前回は[[こちら>You/I 16]] 「You/I 17」 作者[[かまぼこ]] #contents **ホウオウと三聖獣 [#cee1e306] 「ぜぇぜぇ……そ、そろそろ……休まないか」 夕日で赤く染まる海を眼下に見ながら、ホウオウは息を切らせて飛んでいた。 「またかよ。こんな程度の距離でヘバりやがって」 「体力落ちてるんじゃないですか? いつも我々に任務を任せきりだからですよ」 「うむ。そんなことでは、守護神など務まりませんぞ?」 そんなホウオウに、部下のスイクン、ライコウ、エンテイの厳しい声がかかったが――。 「……お前らが乗っかってるせいだっ! ボケ!!」 その背中にでんと鎮座している3頭に、ホウオウは怒鳴り散らした。 「しゃーねーだろ。俺ら飛べねーんだから」 「飛べない者のことも考えてもらいたいですな……まさか私に海を泳げと?」 ライコウとエンテイが言った。特にエンテイは炎タイプ。水は大の苦手だ。 炎タイプに水泳をさせるのは、自らの命を磨り減らす危険極まりない行為である。 「まぁ、お前達はわかるが……スイクン! お前は水上を走れるだろうが! 何悠々と私の背中で毛繕いしとるんだ!」 背中で前足を舐めて毛並みを整えていたスイクンに、ホウオウは声を大きくした。 「ホウオウ様の力なら、我々を乗せて飛ぶくらい、どうということはないと思ったので」 スイクンは目線を合わせぬまま、冷たく言った。 「オイオイ……昔は守護任務を放っぽって、あちこち遠い地方に遊びに行ってたじゃねーか。 その時の元気はどーしたよ?」 その言葉に、ホウオウは顔を顰めて…… 「タダでさえ定員オーバーな所を、“神通力”で体を支えてやっと飛んどるのだろうがっ!」 ホウオウは、伝説のポケモンだけあってスタミナもかなりある方だ。 地方から地方へ渡りをすることなら、今でも十分に可能だが、大型ポケモンであるスイクン達を 3頭も乗せていることに加え、彼らを招集した昨夜からずっと飛びっぱなしであることが、 ホウオウの疲労を蓄積させる原因になっていた。羽ばたきによる自力飛行は既に限界で、 今は“神通力”のサイコパワーで飛行を補助しているが、本来エスパータイプではない ホウオウには体力の消耗が激しく、長時間は続かない。 そのため、今のホウオウは気力・体力共にもう限界だった。 それを示すかのように、ホウオウはフラフラと左右に揺れながら飛んでいる。 いくら伝説のポケモンでも体力は無限ではないし、疲れをとるには休む必要があるのだ。 「威厳ゼロですなぁ。これではスワンナ以下ですぞ」 「んだよダセーな。それでも伝説のポケモンかよアンタ」 「体衰えたんじゃないですか? ホウオウ様もお年を召されたということですかな」 「くっ……」 好き放題にいう彼らに、ホウオウは片目をピクピクと吊り上げる。 “聖なる炎”でお仕置きしてやろうかとも思ったが、3頭を背に乗せていては動きが制限され、 自由に攻撃を繰り出せない。それに今は、飛行の為にサイコパワーの制御に集中せねば ならないし、もし、これを中断すれば、皆揃って海へ真っ逆様だ。 (飛行ポケモンが……それも守護神の私がそんなことになったら、ジョウト中の笑いものだ) それに今はルギアの緊急の頼みで、ある南の島に向かっているのだ。 一刻も早く来るように言われているから、遅れるのは悪い。 だが、こいつらに言われっぱなしなのも業腹だ。何とかしてこの反抗的なバカ犬どもに、 お灸をすえてやりたい。 (ん……? 真っ逆様……) すると、ホウオウはたったいま思いついたことを脳内で反芻して、 そうか。その手があったか――。 ホウオウはにやりとよからぬ笑みを浮かべた。 「なぁにニヤニヤしてんだよ。気持ち悪ぃーな」 「キモイです。ホウオウ様」 「やらしい事でも考えているのですか? 神ともあろう方がまったく」 その様子を見て、3頭が口々に罵った次の瞬間だった。 『うをぉっ!?』 ぐるんっ!と、突然ホウオウの体が回転し、腹を空に向ける背面飛行を始めた。 当然、その背に乗っていた3頭は落下しかけ、慌てて前足でホウオウの背中にしがみ付き、 彼らは宙吊り状態となった。 「オイぃぃぃ! なにやってんだよぉぉぉ!!?」 「落ちるぅぅぅ!!!!」 「ホウオウ様早く! インド人を右にぃぃ!!」 突然の事に、パニックに陥った3頭は叫んだ。スイクンに至っては完全に取り乱して、 訳の解らないことを口走った。 この高さから落下すれば、いくら伝説の3頭であろうとも無事ではすまないだろう。 揃って目を白黒させている3頭にホウオウは、 「はっはっは、思い知ったか!」 そういって憎らしい笑みを浮かべながら、ホウオウは体を元の体制に戻す。 ようやく安定したことで、3頭は胸をなでおろした。 「まったく、情けなくも涙目になりおって! お前らこそ伝説なのかぁ? ん~? これを機に少しは、私に対する態度を改めろバカ共め!」 『……』 3頭は、無言で怒りの眼をホウオウに向ける。 どうやら、今の背面飛行はホウオウが3頭を驚かすためにわざとやったことらしい。 たが、冗談にしては度が過ぎる。一歩間違えたら本当に危険な所だった。 それにこの態度。 いくら自分たちの上司で、地方の守護神といえど、断じて許せぬ行為だ。 「まったく、反抗的な部下を持つと苦労するよ」 ぷっちん♪ その言葉に、3頭は堪忍袋の緒が切れて……。 『こンの……くそったれ神ぃぃぃぃ!!!』 異口同音に叫んで、3頭は各々ホウオウに向けて技を放った。 それらは全てホウオウの体に叩き込まれ、空中爆発を起こした。 そして当然の結果として、ホウオウは力尽き、背中の3頭もろとも、海へ落下することとなった。 『ぎぃやぁあああああああ゛!!』 3頭と1羽の甲高い間抜けな悲鳴が、夕焼け空に響き渡った。 ---- 「お前達……なにをやっとるんだ?」 その日の日没後、ようやく島にやってきたホウオウたちを見て、ルギアは呆れ顔で言った。 ホウオウのことだから、3頭を背に乗せてこの島に飛んでくるかと思っていたが、 予想とは裏腹にホウオウたちは、いきなり海から現れた。 何があったか知らないが、気絶してぴくりとも動かないホウオウを3頭が背中でそれぞれ支えながら、 波打ち際から上陸してきたので、ルギアは目を疑った。 海を泳いできたせいなのか、美しく力強くもある毛並みはびしょ濡れで、まさに濡れラッタ状態。 ホウオウの七色に輝く羽毛も、海水で濡れそぼり光を失っている。 そして、彼らの表情も沈み気味でげんなりとしていた。 特にホウオウとエンテイは炎タイプ。水は大の苦手のはずで、かなり無茶をしてきたことが伺えた。 「ホウオウ様が、あまりにもひどいことをするものですから……」 「皆腹立って、攻撃をブチ込んだら……こんなことになったんス」 力なく言うスイクンとライコウの言葉に、大体のことを察したルギアは、羽先で頭を押さえ嘆息した。 (全くこいつらときたら、こんな大変なときにまたケンカとは――今はこんなことで、 力尽きている場合ではないというのに) これから戦闘になるかもしれないのに、頼みの彼らがこのようなテイタラクとは。 そう思って、ルギアは顔を引きつらせながらも、 「ま……まぁ兎に角、みんなこっちへ来てくれ。もしかしたら、ここも危ないかもしれん」 昨夜忍び込んできたゲッコウガと呼ばれる敵のポケモンも、まだこの島にいるかもしれない。 もしかしたら、今も我々を監視しているかもしれないし、こんな有様のホウオウ達を見れば、 チャンスとばかりに攻め入ってくるかもしれない。 「そこで転がっているヤツも、連れてくるんだ。こんな阿呆な事で体力を消耗している暇は、 なさそうなんでな」 『ふぁい』 力なく返事をすると、3頭は気を失ったままのホウオウを持ち上げてその背中に乗せ、 だらしなく広がった翼を引き摺りながら、森の中にある廃倉庫まで移動した。 そんな彼らを、遠くはなれた場所から、機械の目が見つめていた。 **ヘリの中 [#v97f8e1e] 同じ頃、既に夜の帳が下りつつある海上を、一機の黒いヘリコプターが進んでいた。 大きな機首部分に、ヤンヤンマかメガヤンマを想起させる細い胴体。そしてその腹には、 着脱可能な大型コンテナを備えている。 ローターブレードを勢いよく回し、海上を高速で進む様は虫ポケモンのようでもある。 その機体の側面には、ミロカロスとジャローダが絡み合い『R』の文字を形作った エンブレムが、小さくペイントされている。 仲直り団の所有する、多目的輸送ヘリである。 その機首に備えられた後部座席で、仲直り団のボスであるヤクモと、 幹部である女性Y・Kは向かい合わせに座っていた。ヤクモの隣には、赤い髪の女秘書も座っている。 「なるほど……スイクン、ライコウ、エンテイ……それにホウオウまでもが合流か」 片手に持ったタブレットに映っている映像を見ながら、ヤクモが言った。 「申し訳ありません。私のミスで、彼らの戦力を増大させる結果に……」 通路側に立っていたヤクモの手持ちポケモン、ゲッコウガのミカゲが、謝罪の言葉を述べる。 「相手は伝説だ。迂闊に手を出すと、どんなことになるかわからんからな。 邪魔者を退けようという考えは理解できるが、もう少し冷静な行動を心がけることだ」 「は……」 「だが、無事に戻ってきてくれて、私は嬉しいよ」 そういうと、ミカゲは安堵の表情をする。 ヤクモは、再びタブレットに目を向けて、動画に見入った。画面には、森の奥へと移動する ホウオウと三聖獣たちが映っていた。 この映像を撮影しているドローンカメラは、昨夜、ミカゲを収容しに来た仲直り団のチームが、 ルギア達に顔が知れてしまったミカゲに代わって監視を行うために、島においてきたものだ。 機械なら気配を発することはないし、気づかれる可能性も少ない。 「しかし、不死鳥に三聖獣か……あの聖剣士達には、少し荷が重いかな?」 聖剣士とは、先日ヤクモの部下である女幹部のY・Kが、イッシュ地方に赴いて 勧誘し連れてきた伝説のポケモン、コバルオン・テラキオン・ビリジオン、そして ケルディオの4頭のことだ。現在、島でルギアたちの相手をすべく、このヘリのカーゴに乗っている。 彼らも伝説のポケモンだが、たった4頭で7頭もの伝説のポケモンを相手にするのは、 いくら聖剣士達でも苦戦は必至だろう。 「場合によっては、私も戦うことになるかもしれん」 「ヤクモ様が直々にですか?」 意外そうに、ミカゲが訊いた。 「当然だ。私とてポケモントレーナーなのだからな。それに、最近はあまり バトルをしていないし、腕が鈍っていない所を見せないと、部下に示しもつかんしな」 そういって、ヤクモはどこか疲れたような笑みを浮かべた。 確かに最近、主がバトルしているのを見たことが無い。先日、輸送ヘリで 追撃してきたラティアス・ラティオスの迎撃戦をやったぐらいだ。 彼の主ヤクモは、今でこそ痩躯の中年男性だが、かつてはある地方で殿堂入りした経験もある、 凄腕のトレーナーであるらしい。 ミカゲがヤクモの手持ちになったのは、だいぶ後のことで、昔のヤクモのことはあまり知らなかった。 だがそれでも、手持ちに加わってからは何度もバトルをする機会があったし、何度も勝ちを収めた。 そのおかげでケロマツからゲコガシラ、そしてゲッコウガへと順等に進化を遂げることもできた。 彼の腕は本物であると思う。そして……ポケモンに対する愛情も。 「……」 ミカゲの脳裏に、ふと昔の出来事が浮かんだ。 どこか都会の路地裏にうち捨てられていたみずぼらしいケロマツだった自分を拾い上げた、 暖かいその手の温もりを。その手から伝わる優しさを。 こんな自分にも優しさを分けてくれた、あのときの心優しき主の姿。 (……だから、私はこの人間の力になる。そして、このYou・I計画を完遂する) それが主に恩返しをすることにもなるし、ポケモンと人との関係を改善し、自分のような ポケモンを二度と出さない幸せな世の中にすることができる。 だから、自分にはこれ以上の失敗は許されないのだ……! だから、犯した失敗は取り返さねばならない。 「……兎に角、あと1時間ほどで島に到着する。そこで一緒に戦ってもらうぞ」 「はっ!」 ミカゲが返事をすると、ヤクモは彼をボールへと戻す。 こちらには伝説の4頭がいるし、手持ち達の戦意は十分にある。相手は強敵だが、 これならば、なんとか目的を達成することが出来るかもしれない。そう思いながら、ヤクモは タブレットをバッグにしまって、日が沈みつつある海を眺めた。 **Y・K [#j478b387] 「ヤクモ様、お茶が入りましたよ」 するとヤクモの横に座っていた、赤い髪の女秘書が、暖かい紅茶の入ったティーカップを差し出した。 「ああ……ありがとう」 礼を言って、ヤクモはカップを受け取る。すると、秘書はY・Kにもカップを差し出す。 「……あなたも」 「ええ、ありがとう」 その表情は、やや嫌悪に歪んでいたが、Y・Kは礼を言って、それを受け取った。 紅茶に口をつけながら、やはり嫌われているとY・Kは思った。 この秘書は、ジェラシーしているのだ。おそらく、ヤクモに特別な感情を抱いている。 だから、自分以外の女が、ヤクモに近づくことを快く思わないのだろう。 (まぁ、別に良いけどね) 自分はボス――ヤクモに対してはそういう感情を抱いてはいない。 それに自分には子もいる。軽はずみに恋愛など出来ないし、するつもりも無い。 Y・Kには結婚経験があり、息子もいるが、旦那とは結婚後暫くして別れてしまった。 その男は見た目こそ良かったが、自分さえ良ければそれでいいという傲慢な考え方しか 出来ない暴力亭主だったから、あの時別れて正解だったと今でも思う。 もし一緒にい続けていたら、自分は不幸なままだったし、息子にも悪影響を 及ぼしていただろう。だからこれでよかったのだと、今でも思う。 「……」 Y・Kは、無言で腰のホルダーから一つのモンスターボールを取り出して、眺めた。 今は息子と、この中にいる存在が、自分を支えてくれているのだ。 あんな男といるよりも、ずっと幸せな日々を過ごせている。 その上で、ボスの計画をやり遂げ、ポケモンと人が平和に暮らせる社会を築ければ、 息子もより幸せになれるというものだ。 だから、今はこれでいい――。 「Y・K、どうしたのかね」 「は……は……?」 急に、ヤクモから声がかかり、Y・Kは我に返った。 「さっきから呼んでいたのだが……」 「そ、そうでしたか。申し訳ありません……考え事を」 今は任務中だというのに、ついつい物思いに沈んでしまった。 Y・Kは謝罪の言葉を述べて頭を下げると、自分の迂闊さを呪った。 「……島に着いたら、まずはミカゲから報告のあった地下施設に向かう。 おそらく、伝説のポケモンを相手にすることも考えられる。くれぐれも注意してくれ。 いくら聖剣士を連れているといっても、油断は禁物だ」 「わかりました。彼らにも、そう伝えます」 「うむ」 ヤクモの返事を聞くと、Y・Kは座席から立ち上がって、後部のドアを抜けてから、 ヘリのコンテナカーゴへと降りていこうとしたときだった。 Y・Kのポケギアが、音を立てて揺れた。取り出して着信画面を確認すると、 5の島の基地からであった。 「こちらY・K……はい。ええそうです……そうですか、やはり零号は……」 Y・Kの表情が、沈んだ。よい知らせではないことは明らかだった。 「わかりました、伝えます」 それだけ答えて、Y・Kは電話を切った。そして嘆息する。 「5の島基地からかね?」 ヤクモが、訊いた。Y・Kの発した言葉から、大体のことを察したのだろう。 「はい……やはり試作零号個体『ビギニング』は、『P・F』クラスには適合しないようです。 それに、あの2つの石も、覚醒させるにはまだ何かが足りないと……」 「そうか……やはり今ある技術だけでは……」 なにかの単語とイニシャルの含まれた言葉をきいて、ヤクモは表情を曇らせた。 「はい……やはり正しい技術情報がなければ、完全再現は困難であると……」 「うむ……これ以上は、我々の主義に反する。が、理想実現には、致し方ないか……」 そういうと、ヤクモは俯いた。 「わかっております。ですから、今は何としても、あの石の封印を解き、そして『ビギニング』の 問題を解決して、チョウジ基地で建造中のあれを、使えるようにしなければなりません」 「そうだな……これは必要悪だ。理想のための……な」 その言葉を聴くと、Y・Kはカーゴブロックへと続く階段を降りていった。 ブシュ、とオートでカーゴの扉が開くと、Y・Kは中に足を踏み入れる。 「あなたたち、聞いて頂戴」 声をかけると、暗いコンテナーの真ん中に積まれていた檻で蹲っていた4つの 物体が、ゆっくりと立ち上がった。 「……お前か」 そう静かな声で言ったのは、青い体に鋼の角を持つ、聖剣士のリーダー、コバルオンだった。 「どうかしら、ヘリの中は。これでも組織の中ではもっとも状態のいい機体なのだけど」 「別にどうということは無い。人間の科学の力とやらには感心する……この扱いさえ、何とかなればな」 そういうと、コバルオンは首を曲げて、己の後ろ脚を見た。 コバルオンの後ろ脚には、重そうな鎖付きの鉄球が取り付けられている。 「すまないわね。本当はこんなことしたくは無いのだけれど」 「へっ。俺らが反旗を翻さないか、怖いんだろう」 そういったのは、4頭の中でもひときわ大きな体をした、テラキオンだ。 「否定はしないわ。上層部の人間たちは臆病なのよ。計画がお釈迦になっては、困るからね」 そういうと、テラキオンはふんっと鼻を鳴らした。 「しかし、本当なんだろうな? お前達が人とポケモンの関係を改善する、というのは」 テラキオンが、聞いた。 「本当よ。ボスもそういってたでしょう?」 「そうだがよ……」 聖剣士達は、仲直り団のアジトに連れてこられたときに、ヤクモとも会っていた。 そして、最初にY・Kが説明したことと同じようなことを聞かされた。 人とポケモンの関係を改善。 そのために、人間達に少し思い知ってもらう必要があること。 **対面 [#u78bf225] 「我々に、人を殺せ……というのか?」 5の島の基地に連れてこられ、ヤクモと初めて対面したとき、コバルオンは聞いた。 この時、改めて組織のことを説明され、この仲直り団という人間たちは、 ポケモンの為でなく、同族同士で傷つけあうことが目的なのだろうかと思えたからだ。 自分たちも、かつて人間と争ったことがある。そうなれば、泥沼の争いになり、 当然、ポケモンだって巻き込まれる。 もしこの人間達の為にポケモン達が傷つくようなことになるなら、自分らは加担することはない。 場合によっては、この場でリーダー格であるこの男を始末することも考えていた。 「いや。ならず者のトレーナーを、死なない程度に痛めつけてもらうだけでいい。 我々は、何も殺戮が目的ではない。現に我々は、今までそうしてきた」 そういうとヤクモは、部屋のモニターテレビを作動させると、 画面にはネットニュースの画像や、新聞や週刊誌の記事の切り抜き画像などが映し出される。 映し出された記事を一つ一つ、切り替えながら表示させていく。 『キキョウシティで男性、襲われる』 『トキワシティでもトレーナー襲撃』 『コガネシティの湾岸倉庫で火災。テロか?』 『トレーナー襲撃 謎の犯人像』 『男性トレーナー拘束状態で保護』 『ポケモン強盗犯、謎の人間により拘束』 『トレーナー襲撃。容姿も使用ポケモンもバラバラ』 画像が、次々に現れては消える。 「これが全部、お前らがやったってのか?」 テラキオンが訝しげに訊いた。 「そうだ。これらは全て、我々がやったものだ。しかし……」 言いながら、ヤクモは更に画像を切り替えていく。 『一連の被害者は、全て捨てポケモン常習犯?』 『トレーナ襲撃事件。深まる謎。これまでの被害者は、全てポケモン厳選プロトレーナー?』 『コガネ倉庫火災、裏に違法ポケモンバイヤーの影』 『襲撃事件。本当は正義の味方?』 『襲撃犯は、ポケモン保護法改正目的の過激派保護団体か』 『保護法見直しを叫ぶ声強まる』 『ポケモン保護法見直し運動、カロスやイッシュ地方でも加熱』 中には、彼らの行動を肯定的に見る記事もある。 「このように、我々と協力関係にある団体なども動いているおかげで、少しではあるが、 世論も動き出している。勘違いしないでほしいが、我々は決して善良な人間には、 そのようなことはしていない。あくまで、ポケモンを不幸にするような、心無い人間にだけだ。 彼らは全て、ポケモンを虐げ、不当に扱うものたちだ」 「どういうふうに…ですか?」 こんどは、ビリジオンが口を開く。 「我々が裁いたこれらの人間たちは、すべて、ポケモンバトルに情熱や執念を燃やす者達だ。 しかし……彼らは強さを求めるばかりに、ポケモンを厳選するのだ。 母体のポケモンに、何百、何千といったタマゴを生ませて、能力の高いものを選んで育てる」 「そんなことまですんのか? 人間ってのは」 テラキオンが、呆れながら言った。こうした人間の感覚が理解できないのだろう。 「ああ……それが、トレーナーの模範となる者たちまで平然とやるのだから、たちが悪い」 すると、ケルディオが、何かに気づいてはっとした。 「まって。じゃあ、それで選ばれなかったポケモン達って……どうなるんだ?」 そして、大体のことを悟った三剣士達が、口をそろえて静かに言った。 『……捨てられる』 その言葉に、ケルディオは言葉を失う。 「そうだ。一部は他の人間に譲られて育てられたりはするだろうが、トレーナーの望みの 個体以外は、全て野に放たれる。それも、生まれたばかりのものをだ。その大半は、 野生では生きてはいけない。我々のように、それらを保護する人間達もいるにはいるが、 それでも足りないくらいの数のポケモンが、日夜捨てられ、その命を散らしているのだ。 おまけに、仮に生き延びたとしても、今度はそれが環境の破壊にも繋がる。 ……草ポケモンが憩う場所に、毒ポケモンが放たれればどうなると思う……?」 「草ポケモンは追いやられて……いなくなる」 ケルディオが、おずおずと言った。 「そういうことだ。このような人間の愚行が、ポケモンに災いをもたらしている。 それにこうした人間たちは、ポケモンに強さのみを求めて、それ以外のことには見向きもしようとしない。 バトルという『遊び』に興じるために、多くのポケモンの命を弄ぶのだ。 そのせいで、命がムダに失われていく……これを悪と言わず、何と言う?」 『……』 力のこもったヤクモの言葉に、聖剣士達は押し黙った。 「君たちには、そういう人間達を痛めつけて思い知らせてやってほしいんだ」 「一つ訊きたい。何故我々なのだ?」 訴えたり、力を行使するだけなら、人間達だけでもできる。自分たちの必要性がわからなかった。 「君達は、過去に人間と戦ったことがある。そして人間のせいで不幸になったポケモン達を、 知っている。そんな君達が人間に制裁を加える行動は、ポケモン達の主張にもなる。 それに君らは伝説の聖剣士だ。そういう者達の主張は説得力もある」 ヤクモは更に続けた。 「我々としても、人間のせいでポケモン達が傷つき虐げられているのをこれ以上無視できない。 だから、君たち聖剣士の力が必要なのだ。君らの働きが、我々の今後を決める……どうか力を 貸してくれないか」 そういって、男は頭を下げた。Y・Kに引き続いてそのような態度をとられたので、 コバルオン以外の聖剣士達は戸惑いを隠せなかった。 「……何故人間であるお前が、そこまでポケモンのことを思う?」 それは、コバルオンが一番気になっていることだった。 大した理由がなければ、人間がここまでポケモンのことを考え行動することはない。 何かしら理由があり、本心もそこにある。まずは彼らの本心を知っておく必要意がある。 その上で、彼らに味方するかしないかを決めようとした。 「私達にも、いろいろあったのだ。そういう心無い人間のおかげで、人間の私達もつらい思いをした」 そういうヤクモの目は、どこか遠くを見つめているようだった。 「ポケモンで、間接的にあなた方が悲しい目に遭ったということですか?」 「まぁな。ポケモンが悲しめば、我々も悲しい。仲直り団は、そういう体験をしてきた者達 ばかりだよ」 それがいったい、どういうものであったのかは聖剣士達には想像できなかった。 だが、この人間がポケモンを大切にする人間であるということは、理解できた。 ---- 「今回の任務に関しての最終確認と注意事項があるから、伝えに来たわ」 「……」 コバルオンは、無言のままY・Kを見る。 「まず、今私たちは、ある島に向かっています。そこには、ある人間が残した コンピュータが残されているわ。それを――」 「ええ。あなた方は、それを手に入れたいのでしょう?」 全てを言い切る前に、ビリジオンが言う。 「そうよ。そのコンピュータには、今後の私達に必要なものが、詰まっているわ」 「そいつは一体、どんな情報だってんだ?」 「……」 テラキオンが、本当の目的について探りを入れてきたので、Y・Kは言葉に詰まった。 「組織の力を強めるのに、必要なことよ。団員の装備を充実させるためのデータが、 揃っているのよ」 「装備? まるでイクサでもやるかのようなことを言いますね」 「戦……そうね。ある意味では戦かもしれないわね。ポケモンを救うための。 それで……もしかしたら、複数の伝説のポケモン達を相手に戦うことになるかも しれないわ。ジョウトの三聖獣と呼ばれるスイクン・ライコウ・エンテイ……そして、 海の神ルギアに不死鳥のホウオウ。彼らは強敵よ。並大抵の強さじゃないわ」 「……わかった」 それだけ言って、コバルオンは話を切り上げた。 「あら。相手の詳細とか、聞いておかないの?」 相手の情報を得ていたほうが、戦局が有利になるはずなのだが。 「それだけで十分だ。あとは我々でやる。お前らの望みどおり、障害となるものは 排除してみせる」 それ以上の話は受け付けない。というように、コバルオンは瞑目する。 しかしそういうからには、何か勝てる作戦を考えているのだろう。 「……わかったわ。でも、くれぐれも気をつけて頂戴」 「了解だ」 コバルオンの返事を聞くと、Y・Kはカーゴブロックから出て行った。 それを確認してから、テラキオンが口を開いた。 「本当に、連中に力を貸すのかよ……俺は正直複雑だぜ」 そういうテラキオンに、コバルオンは目だけを向けて言った。 「我々の理想は、ポケモン達の平和だ。それに関しては、連中と目的は一致している。 それに……ここジョウトでも、人間によってポケモンが虐げられているとしたら、 それは救ってやる必要がある」 「でも、あの人間たちはまだ油断できません。裏で何を考えているか」 ビリジオンが口を挟んだ。仲直り団の依頼自体、懐疑的なビリジオンは、 一抹の不安を抱いている。まだ裏で何かがありそうな、そんな不安だ。 「使えるものは使う。それだけだ。たとえ何か裏があろうが、 ポケモン達の平和を守るためならば、人間共を利用するだけ利用してやるさ」 それで、コバルオンは話を打ち切った。 **合流 [#b567fcea] 「ふぅ~生き返ったぜ」 「危うく死ぬ所だった」 「まったくだ。島に着くのが後数分遅かったら……」 ルギアに案内され、地下施設のある倉庫跡まできたホウオウ達は、 そこで木の実を食して体力を回復し、なんとか元気を取り戻した。 満腹になった三聖獣らは、口々に言葉を発した。特にエンテイは、ブラッキーな想像をして 身震いした。水が苦手な炎タイプの彼にとって、海の中を泳いできたということは、 想像を絶する苦痛を味わったのだろう。本当にギリギリの極限状態であったことが伺えた。 「……それもこれも、お前らがあんなことするからだバカタレ!」 そう怒鳴ったのは、瀕死状態から回復したばかりのホウオウだった。 ルギアから差し出されたオボンの実を啄みがらも、唾をとばして声を荒げる 「お前らが怒りに任せて私に攻撃なんぞしなけりゃ、何事もなくたどり着けたのだ」 「そういうホウオウ様こそ、我々を脅かそうなどと余計なことをなさるからでしょう」 「まったく、冗談は口だけにしていただきたいものです」 「それにアンタ、休ませてくれとか言ってたじゃねーか。どっちにしろ、 ここにつくのはかなり遅れたんじゃないスかね」 その口調から、3頭はかなり心がささくれ立っている様子だった。 「まったく。こんなに死んでほしいと思った不死鳥は初めてですよ」 「私もお前達を復活させるんじゃ無かったよ。あー損した」 「死ねクソ鳥」 「お前が死ねクソ犬」 「死なないなら汚物に塗れて伸びててもらいてぇよ」 「お前が塗れろ」 そんなふうに、子供じみた嫌味の言い合いをする1羽と3頭を、ニニギ達兄妹と ボウシュはぽかんとして見つめた。 「ふぅむ……何だか仲がよくなさそうじゃのう」 「あれが……伝説のポケモンなの?」 「何というか……あのホウオウってポケモン、なんか嘗められてるような……」 「スマン……ホウオウの奴が結構な怠け者でな、それが原因で部下の信用を失い気味というか、そんな所なのだ」 口々に感想を漏らす彼らに、ルギアはまた翼で頭を押さえながら言った。 「へー何だかマヌケっぽーい」 そういったのは、まだ幼いマナフィだった。カリカリして怒りの沸点が低くなっている 彼らの心を爆発させるには、十分すぎる一言だった。 『聞こえてるぞガキぃ!!!』 1羽と3頭がまだ幼いマナフィに険相を向けて異口同音に怒声を発すると、 マナフィを追い回し始めた。 「い~ヤァアア!! 怖いおじさん達が追っかけてくるぅぅぅぅ!!」 『誰がおじさんだコルルルァ!!! 待ちゃがれクソガキャぁぁぁあ!!』 1羽と3頭はマナフィを追い回して、呆然とするルギアたちの周りをぐるぐる回った。 「大人気ないわ……」 「ああ……大人気ないのぅ」 呆れ目でサクヤとボウシュが呟いた横で、ニニギは追い回されるマナフィを見て 内心で「さまぁみろ」と歓喜していた。大人気ない奴が、ここにもいた。 ---- 「うむ……しかし、まさかそのような事態になっていようとはな」 「40年前の負の遺産……それが今になって……」 ここまでの大体の話をきいたホウオウと3頭の聖獣たちは、そういって二、三度頷く。 そんな彼らの脳天には、無数のタンコブがシロガネ山のごとくそびえている。 さっきまでマナフィを追い回していた彼らに痺れを切らしたルギアが、脳天に 拳骨を打ち下ろしたことで、彼らはとりあえず落ち着きを見せた。 「だが……その老化学者は技術情報を持ち出してここに保管していたという話だが、 何故、そんなことをしたのだ? その情報を持ち込みさえしなければ、このような事態には ならなかったと思うが?」 ホウオウが、ボウシュに目を向けて、訊いた。 プラズマ団のラボを抜け出した時点で、クローンポケモンとその他の技術データを 削除、破棄しておけば、このようなことにはならないはずだった。 そんなトラブルの元になりそうなものをわざわざ持ち帰って保管する必要が、 本当にあったのか? 危険なものだというのなら、なおさら逃げ出した段階で 捨てておくべきだったのだ。 「……その技術が、お前達にはどうしても必要だった、ということか」 すると、三聖獣の一頭、エンテイが口を挟んだ。 その言葉に、ボウシュは瞑目し頷くと、静かに言葉を発した。 「……これらの技術データがなければ、この兄妹は今ここにはいなかった」 「この兄妹のことは先程聞いたが、彼らを生かすために、必要なことだったというのか?」 こくりと、ボウシュは首肯する。 「ニニギとサクヤは……クローンポケモンの実験体。クローニング技術によって生み出された 個体。そんなこいつらを治癒するには、これらのデータは必要不可欠だったんですじゃ」 当時もポケモンのクローンは色々問題があって禁止されていたし、技術的にもまだ不明な点が 多かったから、ニニギ達兄妹を助けるためには、それまでのデータはどうしても必要であった。 これらのデータを持ち出していなければ、兄妹はやがて死んでいただろう。 「なるほど……それで、あなた方の敵と呼べる存在は、それらの技術情報を欲している……。 ということは、敵側にもポケモンを人工的に生み出す計画があるということか」 スイクンが口を挟んだ。 「十中八九、そうじゃろうな……奴等が持ち去った2つの石……ダークストーンと ライトストーンも、ニニギ達と同じクローン個体じゃ。 それにここのコンピュータ・バンクには、その石を目覚めさせる方法も記録されておる。 だから……連中は何としてでもそれらを手に入れようとやってくるじゃろうな」 「だったら、今ここでその機械をぶっ壊すかすりゃ、情報は消えて丸く収まるんじゃねーの?」 それに、かつて実験に用いられた兄妹は今ではすっかり健康そうで、 もはや無用の技術であるように思えた。 そう思ってライコウが尋ねてきたが、ボウシュは渋い顔をしてから、付け加える。 「それはワシも考えた。だが……それは……」 「何か、あるのか――」 そうライコウが言葉を続けようとしたときだった。 『静かに!!』 何かを感じ取ったルギアとホウオウが、鋭く声を上げた。 そして、三聖獣たちも、何かを感じ取りばっと身構えて戦闘態勢をとった。 「どうやら……おいでなすったようだぜ」 そのライコウの言葉に続いて、遠くからヘリの飛行音が聞こえてきた。 敵が、彼らが危惧する相手が、やってきたのだ。 「ホウオウ様、このプレッシャー……ただの敵ではありませんな」 「我々と同じか、それ以上か……」 「油断のならない相手だということだ……お前達、気を引き締めてかかれ」 「了解……」 「わかりました」 「へい、ようがすっと」 ホウオウの言葉に、三聖獣たちは各々返事をしてから、敵を迎え撃つべく 廃倉庫から駆け出ていった。 やはり、きたか――緊迫した空気に、ボウシュと兄妹は、息を呑んだ。 **三聖獣VS聖剣士 [#b950ae62] ヤクモたちの乗った輸送ヘリコプターは、島の海岸に着陸するなり、腹のコンテナブロックを 降ろしてその扉を開き、4頭の聖剣士達を開放する。 「ここか。我々が戦う相手がいる島とは」 「そうだ」 ヤクモが答えると、他の聖剣士達も口々に呟いた。 「ジョウトの伝説のポケモンが相手ですか……相手にとって不足はありませんね」 「ああ、久しぶりに心が躍るぜ」 「三聖獣……どんなポケモンなのかなぁ」 未知のポケモンを相手にするということが、彼らの闘争本能を刺激するのだろう。 ケルディオに至っては、目を輝かせている。 「さて、君もよろしく頼むぞY・K」 「はっ。お任せください。ヤクモ様」 そういうと、Y・Kは腰から一つのモンスターボールを取り出して放る。 ボムと中から現れたのは、ゴースト・炎タイプの誘いポケモン『シャンデラ』だ。 夜間の森は予想以上に暗く見通しが利かない。そのため一向は、このシャンデラを照明役として 夜の森を進み始めた。 淡く不気味な光を放つシャンデラを先頭にして、一向は森の中を進んだ。 ヤクモたちは2つの石を手に入れるために一度この島を訪れていたが、そのときとは まったく状況が違った。 海岸から人一人が通れるような細い道が続いていたが、やはり夜間は暗く、シャンデラの明かりを持ってしても、 半径数メートルの範囲くらいしか明かりが届かず、小さな島の森であったとしても、装備が充実していなければ、 遭難することもあり得た。ヤクモやY・Kといった人間たちは皆、暗視ゴーグルを身に着けているおかげで、 闇に迷うことは無い。 「あなた達、先頭のシャンデラを見失わないで」 「夜襲など、昔人間相手に何度もやった」 「甘く見てもらっては、困りますね」 「夜の暗闇なんざ、慣れてらぁ!」 Y・Kの言葉に、聖剣士達が自信満々に言葉を返した直後―― 「ぅおっ!?」 ばっしゃん。 テラキオンは、ぬかるんだ地面に脚をとられて、横を流れる小川に片足を突っ込むこととなった。 「……その割には、テラキオンは注意不足なようね」 「ぐ……お前も笑うんじゃないコラ!」 Y・Kの言葉に、テラキオンは赤面し、その背後で思わず笑ってしまった弟子のケルディオに対して 声を荒げた。 「まったく……テラキオン、あなたは昔から、どこか抜けた所がありますね」 ビリジオンが、呆れて声を出した。この手の失敗は、一度や二度ではないらしい。 そのとき、コバルオンが不意に立ち止まった。 「……静かにしろ」 その声に、一向の空気が張り詰める。他の聖剣士達も、何かを感じて攻撃態勢をとる。 「……いますね」 「ああ、近いぜ……数は1、2…3匹か?」 「そのようだが……来るぞ!!」 コバルオンの言葉と共に、聖剣士達は左右に散る。それに僅かに遅れて、ヤクモたちも左右へと動いた。 その刹那、膨大な大きさの火の玉が、彼らのいた空間を勢いよく通過していった。 コバルオンの声がなければ、直撃を受けていただろう。 「今の炎は“火炎放射”か!?」 「いや……」 そう、テラキオンの判断を否定したのは、ヤクモであった。 「あれは“聖なる炎”だ……とすれば相手は」 言いながら、ヤクモはモンスターボールを取り出して、ゲッコウガのミカゲを繰り出す。 「“水手裏剣”!」 指示と共に、ミカゲはクナイ状に成形した水手裏剣を炎が飛んできた方向に放つ。 その瞬間、巨大な火柱が立ち上がり、ミカゲの放った水手裏剣は、強力な炎の壁に阻まれて霧散する。 「やはりな……エンテイか」 そう呟くヤクモの十メートルほと先の樹上に、赤と茶色の毛並みに包まれたポケモンがいた。 「悪いが、ここから先へは進ません。諦めて帰るのなら、見逃してやっても良い」 そういって、エンテイはヤクモたちをにらみつけた。そのプレッシャーを感じながらも、 ヤクモは怯まずに告げた。 「君達は、あのラティオスたちの仲間かね。すまないがそれは出来ない。 我々としても、叶えたい理想がある。ここで退くわけにはいかないのだよ」 「ほぉ……その3匹がいるからか?」 エンテイは、言いながら聖剣士たちに目を向けた。 見たことの無いポケモンが4匹。一目見ただけで、かなりの強さを秘めていることが感じられた。 この連中の切り札であろうことは容易に想像がついた。 「だが、それだけで俺らを退けられると思ってもらっちゃ困るぜ人間さんよぉ」 そんな言葉と共に、エンテイの横に、背中に暗雲を背負ったポケモン、ライコウが降り立った。 それに続いて、ゆらりと闇の中から北風の化身、スイクンが姿を現した。 「貴様らの目的はわかっている。そこのマヌケな忍が、迂闊に侵入してくれたおかげでな」 スイクンはそういいながら、ヤクモの傍にいたゲッコウガのミカゲを睨むと、 そのプレッシャーに気圧されたか、ミカゲは体をビクリとさせた。 その反応を見て、昨夜侵入してきたらしい相手があのポケモンであることをスイクンは理解する。 (ヤツが、ルギア様の技を受けながらも逃げ延びた相手か……) ルギア達から逃げおおせたなら、それなりに力のある相手ということだ。油断は出来ないと思えた。 「おめぇらが噂の三聖獣か。そっちこそ、俺らを嘗めてもらっちゃあ困るぜ。邪魔するってんなら、 おめぇらも痛い目を見ることになるぜ?」 テラキオンが、自信満々に言うと、エンテイは目を細めて、 「ほう……結構な自信だな。だがそれだけでは、我々には勝てんぞ?」 「抜かせ!」 叫ぶと、テラキオンは“ストーンエッジ”を樹上のエンティとライコウに向けて放った。 2頭は枝を蹴って跳躍し、岩の嵐を凌ぐと、宙を舞いながらエンテイが“聖なる炎”を放つ。 それは一行の目の前に着弾し、大きな炎の壁を作って行く手を阻んだ。 「クソっ! ケルディオ、頼むぜ!」 「はい、師匠!」 そう返事をしてケルディオは、立ちはだかる炎を消化すべく蹄から水を放ったが、 なかなか消すことが出来ない。 「な、なんだコレ!? ぜんぜん消えない!?」 「ただの炎ではないということか……」 「流石伝説のポケモンですね……話の通りに手強そうな相手です」 狼狽するケルディオを見て、コバルオンとビリジオンは小さくもらした。 「チっ……だが、こんなもん、分厚い城壁に比べりゃあ!」 テラキオンは、炎の壁に突進して、向こう側に突き抜けようと試みる。 どうせ炎なのだ。分厚くは無いだろうし、自分は岩タイプでもある。炎など 大したものではない。 そう思って、一気に突進し壁に突っ込んでみる。熱い炎がテラキオンの頬を舐めたが、 痛みはその一瞬だけだった。予想通り、壁は薄く、テラキオンは難なく突破することが出来た。 「どこ行きやがった、あの赤面……?」 すかさず、周囲に目を凝らしてエンテイの姿を探した。その刹那、 「どこを見ているッ!」 テラキオンの頭上から、エンテイが“アイアンヘッド”で突撃を敢行し、テラキオンの脳天を 強かに打ちつけた。効果は抜群だ。 「ぐはっ…!?」 テラキオンはよろけて、倒れそうになったが、なんとか踏ん張り堪える。 「野郎ォッ!!」 お返しに、テラキオンは鼻先から“聖なる剣”を発振させ振り下ろした。 「ぐっ!!」 エンテイは咄嗟に後ろへ跳躍したが、僅かに間に合わず右前足に攻撃を受けた。 それと同時に、消火が進み弱くなった炎の壁の向こうから、“ハイドロポンプ”がエンテイに向かって 飛来する。更に甚大なダメージを受けることを懸念して、エンテイは更に跳躍して後退し、 木の陰に身を隠した。 「師匠!」 ようやく炎の壁を消し去って、ケルディオがハイドロポンプで援護攻撃を加えてくれた。 エンテイが後退したおかげで、聖剣士達がダメージを受けたテラキオンに駆け寄った。 「師匠! 大丈夫!?」 「ああ……結構効いたがな……」 頭を振りながら、テラキオンは顔を顰めて答えた。 「それにしても、さっきの赤いポケモンは……炎使いのようですね。 ならば、テラキオンとケルディオが力を合わせれば、倒せるはすです。 残りの2匹は、私達が相手をします……それでいいですねコバルオン?」 「ああ。それに残りの2匹は見たところ、電気使いと水使いだ。 あとは私とビリジオンで倒せよう。仲直り団の連中には、先に行くように 伝えておく」 「……わかった。そっちは頼むぜ」 「頑張ります!」 そういうと、聖剣士達はそれぞれに動きはじめる。 「ジョウトの三聖獣……やってくれる」 コバルオンは呟いて、歯噛みした。だが同時に、久しぶりに強者を相手にすることで、 彼の心が昂ぶっているのも、事実だった。 (……が、そうでなくてはなっ!) **芽生え。 [#d52cdfd6] 「大丈夫かエンテイ」 「なんとかな……私も鈍っているというのか……」 ダメージを負ったエンテイを案じて、スイクンがそばに寄って、隠し持っていた オボンの実を渡した。 「いいのか? これはお前の……」 「いいさ、食え。一頭でも欠けたら、ルギア様の望みにこたえられないからな」 その言葉に、エンテイは何かおかしくなって、笑みを浮かべた 「……ふふ、ホウオウ様のところより、ルギア様に付くのも、いいかもなぁ」 「ああ、無事に守りきれたら、3頭揃ってルギア様の所に行くか?」 「悪くない」 そういうと、エンテイはオボンの実を齧ってからすっと立ち上がった。 「だったら、倒れてる場合じゃあない」 「だな!」 言葉を交わして、2頭は跳躍する。その直後、ビリジオンの放った“エナジーボール”が、 彼らのいた地面を抉っていた。 2頭は、それぞれ相手をすべく左右に散った。そんな彼らに、テラキオンとケルディオが、 “ストーンエッジ”と“ハイドロポンプ”の飛び道具を雨あられと放つ。 「オラオラオラぁ!!」 「逃がすもんか!」 確実に一体を戦闘不能にして、敵の戦力を削ぐため、標的はエンテイ一体にのみ絞る。 敵は倒せるときに倒す。その考え方は、彼らが今までの戦いの経験から学んだものだ。 弱点となる技を2頭がかりで撃ち続ければ、絶対に倒せるはずだ。 そう考えて、テラキオンとケルディオは更に技を放とうとした時だった。 「――!?」 殺気に気づいて、テラキオンが振り返ったときには、もう遅かった。 「遅せぇぇぇッ!!!」 「あっ!?」 背後から迫ったライコウが、ケルディオの体に“雷”を打ち落としていた。 ドガバシャァァァアアアンッ!! 轟音が、闇夜の森に響き渡った。 悲鳴をあげる間もなく、ケルディオの全身を高圧電流が駆け抜け、その体を弛緩させた。 効果は抜群だ。 内蔵が全て弾け飛びそうな感覚に、ケルディオの意識は一瞬にして持っていかれる。 伝説のポケモンによる弱点技の直撃を受けて、彼はばたりとその場に倒れこむ。戦闘不能だ。 「ケルディオ!!」 テラキオンが倒れたケルディオに駆け寄ろうとした。だがその隙を、ライコウが見逃す筈も無い。 「どこを見てやがるっ!」 その瞬間、ライコウの双眸が怪しい紫に輝く。その直後、テラキオンの体が硬直する。 「ぐがっ……?」 テラキオンの体は紫色の光に包まれて、彼の巨躯が地面から浮き上がる。 ライコウのエスパータイプ技“神通力”によるものだ。 格闘タイプである彼には、効果は抜群。テラキオンの体中が痛み出す。 「う……グッ……ああっ……がッ……!!」 体が何か大きなものに握られたような感覚だ。サイコパワーがどんどん上昇し、 テラキオンの体を締め上げていく。特に右前足がミシミシとと嫌な音を立てて軋み、 同時に激痛が走る。このまま、へし折ろうとしているようだ。 (この野郎……!!) こんな状況にありながらも、テラキオンは相手に対する敵意を保ち続けていた。 だが、激痛は酷くなるばかりで、体を動かすことも出来ない。このままでは本当にやられてしまう。 その時―― 「アカダケッ! “地震”!」 その声と同時に、宙に浮いているテラキオンの脇をすり抜けて、茶色いポケモンが現れると、 その鋼の爪を地面に突き立てた。その瞬間、無数の衝撃波がライコウめがけて地面を走った。 「クッ!!?」 ライコウは衝撃波を跳躍して回避すると、そのまま宙返りをして背後の木の枝の上に降り立つ。 「チッ……そういや、人間もいるんだったな」 聖剣士達にばかり気を取られて、その存在をほぼ忘れていたライコウは舌打ちすると、 木の上から自分に攻撃を仕掛けてきた茶色いポケモン――ドリュウズの『アカガケ』を見下ろした。 「地面技は……ちぃと厄介だな」 いくら伝説のポケモンといえど、弱点を突かれれば簡単にやられてしまう。 それに、人間のポケモンまでもが加わって数で押されたりしたら、不利だ。 「ここは、退くしかねーか……」 そう判断して、ライコウは彼らに背を向け、スイクンとエンテイに合流すべく駆け出した。 「あなた達、大丈夫!?」 倒されてしまったケルディオと、深手を負ったテラキオンの傍に、Y・Kが駆け寄った。 「俺は……まだ大丈夫だ。でも、ケルディオが……」 Y・Kは身をかがめてケルディオの様子を見た、高威力の弱点技をまともに受けて、 立つ事すらできなくなっている。 「酷いわね……救護班! 治療マシンの準備を!」 Y・Kは頭に装着していた簡易型の通信機に向かって、海岸に降りたヘリで待機している 救護チームを呼ぶと、Y・Kは救護班が到着までの間に、ケルディオに応急処置を施す。 懐から取り出した薬ケースから、一つの錠剤を取り出してケルディオに飲ませる。 そして同時に、『傷薬』を全身に吹き付けてやる。 「これでしばらくは大丈夫なハズよ」 「す……すまねぇ」 「礼なんかいいわよ。それより、あなたも傷を治さないと」 そういって、Y・Kはコバルオンにも傷薬を吹きつけようとする。 「お、俺はいい! まだ大丈夫だ」 「あなただって弱点のエスパー技を受けてるし、大丈夫なわけ無いわ。 かなり効いてるハズよ」 「そんなことは……!」 ない。と否定したかったが、直後、テラキオンは脚に激痛が走ってどたりと倒れた。 「う……」 「だから言ったじゃないの。そんなんじゃ戦いどころじゃないわ……ほら」 テラキオンの主張は無視して、Y・Kは彼の体にも、傷薬を吹きつけ始めた。 「……また、手当てしてもらっちまったな。悪ィな……」 小声で、テラキオンは言った。Y・Kと初めて対面したときも、トルネロスの“気合球”を 脚に食らって、Y・Kに手当てを受けたことがあった。 自分は、2度もこのY・Kという人間に救われた。だが、不思議と不快ではない。 「別にいいのよ。私たちは、傷ついているポケモンを救うのが仕事なんだから。 傷ついてるポケモンがいれば、伝説だろうとなんだろうと関係ないわ。 ……生きてさえいてくれれば、それでいいの」 「……」 テラキオンは、そんなY・Kの顔を見て、心に何か暖かいものが灯ったのを感じた。 この人間なら、信じてもいいと思えた。そう思う自分の顔が熱く、そして赤くなった。 敵愾心でないことだけは、確かだった。 **激突 [#ka502e32] 「コバルオン。ケルディオとテラキオンが……」 遠くから、ライコウによってダメージを与えられたテラキオンたちを見ていたビリジオンが、 緊迫した声で告げた。 「わかっている。仇は討つ」 コバルオンは言いながら、目だけを動かして、Y・Kに治療を受けるテラキオンたちを見た。 (しかし、これは……) 今まで、自分たちは人間のことをまったく信用していなかった。かつて人間と戦ったことも あったから、人間が心底憎かったこともある。 しかし、こうして自らの過ちに気付き、動こうとしている人間達もいるのだと、コバルオンは 思った。 (我々も、人間に対する認識を改めなければならない……ということか……) 完全には信用できないが、ひどい人間ばかりではないと。 「どうしました?」 その様子を見て、怪訝な表情でビリジオンが尋ねてきた。 「いや。力だけでは、解決しないこともあるのだと思っただけだ……来るぞ!」 その瞬間、“ニトロチャージ”で全身が炎に包まれたエンテイが、こちらに突っ込んできた。 『ふっ!』 だがその動きは直線的だ。コバルオンとビリジオンは、左右に散って回避する。 だが、その直後、闇を貫くようにして、青白い光線が、ビリジオンの後ろ足に直撃する。 「うわっ!?」 スイクンの“冷凍ビーム”だ。ビリジオンの後ろ足が凍りつき、地面に縫い付けられた。 「今の赤いのは陽動で、本命はあっちか」 コバルオンが冷静に分析する。だが、こちらもやられてばかりではない。 「こんなもの!」 力任せに後ろ足を動かして、氷の拘束を引きちぎる。ビリジオンは特殊防御が高く、 特殊攻撃の弱点技なら、耐えられる。 そして、冷凍ビームが飛んできた方向にいた青い体のスイクンに向けて、前足の蹄から “エナジーボール”を数発連射した。 しかし、スイクンは攻撃が迫っているにも関わらず、瞑目して座り込みその場から動かなかった。 「!? 弱点技なのに!?」 ビリジオンはその行動が理解できず、驚いて目を見張った。 そして、エナジーボールが直撃。爆発を起こす。 スイクンは戦いを諦めたのか――? そう思い、ビリジオンが唖然としていた時―― 爆煙の中から、放ったはずのエナジーボールが全て、こちらに向かって飛来した。 それは全て、ビリジオンの体に叩き込まれる。 「うぐわあああああああああああッ!!」 ビリジオンの体は数メートル吹き飛んで、大木にぶつかって停止した。 「うぐ……何故……?」 どうにか攻撃を耐え切ったビリジオンはそう呻きつつ体を起こそうとする。 スイクンを包んでいた爆発の煙が段々と晴れていくと、コバルオンはこの現象を理解し、 関心の声を上げた。 「なるほど……よくやる」 攻撃を受けたスイクンは、目を開いて立ち上がる。その体には、傷はほとんど無い。 「“ミラーコート”か」 コバルオンの声に、スイクンは不適な笑みを浮かべる。 「ああ。とはいえ、今のは痛かったがな」 「座り込んでいたのは、“瞑想”でもしていたか?」 「ご名答……そういうこと……だッ!!!」 言い終わると同時に、スイクンはコバルオンへ“ハイドロポンプ”を放つ。 コバルオンはそれを華麗な体さばきで避けると、 「飛び道具なら私も使える!!」 コバルオンは、“ストーンエッジ”で反撃に転じる。無数の岩の槍が、スイクンめがけて 飛来する。“瞑想”で強化できるのは、特殊防御と特殊攻撃。物理技のストーンエッジには、 脆弱なままだ。 だから、スイクンは、近くの大木に身を隠し、ストーンエッジをやり過ごす。 ドドドドッ!! と、大木に岩が次々に突き刺さり、穴を穿つ。 「だがしかし、これならば!!」 立ち上がり、逆上したビリジオンが、鼻先から“聖なる剣”を成形させ、スイクンが身を隠す 大木に突進する。この技で、大木ごと一刀両断にするつもりだ。 「ハァッ!」 裂帛の気合と共に、一閃。“聖なる剣”が、大木を根元から切り裂いた。 メキメキと音を立てて、大木が倒れる。が、スイクンの姿は既にそこには無い。 「ここだ!」 「!!」 ライコウが、いつの間にか背後に回りこんでいた。再び、その双眸が紫に光る。 至近距離で放たれた神通力は、正確にビリジオンの体を捻じ曲げようとした。 やられる――! そうビリジオンが戦慄した瞬間、ライコウの体が、横から突進してきたテラキオンの 巨体によって吹き飛ばされていた。 「ぐはっ!」 ライコウの体は、大木に背中を打ち付けたあと、地面を数回バウンドした。 「テラキオン!?」 「ぐおおおおおおおおおお!!!」 そのビリジオンの言葉には答えず、テラキオンは雄たけびと共に、渾身の“ストーンエッジ”を放った。 「がああああああああああっ!!」 それは、全てライコウの体に叩き込まれ、同時にその鋭い石が、ライコウの体毛を地面に縫い付け、 身動きを封じた。 その間にも、テラキオンは身動きの取れないライコウに向かって突進しつつ、 鼻先に刃を作り出す。最後の一撃を加えるために。 「止めだッッ!!」 ドッ!! 叫びと共に振り上げた“聖なる剣”が、ライコウの胴体を一閃した。 そして、ライコウの体は、力なくその場に倒れた……か見えたが、 「そ・う・は……させねぇぇぇッ!!」 足を踏ん張り、ライコウは咆哮をあげると、テラキオンの眼前から、一瞬にして、 ライコウの姿が消える。 何だ!? と思った時には、テラキオンの首にライコウが勢いよく喰らいついていた。 物理技の“噛み砕く”攻撃だ。 もう一度神通力をかけてやっても良かったが、この近接状態では放つ前に相手の攻撃を 受けてしまいそうだったし、さっき一度神通力をかけて大ダメージを負わせていたから、 テラキオンの体力は残り僅かで、オーバーキルをする必要はないと思っていた。 それが、誤りだった。ライコウは、テラキオンがY・Kによって、回復していることを 知らなかった。 「!!」 ライコウの攻撃を受けたその瞬間、テラキオンの体を、電気ような感覚が駆け抜けると同時に、 その体に力が漲るのを感じていた。 それは、聖剣士達が持っている、特別な力によるものだった。 その異変は、ライコウも感じ取っていた。 (何だ!?) と思った時には、ライコウの体は、テラキオンの野太い前足による 連続攻撃――“インファイト”を喰らって、宙を舞っていた。 「が……」 ドガッと、その体が地面に叩きつけられると、何が起きたのかも 理解できないまま、ライコウの意識は沈んでいった。 「ケルディオの……仇だッ!!」 動かなくなったライコウにそう吐いてから、テラキオンはビリジオンに向き直る。 「大丈夫かビリジオン」 「ええ、助かりました……手強い相手でしたね。にしても、まさか我々の特性を 発動させてしまうとは。相手の無知に、救われましたね」 「……そうだな」 気を失ったライコウを見ながら、テラキオンは返答する。 聖剣士達の特性『正義の心』。悪タイプの技を受けると、攻撃力が強化されるというものだ。 ライコウは、これを知らずに、悪技である“噛み砕く”を使ってしまった事で、テラキオンを 強化してしまった。これが、敗因だった。 強い相手ではあったが、このライコウというポケモンが、攻撃の判断を誤らなければ、 結果は違っていたかもしれない。戦いにおいては、こうした判断ミスが命取りになる場合もある。 この戦いで、改めて戦いにおいての判断ミスには気をつけねばならないと、テラキオンは思った。 「さぁ、残りを叩きますよ」 「おう!」 そういうと、聖剣士達は残りの聖獣達を倒すべく、駆け出した。 ――続く―― ---- やっと仕上がりました。いつもながら本当に遅筆ですorz 今回の3犬対3闘は、やってみたいことの一つでもありました。 そのために、色々と試行錯誤を繰り返していて、またも遅くなってしまいました。 チャットにてアドバイスを頂いた作者様方、ありがとうございます。 アドバイスや指摘、感想などお待ちしております。↓ #pcomment(You/Iコメントログ,5,) IP:116.220.124.228 TIME:"2016-01-06 (水) 22:21:59" REFERER:"http://pokestory.dip.jp/main/index.php?guid=ON" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; WOW64; Trident/7.0; rv:11.0) like Gecko"