ポケモン小説wiki
Singularity of mind の変更点


*'''Singularity of mind 1''' [#h8755064]

 世界を、在るべき姿へ ―――

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「意識」とは何なのか?意識というものは本当に生物しか持っていないものなのだろうか?

人には当然ある。ポケモンにもあるだろう。普通の人間なら、この点は疑わないはずだ。
なら、道端に転がっている石ころはどうだろう。とても意識があるとは考えにくい。叩いても蹴飛ばしても、ウンともスンとも言わない。
だが、だからといって意識が無いと言えるのか?
石ころにも意識があって、ただそれを人間が観測できないだけなのではないのか?

大昔から議論されているこの問題は、今現在でも解決できていない。

「そんなことなどどうでもいいだろう」と言う連中もいる。
一理ある。

石ころに意識があることを証明したところで、俺たち人間ならまだしも、ポケモン達の生活が変わるとは思えない。
だが、その発見が他の何かに繋がることも無いというのは乱暴な意見だ。

人間は大昔に絶滅した「猿」から進化したと言われている。
最初に火を使い始めた猿は、初めから機械文明を生み出す為に火を使ったわけではないだろう。
火に「物を温めることができる」ことを発見した猿は、「肉を焼くこと」や「暖を取ること」を見つけたに違いない。
そこから、さらに何か別の発見に繋がっていったのだ。

だからこそ、今の俺たちが行っていることにも意味はあるはずだ。


「意思を持つコンピュータの開発」

もし過去の人間が聞いたら、俺は嘲笑されていただろう。そんなものはできるはずがない、と。
だが、それはあまりにも簡単に完成した。
俺たちは、コンピュータに知識を得ることへの欲求を持たせたのだ。

わかりやすく説明しよう。
1+1を入力すれば、普通のコンピュータなら2と答えるだけ。それで終わりだ。
だが、人口知能「フェイズ」は違う。「1+1は2だが、それはなぜだろう?」と考えるのだ。

これを応用して、俺たち人間が問題を出す。
フェイズは知識を得る欲求のために、自問自答を繰り返していく。その答えの多くは不正解だ。
だが、「なぜ不正解なのか?」という疑問を元に、フェイズの答えは徐々に正確になり始め、最終的に俺たちが納得する結論を出す。
そして、今度はその結論を元に新たな問題を探し出し、再び思考する。


以前、「リンゴとはなんだ?」という問題を出したことがある。

『リンゴの形をしたものは全てリンゴ?』
『いや、梨という果物もある』

『赤いものはリンゴ?』
『いや、赤くないリンゴもある』

『甘いものはリンゴ?』
『いや、ほとんどは甘いが、甘くないリンゴもある』

はたから見ればバカバカしいことこの上ない。だが、これを繰り返すことによってようやく「リンゴ」という果物を理解するのだ。
こうしてフェイズの頭脳は日々強化されていく。

そう、フェイズは構成している部品こそ金属だが、その思考は極端に人間臭い。
突然天才的なひらめきをすることもあれば、どうしても答えが出なければ延々と悩んだりする。

だが、そんなコンピュータを世間は受け入れた。
人とポケモンに関する全てのネットワークは、現在すべてフェイズが担当している。

例えば、ポケモンの預かりシステム。
以前のコンピュータシステムは、ボックスの整理や並べ替えを全て手動で行わなければならなかった。
ボックスが一杯になってしまった場合、他のボックスが空いているにも関わらず、新しいポケモンを捕まえても転送ができなかったのだ。
フェイズがシステム運用を担当してからは、転送・整理・並べ替え・検索、それらほぼ全てが自動化されている。
さらには、利用者の「癖」を考慮して、フェイズが自らシステムを改造することもあるのだ。

今日もフェイズは様々な分野で悩み、間違え、そして正しい結論を出すだろう。


―――


『エタノール水溶液、70%で調合完了です』
「わかった。」

俺は無線通信をかけたフェイズに返事をした。こいつは返事をしないと何度でも確認してくるのだ。
人には音声を聞くことができる聴覚がある。しかし、返事が無ければ聞こえていないかもしれない、という学習のためだ。
初めてフェイズが調合を行った時は、誰もにも確認を取らなかったせいで、調合が終わったことに気づいてくれなかったという経験もその一つだろう。
うるさいと感じる人もいれば有難いと思う人間もいるだろう。俺は後者だ。

この研究所がフェイズを開発した年、ちょうど俺は20歳だった。それから10年。フェイズへの学習手段をさらに増やすべく、俺は機械工学からロボット工学へと身を移した。
フェイズをロボットとして活動させるためだ。

現在、フェイズは考える能力はあるが、それを実行する能力がまだ未熟なままだった。
美味しい料理のつくり方を思いついても、調理ができなければ意味が無いのと同じだ。
調理の仕方を他人に教えるという選択肢もあるが、それではあまりにも非効率的だ。

「フェイズロボ」と名付けられたロボットは、動き自体は人間と同じことができる。
センサーは人間と同じ五感を有し、フェイズはこのロボットを遠隔操作、要はラジコンを動かす要領で操作する。
脳が体内に無いだけの人間、と言ってもいいかもしれない。

初めてフェイズがこのロボットを操作した時は、それはひどいものだった。
生まれたばかりの赤ん坊に大人の肉体を与えて、「歩け」と命令するようなものだ。
人間は無意識に行っている「歩行」は、コンピュータにとっては非常に難しいようだった。
何度も何度も転倒し、ようやく5m歩けるようになるのに一週間かかった。
だが、人類が猿から進化して二足歩行を完成させるのに費やした時間と比べれば、驚異的な学習速度だ。

今では歩くことはもちろん、走る・急に止まる・しゃがむといった基本動作はほぼ完璧に行える。
いずれは変装すれば人間と見分けがつかなくなるのではないか?と思わせるほど完璧なのだ。

「よし、その消毒液を持ち、359号室へ向かってくれ。」
『わかりました。』

フェイズロボはそう返事をした。

部屋へ行こうとした時、359号室の監視カメラの映像が目に入った。エネルギーシールドが張り巡らされている部屋中央にそれはいた。

すらりとしている四肢、白い体毛、黒い鎌のような角を持つポケモン。
体長は1.6m。一般的なものよりも遥かに大型の個体だ。人間1人殺そうと思えば容易にやってのけるだろうと思えるほどだ。
だが、その個体は部屋の中ひどく怯えた様子で、入口のドアをただ凝視していた。

アブソル――― 世間では「災いポケモン」と呼ばれているポケモンだ。



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