ばれているようで、ヌエと一体になっている時と違って、物足りない。
でも、ヌエが何もしないままだと痛い、といつも口を酸っぱくしていうので、しぶしぶフレアはその遊ばれている感覚を受け入れる。といってもヌエだから、だが。
ヌエは勝手に決められたパートナーかもしれないが、フレアにとっては自分のすべてを受け入れてくれて、わがままも聞いてくれる、とっても大好きな存在だ。
「あん、んっ・・・」
ず、ず、とヌエのものはフレアの膣を進んでくる。愛液に濡れているとはいえ、圧迫感は慣れるものではないけれど、好きなヌエが自分と一つになってくれるというのは、フレアにとってはいつもうれしい。
ヌエのものは愛液と、締め付けてくるフレアの熱い膣壁を感じながらも、腰を入れてフレアの膣に自分のものを打ち込んでいく。
「あぁん・・・あっ・・・あんっ。」
それにフレアを覆うのは圧迫感よりもはるかに大きな快楽。ヌエのものが来る感覚によって、いままでよりはるかに大きな痺れるような熱がフレアの身体の中からこみあげてくる。
ずいずいと自分の中に打ち込まれる楔を感じて、フレアの頭はまた、身体をじんじんと鈍らせる快楽に思考をかき消されていく。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
「ん・・・」
ヌエの腰の動きが止まったのを感じて、フレアはそっとヌエの顔を見る。するとヌエは息を荒くして、フレアに微笑みかける。
「奥まで入ったよって。あったかいぞぉ。」
「もぉ・・・あぁ・・・」
口調がちょっぴり意地悪なヌエに、フレアは文句を言おうとするけれど、ヌエがこれが限界、というのを示すためか腰をぐぐっと突くと、フレアは肺から息が出て、下肢が引っ張られる感触とぴったりと腰がくっつく自分とヌエを理解できた。
「じゃ、動かしていくから。」
と、ヌエが言うと、ヌエは腰を引いて、フレアの膣をふさいでいた自分ものを引いてみる。
「あぁぁん・・・」
フレアはまた喘いで、もう自分を抑えられない。ヌエはまた、フレアの膣に自分のものを打ち込む。
「あぁぁっ・・・」
ヌエの動きに、フレアは緊張と快楽で息が荒くなりだした。はぁはぁと漏れる息はヌエの胸にかかり、ヌエはにこっと笑ってフレアの緊張をほぐそうとする。
「だいじょぶだから・・・」
弱弱しいフレアの声に、ぺこ、と首を縦に振るヌエは、また腰を引いて、また入れて、とピストン運動を始めた。
「あぅぅ・・・あぁっ・・・」
ゆっくりと、愛液とヌエのものによって起きる水音が、フレアの頭のなかをまた真っ白に塗りつぶそうとしていく。ヌエがゆっくり動くだけでも、フレアは甘い声を抑えられず、息とともに吐き出す。
「あっ、あぁん、あぁ・・・」
ぴりぴりと熱いものを感じるフレアがそっと顔を自分の下腹に向けると、ヌエの楔が少し出ては入り、とその熱さに合わせるように動いているのが見えた。
フレアの膣を貫くヌエの楔は、暖かく、無意識にフレアの後ろ足を浮かせ、貫かれるたびに肢体をぴくぴくと律動させる。フレアの手は快楽に溺れる中で自分の大好きなヌエを探すように動く。
もう身体の動きなど、無意識なものになりつつあるフレアだけれど、その手をヌエがつかんだとき、また悦びにフレアは染まる。
「ああっ!ああん!ぬえくっ・・・いいよぉ・・・」
じゅぷじゅぷと水音がフレアの快楽とともに意識を支配していく。熱い刺激も徐々に大きくなって、フレアはヌエを掴む手に力を入れる。悦にほころんだフレアの表情は締まりもなくなって、涙と涎とをとろとろとあふれさせていく。
「あっ、あん!あああっ・・・もぉ・・・とんじゃいそぉ・・・」
「ふれあ・・・いいぞぉ・・・」
速くなるピストンに合わせて、フレアの喘ぎも大きくなる。熱い流れがフレアの小さな肢体を支配し、ヌエのくれる快楽にすべてを奉げる。
その熱いものはフレアの頭の先から、尻尾の先まで、すべてを真っ白に塗りつぶすかのように大きくなって、フレアの身体を、まるでおもちゃのようにもてあそぶ。快楽に喘ぐ声ももう抑えることすらしない。
「あぁん!ぬえくっ・・・もういっちゃうよぉ!やぁぁっ!」
「おれもだぁ・・・」
ペースの速く鳴る水音と膣の熱い快楽が、フレアとヌエとの感覚を一つにする。身体を支配する熱い塊が徐々にフレアの芯に届こうとし、フレアが意識を快楽に手放した刹那・・・
「あぁぁっ!あぁんっ!やぁぁぁぁぁぁ!あぁぁぁぁんっ!やぁぁぁんっ!あぁぁっ・・・」
「あっ、うぅっ・・・」
熱い快楽の塊がはじけ、フレアの肢体はこわばった後、2,3度びくびくと大きく震えると、自分の膣にどくどくと熱いものが打ち込まれたのを感じ始めた。
「あぁぁ・・・ぬえくんの・・・あったかいの・・・」
ヌエの楔もびくびくと震えた後、熱い液体をフレアの膣内に吹き出した。どろどろと熱く、大量に出たものは、フレアの意識がまるでその液体の中に沈んだかのように感じさせ、息をすることすら大きな力を求める。
しばらくピストンが続いて、すべての精をフレアの膣に送り終えるとヌエは腰を止めて、その楔を膣から抜くこともせず、フレアをゆっくりと抱きしめる。
「はぁ、はぁ、ヌエくんの・・・はぁ、あったかいよぉ?」
「ふれあ・・・」
もう力も出せないフレアだけど、ヌエに甘えることだけはできた。自分の意識が快楽の海から出るまで、ヌエの胸にずっと顔をうずめて、フレアはその温かみにずっと包まれていた。
ヌエもぎゅっとフレアを抱いて、これまでの疲労をいたわるようにやさしく体を撫でる。フレアはヌエといるときはいつも元気いっぱいだ。ヌエにとってはそれだけでもうれしいのに、フレアはヌエにとっても献身的でいてくれる。
「ふれあ?」
「はぁ、はぁ、ううーん・・・」
駄々っ子のようにフレアはそのオレンジと黄色の毛並みをぐいぐいとヌエに押し付けているけれどとても気持ちがよさそうで、それを中断させようとは、ヌエは思わない。

しばらく抱き合ったあと、フレアはゆさゆさとヌエの身体を揺さぶる。
「もういい?」
「うん。」
にこっと笑むフレアに、ヌエは今まで挿されたままだった、へたった楔を朱の毛並みとの接点から腰を引いてゆっくりと引き出した。
「あぁっ・・・」
ちょっと感じたらしく、甘い声を出したフレアはまた恥ずかしくなって、表情を悟らせないようにヌエの身体にまた体液にまみれた顔を押し付ける。そんなフレアを見て、ヌエはくすっと笑んだあと、もうペタンと寝ているフレアの耳を何度か撫でた。
「んっ・・・」
「ふれあ?」
「なんでもないよぉ・・・」
ヌエがフレアの表情をうかがうと恥ずかしそうに上目遣いでヌエを見ている。ヌエはそっとフレアの全身を見ると、後ろ足をむずむずと動かしていた。
「おしっこ?」
「ちがうよぉっ。」
声に力こそないけれど、さすがに怒ったらしいフレアに、ヌエはごめんごめんというと、前肢でフレアの股間をまさぐる。
「ひゃぁ、ぬえくんもおやだよぉ。」
「んー。あ。」
ヌエはフレアの身体から離れると、フレアが恥ずかしそうにしていた理由がよくわかった。フレアの股間の朱色の毛並みに白濁がとろとろとあふれて漏れ出ていたのだ。フレアは隠すように後ろ足を動かすけれど、フレアの愛液混じりの白濁はその間をすり抜けて尻尾へと流れを作っていった。
淫らな光景に、ヌエはまたなにかよからぬ気を起こしそうになるが、フレアがただでさえ赤い顔をとっても恥ずかしそうにさらに赤らめているのでもうこれ以上は何もしないことにした。
「ぬえくんもおいいよお。」
「んー。そうだな。」
ヌエはそういうと、シャワーを手に取っていろんな体液にまみれたフレアの身体をばしゃばしゃと流し始めた。もう動く気力もなさそうなフレアに、体液を落とし、ソープをつけてヌエはいたわるようにやさしく体を流す。
「きもちいい?」
「うんーぬえくん、きもちいい。」
ことを終えて、フレアはとっても眠そうにしている。ヌエもフレアがお風呂場で寝ないようにあやすと、自分もあわてて体を洗い、風呂場を出た。
いつもお風呂に入るときは多くの場合別々で、フレアにとってはちょっぴり不満である。こうして一緒にお風呂に入るとヌエは体を洗うことから拭くことまですべてフレアの思うままなので、フレアは幸せいっぱいだ。

「ふぁぁ・・・」
ヌエが背中にフレアを乗せてフレアの部屋に戻ると、大あくびを何度もするフレアをベッドに乗せて、自分もその横に転がる。フレアの普段は元気いっぱいな耳はペタリと寝ていて、まるで別の生き物のようにヌエには思えるが、これはこれでとてもかわいいらしい。
「お疲れフレア。」
「ぬえくんも、ありがとぉ。」
今日一日あったことを振り返って、ヌエもフレアもはぁ、とため息をつく。そしてお互いを見つめてまた軽くキスを交わす。
「んっ・・・」
「ん・・・」
そしてキスのままお互いを軽く抱いて、ふたりは眠りに落ちて・・・いった。

「んー・・・」
朝の陽ざしに促されるように、ヌエは目を覚ました。そして愛しく眠るフレアを見る。そして時計に視線を移し・・・
「ぎゃー!」
ヌエは寝坊した、と思った。いつもなら朝掃除をして、店を開ける時間。すると傍のフレアの身体がぴくっと震える。
「どしたのぬえくん?」
声に起こされたようで、フレアも澄んだ瞳でヌエを見つめる。昨日の晩すっかり寝ていた耳もまだ少しふにゃっとしているけれど、それでもフレアの回復はヌエの目に見てわかった。
「寝坊した。もうお店開けなきゃ。」
「むりだよぉ?ここおかあさんたちのいえじゃんかぁ。」
眠たそうに言うフレアに、ヌエははっと、我に返った。そして絶望に包まれる。
「じゃあ余計だめじゃん。」
「えへへ・・・」
だめじゃん、というヌエにフレアはおどけて笑って見せる。
「とりあえずごはんたべよぉよ?」
「う、うん。」
のんびりと諭すように言うフレア。ヌエがフレアに敵わないなと思うのはフレアのちょっぴり強心臓なところで、母親譲りなのかもなぁ、とヌエがいつも思うところである。
フレアはゆっくりとベッドから降りて、ヌエを居間へと連れて行く。
「おかーさんおはよー。」
「あらフレアおはよう。ヌエさんも。」
「おはようございます。」
「ご飯だけでも食べて行ってくださいね。」
ミズナの言葉になんども感謝をするとヌエとフレアはふたりきりの居間で、ご飯を食べ終えた。そして足早に家族に挨拶をするとまたいつもの生活へと戻ろうとしていく。

「ご飯とってもおいしかったです。」
「いえいえ、またいつでも来てくださいね。」
玄関でヌエとフレアを見送るミズナ。ミズナはすっかり笑顔で、昨日の夜のことを話題にすることもない。
「ありがとうございました。じゃ、フレア、そろそろ行こうか。」
「おかーさんまたね。」
「元気でね?フレア、ヌエさん。」
ぺこぺこと何度もヌエは頭を下げて、もうすっかり時間のことなど忘れたようにゆっくりと家路につく。
「はあー。どうしよう。怒られるよなぁ。」
「ヌエくんは弱いなぁ。怒られてもいいじゃん。」
お気楽なフレアにヌエはまたはぁーとため息をつく。フレアにしてみれば、ヌエの心配はわからなくはない。何度か説教現場に出くわしたが、短くて半日、長いと時計の短針が2周以上という耐えられないものだったからだ。

そうこうするうちに陽は高く上ったけれどふたりも家の前にたどり着いて、木の戸が閉じられたままの家を空けようとする。
「ねーヌエくんなにこれ?」
フレアが木の戸に何か張ってあることに気づいた。ヌエがそれを見ると・・・
”特別研修のため午前中休業”
「なんだこれ?」
助かった、と一瞬思った後、でもこんなの貼った記憶がないなぁ、とヌエが考えていると、字体でそれの書き主が誰か思い出す。
「母さんだ・・・」
「ふぇ?」
ヌエはまさか、と思う。事情が筒抜けだったかどうかはともかく、昨日の夜ヌエが家に立ち寄った後か今日の朝にヌエの母がここにきてこの張り紙をしていった、というのは信じられないが、でもほかにこの張り紙の主は考えられない。
「もしかして母さん、全部知ってたのかなぁ?」
「ま、まさか・・・」
ふたりはヌエの母親の行動に体が震えるような感覚を覚えた後、それでもばたばたとあわてて、いつもと同じようにまた日常へと戻っていくのであった。



おしまい
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IP:114.161.104.243 TIME:"2013-02-25 (月) 13:26:15" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?guid=ON" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Windows NT 6.0; rv:18.0) Gecko/20100101 Firefox/18.0"

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